以下、実施形態による電動ブレーキ装置を、4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、図4ないし図8に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用いる(例えば、ステップ1=「S1」とする)。
図1において、車両のボディを構成する車体1の下側(路面側)には、例えば左右の前輪2(FL,FR)と左右の後輪3(RL,RR)とからなる合計4個の車輪が設けられている。車輪(各前輪2、各後輪3)は、車体1と共に車両を構成している。車両には、制動力を付与するためのブレーキシステムが搭載されている。以下、車両のブレーキシステムについて説明する。
前輪2および後輪3には、それぞれの車輪(各前輪2、各後輪3)と共に回転する被制動部材(回転部材)としてのディスクロータ4が設けられている。前輪2用のディスクロータ4は、液圧式のディスクブレーキである前輪側ディスクブレーキ5により制動力が付与される。後輪3用のディスクロータ4は、電動パーキングブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキである後輪側ディスクブレーキ6により制動力が付与される。
左右の後輪3に対応してそれぞれ設けられた一対(一組)の後輪側ディスクブレーキ6は、液圧によりブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧して制動力を付与する液圧式のブレーキ機構(液圧ブレーキ)である。図2に示すように、後輪側ディスクブレーキ6は、例えば、キャリアと呼ばれる取付部材6Aと、ホイルシリンダとしてのキャリパ6Bと、制動部材(摩擦部材、摩擦パッド)としての一対のブレーキパッド6Cと、押圧部材としてのピストン6Dとを備えている。この場合、キャリパ6Bとピストン6Dは、シリンダ機構、即ち、液圧によって移動してブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧するシリンダ機構を構成している。
取付部材6Aは、車両の非回転部に固定され、ディスクロータ4の外周側を跨いで形成されている。キャリパ6Bは、取付部材6Aにディスクロータ4の軸方向への移動を可能に設けられている。キャリパ6Bは、シリンダ本体部6B1と、爪部6B2と、これらを接続するブリッジ部6B3とを含んで構成されている。シリンダ本体部6B1には、シリンダ(シリンダ穴)6B4が設けられており、シリンダ6B4内にはピストン6Dが挿嵌されている。ブレーキパッド6Cは、取付部材6Aに移動可能に取付けられ、ディスクロータ4に当接可能に配置されている。ピストン6Dは、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧する。
ここで、キャリパ6Bは、ブレーキペダル9の操作等に基づいてシリンダ6B4内に液圧(ブレーキ液圧)が供給(付加)されることにより、ブレーキパッド6Cをピストン6Dで推進する。このとき、ブレーキパッド6Cは、キャリパ6Bの爪部6B2とピストン6Dとによりディスクロータ4の両面に押圧される。これにより、ディスクロータ4と共に回転する後輪3に制動力が付与される。
さらに、後輪側ディスクブレーキ6は、電動アクチュエータ7と回転直動変換機構8とを備えている。電動アクチュエータ7は、電動機としての電動モータ7Aと、該電動モータ7Aの回転を減速する減速機(図示せず)等を含んで構成されている。電動モータ7Aは、ピストン6Dを推進するための推進源(駆動源)となるものである。回転直動変換機構8は、ブレーキパッド6Cの押圧力を保持する保持機構(押圧部材保持機構)を構成している。
この場合、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転をピストン6Dの軸方向の変位(直動変位)に変換すると共に該ピストン6Dを推進する回転直動部材8Aを含んで構成されている。回転直動部材8Aは、例えば、雄ねじが形成された棒状体からなるねじ部材8A1と、雌ねじ穴が内周側に形成された推進部材となる直動部材8A2とにより構成されている。
回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転をピストン6Dの軸方向の変位に変換すると共に、電動モータ7Aにより推進したピストン6Dを保持する。即ち、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aによりピストン6Dに推力を与え、該ピストン6Dによりブレーキパッド6Cを推進してディスクロータ4を押圧し、該ピストン6Dの推力を保持する。
回転直動変換機構8は、電動モータ7A、減速機と共に、電動パーキングブレーキの電動機構を構成している。電動機構は、電動モータ7Aの回転力を減速機と回転直動変換機構8とを介して推力に変換し、ブレーキパッド6Cを押圧するピストン6Dに推力を作用させて制動力の保持または解除をする。このような電動機構(即ち、電動モータ7A、減速機および回転直動変換機構8)は、後述のパーキングブレーキ制御装置24と共に、電動ブレーキ装置を構成している。
後輪側ディスクブレーキ6は、ブレーキペダル9の操作等に基づいて発生するブレーキ液圧によりピストン6Dを推進させ、ブレーキパッド6Cでディスクロータ4を押圧することにより、車輪(後輪3)延いては車両に制動力を付与する。これに加えて、後輪側ディスクブレーキ6は、後述するように、パーキングブレーキスイッチ23からの信号等に基づく作動要求に応じて、電動モータ7Aにより回転直動変換機構8を介してピストン6Dを推進させ、車両に制動力(パーキングブレーキ、必要に応じて補助ブレーキ)を付与する。
即ち、後輪側ディスクブレーキ6は、電動モータ7Aを駆動し、回転直動部材8Aによりピストン6Dを推進することにより、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧して保持する。この場合、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキ(駐車ブレーキ)を付与するためのアプライ要求となるパーキングブレーキ要求信号(アプライ要求信号)に応じて、ピストン6Dを電動モータ7Aで推進して車両の制動を保持することが可能となっている。これと共に、後輪側ディスクブレーキ6は、ブレーキペダル9の操作に応じて、液圧源(後述のマスタシリンダ12、必要に応じて液圧供給装置16)からの液圧供給により車両の制動が可能となっている。
このように、後輪側ディスクブレーキ6は、電動モータ7Aによりディスクロータ4にブレーキパッド6Cを押圧し該ブレーキパッド6Cの押圧力を保持する回転直動変換機構8を有し、かつ、電動モータ7Aによる押圧とは別に付加される液圧によりディスクロータ4にブレーキパッド6Cを押圧可能に構成されている。
一方、左右の前輪2に対応してそれぞれ設けられた一対(一組)の前輪側ディスクブレーキ5は、パーキングブレーキの動作に関連する機構を除いて、後輪側ディスクブレーキ6とほぼ同様に構成されている。即ち、図1に示すように、前輪側ディスクブレーキ5は、取付部材(図示せず)、キャリパ5A、ブレーキパッド(図示せず)、ピストン5B等を備えているが、パーキングブレーキの作動、解除を行うための電動アクチュエータ7(電動モータ7A)、回転直動変換機構8等を備えていない。しかし、前輪側ディスクブレーキ5は、ブレーキペダル9の操作等に基づいて発生する液圧によりピストン5Bを推進させ、車輪(前輪2)延いては車両に制動力を付与する点で、後輪側ディスクブレーキ6と同様である。即ち、前輪側ディスクブレーキ5は、液圧によりブレーキパッドをディスクロータ4に押圧して制動力を付与する液圧式のブレーキ機構(液圧ブレーキ)である。
なお、前輪側ディスクブレーキ5は、後輪側ディスクブレーキ6と同様に、電動パーキングブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよい。また、実施形態では、電動ブレーキ機構(電動パーキングブレーキ)として、電動モータ7Aを備えた液圧式のディスクブレーキ6を用いている。しかし、これに限定されず、電動ブレーキ機構は、例えば、電動キャリパを備えた電動式ディスクブレーキ、電動モータによりシューをドラムに押付けて制動力を付与する電動式ドラムブレーキ、電動ドラム式のパーキングブレーキを備えたディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることによりパーキングブレーキをアプライ作動させるケーブルプラー式電動パーキングブレーキ等を用いてもよい。即ち、電動ブレーキ機構は、電動モータ(電動アクチュエータ)の駆動に基づいて摩擦部材(パッド、シュー)を回転部材(ロータ、ドラム)に押圧(推進)し、その押圧力の保持と解除とを行うことができる構成であれば、各種の電動ブレーキ機構を用いることができる。
車体1のフロントボード側には、ブレーキペダル9が設けられている。ブレーキペダル9は、車両のブレーキ操作時に運転者(ドライバ)によって踏込み操作され、この操作に基づいて各ディスクブレーキ5,6は、常用ブレーキ(サービスブレーキ)としての制動力の付与および解除が行われる。ブレーキペダル9には、ブレーキランプスイッチ、ペダルスイッチ(ブレーキスイッチ)、ペダルストロークセンサ等のブレーキ操作検出センサ(ブレーキセンサ)10が設けられている。
ブレーキ操作検出センサ10は、ブレーキペダル9の踏込み操作の有無、または、その操作量を検出し、その検出信号をESC制御装置17に出力する。ブレーキ操作検出センサ10の検出信号は、例えば、車両データバス20、または、ESC制御装置17とパーキングブレーキ制御装置24とを接続する通信線(図示せず)を介して伝送される(パーキングブレーキ制御装置24に出力される)。
ブレーキペダル9の踏込み操作は、倍力装置11を介して、油圧源(液圧源)として機能するマスタシリンダ12に伝達される。倍力装置11は、ブレーキペダル9とマスタシリンダ12との間に設けられた負圧ブースタ(気圧倍力装置)または電動ブースタ(電動倍力装置)として構成されている。倍力装置11は、ブレーキペダル9の踏込み操作時に、踏力を増力してマスタシリンダ12に伝える。
このとき、マスタシリンダ12は、マスタリザーバ13から供給(補充)されるブレーキ液により液圧を発生させる。マスタリザーバ13は、ブレーキ液が収容された作動液タンクとなるものである。ブレーキペダル9により液圧を発生する機構は、上記の構成に限られるものではなく、ブレーキペダル9の操作に応じて液圧を発生する機構、例えば、ブレーキバイワイヤ方式の機構等であってもよい。
マスタシリンダ12内に発生した液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管14A,14Bを介して、液圧供給装置16(以下、ESC16という)に送られる。ESC16は、各ディスクブレーキ5,6とマスタシリンダ12との間に配置されている。ESC16は、マスタシリンダ12からシリンダ側液圧配管14A,14Bを介して出力される液圧を、ブレーキ側配管部15A,15B,15C,15Dを介して各ディスクブレーキ5,6に分配、供給する。即ち、ESC16は、ブレーキペダル9の操作に応じた液圧(ブレーキ液圧)を、各車輪(各前輪2、各後輪3)に設けられたディスクブレーキ5,6(キャリパ5A,6B)へ供給するためのものである。これにより、車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力を付与することができる。
ここで、ESC16は、液圧ブレーキ(前輪側ディスクブレーキ5、後輪側ディスクブレーキ6)の液圧を制御する液圧制御装置である。このために、ESC16は、複数の制御弁と、ブレーキ液圧を加圧する液圧ポンプと、該液圧ポンプを駆動する電動モータと、余剰のブレーキ液を一時的に貯留する液圧制御用リザーバ(いずれも図示せず)とを含んで構成されている。ESC16の各制御弁および電動モータは、ESC制御装置17と接続されており、ESC16は、ESC制御装置17を含んで構成されている。
ESC16の各制御弁の開閉と電動モータの駆動は、ESC制御装置17により制御される。即ち、ESC制御装置17は、ESC16の制御を行うESC用コントロールユニット(ESC用ECU)である。ESC制御装置17は、マイクロコンピュータを含んで構成され、ESC16(の各制御弁のソレノイド、電動モータ)を電気的に駆動制御する。この場合、ESC制御装置17は、例えば、ESC16の液圧供給を制御し、かつ、ESC16の故障を検出する演算回路、電動モータおよび各制御弁を駆動する駆動回路(いずれも図示せず)等が内蔵されている。
ESC制御装置17は、ESC16の各制御弁(のソレノイド)、液圧ポンプ用の電動モータを個別に駆動制御する。これにより、ESC制御装置17は、ブレーキ側配管部15A−15Dを通じて各ディスクブレーキ5,6に供給するブレーキ液圧(ホイールシリンダ液圧)を減圧、保持、増圧または加圧する制御を、それぞれのディスクブレーキ5,6毎に個別に行う。
この場合、ESC制御装置17は、ESC16を作動制御することにより、例えば以下の(1)−(8)等の制御を実行することができる。
(1)車両の制動時に接地荷重等に応じて各車輪2,3に適切に制動力を配分する制動力配分制御。
(2)制動時に各車輪2,3の制動力を自動的に調整して各車輪2,3のロック(スリップ)を防止するアンチロックブレーキ制御(液圧ABS制御)。
(3)走行中の各車輪2,3の横滑りを検知してブレーキペダル9の操作量に拘わらず各車輪2,3に付与する制動力を適宜自動的に制御しつつ、アンダーステアおよびオーバーステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定化制御。
(4)坂道(特に上り坂)において制動状態を保持して発進を補助する坂道発進補助制御。
(5)発進時等において各車輪2,3の空転を防止するトラクション制御。
(6)先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御。
(7)走行車線を保持する車線逸脱回避制御。
(8)車両進行方向の障害物との衡突を回避する障害物回避制御(自動ブレーキ制御、衝突被害軽減ブレーキ制御)。
ESC16は、運転者のブレーキ操作による通常の動作時においては、マスタシリンダ12で発生した液圧を、ディスクブレーキ5,6(のキャリパ5A,6B)に直接供給する。これに対し、例えば、アンチロックブレーキ制御等を実行する場合は、増圧用の制御弁を閉じてディスクブレーキ5,6の液圧を保持し、ディスクブレーキ5,6の液圧を減圧するときには、減圧用の制御弁を開いてディスクブレーキ5,6の液圧を液圧制御用リザーバに逃がすように排出する。
さらに、車両走行時の安定化制御(横滑り防止制御)等を行うため、ディスクブレーキ5,6に供給する液圧を増圧または加圧するときは、供給用の制御弁を閉弁した状態で電動モータにより液圧ポンプを作動させ、該液圧ポンプから吐出したブレーキ液をディスクブレーキ5,6に供給する。このとき、液圧ポンプの吸込み側には、マスタシリンダ12側からマスタリザーバ13内のブレーキ液が供給される。
ESC制御装置17には、車両電源となるバッテリ18(ないしエンジンによって駆動されるジェネレータ)からの電力が、電源ライン19を通じて給電される。図1に示すように、ESC制御装置17は、車両データバス20に接続されている。なお、ESC16の代わりに、公知のABSユニットを用いることも可能である。さらに、ESC16を設けずに(即ち、省略し)、マスタシリンダ12とブレーキ側配管部15A−15Dとを直接的に接続することも可能である。
車両データバス20は、車体1に搭載されたシリアル通信部としてのCAN(Controller Area Network)を構成している。車両に搭載された多数の電子機器(例えば、ESC制御装置17、パーキングブレーキ制御装置24等を含む各種のECU)は、車両データバス20により、それぞれの間で車両内の多重通信を行う。この場合、車両データバス20に送られる車両情報としては、例えば、ブレーキ操作検出センサ10、イグニッションスイッチ、シートベルトセンサ、ドアロックセンサ、ドア開センサ、着座センサ、車速センサ、操舵角センサ、アクセルセンサ(アクセル操作センサ)、スロットルセンサ、エンジン回転センサ、ステレオカメラ、ミリ波レーダ、勾配センサ(傾斜センサ)、シフトセンサ(トランスミッションデータ)、加速度センサ(Gセンサ)、車輪速センサ、車両のピッチ方向の動きを検知するピッチセンサ等からの検出信号(出力信号)による情報(車両情報)が挙げられる。
さらに、車両データバス20に送られる車両情報としては、ホイルシリンダ圧を検出するW/C圧力センサ21、マスタシリンダ圧を検出するM/C圧力センサ22からの検出信号(情報)も挙げられる。W/C圧力センサ21およびM/C圧力センサ22は、例えば、ブレーキ操作検出センサ10と同様に、ESC制御装置17に接続されている。W/C圧力センサ21およびM/C圧力センサ22の検出信号は、W/C液圧、M/C液圧の情報として、ESC制御装置17から車両データバス20に送られる。車両に搭載された多数の電子機器(各種のECU)は、W/C液圧、M/C液圧を含む各種の車両情報を、車両データバス20を通じて入手することができる。
次に、パーキングブレーキスイッチ23およびパーキングブレーキ制御装置24について説明する。
車体1内には、運転席(図示せず)の近傍となる位置に、電動パーキングブレーキのスイッチとしてのパーキングブレーキスイッチ(PKB−SW)23が設けられている。パーキングブレーキスイッチ23は、運転者によって操作される操作指示部となるものである。パーキングブレーキスイッチ23は、運転者の操作指示に応じたパーキングブレーキの作動要求(保持要求となるアプライ要求、解除要求となるリリース要求)に対応する信号(作動要求信号)を、パーキングブレーキ制御装置24へ伝達する。即ち、パーキングブレーキスイッチ23は、電動モータ7Aの駆動(回転)に基づいてピストン6D延いてはブレーキパッド6Cをアプライ作動(保持作動)またはリリース作動(解除作動)させるための作動要求信号(保持要求信号となるアプライ要求信号、解除要求信号となるリリース要求信号)を、パーキングブレーキ制御装置24に出力する。パーキングブレーキ制御装置24は、パーキングブレーキ用コントロールユニット(パーキングブレーキ用ECU)である。
運転者によりパーキングブレーキスイッチ23が制動側(アプライ側)に操作されたとき、即ち、車両に制動力を付与するためのアプライ要求(制動保持要求)があったときは、パーキングブレーキスイッチ23からアプライ要求信号(パーキングブレーキ要求信号、アプライ指令)が出力される。この場合は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに、該電動モータ7Aを制動側に回転させるための電力が、パーキングブレーキ制御装置24を介して給電される。このとき、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転に基づいてピストン6Dをディスクロータ4側に推進(押圧)し、推進したピストン6Dを保持する。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力が付与された状態、即ち、アプライ状態(制動保持状態)となる。
一方、運転者によりパーキングブレーキスイッチ23が制動解除側(リリース側)に操作されたとき、即ち、車両の制動力を解除するためのリリース要求(制動解除要求)があったときは、パーキングブレーキスイッチ23からリリース要求信号(パーキングブレーキ解除要求信号、リリース指令)が出力される。この場合は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに、該電動モータ7Aを制動側とは逆方向に回転させるための電力が、パーキングブレーキ制御装置24を介して給電される。このとき、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転によりピストン6Dの保持を解除する(ピストン6Dによる押圧力を解除する)。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力の付与が解除された状態、即ち、リリース状態(制動解除状態)となる。
パーキングブレーキは、例えば車両が所定時間停止したとき(例えば、走行中に減速に伴って、車速センサの検出速度が5km/h未満の状態が所定時間継続したときに停止と判断)、エンジンが停止したとき、シフトレバーをPに操作したとき、ドアが開いたとき、シートベルトが解除されたとき等、パーキングブレーキ制御装置24でのパーキングブレーキのアプライ判断ロジックによる自動的なアプライ要求に基づいて、自動的に付与(オートアプライ)する構成とすることができる。また、パーキングブレーキは、例えば車両が走行したとき(例えば、停車から増速に伴って、車速センサの検出速度が6km/h以上の状態が所定時間継続したときに走行と判断)、アクセルペダルが操作されたとき、クラッチペダルが操作されたとき、シフトレバーがP、N以外に操作されたとき等、パーキングブレーキ制御装置24でのパーキングブレーキのリリース判断ロジックによる自動的なリリース要求に基づいて、自動的に解除(オートリリース)する構成とすることができる。オートアプライ、オートリリースは、パーキングブレーキスイッチ23が故障したときに、自動的に制動力の付与または解除を行うスイッチ故障時補助機能として構成することができる。
さらに、車両の走行時にパーキングブレーキスイッチ23の操作があった場合、より具体的には、走行中に緊急的にパーキングブレーキを補助ブレーキとして用いる等の動的パーキングブレーキ(動的アプライ)の要求があった場合は、例えば、パーキングブレーキスイッチ23の操作に応じてESC16による制動力の付与と解除を行うようにすることができる。この場合は、例えば、パーキングブレーキ制御装置24は、パーキングブレーキスイッチ23の操作に応じた制動指令(例えば、液圧要求信号、目標液圧信号)を、車両データバス20または前記通信線を介して、ESC制御装置17に出力する。これにより、ESC16は、パーキングブレーキ制御装置24から制動指令に基づいて、パーキングブレーキスイッチ23が制動側に操作されている間(制動側への操作が継続している間)液圧による制動力を付与し、その操作が終了すると液圧による制動力の付与を解除する。
一方、車両の走行時にパーキングブレーキスイッチ23の操作があった場合に、ESC16による制動力の付与と解除に代えて、例えば、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aの駆動による制動力の付与と解除を行うようにすることができる。この場合は、例えば、パーキングブレーキ制御装置24は、パーキングブレーキスイッチ23が制動側に操作されている間(制動側への操作が継続している間)制動力を付与し、その操作が終了すると制動力の付与を解除する。このとき、パーキングブレーキ制御装置24は、車輪(各後輪3)の状態、即ち、車輪がロック(スリップ)するか否かに応じて、自動的に制動力の付与と解除(ABS制御)を行う構成とすることができる。
制御装置(電動ブレーキ制御装置)としてのパーキングブレーキ制御装置24は、後輪側ディスクブレーキ6(の電動モータ7Aおよび回転直動変換機構8)と共に、電動ブレーキ装置を構成している。パーキングブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aを制御すると共に、電動パーキングブレーキの制動の保持または解除の制動状態を記憶する。このために、図3に示すように、パーキングブレーキ制御装置24は、マイクロコンピュータ等によって構成される演算回路(CPU)25およびメモリ26を有している。パーキングブレーキ制御装置24には、バッテリ18(ないしエンジンによって駆動されるジェネレータ)からの電力が電源ライン19を通じて給電される。
パーキングブレーキ制御装置24は、後輪側ディスクブレーキ6,6の電動モータ7A,7Aの駆動を制御し、車両の駐車、停車時(必要に応じて走行時)に制動力(パーキングブレーキ、補助ブレーキ)を発生させる。即ち、パーキングブレーキ制御装置24は、左右の電動モータ7A,7Aを駆動することにより、ディスクブレーキ6,6をパーキングブレーキ(必要に応じて補助ブレーキ)として作動(アプライ・リリース)させる。このために、パーキングブレーキ制御装置24は、入力側がパーキングブレーキスイッチ23に接続され、出力側は各ディスクブレーキ6,6の電動モータ7A,7Aに接続されている。そして、パーキングブレーキ制御装置24は、運転者の操作(パーキングブレーキスイッチ23の操作)の検出、電動モータ7A,7Aの駆動可否判定、電動モータ7A,7Aの停止の判定等を行うための演算回路25と、電動モータ7A,7Aを制御するためのモータ駆動回路28,28を内蔵している。
即ち、パーキングブレーキ制御装置24は、運転者のパーキングブレーキスイッチ23の操作による作動要求(アプライ要求、リリース要求)、パーキングブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックによる作動要求、ABS制御による作動要求に基づいて、左右の電動モータ7A,7Aを駆動し、左右のディスクブレーキ6,6のアプライ(保持)またはリリース(解除)を行う。このとき、後輪側ディスクブレーキ6では、各電動モータ7Aの駆動に基づいて、回転直動変換機構8によるピストン6Dおよびブレーキパッド6Cの保持または解除が行われる。このように、パーキングブレーキ制御装置24は、ピストン6D(延いてはブレーキパッド6C)の保持作動(アプライ)または解除作動(リリース)のための作動要求信号に応じて、ピストン6D(延いてはブレーキパッド6C)を推進するべく電動モータ7Aを駆動制御する。
図3に示すように、パーキングブレーキ制御装置24の演算回路25には、記憶部としてのメモリ26に加えて、パーキングブレーキスイッチ23、車両データバス20、電圧センサ部27、モータ駆動回路28、電流センサ部29等が接続されている。車両データバス20からは、パーキングブレーキの制御(作動)に必要な車両の各種状態量、即ち、各種車両情報を取得することができる。また、パーキングブレーキ制御装置24は、車両データバス20または前記通信線を介して、ESC制御装置17を含む各種ECUに情報や指令を出力することができる。
なお、車両データバス20から取得する車両情報は、その情報を検出するセンサをパーキングブレーキ制御装置24(の演算回路25)に直接的に接続することにより取得する構成としてもよい。また、パーキングブレーキ制御装置24の演算回路25は、車両データバス20に接続された他の制御装置(例えばESC制御装置17)から前述の判断ロジックやABS制御に基づく作動要求が入力されるように構成してもよい。この場合は、前述の判断ロジックによるパーキングブレーキのアプライ・リリースの判定やABSの制御を、パーキングブレーキ制御装置24に代えて、他の制御装置、例えばESC制御装置17で行う構成とすることができる。即ち、ESC制御装置17にパーキングブレーキ制御装置24の制御内容を統合することが可能である。
パーキングブレーキ制御装置24は、例えばフラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなる記憶部としてのメモリ26を備えている。メモリ26には、前述のパーキングブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックやABSの制御のプログラムが格納されている。これに加え、メモリ26には、後述の図4ないし図8に示す処理フローを実行するための処理プログラム、即ち、電動パーキングブレーキの制御処理に用いる処理プログラム等が格納されている。
さらに、パーキングブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aによるパーキングブレーキの現在の状態(ステータス)をメモリ26に記憶する。より具体的には、メモリ26には、電動パーキングブレーキの制動の保持または解除の制動状態(保持状態、解除状態、必要に応じて不明状態)が記憶される。この場合、電動パーキングブレーキの状態(換言すれば、回転直動変換機構8によるピストン6Dの推力保持状態)は、その状態が変更される毎にメモリ26に更新可能に記憶される。即ち、パーキングブレーキ制御装置24の演算回路25では、後輪側ディスクブレーキ6(のピストン6D)の状態が保持状態、解除状態、不明状態のいずれであるかを判定し、その判定結果が、随時、または、作動処理の区切りのタイミングでメモリ26に記憶される。これにより、パーキングブレーキ制御装置24の演算回路25では、電動パーキングブレーキの制動状態(開閉状態)を判定することができる。
より詳しく説明すると、演算回路25では、回転直動変換機構8によるピストン6Dの保持(アプライ)が完了すると、保持フラグがONとなり、ピストン6Dの解除(リリース)が完了すると、解除フラグがONとなる。メモリ26には、回転直動変換機構8によるピストン6Dの状態が、保持フラグがONのときは「保持状態(閉)」として記憶され、解除フラグがONのときは「解除状態(開)」として記憶される。これにより、演算回路25は、後輪側ディスクブレーキ6の開閉状態を、制動のための電動モータ7Aの制御が完了したときに「閉」と判定し、解除のための電動モータ7Aの制御が完了したときに「開」と判定することができる。
また、例えば、電動モータ7Aの駆動を開始してから保持フラグまたは解除フラグがONになるまでの間に電動モータ7Aの駆動が終了した場合、例えば、パーキングブレーキ制御装置24への電力供給が断たれた場合等、「保持状態」と「解除状態」のいずれでもないときは、メモリ26には、「不明状態」として記憶される。即ち、「解除状態」から「保持状態」へ作動が開始されたときや、「保持状態」から「解除状態」へ作動が開始されたときに、メモリ26には、「不明状態」が記憶されるようになっている。
なお、実施形態では、パーキングブレーキ制御装置24をESC制御装置17と別体としたが、パーキングブレーキ制御装置24とESC制御装置17とを一体に(即ち、1個の制動用制御装置により一体に)構成してもよい。また、パーキングブレーキ制御装置24は、左右で2つの後輪側ディスクブレーキ6,6を制御するようにしているが、左右の後輪側ディスクブレーキ6,6毎に設けるようにしてもよく、この場合には、それぞれのパーキングブレーキ制御装置24を後輪側ディスクブレーキ6に一体的に設けることもできる。
図3に示すように、パーキングブレーキ制御装置24には、電源ライン19からの電圧を検出する電圧センサ部27、左右の電動モータ7A,7Aをそれぞれ駆動する左右のモータ駆動回路28,28、左右の電動モータ7A,7Aのそれぞれのモータ電流を検出する左右の電流センサ部29,29等が内蔵されている。これら電圧センサ部27、モータ駆動回路28、電流センサ部29は、それぞれ演算回路25に接続されている。これにより、パーキングブレーキ制御装置24の演算回路25では、アプライまたはリリースを行うときに、電流センサ部29により検出される電動モータ7Aの電流値(の変化)に基づいて、ディスクロータ4とブレーキパッド6Cとの当接・離接の判定、電動モータ7Aの駆動の停止の判定(アプライ完了の判定、リリース完了の判定)等を行うことができる。
例えば、電動モータ7Aをアプライ方向に駆動しているときに、電動モータ7Aの電流値がアプライ完了の電流閾値(保持電流閾値)に達したときに、アプライ完了と判定し、電動モータ7Aの駆動を停止することができる。また、例えば、電動モータ7Aをリリース方向に駆動しているときに、電動モータ7Aの電流値がリリース完了の電流閾値(解除電流閾値)に達したときに、リリース完了と判定し、電動モータ7Aの駆動を停止することができる。このように、パーキングブレーキ制御装置24は、電流センサ部29により検出される電動モータ7Aの電流値(の変化)に基づいて電動モータ7Aの駆動を制御することができる。
また、パーキングブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aの回転量(モータ回転量)に基づいて電動モータ7Aの駆動を制御することもできる。モータ回転量は、例えば、パーキングブレーキ制御装置24の制御周期毎のモータ回転量を積算することにより求めることができる。即ち、モータ回転量を、電流と電圧とモータ固有の係数とを用いて毎周期算出し、それを積算することにより、モータ回転量積算値を求める。モータ回転量は、例えば、下記の数1式により算出する。そして、今回の周期で算出したモータ回転量を、前回の周期で算出されたモータ回転量積算値に加算(積算)することにより、モータ回転量積算値を求める。この場合、モータ誤差を考慮してモータ回転量を算出してもよい。また、モータ回転量積算値は、例えば、アプライ状態を0とし、このアプライ状態からの回転量積算値として算出することができる。
このように、パーキングブレーキ制御装置24は、モータ回転量を算出(推定)する。この場合、例えば、電動モータ7Aをアプライ方向に駆動しているときに、電動モータ7Aの回転量がアプライ完了の回転量閾値(保持回転量閾値)に達したときに、アプライ完了と判定し、電動モータ7Aの駆動を停止することができる。また、例えば、電動モータ7Aをリリース方向に駆動しているときに、電動モータ7Aの回転量がリリース完了の回転量閾値(解除回転量閾値)に達したときに、リリース完了と判定し、電動モータ7Aの駆動を停止することができる。
また、パーキングブレーキ制御装置24は、パーキングブレーキをアプライしてから所定時間経過後に、必要に応じて電動モータ7Aをさらに駆動(再アプライ、リクランプ、増し締め)する場合がある。例えば、走行中のサービスブレーキの使用により、ブレーキパッド6Cやディスクロータ4の温度が上昇する。この場合、電動モータ7Aを駆動してパーキングブレーキをアプライした後、ディスクロータ4およびブレーキパッド6Cの温度が低下すると、熱収縮に伴って推力が低下する可能性がある。そこで、パーキングブレーキ制御装置24は、この熱収縮を考慮して、アプライから所定時間経過後に、再アプライ(リクランプ、増し締め)する。
また、再アプライは、例えば、アプライのときに車両が停止している路面の傾斜(勾配)に応じて目標押圧力を変化させる場合に行うこともできる。即ち、路面傾斜に応じた押圧力(傾斜が小さい程小さい押圧力)でアプライし、かつ、その後に車両が完全駐車したとき(運転者が降車したとき)に、最大押圧力(最大推力)等の大きな押圧力で再アプライする。例えば、車両の停車時に路面傾斜に応じた押圧力でアプライした後に、イグニッションスイッチをOFFする等により完全な駐車状態となったとき(停車状態から駐車状態に移行したとき)に、再アプライを行う。完全駐車の再アプライのときに、押圧力を増大させる理由は、例えば船で車両を輸送するとき等、駐車中に路面傾斜が変化するような場合でも、車両の停止を維持できるようにするためである。このような構成を採用した場合には、完全駐車以外の通常のアプライのときの押圧力を低減することができ、耐久性を向上することができる。
いずれにしても、再アプライが行われると、通常のアプライのときと比較して、電動パーキングブレーキの発生推力が大きくなる可能性がある。また、通常のアプライが行われた状態で、さらに運転者がパーキングブレーキスイッチ23をアプライ操作することにより再アプライが行われた場合も、発生推力が通常のアプライのときよりも大きくなる可能性がある。また、パーキングブレーキの状態が「不明状態」からアプライが行われた場合も、発生推力が通常のアプライのときよりも大きくなる可能性がある。さらに、通常のアプライを行っている途中で電源電圧の一時的な低下等によりアプライが中断(電動モータ7Aが途中で停止)し、その後アプライが再開された場合も、発生推力が通常のアプライのときよりも大きくなる可能性がある。
このように、電動パーキングブレーキは、例えば、通常のアプライであるか否か等に基づいて、アプライ時の発生推力の大きさが変化する可能性がある。そして、アプライ時の発生推力の大きさが変化することに伴って、ブレーキパッド6C、キャリパ6B、ピストン6D、回転直動変換機構8等の変位(変位量)が変わる可能性がある。このため、アプライ時の発生推力の大きさに応じて、リリース時に必要な電動モータ7Aの回転量(即ち、回転直動変換機構8の直動部材8A2の戻し量)も変化する可能性がある。
従って、これを考慮しないと、例えば、リリース時の電動モータ7Aの回転量(戻し量)が過大になり、次のアプライ時の推力発生が遅れる可能性がある。即ち、通常の推力の発生時に、モータ回転量閾値を高い値に設定してリリースが行われる可能性がある。これにより、回転直動変換機構8の直動部材8A2の戻し量が過大(戻し過ぎ)になり、次回のアプライ時の推力発生が遅れる可能性がある。
また、これとは逆に、例えば、リリース時の電動モータ7Aの回転量が過小(戻し量不足)になり、リリースが完了した状態でもブレーキパッド6Cとディスクロータ4との間に十分な隙間を確保できなくなる可能性がある。即ち、高推力の発生時に、モータ回転量閾値を低い値に設定してリリースが行われる可能性がある。これにより、回転直動変換機構8の直動部材8A2の戻し量が不足し、ブレーキパッド6Cとディスクロータ4との引き摺りを招くおそれがある。
そこで、実施形態では、アプライ時の推力(押圧力)に応じて適切なリリースを行うことができるように構成している。即ち、実施形態では、パーキングブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aを駆動して、この電動モータ7Aの状態量(例えば、回転量、電流値)が閾値となったときに制動力の解除を判断する。この場合、パーキングブレーキ制御装置24は、回転直動変換機構8が制動力を保持しているときのピストン推力を推定し、この推定したピストン推力に応じて、制動力を解除するときの電動モータ7Aの状態量の閾値を変更する。
より具体的には、パーキングブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aを駆動して、この電動モータ7Aの電流値(モータ電流値)と回転量(モータ回転量)とがそれぞれ閾値(電流閾値、回転量閾値)となったときに制動力の解除を判断する。即ち、パーキングブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aの電流値が電流閾値に達し、かつ、電動モータ7Aの回転量が回転量閾値に達したときに、リリース完了と判断する。この場合、パーキングブレーキ制御装置24は、推定したピストン推力に応じて、制動力を解除するときの電動モータ7Aの回転量の閾値(モータ回転量閾値)を変更する。
即ち、パーキングブレーキ制御装置24は、アプライのときのピストン推力を推定し、この推定したピストン推力に応じて、その後のリリースのときの電動モータ7Aのモータ回転量閾値を変更する。ピストン推力の推定は、例えば、通常のアプライであるか否か、即ち、通常のアプライであるか再アプライであるか否かにより行う。具体的には、通常のアプライであるときは、通常のピストン推力(通常推力)であると推定し、通常のアプライでない(再アプライである)ときは、通常よりも高いピストン推力(高推力)であると推定する。そして、パーキングブレーキ制御装置24は、高推力のときは、通常推力のときのモータ回転量閾値(通常推力閾値)よりも高いモータ回転量閾値(高推力閾値)に設定し、電動モータ7Aの回転量がこの高いモータ回転量閾値(高推力閾値)に達したときにリリース完了と判断する。
この場合、通常推力閾値は、例えば、通常の推力のアプライ状態から行うリリースのときに、ブレーキパッド6Cとディスクロータ4との間の隙間が過大および過小にならない位置で電動モータ7Aの駆動を停止できるように設定することができる。また、高推力閾値は、例えば、高推力のアプライ状態から行うリリースのときに、ブレーキパッド6Cとディスクロータ4との間の隙間が過大および過小にならない位置で電動モータ7Aの駆動を停止できるように設定することができる。この場合、高推力閾値は、通常推力閾値よりも高い値(大きい値)として設定される。これら通常推力閾値および高推力閾値は、例えば、計算、実験、シミュレーション等により予め求めておき、パーキングブレーキ制御装置24のメモリ26に記憶させておく。高推力のアプライは、例えば、通常のアプライの後にさらにアプライ操作されることによる再アプライ(再押圧)、ブレーキパッド6Cの温度上昇、完全駐車等の所定事由に基づく再アプライ(再押圧)、「不明状態」からのアプライ、電源電圧の一時的な低下等によるアプライ中断後の再開による再アプライ(再押圧)が挙げられる。
このように、パーキングブレーキ制御装置24は、回転直動変換機構8を含む電動機構が制動力を保持した状態、または、ブレーキパッド6Cからディスクロータ4への押圧が中断された状態から、再度ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧した場合、再度ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧しない場合に推定する第1のピストン推力(通常推力)よりも高い第2のピストン推力(高推力)として推定する。即ち、パーキングブレーキ制御装置24は、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に再押圧した場合、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に再押圧しない場合に推定する第1のピストン推力(通常推力)よりも高い第2のピストン推力(高推力)として推定する。
そして、パーキングブレーキ制御装置24は、再押圧後に制動力を解除するときの電動モータ7Aの状態量の閾値、即ち、回転量の閾値を、再押圧しないときより高くする。即ち、パーキングブレーキ制御装置24は、再押圧後のリリースのときの電動モータ7Aの回転量の閾値(再押圧閾値、換言すれば、高推力閾値)を、再押圧でない通常の押圧のときの閾値(通常押圧閾値、換言すれば、通常推力閾値)よりも高くする。これにより、再押圧後のリリースのときは、再押圧でない通常の押圧のときよりも電動モータ7Aの回転量が多くなる(直動部材8A2の戻り量が多くなる)。なお、このようなパーキングブレーキ制御装置24によるアプライおよびリリースの制御、即ち、図4ないし図8に示す制御処理については、後で詳しく述べる。
実施形態による4輪自動車のブレーキシステムは、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
車両の運転者がブレーキペダル9を踏込み操作すると、その踏力が倍力装置11を介してマスタシリンダ12に伝達され、マスタシリンダ12によってブレーキ液圧が発生する。マスタシリンダ12内で発生したブレーキ液圧は、シリンダ側液圧配管14A,14B、ESC16およびブレーキ側配管部15A,15B,15C,15Dを介して各ディスクブレーキ5,6に分配され、左右の前輪2と左右の後輪3とにそれぞれ制動力が付与される。
この場合、各ディスクブレーキ5,6では、キャリパ5A,6B内のブレーキ液圧の上昇に従ってピストン5B,6Dがブレーキパッド6Cに向けて摺動的に変位し、ブレーキパッド6Cがディスクロータ4,4に押し付けられる。これにより、ブレーキ液圧に基づく制動力が付与される。一方、ブレーキ操作が解除されたときには、キャリパ5A,6B内へのブレーキ液圧の供給が停止されることにより、ピストン5B,6Dがディスクロータ4,4から離れる(後退する)ように変位する。これによって、ブレーキパッド6Cがディスクロータ4,4から離間し、車両は非制動状態に戻される。
次に、車両の運転者がパーキングブレーキスイッチ23を制動側(アプライ側)に操作したときは、パーキングブレーキ制御装置24から左右の後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに給電が行われ、電動モータ7Aが回転駆動される。後輪側ディスクブレーキ6では、電動モータ7Aの回転運動が回転直動変換機構8により直線運動に変換され、回転直動部材8Aによりピストン6Dが推進する。これにより、ブレーキパッド6Cによりディスクロータ4が押圧される。このとき、回転直動変換機構8(直動部材8A2)は、例えば、螺合による摩擦力(保持力)により制動状態を保持される。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキとして作動(アプライ)される。即ち、電動モータ7Aへの給電を停止した後にも、回転直動変換機構8により、ピストン6Dは制動位置に保持される。
一方、運転者がパーキングブレーキスイッチ23を制動解除側(リリース側)に操作したときには、パーキングブレーキ制御装置24から電動モータ7Aに対してモータが逆転するように給電される。この給電により、電動モータ7Aがパーキングブレーキの作動時(アプライ時)と逆方向に回転される。このとき、回転直動変換機構8による制動力の保持が解除され、ピストン6Dがディスクロータ4から離れる方向に変位することが可能になる。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキとしての作動が解除(リリース)される。
次に、パーキングブレーキ制御装置24の演算回路25で行われる制御処理について、図4ないし図8を参照しつつ説明する。なお、図4の処理は、アプライおよびリリースのメインの処理に対応する。図5の処理は、図4中のS1の「ECU起動時モータ回転量閾値設定処理」に対応する。図6の処理は、図4中のS6の「アプライ時モータ回転量閾値設定処理」に対応する。図7の処理は、図4中のS7の「アプライ制御処理」に対応する。図8の処理は、図4中のS9の「リリース制御処理」に対応する。図4ないし図8の制御処理は、例えば、パーキングブレーキ制御装置24に通電している間、所定の制御周期(例えば、10msec)で繰り返し実行される。
ECUであるパーキングブレーキ制御装置24が起動すると、図4の制御処理が開始される。パーキングブレーキ制御装置24は、例えば、運転席のドアが開いたとき(ドア開)、または、イグニションON(アクセサリON)されたときに起動する。パーキングブレーキ制御装置24は、S1で、ECU起動時モータ回転量閾値設定処理(即ち、図5の処理)を行い、続くS2では、アプライ指令があるか否かを判定する。このS2では、パーキングブレーキスイッチ23やパーキングブレーキのアプライ判断ロジック等からアプライ指令が出力されたか否かを判定する。S2で「YES」、即ち、アプライ指令ありと判定された場合は、S6ないしS8の処理を介してS3に進む。一方、S2で「NO」、即ち、アプライ指令なしと判定された場合は、S6ないしS8の処理を介することなくS3に進む。
S3では、リリース指令があるか否かを判定する。このS3では、パーキングブレーキスイッチ23やパーキングブレーキのリリース判断ロジック等からリリース指令が出力されたか否かを判定する。S3で「YES」、即ち、リリース指令ありと判定された場合は、S9およびS10の処理を介してS4に進む。一方、S3で「NO」、即ち、リリース指令なしと判定された場合は、S9およびS10の処理を介することなくS4に進む。
S4では、ECUシャットダウン、即ち、パーキングブレーキ制御装置24のシャットダウンを判定する。即ち、S4では、イグニションOFF(アクセサリOFF)されたか否か、または、イグニションOFF(アクセサリOFF)の後に運転席のドアが開いて閉まった(ドア閉)か否かにより、パーキングブレーキ制御装置24をシャットダウンするか否かを判定する。S4で「NO」、即ち、パーキングブレーキ制御装置24をシャットダウンしないと判定した場合は、S2の前に戻り、S2以降の処理を繰り返す。一方、S4で「YES」、即ち、パーキングブレーキ制御装置24をシャットダウンすると判定した場合は、S5に進む。
S5では、再アプライ実施情報をEEPROMに書き込む。即ち、S5では、パーキングブレーキ制御装置24のシャットダウン前に行われた最新のアプライの情報となる再アプライ実施情報を、パーキングブレーキ制御装置24のメモリ26(より具体的には、EEPROM)に書き込む。再アプライ実施情報は、パーキングブレーキ制御装置24のシャットダウン前のアプライが再アプライであるか否か(即ち、再アプライが実施されたか否か)の情報である。再アプライは、例えば、「中断後の再アプライ」、「所定事由の再アプライ」、「不明状態からのアプライ」が挙げられる。また、再アプライには、例えば、アプライ後にさらにパーキングブレーキスイッチ23のアプライ操作が行われた場合の再アプライ(増し締め)も含まれる。
「中断後の再アプライ」は、例えば、通常のアプライを行っている途中で電源電圧の一時的な低下等によりアプライが中断(電動モータ7Aが途中で停止)した後に再開されたアプライ(再アプライ)に対応する。「所定事由の再アプライ」は、例えば、ブレーキパッド6Cの温度が高いときの熱収縮に伴う再アプライ、または、完全駐車のときの再アプライに対応する。「不明状態からのアプライ」は、例えば、パーキングブレーキが「保持状態(アプライ状態)」であるか「解除状態(リリース状態)」であるかが不明の「不明状態」から行われるアプライに対応する。これらのアプライ、即ち、再アプライは、通常のアプライのときに発生するピストン推力よりも高いピストン推力が発生する可能性がある。そこで、本明細書では、不明状態からのアプライ、中断後のアプライを含む、通常のアプライのときよりも高いピストン推力が発生する可能性があるアプライを、一まとめに「再アプライ」という場合もある。
いずれにしても、パーキングブレーキ制御装置24のシャットダウン前のアプライが再アプライである場合は、再アプライ実施情報は「再アプライ実施」となる。これに対して、パーキングブレーキ制御装置24のシャットダウン前のアプライが再アプライでなく、通常のアプライである場合、または、アプライが行われずリリースのままの場合は、再アプライ実施情報は「再アプライ未実施」となる。S5で、再アプライ実施情報をEEPROMに書き込んだら、パーキングブレーキ制御装置24をシャットダウンし、制御処理を終了する。
次に、図4のS1のECU起動時モータ回転量閾値設定処理、即ち、図5に示すECU起動時モータ回転量閾値設定処理について説明する。図5のECU起動時モータ回転量閾値設定処理は、パーキングブレーキ制御装置24が起動し、図4のS1に進むことにより開始される。図5のECU起動時モータ回転量閾値設定処理が開始されると、パーキングブレーキ制御装置24は、図5のS11で、EEPROMに書込まれた再アプライ実施情報が正常か否かを判定する。即ち、パーキングブレーキ制御装置24のシャットダウンが正常に行われると、図4のS5の処理により、EEPROMに再アプライ実施情報が正常に書き込まれる。この場合は、EEPROMに正常に書き込まれた旨の情報(信号)も書き込まれるため、次にパーキングブレーキ制御装置24が起動したときに、EEPROMに書き込まれた再アプライ実施情報を用いることができる。これに対して、電源電圧の低下等の異常により、パーキングブレーキ制御装置24のシャットダウンが正常に行われないと、図4のS5の処理が行われず、EEPROMに再アプライ実施情報が正常に書き込まれなくなる。この場合は、正常に書き込まれた旨の情報(信号)がEEPROMに書き込まれないため、図5のS11では、再アプライ実施情報が正常でないと判定する。
図5のS11で「YES」、即ち、再アプライ実施情報が正常と判定された場合は、S12に進む。S12では、EEPROMに書き込まれた再アプライ実施情報が「再アプライ実施」であるか否かを判定する。S12で「NO」、即ち、再アプライ実施情報が「再アプライ実施」でない(「再アプライ未実施」である)と判定された場合は、S13に進む。この場合は、現在のアプライの発生推力が通常の推力と考えられる。そこで、S13では、次のリリースのときに用いる電動モータ7Aの回転量の閾値、即ち、モータ回転量閾値を通常推力用の閾値(通常推力閾値)に設定する。これに対して、S12で「YES」、即ち、再アプライ実施情報が「再アプライ実施」であると判定された場合は、S14に進む。また、S11で「NO」、即ち、再アプライ実施情報が正常でないと判定された場合も、S14に進む。これらの場合は、現在のアプライの発生推力が通常の推力よりも高いと考えられる。そこで、S14では、次のリリースのときに用いる電動モータ7Aの回転量の閾値、即ち、モータ回転量閾値を、通常推力用の閾値よりも高い高推力用の閾値(高推力閾値)に設定する。S13でモータ回転量閾値を通常推力用に設定したら、または、S14でモータ回転量閾値を高推力用に設定したら、図5のリターンを介して図4のS2に進む。
次に、図4のS6のアプライ時モータ回転量閾値設定処理、即ち、図6に示すアプライ時モータ回転量閾値設定処理について説明する。図6のアプライ時モータ回転量閾値設定処理は、図4のS2で「YES」、即ち、アプライ指令ありと判定され、S6に進むことにより開始される。図6のアプライ時モータ回転量閾値設定処理が開始されると、パーキングブレーキ制御装置24は、図6のS21で、アプライ指令に基づいて行われるアプライにより高推力が発生する可能性があるか否かを判定する。即ち、図6のS21では、アプライによって発生するピストン推力を推定する。具体的には、ピストン推力が通常推力か高推力かを推定する。
このために、S21では、これから行われるアプライが再アプライであるか否かを判定する。例えば、今回のアプライが、「中断後の再アプライであるか否か」、「所定事由の再アプライであるか否か」、「不明状態からのアプライであるか否か」を判定する。また、例えば、今回のアプライが、アプライ後の運転者のアプライ操作による再アプライか否かを判定する。S21で「NO」、即ち、これから行われるアプライが再アプライでない(通常アプライである)と判定された場合は、S22に進む。この場合は、これから行われるアプライによる発生推力が通常の推力と考えられる。そこで、S22では、次のリリースのときに用いる電動モータ7Aの回転量の閾値、即ち、モータ回転量閾値を通常推力用の閾値(通常推力閾値)に設定する。
これに対して、S21で「YES」、即ち、これから行われるアプライが再アプライであると判定された場合は、S23に進む。この場合は、これから行われるアプライによる発生推力が通常の推力よりも高くなると考えられる。そこで、S23では、次のリリースのときに用いる電動モータ7Aの回転量の閾値、即ち、モータ回転量閾値を、通常推力用の閾値よりも高い高推力用の閾値(高推力閾値)に設定する。S22でモータ回転量閾値を通常推力用に設定したら、または、S23でモータ回転量閾値を高推力用に設定したら、リターンする。即ち、図6のリターンを介して図4のS7に進む。なお、S6の処理は、S7の処理の前でなく、S7の処理の後に行ってもよい。また、S6の処理は、S7の処理の前でなく、S8の処理の後に行ってもよい。この場合は、S7のアプライ制御処理によって行われたアプライが再アプライか否かによってモータ回転量の閾値を設定することになる。
次に、図4のS7のアプライ制御処理、即ち、図7に示すアプライ制御処理について説明する。図7のアプライ制御処理は、図4のS6の処理が終了(図5でリターン)し、S7に進むことにより開始される。図7のアプライ制御処理が開始されると、パーキングブレーキ制御装置24は、図7のS31で、モータ電流制御を開始する。即ち、電動モータ7Aをアプライ方向に駆動し、電動モータ7Aの電流値をモニタ(監視)する。続くS32では、モータ電流制御が成立したか否かを判定する。即ち、S32では、電動モータ7Aの電流値が、予め設定された電動モータ7Aの駆動を停止すべき閾値(アプライ電流閾値)となったか否かを判定する。
S32で「NO」、即ち、電動モータ7Aの電流値がアプライ電流閾値となっていないと判定された場合は、S32の前に戻り、S32の処理を繰り返す。一方、S32で「YES」、即ち、電動モータ7Aの電流値がアプライ電流閾値となったと判定された場合は、S33に進む。S33では、アプライを完了する。即ち、電動モータ7Aの駆動を停止する。S33でアプライを完了したら、リターンする。即ち、図7のリターンを介して図4のS8に進む。なお、アプライ電流閾値は、必要なピストン推力が発生した状態で電動モータ7Aの駆動を停止できるように、例えば、計算、実験、シミュレーション等により予め求めておき、パーキングブレーキ制御装置24のメモリ26に記憶させておく。
S7に続くS8では、モータ回転量積算値を0にする。即ち、S8では、S7のアプライ制御処理で電動モータ7Aを駆動しているときに算出されたモータ回転量積算値を0にする。なお、S7では、電動モータ7Aの電流値(モータ電流値)に基づいて電動モータ7Aの駆動を制御する。即ち、S7では、電動モータ7Aの回転量(モータ回転量)に基づいて電動モータ7Aの駆動を制御しない。このため、S7では、モータ回転量積算値を算出しなくてもよい。S7でモータ回転量積算値を算出しない場合は、例えば、S8の処理を省略することもできる。S8でモータ回転量積算値を0にしたら、S3に進む。
次に、図4のS9のリリース制御処理、即ち、図8に示すリリース制御処理について説明する。図8のリリース制御処理は、図4のS3で「YES」、即ち、リリース指令ありと判定され、S9に進むことにより開始される。図8のリリース制御処理が開始されると、パーキングブレーキ制御装置24は、図8のS41で、モータ電流制御を開始し、かつ、モータ回転量積算を開始する。即ち、電動モータ7Aをリリース方向に駆動し、電動モータ7Aの電流値をモニタ(監視)する。これと共に、電動モータ7Aの回転量、即ち、モータ回転量積算値の算出を開始する。続くS42では、モータ電流制御が成立したか否かを判定する。即ち、S42では、電動モータ7Aの電流値が、予め設定された電動モータ7Aの駆動を停止すべき閾値(リリース電流閾値)となったか否かを判定する。
S42で「NO」、即ち、電動モータ7Aの電流値がリリース電流閾値となっていないと判定された場合は、S42の前に戻り、S42の処理を繰り返す。一方、S42で「YES」、即ち、電動モータ7Aの電流値がリリース電流閾値となったと判定された場合は、S43に進む。なお、リリース電流閾値は、ブレーキパッド6Cがディスクロータ4から離れたと考えられる電流閾値として設定することができる。リリース電流閾値は、回転直動変換機構8の直動部材8A2がリリースに必要な位置まで後退した状態で電動モータ7Aの駆動を停止できるように、例えば、計算、実験、シミュレーション等により予め求めておき、パーキングブレーキ制御装置24のメモリ26に記憶させておく。
S43では、S41で算出を開始したモータ回転量積算値が、モータ回転量閾値(リリースモータ回転量閾値)以上になったか否かを判定する。ここで、モータ回転量閾値は、S13またはS22で通常推力用の閾値が設定されている場合は、この通常推力の閾値(通常推力用モータ回転量閾値)を用いる。また、S14またはS23で通常推力用の閾値よりも高い高推力用の閾値が設定されている場合は、この高推力用の閾値(高推力用モータ回転量閾値)を用いる。S43で「NO」、即ち、電動モータ7Aの回転量であるモータ回転量積算値がモータ回転量閾値以上になっていないと判定された場合は、S43の前に戻り、S43の処理を繰り返す。この場合は、電動モータ7Aの電流値がリリース電流閾値に達しても、電動モータ7Aの回転量がモータ回転量閾値に達していないため、電動モータ7Aの駆動を継続する。
一方、S43で「YES」、即ち、モータ回転量積算値がモータ回転量閾値以上になったと判定された場合は、S44に進む。S44では、リリースを完了する。即ち、電動モータ7Aの駆動を停止する。S44でリリースを完了したら、リターンする。即ち、図8のリターンを介して図4のS10に進む。S9に続くS10では、モータ回転量積算値を0にする。即ち、S10では、S9のリリース制御処理で電動モータ7Aを駆動しているときに算出されたモータ回転量積算値を0にする。S9でモータ回転量積算値を0にしたら、S4に進む。
このように、パーキングブレーキ制御装置24は、アプライ時の推力の発生状態、即ち、通常推力か高推力かを判定(推定)し、この推力の発生状態に応じてモータ回転量閾値を切換える。この場合、通常推力が発生している場合は、モータ回転量閾値を通常推力用の値に設定する。これに対して、高推力が発生している可能性がある場合は、モータ回転量閾値を高推力用の値に設定する。このため、通常推力発生時においては、モータ回転量閾値を通常推力用の値に設定することで、リリース時の戻し過ぎを抑制し、次回のアプライ時の推力発生遅れを抑制することができる。これに対して、高推力発生時においては、モータ回転量閾値を通常推力用の値よりも高い高推力用の値に設定することで、リリース戻し量の不足を解消し、ブレーキ引き摺りを招くことを抑制できる。
以上のように、実施形態では、パーキングブレーキ制御装置24は、アプライ時のピストン推力の大きさ、即ち、ピストン推力が通常推力(低い)か高推力(高い)かに応じて、リリース時の電動モータ7Aの回転量の閾値であるモータ回転量閾値を変更する。このため、例えば、高推力のときは、電動モータ7Aの回転量がこの高推力に対応する閾値(高推力用の閾値)となったときに、リリース完了を判断することができる。また、通常推力のときは、電動モータ7Aの回転量がこの通常推力に対応する閾値(通常推力用の閾値)となったときに、リリース完了を判断することができる。即ち、パーキングブレーキ制御装置24は、リリース時の電動モータ7Aの回転量の閾値を、このリリースを行う前のアプライ時のピストン推力(通常推力か高推力か)に応じて適切に設定することができる。このため、例えば、リリースしたときの電動モータ7Aの回転量が過大になること(戻し過ぎ)を抑制できる。これにより、次に制動力を付与するときの推力の発生が遅れることを抑制できる。また、制動力を解除したときの電動モータ7Aの回転量が過小になること(戻し量不足)も抑制できる。これにより、リリース状態でブレーキパッド6Cとディスクロータ4との間に十分な隙間を確保することができる。この結果、適切なリリースを行うことができる。
実施形態では、電動モータ7Aの回転量の閾値を変更することにより、適切なリリースを行うことができる。即ち、アプライのピストン推力が低いときは、その後のリリースのときの電動モータ7Aの回転量の閾値を低くする。これにより、ピストン推力が低いとき(通常推力のとき)は、アプライ状態からの電動モータ7Aの回転量が過大の域に達する前に、リリース完了を判断することができる。このため、リリースのときの電動モータ7Aの回転量が過大になること(直動部材8A2の戻し過ぎ)を抑制できる。これに対して、例えば、アプライのピストン推力が高いときは、その後のリリースのときの電動モータ7Aの回転量の閾値を高くする。これにより、ピストン推力が高いとき(高推力のとき)は、アプライ状態からの電動モータ7Aの回転量が過小の域を過ぎてから、リリース完了を判断することができる。このため、リリースのときの電動モータ7Aの回転量が過小になること(直動部材8A2の戻し量不足)も抑制できる。
実施形態では、再アプライ後(再押圧後)にリリースするときの電動モータ7Aの回転量の閾値を、再アプライ(再押圧)しないとき(即ち、通常のアプライのとき)より高くする。このため、ピストン推力が高くなる再アプライ後(再押圧後)のリリースを、このピストン推力が高くなることを考慮して行うことができる。即ち、ピストン推力が高い再アプライ後(再押圧後)のリリースのときは、電動モータ7Aの回転量の閾値を再アプライ(再押圧)しないとき(即ち、通常のアプライのとき)よりも高くすることにより、アプライからの電動モータ7Aの回転量が過小の域を過ぎた後に、リリース完了を判断することができる。これにより、再アプライ後(再押圧後)のリリースを適切に行うことができる。
なお、実施形態では、電動モータ7Aの回転量を算出する構成、即ち、前述の数1式を用いて回転量を積算する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、電動モータ7Aの回転量を検出する構成、より具体的には、電動モータ7Aの回転量を回転センサにより直接検出する構成としてもよい。また、電動モータ7Aの回転量と相関関係を有する部材の変位(例えば、直動部材8A2の変位量、キャリパ6Bの変形量であるひずみ量)を検出する構成としてもよい。即ち、電動機の回転量は、この回転量を直接的または間接的に得ることができるのであれば、上記の算出値、検出値に限らず、各種の値を用いることができる。
実施形態では、ピストン推力を、通常のアプライ(通常の推力)であるか再アプライ(高推力)であるかにより推定する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、ピストン推力を、例えば、アプライのときの電動モータ7Aの電流値(最大電流値)に基づいて、この電流値と相関関係を有するピストン推力の数値(具体的な値)として推定する構成としてもよい。即ち、ピストン推力は、このピストン推力を推定することができるのであれば、上記に限らず、各種のピストン推力の推定手段、推定方法を用いることができる。
実施形態では、リリースのときに、図8のS42で電動モータ7Aの電流値が閾値となり、かつ、図8のS43で電動モータ7Aの回転量が閾値となったときに、リリース完了と判断すると共に、このリリースを行う前のアプライのときのピストン推力に応じて、リリースのときの電動モータ7Aの回転量の閾値を変更する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、リリース完了の判断を、電流値を用いずに回転量のみを用いて行う構成としてもよい。即ち、リリースのときに、電動モータ7Aの回転量が閾値となったときに、リリース完了と判断すると共に、このリリースを行う前のアプライのときのピストン推力に応じて、リリースのときの電動モータ7Aの回転量の閾値を変更する構成としてもよい。
実施形態では、電動モータ7Aの回転量が閾値となったときにリリース完了と判断すると共に、ピストン推力に応じてリリース時の電動モータ7Aの回転量の閾値を変更する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、電動モータ7Aの電流値が閾値となったときにリリース完了と判断すると共に、ピストン推力に応じてリリース時の電動モータ7Aの電流値の閾値(モータ電流閾値)を変更する構成としてもよい。即ち、制動力の解除を判断する電動機の状態量は、電動機の回転量の他、例えば、電動機の電流値を用いてもよい。この場合、制御装置は、推定したピストン推力に応じて、制動力を解除するときの電動機の電流値の閾値を変更することができる。
実施形態では、後輪側ディスクブレーキ6を電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとすると共に、前輪側ディスクブレーキ5を電動パーキングブレーキ機能が付いていない液圧式ディスクブレーキとした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、後輪側ディスクブレーキ6を電動パーキングブレーキ機能が付いていない液圧式ディスクブレーキとすると共に、前輪側ディスクブレーキ5を電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとしてもよい。さらに、前輪側ディスクブレーキ5と後輪側ディスクブレーキ6との両方を、電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとしてもよい。要するに、車両の車輪のうち少なくとも左右一対の車輪のブレーキを電動パーキングブレーキにより構成することができる。
実施形態では、ブレーキ機構として、電動パーキングブレーキ付の液圧式ディスクブレーキ6を例に挙げて説明した。しかし、ディスクブレーキ式のブレーキ機構に限らず、ドラムブレーキ式のブレーキ機構として構成してもよい。さらに、ディスクブレーキにドラム式の電動パーキングブレーキを設けたドラムインディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることによりパーキングブレーキの保持を行う構成等、電動パーキングブレーキの構成は各種のものを採用することができる。
以上説明した実施形態に基づく電動ブレーキ装置として、例えば下記に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様としては、電動機の回転力を減速機と回転直動変換機構とを介して推力に変換し、制動部材を押圧するピストンに前記推力を作用させて制動力の保持または解除をする電動機構と、前記電動機を駆動して、前記電動機の状態量が閾値となったときに制動力の解除を判断する制御装置と、を備える電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、前記電動機構が制動力を保持しているときのピストン推力を推定し、前記推定したピストン推力に応じて、制動力を解除するときの前記電動機の状態量の閾値を変更する。
この第1の態様によれば、制御装置は、制動力を保持しているときのピストン推力、即ち、推定したピストン推力に応じて、制動力を解除するときの電動機の状態量の閾値を変更する。このため、例えば、推定したピストン推力が高いときは、電動機の状態量がこの高いピストン推力に対応する閾値となったときに、制動力の解除を判断することができる。また、推定したピストン推力が低いときは、電動機の状態量がこの低いピストン推力に対応する閾値となったときに、制動力の解除を判断することができる。即ち、制御装置は、制動力を解除するときの電動機の状態量の閾値を、この解除をする前の制動力を保持しているときのピストン推力(推定したピストン推力)に応じて適切に設定することができる。このため、例えば、制動力を解除したときの電動機の回転量が過大になること(戻し過ぎ)を抑制できる。これにより、次に制動力を付与するときの推力の発生が遅れることを抑制できる。また、制動力を解除したときの電動機の回転量が過小になること(戻し量不足)も抑制できる。これにより、制動解除状態で制動部材と被制動部材との間に十分な隙間を確保することができる。この結果、適切な制動力の解除を行うことができる。
第2の態様としては、第1の態様において、前記電動機の状態量は、前記電動機の回転量であり、前記制御装置は、前記推定したピストン推力に応じて、制動力を解除するときの前記電動機の回転量の閾値を変更する。
この第2の態様によれば、電動機の回転量の閾値を変更することにより、適切な制動力の解除を行うことができる。例えば、推定したピストン推力が低いときは、電動機の回転量の閾値を低くする。これにより、推定したピストン推力が低いときは、制動状態からの電動機の回転量が過大の域に達する前に、制動力の解除を判断することができる。このため、制動力を解除したときの電動機の回転量が過大になること(戻し過ぎ)を抑制できる。これに対して、例えば、推定したピストン推力が高いときは、電動機の回転量の閾値を高くする。これにより、推定したピストン推力が高いときは、制動状態からの電動機の回転量が過小の域を過ぎた後に、制動力の解除を判断することができる。このため、制動力を解除したときの電動機の回転量が過小になること(戻し量不足)も抑制できる。
第3の態様としては、第2の態様において、前記制御装置は、前記電動機構が制動力を保持した状態、または、前記制動部材から被制動部材への押圧が中断された状態から、再度制動部材を被制動部材に押圧した場合、再度制動部材を被制動部材に押圧しない場合に推定する第1のピストン推力よりも高い第2のピストン推力として推定し、前記再押圧後に制動力を解除するときの前記電動機の回転量の閾値を前記再押圧しないときより高くする。
この第3の態様によれば、再押圧後に制動力を解除するときの電動機の回転量の閾値を、再押圧しないときより高くする。このため、ピストン推力が第2のピストン推力(即ち、高いピストン推力)となる再押圧後の制動力の解除を、このピストン推力が高くなることを考慮して行うことができる。即ち、ピストン推力が高い再押圧後の制動力の解除のときは、電動機の回転量の閾値を再押圧しないときよりも高くすることにより、制動状態からの電動機の回転量が過小の域を過ぎた後に、制動力の解除を判断することができる。これにより、再押圧後の制動力の解除を適切に行うことができる。