以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
図1は、本開示の実施の形態に従う電池システムが搭載された車両1の構成を概略的に示した図である。なお、以下では、車両1がハイブリッド車両である場合について代表的に説明されるが、本開示に従う電池システムは、ハイブリッド車両に搭載されるものに限定されず、組電池を搭載した車両全般、さらには車両以外の用途にも適用可能である。
図1を参照して、車両1は、電池システム2と、パワーコントロールユニット(以下「PCU(Power Control Unit)」と称する。)30と、モータジェネレータ(以下「MG(Motor Generator)」と称する。)41,42と、エンジン50と、動力分割装置60と、駆動軸70と、駆動輪80とを備える。電池システム2は、組電池10と、監視ユニット20と、電子制御装置(以下「ECU(Electronic Control Unit)」と称する。)100とを含む。
エンジン50は、空気と燃料との混合気を燃焼させたときに生じる燃焼エネルギをピストンやロータなどの運動子の運動エネルギに変換することによって動力を出力する内燃機関である。動力分割装置60は、たとえば、サンギヤ、キャリア、リングギヤの3つの回転軸を有する遊星歯車機構を含む。動力分割装置60は、エンジン50から出力される動力を、MG41を駆動する動力と、駆動輪80を駆動する動力とに分割する。
MG41,42は、交流回転電機であり、たとえば、ロータに永久磁石が埋設された三相交流同期電動機である。MG41は、主として、動力分割装置60を経由してエンジン50により駆動される発電機として用いられる。MG41が発電した電力は、PCU30を介してMG42又は組電池10に供給される。
MG42は、主として電動機として動作し、駆動輪80を駆動する。MG42は、組電池10からの電力及びMG41の発電電力の少なくとも一方を受けて駆動され、MG42の駆動力は駆動軸70に伝達される。一方、車両の制動時や下り斜面での加速度低減時には、MG42は、発電機として動作して回生発電を行なう。MG42が発電した電力は、PCU30を介して組電池10に供給される。
組電池10は、並列接続された複数のセル(二次電池)を含んで構成される(詳細な構成は後述)。組電池10は、MG41,42を駆動するための電力を蓄える。そして、組電池10は、PCU30を通じてMG41,42へ電力を供給することができる。また、組電池10は、MG41,42の発電時にPCU30を通じて発電電力を受けて充電される。
監視ユニット20は、電圧センサ21と、電流センサ22と、温度センサ23とを含む。電圧センサ21は、組電池10において並列接続される複数のセルの電圧Viを検出する。電流センサ22は、組電池10に流れる電流Iを検出する。温度センサ23は、セル毎の温度Tiを検出する。なお、温度センサ23は、隣接する複数(たとえば数個)のセルを監視単位として温度を検出してもよい。
PCU30は、ECU100からの制御信号に従って、組電池10とMG41,42との間で双方向の電力変換を実行する。PCU30は、MG41,42の状態をそれぞれ別々に制御可能に構成されており、たとえば、MG41を回生(発電)状態にしつつ、MG42を力行状態にすることができる。PCU30は、たとえば、MG41,42に対応して設けられる2つのインバータと、各インバータに供給される直流電圧を組電池10の出力電圧以上に昇圧するコンバータとを含んで構成される。
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)102と、メモリ(ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory))105と、各種信号を入出力するための入出力ポート(図示せず)とを含んで構成される。ECU100は、各センサから受ける信号並びにメモリ105に記憶されたプログラム及びマップに基づいてエンジン50及びPCU30を制御することにより、車両1の走行や組電池10の充放電を制御する。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
