JP2019184570A - 慢性腎臓病罹患の可能性の判定方法およびリンパ球浸潤スコアを判定する方法 - Google Patents

慢性腎臓病罹患の可能性の判定方法およびリンパ球浸潤スコアを判定する方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2019184570A
JP2019184570A JP2018232459A JP2018232459A JP2019184570A JP 2019184570 A JP2019184570 A JP 2019184570A JP 2018232459 A JP2018232459 A JP 2018232459A JP 2018232459 A JP2018232459 A JP 2018232459A JP 2019184570 A JP2019184570 A JP 2019184570A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
cadm1
concentration
urinary
chronic kidney
kidney disease
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP2018232459A
Other languages
English (en)
Other versions
JP7190165B2 (ja
Inventor
伊藤 彰彦
Akihiko Ito
彰彦 伊藤
康利 高島
Yasutoshi Takashima
康利 高島
秀二 有馬
Shuji Arima
秀二 有馬
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kinki University
Original Assignee
Kinki University
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kinki University filed Critical Kinki University
Publication of JP2019184570A publication Critical patent/JP2019184570A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP7190165B2 publication Critical patent/JP7190165B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Investigating Or Analysing Biological Materials (AREA)

Abstract

【課題】簡便に慢性腎臓病を患っているか否かを判定する方法を提供する。【解決手段】被験者の尿中CADM1濃度が所定の基準値より高い場合は、前記被験者の慢性腎臓病罹患の可能性が高いと判定することを特徴とする慢性腎臓病罹患の可能性の判定方法は、検体が尿だけであり、尿中の1種類の物質の濃度を測定するだけで、慢性腎臓病の何らかの原疾患の可能性を判定することができる。また、原疾患が既知である場合は、原疾患の重症度(進行度)の判定もすることができる。【選択図】図5

