JP2019168621A - 透明スクリーンガラス、及びディスプレイシステム - Google Patents

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Yohei Sato
陽平 佐藤
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勝人 田中
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都築  達也
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Abstract

【課題】本発明は、反射タイプの透明スクリーンとして光散乱性と透視性とを両立させた、ガラス板製の透明スクリーンガラスを提供することを課題とする。【解決手段】プロジェクターによる映像コンテンツを、前記プロジェクターの投影側に投影像として表示可能な透明スクリーンガラスにおいて、前記透明スクリーンガラスは、第一主面と、前記第一主面と対向する第二主面とを備えるガラス基材を有し、前記第一主面は、前記投影像を表示する映像表示領域である、光散乱性の表面凹凸構造を備え、前記表面凹凸構造は、算術平均粗さ(Ra)が0.005μm〜0.4μm、平均間隔(RSm)が0.5μm〜120μmの構造であり、前記ガラス基材の全光線透過率が85%以上である、透明スクリーンガラス。【選択図】図1

Description

本発明は、プロジェクターの投影側に表示させる映像コンテンツの視認性とスクリーンの向こう側の物体等が透過して見える視認性を備えた透明スクリーンガラスに関する。
商業ビルのショーウィンドウや案内板等に、光透過性を保持したまま広告等の情報を投影表示する透明スクリーンが、建築物分野において近年注目を集めている。また、建築物分野だけでなく、車両のフロントガラスに位置や速度情報等を投影するヘッドアップディスプレイ(HUD)としての透明スクリーンの利用も近年盛んに研究されている。
プロジェクターの映像コンテンツを投影するための透明スクリーンは、プロジェクター等の光源側(「投影側」と記載することもある)からスクリーンに投影された投影像を視認する反射タイプ(フロントプロジェクションタイプ)と、スクリーンを挟んで光源と反対側(「透過側」と記載することもある)から投影像を視認する透過タイプ(リアプロジェクションタイプ)とが広く知られている。
例えば特許文献1には、反射タイプにも透過タイプにも使用できる透明スクリーンとして、樹脂中に光輝性薄片状微粒子又は略球状微粒子を有する透明光散乱層と、当該透明光散乱層の面上に微細構造層とを備える樹脂性のシート状透明積層体が開示されている。当該シート状透明積層体は、透明光散乱層内で投影光を異方的に散乱反射させ、表面の微細構造層によって外光の映り込み現象やスクリーン表面における入射光の反射を低減させる旨が記載されている。また、上記の微細構造層の表面には、光に対する反射防止機能を発揮し得る微小凹凸を形成する旨が開示されている。また、実施例において、当該シート状透明積層体の全光線透過率が74〜93%程度、ヘーズが約2〜17%程度であることが開示されている。
また、特許文献2には、外光によるスクリーンのコントラストの低下や、光源の正反射に由来するホットスポット等の映り込みを抑制するために、映像光側の面に特殊な形状の凹凸構造を設けた反射スクリーンが開示されている。当該反射スクリーンは樹脂フィルム表面に上記凹凸構造を形成し、当該凹凸構造に対し映像光源と反対側に光反射部を設けることによって、光源側から映像を視認可能にする旨が記載されている。当該文献の反射スクリーンはいわば従来型のミラーであり、上記の凹凸構造については、ホットスポットを低減させる効果を得るために、全光線透過率が90%以上、ヘーズが約68〜72%とすることが好ましい旨が開示されている。
また、ガラス板を用いた透過タイプのスクリーンとしては、例えば特許文献3には、ガラス基材上に、ダイヤモンドなどの高屈折率粒子が分散された光散乱性被膜を形成した透過タイプの透明スクリーンガラスが開示されている。当該文献の実施例において、透過率が約80〜90%、ヘーズが約1.5〜17%である旨が開示されている。
