JP2019171560A - ワークピース/ツール間境界における振動現象を制限するための方法 - Google Patents

ワークピース/ツール間境界における振動現象を制限するための方法 Download PDF

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Abstract

【課題】外乱振動モードを対象にし、ワークピース−ツール間レベルにおけるその作用を大幅に低減させることを可能にする方法を提供すること。【解決手段】3つないし5つの機械軸を備える工作機械上のワークピース−ツール間境界における振動を制限する方法であり、工作機械軸の加速段階中に励起され、励起した軸とは異なる工作機械軸と同一直線上の方向にワークピースとツールとの間の相対運動を引き起こす傾向のあるコンプライアント軸と称する軸の固有周波数を特定するステップと、先に特定された前記固有周波数に加速プロファイルの周波数領域における第1のゼロ点が対応するように決定された加速時間を有する平滑加速プロファイルを各励起軸に対して適用するステップと、前記励起軸の加速段階中に、各コンプライアント軸に、ワークピースとツールとの間のどんな残留相対運動も排除するように補償を適用するステップを有する。【選択図】図7

Description

本発明は、機械加工の分野に関する。本発明は、より正確には、ワークピース−ツール間境界における望ましくない振動現象を低減させることを目指して、工作機械軸の制御のレベルにおいて適用される方法に関する。
工作機械における振動現象は、機械加工品質と、その結果として工作機械の生産性と、に大いに不利益をもたらす、欠陥の原因である。これらの振動の振幅は、機械の固有周波数が励起された場合、相対的に高くなるおそれがある。例えば、図1は、平面XYにおける直線運動によって方向Zの振動が発生するこの現象を示す。左側の網掛けエリアによって表される平面XYにおける軸のうちの一方の加速中に、ピークが観測され、その後に、その軸の一定速度での運動段階中(非網掛けエリア)の残留振動が続く。
この問題を改善すべく、一部の数値コントローラには、問題となる周波数を減衰させるフィルタが設けられている。この最適化は、モータと測定定規(measuring rule)との間の運動を考慮に入れた調整ループのレベルにおいて達成される。工作機械の振動モードによっては、このモータ−定規間運動には影響が及ばないが、ワークピース−ツール間運動に影響が及ぶ可能性がある。コントローラはその場合、これらの運動に関して「盲目的」なままであり、したがって、それらを補償することができない。
臨界固有周波数が工作機械の挙動に及ぼす影響を低減させるための他の解決策が存在し、それは、軸加速プロファイルを修正することにある。このプロファイルはしたがって、区間ごとに直線状(linear by interval)である、すなわち三角形、台形などである場合もあり、ベル形または他のタイプのプロファイルを伴う、時間領域における平滑なものである場合もある。第1のプロファイルは不連続点を本質的に含んでおり、これら不連続点は、以後詳細に説明する種々の理由で、必要とされるレベルの最適化と相容れない。第2のプロファイルは、一部の数値コントローラに使用されているが、現在のところ、各機械の固有周波数に応じて最適化されてはいない。
本発明の主目的は、外乱振動モード(disturbing vibratory mode)を対象にすること、およびワークピース−ツール間レベルにおけるその作用を大幅に低減させることを可能にする、方法を提案することである。
このために、本発明による方法の一目的は、ワークピース−ツール間運動という観点から、工作機械の少なくとも1つのコンプライアント(compliant)固有周波数を特定すること、およびその後、数値コントローラによって適用される1つまたは複数の軸の加速プロファイルを、先に特定された振動モードを減衰させるためにその振動モードに応じて最適化することである。本発明によれば、加速プロファイルは、時間領域における平滑プロファイルであり、それが最適化後に、先に特定された固有周波数と一致する、その周波数スペクトルにおけるゼロ点を有する。
本発明に従って最適化される平滑プロファイルには、その周波数スペクトルのゼロ点とゼロ点との間に低振幅の極大部分(lobe)があり、万一、先に決定された公称値前後の固有周波数のドリフトが発生した場合には、この極大部分がモデルのロバストな挙動を保障する、という利点がある。
1つまたは複数の軸の加速プロファイルのこの最適化により、工作機械のコンプライアントモードの励起が明らかに低減し、振動の低減は85%を超える。
