JP2019171473A - フラックス入りワイヤ - Google Patents

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Abstract

【課題】溶融金属の垂れ落ち、スパッタ発生量、スラグ垂れ落ち及びアーク安定性の溶接作業性、並びにビード形状及びスラグ剥離性の全ての性能がバランスよく優れた、全姿勢溶接に好適であるガスシールドアーク溶接用のフラックス入りワイヤを提供する。【解決手段】鋼製外皮にフラックスが充填されたガスシールドアーク溶接用のフラックス入りワイヤは、ワイヤ全質量あたり、TiO2、Al2O3、金属Al、金属SiとSi酸化物とのSiO2換算値、金属ZrとZr酸化物とのZrO2換算値、金属MgとMg酸化物とのMgO換算値、フッ化物、C及びMnをそれぞれ所定範囲で含有するとともに、Alと前記Al2O3とのAl2O3換算値、ZrO2換算値、MgO換算値、及びSiO2換算値が、(Al2O3換算値+ZrO2換算値+MgO換算値)/SiO2換算値:0.35以上1.50以下を満たす。【選択図】なし

Description

本発明は、ガスシールドアーク溶接用のフラックス入りワイヤに関する。
造船所においては、工程の約3割を占める溶接作業について、省人化及び高能率化を促進するために、溶接の自動化及び高能率化の開発が進められている。特に、下向突合せ溶接及び水平すみ肉溶接については、溶接ロボット及びラインウェルダー等が導入され、更に専用の溶接材料が数多く開発されていることから、高能率化が比較的進んでいる。
一方、主に造船におけるブロック継ぎなどでの使用比率が高い立向上進溶接姿勢については、その適用溶接箇所が狭隘部であると共に、構造物の反転が不可能であるなどの理由で、自動化することが困難である。
溶接ロボットを使用した全姿勢溶接に適したフラックス入りワイヤとしては、例えば、特許文献1には、Al含有量とMg含有量を適切に制御することにより、立向上進性が優れ、立向上進性以外の溶接作業性、スラグ剥離性及び溶接金属の衝撃性能等が良好であるフラックス入りワイヤが提案されている。
特許第3824973号公報
しかし、溶接ロボットを利用した全姿勢溶接では、溶融金属の垂れ落ち、スパッタ発生量、スラグ垂れ落ち及びアーク安定性の溶接作業性のみならず、ビード形状及びスラグ剥離性を含めた全ての性能において、バランスよく優れていることが必要である。このため、より一層、これらの性能が優れた全姿勢溶接に好適なフラックス入りワイヤの開発が求められている。
本発明は、上述した状況に鑑みてなされたものであり、溶融金属の垂れ落ち、スパッタ発生量、スラグ垂れ落ち及びアーク安定性の溶接作業性、並びにビード形状及びスラグ剥離性の全ての性能がバランスよく優れた、全姿勢溶接に好適であるガスシールドアーク溶接用のフラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
本発明のフラックス入りワイヤは、鋼製外皮にフラックスが充填された、ガスシールドアーク溶接用のフラックス入りワイヤであって、ワイヤ全質量あたり、TiO:5.0質量%以上10.0質量%以下、Al:0.05質量%以上0.50質量%以下、金属Al:0.10質量%未満、金属SiとSi酸化物とのSiO換算値:1.0質量%以上3.5質量%以下、金属ZrとZr酸化物とのZrO換算値:0.05質量%以上0.50質量%以下、金属MgとMg酸化物とのMgO換算値:0.5質量%以上2.2質量%以下、フッ化物:0.05質量%以上0.30質量%以下、C:0.01質量%以上0.08質量%以下、Mn:2.0質量%以上4.0質量%以下を含有するとともに、AlとAlとのAl換算値、ZrO換算値、MgO換算値、及びSiO換算値が、(Al換算値+ZrO換算値+MgO換算値)/SiO換算値:0.35以上1.50以下を満たすものである。
上記フラックス入りワイヤは、さらに、Na、Na酸化物、K及びK酸化物から選択された少なくとも1種を含有し、ワイヤ全重量あたり、NaO換算値及びKO換算値の合計:0.01質量%以上0.30質量%以下を満たすことが好ましい。
