JP2016052516A - 食感推定方法、食品製造方法、咀嚼訓練方法および食感推定装置 - Google Patents

食感推定方法、食品製造方法、咀嚼訓練方法および食感推定装置 Download PDF

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Abstract

【課題】食品の喫食中における食感や食感の推移を、客観的かつ定量的な推定方法を提供する。【解決手段】試料の食感を定量的に推定する食感推定方法であって、被験者による試料の処理時間における咀嚼筋の筋電位に関する情報である第1の筋電位情報を取得し、被験者による最大咬合時の筋電位に関する情報である第2の筋電位情報を取得し、第1の筋電位情報および第2の筋電位情報に基づき、式(1)を用いて、被験者の最大筋活動比を算出する、食感推定方法。最大筋活動比(%)=処理時間における咀嚼筋の筋活動量÷(最大咬合時の1秒間当たりの咀嚼筋の筋活動量×処理時間)×100・・・(1)【選択図】図1

Description

本発明は、個人や特定の集団における食品の食感を客観的かつ定量的に推定し、評価する技術に関する。また、本発明は、当該技術を利用して食品を設計する食品製造方法、当該食品を用いる咀嚼の訓練方法に関する。
食品のおいしさは、味や香り等の化学的な風味とともに、噛み応えや噛み心地、歯切れ、口当たり、舌ざわり、喉ごし等の物理的な食感により影響される。このため、化学的な風味とともに、噛み応えや噛み心地等の物理的な食感も、食品を開発、設計する上で考慮すべき要素である。
従来、噛み応えや噛み心地等の物理的食感は、主として食品の物性を分析機器で測定する方法等によって推定されていた。例えば、特許文献1では、食品の試料(ゲル状食品、果実等)をプランジャーで押圧した時に得られる荷重−歪率曲線に基づく、食品の硬さやテクスチャーの推定方法が開示されている。また、特許文献2では、硬口蓋の形状に成形された硬口蓋シーネと、舌の形状に成形された合成樹脂の舌モデルからなる装置を用いて、食品を挟み込んで圧縮し、この圧縮された食品の面積の測定値に基づく、食感の推定方法が開示されている。
一方、特許文献3では、ヒトが多孔性の食品の試料を破砕させた時の咀嚼の音声や振動を音響として解析する、食感の推定方法が開示されている。特許文献4では、ヒトの咬筋および側頭筋前腹に電極をつけて、試料を咀嚼した時の総咀嚼筋の筋活動量から推定する、食感の推定方法が開示されている。
特開2010−223737号公報 特開2014−038025号公報 特開2003−114218号公報 特開2005−058215号公報
しかしながら、従来技術のように、食品の物性を分析機器で測定する方法等では、食品の喫食前における食品の物性から、食感を間接的に推定しているにすぎず、食品の喫食中における食感や食感の推移を客観的や定量的に推定することは困難である。また、従来技術のように、食品の物性を分析機器で測定する方法やヒトが多孔性の食品を破砕した音声や振動で推定する方法等では、個人(被験者)や特定の集団(被験者)の咀嚼能力(咬合力等)が考慮されておらず、被験者毎で異なる食感を十分に反映できていなかった。さらに、被験者が喫食する際に、食品が破砕されても、その音量や振動が小さい場合、それらを測定しにくく、食感を正確に推定できないことが懸念されていた。
本発明は、喫食中における食感や食感の推移(経時変化)の客観的かつ定量的な推定方法を確立して提供する。これらの得られた食感や食感の推移の推定結果は、新規な食品を設計する際に有用な情報として活用可能である。そこで、本発明は、この推定方法を利用して設計した食品の製造方法や、この製造方法を利用して得られた食品を用いる咀嚼の訓練方法を確立して提供する。
本発明者らは、鋭意研究の結果、以下の情報に注目した。
・ヒト(被験者)が試料の食品を処理する処理時間における第1の筋電位情報
・被験者が最大の力で噛みしめた時(最大咬合時)における第2の筋電位情報
そして、発明者らは、これらの情報に基づき、最大咬合時における咀嚼筋の筋活動量に対する処理時間における咀嚼筋の筋活動量の比(以下「最大筋活動比」ともいう)を算出することにより、被験者毎の食感そのもの(全体)を定量的かつ客観的に推定し、結果的に評価できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、次の内容からなる。
試料の食感を定量的に推定する食感推定方法であって、被験者による試料の処理時間における咀嚼筋の筋電位に関する情報である第1の筋電位情報を取得し、当該被験者による最大咬合時の筋電位に関する情報である第2の筋電位情報を取得し、前記第1の筋電位情報および前記第2の筋電位情報に基づき、式(1)を用いて、当該被験者の最大筋活動比を算出する、食感推定方法。
最大筋活動比(%)= 前記処理時間における咀嚼筋の筋活動量÷(最大咬合時の1秒間当たりの咀嚼筋の筋活動量×前記処理時間)×100 ・・・(1)
本発明によれば、喫食中における食感の客観的かつ定量的な推定方法を提供することが可能となる。また、この推定方法を利用して設計した食品の製造方法や、この製造方法を利用して得られた食品を用いる咀嚼の訓練方法(強化方法)を提供することも可能となる。
