JP2019184528A - 飲食品の風味の好ましさの解析方法および予測方法 - Google Patents

飲食品の風味の好ましさの解析方法および予測方法 Download PDF

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Abstract

【課題】生理応答データを利用した飲食品の風味の好ましさの新規な解析方法の提供。【解決手段】飲食品の風味の好ましさの解析方法であり、下記の段階(A)および段階(B)を有する、解析方法:段階(A)被験者の飲食品の嚥下時における1個以上の嚥下筋の表面筋電位の波形データを解析して、1個以上の嚥下に関するパラメータを算出する、および/または被験者の飲食品の咀嚼時における1個以上の咀嚼筋の表面筋電位の波形データおよび/または被験者の飲食品の咀嚼時における咀嚼運動の映像データを解析して、1個以上の咀嚼に関するパラメータを算出する段階;段階(B)段階(A)で算出した1個以上の嚥下に関するパラメータおよび/または1個以上の咀嚼に関するパラメータと、前記飲食品の官能評価データとの相関を解析する段階【選択図】図7

Description

本発明は、飲食品の風味の好ましさの解析方法および予測方法に関する。詳しくは、生理応答データを利用した飲食品の風味の好ましさの新規な解析方法、ならびに、この解析方法を用いる飲食品の風味の好ましさの予測方法に関する。
ヒトが飲食品を嚥下する際に感じる感覚として、喉ごしなどの嚥下感覚を、生理応答の測定データに基づいて評価する方法が知られている(例えば特許文献1〜3参照)。
特許文献1には、以下の工程(A)及び(B)を有することを特徴とする、飲食品の嚥下感覚(飲食品を飲み込む際の喉ごし感)を評価する方法が記載されている。
工程(A);飲食品の嚥下時におけるヒト咽頭部の筋肉の表面筋電位の波形データを周波数解析することにより、10Hz以下の低周波数帯域を含む周波数帯のスペクトル面積(LS)、及び/又は、100Hz以上の高周波数帯域を含む周波数帯のスペクトル面積(HS)を算出する工程
工程(B);工程(A)で算出されたスペクトル面積を分析する工程
特許文献2には、連続嚥下運動時において甲状軟骨が上限位置あるいは上限位置近傍に有ることを認識する圧力センサを含む複数の圧力センサを支持し、当該圧力センサを甲状軟骨の上下運動方向に沿って配置する圧力センサ装着具を、圧力センサの最下位のセンサが被験者の甲状軟骨の近傍に位置するよう前頸部に当接させて装着する段階と、被験者が飲料を連続して飲むときの各圧力センサからの出力信号の変化を読み取る段階と、各圧力センサからの出力信号のピークの周期に基づいて飲料を連続して飲み時の被験者の甲状軟骨の上下動を測定する連続嚥下運動測定方法が記載されている。特許文献2によると、嚥下の際の生理応答が嚥下感覚の指標になる可能性、例えば、舌骨下筋群の運動が飲料の喉ごし感の指標となる可能性を示唆している。
特許文献3には、被験者の前頸部に筋電位測定用表面電極を当接する段階と、表面電極から被験者が飲料を連続して飲み込む時の嚥下運動により生じる電気信号を得る段階と、得られた電気信号に基づき飲料の喉越し感を評価する段階と、を有する飲料評価方法が記載されている。
特開2009−39516号公報 特開2006−95264号公報 特開2011−200662号公報
特許文献1〜3では、飲食品の嚥下時の「喉ごし」を評価している。飲食品の味や香り(本明細書では総じて風味とも称する)の好ましさの違いに基づいて、嚥下時の生理応答の測定データ(筋電位データなど)に違いが出るかについては、特許文献1〜3では検討されていなかった。具体的には、特許文献1では、筋電位データのうち総スペクトル面積が「飲みごたえ」と正の相関を示す可能性は記載されているが、「嗜好性」などその他の感覚と筋電位データとの関係は全く不明である。また、特許文献2、3では、そもそも「喉ごし」以外の感覚に関する検討はない。
当然、嚥下時や咀嚼時の生理応答の測定データと、飲食品の風味の好ましさに関する官能評価との相関の有無についても、特許文献1〜3では検討されていなかった。
近年では、飲食品の風味の好ましさについて官能評価の裏付けが求められており、生理応答などのデータで裏付けを担保することが期待されている。
本発明が解決しようとする課題は、生理応答データを利用した飲食品の風味の好ましさの新規な解析方法を提供することである。または、生理応答データを利用した風味の好ましさを予測できる新規な方法を提供することである。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、被験者の飲食品の嚥下時における表面筋電位の波形データおよび/または被験者の飲食品を口に入れた直後から嚥下までの咀嚼に関するデータを解析し、飲食品の官能評価データとの相関を解析することにより、生理応答データを利用して飲食品の風味の好ましさの度合いを解析できる方法を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記課題を解決するための具体的な手段である本発明およびその好ましい態様は以下のとおりである。
[1]
飲食品の風味の好ましさの解析方法であり、
下記の段階(A)および段階(B)を有する、解析方法:
段階(A) 被験者の飲食品の嚥下時における1個以上の嚥下筋の表面筋電位の波形データを解析して、1個以上の嚥下に関するパラメータを算出する、および/または
被験者の飲食品の咀嚼時における1個以上の咀嚼筋の表面筋電位の波形データおよび/または被験者の飲食品の咀嚼時における咀嚼運動の映像データを解析して、1個以上の咀嚼に関するパラメータを算出する段階;
段階(B) 段階(A)で算出した1個以上の嚥下に関するパラメータおよび/または1個以上の咀嚼に関するパラメータと、飲食品の官能評価データとの相関を解析する段階;
ただし、飲食品の官能評価データは、被験者が咀嚼および/または嚥下した飲食品を官能評価して取得されたものである。
[2]
段階(A)が、少なくとも下記の段階(A1)を含む、[1]に記載の解析方法:
段階(A1) 被験者の飲食品の嚥下時における1個以上の嚥下筋の表面筋電位の波形データを解析して、1個以上の嚥下に関するパラメータを算出する段階。
[3]
段階(B)の相関解析を統計解析または機械学習により行い、段階(A)で算出した前記パラメータと飲食品の官能評価データとの相関関係を表す式を導出して、該式を飲食品の風味の好ましさの評価式として得る、[1]または[2]に記載の解析方法。
[4]
段階(B)の相関解析を統計解析または機械学習により行い、段階(A)で算出した前記パラメータと飲食品の官能評価データとの相関関係を表すマップを導出して、該マップを飲食品の風味の好ましさのマップとして得る、[1]または[2]に記載の解析方法。
[5]
段階(A)が下記の段階(C1)および段階(C2)を有する[1]〜[4]のいずれか一項に記載の解析方法;
段階(C1) 被験者のオトガイ下部、前頸部、および/または頬部に筋電位測定電極を装着し、
筋電位測定電極を用いて被験者の飲食品の嚥下時における嚥下筋の筋活動、および/または被験者の飲食品の咀嚼時における咀嚼筋の筋活動を測定して、表面筋電位の波形データを取得し、波形データを解析して嚥下に関するパラメータおよび/または咀嚼に関するパラメータを算出する段階。
段階(C2) 段階(C1)で表面筋電位の波形データを取得する際に被験者に嚥下および/または咀嚼した飲食品を官能評価させて、飲食品の官能評価データを取得する段階。
[6]
さらに下記の段階(D)を有する[1]〜[5]のいずれか一項に記載の解析方法;
段階(D) 表面筋電位の波形データおよび飲食品の官能評価データのセットが記録された記録媒体から、表面筋電位の波形データおよび飲食品の官能評価データのセットを取得する段階。
[7]
さらに下記の段階(E)を有する[1]〜[6]のいずれか一項に記載の解析方法:
段階(E) 段階(A)で算出したパラメータのうち、飲食品の官能評価データとの相関が高いパラメータを選択する段階。
[8]
段階(A)で算出した嚥下に関するパラメータが、スペクトル面積、スペクトル最大振幅、筋活動時間、パワースペクトル、パワースペクトル密度、および中央パワー周波数のうち少なくとも1つである、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の解析方法。
[9]
段階(A)で算出した嚥下に関するパラメータが、周波数因子である[1]〜[7]のいずれか一項に記載の解析方法。
[10]
周波数因子がパワースペクトル密度である[9]に記載の解析方法。
[11]
段階(A)で算出したパラメータのうち、2個以上のパラメータを用いる、[1]〜[10]のいずれか一項に記載の解析方法。
[12]
さらに段階(F1)および/または段階(F2)を有する[1]〜[11]のいずれか一項に記載の解析方法。
段階(F1) 段階(B)の解析で用いる飲食品の官能評価データの中から、異常値の除去を行う段階。
段階(F2) 段階(A)で算出したパラメータの中から、段階(B)の解析で用いるパラメータを選別する段階。
[13]
[1]〜[12]のいずれか一項に記載の解析方法を用いて導出した評価式またはマップを用意する段階、
評価式またはマップを導出する際に段階(B)の相関関係の解析において用いた嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータを、被験者に飲食品を飲食させて[1]〜[12]のいずれか一項に記載の段階(A)を行うことによって新たに算出する段階、
相関関係を表す評価式またはマップに、この新たに算出したパラメータを適用する段階、
を含む、飲食品の風味の好ましさの予測方法。
[14]
相関関係を表す式またはマップが、個人の前記パラメータと官能評価データとの相関関係を表すものである、[13]に記載の予測方法。
[15]
個人が意思疎通が困難となる前に、[1]〜[12]のいずれか一項に記載の解析方法で個人の前記パラメータと官能評価データとの相関関係を得ておき、
意思疎通が難しくなった後の個人が飲食品を嚥下および/または咀嚼する場合に、相関関係の解析に用いた前記パラメータに関して、飲食品に対応するパラメータの値を算出し、
相関関係に該パラメータの値を導入して、個人にとっての該飲食品の風味の好ましさの度合いを予測する[14]に記載の飲食品の風味の好ましさの予測方法。
本発明によれば、生理応答データを利用した飲食品の風味の好ましさの新規な解析方法を提供することができる。
図1は、表面筋電位の測定用電極を被験者に装着する態様の一例である。 図2は、本発明の方法で用いる官能評価アンケートの一例である。 図3(A)は、本発明の解析方法で得られた、風味の好ましさの実測値(官能評価データ)と予測値との相関の解析結果を示すプロットの一例である。 図3(B)は、本発明の解析方法で用いるパラメータとVIPスコアの関係を示したグラフの一例である。 図4は、本発明の解析方法で用いるパラメータとVIPスコアの関係を示したグラフの他の一例である。 図5は、本発明の解析方法で用いるパラメータとVIPスコアの関係を示したグラフの他の一例である。 図6は、本発明の解析方法で用いる嚥下パラメータと官能評価データとの相関を示したグラフの一例である。 図7は、本発明の解析方法で得られた、風味の好ましさの実測値(官能評価データ)と予測値との相関の解析結果を示すプロットの他の一例である。 図8は、本発明の解析方法で得られた、風味の好ましさの実測値(官能評価データ)と予測値との相関の解析結果を示すプロットの他の一例である。 図9は、回帰分析で得られるおいしさのマッピングの一例である。 図10(A)は、本発明の解析方法で用いる主成分分析で得られる図の一例である。 図10(B)は、本発明の解析方法で用いる主成分分析で得られる図の一例である。 図10(C)は、主成分分析を用いたおいしさのマッピングの一例である。 図11(A)は、本発明の解析方法で用いる判別分析で得られる図の一例である。 図11(B)は、本発明の解析方法で用いる判別分析で得られる図の一例である。 図11(C)は、判別分析を用いたおいしさのマッピングの一例である。 図12(A)は、本発明の解析方法で用いる判別分析で得られる図の他の一例である。 図12(B)は、本発明の解析方法で用いる判別分析で得られる図の他の一例である。 図12(C)は、判別分析を用いたおいしさのマッピングの他の一例である。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
[解析方法]
本発明の解析方法は、飲食品の風味の好ましさの解析方法であり、下記の段階(A)および段階(B)を有する。
段階(A) 被験者の飲食品の嚥下時における1個以上の嚥下筋の表面筋電位の波形データを解析して、1個以上の嚥下に関するパラメータを算出する、および/または
