本発明を以下に詳細に説明する。まず、本ガラスの各成分および各成分の含有範囲を設定した理由を以下に説明する。
本ガラスにおいて、B2O3はガラス骨格を形成し、ガラスの安定性を高めるとともに、アッベ数を大きくできる成分であり、必須成分である。ガラス中に、B2O3含有量を45モル%以上(以下、モル%を単に%と略す)にすることで所望の高いアッベ数νdを得ることができる。このB2O3含有量は、好ましくは49%以上、より好ましくは54%以上、特に好ましくは59%以上である。一方、B2O3含有量を80%以下にすることで屈折率の低下を抑えることができ、かつガラスの分相の発生も防ぐことができる。このB2O3含有量は、好ましくは77%以下、より好ましくは75%以下、特に好ましくは73%以下である。
本ガラスにおいて、La2O3は屈折率を高めながらもアッベ数を大きくできるため、高屈折率で低分散なガラスを得るために有用な成分であり、必須成分である。La2O3含有量を5%以上にすることで、所望の高い屈折率、アッベ数を得ることができる。このLa2O3含有量は、好ましくは7%以上、より好ましくは9%以上、特に好ましくは11%以上である。一方、La2O3含有量を32%以下にすることで液相温度の上昇を抑え、失透し難くできる。このLa2O3含有量は、好ましくは28%以下、より好ましくは25%以下、特に好ましくは22%以下である。
本ガラスにおいて、Gd2O3は屈折率を高めながらもアッベ数を大きくできるとともに、La2O3、Y2O3と共存させることで液相温度を下げ耐失透性を改善することができる成分である。Gd2O3含有量を25%以下にすることで溶解温度、成形温度の上昇を抑えるとともに、液相温度の上昇を抑え失透し難くすることができる。このGd2O3含有量は、好ましくは20%以下、より好ましくは17%以下、特に好ましくは15%以下である。
本ガラスにおいて、Y2O3はGd2O3と同様に屈折率を高めながらもアッベ数を大きくできるとともに、La2O3、Gd2O3と共存させることで液相温度を下げ耐失透性を改善できる成分である。Y2O3含有量を20%以下にすることで溶解温度、成形温度の上昇を抑えるとともに、液相温度の上昇を抑え失透し難くすることができる。このY2O3含有量は、好ましくは15%以下、より好ましくは13%以下、特に好ましくは10%以下である。
本ガラスにおいて、耐失透性を大幅に改善させるためにはLa2O3、Gd2O3およびY2O3の希土類成分それぞれについて、該希土類成分の総量(モル%)に対する各成分の含有量(モル%)の比率(希土類成分比率)を特定の範囲内にしなければならない。
この希土類成分比率は、0≦Gd2O3/Ln2O3<0.21のときは、La2O3/Ln2O3の下限は0.50以上、好ましくは0.53以上、より好ましくは0.56以上、特に好ましくは0.60以上であり、La2O3/Ln2O3の上限は0.77以下、好ましくは0.765以下、より好ましくは0.76以下、特に好ましくは0.75以下である。また、Y2O3/Ln2O3の下限は0.12以上、好ましくは0.13以上、より好ましくは0.14以上、特に好ましくは0.15以上であり、Y2O3/Ln2O3の上限は0.345以下、好ましくは0.344以下、より好ましくは0.342以下、特に好ましくは0.340以下である。
一方、Gd2O3/Ln2O3≧0.21のときは、La2O3/Ln2O3の下限は0.40以上、好ましくは0.43以上、より好ましくは0.46以上、特に好ましくは0.48以上であり、La2O3/Ln2O3の上限は0.74以下、好ましくは0.73以下、より好ましくは0.72以下、特に好ましくは0.69以下である。また、Y2O3/Ln2O3の下限は0以上であり、上限は0.25以下、好ましくは0.23以下、より好ましくは0.18以下、特に好ましくは0.17以下である。なお、Gd2O3/Ln2O3の上限は0.60以下、好ましくは0.58以下、より好ましくは0.55以下、特に好ましくは0.52以下である。
本ガラスにおいて、所望の高い屈折率、アッベ数を得るには、希土類成分の総量(Ln2O3)は18%以上、好ましくは22%以上、より好ましくは23%以上、特に好ましくは24%以上である。一方、希土類成分の総量が多すぎると耐失透性が急激に悪くなるため、Ln2O3は40%以下、好ましくは37%以下、より好ましくは34%以下、特に好ましくは31%以下である。
本ガラスにおいて、Yb2O3は耐失透性を改善させるが、多く含有させると820〜1090nmの波長域の光に対して強い吸収を示し、ガラスが着色してしまう。Yb2O3含有量は0.15%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下、特に好ましくは実質的に含有させない。