Description

本発明は、慢性腎臓病にかかっている可能性を判定する方法および慢性腎臓病の原疾患の重症度(進行度)を判定する方法に係る発明である。
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease、CKD)とは、腎臓の機能障害が慢性的に継続している状態をいう。ある特定の疾患が原因・基盤となって続発することが多いが、原因を特定できない場合も少なくない。例えば、日本国内では8人に1人が慢性腎臓病であると言われている。
慢性腎臓病(CKD)は、通常以下の(1)若しくは(2)の状態が3か月以上続くようであれば、慢性腎臓病を患っている可能性が非常に高いとされる。
(1)腎障害がある。ここで腎障害とはタンパク質尿や血尿をいう。また、CT(Computerized Tomography)等の画像診断によって障害が発見できる場合もある。
(2)腎機能が低下している。腎機能の低下とはGFR(Glomerular Filtration Rate:糸球体濾過量)が60L/分/1.73m未満であることをいう。なお、簡易的には、血液中の老廃物の一種であるクレアチニン(Cr)の値と、年齢、性別から求められる推定GFR(eGFR)によって判断される。eGFRの値は、腎機能が低下すると下がる。
なお、eGFRは、正常(G1:eGFR値が90以上)から末期腎不全(G5:eGFR値が15未満)と5段階若しくは6段階(G3を、G3aとG3bの2段階にする。)に分かれている。
慢性腎臓病を治療するには、軽度の内に治療するのが最も効果的である。そのためには、腎臓病の兆候を早期に発見することが必要とされる。しかし、慢性腎臓病の重症度は、GFR、原因となった疾患(原疾患)、タンパク尿の有無から総合的に判断される。つまり、原疾患毎に判断基準は少しずつ異なる。
従来慢性腎臓病罹患の可能性を判定するには、上記のGFRを調べる方法が最もよく利用される。しかし、GFRを直接測定するのは、被験者にとって、時間的にかなりの負担を強いる。一方、推定GFRは50%以下にならないと血清クレアチニン濃度の上昇が認められない。したがって、推定GFRで異常が発見された時にはすでに中程度の腎不全状態まで症状が進んでいる。すなわち、慢性腎臓病を簡単にしかも適格に判定できる方法はなかったといってよい。
このような課題に対して特許文献1では、16個のマーカーのうちの少なくとも1つを調べ、マーカー毎の基準量範囲と比較することで、現在どれくらいの重症度(進行度)にあるかを判断する方法を示している。ここで検体は血液由来若しくは尿由来の物が使えるとされている。
特許文献2には、尿検査を行わず、血液検査のみで、慢性腎臓病の初期ステージの患者のスクリーニングを可能とする方法が開示されている。より具体的には、血液サンプル中に含まれる、グルタミン酸、グルタミン、オルニチン、アスパラギン酸、ヒドロキシプロリン、タウリン、ヒポタウリン、アデノシン、ヒポキサンチン、乳酸の少なくともいずれか一つを、慢性腎臓病の初期ステージを健常者と識別可能な慢性腎臓病判定用血清マーカーとして用いる。
慢性腎臓病の原疾患は多数ある。しかし、どの原疾患においても、尿細管間質が障害を受ける。したがって、腎疾患を調べるマーカーとして、尿細管間質障害を検知するということも行われている。
特許文献3は、特に糖尿病性腎症の早期発見のためには、従来行われていたβ2−マイクログロブリン測定法では、感度が低いとして、尿中のクレアチニン濃度に対するシスタチンC濃度を測定し、これらの測定値から算出される比を基準として、尿細管間質障害の有無を判定する判定方法が開示されている。
国際公開第2011/152339号 特開2011−058863号公報 特開2003−177125号公報
Hagiyama M, Ichiyanagi N, Kimura KB, Murakami Y, and Ito A: Expression of a soluble isoform of cell adhesion molecule 1 in the brain and its involvement in directional neurite outgrowth. Am J Pathol, 174:2278−2289, 2009.
特許文献1および特許文献2は、統計的な相関関係によって腎臓病の重症度(進行度)を判断しようとするものであり、その因果関係が明確でない。また、検査自体も大掛かりなものとなる。GFRの直接の測定が一番よいが、例えば、イヌインクリアランスの測定を行うためには、イヌインを投与してから少なくとも2時間は必要となるため、住民健診のレベルでの測定は困難である。
特許文献3は、採尿だけでよいので、検査自体は簡便である。しかし、クレアチニンの定量は誤差が多くなる場合がある。したがって、クレアチニン濃度とシスタチンC濃度の比は、誤差が多くなる場合もある。また、糖尿病性腎症に限定されており、広く慢性腎臓病の判断とは言えない。
