JP2019159174A - 膜付きレンズ、レンズユニットおよびカメラモジュール - Google Patents
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Abstract
【課題】高耐熱反射防止膜が付着されるレンズ表面の濡れ性を経過時間によらず一定に保つことができる膜付きレンズ、レンズユニットおよびカメラモジュールを提供する。【解決手段】本発明の膜付きレンズ14(15,16,17)は、その表面上に高耐熱反射防止膜30を有し、この高耐熱反射防止膜30はレンズに設けられた親水膜92上に形成される。【選択図】図2
Description
本発明は、特に自動車等の車両に搭載される車載カメラに設けられる膜付きレンズ、レンズユニットおよびカメラモジュールに関する。
近年、自動車に車載カメラを搭載し、駐車をサポートしたり、画像認識により衝突防止を図ったりすることが行なわれており、さらにそれを自動運転に応用する試みもなされている。また、このような車載カメラ等のカメラモジュールは、一般に、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、このレンズ群を収容保持する鏡筒と、レンズ群の少なくとも一個所のレンズ間に配置される絞り部材とを有するレンズユニットを備える(例えば、特許文献1参照)。
このようなレンズユニットを構成するレンズの表面には、一般に、その透過率を高めるために反射防止膜(ARコーティング)が設けられるが、レンズユニットのレンズ群を構成する各レンズとして樹脂製のものが使用される場合には、レンズが温度変化によって膨縮し易いため、反射防止膜も、高温に強く、レンズの膨張収縮(熱変形)に追従できるものが望まれる。
そのため、樹脂製のレンズのための反射防止膜として、反射率が低いだけでなくレンズの熱変形にも追従できる耐熱性の優れた反射防止膜(以下、本明細書中では、「高耐熱反射防止膜」と称する)が使用される場合がある。
ところで、前述したような高耐熱反射防止膜を樹脂製のレンズの表面に例えばディッピング(浸漬塗布)により設ける場合には、一般に、高耐熱反射防止膜の成膜に先立って、レンズ表面に対する液体の親和性(付着し易さ)、すなわち、濡れ性を良好にするべく、プラズマ処理などによってレンズ表面に親水化処理を施し、レンズ表面に対する高耐熱反射防止膜の良好な付着性を確保するようにしている。
しかしながら、プラズマによる親水化処理では、レンズ表面に水酸基(ヒドロキシル基)のイオンが十分な吸着力を伴わずに堆積されているにすぎないため、時間の経過に伴ってイオン(水酸化物イオン)が飛散し、短時間で濡れ性が急激に低下し得る。したがって、その後の高耐熱反射防止膜のディッピング工程を直ちに行なえれば問題はないが、諸般の事情によりディッピング工程までの時間が長いと、濡れ性の低下によりレンズの全面に均一に高耐熱反射防止膜をコーティングすることが難しくなり、最悪の場合には、高耐熱反射防止膜が付着していない領域が存在する結果となる。高耐熱反射防止膜が付着しないと、その非付着部位でレンズの反射率が変化することとなり、所望の画像特性が得られなくなる。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、高耐熱反射防止膜が付着されるレンズ表面の濡れ性を経過時間によらず一定に保つことができる膜付きレンズ、レンズユニットおよびカメラモジュールを提供することを目的とする。
前記課題を解決するために、本発明は、鏡筒に設けられ、その表面上に反射防止膜が設けられて成る膜付きレンズであって、
前記反射防止膜が高耐熱反射防止膜として形成され、
前記高耐熱反射防止膜が前記レンズに設けられた親水膜上に形成されることを特徴とする。
前記反射防止膜が高耐熱反射防止膜として形成され、
前記高耐熱反射防止膜が前記レンズに設けられた親水膜上に形成されることを特徴とする。
上記構成において、「高耐熱反射防止膜」は、該反射防止膜中の体積率が5〜74%である複数の無機粒子と、体積率が0〜65%である複数の空気層と、前記無機粒子または前記無機粒子および前記空気層をバインディングし、前記無機粒子よりも低いヤング率を有し、体積率が5〜95%である、有機化合物、無機化合物および無機高分子のいずれかと、を備える。あるいは、「高耐熱反射防止膜」は空隙を有する微粒子積層薄膜からなり、この微粒子積層薄膜は、電解質ポリマーおよび微粒子が交互に吸着され、アルコール性シリカゾル生成物を接触させることにより、前記レンズと前記微粒子および前記微粒子同士が結合している。
このような高耐熱反射防止膜は、屈折率が低く、反射率が極めて低いため、良好な反射防止特性を実現して、高い光透過率を得ることができる。加えて、高耐熱反射防止膜は、レンズの熱変形にも追従できる耐熱性の優れた性質を有するため、特に、温度変化によって膨張収縮し易い樹脂製のレンズに好適である。
本発明においては、高耐熱反射防止膜が親水膜上に形成されるため、すなわち、高耐熱反射防止膜が成膜されるべきレンズの下地面をプラズマ処理などによって親水化処理するのではなく、前記下地面に積極的に親水膜を設け、この親水膜上に高耐熱反射防止膜を形成するようにしているため、高耐熱反射防止膜が付着されるレンズ表面の濡れ性を経過時間によらず一定に保つことができ、常にレンズの表面に均一に高耐熱反射防止膜をコーティングすることができる。これは、レンズ表面にヒドロキシル基のイオンが十分な吸着力を伴わずに堆積されているにすぎないプラズマ処理とは異なり、親水膜がいわばバインダにより表面に対して固着された状態にあり、親水膜の形成状態が長期間にわたって維持されるからである。このように、高耐熱反射防止膜が成膜されるべきレンズの下地面の濡れ性が親水膜により実現されれば、その後の高耐熱反射防止膜の成膜工程までの時間が長い場合であっても、濡れ性が低下せず、高耐熱反射防止膜の高い付着性能を常時確保でき、したがって、レンズ表面に常に均一に高耐熱反射防止膜をコーティングすることができ、所望の画像特性を得ることができる。また、親水膜の形成後に高耐熱反射防止膜の成膜工程を直ちに行なわなくても済むため、高耐熱反射防止膜の成膜工程までの時間の自由度(工程の自由度)が増す。
