本開示の一実施形態に係る多孔質構造体について、図1および図2に基づいて説明する。図1に示す分離膜付き多孔質体1は、多孔質体である支持体4の表面の一部に分離膜2aが形成された分離膜部2と、支持体4の表面の他の一部に被覆層3aが形成された封止部3とを含む。図2は、封止部3をII−II線で切断した際の拡大断面図を示している。
支持体4は、外表面から内表面まで開気孔が繋がっている、すなわち連通した気孔を有する多孔質体である。支持体4は気孔を通じて流体を透過させるだけでなく、分離膜2aの形状を保持している。支持体4は、多孔質であれば限定されず、例えば無機材料を含んでもよい。無機材料としては、例えばセラミックス、金属などが挙げられる。耐熱性および耐薬品性が高いという点で、例えばアルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、チタン酸アルミニウムなどのセラミックスを使用してもよい。支持体4である多孔質体の平均気孔径Pは、混合流体の成分が透過でき、形状を保持できれば、特に限定されない。例えば、多孔質体の平均気孔径Pは0.01μm以上、5μm以下であってもよい。またPは0.1μm以上、3μm以下であってもよい、支持体4の気孔率は、30%以上、60%以下であってもよく、特に35%以上、55%以下であってもよい。多孔質体の平均気孔径Pおよび気孔率をこのような範囲とすることで、分離成分の透過速度を大きくすると同時に多孔質体の機械的強度を高く維持することができる。多孔質体の平均気孔径Pおよび気孔率は、水銀圧入法で求めることができる。なお、これらの平均気孔径Pおよび気孔率は、多孔質体の開気孔の平均気孔径Pおよび気孔率である。
分離膜部2は、混合流体から分離対象である特定の成分を分離、または濾過する部位である。上記のように、分離膜部2は、支持体4の表面に分離膜2aが形成された構造を有している。分離膜2aの材料は、分離機能を有していれば限定されない。例えば細孔による分子ふるい機能、溶解拡散機構、および逆浸透機能などのいずれかの分離機能を有する材料であればよい。細孔による分子ふるい機能を有する材料としては、例えば、カーボン、ゼオライト、およびシリカなどの多孔質の無機材料、ならびにポリイミド、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、および酢酸セルロースなどの多孔質の高分子材料などが挙げられる。また、溶解拡散機構を有する材料としては、例えば、パラジウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、プラチナおよびこれらの合金などの金属材料が挙げられる。逆浸透機能を有する材料としては、例えば、酢酸セルロース、ポリフッ化ビニリデン、およびポリアミドなどの高分子材料が挙げられる。溶解拡散機構または逆浸透機能を有する材料は、細孔を有さなくてもよい。分離膜2aが有する細孔の平均細孔径および細孔径分布、溶解拡散性能、または逆浸透性能は、分離対象の成分および用途に応じて適宜設定される。
分離膜部2において分離膜付き多孔質体1の一方の面(外表面または内表面)に接した混合流体に含まれる特定の成分は、分離膜2aを透過して分離膜付き多孔質体1のもう一方の面(内表面または外表面)に移動する。混合流体に含まれる特定の成分以外の他の成分は、分離膜2aを透過しにくい。このようにして、分離膜付き多孔質体1により混合流体から特定の成分が分離される。このとき、分離効率を高めるために、混合流体と分離された特定の成分との間に差圧を設けてもよい。差圧を設けるには、例えば混合流体を加圧してもよいし、特定の成分を吸引して減圧してもよい。
分離膜2aは、支持体4の一方の面、すなわち外表面または内表面のいずれかだけに配置されていてもよいし、両方の面に配置されていてもよい。また支持体4の気孔の内面に配置されていてもよい。
封止部3は、分離膜付き多孔質体1の分離膜部2を有さない部位に配置される。封止部3は、混合流体、透過成分、および非透過成分が漏れることで不具合が起こる部位に配置される。分離膜付き多孔質体1が、混合流体の流路、透過成分の流路、および非透過成分の流路に接続された分離膜モジュールを例として、封止部3を具体的に説明する。