また、反射タイプの透明スクリーンガラスとしては、例えば特許文献4には、2枚のガラス板間にAgを有する厚さ1〜100nmの金属薄膜を挟持させ、金属薄膜の金属組成を工夫することによって、金属薄膜から反射される映像光の色味又は映像視認性が改善された反射型透明スクリーンが開示されている。また、通常、金属薄膜は入射光を正反射するが散乱させる機能は持たないため、当該文献では、樹脂フィルムに凹凸構造を形成し、当該凹凸構造上に上記金属薄膜を成膜することによって、多方面に正反射を生じさせ視野角を広げている。当該文献の実施例には、反射型透明スクリーンの可視光透過率が約54〜76%程度、ヘーズが1〜5%程度であることが記載されている。
また、例えば特許文献5には、背景よりも暗い視認位置から視認した場合であっても、映像を視認することができる上、背景も眺めることができるような、透明スクリーン用の映像投影用構造体として、凹凸表面を有する第1の透明層と、該凹凸表面に厚さ10nm〜10000nmの範囲の金属、金属酸化物、金属窒化物等の反射層とを有する映像投影用構造体が提案されている。凹凸状の反射層は、いわゆるハーフミラーとして機能し、反射層によって入射光の一部を反射、凹凸形状により散乱させ、他の一部を透過させることができる。当該文献では、上記の特許文献4と同様に樹脂フィルム上に凹凸構造を形成し、当該凹凸構造上に反射層を設けている。また、実施例において、この映像投影用構造体の全反射率は30%〜90%の範囲、ヘーズは約10〜61%であり、外観が白銀色や銀色、白色である旨が記載されている。
また、例えば特許文献6には、視野角が広く、写像性及び透明性に優れた投射型映像表示スクリーンを得られる透視可能な積層体として、2つの透明基材の間に微粒子を含む中間樹脂膜を有し、基材の最表面の中心面平均粗さSRaが0.05〜5.5nmである積層体が開示されている。上記の積層体は、中間樹脂膜が光拡散機能を有し、当該積層体の表面を極めて平滑にすることで、高い写像性を実現できる旨が記載されている。また、実施例において、当該積層体の全光線透過率が70〜89%程度、ヘーズが3〜31%程度であることが開示されている。
車両用の透明スクリーンとしては、例えば特許文献7には、鉄道車両の窓開口部に透明ガラススクリーンを設置し、車内側から上記透明ガラススクリーンに画像を投影する投影手段を備えた車両用画像表示装置が提案されている。当該文献の透明ガラススクリーンは前述した透過タイプとしての利用が記載されているが、車内からも視認可能である旨が開示されている。
また、特許文献8には、車両のフロントガラスの内面に一体化して設けられるか、または前記フロントガラスの手前に配置されたスクリーン部への投写を行うプロジェクターを備えた車両用ヘッドアップディスプレイにおいて、 前記スクリーン部を半透過ミラーにて構成した表示システムが開示されている。
特開2017−015824号公報 特開2011−253107号公報 特開2017−21155号公報 国際公開2017/111111号 特開2017−223907合公報 国際公開2016/143566号 特開2017−178185号公報 特開2000−203309号公報
透明スクリーンの基材として樹脂材料を用いた場合、樹脂材料が露出すると、光や熱、傷等への耐久性が懸念される。近年、建築物用や車両用の窓ガラス材、屋内や屋外で使用するパーティションガラスを透明スクリーンガラスとしてディスプレイ等として用いることが検討されている。
前述したように、映像を投影するスクリーンには鮮鋭性が要求される。ガラス板製の透明スクリーンガラスの場合、透明スクリーンガラスの光散乱性を高めることによって高い鮮鋭性を得ることが可能だが、一方で光散乱性が高くなると透視性、すなわち、スクリーンを通して投影側から透過側に位置する物体や光景を視認可能である性能が低くなる傾向にある。特に反射タイプの透明スクリーンガラスにおいては、鮮鋭性の高い投影像を得るために透過タイプよりも光散乱性を高める必要があり、透明スクリーンガラスの透視性を損ない易いという問題があり、光散乱性と透視性とを両立させることが検討されている。