なお、このような高耐熱反射防止膜の下地となる親水膜としては、一般に、アクリル系等の有機系親水膜、シリカ系等の無機系親水膜、チタン系等の光触媒を挙げることができるが、親水膜は、屈折率が低く、反射率が小さい材料であることが好ましく、少なくとも高耐熱反射防止膜の形成位置に対応して、レンズの表面の一部分または全体にわたって設けられる。ここで、レンズの「表面」とは、外部に露出するレンズ面のことであり、物体側の表面、像側の表面、周端面を含み、高耐熱反射防止膜はレンズの少なくとも光学的に有効な範囲内に設けられる。
また、親水膜および高耐熱反射防止膜は、例えば、テーピングによるマスキングを伴ってまたは伴うことなく、また、膜形成用のレンズホルダを用いてまたは用いることなく、膜を形成する塗料(溶液)中にレンズを浸漬するディッピング法により形成されることが好ましいが、スプレー、蒸着等によって形成することもできる。
また、本発明においては、親水膜の厚さは、親水膜によって光透過率が減衰してしまわないように(親水膜の形成に伴うレンズの透過率減少を抑制するため)、20nm〜200nmの範囲内で薄く設定される(これに対し、高耐熱反射防止膜の厚さは例えば100nm〜120nmに設定される)ことが好ましい。これは、特に、高い視認性が求められてレンズの透過率を高く維持する必要がある車載カメラで用いられる場合に有益である。この場合、特に、親水膜の厚さと高耐熱反射防止膜の厚さとの組み合わせにより、親水膜を含めた高耐熱反射防止膜全体の反射率を400nm〜700nmの入射波長範囲内で3%以下にすることが好ましい。
また、親水膜として光触媒を用いる場合には、その厚さを特に薄く設定することが重要である。これは、チタン系では特に屈折率が高く、また、一般に、光触媒の厚さが厚くなればなるほど、光触媒としての分解性能(この分解性能によってレンズ表面素材が分解される)が高くなるとともに、透過率も低下するからである。
また、上記構成では、高耐熱反射防止膜上に更に親水膜が形成されることが好ましい。これによれば、耐擦傷性に弱い高耐熱反射防止膜を親水膜によって保護することができ、膜強度を高めることができる。また、このような保護膜としての親水膜は、温度の急激な変化に伴ってレンズに結露(曇り)が生じることを防止できる。すなわち、親水膜の存在により、レンズ面に付着する細かい水滴は、親水膜上を拡がって薄い水膜となり、レンズ面に滞留することがなく、その結果、防曇に寄与し得る。そのため、視認性の低下を防止できる。また、このように高耐熱反射防止膜の下地膜と保護膜とを同じ親水膜により形成すれば、膜形成プロセスの効率化を図ることもできる。
また、このような高耐熱反射防止膜の保護は、親水膜に比べて硬質の撥水膜によっても実現できるが、高耐熱反射防止膜は、レンズの熱変形にも追従できる耐熱性の優れた性質を有するため、保護膜が硬質であると、レンズ変形時に高耐熱反射防止膜の追従性に伴って保護膜にクラックが生じる虞がある。したがって、保護膜は、軟質の親水膜であることが好ましく、また、軟質膜の形成に寄与し得る成膜方法としては、スパッタリングよりはディッピング(浸漬塗布)の方が好ましい。また、樹脂系の高耐熱反射防止膜を考えると、その上に設けられる保護膜も樹脂系であることが好ましい。
また、上記構成では、保護膜としての親水膜を光触媒によって形成してもよい。このような光触媒は、前述した保護作用および結露防止作用を有することは勿論のこと、有機物質を分解する分解性能も有するため、高耐熱反射防止膜に対する有機物質の付着を防止できる。具体的には、例えば、高耐熱反射防止膜を従来から一般に使用されている絞り部材とともに使用する場合、絞り部材の移動を抑制するために、絞り部材の表面に、該表面の摩擦抵抗を減少させるべくワックス等を塗布することも行なわれるが、そのようなワックス等の摩擦低減材(樹脂等)は、高温時に気化して高耐熱反射防止膜の表面に付着し、この高耐熱反射防止膜の反射防止特性を悪化させる(反射率を高める)場合がある。このような状況において、高耐熱反射防止膜上に光触媒を設けると、絞り部材からのワックスは、高耐熱反射防止膜へ達する前に分解され、高耐熱反射防止膜に悪影響を及ぼさない。
なお、上記構成において、親水膜とは、親水性を有する薄膜のことであり、親水膜に対する水滴の接触角が40度以下となるものをいう。これに対し、撥水膜とは、撥水性を有する薄膜のことであり、撥水膜に対する水滴の接触角が90度以上となるものをいい、この点で親水膜と区別される。この場合、接触角の測定は、静滴法(A・half−angle・Method)を用いるものとし、膜の形成されたレンズ面に、レンズ面の影響を受けにくいように2.5マイクロリットルの水滴を滴下し、液滴の左右端点を結ぶ曲面は直線と見做して、水滴の接触角を測定するものとする。
また、上記構成において、反射防止膜とは、レンズ面上に膜を形成した場合に、レンズ面上に膜を形成しない場合と比べて反射率を抑制できる機能を有する膜をいう。
また、上記構成において、反射防止膜とは、レンズ面上に膜を形成した場合に、レンズ面上に膜を形成しない場合と比べて反射率を抑制できる機能を有する膜をいう。
また、本発明は、前記膜付きレンズを有するレンズユニット、および、このレンズユニットを有するカメラモジュールも提供する。このようなレンズユニットおよびカメラモジュールによっても前述した膜付きレンズと同様の作用効果を得ることができる。
本発明によれば、高耐熱反射防止膜が親水膜上に形成されるため、高耐熱反射防止膜が付着されるレンズ表面の濡れ性を経過時間によらず一定に保つことができ、常にレンズの表面に均一に高耐熱反射防止膜をコーティングすることができる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
なお、本実施の形態のレンズユニットは、特に車載カメラ等のカメラモジュール用のものであり、例えば、自動車の外表面側に固定して設置され、配線は自動車内に引き込まれてディスプレイやその他の装置に接続される。また、図1および図7において複数のレンズについてはハッチングを省略している。
なお、本実施の形態のレンズユニットは、特に車載カメラ等のカメラモジュール用のものであり、例えば、自動車の外表面側に固定して設置され、配線は自動車内に引き込まれてディスプレイやその他の装置に接続される。また、図1および図7において複数のレンズについてはハッチングを省略している。