図2は、図1に示した組電池10の構成の一例を示した図である。図2を参照して、この組電池10においては、複数のセルが並列接続されてセルブロック(或いはモジュール)を構成し、複数のセルブロックが直列接続されて組電池10を構成する。具体的には、組電池10は、直列に接続されるセルブロック10−1〜10−Mを含み、セルブロック10−1〜10−Mの各々は、並列接続されたN個のセルを含む。
電圧センサ21−1は、セルブロック10−1の電圧を検出する。すなわち、電圧センサ21−1は、セルブロック10−1を構成するN個のセルの電圧V1を検出する。電圧センサ21−2は、セルブロック10−2を構成するN個のセルの電圧V2を検出する。電圧センサ21−Mについても同様である。電流センサ22は、各セルブロック10−1〜10−Mに流れる電流Iを検出する。すなわち、電流センサ22は、各セルブロックのN個のセルに流れる総電流を検出する。
この実施の形態では、ECU100は、各セルブロック10−1〜10−Mの満充電容量を推定する。以下、セルブロック10−1〜10−Mのうちの所定のセルブロック(対象セルブロック)の満充電容量を推定する場合について説明する。
対象セルブロックの満充電容量を推定する手法として、上記の特許文献1に記載のような手法を採用することが考えられる。この手法では、ある期間における対象セルブロックの電流積算値ΣI及びSOC変化量ΔSOCが算出され、電流積算値ΣIをΔSOCで除算することによって対象セルブロックの満充電容量が算出される。ΔSOCの算出に用いられるSOCは、たとえばOCV(Open Circuit Voltage)とSOCとの関係を示すOCV−SOCカーブ(マップ等)を用いて、対象セルブロックの電圧Vi、電流I及び抵抗値(温度Tiに依存)から算出されるOCVに基づいて算出することが可能である。なお、以下では、上記のような手法によって算出される満充電容量を「ベース満充電容量」と称する。
上記の手法は、演算に用いるΔSOCの値が小さいと、満充電容量の推定誤差が大きくなる。そのため、満充電容量の推定精度を確保するためには、ΔSOCがある程度大きいとの条件(たとえば50%以上)が成立することが必要であり、ΔSOCの大きさに拘わらず満充電容量を常時(連続的に)推定することはできない。
満充電容量は、通常であれば、時間の経過や使用とともに徐々に低下するものであり、このような変化幅の小さい容量低下であれば、上記の手法を採用しても問題はならない。しかしながら、対象セルブロックにおいて実効電極面積の低下が発生すると、満充電容量は不連続に急速に低下する。実効電極面積の低下は、たとえば、電極活物質の滑落や、電極集電箔のはがれ、電極間のガス噛み、電解液の液枯れ等により発生する。ΔSOCに関する条件の成立が必要なために演算間隔が空き得る上記の手法では、このような満充電容量の急速な低下の検知が遅れ、満充電容量を用いた各種制御等に悪影響を与える可能性がある。
そこで、この実施の形態では、実効電極面積の低下による満充電容量の急速な低下も検知可能な推定手法が提供される。具体的には、この実施の形態に従う電池システム2においては、ECU100は、セルブロック10−1〜10−Mのうちの基準となるセルブロック(詳細は後述)の抵抗値に対する、対象セルブロックの抵抗値の比である抵抗比を算出する。そして、ECU100は、演算間隔の空き得るベース満充電容量を上記の抵抗比で除算した値を対象セルブロックの満充電容量の推定値とする。抵抗値はΔSOCの大きさ等に拘わらず基本的に常時算出可能であり、上記抵抗比は実効電極面積の低下による満充電容量の急速な低下を検知可能であるので、ベース満充電容量を上記抵抗比で補正することにより、演算間隔の空き得るベース満充電容量では検知できない満充電容量の急速な低下も推定可能としたものである。この電池システム2によれば、対象セルブロックの満充電容量を常時推定することができる。以下、本実施の形態における満充電容量の推定方法について詳細に説明する。