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、IgCAM型の接着分子CADM1は尿路系では尿細管上皮に特異的に発現しており、本分子の細胞外切断現象が尿細管の変性に関わっていることを見出すことで完成した。
より具体的に本発明に係る慢性腎臓病罹患の可能性の判定方法は、被験者の尿中CADM1濃度が所定の基準値より高い場合は、前記被験者の慢性腎臓病罹患の可能性が高いと判定することを特徴とする。
慢性腎臓病は原疾患を含め、尿細管の変性に少なくとも原因があると考えられる。尿細管の変性は、例えば尿細管間質のリンパ球浸潤スコアで評価することができる。そして尿細管の変性が生じると尿中のCADM1の量が通常よりも増加する。したがって、尿中のCADM1の量を調べることで、慢性腎臓病およびその原疾患の重症度(進行度)を推定し、罹患の可能性を判断することができる。
また、尿中のCADM1は、抗CADM1抗体を用いることで簡単に検量することができるので、住民健診の採尿時に検体を採取すれば、十分に多数例の検体検査をすることができる。
精製したCADM1とサンドイッチELISAの関係を示すグラフであり、検量線となる。 健常者と各種腎疾患を患った患者の尿中のCADM1濃度を測定した結果を示すグラフである。(これらの腎疾患は慢性腎臓病の原因となり得るものである。) 各種腎疾患の尿細管間質のHE染色の写真である。 リンパ球浸潤スコアの代表的な組織像の顕微鏡写真である。 リンパ球浸潤スコアと尿中CADM1濃度の関係を示すグラフである。 糖尿病性腎症の場合のリンパ球浸潤スコアと尿中CADM1濃度との関係を示すグラフである。 原疾患と尿中CADM1濃度の関係を示すグラフである。 全尿細管間質傷害スコアの具体例を示す写真である。 図7の患者に対して全尿細管間質傷害スコアとGFR(糸球体濾過量)の関係をプロットした結果を示すグラフである。 図9の各点にその症例の尿中CADM1濃度に応じたドットサイズを付与したものを示すグラフである。 選出基準を尿中CADM1濃度0.4ng/ml(図11(a))、0.7ng/ml(図11(b))、1.0ng/ml(図11(c))、1.5ng/ml(図1(d))とした場合の結果を示すグラフである。
以下に本発明に係る慢性腎臓病罹患の可能性を判定する方法について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
本発明では、被験者の尿を検体として用い、尿中のCADM1濃度を測定することで、慢性腎臓病の重症度を推定する。推定された重症度が一定値以上であれば、慢性腎臓病に罹患している可能性が極めて高いと考えられる。つまり、尿中の1種類だけの物質濃度測定によって、慢性腎臓病の罹患の可能性を判定することができる。これは、また慢性腎臓病罹患の可能性があると判定するためのデータの収集方法であると言ってもよい。
CADM1は細胞接着分子として知られており、1回膜貫通型の免疫グロブリンスーパーファミリー細胞接着分子(IgCAM)に属する。CADM1は、細胞の内側にある細胞内ドメインと細胞膜を貫通している膜貫通ドメインと細胞膜の外側に免疫グロブリン様ループを3つ有する。
CADM1は、呼吸・胆管上皮、骨芽細胞、神経細胞やマスト細胞で発現している。リンパ球、線維芽細胞、筋肉などには発現していない。そして神経を除く尿経路においては、尿細管上皮に特異的に発現している。尿細管の変性と、尿細管の上皮におけるCADM1の細胞外ドメイン切断は関連性が高い。特に、尿細管間質へのリンパ球浸潤の程度が多くなると、尿中のCADM1濃度が高くなることがわかった。尿細管間質へのリンパ球浸潤は、慢性腎臓病の何れの原疾患(腎疾患)においても、発生する症状である。したがって、尿中のCADM1濃度を測定することで、腎疾患の程度を推定することができる。これは、尿中CADM1濃度が基準値より高ければ、慢性腎臓病罹患の可能性があると判定するためのデータの収集方法である。
検体中のCADM1の濃度はELISA(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)を用いるのが好適である。ELISAの方法としては、一次抗体だけで行ってもよいが、感度および精度の点から2種の抗体を用いたサンドイッチELISA法が望ましい。したがって、抗CADM1抗体は2種類用意するのが望ましい。
抗CADM1抗体としては、特に限定されないが、株式会社医学生物学研究所で販売されているものが利用できる。これらはチキンのB細胞から得られたモノクロナール抗体で、3E1若しくは9D2というクローンであり、CADM1細胞外ドメインの異なる領域を認識する。これらの抗CADM1抗体は、元々CADM1の接着分子としての機能を実験的に解析するために開発されたものである。
より具体的には、2種類の抗CADM1抗体の内の一方を補足抗体として用い、他方の抗体にビオチン等の標識を付けて、検出抗体とする。ELISAを行う基質中にAlkaline Phosphatase(AP)を連結したアビジン−ビオチン複合体とAP基質を連続して投入することで、ELISAを行うことができる。なお、標識物質は特にこれらに限定されるものではない。