図1は本発明の一実施の形態に係るレンズユニット11を示している。図1に示すように、本実施の形態のレンズユニット11は、例えば樹脂製または金属製の円筒状の鏡筒(バレル)12と、鏡筒12の段付きの内側収容空S内に配置される複数のレンズ、例えば、第1のレンズ13、第2のレンズ14、第3のレンズ15、第4のレンズ16および第5のレンズ17から成る5つのレンズと、2つの絞り部材22a,22bとを備えている。このレンズユニット11を備える車載カメラは、レンズユニット11と、図示しないイメージセンサを有する基板と、当該基板を自動車等の車両に設置する図示しない設置部材とを備えるものである。
鏡筒12に固定されて支持されている複数のレンズ13,14,15,16,17は、それぞれの光軸を一致させた状態に配置されており、1つの光軸Oに沿って各レンズ13,14,15,16,17が並べられた状態となって、撮像に用いられる一群のレンズ群Lを構成している。なお、本実施の形態では、鏡筒12の物体側の端部に設けられるレンズ13がガラスレンズであり、それ以外の内側のレンズ14,15,16,17が樹脂製のレンズであるが、これに限らない。また、最も像側(内側収容空間Sの最も内奥側)に位置される2つの第4および第5のレンズ16,17は貼り合わせレンズであるが、これに限らない。
2つの絞り部材22a,22bのうちの物体側から1番目の絞り部材22aは、第2のレンズと第3のレンズ15との間に配置されている。物体側から2番目の絞り部材22bは、第3のレンズ15と第4のレンズ16との間に配置されている。絞り部材22a,22bは透過光量を制限し、明るさの指標となるF値を決定する「開口絞り」またはゴーストの原因となる光線や収差の原因となる光線を遮光する「遮光絞り」である。このように、本実施の形態では、レンズ群の2個所のレンズ間に絞り部材が配置されるが、絞り部材の数は2つに限らない。
鏡筒12の物体側の端部(図1において上端部)には、当該端部を内径側にカシメて成るカシメ部23が設けられており、このカシメ部23によって第1のレンズ13が鏡筒12の物体側の端部(開口部)に固定されている。
また、鏡筒12の像側の端部(図1において下端部)には、第5のレンズ17よりも径の小さい開口部を有する内側フランジ部24が設けられている。このフランジ部24とカシメ部23とにより、鏡筒12内にレンズ群Lを構成する複数のレンズ13、14、15、16,17と絞り部材22a,22bとが保持されている。なお、第1のレンズ13の固定は、カシメ部23に限ることなく、鏡筒12にレンズ13,14,15,16,17を収納した後に鏡筒12の物体側の端部に取り付けられる固定部によって行なわれてもよい。
最も物体側に位置するガラス製の第1のレンズ13の外周面には、該レンズ13の像面側部分に径が小さくなった縮径部が設けられ、当該縮径部にシール部材としてのOリング26が設けられ、第1のレンズ13の外周面と鏡筒12の内周面との間を、鏡筒12の物体側端部で封止した状態となっている。これにより、レンズユニット11の物体側の端部から鏡筒12内に水や塵埃等の微粒子が浸入するのを防止している。なお、鏡筒12の内部には物体側において円筒状の内壁12bが設けられ、この内壁12bと外壁12aとの間に環状体27が設けられ、この環状体27にOリング26が密接している。また、本実施の形態の第1のレンズ13は、断面視において、表面が物体側に向けて凸状をなすとともに、裏面がレンズ内側に向けて凹むように形成されている。
鏡筒12は、その内径が物体側から像面側に向かって段階的に小さくなっている。これに対応して、レンズ13,14,15,16,17は、物体側から像面側に向かうにつれて、外径が小さくなっている。基本的に、レンズ13,14,15,16,17それぞれの外径と、鏡筒12の各レンズ13,14,15,16,17が支持される部分それぞれの内径とは略等しくなっている。なお、鏡筒12の外周面には、鏡筒12を車載カメラに設置する際に用いられる外側フランジ部25が鍔状に設けられている。
また、本実施の形態において、レンズ群Lを構成する各レンズ13,14,15,16,17のうち、樹脂製のレンズ14,15,16,17の表面(特に本実施の形態では、物体側に面する表面および像側に面する裏面の両方;ただし、貼り合わせレンズを構成する第4および第5のレンズ16,17においては、第4のレンズの表面および第5のレンズの裏面)には高耐熱反射防止膜30を含む積層体90が形成される(すなわち、レンズ14,15,16,17が膜付きレンズとして形成される)。無論、鏡筒12の物体側の端部に設けられるガラス製の第1のレンズ13に高耐熱反射防止膜30が形成されても構わないが、この第1のレンズ13に形成される反射防止膜は、一般に、高耐熱反射防止膜30でなく、通常の反射防止膜である(図示せず)。
ここで、高耐熱反射防止膜30を含む積層体90は、高耐熱反射防止膜30が付着されるレンズ14,15,16,17の表面の濡れ性を経過時間によらず一定に保ってレンズ14,15,16,17に対する高耐熱反射防止膜30の均一な成膜を常に実現できるようにする積層構造を成している。具体的には、積層体90は、図2に示すように、各レンズ14,15,16,17の表面上に成膜される親水膜92と、この親水膜92上に形成される高耐熱反射防止膜30とから構成される。高耐熱反射防止膜30の下地となる親水膜92としては、一般に、アクリル系等の有機系親水膜、シリカ系等の無機系親水膜、チタン系(例えばTiO2)等の光触媒を挙げることができるが、親水膜92は、屈折率が低く、反射率が小さい材料であることが好ましく、少なくとも高耐熱反射防止膜30の形成位置に対応して、レンズの表面の一部分または全体にわたって設けられる。本実施の形態では、前述したように、樹脂製のレンズ14,15,16,17の周端面を除く物体側に面する表面および像側に面する裏面の両方に全体にわたって、親水膜92、したがって、高耐熱反射防止膜30を含む積層体90が設けられるが、高耐熱反射防止膜30はレンズの少なくとも光学的に有効な範囲内に設けられていればよい。
また、親水膜92および高耐熱反射防止膜30は、例えば、テーピングによるマスキングを伴ってまたは伴うことなく、また、膜形成用のレンズホルダを用いてまたは用いることなく、膜を形成する塗料(溶液)中にレンズを浸漬するディッピング法により形成されることが好ましいが、スプレー、蒸着等によって形成することもできる。
また、本実施の形態において、親水膜92の厚さは、親水膜92によって光透過率が減衰してしまわないように(親水膜92の形成に伴うレンズの透過率減少を抑制するため)、20nm〜200nmの範囲内で薄く設定されるとともに、高耐熱反射防止膜30の厚さは例えば100nm〜120nmに設定される。そして、本実施の形態では、更に、親水膜92の厚さと高耐熱反射防止膜30の厚さとの組み合わせにより、親水膜92および高耐熱反射防止膜30を伴う積層体90全体の反射率が400nm〜700nmの入射波長範囲内で3%以下となるように設定される。