分離膜モジュールは、混合流体を入れる第1室と、分離された透過成分を入れる第2室とを備える。分離膜付き多孔質体1は第1室と第2室との間に位置する隔壁である。封止部3は、支持体4の分離膜2aを有さない部位で、第1室の流体と第2室の流体とが混合しないように支持体4の気孔を封止している。封止部3では、支持体4の表面が、混合流体に含まれる成分をいずれも透過させない、または透過させにくい材料で被覆されている。ここで「表面」とは、外表面、内表面および端面を意味する。
封止部3では、支持体4の気孔の内部に充填材を有する複合層3bを備えている。充填材は、複合層3bに位置する気孔を埋め、封止している。言い換えれば、複合層3bは支持体4の気孔が充填材で埋められ、連通した気孔を有さない部位と言える。なお、充填材もまた、混合流体に含まれる成分をいずれも透過させない、または透過させにくい材料である。封止部3は、支持体4の端部に配置されてもよい。封止部3は、流体の流路を限定する流路壁、あるいは分離膜付き多孔質体1をケースなどに固定する固定部位などに利用される。分離膜付き多孔質体1に含まれる一実施形態に係る多孔質構造体は、多孔質体である支持体4と支持体4の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層3aとを有する。この被覆層3aを有する封止部3には、支持体4の気孔内に充填材を有する複合層3bが備えられている。この場合、複合層3bは、その平均厚み(t1)が1μm以上であることを目安とする。複合層3bの平均厚み(t1)が支持体4の平均気孔径(p)よりも小さい場合には、封止部3には複合層3bが形成されていないとみなす。
被覆層3aおよび複合層3bの充填材の材料は、混合流体に含まれる成分をいずれも透過させず、かつ分離膜付き多孔質体1の使用温度において安定であれば、その材質は限定されない。被覆層3aおよび充填材の材料には、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂などの高分子材料、半田や銀ロウなどの金属ロウ材、ガラスなどを用いてもよい。特にガラスは、耐熱性および耐薬品性が高い。また、ガラスはセラミックスとの熱膨張差が小さいため、セラミックスを支持体4としたときに欠陥の少ない被覆層3aを形成できる。ガラスとしては、例えば、ケイ酸系ガラス、ホウケイ酸系ガラス、リン酸系ガラスなどが挙げられる。封止部3の耐熱性および機械的特性を向上させる点で、結晶化ガラスを用いてもよい。
複合層3bは、多孔質の支持体4と、支持体4内部の気孔を埋める充填材(図示せず)とを含む。充填材の材料は、被覆層3aの材料と同一の材料でもよいし、異なる材料でもよい。充填材の材料と被覆層3aの材料とは、任意に組合せてもよい。例えば、被覆層3aをホウケイ酸ガラスとし、複合層3bをアルミナとホウケイ酸ガラスとの組合せとする、すなわち、支持体4を多孔質アルミナとし、被覆層3aおよび充填材をホウケイ酸ガラスとする組合せでもよい。被覆層3aおよび充填材の材料は、例えば波長分散型X線分析(EPMA)、2次イオン質量分析(SIMS)、X線光電子分光法(XPS)、赤外分光(IR)、ガスクロマトフィー質量分析(GC−MS)などの分析手法を適宜組み合わせることにより確認できる。
被覆層3aおよび充填材の材料は、用途に応じて適宜選択すればよい。温度サイクルによる被覆層3aの剥離、被覆層3aおよび複合層3bの破壊を低減させることができる点で、支持体4の熱膨張係数と被覆層3aおよび充填材の熱膨張係数との差を小さくしてもよい。具体的には、40℃〜400℃の範囲において熱膨張係数の差が、例えば1.5ppm/K以下であってもよく、1.0ppm/K以下であってもよい。支持体4、被覆層3aおよび充填材の熱膨張係数は、例えば被覆層3a、充填材の成分単独で作成した評価用サンプルの熱機械分析(TMA)により確認できる。
複合層3bの厚みは特に限定されない。複合層3bの厚みとは支持体4の気孔が充填材で埋められた部位の厚さである。複合層3bの平均厚みをt1としたとき、t1が支持体4の平均気孔径Pの2倍より大きい、すなわちt1>2Pであってもよい。言い換えれば、Pに対するt1の比t1/Pが2より大きくてもよい。複合層3bの平均厚みt1を、支持体4の平均気孔径Pの2倍より大きくすることで、支持体4の気孔を充填材で効果的に埋めることができ、複合層3bによる封止性をより高めることができる。t1は、例えば0.8μm以上でもよく、1.0μm以上でもよい。流体の漏れをさらに防止し気密性をさらに向上させる点で、複合層3bの平均厚みt1は、例えば、80μm以上であってもよい。