被験者の飲食品の咀嚼時における1個以上の咀嚼筋の表面筋電位の波形データおよび/または被験者の飲食品の咀嚼時における咀嚼運動の映像データを解析して、1個以上の咀嚼に関するパラメータを算出する段階;
段階(B) 段階(A)で算出した1個以上の嚥下に関するパラメータおよび/または1個以上の咀嚼に関するパラメータと、飲食品の官能評価データとの相関を解析する段階;
ただし、飲食品の官能評価データは、被験者が咀嚼および/または嚥下した飲食品を官能評価して取得されたものである。
このような構成により、本発明の解析方法によれば、飲食品の風味の好ましさの度合いを生理応答データに基づいて解析できる。生理応答データに基づくため、飲食品の風味の好ましさの度合いを正確かつ客観的に担保できる。いかなる理論に拘泥するものでもないが、本発明の解析方法では被験者の飲食品の風味の好ましさに応じて無意識で生理応答することに起因する嚥下運動および/または咀嚼運動の変化に対応する、「嚥下時」の嚥下筋(本明細書では、嚥下運動に関与する筋肉群に含まれる1種以上の筋肉を意味する)の表面筋電位の波形データ、「咀嚼時」の咀嚼筋(本明細書では、咀嚼運動に関与する筋肉群に含まれる1種以上の筋肉を意味する)の表面筋電位の波形データ、もしくは「咀嚼時」の被験者の咀嚼運動の映像データを解析し、さらに、この解析で算出した嚥下に関するパラメータおよび/または咀嚼に関するパラメータと飲食品の官能評価データとの相関を解析することによって、飲食品の風味の好ましさの度合いを生理応答データに基づいて正確かつ客観的に担保できる。
本発明の解析方法で注目する筋肉である嚥下筋および咀嚼筋は、それぞれ嚥下運動および咀嚼運動に関与する限り特に限定されない。通常、表面筋電位計の電極を、嚥下筋であれば頸部に、咀嚼筋であれば頬部に貼付すると、嚥下筋、咀嚼筋の表面筋電位を測定することができる。好ましくは、嚥下筋については頸部の筋肉、より具体的には舌骨上筋群(顎舌骨筋、顎二腹筋、茎突舌骨筋、およびオトガイ舌骨筋を含む筋群)および舌骨下筋群(胸骨甲状筋、甲状舌骨筋、肩甲舌骨筋、および胸骨舌骨筋を含む筋群)から選択される少なくとも1種、例えば舌骨上筋群および舌骨下筋群であり、咀嚼筋については咬筋、側頭筋、外側翼突筋、内側翼突筋から選択される少なくとも1種、例えば咬筋である。
嚥下筋または咀嚼筋の表面筋電位の波形データ(いわゆる筋電図など)は、飲食行為の段階に応じて時間軸で分類することができる。具体的には、表面筋電位の波形データは、被験者が飲食品を口に入れるために「口を開けた時」の段階の波形データ、飲食品を口に入れた直後から嚥下までの咀嚼運動(「咀嚼時」とも称する)の段階の波形データ(ただし嚥下前に咀嚼を必要とする飲食品の場合)、飲食品を飲み込む嚥下運動(「嚥下時」とも称する)の段階の波形データ、および、飲食品の嚥下が完了した後の段階の波形データなどに分けられる。
本発明の段階(A)では、飲食品を口に入れた直後から嚥下までの「咀嚼時」の段階および/または飲食品を飲み込む「嚥下時」の段階における波形データに注目する。なお、通常、咀嚼の段階の直前に「口を開けた時」の段階、咀嚼の段階の直後に「嚥下時」の段階があるが、「口を開けた時」の段階および「嚥下時」の段階の筋活動の方が「咀嚼時」の筋活動よりも明らかに小さいため、「口を開けた時」の段階および「嚥下時」の段階を表面筋電位の波形データから目視で特定することができる。または、表面筋電位の波形データと嚥下運動の映像とを併せて、波形データの時間軸と映像の「口を開けた時」、「嚥下時」、および「咀嚼時」の各動作のタイミングとを参照して、各段階を識別してもよい。
以下、本発明の好ましい態様について説明する。
<飲食品の風味>
本発明において、「飲食品の風味」とは、嗅覚、味覚、またはその両方によって知覚できる感覚、すなわち香り、味、またはその両方をいう。例えば、嗅覚および味覚を総合した感覚としての「おいしさ」のほか、香りであれば嗅覚による「香りの好ましさ」、「香りの完成度」(飲食品またはその素材自体の香りを想起させること(天然感ともいう))、「香りの強さ」(香りが強すぎず、または弱すぎず、好ましい度合いであるか)などが含まれ、味であれば、香りと同様に、味の好ましさ、味の完成度、味の強さなどが含まれる。
(飲食品)
本発明の解析方法の対象とする飲食品は、特に制限はない。飲食品は、1種類であっても、2種類以上であってもよい。
本発明の解析方法で複数種類の飲食品を用いる場合、解析対象とする飲食品は、テクスチャー(いわゆる「食感」であって、かたさ、触感、弾力性、喉ごし等の機械的特性)や被験者が飲食する量(重量および/または体積)が統一されていると、飲食品の風味(香りおよび/または味)の好ましさを純粋に評価でき、好ましい。すなわち、飲食品へフレーバー添加をしても、通常、飲食品の機械的特性は変化し難く、飲食品のテクスチャーや被験者が飲食する量が統一されている場合、飲食品のおいしさや香りの影響による変化以外にもテクスチャーや被験者が飲食する量に依存して被験者の表面筋電位(筋活動)が変化する可能性を減らすことができる。
特に、飲食品のテクスチャーが同じ状態で、香りおよび/または味の違いによって嚥下時の表面筋電位の波形データに違いが出て、さらに表面筋電位の波形データの違いが官能評価データ(風味の好ましさの度合い)とも相関することが好ましい。
また、本発明の解析方法によれば、同じ組成の飲食品であっても飲食品の温度に応じて風味が異なる場合に、飲食品の温度に応じて感じられる風味の好ましさを解析することができる。
飲食品の具体例としては、例えば、せんべい、あられ、おこし、餅類、饅頭、ういろう、あん類、羊かん、水羊かん、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉、ビスケット、クラッカー、ポテトチップス、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンディー、ピーナッツペーストなどのペースト類、などの菓子類;
コーラ飲料、果汁入り炭酸飲料、乳類入り炭酸飲料などの炭酸飲料類;果汁飲料、野菜飲料、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、豆乳、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料、乳飲料などのソフト飲料類;緑茶、紅茶、ウーロン茶、ハーブティー、ミルクティー、コーヒー飲料などの嗜好飲料類;チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒などのアルコール飲料類;などの飲料類;
パン、うどん、ラーメン、中華麺、すし、五目飯、チャーハン、ピラフ、餃子の皮、シューマイの皮、お好み焼き、たこ焼き、などのパン類、麺類、ご飯類;
糠漬け、梅干、福神漬け、べったら漬け、千枚漬け、らっきょう、味噌漬け、たくあん漬け、及び、それらの漬物の素、などの漬物類;
サバ、イワシ、サンマ、サケ、マグロ、カツオ、クジラ、カレイ、イカナゴ、アユなどの魚類、スルメイカ、ヤリイカ、紋甲イカ、ホタルイカなどのイカ類、マダコ、イイダコなどのタコ類、クルマエビ、ボタンエビ、イセエビ、ブラックタイガーなどのエビ類、タラバガニ、ズワイガニ、ワタリガニ、ケガニなどのカニ類、アサリ、ハマグリ、ホタテ、カキ、ムール貝などの貝類、などの魚介類;
缶詰、煮魚、佃煮、すり身、水産練り製品(ちくわ、蒲鉾、あげ蒲鉾、カニ足蒲鉾など)、フライ、天ぷら、などの魚介類の加工飲食品類;
鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの畜肉類;
カレー、シチュー、ビーフシチュー、ハヤシライスソース、ミートソース、マーボ豆腐、ハンバーグ、餃子、釜飯の素、スープ類、肉団子、角煮、畜肉缶詰などの畜肉を用いた加工飲食品類;
卓上塩、調味塩、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、お茶漬けの素、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素、複合調味料、新みりん、唐揚げ粉・たこ焼き粉などのミックス粉、などの調味料類、など;
その他、チーズ、バターなどの乳製品、野菜の煮物、筑前煮、おでん、鍋物などの煮物類、持ち帰り弁当の具や惣菜類、トマトジュースなどが例示できる。
本発明では、これらの飲食品のかたさや弾力などの機械的特性や風味(味および/または香り)を適宜調整した高齢者食や幼児食を解析対象の飲食品として用いることも好ましい。
飲食品には、フレーバーを添加してもよい。フレーバーとは、飲食品に添加することにより、飲食品に香りまたは風味を付与ないし増強することができる化合物または組成物であって、例えば、香料化合物、香料組成物、動植物の抽出物、天然精油などが例示できる。「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている天然精油、天然香料化合物、合成香料化合物などを挙げることができるが、これらに限定されない。
例えば、飲食品に風味を付与乃至増強させる化合物および/または組成物でよく、具体的には、例えば、飲食品がパンの場合は、パンの風味の好ましさ(官能評価)に影響を及ぼすと推測できる、バター風味を付与乃至増強できる香料化合物または組成物を使用することができる。
<段階(A)>
段階(A)は、上述の通り、被験者の飲食品の嚥下時における1個以上の嚥下筋の表面筋電位の波形データを解析して、1個以上の嚥下に関するパラメータを算出する、および/または被験者の飲食品の咀嚼時における1個以上の咀嚼筋の表面筋電位の波形データおよび/または被験者の飲食品の咀嚼時における咀嚼運動の映像データを解析して、1個以上の咀嚼に関するパラメータを算出する段階であるが、以下にその具体例を示す。例えば、段階(A)は以下の段階からなる、または以下の段階を含むものであってよい。
・被験者の飲食品の嚥下時における1個以上の嚥下筋の表面筋電位の波形データを解析して、1個以上の嚥下に関するパラメータを算出する段階(後述の段階(A1))、ならびに/あるいは、
・被験者の飲食品の咀嚼時における1個以上の咀嚼筋の表面筋電位の波形データおよび/または被験者の飲食品の咀嚼時における咀嚼運動の映像データを解析して、1個以上の咀嚼に関するパラメータを算出する段階(後述の段階(A2))
段階(A)の好ましい態様として、段階(A1)、段階(A2)、段階(C1)および段階(C2)、ならびに段階(D)を、順に説明する。
(段階(A1))
本発明では、段階(A)が、少なくとも下記の段階(A1)を含むことが好ましい。
段階(A1) 被験者の飲食品の嚥下時における1個以上の嚥下筋の表面筋電位の波形データを解析して、1個以上の嚥下に関するパラメータを算出する段階。
嚥下筋は、嚥下に関与する筋肉であれば特に限定されないが、好ましくは舌骨上筋群および/または舌骨下筋群である。なお、舌骨上筋群とは、オトガイ舌骨筋、顎舌骨筋、顎二腹筋、茎突舌骨筋を含む筋肉群であり、舌骨上方に連結し、オトガイ下部およびその周辺部分の筋肉である。舌骨下筋群とは、胸骨甲状筋、甲状舌骨筋、肩甲舌骨筋、胸骨舌骨筋を含む筋肉群であって、舌骨体部の下方に直接または間接的に連結する、前頸部およびその周辺部分の筋肉である。図1に例示するように被験者の頸部に表面筋電位測定用電極を装着すると、図1中のオトガイ下部では舌骨上筋群、前頸部では舌骨下筋群の表面筋電位を主に測定することができる。
表面筋電位の測定によって、いわゆる波形データを得ることができる。
段階(A1)の解析は、飲食品の嚥下時における嚥下筋の活動電位を表面筋電位として計測して得た、表面筋電位の波形データに対して行うことが好ましい。
段階(A1)の嚥下筋の波形データの解析で得られる具体的な嚥下に関するパラメータ(本明細書では、単に「嚥下パラメータ」と称することがある)の例としては、時間的因子、量的因子、および周波数因子が挙げられる。より具体的には、時間的因子としては「嚥下筋の活動時間(本明細書では単に筋活動時間、または選択時間幅と称することがある)」が、量的因子としては「波形の最大振幅(スペクトル最大振幅)」、「波形の積分値(スペクトル面積)」、「二乗平均平方根(Root Mean Square、以下RMSとも称する)」が、周波数因子としては「パワースペクトル」、「パワースペクトル密度(以下PSD)」、「中央パワー周波数」などが挙げられる。周波数因子は、例えばフーリエ変換(高速フーリエ変換など)などによって求めることができる。
本発明において、「筋活動時間」とは、時間的因子であって嚥下時に嚥下筋が活動している時間を表す。「嚥下時」と「非嚥下時」との境界は、解析前の波形データから判別でき、例えば、波形のベースラインの標準偏差よりも有意に大きくなる時点を嚥下開始時点、ベースラインの標準偏差と同等になる時点を嚥下終了時点とすることができる。