本発明によれば、溶融金属の垂れ落ち、スパッタ発生量、スラグ垂れ落ち及びアーク安定性の溶接作業性、並びにビード形状及びスラグ剥離性の全ての性能がバランスよく優れた、全姿勢溶接に好適であるガスシールドアークアーク溶接用のフラックス入りワイヤを提供することができる。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
本発明者らは、溶接作業性が優れていると共に、ビード形状及びスラグの剥離性が良好となるガスシールドアーク溶接用のフラックス入りワイヤを得るために、フラックス入りワイヤ中の種々の成分の含有量について検討した。その結果、TiO、Al、金属Al、金属SiとSi酸化物とのSiO換算値、金属ZrとZr酸化物とのZrO換算値、金属MgとMg酸化物とのMgO換算値、フッ化物、C、及びMnの各成分量を調整するとともに、SiO換算値に対する、AlとAlとのAl換算値、
ZrO換算値及びMgO換算値の総和を適切に調整することが効果的であることを見出した。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤ(以下、単にワイヤともいう)は、ワイヤ全質量あたり、TiO:5.0質量%以上10.0質量%以下、Al:0.05質量%以上0.50質量%以下、金属Al:0.10質量%未満、金属SiとSi酸化物とのSiO換算値:1.0質量%以上3.5質量%以下、金属ZrとZr酸化物とのZrO換算値:0.05質量%以上0.50質量%以下、金属MgとMg酸化物とのMgO換算値:0.5質量%以上2.2質量%以下、フッ化物:0.05質量%以上0.30質量%以下、C:0.01質量%以上0.08質量%以下、Mn:2.0質量%以上4.0質量%以下を含有するとともに、AlとAlとのAl換算値、ZrO換算値、MgO換算値、及びSiO換算値が、(Al換算値+ZrO換算値+MgO換算値)/SiO換算値:0.35以上1.50以下を満たすものである。
本実施形態のフラックス入りワイヤは、鋼製外皮内にフラックスが充填されたものである。詳細には、本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、筒状を呈する鋼製外皮と、その外皮の内部(内側)に充填されるフラックスとからなる。なお、フラックス入りワイヤは、外皮に継目のないシームレスタイプ、外皮に継目のあるシームタイプのいずれの形態であってもよい。また、フラックス入りワイヤは、ワイヤ表面(外皮の外側)にCuなどのメッキなどが施されていても、施されていなくてもよい。また、本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、いわゆる軟鋼系のワイヤである。
なお、本実施形態に係るフラックス入りワイヤのワイヤ径(直径)は、特に限定されるものではないが、ワイヤ送給安定性の観点から、好ましくは1.2〜4.0mmであり、より好ましくは1.2〜2.4mmである。
そして、本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、ワイヤ全質量に対して各成分が所定の含有量となるとともに、一部の成分の含有量については、所定の関係式を満たすものである。以下、本実施形態に係るフラックス入りワイヤの組成について、その成分添加理由及び組成限定理由について説明する。
なお、以下の説明において、フラックス入りワイヤ中の各成分量は、特に断りのない限り、ワイヤ全質量(外皮と、外皮内のフラックスの合計量)あたりの含有量として規定される。
本実施形態において、Ti酸化物として、TiOが代表的なTi酸化物として含まれている。Ti酸化物としては、その他の酸化物が含まれる可能性もあるが、本実施形態では、これらの他の酸化物も含めてTiOとして記載している。酸化物成分について、SiO、ZrO、Alなどの他の酸化物成分についても同様である。