複合層3bの最低厚みをt2としたとき、t2は例えば0.1μm以上でもよく、0.2μm以上でもよい。流体の漏れをさらに防止し気密性をさらに向上させる点で、複合層3bの最低厚みをt2は、例えば、60μm以上であってもよい。複合層3bの平均厚みt1および最低厚みt2は、封止部3の断面を例えば走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、封止部3の端部と十分離れた部位、または封止部3と分離膜部2との境界部から十分離れた部位の複合層3bの厚みを測定すればよい。端部または境界部から十分離れた部位とは、端部または境界部との距離が1mm以上の部位とする。
複合層3bは、図2に示すように支持体4の外表面、内表面、および端面の全てに配置されてもよい。複合層3bは必要に応じ、例えば支持体4の外表面、内表面、および端面のうちいずれかひとつ、または2つだけに配置されていてもよい。また、複合層3bは支持体4の封止部3の部分全体であってもよい。すなわち、支持体4の封止部3の部分のすべての気孔が充填材で埋められていてもよい。
被覆層3aの厚みは特に限定されない。被覆層3aの平均厚みをT1としたとき、T1は例えば4.0μm以上でもよく、5.0μm以上でもよい。また、T1は、500μm以下でもよく、300μm以下、さらには200μm以下でもよい。T1が4.0μm以上500μm以下である場合、支持体4と被覆層3aとの熱応力が大きくなりにくく、封止部3の被覆層3aおよび/または支持体4にクラックなどの欠陥がより発生しにくくなる。流体の漏れをさらに防止し気密性をさらに向上させる点で、被覆層3aの平均厚みT1は、例えば、90μm以上であってもよい。
被覆層3aの最低厚みをT2とした場合、T2は例えば0.8μm以上でもよく、1.0μm以上でもよい。被覆層3aの平均厚みT1および最低厚みT2は、封止部3の断面を例えば走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、封止部3の端部と十分離れた部位、または封止部3と分離膜部2との境界部から十分離れた部位の被覆層3aの厚みを測定すればよい。なお、封止部3を構成する被覆層3aは厚み方向に貫通する貫通孔を有していてもよい。言い換えると、被覆層3aの最低厚みT2は0μmであってもよい。最低厚みT2が「0μm」とは、被覆層3aに貫通孔が存在することを意味する。なお、被覆層3aを断面視した際に、支持体4の表面に被覆層3aが存在していたとしても、その厚みが0.1μm以下の場合には、被覆層3aのその部分は貫通孔を有しているとみなす。被覆層3aに貫通孔が存在していると、得られる多孔質構造体の耐熱衝撃性を高めることができる。具体的には、被覆層3aと支持体4との間に熱膨張差があり、例えば温度サイクルによる熱応力が発生した場合においても、貫通孔によって熱応力が緩和されるためである。その結果、熱応力による被覆層3aと支持体4と剥離、あるいは被覆層3aおよび支持体4に発生するクラックを抑制することができる。
本開示の一実施形態に係る多孔質構造体および分離膜付き多孔質体を製造する方法は、特に限定されない。図1に示す分離膜付き多孔質体を製造する方法の一例を挙げて、封止部3を形成する方法を説明する。
まず、支持体4を準備する。支持体4は、例えば上述の無機材料の粉末、バインダー、溶剤、および分散剤などを任意の割合で混合したスラリーを用いて作製してもよい。溶剤は、例えば水、有機溶剤などを使用してもよい。バインダー、分散剤などは公知のものを使用してもよい。得られたスラリーは公知の成形方法、例えば押出成形、射出成形、鋳込成形などによって、用途に応じて所望の形状および大きさに成形してもよい。ここでは、支持体4として円筒形の多孔質アルミナを作製する。なお、支持体4は円筒形である必要はなく、例えば、角筒、平板など任意の形状であってもよい。また、前述の様なアルミナ以外の材料でもよい。
得られた成形体を、任意の条件下で焼成することによって、支持体4が得られる。焼成条件は、支持体4を多孔質とするため、緻密体となる前に焼結を終了させる条件であればよい。支持体4に形成される気孔の気孔径分布は、無機材料粉末の平均粒子径、成形体の生密度、焼成温度、焼成時間、昇温速度、焼成雰囲気などを適宜調整することによって、変更することが可能である。
アルミナの場合、焼成温度を例えば1000℃以上、1500℃以下としてもよく、焼成時間を例えば0.1時間以上、2時間以下としてもよい。また、昇温速度を例えば50℃/分以上、1000℃/分以下としてもよく、焼成雰囲気を例えば大気雰囲気、不活性雰囲気、真空雰囲気などとしてもよい。支持体4は単層構造でもよいし、例えば、材質や気孔径分布の異なる複数の層が積層された多層構造を有していてもよい。