上記のような問題に対し、例えば前述した特許文献4、5では、反射機能を有する特殊な金属等の薄膜をスクリーン用ガラス基板の内部に設けることによって、適度な透視性を維持しながら投影像を視認させる透明スクリーンガラスが提案されている。通常、金属薄膜は正反射しか生じないため視野角に乏しく、透明スクリーンとしては適さないが、上記の文献では凹凸構造を有する樹脂フィルム上に当該金属薄膜を形成することで、広い視野角を実現する旨が記載されている。また、特許文献6では、光散乱性を示す微粒子を含む樹脂層をスクリーン用ガラス基板内部に設けることが提案されている。しかし、特許文献4〜6のように、合わせガラスの間に任意の樹脂材を設けると、一体化させる際に用いる接着性樹脂との密着性が低下し、合わせガラスの強度が低下する場合がある。
以上より、本発明は、反射タイプの透明スクリーンとして光散乱性と透視性とを両立させた、ガラス板製の透明スクリーンガラスを提供することを課題とする。
上記の課題について鋭意検討を行ったところ、ガラス基材の投影側表面に特定の凹凸構造を形成することによって光散乱性と透視性とを両立させ、反射タイプとして有用な透明スクリーンガラスが得られることがわかった。また、さらに、ガラス基材の投影側表面を直接粗面化して上記の凹凸構造を形成しても、前述した課題を解決できることを見出した。
本発明は、プロジェクターによる映像コンテンツを、前記プロジェクターの投影側に投影像として表示可能な透明スクリーンガラスにおいて、前記透明スクリーンは、第一主面と、前記第一主面と対向する第二主面とを備えるガラス基材を有し、前記第一主面は、前記投影像を表示する映像表示領域である、光散乱性の表面凹凸構造を備え、前記表面凹凸構造は、算術平均粗さ(Ra)が0.005μm〜0.4μm、平均間隔(RSm)が0.5μm〜120μmの構造であり、前記ガラス基材の全光線透過率が85%以上である、透明スクリーンガラスである。
本発明によって、光散乱性粒子や樹脂材を用いることなく、投影側ガラス板の表面構造を改変して光学特性を改善することによって、反射タイプの透明スクリーンガラスとして光散乱性と透視性とを両立させたガラス板製の透明スクリーンガラスを得る事が可能となった。
本発明の実施例において、投影側の光散乱性を評価する評価方法を説明する図である。 本発明の実施例において、透過側の光散乱性を評価する評価方法を説明する図である。
1:用語の説明
本明細書の用語を以下に説明する。
(投影側、透過側、投影像)
前述したように、本明細書ではプロジェクター等の映像光源側を「投影側」、スクリーンを挟んで映像光源と反対側を「透過側」と記載する。また、「投影像」は、スクリーンに投影された像であればよく、投影側から視認するものでも、透過側から視認するものでもよい。また、特に「反射像」と記載する時は投影側から視認した投影像を、「透過像」と記載する時は透過側から視認した投影像を、それぞれ示すものとする。
(第一主面、第二主面)
本明細書における「第一主面」及び「第二主面」は、ガラス基材のガラス面を指すものであり、第一主面と第二主面とは対向する。また、第一主面及び第二主面は、プロジェクター等の光源からの光が入射する側の面又は透過する側の面であるとしてもよい。
(算術平均粗さ、平均間隔)
算術平均粗さ(Ra)、平均間隔(RSm)は、JIS−B−0601(2001)に準拠して求められるものであり、本明細書においてはレーザー顕微鏡(レーザーテック製、型番:OPTELICS HYBRID L3)を用いることで求めた値を用いるものとした。
(透視性)
本明細書における「透視性」とは、投影していないときに、透過側に位置する物体や光景を、透明スクリーンガラスを通して投影側から鮮明に視認可能であることを指すものとする。また、本明細書の実施例においては、透明スクリーンガラスの投影側の面に対し、垂直方向へ1m離れた位置に立ち、透過側の面から3m離れた位置にある物体を、透明スクリーンガラスを透して目視で観察した場合に、当該物体を鮮明に視認できたものを「透視性がある」と評価した。
(光散乱性)