残留振動を排除し、最終的には機械加工された物体上に非常に良好な表面仕上げを得るために、振動を受ける方向に補償がさらに適用される。この点に関して、平滑プロファイルには、少なくともその1次導関数が存在するとともにそれが連続的である(k≧1のC級関数)(三角形プロファイルや、やはり台形プロファイルなどのC級のプロファイルの場合はそうではない)という点で、別の利点がある。本発明による平滑プロファイルに特有のこの特徴は、以下の理由で、補償の適用を可能にしている。この補償では、補償すべき軸に対する位置目標値の追加分を使用し、それは、励起を生み出す軸の加速度に比例するものである。実際のところ、事前(フィードフォワード)制御でも、速度目標値および加速度目標値が分かっている必要がある。C級のプロファイルの場合、加速度のフィードフォワード制御は無限になり、したがって実施することができない。この問題は、不連続点のない本発明によるプロファイルによって解消する。
他の利点が、特許請求の範囲に表した特徴から、また非限定的な例として提供される添付の図面を用いて以後説明する本発明の詳細な説明から、明らかとなろう。
本発明による最適化がない状態で軸Yの運動によって引き起こされたZ方向の振動を表す図である。左側の網掛けエリアは、ベル形プロファイルを用いた軸Yの加速段階中のZ方向の振動の振幅を表し、その後に、その軸の一定速度段階中の振動の振幅が続く。振動は、Heidenhain数値コントローラ上でツールの送りレートが444mm/分(F444)である場合について、R−Testを使用して測定した。 軸Xの運動によって起こったZ方向およびY方向の振動、ならびに軸Yの運動によって起こったZ方向およびX方向の振動の、フーリエ変換後の結果を表す図である。 本発明との関連でテストした3つの軸加速プロファイルを表す図である。三角形プロファイル(TriOpt)は、本発明による方法を使用して最適化された比較例である。残りの2つは、最適化前のベル形プロファイル(BellStd)および本発明による最適化後のベル形プロファイル(BellOpt)である。 図3からの加速プロファイルを、フーリエ変換後の周波数領域において表す図である。 下部に、最適化前の軸XおよびYのベル形加速プロファイル(実線で表したBellStd)ならびに最適化後の軸XおよびYのベル形加速プロファイル(点線で表したBellOpt)を表す図である。上部に、軸XおよびYに負荷をかけた後に平面XYから出て軸Zに沿って運動する様子を表す図である。Z方向の振動はR−Testを使用して測定した。ツールの送りレートは444mm/分である。 軸XおよびYの同じ加速プロファイルについて、臨界周波数が37.5Hzの場合の一定速度段階の開始時におけるZ方向の振動を、ツールの異なる送りレート(129mm/分から645mm/分)について表す図である。 図5の結果に加えて、軸XおよびYの最適化されたベル形プロファイルにZ方向のさらなる動的補償を加えた場合(BellOpt+CDZ)の結果を表す図である。 最適化ありのX方向およびY方向の加速プロファイルについて、動的補償CDZがZ方向の運動に及ぼす作用(BellOpt+CDZ)、ならびに最適化なしのX方向およびY方向の加速プロファイルについて、動的補償CDZがZ方向の運動に及ぼす作用(BellStd+CDZ)を示す図である。 左側に本発明に従って最適化されたベル形プロファイルを、右側にそれを周波数領域に変換した結果を示す図である。 補償のための伝達関数がそこから生成される調整ループを含む機械的モデルの論理図を示す図である。 補償伝達関数の計算に関する論理図を示す図である。
本発明の概略的な説明
本発明による方法は、3つの直線軸X、YおよびZと、場合によっては1つまたは2つの回転軸とを備える工作機械上の振動現象を低減させることが意図される。本発明による方法は、直線軸および/または回転軸を備えた構成がワークピースの運動を調整することに関して、ツール上の直線軸および/または回転軸を備えた構成に等しく十分に適用される。
本発明による方法については、
1.問題となっている工作機械の少なくとも1つの臨界固有周波数を特定するステップと、
2.数値コントローラによって適用される1つまたは複数の軸の加速プロファイルを、減衰すべき振動モードに応じて最適化するステップと、
3.振動現象による影響が特に及ぶ1つまたは複数の方向に補償を適用するステップと、
に関して明確に述べる。
本方法については、以後、平面XYから出て軸Z上に振動を発生させる軸Xおよび/または軸Yに沿った直線的運動に関する例において説明する。本方法は、ただ1つの軸が関与する、または回転軸を含めて複数の軸が同時に関与するどんな運動にも、それらの軸の各々についての最適化された加速プロファイルを用いて適用される。したがって本方法は、予め決定された固有周波数を励起することなく、2つの直線線分間の補間運動(interpolated movement)をもたらすのに完全に適している。さらに、工作機械のアーキテクチャに応じて、振動を受ける軸は、軸Zのみではなく5つの軸のうちのいずれかであり得る。
