以下、図面を参照して、例示的な実施形態について説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[金属微細構造体形成装置]
本実施形態に係る金属微細構造体の製造方法を実行するために用いることができる金属微細構造体形成装置1について説明する。図1は、本実施形態に係る金属微細構造体の製造方法を実行するための金属微細構造体形成装置1を示す図である。なお、以下に説明する金属微細構造体形成装置1の構成は一例であって、金属微細構造体の製造方法を実行可能であれば金属微細構造体形成装置1とは異なる装置が用いられてもよい。金属微細構造体Sはいわゆるナノスケールとなるように形成可能であり、その場合、金属微細構造体Sは金属ナノ構造体とも称される。
金属微細構造体形成装置1は、処理対象物Pを処理して金属微細構造体Sを形成(作製)する装置である。処理対象物Pは、基板B及び被処理部材Cを備えている。基板Bは、被処理部材Cを支持するとともに形成された金属微細構造体Sを支持する部材である。基板Bは、例えば板状を呈している。金属微細構造体Sは、基板Bの一方の面Ba上に形成される。なお、基板Bの剛性については特に限定されず、例えば基板Bは可撓性を有していてもよい。基板Bは、例えばガラス、シリコン、PET、ポリイミド等を材料として含んでいてもよい。
被処理部材Cは、レーザ光が照射されることで、金属微細構造体Sを構成する金属を析出する部材である。被処理部材Cは、金属塩を溶解させたポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を材料として含んでいる。被処理部材Cにレーザ光が照射されると、当該被処理部材Cから金属塩が金属として析出し、析出した金属が金属微細構造体Sを構成することとなる。被処理部材Cは、例えば板状を呈し、基板Bの一方の面Ba上に配置されている。「被処理部材Cが板状を呈している」とは、被処理部材Cの厚さが金属微細構造体Sの製造方法を実行可能な程度に薄いことを意味していてもよい(詳しくは後述)。なお、被処理部材Cは、板状を呈していなくてもよく、例えば不均一な厚さを有していてもよい。また、被処理部材Cの剛性については特に限定されず、例えば被処理部材Cは可撓性を有していてもよい。また、被処理部材Cは、基板Bとは独立した状態で(基板B上に配置されていない状態で)、その形状を維持することができてもよく、その形状を維持することができなくてもよい。
金属微細構造体形成装置1は、処理対象物Pにレーザ光を照射して金属微細構造体Sを形成するための照射系システム1a、及び、処理対象物Pに形成される金属微細構造体Sの状態を観察するための観察系システム1bを備えている。
照射系システム1aは、レーザ装置3、光シャッタ5、ミラー7、偏光状態制御部8、ビームエキスパンダ9、ビームスプリッタ11、対物レンズ13、及びXYZピエゾステージ15を有している。
レーザ装置(レーザ光源)3は、様々な波長のパルス状のレーザ光(パルスレーザ光)を様々な繰返し周波数で繰り返し出力可能である。レーザ装置3は、例えばチタンサファイアレーザ装置であり、発振可能なレーザ光の波長を例えば赤外領域から近赤外領域の範囲で調整可能である。なお、レーザ装置3は、発振可能なレーザ光の波長を例えば近赤外領域から紫外領域までの範囲で調整可能であってもよい。レーザ装置3は、一例として、波長800nm、パルス幅100fsec、繰返し周波数80MHzのパルスレーザ光を出力するように設定される。また、レーザ装置3は、出力するパルスレーザ光のレーザパワーを調整可能であってもよく、例えば、照射パワーが1mW〜10mWのパルスレーザ光を出力する。光シャッタ5は、レーザ装置3から出力されたパルスレーザ光の処理対象物Pへの照射をオン/オフする。ミラー7は、光シャッタ5を通過したパルスレーザ光を偏光状態制御部8に向けて反射する。
偏光状態制御部8は、入力されるパルスレーザ光の偏光状態を制御する。偏光状態制御部8は、例えば波長板等を必要に応じて組み合わせて構成される。偏光状態制御部8は、例えば予め設定された偏光方向の直線偏光となるように、入力されるパルスレーザ光の偏光状態を制御可能である。「偏光方向」とは、パルスレーザ光の直線偏光の向きであり、電場の振動方向を意味する。また、偏光状態制御部8は、例えば円偏光となるように、入力されるパルスレーザ光の偏光状態を制御可能である。偏光状態制御部8により偏光状態を制御されたパルスレーザ光は、ビームエキスパンダ9に入射する。
ビームエキスパンダ9は、パルスレーザ光のビーム径を拡大する。ビームエキスパンダ9によりビーム径を拡大されたパルスレーザ光は、ビームスプリッタ11により反射されると、対物レンズ(集光部材)13に入射する。対物レンズ13は、入射したパルスレーザ光を集光して、XYZピエゾステージ15により支持された処理対象物Pに照射する。XYZピエゾステージ15は、処理対象物Pを、基板Bの一方の面Baとは反対側の他方の面Bb側が対物レンズ13に対面するように支持している。つまり、対物レンズ13により集光されたパルスレーザ光は、処理対象物Pに基板B側から入力され、基板Bを透過して被処理部材Cに照射される。XYZピエゾステージ15は、処理対象物Pを3次元的に移動させる駆動装置である。XYZピエゾステージ15が駆動して処理対象物Pを移動させることにより、パルスレーザ光を予め設定された照射パターンで処理対象物Pに照射することが可能となる。なお、「照射パターン」とは、処理対象物P(すなわち、被処理部材C)に対するパルスレーザ光の走査及び照射のパターンを意味する。パルスレーザ光は、走査されてもよく、走査されなくてもよい。また、照射系システム1aは、XYZピエゾステージ15に代えて、ピエゾ素子を用いないXYZステージ等を有していてもよい。この場合、ピエゾ素子を用いないXYZステージ等としては、十分な位置精度を有していればよく、具体的な構成は限定されない。
観察系システム1bは、集光レンズ17及び撮像装置19を有している。集光レンズ17は、ビームスプリッタ11を透過した処理対象物Pからの光を集光して、撮像装置19に入射させる。撮像装置19は、例えばCCDカメラである。撮像装置19は、処理対象物Pからの光が入射されることで処理対象物Pを撮像する。撮像装置19は、例えば撮像した画像をモニタ(不図示)等に表示する。
[金属微細構造体の製造方法]
続いて、金属微細構造体形成装置1を用いた金属微細構造体Sの製造方法について説明する。