本明細書のおける「光散乱性」とは、透明スクリーンガラスの表面で光を散乱し、投影像を形成することを指すものとする。本明細書の実施例においては、透明スクリーンガラスの投影側の面を0°とし、45°へ1m離れた位置に置いたプロジェクターから当該透明スクリーン表面へ投影させ、投影像を所定の方向へ100cm離れた位置から観察した際に、投影像を視認出来たものを「光散乱性がある」と評価した。
(全光線透過率、ヘーズ)
全光線透過率は、JIS K7361−1(1997年)に準拠して求められるものであり、本明細書においては、スガ試験機製テーブルヘーズメーター(HZ−T)を用いて求めた値を用いるものとした。また、本明細書のヘーズは、JIS K7105、JIS K7136に準拠して求められるものであり、上記装置で測定した値を用いた。
2:表面凹凸構造
透明スクリーン用の基材としては、通常平滑な表面を有する透明なガラス板や樹脂板が用いられている。本発明の透明スクリーンガラスは、第一主面と、前記第一主面と対向する第二主面とを備えるガラス基材を有するものであり、前記第一主面は、前記投影像を表示する映像表示領域である、光散乱性の表面凹凸構造を備える。以下、表面凹凸構造について詳述する。
本発明の透明スクリーンガラスは、上記ガラス基材の表面凹凸構造の算術平均粗さ(Ra)を0.005μm〜0.4μm、平均間隔(RSm)を0.5μ〜120μmとすることで、透明スクリーンガラスに要求される透視性と、当該表面凹凸構造に照射された可視光線を散乱させる光散乱性とを両方備える光学特性を、当該表面凹凸構造のみによって得ることを可能としたものである。すなわち、プロジェクター等の映像光源から発する映像コンテンツを投影像として本発明の透明スクリーンガラスに表示させる際に透視性と光散乱性とを両立させることが可能である。
また、プロジェクター等の映像光源からの可視光が前記表面凹凸構造に入射すると、当該表面凹凸構造によって全方向に乱反射する。そのため、透過側へ散乱する前方散乱だけでなく、投影側へ散乱する後方散乱も生じることになり、投影像を投影側と透過側のどちらからでも視認することが可能である。
前述したように、本発明の表面凹凸構造は、算術平均粗さ(Ra)を0.005μm〜0.4μm、平均間隔(Rsm)を0.5μm〜120μmとする。Raが0.005μm未満、又はRsmが0.5μm未満だと光散乱性が小さくなり、投影像の鮮鋭性が不十分になることがある。また、Raが0.4μmを超える、又はRsmが120μmを超えると、透明スクリーンを通して透過側を見た際の透視性が乏しくなる場合がある。また、Raは、好ましくは0.01μm〜0.3μm、より好ましくは0.015μm〜0.2μm、さらに好ましくは0.015μm〜0.15μm、としてもよい。また、Rsmは、好ましくは3〜70μm、より好ましくは5〜50μmとしてもよい。
当該表面凹凸構造は、第一主面に備えられたものである。本発明の第一主面は、投影側に配置するものでも透過側に配置するものでもよい。また、当該第一主面が投影側になるように配置するのが好ましい。上記のように配置すると、反射タイプの透明スクリーンガラスとして用いた場合に投影像をより鮮明に視認できる。また、透明スクリーンガラスの表面を0°とし、45°の角度からプロジェクター等の光を入射させ、90°又は−90°の角度で投影像を視認するような場合は、透過タイプでも反射タイプでもより鮮明に映像を視認できる。
また、当該表面凹凸構造は、ガラス基材の第一主面を直接加工して形成するものでも、塗布液等によって前記第一主面上に上記形状を満たす被膜を形成するものでも、粒子を分散させ担持させるものでもよい。また、透明スクリーンガラスには映像光源から光が照射されるため、表面凹凸構造は熱や光への耐久性を有するのが望ましく、ガラス基材を直接加工して第一主面を粗面化させたものを用いるのが好ましい。
また、第一主面に対する表面凹凸構造の割合は、所望の映像表示領域の面積によって選択すればよく特に限定するものではない。第一主面の全面に備えるものでも、部分的に備えるものでもよいが、例えば鉄道車両や自動車用のフロントガラス等に用いる場合は、運転者の視野を低下させないことを目的として、フロントガラスの車内側を第一主面としてその上部や下部、周辺部等、部分的に設けるのが好ましい。
3.ガラス基材