固有周波数の特定
第1のステップでは、所与の工作機械について、ワークピース−ツール間レベルにおける著しくコンプライアントなモードに関連する固有周波数が特定される。コンプライアント振動モードは、主として、その固有周波数およびその固有形状(natural shape)によって特徴付けられる。そのコンプライアントな特徴は、所与の方向にワークピースとツールとの間の大きな相対運動を発生させ、この当然の帰結として、機械加工された部品の仕上がり品質を劣化させる、その傾向に関連がある。大きな相対運動とは、1μm以上の値、またはモータと定規との間で一般に許容されている追従誤差範囲から逸脱する値を伴う運動を意味する。工作機械のアーキテクチャに応じて、負荷がかけられる軸はさまざまでよい。したがって、3つ、4つ、または5つの軸を備えた機械では、任意の軸に負荷をかけると、負荷がかかっている軸とは別個の1つまたは複数の軸と同一直線上の方向に、コンプライアント振動が発生する場合がある。
本発明によれば、コンプライアントモードは、工作機械のある特定の位置に配置された1つまたは複数のセンサ(加速度計、光センサなど)を通じて特定され得る。測定システムは、有利には、実験モード解析またはデジタルモード解析(前者の場合には、機械上の多数の位置に配置されたセンサを用いて測定することからなる)によって前もって定められた工作機械の好ましいゾーン内に、恒久的に埋め込まれる。ゾーンには、上で定義したコンプライアントモードに非常に敏感であるという特定の特徴がある。工作機械上に測定システムを恒久的に設置する結果、必要に応じて、各ワークピースを機械加工する前にコンプライアントモードを特定することが可能になる。これにより、2つのバッチ間であろうと生産途中であろうと、ワークピース−ツール間挙動の任意の悪化が観測されるとすぐに特定手順を開始することが可能になる。
測定結果は、FFT(高速フーリエ変換)解析によって、周波数領域において解析される。このようにして得られた周波数スペクトルは、好ましくは、次いで、ワークピース−ツール間挙動に真の影響を及ぼす周波数のみを処理するようにして実験的に得られたコンプライアントモードの周波数スペクトルと比較される。単一の臨界固有周波数が一般に重要である。その後、1つまたは複数のコンプライアントモードのデータ特性が、工作機械の数値コントローラに転送される。
例えば、ある工作機械の固有周波数を、R−Testを用いて行った振動の測定に基づいて決定した。そのテストは、スピンドル上に取り付けられかつ3つの固定運動センサ間に配置されたボールの、望ましくない3D運動を測定することにある。これらの望ましくない運動は、プログラムされ理想的であると見なされる任意の公称軌道(nominal trajectory)上に重ね合わされる。この工作機械上で、それぞれX方向およびY方向の2つの単軸方向運動を、最適ではない加速プロファイル(例では三角形)を用いて、200m/sのジャークおよび444mm/分の送りレートで行った。測定された振動のフーリエ変換を行うことによって得られた固有モードの周波数が、図2に示されている。図示の例では、最大モードが、軸Yによって励起され、37.5Hzの周波数のところにZ方向のワークピース−ツール間運動を生じさせている。80Hz前後にもモード(X方向の励起の場合のZ方向のコンプライアンス)があるが、その振幅は低すぎてその正確な周波数を定めることはできない。したがって、これらの結果は、調査した工作機械の場合、ただ1つの支配的な周波数があり、軸Yの運動中にその励起が回避されなければならない、ということを示している。
加速プロファイルについての説明
このようにしてコンプライアントとして特定されたモードの周波数は、次いで、関係する軸の最適化された加速プロファイルを生成するために使用される。本発明によれば、最適化すべき基本プロファイルは、時間領域における平滑プロファイルであり、換言すれば、三角形、台形などのプロファイルとは異なり、不連続点のないことを特徴とするプロファイルである。平滑プロファイルとは、その区間にわたって1回微分することが少なくとも可能であるとともに導関数が連続である関数(C級、C級、C級など、Cまでの関数)を、機能するために有する、任意のプロファイルを意味する。これは例えば、ベル形プロファイル、スプラインタイププロファイルなどとすることができる。この基本プロファイルは、曲線BellStdについて図4が示すように、周波数領域において複数のゼロ点を有し、それが、本発明によって、望ましくない振動の励起を防ぐために利用される。この点に関して、本方法は、加速プロファイル、より具体的には加速時間を、最適化後のプロファイルが、先に特定された工作機械の支配的なモードの共振周波数に対応する、周波数スペクトルにおける第1のゼロ点を有するように、最適化することにある。