「最大振幅(スペクトル最大振幅)」とは、量的因子であって、前記波形データの波の振幅のうち最大振幅であり、嚥下時に発揮された最大筋力を表す。
「積分値(スペクトル面積)」とは、量的因子であって筋活動量を表し、表面筋電位の波形データの波の総積分値である。
「RMS」とは、量的因子であって筋活動量を表す。
「パワースペクトル」とは、周波数因子であって、力がどの周波数に分布しているかを表し、単位周波数で規格化する前のパワースペクトルである。
「パワースペクトル密度(PSD)」とは、周波数因子であって、単位周波数(1Hz幅)で規格されたスペクトル関数を表す。
「中央パワー周波数」とは、周波数因子であって、筋疲労の指標として活用され得る。
(段階(A2))
段階(A)は段階(A1)のみであってもよいが、段階(A)が段階(A1)および下記段階(A2)を含むことが好ましい。
段階(A2):被験者の飲食品の咀嚼時における1個以上の咀嚼筋の表面筋電位の波形データおよび/または被験者の飲食品の咀嚼時における咀嚼運動の映像データを解析して、1個以上の咀嚼に関するパラメータを算出する段階。
咀嚼を必要とする飲食品の場合、当該飲食品の咀嚼時における、咀嚼筋の表面筋電位の波形データや咀嚼運動の映像データの解析から、咀嚼に関するパラメータ(本明細書では、単に「咀嚼パラメータ」と称することもある)を算出できる。このパラメータも段階(B)の相関解析で用いるパラメータとして使用できる。
段階(A2)で算出できる咀嚼パラメータの具体例としては、被験者が飲食品を口に入れてから嚥下するまでの咀嚼中(咀嚼中とは、咀嚼開始から咀嚼終了までを意味する)に、当該飲食品を咀嚼した回数、1回の咀嚼にかかった時間の平均(咀嚼リズムの平均または平均ラップとも称する)、および咀嚼リズムのばらつき(各咀嚼にかかった時間が一定なのか不規則なのかを示す)などが挙げられる。1回の咀嚼にかかった時間の平均の算出方法は特に限定されないが、咀嚼筋の表面筋電位の波形データから算出する場合は、咀嚼時の波形データのピークトップ間の時間を1回の咀嚼時間とした場合に、全咀嚼時間を咀嚼回数で除算して単純平均として求めることができる。映像データから算出する場合には、映像データから判別できる頬や喉の動きを観察することで、咀嚼運動および咀嚼の終了(すなわち嚥下)を観察でき、咀嚼回数や咀嚼リズムの平均を求めることができる。咀嚼リズムのばらつきの算出方法も特に限定されず、例えば、咀嚼リズムの標準偏差を算出すればよい。
以上の「咀嚼回数」、「咀嚼リズムの平均」、「咀嚼リズムのばらつき」は、波形データまたは映像データから算出できる量的因子ということができる。
また、咀嚼運動の映像データを得る方法としては、被験者の咀嚼時の映像をビデオカメラなどの映像記録装置で記録する方法が挙げられる。または、VF法(ビデオレントゲン検査法)や超音波検査法などの画像診断法でもよい。前者は、被験者に造影剤を含む食品を飲み込んでもらい、口腔から咽頭、食道上部にかけてのX線動画像を記録し、観察する方法であり、造影剤の風味について評価するのに使用可能である。後者は、超音波断層装置を用い、プローブを下顎から頸部にかけて当て、口腔内器官の運動や声帯の内転運動などをリアルタイムで得て、咀嚼回数や咀嚼リズムなどを取得できる。
被験者に自然に飲食させる観点から、ビデオカメラなどの映像記録装置を用いるのが好ましい。
なお、段階(A)は、咀嚼パラメータを算出する段階のみであってもよい。すなわち、段階(A)は段階(A1)を含まず、段階(A2)のみであってもよい。
本発明の解析方法は、段階(A)を具体的に行う方法として、段階(C1)および段階(C2)を行う方法や、段階(D)を行う方法を挙げることができる。
以下、段階(C1)および段階(C2)を行う方法と、段階(D)を行う方法を順に説明する。
(段階(C1)および段階(C2))
本発明の解析方法は、下記の段階(C1)および段階(C2)を有することが好ましい。
段階(C1) 被験者のオトガイ下部、前頸部、および/または頬部に筋電位測定電極を装着し、
筋電位測定電極を用いて被験者の飲食品の嚥下時における嚥下筋の筋活動、および/または被験者の飲食品の咀嚼時における咀嚼筋の筋活動を測定して、表面筋電位の波形データを取得し、波形データを解析して嚥下に関するパラメータおよび/または咀嚼に関するパラメータを算出する段階。
段階(C2) 段階(C1)で表面筋電位の波形データを取得する際に被験者に嚥下および/または咀嚼した飲食品を官能評価させて、飲食品の官能評価データを取得する段階。
段階(C1)は、段階(A)を具体的に行う一例である。
段階(C1)および段階(C2)を用いる段階(A)の具体的な手順としては、例えば以下の手順(1)〜手順(4)を挙げることができる。
なお、段階(C1)が手順(1)〜(3)に相当し、段階(C2)が手順(4)に相当する。
手順(1) 被験者に表面筋電位測定用の電極を装着する。
被験者の耳たぶなどにアース用の電極を1カ所、表面筋電位の測定部位(例えば、オトガイ下部、前頸部、および/または頬部)1〜3カ所に1〜2対の電極を貼る(図1参照)。
筋肉で発生した電位が、皮下の組織を伝道して体表に到達するまでに1/1000以下に減衰するといわれ、体表で得られる電位の大きさは数十μV〜数mVほどである。そのため、測定する表面筋電位は、5μV〜5mV程度の範囲が好ましい。
サンプリングする表面筋電位の周波数は0Hz〜1000Hzの範囲が好ましく、実際に表面筋電図の場合は5〜500Hzの範囲に筋活動の情報が多く含まれるとされる(例えば、「バイオメカニズムライブラリー 表面筋電図」(木塚ら、2006年、東京電機大学出版局)を参照)。
「パワースペクトル」、「PSD」などの周波数因子のパラメータは、特定の周波数の帯域幅ごとに区切って算出することもできる。表面筋電位のデータには、活動した筋繊維のタイプに応じて特定の周波数帯の筋電位が多く含まれる。そのため、持久力を司る筋肉の活動は低周波数帯の「パワースペクトル」、「PSD」に反映され、瞬発力を司る筋肉の活動は高周波数帯の「パワースペクトル」、「PSD」に反映される。例えば、筋繊維タイプを遅筋繊維(すなわちタイプ1繊維)、中間筋繊維(すなわちタイプ2aの速筋繊維)および速筋繊維(すなわちタイプ2bの速筋繊維)に分け、20〜45Hzを遅筋周波数帯、46〜80Hzを中間筋周波数帯、81Hz以上(例えば81〜350Hz、好ましくは81〜100Hz)を速筋周波数帯として「パワースペクトル」、「PSD」のパラメータをそれぞれの周波数帯で導出することも可能である。
手順(2) 被験者の表面筋電位を測定しながら被験者に飲食品を飲食させる。
被験者の嚥下筋および/または咀嚼筋の表面筋電位を測定して波形データを得ながら、当該被験者に飲食品を飲食させて、嚥下時の嚥下筋の波形データおよび/または咀嚼時の咀嚼筋の波形データを得る。例えば、生理応答データ収録システムML4856 PowerLab26TおよびMLU260/8 LabChart(登録商標) Pro V8(以上バイオリサーチセンター株式会社製)を使用して表面筋電位の測定および波形データの取得をすることができる。
手順(3) 表面筋電位測定によって取得した表面筋電位の波形データを解析し、嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータを算出する。
このパラメータの算出には、LabChart(登録商標) Pro V8(バイオリサーチセンター株式会社製)を使用することができる。周波数因子の算出は高速フーリエ変換(FFT解析)により行うことができる。高速フーリエ変換により、ある特定の周波数帯のパワースペクトル密度などの周波数因子のパラメータが得られる。
手順(4) 被験者に官能評価アンケートを記入させて、官能評価データを得る。
この手順(4)は、前述の段階(C2)に相当する。
官能評価アンケートの内容は、本発明の方法で解析したい風味の内容に応じて任意に設定できるが、飲食品の風味の好ましさの度合いの回答が数値化できるものが好ましい。例えば、解析対象の飲食品の風味について、好ましさの程度を点数付けでき、官能評価データを点数(数値)として得られるものが好ましい。例えば、好ましさの度合いに応じて点数が増加するもの(「非常に好き」を5点、「好き」を3点、「どちらでもない」を0点、「嫌い」を−3点、「非常に嫌い」を−5点とするスケールバー、原点を「どちらでもない」や「非常に嫌い」とし、そこからの距離に応じて好ましさの度合いを点数化するスケールバーなど)が例示できるが、これらに限定されない。
飲食品の官能評価データは、表面筋電位の波形データと官能評価データのセットに関するビッグデータが蓄積する前は、表面筋電位の波形データを取得する際に被験者が嚥下した飲食品を官能評価して取得されたものであることが好ましい。
なお、本発明の一実施態様において、「データのセット」とは、官能評価データと波形データとのセット、すなわち、ある飲食品に関する官能評価データと、当該飲食品の嚥下時および/または咀嚼時に取得した波形データとが紐づいている状態のセットを意味し、「データのセットに関するビッグデータ」とはこのセットを多数含むデータの集合を意味する。なお、データのセットは、さらに、波形データを解析して算出した嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータも紐づいているものでもよく、さらに、官能評価データと波形データとを取得した被験者と紐づいていてもよい。
また、本発明の他の実施態様において、「データのセット」とは、官能評価データと嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータとのセット、すなわち、ある飲食品に関する官能評価データと、当該飲食品の嚥下時および/または咀嚼時に取得した波形データから算出した嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータとが紐づいている状態のセットである。さらに、官能評価データと波形データとを取得した被験者と紐づいていてもよい。
この手順(4)は、データのセットに関するビッグデータが蓄積し、後述の段階(B)で所望の精度の相関関係を導出できた後は省略することができる。例えば、所望の精度の風味の好ましさの評価式(後述)が得られれば、前記パラメータを当該評価式に導出すれば実際に取得した官能評価データと同様の値が得られるので、官能評価データの取得は省略してよい。なお、本明細書では、すなわち官能評価データ(すなわち官能評価で得られた風味の好ましさの度合い)を「風味の好ましさの実測値」とも称することがあり、風味の好ましさの評価式(後述)に前記パラメータを導入して得られた値を「風味の好ましさの予測値」とも称することがある。
(段階(D))
本発明の解析方法はさらに下記の段階(D)を有することも好ましい。
段階(D) 表面筋電位の波形データおよび飲食品の官能評価データのセットが記録された記録媒体から、表面筋電位の波形データおよび飲食品の官能評価データのセットを取得する段階。
表面筋電位の波形データと官能評価データの複数のセット(例えば、上述のビッグデータ)を蓄積し、少なくともその一部をあらかじめ適当な記録媒体に表面筋電位の波形データおよび飲食品の官能評価データのセットを記録しておくことが好ましい。
段階(D)に用いるビッグデータの入手方法としては特に制限は無い。段階(C1)および段階(C2)を繰り返し行った結果を蓄積してビッグデータを作成してもよいし、商業的にビッグデータを入手してもよい。
本発明では、蓄積したビッグデータをもとにして段階(B)で相関解析を行う数を増やすことで、大人数のデータに基づく風味の好ましさの評価式(後述)を得ることで、万人に好まれる風味(味および/または香り)を予測することができる。
<段階(B)>
段階(B)は、段階(A)で算出した1個以上の嚥下に関するパラメータおよび/または1個以上の咀嚼に関するパラメータと、飲食品の官能評価データとの相関を解析する段階である。
ただし、飲食品の官能評価データは、被験者が嚥下した飲食品を官能評価して取得されたものである。