上述のように、この実施の形態では、基準セルブロックの抵抗値に対する対象セルブロックの抵抗値の比である抵抗比を用いて、対象セルブロックの満充電容量が推定される。セルブロックの抵抗値は、セルブロックの電圧及び電流から基本的に常時算出可能であり、抵抗値と満充電容量との間には相関があることから、抵抗値から直接満充電容量を常時推定することも考えられる。しかしながら、抵抗値は、温度やSOC、抵抗値を算出する際の時定数、劣化モード等の影響を受けて変化するので、抵抗値と満充電容量との関係を一意に対応付けることが難しく、抵抗値を直接用いる手法では満充電容量の推定誤差が大きくなる可能性がある。そこで、この実施の形態では、対象セルブロックの抵抗値から満充電容量を直接推定するのではなく、基準となるセルブロックの抵抗値に対する対象セルブロックの抵抗値の比である抵抗比が用いられる。
図3は、対象セルブロックの実効電極面積の低下が発生した場合に、対象セルブロックの満充電容量及び抵抗値が変化する様子の一例を示した図である。図3を参照して、線L1は、対象セルブロックの満充電容量の推移を示し、線L2は、対象セルブロックの抵抗値の推移を示す。
時刻t0において、対象セルブロックの実効電極面積が低下したものとする。実効電極面積が低下することにより、満充電容量の急速な低下と、抵抗値の急速な上昇とが同時に発生する。
図4は、セルブロックにおいて実効電極面積の低下が発生した場合の抵抗変化率及び容量変化率を示した図である。図4を参照して、実効電極面積の低下が発生していないセルブロック(正常ブロック)の各セル(正常セル)の実効電極面積をXとする。上述のように、セルブロックを構成するセルの数はNである。また、正常セルの抵抗値をaとし、正常セルの容量(満充電容量)をbとする。この場合、正常ブロックの抵抗値はa/Nであり、正常ブロックの容量(満充電容量)はbNである。
実効電極面積の低下が発生したセルブロック(実効電極面積低下ブロック)において、正常セルの数をYとし、実効電極面積が低下したセル(実効電極面積低下セル)の数を(N−Y)とする。また、実効電極面積が低下した各セルでは、セル抵抗がZ倍(Z>1)になり、抵抗値がaZになるものとする。この場合、各実効電極面積低下セルの実効電極面積はX/Zとなり、セル容量はb/Zとなる。
上記から、実効電極面積低下ブロックの抵抗値はa×Z/(N+Y(Z−1))となり、実効電極面積低下ブロックの容量(満充電容量)はb×(N+Y(Z−1))/Zとなる。したがって、セルブロックにおいて実効電極面積の低下が発生した場合の抵抗変化率は(N+Y(Z−1))/(NZ)となる。また、セルブロックにおいて実効電極面積の低下が発生した場合の容量変化率(満充電容量の変化率)はNZ/(N+Y(Z−1))となる。
実効電極面積の低下が発生した場合の、正常時に対するセルブロックの容量変化率と抵抗変化率とは、逆数の関係にある。したがって、正常時の対象セルブロックの抵抗値と、実効電極面積の低下が発生したときの対象セルブロックの抵抗値とが分かれば、すなわち、対象セルブロックの抵抗値の変化が分かれば、対象セルブロックにおいて実効電極面積の低下が発生した場合の抵抗変化率から対象セルブロックの容量変化率(満充電容量の変化率)が分かる。そして、実効電極面積の低下によらない満充電容量の低下は徐々に生じることから、ベース満充電容量を上記の容量変化率で補正することによって、対象セルブロックの満充電容量を推定することが可能である。
上述のように、抵抗値を直接用いる手法では、満充電容量の推定誤差が大きくなる可能性がある。そこで、対象セルブロックと環境が似ているセルブロックを基準として(基準セルブロック)、基準セルブロックの抵抗値に対する対象セルブロックの抵抗値の比である抵抗比を対象セルブロックの抵抗変化率とみなして、対象セルブロックの満充電容量が推定される。このような抵抗比を用いることによって、温度やSOC等の環境変化の影響を低減することができる。