より正確に言うと、最適化前の平滑プロファイルの数式は、それぞれに係数を乗算した複数の基本関数の和である。加速時間Tは、どんな係数が選択されようとも各基本関数が励起すべきでない振動信号と直交するように、決定される。このようにして、Tは、乗算係数とは無関係に、先に特定された振動モードの励起を防ぐように選択される。乗算係数は、加速の開始時および終了時に必要とされる送りレート、必要とされる最大加速度、材料によって課されるメカトロニクス上の制限などのような、他の基準に基づいて決定される。Tおよび係数の決定に至る計算については、以後、ベル形加速プロファイルに関してより詳細に説明する。
上述したように、単一の臨界固有周波数が一般に支配的である。しかし、複数の固有周波数が臨界的である、すなわち機械加工された製品の品質を最終的に劣化させる傾向がある、と特定されることを除外することはない。この場合、加速プロファイルに適用される各臨界固有周波数についての補正が重畳される。
上で解析した例に戻ると、平滑プロファイルは、工作機械の37.5Hzモードの励起を防ぐように最適化されなければならない。図3は、軸Yの3つの加速プロファイル、すなわち、本発明による最適化前のベル形平滑プロファイル(BellStd)および本発明による最適化後のベル形平滑プロファイル(BellOpt)、ならびに比較用に本発明による方法を使用して最適化された三角形プロファイル(TriOpt)を示す。それらの作用を周波数領域においてより良好に示す(図4)ために、これらの加速プロファイルの各々のフーリエ変換を計算した。図4は、事実上、最適化された加速プロファイルだけが、工作機械の支配的なモードの周波数のところにスペクトルにおけるゼロ点を有することを示す。最適化前の基本ベル形プロファイルに関しては、60Hzまでのあらゆる周波数を励起する。最適化されたベル形プロファイルには、最適化された三角形プロファイルに比べて、高周波数においてスペクトルの振幅がはるかに低いままである、という主要な利点がある。ベル形プロファイルはしたがって、高周波数においていわゆるローパス挙動を有し、これにより、万一、先に決定された固有周波数の公称値前後のドリフトが発生した場合には、この派生的状況(derivative)に固有のモデリング誤差の影響力を低減させることが可能になっている。したがって、ツールの軌道を生成するモデルは、例えば同じアーキテクチャをもつ新規の工作機械における公差、工作機械の老朽化、機械加工位置などによって生じる、機械の振動挙動のわずかな変動に対して、よりロバストになる。
したがって、本発明に従って最適化される加速プロファイルには、
− 加速プロファイルは、時間領域において平滑であり、C級に属し、kは1から無限大の間(1と無限大を含む)である。
− そのスペクトルは、低周波数において、すなわちコンプライアントモードの周波数よりも低い周波数について、比較的平坦である。図4の例では、スペクトルは、10Hz程度の値まで及ぶ周波数の範囲にわたって比較的平坦である。その後、スペクトル内に非常に顕著な低下がある。
− 加速プロファイルは、周波数領域においてゼロ点を含み、それが、固有周波数の励起を防ぐために利用される。
− ゼロ点間では、高周波数におけるスペクトルの振幅は、例えば三角形プロファイルのスペクトルに比べて相対的に低いままである、
という特徴がある。
最適化されたまたは最適化されていないベル形プロファイルを用いて加速される軸XおよびYに負荷をかけた後に平面XYから出て軸Zに沿って運動する様子を、R−Testを利用して、ツール送り速度F129、F272、F444、およびF645について測定した。図5は、444mm/分という送りレートF444について得られた結果を示す。図5から、最適化されていないベル形プロファイルの場合、工作機械の支配的なモードが強く励起され、本発明に従って最適化された同じプロファイルの場合はそうではない、ということを見てとることが可能になっている。加速段階中は、ピークが低減されており、一定速度段階中は、残留振動が実質的に存在しない。一定速度段階の開始時の振動の低減を定量化できるように、Z方向の相対運動のフーリエ変換を行った。図6は、37.5Hzの周波数のところの支配的なモードについて得られた結果をグループ化したものである。この図は、最適化された加速プロファイルのおかげで得られた改善を明らかに示しており、一定速度段階の開始時の振動の低減は、送りレートに応じて90%から97%の間である。
とは言え、たとえ加速プロファイルの最適化がピークの大いなる低減を可能にしたとしても、加速段階中の振動が完全に消滅するとは限らない、ということが図5に見てとれる。この不可避の運動は、工作機械の軸の加速に関連する慣性現象の結果である。それを排除するには、加速度はゼロでなければならなかったが、それは、機械加工軸という概念そのものと当然ながら相容れない。この不可避な運動を打ち消すために、本発明による方法の追加ステップは、この運動による影響が及ぶ軸に補償を適用することにある。