まず、第1工程(形成ステップ)として、金属塩を溶解させたポリアミック酸を含む被処理部材Cを形成する。より詳細には、金属塩を溶解させたポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を材料として含む板状の被処理部材Cを、板状の基板B上に形成する。これにより、処理対象物Pが準備される。被処理部材Cは、基板B上にポリアミック酸樹脂を塗布した後、ホットプレート等にて所定温度(例えば80度)及び所定時間(例えば10分間)のプリベークを行うことにより形成される。
形成ステップにおいては、好ましくは厚さが10nm以上1μm以下の被処理部材Cを形成し、より好ましくは厚さが30nm以上500nm以下の被処理部材Cを形成し、更に好ましくは厚さが50nm以上100nm以下の被処理部材Cを形成する。被処理部材Cの厚さが薄すぎないことで、金属塩を溶解させたポリアミック酸を含む部材の部材量が十分に存在し、十分な量の金属を析出させることができる。また、被処理部材Cの厚さが厚すぎないことで、後述する除去ステップにおいて被処理部材Cを確実に除去することが可能となる。
ポリアミック酸樹脂は、公知の方法を用いて、酸無水物とジアミンを有機溶媒に溶解させてから重合反応させることで得ることができる。例えば、酸無水物としてピロメリト酸二無水物、ジアミンとして4,4’−オキシジアニリン、有機溶媒として1−メチル−2−ピロリドンを用いることができるが、これらには限定されない。ポリアミック酸樹脂に金属塩を溶解させる際には、ポリアミック酸樹脂と金属化合物とを含有する塗布液を基板B上に塗布してもよく、或いは、ポリアミック酸樹脂を含有する塗布液を基板B上に塗布してから金属塩を含む溶液を含浸させてもよい。上述したプリベークによってポリアミック酸樹脂を低温で加熱することにより、金属イオンにポリアミック酸の中で流動性を持たせることができる。
被処理部材Cに含まれる金属塩としては、硝酸銀のような硝酸塩のほか、塩酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、又はクエン酸塩等が用いられる。また、金属塩を組成する金属としては、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、錫(Sn)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)等が挙げられる。
被処理部材Cに含まれるポリアミック酸としては、イミド化後のポリイミドが、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミドエステル、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等の構造中にイミド基を有するポリマーからなる耐熱性樹脂であるものの中から選択されてもよい。被処理部材Cに含まれるポリアミック酸は、下記の化学式(1)によって表される。
[式中、nは任意の整数を意味する。]
形成ステップによって得られた被処理部材Cにおいては、下記の化学式(2)に示すように、ポリアミック酸と金属塩との間のイオン交換による反応によって、ポリアミック酸の中のカルボキシル基に金属イオンが結合して存在する。
−CO2 −H+ → −CO2 −Ag+ …(2)
上記化学式(2)には、金属塩として硝酸銀を用いた反応の例が示されている。そして、形成ステップ中のプリベークによって、ポリアミック酸樹脂の全体にわたってカルボキシル基に結合した金属イオンが分散して生じることとなる。
次に、第2工程(出力ステップ)として、レーザ装置3からパルスレーザ光を繰り返し出力するとともに当該レーザ光の偏光状態を制御する。より詳細には、レーザ装置3が発振して、例えば波長800nm、パルス幅100fsec、繰返し周波数80MHzのパルスレーザ光を繰り返し出力する。また、レーザ装置3は、被処理部材Cに対する照射パワーが数mW程度(例えば、1mW以上10mW以下)に設定されたパルスレーザ光を繰り返し出力する。なお、パルスレーザ光は、その光路において、上記照射パワーとなるように減衰させられてもよい。パルスレーザ光が上記照射パワーに設定されることで、パルスレーザ光が被処理部材Cに照射された場合に被処理部材Cにおける金属イオンの光還元が好適に生じ、且つ、被処理部材Cの損傷が抑制される。パルスレーザ光は、光シャッタ5及びミラー7を介して偏光状態制御部8に入力される。
偏光状態制御部8は、例えば波長板等が予め調整された状態とされており、入力されたパルスレーザ光を所望の偏光状態に制御する。例えば、偏光状態制御部8は、直線偏光になるようにパルスレーザ光の偏光状態を制御してもよく、円偏光になるようにパルスレーザ光の偏光状態を制御してもよい。偏光状態制御部8は、直線偏光になるようにパルスレーザ光の偏光状態を制御する場合には、予め設定された偏光方向の直線偏光となるように、パルスレーザ光の偏光状態を制御する。
次に、第3工程(照射ステップ)として、偏光状態を制御されたレーザ光を予め設定された照射パターンで被処理部材Cに照射することにより、被処理部材Cに金属を析出させる。より詳細には、被処理部材CをXYZピエゾステージ15に載置した後に、偏光状態制御部8から繰り返し出力されたパルスレーザ光を、ビームエキスパンダ9及びビームスプリッタ11を介して、対物レンズ13により集光して被処理部材Cに繰り返し照射する。このとき、外部の制御装置による制御により、XYZピエゾステージ15を駆動するとともに光シャッタ5をオン/オフさせることで、予め設定された照射パターンで被処理部材Cにパルスレーザ光を照射する。
例えば、直線偏光のパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合に、直線偏光の偏光方向に対して交差する方向に走査させながら照射する照射パターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射してもよい。特に、直線偏光のパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合に、直線偏光の偏光方向に対して直交する方向に走査させながら照射する照射パターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射してもよい。パルスレーザ光は、直線状に走査されてもよく、曲線状に走査されてもよい。