また、例えば「金属Al」といった場合には、「純金属Al」及び「合金Al」のうちの一種以上、すなわち金属単体や合金に含まれるAlの合計を意味する。「金属Si」や「金属Mg」など他の元素でも同様である。すなわち、金属としてのものとは、酸化物ではないということを意味する。
更に、「酸化物」とは「単一酸化物」及び「複合酸化物」のうちの一種以上を意味する。「単一酸化物」とは、例えば、SiならばSi単独の酸化物(SiO)をいい、「複合酸化物」とは、これら単一酸化物が複数種類集合したものと、例えば、Zr、Si、Mgといった複数の金属成分を含む酸化物との双方をいう。
<TiO:5.0質量%以上10.0質量%以下>
TiOは、一般的にはスラグ形成剤及びアーク安定剤として作用する。本実施形態においては、フラックス及び外皮を含む全構成物に含まれる、金属Ti及び全てのTi酸化物中のTiを、TiOに換算したものをTiOと規定している。
TiOが5.0質量%未満では、溶融金属を支えるだけのスラグ量を確保することができず、溶融金属が垂れ落ちてしまうことから、TiOは5.0質量%以上とし、好ましくは6.0質量%以上とする。
一方、TiOが10.0質量%を超えると、アークが不安定となり、スパッタの発生が増加することから、TiOは10.0質量%以下とし、好ましくは9.0質量%以下とする。
<Al:0.05質量%以上0.50質量%以下>
Alは、スラグ凝固点を上昇させる作用を有する。ここで、Alは、Al酸化物のAl換算値である。
Alの含有量が0.05質量%未満では、スラグ凝固点を上昇させる効果を得ることができず、スラグが垂れ落ちてしまうことから、Alの含有量は0.05質量%以上とし、好ましくは0.07質量%以上とする。
一方、Alの含有量が0.50質量%を超えると、ビード形状が劣化することから、Alの含有量は0.50質量%以下とし、好ましくは0.40質量%以下とする。
<金属Al:0.10質量%未満>
金属Alは、溶接部分の金属の靱性に影響する成分であると共に、スラグ形成剤として作用する。
金属Alの含有量が0.10質量%以上では、ビード形状が劣化し、溶接部分の靱性も低下する。このため、Al含有量は0.10質量%未満とし、好ましくは0.08質量%未満である。
<SiO換算値:1.0質量%以上3.5質量%以下>
金属Si及びSi酸化物は、スラグ形成剤及びアーク安定剤として作用する。本実施形態においては、フラックス及び外皮を含む全構成物に含まれる、金属Si及び全てのSi酸化物中のSiを、SiOに換算したSiO換算値として規定している。
SiO換算値が1.0質量%未満では、アークが不安定となってスパッタの発生が増加することから、SiO換算値は1.0質量%以上とし、好ましくは1.2質量%以上とする。
一方、SiO換算値が3.5質量%を超えると、スラグが固くなりスラグ剥離性が低下することから、SiO換算値は3.5質量%以下とし、好ましくは3.2質量%以下とする。
なお、SiO(Si酸化物のSiO換算値)の含有量は、好ましくは0.10質量%以上、より好ましくは0.20質量%以上であり、好ましくは1.00質量%以下、より好ましくは0.80質量%以下である。
また、金属Siの含有量は、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.3質量%以下である。
<ZrO換算値:0.05質量%以上0.50質量%以下>
金属Zr及びZr酸化物は、スラグ凝固点を上昇させると共にアーク安定剤としての作用などを有する。本実施形態においては、フラックス及び外皮を含む全構成物に含まれる金属Zr及び全てのZr酸化物中のZrを、ZrOに換算したZrO換算値として規定している。
ZrO換算値が0.05質量%未満では、スラグ凝固点を上昇させる効果を得ることができず、スラグが垂れ落ちてしまい、また、アーク安定剤としての効果を得ることができないことから、ZrO換算値は0.05質量%以上とし、好ましくは0.08質量%以上とする。
一方、ZrO換算値が0.50質量%を超えると、アークが不安定になり易く、スパッタの発生が増加することから、ZrO換算値は0.50質量%以下とし、好ましくは0.40質量%以下とする。
<MgO換算値:0.5質量%以上2.2質量%以下>