本ガラスにおいて、SiO2はB2O3と同様にガラス骨格を形成し、ガラスの安定性を高め耐失透性を上げるとともに、アッベ数を大きくできる成分であり、任意成分である。SiO2含有量を25%以下にすることで屈折率の低下を抑えるとともに、溶解中の溶け残りや分相の発生を防ぐことができる。このSiO2含有量は、好ましくは20%以下、より好ましくは17%以下、特に好ましくは15%以下である。なお、液相温度を下げて失透し難くすることや、化学的耐久性を向上させるためにはSiO2を含有させることが好ましく、その含有量は、より好ましくは0.5%以上、特に好ましくは1%以上である。
本ガラスにおいて、Li2Oはアッベ数を大きくでき、さらにガラスの溶融性を改善するとともに、ガラス転移温度や軟化温度を下げてプレス成形温度を下げることもできる成分であり、任意成分である。Li2O含有量を10%以下にすることで屈折率の低下を抑えるとともに、液相温度の上昇を抑えることができる。このLi2O含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。
本ガラスにおいて、ZnOはガラスの溶融性を改善するとともに、ガラス転移温度や軟化温度を下げてプレス成形温度を下げることができる成分であり、任意成分である。ZnO含有量を15%以下にすることで屈折率の低下、アッベ数の低下を抑えることができる。好ましくは10%以下、より好ましくは7%以下、特に好ましくは4%以下である。
本ガラスにおいて、MgOはアッベ数を大きくし、ガラスの溶融性を改善できる成分であり、任意成分である。MgO含有量を15%以下にすることで屈折率の低下や、液相温度の上昇を抑えることができる。このMgO含有量は、好ましくは12%以下、より好ましくは8%以下、特に好ましくは4%以下である。
本ガラスにおいて、CaOはアッベ数を大きくし、ガラスの溶融性を改善できる成分であり、任意成分である。CaO含有量を15%以下にすることで屈折率の低下や、液相温度の上昇を抑えることができる。このCaO含有量は、好ましくは12%以下、より好ましくは8%以下、特に好ましくは4%以下である。
本ガラスにおいて、SrOはアッベ数を大きくし、ガラスの溶融性を改善できる成分であり、任意成分である。SrO含有量を15%以下にすることで屈折率の低下や、液相温度の上昇を抑えることができる。このSrO含有量は、好ましくは12%以下、より好ましくは8%以下、特に好ましくは4%以下である。
本ガラスにおいて、BaOはアッベ数を大きくし、ガラスの溶融性を改善できる成分であり、任意成分である。BaO含有量を15%以下にすることで屈折率の低下や、液相温度の上昇を抑えることができる。このBaO含有量は、好ましくは11%以下、より好ましくは7%以下、特に好ましくは3%以下である。
本ガラスにおいて、ZrO2は屈折率を高めるとともに、耐失透性を改善できる成分であり、任意成分である。ZrO2含有量を10%以下にすることでアッベ数の低下を抑えるとともに、過剰に含有することによる耐失透性の低下を防ぐことができる。このZrO2含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは1.5%以下、特に好ましくは0.5%以下である。なお、本ガラスは希土類成分比率の最適化で十分に耐失透性を改善できているため、ZrO2を含有させなくてもよい。
本ガラスにおいて、Al2O3は化学的耐久性を上げるとともに、ガラスの分相を抑制できる成分であり、任意成分である。Al2O3含有量を10%以下にすることで屈折率の低下を抑えるとともに、液相温度の上昇を抑えることができる。このAl2O3含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。
本ガラスにおいて、Nb2O5は屈折率を高めるとともに、耐失透性を改善するために含有できる成分であり、任意成分である。Nb2O5含有量を10%以下にすることでアッベ数の低下を抑えることができる。このNb2O5含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは2.5%以下、特に好ましくは含有させない。
本ガラスにおいて、WO3は屈折率を高めるとともに、耐失透性を改善するために含有できる成分であり、任意成分である。WO3含有量を10%以下にすることでアッベ数の低下を抑えることができる。このWO3含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは2.5%以下、特に好ましくは含有させない。
本ガラスにおいて、Bi2O3は屈折率を高めるために含有できる成分であり、任意成分である。Bi2O3含有量を10%以下にすることでアッベ数の低下を抑えることができる。このBi2O3含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは2.5%以下、特に好ましくは含有させない。