本発明の食感推定装置の一実施形態を示す図。 食感推定装置により得られる筋電図(筋電位情報)の例。 被験者Aの最大筋活動比と食感の評価(官能評価の評価情報)の相関関係を示すグラフ。 被験者Bの最大筋活動比と食感の評価(官能評価の評価情報)の相関関係を示すグラフ。 被験者Aの食感の評価(官能評価の評価情報)の推移(経時変化)を示すグラフ。 被験者Bの食感の評価(官能評価の評価情報)の推移(経時変化)を示すグラフ。 被験者Aの最大筋活動比の推移(経時変化)を示すグラフ。 被験者Bの最大筋活動比の推移(経時変化)を示すグラフ。 被験者Aの食感の評価(官能評価の評価情報)の推移と最大筋活動比の推移の相関関係を示すグラフ。 被験者Bの食感の評価(官能評価の評価情報)の推移と最大筋活動比の推移の相関関係を示すグラフ。 被験者Aの最大筋活動比の最大ピーク値と食感の評価(官能評価の評価情報)の相関関係を示すグラフ。 被験者Bの最大筋活動比の最大ピーク値と食感の評価(官能評価の評価情報)の相関関係を示すグラフ。 噛み応えおよび噛み心地の表現例を示す表であり、(a)は噛み応えの程度に関する表現例を示す表であり、(b)は噛み応えの有無に関する表現例を示す表であり、(c)は噛み応えの硬さに関する表現例を示す表であり、(d)は噛み応えおよび噛み心地の良し悪しに関する表現例を示す表であり、(e)は噛む力に関する表現例を示す表であり、(f)は咀嚼の可否のレベルに関する表現例を示す表である。
本発明は、試料の食感を定量的に推定する食感推定方法である。当該方法によれば、ヒト(被験者)による試料の処理時間における咀嚼筋の筋電位に関する情報である第1の筋電位情報を取得し、当該被験者による最大咬合時の筋電位に関する情報である第2の筋電位情報を取得し、前記第1の筋電位情報および前記第2の筋電位情報に基づき、以下の式(1)を用いて、当該被験者の最大筋活動比を算出する。
最大筋活動比(%)= 前記処理時間における咀嚼筋の筋活動量÷(最大咬合時の1秒間当たりの咀嚼筋の筋活動量×前記処理時間)×100 ・・・(1)
ここで「試料の処理時間」とは、(1)ヒト(被験者)による試料の喫食の開始から最後の(食品の全部の)嚥下の終了までの時間、または(2)被験者による試料の喫食の開始から(最後の)咀嚼の終了までの時間の少なくともいずれかを意味する。
また、「食感」とは、食品を喫食した際に感じる五感のうち、歯や舌を含む口腔内や咀嚼に伴って動く皮膚の感覚(触覚)を意味し、生理学や医学における「体性感覚」をも意味する。
本発明では、次の二つの筋電位に関する情報(筋電位情報)を取得する。
・ヒト(被験者)が試料の食品を処理する処理時間における第1の筋電位情報
・被験者が最大の力で噛みしめた時(最大咬合時)における第2の筋電位情報
第1の筋電位情報は、処理時間における咀嚼筋の筋活動量を含む。第2の筋電位情報は、最大咬合時における咀嚼筋の筋活動量を含む。
これらの情報から、上述した式(1)を用いて、最大筋活動比(%)という指標が求められる。この指標は、被験者にとって、試料の食品の食感を客観的および定量的に表す指標であるため、食感を適切に推定し、評価することが可能である。
本発明の食感の推定方法では、個人や特定の集団の咀嚼力(最大咬合の1秒間当たりの咀嚼筋の筋活動量)を考慮しているため、個人や特定の集団の食感そのものや食感の推移を定量的かつ客観的に推定できる。
本発明の一態様として、咀嚼筋の筋活動から食感を推定するため、硬さ、軟らかさ、噛み応え、噛み心地等を推定してもよい。
本発明において、咀嚼筋とは、咀嚼運動に関わる筋群の総称を意味する。本発明において、咀嚼筋には、咬筋、側頭筋、外側翼突筋、内側翼突、顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋、顎二腹筋、外側翼突筋等が挙げられる。
本発明の一態様において、噛み応えや噛み心地といった食感をより適切に評価するには、皮膚表面に近いところにある、咬筋や側頭筋の筋電図を用いることが好ましく、噛む動きがより大きい閉口筋である、咬筋の筋電図を用いることがさらに好ましい。
本発明の一態様として、処理時間を複数の分割時間に分割し、各分割時間における上述の第1の筋電位情報を取得してもよい。
各分割時間における第1の筋電位情報と、第2の筋電位情報から、各分割時間における最大筋活動比、すなわち最大筋活動比の推移を求めることが可能となる。この結果、喫食の過程おける食感の推移(変化)を定量的かつ客観的に推定し、評価することが可能となる。例えば、被験者による試料の喫食の開始から最後の(食品の全部の)嚥下の終了までが9秒間である場合には、3秒間ずつで、前半、中盤、後半のように各分割時間に分割して、最大筋活動比の推移を算出し、食感の推移を推定し、評価することができる。食感そのものや食感の推移は、試料(食品)の種類や形状によって様々であり、被験者が自然に試料を喫食する開始から最後の(食品の全部の)嚥下の終了までの時間(処理時間)を測定することが望ましい。例えば、0.1〜120秒間、より好ましくは0.3〜90秒間、さらに好ましくは0.5〜60秒間であるほうが、食感の推移を詳細かつ正確に捉えやすい。
ただし、ガムのような嚥下(飲み込まない)しない食品については、嚥下の終了が事実上ないので処理時間を測定することが困難である。そこで、このような食品に関する測定の場合は、1〜7200秒間、1〜3600秒間などの任意の時間を予め処理時間として決めておき、この任意の時間における最大筋活動比の推移を算出し、食感の推移を推定し、評価することができる。
また、食感の推移の特徴を捉えつつ、食感の推移を効率的に解析できる観点から、処理時間の分割数(分割時間の個数)は、好ましくは2〜10分割、より好ましくは2〜6分割、さらに好ましくは3〜4分割である。さらに、噛んだ回数で処理時間を分割することもできる。例えば、1回の摂食のうち、最初の1〜5回目の咀嚼の最大筋活動比を比較して、食感の推移を推定することもできる。多くの食品では、特に、前半、時々、中盤で、筋電位の変化が多いことから、噛んだ回数で分割する場合、最初の1〜10回程度を分割することが好ましい。
また、各分割時間における最大筋活動比を求めることにより、最大筋活動比のピーク値を評価することができる。そして、最大筋活動比のピーク値に基づき、食感をより正確に推定することができる。例えば、被験者による試料の喫食の開始から嚥下の終了までが9秒間である場合には、3秒間ずつで、前半、中盤、後半のように各分割時間に分割して、最大筋活動比のピーク値を算出し、食感を推定し、評価することができる。なお、一般的に多くの食品では、喫食の開始から最後の(食品の全部の)嚥下の終了まで、または喫食の開始から咀嚼の終了までの処理時間において、咀嚼筋の筋活動量が徐々に低下する。しかしながら、実際に喫食する食品の寸法、物性(脆さ、粘性等)、食べ方等によって、喫食の開始時における咀嚼筋の活動量や最大筋活動比が必ずしもピーク値ではないこともある。
