JP2019150850A - 接合方法および接合体の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】インサート材を用いず、真空装置を使わずに、接合強度の高いアルミニウム部材同士の拡散接合を可能とすること。【解決手段】本発明の接合方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第1部材の表面の一部である第1接合面と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第2部材の表面の一部である第2接合面と、を接合する、接合方法であって、第1部材の第1接合面に、アルミニウムよりもイオン化傾向が大きい金属のイオンである還元性金属イオンを含む還元溶液を塗布する塗布工程、還元溶液が塗布された第1接合面と、第2接合面と、が対向するように、第1部材と第2部材とを重ね合わせる積層工程、および、第1部材および第2部材を両者が互いに押し合わされるように加圧しながら加熱することにより、拡散接合によって第1部材と第2部材とを接合する接合工程、をこの順で含む。【選択図】図2

Description

本発明は、接合方法および接合体の製造方法に関する。
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる部材(以下、「アルミニウム部材」と略す場合がある)の表面には、強固で安定な酸化膜が存在する。アルミニウム部材同士を拡散接合して接合体を得る際には、アルミニウム部材の表面の酸化膜を還元しておく必要がある。
特許文献1(特開昭60−27481号公報)、特許文献2(特公平5−62034号公報)、特許文献3(特開2007−245219号公報)および特許文献4(特開2010−94683号公報)には、接合される2つのアルミニウム部材の間にインサート材を介在させ、インサート材からの拡散により酸化膜を還元する方法が開示されている。
また、インサート材を使用しない酸化膜の還元方法として、例えば、特許文献5(特開昭60−24287号公報)には、アルミニウム部材の表面にイオン化傾向の高い金属を真空蒸着して酸化膜を還元する方法が開示されている。
また、特許文献6(国際公開第2016/104399号)の段落[0006]に記載されるように、固相接合される金属部材を高い濃度を有する有機酸に浸して、酸化膜を除去する方法も知られていた。
特開昭60−27481号公報 特公平5−62034号公報 特開2007−245219号公報 特開2010−94683号公報 特開昭60−24287号公報 国際公開第2016/104399号
特許文献1〜4の方法では、インサート材を用いるため、インサート材の厚みを考慮した設計が必要であった。すなわち、余分な材料を含むため、接合後の寸法精度が悪いという問題があった。
また、特許文献5の方法では、真空装置が必要であり、真空槽のサイズにより作製される接合体のサイズに限界がある等の問題があった。
したがって、本発明は、インサート材を用いず、真空装置を使わずに、接合強度の高いアルミニウム部材同士の拡散接合を可能とすることを目的とする。
本発明の接合方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第1部材の表面の一部である第1接合面と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第2部材の表面の一部である第2接合面と、を接合する、接合方法であって、
第1部材の第1接合面に、アルミニウムよりもイオン化傾向が大きい金属のイオンである還元性金属イオンを含む還元溶液を塗布する塗布工程、
還元溶液が塗布された第1接合面と、第2接合面と、が対向するように、第1部材と第2部材とを重ね合わせる積層工程、および、
第1部材および第2部材を両者が互いに押し合わされるように加圧しながら加熱することにより、拡散接合によって第1部材と第2部材とを接合する接合工程、をこの順で含む。
本発明によれば、アルミニウムよりもイオン化傾向の大きな金属のイオンである還元性金属イオンを含む還元溶液を接合面に塗布してから、アルミニウム部材(アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる部材)を接合することにより、インサート材を用いず、真空装置を使わずに、接合強度の高いアルミニウム部材同士の拡散接合が可能となる。
この発明の実施の形態1に係る接合方法のプロセスフロー図である。 この発明の実施の形態1に係る接合方法を説明するための断面模式図である。 この発明の実施の形態1に係る接合体の一例における接合界面を示す断面模式図である。 この発明の実施の形態2に係る接合体の一例における接合界面を示す断面模式図である。 従来のアルミニウム部材の接合方法における課題を説明するための断面模式図である。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表す。
実施の形態1.
