以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
[電子写真感光体]
本実施形態に係る電子写真感光体は、導電性基体と、導電性基体上に設けられた電荷輸送層と、電荷輸送層上に設けられた無機保護層と、電荷輸送層と無機保護層とに挟まれた割れ抑制層と、を備える。電荷輸送層は、電荷輸送材料、結着樹脂及びシリカ粒子を含んで構成されており、割れ抑制層は、電荷輸送層から輸送される電荷の移動を妨げず、なお且つ、無機保護層の電荷輸送層側の表面の割れを抑制する。
従来、電荷輸送層を含む有機感光層上に、無機保護層を形成する技術が知られている。電荷輸送層は電荷輸送材料及び結着樹脂を含むことから、柔軟性を有し、変形し易い傾向がある一方で、無機保護層は硬質であり、靭性に劣る傾向がある。このため、無機保護層の下地層となる電荷輸送層が変形すると、無機保護層に割れが生じることがある。電子写真感光体は、その表面に接して配される部材(例えば中間転写体)等から機械的な負荷が掛かり易いため、このような現象が生じやすくなると考えられる。
そこで、有機感光層の表面を構成する電荷輸送層を、電荷輸送材料及び結着樹脂に加えてシリカ粒子を含む構成とすることにより、シリカ粒子が電荷輸送層の補強材として機能し、電荷輸送層が変形し難くなるため、無機保護層の割れが抑制されると考えられる。
その一方、電荷輸送層に含有されるシリカ粒子に起因して、電荷輸送層の無機保護層側の表面に、シリカ粒子の粒径と同程度の次元(10−2μmから10−1μm程度)を有する微小な凹凸が生じることが分かった。電荷輸送層の無機保護層側の表面に微小な凹凸が生じると、電荷輸送層の無機保護層側の表面と接する無機保護層の電荷輸送層側の表面にも、その凹凸が転写されると考えられる。無機保護層の電荷輸送層側の表面に凹凸が形成されると、例えば電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を中間転写体の表面に一次転写する際、無機保護層に機械的な負荷が掛かり、当該凹凸の凹部(クラック)を起点として無機保護層が割れるおそれがあることが分かった。
無機保護層の表面の凹凸により生じる無機保護層の割れは、無機保護層を厚膜化することにより抑制することができる。しかしながら、無機保護層の膜厚が厚くなると、画質の劣化が起こるおそれがあり、また、無機保護層の製膜に時間及びコストがかかることになる。なお、無機保護層の厚膜化に伴う画質の劣化は、無機保護層を製膜する際のプラズマ照射により、電荷輸送層が損傷を受けるためと考えられる。
それに対して、本実施形態の電子写真感光体は、電荷輸送層から輸送される電荷の移動を妨げず、なお且つ、無機保護層の電荷輸送層側の表面の割れを抑制する割れ抑制層を、電荷輸送層と無機保護層との間に設けることで、シリカ粒子を含む電荷輸送層上に無機保護層を直接設ける場合と比較して、無機保護層の電荷輸送層側の表面に生じる凹凸の高低差を低減する。その結果、無機保護層の割れの発生を抑制し、また、無機保護層の厚膜化による画質の劣化及びコスト増加を抑制することができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付することとし、重複する説明は省略する。
[電子写真感光体]
図1は、本実施形態に係る電子写真感光体の一例を示す模式断面図である。本実施形態に係る電子写真感光体は、図1に示すように、導電性基体4と、導電性基体4上に設けられた電荷輸送層3と、電荷輸送層3上に設けられた無機保護層5と、電荷輸送層3と無機保護層5とに挟まれた割れ抑制層6と、を備える。電荷輸送層3は、電荷輸送材料、結着樹脂及びシリカ粒子を含んで構成されており、割れ抑制層6は、電荷輸送層3から輸送される電荷の移動を妨げず、なお且つ、無機保護層5の電荷輸送層3側の表面の割れを抑制するものである。
図1に示す電子写真感光体7Aは、いわゆる機能分離型感光体(又は積層型感光体)であり、導電性基体4上に設けられた下引層1の上に、有機感光層として、電荷発生層2、電荷輸送層3及び割れ抑制層6が順次形成された構造を有する。
図2及び図3はそれぞれ本実施形態に係る電子写真感光体の他の一例を示す模式断面図である。
図2に示す電子写真感光体7Bは、電荷発生層2と電荷輸送層3とに機能が分離され、さらに図1に示す電子写真感光体7Aにおける電荷輸送層3に相当する層が複数の層(電荷輸送層3B及び電荷輸送層3A)に機能分離された機能分離型感光体である。即ち、図2に示す電子写真感光体7Bにおいては、導電性基体4上に下引層1が設けられ、その上に、電荷発生層2、電荷輸送層3B、電荷輸送層3A、割れ抑制層6及び無機保護層5が順次形成された構造を有するものである。
電子写真感光体7Bにおいては、電荷輸送層3A、電荷輸送層3B、電荷発生層2及び割れ抑制層6により有機感光層が構成されている。そして、電荷輸送層3Aが、電荷輸送材料、結着樹脂及びシリカ粒子を含んで構成されている。なお、電荷輸送層3Bは、少なくとも電荷輸送材料を含んで構成され、シリカ粒子を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。このように、電荷輸送層が2層以上で構成される場合、当該2層以上の電荷輸送層のうち、少なくとも、導電性基体4の反対側の表面にあって、割れ抑制層6と隣接する層が、電荷輸送材料、結着樹脂及びシリカ粒子を含んで構成される。
図3に示す電子写真感光体7Cは、導電性基体4上に下引層1が設けられ、その上に電荷発生/電荷輸送層3C、割れ抑制層6及び無機保護層5が順次形成された構造を有する。図3に示す電子写真感光体7Cでは、電荷発生/電荷輸送層3Cが、電荷発生材料、電荷輸送材料、結着樹脂及びシリカ粒子を含んで構成されている。このように、電荷輸送材料とともに電荷発生材料を含んで構成されることにより、電子写真感光体7Cにおける電荷発生/電荷輸送層3Cは、図1に示す電子写真感光体7Aにおける電荷発生層2及び電荷輸送層3の両者の機能を併せ持つ層として機能する。
以下、代表例として図1に示す電子写真感光体7Aに基づいて、電子写真感光体7Aを構成する各要素について説明する。なお、符号は省略して説明する場合がある。
(導電性基体)
導電性基体としては、例えば、金属(アルミニウム、銅、亜鉛、クロム、ニッケル、モリブデン、バナジウム、インジウム、金、白金等)又は合金(ステンレス鋼等)を含む金属板、金属ドラム、及び金属ベルト等が挙げられる。また、導電性基体としては、例えば、導電性化合物(例えば導電性ポリマー、酸化インジウム等)、金属(例えばアルミニウム、パラジウム、金等)又は合金を塗布、蒸着又はラミネートした紙、樹脂フィルム、ベルト等も挙げられる。ここで、「導電性」とは体積抵抗率が1013Ωcm未満であることをいう。
導電性基体の表面は、電子写真感光体がレーザプリンタに使用される場合、レーザ光を照射する際に生じる干渉縞を抑制する目的で、中心線平均粗さRaで0.04μm以上0.5μm以下に粗面化されていることが好ましい。なお、非干渉光を光源に用いる場合、干渉縞防止の粗面化は、特に必要ないが、導電性基体の表面の凹凸による欠陥の発生を抑制するため、より長寿命化に適する。
粗面化の方法としては、例えば、研磨剤を水に懸濁させて導電性基体に吹き付けることによって行う湿式ホーニング、回転する砥石に導電性基体を圧接し、連続的に研削加工を行うセンタレス研削、陽極酸化処理等が挙げられる。
粗面化の方法としては、導電性基体の表面を粗面化することなく、導電性又は半導電性粉体を樹脂中に分散させて、導電性基体の表面上に層を形成し、その層中に分散させる粒子により粗面化する方法も挙げられる。
陽極酸化による粗面化処理は、金属製(例えばアルミニウム製)の導電性基体を陽極とし電解質溶液中で陽極酸化することにより導電性基体の表面に酸化膜を形成するものである。電解質溶液としては、例えば、硫酸溶液、シュウ酸溶液等が挙げられる。しかし、陽極酸化により形成された多孔質陽極酸化膜は、そのままの状態では化学的に活性であり、汚染され易く、環境による抵抗変動も大きい。そこで、多孔質陽極酸化膜に対して、酸化膜の微細孔を加圧水蒸気又は沸騰水中(ニッケル等の金属塩を加えてもよい)で水和反応による体積膨張でふさぎ、より活性の低い水和酸化物に変える封孔処理を行うことが好ましい。
陽極酸化膜の膜厚は、例えば、0.3μm以上15μm以下が好ましい。この膜厚が上記範囲内にあると、注入に対するバリア性が発揮される傾向があり、また繰り返し使用による残留電位の上昇が抑えられる傾向にある。
導電性基体には、酸性処理液による処理又はベーマイト処理を施してもよい。酸性処理液による処理は、例えば、以下のようにして実施される。先ず、リン酸、クロム酸及びフッ酸を含む酸性処理液を調製する。酸性処理液におけるリン酸、クロム酸及びフッ酸の配合割合は、例えば、リン酸が10質量%以上11質量%以下の範囲、クロム酸が3質量%以上5質量%以下の範囲、フッ酸が0.5質量%以上2質量%以下の範囲であって、これらの酸全体の濃度は13.5質量%以上18質量%以下の範囲がよい。処理温度は例えば42℃以上48℃以下が好ましい。被膜の膜厚は、0.3μm以上15μm以下が好ましい。
ベーマイト処理は、例えば90℃以上100℃以下の純水中に5分から60分間浸漬すること、又は90℃以上120℃以下の加熱水蒸気に5分から60分間接触させて行う。被膜の膜厚は、0.1μm以上5μm以下が好ましい。これをさらにアジピン酸、硼酸、硼酸塩、燐酸塩、フタル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等の被膜溶解性のより低い電解質溶液を用いて陽極酸化処理してもよい。
(下引層)
下引層は、例えば、無機粒子と結着樹脂とを含む層である。なお、本実施形態に係る電子写真感光体において、下引層は設けてもよいし、設けなくてもよい。
無機粒子としては、例えば、粉体抵抗(体積抵抗率)102Ωcm以上1011Ωcm以下の無機粒子が挙げられる。これらの中でも、上記抵抗値を有する無機粒子としては、例えば、酸化錫粒子、酸化チタン粒子、酸化亜鉛粒子、酸化ジルコニウム粒子等の金属酸化物粒子がよく、特に、酸化亜鉛粒子が好ましい。
無機粒子のBET法による比表面積は、例えば、10m2/g以上がよい。無機粒子の体積平均粒径は、例えば、50nm以上2000nm以下(望ましくは60nm以上1000nm以下)がよい。
無機粒子の含有量は、例えば、結着樹脂に対して、10質量%以上80質量%以下であることが好ましく、より望ましくは40質量%以上80質量%以下である。
無機粒子は、表面処理が施されていてもよい。無機粒子は、表面処理の異なるもの、又は、粒子径の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、界面活性剤等が挙げられる。特に、シランカップリング剤が好ましく、アミノ基を有するシランカップリング剤がより好ましい。
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