処理時間を複数の分割時間に分割し、各分割時間における第1の筋電位情報を取得し、最大筋活動比のピーク値を取得する方法は、被験者が試料の食品を短い時間で強く噛む状況や特定の時間帯で強く噛む状況において、好ましく適用される。被験者が試料の食品を長い時間で弱く噛んだ場合よりも、被験者が試料の食品を短い時間で強く噛んだ場合や特定の時間帯で強く噛んだ場合において、試料の食品の本来の物性と強く噛んだ時間での咀嚼筋の筋活動量の相関関係から、食感をより正確に推定できるからである。例えば、スナック菓子(明治カール等)のような食品の場合、処理時間全体の筋活動量の平均値をとると、特徴のない食感の値となってしまう。しかしながら、このような食品は本来、咀嚼の初期では硬く、筋活動量が大きいが、その後咀嚼の終盤では、筋活動量はごく小さくなる。そこで、咀嚼の初期の硬いときの噛み応えが評価できるように、時間を何分割か(例えば3分割)し、処理時間の初期(前半)の筋活動量を算出し、最大筋活動比のピーク値を算出する。また、グミ等のような食感が長持ちするような食品では、処理時間を何分割か(例えば3分割)し、最後まで良く噛んでいるか否かを評価するとともに、適切な最大筋活動比のピーク値を採用することができる。
本発明の一態様として、試料の喫食時に被験者が得る食感に関する官能評価の評価情報を取得し、最大筋活動比と評価情報との相関係数を算出してもよい。被験者が試料を喫食した際に、実際に感ずる食感(噛み応えや噛み心地)を評価する官能評価の結果(官能評価の評価情報)を取得した上で、評価情報と最大筋活動比の相関関係、具体的には、相関係数を評価する。当該相関関係を考慮して、被験者毎の食感をより定量的かつ客観的に推定できる。ここで、「官能評価」とは、人の五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚;体性感覚)によって事物を評価すること及びその方法を意味するが、ここでは特に、個人の主観的な判断に基づく評価を意味する。官能評価には、JIS Z9080官能検査通則の如き検査が含まれるが、特に限定されない(「官能評価士テキスト」、日本官能評価学会編、建帛社、2009年初版発行)。
本発明は、試料の食感を定量的に推定する食感推定装置をも提供する。本装置は、被験者による試料の処理時間における咀嚼筋の筋電位に関する情報である第1の筋電位情報を受信する受信部と、プロセッサと、を備える。プロセッサは、第1の筋電位情報および予め得られた当該被験者による最大咬合時の筋電位に関する情報である第2の筋電位情報に基づき、上述した式(1)を用いて、当該被験者の最大筋活動比を算出する。
本発明において、筋電位情報は、対象者(被験者)の左右のいずれか又は両方の咀嚼筋に表面電極を1箇所につき2個を貼り付け、当該表面電極から得られた電位を元に取得可能である。食感推定装置の受信部が筋電位情報をケーブル等で受信し、プロセッサが受信した筋電位情報を処理して、最大筋活動比を算出する。なお、受信した筋電位情報は、食感推定装置に設けられたアンプが増幅する。プロセッサは、メモリ等に記憶された波形分析ソフトを読み込み、増幅した筋電位情報を当該ソフトにより、解析(積分)して、筋活動量を算出する。ここでの筋活動量は、試料の処理時間における咀嚼筋の筋活動量=第1の筋電位情報に基づく筋活動量と、最大咬合時の1秒間当たりの咀嚼筋の筋活動量=第2の筋電位情報に基づく筋活動量の二つを含む。ここで算出された筋活動量を式1に代入して、最大筋活動比を算出する。また、プロセッサは、液晶ディスプレイ等の表示部に、波形分析ソフトにより作成された波形や数字等の形式による筋電位情報を表示する。なお、プロセッサが必ずしも筋活動量や最大筋活動比を算出するように演算する必要はなく、これらの得られた筋電位情報に基づき、操作者が筋活動量や最大筋活動比を別の手段で演算してもよい。
表面電極には、皿型表面電極EL258S(バイオパック社製)、ディスポーサブル電極(ケンドール電極 アルボ アルボH124 24mm コウディエンジャパン社製)等が用いられるが、使用可能な表面電極は、これらの製品に限定されない。また、アンプには、アンプEMG100C(バイオパック社製)、アンプP−EMG Plus(追坂電子機器社製)等が用いられるが、使用可能なアンプは、これらの製品に限定されない。そして、波形分析ソフトには、AcqKnowledge(バイオパック社製)、BIMUTAS−Video(キッセイコムテック社製)等が用いられるが、使用可能な波形分析ソフトは、これらのソフトウェアに限定されない。
本発明の一態様において、アンプを用いて、増幅(Gain1000、収録周波数範囲:10〜500 Hz,50Hz)の交流ノイズを除去しておくことが好ましい。
筋電位情報は、例えば、咀嚼筋の筋活動量を意味するが、これに限定されない。また、筋電位の情報には、咀嚼筋の左右の一方の筋活動量、咀嚼筋の左右の平均の筋活動量、咀嚼筋の左右の合計の筋活動量のいずれを用いてもよいが、咀嚼筋の左右の平均の筋活動量が好ましい。個人の筋電位の情報を総合的に評価できるからである。
最大咬合時における筋電位情報(第2の筋電位情報)とは、被験者が1〜60秒間、最大の力で噛んだ(噛みしめた)時における筋電位の情報を意味する。また、第2の筋電位情報には、被験者が2〜30秒間、最大の力で噛んだ筋電位情報を用いることが好ましく、被験者が5〜10秒間、最大の力で噛んだ筋電位情報を用いることがさらに好ましい。安定的な最大咬合時における筋電位情報を用いることにより、対象者(被験者)に負担をかけずに済むからである。