段階(B)では、上記相関解析を行うことによって、官能評価アンケートによって得た官能評価データによって表される風味の好ましさの度合いを客観的に支持することができる。また、段階(B)では、嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータの値と官能評価データとの相関解析によって相関関係を表す式を得ることができる。この式は、式を得たあとに、新たに算出した嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータの値を導入すれば飲食品の風味の好ましさの予測値を導出できる式(飲食品の風味の好ましさの評価式とも称する)である。風味の好ましさの評価式は、特定の飲食品に対して導出するほか、特定の個人や集団に対して導出してもよい。特定の個人または集団に対する、特定の飲食品の風味の好ましさの評価式でもよいし、特定の個人または集団に対する、複数種の飲食品の風味の好ましさの評価式でもよい。後者の場合、飲食品の種類が多いほど、個人または集団の一般的な風味の好みを表すと考えられる。このように、本発明によって、特定の個人や集団に対して、オーダーメイド的に嗜好性の高い飲食品や香料を提供することができる。
または、段階(B)の相関解析に基づいて、公知のマッピング手法によって相関関係を表すマップを作成すれば、飲食品の風味の好ましさのマップを導出することもできる。このようなマップは、各飲食品の風味の好ましさの度合いを一見して把握することができるため、飲食品や飲食品素材の広告、商品提案やマーケティングなどに使用することができる。マップの種類は任意であって解析手法や所望の可視化形態に応じて選択できるが、例として等高線マップ、バイプロット図を挙げることができる。
(飲食品の風味の好ましさの評価式の導出)
本発明では、段階(B)の解析を統計解析または機械学習により行い、段階(A)で算出したパラメータと飲食品の官能評価データとの相関関係を表す式を導出して、該式を飲食品の風味の好ましさの評価式(具体的には、線形または非線形モデル)として得ることが好ましい。本発明において、飲食品の風味の好ましさの評価式(以下、単に評価式と称する場合がある)とは、上述の通り、嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータの値と、官能評価データ(風味の好ましさの実測値ともいう)との相関関係を表す式である。この評価式により、生理応答データから、飲食品の風味の好ましさの客観的な度合いを得ることができる。すなわち、評価式が得られた後に、この評価式に新たに算出した嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータを導入すると、風味の好ましさの予測値を導出することができる(後述の、飲食品の風味の好ましさの予測方法に関する記載を参照)。
相関解析による評価式の導出には、統計解析だけでなく、ニューラルネットワーク等の機械学習を用いることも可能であり、機械学習で得た評価式の方が、精度よく、より簡便に、嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータの値から風味の好ましさの度合いの予測が可能である場合もある。解析対象(目的変数および/または説明変数の数、より具体的には、例えば、被験者の人数やパラメータの数など)に応じて、適切な相関解析手法を選択してよい。
−統計解析を用いた風味の好ましさの評価式の導出−
統計解析とは、2つまたはそれ以上の変数を含むデータからある傾向を把握可能な、統計学上の理論に基づく解析方法である。以下、統計解析の一例として、回帰分析を利用した評価式の導出について説明する。
回帰分析とは、従属変数(目的変数)と、独立変数(説明変数)の間に評価式(回帰モデル)を当てはめるものであって、本発明では、例えば偏最小二乗(PLS:Partial Least Squares)回帰や重回帰分析を用いることができる。
具体的には、飲食した飲食品に対する「おいしさ」や「香りの好み」などの官能評価データ(好ましさの度合いを示す点数)を目的変数と設定し、嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータを説明変数と設定して、重回帰分析やPLS回帰分析などの回帰分析を適用することで、飲食品の風味の好ましさの評価式として、上記パラメータと飲食品の官能評価データ(風味の好ましさの実測値)との相関を示す回帰モデル(例えば線形モデル、より具体的には後述の実施例に記載の線形評価式など)を導出できる。
回帰分析は、入手可能な任意のソフトウェアで行ってよいが、例えば、探索的データ分析ソフトウェアJMP(登録商標) 13(SAS Institute Japan)を用いて行うことができる。
−機械学習を用いた評価式の導出−
機械学習は、2つまたはそれ以上の変数を含むデータからある傾向を把握するものであるが、多数の変数を統計的に扱う統計解析に対して、人が明示的に挙動を指示することなしにコンピューターに学習能力を与え、変量間の関係性を解析するものである。
活用できる機械学習としては、「サポートベクターマシン」や「ニューラルネットワーク解析」などがある。ニューラルネットワーク解析としては、階層型ネットワークモデルや、階層型ネットワークモデルの中間層を多数としたディープラーニング(深層学習)モデルを用いることができる。
機械学習を利用した解析の具体的な手法は、段階(A)で算出した嚥下パラメータや咀嚼パラメータと、官能評価データとの相関が解析できるものであれば特に限定されず、任意の二変量または多変量解析を採用することができる。
飲食した飲食品に対する「おいしさ」や「香りの好み」などの官能評価データを目的変数とし、嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータを説明変数と設定して、機械学習を適用することで、飲食品の風味の好ましさの評価式を導出することができる。
また、機械学習は、教師なし分析を行っても、教師つき分析を行ってもよい。
機械学習は、入手可能な任意のソフトウェアで行ってよいが、例えば、探索的データ分析ソフトウェアJMP(登録商標) 13(SAS Institute Japan)を用いて行うことができる。AI(人工知能)を利用してもよい。
(飲食品の風味の好ましさのマップの導出)
段階(B)の解析を、統計解析または機械学習により行い、段階(A)で算出したパラメータと飲食品の官能評価データとの相関関係を表すマップを導出して、該マップを飲食品の風味の好ましさのマップとして得る段階としてもよい。具体的には、判別分析、回帰分析、または主成分分析により行い、飲食品の風味の好ましさのマップを導出することができる。
上述の評価式では、予測した風味の好ましさの度合いを数値によって確認することができるが、このマッピングでは、前記パラメータに基づいて導出される風味の好ましさの度合いをマップ中の好ましさの各度合いに応じた領域にプロットすることで可視化することができ、視覚的にも直感的にも分かりやすいという利点がある。なお、マッピングでは実験結果が直感的にイメージしやすい方が好まれるため、見やすさや相関を考慮して鋭意検討を重ねた上で、マッピングの導出に最適と思われるパラメータを選択することができる。
−判別分析を用いたマッピング−
判別分析では、異なるグループに分かれるデータが存在しているとき、新しいデータが得られた際に、どのグループに入るのかを判別するための判別関数(判別式とも称する)を得ることができる。
飲食した飲食品に対する「おいしさ」や「香りの好み」などの官能評価データ(すなわち、風味の好ましさの度合いであって、例えば点数)を目的変数と設定し、段階(A)で算出したパラメータを説明変数と設定して、判別分析を適用し目的変数によって飲食品がグループ分け(判別)されたプロットを得た後、マッピングツール(例えば、等高線マップ作成ツール)を用いて、当該官能評価データごとに背景色を設定することで、段階(A)で算出したパラメータと官能評価データとの関係性を直感的に見やすく表示した風味の好ましさのマップを導出することができる。
判別分析は、例えば、探索的データ分析ソフトウェアJMP(登録商標) 13(SAS Institute Japan)を用いて行うことができる。背景色は、適当な色を選択してカラーマップにしてもよく、カラーマップの方が直感的にも見やすい点で好ましい。判別分析の場合は、マップ上で、飲食した飲食品がグループ分けされた形で視認できるとともに、背景色によって風味の好ましさの度合いが把握できる。
−回帰分析を用いたマッピング−
飲食した飲食品に対する「おいしさ」や「香りの好み」などの官能評価データ(すなわち、風味の好ましさの度合いであって、例えば点数)を目的変数と設定し、段階(A)で算出したパラメータを説明変数と設定して、重回帰分析やPLS回帰分析などの回帰分析を適用した後、マッピングツール(例えば、等高線マップ作成ツール)を用いて、官能評価データ(点数)ごとに背景色を設定することで、段階(A)で算出したパラメータと官能評価データとの関係性を直感的に見易く表示した風味の好ましさのマップを導出することができる。
回帰分析は、例えば、探索的データ分析ソフトウェアJMP(登録商標) 13(SAS Institute Japan)を用いて行うことができる。背景色は、適当な色を選択してカラーマップにしてもよく、カラーマップの方が直感的にも見やすい点で好ましい。
−主成分分析を用いたマッピング−
主成分分析は、多数の変数がある場合に、これらの変数を縮約して新たな変数(主成分)を合成して、より少ない変数で解釈可能にするための手法である。
飲食した飲食品に対する「おいしさ」や「香りの好み」などの官能評価データ(すなわち、風味の好ましさの度合いであって、例えば点数)を目的変数と設定し、段階(A)で算出したパラメータを説明変数と設定して、主成分分析を適用してバイプロット図を得ることで、段階(A)で算出したパラメータと官能評価データとの関係性を直感的に見易く表示した風味の好ましさのマップを導出することができる。さらに、このバイプロット図において、官能評価データごとに図の背景色を設定することで、より見やすい風味の好ましさのマップとすることもできる。
主成分分析は、例えば、探索的データ分析ソフトウェアJMP(登録商標) 13(SAS Institute Japan)等の統計解析ソフトを用いて行うことができる。背景色は、適当な色を選択してカラーマップにしてもよく、カラーマップの方が直感的にも見やすい点で好ましい。
−機械学習を用いたマッピング−
飲食品の風味の好ましさの評価式と同様に、飲食した飲食品に対する「おいしさ」や「香りの好み」などの官能評価データを目的変数と設定し、段階(A)で算出したパラメータを説明変数と設定して、機械学習による解析(例えば、上述の回帰分析、主成分分析、判別分析など)を適用して目的変数と説明変数との相関関係を表す図を作成し、上述の通り官能評価データを背景色に反映させることで、飲食品の風味の好ましさのマップを導出することができる。
活用できる機械学習の手法としては、「サポートベクターマシン」や「ニューラルネットワーク解析」などがある。ニューラルネットワーク解析としては、階層型ネットワークモデルや、階層型ネットワークモデルの中間層を多数としたディープラーニング(深層学習)モデルを用いることができる。
(段階(B)で用いる段階(A)で算出したパラメータ)
本発明では、段階(B)で用いる「段階(A)で算出したパラメータ」の種類としては特に制限は無く、段階(A)で算出したパラメータのうち単独のパラメータのみを用いてもよく、2つ以上のパラメータを用いてもよく、すべてのパラメータを用いてもよい。また、波形データから算出したパラメータの場合には、時間的因子、量的因子、周波数因子の3群に分類可能なパラメータのうち、少なくとも1つの群の1以上のパラメータを用いてよく、全ての群の全てのパラメータを用いてもよい。後述の段階(E)、(F1)、(F2)によって、段階(B)で用いるパラメータを選択してもよい。
本発明では、段階(B)で用いられる「段階(A)で算出したパラメータ」が、筋活動時間(時間的因子)、スペクトル面積、スペクトル最大振幅(以上、量的因子)、パワースペクトル、パワースペクトル密度(PSD)、および中央パワー周波数(以上、周波数因子)のうち、少なくとも1つであってよい。
段階(A)で算出したパラメータのうち、段階(B)で使用するパラメータの選定(例えば、外れ値の除外)((後述の段階(E))、段階(F1)および/または段階(F2))を適宜行った後に段階(B)を行うことで、予測精度の高い飲食品の風味の好ましさの評価式や、より風味の好ましさによる分類が明確な飲食品の風味の好ましさのマップを導出できる場合がある。
段階(B)では、段階(A)で算出したパラメータのうち、2つ以上のパラメータを用いることが好ましい。段階(B)で2つ以上のパラメータを用いる場合は、段階(A)で算出した時間的因子のパラメータ、量的因子のパラメータ、および周波数因子のパラメータ、ならびに咀嚼運動の映像データから算出したパラメータの各群に分類されるパラメータのうち、1つの群のパラメータで複数のパラメータを算出(例えば、周波数因子のパラメータのうち、PSDおよびRMSを算出)してもよいし、2つの群以上のパラメータを算出してもよい。そして、得られた2つ以上のパラメータと、飲食品の官能評価データ(例えば、風味の好ましさの度合いを表す点数)との相関を解析する方法が好ましい。段階(B)で用いるパラメータの数が多いほど、一般的に段階(B)の解析結果が良好となる傾向がある。