本発明において、抗CADM1抗体を含む慢性腎臓病の判定薬を提供することができる。これらは、色素を標識した一次抗体であってもよいし、一次抗体と色素を標識した二次抗体であってもよい。また、上記のように一次抗体と結合物質を標識した二次抗体であってもよい。また、判定薬に基質を加えた判定キットとすることもできる。
以下に本発明に係る慢性腎臓病罹患の可能性の判定方法の実施例を示す。まず、健常者と慢性腎臓病の原疾患となり得る各種腎疾患を患った患者の尿中のCADM1濃度を以下の手順で測定した。
(1)抗CADM1抗体である、9D2(0.1μg)をマイクロプレートに塗る。
(2)検体(尿)を0.1ml入れ、2時間反応させる。
(3)洗浄後、ビオチンが連結した3E1(0.3μg/ml)をマイクロプレートに投入する。
(4)1時間反応させその後洗浄する。
(5)アルカリフォスファターゼが連結したアビジン−ビオチン複合体溶液をマイクロプレートに入れる。30分間反応させる。
(6)洗浄後、アルカリフォスファターゼの基質である化学発光物質CSPDをマイクロプレートに入れる。
(7)30分後に発光測定装置(ルミノメーター)で発光量を測定する。
(8)CADM1の細胞外ドメインとヒトIgGのFc部分との融合蛋白として別途精製したCADM1を用いて予め測定しておいた検量線(図1に実施例を示す)によって、尿中CADM1の濃度を知る(非特許文献1参照)。
なお、図1を参照して、横軸は精製したCADM1(「sCADM1−Fc」と記した)の濃度(ng/ml)であり、縦軸は発光量(CPS)である。濃度のわかった精製CADM1を上記のサンドイッチELISAで発光量を調べた結果得た検量線である。
結果を図2のグラフに示す。横軸は慢性腎臓病の原疾患の種類(健常者を含む)であり、縦軸は尿中CADM1濃度(ng/ml)である。原疾患(腎疾患)としては、腎硬化症、糖尿病性腎症、膜性腎症、メサンギウム増殖性腎炎、IgA腎症、紫斑病性腎炎、半月体形成性糸球体腎炎、微小変化群が挙げられ、これらの検体を調べた。なお、原疾患はこれ以外に含まれてもよい。
図2を参照して、健常者(図2の横軸で符号「A」)の尿中CADM1濃度は平均値が0.14ng/mlで標準偏差が±0.11ng/mlであった。平均値+2×標準偏差は0.36ng/mlであり、この値を正常値上限と見なすことが出来た。一方、各原疾患の患者の尿中CADM1濃度は、多くの症例がこの正常値上限を上回る値を示した。特に、腎硬化症、糖尿病性腎症や膜性腎症等においては、尿中CADM1濃度が顕著に上昇していた。
以上のように、慢性腎臓病の原疾患は図2のようにいくつもあるが、これらの腎症の患者の尿中CADM1濃度はほぼ一様に上昇していることがわかった。したがって、尿中CADM1濃度が正常値上限以上を示せば、原疾患が明らかな慢性腎臓病だけでなく、原疾患が明らかでない場合であっても何らかの慢性腎臓病の状態を有していると判定できる。
図3には、各種腎疾患の尿細管間質のヘマトキシリン・エオジン(Hematoxylin Eosin:以下「HE」という。)染色の写真を示す。図3(a)は膜性腎症の患者の組織で、尿中CADM1濃度が0.46ng/mlの場合を示す。図3(b)は、糖尿病性腎症の患者の組織で、尿中CADM1濃度が0.85ng/mlの場合を示す。図3(c)は、糖尿病性腎症の患者の組織で、尿中CADM1濃度が1.42ng/mlの場合を示す。また、図3(d)は、腎硬化症の患者の組織で、尿中CADM1濃度が5.38ng/mlの場合を示す。図3の全ての写真において右下のスケールバーは0.1mmを示す。
図3を参照して、濃い点の部分はリンパ球の核が染色された部分である。原疾患の種類によらず、尿中CADM1濃度が上昇すると、濃い点の部分の数が増えているのがわかる。すなわち、尿中CADM1濃度が高値を示す症例では、尿細管間質領域に有意な炎症所見(リンパ球浸潤)が見出された。
図4は、リンパ球浸潤スコアの代表的な組織像の顕微鏡写真である。図4の全ての写真において右下のスケールバーは0.1mmを示す。図4(a)から図4(e)まで、スコア0からスコア4までの5段階に分類されている。それぞれのスコアの写真においても、濃い点の部分がリンパ球の核を表す。スコアがゼロから4に進むにつれて、リンパ球の数が増えており、リンパ球浸潤が進んでいる(炎症が進んでいる)。なお、病理学的な見地からは、スコア0およびスコア1は、健常者(正常)であっても、場合によっては、あり得る状態である。一方、スコア2以上になると、正常とは判定しにくい。
図5は、図4のスコアと図3のHE染色による組織像を対応付け、尿中CADM1濃度とリンパ球浸潤スコアの関係に直したものである。すなわち、それぞれの患者のHE組織染色像をリンパ球浸潤スコアに分類し、その患者の尿中CADM1濃度をプロットしたものである。
横軸はリンパ球浸潤スコアであり、縦軸は尿中CADM1濃度(ng/ml)である。これらの関係より、尿中CADM1濃度(ng/ml)とリンパ球浸潤スコアの間に関係性が見出された。これらの関係を最小二乗法によって求めると、(1)式の推定式が得られる。