或いは、円偏光のパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合に、走査させずに照射する照射パターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射してもよい。例えば、パルスレーザ光は、被処理部材Cの一点に対して照射されてもよい。
照射ステップによって、被処理部材Cに含まれる金属イオンが光還元により金属として析出し、照射パターンに対応したパターンで金属微細構造体Sが形成される。ここで、パルスレーザ光を用いて金属を析出させることにより、2光子吸収による光還元が効果的に生じるため、パルスレーザ光のエネルギーが比較的低くても効率的に高密度な金属微細構造体Sを形成することができる。被処理部材Cにおいて金属イオンが2光子吸収による光還元を起こすことで、レーザ光の照射範囲よりも狭い領域(金属の析出領域R)において金属が析出し得る。ただし、パルスレーザ光の偏光状態に応じて、金属の析出領域Rにおいて実際に金属が析出する析出部分Mと金属の析出が阻害される非析出部分Nとが存在する。
次に、第4工程(除去ステップ)として、被処理部材Cを除去する。より詳細には、ウェットエッチング又はドライエッチングを用いて、被処理部材Cの全体を除去する。ウェットエッチングは、被処理部材Cに水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ溶液を含浸することによって行われてもよく、被処理部材Cにアルカリ溶液を滴下することによって行われてもよい。また、ドライエッチングは、例えば反応性イオンエッチング装置を用いた反応性イオンエッチングによって行われてもよい。このような工程により、基板B上において被処理部材Cであるポリアミック酸樹脂が取り除かれ、金属微細構造体Sのみが残存した基板Bを作製することができる。
[第1実施例]
以下、第1実施例に係る金属微細構造体の製造方法について説明する。第1実施例に係る金属微細構造体の製造方法では、直線偏光になるようにパルスレーザ光の偏光状態を制御するとともに、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eに対して様々な角度の走査方向Aに走査させながら照射する照射パターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射する。なお、第1実施例に係る金属微細構造体の製造方法においては、パルスレーザ光は、1回だけ走査させながら照射する照射パターンで被処理部材Cに照射されている。
まず、第1実施例に係る金属微細構造体の製造方法によって形成される金属微細構造体Sについて、図2を参照して説明する。図2は、直線偏光のパルスレーザ光を被処理部材Cに照射することにより析出した金属を模式的に示す斜視図である。図2に示されるように、第1実施例では、金属の析出領域Rにおいて、直線偏光の偏光方向Eに対して直交する方向に延在する析出部分M及び非析出部分Nが、直線偏光の偏光方向Eに交互に並ぶように、金属微細構造体Sが形成されている。特に、図2には、一例として、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eに対して直交する方向を走査方向Aとする照射パターンでパルスレーザ光を被処理部材Cに照射することで、パルスレーザ光の走査方向Aに沿って延在する長尺状の析出部分M及び非析出部分Nが形成された金属微細構造体Sが例示されている(図3(a)等参照)。このように、第1実施例に係る金属微細構造体の製造方法では、パルスレーザ光を1回だけ走査させながら照射する照射パターンで被処理部材Cに照射することにより、複数(図2では4本)の析出部分Mを自己形成することも可能である。なお、図2には、照射ステップを実行した後であって除去ステップを実行する前の処理対象物Pの状態が示されている。
図3、図4、及び図5は、直線偏光のパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合において、直線偏光の偏光方向Eに応じた金属微細構造体Sの画像を示す図である。各図において、レーザ装置3は、波長800nm、パルス幅100fsec、繰返し周波数80MHz、照射パワー6mWに設定されたパルスレーザ光を繰り返し出力している。レーザ装置3により出力されたパルスレーザ光は、対物レンズ13により集光されて被処理部材Cにスポット照射されている。「スポット照射」とは、パルスレーザ光を点状に集光して照射することを意味する。また、各図において、XYZピエゾステージ15により、パルスレーザ光が、被処理部材Cにスポット照射されながら、走査速度0.5μm/sで図中上下方向の走査方向Aに走査されている。各図において、金属の析出領域Rの析出部分Mには析出した銀が撮像されている。一方、金属の析出領域Rの非析出部分N及び金属の析出領域R以外の領域には基板Bの一方の面Baが撮像されている。なお、各図に示される金属微細構造体Sの基板Bに垂直な高さは、数10nm程度である。
図3(a)は、パルスレーザ光の走査方向Aに対して、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eが+90度傾いている照射パターン(すなわち、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eに対して直交する方向を走査方向Aとする照射パターン)で、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図3(a)の条件では、レーザ光の走査方向Aに沿って延在する長尺状の析出部分M及び非析出部分Nを有する金属微細構造体Sが形成されている。図3(a)に示される金属微細構造体Sは、走査方向Aに対して直交する方向(すなわち、金属の析出領域Rの幅方向)の両端に幅100nm程度の析出部分Mがそれぞれ形成されているとともに、これら析出部分Mの間に、幅30nm程度の3列の非析出部分Nと、幅50nm程度の2列の析出部分Mとが、直線偏光の偏光方向Eに交互に並ぶように形成されている。