処理時間の測定方法は、特に限定されない。一般的には、食感推定装置が取得した第1の筋電位情報に基づき、処理時間を決定する。嚥下の終了時刻を測定するために、被験者の喉に喉頭マイクロフォンを設置して、嚥下音を採取する場合もある。もちろん、実際の喫食の開始時に、タイマー、ストップウォッチ等を始動させてから、最後の(食品の全部の)嚥下の終了に、または咀嚼の終了に、タイマー、ストップウォッチ等を停止させて測定する方法を用いることも可能である。
本発明の一態様において、試料の食品の喫食量には、例えば、容器入りの(容器詰めの)1回分、実際に喫食する任意の1回分、1個、1切、1粒、1口量を選択することができる。
本発明の好ましい態様として、個人同士や特定の集団の食感を推定して比較する場合には、試料の食品の喫食量をいずれも同量や同数に設定することが好ましい。また、同種の食べ方について、個人同士や特定の集団で異なる食感の差異をより正確に評価するためには、1個、1切、1粒といった少量に揃えて設定することがさらに好ましい。
本発明の食感推定方法では、試料(好ましくは、食品)の形状、寸法、物性(脆さ、粘性等)が異なる食感を推定し、評価できるため、従来の方法に比べて優れている。さらに、個人同士や特定の集団で異なる食べ方の差異、または食感の差異、あるいは感じ方の差異を評価できるため、従来の方法に比べて優れている。
本発明の対象者(被験者)は、咀嚼できる生物であれば、特に限定されないが、ヒトが好ましく、個人や特定の集団がさらに好ましい。具体的な特定の集団には、乳幼児、小児、若年男性、若年女性、青年、成人、中高年、高齢者、健常者、病態者等の食品を経口摂取してから噛んで喫食できる被験者であり、例えば、咀嚼力が弱い乳幼児、小児、若年男性、若年女性、高齢者、病態者が好ましく、咀嚼力が特に弱い乳幼児、高齢者、病態者等がさらに好ましい。咀嚼力が強い人に対して、より噛み応えあるものを提供したい場合には、健常な男性等が好ましい。
本発明の応用例として、食品の容器、包装、チラシ、ポスター、冊子、広告媒体等に、食感に特徴がある旨が記載されていることが好ましく、食品の容器、包装、チラシ、ポスター、冊子、広告媒体等に、噛み応えのある、噛み心地の良い、咀嚼の練習(訓練)用、噛む練習(訓練)用等の表現が記載されていることがさらに好ましい。
本発明の食品製造方法は、上述した食感推定方法に基づき、食品を設計(開発)することを意味する。このとき、本発明の食品製造方法では、噛み応えのある食品や噛み心地の良い食品を好ましく得ることができる。すなわち、本発明の食品製造方法では、試料の喫食時に被験者が得る食感に関する官能評価の評価情報を取得し、評価情報における所定の噛み応えおよび所定の噛み心地の少なくともいずれかを有する食品を設計する。そして、本発明において、食品とは、喫食時に噛むことがある食品(中間製品、最終製品等)である。喫食時に噛むことがある食品には、穀類、いも類、種実類、豆類、乳製品、卵類、肉類、魚介類、野菜類、果物類、菓子類等またはこれらの加工品、これらの組合せ等が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明において、食品の設計とは、本発明の食感推定方法によって得られた結果等に基づき、食品の形状、寸法、物性(脆さ、粘性等)、食べ方等を設定(決定)することである。
本発明において、具体的な食品には、米、雑穀、小麦、大麦、じゃがいも、さつまいも、ごま、ピーナッツ、くるみ、カシューナッツ、アーモンド、大豆、豆腐、鶏卵、うずらの卵、牛肉、豚肉、鶏肉、ラム肉、鰯、秋刀魚、鯛、鱸、鯖、海老、蟹、帆立、アサリ、鰻、刺身、人参、牛蒡、ほうれん草、きゅうり、トマト、茄子、小松菜、レタス、ピーマン、玉葱、苺、キウイ、サクランボ、バナナ、ブドウ、みかん、メロン、桃、リンゴ等が挙げられ、これらの食品を所望の形状に切断してもよいし、これらの食品を所望の種類や数量や割合等で組合せてもよい。
本発明において、具体的な加工品には、米飯、雑穀御飯、シリアル、餅、麺、煮豆、豆腐、納豆、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓、バター、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、ヨーグルト(固形)、発酵乳、ピッツア、プディング、茹で卵、煮卵、ステーキ、ハンバーグ、ハム、ベーコン、ソーセージ、刺身、焼魚、煮魚、かまぼこ、漬物、サラダ、お浸し、煮物、ゼリー、ゼリー飲料、杏仁豆腐、チョコレート、グミキャンディ、キャンディ、キャラメル、ガム、ビスケット、バー、クッキー、ポテトチップス、スナック菓子、煎餅、パイ、パン、ケーキ、チュアブルタイプのサプリメント等が挙げられ、これらの加工品を所望の形状に切断してもよいし、これらの加工品を所望の種類や数量や割合等で組合せてもよい。そして、これら加工品をさらに加工(冷凍、冷蔵、加温・加熱、乾燥、塩蔵、発酵、攪拌・混合、抽出、調理、殺菌等)してもよい。このとき、具体的な加工品には、離乳食、幼児食、介護食、菓子等が好ましく含まれる。
本発明の訓練者の咀嚼訓練方法(強化方法)は、本発明の食品製造方法によって得られた食品を含む試料を用いることを意味する。つまり、本発明の食品を訓練者に喫食(咀嚼)させることで、咀嚼能力が未発達である乳幼児等が咀嚼する方法を効率的に訓練することができたり、咀嚼力が弱い乳幼児、高齢者、病態者等が咀嚼力を効果的に強化することができる。このとき、そして、本発明の訓練者の咀嚼の訓練方法では、噛み応えのある食品や噛み心地の良い食品を好ましく用いることができる。そして、指導者が訓練者の個人や特定の集団を所定の場所等に集めて、訓練者の咀嚼を訓練や強化することが好ましい。この所定の場所には、病院、介護施設、保育園、幼稚園、学校、教育施設、公民館等が挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書中において、数値の範囲を「X〜Y」と表記する場合には、その範囲の両端の数値であるXおよびYを含むものとする。