静的または動的補償
したがって、加速プロファイルの最適化は、残留振動を補償すべく、振動を受ける1つまたは複数の軸に対して位置目標値を追加することによって完了する。このステップは、ワークピース上の機械加工痕(machining mark)の大幅な低減にとって必要である。この補償は、静的であり、すなわち工作機械の静的モデル(閉ループ伝達関数の静的ゲイン)に基づいており、加速段階中にのみ適用されてもよく、好ましくは動的であり、すなわち工作機械の動的モデル(完全閉ループ伝達関数)に基づいており、加速段階および一定速度段階中に適用されてもよい。静的補償は、場合によっては十分となり得る。それは、工作機械上にただ1つの支配的な振動モードがあるときに十分である。その場合、そのモードに合わせて最適化された加速プロファイルと静的補償との組合せが十分となり得る。一方、複数の振動モードの存在下では、動的補償が、加速プロファイルの最適化中に考慮に入れられなかったモードの振動の減衰を可能にする。
図7は、動的補償によってもたらされた改善を明らかに示す。加速段階中、補償が、最適化された加速プロファイルと相まって、Z方向の相対運動の2μmから0.1μmの低減を可能にしている。
図8に示すように、加速プロファイルの先の最適化なしで動的補償だけでは、必ずしも十分であるとは限らない。最適化されていないベル形プロファイルに補償を加えたもの、および最適化されていないベル形プロファイルに補償を加えていないものを用いて得られた結果を、最適化されたベル形プロファイルに補償を加えたものの結果と比較した。最適化なしで、補償は、加速段階中のZ方向の運動を大いに低減させるが、一方、一定速度段階中の振動にはほとんど影響を及ぼさない、ということが見てとれる。
本発明による方法が機械加工品質に及ぼす作用を確認するために、さまざまなサンプルを、最適化ありまたはなしの(第1のケースでは場合によっては補償が加えられた)加速プロファイルを用いて、ツール軌道から開始して機械加工した。顕微鏡測定によって確認した、サンプルの視覚的解析により、加速プロファイルの最適化だけではフライス痕(milling mark)を排除することはできないと結論付けることが可能になった。一方、加速の最適化と動的補償とを組み合わせると、非常に明らかな視覚的改善と、当然の帰結として、表面状態を劣化させずとも送りレートを上げることのできる能力がもたらされる。したがって、加速プロファイルの最適化が静的または動的補償と相まって、フライス痕の深さの90%を上回る低減を可能にしている。
本発明の詳細な説明
加速プロファイルの決定
上で述べたように、最適化ステップは、消滅させたい固有周波数に周波数スペクトルにおける第1のゼロ点が対応するように、基本平滑プロファイルの加速時間Tを調整することにある。例えば、基本プロファイルは、以下の数式(式1)、
によるベル形プロファイルであり、上式で、Tは加速時間(s)に対応し、a、a、a、およびa(m/s)はそれぞれ、基本関数、
の乗算係数に対応する。
は、a、a、a、およびaとは無関係に、必要とされる周波数のところにスペクトルにおける第1のゼロ点があるように定められる。このために、式1の基本関数の各々についてのフーリエ変換の絶対値は、以下のようにゼロに等しくなければならない(式2)。
式1が4つの基本関数を含み、式2におけるフーリエ変換の絶対値が2つの式をもたらすので、以下の8つの式が満たされなければならない。
式1からの第1の基本関数のフーリエ変換の実部についての計算の詳細は、以下のようである。
したがって、
について、2πfres=kπである。
それにより、
が得られる。
残りの7つの式の解を求め、得られた値をグループ化することにより、以下の関係式が得られる。
したがって、可能な最短の加速時間を得るには、kは4に等しくなければならない。その場合、以下の式、
により、ベル形加速プロファイルを使用するときに一定速度段階中の振動ができるだけ迅速に打ち消されるために順守すべき条件が与えられる。
工作機械の固有モードをもはや励起しないようにベル形プロファイルが最適化された今、係数aからaの値の決定を可能にする4つの式を定式化することが残っている。
これらの4つの係数は、速度、加速度、および加速度の2次導関数値という観点からある特定の目標値に応答するように確立された、以下の4つの式に基づいて決定される。
=vmax
−a+a−a=0
第1の式は、加速段階の終了時に必要とされる最大速度(vmax)の定義を可能にするものである。第2の式は、初期および最終の加速度がゼロでなければならない、ということを確立するものである。第3の式は、時間t=T/2における最大加速度値amaxを与えることを可能にするものであり、最後に、第4の式は、加速度の2次導関数a”(0)の初期値jdot initを与えるものである。