図3(b)は、パルスレーザ光の走査方向Aに対して、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eが+60度傾いている照射パターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図3(b)に示される金属微細構造体Sは、走査方向Aに対して直交する方向(すなわち、金属の析出領域Rの幅方向)の両端に幅100nm程度の析出部分Mがそれぞれ形成されているとともに、これら析出部分Mの間に、直線偏光の偏光方向Eに対して直交する方向に延在する析出部分M及び非析出部分Nが、直線偏光の偏光方向Eに交互に並ぶように形成されている。
同様に、図3(c)は、パルスレーザ光の走査方向Aに対して、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eが+45度傾いている照射パターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図4(a)は、パルスレーザ光の走査方向Aに対して、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eが+30度傾いている照射パターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図4(b)は、パルスレーザ光の走査方向Aに対して、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eが0度傾いている(すなわち、走査方向Aと偏光方向Eとが一致している)照射パターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図4(c)は、パルスレーザ光の走査方向Aに対して、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eが−30度傾いている照射パターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図5(a)は、パルスレーザ光の走査方向Aに対して、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eが−45度傾いている照射パターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図5(b)は、パルスレーザ光の走査方向Aに対して、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eが−60度傾いている照射パターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。これらの各図に示される金属微細構造体Sは、走査方向Aに対して直交する方向(すなわち、金属の析出領域Rの幅方向)の両端に幅100nm程度の析出部分Mがそれぞれ形成されているとともに、これら析出部分Mの間に、直線偏光の偏光方向Eに対して直交する方向に延在する析出部分M及び非析出部分Nが、直線偏光の偏光方向Eに交互に並ぶように形成されている。
図5(c)は、パルスレーザ光の走査方向Aに対して、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eが−90度傾いている照射パターン(すなわち、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eに対して直交する方向を走査方向Aとする照射パターン)で、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図5(c)の条件では、図3(a)と同様に、レーザ光の走査方向Aに沿って延在する長尺状の析出部分M及び非析出部分Nを有する金属微細構造体Sが形成されている。図5(c)に示される金属微細構造体Sは、走査方向Aに対して直交する方向(すなわち、金属の析出領域Rの幅方向)の両端に幅100nm程度の析出部分Mがそれぞれ形成されているとともに、これら析出部分Mの間に、幅30nm程度の3列の非析出部分Nと、幅50nm程度の2列の析出部分Mとが、直線偏光の偏光方向Eに交互に並ぶように形成されている。
以上より、第1実施例に係る金属微細構造体の製造方法によれば、金属微細構造体Sの構造を金属の析出領域Rよりも微細化することができることが確認された。より具体的には、金属微細構造体Sの構造を30nm程度まで微細化することができることが確認された。
図6は、直線偏光のパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合において、レーザパワーに応じた金属微細構造体Sの画像を示す図である。図6の各図は、パルスレーザ光の走査方向Aに対して、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eが+90度傾いている照射パターン(すなわち、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eに対して直交する方向を走査方向Aとする照射パターン)で、照射パワーを3mW〜6mWに設定されたパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。
図6(a)は、照射パワーを3mWに設定されたパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図6(a)に示される金属微細構造体Sは、金属の析出領域Rにおいて、非析出部分Nが形成されていない。すなわち、金属の析出領域Rにおいて、1列の析出部分Mのみが形成されている。
図6(b)は、照射パワーを4mWに設定されたパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図6(b)に示される金属微細構造体Sは、走査方向Aに対して直交する方向(すなわち、金属の析出領域Rの幅方向)の両端に幅100nm程度の析出部分Mがそれぞれ形成されているとともに、これら析出部分Mの間に、幅30nm程度の1列の非析出部分Nが形成されている。
図6(c)は、照射パワーを5mWに設定されたパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図6(c)に示される金属微細構造体Sは、走査方向Aに対して直交する方向(すなわち、金属の析出領域Rの幅方向)の両端に幅100nm程度の析出部分Mがそれぞれ形成されているとともに、これら析出部分Mの間に、幅30nm程度の2列の非析出部分Nと、幅50nm程度の1列の析出部分Mとが、直線偏光の偏光方向Eに交互に並ぶように形成されている。
図6(d)は、照射パワーを6mWに設定されたパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図6(d)に示される金属微細構造体Sは、走査方向Aに対して直交する方向(すなわち、金属の析出領域Rの幅方向)の両端に幅100nm程度の析出部分Mがそれぞれ形成されているとともに、これら析出部分Mの間に、幅30nm程度の3列の非析出部分Nと、幅50nm程度の2列の析出部分Mとが、直線偏光の偏光方向Eに交互に並ぶように形成されている。
以上より、直線偏光のパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合に析出する金属微細構造体Sは、パルスレーザ光の被処理部材Cに対する照射パワーを調整することで、形成される析出部分M及び非析出部分Nの列の数を制御可能であることが見出された。
[第2実施例]
以下、第2実施例に係る金属微細構造体の製造方法について説明する。第2実施例に係る金属微細構造体の製造方法では、円偏光になるようにパルスレーザ光の偏光状態を制御して照射する照射パターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射する。
まず、第2実施例に係る金属微細構造体の製造方法によって形成される金属微細構造体Sについて、図7を参照して説明する。図7は、円偏光のパルスレーザ光を被処理部材Cに照射することにより析出した金属を模式的に示す斜視図である。図7に示されるように、第2実施例では、金属の析出領域Rにおいて、非析出部分Nを囲む環状の析出部分Mを有するように、金属微細構造体Sが形成されている。特に、図7には、一例として、一点照射する照射パターンでパルスレーザ光を被処理部材Cに照射することで、円形状の非析出部分Nを囲む円環状の析出部分Mが形成された金属微細構造体Sが例示されている(図9(b)等参照)。「一点照射」とは、パルスレーザ光を被処理部材Cに対して走査させずに、当該被処理部材Cに向けてスポット照射することを意味する。なお、図7には、照射ステップを実行した後であって除去ステップを実行する前の処理対象物Pの状態が示されている。
図8は、円偏光のパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合において、パルスレーザ光の照射パワー及び焦点位置に応じた金属微細構造体Sの画像を示す図である。「焦点位置」とは、基板Bの一方の面Baを基準として、被処理部材C側に向かって当該一方の面Baに垂直な方向への焦点の高さを意味する。図中の左右方向においてパルスレーザ光の照射パワーが異なり、図中の上下方向において焦点位置が異なる。図8において、レーザ装置3は、波長800nm、パルス幅100fsec、繰返し周波数80MHz、照射パワーが2mW〜8mWとなるように設定されたパルスレーザ光を繰り返し出力している。また、図8において、XYZピエゾステージ15により、パルスレーザ光の焦点位置が基板Bの一方の面Baを基準として0nm〜600nmとなるように制御されている。なお、被処理部材Cに対するパルスレーザ光の照射時間は、それぞれ1sとされている。図8において、金属の析出領域Rの析出部分Mには析出した銀が撮像されている。一方、金属の析出領域Rの非析出部分N及び金属の析出領域R以外の領域には基板Bの一方の面Baが撮像されている。なお、各図に示される金属微細構造体Sの基板Bに垂直な高さは、数10nm程度である。
図8では、照射パワーが2mW〜3mWとなるように設定されたパルスレーザ光が被処理部材Cに照射されても、焦点位置によらず金属が析出していない。すなわち、被処理部材Cにおける金属イオンの光還元が十分に生じていない。同様に、照射パワーが4mWとなるように設定されたパルスレーザ光が焦点位置300nm〜600nmとなるように照射された場合、及び、照射パワーが5mWとなるように設定されたパルスレーザ光が焦点位置600nmとなるように照射された場合においても、金属が析出していない。
照射パワーが4mWとなるように設定されたパルスレーザ光が焦点位置0nm〜200nmとなるように照射された場合、照射パワーが5mWとなるように設定されたパルスレーザ光が焦点位置400nm〜500nmとなるように照射された場合、及び、照射パワーが6mWとなるように設定されたパルスレーザ光が焦点位置600nmとなるように照射された場合においては、非析出部分Nが形成されていない円形状の析出部分Mのみの形状(ドット状)となるように金属が析出している。
照射パワーが5mWとなるように設定されたパルスレーザ光が焦点位置0nm〜300nmとなるように照射された場合、照射パワーが6mWとなるように設定されたパルスレーザ光が焦点位置0nm〜500nmとなるように照射された場合、及び、照射パワーが7mW〜8mWとなるように設定されたパルスレーザ光が焦点位置0nm〜600nmとなるように照射された場合においては、円形状の非析出部分Nを囲む円環状の析出部分Mを有する形状となるように金属が析出している。
以上より、第2実施例に係る金属微細構造体の製造方法によれば、金属微細構造体Sの構造を金属の析出領域Rよりも微細化することができることが確認された。また、パルスレーザ光の照射パワー及び焦点位置を調整することで、ドット状又は円環状の金属微細構造体Sを形成可能であることが見出された。
続いて、金属微細構造体Sについて、拡大画像を参照して詳細に検討する。図9及び図10は、円偏光のパルスレーザ光を被処理部材に照射した場合において、レーザパワーに応じた金属微細構造体Sの画像を示す図である。各図において、レーザ装置3は、波長800nm、パルス幅100fsec、繰返し周波数80MHz、照射パワーが4mW〜8mWとなるように設定されたパルスレーザ光を繰り返し出力している。また、各図において、パルスレーザ光の焦点位置は0nm、照射時間は1sとされている。
図9(a)は、照射パワーを4mWに設定されたパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図9(a)に示される金属微細構造体Sは、金属の析出領域Rにおいて、非析出部分Nが形成されていない円形状の析出部分Mのみを有している。析出部分Mは、直径200nm程度の円形状を呈している。
図9(b)は、照射パワーを5mWに設定されたパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図9(b)に示される金属微細構造体Sは、金属の析出領域Rにおいて、直径90nm程度の円形状の非析出部分Nを囲む直径270nm程度の円環状の析出部分Mを有している。
図9(c)は、照射パワーを6mWに設定されたパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図9(c)に示される金属微細構造体Sは、金属の析出領域Rにおいて、直径180nm程度の円形状の非析出部分Nを囲む直径330nm程度の円環状の析出部分Mを有している。
図10(a)は、照射パワーを7mWに設定されたパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図10(a)に示される金属微細構造体Sは、金属の析出領域Rにおいて、直径190nm程度の円形状の非析出部分Nを囲む直径360nm程度の円環状の析出部分Mを有している。
図10(b)は、照射パワーを8mWに設定されたパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合の金属微細構造体Sを示している。図10(b)に示される金属微細構造体Sは、金属の析出領域Rにおいて、直径240nm程度の円形状の非析出部分Nを囲む直径380nm程度の円環状の析出部分Mを有している。
以上より、円偏光のパルスレーザ光を被処理部材Cに照射した場合に析出する金属微細構造体Sは、レーザパワーを調整することで異なる直径の円形状又は円環状に形成可能であることが確認された。
[作用及び効果]
以上説明したように、本開示の一態様に係る金属微細構造体の製造方法は、金属塩を溶解させたポリアミック酸を含む被処理部材Cを形成する形成ステップと、レーザ装置3からパルスレーザ光を出力するとともに当該パルスレーザ光の偏光状態を制御する出力ステップと、偏光状態を制御されたパルスレーザ光を予め設定された照射パターンで被処理部材Cに照射する照射ステップと、被処理部材Cを除去する除去ステップと、を備える。
この金属微細構造体の製造方法によれば、まず、金属塩を溶解させたポリアミック酸を含む被処理部材Cにパルスレーザ光が照射される。これにより、被処理部材Cにおいて金属イオンが2光子吸収による光還元を起こすことで、パルスレーザ光の照射範囲よりも狭い領域(金属の析出領域R)において金属が析出し得る。このとき、被処理部材Cに照射されるパルスレーザ光の偏光状態が制御されているため、パルスレーザ光の偏光状態に応じて、金属の析出領域Rにおいて実際に金属が析出する析出部分Mと金属の析出が阻害される非析出部分Nとが存在することとなる。ここで、パルスレーザ光は予め設定された照射パターンで被処理部材Cに照射されるため、金属の析出部分Mと非析出部分Nとの配置を制御して所望の形状に金属を析出させることができる。その後、被処理部材Cが除去されることで、析出した金属が金属微細構造体Sとして取得される。以上により、この方法によれば、より微細な構造を有する金属微細構造体Sを形成することが可能となる。
この金属微細構造体の製造方法では、出力ステップにおいては、直線偏光になるようにパルスレーザ光の偏光状態を制御する。これにより、金属の析出領域Rにおいて、直線偏光の偏光方向Eに対して直交する方向に延在する析出部分M及び非析出部分Nが、直線偏光の偏光方向Eに交互に並ぶように、金属微細構造体Sを形成することが可能となる。
この金属微細構造体の製造方法では、照射ステップにおいては、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eに対して交差する方向に走査させながら照射する照射パターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射する。これにより、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eとパルスレーザ光の走査方向Aとの交差する角度を適宜変更することで、パルスレーザ光の走査方向Aに対して所望の角度方向に延在する析出部分M及び非析出部分Nを有する金属微細構造体Sを形成することが可能となる。
この金属微細構造体の製造方法では、照射ステップにおいては、パルスレーザ光の直線偏光の偏光方向Eに対して直交する方向に走査させながら照射する照射パターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射する。これにより、パルスレーザ光の走査方向Aに沿って延在する長尺状の析出部分M及び非析出部分Nを有する金属微細構造体Sを形成することが可能となる。
この金属微細構造体の製造方法では、出力ステップにおいては、円偏光になるようにパルスレーザ光の偏光状態を制御する。これにより、金属の析出領域Rにおいて、非析出部分Nを囲む環状の析出部分Mを有するように、金属微細構造体Sを形成することが可能となる。
この金属微細構造体の製造方法では、照射ステップにおいては、走査させずに照射する照射パターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射する。これにより、金属の析出領域Rにおいて、円形状の非析出部分Nを囲む円環状の析出部分Mを有するように、金属微細構造体Sを形成することが可能となる。
この金属微細構造体の製造方法では、形成ステップにおいては、被処理部材Cを基板B上に形成する。これにより、基板B上に金属微細構造体Sを形成することができるため、除去ステップにおいて、被処理部材Cを除去する際に金属微細構造体Sの形状及び配置を維持することが可能となる。
この金属微細構造体の製造方法では、形成ステップにおいては、厚さが10nm以上1μm以下の被処理部材Cを形成する。これにより、被処理部材Cの厚さが10nm以上であるため、金属塩を溶解させたポリアミック酸を含む部材の部材量が十分に存在し、十分な量の金属を析出させることが可能となる。また、被処理部材Cの厚さが1μm以下であるため、除去ステップにおいて被処理部材Cを確実に除去することが可能となる。
この金属微細構造体の製造方法では、照射ステップにおいては、対物レンズ13を用いてパルスレーザ光を集光して被処理部材Cに照射する。これにより、パルスレーザ光を集光して被処理部材Cに照射することにより、金属微細構造体Sを一層微細化することが可能となる。