ここでxはリンパ球浸潤スコアであり、yは尿中CADM1濃度(ng/ml)である。つまり、尿中CADM1濃度に基づいてリンパ球浸潤スコアを推定することができる。これは慢性腎臓病の重症度の推定と言ってもよい。なお、(1)式では、正常値上限であるとした尿中CADM1濃度0.36ng/mlは、全疾患推定式からはリンパ球浸潤スコアが1.18と求められる。これは、リンパ球浸潤スコア1は、健常者でもあり得る程度という病理学的な所見とも一致する。
上記の関係式は、慢性腎臓病の複数の原疾患の尿中CADM1濃度から得られた関係式なので、「全疾患推定式」と呼ぶ。全疾患推定式は、上記に列挙した原疾患以外の原疾患を含めてもよい。また、n数を増やしてもよい。したがって、(1)式の係数は変化する場合もある。
例えば、リンパ球浸潤スコア2で、慢性腎臓病の何らかの原疾患の疑いがあるとすると、その時の尿中CADM1濃度は、全疾患推定式((1)式)より0.543ng/mlと求まる。また、正常値上限とした尿中CADM1濃度0.36ng/mlよりも大きく、健常者を慢性腎臓病の疑いがあると誤認するおそれは非常に小さいと考えられる。したがって、尿中CADM1濃度がこの値以上であれば、まずはリンパ球浸潤スコア2以上の慢性腎臓病の状態となっている可能性があると判定することができる。
全疾患推定式を用いて、慢性腎臓病の疑いがあると判定する基準を「判定基準値」と呼ぶ。判定基準値は、少なくとも正常値上限以上であればよく、全疾患推定式において、リンパ球浸潤スコアが2以上と推定できる尿中CADM1濃度以上であれば、病理学的な所見との相関性も高く、より好ましい。このように、全疾患推定式は、尿中CADM1濃度によって、慢性腎臓病の疑いがあると判定するための判定基準値を決めるために利用することができる。
図2を再度参照する。慢性腎臓病の原疾患としては、いくつもの疾患がある。図5の推定直線(全疾患推定式)は、これら全てのデータに基づくものである。しかし、各疾患は原因と症状・病態が異なることはよく知られている。したがって、各疾患毎にもリンパ球浸潤スコアと尿中CADM1濃度との相関を求めることに意味がある。
図6は、糖尿病性腎症の場合のリンパ球浸潤スコアと尿中CADM1濃度との関係を示したものである。ここでは、n=9で、(2)式の関係を得た。
(2)式において、xはリンパ球浸潤スコアであり、yは尿中CADM1濃度(ng/ml)である。このように特定の疾患について尿中CADM1濃度とリンパ球浸潤スコアの関係を求めたものを「個別疾患推定式」と呼ぶ。個別疾患推定式は各原疾患毎に求めることができる。
図6から、糖尿病性腎症の場合は、病理学的に疾患が進行していると判断できるリンパ球浸潤スコア2と推定するには、尿中CADM1濃度が0.570ng/mlとなる。これは、全疾患推定式の場合にリンパ球浸潤スコア2と推定できた0.543ng/mlより大きい。すなわち、糖尿病性腎症の場合は、尿中CADM1濃度は、リンパ球浸潤スコアに対して、(1)式よりも少なめに推定される。
しかし、すでに糖尿病性腎症であることが分かっている場合は、尿中CADM1濃度がリンパ球浸潤スコアの程度を全疾患推定式より正確に推定することができる。これは、慢性腎臓病の原疾患の重症度の推定に利用することができる。なお、この推定方法は、慢性腎臓病の原疾患の重症度を判定する判定方法と言ってもよい。
次に、図2に加えてさらに患者数を増やしたデータを示す。但し、半月体形成性糸球体腎炎群は削除し、その代わりに膜性増殖性糸球体腎炎群を追加した。図7に原疾患と尿中CADM1濃度の関係を示す。横軸は原疾患の種類であり、縦軸は尿中CADM1濃度(ng/ml)である。グラフ中の点は患者一人につき点の一つが対応する。
さらに、尿細間質傷害は、図4で示したリンパ球浸潤という観点だけでは、表しきれない場合もある。そこで、尿細間質傷害の全体像をうまく反映した指標として、(1)皮質間質の炎症(リンパ球浸潤)、(2)間質の繊維化、(3)尿細管上皮変性という3つの観点で0〜3点(0.5点刻み)のスコアを付け、この合計点で尿細間質傷害のスコアを表した。これを「全尿細管間質傷害スコア」と呼ぶ。全尿細管間質傷害スコアの基準は以下の通りとした。
0点:リンパ球浸潤巣が皮質間質に認められない。
1点:リンパ球浸潤巣が皮質間質の約25%を占める。
2点:リンパ球浸潤巣が皮質間質の約50%を占める。
3点:リンパ球浸潤巣が皮質間質の約75%以上を占める。
なお、0.5点、1.5点、2.5点は、それぞれ0点と1点、1点と2点、2点と3点の間に当たるとした。
全尿細管間質傷害スコアは(1)皮質間質の炎症(リンパ球浸潤)、(2)間質の繊維化、(3)尿細管上皮変性という3つの観点での評価点を合計した点数である。
図8には、その具体例を示す写真を示す。図8において図8(a)は正常な皮質尿細管間質領域組織像を表す。図8(b)において、矢印で囲んだ部分に点状に見えるのがリンパ球であり、それらが集まって、皮質間質の炎症(リンパ球浸潤)が生じている部分である。図8(c)において、矢印で囲んだ部分はリンパ球や尿細管がなくなっており、間質の線維化が生じている部分である。また図8(d)は、尿細管上皮変性が生じている部分である。矢頭は典型的な変性細胞を示しており、核が消失したり、細胞が基底膜から離脱したりしている。
