JP2019143253A - ダブルカバリング糸およびそれを用いた布帛 - Google Patents

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Abstract

【課題】製編性や製織性が良好で、耐切創性および伸縮性に優れ、糸および布帛の表面が凹凸にならずにコーティング性が良好であるカバリング糸、およびそれを用いた布帛を提供すること。【解決手段】無機繊維フィラメントを芯糸とし、その周囲に有機繊維フィラメントを二重に巻き付けてなるダブルカバリング糸であって、カバリング用下糸とカバリング用上糸が、(A)高機能フィラメントと、(B)合成繊維フィラメントと弾性繊維フィラメントの複合糸と、の組み合わせで構成されていることを特徴とするダブルカバリング糸である。【選択図】なし

Description

本発明は、ダブルカバリング糸およびそれを用いた布帛に関する。
金属繊維やガラス繊維などの無機繊維を芯糸とし、該芯糸を合成繊維フィラメントや天然繊維で被覆したカバリング糸は、危険な作業において作業者の身体を保護するための防護衣料(作業服、指サック、手袋など)などに用いられている。
例えば、特許文献1には、直径約40μmの1本のステンレス鋼針金とそれに沿わせた1本のアラミド紡績糸からなる芯糸に、アラミド糸を巻き付け、その上にナイロン糸を巻き付けた、ダブルカバリング糸から作製された作業用指サックが開示されている。このダブルカバリング糸は、柔軟性を付与するために細いステンレス鋼針金を用い、それを補強するためにアラミド紡績糸を沿わせてコアとしているため、糸の製造工程が煩雑である。糸の製編性も良いとは言えない。
特許文献2には、ステンレス鋼ワイヤと高強度合成繊維からなる芯糸に、アラミド繊維フィラメントを巻き付け、その上にポリウレタン弾性糸を反対方向に巻き付け、さらにその上にナイロン糸を反対方向に巻き付けた、三重カバリング糸から作製された手袋が開示されている。ポリウレタン弾性糸を巻き付けることで織編物に伸縮性を付与できるが、編地表面に凹凸が出来るため樹脂コーティング性が劣る欠点がある。ナイロン糸を巻き付けて前記欠点を改良しているが、特許文献1のカバリング糸と同様の課題がある。
特許文献3には、ステンレス鋼繊維フィラメントからなる芯糸に、アラミド繊維などの高機能フィラメントの捲縮糸を巻き付け、その上にウーリーナイロン糸を高機能フィラメントと反対方向に巻き付けることで、ソフトな風合いで耐切創性を備える織編物を提供する、ダブルカバリング糸が開示されている。弾性繊維は開示されていない。
上記の特許文献1〜3では、織編物に耐切創性と伸縮性を付与するために、芯糸に無機繊維フィラメントを用い、該芯糸に伸縮性糸を巻き付けてダブルカバリング糸を構成している。しかし、伸縮性を付与したダブルカバリング糸において、カバリング糸として弾性糸を用いた場合、織編性が劣る(糸切れする)、あるいは、糸や編地の表面が凹凸になるなどの現象が見られるため、カバリング用の糸の選定はなかなか容易ではない。
無機繊維フィラメントとポリウレタン弾性糸を組合せた例として、金属細線やガラス細線を芯糸とするカバリング糸を、地糸に用い、ポリウレタン弾性糸を芯糸とするカバリング糸を、添え糸に用いることも提案されている。無機繊維フィラメントとポリウレタン弾性糸を組合せてカバリング糸を構成したものではないため、製編性が良いとは言えず、布帛の軽量性に劣る欠点がある(特許文献4、5参照)。
特公平3−62544号公報 特開平4−263602号公報 特開2007−39839号公報 再公表2007−015333号公報 特表2012−515856号公報
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑みてなされたもので、製編性が良好で、耐切創性および伸縮性に優れ、糸および布帛の表面が凹凸にならずにコーティング性が良好であるカバリング糸、およびそれを用いた布帛を提供することを目的とする。
本発明者等は、かかる課題を解決するため鋭意検討した結果、無機繊維フィラメントからなる芯糸に、カバリング用下糸および上糸として、(A)高機能フィラメントと、(B)合成繊維フィラメントと弾性繊維フィラメントの複合糸、を用いることにより、前記課題を解決できることを見出し本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)無機繊維フィラメントを芯糸とし、その周囲に有機繊維フィラメントを二重に巻き付けてなるダブルカバリング糸であって、カバリング用下糸とカバリング用上糸が、