本発明で使用するガラス基材用の材料は、透明なガラス板であれば特に種類は限定されないが、例えばソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、石英ガラス、無アルカリガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、その他公知の透明ガラス板を用いることができる。また、上記のガラス板の全光線透過率は、前記の表面凹凸構造を形成する前の状態で、85%以上であることが好ましい。
また、表面凹凸構造を形成した後のガラス基材の全光線透過率は85%以上とする。好ましくは90%以上としてもよい。なお、上記の「ガラス基材の全光線透過率」とは、表面凹凸構造が形成された領域を含むガラス基材の全光線透過率を指すものとする。
また、本発明のガラス基材のヘーズは、30%以下としてもよい。一般的に、透明材料は白濁するほどヘーズが高くなるとされており、本発明の課題とする透視性を良好なものとする為には、ヘーズが過度に高くないことが望ましい。より好ましくは20%以下としてもよい。また、下限値は特に限定するものではないが、例えば0.5%以上、より好ましくは1%以上としてもよい。なお、上記の「ガラス基材のヘーズ」とは、表面凹凸構造が形成された領域を含むガラス基材のヘーズを指すものとする。
ガラス基材の形状は特に限定されるものではないが、矩形状のガラス板が有用である。また、ガラス基材の厚みは、透視性を著しく損なわない程度であればよく、例えば0.1〜15mmとしてもよい。建築用の窓ガラス材やパーティションガラス、ガラスのエッジに接触可能なディスプレイパネルや、鉄道車両及び自動車用の単板の窓ガラス材等として用いる場合のような、ある程度の厚みや強度を要求される用途の場合は、厚みを1.8〜15mm、より好ましくは2〜15mmとするのが好適である。また、軽量化や小型化が求められるようなディスプレイシステムとして本発明の透明スクリーンガラスを用いる場合は、ガラスの強度と質量の観点から、厚みを0.1〜1.5mm、より好ましくは0.4〜1.5mmとするのが好適である。
4.透明スクリーンガラス
本発明は、プロジェクターによる映像コンテンツを、前記プロジェクターの投影側に投影像として表示可能な透明スクリーンガラスにおいて、前記透明スクリーンガラスは前述したガラス基材を有するものである。
本発明の透明スクリーンガラスは、ガラス基材の表面構造を改変して光学特性を改善したことによって、良好な視認性と光散乱性とを両立する。なお、本発明者らが検討を行ったところ、比較例に後述するように、一般的な建築用の「擦りガラス」は透視性が乏しいガラス板だが、本明細書の測定方法で測定した全光線透過率が89%程度であった。すなわち、全光線透過率の値が高くとも、本発明のような表面凹凸構造でなければ、透視性が不足する場合があることがわかった。また、上記の擦りガラスのヘーズが1%程度と低い値であったことから、擦りガラスは表面での散乱の他に、入射する光を屈折させることによっても透視性を低下させていると考えられる。
本発明の透明スクリーンガラスは、リアプロジェクションタイプのスクリーンだけでなく、フロントプロジェクションタイプのスクリーンとしても用いることができる。また、実施例に後述するように、反射タイプ、透過タイプともに透視性の乏しい擦りガラスよりも投影像の視野角を広くすることが可能であることがわかった。すなわち、本発明は、本発明の透明スクリーンガラスと、プロジェクターと、を備えるディスプレイシステムとして有用である。
また、本発明の透明スクリーンガラスは、前述したガラス基材を有する単板でも、当該ガラス基材と任意のガラス板とを組み合わせて合わせガラスとしても用いることが出来る。上記のガラス基材を単板で用いて透明スクリーンガラスとする場合は、前述した各種ディスプレイや、鉄道車両及び自動車用や建築用等の各種パネル、パーティション、窓ガラス材等として広く用いることが出来る。また、必要に応じて曲面を有する曲げガラスをガラス基材としてもよい。