以下、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、これら実施例の記載に何ら限定されるものではない。
[実験例1]
図1は、実施例に用いた食感推定装置100の構成を示す。食感推定装置100は、受信部10と、アンプ11と、プロセッサ12と、メモリ13と、操作部14と、表示部15とを含む。ただし、図1で示す食感推定装置100の構成はあくまで一例であり、本発明の食感推定方法を実施する装置は、図1の食感推定装置100に限定されるわけではない。
図1におけるヒト(被験者)Hの頬には、咀嚼筋の筋電位を検出するパッチPが貼付されている。パッチPには二つの表面電極Eが設けられている。なお、本図では被験者Hの右頬にのみパッチPが貼付されているか、図面の奥側の被験者Hの左頬にもパッチPを貼付してもよい。また、例えば医療用のテープ等を用いて被験者Hの頬に表面電極Eを貼り付けてもよい。特に本例では、表面電極Eは、咀嚼筋のうち、咬筋に相当する位置に貼付されている。パッチPの表面電極EにはケーブルCが接続され、表面電極Eが検出した咀嚼筋の筋電位の電気情報(筋電位情報)が、ケーブルCを介して受信部10に入力される。
受信部10は筋電位情報の如き電気情報を受信可能なインターフェースにより構成される。アンプ11は受信部10が受信した筋電位情報を増幅する。プロセッサ12は一般的な演算制御装置により構成され、食感推定装置100の全体の制御を行う。さらにプロセッサ12は、アンプ11が増幅した筋電位情報を処理する。
メモリ13は、種々のデータやプログラムを記憶可能である。操作部14は、食感推定装置100の操作者が種々の操作を入力可能なスイッチ、ボタン、ダイヤル、タッチパネル等の入力機器により構成される。表示部15は、液晶ディスプレイ等の表示デバイスにより構成され、種々の情報を視覚可能に表示する。
プロセッサ12は、メモリ13や自身が内蔵する記憶装置等に記憶された波形分析ソフトを読み込み、アンプ11が増幅した筋電位情報を当該ソフトにより分析して、筋活動量および最大筋活動比を算出する。また、プロセッサ12は、表示部15に波形分析ソフトにより作成された波形や数字等の形式による筋電位情報を表示する。またプロセッサ12は喫食時の筋電位情報(第1の筋電位情報)から喫食の開始時刻を判定することが可能である。また、プロセッサ12は喫食時の筋電位情報(第1の筋電位情報)から喫食の終了時刻(嚥下の終了時刻または咀嚼の終了時刻)を判定することが可能である。結果的に、プロセッサ12は試料の処理時間を測定することが可能である。ただし、プロセッサ12は、主として食感推定装置100の全体制御を担うのであり、特にその機能は限定されない。
本実験例では、食感推定装置100を用いて算出した食べ方の異なる多様な食品の喫食中(全体)における最大筋活動比に基づき、食感(噛み応えや噛み心地)を定量的に推定し、評価できることを、被験者の2名(被験者A、被験者B)で検証した。ここで、被験者Aと被験者Bの各々の左右の咬筋には、表面電極Eとして、皿型表面電極EL258S(バイオパック社製)をいずれか又は両方の咀嚼筋に表面電極Eを1箇所(右または左)につき2個を貼り付けた。さらにアース電極を前額に貼付して、喉には、喉頭マイクロフォンを設置した。そして、筋電図用アンプEMG100C(バイオパック社製)に筋電図を取り込み、波形分析ソフトAcqKnowledge(バイオパック社製)を用いて解析した。以下、他の実験でも同様の装置を用いた。
図2は、食感推定装置100により得られる筋電図(筋電位情報)の例を示す。この筋電図の波形は上で述べた試験により得られ、筋電位情報の一態様であり、表示部15が表示する。被験者が試料の食品を処理する処理時間において得られる筋電位図が上述した第1の筋電位情報に該当し、被験者が最大の力で噛みしめた時(最大咬合時)において得られる筋電位図が第2の筋電位情報に該当する。プロセッサ12は、この筋電位図について、横軸の時間で積分処理することにより筋活動量を算出する。第1の筋電位情報から処理時間における咀嚼筋の筋活動量が算出され、第2の筋電位情報から最大咬合時の1秒間当たりの咀嚼筋の筋活動量が算出される。
最初に、食感推定装置100は、被験者Aと被験者Bが5秒間以上、最大の力(最大咬合に相当する)で噛みしめた際に得られる筋電位情報である、第2の筋電位情報を取得した。さらにプロセッサ12は、第2の筋電位情報から、筋電位情報の波形が安定した1秒間の咀嚼筋(咬筋)の筋活動量を「最大咬合時の1秒間当たりの咀嚼筋(咬筋)の筋活動量」としてプロセッサで算出した。その後に、食感推定装置100は、被験者Aと被験者Bが表1の試料の所定量を喫食した際における、被験者Aと被験者Bの喫食の開始から最後の嚥下の終了までの咀嚼筋(咬筋)の筋活動量と、喫食の開始から最後の(食品の全部の)嚥下までの時間(処理時間)を測定した。
Figure 2016052516
なお、上記商品名のうち、アーモンドチョコレート以外はすべて登録商標である。また、マクビティ(登録商標)の1口の喫食量は、被験者Aで2.3g、被験者Bで1.8gであった。
ここで、咀嚼筋(咬筋)の筋活動量として左右の平均値を用いて、各試料の喫食時における最大筋活動比を以下の式(1)によって算出した。
最大筋活動比(%)= 試料の処理時間における咀嚼筋(咬筋)の筋活動量÷(最大咬合時の1秒間当たりの咀嚼筋(咬筋)の筋活動量×処理時間)×100・・・(1)