(A)高機能フィラメントと、
(B)合成繊維フィラメントと弾性繊維フィラメントの複合糸と、
の組み合わせで構成されていることを特徴とするダブルカバリング糸。
(2)無機繊維フィラメントが、繊度が30dtex〜350dtexのガラス繊維マルチフィラメント糸条である、上記(1)に記載のダブルカバリング糸。
(3)無機繊維フィラメントが、直径が15μm以上100μm以下の金属繊維フィラメントである、上記(1)に記載のダブルカバリング糸。
(4)(A)高機能フィラメントが、原糸の特性として、JIS L 1013に基づいて測定される引張強さが10cN/dtex以上であり、かつ、引張り弾性率が400cN/dtex以上である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のダブルカバリング糸。
(5)(A)高機能フィラメントが捲縮糸である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のダブルカバリング糸。
(6)(B)複合糸が、ポリウレタン弾性糸からなる芯糸に合成繊維フィラメントを巻き付けたカバリング加工糸、または、ポリウレタン弾性糸と合成繊維フィラメントとの流体加工糸である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のダブルカバリング糸。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のダブルカバリング糸を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする布帛。
本発明のダブルカバリング糸は、糸の製造工程が煩雑でなく、製編性が良好であり、糸および布帛の表面が凹凸のない外観を呈する。製編した布帛は耐切創性および伸縮性に優れている。また、布帛表面の凹凸が非常に少ないため、ゴムまたは樹脂でコーティングした際に浮きが発生しにくくなることで、作業性の良い手袋などが得られる。
本発明のダブルカバリング糸は、無機繊維フィラメントを芯糸とし、その周囲に有機繊維フィラメントを二重に巻き付けてなるダブルカバリング糸(DCY)である。カバリング用下糸とカバリング用上糸が、下記2種類の糸(A)と(B)の組み合わせで構成されている。
(A)高機能フィラメント。
(B)合成繊維フィラメントと弾性繊維フィラメントの複合糸。
ここで、本発明のダブルカバリング糸においては、無機繊維フィラメントの回りに配置する一重めの被覆糸を下糸(以下、「鞘糸下」と称する。)、二重めの被覆糸を上糸(以下、「鞘糸上」と称する。)と称している。
即ち、本発明のダブルカバリング糸は、無機繊維フィラメントからなる芯糸に、上記の糸(A)が巻き付けられ、さらにその上に、上記の糸(B)が巻き付けられたダブルカバリング糸(DCY−1)、または、無機繊維フィラメントからなる芯糸に、上記の糸(B)が巻き付けられ、さらにその上に、上記の糸(A)が巻き付けられたダブルカバリング糸(DCY−2)であることができる。
(無機繊維フィラメント)
本発明のダブルカバリング糸の芯糸となる無機繊維としては、金属繊維、鉱物繊維、ガラス繊維などが挙げられる。
なお、芯糸となる無機繊維フィラメントは、フィラメントの単糸またはマルチフィラメント糸条を1本、あるいは複数本引き揃えたもの、あるいは合撚したものなどを用いることができる。また、後述する性能を阻害しない範囲で、無機繊維フィラメントに樹脂やゴム等を被覆または溶着したものを用いることができる。
芯糸となる無機フィラメントは、ダブルカバリング糸の製造容易性の観点より、無機フィラメントまたはそれに樹脂やゴムを被覆・溶着したもののみで構成することが好ましい。
無機繊維フィラメントは、金属繊維の場合、その直径が15μm〜100μmであることが好ましい。直径が15μm以上であれば、耐切創性が十分となり、一方、直径が100μm以下であれば、糸の製編性(編立て性)や布帛の風合いが著しく劣ることがない。金属繊維の直径は、20μm〜70μmであることがより好ましく、20μm〜60μmであることが特に好ましい。