本ガラスにおいて、TiO2は屈折率を高めるために含有できる成分であり、任意成分である。TiO2含有量を10%以下にすることでアッベ数の低下を抑えることができる。このTiO2含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは2.5%以下、特に好ましくは含有させない。
本ガラスにおいて、Ta2O5は屈折率を高めるとともに、ガラスの安定性を上げるために含有できる成分であり、任意成分である。Ta2O5含有量を10%以下にすることでアッベ数の低下を抑えるとともに、ガラスの材料費を抑えることができる。このTa2O5含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは2.5%以下、特に好ましくは0.5%以下である。
本ガラスにおいて、Li2Oと同様にアッベ数を大きくするとともに、ガラスの溶融温度、成形温度を下げる効果のある他のアルカリ金属酸化物(Na2O、K2O)を含有できる。この場合のアルカリ金属酸化物の含有量は、屈折率の低下を抑えるとともに、耐失透性を低下させないためにそれぞれ10%以下、好ましくは5%以下である。
本ガラスにおいて、Sb2O3はガラスの透過率を上げるとともに、脱泡を促進させるために含有できる成分であり、任意成分である。Sb2O3含有量は、ガラス溶融時の過度の発泡を防ぐために0.5%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下である。
本ガラスでは、環境面での負荷を減少させるため、PbO、As2O3、Fは不可避な混入を除き、いずれも実質的に含有しないことが好ましい。Fは揮発性を示し、脈理や光学特性の変動原因となる観点からも含有しないことが好ましい。また、Fe、Cr、Sm、Co、Cu、Ag、Ni、Moは少量含有しただけでも特定波長の光の吸収が発生しガラスが着色してしまうため、光学ガラスとして用いるためには不可避な混入を除き、いずれも実質的に含有しないことが好ましい。本明細書において、「実質的に含有しない」とは、原料中の不純物に起因して導入される場合を除き、意図的には含有させないことをいい、具体的には含有量が0.01%未満を意味する。
本ガラスの光学特性としては、屈折率ndが1.736〜1.765である。高屈折率であるほど光学素子(レンズ)の曲率半径を大きくできるので、光学素子(レンズ)厚みを薄くすることができる。光学素子(レンズ)の小型化、薄型化に適するためには、屈折率ndは、好ましくは1.7361以上、より好ましくは1.7362以上である。一方、高アッベ数を維持したまま過度に屈折率を高めるとガラスの安定性が損なわれ、分相や失透が起こりやすくなるため、屈折率ndは、好ましくは1.761以下、より好ましくは1.760以下、特に好ましくは1.758以下である。
本ガラスの光学特性の領域では、低分散(高アッベ数)であるほど光学素子(レンズ)として使われたときに光学系の収差を効果的に補正することができる。このため、本ガラスのアッベ数νdは52.3以上であるが、低屈折率であるほどガラスの安定性を維持しながらアッベ数を高めやすいため、アッベ数νdの下限を屈折率ndとの関係式で規定する。つまり、本ガラスのアッベ数νdはνd≧(−45.131×nd+132.001)の関係式を満たす。しかし、高屈折率を維持したまま過度にアッベ数を高めるとガラスの安定性が損なわれ分相や失透を起こしやすくなるため、アッベ数νdは56以下、好ましくは55以下、より好ましくは54.5以下、特に好ましくは54.2以下である。
本ガラスのガラス転移温度Tgは、750℃以下が好ましい。ガラス転移温度が低いとプレス時の成形温度を低くでき、これにより金型表面に形成されている保護膜等の耐久性を向上できる。このガラス転移温度Tgは、より好ましくは730℃以下、特に好ましくは710℃以下である。
本ガラスは、光学系に使われるために透過率が高いほど好ましい。ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルでの外部透過率80%を示す波長λ80が460nm以下、好ましくは430nm以下、より好ましくは410nm以下である。また、厚み10mmのサンプルでの外部透過率70%を示す波長λ70が420nm以下、好ましくは400nm以下、より好ましくは380nm以下である。また、厚み10mmのサンプルでの外部透過率5%を示す波長λ5が360nm以下、好ましくは340nm以下、より好ましくは320nm以下である。
本ガラスは、液相温度を低くすることでガラス溶融物をプリフォームや板材等に成形する際に失透し難くし、生産性やガラス品質を向上させることができる。液相温度は1200℃以下、好ましくは1150℃以下、より好ましくは1100℃以下である。なお、本明細書において液相温度とは、ある温度に一定時間保持した場合に、ガラス溶融液から結晶固化物が生成しない最低温度とする。