さらに、被験者が試料を喫食して、実際に感ずる食感(噛み応えや噛み心地)を評価する官能評価を行い、当該官能評価の評価情報を取得した。ここでは、被験者Aと被験者Bの各々が各試料の喫食時の食感(噛み応え)を7段階の尺度で評価した(−3:全くない、−2:ない、−1:ややない、0:どちらでもない、1:ややある、2:ある、3:かなりある)。すなわち、この評価が、官能評価の評価情報に該当する。そして、最大筋活動比と食感(噛み応え)の評価である官能評価の評価情報の相関関係を確認した。評価した結果を表2に示した。被験者Aと被験者Bの両者において、1回分の喫食量として粒や個や口等で単位容量や単位数が異なっても、最大筋活動比の順位と食感の順位がほぼ一致していた。
このとき、被験者Aでは、試料1、試料3の食感(噛み応え)が「ややある(1)」、「ある(2)」と評価したのに対し、被験者Bでは、試料1、試料3の食感が「ある(2)」、「とてもある(3)」と評価した。また、被験者Aでは、試料4、試料6、試料7の食感(噛み応え)が「ない(−2)」、「ややない(−1)」、「ない(−2)」と評価したのに対し、被験者Bでは、試料4、試料6、試料7の食感が「ややない(−1)」、「どちらでもない(0)」、「どちらでもない(0)」と評価した。つまり、被験者Aに比べて、被験者Bでは、食感を強く感じ、食感の評価が高く、最大筋活動比が高かった。
Figure 2016052516
図3は被験者Aの最大筋活動比と食感の評価(官能評価の評価情報)の相関関係を示すグラフであり、図4は被験者Bの最大筋活動比と食感の評価の相関関係を示すグラフである。被験者Aと被験者Bの両者において、最大筋活動比と食感の評価(官能評価の評価情報)の相関係数が0.4以上と高い相関関係を示した。このとき、同じ食品を喫食しても、食感には、個人差があることを確認できた。例えば、同じ食品を喫食しても、咀嚼力の強い人では、食感が小さくなり(弱くなり)、咀嚼力の弱い人では、食感が大きくなった(強くなった)。そして、試料の喫食量に拘わらず、最大筋活動比には、食感の個人差が反映されることを確認できた。つまり、最大筋活動比は食感の評価と高い相関関係を示したことから、最大筋活動比を用いて、食感(噛み応えや噛み心地)を定量的に推定することは妥当であると考えられた。このように、官能評価を実施することにより、評価情報と最大筋活動比の相関関係を考慮することにより、算出した最大筋活動比の妥当性を確認することができる。この結果、被験者毎の食感をより定量的かつ客観的に推定できる。
[実験例2]
本実験例では、食感推定装置100を用いて算出した食べ方の異なる多様な食品の喫食中(全体)における最大筋活動比の推移によって、食感(噛み応えや噛み心地)の経時的な推移を定量的に評価できることを、被験者の2名(被験者A、被験者B)で検証した。まずは、被験者Aと被験者Bが表3の試料の所定量を喫食した際に筋電位計測を行い、得られた筋電図情報より、喫食の開始から最後の(食品の全部の)嚥下の終了までの時間(処理時間)を抽出した。その後に、その喫食の処理時間を、前半、中盤、後半に約3分割し、それぞれの時間における咀嚼筋(咬筋)の筋活動量を算出した。ここで、左右各々の咀嚼筋(咬筋)の筋活動量を用いて、各試料の最大筋活動比を実験例1と同じ式によって算出し、左右各々の最大筋活動比を平均した。さらに、実験例1と同様にして、被験者Aと被験者Bの各々が各試料の喫食の時間における食感(噛み応え)を7段階の尺度で評価して、官能評価の評価情報である食感を取得した。そして、最大咬筋活動比と食感(官能評価の評価情報)の相関関係を評価した。
Figure 2016052516
図5は被験者Aの食感の評価(官能評価の評価情報)の推移(経時変化)を示すグラフであり、図6は被験者Bの食感の評価(官能評価の評価情報)の推移(経時変化)を示すグラフである。また、図7は被験者Aの最大筋活動比の推移(経時変化)を示すグラフであり、図8は被験者Bの最大筋活動比の推移(経時変化)を示すグラフである。図9は被験者Aの最大筋活動比と食感の評価(官能評価の評価情報)の相関関係を示すグラフであり、図10は被験者Bの最大筋活動比と食感の評価(官能評価の評価情報)の相関関係を示すグラフである。
被験者Aと被験者Bの両者において、喫食の開始から最後の(食品の全部の)嚥下の終了まで経時的に、それぞれの食感の評価が変化していた。そして、被験者Aと被験者Bの両者において、喫食の開始から最後の最後の(食品の全部の)嚥下の終了まで経時的に、それぞれの最大筋活動比が変化していた。このとき、実施例1と同様にして、被験者Aと被験者Bの両者において、最大筋活動比の順位と食感の評価の順位がほぼ一致していた。そして、被験者Aに比べて、被験者Bでは、食感を強く感じ、食感の評価が高く、最大筋活動比が高かった。また、被験者Aに比べて、被験者Bでは、食感の評価や最大筋活動比が経時的に、緩やかに低下していた。
さらに、被験者Aと被験者Bの両者において、最大筋活動比の推移と食感の評価の推移の相関係数が0.5以上と高い相関関係を示した。このとき、同じ食品を喫食しても、食感の評価の推移(経時変化)には、個人差があることを確認できた。同じ食品を喫食しても、咀嚼力の強い人では、食感の評価の推移(減少)が早く小さくなり(弱くなり)、咀嚼力の弱い人では、食感の推移(減少)が遅く小さくなった(弱くなった)。つまり、最大筋活動比の推移は食感の推移と高い相関関係を示したことから、最大筋活動比の推移を用いて、経時的な食感の推移を推定することは妥当であると考えられた。
[実験例3]
本実験例では、食感推定装置100を用いて算出した食べ方の異なる多様な食品の喫食中(全体)における最大筋活動比の最大ピーク値によって、食感(噛み応えや噛み心地)を定量的に評価できることを、被験者の2名(被験者A、被験者B)で検証した。まずは、被験者Aと被験者Bが表1の試料の所定量を喫食した際に、喫食の開始から最後の(食品の全部の)嚥下の終了までの時間(処理時間)を測定した。その後に、被験者Aと被験者Bの喫食の処理時間を、前半、中盤、後半に約3分割して、それぞれの時間における咀嚼筋(咬筋)の筋活動量を算出し、そこから最大ピーク値を算出した。ここで、左右各々の咀嚼筋(咬筋)の筋活動量を用いて、各試料の最大筋活動比を実験例1と同じ式によって算出し、左右各々の最大筋活動比を平均した。さらに、実験例1と同様にして、被験者Aと被験者Bの各々が各試料の喫食の時間における食感(噛み応え)を7段階の尺度で評価して、官能評価の評価情報である食感を取得した。そして、最大筋活動比の最大ピーク値と食感(官能評価の評価情報)の相関関係を評価した。