ガラス繊維の場合、そのマルチフィラメント糸条の繊度が30dtex〜350dtexであることが好ましい。繊度が30dtex以上であれば、耐切創性が十分となり、一方、繊度が350dtex以下であれば、糸の製編性(編立て性)や布帛の風合いが著しく劣ることがない。ガラス繊維の繊度は、50dtex〜250dtexであることがより好ましく、50dtex〜180dtexであることが特に好ましい。
上記の無機繊維のなかでも、耐切創性、特に金属製薄板や部品、ガラス板、ナイフ、刃物などの鋭利な縁での耐切創性に優れ、細線での使用が可能である点で、金属繊維が好ましい。金属繊維フィラメントを構成する金属としては、例えば、ステンレス鋼(例えば、SUS304(7.93)、SUS316(7.98)等)、タングステン(19.3)、銅(8.96)、アルミニウム(2.70)等が挙げられる(かっこ内の数字は繊維比重である)。これらの金属繊維フィラメントのなかでも、耐錆性、引張特性、製編性が良好である観点より、ステンレス鋼またはタングステン繊維フィラメントが好ましい。
(高機能フィラメント)
ダブルカバリング糸の鞘糸の一方を構成する(A)高機能フィラメントは、本発明の目的を達成するためには、高強度かつ高弾性率の高機能フィラメントが好ましい。繊維の種類は特に限定されない。このような高機能フィラメントとしては、原糸の特性として、JIS L 1013に基づいて測定される引張強さが、10cN/dtex以上、好ましくは15cN/dtex以上であるという高引張特性と、JIS L 1013に基づいて測定される引張り弾性率が、400cN/dtex以上であるという高弾性率と、を満足する繊維が好適である。引張強さが10cN/dtex以上、かつ、引張り弾性率が400cN/dtexの高機能フィラメントを用いることにより、ダブルカバリング糸に高度の耐屈曲性と耐摩耗性を付与することができると共に、細径の無機繊維フィラメントを用いた場合でもダブルカバリング糸に耐切創性を付与することができる。
上記高機能フィラメントを構成する素材としては、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維(例えば株式会社クラレ製、商品名「ベクトラン」)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(例えば東洋紡株式会社製、商品名「ザイロン」)、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリアミドイミド繊維(例えばローヌプーラン社製、商品名「ケルメル」)、超高分子量ポリエチレン繊維(例えば東洋紡株式会社製、商品名「ダイニーマ」)、LCP(液晶ポリマー)繊維などが好ましく用いられる。これらの繊維のなかでも、耐切創性に優れている点から、アラミド繊維が特に好ましく用いられる。
前記アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維があり、メタ系アラミド繊維としては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製、商品名「ノーメックス」)などのメタ系全芳香族ポリアミド繊維が使用される。また、パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」)およびコポリパラフェニレン−3,4’−ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製、商品名「テクノーラ」)などのパラ系全芳香族ポリアミド繊維が使用される。これらのなかでも、特に、高強度特性および高弾性率とともに耐切創性、耐熱性に優れている点から、パラ系アラミド繊維が好ましく用いられる。該アラミド繊維は、公知またはそれに準ずる方法で製造でき、また、上記のような市販品を用いても良い。
高機能フィラメントは、芯糸に対するカバリング性および撚り性に優れると共に、製編したときの風合いがソフトで、さらに伸縮性に優れるという観点から、原糸よりも、高機能フィラメント糸に仮撚り加工(加撚→熱セット→解撚)を施した捲縮糸が好ましい。捲縮糸は、解撚まで加工していない加撚、熱セットのみのものや、仮撚り加工した糸を撚糸したもの、仮撚り加工した糸に熱セットをしたもの、または撚糸した糸を仮撚り加工したものであっても良い。