なお、親水膜92として光触媒を用いる場合には、その厚さを特に薄く設定することが重要である。これは、チタン系では特に屈折率が高く、また、一般に、光触媒の厚さが厚くなればなるほど、光触媒としての分解性能(この分解性能によってレンズ表面素材が分解される)が高くなるとともに、透過率も低下するからである。
図3には、高耐熱反射防止膜30を含む積層体の変形例が示される。この変形例に係る積層体90Aは、レンズ14,15,16,17の表面に形成される下地膜としての親水膜92と、親水膜92上に形成される高耐熱反射防止膜30と、高耐熱反射防止膜30上に形成される保護膜としての親水膜96とから構成される。
高耐熱反射防止膜30の保護は、親水膜96に比べて硬質の撥水膜によっても実現できるが、高耐熱反射防止膜30は、レンズの熱変形にも追従できる耐熱性の優れた性質を有するため、保護膜が硬質であると、レンズ変形時に高耐熱反射防止膜30の追従性に伴って保護膜にクラックが生じる虞がある。したがって、保護膜は、軟質の親水膜96であることが好ましく、また、軟質膜の形成に寄与し得る成膜方法としては、スパッタリングよりはディッピング(浸漬塗布)の方が好ましい。このような観点から、また、成膜プロセスの効率化を図るためにも、積層体90,90Aを構成する親水膜92,96および高耐熱反射防止膜30が全てディッピングにより形成されることが有益である。
また、保護膜としての親水膜96は、有機系または無機系の親水膜であってもよいが、有機物質を分解する分解性能を有する光触媒によって形成されてもよい。いずれにしても、このような保護膜を伴う積層体90Aにおいても、図2の積層構造の場合と同様、親水膜92の厚さと高耐熱反射防止膜30の厚さとの組み合わせにより、親水膜92および高耐熱反射防止膜30を伴う積層体90全体の反射率が400nm〜700nmの入射波長範囲内で3%以下となるように設定される。
樹脂製のレンズ14,15,16,17の表面に親水膜92を介して設けられる高耐熱反射防止膜30は、該反射防止膜30中の体積率が5〜74%である複数の無機粒子と、体積率が0〜65%である複数の空気層と、前記無機粒子または前記無機粒子および前記空気層をバインディングし、前記無機粒子よりも低いヤング率を有し、体積率が5〜95%である、有機化合物、無機化合物および無機高分子のいずれかと、を備えている。以下、これについて詳しく説明する。
図4は、高耐熱反射防止膜30が形成されて成るレンズ14(15,16,17)の光入射面付近の要部拡大断面図を示している。なお、この図4および後述する図5および図6は、レンズに形成される高耐熱反射防止膜30の構造を概念的に示したにすぎず、したがって、レンズ14(15,16,17)と高耐熱反射防止膜30との間に親水膜92が描かれていないが、本実施の形態では、このような高耐熱反射防止膜30の構造概念に基づき、親水膜92上に高耐熱反射防止膜30が形成されるものである。
図4に示すように、高耐熱反射防止膜30は、無機粒子31と、バインダ32とを含む。無機粒子31の粘弾性はバインダ32の粘弾性と異なる。具体的には、無機粒子31のヤング率は50GPa以上である。バインダ32のヤング率は5GPa以下である。
図4に示すように、高耐熱反射防止膜30は、無機粒子31と、バインダ32とを含む。無機粒子31の粘弾性はバインダ32の粘弾性と異なる。具体的には、無機粒子31のヤング率は50GPa以上である。バインダ32のヤング率は5GPa以下である。
高耐熱反射防止膜30は、異なる粘弾性を有する複数の組成物を含有する。そのため、高耐熱反射防止膜30は、高い強度と高い可撓性とを有する。樹脂からなるレンズ14(15,16,17)は、熱により膨張する。バインダ32のヤング率は低いため、高耐熱反射防止膜30の可撓性が高くなる。そのため、レンズ14(15,16,17)が熱により膨張しても、高耐熱反射防止膜30は割れにくい。一方、無機粒子31のヤング率は50GPa以上である。無機粒子31は、高耐熱反射防止膜30の強度を向上し、高耐熱反射防止膜30の表面に傷が形成されるのを抑制する。
バインダ32は、光透過性を有し、複数の無機粒子31を含有する。前述のように、バインダ32のヤング率は5GPa以下である。バインダ32は、有機化合物または無機化合物である。バインダ32は例えば樹脂である。樹脂は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、ニトロセルロース、ポリエステル、アルキド樹脂、フルオロアクリレート、フッ素ポリマー等の1種または2種以上からなる。フッ素ポリマーは、例えば、フルオロオレフィン類(フルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、パーフルオロオクチルエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール等)、完全または部分フッ素化ビニルエーテル類等である。バインダ32の屈折率は、1.35以下であり、好ましい屈折率は1.30以下である。
また、バインダ32は、無機高分子、例えば、珪素化合物あるいはその加水分解物もしくはその重縮合物であってもよい。珪素化合物は、例えば、シランカップリング剤である。シランカップリング剤は、無機粒子の表面を修飾する。これにより、有機溶媒中における無機粒子の分散安定性が向上し、無機粒子の凝集および沈降が抑制される。
無機粒子31は、例えば、無機酸化物や、無機フッ化物である。無機酸化物はたとえば、酸化セリウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化珪素、酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化ビスマスである。無機フッ化物はたとえば、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウムである。複数の無機粒子31は、上記無機酸化物および無機フッ化物の中から選択される1種または2種以上を含む。