図2を参照して、本実施の形態の接合方法(接合体の製造方法)では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第1部材11の表面の一部である第1接合面11aと、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第2部材12の表面の一部である第2接合面12aと、を接合する。本実施の形態の接合方法は、少なくとも以下の塗布工程、積層工程および接合工程をこの順で含む(図1参照)。
(塗布工程)
本工程では、第1部材11の第1接合面11aに、アルミニウムよりもイオン化傾向が大きい金属のイオンである還元性金属イオンを含む還元溶液2を塗布する(図2(a)参照)。
(積層工程)
本工程では、還元溶液2が塗布された第1接合面11aと、第2接合面12aと、が対向するように、第1部材11と第2部材12とを重ね合わせる(図2(b)参照)。
(接合工程)
本工程では、加圧したままで第1部材および第2部材を加熱することにより、拡散接合によって第1部材と第2部材とを接合する(図2(c)参照)。
以下、実施の形態1の具体例について、主に図1および図2を用いて説明する。図1は、実施の形態1に係る接合方法のプロセスフロー図である。図2は、実施の形態1に係る接合方法を説明するための断面模式図である。
図1を参照して、本実施の形態では、まず、アルミニウム部材を加工して、第1部材11および第2部材12を作製する。
次に、各アルミニウム部材(第1部材11および第12部材)の表面には加工時の汚れが付着しているため、洗浄する必要がある。アルミニウム部材の洗浄方法としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム部材の表面の脱脂を行った後、酸洗浄およびアルカリ洗浄の両方または一方によりアルミニウム部材の表面を洗浄する方法が挙げられる。酸洗浄に用いる酸としては、例えば、フッ酸、珪フッ酸などが挙げられる。アルカリ洗浄に用いるアルカリとしては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。
なお、酸洗浄、アルカリ洗浄等を行った場合、アルミニウム部材の表面にスマットが残留する可能性がある。ここでいう「スマット」とは、酸またはアルカリによってアルミニウム部材の素材が溶解することにより、素材中に含まれる酸またはアルカリに溶解されにくい成分が微粉末となってアルミニウム部材の表面に残留付着してなる不要物である。スマットはアルミニウム部材の接合不良の原因ともなるため、さらにスマットを除去する処理が行われることが望ましい。スマットを除去する処理としては、例えば、酸洗浄またはアルカリ洗浄とは異なる酸またはアルカリを用いてスマットを除去する処理が挙げられる。また、バレル研磨や電解研磨などの物理的処理によって、スマットを除去してもよい。
上記の工程により、清浄化された接合面(第1接合面11a、第2接合面12a)を有するアルミニウム部材(第1部材11、第2部材12)が、以下の工程により接合される。
(塗布工程)
まず、第1部材11の第1接合面11aに還元性金属イオンを含有する還元溶液2が塗布される。ここで、「塗布する」とは、第1接合面11aの全面が還元溶液2で覆われている必要はなく、塗布工程では、図2(a)に示されるように第1接合面11a上に還元溶液2が滴下され、第1接合面11aの一部が還元溶液で覆われているような状態であってもよい。
還元性金属イオンは、アルミニウム部材の主元素であるアルミニウムよりもイオン化傾向の大きな金属のイオンである。還元性金属イオンは、好ましくはマグネシウム、ベリリウム、トリウム、ナトリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、リチウムなどのイオンである。
還元性金属イオンは、アルミニウムの原子半径に近い原子半径(アルミニウムの原子半径に対して2.2倍以下)を有する金属のイオンであることが好ましい。アルミニウムの原子半径に近い原子半径を有する金属のイオンは、アルミニウム部材の主成分であるアルミニウムとの親和性が高いため、アルミニウム部材の表面の酸化膜を効率的に除去することができるからである。アルミニウムの原子半径に近い原子半径を有する金属としては、マグネシウム、ベリリウム、ナトリウム、カルシウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。
マグネシウムは、アルミニウム合金におけるアルミニウム以外の主要な構成成分として知られているように、アルミニウムの原子半径に特に近い原子半径を有しており、アルミニウム部材の主成分であるアルミニウムとの親和性が非常に高い。このため、マグネシウムイオンは、還元性金属イオンとして最も好適に用いることができる。