金属Mg及びMg酸化物は、スラグ凝固点を上昇させると共に、アーク安定剤としての作用を有する。本実施形態においては、フラックス及び外皮を含む全構成物に含まれる金属Mg及び全てのMg酸化物中のMgを、MgOに換算したMgO換算値として規定している。
MgO換算値が0.5質量%未満では、スラグ凝固点を上昇させる効果を得ることができず、スラグが垂れ落ちてしまい、また、アーク安定剤としての効果を得ることができないことから、MgO換算値は0.5質量%以上とし、好ましくは0.7質量%以上とする。
一方、MgO換算値が2.2質量%を超えると、ビート形状が劣化することから、MgO換算値は2.2質量%以下とし、好ましくは2.0質量%以下とする。
なお、MgO(Mg酸化物のMgO換算値)の含有量は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上であり、好ましくは0.50質量%以下、より好ましくは0.40質量%以下である。
また、金属Mgの含有量は、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.25質量%以上であり、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下である。
<フッ化物:0.05質量%以上0.30質量%以下>
フッ化物は、アーク安定剤として作用する。
フラックス及び外皮を含む全構成物に含まれるフッ化物の含有量が合計で0.05質量%未満では、アーク安定剤としての効果を得ることができないことから、フッ化物の含有量は0.05質量%以上とし、好ましくは0.06質量%以上とする。
一方、フッ化物の含有量が合計で0.30質量%を超えると、スラグの垂れ落ちが生じやすくなることから、フッ化物の含有量は0.30質量%以下とし、好ましくは0.26質量%以下とする。
具体的なフッ化物としては、KSiF、NaF、CaFなどが挙げられる。
<C:0.01質量%以上0.08質量%以下>
Cは、溶接金属の焼き入れ性と靱性を向上させる作用を有する。
Cの含有量が0.01質量%未満では、溶接金属の焼き入れ不足となり、靱性が十分に得られないことから、Cの含有量は0.01質量%以上とし、好ましくは0.02質量%以上とする。
一方、Cの含有量が0.08質量%を超えると、アークの吹きつけが強くなり、スパッタ発生量が増加することから、Cの含有量は0.08質量%以下とし、好ましくは0.07質量%以下とする。
<Mn:2.0質量%以上4.0質量%以下>
Mnは、脱酸剤として作用すると共に、溶接金属における強度及び靱性を向上させる作用などを有する。
Mnの含有量が2.0質量%未満では、脱酸不足のため、溶接部にブローホール等の溶接欠陥が発生したり、強度及び靱性が低下したりすることから、Mnの含有量は2.0質量%以上とし、好ましくは2.2質量%以上とする。
一方、Mnの含有量が4.0質量%を超えると、溶接金属の強度が大きくなりすぎて高温割れが生じやすくなることから、Mnの含有量は4.0質量%以下とし、好ましくは3.8質量%以下とする。
ここで、Mnは、金属MnおよびMn酸化物中に含まれる全Mnを意味している。
<(Al換算値+ZrO換算値+MgO換算値)/SiO換算値:0.35以上1.50以下>
本実施形態では、SiO換算値に対する、Al換算値、ZrO換算値及びMgO換算値の総和を限定するが、上記式において用いられるAl換算値は、フラックス及び外皮を含む全構成物に含まれる金属Al及び全てのAl酸化物中のAlを、Alに換算したものとする。また、ZrO換算値、MgO換算値及びSiO換算値は、上述の通りである。
SiO換算値に対する、Al換算値、ZrO換算値及びMgO換算値の総和が0.35未満では、ビード形状が悪化し、また、スラグ剥離性が低下することから、上記関係式の値は0.35以上とし、好ましくは0.45以上とする。
一方、SiO換算値に対する、Al換算値、ZrO換算値及びMgO換算値の総和が1.50を超えると、アークが不安定になり、また、ビード形状が悪化することから、上記関係式の値は1.50以下とし、好ましくは1.30以下とする。