次いで、支持体4に封止部3を形成する。封止部3は、支持体4の一部(図1では、一方の端部近傍)の表面に、被覆層3aを形成することによって得られる。被覆層3aは、例えば、上述のガラス粉末、バインダー、溶剤(例えば水、有機溶剤など)、分散剤、レベリング剤などを任意の割合で混合したガラススラリーを用いて形成してもよい。バインダー、分散剤、レベリング剤などは公知のものを使用してもよい。
上記ガラス粉末としては、例えば下記に示す成分を合計で100モル%の割合で含むガラス粉末が挙げられる。
SiO2 :12モル%以上35モル%以下、特に14モル%以上33モル%以下
B2O3 :0モル%以上25モル%以下、特に0モル%以上23モル%以下
CaO :0モル%以上35モル%以下、特に0モル%以上30モル%以下
ZnO :15モル%以上42モル%以下、特に20モル%以上40モル%以下
MgO :0モル%以上29モル%以下、特に0モル%以上27モル%以下
TiO2 :0モル%以上20モル%以下、特に0モル%以上18モル%以下
Al2O3:0.5モル%以上10モル%以下、特に1モル%以上8モル%以下
その他 :0モル%以上10モル%以下、特に0モル%以上5モル%以下
これらのガラス粉末の中でも、支持体4に浸潤しにくいガラス粉末(例えば、後述の実施例に記載のガラス粉末A〜Eなど)としては、例えば、下記に示す組成(合計100モル%)のガラス粉末が挙げられる。
SiO2 :25モル%以上35モル%以下、特に27モル%以上33モル%以下
B2O3 :0モル%以上8モル%以下、特に4モル%以上7モル%以下
CaO :15モル%以上35モル%以下、特に20モル%以上30モル%以下
ZnO :15モル%以上35モル%以下、特に20モル%以上30モル%以下
TiO2 :10モル%以上20モル%以下、特に12モル%以上18モル%以下
Al2O3:2モル%以上10モル%以下、特に4モル%以上8モル%以下
一方、支持体4に浸潤しやすいガラス粉末(例えば、後述の実施例に記載のガラス粉末F〜Iなど)としては、例えば、下記に示す組成(合計100モル%)のガラス粉末が挙げられる。
SiO2 :12モル%以上22モル%以下、特に14モル%以上20モル%以下
B2O3 :15モル%以上25モル%以下、特に17モル%以上23モル%以下
Al2O3:0.5モル%以上8モル%以下、特に1モル%以上6モル%以下
MgO :19モル%以上29モル%以下、特に21モル%以上27モル%以下
ZnO :30モル%以上42モル%以下、特に32モル%以上40モル%以下
その他 :0モル%以上10モル%以下、特に0モル%以上5モル%以下
支持体4に浸潤しにくいガラス粉末を使用した場合、焼成前の材料の組成と焼成後の被覆層3aの組成とは、ほとんど変化しない。一方、支持体4に浸潤しやすいガラス粉末を使用した場合、焼成すると結晶化する部分が多い。さらに、結晶化後に残留した(材料として使用したガラス粉末と組成が変化した)非晶質相はガラス状態での粘度が低く、このようなガラスを用いた場合は、支持体4に浸潤しやすくなる。すなわち、残留した非晶質相の粘度が低く支持体4中の気孔に非晶質相が流動し気孔を埋めることにより、支持体中のガスの透過経路を塞ぎ、より効果的に封止ができる。その結果、複合層3bを構成する充填剤は、ガラス/(結晶相+ガラス)の質量比が被覆層3aよりも高くなる。
支持体4に浸潤しやすいガラス粉末を使用した場合、焼成後の被覆層3aは、例えば下記の組成を有する。このような組成のガラス粉末を被覆層に用いた場合には、被覆層は、例えば、Zn2SiO4、ZnAl2O4およびMg2B2O5からなる群より選択される少なくとも1種の結晶相を含むものとなる。
Si:SiO2に換算して10モル%以上20モル%以下、特に12モル%以上18モル%以下
B :B2O3に換算して8モル%以上18モル%以下、特に10モル%以上16モル%以下
Al:Al2O3に換算して0.5モル%以上7モル%以下、特に1モル%以上5モル%以下
Mg:MgOに換算して31モル%以上41モル%以下、特に33モル%以上39モル%以下
Zn:ZnOに換算して29モル%以上39モル%以下、特に31モル%以上37モル%以下
他の元素:酸化物に換算して0モル%以上10モル%以下、特に0モル%以上5モル%以下