図11は被験者Aの最大筋活動比の最大ピーク値と食感の評価(官能評価の評価情報)の相関関係を示すグラフであり、図12は被験者Bの最大筋活動比の最大ピーク値と食感の評価(官能評価の評価情報)の相関関係を示すグラフである。ここで、被験者Aと被験者Bの両者において、最大筋活動比の最大ピーク値と食感の相関係数が0.45以上と高い相関関係を示した。このとき、試料の喫食量に拘わらず、最大筋活動比の最大ピーク値には、食感の個人差が反映されることを確認できた。つまり、最大筋活動比の最大ピーク値は食感と高い相関関係を示したことから、最大筋活動比の最大ピーク値を用いて、食感を推定することは妥当であると考えられた。
なお、最大筋活動比と食感の評価の相関係数に比べて、最大筋活動比の最大ピーク値と食感の評価の相関係数が高かったことから、食べ方の異なる多様な食品の喫食中(全体)における食感を評価する場合には、最大筋活動比の最大ピーク値を用いることが好ましいと考えられた。
実験例1〜3より、最大筋活動比と食感の評価の間に所定の高い相関が見受けられることが理解される。よって、被験者が得る食感に関する官能評価の評価情報を取得し、この 評価情報を目標とした食品を設計することにより、被験者の特性に応じた適切な食品を製造することが可能となる、すなわち適切な食品製造方法を得ることが可能となる。評価情報には種々の要素が含まれ得るが、実験例に示した噛み応えや噛み心地が代表的な要素である。図13は、目標とすべき噛み応えや噛み心地の種々の表現例を示す表であり、予め取得した最大筋活動比と食感の評価の相関を考慮して、表現例で表される噛み応えや噛み心地を有する食品を目標とした食品を設計することが可能である。図13(a)は噛み応えの程度に関する表現例を示す表であり、図13(b)は噛み応えの有無に関する表現例を示す表であり、図13(c)は噛み応えの硬さに関する表現例を示す表であり、図13(d)は噛み応えおよび噛み心地の良し悪しに関する表現例を示す表であり、図13(e)は噛む力に関する表現例を示す表であり、図13(f)は咀嚼の可否のレベルに関する表現例を示す表である。特定の食品に関し、例えば図13の表に示す所定の表現で評価される食品を得たい場合、予め取得した最大筋活動比と食感の評価の相関が得られている試料に基づき、その配合や製造条件を変更して食品を設計し、製造することにより、表の表現例に適合した適切な食品を得ることができる。なお、図13は、噛み応えまたは噛み心地に関する全ての表現を網羅しているわけではなく、あくまでこの例のように規定した食感を有する食品を目標として、食品を設計し、製造することが可能である。もちろん他の表現で表される食感を目標として、食品を設計し、製造してもよい。
当業者は、食品の設計および製造に関して、食感に影響を与えるパラメータにつき、複数の水準を準備して、当該水準毎の食品を準備することができる。その食品について、被験者が喫食し、筋電図(筋電位情報)および筋活動比を取得することができる。さらに官能評価を行い、官能評価の評価情報を取得することができる。ここでのパラメータとしては、力学的特性(レオロジー的性質等)、幾何学的特性(形状等)、水、油脂の含量が存在する。これらのパラメータについては、当業者はその知識を用いて製造工程(切断、加熱、冷却、圧縮、エージング、混練、膨化、成型等の条件)や原料や食品添加物等の選定や量を調整することが可能である。例えば、筋活動比および官能評価の結果からより弱い食感を目指すことが目標とされたなら、パラメータに関する既知の調整量に従って、製造工程を調整して、形状を小さくしたり、薄くしたり、空隙を増したり、素材、食品添加物等の配合比を調整する、また、より強い食感を目指すことが目標とされたなら、製造工程を調整して、形状を大きくしたり、厚さを厚くしたり、空隙を減らしたり、素材、食品添加物等の配合比を調整する。このようにして、目標とする食品を設計し、製造することが可能である。
[実験例4]
噛み応えのある食品として、プロセスチーズを作製した。具体的には、ケトル型の溶融釜に、モッツァレラチーズ; 1800g、クリームチーズ; 1200g、ポリリン酸ナトリウム;6g、食塩; 7.5g、水; 260gを投入してから、撹拌翼を回転(180rpm)させながら、90℃に昇温させて加熱溶融させた。その後に、所定の容器型に充填して成形してから、10℃以下に冷却させて、通常と異なる独自のプロセスチーズを作製した。そして、このプロセスチーズを縦; 2cm × 横; 1.5cm× 高さ; 1cmの寸法に切断して、試料を調製した。
被験者C〜被験者Kとして、咬合力の弱い被験者を選抜して、咬合力に合わせた咀嚼の訓練用の食品(試料)の設計の可能性について検証した。具体的には、被験者C〜被験者Kとして、歯科用咬合力計(オクルーザル フォースメーター、型式: GM10、長野計器社)において、咬合力が300N以下の男性3名と女性5名を選抜した。そして、通常のプロセスチーズを喫食した際と同程度の速度で、各被験者が各試料を喫食し、その喫食の所要時間を、前半、中盤、後半に約3分割して、それぞれの時間における咬筋の筋活動量を測定した。ここで、咬筋の筋活動量として左右の平均値を用いて、各試料の最大筋活動比を実験例1と同じ式によって算出した。
被験者C〜被験者Kの喫食の処理時間の「前半」、「中盤」、「後半」における最大筋活動比を表4に示した。ここで、被験者C〜被験者Kの「前半」における最大筋活動比は 24〜49%の範囲内であった。そして、被験者C〜被験者Kの「中盤」における最大筋活動比は20〜39%の範囲内であった。 また、被験者C〜被験者Kの「後半」における最大筋活動比は15〜37%の範囲内であった。