段階(A)で算出したパラメータのうち、段階(B)で単独のパラメータを用いる場合は、いかなるパラメータを用いてもよいが、後述の段階(E)や(F2)によって選別したパラメータであることが好ましい。例えば、段階(A)で算出したパラメータが周波数因子であってよい。また、フレーバーの添加による風味の好ましさの度合いへの効果を評価する場合、フレーバーを添加した飲食品と、添加していない飲食品から得られたパラメータを比較して、この二品の間に有意差が検出されるようなパラメータがあれば、このパラメータを単独で活用して、フレーバーの添加効果の評価を行うこともできる。
段階(B)で単独のパラメータを用いる場合、例えば、段階(B)が、20〜45Hzの周波数帯域の波形データの舌骨上筋群および/または舌骨下筋群のパワースペクトル密度を、飲食品の風味の好ましさとの相関解析に用いる段階であってよい。
例えば、飲食品がパンである場合は、段階(B)が、20〜45Hzの周波数帯域の波形データから算出した舌骨下筋群のパワースペクトル密度を、飲食品の風味の好ましさと相関を解析する対象とする段階であることがより好ましく、飲食品の風味の好ましさと「正」の相関を示す指標として分析する段階であることが特に好ましい。この場合における飲食品の風味の好ましさは、飲食品の香りの強さおよび/またはおいしさであることが好ましい。飲食品がパンである場合は、20〜45Hzの周波数帯域の波形データの舌骨下筋群のパワースペクトル密度は、賦香品と未賦香品を食した時とで有意に異なり、「おいしさ」のスコアと正の相関を示す。この場合は、20〜45Hzの周波数帯域の波形データの舌骨下筋群のパワースペクトル密度は、このパラメータ単独で、「おいしさ」と相関の高いパラメータとして使用できる。
別の態様として、段階(B)が、46〜80Hzの周波数帯域の波形データの舌骨上筋群および/または舌骨下筋群のパワースペクトル密度を、飲食品の風味の好ましさとの相関解析に使用する段階であってよい。
例えば、飲食品がパンである場合は、段階(B)が、46〜80Hzの周波数帯域の波形データの舌骨上筋群のパワースペクトル密度を、飲食品の風味の好ましさとの相関解析に使用する段階であってよく、飲食品の風味の好ましさと「負」の相関を示すパラメータであってよい。この場合における飲食品の風味の好ましさは、飲食品の香りの強さおよび/またはおいしさであってよい。飲食品がパンである場合は、46〜80Hzの周波数帯域の波形データの舌骨下筋群のパワースペクトル密度は、賦香品と未賦香品を食した時とで有意に異なり、「おいしさ」のスコアと負の相関を示す。この場合は、46〜80Hzの周波数帯域の波形データの舌骨下筋群のパワースペクトル密度は、このパラメータ単独で、「おいしさ」の指標として活用できる。
飲食品がパンである場合は、段階(B)が、46〜80Hzの周波数帯域の波形データの舌骨下筋群のパワースペクトル密度を、飲食品の風味の好ましさとの相関解析に使用する段階であってよく、飲食品の風味の好ましさと「正」の相関を示す指標であってよい。この場合における飲食品の風味の好ましさは、飲食品の香りの強さおよび/またはおいしさであってよい。飲食品がパンである場合は、46〜80Hzの周波数帯域の波形データの舌骨下筋群のパワースペクトル密度は、賦香品と未賦香品を食した時とで有意に異なり、「おいしさ」のスコアと正の相関を示す。この場合は、46〜80Hzの周波数帯域の波形データの舌骨下筋群のパワースペクトル密度は、このパラメータ単独で、「おいしさ」の指標として活用することができる。
<段階(E)>
本発明の解析方法は、さらに下記の段階(E)を有することが好ましい。
段階(E) 段階(A)で算出したパラメータのうち、飲食品の官能評価データとの相関が高いパラメータを選択する段階。
段階(E)は、段階(B)よりも前に行うことが好ましい。
段階(E)の選択の基準は特に制限はないが、段階(B)の相関解析によって得られる相関を示す指標であってよい。例えば、相関係数Rの値や、決定係数Rの値や、確率pの値を選択の基準として用いることができる。
段階(E)の選択をする主体は、人間、CPU、AI(人工知能)のいずれであってもよい。例えば、AIによって最も相関が高くなるようにパラメータを選択してよい。
<段階(F1)および/または段階(F2)>
本発明の解析方法は、さらに、段階(F1)および/または段階(F2)を有することが好ましい。
段階(F1) 段階(B)の解析で用いる(相関解析の対象とする)飲食品の官能評価データの中から、異常値の除去を行う段階。
段階(F2) 段階(A)で算出したパラメータの中から、段階(B)の解析で用いる(相関解析の対象とする)パラメータを選別する段階。
段階(F1)および/または段階(F2)は、段階(B)よりも前に行うことが好ましい。
これらの段階を行うことで、より精度の高い評価式やマップの導出を行うことができる傾向にある。
例えば、飲食品の風味の好ましさのマップを導出する場合には、判別分析に基づくマッピングがベストモードに近づくように、判別分析の前に段階(F1)および/または段階(F2)による官能評価データおよび/またはパラメータの選定を行ってマッピングの最適化を行うことが好ましい。評価式を導出する場合も同様である。
−段階(F1)−
段階(F1)の「異常値の除去」は、具体的には、官能評価データの最頻値から一定以上離れた外れ値を除外する方法や、外れ値検定により外れ値と判定された異常値を除外する方法が挙げられる。「異常値の除去」は、外れ値検定による異常値の除去であることが好ましい。
(F1)飲食品の官能評価データに関して異常値を除去する段階として、飲食品の官能評価データ(点数)のばらつきを確認し、外れ値があった場合には、これを除外する段階であることが好ましい。
−段階(F2)−
段階(F2)として、具体的には、官能評価データと段階(A)で算出したパラメータとの相関係数を算出し、相関が高いパラメータだけに絞る方法や、回帰分析にて飲食品の風味の好ましさの評価式を導くうえで重要と判定されたパラメータに絞る方法などが挙げられる。
また、段階(F2)の解析対象とするパラメータを選別する段階では、段階(E)を行って選択したパラメータのみを用いてもよい。
段階(F2)は、下記段階(F2−1)および/または(F2−2)のうち少なくとも一方であることが好ましい。
段階(F2−1) PLS回帰分析によるVIP(variable importance in projection;投影変数の重要度)スコアに基づいてパラメータを選定する段階。
段階(F2−2) 相関係数に基づいてパラメータを選定する段階。
PLS回帰分析ではVIPスコアと呼ばれる変数重要度を算出することができる。VIPスコアは、変数Xおよび変数Yとの相関関係のモデル化におけるX変数の重要度を表す指標で、目安として、スコアが0.8以上のX変数が重要であると考えられている。
段階(F2−1)では、VIPスコアが0.8以上のパラメータを選定することができる。また、VIPスコアが1.0以上のパラメータを選定することができる。
[風味の好ましさの予測方法]
本発明は、本発明の解析方法で得られた評価式またはマップを用いた、風味の好ましさの予測方法を提供できる。
すなわち、本発明の解析方法を用いて既に導出した評価式またはマップを、(例えば記憶装置などから読み出して)用意する段階と、
この評価式またはマップを導出する際に段階(B)の相関関係の解析において用いた嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータ、(すなわちこの評価式またはマップの変数)を、被験者に飲食品を飲食させて本発明の解析方法の段階(A)を行うことによって新たに算出する段階と、
前記相関関係を表す式またはマップに、この新たに算出したパラメータを適用する段階と、によって、飲食品の風味の好ましさを予測することができる。
上記の予測方法で用いる相関関係が評価式である場合、嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータを評価式に代入すれば、風味の好ましさの予測値が算出できる。上記の予測方法で用いる相関関係がマップである場合も同様に、風味の好ましさの予測値が得られ、さらに、風味の好ましさのマップ上の対応する領域にプロットされる。
嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータと官能評価データとの相関関係を表す評価式またはマップは、特定の飲食品に関するものでも、特定の個人または集団に関するものでもよい。例えば、個人の前記パラメータと官能評価データとの相関関係を表すものであってよい。
特定の個人または集団に対する評価式を用いて本発明の予測方法を実施する場合は、この評価式に導入する新たなパラメータを算出するための飲食品は、当該評価式を導出したものと同じでもよく、異なっていてもよい。すなわち、特定の個人または集団に対する、特定の飲食品に関する評価式を用いる場合には、同じ飲食品であることが好ましいが、特定の個人または集団に対する、多種の飲食品に関する評価式を用いる場合(このような評価式は、個人または集団の一般的な好みを表すことになる)には、飲食品は同じであっても異なってもよい。
本発明の風味の好ましさの予測方法では、個人が意思疎通が困難となる前に本発明の解析方法で前記個人の前記パラメータと官能評価データとの相関関係を得ておき、
意思疎通が難しくなった後の前記個人が飲食品を嚥下および/または咀嚼する場合に、前記相関関係の解析に用いた前記パラメータに関して、該飲食品に対応するパラメータの値を算出し、
該パラメータの値を前記相関関係に導入して、前記個人にとっての該飲食品の風味の好ましさの度合いを予測することが好ましい。
この方法によって、意思疎通が難しくなった場合でも、個人の風味の好ましさにあわせて飲食品を提供することができる。個人が意思疎通が困難となる例としては、言語障害、認知症、発達障害、などを挙げることができる。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
[実施例1] 特定の飲食品の風味の好ましさの評価式の導出(1)
<食パンである飲食品の官能評価データと表面筋電位の波形データの取得(5名)>
食パンに対して、長谷川香料株式会社製バター様香料組成物(バターフレーバー)の添加の有無(すなわち賦香の有無)のみが異なるマーガリンを付した食パンを実験サンプルとして調製し、嚥下筋および咀嚼筋の表面筋電位の波形データから嚥下パラメータおよび咀嚼パラメータを算出し、飲食品の官能評価データを得て、PLS回帰分析を用いた風味の好ましさの評価式を導出する。この方法では、飲食品のテクスチャーが賦香の有無によって変化しないので、賦香の風味への効果の評価をする場合に適する。
実施例1では、賦香マーガリンを塗った食パン(賦香品)を実験サンプルとして調製した。図1に示すように、被験者のオトガイ下部、前頸部、および頬部に表面筋電位計の電極を着け、咀嚼筋および嚥下筋の表面筋電位の測定によって波形データを取得中の(0Hz〜1000Hz以下の周波数帯を測定し、解析には0Hz〜500Hz以下を用いた)被験者5名に、実験サンプル5gを口に入れて咀嚼させ、一回で嚥下させた。また、被験者には、飲込んだ後すぐに官能評価を行わせて、賦香品の風味の好ましさとして「おいしさ」(味と香りの総合的な感覚)の度合いについて点数付けを行わせ、官能評価データを得た。点数付けでは、図2に示すようなスケールバーを用いて、スケール上で該当すると思われる位置を1カ所記録させた。「おいしさ」の度合いの点数は、スケール左端(「まずい」の位置)からの距離とした。
このようにして、賦香品の嚥下時における嚥下筋の表面筋電位の波形データ、賦香品を口に入れた直後から嚥下までの間の咀嚼時における咀嚼筋の表面筋電位の波形データ、および官能評価データを得た。
次いで、未賦香マーガリンを実施例1と同量で塗った食パン(未賦香品)を実験サンプルとして調製した。被験者に、実験サンプルが異なる以外は上記賦香品の場合と同様に、実験サンプル5gを咀嚼させて、一回で飲み込ませた。
<段階(A)>
生理応答データ収録システムML4856 PowerLab26T、 MLU260/8 LabChart(登録商標) Pro V8(以上バイオリサーチセンター株式会社製)を用いて、上記表面筋電位の波形データの解析を行った。
まず、上記表面筋電位の波形データから、嚥下パラメータとして、嚥下時の嚥下筋の表面筋電位の時間的因子および量的因子である以下のパラメータを算出した。なお、波形のベースラインの標準偏差よりも有意に大きくなる時点を嚥下開始時点、ベースラインの標準偏差と同等になる時点を嚥下終了時点とした。さらに、咀嚼時の波形データを解析して、飲食品を口に入れた直後から嚥下までの咀嚼時における、量的因子の咀嚼パラメータも算出した。