<NaO換算値及びKO換算値の合計:0.01質量%以上0.30質量%以下>
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、任意成分として、更に、Na、Na酸化物、K及びK酸化物から選択された少なくとも1種を含有することが好ましい。そして、これらの酸化物換算値を適切に調整することにより、全姿勢溶接において、より好適であるフラックス入りワイヤを得ることができる。
NaOとKOは、アーク安定剤として作用するが、多すぎるとスラグの粘性を下げる方向に作用し、スラグの垂れ落ちが生じ易くなる。
フラックス及び外皮を含む全構成物に含まれるNaO換算値とKO換算値との合計が0.01質量%未満では、アーク安定剤としての効果を得ることができないことから、これら合計値は0.01質量%以上とし、好ましくは0.05質量%以上とする。
一方、NaO換算値とKO換算値との合計が0.30質量%を超えると、スラグの垂れ落ちが生じ易くなることから、これら合計値は0.30質量%以下とし、好ましくは0.25質量%以下とする。
なお、上記NaO換算値は、フラックス及び外皮を含む全構成物に含まれる金属Na及び全てのNa酸化物中のNaを、NaOに換算した値である。また、上記KO換算値は、フラックス及び外皮を含む全構成物に含まれる金属K及び全てのK酸化物中のKを、KOに換算した値である。
<Fe:80〜93質量%>
Feは、フラックス入りワイヤの主要成分である。溶着量や、他の成分組成の関係から、Feの含有量は、ワイヤ全質量あたり80〜93質量%であることが好ましく、より好ましくは82〜92質量%である。
ここで、本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、前述のFe、TiO、Al、金属Al、SiO換算値、ZrO換算値、MgO換算値、フッ化物、C、及びMnを合計で、95%以上含有する。この合計は、98%以上であることが好ましい。
<残部>
本実施形態に係るフラックス入りワイヤの残部には、不可避的不純物が含まれる。そして、本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、上記したワイヤの成分の他、フラックス中に、その効果を妨げない範囲で、Cr、Mo、Cu等を溶接金属のさらなる硬化剤として少量含有させてもよい。例えば、Cr、Mo、Cu等が各々0.1質量%未満、Vを各々0.5質量%未満、含有してもよい。また、P、S、Sn、V等が各々0.030質量%以下、含有してもよい。
<その他:フラックス充填率>
本実施形態に係るフラックス入りワイヤのフラックス充填率(=フラックス質量/ワイヤ全質量×100)は、特に限定されない。
ただし、フラックス充填率が10質量%未満であると、アークの安定性が悪くなるとともにスパッタ発生量が増加し、溶接作業性が低下することから、フラックス充填率は好ましくは10質量%以上とし、より好ましくは14質量%以上とする。
一方、フラックス充填率が25質量%を超えると、ワイヤの断線が発生したり、フラックスの充填中に粉がこぼれ落ちたりする等、生産性が低下することから、フラックス充填率は好ましくは25質量%以下とし、より好ましくは20質量%以下とする。
続いて、本実施形態に係るフラックス入りワイヤの製造方法を説明する。
[ワイヤの製造方法]
本実施形態に係るフラックス入りワイヤの製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に示す方法で製造することができる。
まず、鋼製外皮を構成する鋼帯を準備し、この鋼帯を長手方向に送りながら成形ロールにより成形して、U字状のオープン管にする。次に、所定の成分組成となるように、各種原料を配合したフラックスを鋼製外皮に充填し、その後、断面が円形になるように加工する。その後、冷間加工により伸線し、例えば1.2〜2.4mmのワイヤ径のフラックス入りワイヤとする。