シランカップリング剤は、2種以上混合して使用してもよい。例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤と他のシランカップリング剤とを併用してもよい。この他のシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
表面処理剤による表面処理方法は、公知の方法であればいかなる方法でもよく、乾式法又は湿式法のいずれでもよい。
表面処理剤の処理量は、例えば、無機粒子に対して0.5質量%以上10質量%以下が好ましい。
ここで、下引層は、電気特性の長期安定性、キャリアブロック性が高まる観点から、無機粒子と共に電子受容性化合物(アクセプター化合物)を含有することが好ましい。
電子受容性化合物としては、例えば、クロラニル、ブロモアニル等のキノン系化合物;テトラシアノキノジメタン系化合物;2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン化合物;2−(4−ビフェニル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(4−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(4−ジエチルアミノフェニル)−1,3,4オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物;キサントン系化合物;チオフェン化合物;3,3’,5,5’テトラ−t−ブチルジフェノキノン等のジフェノキノン化合物;等の電子輸送性物質等が挙げられる。特に、電子受容性化合物としては、アントラキノン構造を有する化合物が好ましい。アントラキノン構造を有する化合物としては、例えば、ヒドロキシアントラキノン化合物、アミノアントラキノン化合物、アミノヒドロキシアントラキノン化合物等が好ましく、具体的には、例えば、アントラキノン、アリザリン、キニザリン、アントラルフィン、プルプリン等が好ましい。
電子受容性化合物は、下引層中に無機粒子と共に分散して含まれていてもよいし、無機粒子の表面に付着した状態で含まれていてもよい。
電子受容性化合物を無機粒子の表面に付着させる方法としては、例えば、乾式法、又は、湿式法が挙げられる。
乾式法は、例えば、無機粒子をせん断力の大きなミキサ等で攪拌しながら、直接又は有機溶媒に溶解させた電子受容性化合物を滴下、乾燥空気や窒素ガスとともに噴霧させて、電子受容性化合物を無機粒子の表面に付着する方法である。電子受容性化合物の滴下又は噴霧するときは、溶剤の沸点以下の温度で行うことがよい。電子受容性化合物を滴下又は噴霧した後、更に100℃以上で焼き付けを行ってもよい。焼き付けは電子写真特性が得られる温度、時間であれば特に制限されない。
湿式法は、例えば、攪拌、超音波、サンドミル、アトライター、ボールミル等により、無機粒子を溶剤中に分散しつつ、電子受容性化合物を添加し、攪拌又は分散した後、溶剤除去して、電子受容性化合物を無機粒子の表面に付着する方法である。溶剤除去方法は、例えば、ろ過又は蒸留により留去される。溶剤除去後には、更に100℃以上で焼き付けを行ってもよい。焼き付けは電子写真特性が得られる温度、時間であれば特に限定されない。湿式法においては、電子受容性化合物を添加する前に無機粒子の含有水分を除去してもよく、その例として溶剤中で攪拌加熱しながら除去する方法、溶剤と共沸させて除去する方法が挙げられる。
なお、電子受容性化合物の付着は、表面処理剤による表面処理を無機粒子に施す前又は後に行ってよく、電子受容性化合物の付着と表面処理剤による表面処理とをあわせて行ってもよい。
電子受容性化合物の含有量は、例えば、無機粒子に対して0.01質量%以上20質量%以下がよく、望ましくは0.01質量%以上10質量%以下である。
下引層に用いる結着樹脂としては、例えば、アセタール樹脂(例えばポリビニルブチラール等)、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、カゼイン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂等の公知の高分子化合物;ジルコニウムキレート化合物;チタニウムキレート化合物;アルミニウムキレート化合物;チタニウムアルコキシド化合物;有機チタニウム化合物;シランカップリング剤等の公知の材料が挙げられる。下引層に用いる結着樹脂としては、例えば、電荷輸送性基を有する電荷輸送性樹脂、導電性樹脂(例えばポリアニリン等)等も挙げられる。
これらの中でも、下引層に用いる結着樹脂としては、上層の塗布溶剤に不溶な樹脂が好適であり、特に、尿素樹脂、フェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂及びポリビニルアセタール樹脂を含む群から選択される少なくとも1種の樹脂と硬化剤との反応により得られる樹脂が好適である。これら結着樹脂を2種以上組み合わせて使用する場合には、その混合割合は、必要に応じて設定される。
下引層には、電気特性向上、環境安定性向上、画質向上のために種々の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、多環縮合系、アゾ系等の電子輸送性顔料、ジルコニウムキレート化合物、チタニウムキレート化合物、アルミニウムキレート化合物、チタニウムアルコキシド化合物、有機チタニウム化合物、シランカップリング剤等の公知の材料が挙げられる。シランカップリング剤は前述のように無機粒子の表面処理に用いられるが、添加剤として更に下引層に添加してもよい。
添加剤としてのシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルメトキシシラン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
ジルコニウムキレート化合物としては、例えば、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセト酢酸エチル、ジルコニウムトリエタノールアミン、アセチルアセトネートジルコニウムブトキシド、アセト酢酸エチルジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムオキサレート、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムホスホネート、オクタン酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、ラウリン酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム、イソステアリン酸ジルコニウム、メタクリレートジルコニウムブトキシド、ステアレートジルコニウムブトキシド、イソステアレートジルコニウムブトキシド等が挙げられる。
チタニウムキレート化合物としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレート等が挙げられる。
アルミニウムキレート化合物としては、例えば、アルミニウムイソプロピレート、モノブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブチレート、ジエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が挙げられる。
これらの添加剤は、単独で、又は複数の化合物の混合物若しくは重縮合物として用いてもよい。
下引層は、ビッカース硬度が35以上であることがよい。下引層の表面粗さ(十点平均粗さ)は、モアレ像抑制のために、使用される露光用レーザ波長λの1/(4n)(nは上層の屈折率)から1/2までに調整されていることがよい。表面粗さ調整のために下引層中に樹脂粒子等を添加してもよい。樹脂粒子としてはシリコーン樹脂粒子、架橋型ポリメタクリル酸メチル樹脂粒子等が挙げられる。また、表面粗さ調整のために下引層の表面を研磨してもよい。研磨方法としては、バフ研磨、サンドブラスト処理、湿式ホーニング、研削処理等が挙げられる。
下引層の形成は、特に制限はなく、周知の形成方法が利用されるが、例えば、上記成分を溶剤に加えた下引層形成用塗布液の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱することで行う。
下引層形成用塗布液を調製するための溶剤としては、公知の有機溶剤、例えば、アルコール系溶剤、芳香族炭化水素溶剤、ハロゲン化炭化水素溶剤、ケトン系溶剤、ケトンアルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤等が挙げられる。これらの溶剤として具体的には、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロロベンゼン、トルエン等の通常の有機溶剤が挙げられる。
下引層形成用塗布液を調製するときの無機粒子の分散方法としては、例えば、ロールミル、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、コロイドミル、ペイントシェーカー等の公知の方法が挙げられる。
下引層形成用塗布液を導電性基体上に塗布する方法としては、例えば、ブレード塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、浸漬塗布法、ビード塗布法、エアーナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が挙げられる。
下引層の膜厚は、例えば、望ましくは15μm以上、より望ましくは20μm以上50μm以下の範囲内に設定される。
(中間層)
図示は省略するが、下引層と有機感光層とに挟まれる中間層をさらに設けてもよい。中間層は、例えば、樹脂を含む層である。中間層に用いる樹脂としては、例えば、アセタール樹脂(例えばポリビニルブチラール等)、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、カゼイン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂等の高分子化合物が挙げられる。中間層は、有機金属化合物を含む層であってもよい。中間層に用いる有機金属化合物としては、ジルコニウム、チタニウム、アルミニウム、マンガン、ケイ素等の金属原子を含有する有機金属化合物等が挙げられる。これらの中間層に用いる化合物は、単独で又は複数の化合物の混合物若しくは重縮合物として用いてもよい。
これらの中でも、中間層は、ジルコニウム原子又はケイ素原子を含有する有機金属化合物を含む層であることが好ましい。