ところで、実験例1の結果において、最大筋活動比が20〜30%では、やや噛み応えがあり、最大筋活動比が30〜50%では、噛み応えがあると評価されていた。このことから、独自のプロセスチーズは、噛み応えがある食品(試料)であることが確認された。
さらに、最大筋活動比が70%超では、噛み心地が悪い(無理な負荷が掛かる)と評価されていた。このことから、独自のプロセスチーズは、噛み心地が悪くない(噛み心地が良い)食品であることが確認された。
以上から、独自のプロセスチーズは、咬合力の弱い乳幼児や高齢者等における咀嚼の訓練用の(咀嚼を鍛える)食品として妥当であることを検証できた。
Figure 2016052516
本発明によれば、ヒト(被験者)の喫食中における食感や食感の推移(経時変化)の客観的かつ定量的な推定方法を提供することができる。具体的には、個人や特定の集団の咀嚼能力(咬合力(噛む力)等)や処理時間等を考慮した、被験者毎の噛み応えや噛み心地等の推定方法が提供される。この場合、食感や食感の推移の推定結果は、食品を設計する際に有用な情報として活用可能である。
本発明によれば、この推定方法を利用して設計した食品の製造方法や、この製造方法を利用して得られた食品を用いる咀嚼の訓練方法(強化方法)を提供することもできる。具体的には、個人や特定の集団として、咀嚼能力が弱い乳幼児等に、本発明に基づく噛み応えのある食品や噛み応えの良い食品を喫食させれば、乳幼児等の咬合力を増強して、歯や顎骨の形成を順調に発達させることを期待できる。また、個人や特定の集団として、咀嚼能力が弱りかけている高齢者等に、本発明に基づく噛み応えの良い食品や噛み応えのある食品を喫食させれば、高齢者等の咬合力を維持や改善して、消化機能の低下や舌機能の減退等を抑制や予防し、要介護の状態を引き起こさずに済ますことを期待できる。つまり、個人や特定の集団に、噛み応えのある食品や噛み応えの良い食品を単独や組合せて喫食させることで、咀嚼機能を無理なく増強や維持や改善することに貢献できることとなる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態において示された事項に限定されず、特許請求の範囲及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者がその変更又は応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
本発明の食感の推定方法は、ヒトを対象とした食感を評価する分野において好適に利用できる。また、本発明の食感の推定方法は、個人や特定の集団の咀嚼能力に考慮した食感の食品として、例えば、噛み応えのある食品や噛み心地の良い食品を選抜することに利用できるとともに、それらの食品を開発することに利用できる。そして、本発明の食感の推定方法は、個人や特定の集団の咀嚼能力を考慮した食感の食品として、例えば、咀嚼訓練用の食品を選抜することに利用できるとともに、それらの食品を開発することに利用できる。さらに、本発明の食感の推定方法は、「噛み応え」や「噛み心地」等の食感を評価する分析機器等を開発することに利用できる。
10: 受信部
11: アンプ
12: プロセッサ
13: メモリ
14: 操作部
15: 表示部
100: 食感推定装置

Claims (9)

  1. 試料の食感を定量的に推定する食感推定方法であって、
    被験者による試料の処理時間における咀嚼筋の筋電位に関する情報である第1の筋電位情報を取得し、
    当該被験者による最大咬合時の筋電位に関する情報である第2の筋電位情報を取得し、
    前記第1の筋電位情報および前記第2の筋電位情報に基づき、式(1)を用いて、当該被験者の最大筋活動比を算出する、食感推定方法。
    最大筋活動比(%)= 前記処理時間における咀嚼筋の筋活動量÷(最大咬合時の1秒間当たりの咀嚼筋の筋活動量×前記処理時間)×100 ・・・(1)
  2. 前記咀嚼筋が咬筋である請求項1に記載の食感推定方法。
  3. 食感が噛み応えおよび噛み心地の少なくともいずれか一つである請求項1または2に記載の食感推定方法。
  4. 前記処理時間を複数の分割時間に分割し、
    各分割時間における前記第1の筋電位情報を取得する請求項1から3のいずれか1項に記載の食感推定方法。
  5. 前記試料の喫食時に前記被験者が得る食感に関する官能評価の評価情報を取得し、
    前記最大筋活動比と前記評価情報との相関係数を算出する、請求項1から4のいずれか1項に記載の食感推定方法。
  6. 請求項1から5のいずれか1項に記載の食感推定方法に基づき食品を設計する食品製造方法。
  7. 前記試料の喫食時に前記被験者が得る食感に関する官能評価の評価情報を取得し、
    前記評価情報における所定の噛み応えおよび所定の噛み心地の少なくともいずれかを有する食品を設計する請求項6に記載の食品製造方法。
  8. 請求項6または7に記載の食品製造方法によって得られた食品を含む試料を用いて、訓練者の咀嚼を訓練する、咀嚼訓練方法。
  9. 試料の食感を定量的に推定する食感推定装置であって、
    被験者による試料の処理時間における咀嚼筋の筋電位に関する情報である第1の筋電位情報を受信する受信部と、
    プロセッサと、を備え、
    前記プロセッサは、前記第1の筋電位情報および予め得られた当該被験者による最大咬合時の筋電位に関する情報である第2の筋電位情報に基づき、式(1)を用いて、当該被験者の最大筋活動比を算出する、食感推定装置。
    最大筋活動比(%)= 前記処理時間における咀嚼筋の筋活動量÷(最大咬合時の1秒間当たりの咀嚼筋の筋活動量×前記処理時間)×100 ・・・(1)
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