高機能フィラメントに捲縮を付与する方法は特に限定されず、公知の方法であって良い。例えば、高機能フィラメント糸条に撚りを加える加撚工程と、次いで乾熱処理工程と、さらに前記撚りを解く解撚工程と、を実施することにより捲縮糸を製造する。製造方法としては、連続式仮撚加工法またはバッチ(非連続)式製造方法が挙げられる。より好ましいのは、かさ高性の高い捲縮糸が得られる点、および、捲縮糸の繊維がバラけている点、すなわち解撚状態が良い点より、連続式仮撚加工法である。
連続式仮撚加工法において、仮撚りスピンドルによる仮撚り数は、糸を適度に捲縮させるとともに撚りをかけすぎることによる繊維の切断を防ぐため、下記式(1)で表わされる撚り係数(K)の値が約4,000〜11,000程度、好ましくは約4,500〜9,000程度であるのが好適である。
=t×D1/2 (1)
〔但し、tは仮撚り数(回/m)を表し、Dは繊度(tex)を表す。〕
仮撚りスピンドルで撚りを加える場合には、1本ピン、2本ピン、4本ピンのスピナーを用いることができる。
乾熱処理における熱セットの温度条件は、捲縮糸が所望のかさ高性と伸縮性を有するようにするためには高温処理が好適であり、原料繊維の分解開始温度付近とすることが好ましい。好ましい温度条件は、原料繊維によって異なるが、パラ系アラミド繊維の場合は、糸が通過するヒーター内部の雰囲気温度、すなわちヒーター温度を約300〜650℃にし、より好ましくは350〜600℃にすることが好ましい。
乾熱処理におけるヒーターは、接触ヒーターでも、非接触ヒーターでもよく、公知の手段によって行われて良い。加熱時間は、繊維の種類、糸条の太さまたは加熱温度などにより異なるため一概には言えないが、通常は0.005〜2秒程度が望ましい。好ましくは約0.01〜1.5秒程度の範囲である。
乾熱処理は、加圧下、減圧下、常圧下のいずれで行われても良いが、通常の連続式仮撚加工では常圧下で行われることが好ましい。
上記の仮撚加工法による製造方法において、パラ系アラミド繊維の捲縮糸を製造する場合は、仮撚り加工前のパラ系アラミド繊維として、水分率が好ましくは20質量%(以下、「%」と略記)以下、より好ましくは15%以下、特に好ましくは1〜10%のものを使用することが望ましい。この場合、上記式(1)において、Dは水分を含む繊度(tex)を表す。撚りを加える前の水分率が20%を超えると、乾熱処理において熱が糸へ効率よく伝わらなくなり熱セット効果が得られないために良好な捲縮糸になり難く、一方、撚りを加える前の水分率が1%未満であると、糸道ガイドなどの擦れにより糸がフィブリル化を起こす恐れがある。
仮撚加工法においては、高強力繊維の引張り強度の低下がないことの目安として、捲縮糸の強度保持率が25%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上であることが好適である。強度保持率は下記式から算出できる。
強度保持率(%)={捲縮糸の強度(N/tex)/高強力繊維の原糸の強度(N/tex)}×100
高機能フィラメントの捲縮糸は、JIS L 1013 8.12に準じて測定した伸縮復元率が5%以上であることが好ましく、より好ましくは5〜30%である。測定前の前処理として、測定試料をかせ状にしてガーゼに包んだまま、90℃20分間の温水処理を行い、室温で自然乾燥させた。伸縮復元率が5%未満では、手袋表面をゴムまたは樹脂でコーティングした際のコーティング材の接着性が悪く、一方、30%を超えると芯糸との調和が悪く、ダブルカバリング糸の外観に凹凸が発生しやすくなるため、布帛表面にコーティングしたゴムまたは樹脂の浮きなどが生じやすくなり、作業性の悪い手袋になりやすい。
高機能フィラメントの繊度およびフィラメント数は、用途目的に応じ、耐切創性、伸縮性、柔軟性、風合い等を考慮して適宜選択すれば良い。繊度は、20dtex〜1,600dtexの範囲が好ましい。また、単糸繊度は、0.1dtex〜10dtexの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.4dtex〜5dtexの範囲である。0.1dtex未満では、製糸効率が低くコストアップとなり、10dtexを超えると、剛性が高く、柔軟性が求められる布帛には向かない。
なお、本発明のダブルカバリング糸は、高機能フィラメントおよび高機能フィラメント捲縮糸が、上記した高機能フィラメントの1種類から構成されていても良いし、任意の2種以上から構成されていても良い。
(複合糸)