好ましくは、無機粒子31は、酸化アルミニウムおよび/または酸化珪素である。酸化アルミニウムおよび酸化珪素の屈折率は、いずれも低い。酸化アルミニウムの屈折率は1.7〜1.9であり、酸化珪素の屈折率は1.5〜1.7である。そのため、高耐熱反射防止膜30の屈折率を低くすることができる。
無機粒子31の粒径が大きすぎると、無機粒子31が光を散乱しやすくなる。さらに、高耐熱反射防止膜30の膜厚にばらつきが生じる。したがって、無機粒子31の好ましい平均粒径は、100nm以下である。平均粒径の好ましい下限値は10nmである。粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による写真画像から任意に抽出された100個の無機粒子の粒径を測定し、その平均値を求めることにより決定される。
また、高耐熱反射防止膜30は空気層を含んでもよい。高耐熱反射防止膜30中の無機粒子31の体積率は、5〜74%である。また、高耐熱反射防止膜30中のバインダ32の体積率は、5〜95%である。高耐熱反射防止膜30中の空気層の体積率は、0〜65%である。
無機粒子31の体積率が小さすぎれば、高耐熱反射防止膜30の強度が低下する。また、無機粒子31の体積率が大きすぎれば、高耐熱反射防止膜30の可撓性が低下する。一方、バインダ32の体積率が小さすぎれば、高耐熱反射防止膜30の可撓性が低下する。また、バインダ32の体積率が大きすぎれば、高耐熱反射防止膜30の強度が低下する。
無機粒子31の体積率は5〜74%であり、かつ、バインダ32の体積率は5〜95%であり、空気層は0〜65%であれば、高耐熱反射防止膜30は可撓性および強度を有する。そのため、高耐熱反射防止膜30には傷が付きにくく、かつ、高温時に樹脂からなるレンズが熱膨張しても、高耐熱反射防止膜30はひび割れしにくい。
高耐熱反射防止膜30は、湿式プロセスにより形成される。より具体的には、高耐熱反射防止膜30は、高耐熱反射防止膜30を構成する塗布液を(本実施の形態では、親水膜92が形成された)樹脂レンズ14,15,16,17の表面に塗布することにより形成される。塗布液を塗布する方法は、たとえば、インクジェットプリンティング法、スプレー法、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷等である。
以下、製造方法の一例として、ディップコート法(ディッピング)により高耐熱反射防止膜30を形成する方法を説明する。
高耐熱反射防止膜30の組成を含有する塗布液を準備する。塗布液で使用される溶媒はたとえば、テトロヒドラフラン(tetrahydrofuran:THF)や、N,N−ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide:DMF)である。溶媒は、これらの物質に限定されない。溶媒は水でもよい。溶媒が有機溶媒である場合、好ましい有機溶媒の沸点は30℃〜250℃である。有機溶媒の沸点が低すぎる場合、有機溶媒の揮発速度が速すぎる。そのため、高耐熱反射防止膜30の膜厚が均一になりにくい。一方、有機溶媒の沸点が高すぎると、有機溶媒が揮発しにくい。そのため、高耐熱反射防止膜30が形成されにくい。好ましい有機溶媒の沸点は50℃〜150℃である。
塗布液の粘度及び表面張力は、低い方が好ましい。塗布液の好ましい粘度は10(mPa・s)以下であり、更に好ましくは1(mPa・s)以下である。塗布液の好ましい表面張力は70(mN/m)以下であり、更に好ましくは20(mN/m)以下である。樹脂レンズ14、15、18を挟持した挟持部材を塗布液で満たされたディップ槽から引き上げるときに、挟持部材から塗布液を速やかに排出するためである。塗布液の粘度および表面張力の物性を制御するために、塗布液に界面活性剤などを添加してもよい。
高耐熱反射防止膜30の組成を含有する塗布液を準備する。塗布液で使用される溶媒はたとえば、テトロヒドラフラン(tetrahydrofuran:THF)や、N,N−ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide:DMF)である。溶媒は、これらの物質に限定されない。溶媒は水でもよい。溶媒が有機溶媒である場合、好ましい有機溶媒の沸点は30℃〜250℃である。有機溶媒の沸点が低すぎる場合、有機溶媒の揮発速度が速すぎる。そのため、高耐熱反射防止膜30の膜厚が均一になりにくい。一方、有機溶媒の沸点が高すぎると、有機溶媒が揮発しにくい。そのため、高耐熱反射防止膜30が形成されにくい。好ましい有機溶媒の沸点は50℃〜150℃である。
塗布液の粘度及び表面張力は、低い方が好ましい。塗布液の好ましい粘度は10(mPa・s)以下であり、更に好ましくは1(mPa・s)以下である。塗布液の好ましい表面張力は70(mN/m)以下であり、更に好ましくは20(mN/m)以下である。樹脂レンズ14、15、18を挟持した挟持部材を塗布液で満たされたディップ槽から引き上げるときに、挟持部材から塗布液を速やかに排出するためである。塗布液の粘度および表面張力の物性を制御するために、塗布液に界面活性剤などを添加してもよい。
塗布液において、無機粒子31の100重量部に対するバインダ32の重量部は、1〜100であり、溶媒の重量部は2000〜100000である。この場合、形成された高耐熱反射防止膜30内の無機粒子31の体積率は5〜70%になり、バインダ32の体積率は30〜95%になる。
次に、(本実施の形態では、親水膜92が形成された)複数の樹脂レンズ14,15,16,17を挟持部材で挟持し、塗布液を入れたディップ槽に浸漬する。
次に、浸漬された複数の樹脂レンズ14,15,16,17を、一定の速度でディップ槽から引き上げる。これにより、樹脂レンズ14,15,16,17の表面(本実施の形態では、親水膜92上)に塗布液が塗布される。引き上げる速さは、樹脂レンズ14,15,16,17の表面に形成する高耐熱反射防止膜30の厚さに応じて変更される。
次に、浸漬された複数の樹脂レンズ14,15,16,17を、一定の速度でディップ槽から引き上げる。これにより、樹脂レンズ14,15,16,17の表面(本実施の形態では、親水膜92上)に塗布液が塗布される。引き上げる速さは、樹脂レンズ14,15,16,17の表面に形成する高耐熱反射防止膜30の厚さに応じて変更される。
次に、樹脂レンズ14,15,16,17に塗布された塗布液を乾燥する。引き上げられた樹脂レンズ14,15,16,17を所定の温度でベークしてもよい。
これにより高耐熱反射防止膜30が形成される。