図9には、図7の患者に対して全尿細管間質傷害スコアとGFR(糸球体濾過量)の関係をプロットした結果を示す。図9を参照して、横軸はGFR(L/min/1.73m)値であり、縦軸は全尿細管間質傷害スコア(点)である。図8からは、決定係数(R)が0.2921であり、全尿細管間質傷害スコアは糸球体濾過量(GFR)と弱い負の相関を示した。
図10は図9の各点にその症例の尿中CADM1濃度に応じたドットサイズを付与したものである。横軸はGFR(L/min/1.73m)値であり、縦軸は全尿細管間質傷害スコア(点)である。図10の散布図において、径の大きなドットが近似直線と平行に並んでいるのがわかる。
そこで、この図9の散布図から、尿中CADM1濃度の高い症例だけを選び出してみる。図11は、選出基準を尿中CADM1濃度0.4ng/ml(図11(a))、0.7ng/ml(図11(b))、1.0ng/ml(図11(c))、1.5ng/ml(図11(d))とした場合の結果である。それぞれの図は、横軸はGFRで、縦軸は全尿細管間質傷害スコアである。尿中CADM1濃度が高くなるに従い、全尿細管間質傷害スコアとGFRとの相関性が次第に強くなるのがわかる。そして、図11(d)の尿中CADM1濃度が1.5ng/mlにおいては、決定係数R値が0.84にまで達した。
特に尿中CADM1濃度が0.7ng/ml以上であれば、半分以上の決定係数で、GFR値から全尿細管間質傷害スコアを予測できる。そこで、CADM1の濃度が0.7ng/mlを、「GRF有意基準」と呼ぶ。言い換えると、尿中CADM1濃度が「GRF有意基準(0.7ng/ml)以上であれば、GRF値から全尿細管間質傷害スコアを高い確度で判断できる。
また、GRF値は60L/min/1.73m(これを「GRF標準値」と呼ぶ。)未満であれば、腎機能低下があるとされているので、図11(b)より、全尿細管間質傷害スコア4以上が、腎機能低下を発生しているおそれが非常に高いと判断できる。
まとめると、尿中CADM1濃度がGRF有意基準以上であった場合、GRF標準値よりもGRF値が低ければ、腎尿細管間質傷害が発生している可能性が高いと判断できる。さらにその腎尿細管間質傷害の程度は、全尿細管間質傷害スコアが4以上である可能性が高いと判断できる。
この相関性の実臨床上での意義は大きい。即ち、この散布図の近似直線に従って、GFR値から全尿細管間質傷害スコアを予測することができることを意味する。つまり、尿中CADM1濃度が高い症例では、腎生検による尿細管間質病変の評価を行わなくても、GFR値から尿細管間質傷害の程度を高い確度で推測できることを意味する。
以上のように、本発明における慢性腎臓病罹患の可能性の判定方法は、健常者よりも慢性腎臓病罹患者の尿中CADM1濃度が高くなるということから、健常者の尿中CADM1の正常値上限以上に設定された判定基準値よりも、尿中CADM1濃度が高い場合は、慢性腎臓病罹患のおそれがあると判定する。この判定方法は、慢性腎臓病の原疾患に罹患している人の尿中CADM1濃度と、リンパ球浸潤スコアの関係を求めることで得た全疾患推定式に当てはめると、リンパ球浸潤スコアの病理学的な所見とも対応する。
また、本発明は、尿中CADM1濃度が、正常値上限以上に設定された判定基準値よりも高い場合は、慢性腎臓病罹患のおそれがあると判定するための、データ収集方法であるといってもよい。上記の判定方法若しくはデータ収集方法は、原疾患が不明の場合に好適に利用することができる。
また、原疾患罹患が明らかになっている場合は、個別疾患推定式を用いて、その原疾患の進行程度をリンパ球浸潤スコアに換算して表示することもできる。例えば、すでに糖尿病性腎症であることが分かっている患者に対しては、(2)式を用いて尿中CADM1濃度からリンパ球浸潤スコアを求めることができる。そのリンパ球浸潤スコアをもって、糖尿病性腎症の進行度(病期)を表すこともできる。
これは、尿中CADM1濃度からリンパ球浸潤スコアを求める、そのリンパ球浸潤スコアをもって、糖尿病性腎症の進行度(病期)を表すためのデータの収集方法といってもよい。
また、尿中CADM1濃度がGRF有意基準以上であった場合、GRF標準値よりもGRF値が低ければ、腎尿細管間質傷害が発生している可能性が高いと判断できる。さらにその腎尿細管間質傷害の程度は、全尿細管間質傷害スコアが4以上である可能性が高いと判断できる。
以上のように、本発明に係る慢性腎臓病罹患の可能性の判定は、尿中のCADM1濃度の測定という検体の採取および試験ともに簡便な方法で測定することができる。そのため、住民健診のレベルでも導入が可能であり、特に高齢者の慢性腎臓病の早期発見に寄与する。
本発明は、何らかの慢性腎臓病を患っている可能性を判定する際に好適に利用することができる。また、原疾患が既知の場合は、その病期を判定する場合に好適に利用することができる。