また、合わせガラスとして使用する際は、前述したガラス基材と、ガラス板とを、中間樹脂膜を介して一体化させた合わせガラスとするのが好ましい。この時、第一主面は中間樹脂膜と接触しない側の面としても、中間樹脂膜と接触する側の面としてもよい。合わせガラスとして使用する場合は、特に鉄道車両及び自動車用の窓ガラス材や車両用のヘッドアップディスプレイ等として用いることが好適である。また、鉄道車両及び自動車用の窓ガラス材として用いる場合は、各車体の外観上や空気抵抗を和らげる観点から、ガラス基材に曲げガラスを用い、曲げ合わせガラスを形成したものを透明スクリーンとしてもよい。
また、本発明の透明スクリーンガラスは、前述したガラス基材の表面に各種機能膜や層を形成したものでもよい。例えば、第一主面や第二主面の表面に増反射層や反射防止層、耐摩傷性層等を形成することが挙げられる。
(増反射層)
本発明の透明スクリーンガラスは、前記ガラス基材の第一主面又は第二主面の表面に、該ガラス基材の屈折率よりも高い屈折率を示す増反射層を有するのが好ましい。前述したように、本発明の透明スクリーンガラスは第一主面に形成した表面凹凸構造のみによって透過性と光散乱性とを両立するものだが、当該表面凹凸構造表面に上記の増反射層を形成することによって、より投影像の鮮鋭性を向上させることが可能である。
増反射層は、可視光の反射機能を有し、投影像の鮮鋭性を向上させる機能を有する。使用する材料としては、透明で、ガラス基材よりも高い可視光屈折率を示すものであればよく、例えば、波長633nmにおける屈折率が、ガラス基材よりも0.5以上高い材料を用いるのが好ましい。例えば、酸化チタン、酸化すず、酸化亜鉛、ニッケルクロム複合酸化物、窒化チタン等を使用することができる。
増反射層の厚みは使用する材料に合わせて適宜選択されればよく、無機薄膜を形成する目的で、各種蒸着法、CVD法やスパッタリング法等によって得るのが好適である。例えば酸化チタンの場合、光学膜厚で、100nm未満とするのが好ましく、より好ましくは下限を5nm以上、10nm以上、20nm以上、上限を90nm以下、80nm以下、70nm以下としてもよい。また、窒化チタンの場合、下限を5nm以上、10nm以上、15nm以上、上限を100nm以下、80nm以下、60nm以下とするのが好ましい。また、酸化すず、酸化亜鉛の場合、下限を10nm以上、20nm以上、30nm以上、上限を200nm以下、150nm以下、100nm以下とするのが好ましい。また、ニッケルクロム複合酸化物の場合、下限を5nm以上、10nm以上、20nm以上、上限を200nm以下、150nm以下、100nm以下とするのが好ましい。増反射層の光学膜厚を上記の範囲内とすることにより、薄膜干渉を生じさせ、透視性を大きく損なうことなく、投影像の鮮鋭性を向上させることができる。
透明スクリーンガラス全体の全光線透過率は、上記のような増反射層を形成すると、増反射層を形成していない場合よりも低下する。全光線透過率が過度に低下すると透視性が損なわれるため、例えば30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上となるように増反射層の厚みや材料を決定するのが好ましい。
5.表面凹凸構造の形成方法
本発明の表面凹凸構造の形成方法の好適な実施形態のひとつを以下に記載する。なお、表面凹凸構造の形成方法は以下に限定されるものではない。
本発明の表面凹凸構造を得る為に、まず、ガラス基材表面をブラスト加工する。ブラスト加工に使用する投射材としては、炭化ケイ素、アルミナ、ジルコニア等のガラスより高硬度(例えば、モース硬度では7以上、より好適には8以上のもの)の材料を使用することが好ましい。また、投射材の粒度は、JIS R6001(1998年)に規定されている#800〜#8000のものを用いるのが好ましい。投射材をガラス基材に投射するとき、投射圧を0.02〜1MPa、投射の角度を10〜90°(ガラス基材の表面を0°とする)、投射材の吹き出し口とガラス基材までの距離を1〜400mmとすることが好ましい。
次に、ブラスト加工されたガラス基材表面に好ましくはエッチング処理を行う。エッチング処理は、ブラスト加工した面に、フッ化水素酸、フッ化水素アンモニウム等のフッ素化合物を有する処理液、また、複数のフッ素化合物が混合した処理液等を接触させることによって処理することが可能である。また、上記の処理液中に、フッ素化合物の他に任意の酸を混合してもよい。エッチング用の処理用水溶液中のフッ素化合物の濃度は1〜20質量%とするのが好ましく、エッチング液の温度は15〜40℃とするのが好ましい。