中間層の形成は、特に制限はなく、周知の形成方法が利用されるが、例えば、上記成分を溶剤に加えた中間層形成用塗布液の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥、必要に応じて加熱することで行う。中間層を形成する塗布方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が用いられる。
中間層の膜厚は、例えば、望ましくは0.1μm以上3μm以下の範囲に設定される。なお、中間層を下引層として使用してもよい。
(電荷発生層)
電荷発生層は、例えば、電荷発生材料と結着樹脂とを含む層である。また、電荷発生層は、電荷発生材料の蒸着層であってもよい。電荷発生材料の蒸着層は、LED(Light Emitting Diode)、有機EL(Electro−Luminescence)イメージアレー等の非干渉性光源を用いる場合に好適である。
電荷発生材料としては、ビスアゾ、トリスアゾ等のアゾ顔料;ジブロモアントアントロン等の縮環芳香族顔料;ペリレン顔料;ピロロピロール顔料;フタロシアニン顔料;酸化亜鉛;三方晶系セレン等が挙げられる。
これらの中でも、近赤外域のレーザ露光に対応させるためには、電荷発生材料としては、金属フタロシアニン顔料、又は無金属フタロシアニン顔料を用いることが好ましい。具体的には、例えば、特開平5−263007号公報、特開平5−279591号公報等に開示されたヒドロキシガリウムフタロシアニン;特開平5−98181号公報等に開示されたクロロガリウムフタロシアニン;特開平5−140472号公報、特開平5−140473号公報等に開示されたジクロロスズフタロシアニン;特開平4−189873号公報等に開示されたチタニルフタロシアニンがより好ましい。
一方、近紫外域のレーザ露光に対応させるためには、電荷発生材料としては、ジブロモアントアントロン等の縮環芳香族顔料;チオインジゴ系顔料;ポルフィラジン化合物;酸化亜鉛;三方晶系セレン;特開2004−78147号公報、特開2005−181992号公報に開示されたビスアゾ顔料等が好ましい。
450nm以上780nm以下に発光の中心波長があるLEDや有機ELイメージアレー等の非干渉性光源を用いる場合にも、上記電荷発生材料を用いてもよい。ここで、解像度の観点より、感光層を20μm以下の薄膜で用いるときには、感光層中の電界強度が高くなり、基体からの電荷注入による帯電低下、いわゆる黒点と呼ばれる画像欠陥を生じやすくなる。これは、三方晶系セレン、フタロシアニン顔料等のp−型半導体で暗電流を生じやすい電荷発生材料を用いたときに顕著となる。
これに対し、電荷発生材料として、縮環芳香族顔料、ペリレン顔料、アゾ顔料等のn−型半導体を用いた場合、暗電流を生じ難く、薄膜にしても黒点と呼ばれる画像欠陥を抑制し得る。n−型の電荷発生材料としては、例えば、特開2012−155282号公報の段落[0288]〜[0291]に記載された化合物(CG−1)〜(CG−27)が挙げられるがこれに限られるものではない。なお、n−型の判定は、通常使用されるタイムオブフライト法を用い、流れる光電流の極性によって判定され、キャリアとして正孔よりも電子を流しやすいものをn−型とする。
電荷発生層に用いる結着樹脂としては、広範な絶縁性樹脂から選択され、また、結着樹脂としては、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレン、ポリシラン等の有機光導電性ポリマーから選択してもよい。結着樹脂としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアリレート樹脂(ビスフェノール類と芳香族2価カルボン酸の重縮合体等)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、カゼイン、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂等が挙げられる。ここで、「絶縁性」とは、体積抵抗率が1013Ωcm以上であることをいう。これらの結着樹脂は1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。
なお、電荷発生材料と結着樹脂の配合比は、質量比で10:1から1:10までの範囲内であることが好ましい。
電荷発生層には、その他、周知の添加剤が含まれていてもよい。
電荷発生層の形成は、特に制限はなく、周知の形成方法が利用されるが、例えば、上記成分を溶剤に加えた電荷発生層形成用塗布液の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱することで行う。なお、電荷発生層の形成は、電荷発生材料の蒸着により行ってもよい。電荷発生層の蒸着による形成は、特に、電荷発生材料として縮環芳香族顔料、ペリレン顔料を利用する場合に好適である。
電荷発生層形成用塗布液を調製するための溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロロベンゼン、トルエン等が挙げられる。これら溶剤は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いる。
電荷発生層形成用塗布液中に粒子(例えば電荷発生材料)を分散させる方法としては、例えば、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、横型サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機が利用される。高圧ホモジナイザーとしては、例えば、高圧状態で分散液を液−液衝突や液−壁衝突させて分散する衝突方式や、高圧状態で微細な流路を貫通させて分散する貫通方式等が挙げられる。なお、この分散の際、電荷発生層形成用塗布液中の電荷発生材料の体積平均粒径を0.5μm以下、望ましくは0.3μm以下、更に望ましくは0.15μm以下にすることが有効である。
電荷発生層形成用塗布液を下引層上(又は中間層上)に塗布する方法としては、例えばブレード塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、浸漬塗布法、ビード塗布法、エアーナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が挙げられる。
電荷発生層の膜厚は、例えば、望ましくは0.1μm以上5.0μm以下、より望ましくは0.2μm以上2.0μm以下の範囲内に設定される。
(電荷輸送層)
−電荷輸送層の組成−
電荷輸送層は、電荷輸送材料と、結着樹脂と、シリカ粒子とを含んで構成される。
電荷輸送材料としては、p−ベンゾキノン、クロラニル、ブロマニル、アントラキノン等のキノン系化合物;テトラシアノキノジメタン系化合物;2,4,7−トリニトロフルオレノン等のフルオレノン化合物;キサントン系化合物;ベンゾフェノン系化合物;シアノビニル系化合物;エチレン系化合物等の電子輸送性化合物が挙げられる。電荷輸送材料としては、トリアリールアミン系化合物、ベンジジン系化合物、アリールアルカン系化合物、アリール置換エチレン系化合物、スチルベン系化合物、アントラセン系化合物、ヒドラゾン系化合物等の正孔輸送性化合物も挙げられる。これらの電荷輸送材料は1種を単独で又は2種以上で用いられるが、これらに限定されるものではない。
電荷輸送材料としては、電荷移動度の観点から、下記構造式(a−1)で示されるトリアリールアミン誘導体、及び下記構造式(a−2)で示されるベンジジン誘導体が好ましい。
構造式(a−1)中、ArT1、ArT2、及びArT3は、各々独立に置換若しくは無置換のアリール基、−C6H4−C(RT4)=C(RT5)(RT6)、又は−C6H4−CH=CH−CH=C(RT7)(RT8)を示す。RT4、RT5、RT6、RT7、及びRT8は各々独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。上記各基の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基が挙げられる。また、上記各基の置換基としては、炭素数1以上3以下のアルキル基で置換された置換アミノ基も挙げられる。
構造式(a−2)中、RT91及びRT92は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、又は炭素数1以上5以下のアルコキシ基を示す。RT101、RT102、RT111及びRT112は各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、炭素数1以上2以下のアルキル基で置換されたアミノ基、置換若しくは無置換のアリール基、−C(RT12)=C(RT13)(RT14)、又は−CH=CH−CH=C(RT15)(RT16)を示し、RT12、RT13、RT14、RT15及びRT16は各々独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を表す。Tm1、Tm2、Tn1及びTn2は各々独立に0以上2以下の整数を示す。上記各基の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基が挙げられる。また、上記各基の置換基としては、炭素数1以上3以下のアルキル基で置換された置換アミノ基も挙げられる。
ここで、構造式(a−1)で示されるトリアリールアミン誘導体、及び前記構造式(a−2)で示されるベンジジン誘導体のうち、特に、「−C6H4−CH=CH−CH=C(RT7)(RT8)」を有するトリアリールアミン誘導体、及び「−CH=CH−CH=C(RT15)(RT16)」を有するベンジジン誘導体が、電荷移動度の観点で好ましい。
高分子電荷輸送材料としては、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシラン等の電荷輸送性を有する公知のものが用いられる。特に、特開平8−176293号公報、特開平8−208820号公報等に開示されているポリエステル系の高分子電荷輸送材料は特に好ましい。なお、高分子電荷輸送材料は、単独で使用してよいが、結着樹脂と併用してもよい。
電荷輸送層に用いるシリカ粒子としては、例えば、乾式シリカ粒子、湿式シリカ粒子が挙げられる。乾式シリカ粒子としては、シラン化合物を燃焼させて得られる燃焼法シリカ(ヒュームドシリカ)、金属珪素粉を爆発的に燃焼させて得られる爆燃法シリカが挙げられる。湿式シリカ粒子としては、珪酸ナトリウムと鉱酸との中和反応によって得られる湿式シリカ粒子(アルカリ条件で合成・凝集した沈降法シリカ、酸性条件で合成・凝集したゲル法シリカ粒子)、酸性珪酸をアルカリ性にして重合することで得られるコロイダルシリカ粒子(シリカゾル粒子)、有機シラン化合物(例えばアルコキシシラン)の加水分解によって得られるゾルゲル法シリカ粒子が挙げられる。
これらの中でも、シリカ粒子としては、残留電位の発生、その他電気特性の悪化による画像欠陥の抑制(細線再現性の悪化の抑制)の観点から、表面のシラノール基が少なく、より低い空隙構造を持つ燃焼法シリカ粒子が望ましい。