ダブルカバリング糸の鞘糸の他方を構成する(B)複合糸は、合成繊維フィラメントと弾性繊維フィラメントの複合糸である。弾性繊維フィラメントを含む糸は、ダブルカバリング糸に伸縮性が付与される点で、好ましく用いられる。このような弾性繊維としては、高い伸縮性をもつ、ポリウレタン系弾性繊維が好ましい。ポリウレタン系弾性繊維は、その断面形状は特に限定されるものではなく、円形であっても扁平であっても良く、またその繊維は、モノフィラメントであっても溶着されたマルチフィラメントであっても良い。
弾性繊維フィラメントの繊度としては、11dtex〜400dtexの範囲が好ましく、22dtex〜350dtexの範囲がより好ましい。11dtex以上あればカバリングおよび布帛編成工程で糸切れの原因となることがなく、手袋などにおける着用時のフィット性にも優れたものとなる。400dtex以下であれば、手袋編機のゲージ数に合わなくなることがない。また、破断伸度は300%以上であることが好ましく、300%未満であると布帛を形成した時に十分な伸縮性を得ることができなくなる恐れがある。
複合糸としては、良好な編立て性、風合いを得る観点から、芯糸に弾性繊維フィラメントを用い、該芯糸の回りに鞘糸となる合成繊維フィラメントを、一重に巻き付けた糸(SCY:シングル・カバード・ヤーン)、あるいは、二重に巻き付けた糸(DCY:ダブル・カバード・ヤーン)が挙げられる。軽量で薄手の布帛が得られる点からは、SCYが好ましい。また、二重にカバリングする場合は、トルクを打ち消すため、鞘糸上のカバリングの撚り方向は、鞘糸下のカバリングの撚り方向の逆方向にかけることが好ましい。
合成繊維フィラメントを弾性繊維フィラメントにカバリングする際、芯糸のドラフトの倍率は、1.5〜5.0程度、好ましくは2.0〜4.0であるのが好適である。1.5未満であるとカバリング工程の鞘糸がカバリングしにくくなり、5.0を超えるとカバリング工程において糸切れしやすくなり、生産性が悪くなる。
合成繊維フィラメントとしては、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維などの汎用合成繊維、アラミド繊維などの高機能合成繊維が挙げられる。それらの中でも、経済性、軽量性などを考慮すると、汎用合成繊維フィラメントが好ましい。
また、複合糸としては、手袋のフィット感(締め付け具合、伸び具合)、良作業性が得られる点より、上記の弾性繊維フィラメントと上記の合成繊維フィラメントとを流体ジェットにより交絡処理して形成された伸縮性交絡糸が挙げられる。
伸縮性交絡糸は、公知のタスランノズル又はインターレースノズルなどの流体加工ノズルを用いて製造され、弾性繊維フィラメントと合成繊維フィラメントを、流体加工ノズルを備えた加工装置に供給し、流体ジェットにより交絡処理することで得られる。なかでもより好ましくは繊維フィラメント間のループや弛みが比較的少ないインターレースノズルを用いることである。
弾性繊維フィラメントを流体加工ノズルに供給する際のドラフト倍率は、1.5〜5.0程度、好ましくは2.0〜4.0であるのが好適である。流体加工ノズルにおいては、合成繊維フィラメントと弾性繊維フィラメントとが一体となって流体加工ノズルのエアージェットにより交絡処理される。ドラフト倍率が小さくなると、伸縮性交絡糸の低応力域の伸度が低くなり、ドラフト倍率が高すぎると、伸縮性交絡糸の加工工程で弾性繊維が切断する、あるいは、伸縮性交絡糸の収縮力が強すぎるため手袋のフィット感や柔軟性が損なわれることがある。流体加工ノズルの圧空圧は、約0.1〜1.0MPa、好ましくは0.3〜0.6MPaの範囲にあることが好ましい。
複合糸の繊度(実測繊度)は、30dtex〜190dtexの範囲が好ましく、より好ましくは50dtex〜190dtexである。30dtex以上であれば、布帛や編立てした手袋に風合いや伸縮性を付与することができ、190dtex以下であれば、編立て性が著しく悪化することがない。
本発明のダブルカバリング糸および(B)複合糸において、鞘糸を芯糸に被覆する際、鞘糸のカバリングの撚り数は、鞘糸の繊度により適宜選択すれば良いが、下記式(2)で表わされる撚り係数(K)の値が約500〜5,000程度、好ましくは約1,000〜3,000程度であるのが好適である。撚り係数が500未満であると、カバリング糸において芯糸に対する鞘糸の被覆状態が悪くなり、手袋にした際、芯糸が剥き出しとなり手袋表面の品位が低下する。5,000を超えると、カバリング工程において糸切れ等が発生しやすくなり、工程通過性が悪くなるとともに、鞘糸が締め付けられるため、鞘糸が本来有している特性がカバリング糸に反映されなくなる。
=T×D1/2 (2)
〔但し、Tはカバリングの撚り数(回/m)を表し、Dは繊度(tex)を表す。〕
また手袋などにおいては、その使用時にも表面のコーティング材を剥がす力が加わる。そのため芯糸に対する鞘糸の巻回数が多すぎると、鞘糸(特に捲縮糸)が有しているかさ高性がダブルカバリング糸に反映されず、鞘糸の隙間にコーティング材が侵入しにくくなることで、コーティング材がダブルカバリング糸に接着し難くなる。ダブルカバリング糸とコーティング材との接着が低いと手袋の表面からコーティング材が剥離し、手袋などが補強されずに破れることで耐久性が低下する。
カバリングの際には市販のカバリング機などが好ましく用いられる。ダブルカバリング糸および複合糸は、公知またはそれに準ずる方法で製造することができる。
本発明のダブルカバリング糸は、無機繊維フィラメント(芯糸)と、(A)高機能フィラメント糸および(B)複合糸(鞘糸)とを、質量比で5〜70:30〜95の範囲で用いたものが好ましい。無機繊維フィラメントの比率が少なすぎる場合は、布帛の耐切創性が不十分となる傾向があり、一方、多すぎる場合は、布帛が硬くなる傾向が見られる。より好ましくは、質量比で10〜50:50〜90の範囲である。
本発明のダブルカバリング糸は、良好な耐切創性を得る観点から鞘糸が芯糸の回りを二重に巻き付けたダブル・カバード・ヤーン(DCY)であるが、三重や四重に巻き付けたものであっても良い。三重や四重に巻き付ける繊維としては、高機能繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維などの合成繊維フィラメントや、天然繊維などの他の公知の繊維を用いることができる。
また、本発明のダブルカバリング糸は、必要に応じて染料や顔料で着色されていても良い。着色方法として、紡糸前に染料や顔料をポリマーと混合して紡糸した原着糸を使用してもよく、各種方法で着色した糸を用いても良い。
ダブルカバリング糸の繊度(実測繊度)は、200dtex〜1,000dtexの範囲が好ましく、より好ましくは200dtex〜900dtexである。200dtex以上であれば、布帛に耐切創性を付与することができ、1,000dtex以下であれば、布帛の編立て性が著しく悪化することがない。
(布帛)
本発明では、上記のダブルカバリング糸を編地に編成あるいは織地に製織して、布帛を作製する。手袋などの編地は、市販のコンピューター手袋編機SFGやSTJ(株式会社島精機製作所製)が便宜に採用される。作業服などの織地は、汎用の織機が採用される。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、ダブルカバリング糸を、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維など他の公知の繊維との混繊、交撚などによる複合糸として使用することもできる。
さらに、手袋を手型などに装着し、該手袋にゴムまたは樹脂のコーティング材を含浸させた後、乾燥することにより、あるいは、該手袋にゴムまたは樹脂を貼り合わせ接着させる方法で手袋の表面にコーティング材を被着させることにより、耐熱性、耐切創性などの特性に加え、耐摩耗性、防水性などを併せ持ち、物をつかんだとき滑りにくい手袋を作製することができる。
前記コーティング材としては、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ラテックス、合成ゴムまたは天然ゴムなどが用いられる。コーティング材は、手袋表面の少なくとも一部に被着させれば良い。掌部側の略全面および指先部に被着させても、甲部側も含めた全面に被着させてもよく、或いは、指部だけに被着させても、所定の指先だけに被着させてもよく、その他の形態であっても良い。
手袋を編成する場合、コーティング材が被着していない状態で、手の平部あるいは手の甲部の面密度(目付)が100〜500g/mの範囲であることが好ましく、目付が小さすぎる場合は耐切創性が低下し、大きすぎる場合は編地が堅くなる。より好ましい面密度(目付)の範囲は、100〜400g/mである。得られた手袋は、各種作業用手袋に好適に用いることができる。また、手袋を構成する繊維の全てが、長繊維フィラメントであることから、発塵量が少なく、クリーンルーム内の作業用手袋としても好適に用いることができる。
手袋以外でも、本発明のダブルカバリング糸を少なくとも一部に用いて織編みしてなる布帛は、消防服、作業服、指サック、前掛けなどの防護衣料、レジャー用衣料、スポーツ用衣料、生活資材や装置・機器類の防護シートなど各種用途に用いることができる。
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。各物性などの評価方法は、次の方法に依拠した。
[繊度]
1)ダブルカバリング糸および複合糸の総繊度(実測繊度)
JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.3 B法(簡便法)により求めた。
=1000×m/L×(100+R)/100
(F:正量繊度(tex)、L:試料の長さ(m)、m:試料の絶乾質量(g)、R:JIS L 0105の4.1に規定する公定水分率(%))
[手袋の厚み]
JIS L 1096:2010 織物及び編物の生地試験方法8.4により手袋の厚さを測定した。
[切創抵抗(切れ難さCut resistance )]
JIS T 8052:2005 防護服−機械的特性−鋭利物に対する切創抵抗性試験方法により測定した。測定機は、RGI社製のTDM−100を用いた。
[編地の外観]
手袋編み機(株式会社島精機製作所)を用いて手袋を10枚編成した後に、目視により手袋表面の凹凸を確認した。
(A)Kevlar捲縮糸
東レ・デュポン(株)製の総繊度440dtex、単糸繊度1.7dtex、引張強さ20.3cN/dtex、引張弾性率499cN/dtex、水分率7%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント糸条(「Kevlar(登録商標)」)に、仮撚り加工速度:60m/min、仮撚り加工温度(乾熱):500℃、仮撚り数t:1,150回/m、仮撚り加撚方向:S方向の加工条件にて連続仮撚り加工を行って得た。
捲縮糸の強度保持率;40%、撚り係数(K);7,628。
(B)複合糸
公知のカバリング工程により、繊度44dtex、破断伸度530%のポリウレタン系弾性繊維(東レ・オペロンテックス(株)製、商品名「ライクラ」(登録商標))からなる芯糸に、鞘糸として、78dtexのナイロン繊維(Ny)製ウーリー加工糸(加撚方向:Z撚り)をらせん状に巻き付けて、以下の加工条件にて、総繊度96dtexのカバリング糸を得た。
・スピンドル回転数:5,000rpm
・芯糸のドラフト:2.5倍
・鞘糸のカバリング撚り数:700回、撚り方向:Z方向、撚り係数(K)=2,764
(実施例1)
ステンレス鋼細線(SUS)の単糸1本(日本精線(株)製、直径50μm、比重7.98)に、(A)Kevlar(登録商標)捲縮糸(商品名「SD」)を、S方向にらせん状に巻き付け、その上に(B)複合糸を、(A)Kevlar捲縮糸と反対方向にらせん状に巻き付けることにより、総繊度(実測)696dtexのダブルカバリング糸を得た。この時のカバリング撚り数は400回/mとした。
得られたダブルカバリング糸を13ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給し、表1に示す、手の平部の密度、手の平部の厚み、手の平部の目付を有する手袋を編み上げ、工程通過性(糸切れの有無)を評価した。得られた手袋の耐切創性、編地表面の外観、伸縮性を評価した結果を表1に示す。
(実施例2)
ステンレス鋼細線(SUS)の単糸1本(日本精線(株)製、直径50μm、比重7.98)に、(B)複合糸をZ方向にらせん状に巻き付けた、その上に(A)Kevlar(登録商標)」捲縮糸(商品名「SD」)を、(B)複合糸と反対方向にらせん状に巻き付けることにより、総繊度(実測)696dtexのダブルカバリング糸を得た。この時のカバリング撚り数は400回/mとした。
得られたダブルカバリング糸を、13ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給し、表1に示す、手の平部の密度、手の平部の厚み、手の平部の目付を有する手袋を編み上げ、工程通過性(糸切れの有無)を評価した。得られた手袋の耐切創性、編地表面の外観、伸縮性を評価した結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1で用いたステンレス鋼細線の単糸1本に、(A)Kevlar(登録商標)捲縮糸(商品名「SD」)を、S方向にらせん状に巻き付け、その上に78dtexのナイロン繊維製ウーリー加工糸(加撚方向:Z撚り)を、Kevlar捲縮糸と反対方向にらせん状に巻き付けることにより、総繊度(実測)680dtexのダブルカバリング糸を得た。この時のカバリング撚り数は400回/mとした。