本ガラスは、流出ノズルを付設した溶解槽等で溶融させた後、上記流出ノズルからガラスを流出、または滴下させ、冷却することにより、ガラスブロックやプレス成形用のガラスプリフォームとすることができる。得られたプリフォームをプレス成形用の型(代表的な構成としては、上型、下型および胴型で構成される)にセットし、変形可能な成形温度まで加熱後、加圧して光学素子形状とし、冷却して固化させ、型から取り出して、光学素子とすることができる。
また、本ガラスからなるブロックを光学素子形状に研削代及び研磨代を加えた形状にプレス成形した後に、研削、研磨を行って光学素子とすることができる。
本ガラスによる光学素子としては、例えばデジタルカメラ用、デジタルビデオカメラ用、カメラ付き携帯電話用等の光学系に使われる各種レンズが好適なものとして挙げられる。
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
原料調製法としては、表1〜表15に示す組成のガラスが得られるように各々相当する硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物、ホウ酸などの原料を秤量し、十分混合した後、白金製坩堝に投入し、1150℃〜1350℃の温度範囲で1.5時間〜3時間加熱、溶解した。この溶融ガラスを予熱した型に流し出して冷やし、板状に成形後、ガラス転移温度近傍の温度で4時間保持した後、−60℃/hの冷却速度で室温まで徐冷した。
得られたガラスについて、波長587.56nm(d線)における屈折率nd、波長656.27nm(C線)における屈折率nC、波長486.13nm(F線)における屈折率nF、アッベ数νd、ガラス転移温度Tg(単位:℃)、透過率、液相温度TL(単位:℃)を測定した。これらの測定方法を以下に述べる。
屈折率、アッベ数は、一辺5mm以上、厚み5mm以上の直方体形状に加工したサンプルを、精密屈折率計(島津製作所製、型式:KPR−200、KPR−2000)を用いて測定した。屈折率は、降温速度−60℃/hで徐冷して得られたサンプルについて測定した。なお、アッベ数νdは計算式{(nd−1)/(nF−nC)}により求めた。
ガラス転移温度Tgは、直径5mm、長さ20mmの円柱状に加工したサンプルを、熱機械分析装置(リガク社製、型式:Thermo Plus TMA8310)を用いて5℃/分の昇温速度で測定した。
外部透過率は、厚さ10mm、両面を研磨したサンプルを、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、型式:U−4100)を用いて測定した。透過率80%を示す波長をλ80、透過率70%を示す波長をλ70、透過率5%を示す波長をλ5とした。
液相温度は、白金製の皿にサンプルを置き、一定温度に設定した電気炉内で1時間静置した後に取りだしたものを50倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の析出が見られない最低温度を液相温度とした。
以下、表1〜表15において、例1から例13、例15から例20、例26、例28、例32から例35、例40から例50、例64〜例66、例70から例77、例80、例81、例84、例89から例109、例111、例121、例122、例124から例133、例138、例139は本発明の実施例であり、例14、例21から例25、例27、例29から例31、例36から例39、例51から例63、例67から例69、例78、例79、例82、例83、例85から例88、例110、例112から例120、例123、例134から例137は参考例である。例140から例142は比較例であり、そのうち例141は特許文献4の実施例(例4)、例142は特許文献3の実施例(例17)である。また、表中の組成において、基本的にはモル%で表しているが、同欄の角カッコ内に質量%表示を合わせて示した。
以上に示したように、本発明の特定の組成を有するガラスとすると高屈折率で、かつ、低分散の特性を有する傾向にあり、屈折率ndとアッベ数νdの関係において、従来知られていなかった範囲の特性を有する光学ガラスが得られた。
一方、比較例である例140、例141は希土類成分が耐失透性の改善に適した範囲を満たしていないため、ガラス成形中に失透が発生し、耐失透性に問題があった。例142はアッベ数が小さく、本発明の所望の範囲に達していない。
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の主旨を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができる。