以下、図面を参照し、本発明の一実施形態の固定装置を説明する。なお、以下の実施形態はあくまで一例であり、本発明の固定装置は、以下の実施形態に限定されるものではない。
図1に示されるように、固定装置1は所定の固定対象物OBを把持して固定するために用いられる。本実施形態では、固定対象物OBは車椅子WCであり、車椅子WCのフレームが車両の車室内に取り付けられた固定装置1により把持されることにより、車椅子WCを所定の位置で停止させた状態で安定させる。
本実施形態では、固定装置1は、車室に設けられた床面または壁部等、車体Bに設けられている。しかし、固定装置1の取付対象は車体Bに限定されない。固定装置1が車椅子WCに取り付けられ、車体Bに設けられた固定用のポール等の固定対象物を固定装置1が把持することにより、車椅子WCを所定の位置で停止させた状態で安定させても構わない。
なお、固定装置1により固定される固定対象物OBは、車椅子WCに限定されない。固定対象物OBは、たとえば、固定装置1によって移動が規制される、車椅子以外の移動可能な移動体であってもよいし、固定装置1が設けられた移動体の移動を規制する固定構造物であってもよい。また、本実施形態では、図1に示されるように、固定装置1は固定対象物OBである車椅子WCの左右両側に一対設けられている。しかし、固定装置1の数は2つに限定されず、1つであっても、3つ以上であってもよい。また、本実施形態では、固定装置1は、固定対象物OBである車椅子WCの前方のフレームに接続されているが、固定装置1の固定対象物OBへの接続位置は特に限定されない。
固定装置1は、図2〜図4に示されるように、基体2と、基体2に対して設けられる第一把持部材31および第二把持部材32とを備えている。また、固定装置1は、図3および図4に示されるように、第一位置(図3参照)から第二位置(図4参照)へと移動することにより第一把持部材31を第二把持部材32に対して相対移動を可能とさせる移動部材4を備えている。第一把持部材31が第二把持部材32に対して近接方向に移動することにより固定対象物OBを第一把持部材31と第二把持部材32とで把持する。これにより、固定対象物OBが固定装置1により固定される。
基体2は、第一把持部材31および第二把持部材32が取り付けられる部位である。基体2は、車体B等、所定の取付対象に取り付けられ、固定装置1が所定の取付対象に取り付けられる。基体2は、本実施形態では、ネジなどの公知の固定部材により基体2を取付対象に固定するための取付部21を有している。
基体2の形状は、第一把持部材31および第二把持部材32を取り付けることができれば、特に限定されない。本実施形態では、基体2は、第一把持部材31および第二把持部材32の他、移動部材4、後述する補助部5等の固定装置1の構成要素を収容可能なケーシングとして示されている。基体2は、本実施形態では、図3および図4に示されるように、移動部材4の移動を案内する案内壁22を有している。案内壁22は、移動部材4の移動方向に沿って延びて、移動部材4を案内する。本実施形態では、移動部材4の一方の側部41が案内壁22によって案内される。また、移動部材4の他方の側部42は、基体2に設けられた補助部5によって案内される。補助部5は、移動部材4の移動方向に沿って延びる案内部51を有している。なお、補助部5は、本実施形態では、基体2に対して取り付けられた別部材であるが、基体2に対して一体に設けられていてもよい。基体2の材料は特に限定されないが、金属や硬質樹脂など所定の剛性を有する材料により形成されることが好ましい。
第一把持部材31および第二把持部材32は、固定対象物OBを把持する。第一把持部材31は、回転軸31aを有している。第一把持部材31は、回転軸31aを中心として回転軸31a周り方向に回転するように構成されている。第一把持部材31の回転によって、第一把持部材31が第二把持部材32に対して近接する近接位置(図4参照)と第二把持部材32に対して離間する離間位置(図3参照)との間を移動する。第一把持部材31の「離間位置」は、第一把持部材31と第二把持部材32との間に、固定対象物OBの把持される部位を第一把持部材31と第二把持部材32との間に誘導可能な間隔を生じる位置である。本実施形態においては、第一把持部材31の「離間位置」は、固定対象物OBの把持される部位が入るように第一把持部材31が第二把持部材32から離間している位置とすることができる。また、第一把持部材31の「近接位置」は、固定対象物OBが把持されることが可能な、第一把持部材31の第二把持部材32に対して近接した位置である。
本実施形態では、固定装置1は、第一把持部材31を離間位置に向かって付勢する付勢部材S1を有している。付勢部材S1は、例えば、回転軸31a周りに設けられたトーションバネである。本実施形態では、付勢部材S1であるトーションバネは、一端が第一把持部材31に、他端が第一把持部材31以外の他の部材(例えば、第二把持部材32または基体2)に取り付けられている。付勢部材S1は、第一把持部材31を離間位置に向かって付勢するものであれば、トーションバネに限定されない。たとえば、基体2と後述する把持部31bまたは被作用部31cとの間に設けられたコイルバネなどによって、第一把持部材31を離間位置に向かって付勢してもよい。また、第一把持部材31は、付勢部材により付勢されずに、手動により離間位置に移動されてもよい。
本実施形態では、第一把持部材31は、図3に示されるように、回転軸31a周りに回転し離間位置にあるときに、基体2の補助部5と当接する当接部31dを有している。第一把持部材31の補助部5に当接部31dが当接することにより、第一把持部材31の所定以上の回転を規制することができる。これにより、第一把持部材31が必要以上に離間方向に回転することを抑制している。本実施形態では、図3に示されるように、補助部5の被当接部52が傾斜面を有し、被当接部52に当接する当接部31dも傾斜面を有している。被当接部52の面は、第一把持部材31が所定の角度回転し、当接部31dが被当接部52と当接するときに、当接部31dの面と面接触するように構成されている。なお、補助部5は、第一把持部材31に対する距離を可変とし、たとえば図3における上下方向など、基体2に対して位置調整可能に取り付けてもよい。この場合、補助部5の第一把持部材31に対する位置を調整することによって、第一把持部材31の回転軸31a周りの回転角を調整することができる。これにより、第一把持部材31が離間位置にあるときの第一把持部材31と第二把持部材32との間の間隔を容易に調整することができ、固定対象物OBの把持される部位の大きさが変わっても対応が容易になる。
また、第一把持部材31は、回転軸31aを挟んで、一方側に把持部31bと他方側に移動部材4から作用を受ける被作用部31cとを有している。また、第二把持部材32は、第一把持部材31が近接位置に位置するときに、第一把持部材31の把持部31bと対向する位置に把持部32aを有している。本実施形態においては、第一把持部材31は、回転軸部がロッド状の回転軸31aとして、第一把持部材31に取付けられることで一体化されている。回転軸部は、回転軸として機能する回転軸部であればよく、第一把持部材31に一体化された凸部であっても、基体2に設けられた支持突部によって支持される凹部や円筒状の中空部であってもよい。
第一把持部材31の把持部31bは、第二把持部材32の把持部32aとともに固定対象物OBを把持する。第一把持部材31の把持部31bおよび第二把持部材32の把持部32aは、それぞれ先端部よりも中央側に設けられている。第一把持部材31の把持部31bおよび第二把持部材32の把持部32aの形状は、固定対象物OBを把持することができれば特に限定されない。本実施形態では、図2に示されるように、断面円形の固定対象物OBの外周形状に対応して、把持部31bおよび把持部32aは湾曲面を有している。また、本実施形態では、把持部31bおよび把持部32aにより固定対象物OBが把持された際に、固定対象物OBが離脱する方向(先端部側、つまり図2における上側)の把持部31bと把持部32aとの間隔が、固定対象物OBの幅(外径)よりも小さくなるように構成されている。これにより、第一把持部材31が近接位置にあるときに、固定対象物OBの固定装置1からの離脱が抑制される。また、把持部31bおよび把持部32aの表面に、たとえばゴム等の弾性変形可能な材料を設けて、より把持力を高めてもよい。
第一把持部材31の被作用部31cは、図3および図4に示されるように、移動部材4が第一位置から第二位置へと移動する際に移動部材4から作用を受ける部位である。後述するように、移動部材4から被作用部31cが作用を受けることにより、第一把持部材31が離間位置から近接位置に移動して固定対象物OBを把持する。移動部材4からの作用は、移動部材4が第一位置から第二位置へ移動した際に、移動部材4から被作用部31cへと直接または間接的に加わる、第一把持部材31を離間位置から近接位置へと移動させる力の作用である。本実施形態では、移動部材4が第一位置から第二位置へ移動することにより、第一把持部材31の被作用部31cが、第一把持部材31が離間位置から近接位置へと向かうように移動部材4から押圧作用を受ける。なお、本実施形態では、被作用部31cは移動部材4に直接当接して、移動部材4から直接作用を受けているが、被作用部31cは、他部材を介して移動部材4から間接的に作用を受けてもよい。
被作用部31cは、回転軸31aを挟んで、把持部31bが設けられた一方側とは反対側の他方側に設けられている。なお、把持部31bおよび被作用部31cの回転軸31aに対する位置は、回転軸31aを挟んで対称な位置であってもよいし、非対称な位置であってもよい。被作用部31cは、第一把持部材31が離間位置にあるときに、移動部材4の第一位置から第二位置までの移動軌跡上に位置するように設けられ、移動部材4が第一位置から第二位置に移動する際に作用を受ける。
被作用部31cの形状は、移動部材4から作用を受け、第一把持部材31を離間位置から近接位置へと移動させることが可能であれば、特に限定されない。本実施形態では、図3に示されるように、被作用部31cは、回転軸31aから、把持される固定対象物OBに向かう方向とは反対方向に向かって延びるアーム状に形成されている。被作用部31cは、移動部材4と接触して摺動しながら、第二位置へと移動する。被作用部31cの先端部は、移動部材4から作用を受けた際に、第一把持部材31を離間位置から近接位置へと移動させやすくするために、湾曲面として形成されている。被作用部31cの先端部には、移動部材4と当接可能であり、回転軸31aと平行に延びる軸心回りに回転する円形の回転体Rが設けられている。回転体Rは、移動部材4との接触時に転動し、移動部材4の移動と、第一把持部材31の回転とを円滑にすることができる。また、繰り返しの移動部材4と被作用部31cとの間の衝撃や摩耗を抑制することができる。被作用部31cの先端部は、移動部材4から作用を受けたときに、第一把持部材31を離間位置から近接位置へと移動させることが可能であれば、湾曲面に限定されず、当接する移動部材4の形状に応じて、傾斜面等としてもよい。なお、被作用部31cは、把持部31bと一体に構成されていてもよいし、別体に構成されていてもよい。
第二把持部材32は基体2に対して設けられている。第二把持部材32は、固定対象物OBを把持する把持部32aを有している。第二把持部材32は、第一把持部材31とによって固定対象物OBを挟持することで、固定対象物OBを把持する。固定対象物OBを把持する際に、把持部32aが固定対象物OBに当接若しくは固定対象物OBを押圧する。第二把持部材32の把持部32aは、第一把持部材31の把持部31bと同様の構成とすることができる。本実施形態では、第二把持部材32は、基体2に対して固定され、第一把持部材31のみが動作するように構成されている。しかし、固定装置1は、第一把持部材31および第二把持部材32の両方が動作するように構成されていてもよい。
移動部材4は、第一位置と第二位置との間を移動可能な部材である。移動部材4が第一位置に位置するときには、第一把持部材31が離間位置に位置することが可能とされている。また、移動部材4は、第一位置から第二位置へと移動することにより、第一把持部材31の被作用部31cに作用し、第一把持部材31を近接位置へと移動させる。本実施形態では、移動部材4は第一位置(図3参照)から第二位置(図4参照)に移動できるように基体2に設けられている。移動部材4は、基体2に対して移動して、第一位置から第二位置へと移動する際に、第一把持部材31の回転軸部である回転軸31aに近接する方向に移動する。移動部材4は、第二位置から第一位置へと移動したときに、第一把持部材31の回転軸31aから離れるように移動する。移動部材4は、第一把持部材31が離間位置と近接位置との間を移動するように、第一把持部材31に力を作用できれば移動方向が特に限定されるものではない。
図3および図4に示されるように、移動部材4は、第一把持部材31の被作用部31cに対して力を作用する作用部43と、被作用部31cと当接して第一把持部材31の移動を抑制する規制部44とを有している。
移動部材4の第一位置は、第一把持部材31が離間位置へと移動可能となる移動部材4の位置である。第一把持部材31が離間位置に位置する際に、第一位置に位置する移動部材4は、作用部43と被作用部31cとが当接していてもよく、離間していてもよい。本実施形態では、移動部材4の第一位置は、第一把持部材31が近接位置から離間位置に移動する際の被作用部31cの移動軌跡上から作用部43が外れた位置である。移動部材4の第二位置は、近接位置にある第一把持部材31が離間位置へと移動しようとする際に、被作用部31cが規制部44と当接して、第一把持部材31の移動を抑制する移動部材4の位置である。本実施形態では、移動部材4の第二位置は、第一把持部材31が近接位置から離間位置に移動する際の被作用部31cの移動軌跡上に規制部44が存在する位置である。また、移動部材4の第二位置は、第一把持部材31が近接位置から離間位置に移動する際の被作用部31cの移動軌跡上から作用部43が外れた位置でもよい。本実施形態では、第一位置から第二位置に向かって、移動部材4が直線的に移動しているが、移動部材4が第一位置から第二位置へと移動することにより、第一把持部材31を近接位置へと移動させることが可能であれば、移動部材4は回転移動するものであってもよい。また、移動部材4の移動方向は、本実施形態では、把持される固定対象物OBの中心と、回転軸31aの中心とを結ぶ線と略平行な方向であるが、移動部材4が第一位置から第二位置へと移動することにより、第一把持部材31を近接位置へと移動させることが可能であれば、特に限定されない。
移動部材4は、所定の操作によって第一位置と第二位置との間での移動が可能であればよく、移動部材4の操作方法や移動部材4を移動させる機構は特に限定されない。本実施形態では、固定装置1は、図1に示されるように、操作機構Mを有している。操作機構Mは、移動部材4を第一位置と第二位置との間で移動させ、第一把持部材31を操作するために操作される機構である。本実施形態では、操作機構Mは、ユーザによって操作されるレバー等の操作部M1と、一端が操作部M1に接続され、他端が移動部材4に接続されるケーブルM2とを有している。操作部M1が操作されることによって、ケーブルM2が操作され、移動部材4が第一位置と第二位置との間で移動して、第一把持部材31が操作される。操作部M1およびケーブルM2を備えた操作機構Mを用いる場合、第一把持部材31、第二把持部材32および移動部材4が操作部M1から離れた部位にあっても遠隔操作が可能となり、固定対象物OBの把持操作が容易となる。なお、本実施形態では、ケーブルM2は、一端が操作部M1に接続されるとともに、他端は、移動部材4に設けられたケーブルエンド固定部45(図3および図4参照)に接続されている。また、ケーブルM2は、図3および図4に示されるように、アウターケーシングM3に収容されている。アウターケーシングM3は、一端が基体2の端末固定部23に取り付けられ、他端が操作部M1に取り付けられ、ケーブルM2を所定の配索経路で案内する。これにより、車体Bなどの取付対象に複雑な経路でケーブルM2を配索した場合であっても、ケーブルM2の操作力の伝達が可能となり、操作者が操作しやすい位置に操作部M1を設けることができる。
本実施形態では、固定装置1は、移動部材4の第一位置と第二位置との間での移動を許容し、移動部材4を第一位置と第二位置とでそれぞれ一時停止させるカム機構(図示せず)を有している。カム機構は、たとえば、移動部材4の第一位置に対応した第一の停止部と、移動部材4の第二位置に対応した第二の停止部とを有する、公知のハートカム機構とすることができる。移動部材4には、基体2に設けられたピン部材に係合するカム機構のカム溝が設けられ、たとえば操作機構Mにより移動部材4が操作される度に、ピン部材がカム溝を移動して、第一の停止部と第二の停止部とで停止して、移動部材4を第一位置と第二位置とで停止させる。本実施形態では、固定装置1は、移動部材4を第二位置に向かって付勢するバネ部材S2を有している。バネ部材S2は、一端が基体2(端末固定部23)に取り付けられ、他端が移動部材4に設けられたバネ収容部46の底部に取り付けられている。移動部材4が第一位置にあるときに、操作機構Mが操作されると、カム機構の第一の停止部で停止していたピン部材がカム溝の第二の停止部に向かって移動し、移動部材4はバネ部材S2の付勢力によって第二位置に向かって移動して、第二位置で停止する。移動部材4が第二位置にあるときに操作機構Mが操作されると、移動部材4はバネ部材S2の付勢力に抗して、ケーブルM2によって引き操作されて第一位置に向かって移動する。このとき、カム機構の第二の停止部で停止していたピン部材はカム溝の第一の停止部に向かって移動し、ピン部材が第一の停止部と係合して移動部材4が第一位置で停止する。なお、カム機構は、カム溝に係合するピン部材をカム溝の底に向かって付勢するバネ部材(図示せず)を設けて、ピン部材のカム溝との係合状態を保持するように構成してもよい。
固定装置1が上述したカム機構を有している場合、移動部材4を簡単な操作で第一位置から第二位置へと移動させることができ、かつ、第一位置と第二位置とで一時停止させることができる。そのため、第一把持部材31の移動操作が容易であり、後述する固定対象物OBの把持の解除や、把持の維持が容易となる。なお、固定装置1は、カム機構やバネ部材S2を有さずに、操作する毎に、単に移動部材が第一位置と第二位置との間をスライドするように構成してもよい。また、固定装置1は、カム機構を設けずに移動部材4をバネ部材S2により第一位置から第二位置に向かって付勢し、操作機構の操作によって一時的に移動部材4が第一位置に移動し、操作機構の非操作時には移動部材4が第二位置に位置するようにしてもよい。また、カム機構を設けずに、移動部材4を第二位置から第一位置に向かって付勢するバネ部材を設け、操作機構の操作によって一時的に移動部材4が第二位置に移動し、操作機構の非操作時には移動部材4が第一位置に位置するようにしてもよい。
移動部材4の作用部43は、移動部材4が第一位置から第二位置へと移動する際に、第一把持部材31の被作用部31cに力の作用を加える。これにより、第一把持部材31は、離間位置から近接位置へと移動する。作用部43による被作用部31cへの力の作用によって、近接位置に移動した第一把持部材31は、第二把持部材32とともに固定対象物OBを把持する。より具体的には、移動部材4の第二位置へ向かう移動によって、移動部材4の作用部43から第一把持部材31の被作用部31cに加わった力のうち、第一把持部材31が近接位置に向かう回転方向の分力によって、第一把持部材31が離間位置から近接位置へと移動するための回転力が生じる。これにより、第一把持部材31が離間位置から近接位置へと回転し、第一把持部材31と第二把持部材32とによって固定対象物OBを把持することができる。
作用部43の形状は、移動部材4が第一位置から第二位置へと移動する際に、第一把持部材31が近接方向に回転する力を被作用部31cに加えることができれば特に限定されない。本実施形態では、作用部43は、移動部材4の先端(第二位置側)に向かって先細となるように構成されている。本実施形態では、作用部43は傾斜面であるが、湾曲面であってもよい。
規制部44は、移動部材4が第二位置に位置する際に、第一把持部材31の被作用部31cと当接することで、第一把持部材31が近接位置から離間位置へ移動することを抑制する。これにより、第一把持部材31と第二把持部材32とによる固定対象物OBの把持が維持される。本実施形態では、移動部材4が第二位置に位置し、第一把持部材31が近接位置に位置している際に、移動部材4の規制部44が、第一把持部材31が近接位置から離間位置へ回転するときの被作用部31cの移動方向で被作用部31cと当接する。これにより、第一把持部材31の離間位置への移動を規制して、第一把持部材31と第二把持部材32とによる固定対象物OBの把持を維持している。たとえば、固定対象物OBが第一把持部材31と第二把持部材32との間から離脱しようとする力が固定対象物OBまたは固定装置1に加わった場合、第一把持部材31に、第一把持部材31が近接位置から離間位置へと回転する方向に力が加わる。このときに、第一把持部材31の被作用部31cは、回転軸31aを中心として回転しようとするが、被作用部31cが規制部44と当接することにより、被作用部31cの回転が抑えられる。これにより、第一把持部材31が離間位置に向かって回転することが抑制され、第一把持部材31と第二把持部材32との間での固定対象物OBの把持が維持され、固定対象物OBが固定装置1から離脱することが抑制される。本実施形態では、移動部材4が基体2の案内部である案内壁22によって移動方向に案内されることで移動方向以外の方向への移動が規制されているので、その案内部は、第一把持部材31の被作用部31cから規制部44に力を受けた移動部材4を支持することができる。なお、規制部44に受けた力の程度によっては、移動部材4の重量等の移動部材4が有する手段により、基体2の案内部が移動部材4を支持しなくても、移動部材4の重量等により、移動部材4が第一把持部材31を支持することができる。
規制部44の形状および構造は、移動部材4が第二位置に位置する際に、第一把持部材31の離間位置への移動を抑制するように、第一把持部材31の被作用部31cと当接するものであれば特に限定されない。規制部44は、たとえば、第一把持部材31が近接位置から離間位置へ回転するときの被作用部31cの移動方向で当接する壁部、ピン、板状体などとすることができる。なお、本実施形態では、被作用部31cの先端部が、移動部材4が第一位置と第二位置との間を移動することにより、作用部43および規制部44の両方と当接するように構成されているが、作用部43と当接する被作用部31cの部位と、規制部44と当接する被作用部31cの部位とは異なる部位であってもよい。たとえば、被作用部31cの先端部が作用部と当接し、被作用部31cの先端部以外、たとえば、回転軸31aと被作用部31cの先端部との間の中間部が規制部44と当接するように構成してもよい。
本実施形態では、規制部44は、移動部材4の側部に設けられた側壁である。側壁として設けられた規制部44は、移動部材4の移動方向に延び、移動部材4の移動方向で作用部43に連続して設けられている。側壁として設けられた規制部44には、被作用部31cの先端部が当接して、第一把持部材31の近接位置から離間位置への移動を抑制している。本実施形態では、上述したように基部2が、移動部材4の両側部のうち、規制部44が設けられた側とは反対側の側部41と当接可能な案内壁22を有している。この案内壁22が設けられていることにより、移動部材4が第二位置に位置するときに、第一把持部材31が離間位置へと移動する際の被作用部31cからの規制部44に対する力を案内壁22によって支持することができる。そのため、第一把持部材31の被作用部31cから規制部44を介して移動部材4に強い力が加わったとしても、被作用部31cからの力を規制部44によって支持するだけでなく、移動部材4全体を案内壁22によって支持する。したがって、固定対象物OBが第一把持部材31および第二把持部材32との間を離脱しようとするときの力が大きくなったとしても、案内壁22によって第一把持部材31の回転が抑制される。よって、第一把持部材31と第二把持部材32とによって固定対象物OBを強固に把持することができ、固定対象物OBの離脱をさらに抑制することができる。
上述したように、本実施形態の固定装置1は、第一把持部材31が、回転軸31aを挟んで、一方側に把持部31bと他方側に被作用部31cとを有し、移動部材4は、被作用部31cに対して力を作用する作用部43と、被作用部31cと当接して第一把持部材31の移動を抑制する規制部44とを有している。また、移動部材4が第一位置から第二位置へと移動する際に、第一把持部材31は離間位置から近接位置へと移動し、移動部材4が第二位置に位置することにより、被作用部31cと規制部44とが当接することで、第一把持部材31と第二把持部材32とによる固定対象物OBの把持が維持される。したがって、本実施形態の固定装置1によれば、移動部材4を第一位置から第二位置へ移動させることにより、固定対象物OBの把持および固定が可能であり、簡単な操作で固定対象物OBを固定することができる。
また、本実施形態の固定装置1においては、第一位置から第二位置への移動部材4の移動によって、第一把持部材31の近接位置への移動による固定対象物OBの把持動作が可能となるとともに、固定対象物OBの把持の維持を行うロック動作も可能とする。したがって、固定対象物OBの把持動作を行ってから、その後に別途の操作により把持状態を維持するロック動作を操作者が行うといった複雑な操作を行う必要がない。
つぎに、図1、図5〜図7を用いて、固定対象物OBが車椅子である場合を例にあげて、本実施形態の固定装置1の動作を説明する。なお、以下の説明はあくまで一例であり、固定装置1の動作や固定対象物OBの固定方向は以下の例により限定されるものではない。
まず、固定装置1に固定対象物OBである車椅子WCを取り付ける際、車椅子WCのフレームを、第一把持部材31と第二把持部材32との間に入れることができるように、図5に示されるように、第一把持部材31を離間位置に位置させる。本実施形態では、第一把持部材31が付勢部材S1によって図5において時計回りに回転するように付勢されているため、移動部材4を第一位置に位置させることにより、第一把持部材31が離間位置へと移動する。第一把持部材31が離間位置へと移動すると、第一把持部材31と第二把持部材32との間に、固定対象物OBである車椅子WCのフレームを挿入する間隔が確保される。この状態で、車椅子WCのフレームを第一把持部材31と第二把持部材32との間に前進させる(図5の二点鎖線の状態)。
車椅子WCのフレームが第一把持部材31と第二把持部材32との間に入ると、第一把持部材31を近接位置に移動させて、第一把持部材31と第二把持部材32とによって、固定対象物OBの把持を行う。図5に示される状態から、操作者によって操作部M1(図1参照)が操作されると、ケーブルM2によって移動部材4が引き操作され、第一位置で一時停止していた移動部材4は、ハートカム機構およびバネ部材S2の付勢力によって、第二位置に向かって案内壁22および補助部5の案内部51に案内されながら移動する。
図6に示されるように、移動部材4が第一位置から第二位置に向かう途中で、移動部材4の作用部43は、移動部材4の移動経路に突出した被操作部31cの先端部に当接する。移動部材4は、バネ部材S2の付勢力によってさらに第二位置に向かって移動し、被作用部31cは、傾斜した作用部43の傾斜面から力を受け、付勢部材S1の付勢力に抗して反時計回りに回転する。この際、被作用部31cは先端部に回転体Rを有しており、回転体Rが転動しながら傾斜面を有する作用部43に沿って移動し、移動部材4の第二位置への移動と、第一把持部材31の回転とが円滑になる。さらに移動部材4が第二位置へ向かって移動すると、回転体Rが転動しながら移動部材4の規制部44に沿って移動して、移動部材4が第二位置へと到達する。これにより、図7に示されるように、第一把持部材31は近接位置に移動し、固定対象物OBである車椅子WCのフレームは、第一把持部材31の把持部31bと第二把持部材32の把持部32aとにより把持される。この移動部材4の第一位置から第二位置への移動によって、第一把持部材31は離間位置から近接位置に移動して固定対象物OBの把持動作が完了する。このとき、移動部材4の規制部44が被作用部31cと、第一把持部材4の離間位置に移動するときに被作用部31cが回転する方向で当接し、車椅子WCのフレームの把持状態を維持する。本実施形態では、操作機構Mの操作部M1の一度の操作により、固定対象物OBの把持と、固定対象物OBの把持状態を維持するロックとの両方が行われる。そのため、固定装置1の操作がシンプルであり、複数回の操作や、把持状態を維持するためのロック操作を別途行う必要がない。
図7において、たとえば、車椅子WCを載せた車両のブレーキ操作時や車両が段差を乗り越える際など、重力加速度によって車椅子WCのフレームが、図7の矢印Aにより示されるように、固定装置1から離脱する方向に力が加わる場合がある。このような力が加わると、第一把持部材31の把持部31bに対して、図7において時計回りに回転する力が加わる。また、回転軸31aを挟んで把持部31bとは反対側に設けられた被作用部31cも同様に時計回りに回転する力が加わる。被作用部31cは、時計回りの回転方向側に位置する規制部44と当接しているため、被作用部31cが時計回りに回転することが規制され、第一把持部材31の離間位置に向かう回転が規制される。したがって、車椅子WCのフレームは、第一把持部材31の把持部31bと第二把持部材32の把持部32aにより把持が維持され、車椅子WCのフレームが固定装置1から離脱することが抑制される。
車椅子WCを固定装置1から外す場合には、再度操作部M1が操作されることにより、図7の状態から、ケーブルM2によって移動部材4がバネ部材S2の付勢力に抗して引き操作され、第二位置で一時停止していた移動部材4は、第一位置に向かって案内壁22および補助部5の案内部51に案内されながら移動し、ハートカム機構によって第一位置で停止する。移動部材4が第一位置に移動すると、図5に示されるように、第一把持部材31の被作用部31cは規制部44による移動の規制が解除される。規制部44による被作用部31cの回転の規制が解除されると、付勢部材S1の付勢力により第一把持部材31は離間位置へと回転し、第一把持部材31の当接部31dが補助部5の被当接部52と当接して、第一把持部材31は離間位置で停止する。本実施形態では、操作機構Mの操作部M1の一度の操作により、固定対象物OBの把持状態のロック解除と、第一把持部材31の離間位置への移動との両方が行われる。そのため、固定装置1の操作がシンプルであり、複数回の操作を行う必要がなく、操作者は容易に車椅子WCを固定装置1から外すことができる。
なお、上述した実施形態では、第一把持部材31のみが回転する例を挙げて説明したが、第一把持部材31および第二把持部材32の両方が互いに逆方向に回転するように構成してもよい。この場合、たとえば、第二把持部材32にも、第一把持部材31と同様に、被作用部を設ければよい。第二把持部材32を回転可能にする場合、たとえば、第二把持部材32の被作用部に作用する第二作用部と、被作用部と当接して第二把持部材32の移動を抑制する第二規制部とを有する第二の移動部材を設ければよい。または、1つの移動部材に、第一把持部材31および第二把持部材32のそれぞれの被作用部に作用する作用部、第二作用部を設け、第一把持部材31および第二把持部材32のそれぞれの被作用部と当接する規制部、第二規制部を設けてもよい。
また、本実施形態では、移動部材4の移動方向は、回転軸31aと固定対象物OBの中心とを結ぶ方向と略平行な方向(図3における上下方向)である例を示したが、移動部材4の移動方向は、たとえば、回転軸31aの軸方向と、回転軸31aと固定対象物OBの中心とを結ぶ方向との両方向に対して垂直な方向(図3における左側が第一位置となり、右側が第二位置となる方向)であってもよい。この場合、移動部材4の先端が第一把持部材31の被作用部31cに、第一把持部材31を近接位置に移動させるように力を作用し、第一把持部材31の離間位置への移動を抑制するように被作用部31cと当接する。この変形例においては、移動部材4の第二位置側の先端が作用部および規制部の両方を兼ねる。