得られたダブルカバリング糸を、13ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給し、表1に示す性状の手袋を編みあげ、手袋の特性を評価した。結果を表1に示す。
(比較例2)
比較例1で得たダブルカバリング糸を地糸として用い、156dtexのナイロン繊維製ウーリー加工糸を伸縮性添え糸として用い、13ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給し、プレーティング編みにて、地糸を外面/添え糸を内面に配置した、表1に示す性状の手袋を編みあげ、手袋の特性を評価した。結果を表1に示す。
(比較例3)
実施例1で用いたステンレス鋼細線の単糸1本に、(A)Kevlar(登録商標)捲縮糸(商品名「SD」)を、S方向にらせん状に巻き付け、その上に繊度117dtexのポリウレタン系弾性繊維(東レ・オペロンテックス(株)製、商品名「ライクラ」(登録商標))を、Kevlar捲縮糸と反対方向にらせん状に巻き付けることにより、総繊度(実測)680dtexのダブルカバリング糸を得た。この時のカバリング撚り数は400回/mとした。
得られたダブルカバリング糸を、13ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給し、表1に示す性状の手袋を編みあげ、手袋の特性を評価した。結果を表1に示す。
Figure 2019143253
表1から明らかなように、本発明のダブルカバリング糸を使用して編成した手袋は、糸切れがなく編立て性が良好であると共に、耐切創性、伸縮性に優れていた。編地表面の凹凸面においても、鞘上糸にウーリーナイロン糸を用いたカバリング糸と比べ、遜色ないものであった。
また、ウーリーナイロン糸を添え糸に用いてプレーティング編みした手袋に比べ、低目付、薄手、伸縮性、かつ耐切創性に優れるものであった。
以上のように、ごわごわ感のない耐切創性布帛を提供できたことより、指先を使う作業用手袋、動きやすさが求められるスポーツ衣などに、好適に用いることができる。
本発明のダブルカバリング糸およびそれを用いた布帛は、産業用または一般用の手袋あるいは衣料などに有用である。

Claims (7)

  1. 無機繊維フィラメントを芯糸とし、その周囲に有機繊維フィラメントを二重に巻き付けてなるダブルカバリング糸であって、カバリング用下糸とカバリング用上糸が、
    (A)高機能フィラメントと、
    (B)合成繊維フィラメントと弾性繊維フィラメントの複合糸と、
    の組み合わせで構成されていることを特徴とするダブルカバリング糸。
  2. 無機繊維フィラメントが、繊度が30dtex〜350dtexのガラス繊維マルチフィラメント糸条である、請求項1に記載のダブルカバリング糸。
  3. 無機繊維フィラメントが、直径が15μm以上100μm以下の金属繊維フィラメントである、請求項1に記載のダブルカバリング糸。
  4. (A)高機能フィラメントが、原糸の特性として、JIS L 1013に基づいて測定される引張強さが10cN/dtex以上であり、かつ、引張り弾性率が400cN/dtex以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のダブルカバリング糸。
  5. (A)高機能フィラメントが捲縮糸である、請求項1〜4のいずれかに記載のダブルカバリング糸。
  6. (B)複合糸が、ポリウレタン弾性糸からなる芯糸に合成繊維フィラメントを巻き付けたカバリング加工糸、または、ポリウレタン弾性糸と合成繊維フィラメントとの流体加工糸である、請求項1〜5のいずれかに記載のダブルカバリング糸。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載のダブルカバリング糸を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする布帛。
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