以上によって、本発明の表面凹凸構造を得ることが可能である。本発明の表面凹凸構造は、従来の擦りガラスを製造する時よりもブラスト加工の加工力を小さくする(研磨材を大きく、投射圧を低くする)ことによって、良好な透視性と光散乱性を達成したものである。
(その他手法)
前述した方法の他にも、表面凹凸構造を構成する材料に応じて、湿式方法や乾式方法等、適宜選択してもよい。例えば、無機微粒子とポリマーを溶解させた塗布液や、当該無機微粒子とモノマーを含む塗布液等を用いてガラス基材表面に当該無機微粒子を分散させ担持させる方法等が挙げられる。また、例えば、ガラス基材表面に適度な軟化温度を有する無機粉末やガラス粉末等の無機材料を配置した後に、モールドを押し付けて成型することでも得ることが出来る。
また、特に表面凹凸構造を構成する材料がガラスの場合は、前述した表面凹凸構造を形成した後、ガラス基材に各種強化処理を行ってもよい。強化処理としては、公知の風冷強化処理や化学強化処理が挙げられる。特に化学強化処理は、ディスプレイシステムとして用いる場合のような、厚みが薄いガラス板を処理可能なため好適である。また、上記の風冷強化処理や化学強化処理は、ともにガラス基材を加熱する工程を含むことから、ガラス基材表面を粗面化して表面凹凸構造を得た場合に、物理強化処理又は化学強化処理するのが好ましい。
本発明の実施例及び比較例を以下に記載する。当該実施例及び比較例を以下の方法で評価し、結果を表1に示した。
<1>透視性の評価
透明スクリーンガラスの透視性を以下の方法で評価した。作製したサンプルの第一主面に対し、垂直方向へ1m離れた位置に立ち、第二主面から3m離れた位置にある物体を、サンプルを透して目視で観察した。観察した結果を、下記の評価基準により評価した。
[評価基準]
○:鮮明に物体を視認することができた。
△:物体の輪郭、色相がややぼやけて視認された。
×:ほぼ視認できない。
<2>光散乱性の評価
透明スクリーンガラスの光散乱性を評価するために、以下の方法で投影像の鮮明さを評価した。まず、サンプルの第一主面に対して45°の方向(第一主面を0°、該第一主面の垂直方向を90°とする)へ1m離れた位置に、プロジェクター(VIVITEK製プロジェクター、型番:Q6−BK、800lm)を配置した。
次に、表面凹凸構造を備えた前記第一主面の映像表示領域に焦点を合わせ、プロジェクターからの映像コンテンツを投影した。
次に、サンプルに投影された投影像(反射像及び透過像)を観察した。反射像は図1に示したように、90°(観測位置X)、120°(観測位置X)、及び150°(観測位置X)の方向へそれぞれ100cm離れた位置から観察した。透過像は−90°(観測位置X)、−120°(観測位置X)、及び−150°(観測位置X)の方向へそれぞれ100cm離れた位置から観察した。観察した結果を、以下の評価基準で評価した。
[評価基準]
◎:極めて鮮明な投影像を視認することができた。
○:輪郭にぼやけがなく、色も適切な投影像を視認することができた。
△:投影像の輪郭、色がややぼやけるものの投影像は視認できた。
×:投影像の輪郭が不明瞭になり、投影像が視認できない。
<3>全光線透過率、ヘーズの測定
各サンプルの全光線透過率を、スガ試験機製テーブルヘーズメーター(HZ−T)を用いて、JIS K7136(2000年)に準拠する方法で求めた。また、実施例2、比較例2のヘーズを、上記と同様の装置を用いて、JIS K7105、JIS K7136に準拠する方法で求めた。
実施例1
フロート法で得られた矩形状のソーダライム珪酸塩ガラス(30cm×30cm×1mm)をガラス基材とし、ガラス基材の片面(第一主面)に対して、投射材:アルミナ(#2000)、投射圧:0.1MPa、投射角度:40°、投射量:4g/秒、ブラストガン移動速度:10mm/sec、投射距離:50mmとしてウェットブラスト加工(スラリー濃度:15質量%)を行い、表面凹凸構造を形成しサンプルを得た。
実施例2
まず、実施例1と同様の方法でウェットブラスト加工を行った。次に、25℃のフッ化水素酸水溶液(5質量%)に10分間浸漬させてエッチング処理を行いサンプルを得た。