これにより高耐熱反射防止膜30が形成される。
図5は、高耐熱反射防止膜の変形例を示している。図示のように、この変形例に係る高耐熱反射防止膜30Aは、複数の無機粒子31と、バインダ32と、複数の空気層33とを含有する。なお、本発明における高耐熱反射防止膜において、空気層33は任意の構成である。高耐熱反射防止膜30Aのその他の構成は高耐熱反射防止膜30と同じである。
高耐熱反射防止膜30A内では、無機粒子31同士が接触する。隣り合う無機粒子31の間に、空気層33が形成される。前述のように、高耐熱反射防止膜30A中の無機粒子31の体積率は、5〜74%であり、70%未満でもよい。バインダ32の体積率は5〜95%であり、95%未満でもよい。空気層33の体積率が大きすぎれば、高耐熱反射防止膜30Aの強度が低下する。そのため、高耐熱反射防止膜30A中の空気層33の体積率は、0〜65%である。
空気層33は、例えば、前述の塗布液内の無機粒子31に対するバインダ32の比率に応じて形成される。塗布液内の無機粒子100重量部に対する好ましいバインダ32の重量部は、1〜100である。この場合、塗布液を乾燥した後、高耐熱反射防止膜30A内に空気層33が形成される。
空気層33は屈折率が低いため、高耐熱反射防止膜30Aの屈折率は低下する。そのため、光の反射がさらに抑制される。
図6は、図5に示した高耐熱反射防止膜30Aを、その見方を代えてより詳細に示したものであり、基本的に、図5に示す高耐熱反射防止膜30Aと同様のものであるが、以下の説明では、図6に示す高耐熱反射防止膜を高耐熱反射防止膜30Bとしてその構造および成膜方法を説明する。この高耐熱反射防止膜30Bは空隙を有する微粒子積層薄膜からなり、この微粒子積層薄膜は、電解質ポリマーおよび微粒子が交互に吸着され、アルコール性シリカゾル生成物を接触させることにより、レンズと微粒子および微粒子同士が結合していることを特徴とする。
このような微粒子積層薄膜(高耐熱反射防止膜)30Bは、以下のようにして形成される。図6に示すように、レンズ14(15,16,17)上(本実施の形態では親水膜92上)には空隙64を有する微粒子積層薄膜30Bが形成される。微粒子積層薄膜30Bは、電解質ポリマー62(例えばバインダ)および微粒子63を交互に吸着させ、且つ、アルコール性シリカゾル生成物65(例えばバインダ)を介して、レンズ14(15,16,17)(本実施の形態では、親水膜92を伴うレンズ14(15,16,17))と微粒子63および微粒子63と微粒子63とが結合するように構成される。以下、微粒子積層薄膜30Bの各成分について説明する。
微粒子積層薄膜30Bの形成に用いる微粒子は、溶液に分散されている状態で平均一次粒子径が、2〜100nmであることが微粒子積層薄膜30Bの透明性を得るために好ましく、微粒子積層薄膜30Bの光学機能の確保の観点から、2〜40nmがより好ましく、2〜20nmが最も好ましい。
ここで使用し得る微粒子としては無機微粒子が挙げられる。好ましくは、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、ニオブ、亜鉛、錫、セリウムおよびマグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物が、透明性の観点から好適に選ばれる。
ここで使用する電解質ポリマーとしては、荷電を有する官能基を主鎖または側鎖に持つ高分子を用いることができる。この電解質ポリマー溶液は、微粒子の表面電荷と反対または同じ符号の電荷の電解質ポリマーを、水、有機溶媒または水溶性の有機溶媒と水の混合溶媒に溶解したものである。
アルコール系シリカゾルとしては、4、3、2官能のアルコキシシラン、およびこれらアルコキシシラン類の縮合物、加水分解物、シリコーンワニス等が使用できる。アルコール性シリカゾル生成物は、少なくとも1種類以上の、先の一般式で表わされる低級アルキルシリケートを、メタノールおよびエタノールのうちのいずれかの中で加水分解して調製したアルコール性シリカゾルを含むことが好ましい。
また、レンズ14,15,16,17(本実施の形態では、親水膜92を伴うレンズ14,15,16,17)は、そのまま用いるか、またはそれらの表面にコロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理、紫外線照射、オゾン処理、アルカリや酸等による化学的エッチング処理、シランカップリング処理等によって、極性を有する官能基を導入してレンズの表面電荷をマイナス若しくはプラスする。
ここで、空隙を有する微粒子積層薄膜30Bを生成するためには、例えば交互積層法を用いる。微粒子積層薄膜30Bは、以下の工程(1)〜(3)を順に実施することにより形成できる(図4参照)。
(1)レンズ14(15,16,17)(本実施の形態では、親水膜92を伴うレンズ14(15,16,17))上に、電解質ポリマー溶液または微粒子分散液のいずれかを接触または塗布する工程により、電解質ポリマー62または微粒子63の層を形成する(図6(a))。
(2)電解質ポリマー溶液を接触または塗布させた後のレンズ14(15,16,17)(本実施の形態では、親水膜92を伴うレンズ14(15,16,17))上に該電解質ポリマー溶液の電解質ポリマーと反対電荷を有する微粒子の分散液を接触または塗布する工程、または微粒子分散液を接触または塗布させた後のプラスチック基材上に該微粒子分散液の微粒子と反対電荷を有する電解質ポリマーの溶液を接触または塗布する工程により、微粒子63または電解質ポリマー62の層を形成する(図6(b))。
(3)電解質ポリマー溶液または微粒子を接触または塗布させた後のレンズ14(15,16,17)(本実施の形態では、親水膜92を伴うレンズ14(15,16,17))上に、アルコール性シリカゾル生成物を接触または塗布する工程により、アルコール性シリカゾル生成物65を介してレンズ14(15,16,17)(本実施の形態では、親水膜92を伴うレンズ14(15,16,17))と微粒子63、および微粒子63同士を結合させる(図6(c))。上述のような高耐熱反射防止膜30、30A、30Bは、125℃以上の耐熱性を有するとともに、樹脂のレンズ14、15、18の熱膨張率に近い熱膨張率を有するものを選択することが好ましい。