還元溶液中の還元性金属イオンの濃度は、0.3質量%未満であることが好ましく、0.03質量%以下であることがより好ましい。還元性金属イオンの濃度が0.3質量%以上である場合、得られる接合体のシェア強度が還元溶液を用いずに接合された従来の接合体よりも低くなる場合がある。これは、還元性金属イオンが多過ぎる場合、還元性金属イオンとアルミニウム原子の半径とは通常異なるため、格子不整合な状態(格子ミスマッチ)を誘起して、接合を阻害するからであると考えられる。このため、還元性金属イオンの数は、アルミニウム部材の接合面の単位面積あたりの原子数(例えば、1015〜1016atoms/cm)に対して、同程度(例えば、1017ions/cm以下)であることが好ましい。
一方、還元溶液中の還元性金属イオンの濃度は、好ましくは0.0003質量%以上である。還元性金属イオンの量が少な過ぎると、アルミニウム部材の表面の強固な酸化膜が還元されずに残るため、アルミニウム部材同士が接合し難くなる虞がある。
還元溶液は、さらに有機酸を含んでいることが好ましい。有機酸は、接合時の加熱により容易に分解してプロトンを生成し、アルミニウム部材の表面の酸化膜を還元することができる。このように、還元性金属イオンに加えて有機酸が酸化膜を還元することで、アルミニウム部材の表面の酸化膜をより確実に還元することができるため、より高い接合強度を有する接合体を得ることができる。
また、還元溶液中に有機酸が含まれている場合、還元溶液中で還元性金属イオンが錯体として安定に存在することができる。これにより、アルミニウム部材の表面全体の酸化膜が還元され易くなるため、より高い接合強度を有する接合体を得ることができる。さらに、還元溶液中に含まれる有機酸の質量が還元性金属イオンの質量に対して同程度(90〜110質量%)である場合、このような効果がより得られ易くなる。
このような観点から、還元溶液中の有機酸の濃度は、還元性金属イオンの濃度と同様に、好ましくは0.3質量%未満、より好ましくは0.03質量%以下であり、また、好ましくは0.0003質量%以上である。なお、有機酸は炭素を含んでいるため残渣発生の原因となるため、有機酸の濃度が高い場合、接合を阻害する虞があり、接合可能な面積を小さくする必要が生じる可能性がある。また、使用する有機酸が劇物指定である場合は、有機酸の濃度が高いと還元溶液の取り扱いが難しくなる場合がある。
有機酸は、カルボン酸であることが好ましい。分子量が小さく、親水性の酸が多いからである。有機酸は、低沸点(200℃以下)であることが好ましく、低沸点のカルボン酸であることがより好ましい。低沸点のカルボン酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸などが挙げられる。還元溶液2が低沸点の有機酸を含んでいる場合、塗布された還元溶液2が加圧により接合面(第1接合面11a、第2接合面12a)の全体に広がり易くなるため、接合面の酸化膜がより確実に還元され、接合体の接合強度が高められる。また、余分な還元溶液は外周から排出され、更に加熱されると揮発して除去されるため、接合体に有機酸の残渣が残り難くなる。
(積層工程)
次に、還元溶液2が塗布された第1接合面11aと、第2接合面12aと、が対向するように、第1部材11と第2部材12とが重ね合わせられる(図2(b)参照)。
なお、第1部材11と第2部材12とが積層された後、次の接合工程(加圧および加熱の工程)の前に、第1部材11と第2部材12とが互いに押し合わされるように加圧を行ってもよい。このときの加圧の圧力は、例えば、0.01〜1MPaである。この加圧の時間は、例えば、1〜30秒である。
特に、塗布工程において、第1部材11の第1接合面11aの一部のみに還元溶液が塗布された場合は、積層工程において、重ね合わせられた前記第1部材と前記第2部材とが互いに押し合わされるように加圧が行われることが好ましい。この加圧によって、還元溶液が第1部材の第1接合面および第2接合面の全面に分散されるため、アルミニウム部材の接合面全体の酸化膜を還元することが可能となる。
(接合工程)
本工程では、積層された第1部材および第2部材を両者が互いに押し合わされるように加圧しながら加熱することにより、拡散接合によって第1部材と第2部材とを接合する(図2(c)参照)。このときの加圧の圧力は、例えば、1〜50MPaである。加熱の温度は、例えば、300〜600℃である。接合時間(加熱時間)は、例えば、5〜600分であり、好ましくは30〜120分である。