なお、冷間加工途中に焼鈍を施してもよい。また、製造の過程で成形した鋼製外皮の合わせ目を溶接した継ぎ目が無いワイヤと、前記合わせ目を溶接せず隙間のまま残すワイヤのいずれの構造も採用することができる。
以下、発明例及び比較例を挙げて本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
表1に発明例及び比較例のフラックス入りワイヤの成分含有量を示す。表1中の成分以外の残部の主成分はFeであり、不可避不純物としてP、S、N及びCu等を含む。なお、表1中の「−」は、該当する成分が積極的に添加されていないことを示す。
Figure 2019171473
上記表1に示した試験No.1〜9(発明例)及び試験No.10〜23(比較例)のフラックス入りワイヤを使用し、被溶接材としてJIS G 3106、SM490Aの鋼板を使用し、シールドガスとして100質量%COを流量25リットル/分で供給して、下記(1)〜(3)の各溶接試験を実施し、その溶接性について評価した。
(1)立向上進溶接による溶接金属及びスラグの垂れ落ち性の評価
下記表2に示す方法で、立向上進溶接を行い、溶接金属及びスラグの垂れ落ち性を評価した。評価基準は次のとおりである。
(1−1)溶接金属の垂れ落ち評価
溶接金属の垂れ落ちが発生せず、良好であったもの:〇
溶接金属の垂れ落ちが発生したもの:×
(1−2)スラグの垂れ落ち評価
スラグの垂れ落ちが発生せず、良好であったもの:〇
多少のスラグの垂れ落ちは発生したものの実用上問題のない程度であったもの:△
スラグの垂れ落ちが発生したもの:×
Figure 2019171473
(2)スパッタ発生量、アーク安定性、スラグ剥離性及びビード形状の評価
立向上進すみ肉溶接を行うことにより、スパッタ発生量の官能評価、アーク安定性の官能評価、及びスラグ剥離性の評価を行った。また、ビード形状についても官能評価を行った。評価基準は次のとおりである。
(2−1)スパッタ発生量の評価
スパッタ発生量が少ないもの(スパッタ発生量:1.5g/分未満):○
スパッタ発生量がやや多いもの(スパッタ発生量:1.5g/分以上):×
(2−2)アーク安定性の評価
アーク集中性が良好であったもの:○
アーク集中性が不良であり、アークのバタつきが発生したもの:×
(2−3)スラグ剥離性の評価
スラグ剥離性が良好なもの(スラグ自然剥離率(=スラグ自然剥離長さ/溶接長):25%以上):○
スラグ剥離性が不良なもの(スラグ自然剥離率(=スラグ自然剥離長さ/溶接長):25%未満):×
(2−4)ビード形状の評価
ビード形状が良好であったもの:〇
ビード形状が不良であったもの:×
(3)機械的性能の評価
溶接により得られた金属片について、高温割れ、靭性及び強度を評価した。
(3−1)高温割れの評価
高温割れが発生しなかったもの:○
高温割れが発生したもの:×
なお、上記高温割れは、X線透過試験により検出した。
(3−2)靭性の評価
JIS G 3106(SM490A)に該当する供試鋼板を使用し、JIS Z 3313に規定されている全溶着金属についての試験方法に準じ、溶接した。評価基準は次のとおりである。
シャルピー衝撃試験による吸収エネルギーが60J以上90J未満のもの:○
シャルピー衝撃試験による吸収エネルギーが60J未満のもの:×
(3−3)強度の評価
上記靱性の評価における条件と同条件とした。評価基準は次のとおりである。
引張強さが500〜640MPaであったもの:〇
引張強さが上記範囲外であったもの:×
上述の各溶接試験の評価結果を下記表3に示す。
Figure 2019171473
表1及び表3の結果に示すように、比較例である試験No.10は、金属Alの含有量が本発明範囲の上限値を超えているため、ビード形状が不良となっている。また、靭性の評価結果が発明例と比較して低下している。
比較例である試験No.11は、TiOの含有量が本発明範囲の下限値未満であるため、溶接金属の垂れ落ちが発生している。
比較例である試験No.12は、Alの含有量が本発明範囲の下限値未満であるため、スラグの垂れ落ちが発生している。