(1)レンズ14(15,16,17)(本実施の形態では、親水膜92を伴うレンズ14(15,16,17))上に、電解質ポリマー溶液または微粒子分散液のいずれかを接触または塗布する工程により、電解質ポリマー62または微粒子63の層を形成する(図6(a))。
(2)電解質ポリマー溶液を接触または塗布させた後のレンズ14(15,16,17)(本実施の形態では、親水膜92を伴うレンズ14(15,16,17))上に該電解質ポリマー溶液の電解質ポリマーと反対電荷を有する微粒子の分散液を接触または塗布する工程、または微粒子分散液を接触または塗布させた後のプラスチック基材上に該微粒子分散液の微粒子と反対電荷を有する電解質ポリマーの溶液を接触または塗布する工程により、微粒子63または電解質ポリマー62の層を形成する(図6(b))。
(3)電解質ポリマー溶液または微粒子を接触または塗布させた後のレンズ14(15,16,17)(本実施の形態では、親水膜92を伴うレンズ14(15,16,17))上に、アルコール性シリカゾル生成物を接触または塗布する工程により、アルコール性シリカゾル生成物65を介してレンズ14(15,16,17)(本実施の形態では、親水膜92を伴うレンズ14(15,16,17))と微粒子63、および微粒子63同士を結合させる(図6(c))。上述のような高耐熱反射防止膜30、30A、30Bは、125℃以上の耐熱性を有するとともに、樹脂のレンズ14、15、18の熱膨張率に近い熱膨張率を有するものを選択することが好ましい。
図7は、本実施の形態のカメラモジュール300の概略断面図である。図7に示すように、カメラモジュール300は、フィルタ100が装着されたレンズユニット11を含んで構成されている。
カメラモジュール300は、外装部品である上ケース(カメラケース)301と、レンズユニット11を保持するマウント(フランジ、台座)302とを備えている。また、カメラモジュール300は、シール部材303およびパッケージセンサ(撮像素子)304を備えている。
カメラモジュール300は、外装部品である上ケース(カメラケース)301と、レンズユニット11を保持するマウント(フランジ、台座)302とを備えている。また、カメラモジュール300は、シール部材303およびパッケージセンサ(撮像素子)304を備えている。
上ケース301は、レンズユニット11の物体側の端部を露出させるとともに他の部分を覆う部材である。マウント302は、上ケース301の内部に配置されており、レンズユニット11の雄ねじ11aと螺合する雌ねじ302aを有する。シール部材303は、上ケース301の内面とレンズユニット11の鏡筒12の外周面12aとの間に介挿された部材であり、上ケース301の内部の気密性を保持するための部材である。
パッケージセンサ304は、マウント302の内部に配置されており、かつ、レンズユニット11により形成された物体の像を受光する位置に配置されている。また、パッケージセンサ304は、CCDやCMOS等を備えており、レンズユニット11を通じて集光して到達した光を電気信号に変換する。変換された電気信号はカメラにより撮影された画像データの構成要素であるアナログデータやデジタルデータに変換される。
以上説明したように、本実施の形態によれば、高耐熱反射防止膜30が親水膜92上に形成されるため、すなわち、高耐熱反射防止膜30が成膜されるべきレンズ14,15,16,17の下地面をプラズマ処理などによって親水化処理するのではなく、前記下地面に積極的に親水膜92を設け、この親水膜92上に高耐熱反射防止膜30を形成するようにしているため、高耐熱反射防止膜30が付着されるレンズ表面の濡れ性を経過時間によらず一定に保つことができ、常にレンズ14,15,16,17の表面に均一に高耐熱反射防止膜30をコーティングすることができる。これは、レンズ表面にヒドロキシル基のイオンが十分な吸着力を伴わずに堆積されているにすぎないプラズマ処理とは異なり、親水膜92がいわばバインダにより表面に対して固着された状態にあり、親水膜92の形成状態が長期間にわたって維持されるからである。このように、高耐熱反射防止膜30が成膜されるべきレンズ14,15,16,17の下地面の濡れ性が親水膜92により実現されれば、その後の高耐熱反射防止膜30の成膜工程までの時間が長い場合であっても、濡れ性が低下せず、高耐熱反射防止膜30の高い付着性能を常時確保でき、したがって、レンズ表面に常に均一に高耐熱反射防止膜30をコーティングすることができ、所望の画像特性を得ることができる。また、親水膜92の形成後に高耐熱反射防止膜30の成膜工程を直ちに行なわなくても済むため、高耐熱反射防止膜30の成膜工程までの時間の自由度(工程の自由度)が増す。
また、本実施の形態では、親水膜92および高耐熱反射防止膜30を含む積層体90,90A全体の反射率が400nm〜700nmの入射波長範囲内で3%以下に設定されるため、所望の光学性能(画像特性)を得ることができる。これは、特に、高い視認性が求められてレンズの透過率を高く維持する必要がある車載カメラで用いられる場合に有益である。
また、本実施の形態では、図3に示されるように高耐熱反射防止膜30上に更に親水膜96が形成されるため、耐擦傷性に弱い高耐熱反射防止膜を親水膜によって保護することができ、膜強度を高めることができる。また、このような保護膜としての親水膜96は、温度の急激な変化に伴ってレンズに結露(曇り)が生じることを防止できる。すなわち、親水膜96の存在により、レンズ面に付着する細かい水滴は、親水膜96上を拡がって薄い水膜となり、レンズ面に滞留することがなく、その結果、防曇に寄与し得る。そのため、視認性の低下を防止できる。また、このように高耐熱反射防止膜30の下地膜と保護膜とを同じ親水膜により形成すれば、膜形成プロセスの効率化を図ることもできる。
また、本実施の形態では、前述したように保護膜としての親水膜96を光触媒によって形成すると有益である。すなわち、このような光触媒は、前述した保護作用および結露防止作用を有することは勿論のこと、有機物質を分解する分解性能も有するため、高耐熱反射防止膜30に対する有機物質の付着を防止できる。具体的には、例えば、本実施の形態のように高耐熱反射防止膜30を従来から一般に使用されている絞り部材22a,22bとともに使用する場合、絞り部材22a,22bの移動を抑制するために、絞り部材22a,22bの表面に、該表面の摩擦抵抗を減少させるべくワックス等を塗布することも行なわれるが、そのようなワックス等の摩擦低減材(樹脂等)は、高温時に気化して高耐熱反射防止膜30の表面に付着し、この高耐熱反射防止膜30の反射防止特性を悪化させる(反射率を高める)場合がある。このような状況において、高耐熱反射防止膜30上に親水膜96として光触媒を設けると、絞り部材22a,22bからのワックスは、高耐熱反射防止膜30へ達する前に分解され、高耐熱反射防止膜30に悪影響を及ぼさない。