図3は、実施の形態1に係る接合体の一例における接合界面を示す断面模式図である。図3では、還元性金属イオン4と有機酸が周囲の酸化膜を還元している様子が示されている。酸化膜は完全には除去できないが、安定な酸化アルミニウム膜30(図5)から還元性金属イオン4が酸素を奪う(酸化アルミニウムが還元される)ことで、安定な酸化アルミニウム膜30が不安定な酸化アルミニウム膜31へ変化するため、酸化膜を介したアルミニウム部材同士の接合が可能となる。
本実施の形態の接合方法(接合体の製造方法)により、半田に代表されるインサート材を使用せず、アルミニウム部材同士の接合が可能となる。
また、インサート材を用いずにアルミニウム部材の酸化膜を還元する従来法では、アルミニウム部材の表面(接合面)が大気に曝されると、強固で安定な酸化膜が容易に形成されるため、酸化膜を還元後に再酸化させないように真空中で接合を行う必要があった。これに対して、本実施の形態の接合方法では、アルミニウム部材の接合面(第1部材11の第1接合面11aおよび第2部材12の第2接合面12a)が大気に曝されない状態で、接合面の酸化膜が還元されるため、大気中でもアルミニウム部材同士の接合が可能である。
このように、本実施の形態の接合方法では、真空装置等を用いる必要がないため低いイニシャルコストでの接合が可能であり、真空プロセス等を用いる必要がないため低いランニングコストでの接合が可能である。また、真空引き等が不要となるため、接合の作業時間の短縮が可能となる。また、接合体のサイズが真空装置のサイズに応じた制約を受けないため、接合面積が大きい接合体の製造が可能となる。このように、アルミニウム部材に対して、簡便に、拡散接合を実施することが可能であり、接合体のサイズの制約を受け難い接合方法が提供される。
実施の形態2.
本実施の形態は、還元溶液が、1種の上記還元性金属イオンに加えて、さらに(1種の上記還元性金属イオン以外の)他の金属イオンを含む点で、実施の形態1とは異なる。それ以外の点は、実施の形態1と同様である。以下、図4を参照して、実施の形態2の一例について説明する。
図4は、実施の形態2に係る接合体の一例における接合界面の断面模式図である。本実施の形態においては、2種類以上の金属イオン(1種の還元性金属イオンおよび他の金属イオン)を含む還元溶液を用いて、アルミニウム部材(第1部材11および第2部材12)の表面(第1接合面11aおよび第2接合面12a)を還元してから、第1部材11と第2部材12とが接合される。このようにして接合された実施の形態2の接合体では、図4に示されるように、還元性金属イオン51と、他の金属イオン52と、が接合界面に分布して、アルミニウム部材同士が接合されている。
還元性金属イオン(第1の還元性金属イオン)としては、実施の形態1と同様の還元性金属イオンを用いることができる。
他の金属イオンは、第1の還元性金属イオンとは別の還元性金属イオンであってもよく、アルミニウムよりもイオン化傾向が小さい金属のイオン(非還元性金属イオン)であってもよい。非還元性金属イオンとしては、例えば、亜鉛、クロム、スズ、アンチモン、ビスマスなどが挙げられる。
還元溶液が、1種の還元性金属イオンと他の金属イオンとを少なくとも含む(2種類以上の金属イオンを含む)ことで、アルミニウム部材の表面の酸化膜を構成する酸化アルミニウムの安定性を阻害し、酸化アルミニウム中に金属イオンを含んだ接合を提供することが可能である。このとき、1種類の金属イオンを用いた場合よりも高い接合強度を得ることができる。この理由は以下のように考えられる。
アルミニウム部材の表面の酸化膜は接合性を低下させるため、アルミニウム部材の表面の酸化膜を破壊し、還元溶液中に含まれる金属イオンの周囲に粒状の酸化膜を形成させる必要がある。還元溶液中に含まれる金属イオンの種類が増えると、この粒状の酸化膜を構成する酸化物が歪な結晶構造となるため、接合体の接合強度が高められると考えられる。
別の理由としては、還元溶液中に含まれる2種類以上の金属イオンの原子半径が異なることで、ある1種の金属イオンがアルミニウム部材の表面の酸化膜を構成する金属結晶中に入れない場合でも、別の種類の金属イオンは結晶構造を壊さずにその金属結晶中に入ることができるため、全体として無駄なくアルミニウム部材の表面の酸化膜を除去できるからであると考えられる。このような観点からは、金属イオン(還元性金属イオンおよび他の金属イオンの少なくともいずれか)は、アルミニウムの原子半径より小さい原子半径を有する金属のイオンであることがより好ましい。
なお、他の金属イオンが非還元性金属イオンである場合、還元されたアルミニウムと酸素を介さずに結合できるという利点がある。