ガラススラリーは支持体4の表面に塗布される。塗布方法は特に限定されず、例えば、ディップコーティング法、各種印刷法、溶射法、または溶融ガラス浸漬法などが挙げられる。例えば、ディップコーティング法の場合、ガラススラリーを脱泡して、支持体4の被覆層3a(封止部3)を形成する部分をガラススラリーに浸漬する。このとき、支持体4のガラススラリーと接触する部位は、被覆層3aを形成する部分のみとしてもよい。浸漬時間は任意とする。その後、支持体4をガラススラリーから任意の速度で取り出して、乾燥および熱処理することによって、支持体4の表面に被覆層3aが形成される。以下、被覆層3aを形成するための熱処理を第1の熱処理という。被覆層3aの厚みは上述のとおりであり、説明は省略する。
ところで、被覆層3aを形成するため、例えば、支持体4にガラススラリーを塗布して第1の熱処理をする際に、熱処理前あるいは熱処理時に異物や気泡などが混入することがある。異物や気泡が混入した状態で第1の熱処理をすると、形成される被覆層3aの表面から支持体4との接触面である底面まで貫通する欠陥、すなわち貫通孔が形成されることがある。
このような異物や気泡の混入を完全に防ぐことは困難であり、被覆層3aに貫通孔が形成されると、支持体4の気孔と被覆層3の貫通孔とがつながる。その結果、混合流体や透過成分、非透過成分が分離膜部2以外の場所で漏れたり、圧力が逃げたり、気密性が保てなくなる不具合が生じる。すなわち、分離膜モジュールの第1室から、非透過成分が被覆層3aの貫通孔を通って第2室に混入したり、透過成分と混合流体との差圧が得られなくなったり、分離膜モジュールから流体が流出するなどの懸念がある。その結果、所望の分離性能が得られない場合がある。
そのため、本開示の一実施形態にかかる分離膜付き多孔質体1は、支持体4の被覆層3aを有する封止部3に、支持体4の気孔の内部に充填材を有する複合層3を備えている。分離膜付き多孔質体1は、複合層3を備えることで、たとえ被覆層3aが貫通孔を有していたとしても、貫通孔と支持体4の内部の気孔がつながらない。したがって、分離膜付き多孔質体1は、流体の被覆部3からの漏出および圧力の逃げを効果的に抑制でき、気密性を保持できる。
複合層3bは、被覆層3aと同時に形成してもよいし、複合層3bを形成した後、被覆層3aを形成してもよい。複合層3bを形成するためには、充填材を例えばスラリーまたは溶液などの前駆体液として支持体4内の気孔(開気孔)に含浸させてもよい。このとき、支持体4と前駆体液との濡れ性を調整して、前駆体液を気孔に含浸させてもよい。また、スラリーに分散させる粉末の組成を変えてもよい。
濡れ性の評価方法としては、例えば接触角の測定が挙げられる。接触角(θ)は、固体表面が液体および気体と接触しているとき、この3相の接触する境界線において液体面が固体面と成す角度である。接触角(θ)がθ≦90°の場合に濡れ性が良好であり、θ>90°の場合に濡れ性に乏しいと判断できる。したがって、支持体4との接触角を考慮して、ガラス粉末、バインダー、溶剤、分散剤などを適宜選択してガラススラリーを作製すればよい。接触角を小さくするために、例えば、適切なレベリング剤を選択し添加してもよい。例えばθ≦60°、さらにθ≦45°とすることにより、支持体4にガラススラリーがより含浸しやすくなる。
支持体4の材質に応じて、使用するバインダーや溶剤を適宜選択することにより接触角を調整してもよい。支持体4が、例えばアルミナのような酸化物の場合、親水性官能基(例えば、水酸基、カルボキシル基など)を有する高分子バインダーを用いてもよい。一方、溶剤としては、水や親水性の高いアルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)などを用いるのがよい。
但し、親水性官能基を有する高分子バインダーを親水性の高い溶媒中に溶解させるためには、多量の親水性官能基が必要であるが、親水性官能基同士は水素結合などによって結合しやすい。その結果、バインダー中の親水性官能基同士が結合し、バインダーがいわゆる繭状となり、ガラススラリーの分散性や流動性が低下し、支持体4への浸透性が乏しくなる場合がある。さらに、得られる分離膜付き多孔質体1の寿命低下や被覆層3aの品質低下を招く可能性もある。
また、ガラス粉末の粒子径が支持体4内の開気孔の気孔径よりも大きいと、ガラススラリーを開気孔内に含浸させることができない。ガラススラリーを支持体4内の開気孔に含浸させるためには、ガラス粉末の粒子径は支持体4の気孔径よりも小さくすればよい。例えば、ガラス粉末の平均粒子径をd、支持体4の平均気孔径をPとしたとき、d<Pを満たすのがよく、2d<Pを満たしてもよい。