シリカ粒子の体積平均粒径は、例えば、20nm以上200nm以下であることがよく、望ましくは40nm以上150nm以下、より望ましくは50nm以上120nm以下、さらに望ましくは、50nm以上110nm以下である。
体積平均粒径が上記範囲であるシリカ粒子と、粘度平均分子量が50000未満の結着樹脂とを組み合わせて用いると、像流れの発生がより抑制し易くなる。
シリカ粒子の体積平均粒径は、層中からシリカ粒子を分離し、このシリカ粒子の一次粒子100個をSEM(Scanning Electron Microscope)装置により40000倍の倍率で観察し、一次粒子の画像解析によって粒子ごとの最長径、最短径を測定し、この中間値から球相当径を測定する。得られた球相当径の累積頻度における50%径(D50v)を求め、これをシリカ粒子の体積平均粒径として測定する。
シリカ粒子は、その表面が疎水化処理剤で表面処理されていることがよい。これにより、シリカ粒子の表面のシラノール基が低減し、残留電位の発生が抑制され易くなる。疎水化処理剤としては、クロロシラン、アルコキシシラン、シラザン等の周知のシラン化合物が挙げられる。これらの中でも、疎水化処理剤としては、残留電位の発生を抑制し易くする観点から、トリメチルシリル基、デシルシリル基、又はフェニルシリル基を持つシラン化合物が望ましい。つまり、シリカ粒子の表面には、トリメチルシリル基、デシルシリル基、又はフェニルシリル基を有することがよい。
トリメチルシリル基を持つシラン化合物としては、例えば、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。デシルシリル基を持つシラン化合物としては、例えば、デシルトリクロロシラン、デシルジメチルクロロシラン、デシルトリメトキシシラン等が挙げられる。フェニル基を持つシラン化合物としては、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルクロロシラン等が挙げられる。
疎水化処理されたシリカ粒子の縮合率(シリカ粒子中のSiO4−の結合におけるSi−O−Siの率:以下「疎水化処理剤の縮合率」とも称する)は、例えば、シリカ粒子の表面のシラノール基に対して96%以上がよく、望ましくは97%以上、より望ましくは98%以上である。疎水化処理剤の縮合率を上記範囲にすると、シリカ粒子のシラノール基がより低減し、残留電位の発生が抑制され易くなる。
疎水化処理剤の縮合率は、NMRで検出した縮合部のケイ素の全結合可能サイトに対して、縮合したケイ素の割合を示しており、次のようにして測定する。まず、層中からシリカ粒子を分離する。分離したシリカ粒子に対して、Bruker製AVANCEIII 400でSi CP/MAS NMR分析を行い、SiOの置換数に応じたピーク面積を求め、それぞれ、2置換(Si(OH)2(0−Si)2−)、3置換(Si(OH)(0−Si)3−)、4置換(Si(0−Si)4−)の値をQ2,Q3,Q4とし、疎水化処理剤の縮合率は式:(Q2×2+Q3×3+Q4×4)/4×(Q2+Q3+Q4)により算出する。
シリカ粒子の体積抵抗率は、例えば、1011Ω・cm以上がよく、望ましくは1012Ω・cm以上、より望ましくは1013Ω・cm以上である。シリカ粒子の体積抵抗率を上記範囲にすると、電気特性の低下が抑制される。
シリカ粒子の体積抵抗率は、次のようにして測定する。なお、測定環境は、温度20℃、湿度50%RHとする。まず、層中からシリカ粒子を分離する。そして、20cm2の電極板を配した円形の治具の表面に、測定対象となる分離したシリカ粒子を1mm以上3mm以下程度の厚さになるように載せ、シリカ粒子層を形成する。この上に別の20cm2の電極板を載せシリカ粒子層を挟み込む。シリカ粒子間の空隙をなくすため、シリカ粒子層上に載せた電極板の上に4kgの荷重をかけてからシリカ粒子層の厚み(cm)を測定する。シリカ粒子層上下の両電極には、エレクトロメーター及び高圧電源発生装置に接続されている。両電極に電界が予め定められた値となるように高電圧を印加し、このとき流れた電流値(A)を読み取ることにより、シリカ粒子の体積抵抗率(Ω・cm)を計算する。シリカ粒子の体積抵抗率(Ω・cm)の計算式は、下式に示す通りである。
なお、式中、ρはシリカ粒子の体積抵抗率(Ω・cm)、Eは印加電圧(V)、Iは電流値(A)、I0は印加電圧0Vにおける電流値(A)、Lはシリカ粒子層の厚み(cm)をそれぞれ表す。本評価では印加電圧が1000Vの時の体積抵抗率を用いた。
・式:ρ=E×20/(I−I0)/L
シリカ粒子の含有量は、無機保護層の割れ発生を抑制する観点から、電荷輸送層全体に対して、例えば30質量%以上であることがよく、40質量%以上であることが望ましく、50質量%以上であることがより望ましい。また、上限値は特に限定されないが、電荷輸送層の特性を確保する等の点から、70質量%以下がよく、65質量%以下であることが望ましく、60質量%以下であることがより望ましい。
電荷輸送層には、電荷輸送材料、結着樹脂及びシリカ粒子とともに、シリコーン化合物が含有されていてもよい。電荷輸送層がシリカ粒子を含有する場合、電荷輸送層の弾性率は向上するものの、シリカ粒子の分散性の低下に起因して、電荷輸送層の弾性率にバラつきが発生する場合がある。シリカ粒子を含む電荷輸送層の弾性率にバラつきが生じると、電荷輸送層は、相対的に弾性率が高い部分と弾性率の低い部分とが混在することになり、電荷輸送層の弾性率が相対的に低い部分の上に設けられた無機保護層には、割れ(打痕を含む)が発生し易くなる傾向にある。電荷輸送層中のシリカ粒子の分散性の低下は、電荷輸送層中の結着樹脂とシリカ粒子との親和性が低いことに起因していると考えられる。例えば、シリカ粒子は、疎水化処理されることで、電荷輸送層中での分散性が向上し易くなるが、疎水化処理されたシリカ粒子(例えば、縮合率が96%以上)を用いた場合でも、分散性の低下が発生することがある。
それに対して、シリカ粒子とともに、シリコーン化合物を含有する電荷輸送層では、電荷輸送層の弾性率のバラつきが抑制され、電荷輸送層の全体の弾性率が向上し、無機保護層の割れの発生が抑制される。この理由は定かではないが、次のように考えられる。シリカ粒子とシリコーン化合物とは、化学構造中にケイ素を含んでいるため、シリコーン化合物とシリカ粒子との親和性が高い。また、シリコーン化合物は、化学構造中に多くの疎水性基(例えば、メチル基)を有しているために、結着樹脂との親和性が高い。そのため、シリコーン化合物は、結着樹脂とシリカ粒子との親和性を高める作用を生じさせる。すなわち、シリカ粒子、及びシリコーン化合物の相互作用により、電荷輸送層中でのシリカ粒子の分散性の低下が抑制される。その結果として、電荷輸送層の弾性率のバラつきが抑制され、電荷輸送層全体の弾性率も向上し、無機保護層の割れの発生が抑制されると考えられる。
電荷輸送層に用いるシリコーン化合物としては、シロキサン骨格を有する化合物であり、無機保護層の割れを抑制する点で、例えば、シリコーンオイル(ストレートシリコーンオイル、又は変性シリコーンオイル)が挙げられる。シリコーンオイルは反応性のより低いものが望ましい。
シリコーン化合物としては、例えば、具体的には、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイル;フェニル変性シリコーンオイル、アラルキル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、フルオロ変性シリコーンオイル、フルオロアルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、ポリオール変性シリコーンオイル、ポリエステル変性シリコーンオイル、脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、アクリル変性シリコーンオイル等の変性シリコーンオイル;が挙げられる。
シリコーン化合物の含有量は、電荷輸送層の固形分に対して0.0033質量%以上0.033質量%以下であることが望ましい。より望ましくは、0.0066質量%以上0.02質量%以下である。シリコーン化合物をこの範囲で用いることで、シリカ粒子の分散性が向上し易くなる。
なお、電荷輸送層におけるシリコーン化合物の含有量は、次のように測定される。まず、測定対象となる感光体から、無機保護層を剥離した後、測定対象となる感光層を露出させ、その感光層の一部を削り出し測定用試料を準備する。次に、測定用試料に対し、核磁気共鳴(NMR)分析等を行うことにより、シリコーン化合物の含有量が求められる。
電荷輸送層に用いる結着樹脂としては、特に限定されないが、無機保護層の割れをより抑制する点から、例えば、粘度平均分子量は50000以下であることがよい。望ましくは45000以下であり、より望ましくは35000以下である。粘度平均分子量の下限としては、結着樹脂としての特性を保持する点から、20000以上であることがよい。
ここで、結着樹脂の粘度平均分子量の測定は、以下の一点測定法が用いられる。まず、測定対象となる感光体から、無機保護層を剥離した後、測定対象となる感光層を露出させる。そして、その感光層の一部を削り出し測定用試料を準備する。次に、測定試料から結着樹脂を抽出する。抽出した結着樹脂1g分をメチレンクロライド100cm3に溶解し、25℃の測定環境下でウベローデ粘度計にて、その比粘度ηspを測定する。そして、ηsp/c=〔η〕+0.45〔η〕2cの関係式(ただしcは濃度(g/cm3))より極限粘度〔η〕(cm3/g)を求め、H.Schnellによって与えられている式、〔η〕=1.23×10−4×Mv0.83の関係式より粘度平均分子量Mvを求める。
結着樹脂としては、例えば、具体的には、ポリカーボネート樹脂(ビスフェノールA、ビスフェノールZ、ビスフェノールC、ビスフェノールTP等の単独重合型、又はその共重合型)、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アクリル共重合体、アチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などが挙げられる。これらの結着樹脂は1種を単独で又は2種以上で用いる。なお、電荷輸送材料と結着樹脂との配合比は、質量比で10:1から1:5までが好ましい。
上記の結着樹脂の中でも、像流れの発生をより抑制する観点から、ポリカーボネート樹脂(ビスフェノールA、ビスフェノールZ、ビスフェノールC、ビスフェノールTP等の単独重合型、又はその共重合型)が好ましい。ポリカーボネート樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。また、同様の観点から、ポリカーボネート樹脂の中でも、ビスフェノールZの単独重合型ポリカーボネート樹脂を含むことがより好ましい。
−電荷輸送層の特性−
