以下、本発明の砂防堰堤の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、この実施の形態の砂防堰堤を上流側から見た全体構成の斜視図である。この実施の形態に係る砂防堰堤は、既存の砂防堰堤と同様に、土砂災害、特に、土石流による被害を防止すること等を目的に渓流(谷部)Rの川(谷部)幅方向に延設されるものである。この実施の形態では、渓流Rの川幅方向に延設される堰堤10は、図示しない躯体の周囲に例えばコンクリートを打設して構築される。なお、以下の実施の形態では、渓流Rを含む河川についてのみ説明しているが、本発明の砂防堰堤は、河川を含むあらゆる谷部、例えば常時表流水のない涸れ沢などにも適用可能である。
この堰堤10のうち、両渓岸に配置される両袖部12は、従来の両袖部と同様に、両渓岸の地盤に深く埋設され、安定した設置状態を確保しており、土石流等の運動エネルギーに対する強度を確保している。この堰堤10の両袖部12の高さは、例えば3〜30m程度である。なお、本発明に係る堰堤10は、新設してもよいし、既存の設備を利用して構築することも可能である。
この実施の形態の堰堤10では、両袖部12間の中央部14に大きく水の流下を許容する中間領域部16が確保されている。この中間領域部16は、堰堤10の両袖部12間に存在し、この中間領域部16で堰堤10の上流側(山側ともいう)及び下流側(谷側ともいう)が連通され、水が流下する。この中間領域部16の川幅方向の幅は、例えば3〜30m程度であり、底部の高さは、例えば河床から0.5〜2m程度である。
この中間領域部16の規模や形状は、図示した形態に限定されるものではなく、渓流の形状や水量など種々の要素を勘案して決定される。この実施の形態における中間領域部16は、従来の重力式コンクリートダム型の越流部よりも遥かに大きく開口している。このように中間領域部16の開口容積を大きく設定することで、両袖部12などのコンクリート構造体を減らすことが可能となる。なお、できるだけコンクリート構造体を減らすことは、砂防堰堤が、一般的に、交通の便や作業環境のあまりよくない場所に設けられるため、大きなメリットとなる。
また、中間領域部16の開口を大きくすることは、後述するリング式ネット18や補強ロープ26などによる土石流の運動エネルギー吸収効果を高めることにつながるから、その分だけ、中間領域部16の底部を含め、両袖部12などのコンクリート構造体の基礎構造が簡易になる。ちなみに、既存の砂防堰堤設備を利用する際、中間領域部16が十分な開口容積を有している場合には、そのまま利用すればよいし、開口容積が不足している場合には、コンクリート構造体を切除して広げればよい。特に、中間領域部16の底部の高さを低くすることで、土石流発生時の流体圧を効果的に逃がすことができる。
また、中間領域部16には、その上流側に、土石流発生時の流下物を受け止めるためのネット体としてリング式ネット18が配設されている。このリング式ネット18は、後述するように、複数のリング状部材20を連結して構成されており、図示のように、川幅方向両端部のリング状部材20を固定具36によって両袖部12の上流側面12aに固定している。
このリング式ネット18は、リング状部材20の変形によって土石流の運動エネルギーを吸収しながら、巨礫や流木などの流下物を受け止めるものである。そのため、少なくとも中間領域部16の底部からその上部の所定高さ位置までをカバーするように張架される。なお、中間領域部16の底部は構造体がない場合は、川底であり、構造体が存在する場合にはその上面である。
図2は、図1のリング式ネット18の配設状態の変形例を示す模式的断面図である。このリング式ネット18は、流下物を受け止めてリング状部材20が変形すると、リング式ネット18全体が下流側に膨出する。例えばリング式ネット18が川底まで配設される場合、下流に膨出するリング式ネット18の下側から流下物が下流側に流れ出てしまわないために、図2に示すように、リング式ネット18の下端部を上流側に向けて川底に這わせ、その上流側端部を固定部材38によって川底に固定する。
このリング式ネット18には、図1に示すように、補強ロープ26が挿通されている。補強ロープ26は、両袖部12の上流側面12aに両端が固定されて架け渡されている。補強ロープ26の両端部は、両袖部12の上流側面12aに固定された係止具28の穴部に堅固に連結されている。また、係止具28は、図示しないアンカーによって両袖部12の躯体に堅固に連結されている。この補強ロープ26には、例えば高強度のワイヤロープなどが適用される。補強ロープ26の線径は、例えば12〜30mm程度である。
本実施の形態では、上下に間隔を開けて複数(本実施の形態では5本)の補強ロープ26が張架されている。本実施の形態ではリング式ネット18の上辺部(上端部)に最上部の補強ロープ26−1が配置され、下辺部(下端部)に最下部の補強ロープ26−5が配置されている。これらの補強ロープ26は、リング式ネット18を構成する複数のリング状部材20のリング内、すなわち内周側を交互に縫うようにして挿通されている。なお、補強ロープ26の挿通部分では、リング状部材20と補強ロープ26を連結することが望ましい。また、補強ロープ26は、リング式ネット18のリング部材20に挿通せずに、例えばシャンクやジョーと呼ばれる個別の係止具を介してリング式ネット18と係止してもよい。
なお、実際の補強ロープ26は、自重やリング式ネット18の重みによって下方に弛んでいる。また、この弛み量によって、リング式ネット18による流下物の抑止とそれに挿通されている補強ロープ26による流下物の抑止を調整することが可能となる。即ち、補強ロープ26はリング式ネット18のリング状部材20のリング内に挿通され、場合によって挿通部分ではリング状部材20と補強ロープ26が連結されているため、土石流発生時の補強ロープ26の動きとリング式ネット18の動きは互いにリンクしている。
後段に詳述するリング式ネット18の変形による土石流の運動エネルギー吸収効果は、ネットの撓みがなくなってリング状部材20が変形することで発揮される。一方、補強ロープ26は、リング式ネット18に流下物が受け止められ、リング式ネット18が下流側に膨出することでロープの弛みがなくなり、補強ロープ26に張力が発生したときから流下物を支持することができる。このとき、補強ロープ26の伸びを許容しながらその伸びに制動力が付与されれば、制動力を伴う補強ロープ26の伸びによって土石流の持つ運動エネルギーを吸収することができる。そのため、この補強ロープ26の両端部には、所定の制動力を伴ってロープの両固定部間の長さの伸びを許容する補強ロープ用ブレーキ装置30が設けられている。
この補強ロープ用ブレーキ装置30は、例えば通常時に補強ロープ26の長手方向への動きを規制するものである。土石流発生時、リング式ネット18が流下物を受け止め、下流側に膨出して補強ロープ26の弛みがなくなると、補強ロープ26の張力が大きくなる。この張力が、補強ロープ用ブレーキ装置30による補強ロープ26の規制力より大きくなると、例えば補強ロープ用ブレーキ装置30内で補強ロープ26の滑りが生じ、その滑りに伴う摩擦抵抗が制動力となり、この制動力によって土石流の運動エネルギーが吸収される。
なお、補強ロープ26の配設本数は、前記に限定されるものではないが、少なくともリング式ネット18のネット面の上辺部及び下辺部には補強ロープ26を配設することが望ましい。また、補強ロープ26の架け渡しは、必ずしも水平方向でなくてもよい。
この実施の形態では、これらの補強ロープ用ブレーキ装置30による補強ロープ26の伸び量を、後述するリング式ネット18の変形限界と同時かそれ以前に補強ロープ26の両固定部間の長さの伸びが限界となるように設定した。このように構成すると、補強ロープ26の両固定部間の長さの伸び限界と同時かそれ以後にリング式ネット18の変形限界となるため、制動力を伴う補強ロープ26の伸びによる土石流の運動エネルギー吸収量を超える土石流の運動エネルギーをリング式ネット18の変形によって吸収することが可能となる。
例えば、補強ロープ用ブレーキ装置30の制動力を伴う補強ロープ26の伸びの限界を土石流の運動エネルギー吸収上限値に設定した場合、万が一、これを超える運動エネルギーを土石流が有していた場合、補強ロープ26が伸びきった後からリング式ネット18の変形によって、その上限値を超える運動エネルギーを吸収することができ、これにより流下物を抑止することができる。また、土石流発生の際、リング式ネット18が変形限界になっていなければ、補強ロープ26を張り替え、リング式ネット18は、そのまま再利用することも可能となるので、堰堤10の再生工事が簡易になる。
なお、例えば図1のように、1本の補強ロープ26に対し、複数の補強ロープ用ブレーキ装置30を設ける場合、それらの補強ロープ用ブレーキ装置30の制動力の大きさを互いに異なる大きさに設定してもよい。このような制動力配分にすると、例えば1本の補強ロープ26に2個の補強ロープ用ブレーキ装置30を設けた場合、何れか一方の補強ロープ用ブレーキ装置30が先に作動して制動力を発揮し、その後から、他方の補強ロープ用ブレーキ装置30が作動して制動力を発揮する。こうすることで、流下物を支持する補強ロープ26が伸び続ける間、継続的或いは断続的に制動力を発揮する、つまり運動エネルギーを吸収し続けることが可能となる。
また、図1、図2の砂防堰堤では、リング式ネット18及び補強ロープ26を中間領域部16の上流側に配置しているが、これらリング式ネット18及び補強ロープ26を中間領域部16の下流側に配置することも可能である。そして、その場合、一般的に、リング式ネット18及び補強ロープ26の川幅方向両端部は、両袖部12の下流側面に固定する。
次に、本実施の形態に用いられているリング式ネット18について説明する。このリング式ネット18は、例えば特開2014−1584号公報(以下、先行技術文献とも記す)に記載されるものと同様であり、複数のリング状部材20を互いに連結して構成される。この実施の形態では、例えば、図1から理解されるように、1つのリング状部材20の周囲に4つのリング状部材20が均等に配置されるようにして、それらのリング状部材20の内周側同士が接触するように連結する。リング状部材20の連結構造は、先行技術文献に記載されるように、様々な形態がある。
このリング状部材20は、例えば鋼線からなる線材を複数回(5〜20回)巻回し、周方向の数か所を締結具によって締め付けて構成されている。リング状部材20を構成する線材には、例えば硬鋼線材から製造される鋼線が好ましいが、例えば軟鋼線材から製造される鉄線でもよい。鋼線の場合、引張強度800N/mm2以上のものが好ましい。また、これらの線材にメッキや被覆を施したものも用いることができる。線材の線径は2.5〜5mm程度で、リング状部材20の直径は300〜1500mm程度である。リング式ネット18は、リング状部材20の直径を変更することで、堰き止めたい流下物(巨礫)の大きさに容易に対応することができる。例えば、上流の巨礫の大きさを調査し、その大きさに合わせてリング状部材20の直径を設定すれば、土石流発生時の流下物を効果的に堰き止めることができる。
リング状部材20を連結して構成されるリング式ネット18は、例えばネット面に垂直な力(負荷)が加わると、リング状部材20が互いに引っ張られるので、リング状部材20の形状そのものが変形すると共に、リング状部材20を構成する線材の巻回が緩むように変形する。これらの変形は、土石流の運動エネルギー、具体的には巨礫や流木が衝突してネット面に負荷が作用するときに生じ、リング式ネット18に負荷が加わるとリング状部材20が変形することで、土石流の運動エネルギーが吸収され、結果としてリング式ネット18全体で巨礫や流木を堰き止める効果が得られる。なお、土石流は渓流の上流側から下流側に向けて生じるので、土石流の運動エネルギーでリング状部材20が変形するリング式ネット18は、前述したように、土石流を受けると下流側に膨出する。
これらのことから、リング式ネット18を用いる砂防堰堤は、リング状部材20の変形によって土石流の運動エネルギーを受け止める「柔構造」であるといえ、従来のコンクリートダム型の砂防堰堤や中間流域部だけを設けた透過型砂防堰堤の「剛構造」と異なり、両袖部12などの堰堤10のコンクリート構造体が受け止めるべき負荷が大幅に小さい。つまり、前述の補強ロープ26や補強ロープ用ブレーキ装置30を含めて、リング式ネット18によって流下物の動きを抑止することができれば、その後、両袖部12などのコンクリート構造体が受け止める負荷は流下物の静荷重である。周知のように、同じ物体でも、動荷重に比べて静荷重は遥かに小さい。そのため、例えば堰堤10の基礎構造が簡易になり、施工も大幅に容易になる。この施工の容易さは、堰堤が構築される場所、つまり山間において多大なメリットをもたらす。
また、この実施の形態の砂防堰堤では、ネット体であるリング式ネット18の上端部(上辺部)に配設された補強ロープ26−1にロープ保護部材70が取付けられている。このロープ保護部材70の目的は、後述のように、ネット体であるリング式ネット18で流下物を堰き止めた後、リング式ネット18の上流側に堰き止められた流下物が例えばオーバフローしてネット体であるリング式ネット18を乗り越える場合、そのリング式ネット18を乗り越える流下物と、特にネット体上端部の補強ロープ26−1との擦れを回避して、ネット体上端部の補強ロープ26−1を保護しようとするものである。
図3は、このロープ保護部材70の斜視図、図4(a)は、図3のロープ保護部材70の断面図である。このロープ保護部材70は、ネット体上端部の補強ロープ26−1の上部(上面)及び上流側部(上流側面)を覆う板状の本体部72を有する。具体的には、この本体部72は、例えば鋼製L型アングル材で構成され、この鋼製L型アングル材の互いに垂直な二平板部のうちの一方がネット体上端部の補強ロープ26−1の上部を覆う板状の上部側保護部74となり、他方がネット体上端部の補強ロープ26−1における谷部上流側部を覆う板状の上流側保護部76となる。
このロープ保護部材70の本体部72は、例えば図3に示すように、ネット体上端部の補強ロープ26−1の長手方向に所定の長さを有する。前述のように、砂防堰堤構築後、両袖部12に架け渡された補強ロープは、自重やネット体であるリング式ネット18の重量により、下方に弛んで(撓んで)いる。また、後述するように、土石流発生後、流下物を堰き止めたリング式ネット18の下流側への膨出に伴って、それを支持している補強ロープも下流側に大きく撓む。ロープ保護部材70の本体部72の長さは、こうしたネット体上端部の補強ロープ26−1の弛みや撓み、つまり湾曲に対して、ロープ保護部材70の目的のために、その補強ロープ26−1からロープ保護部材70が離れてしまわない長さとする。このように湾曲する補強ロープ26−1にロープ保護部材70ができるだけくっついているためには、本体部72の長さが短いほどよいが、本体部72の長さを短くし過ぎると補強ロープ26−1に取付けるロープ保護部材70の数が多くなるので、後述するように、ロープ保護部材70を補強ロープ26−1に取付ける際、その取付作業が煩雑になってしまう。そのため、ロープ保護部材70の本体部72の長さは、補強ロープ26−1に生じる湾曲の程度に合わせて適宜設定する。
このロープ保護部材70の本体部72のうち、図3の裏側面、つまり補強ロープ26−1側の面には、図4(a)に示すように、本体部72を補強ロープ26−1に連結するための連結手段78が長手方向の2か所に設けられている。この連結手段78は、例えばシャックルとかジョーと呼ばれる係止具が本体部72の裏面側に溶接固定されて構成される。具体的には、シャックルやジョーと呼ばれる係止具を上部側保護部74の下面から下方に垂下するように溶接固定している。この連結手段78は、例えばネット体上端部の補強ロープ26−1を挿通するロープ挿通手段であってもよいが、ロープ挿通手段の場合、補強ロープ26−1の張設の際、後述する全てのロープ保護部材70のロープ挿通手段に補強ロープ26−1を挿通する必要が生じ、補強ロープ26−1の張設後にロープ保護部材70を補強ロープ26−1に取付けることができない。そのため、この実施の形態では、係止具を本体部72の裏面側に固定して連結手段78とした。
また、この実施の形態のロープ保護部材70では、前述した上流側保護部76の長手方向両端部の夫々に、リング式ネット18のリング状部材20と係合するための係止具82を挿通する係止孔80が形成されている。この係止孔80は、具体的には、本体部72の長手方向、即ち補強ロープ26−1の長手方向に長手な長孔であり、この実施の形態では、補強ロープ26−1に取付けた状態の上流側保護部76の下部に形成されている。係止孔80を補強ロープ26−1の長手方向に長孔としたのは、流下物堰き止め時の補強ロープ26−1の伸びを吸収するためである。
このロープ保護部材70をネット体上端部の補強ロープ26−1に取付ける場合は、まず、図5に示すように、本体部72のうち、長手方向何れか一方の係止孔80の部分が重なるようにしてロープ保護部材70を補強ロープ26−1の上方且つ上流側に配置する。具体的には、例えば図の右側に位置するロープ保護部材70の本体部72の右端部の上方且つ上流側に、図の左側の位置するロープ保護部材70の本体部72の左端部が重なるようにして、隣り合うロープ保護部材70を配置する。
このようにネット体上端部の補強ロープ26−1の上方且つ上流側にロープ保護部材70を配置したら、図6に示すように、本体部72の補強ロープ26−1側面に設けられた連結手段78で本体部72と補強ロープ26−1を連結する。次いで、例えば互いに重合する本体部72の近接する係止孔80に、例えばシャックルとかジョーと呼ばれる係止具82を挿通し、その係止具82を更にリング式ネット18のリング状部材20の内周側に挿通して係止する。このように本体部72を連結手段78でネット体上端部の補強ロープ26−1に連結することでロープ保護部材70は補強ロープ26−1に取付けられ、更に係止孔80に挿通した係止具82で上流側保護部76をネット体であるリング式ネット18に係止する。リング式ネット18はネット体上端部の補強ロープ26−1より下方に吊り下がっているので、このリング式ネット18に本体部72の上流側保護部76を係止することで、その上流側保護部76が上部側保護部74に対して下向きになり、本体部72で補強ロープ26−1の上部及び上流側部を覆う姿勢が保持される。即ち、本体部72の係止孔80及び係止具82がネット体であるリング式ネット18と本体部72との係止構造を形成している。
図4(b)は、図3のロープ保護部材70の変形例を示す断面図である。図中の符号は、図4(a)の符号と同等である。この変形例では、ロープ保護部材70の本体部72が、例えば鋼製円形パイプを略半割にした半円弧断面形状を有し、そのうち、補強ロープ26−1の図示上部を覆う部分が上部側保護部74を構成し、補強ロープ26−1の図示上流側を覆う部分が上流側保護部76を構成している。上流側保護部76には、図3のロープ保護部材70と同様に係止孔80が形成されており、この係止孔80に係止具82を挿通し、この係止具82でロープ保護部材70とリング状部材20が係止され、これにより両者の係止構造が形成されている。この変形例では、上部側保護部74と上流側保護部76が半円弧断面形状に連続しているが、両者が一連に滑らかに連続していれば、その他の湾曲断面形状をなしていてもよい。
また、ネット体上端部の補強ロープ26−1にロープ保護部材70を取付ける砂防堰堤の変形例として、例えば図7に示すように、ネット体であるリング式ネット18の上端部に複数の補強ロープ26−1を2本一対で平行に配設し、各対の補強ロープ26−1の撚り線の撚り方向を異なる方向とする。前述したように、補強ロープ26−1に使用されるワイヤロープは、所謂撚り線であり、こうした撚り線からなる補強ロープ26−1は、例えばネット体の変形に伴って伸びると、捩れが生じる。このロープの伸びに伴う捩れの方向は、例えば撚り線の撚り方向によって凡そ決まっており、例えばロープが伸びると撚りが締まるように捩れる。補強ロープ26−1に捩れが生じると、それに取付けられているロープ保護部材70も捩れてしまい、場合によっては、補強ロープ26−1の上部及び上流側部を覆うことができなくなるおそれがある。そのため、この変形例のように、ネット体であるリング式ネット18の上端部に複数の補強ロープ26−1を2本一対で平行に配設し、各対の補強ロープ26−1の撚り線の撚り方向を異なる方向とすることで、それらの補強ロープ26−1が伸びたときの互いの捩れが相殺され、複数の補強ロープ26−1の上部及び上流側部をロープ保護部材70の本体部72で覆い続けることができ、結果として補強ロープ26−1を流下物から保護し続けることができる。
図8は、土石流が発生し、巨礫や流木などの流下物を堰き止めた後の状態を示す下流側から見た砂防堰堤の斜視図である。図から明らかなように、巨礫や流木を堰き止める際、土石流の運動エネルギーを吸収したリング式ネット18は下流側に大きく膨出し、それに伴って、補強ロープ26や第2補強ロープ40も下流側に撓んでいる。これらの変形により土石流の運動エネルギーが吸収され、リング式ネット18全体で巨礫や流木を堰き止めている。なお、最下部の補強ロープ26は、流下物が覆い被さっており、図面上は見えない状態である。
しかしながら、土石流発生時の流下物の量が、想定した量よりも多い場合、一度は堰き止められた流下物がネット体であるリング式ネット18を乗り越えるおそれがある。もし、ネット体上端部の補強ロープ26−1にロープ保護部材70が取付けられていなければ、リング式ネット18を乗り越える流下物はネット体上端部の補強ロープ26−1と擦れ、その補強ロープ26−1が損傷する可能性がある。このようなおそれに対し、この実施の形態の砂防堰堤では、ネット体上端部の補強ロープ26−1にロープ保護部材70が取付けられ、その本体部72によって補強ロープ26−1の上部及び上流側部が覆われているので、リング式ネット18を乗り越える流下物と補強ロープ26−1との擦れが回避され、補強ロープ26−1そのものが保護される。
このように、この実施の形態の砂防堰堤によれば、通常の状況で流れる水や土砂はリング式ネット18を構成する複数のリング状部材20の隙間を通って中間領域部16から下流に流れ、土石流発生時には、リング式ネット18を構成する複数のリング状部材20によって巨礫や流木が留められる。その際、リング式ネット18の高強度性と優れた変形性により土石流の持つ運動エネルギーが吸収され、リング式ネット18全体で巨礫や流木を堰き止めることができる。また、補強ロープ26や補強ロープ用ブレーキ装置30により、さらに安定した土石流堰き止め機能が発揮される。
そして、補強ロープ26や補強ロープ用ブレーキ装置30を含めて、リング式ネット18の変形によって土石流の運動エネルギーを吸収する柔構造であるため、両袖部12などのコンクリート構造体が受け止める負荷が小さくなり、これによりコンクリート構造体の基礎構造が簡易になり、施工が容易になる。この施工の容易性は、砂防堰堤が構築される山間において大きなメリットとなる。
また、この砂防堰堤は、堰堤10に形成された中間領域部16にリング式ネット18を配置し、両袖部12に支持させることだけで構成されるので、構造が簡潔であり、コストを低廉化することもでき、また施工も容易である。このことは、渓流そのものの形態をできるだけ保護することにもつながり、環境負荷を可及的に軽減することにも繋がるものである。
更に、ネット体上端部の補強ロープ26−1の上部及び上流側部をロープ保護部材70の本体部72で覆う構成としたため、万が一、堰き止められた流下物がリング式ネット18を乗り越えても、その乗り越える流下物と補強ロープ26−1との擦れがロープ保護部材70によって回避され、補強ロープ26−1を保護することができる。
以上、実施の形態について説明したが、本発明の構成はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。例えば、上述した補強ロープ26の本数や材質については現場の状況に応じて適宜選択されるものであり、また、それらのブレーキ装置は、上述の構成に限定されるものではなく、制動力を伴いながら補強ロープ26の伸びを許容するものであれば如何なるものを用いてもよい。
また、前述の実施の形態では、リング式ネット18を1張だけ、両袖部12間に張架したが、リング式ネット18を複数張、両袖部12間に張架してもよい。
また、本発明のロープ保護部材及び砂防堰堤は、上述の実施の形態以外の柔構造の砂防堰堤にも適用可能である。例えば、図9は、谷部の底部又は底部近傍から所定の高さ位置までリング式ネット18を伸展して張設するために、その所定高さにて、両端部の夫々が固定手段4によって谷部の向かい合う山部の斜面の夫々に固定された支持ロープ6を両山部間に架け渡し、その支持ロープ6をリング式ネット18に挿通又はリング式ネット18と係止して両者を連結したものである。固定手段4は、例えば山部の所定深さまで到達するアンカーに支持ロープ6の両端部の夫々を連結・固定して構成される。この支持ロープ6は、リング式ネット18を吊り下げるようにして支持するため、当然ながら伸長・張設されるネット体の上端部に配設される。この支持ロープ6にも、前述のロープ保護部材70を同様に適用することができ、これによりネット体上端部の支持ロープ6を流下物との擦れから保護することができる。
また、図10は、谷部の底部又は底部近傍から所定の高さ位置までリング式ネット18を伸展して張設するために、谷部の底部から立設された所定の高さの支柱2を、少なくとも谷部の幅方向両端部又は両端部寄りの位置を含めて、谷部の幅方向に並べて複数本配設し、これら支柱2の上端部間に支持ロープ6を架け渡し、その支持ロープ6をリング式ネット18に挿通又はリング式ネット18と係止して両者を連結したものである。支持ロープ6の両端部の夫々は、図9と同様に、谷部の向かい合う山部の斜面の夫々に固定手段4で固定され、固定手段4は、例えば山部の所定深さまで到達するアンカーに支持ロープ6の両端部の夫々を連結・固定して構成される。この支持ロープ6も、リング式ネット18を吊り下げるようにして支持するため、当然ながら伸長・張設されるネット体の上端部に配設される。この支持ロープ6にも、前述のロープ保護部材70を同様に適用することができ、これによりネット体上端部の支持ロープ6を流下物との擦れから保護することができる。
また、前述の実施の形態では、ネット体としてリング式ネット18を用いた場合について説明したが、例えば図11に示すように、網目が菱形の金属線材からなる菱形金網22をネット体として用いることもできる。この菱形金網22は、例えば特開2016−37773号公報に記載されるように、例えば金属線材24を曲げ加工して三角波状ワイヤとし、並列に配置された複数の三角波状ワイヤの山と谷を互いに編んで、それらの三角波状ワイヤを係合することで構成される。この三角波状ワイヤを構成する金属線材24には、軟鋼、硬鋼、 ばね鋼、ステンレス鋼等を用いることができる。この金属線材24には必要により被覆処理がなされていてもよく、これにより三角波状ワイヤの接触部分の摩耗や、腐食等を防止することができる。被覆処理としては、例えば、亜鉛メッキ処理やポリエステル被覆処理が挙げられる。この菱形金網22を含めて、本発明のネット体には、流下物を堰き止めることが可能であれば、如何様なネット体を用いることも可能である。