この金属微細構造体の製造方法では、出力ステップにおいては、レーザ装置3からパルス状のレーザ光を繰り返し出力し、照射ステップにおいては、パルス状のレーザ光を被処理部材Cに繰り返し照射する。これにより、パルス状のレーザ光が照射された被処理部材Cにおいて2光子吸収を効率的に生じさせることができるため、金属を析出させるために必要なレーザ光のエネルギーを低減することが可能となる。
[変形例]
上述した実施形態は、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。
例えば、本実施形態に係る金属微細構造体の製造方法においては、レーザ装置3は、パルスレーザ光を出力する機能に加えて、当該パルスレーザ光の偏光状態を制御する機能を有していてもよい。この場合、レーザ装置3は、直線偏光となるように、出力するパルスレーザ光の偏光状態を制御してもよい。或いは、レーザ装置3は、円偏光となるように、出力するパルスレーザ光の偏光状態を制御してもよい。レーザ装置3がパルスレーザ光を出力する機能及び当該パルスレーザ光の偏光状態を制御する機能の両方を有している場合には、偏光状態制御部8を用いてパルスレーザ光の偏光状態を制御しなくてもよい。
また、本実施形態に係る金属微細構造体の製造方法においては、「パルスレーザ光を走査させる」ことの一例として、パルスレーザ光の光軸を移動させずに処理対象物Pを移動させることで、パルスレーザ光が処理対象物Pに照射される照射位置を移動させる手法を示した。しかし、「パルスレーザ光を走査させる」こととは、上記のように、パルスレーザ光の光軸を移動させずに処理対象物Pを移動させることで、パルスレーザ光が処理対象物Pに照射される照射位置を移動させること意味しなくてもよく、例えば、処理対象物Pを移動させずにパルスレーザ光の光軸を移動させることで、パルスレーザ光が処理対象物Pに照射される照射位置を移動させることを意味してもよく、処理対象物P及びパルスレーザ光の光軸の両方を移動させることで、パルスレーザ光が処理対象物Pに照射される照射位置を移動させることを意味してもよい。
また、本実施形態に係る金属微細構造体の製造方法は、パルスレーザ光の被処理部材Cに対する照射パワーを、パルスレーザ光が被処理部材Cに照射された場合に当該被処理部材Cにおける金属イオンの光還元を生じさせ、且つ、被処理部材Cを損傷させない(例えば、アブレーションを発生させない)レーザフルエンスとなるように調整する調整ステップをさらに備えてもよい。例えば、このようなレーザフルエンスは、好ましくは0.1mJ/cm2以上100mJ/cm2以下であってもよく、より好ましくは1mJ/cm2以上50mJ/cm2以下であってもよく、更に好ましくは3mJ/cm2以上20mJ/cm2以下であってもよい。これによれば、被処理部材Cを損傷させずに好適に金属微細構造体Sを形成することが可能となる。
なお、照射パワー(平均パワー)と上述したレーザフルエンスとの関係について、例えば第1実施例及び第2実施例では、照射パワーが6mWである場合には、レーザフルエンスは7.5mJ/cm2である。
また、処理対象物Pは、基板Bを備えていなくてもよい。この場合、被処理部材Cは、ポリアミック酸樹脂自体が板状に形成されたものをプリベークすることで形成されてもよい。
また、形成ステップにおいては、厚さが10nm未満又は1μmより大きい被処理部材Cを形成してもよい。
また、照射ステップにおいては、対物レンズ13を用いてレーザ光を集光しなくてもよい。
また、出力ステップにおいては、レーザ装置3からパルスレーザ光を繰り返し出力しなくてもよく、その場合、照射ステップにおいては、パルスレーザ光を被処理部材Cに繰り返し照射しなくてもよい。
また、照射ステップにおいては、パルスレーザ光を走査させる手段として、XYZピエゾステージ15を用いる手段以外の手段が用いられてもよい。例えば、レーザ装置3から照射されたパルスレーザ光をガルバノミラー等を用いて被処理部材Cに対して走査させてもよく、或いは、金属微細構造体形成装置1自体をモータ等の駆動装置を用いて動かすことによって、パルスレーザ光を被処理部材Cに対して走査させてもよい。また、空間光位相変調器を用いてパルスレーザ光の2次元パターンを一度に被処理部材Cに形成してもよい。
また、金属微細構造体の製造方法は、上述した実施形態の態様に限らず、以下のような他の態様によっても実施可能である。
例えば、他の態様に係る金属微細構造体の製造方法(第1態様)においては、直線偏光又は円偏光のパルスレーザ光を、被処理部材Cに対して光軸が平行移動するように走査させながら、当該被処理部材Cにスポット照射してもよい。このような方法について、より詳細には、出力ステップにおいて、レーザ装置からパルスレーザ光を出力するとともに、直線偏光又は円偏光となるように当該パルスレーザ光の偏光状態をレーザ装置により制御する。そして、照射ステップにおいて、対物レンズを用いてパルスレーザ光を点状に集光して被処理部材Cにスポット照射する。このとき、照射ステップにおいて、処理対象物Pを移動させずに、被処理部材Cへのスポット照射を継続しながら、被処理部材Cに対してパルスレーザ光の光軸を平行移動させるようにレーザ装置の位置を移動させることで、パルスレーザ光が処理対象物Pに照射される照射位置を移動させる。これにより、直線偏光又は円偏光となるように偏光状態を制御されたパルスレーザ光を予め設定された照射パターンで被処理部材Cに照射することとなる。なお、形成ステップ及び除去ステップについては、上述した実施形態と同じ処理を行ってもよい。この方法によれば、処理対象物Pを移動させなくても、被処理部材Cに対して線状にパルスレーザ光を照射することが可能となる。