(嚥下パラメータ)
嚥下時の筋活動時間(後述の評価式では選択時間幅とも称する);
舌骨下筋群および舌骨上筋群の筋活動量(嚥下時の波形データの積分値であって、後述の評価式では積分とも称する);
舌骨下筋群および舌骨上筋群の最大振幅;
舌骨下筋群および舌骨上筋群の中央パワー周波数;
舌骨下筋群および舌骨上筋群のRMS;
各種周波数帯で分類した舌骨下筋群および舌骨上筋群のパワースペクトルおよびPSD(パワースペクトル密度)。
(咀嚼パラメータ)
咀嚼回数;
1回の咀嚼にかかった時間の平均(後述の数式1中は咀嚼リズムの平均ラップとも称する);
咀嚼リズムのバラつき(各咀嚼にかかった時間が一定なのか不規則なのかを示す指標)。
なお、「咀嚼リズムの平均ラップ」は、咀嚼時の波形データのピークトップ間の時間を1回の咀嚼時間とした場合に、各咀嚼時間の単純平均とした。咀嚼のバラつきは、各咀嚼時間の標準偏差とした。
なお、算出した全パラメータは、後述の数式1に示されている。
<段階(B)>
(PLS回帰分析を用いた「おいしさ」の評価式の導出)
探索的データ分析ソフトウェアJMP(登録商標) 13(SAS Institute Japan)で、上記嚥下に関するパラメータおよび咀嚼に関するパラメータの値、ならびに被験者による飲食品の官能評価データの点数を読み込んだ。分析手法として、統計解析のPLS回帰分析を選択した。
次いで、官能評価データ(点数)を目的変数として選択し、段階(A)で算出した全パラメータを説明変数として選択した。なお、実施例1では段階(A)で算出した全てのパラメータを説明変数として選択したが、段階(A)で得られたパラメータのうち一部のみを選択してもよい(後述の実施例を参照)。
アルゴリズムとしてNIPALS手法、検証法として1つ取って置き法、因子の検討範囲として初期因子数を最大の15に指定して、PLS解析を実行した。次いで、「NIPALSによるあてはめ(15因子)」の場合の診断プロットを実行して得られたグラフを図3(A)に示した。図3(A)は、得られた評価式から導出される「おいしさ」の予測値(図中の「おいしさの予測値」軸の値)がどれだけ実際の官能評価データ(すなわち官能評価点数、「おいしさの実測値」軸の値)と相関があるかを診断した結果を示すプロット(診断プロットとも称する)である。
次いで、予測式の保存を実行し、飲食品の風味の好ましさの予測値を算出できる、実施例1の評価式(数式1)を得た。すなわち、この評価式は、説明変数(嚥下および咀嚼パラメータ)を導入すると、飲食品の「おいしさ」の度合いの予測値(風味の好ましさの予測値のひとつ)を導出することができるものである。
なお、式中、黒丸は乗算を、「オトガイ」は舌骨上筋群を、「下筋」は舌骨下筋群を、「低」は低周波領域として0〜100Hzを、「高」は高周波領域として100〜500Hzを、「20−45」、「46−80」、「81−350」はそれぞれの範囲内のHzにおける値を、「オトガイPSD」は舌骨上筋群の全周波数のPSDを意味する。すなわち、例えば、「オトガイPSD20−45」は、「舌骨上筋群の筋電位測定で得られた波形データから算出された、20〜45HzのPSDの値」を意味する。以下の実施例(図面、数式を含む)の記載においても同様である。なお、「オトガイPSD」は「オトガイPSD全体」とも記載することがある。なお、「高」については、今回の実験では500Hzまでを用いたが、限定する必要はなく、1000Hzまで測定して1000Hzまでのデータを採用してもよい。また、「咀嚼リズム 平均ラップ」は1回の咀嚼にかかる時間の平均を意味し、「咀嚼リズム バラつき」は1回の咀嚼にかかる時間の標準偏差を意味する。
実施例1で得られた「おいしさ」の評価式および図3(A)より、本実施例において被験者5名でPLS回帰分析を用いて「おいしさ」の評価式を導出した場合、得られた評価式は「おいしさ」の予測値(評価式から導出される官能評価の予測点数)と実測値(官能評価で得られた点数)の相関係数=0.78であった。
また、図3(B)に、実施例1の場合の官能評価の点数と特に相関がある重要なパラメータを示した。図3(B)において、縦軸の「VIP」はVIPスコア(変数重要度とも称する)の意であり、VIPスコアが高いほど重要度が高いことを意味する。この変数重要度から、「おいしさ」と関連が強いと思われるパラメータを探すと、咀嚼回数、咀嚼リズムのばらつき、選択時間幅(嚥下時の筋活動時間)の3つのパラメータのVIPスコアが高く、時間的因子の嚥下パラメータおよび咀嚼パラメータの寄与度が高いことがわかった。
[実施例2] 特定の飲食品の風味の好ましさの評価式の導出(2)
(咀嚼に関するパラメータを用いない例)
咀嚼に関するパラメータを用いずに、嚥下に関するパラメータのみを相関解析に使用して、本発明の解析方法を実施することができる。
実施例1において、飲食品を口に入れた直後から嚥下までの咀嚼における、咀嚼回数および咀嚼リズムを測定せず、PLS回帰分析でも咀嚼回数および咀嚼リズムを用いなかった以外は実施例1と同様にして解析を実行し、「おいしさ」の評価式の導出を行った。なお、評価式に使用したパラメータの詳細は、後述の数式2に示されている。
実施例1と同様にして診断プロットを実行し、得られた診断プロットから「予測式の保存」を実行し、以下の「おいしさ」の予測値を算出できる実施例2の評価式を得た。
実施例2で得られた「おいしさ」の評価式より、被験者5名で咀嚼に関するパラメータを用いないでPLS回帰分析を用いて「おいしさ」の評価式を導出した場合、得られた評価式は予測値と実測値の相関係数=0.48であった。
実施例1および2の比較より、実施例1および2の飲食品および被験者の場合は、被験者の飲食品の嚥下時における表面筋電位の波形データから算出される嚥下に関するパラメータおよび飲食品を口に入れた直後から嚥下までの咀嚼に関するデータから算出される咀嚼に関するパラメータ(咀嚼回数および咀嚼リズム)の両方を解析する方が、「おいしさ」の評価式の予測値と実測値の相関を高められることがわかった。
[実施例11] 特定の飲食品の風味の好ましさの評価式の導出(3)
(PLS回帰分析を用いた「バターらしさ(=香りの完成度)」の評価式の導出)
「おいしさ」についての官能評価の代わりに、風味の好ましさとして「バターらしさ」について官能評価を行った以外は実施例1と同様にして段階(A)を行い、算出した嚥下パラメータおよび咀嚼パラメータ、ならびに飲食品の官能評価データを用いた以外は実施例1と同様にして段階(B)としてPLS回帰分析の解析を実行し、「バターらしさ」の評価式の導出を行った。評価式に用いた全パラメータは、後述の数式3に示されている。「バターらしさ」の官能評価とは、バターフレーバーの「香りの完成度」に関する官能評価であって、具体的には、点数付けでは、実施例1のスケールバー(図2を参照)において、右端の「おいしい」を「バターらしい」に、左端の「まずい」を「全くバターらしくない」に変えた以外は同様にして、スケール上で該当すると思われる位置を1カ所記録させた。
実施例1と同様にして診断プロットを実行し、得られた診断プロットから、予測式を保存し、以下の「バターらしさ(=香りの完成度)」の予測値を算出できる、実施例11の評価式を得た。
実施例11で得られた「バターらしさ」の評価式より、被験者5名でPLS回帰分析を用いて「バターらしさ」の評価式を導出した場合、得られた評価式は予測値と実測値の相関係数=0.67であった。
また、図4に、各パラメータのVIPスコアを示す。この図4から、被験者5名でPLS回帰分析を用いる場合の「バターらしさ」の評価に重要なパラメータを選出することができる。
[実施例21] 特定の飲食品の風味の好ましさの評価式の導出(4)
(PLS回帰分析を用いた「香りの強さ」の評価式の導出)
「おいしさ」の評価の代わりに、風味の好ましさとして「香りの強さ」の評価を行った以外は実施例1と同様にして段階(A)を行い、嚥下パラメータおよび咀嚼パラメータ、ならびに飲食品の官能評価データを用いた以外は実施例1と同様にして段階(B)としてPLS回帰分析を用いた評価式の導出を行った。「香りの強さ」の官能評価とは、バターフレーバーの「香りの強さの好ましさ」に関する官能評価であって、香りが強すぎるまたは弱すぎることがなく、好ましい強度であるかに関する官能評価である。具体的には、実施例1のスケールバー(図2を参照)において、右端の「おいしい」を「好ましい」に、左端の「まずい」を「好ましくない」に変えた以外は同様にして、スケール上で該当すると思われる位置を1カ所記録させた。
評価式に用いた全パラメータは、後述の数式4に示されている。
実施例1と同様にして診断プロットを実行して、得られた診断プロットから予測式を保存し、以下の「香りの強さ」の予測値を算出できる、実施例21の評価式を得た。
実施例21で得られた「香りの強さ」の評価式より、被験者5名でPLS回帰分析を用いて「香りの強さ」の評価式を導出した場合、得られた評価式は予測値と実測値の相関係数=0.69であった。
また、図5に、各パラメータのVIPスコアを示す。この図5から、被験者5名でPLS回帰分析を用いる場合の「香りの強さ」の評価に重要なパラメータを選択すること、すなわち段階(F2)を行うことができ、そうすると、上記相関係数がより高い評価式の導出が可能である。
[実施例31] 特定の飲食品の風味の好ましさに寄与するパラメータの検討
(単独のパラメータを用いる解析方法)
表面筋電位の波形データから算出されるパラメータのうち、2つ以上のパラメータを用いず、単独のパラメータを用いて風味の好ましさの指標として活用することもできる。
実施例1、11および21の食パンの賦香品と未賦香品の評価において、表面筋電位の波形データから算出された嚥下パラメータと、各官能評価のスコアについて、賦香品と未賦香品のデータ間に有意差があるかどうかを検定で評価し、得られたp値を図6に示した。パラメータは、図3(B)において比較的変数重要度が高かったパラメータから3種を選択した。
図6より、舌骨下筋群のパワースペクトル密度(PSD)46〜80Hz帯の値は、賦香品と未賦香品を食した時とで有意に異なっており、各種風味の好ましさ(「おいしさ」、「バターらしさ(香りの完成度)」、「香りの強さ」)の点数とも正の相関を示している。実施例31の場合は、舌骨下筋群のパワースペクトル密度46〜80Hz帯の値はこのパラメータ単独でも風味の好ましさの指標として活用できることがわかった。
同様に、舌骨下筋群のパワースペクトル密度(PSD)20〜45Hz帯の値は、賦香品と未賦香品を食した時とで有意に異なっており、各種風味の好ましさの点数とも正の相関を示している。実施例31の場合は、舌骨下筋群のパワースペクトル密度(PSD)46〜80Hz帯の値はこのパラメータ単独でも風味の好ましさの指標として活用できることがわかった。
一方、舌骨上筋群(図6中では「オトガイ」)のパワースペクトル密度(PSD)46〜80Hz帯の値は、賦香品と未賦香品を食した時とで有意に異なっており、各種風味の好ましさの点数とは負の相関を示している。実施例31の場合は、舌骨下筋群のパワースペクトル密度46〜80Hz帯の値はこのパラメータ単独でも風味の好ましさの指標として活用できることがわかった。
実施例1、2および31より、表面筋電位の波形データのパラメータのうち多くのパラメータを用いるほど風味の好ましさの予測値と実測値の相関を高められる傾向であるものの、予測値と実測値の相関が高いと導かれた単独のパラメータを用いる方法も産業上の利用可能性があることがわかった。
[実施例41] 複数種類の飲食品の風味の好ましさの評価式の導出(1)
<様々な食品の官能評価データおよび表面筋電位の波形データの取得(2名)>
筋電位計の電極を図1のようにオトガイ下部、前頸部および頬部に着けた2名の被験者に対し、表面筋電位を測定して波形データを得ながら、被験者に市販の食品として以下の4種類の飲食品1〜4を咀嚼および嚥下、または嚥下(下記「食品4」の場合、咀嚼は全く行わないでも飲食できる)させて、嚥下筋の嚥下時の波形データを得るとともに、嚥下のすぐ後に食品ごとの「おいしさ」について官能評価(風味の好ましさの度合いの点数付け)を行わせて官能評価データを得た。
食品1:煮込みハンバーグ
食品2:おじや
食品3:リンゴ風味ゼリー
食品4:リンゴ風味ゼリー飲料
(PLS回帰分析を用いた「おいしさ」の評価式の導出)
得られた表面筋電位の波形データから算出した嚥下パラメータおよび各飲食品の官能評価データを用い、咀嚼に関するパラメータを用いなかった以外は実施例1と同様にして段階(A)および段階(B)としてPLS回帰分析を用いた評価式の導出を行った。なお、評価式に使用した全パラメータは、後述の数式5に示されている。