電荷輸送層の弾性率は、例えば、5GPa以上がよく、望ましくは6GPa以上であり、より望ましくは6.5GPa以上であり、さらに望ましくは7GPa以上である。電荷輸送層の弾性率を上記範囲とすると、無機保護層の割れが抑制され易くなる。弾性率の上限は特に限定されないが、例えば、20GPa以下であることがよい。なお、電荷輸送層の弾性率を上記範囲とするには、例えば、シリカ粒子の粒径及び含有量を調整する方法、電荷輸送材料の種類及び含有量を調整する方法が挙げられる。また、電荷輸送層がシリコーン化合物を含む場合は、シリコーン化合物の種類及び含有量を調整する方法が挙げられる。
また、電荷輸送層の弾性率は、無機保護層の割れをより抑制し易くする点で、標準偏差が、0.1以上0.65以下(望ましくは0.2以上0.62以下、より望ましくは0.2以上0.60以下)であることがよい。上述の通り、電荷輸送層がシリカ粒子とともにシリコーン化合物を含む構成とすることにより、電荷輸送層の弾性率の標準偏差を小さくすることができる。
電荷輸送層の弾性率は、次のように測定する。まず、無機保護層を剥離した後、測定対象となる層を露出させる。そして、その層の一部をカッター等で切り出し、測定試料を取得する。この測定試料に対して、MTSシステムズ社製 Nano Indenter SA2を用いて、連続剛性法(CSM)(米国特許第4848141号)により深さプロファイルを得て、その押込み深さ30nmから100nmの測定値から得た平均値を用いて測定する。
電荷輸送層の膜厚は、例えば、10μm以上40μm以下がよく、望ましくは10μm以上35μm以下、より望ましくは15μm以上30μm以下である。電荷輸送層の膜厚を上記範囲にすると、無機保護層の割れ、及び残留電位の発生が抑制され易くなる。
−電荷輸送層の形成−
電荷輸送層の形成は、特に制限はなく、周知の形成方法が利用されるが、例えば、上記成分を溶媒に加えた電荷輸送層形成用塗布液の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥、必要に応じて加熱することで行う。
電荷輸送層形成用塗布液を電荷発生層上に塗布する方法としては、例えば、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法を用いられる。
なお、電荷輸送層形成用塗布液中に粒子(例えばシリカ粒子やフッ素樹脂粒子)を分散させる場合、その分散方法としては、例えば、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、横型サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機が利用される。高圧ホモジナイザーとしては、例えば、高圧状態で分散液を液−液衝突や液−壁衝突させて分散する衝突方式や、高圧状態で微細な流路を貫通させて分散する貫通方式などが挙げられる。
(割れ抑制層)
−割れ抑制層の組成−
割れ抑制層は、電荷輸送層から輸送される電荷の移動を妨げず、なお且つ、無機保護層の電荷輸送層側の表面の割れを抑制するものである。
本実施形態に係る割れ抑制層は、表面に凹凸を有する電荷輸送層上に無機保護層を直接設けず、電荷輸送層に比較してより表面に凹凸を形成し難い層を設けることにより、無機保護層の電荷輸送層側の表面の割れを抑制する。本実施形態に係る割れ抑制層の具体例としては、例えば、電荷輸送材料と結着樹脂とを少なくとも含み、なお且つ、割れ抑制層中に含まれるシリカ粒子の密度が、電荷輸送層中に含まれるシリカ粒子の密度よりも小さい層が挙げられる。割れ抑制層の他の例としては、例えば、電荷輸送材料と結着樹脂とシリカ粒子とを含み、割れ抑制層中に含まれるシリカ粒子の体積平均粒径が、電荷輸送層中に含まれるシリカ粒子の体積平均粒径よりも小さい層が挙げられる。これらの層はいずれも、それらの表面に形成される凹凸が、電荷輸送層の無機保護層側の表面に形成される凹凸よりも小さい高低差を有するものと考えられる。
割れ抑制層は、例えば、電荷輸送材料と結着樹脂とシリカ粒子とを含んで構成されてもよく、シリカ粒子を含まずに電荷輸送材料と結着樹脂とを含んで構成されていてもよい。割れ抑制層を構成する電荷輸送材料、結着樹脂及びシリカ粒子は、上記の電荷輸送層を構成する材料として記載された電荷輸送材料、結着樹脂及びシリカ粒子を使用すればよい。
割れ抑制層がシリカ粒子を含有する場合、無機保護層の割れ抑制の観点から、割れ抑制層中のシリカ粒子の密度は、電荷輸送層中のシリカ粒子の密度よりも小さいことが好ましく、電荷輸送層中のシリカ粒子の密度に対して30%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましい。また、割れ抑制層に含まれるシリカ粒子の含有量は、割れ抑制層全体に対して、例えば30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。割れ抑制層の下限値は特に限定されず、割れ抑制層の無機保護層側表面の凹凸(高低差)を小さくして、無機保護層の電荷輸送層側表面の割れの発生をより一層抑制する観点から、割れ抑制層がシリカ粒子を含有しない(シリカ粒子の含有量が検出限界以下である)場合、特に好ましい。
また、割れ抑制層がシリカ粒子を含有する場合、無機保護層の割れ抑制の観点から、割れ抑制層に含有されるシリカ粒子の体積平均粒径は、電荷輸送層に含有されるシリカ粒子の体積平均粒径よりも小さいことが好ましい。この観点から、割れ抑制層に含まれるシリカ粒子の体積平均粒径は、例えば110nm以下がより好ましく、100nm以下が更に好ましい。割れ抑制層に含有されるシリカ粒子の体積平均粒径の下限は特に制限されないが、シリカ粒子の体積平均粒径が小さ過ぎるとシリカ粒子の分散性が低下することがあるため、例えば40nm以上であればよく、50nm以上が好ましい。
また、本実施形態に係る割れ抑制層について「電荷輸送層から輸送される電荷の移動を妨げない」とは、割れ抑制層と電荷輸送層とで電気抵抗率の差が小さいことを意味する。割れ抑制層の体積抵抗率は、例えば、電荷輸送層の体積抵抗率の0.3倍以上2倍以下であることが好ましく、0.5倍以上1.5倍以下であることが好ましい。割れ輸送層の体積抵抗率が高過ぎると、静電潜像を形成する際に電位差が生じ難くなり、画像の濃度が低くなることがある。また、割れ輸送層の体積抵抗率が低過ぎると、電荷が面内方向に流れて画像の粒状性(解像度)が悪化することがある。
割れ抑制層の体積抵抗率は、例えば、割れ抑制層を構成する電荷輸送材料、結着樹脂及びシリカ粒子のそれぞれの種類及び含有量等により、調整すればよい。例えば、電荷輸送層の組成に対して、シリカ粒子の含有量や種類を変更すること以外は組成を変更せずに、即ち、電荷輸送層で使用した電荷輸送材料及び結着樹脂を使用し、電荷輸送材料と結着樹脂との配合比を変えずに形成された割れ抑制層は、電荷輸送層からの体積抵抗率の変化が小さく、画像の劣化が抑制できるため、好適である。但し、割れ抑制層を構成する電荷輸送材料及び結着樹脂は、電荷輸送層を構成する電荷輸送材料及び結着樹脂に対してそれぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。
割れ抑制層がシリカ粒子を含有する場合、無機保護層の割れ抑制の観点から、割れ抑制層はシリコーン化合物を更に含有していてもよい。シリコーン化合物としては、上記の電荷輸送層に含有されるシリコーン化合物を使用すればよい。
−割れ抑制層の特性−
無機保護層の割れ抑制の観点から、割れ抑制層の無機保護層側表面の高低差が0.05μm以下であることが好ましく、0.01μm以下であることがより好ましい。ここで、割れ抑制層の無機保護層側表面の高低差は、レーザ顕微鏡を用いて計測される割れ抑制層の表面形状における凹凸の最大高低差を意味する。割れ抑制層の無機保護層側表面の高低差は、次の方法で測定される。まず、電子写真感光体から無機保護層を剥離して割れ抑制層を露出させる。次いで、レーザ顕微鏡として、例えば商品名「VK9510」(株式会社キーエンス社製)を用いて、150倍の対物レンズを使用し、スキャンピッチ:0.01μmの条件にて、割れ抑制層の表面の0.1mm幅を観察する。次いで、観察した領域の表面形状における凹凸の最大高低差を算出することにより、割れ抑制層の無機保護層側表面の高低差が求められる。なお、割れ抑制層の無機保護層側表面の高低差の下限については特に制限は無く、検出限界以下であってもよい。
無機保護層の割れを抑制する機能を有する限り、割れ抑制層の厚さは特に制限されないが、例えば、電荷輸送層に含まれるシリカ粒子の体積平均粒径よりも大きいことが好ましく、当該シリカ粒子の体積平均粒径の1倍を超えて10倍以下であることがより好ましく、2倍以上8倍以下が更に好ましい。割れ抑制層が薄過ぎると、電荷輸送層の無機保護層側表面の高低差を低減する効果が得られ難く、割れ抑制層が厚過ぎると、割れ抑制層が変形し易くなるおそれがある。また、上記の観点から、割れ抑制層の厚さは、0.08μm以上0.8μm以下が好ましく、0.1μm以上0.5μm以下がより好ましい。割れ抑制層の厚さは、例えば干渉膜厚計を用いて測定すればよい。
−割れ抑制層の形成−
割れ抑制層の形成は、特に制限はなく、上記の電荷輸送層の形成方法に準じて形成すればよい。例えば、電荷輸送材料と結着樹脂とを溶媒に加えた割れ抑制層形成用塗布液の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥、必要に応じて加熱することで行う。割れ抑制層形成用塗布液を電荷発生層上に塗布する方法、及び、割れ抑制層形成用塗布液中にシリカ粒子等の粒子を分散させる方法についても、電荷輸送層での方法に従って行えばよい。
(無機保護層)
−無機保護層の組成−
無機保護層は、無機材料を含んで構成された層である。無機材料としては、保護層としての機械的強度、透光性を有するという観点から、例えば、酸化物系、窒化物系、炭素系、珪素系の無機材料が挙げられる。
酸化物系の無機材料としては、例えば、酸化ガリウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化インジウム、酸化錫、酸化ホウ素等の金属酸化物、又はこれらの混晶が挙げられる。窒化物系の無機材料としては、例えば、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化亜鉛、窒化チタン、窒化インジウム、窒化錫、窒化ホウ素等の金属窒化物、又はこれらの混晶が挙げられる。炭素系及び珪素系の無機材料としては、例えば、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、アモルファスカーボン(a−C)、水素化アモルファスカーボン(a−C:H)、水素・フッ素化アモルファスカーボン(a−C:H)、アモルファスシリコンカーバイト(a−SiC)、水素化アモルファスシリコンカーバイト(a−SiC:H)アモルファスシリコン(a−Si)、水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)等が挙げられる。なお、無機材料は、酸化物系及び窒化物系の無機材料の混晶であってもよい。