このように、ガラススラリーを支持体4内の開気孔中に含浸させることは容易ではない。支持体4、充填材、および充填材を分散または溶解する溶媒などの各部材同士の相互作用の影響もあり、ケースバイケースで細心の注意を払いながら、各部材を選択する必要がある。なお、支持体4を前駆体液に浸漬する際に、封止部3以外の支持体表面をシールテープや熱収縮チューブを用いて被覆した後、アスピレーターや真空ポンプを用いて、支持体4の内側を減圧とすることにより、ガラススラリーの浸透を促進してもよい。
次いで、封止部3を形成した支持体4上に分離膜部2を形成する。分離膜部2は、支持体4の封止部3が形成されていない部分に、分離膜2aを形成することによって得られる。分離膜2aの形成方法は限定されず、分離膜部2の大きさや用途に応じて、適宜選択してもよい。分離膜2aの形成方法は、例えば、ゾルーゲル法、CVD法、スパッタ法、ディップコーティング法、水熱法などが挙げられる。以下、ディップコーティング法を用いてカーボン薄膜を形成する方法を例に説明する。
まず、原料となる樹脂を溶剤に溶解して分離膜2aの前駆体溶液を調製する。原料となる樹脂、すなわち原料樹脂は、熱処理後に所望の細孔が形成されるものであれば、特に限定されない。以下、分離膜2aを形成するための熱処理を第2の熱処理という。原料樹脂は、第2の熱処理時に炭化しやすいという点で、分子内にベンゼン環などの共役構造を有する樹脂を用いてもよい。共役構造を有する樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、芳香族アミド樹脂、芳香族イミド樹脂、フェニレンエーテル樹脂、ベンゾオキサゾール樹脂、およびポリイミド樹脂などが挙げられる。
溶剤は、原料樹脂を溶解させることができれば特に限定されない。分離膜部2の大きさ、用途、製造時の取り扱い性、および安全性などを考慮して、適宜選択してもよい。原料樹脂を溶解させる溶剤としては、例えば、水、テトラヒドロフラン、エタノール、およびイソプロパノール(IPA)などが挙げられる。
得られた前駆体溶液に、封止部3が形成された支持体4を任意の時間浸漬する。その後、支持体4を前駆体溶液から任意の速度で取り出して、乾燥および第2の熱処理をすることによって、封止部3を形成した支持体4に分離膜2aを形成することができる。第2の熱処理条件は、所望の分離特性が得られる細孔径分布を有する分離膜2aが得られるのであれば特に限定されない。
第2の熱処理温度は、例えば400℃以上、1200℃以下程度としてもよい。第2の熱処理時間は、例えば1分以上、180分以下程度としてもよい。第2の熱処理の雰囲気は、過剰に酸素が存在すると樹脂が炭化せず燃焼してしまうため、例えば窒素雰囲気、水素雰囲気(N2+H2、Ar+H2など)などの非酸化性雰囲気がよい。また、図1では、分離膜2aが支持体4の外表面に配置されているが、分離膜2aは支持体4の内表面に配置されていてもよい。また、支持体4の外表面と内表面の両方に配置されていてもよい。
被覆層3aと分離膜2aとの境界部は、混合流体や透過成分、非透過成分の漏れなどが発生しない構造、すなわち支持体4の表面が被覆層3aおよび分離膜2aの少なくともいずれかに被覆され、支持体4の開気孔が露出しなければよい。例えば、被覆層3aと分離膜2aとが直接接し、その境界部が支持体4の表面に対して垂直な界面であってもよい。また、境界部は、支持体4の表面に位置する被覆層3aの表面をさらに分離膜2aが被覆していてもよいし、支持体4の表面に位置する分離膜2aの表面をさらに被覆層3aが被覆していてもよい。上述の工程では、支持体4の表面を被覆層3aが被覆し、さらに被覆層3aの表面に分離膜2aが重なった境界部が形成されるが、工程の順序を変更することにより、重なり方を変えることもできる。
本開示に係る多孔質構造体の封止部3の配置は、上述の分離膜付き多孔質体1に形成されるような配置に限定されない。分離膜付き多孔質体1では、封止部3は支持体4の一方の端部のみに形成されている。しかし、封止部3は、支持体4の両端部に形成されていてもよいし、端部以外の部位に形成されていてもよい。分離膜付き多孔質体1は図1のような円筒形状だけでなく、例えば、角筒形状でもよいし、平板状、またはフィルム状でもよい。さらに、本開示に係る多孔質構造体が採用される分離膜付き多孔質体1は、種々の気体および液体の分離に使用される。