実施例1と同様にして診断プロットを実行し、得られた診断プロットから、「予測式の保存」を実行し、以下の「おいしさ」の予測値を算出できる、実施例41の評価式を得た。
実施例41で得られた「おいしさ」の評価式より、複数種類の食品について被験者2名でPLS回帰分析を用いて「おいしさ」の評価式を導出した場合、得られた評価式は予測値と実測値の相関係数=0.63であった。
なお、実施例2と異なり、実施例41の場合は、咀嚼パラメータを用いなくても相関係数が高かった。このように、各試験に応じて使用する嚥下および/または咀嚼パラメータを取捨選択することができる。
[実施例42] 複数種類の飲食品の風味の好ましさの評価式の導出(2)
<様々な食品の官能評価および表面筋電位の波形データの取得(1名)>
筋電位計を図1のようにオトガイ下部、前頸部および頬部に着けた1名の被験者に対し、市販の食品として実施例41と同じ4種類の飲食品1〜4を嚥下させ、食品ごとの官能評価として「おいしさ」の点数付けを行わせ、嚥下時における表面筋電位の波形データおよび官能評価データを得た。
(PLS回帰分析を用いた「おいしさ」の評価式の導出)
本実施例で得た嚥下パラメータおよび飲食品の官能評価データを用いた以外は実施例41と同様にして段階(A)および段階(B)としてPLS回帰分析を用いた評価式の導出を行った。なお、評価式に使用した全パラメータは、後述の数式6に示されている。
診断プロットを実行して得られたグラフを図7に示した。
図7の診断プロットから、予測式を保存し、以下の「おいしさ」の予測値を算出できる、実施例42の評価式を得た。
式中、「low」は実施例1の数式1の「低」と、「high」は実施例1の数式1の「高」と同義であり、「all」は実施例1の「PSD」と同様に全周波数帯域のPSDであることを意味する。
実施例42で得られた「おいしさ」の評価式および図7より、被験者1名でPLS回帰分析を用いて「おいしさ」の評価式を導出した場合、得られた評価式は予測値と実測値の相関係数=0.98であった。
本実施例の被験者1名の場合は、実施例41の被験者2名の場合に比べて、表面筋電位の波形データから算出したパラメータと飲食品の官能評価データとの相関が非常に高かったことから、本発明は、個人の表面筋電位の波形データから得られるパラメータをその個人の「おいしさ」の客観的な評価の指標として活用できることがわかった。
[実施例51] 複数種類の飲食品の風味の好ましさの評価式の導出(3)
<様々な食品の官能評価とおよび表面筋電位の波形データの取得(2名)>
筋電位計を着けた2名の被験者に対し、実施例41と同じ4種類の食品1〜4を嚥下させ、官能評価として食品ごとの「香りの好み」の点数付けを行わせて、嚥下時における表面筋電位の波形データから算出した嚥下パラメータおよび官能評価データを得た。
(PLS回帰分析を用いた「香りの好み」の評価式の導出)
得られた嚥下パラメータおよび飲食品の官能評価データを用いた以外は実施例41と同様にして段階(A)および段階(B)としてPLS回帰分析を用いた評価式の導出を行った。なお、評価式に使用した全パラメータは、後述の数式7に示されている。
実施例1と同様にして診断プロットを実行して、得られた診断プロットから、「予測式の保存」を実行し、以下の「香りの好み」の予測値を算出できる、実施例51の評価式を得た。
実施例51で得られた「香りの好み」の評価式より、被験者2名でPLS回帰分析を用いて「香りの好み」の評価式を導出した場合、得られた評価式は予測値と実測値の相関係数=0.64であった。
実施例41と同様、実施例2と異なり、実施例51の場合は、咀嚼パラメータを用いなくても相関係数が高かった。このように、各試験に応じて使用する嚥下および/または咀嚼パラメータを取捨選択することができる。
[実施例61] 特定の飲食品の風味の好ましさの評価式の導出(5)
<食パンである飲食品の官能評価データと表面筋電位の波形データの取得(5名)>
実施例61では、実施例1と同様にして、被験者5名は、賦香品および未賦香品の実験サンプル5gを咀嚼して、一回で飲み込み、「おいしさ」について官能評価(「おいしさ」の度合いの点数付け)を行い、嚥下時および咀嚼時における表面筋電位の波形データおよび官能評価データを得た。
<段階(A)>
その後、実施例1と同様にして表面筋電位の波形データを解析して、波形データから得られる嚥下パラメータとして、時間的因子、量的因子および周波数因子を算出した。また、咀嚼パラメータとして、飲食品を口に入れた直後から嚥下までの咀嚼における、咀嚼回数、1回の咀嚼にかかった時間の平均(後述の数式9〜11中は咀嚼リズムの平均ラップとも称する)および咀嚼リズムのバラつき(数式9〜11中では「咀嚼リズム バラつき」と称する)を算出した。なお、実施例1と同様、「咀嚼リズムの平均ラップ」は、咀嚼時の波形データのピークトップ間の時間を1回の咀嚼時間とした場合に、各咀嚼時間の単純平均とした。咀嚼のバラつきは、各咀嚼時間の標準偏差とした。
<段階(B)>
(機械学習を用いた評価式の導出)
実施例1のPLS回帰分析に代えて、探索的データ分析ソフトウェアJMP(登録商標) 13を利用して機械学習のうちニューラルネットワークを用いた評価式の導出を行った。JMP(登録商標) 13では、ニューラルネットワークを作成し、S字型の関数、線形関数の階層化による柔軟な予測モデルを作成することができる。
JMP(登録商標) 13で飲食品の嚥下時における表面筋電位の波形データから算出したパラメータ(実施例1の段階(A)で算出したパラメータの全て)および飲食品の官能評価データを読み込んだ。分析手法としてニューラルネットワークを選択した。次いで、官能評価データ(点数)を目的変数として選択し、上記パラメータを説明変数として選択した。そして、検証法として、除外行の保留、保留、K分割を選択し、分割数を5、隠れノードの数を3と指定した後、診断プロットを実行して得られたグラフを図8に示した。
図8の診断プロットから、「予測式の保存」を実行し、以下の「おいしさ」の予測値を導出できる、実施例61の評価式を得た。なお、評価式に使用したパラメータの詳細は、後述の数式9〜11に示されている。
評価式中、TanH:双曲線正接(ハイパボリックタンジェント)は下記の関数である。
実施例61で得られた「おいしさ」の評価式および図8より、機械学習としてニューラルネットワークを用いて評価式を導出した場合、得られた評価式は予測値と実測値の相関係数=0.86であった。
実施例1のPLS回帰分析を用いて導出された「おいしさ」の評価式では予測値と実測値の相関係数=0.78であったことから、実施例1および61の場合、機械学習としてニューラルネットワークを用いて評価式を導出した方が、PLS回帰分析を用いるよりも相関係数の高い「おいしさ」の評価式を得られることがわかった。
このように、本発明では、段階(B)において最適な解析方法を選択することで、より実測値に近い予測値を導出可能な評価式を得ることができる。
[実施例101]
(PLS回帰分析を用いた「おいしさ」のマッピング)
実施例1においてJMP(登録商標) 13を用いたPLS回帰分析の診断プロットを実行して得られた線形グラフである図3(A)は、PLS回帰分析で得たおいしさの予測値をX軸に、官能評価の「おいしさ」のスコアをY軸にプロットし、回帰曲線をあてたものである。つまり、この回帰曲線は、実施例1の風味の好ましさの評価式と同義である。
実施例101では、JMP(登録商標) 13を用いて、グラフメニューにおいて「等高線図」を選択して等高線マップを得る。具体的には、PLS回帰分析の結果の図3(A)の診断プロットの背景を官能評価の点数に応じて黒色の濃淡をつけて(具体的には、図9に示すように官能評価の得点が高いほど濃い色(より黒い)とした)、図3(A)のX軸とY軸を入れ替えたものが、官能評価の点数(図のうえでは色の濃さ)に基づく等高線マップとなる。以上のようにしてPLS回帰分析を用いたおいしさのマッピングを行い、得られたマップを図9に示した。図9のマップを見てわかるように、未賦香品よりも賦香品の方が、より多く色の濃いエリアにプロットされており、バターフレーバーによる賦香によってパンがよりおいしく感じられるようになったことが直感的に把握できる。このようなマップを得た後に、上記回帰曲線に、新たに被験者に飲食品を飲食させて得た嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータを導入すれば、その飲食品の風味の好ましさを予測することが可能となる。マッピングに関する他の実施例においても同様である。
このように、マッピングなる手法によって、賦香による風味への効果を一瞥して、直感的に把握できる。なお、本実施例では背景色を「おいしさ」の点数に応じた黒色の濃淡で着色したが、様々な色を使用したカラーマップとしてもよい。
[実施例102]
(主成分分析を用いた風味の好ましさのマッピング)
図10(A)は、実施例1の段階(A)で算出した全パラメータおよび官能評価データ(点数)に対して主成分分析を実行することで得られたスコアプロットである。図10(B)は、因子負荷量を示す2次元プロットであって、因子負荷量の絶対値が1に近いほど、成分1または2に寄与していることを表す。
具体的には、探索的データ分析ソフトウェアJMP(登録商標) 13で飲食品の嚥下時における上記全パラメータおよび飲食品の官能評価データを読み込んだ。主成分分析は、探索的データ分析ソフトウェアJMP(登録商標) 13を用いて、多変量解析として主成分分析を選択し、段階(A)で算出したパラメータの全ておよび官能評価データ(点数)を解析対象に設定して相関係数行列に基づいて解析を実行し、主成分スコアを保存した。
そして、グラフメニューで「等高線図」を選択し、縦軸および横軸を主成分スコアとし、この図10(A)の背景を、官能評価データ(点数)に応じて濃淡付け(図10(C)に示すように、得点が高いほど濃い(黒に近い)ように設定)し、縦軸および横軸を適宜伸縮させて等高線マップを作成したものを図10(C)とした。なお、主成分分析の結果、図10(A)中、成分1の寄与率は、31.9%であり、成分2は、寄与率20.2%であった。図10(C)は、未賦香品が色のより薄いエリア、賦香品が色のより濃いエリアにプロットされており、実施例101のPLS回帰分析の結果と同様に、この分析手法によっても、賦香による風味の好ましさへの効果を直感的に把握可能なマップを作成できた。実施例101および102に示すように、本発明では、どのようなマップを所望するかに応じて、相関解析の手法を選択してよい。
[実施例201]
実施例201では、4種類の食品について、官能評価データと表面筋電位の波形データの取得、パラメータの算出を行い、段階(F2−1)を行った後に、判別分析を用いておいしさのマッピングを行った。
<様々な飲食品の官能評価データと表面筋電位の波形データの取得(5名)>
筋電位計を図1のようにオトガイ下部および前頸部に着けた複数(5名)の被験者に対し、実施例41と同様に、以下の食品1〜4を咀嚼および嚥下させ、嚥下後すぐに製品ごとの「おいしさ」を官能評価(図2を参照)させ、咀嚼時および嚥下時における表面筋電位の波形データならびに官能評価データを得た。
食品1:煮込みハンバーグ
食品2:おじや
食品3:リンゴ風味ゼリー
食品4:リンゴ風味ゼリー飲料
<段階(A)>
その後、実施例1と同様にして表面筋電位の波形データを解析して、嚥下パラメータを算出した。
具体的には、選択時間幅、オトガイ最大振幅、下筋最大振幅、下筋積分、オトガイRMS、下筋RMS、オトガイ積分、オトガイパワースペクトル低、下筋パワースペクトル低、オトガイパワースペクトル高、下筋パワースペクトル高、オトガイ中央パワー周波数、下筋中央パワー周波数、オトガイPSD<100、オトガイPSD100<、オトガイPSD全体、下筋PSD<100、下筋PSD100<、下筋PSD全体、オトガイPSD20−45、オトガイPSD46−80、オトガイPSD81−100、オトガイPSD81−350、下筋PSD20−45、下筋PSD46−80、下筋PSD81−100、下筋PSD81−350を算出した。なお、「PSD全体」とは、測定対象の筋群の全周波数のPSDを意味し、数値は周波数を意味し、ほかの用語は前述のとおりである。また、記号「<」は「超」、記号「>」は「未満」を表し、例えば「オトガイPSD100<」は、「舌骨上筋群の波形データから算出された100Hz超の周波数帯のPSDの値」を意味する。そのほかの用語は前述の通りである。
<段階(C2)官能評価データの取得>
実施例1と同様にして、「おいしさ」についての官能評価アンケートによって得られた「おいしさ」の度合いを表す数値(スケールバー左端からの距離)を得た。次いで、得られた数値を四捨五入して、後述の判別分析に用いる官能評価データを算出した。