基準セルブロックとしては、対象セルブロックと環境が酷似していることが好ましい。たとえば、図5に示されるように、対象セルブロックがセルブロック10−Aである場合に、対象セルブロック10−Aに隣接して配設されるセルブロック10−Bを基準セルブロックとするのが好ましい。この場合、セルブロック10−A,10−Bに実効電極面積の低下が発生していなければ、対象セルブロック10−Aのセルブロック抵抗値Raは、セルブロック10−Bのセルブロック抵抗値Rbとほぼ等しい(環境が酷似しているため)。
或いは、組電池10が収容されるケースの端部に対象セルブロックが配設されている場合に、そのケース端部に同列に配設されているセルブロックや、ケースの反対側の端部に配設されているセルブロック等を基準セルブロックとしてもよい。また、正常時(実効電極面積の低下が発生していない)の過去の対象セルブロックを基準セルブロックとしてもよい。但し、この場合は、対象セルブロックにおいて実効電極面積の低下が発生した場合に、正常時からの環境変化は満充電容量の推定誤差となり得る。
図6は、図5に示した隣接するセルブロック10−A,10−Bの抵抗値の推移の一例を示した図である。図6において、セルブロック10−Aを対象セルブロックとし、セルブロック10−Bを基準セルブロックとする。
図6を参照して、時刻t01において、セルブロック10−A(対象セルブロック)において実効電極面積の低下が発生したものとする。互いに隣接するセルブロック10−A,10−Bは、環境が似ていることから、実効電極面積の低下が発生する時刻t01以前においては、セルブロック10−Aのセルブロック抵抗値Raと、セルブロック10−B(基準セルブロック)のセルブロック抵抗値Rbとは、ほぼ同一に推移している。したがって、時刻t01以前においては、基準セルブロックの抵抗値に対する対象セルブロックの抵抗値の比である抵抗比は、Ra(1)/Rb(1)≒Ra(2)/Rb(2)≒Ra(3)/Rb(3)≒1である。
時刻t01において、セルブロック10−Aで実効電極面積の低下が発生すると、セルブロック10−Aのセルブロック抵抗値Raが上昇する。実効電極面積の低下が発生した時刻t01以降の抵抗比は、Ra(4)/Rb(4),Ra(5)/Rb(5),Ra(6)/Rb(6)・・・で示される。Rb(4),Rb(5),Rb(6)は、仮に実効電極面積の低下が発生していないとした場合のセルブロック10−Aのセルブロック抵抗値Ra(4)*,Ra(5)*,Ra(6)*に相当し、すなわち、上記抵抗比はセルブロック10−Aの抵抗変化率に相当する。したがって、このような抵抗比を用いることによって、環境の影響を低減してセルブロック10−A(対象セルブロック)の満充電容量を高精度に推定することができる。具体的には、セルブロック10−Aについて算出されるベース満充電容量を上記の抵抗比で除算することによって、セルブロック10−Aの満充電容量の推定値が算出される。
ところで、ベース満充電容量は、演算条件(上述のΔSOC条件)が成立すれば、実効電極面積が低下した対象セルブロックの満充電容量を推定することができるので、ベース満充電容量を上記の抵抗比で除算すると、実効電極面積の低下を抵抗比とベース満充電容量とで二重にカウントしてしまう。
図7は、実効電極面積の低下の二重カウントを説明するための参考図である。図7を参照して、線L21は、対象セルブロックの実際の満充電容量を示す。線L22は、ベース満充電容量の算出値を示し、線L23は、ベース満充電容量を上述の抵抗比で除算した演算結果を示す。
ベース満充電容量は、ΔSOC条件(ΔSOCがある程度大きいとの条件)が成立しないと算出されない。この例では、時刻t1,t2,t4,t5の各タイミングでベース満充電容量が算出されており、次回の条件が成立するまでは、ベース満充電容量は前回値に保持される。実効電極面積の低下による満充電容量の急速な低下がなければ、満充電容量は時間の経過とともに徐々に低下するので、ベース満充電容量を満充電容量の推定値としてそのまま用いることが可能である。
この例では、時刻t3において、対象セルブロックにて実効電極面積の低下が発生し、対象セルブロックの実効電極面積が低下することにより満充電容量が急速に低下している。この場合、ベース満充電容量は、時刻t4まで値が更新されないので、実際の満充電容量(線L21)とベース満充電容量(線L22)との間に大きな乖離が生じている。