以上のように、本開示に係る多孔質構造体は、封止部3に被覆層3aとともに多孔質体4の気孔に充填材が含浸された複合層3bを有しているため、被覆層3aが欠陥や貫通孔を有する場合でも流体の漏れを防止し気密性を保つことができる。
以下、実施例を挙げて本開示の多孔質構造体を具体的に説明するが、本開示の多孔質構造体は以下の実施例に限定されるものではない。
図3に示すように、支持体4’の表面に被覆層3a’を形成して評価サンプル(封止部)3’を得た。具体的には、下記のとおりに作製した。まず、アルミナ粉末、バインダー、水、分散剤、消泡剤などを、多孔質体を得るための一般的な割合で混合して混合物を得た。得られた混合物を、押出成形することによって円筒形状を有する成形体を得た。得られた成形体を大気中で焼成して、円筒形状を有する支持体4’(長さ50mm、外径15mm、厚み1mm)を得た。
支持体4’は、表2〜4に示すようにNo.1〜14の14種類を作製した。平均開気孔径は、アルミナ粉末の平均粒子径や焼成時間を変更することによって調整した。得られた支持体4’の平均開気孔径を水銀圧入法により測定した。結果を表2〜4に示す。得られた支持体4’の気孔率はいずれも約40%であり、支持体4’の骨格部分は緻密質であり、気孔率はいずれも1%以下であった。
次いで、得られた支持体4’の外表面に被覆層3a’を形成して、評価サンプル3’を得た。具体的には、下記のとおりに作製した。まず、表2〜4に示す平均粒子径を有するガラス粉末、バインダー、有機溶剤、分散剤、および必要に応じてレベリング剤を任意の割合で混合して、ガラススラリーを調製した。ガラス粉末の組成については表1に示す。得られたガラススラリーを緻密質のアルミナ板上に滴下し、接触角計を用いて接触角を評価した。結果を表2〜4に示す。ガラス粉末としては、ホウケイ酸ガラスを使用し、緻密質アルミナ板上にガラススラリーを塗布して焼成した後、均質な被膜が形成されていることを目視で観察できたものを使用した。
得られたガラススラリーを、支持体4’の表面にディップコーティング法によって塗布した。具体的には、支持体4’の一方の端部をOリングと金具を用いて封止した上で、もう一方の端部にホースを用いて真空ポンプを接続し、減圧しながらホースの接続部を除く支持体4’全体をガラススラリーに浸漬した。減圧しながら浸漬することによって、支持体4’の細孔にガラススラリーが浸透するのを促進した。
支持体4’をガラススラリーから取り出し、Oリング、金具、およびホースを外した。ガラススラリーが塗布された支持体4’を、80℃で60分間乾燥させた後、大気中で第1の熱処理(800℃、1時間)をし、支持体4’の表面に被覆層3a’を形成した。ホースの接続部は被覆層3a’が形成されていないため、切断して除去した。このようにして、評価サンプル3’を得た。評価サンプル3’は、No.1〜14のそれぞれについて10個ずつ作製した。
得られた評価サンプル3’の断面を鏡面研磨し、走査型電子顕微鏡(SEM)で断面を観察して被覆層3a’および複合層3b’の厚みを測定した。各サンプルについて、断面の任意の5か所を3000倍の倍率で撮影した。各撮影画像について、貫通孔の存在しない任意の10か所の厚みを測定し、合計50か所の平均値を「平均厚み」とした。一方、各撮影画像について測定した10か所のうち、最も薄い部分の厚みを測定し「最低厚み」とした。結果を表2〜4に示す。被覆層3a’の最低厚み(T2)が「0μm」とは、被覆層3a’に貫通孔が存在することを意味する。
得られた評価サンプル3’について、被覆層3a’および複合層3b’の断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して組織および電子線回折像を確認した。電子線回折像にてハローの観察される領域がガラス相である。得られた評価サンプル3’について、ガラス相の有無を確認した。結果を表2〜4に示す。
次いで、得られた評価サンプル3’について、図4に示す評価装置5を使用して、下記の手順でリーク評価を行った。まず、評価サンプル3’の一方の端部(封止端53)を、Oリング(図示せず)および封止金具52を用いて機械的に封止した。図4に示すように、評価サンプル3’を、ガス導入口55、評価口56、および非透過ガス開放口57を備えた密閉容器51内に収容した。評価サンプル3’の残りの端部(開放端54)を、密閉容器51の一方の端部に位置する評価口56に接続した。評価口56には、石鹸膜ガス流量計(図示せず)を接続した。ガス導入口55は外部の窒素ボンベ(図示せず)に接続した。非透過ガス開放口57は密閉容器の側面に位置している。