これらの中でも、無機材料としては、金属酸化物は、機械的強度、透光性に優れ、特にn型導電性を有し、その導電制御性に優れるという観点から、金属酸化物、特に、第13族元素の酸化物(望ましくは酸化ガリウム)が望ましい。つまり、無機保護層は、少なくとも第13族元素(特にガリウム)及び酸素を含んで構成されることがよく、必要に応じて、水素を含んで構成されていてもよい。水素を含むことで、少なくとも第13族元素(特にガリウム)及び酸素を含んで構成された無機保護層の諸物性が容易に制御され易くなる。例えば、ガリウム、酸素、及び水素を含む無機保護層(例えば、水素を含む酸化ガリウムで構成された無機保護層)において、組成比[O]/[Ga]を1.0から1.5と変化させることで、109Ω・cm以上1014Ω・cm以下の範囲で体積抵抗率の制御が実現され易くなる。
なお、無機表面層を構成する全元素に対する、第13族元素、酸素、及び水素の元素構成比率の和は、90原子%以上であることが好ましい。上記の元素構成比率の和が90原子%以上であることで、例えばN,P,Asなどの15族元素などが混入した場合、これらがガリウムと結合する影響などが抑制され、無機表面層の硬度や電気特性を向上させ得る酸素及びガリウム組成比(酸素/ガリウム)の適正範囲を見出しやすくなる。上記元素構成比率の和は、上記の観点で、95原子%以上がより好ましく、96原子%以上がさらに好ましく、97原子%以上が特に好ましい。
また、酸素及び第13族元素の元素組成比(酸素/第13族元素)は1.1以上1.5以下であることが好ましい。上記の元素組成比(酸素/第13族元素)が1.1以上であることで、無機表面層の硬度が確保されて機械的損傷が抑制され、また電気抵抗値の低下が抑制されて、静電潜像の面内方向での流れが低減され、画像の解像度が得られ易くなる。一方1.5以下であることで、残留電位を抑制し得る。上記元素組成比(酸素/第13族元素)は、1.1以上1.4以下がより好ましい。
無機保護層には、上記無機材料の他、導電型の制御のために、例えば、n型の場合、C、Si、Ge、Snから選ばれる1つ以上の元素を含んでいてもよい。また、例えば、p型の場合、N、Be、Mg、Ca、Srから選ばれる1つ以上の元素を含んでいてもよい。
ここで、無機保護層が、ガリウムと酸素と必要に応じて水素とを含んで構成された場合、機械的強度、透光性、柔軟性に優れ、その導電制御性に優れるという観点から、好適な元素構成比率は以下の通りである。
ガリウムの元素構成比率は、例えば、無機保護層の全構成元素に対して、15原子%以上50原子%以下であることがよく、望ましくは20原子%以上40原子%以下、より望ましくは20原子%以上30原子%以下である。酸素の元素構成比率は、例えば、無機保護層の全構成元素に対して、30原子%以上70原子%以下であることがよく、望ましくは40原子%以上60原子%以下、より望ましくは45原子%以上55原子%以下である。水素の元素構成比率は、例えば、無機保護層の全構成元素に対して、10原子%以上40原子%以下であることがよく、望ましくは15原子%以上35原子%以下、より望ましくは20原子%以上30原子%以下である。一方で、原子数比〔酸素/ガリウム〕は、1.50を超え2.20以下であることがよく、望ましくは1.6以上2.0以下である。
ここで、無機保護層における各元素の元素構成比率、原子数比等は、厚み方向の分布も含めてラザフォードバックスキャタリング(以下、「RBS」と称する)により求められる。なお、RBSでは、加速器としてNEC社 3SDH Pelletron、エンドステーションとしてCE&A社 RBS−400、システムとして3S−R10を用いる。解析にはCE&A社のHYPRAプログラム等を用いる。なお、RBSの測定条件は、He++イオンビームエネルギーは2.275eV、検出角度160°、入射ビームに対してGrazing Angleは109°とする。
RBS測定は、具体的には以下のように行う。まず、He++イオンビームを試料に対して法線方向から入射し、検出器をイオンビームに対して、160°にセットし、後方散乱されたHeのシグナルを測定する。検出したHeのエネルギーと強度から組成比と膜厚を決定する。組成比及び膜厚を求める精度を向上させるために二つの検出角度でスペクトルを測定してもよい。深さ方向分解能や後方散乱力学の異なる二つの検出角度で測定しクロスチェックすることにより精度が向上する。ターゲット原子によって後方散乱されるHe原子の数は、(1)ターゲット原子の原子番号、(2)散乱前のHe原子のエネルギー、(3)散乱角度の3つの要素により決まる。測定された組成から密度を計算によって仮定して、これを用いて厚みを算出する。密度の誤差は20%以内である。
なお、水素の元素構成比率は、ハイドロジェンフォワードスキャタリング(以下、「HFS」と称する)により求められる。HFS測定では、加速器としてNEC社 3SDH Pelletron、エンドステーションとしてCE&A社 RBS−400を用い、システムとして3S−R10を用いる。解析にはCE&A社のHYPRAプログラムを用いる。そして、HFSの測定条件は、以下の通りである。
・He++イオンビームエネルギー:2.275eV
・検出角度:160°入射ビームに対してGrazing Angle30°
HFS測定は、He++イオンビームに対して検出器が30°に、試料が法線から75°になるようにセットすることにより、試料の前方に散乱する水素のシグナルを拾う。この時検出器をアルミ箔で覆い、水素とともに散乱するHe原子を取り除くことがよい。定量は参照用試料と被測定試料との水素のカウントを阻止能で規格化した後に比較することによって行う。参照用試料としてSi中にHをイオン注入した試料と白雲母を使用する。白雲母は水素濃度が6.5原子%であることが知られている。最表面に吸着しているHは、例えば、清浄なSi表面に吸着しているH量を差し引くことによって補正を行う。
−無機保護層の特性−
無機保護層は、目的に応じて、厚み方向に組成比に分布を有していてもよいし、多層構成からなるものであってもよい。
無機保護層は、微結晶膜、多結晶膜、非晶質膜などの非単結晶膜であることが望ましい。これらの中でも、非晶質膜は表面の平滑性の観点から特に望ましく、微結晶膜は硬度の点でより望ましい。無機保護層の成長断面は、柱状構造をとっていてもよいが、滑り性の観点からは平坦性の高い構造が望ましく、非晶質が望ましい。なお、結晶性、非晶質性は、RHEED(反射高速電子線回折)測定により得られた回折像の点や線の有無により判別される。
無機保護層の体積抵抗率は、106Ω・cm以上であることがよく、望ましくは108Ω・cm以上である。この体積抵抗率を上記範囲とすると、電荷が面内方向に流れることが抑制され、良好な静電潜像形成が実現され易くなる。この体積抵抗率は、nF社製LCRメーターZM2371を用いて、周波数1kHz、電圧1Vの条件にて測定した抵抗値から、電極面積、試料厚みに基づき算出して求められる。なお、測定試料は、測定対象となる無機保護層の成膜時の同条件でアルミ基体上に成膜し、その成膜物上に真空蒸着により金電極を形成し得られた試料であってもよいし、又は作製後の電子写真感光体から無機保護層を剥離し、部分的にエッチングして得られた試料を一対の電極で挟み込んだ試料であってもよい。
無機保護層の弾性率は30GPa以上80GPa以下であることがよく、望ましくは40GPa以上65GPa以下である。この弾性率を上記範囲とすると、無機保護層の凹部(打痕状の傷)の発生、剥れや割れが抑制され易くなる。
無機保護層の弾性率は、MTSシステムズ社製 Nano Indenter SA2を用いて、連続剛性法(CSM)(米国特許第4848141号)により深さプロファイルを得て、その押込み深さ30nmから100nmの測定値から得た平均値を用いる。下記は測定条件である。
・測定環境:23℃、55%RH
・使用圧子:ダイヤモンド製正三角錐圧子(Berkovic圧子)三角錐圧子
・試験モード:CSMモード
なお、測定試料は、測定対象となる無機保護層の成膜時の同条件で基体上に成膜した試料であってもよいし、又は作製後の電子写真感光体から無機保護層を剥離し、部分的にエッチングした試料であってもよい。
無機保護層の厚さは、例えば、0.2μm以上10μm以下であればよく、1μm以上6μm以下であることが好ましく、1μm以上4μm以下であることがより好ましい。無機保護層が薄過ぎると、電荷輸送層を含む有機感光層を保護する効果が低下するとともに、無機保護層に傷や割れが生じ易くなるおそれがある。無機保護層が厚過ぎると、上述の通り、画質が劣化するおそれがあり、また、無機保護層の製膜に時間及びコストがかかるおそれがある。無機保護層の厚さは、例えば干渉膜厚計を用いて測定すればよい。
−無機保護層の形成−
保護層の形成には、例えば、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法、有機金属気相成長法、分子線エキタピシー法、蒸着、スパッタリング等の公知の気相成膜法が利用される。
以下、無機保護層の形成について、成膜装置の一例を図面に示しつつ具体例を挙げて説明する。なお、以下の説明は、ガリウム、酸素、及び水素を含んで構成された無機保護層の形成方法について示すが、これに限られず、目的とする無機保護層の組成に応じて、周知の形成方法を適用すればよい。
図4は、本実施形態に係る電子写真感光体の無機保護層の形成に用いる成膜装置の一例を示す概略模式図であり、図4(A)は、成膜装置を側面から見た場合の模式断面図を表し、図4(B)は、図4(A)に示す成膜装置のA1−A2間における模式断面図を表す。図4中、210は成膜室、211は排気口、212は基体回転部、213は基体支持部材、214は基体、215はガス導入管、216はガス導入管215から導入したガスを噴射する開口を有するシャワーノズル、217はプラズマ拡散部、218は高周波電力供給部、219は平板電極、220はガス導入管、221は高周波放電管部である。
図4に示す成膜装置において、成膜室210の一端には、不図示の真空排気装置に接続された排気口211が設けられており、成膜室210の排気口211が設けられた側と反対側に、高周波電力供給部218、平板電極219及び高周波放電管部221で構成されたプラズマ発生装置が設けられている。このプラズマ発生装置は、高周波放電管部221と、高周波放電管部221内に配置され、放電面が排気口211側に設けられた平板電極219と、高周波放電管部221外に配置され、平板電極219の放電面と反対側の面に接続された高周波電力供給部218とから構成されたものである。なお、高周波放電管部221には、高周波放電管部221内にガスを供給するためのガス導入管220が接続されており、このガス導入管220のもう一方の端は、不図示の第1のガス供給源に接続されている。