本実施の形態では、上述のように、ベース満充電容量を上述の抵抗比で除算した値を満充電容量の推定値としている。抵抗比は、対象セルブロック及び基準セルブロックの各々の抵抗値から基本的に常時算出可能であるので、実効電極面積の低下を抵抗比で捕捉することができ、実効電極面積の低下による満充電容量の低下を精度よく推定することができている(時刻t3〜t4における線L23)。
しかしながら、時刻t4において、ベース満充電容量が算出されると、実効電極面積の低下が反映されたベース満充電容量が算出される。そのため、実効電極面積の低下が反映されたベース満充電容量を抵抗比で除算すると、実効電極面積の低下を二重にカウントしてしまい、満充電容量を過小に推定してしまう(時刻t4以降の線L23)。
そこで、本実施の形態に従う電池システム2においては、ベース満充電容量が算出されるタイミングで、それまでの抵抗比をキャンセルするための補正が行なわれ、ベース満充電容量が算出された後に満充電容量の変化が二重カウントされないようにしている。
図8は、本実施の形態に従う電池システム2における満充電容量の推定値の推移を示した図である。なお、この図8では、電池システム2において、図7に示した例と同じ実効電極面積の低下が発生した場合の満充電容量推定値の推移が示されている。また、この図8には、満充電容量の推定に用いられる抵抗比の推移も併せて示されている。
図8を参照して、線L21,L22は図7に示したものと同じである。すなわち、線L21は、対象セルブロックの実際の満充電容量を示し、線L22は、ベース満充電容量の算出値を示す。そして、線L33は、ベース満充電容量の算出タイミングで抵抗比の補正が行なわれる、本実施の形態に従う電池システム2による満充電容量の推定値を示す。線L41は、上述の抵抗比を示し、線L42は、補正された抵抗比を示す。
時刻t3において、実効電極面積の低下が発生し、満充電容量が急速に低下している。この場合、実際の満充電容量(線L21)とベース満充電容量(線L22)との間には大きな乖離が生じるけれども、実効電極面積の低下を抵抗比で捕捉することによって、満充電容量の低下を精度よく推定することができている(時刻t3〜t4)。
時刻t4において、ベース満充電容量が算出されると、本実施の形態では、ベース満充電容量が算出される直前の抵抗比をリセットするように抵抗比が補正される(線L42)。具体的には、ベース満充電容量が算出されたタイミングの抵抗比の逆数を補正係数とし、抵抗比に上記補正係数を乗じることによって抵抗比が補正される。これにより、実効電極面積の低下による満充電容量低下の二重カウントが抑制され、時刻t4以降も満充電容量を精度よく推定することができている(線L33)。
図9は、ECU100により実行される満充電容量の推定処理の手順の一例を示したフローチャートである。このフローチャートに示される一連の処理は、組電池10を構成するセルブロック毎に、所定時間毎又は所定条件の成立時に繰返し実行される。
図9を参照して、ECU100は、対象セルブロックについてベース満充電容量Cの算出条件が成立したか否かを判定する(ステップS10)。この実施の形態では、ベース満充電容量Cは、ある期間における対象セルブロックの電流積算値ΣIをその期間のΔSOCで除算することによって算出される。そして、上記算出条件は、ΔSOCが所定値以上になった場合に成立する。具体的には、ECU100は、ある時点(任意の時点)からのSOCの変化量ΔSOCが所定値以上になった場合に、ベース満充電容量Cの算出条件が成立したものとする。所定値は、ベース満充電容量Cの算出精度との関係で設定可能であり、所定値を大きくすれば、ベース満充電容量Cの算出精度は高くなるけれども算出間隔は大きくなる一方、所定値を小さくすれば、算出間隔は小さくなるけれども算出精度は低下する。所定値は、たとえば50%に設定することができるが、この値に限定されるものではない。
ステップS10において、ベース満充電容量Cの算出条件が成立したものと判定されると(ステップS10においてYES)、ECU100は、ベース満充電容量Cを算出してその値を更新する(ステップS20)。