比較例である試験No.13は、Alの含有量が本発明範囲の上限値を超えているため、ビード形状が不良となっている。
比較例である試験No.14は、SiO換算値が本発明範囲の下限値未満であるため、アークが不安定となってスパッタ発生量が増加している。
比較例である試験No.15は、SiO換算値が本発明範囲の上限値を超えているため、スラグ剥離性が低下している。
比較例である試験No.16は、ZrO換算値が本発明範囲の下限値未満であるため、アークが不安定となり、スラグの垂れ落ちが発生している。
比較例である試験No.17は、ZrO換算値が本発明範囲の上限値を超えているため、スパッタ発生量が増加している。
比較例である試験No.18は、MgO換算値が本発明範囲の下限値未満であるため、アークが不安定となり、スラグの垂れ落ちが発生している。
比較例である試験No.19は、MgO換算値が本発明範囲の上限値を超えているため、ビード形状が不良となっている。
比較例である試験No.20は、フッ化物の含有量が本発明範囲の下限値未満であるため、アークが不安定となっている。
比較例である試験No.21はフッ化物の含有量が本発明範囲の上限値を超えているため、スラグの垂れ落ちが発生している。
比較例である試験No.22は、(Al換算値+ZrO換算値+MgO換算値)/SiO換算値の式により得られる値が本発明範囲の下限値未満であるため、ビード形状が不良となり、スラグ剥離性も低下している。
比較例である試験No.23は、上記式により得られる値が本発明範囲の上限値を超えているため、アークが不安定となり、ビード形状が不良となっている。
これに対し、発明例である試験No.1〜9は、いずれも本発明の規定範囲を全て満たしているため、溶融金属の垂れ落ち、スパッタ発生量、スラグ垂れ落ち及びアーク安定性の溶接作業性、並びにビード形状及びスラグ剥離性において良好な結果が得られている。また、機械的性能に関する、高温割れ、靱性及び強度のいずれにおいても良好な結果が得られている。
特に、試験No.1〜8は、NaO換算値及びKO換算値の合計における好ましい数値範囲を満たしているため、スラグ垂れ落ちを含む全ての評価について優れた結果が得られた。
なお、下向及び水平すみ肉溶接の溶接作業性についても、同様の試験により確認したが、発明例はいずれも良好であった。
以上詳述したように、本発明によれば、溶融金属の垂れ落ち、スパッタ発生量、スラグ垂れ落ち及びアーク安定性の溶接作業性、並びにビード形状及びスラグ剥離性がバランスよく優れた、全姿勢溶接に好適であるアーク溶接用のフラックス入りワイヤを得ることができる。

Claims (2)

  1. 鋼製外皮にフラックスが充填された、ガスシールドアーク溶接用のフラックス入りワイヤであって、
    ワイヤ全質量あたり、
    TiO:5.0質量%以上10.0質量%以下、
    Al:0.05質量%以上0.50質量%以下、
    金属Al:0.10質量%未満、
    金属SiとSi酸化物とのSiO換算値:1.0質量%以上3.5質量%以下、
    金属ZrとZr酸化物とのZrO換算値:0.05質量%以上0.50質量%以下、
    金属MgとMg酸化物とのMgO換算値:0.5質量%以上2.2質量%以下、
    フッ化物:0.05質量%以上0.30質量%以下、
    C:0.01質量%以上0.08質量%以下、
    Mn:2.0質量%以上4.0質量%以下
    を含有するとともに、
    前記Alと前記AlとのAl換算値、前記ZrO換算値、前記MgO換算値、及び前記SiO換算値が、
    (Al換算値+ZrO換算値+MgO換算値)/SiO換算値:0.35以上1.50以下を満たすことを特徴とするフラックス入りワイヤ。
  2. さらに、Na、Na酸化物、K及びK酸化物から選択された少なくとも1種を含有し、
    ワイヤ全重量あたり、
    NaO換算値及びKO換算値の合計:0.01質量%以上0.30質量%以下を満たす、請求項1に記載のフラックス入りワイヤ。
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