本実施の形態においては、還元溶液中の2種以上の金属イオンの合計の濃度が、0.3質量%未満であることが好ましく、0.03質量%以下であることがより好ましい。実施の形態1と同様に、還元性金属イオンの濃度が0.3質量%以上である場合、得られる接合体のシェア強度が還元溶液を用いずに接合された従来の接合体よりも低くなる場合があるからである。
なお、還元溶液が有機酸を含む場合、実施の形態1と同様の理由から、還元溶液中の有機酸の含有量は、金属イオンの合計の濃度と同様に、好ましくは0.3質量%未満、より好ましくは0.03質量%以下であり、また、好ましくは0.0003質量%以上である。
<接合体1〜14の作製>
まず、アルミニウム母材を加工することにより、以下の第1部材および第2部材を作製した。
第1部材 素材:アルミニウム合金(A5052)
寸法:10mm四方、厚み1〜5mm
第2部材 素材:アルミニウム合金(A5052)
寸法:5mm四方、厚み1〜10mm
第1部材11の第1接合面11a上に、金属イオン(還元性金属イオン)と酢酸とを含む水溶液(還元溶液)を滴下することで、第1接合面11aの一部に還元溶液を塗布した(図2(a)参照)。次に、第1部材11と第2部材12とを接合面(第1接合面11aおよび第2接合面12a)が対向するように重ね合わせて、加圧(圧力:0.1MPa)により両者を互いに押し合わせた(図2(b)参照)。その後、加圧の圧力を5MPaに上げて550℃の温度で加熱することで、第1部材11と第2部材12とを接合面での拡散接合により接合させて、接合体を得た(図2(c)参照)。
還元溶液中に含まれる金属イオンの種類および金属イオンの濃度と、接合時間(550℃での加熱時間)を、表1に示すように変化させて、複数種の接合体1〜12を作製した。還元溶液中に含まれる酢酸の濃度は、金属イオンの濃度と同じである。なお、接合体11および12の金属イオン濃度は、リチウムイオンとマグネシウムイオンの合計の濃度である。また、比較のために、還元溶液の塗布を行わずに、接合時間を表1に示すように変化させて、接合体13および14を製造した。
<接合強度の測定>
接合体を第2部材が上側となるように設置し、アルミニウム部材B(第1部材)を固定した。測定装置(RHESCA社製、ボンディングテスタ)が、荷重センサに取り付けられたツールを第1部材のうち第2部材が接合されていない部分の上方から下降させた。センサが第1部材の上面を検出すると、ツールの下降が停止された。次に、検出した第1部材の上面から設定された高さまで、ツールが上昇した。その後、ツールが第2部材の一側面に向かって移動され、さらに第2部材の一側面を押圧するようにツールに荷重が加えられた。そして、接合体が破断するまで(第2部材の一部が第1部材から剥がれるまで)の印加荷重の最大値を測定して、接合強度(シェア強度)とした。表1に、各接合体についてのシェア強度の測定結果を示す。
Figure 2019150850
実験結果から、還元性金属イオンおよび酢酸(有機酸)を含む水溶液である還元溶液を塗布してから拡散接合により接合した場合、得られる接合体(接合体3〜12)は、還元溶液を使用しなかった従来の接合体13および14よりもシェア強度が高くなった。このことから、アルミニウムよりもイオン化傾向の大きな金属のイオンである還元性金属イオンを含む還元溶液を接合面に塗布してから、アルミニウム部材を接合することにより、インサート材を用いず、真空装置を使わずに、接合強度の高いアルミニウム部材同士の拡散接合が可能となることが分かる。
ただし、作製に用いた還元溶液中の還元性金属イオンおよび有機酸の濃度が0.3質量%以上であった接合体1および2においては、接合体13および14よりもシェア強度が低くなった。これは、金属イオンが多過ぎることによる格子ミスマッチと、有機酸が多過ぎることによる残渣の影響が大きくなり、アルミニウム部材の接合を阻害したためであると考えられる。なお、この結果は、本試験例における結果であり、必ずしも還元溶液中の還元性金属イオンおよび有機酸の濃度が0.3質量%以上である場合に接合体の接合強度が低くなるとは限らない。
これに対して、還元溶液中の還元性金属イオンおよび酢酸(有機酸)の各々の濃度が0.03質量%以下に調整された接合体3〜12で、シェア強度が接合体13および14よりも高くなったのは、還元性金属イオンおよび酢酸(有機酸)の濃度を低減することで、格子ミスマッチと残渣の影響を抑えることができたためであると考えられる。なお、この場合、接合面の単位面積当たりの還元性金属イオンの数が1017ions/cm以下になっていると考えられる。