上記の関係式を、送りレートが444mm/分であり、固有周波数が37.5Hzであり、最大加速度が0.57m/sであり、初期加速度の2次導関数値が−0.046m/sである、具体的状況に適用することによって、T=0.1067s、a=0.0694m/s、a=0.1150m/s、a=0.0551m/s、a=0.0095m/sが得られる。図9は、得られた加速プロファイルを、37.5Hzの周波数のところのゼロ点についてのその周波数スペクトルと共に示す。
静的または動的補償の適用
1つの軸に対する補償の目的は、その軸に沿ったワークピース−ツール間相対運動を打ち消すために、前記軸の位置目標値としての理想的な補償信号を生成することである。
リアルタイムで適用されるこの補償では、機械的モデルおよび調整を含む完全閉ループモデルを利用する。この完全モデルは、それ自体が当業者に知られており、3つの軸X、Y、およびZに関して図10に図式的に示されている。情報提供のみを目的として、このモデルについて、以下のように説明することができる。
− 機械系のモデリングは、工作機械の主要ボディ(シャーシ、フレーム、クロス支持体(cross-support)、柱(column)、タップ支持体(tup support))のうちの1つをそれぞれが表す剛体からなる系に基づく。
− ボディ間の接続(connection)は、剛性(直線運動、角運動)、および粘性タイプの減衰によって表される。
− 剛体のパラメータ(質量、慣性)の値、ならびに接続剛性(connection stiffness)の値は、構成要素に関するCADモデルおよび技術的データに基づいて事前に確立される。これらの値は、実験的測定、または有限要素タイプのデジタルモデルによって調整されてよく、デジタルモデルのほうがより正確である。
− リンク(link)の減衰特性は、測定または推定されたモード減衰値による逆座標の変換(モード−材料間)によって、事後に得られる。
− 系の完全なモデリングが、機械系のモデルに調整を加える。調整を伴う実施の場合、機械的モデル内に含まれる調整剛性(regulation stiffness)は排除される(ゼロ値である)。
図11は、振動を補償すべく軸の位置目標値の修正を可能にする本発明による補償伝達関数(Gcomp)が統合された、閉ループの論理図をより詳細に表す。以下の式は、軸XおよびYに負荷をかけることによって必要となる、Z方向の補償のための補償伝達関数を計算する手法について説明している。
上式で、sはラプラス変換の変数であり、QZRは、Z方向のワークピース−ツール間運動であり、WaxおよびWayは、X方向およびY方向の加速度目標値であり、WqxおよびWqyは、X方向およびY方向の位置目標値であり、Gclx、Gcly、およびGclzはそれぞれ、軸X、Y、およびZに関する閉ループ伝達関数である。
上記の定式化は、追加の軸に関する伝達関数を分子に追加して、4つまたは5つの軸に拡張することができる。
補償すべき複数の軸の存在下では、前述のアルゴリズムを使用して各軸が別々に処理される。
実際のところ、このモデルは、入力として、運動している軸の位置目標値および加速度目標値をとり、補償すべき軸の位置目標値、速度目標値、および加速度目標値を出力することができる。

Claims (15)

  1. 3つ、4つ、または5つの機械軸を備える工作機械上のワークピース−ツール間境界における振動現象を制限するための方法であって、
    − 励起軸と称する、前記工作機械軸のうちの少なくとも1つの軸の加速段階中に励起され、前記励起後に、コンプライアント軸と称する、前記少なくとも1つの励起軸とは異なる少なくとも1つの工作機械軸と同一直線上の方向に前記ワークピースと前記ツールとの間の相対運動を引き起こす傾向のある、前記工作機械の少なくとも1つの固有周波数fresを特定するステップと、
    − 先に特定された前記少なくとも1つの固有周波数fresに加速プロファイルの周波数領域における第1のゼロ点が対応するように決定された加速時間Tを有する平滑加速プロファイルを、各励起軸に対して適用するステップと、
    − 前記少なくとも1つの励起軸の前記加速段階中に、各コンプライアント軸に、前記ワークピースと前記ツールとの間のどんな残留相対運動も排除するように補償を適用するステップと、
    を含む方法。