本発明にしたがって高耐熱反射防止膜30の下地膜および/または保護膜として親水膜92,96を成膜した実施例と、従来のように親水膜を施すことなく高耐熱反射防止膜30の下地面をプラズマ処理により親水化処理した比較例とを、経過時間に伴う表面接触角の変化(親水性の劣化度合い)で比較した試験結果の一例が図8に示される。図8において、実施例1は、プラスチックレンズを基板としてその表面にアクリル系の親水膜92を下地膜として100nmの厚さで塗布した後、この親水膜92上に高耐熱反射防止膜30を110nmの厚さで塗布した2層構造の積層体90を用い、実施例2は、プラスチックレンズを基板としてその表面にアクリル系の親水膜92を下地膜として20nmの厚さで塗布した後、この親水膜92上に高耐熱反射防止膜30を80nmの厚さで塗布し、更に、この高耐熱反射防止膜30上にアクリル系の親水膜96を保護膜として20nmの厚さで塗布した3層構造の積層体90Aを用い、また、実施例3は、プラスチックレンズを基板としてその表面にアクリル系の親水膜92を下地膜として20nmの厚さで塗布した後、この親水膜92上に高耐熱反射防止膜30を80nmの厚さで塗布し、更に、この高耐熱反射防止膜30上にTiO2からなる光触媒の親水膜96を保護膜として20nmの厚さで塗布した3層構造の積層体90Aを用いている。一方、比較例(比較例1)は、プラスチックレンズを基板としてその表面に直接に高耐熱反射防止膜30を110nmの厚さで塗布したものを用いている。
この図8の表図から分かるように、本発明に係る実施例1〜実施例3は、親水膜92を成膜処理する前処理の直後と前処理1日後との間で表面接触角(親水膜92に対する水滴の接触角)、すなわち、親水性能に大きな変化が見られなかった。言い換えると、レンズ表面の濡れ性が経過時間によらず一定に保たれた。また、親水膜92上に対する高耐熱反射防止膜30の付着態様についても異常は見られず、親水膜92上に高耐熱反射防止膜30を所望の形態で均一に成膜することができた。これに対し、親水膜を伴わない比較例では、プラズマ処理を行なう前処理の直後と前処理1日後との間で表面接触角、すなわち、親水性能に大きな変化が見られた。具体的には、接触角が約5倍にまで大きくなり、親水性が大幅に劣化した。言い換えると、レンズ表面の濡れ性が時間と共に急激に低下した。また、レンズ表面上に対する高耐熱反射防止膜30の付着態様についても異常が見られ(ムラが発生し)、高耐熱反射防止膜30を所望の形態で均一に成膜することができなかった。
これに関連して、図9は、図8の表に示される実施例1〜実施例3および比較例の反射率と入射光波長との間の関係を示す分光特性図である。図示のごとく、実施例1〜実施例3の積層体90,90Aは、親水膜92(96)を伴うことにより膜全体(積層体全体)の厚さが比較例と比べて大きくなっても、反射膜としての性能が比較例と比べて遜色ないことが分かる。すなわち、実施例1〜実施例3の分光曲線は、いずれの入射角においても規定の入射波長範囲400nm〜700nm内で3%以下の優れた反射率を示している。
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、本発明において、レンズ、筐体などの形状は、前述した実施の形態に限定されない。また、高耐熱反射防止膜および親水膜の材料、レンズの材料なども任意に設定できる。
11 レンズユニット
12 鏡筒
13,14,15,16,17 レンズ(膜付きレンズ)
30 高耐熱反射防止膜
92,96 親水膜
300 カメラモジュール
12 鏡筒
13,14,15,16,17 レンズ(膜付きレンズ)
30 高耐熱反射防止膜
92,96 親水膜
300 カメラモジュール
Claims (8)
- 鏡筒に設けられ、その表面上に反射防止膜が設けられて成る膜付きレンズであって、
前記反射防止膜が高耐熱反射防止膜として形成され、
前記高耐熱反射防止膜は、該高耐熱反射防止膜中の体積率が5〜74%である複数の無機粒子と、体積率が0〜65%である複数の空気層と、前記無機粒子または前記無機粒子および前記空気層をバインディングし、前記無機粒子よりも低いヤング率を有し、体積率が5〜95%である、有機化合物、無機化合物および無機高分子のいずれかと、を備え、
前記高耐熱反射防止膜が前記レンズに設けられた親水膜上に形成されることを特徴とする膜付きレンズ。 - 鏡筒に設けられ、その表面上に反射防止膜が設けられて成る膜付きレンズであって、
前記反射防止膜が高耐熱反射防止膜として形成され、
前記高耐熱反射防止膜が空隙を有する微粒子積層薄膜からなり、この微粒子積層薄膜は、電解質ポリマーおよび微粒子が交互に吸着され、アルコール性シリカゾル生成物を接触させることにより、前記レンズと前記微粒子および前記微粒子同士が結合しており、
前記高耐熱反射防止膜が前記レンズに設けられた親水膜上に形成されることを特徴とする膜付きレンズ。 - 前記高耐熱反射防止膜上に更に親水膜が形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の膜付きレンズ。
- 前記高耐熱反射防止膜上の前記親水膜が光触媒であることを特徴とする請求項3に記載の膜付きレンズ。
- 前記親水膜を含めた前記高耐熱反射防止膜全体の反射率が400nm〜700nmの入射波長範囲内で3%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の膜付きレンズ。
- 前記レンズが樹脂製であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のレンズユニット。
- 複数のレンズが当該レンズの光軸に沿って並べられたレンズ群と、このレンズ群が収納される鏡筒とを備えるレンズユニットであって、
前記レンズ群を構成するレンズの少なくとも1つが請求項1から6のいずれか1項に記載の膜付きレンズであることを特徴とするレンズユニット。 - 請求項7に記載のレンズユニットを備えていることを特徴とするカメラモジュール。
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