図10は、ベース満充電容量Cの算出方法の一例を説明するための図である。図10を参照して、線L5は、各セルブロックのOCV−SOCカーブであり、実験等により予め準備されてECU100のメモリ105に記憶されている。ECU100は、ステップS10においてベース満充電容量Cの算出条件が成立したか否かを判定するために、ある時点(任意の時点)からのΔSOCを算出している。
対象セルブロックのΔSOCを算出するためのSOC(2点)は、この線L5で示されるOCV−SOCカーブによって求められる。すなわち、ECU100は、対象セルブロックの電圧Vi、電流I及び抵抗値Riから対象セルブロックのOCVを算出し、OCV−SOCカーブを用いて、算出されたOCVからSOCを算出する。なお、抵抗値Riは、対象セルブロックの温度Tiに依存し、各セルブロックの温度と抵抗値との関係が実験等により予め準備されてECU100のメモリ105に記憶されている。
また、ECU100は、ΔSOCの算出期間における電流Iの積算値も併せて算出する。そして、ステップS10においてベース満充電容量Cの算出条件が成立したものと判定されると、ECU100は、ΔSOCに対応する電流積算値ΣIをΔSOCで除算した値を、ベース満充電容量Cの算出値とする。
再び図9を参照して、対象セルブロックのベース満充電容量Cが算出されると、ECU100は、後述のステップS90において仮学習マップに格納された抵抗比を本学習マップに格納(転写)する(ステップS30)。
図11は、仮学習マップ及び本学習マップの一例を示した図である。図11を参照して、仮学習マップ及び本学習マップには、ECU100により算出される抵抗比が格納されるところ、抵抗比は、抵抗比が算出されたときの対象セルブロックのSOCの高低及び温度Tiの高低により区分されてマップに格納される。なお、一例として、SOC「低」は、SOCが30%以下であり、SOC「中」は、SOCが30〜70%であり、SOC「高」は、SOCが70%以上である。また、温度「低」は、温度Tiが−30度以下であり、温度「中」は、温度Tiが−30〜30度であり、温度「高」は、温度Tiが30度以上である。
再び図9を参照して、ステップS20においてベース満充電容量Cが算出され、ステップS30において抵抗比が本学習マップに格納されると、ECU100は、本学習マップに格納された抵抗比を用いて、抵抗比の補正係数を算出する(ステップS40)。この補正係数は、図7,図8で説明した、ベース満充電容量C算出後における満充電容量変化の二重カウントを防止するためのものである。
後述のように、ステップS80において算出される抵抗比は、仮学習マップに格納されるとともに、ステップS100において満充電容量の推定値の算出に用いられる。ここで、図7で説明したように、ベース満充電容量Cが新たに算出されると、満充電容量の変化が二重にカウントされ、満充電容量が過小に推定されてしまう。そこで、ベース満充電容量Cが算出されると、ステップS80において算出された抵抗比が格納されている仮学習マップを本学習マップに転写し、本学習マップに格納されている抵抗比を用いて補正係数が算出される。具体的には、ECU100は、対象セルブロックのSOC及び温度Tiに対応する抵抗比を本学習マップから取得し、取得された抵抗比の逆数を補正係数として算出する。このような補正係数により抵抗比を補正することによって(後述のステップS100)、満充電容量の変化の二重カウントが防止される。
ステップS40において抵抗比の補正係数が算出されると、又はステップS10においてベース満充電容量Cの算出条件が成立していないと判定されると(ステップS10においてNO)、ECU100は、各セルブロックの電流I及び電圧Viを取得する(ステップS50)。そして、ECU100は、抵抗比の算出タイミングであるか否かを判定する(ステップS60)。