Claims (7)

  1. 被験者の尿中CADM1濃度が所定の基準値より高い場合は、前記被験者の慢性腎臓病罹患の可能性が高いと判定することを特徴とする慢性腎臓病罹患の可能性の判定方法。
  2. 前記基準値は、健常者の尿中CADM1濃度の上限値として決定された値であることを特徴とする請求項1に記載された慢性腎臓病罹患の可能性の判定方法。
  3. 前記基準値は、
    慢性腎臓病の複数の疾患の患者の尿中CADM1濃度と、前記患者の尿細管間質のリンパ球浸潤スコアに基づいて決定された値であることを特徴とする請求項1に記載された慢性腎臓病罹患の可能性の判定方法。
  4. 前記尿中CADM1濃度の測定は、2種類の抗CADM1抗体を用いたサンドイッチELISA法で測定することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一の請求項に記載された慢性腎臓病罹患の可能性の判定方法。
  5. 慢性腎臓病の原疾患の患者の尿中CADM1濃度を測定し、前記原疾患の場合の前記尿中CADM1濃度と尿細管間質のリンパ球浸潤スコアとの関係より、前記患者の尿細管間質のリンパ球浸潤スコアを推定する方法。
  6. 前記尿中CADM1濃度の測定は、2種類の抗CADM1抗体を用いたサンドイッチELISA法で測定することを特徴とする請求項5に記載されたリンパ球浸潤スコアを推定する方法。
  7. 被験者の尿中CADM1濃度が所定の基準値より高い場合であって、
    さらに前記被験者の糸球体濾過量が所定の基準値より低い場合に、腎尿細管間質傷害を受けている可能性が高いと判定することを特徴とする腎尿細管間質傷害の可能性の判定方法。
JP2018232459A 2018-04-13 2018-12-12 慢性腎臓病罹患の可能性の判定のための方法 Active JP7190165B2 (ja)