<判別分析を用いたおいしさのマッピング>
探索的データ分析ソフトウェアJMP(登録商標) 13で、まず、段階(A)で算出した嚥下パラメータおよび段階(C2)で得た飲食品の官能評価データを読み込んだ。多変量解析として判別分析(教師あり学習)を選択した。
共変量として上述の嚥下パラメータを、分類を試みたいカテゴリとして官能評価データ(すなわち「おいしさ」の度合いを表す点数)を選択した。
設定した判別法(「線形」、「等しい共分散行列」)で判別分析を実行した。図11(A)は、判別分析によって得られた判別式に従って嚥下パラメータから予測できた「おいしさ」の予測値が、おいしさの実測値(すなわち段階(C2)で得た官能評価データ)と同じ値となっているかを示す図である。この図から分かるように、予測値は、実測値と同じ値またはその近傍にあることが分かり、嚥下パラメータと官能評価データとの間の相関関係を利用したマップが得られることが分かる。
判別分析で得られた正準プロット(図11(B))を保存し、得られた正準プロットを使用して等高線マップを作成した。すなわち、正準プロットの背景を、グラフメニューの「等高線図」を選択することで実施例101、102同様に官能評価データ(点数)ごとに濃淡分けして、判別分析を用いた「おいしさ」のマップを得た。得られた「おいしさ」のマップを図11(C)に示した。なお、図11(C)中、A〜Fは、「おいしさ」の点数2〜7点にそれぞれ対応する。
実施例101と同様、上述の判別式に、被験者に飲食品を嚥下させて算出した嚥下パラメータを導入すれば、その飲食品の「おいしさ」の予測値に対応するマップ上の位置にその飲食品がプロットされる。このように、本発明は、当該飲食品の風味の好ましさを予測し、かつその予測を直感的に見やすく示せるマップを得ることができる。
[実施例202]
実施例202では、4種類の飲料について官能評価データと表面筋電位の波形データの取得、嚥下パラメータの算出を行い、判別分析を用いておいしさのマッピングを行った。
<飲料である飲食品の官能評価データと表面筋電位の波形データの取得(5名)>
筋電位計を図1のようにオトガイ下部および前頸部に着けた複数(5名)の被験者に対し、飲料1〜4を嚥下させ、各飲料の「おいしさ」を実施例1と同様にして回答させた(図2を参照に示すようなスケールバーを用いて、スケール上で該当すると思われる位置を1カ所記録させ、「おいしさ」の度合いの点数はスケール左端(「まずい」の位置)からの距離とした)。以上のようにして、嚥下時における表面筋電位の波形データおよび官能評価データを得た。なお、飲料1〜4は、糖類、クエン酸、食塩、ビタミンCを溶解させた糖酸水溶液であり、表1に記載の糖度および酸度、ならびに温度が異なる以外は同一のものとした。
飲料1:タイプA常温(液温約20℃)
飲料2:タイプB常温(液温約20℃)
飲料3:タイプA冷蔵(液温約4℃)
飲料4:タイプB冷蔵(液温約4℃)
<段階(A)>
その後、実施例1と同様にして表面筋電位の波形データを解析して、嚥下パラメータ(すなわち、嚥下筋の表面筋電位測定で得られた波形データから算出される時間的因子、量的因子および周波数因子)を算出した。具体的には、選択時間幅、オトガイパワースペクトル低、下筋パワースペクトル低、オトガイ中央パワー周波数、下筋中央パワー周波数、オトガイPSD46−80、下筋PSD20−45、下筋PSD46−80、オトガイ最大振幅、下筋最大振幅、オトガイ積分、下筋積分、オトガイRMS、下筋RMS、オトガイパワースペクトル高、下筋パワースペクトル高、オトガイPSD全体、オトガイPSD20−45、オトガイPSD81−350、下筋PSD81−350を、波形データから算出した。
<判別分析を用いたおいしさのマッピング>
段階(B)として、実施例201と同様にして、判別分析を行った。
得られた結果を図12(A)および(B)に示した。図12(A)は、実施例201と同様、判別分析によって得られた判別式に従って嚥下パラメータから予測できた「おいしさ」の予測値が、おいしさの実測値(すなわち段階(C2)で得た官能評価データ)と同じ値となっているかを示す図である。この図から分かるように、予測値は、実測値と同じ値にあることが分かり、嚥下パラメータと官能評価データとの間の相関関係を利用したマップが得られることが分かる。図12(B)は、上記ソフトウェアを用いた判別分析によって得られた正準プロットである。
また、図12(C)は、前記正準プロットについて、実施例201と同様にして官能評価データ(実施例202では各飲料の「おいしさ」の度合い)に関する等高線マップを作成して得たものである。なお、図12(C)中、A〜Fは、「おいしさ」の点数2〜7点にそれぞれ対応する。
実施例201と同様、上述の判別式に、被験者に飲食品(例えば、飲料)を嚥下させて算出した嚥下パラメータを導入すれば、その飲食品の「おいしさ」の予測値に対応するマップ上の位置にその飲食品がプロットされる。このように、本発明は、当該飲食品の風味の好ましさを予測し、かつその予測を直感的に見やすく示せるマップを得ることができる。
マッピングは、官能評価データをよく反映して直感的にデータを把握できることが好ましいので、官能評価データとよく照らし合わせたうえで最適と思われる解析手法を選択することが好ましい。
本発明の解析方法によれば、官能評価結果を客観的に支持するデータを導出することができる。例えば、飲食品の風味の好ましさの評価式(表面筋電位の波形データから官能評価データ(スコア)を予測する評価式)や、飲食品の風味の好ましさのマップを導出することができる。このようなデータは、飲食品の広告等に提供することができ、産業上の利用性が高い。従来は飲食品の風味の好ましさと、表面筋電位や咀嚼に関するデータから得られる情報との相関は知られていなかったが、本発明では、統計解析によって、これまで有用性が見過ごされてきたパラメータによってヒトの感覚による官能評価を生理応答データで裏付けることや、パラメータから飲食品の風味の好ましさを予測することができる。また、使用するパラメータの選択を行うことで、さらに好適な評価式の導出が可能となる。
本発明の解析方法によれば、特定の個人や集団に対して、嗜好性の高い飲食品の風味(味や香り)を客観的に支持するデータを導出してもよい。このようなデータを用いると、特定の個人や集団に対して、オーダーメイド的に嗜好性の高い飲食品や香料を提供することができ、産業上の利用性が高い。
本発明の解析方法によれば、ビッグデータをもとにして、万人に好まれる風味(味や香り)を予測することができ、産業上の利用性が高い。
本発明の風味の好ましさの予測方法によれば、個人の風味の好ましさにあわせて飲食品を提供することができ、産業上の利用可能性が高い。特に高齢者の場合において意思疎通が難しくなった場合でも、本人の好む風味の飲食品を含む食事を提供できれば、食べる意欲も向上し、健康状態にも良い影響を与える可能性がある。

Claims (15)

  1. 飲食品の風味の好ましさの解析方法であり、
    下記の段階(A)および段階(B)を有する、解析方法:
    段階(A) 被験者の飲食品の嚥下時における1個以上の嚥下筋の表面筋電位の波形データを解析して、1個以上の嚥下に関するパラメータを算出する、および/または
    被験者の飲食品の咀嚼時における1個以上の咀嚼筋の表面筋電位の波形データおよび/または被験者の飲食品の咀嚼時における咀嚼運動の映像データを解析して、1個以上の咀嚼に関するパラメータを算出する段階;
    段階(B) 段階(A)で算出した1個以上の嚥下に関するパラメータおよび/または1個以上の咀嚼に関するパラメータと、前記飲食品の官能評価データとの相関を解析する段階;
    ただし、飲食品の官能評価データは、前記被験者が咀嚼および/または嚥下した前記飲食品を官能評価して取得されたものである。
  2. 段階(A)が、少なくとも下記の段階(A1)を含む、請求項1に記載の解析方法:
    段階(A1) 被験者の飲食品の嚥下時における1個以上の嚥下筋の表面筋電位の波形データを解析して、1個以上の嚥下に関するパラメータを算出する段階。
  3. 段階(B)の相関解析を統計解析または機械学習により行い、段階(A)で算出した前記パラメータと前記飲食品の官能評価データとの相関関係を表す式を導出して、該式を飲食品の風味の好ましさの評価式として得る、請求項1または2に記載の解析方法。
  4. 段階(B)の相関解析を統計解析または機械学習により行い、段階(A)で算出した前記パラメータと前記飲食品の官能評価データとの相関関係を表すマップを導出して、該マップを飲食品の風味の好ましさのマップとして得る、請求項1または2に記載の解析方法。
  5. 前記段階(A)が下記の段階(C1)および段階(C2)を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の解析方法;
    段階(C1) 被験者のオトガイ下部、前頸部および/または頬部に筋電位測定電極を装着し、
    該筋電位測定電極を用いて前記被験者の飲食品の嚥下時における嚥下筋の筋活動、および/または前記被験者の飲食品の咀嚼時における咀嚼筋の筋活動を測定して、表面筋電位の波形データを取得し、波形データを解析して嚥下に関するパラメータおよび/または咀嚼に関するパラメータを算出する段階。
    段階(C2) 段階(C1)で表面筋電位の波形データを取得する際に前記被験者に嚥下および/または咀嚼した飲食品を官能評価させて、前記飲食品の官能評価データを取得する段階。
  6. さらに下記の段階(D)を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の解析方法;
    段階(D) 表面筋電位の波形データおよび飲食品の官能評価データのセットが記録された記録媒体から、表面筋電位の波形データおよび飲食品の官能評価データのセットを取得する段階。
  7. さらに下記の段階(E)を有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の解析方法:
    段階(E) 段階(A)で算出したパラメータのうち、飲食品の官能評価データとの相関が高いパラメータを選択する段階。
  8. 前記段階(A)で算出した嚥下に関するパラメータが、スペクトル面積、スペクトル最大振幅、筋活動時間、パワースペクトル、パワースペクトル密度および中央パワー周波数のうち少なくとも1つである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の解析方法。
  9. 前記段階(A)で波形データから算出した嚥下に関するパラメータが、周波数因子である請求項1〜7のいずれか一項に記載の解析方法。
  10. 周波数因子がパワースペクトル密度である請求項9に記載の解析方法。
  11. 段階(A)で算出したパラメータのうち、2個以上のパラメータを用いる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の解析方法。
  12. さらに段階(F1)および/または段階(F2)を有する請求項1〜11のいずれか一項に記載の解析方法。
    段階(F1) 段階(B)の解析で用いる飲食品の官能評価データの中から異常値の除去を行う段階。
    段階(F2) 段階(A)で算出したパラメータの中から、段階(B)の解析で用いるパラメータを選別する段階。
  13. 請求項1〜12のいずれか一項に記載の解析方法を用いて導出した評価式またはマップを用意する段階、
    前記評価式またはマップを導出する際に段階(B)の相関関係の解析において用いた嚥下パラメータおよび/または咀嚼パラメータを、被験者に飲食品を飲食させて請求項1〜12のいずれか一項に記載の段階(A)を行うことによって新たに算出する段階、
    前記相関関係を表す式またはマップに、この新たに算出したパラメータを適用する段階、
    を含む、飲食品の風味の好ましさの予測方法。
  14. 前記相関関係を表す式またはマップが、個人の前記パラメータと官能評価データとの相関関係を表すものである、請求項13に記載の予測方法。
  15. 前記個人が意思疎通が困難となる前に、請求項1〜12のいずれか一項に記載の解析方法で前記個人の前記パラメータと官能評価データとの相関関係を得ておき、
    意思疎通が難しくなった後の前記個人が飲食品を嚥下および/または咀嚼する場合に、前記相関関係の解析に用いた前記パラメータに関して、該飲食品に対応するパラメータの値を算出し、
    前記相関関係に該パラメータの値を導入して、前記個人にとっての該飲食品の風味の好ましさの度合いを予測する請求項14に記載の飲食品の風味の好ましさの予測方法。
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