窒素ガスは、ガス導入口55から密閉容器51の内部に導入される。導入されたガスのうち、評価サンプル3’の外側から内側に透過したガスは評価口56から排出され、石鹸膜流量計により計測される。評価サンプル3’は全体が封止部であり、評価サンプル3’を透過したガスは、被覆層3a’の貫通孔を通って漏れたガスである。評価サンプル3’を透過しなかったガスは、非透過ガス開放口57から開放される。
窒素ボンベから窒素ガスを5気圧の条件で密閉容器51の内部に導入した。評価サンプル3’の外側から内側に漏れた窒素の流量を、評価口56に接続された石鹸膜ガス流量計で測定することによって、リーク評価を行った。リーク評価は10個の評価サンプル3’全てについて行い、下記の基準で評価した。結果を表2〜4に示す。
<評価>
OK(合格):窒素流量の最大値が1×10-10mol/(m2・s・Pa)以下の場合
NG(不合格):窒素流量の最大値が1×10-10mol/(m2・s・Pa)を超える場合
表2〜4に示すように、支持体4’の気孔に充填材としてガラスが含浸された複合層3b’を有する評価サンプル3’は、リーク評価において全て合格(OK)であった。したがって、複合層3b’を有する評価サンプル3’は、優れた封止構造を有していることがわかる。なお、試料No.1および2については、複合層3b’の平均厚みt1を便宜上「<0.1μm」と記しているが、この場合、試料No.1および2は複合層を有しないものである。
特に、ガラス粉末F〜Iを用いた試料No.10〜14では、ガラス粉末A〜Eを用いた試料No.3〜9と比べて、窒素流量がより少なくリークしにくいことがわかる。その理由としてはガラス粉末F〜Iはガラス粉末A〜Eに比べて、支持体4に浸潤しやいためである。すなわちガラスが熱処理中に結晶化した際、その後に残留する非晶質相の粘度が低く支持体4中の気孔に流動し気孔を埋めることにより、支持体中のガスの透過経路を塞ぐためである。
次いで、No.4および11に記載の評価サンプル3’(封止部)と同様の封止部を有する分離膜付き多孔質体を作製した。具体的には、長さ50mm、外径15mm、厚み1mmの円筒形状を有する支持体の一方の端部に、No.4に記載の封止部を形成した。その後、ポリイミド樹脂とテトラヒドロフランとを混合して得られる前駆体溶液を、支持体に形成された封止部以外の部分にディップコーティング法によって塗布した。80℃で60分間乾燥させた後、乾燥窒素雰囲気下で第2の熱処理(700℃、30分間)をし、支持体の表面に分離膜を形成した。このようにして、図1に示す分離膜付き多孔質体1と同様の分離膜付き多孔質体を得た。試料No.11の評価サンプルを例として、多孔質構造体の断面の電子顕微鏡写真を図5に示す。
得られた分離膜付き多孔質体について、上述のリーク評価と同様の評価装置を用いて、分離膜付多孔質体を透過した水素および窒素の流量をそれぞれ測定し、水素と窒素の分離係数を算出した。ここで、水素と窒素の分離係数とは、分離膜多孔質体を透過した水素の流量と窒素の流量との比、すなわち[水素流量/窒素流量]である。No.4と同様の封止部を有する分離膜付き多孔質体は50以上の分離係数を有していた。No.11と同様の封止部を有する分離膜付き多孔質体は、No.4と同様の封止部を有する分離膜付き多孔質体の分離係数よりも高く、60以上の分離係数を有していた。このように、得られた分離膜付き多孔質体は、封止部からのリークがなく、優れたガス分離特性が得られることがわかった。
さらに、No.4および11に記載の評価サンプル3’について、温度サイクル試験を行った。温度サイクル試験は、−65℃〜+150℃で保持時間を15分、1000サイクルの条件で行った。評価サンプル3’は、それぞれ10個準備した。温度サイクル試験後に、評価サンプル3’の外観を目視で確認した結果、いずれの評価サンプル3’もクラックや剥離などの不具合は存在していなかった。
温度サイクル試験後の評価サンプル3’について、上述と同様の手順でリーク評価を行った。いずれの評価サンプル3’も合格(OK)であり、十分な信頼性を有していることが確認された。
No.11に記載の評価サンプル3’については、さらに500サイクルの温度サイクル試験を追加しても、いずれの評価サンプル3’もクラックや剥離などの不具合は存在していなかった。さらに、上述と同様の手順でリーク評価を行った。いずれの評価サンプル3’も合格(OK)であり、1000サイクル後のNo.4の評価サンプル3’よりも良好な結果であった。