Applications Claiming Priority (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2018077535 2018-04-13
JP2018077535 2018-04-13

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2019184570A true JP2019184570A (ja) 2019-10-24
JP7190165B2 JP7190165B2 (ja) 2022-12-15

Family

ID=68340853

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2018232459A Active JP7190165B2 (ja) 2018-04-13 2018-12-12 慢性腎臓病罹患の可能性の判定のための方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP7190165B2 (ja)

Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP7270944B1 (ja) 2022-09-13 2023-05-11 学校法人近畿大学 抗cadm1抗体またはその抗原結合断片

Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2006317220A (ja) * 2005-05-11 2006-11-24 Miyazaki Tlo:Kk 成人t細胞白血病の診断器具
US20070072224A1 (en) * 2000-08-15 2007-03-29 The Johns Hopkins University School Of Medicine Diagnosis and treatment of tumor-suppressor associated disorders

Patent Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US20070072224A1 (en) * 2000-08-15 2007-03-29 The Johns Hopkins University School Of Medicine Diagnosis and treatment of tumor-suppressor associated disorders
JP2006317220A (ja) * 2005-05-11 2006-11-24 Miyazaki Tlo:Kk 成人t細胞白血病の診断器具

Non-Patent Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
KATO, T. ET AL.: "Cell adhesion molecule-1 shedding induces apoptosis of renal epithelial cells and exacerbates human", AM J PHYSIOL RENAL PHYSIOL, vol. 314, JPN6022033513, 25 October 2017 (2017-10-25), pages 388 - 398, ISSN: 0004853432 *
岩谷博次, 外: "腎発生におけるNECL2/TSLC1の関与について", 日本腎臓学会誌, vol. 45, no. 3, JPN6022033511, 2003, pages 309, ISSN: 0004853433 *

Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP7270944B1 (ja) 2022-09-13 2023-05-11 学校法人近畿大学 抗cadm1抗体またはその抗原結合断片
WO2024058192A1 (ja) * 2022-09-13 2024-03-21 学校法人近畿大学 抗cadm1抗体またはその抗原結合断片
JP2024040996A (ja) * 2022-09-13 2024-03-26 学校法人近畿大学 抗cadm1抗体またはその抗原結合断片

Also Published As

Publication number Publication date
JP7190165B2 (ja) 2022-12-15

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Braunstahl et al. Mucosal and systemic inflammatory changes in allergic rhinitis and asthma: a comparison between upper and lower airways
JP5759372B2 (ja) 糖尿病性腎症の検査方法
JP6018923B2 (ja) 敗血症の予後の予測方法
Harhay et al. Relationship of CRP, IL-6, and fibrinogen with right ventricular structure and function: the MESA-Right Ventricle Study
Moe et al. Association of hepatitis C virus infection with prevalence and development of kidney disease
Nakajima et al. Association of arginine vasopressin surrogate marker urinary copeptin with severity of autosomal dominant polycystic kidney disease (ADPKD)
CN102762985A (zh) 使用热休克蛋白72作为敏感生物标志物来检测急性肾损伤的诊断方法
Bellan et al. Gas6 as a putative noninvasive biomarker of hepatic fibrosis
JP5677294B2 (ja) 腎疾患の検査方法
JP2019184570A (ja) 慢性腎臓病罹患の可能性の判定方法およびリンパ球浸潤スコアを判定する方法
Yin et al. Kidney injury molecule-1 identifies antemortem injury in postmortem adult and fetal kidney
WO2011105474A1 (ja) 急性腎障害の検査方法
Cenni et al. The use of calgranulin-C (S100A12) and fecal zonulin as possible non-invasive markers in children with inflammatory bowel disease: A clinical study
CN109891241A (zh) 能够进行糖尿病性肾病的早期病情的特异性诊断的检查方法
JP6083937B2 (ja) 急性腎障害の検査方法
WO2023068332A1 (ja) 腎臓病の原因障害を診断するためのデータを収集する方法および組成物
Asghar et al. Morphometric analysis of chronicity on kidney biopsy: a useful prognostic exercise
JP2020051911A (ja) 心不全マーカー
Barbosa de Deus et al. Relative contribution of morphometric and functional indicators of tubulointerstitial lesion to glomerular diseases prognosis
Khalid et al. Assessment of Serum Podocalyxin as a Biomarker for Diabetic Nephropathy in Type 2 Diabetes patients in Duhok City
Heida et al. Use of copeptin in the diagnosis of the polyuria-polydipsia syndrome. A letter to the editor.
Chinnadurai et al. SP285 INVESTIGATION OF THE RECEPTOR MEDIATED DRUG-CREATININE INTERACTION USING TRIMETHOPRIM IN ADVANCED CHRONIC KIDNEY DISEASE-A PILOT STUDY
Mangai et al. Estimated protein output a novel reliable index in early prediction of renal failure
Zoet et al. Standardized protocol for quantification of nerve bundle density as a biomarker for endometriosis
Khandpur et al. Association of Wilms tumor-1 protein in urinary exosomes with kidney injury: a population-based cross-sectional study

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20211101

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20220804

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20220823

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20221017

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20221101

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20221128

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 7190165

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150