  2. 各コンプライアント軸に対する前記補償が、前記加速段階に続く一定速度段階中にも適用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  3. 前記平滑加速プロファイルが、それぞれに異なる係数を乗算した複数の基本関数の和である数式に従い、Tが、各係数の選択とは無関係に、各基本関数が前記少なくとも1つの特定された固有周波数の前記励起によって発生する振動信号と直交するように、決定されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記係数が、前記加速段階の前後の前記少なくとも1つの励起軸の速度、最大加速度、および加速度の2次導関数値などの運動学的基準に基づいて決定されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
  5. 前記加速プロファイルがベル形プロファイルであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記加速プロファイルが、以下の数式、
    に従い、上式で、T(s)は前記加速時間であり、a、a、a、およびa(m/s)はそれぞれ、前記基本関数、
    の前記係数であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
  7. 先に特定された前記少なくとも1つの固有周波数fresに前記加速プロファイルの周波数領域における第1のゼロ点が対応するには、前記加速時間Tがk/fresに等しくかつk≧4でなければならないことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
  8. 前記パラメータa、a、a、およびaが、以下の式、
    =vmax
    −a+a−a=0
    に従い、上式で、
    maxは、前記加速段階に続く前記一定速度段階中の速度であり、
    maxは、時間t=T/2における最大加速度であり、
    dot initは、前記加速段階の開始時の加速度の2次導関数値である
    ことを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
  9. 前記少なくとも1つの固有周波数fresが、前記少なくとも1つの励起軸の前記加速段階による使用中の振動の測定を可能にする1つまたは複数のセンサが設けられた前記工作機械上で特定され、前記特定が、前記ワークピースを機械加工する前に実施され得ることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 前記ワークピースと前記ツールとの間の1μm以上の相対運動を引き起こす傾向のある1つまたは複数の前記固有周波数fresだけが、Tの前記決定のために保持されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
  11. 複数の固有周波数fresが、前記ワークピースと前記ツールとの間の1μm以上の相対運動を引き起こす傾向があるとき、前記加速プロファイルに適用される各励起軸についての補正が重畳されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
  12. 各コンプライアント軸に対して適用すべき前記補償が、前記少なくとも1つの励起軸の位置目標値および加速度目標値に基づいて決定されることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
  13. 各コンプライアント軸に対して適用すべき前記補償が、第1の関係式、
    CR(s)=GCLE(s)・WQE(s)+GCLC(s)・WQC(s)=0
    に基づいて決定され、上式で、sはラプラス変換の変数であり、
    CR(s)は、各コンプライアント軸に沿ったワークピース−ツール間運動であり、0に等しくなければならず、
    CLE(s)は、各励起軸の閉ループ伝達関数であり、
    CLC(s)は、各コンプライアント軸の閉ループ伝達関数であり、
    QE(s)およびWQC(s)はそれぞれ、各励起軸および各コンプライアント軸の位置目標値であり、
    各励起軸についての項GCLE(s)・WQE(s)に関して、
    前記第1の関係式に基づいて、第2の関係式、
    による補償伝達関数GCOMP(s)が計算され、
    各励起軸についての項GCLE(s)に関して、各項が前記第2の関係式の分子に追加される
    ことを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
  14. 請求項1から13のいずれか一項に記載の方法を実行するように適合され、特に、Tを決定し、かつ適用すべき前記補償を決定するために、前記少なくとも1つの固有周波数fresの前記特定から生じるデータを処理するように適合された、コンピュータプログラム。
  15. 請求項14に記載のコンピュータプログラムが実行される数値コントローラ。
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