この抵抗比の算出タイミングは、たとえば、前回の抵抗比の算出から所定時間経過したタイミングとすることができ、所定時間は、ベース満充電容量Cの算出間隔よりも十分に短い時間に設定される。所定時間が短いことにより、抵抗比の算出の常時性が確保される。但し、後述のように、複数の電流値及び電圧値の値を用いて最小二乗法によりセルブロックの抵抗値を算出する場合には、演算精度を確保するために、所定時間として、複数のデータ(電流値及び電圧値)を収集するのに必要なある程度の時間(たとえば5秒程度)を確保する必要がある。
ステップS60において抵抗比の算出タイミングであると判定されると(ステップS60においてYES)、ECU100は、対象セルブロック及び基準セルブロックの各々の抵抗値を算出する(ステップS70)。一例として、対象セルブロック及び基準セルブロックの各々について、図12に示されるように、複数の電流値及び電圧値を用いて最小二乗法により抵抗値を算出することができる。
なお、このような複数の電流値及び電圧値を用いた最小二乗法による抵抗値の算出においては、所定時間(たとえば5秒程度)の間に電流の正負の切替わりが含まれていることが好ましい。反応抵抗や拡散抵抗等の時定数の大きい抵抗成分は、環境による変動が大きいために誤差が大きくなり得るところ、電流の正負の切替わりが含まれたデータを用いることによって、時定数の小さい抵抗成分(コンデンサ成分)を利用することができ、誤差を小さくすることができる。
なお、抵抗値の算出方法は、上記の手法に限定されるものではなく、種々の公知の手法を採用してもよい。なお、この実施の形態では、基準セルブロックには、対象セルブロックに隣接するセルブロックが採用される。上述のように、対象セルブロックに隣接するセルブロックは、対象セルブロックと環境が似ていると考えられるからである。
再び図9を参照して、対象セルブロック及び基準セルブロックの各々の抵抗値が算出されると、ECU100は、対象セルブロックの抵抗値を基準セルブロックの抵抗値で除算することによって抵抗比を算出する(ステップS80)。そして、ECU100は、算出した抵抗比を仮学習マップ(図11)に格納する(ステップS90)。なお、抵抗比は、それが算出されたときの対象セルブロックのSOCの高低及び温度Tiの高低により区分されて仮学習マップに格納される。
ステップS90において抵抗比が仮学習マップに格納されると、又はステップS60において抵抗比の算出タイミングではないと判定されると(ステップS60においてNO)、ECU100は、ステップS80において算出された抵抗比、及びステップS40において算出された補正係数を用いて、対象セルブロックの満充電容量の推定値を算出する(ステップS100)。具体的には、ECU100は、ステップS20において算出されたベース満充電容量Cを、抵抗比に補正係数を乗算した値(補正係数により補正された抵抗比)で除算することによって、対象セルブロックの満充電容量の推定値を算出する。これにより、図8に示したように、対象セルブロックの満充電容量を高精度に推定することができる。
以上のように、この実施の形態によれば、基準セルブロックの抵抗値に対する対象セルブロックの抵抗値の比である抵抗比を用いて満充電容量を推定することにより、ベース満充電容量Cの算出条件(ΔSOC条件)が成立するまでの間においても、満充電容量を精度よく推定することができる。
また、この実施の形態によれば、上記抵抗比を用いて満充電容量を推定するので、対象セルブロックの抵抗値そのものから満充電容量を推定する場合に比べて、満充電容量の推定値に対する環境の影響を低減することができる。
なお、上記の実施の形態においては、基準セルブロックは、対象セルブロックに隣接して配設されるセルブロックとしたが、基準セルブロックはこれに限定されない。たとえば、基準セルブロックの抵抗値は、対象セルブロックの過去の抵抗値であってもよい。なお、この場合は、対象セルブロックにおいて実行電極面積の低下が発生した場合に、正常時からの環境変化は満充電容量の推定誤差となり得るため、上記実施の形態のように、対象セルブロックに隣接して配設されるセルブロックを基準セルブロックとするのが好適である。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。