一般的なアルミニウム部材の表面は1015〜1016atoms/cm程度の原子で覆われている。そのため、接合面での単位面積あたりの還元性金属イオンの数が例えば1017ions/cmより多い場合、1個の表面原子に対して100個より多い還元性金属イオンが存在することになる。このように、還元性金属イオンの量が過剰に多いと、アルミニウム部材の表面の金属の結晶構造が破壊されるため、接合が難しくなり、接合体の接合強度は低下すると考えられる。反対に、還元性金属イオン量が1017ions/cm以下になると、アルミニウム部材の表面の金属の結晶構造を破壊し難くなり、還元性金属イオンの還元作用により強固な接合層が形成されると考えられる。
ただし、還元性金属イオンの量が少な過ぎると(例えば、還元溶液中の還元性金属イオンの濃度が0.0003質量未満である場合)、アルミニウム部材の表面の強固な酸化膜が還元されずに残るため、アルミニウム部材同士が接合し難くなる虞がある。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
11 第1部材(アルミニウム部材)、11a 第1接合面、12 第2部材(アルミニウム部材)、12a 第2接合面、2 還元溶液、30 安定な酸化アルミニウム膜、31 不安定な酸化アルミニウム膜、4 還元性イオン、51 還元性金属イオン、52 他の金属イオン。

Claims (8)

  1. アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第1部材の表面の一部である第1接合面と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第2部材の表面の一部である第2接合面と、を接合する、接合方法であって、
    前記第1部材の前記第1接合面に、アルミニウムよりもイオン化傾向が大きい金属のイオンである還元性金属イオンを含む還元溶液を塗布する塗布工程、
    前記還元溶液が塗布された前記第1接合面と、前記第2接合面と、が対向するように、前記第1部材と前記第2部材とを重ね合わせる積層工程、および、
    前記第1部材および前記第2部材を両者が互いに押し合わされるように加圧しながら加熱することにより、拡散接合によって前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合工程、をこの順で含む、接合方法。
  2. 前記還元溶液が、さらに有機酸を含む、請求項1に記載の接合方法。
  3. 前記還元性金属イオンは、マグネシウムイオンを含む、請求項1または2に記載の接合方法。
  4. 前記有機酸は、200℃以下の沸点を有するカルボン酸である、請求項2に記載の接合方法。
  5. 前記還元溶液中の前記還元性金属イオンの濃度が0.3質量%未満である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の接合方法。
  6. 前記塗布工程において、前記第1部材の前記第1接合面の一部のみに前記還元溶液が塗布され、
    前記積層工程において、重ね合わせられた前記第1部材と前記第2部材とが互いに押し合わされるように加圧が行われ、その加圧によって前記還元溶液が前記第1部材の前記第1接合面および前記第2接合面の全面に分散される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の接合方法。
  7. 前記還元溶液が、1種の前記還元性金属イオンと、それ以外の他の金属イオンと、を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の接合方法。
  8. アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第1部材の表面の一部である第1接合面と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第2部材の表面の一部である第2接合面と、を接合して接合体を得る、接合体の製造方法であって、
    前記第1部材の前記第1接合面に、アルミニウムよりもイオン化傾向が大きい金属のイオンである還元性金属イオンを含む還元溶液を塗布する塗布工程、
    前記還元溶液が塗布された前記第1接合面と、前記第2接合面と、が対向するように、前記第1部材と前記第2部材とを重ね合わせる積層工程、および、
    前記第1部材および前記第2部材を両者が互いに押し合わされるように加圧しながら加熱することにより、拡散接合によって前記第1部材と前記第2部材とを接合して接合体を得る接合工程、をこの順で含む、接合体の製造方法。
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