なお、図4に示す成膜装置に設けられたプラズマ発生装置の代わりに、図5に示すプラズマ発生装置を用いてもよい。図5は、図4に示す成膜装置において利用されるプラズマ発生装置の他の例を示す概略模式図であり、プラズマ発生装置の側面図である。図5中、222が高周波コイル、223が石英管を表し、220は、図4中に示すようにガス導入管を表す。このプラズマ発生装置は、石英管223と、石英管223の外周面に沿って設けられた高周波コイル222とからなり、石英管223の一方の端は成膜室210(図5中、不図示)と接続されている。また、石英管223のもう一方の端には、石英管223内にガスを導入するためのガス導入管220が接続されている。
図4において、平板電極219の放電面側には、放電面に沿って延びる棒状のシャワーノズル216が接続されており、シャワーノズル216の一端は、ガス導入管215と接続されており、このガス導入管215は成膜室210外に設けられた不図示の第2のガス供給源と接続されている。また、成膜室210内には、基体回転部212が設けられており、円筒状の基体214が、シャワーノズル216の長手方向と基体214の軸方向とが沿って対面するように基体支持部材213を介して基体回転部212に取りつけられるようになっている。成膜に際しては、基体回転部212が回転することによって、基体214が周方向に回転する。なお、基体214としては、例えば、予め有機感光層まで積層された感光体等が用いられる。
無機保護層の形成は、例えば、以下のように実施する。まず、酸素ガス(又は、ヘリウム(He)希釈酸素ガス)、ヘリウム(He)ガス、及び必要に応じ水素(H2)ガスを、ガス導入管220から高周波放電管部221内に導入すると共に、高周波電力供給部218から平板電極219に、13.56MHzのラジオ波を供給する。この際、平板電極219の放電面側から排気口211側へと放射状に広がるようにプラズマ拡散部217が形成される。ここで、ガス導入管220から導入されたガスは成膜室210を平板電極219側から排気口211側へと流れる。平板電極219は電極の周りをアースシールドで囲んだものでもよい。
次に、トリメチルガリウムガスをガス導入管215、活性化手段である平板電極219の下流側に位置するシャワーノズル216を介して成膜室210に導入することによって、基体214表面にガリウムと酸素と水素とを含む非単結晶膜を成膜する。基体214としては、例えば、本実施形態に係る電荷輸送層及び割れ抑制層が形成された導電性基体を用いる。
無機保護層を成膜する際の基体214表面の温度は、有機感光層を有する有機感光体を用いるので、150℃以下が望ましく、100℃以下がより望ましく、30℃以上100℃以下が特に望ましい。基体214表面の温度が成膜開始当初は150℃以下であっても、プラズマの影響で150℃より高くなる場合には有機感光層が熱で損傷を受ける場合があるため、この影響を考慮して基体214の表面温度を制御することが望ましい。基体214表面の温度は加熱手段、冷却手段(図中、不図示)等によって制御してもよいし、放電時の自然な温度の上昇に任せてもよい。基体214を加熱する場合にはヒータを基体214の外側や内側に設置してもよい。基体214を冷却する場合には基体214の内側に冷却用の気体又は液体を循環させてもよい。放電による基体214表面の温度の上昇を避けたい場合には、基体214表面に当たる高エネルギーの気体流を調節することが効果的である。この場合、ガス流量や放電出力、圧力などの条件を所要温度となるように調整する。
また、トリメチルガリウムガスの代わりにアルミニウムを含む有機金属化合物やジボラン等の水素化物を用いることもでき、これらを2種類以上混合してもよい。例えば、無機保護層の形成の初期において、トリメチルインジウムをガス導入管215、シャワーノズル216を介して成膜室210内に導入することにより、基体214上に窒素とインジウムとを含む膜を成膜すれば、この膜が、継続して成膜する場合に発生し、有機感光層を劣化させる紫外線を吸収する。このため、成膜時の紫外線の発生による有機感光層へのダメージが抑制される。
また、成膜におけるドーパントのドーピングの方法としては、n型用としてはSiH3,SnH4を、p型用としては、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム、ジメチルカルシウム、ジメチルストロンチウム、などをガス状態で使用する。また、ドーパント元素を表面層中にドーピングするには、熱拡散法、イオン注入法等の公知の方法を採用してもよい。具体的には、例えば、少なくとも一つ以上のドーパント元素を含むガスをガス導入管215、シャワーノズル216を介して成膜室210内に導入することによって、n型、p型等の導電型の無機保護層を得る。
図4及び図5を用いて説明した成膜装置では、放電エネルギーにより形成される活性窒素又は活性水素を、活性装置を複数設けて独立に制御してもよいし、NH3など、窒素原子と水素原子とを含むガスを用いてもよい。さらにH2を加えてもよい。また、有機金属化合物から活性水素が遊離生成する条件を用いてもよい。このようにすることで、基体214表面上には、活性化された、炭素原子、ガリウム原子、窒素原子、水素原子、等が制御された状態で存在する。そして、活性化された水素原子が、有機金属化合物を構成するメチル基やエチル基等の炭化水素基の水素を分子として脱離させる効果を有する。このため、三次元的な結合を構成する硬質膜(無機保護層)が形成される。
図4及び図5に示す成膜装置のプラズマ発生手段は、高周波発振装置を用いたものであるが、これに限定されるものではなく、例えば、マイクロ波発振装置を用いたり、エレクトロサイクロトロン共鳴方式やヘリコンプラズマ方式の装置を用いてもよい。また、高周波発振装置の場合は、誘導型でも容量型でもよい。さらに、これらの装置を2種類以上組み合わせて用いてもよく、あるいは、同種の装置を2つ以上用いてもよい。プラズマの照射によって基体214表面の温度上昇を抑制するためには高周波発振装置が望ましいが、熱の照射を抑制する装置を設けてもよい。
2種類以上の異なるプラズマ発生装置(プラズマ発生手段)を用いる場合には、等圧力で同時期に放電が生起されるようにすることが望ましい。また、放電する領域と、成膜する領域(基体が設置された部分)とに圧力差を設けてもよい。これらの装置は、成膜装置内をガスが導入される部分から排出される部分へと形成されるガス流に対して直列に配置してもよいし、いずれの装置も基体の成膜面に対向するように配置してもよい。
例えば、2種類のプラズマ発生手段をガス流に対して直列に設置する場合、図4に示す成膜装置を例に上げれば、シャワーノズル216を電極として成膜室210内に放電を起こさせる第2のプラズマ発生装置として利用される。この場合、例えば、ガス導入管215を介して、シャワーノズル216に高周波電圧を印加して、シャワーノズル216を電極として成膜室210内に放電を起こさせる。あるいは、シャワーノズル216を電極として利用する代わりに、成膜室210内の基体214と平板電極219との間に円筒状の電極を設けて、この円筒状電極を利用して、成膜室210内に放電を起こさせる。
また、異なる2種類のプラズマ発生装置を等圧力下で使用する場合、例えば、マイクロ波発振装置と高周波発振装置とを用いる場合、励起種の励起エネルギーを大きく変えることができ、膜質の制御に有効である。また、放電は大気圧近傍(70000Pa以上110000Pa以下)で行ってもよい。大気圧近傍で放電を行う場合にはキャリアガスとしてHeを使用することが望ましい。
無機保護層の形成は、例えば、成膜室210に基体上に有機感光層を形成した基体214を設置し、各々組成の異なる混合ガスを導入して、無機保護層を形成する。
また、成膜条件としては、例えば高周波放電により放電する場合、より低温で良質な成膜を行うには、周波数として10kHz以上50MHz以下の範囲とすることが望ましい。また、出力は基体214の大きさに依存するが、基体の表面積に対して0.01W/cm2以上0.2W/cm2以下の範囲とすることが望ましい。基体214の回転速度は0.1rpm以上500rpm以下の範囲が望ましい。
以上、電子写真感光体として有機感光層が機能分離型で、電荷輸送層が単層型の例を説明したが、図2に示される電子写真感光体7B(有機感光層が機能分離型で、電荷輸送層が複層型の例)の場合、例えば、割れ抑制層6と接する電荷輸送層3Aは図1に示す電子写真感光体7Aの電荷輸送層3の構成とする一方で、割れ抑制層6と接しない電荷輸送層3Bは周知の電荷輸送層の構成とすればよい。ここで、電荷輸送層3Aの膜厚は、例えば1μm以上15μm以下とすればよく、電荷輸送層3Bの膜厚は、例えば15μm以上29μm以下とすればよい。
一方、図3に示される電子写真感光体7C(電荷発生/電荷輸送層3Cを備える例)の場合、電荷発生/電荷輸送層3Cは、例えば、電荷発生材料を更に含有すること以外は図1に示す電子写真感光体7Aの電荷輸送層3に従った構成とすればよい。このときの電荷発生材料の含有量は、例えば、電荷発生/電荷輸送層3Cの全体に対して、25質量%以上50質量%以下とすればよい。また、電荷発生/電荷輸送層3Cの膜厚は、例えば15μm以上30μm以下とすればよい。
本実施形態に係る電子写真感光体の作用効果について、以下に説明する。
図6に、電荷輸送材料及び結着樹脂を溶媒に加えた塗布液を用いて形成された塗膜の表面形状を、レーザ顕微鏡(商品名「VK9510」、株式会社キーエンス社製)を用いて測定した測定結果を示す。図6(a)は、電荷輸送材料25質量部、結着樹脂25質量部、シリカ粒子(体積平均粒径0.08μm、トリメトキシシランにより疎水化処理済)50質量部及びテトラヒドロフラン溶媒250質量部で構成される塗布液を用いて形成された塗膜の表面形状を示し、図6(b)は、シリカ粒子を使用しないこと以外は同様の方法で形成された塗膜の表面形状を示す。
レーザ顕微鏡による表面形状測定の結果、図6(a)に示す塗膜では、表面の高低差が0.2μmと測定されたのに対して、図6(b)に示す塗膜では、表面の高低差が0.01μmと測定された。図6に示すように、電荷輸送層がシリカ粒子を含有する場合、そのシリカ粒子に起因して、電荷輸送層の無機保護層側の表面に微小な凹凸が形成される。シリカ粒子を含む電荷輸送層と無機保護層とが直接接する場合、電荷輸送層の無機保護層側の表面に形成された凹凸は無機保護層の電荷輸送層側の表面に転写されると考えられる。
無機保護層の電荷輸送層側の表面に形成される凹凸が無機保護層の割れ特性に与える影響を、塑性材料の破壊メカニズムに基づいて、電荷輸送層のFEM解析プログラムABAQUSを用いてシミュレーション解析した。ここで、「FEM解析プログラムABAQUS」は、数値解析法の一種である有限要素法を用いて、構造物あるいは機械の応力を解析する技術計算プログラムである。