実施例3
まず、酸化チタン(平均粒径250nm、粒径分布150〜550nm)5gとイオン交換水95gとを混合し、超音波ホモジナイザーを用いて20℃で1時間分散させ、5質量%の酸化チタン分散液(a)を用意した。
次に、分散液(a)を6.00g、メタノールを55.76g、オルトケイ酸テトラエチルを20.21g、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを5.73g、イオン交換水を10.75g、1規定硝酸1.55gを混合して、室温(20℃)で2時間攪拌し、固形分濃度10重量%の光散乱性被膜形成用塗布液(d)を得た。
次に、フロート法で得られた矩形状のソーダライム珪酸塩ガラス(30cm×30cm×1mm)表面に、上記光散乱性被膜形成用塗布液(d)をスピンコート法で塗布し、70℃の乾燥器内で10分間乾燥させたのち、200℃の電気炉内で10分間焼成した。以上により、ガラス基材表面に表面凹凸構造を形成してサンプルを得た。
比較例1
実施例1で使用したものと同様のガラス基材を、特に加工を施さずにサンプルとした。
比較例2
建築用のガラスとして市販されている擦りガラス(AGC製、ノングレアS、サイズ:30cm×30cm×3mm)をサンプルとした。
比較例3
ブラスト加工時に用いた投射材を#20000のアルミナ、投射圧を0.001MPa、投射距離を300mmとしてウェットブラスト加工を行なった他は、実施例2と同様の方法でサンプルを得た。
以上より、実施例1〜3はいずれも透明スクリーンガラスとして利用可能なものだった。また、特に実施例2、3は良好な光散乱性と透視性とを両立する透明スクリーンガラスであり、反射タイプ、透過タイプのどちらでも好適に利用できることがわかった。また、実施例2は視野角が広く、より好適であることがわかった。
一方で、比較例1は通常用いられているガラス板であり、スクリーンとしての光散乱性はなかった。また、比較例2は一般的な擦りガラスであり、光散乱性は実施例相当だったが、透視性が不十分なため透明スクリーンガラスとしては不適である。また、比較例3は表面凹凸構造のRaが小さく、光散乱性を持たないものとなった。
G:ガラス基材、1:第一主面、11:表面凹凸構造、2:第二主面、3:プロジェクター、4:入射光、41:入射角、X〜X:観察位置

Claims (7)

  1. プロジェクターによる映像コンテンツを、前記プロジェクターの投影側に投影像として表示可能な透明スクリーンガラスにおいて、
    前記透明スクリーンガラスは、第一主面と、前記第一主面と対向する第二主面とを備えるガラス基材を有し、
    前記第一主面は、前記投影像を表示する映像表示領域である、光散乱性の表面凹凸構造を備え、
    前記表面凹凸構造は、算術平均粗さ(Ra)が0.005μm〜0.4μm、平均間隔(RSm)が0.5μm〜120μmの構造であり、
    前記ガラス基材の全光線透過率が85%以上である、透明スクリーンガラス。
  2. 前記表面凹凸構造が、前記第一主面が粗面化されたものである、請求項1に記載の透明スクリーンガラス。
  3. 前記ガラス基材が曲面を有するものである、請求項1又は2に記載の透明スクリーンガラス。
  4. 前記表面凹凸構造を備える第一主面が、物理強化処理又は化学強化処理されたものである、請求項2又は3記載の透明スクリーンガラス。
  5. 前記ガラス基材と、ガラス板とを、中間樹脂膜を介して一体化させた合わせガラスである、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の透明スクリーンガラス。
  6. 前記ガラス基材の第一主面又は第二主面の表面に、該ガラス基材の屈折率よりも高い屈折率を示す増反射層を有する、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の透明スクリーンガラス。
  7. 請求項1乃至6に記載の透明スクリーンガラスと、プロジェクターと、を備えるディスプレイシステム。
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