図7は、シミュレーション解析に用いた電子写真感光体7のモデルを示す。図7に示すモデルは、電荷輸送層3上に無機保護層5を形成した電子写真感光体7において、一次転写ニップ部を通過する際に挟みこまれたキャリアCによって、電子写真感光体7の無機保護層5が荷重を受ける様子をモデル化したものである。図7に示すように、幅Wを有する無機保護層5の電荷輸送層3側の表面には、長さaを有する凹部(クラック)が形成されている。シミュレーション解析において、無機保護層5のヤング率及びポアソン比を80GPa及び0.3にそれぞれ設定し、電荷輸送層3のヤング率、ポアソン比及び厚さを8GPa、0.4及び24μmにそれぞれ設定した。
シミュレーション解析では、凹部の先端周辺の応力拡大係数を、下記の脆性破壊のモデル式により、算出した。
・K=F×σ×(πa)1/2
・F=1.12−0.231×ε+10.55×ε2+10.55×ε3−21.72×ε3+30.39×ε4
・ε=a/W
各式において、Kは応力拡大係数を示し、σは引張応力を示し、aは無機保護層5に形成された凹部の長さを示し、Wは無機保護層5の厚さを示す。上記式により算出される応力拡大係数Kが、無機保護層5を構成する材料に固有の破壊靭性値を上回ると、凹部先端での破壊が進展し、やがて無機保護層5が割れてしまう。よって、応力拡大係数Kが小さいほど、無機保護層5の割れ抑制効果が大きいことを意味する。
引張応力σを一定とみなし、無機保護層5の厚さW、及び、凹部の長さaを変えて行ったシミュレーション解析の結果を、図8に示す。図8に示す通り、シミュレーション解析の結果、無機保護層5の厚さWが同じである場合、無機保護層5の表面に形成される凹部の長さaが短くなるほど、応力拡大係数は小さくなり、また、無機保護層5の凹部の長さaが同じである場合、無機保護層5の厚さWが薄いほど、応力拡大係数は大きくなることがわかった。
本実施形態に係る電子写真感光体は、上述の通り、シリカ粒子を含む電荷輸送層上に無機保護層を直接設けず、割れ抑制層を挟んで構成されている。この構成によれば、割れ抑制層の無機保護層側の表面形状に対応する無機保護層の電荷輸送層側表面に形成される凹凸の高低差を、無機保護層が電荷輸送層と直接接する場合と比較して小さくすることができる。その結果、上記のシミュレーション解析の結果が示す通り、応力拡大係数が低下するので、無機保護層の割れを抑制することができる。換言すれば、本実施形態に係る電子写真感光体は、電荷輸送層と無機保護層とに挟まれる割れ抑制層を設けることにより、応力拡大係数の増加を抑制し、無機保護層の割れ抑制効果を維持しながら、無機保護層の薄膜化により、画質の向上及び無機保護層の製膜コストの低減を図ることができる。
[画像形成装置(及びプロセスカートリッジ)]
本実施形態に係る画像形成装置は、電子写真感光体と、電子写真感光体の表面を帯電する帯電手段と、帯電した電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、トナーを含む現像剤により電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、トナー像を記録媒体の表面に転写する転写手段と、を備える。そして、電子写真感光体として、上記本実施形態に係る電子写真感光体が適用される。
本実施形態に係る画像形成装置は、記録媒体の表面に転写されたトナー像を定着する定着手段を備える装置;電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を直接記録媒体に転写する直接転写方式の装置;電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を中間転写体の表面に一次転写し、中間転写体の表面に転写されたトナー像を記録媒体の表面に二次転写する中間転写方式の装置;トナー像の転写後、帯電前の電子写真感光体の表面をクリーニングするクリーニング手段を備えた装置;トナー像の転写後、帯電前に電子写真感光体の表面に除電光を照射して除電する除電手段を備える装置;電子写真感光体の温度を上昇させ、相対温度を低減させるための電子写真感光体加熱部材を備える装置等の周知の画像形成装置が適用される。
中間転写方式の装置の場合、転写手段は、例えば、表面にトナー像が転写される中間転写体と、電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を中間転写体の表面に一次転写する一次転写手段と、中間転写体の表面に転写されたトナー像を記録媒体の表面に二次転写する二次転写手段と、を有する構成が適用される。
本実施形態に係る画像形成装置は、乾式現像方式の画像形成装置、湿式現像方式(液体現像剤を利用した現像方式)の画像形成装置のいずれであってもよい。
なお、本実施形態に係る画像形成装置において、例えば、電子写真感光体を備える部分が、画像形成装置に対して脱着されるカートリッジ構造(プロセスカートリッジ)であってもよい。プロセスカートリッジとしては、例えば、本実施形態に係る電子写真感光体を備えるプロセスカートリッジが好適に用いられる。なお、プロセスカートリッジには、電子写真感光体以外に、例えば、帯電手段、静電潜像形成手段、現像手段、転写手段を含む群から選択される少なくとも一つを備えてもよい。
以下、本実施形態に係る画像形成装置の一例を示すが、これに限定されるわけではない。なお、図に示す主要部を説明し、その他はその説明を省略する。
図8は、本実施形態に係る画像形成装置の一例を示す概略構成図である。本実施形態に係る画像形成装置100は、図8に示すように、電子写真感光体7を備えるプロセスカートリッジ300と、露光装置9(静電潜像形成手段の一例)と、転写装置40(一次転写装置)と、中間転写体50とを備える。なお、画像形成装置100において、露光装置9はプロセスカートリッジ300の開口部から電子写真感光体7に露光し得る位置に配置されており、転写装置40は中間転写体50を介して電子写真感光体7に対向する位置に配置されており、中間転写体50はその一部が電子写真感光体7に接触して配置されている。図示しないが、中間転写体50に転写されたトナー像を記録媒体(例えば用紙)に転写する二次転写装置も有している。なお、中間転写体50、転写装置40(一次転写装置)、及び二次転写装置(不図示)が転写手段の一例に相当する。
図8におけるプロセスカートリッジ300は、ハウジング内に、電子写真感光体7、帯電装置8(帯電手段の一例)、現像装置11(現像手段の一例)、及びクリーニング装置13(クリーニング手段の一例)を一体に支持している。クリーニング装置13は、クリーニングブレード(クリーニング部材の一例)131を有しており、クリーニングブレード131は、電子写真感光体7の表面に接触するように配置されている。なお、クリーニング部材は、クリーニングブレード131の態様ではなく、導電性又は絶縁性の繊維状部材であってもよく、これを単独で、又はクリーニングブレード131と併用してもよい。
なお、図8には、画像形成装置として、潤滑材14を電子写真感光体7の表面に供給する繊維状部材132(ロール状)、及び、クリーニングを補助する繊維状部材133(平ブラシ状)を備えた例を示してあるが、これらは必要に応じて配置される。
以下、本実施形態に係る画像形成装置の各構成について説明する。
−帯電装置−
帯電装置8としては、例えば、導電性又は半導電性の帯電ローラ、帯電ブラシ、帯電フィルム、帯電ゴムブレード、帯電チューブ等を用いた接触型帯電器が使用される。また、非接触方式のローラ帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン帯電器やコロトロン帯電器等のそれ自体公知の帯電器等も使用される。
−露光装置−
露光装置9としては、例えば、電子写真感光体7表面に、半導体レーザ光、LED光、液晶シャッタ光等の光を、定められた像様に露光する光学系機器等が挙げられる。光源の波長は電子写真感光体の分光感度領域内とする。半導体レーザの波長としては、780nm付近に発振波長を有する近赤外が主流である。しかし、この波長に限定されず、600nm台の発振波長レーザや青色レーザとして400nm以上450nm以下に発振波長を有するレーザも利用してもよい。また、カラー画像形成のためにはマルチビームを出力し得るタイプの面発光型のレーザ光源も有効である。
−現像装置−
現像装置11としては、例えば、現像剤を接触又は非接触させて現像する一般的な現像装置が挙げられる。現像装置11としては、上述の機能を有している限り特に制限はなく、目的に応じて選択される。例えば、一成分系現像剤又は二成分系現像剤をブラシ、ローラ等を用いて電子写真感光体7に付着させる機能を有する公知の現像器等が挙げられる。中でも現像剤を表面に保持した現像ローラを用いるものが好ましい。
現像装置11に使用される現像剤は、トナー単独の一成分系現像剤であってもよいし、トナーとキャリアとを含む二成分系現像剤であってもよい。また、現像剤は、磁性であってもよいし、非磁性であってもよい。これら現像剤は、周知のものが適用される。
−クリーニング装置−
クリーニング装置13は、クリーニングブレード131を備えるクリーニングブレード方式の装置が用いられる。なお、クリーニングブレード方式以外にも、ファーブラシクリーニング方式、現像同時クリーニング方式を採用してもよい。
−転写装置−
転写装置40としては、例えば、ベルト、ローラ、フィルム、ゴムブレード等を用いた接触型転写帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン転写帯電器やコロトロン転写帯電器等のそれ自体公知の転写帯電器が挙げられる。
−中間転写体−
中間転写体50としては、半導電性を付与したポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ゴム等を含むベルト状のもの(中間転写ベルト)が使用される。また、中間転写体の形態としては、ベルト状以外にドラム状のものを用いてもよい。
図10は、本実施形態に係る画像形成装置の他の一例を示す概略構成図である。図10に示す画像形成装置120は、プロセスカートリッジ300を4つ搭載したタンデム方式の多色画像形成装置である。画像形成装置120では、中間転写体50上に4つのプロセスカートリッジ300がそれぞれ並列に配置されており、1色に付き1つの電子写真感光体が使用される構成となっている。なお、画像形成装置120は、タンデム方式であること以外は、画像形成装置100に従った構成を有している。
なお、本実施形態に係る画像形成装置100は、上記構成に限られず、例えば、電子写真感光体7の周囲であって、転写装置40よりも電子写真感光体7の回転方向下流側でクリーニング装置13よりも電子写真感光体の回転方向上流側に、残留したトナーの極性を揃え、クリーニングブラシで除去しやすくするための第1除電装置を設けた形態であってもよいし、クリーニング装置13よりも電子写真感光体の回転方向下流側で帯電装置8よりも電子写真感光体の回転方向上流側に、電子写真感光体7の表面を除電する第2除電装置を設けた形態であってもよい。
また、本実施形態に係る画像形成装置100は、上記構成に限られず、周知の構成、例えば、電子写真感光体7に形成したトナー像を直接記録媒体に転写する直接転写方式の画像形成装置を採用してもよい。