或いは、他の態様に係る金属微細構造体の製造方法(第2態様)においては、直線偏光又は円偏光のパルスレーザ光の光軸をレーザ装置の位置を略中心としてスイングさせる(振る)ことにより、被処理部材Cに対して走査させながら、当該被処理部材Cにスポット照射してもよい。このような方法について、より詳細には、出力ステップにおいて、レーザ装置からパルスレーザ光を出力するとともに、直線偏光又は円偏光となるように当該パルスレーザ光の偏光状態をレーザ装置により制御する。そして、照射ステップにおいて、対物レンズを用いてパルスレーザ光を点状に集光して被処理部材Cにスポット照射する。このとき、照射ステップにおいて、処理対象物Pを移動させずに、被処理部材Cへのスポット照射を継続しながら、被処理部材Cに対してパルスレーザ光の光軸をスイングさせることで、パルスレーザ光が処理対象物Pに照射される照射位置を移動させる。被処理部材Cに対してパルスレーザ光の光軸をスイングさせるためには、例えば光軸上にガルバノミラー等を配置してもよく、レーザ装置自体の向きを変化させてもよい。これにより、直線偏光又は円偏光となるように偏光状態を制御されたパルスレーザ光を予め設定された照射パターンで被処理部材Cに照射することとなる。なお、形成ステップ及び除去ステップについては、上述した実施形態と同じ処理を行ってもよい。この方法によれば、処理対象物Pを移動させなくても、被処理部材Cに対して線状にパルスレーザ光を照射することが可能となる。
或いは、他の態様に係る金属微細構造体の製造方法(第3態様)においては、直線偏光又は円偏光のパルスレーザ光を、被処理部材Cに対して走査させずに、当該被処理部材Cにライン照射してもよい。「ライン照射」とは、パルスレーザ光を線状に集光して照射することを意味する。このような方法について、より詳細には、出力ステップにおいて、レーザ装置からパルスレーザ光を出力するとともに、直線偏光又は円偏光となるように当該パルスレーザ光の偏光状態をレーザ装置により制御する。そして、照射ステップにおいて、例えばシリンドリカルレンズ(集光部材)を用いてパルスレーザ光を線状に集光して被処理部材Cにライン照射する。このとき、照射ステップにおいて、処理対象物P及びパルスレーザ光の光軸のいずれも移動させずに、パルスレーザ光を処理対象物Pにライン照射する。これにより、シリンドリカルレンズにより集光された線状のパターンで、パルスレーザ光を被処理部材Cに照射することとなる。なお、形成ステップ及び除去ステップについては、上述した実施形態と同じ処理を行ってもよい。この方法によれば、処理対象物Pを移動させなくても、被処理部材Cに対して線状にパルスレーザ光を照射することが可能となる。
或いは、他の態様に係る金属微細構造体の製造方法(第4態様)においては、直線偏光又は円偏光のパルスレーザ光を被処理部材Cに対して一点照射してもよい。このような方法について、より詳細には、出力ステップにおいて、レーザ装置からパルスレーザ光を出力するとともに、直線偏光又は円偏光となるように当該パルスレーザ光の偏光状態をレーザ装置により制御する。そして、照射ステップにおいて、対物レンズを用いてパルスレーザ光を点状に集光して被処理部材Cにスポット照射する。このとき、照射ステップにおいて、処理対象物P及びパルスレーザ光の光軸のいずれも移動させずに、パルスレーザ光を処理対象物Pにスポット照射する。これにより、直線偏光又は円偏光となるように偏光状態を制御されたパルスレーザ光を走査させずに一点照射する照射パターンで被処理部材Cに照射することとなる。なお、形成ステップ及び除去ステップについては、上述した実施形態と同じ処理を行ってもよい。この方法によれば、被処理部材Cに対して点状にパルスレーザ光を照射することが可能となる。
ここで、第4態様においては、レーザ装置の位置を移動させることで、被処理部材Cへのパルスレーザ光のスポット照射を被処理部材C上の互いに異なる複数の点に順次行ってもよい。すなわち、まず、直線偏光又は円偏光のパルスレーザ光を出力し、被処理部材Cに対して走査させずに、当該被処理部材Cに第1回目のスポット照射を行う。続いて、被処理部材Cへのスポット照射を停止した状態で、レーザ装置の位置を移動させる。続いて、直線偏光又は円偏光のパルスレーザ光を再度出力し、被処理部材Cに対して走査させずに、当該被処理部材Cの前回とは異なる位置に第2回目のスポット照射を行う。以下、この操作を繰り返してもよい。これにより、直線偏光又は円偏光となるように偏光状態を制御されたパルスレーザ光を走査させずに照射する照射パターンで、被処理部材C上の互いに異なる複数の点のそれぞれに順次一点照射することとなる。なお、形成ステップ及び除去ステップについては、上述した実施形態と同じ処理を行ってもよい。この方法によれば、処理対象物Pを移動させなくても、被処理部材Cの互いに異なる複数の点に対して、順次、点状にパルスレーザ光を照射することが可能となる。
また、第4態様においては、レーザ装置の位置を略中心としてパルスレーザ光の光軸をスイングさせることにより、被処理部材C上の互いに異なる複数の点にパルスレーザ光のスポット照射を順次行ってもよい。すなわち、まず、直線偏光又は円偏光のパルスレーザ光を出力し、被処理部材Cに対して走査させずに、当該被処理部材Cに第1回目のスポット照射を行う。続いて、処理対象物Pを移動させずに、被処理部材Cへのスポット照射を停止した状態でパルスレーザ光の光軸をスイングさせることで、パルスレーザ光が処理対象物Pに照射される照射位置を移動させる。パルスレーザ光の光軸をスイングさせるためには、例えば光軸上にガルバノミラー等を配置してもよく、レーザ装置自体の向きを変化させてもよい。続いて、直線偏光又は円偏光のパルスレーザ光を再度出力し、被処理部材Cに対して走査させずに、当該被処理部材Cの前回とは異なる位置に第2回目のスポット照射を行う。以下、この操作を繰り返してもよい。これにより、直線偏光又は円偏光となるように偏光状態を制御されたパルスレーザ光を走査させずに照射する照射パターンで、被処理部材C上の互いに異なる複数の点のそれぞれに順次一点照射することとなる。なお、形成ステップ及び除去ステップについては、上述した実施形態と同じ処理を行ってもよい。この方法によれば、処理対象物Pを移動させなくても、被処理部材Cの互いに異なる複数の点に対して、順次、点状にパルスレーザ光を照射することが可能となる。
また、第4態様においては、複数のレーザ装置を用いることにより、被処理部材Cへのパルスレーザ光のスポット照射を、被処理部材C上の互いに異なる複数の点に同時に行ってもよい。すなわち、複数のレーザ装置のそれぞれにより、直線偏光又は円偏光のパルスレーザ光を出力し、被処理部材Cに対して走査させずに、当該被処理部材Cにスポット照射を行う。これにより、直線偏光又は円偏光となるように偏光状態を制御されたパルスレーザ光を走査させずに照射する照射パターンで、被処理部材C上の互いに異なる複数の点のそれぞれに同時に一点照射することとなる。なお、形成ステップ及び除去ステップについては、上述した実施形態と同じ処理を行ってもよい。この方法によれば、処理対象物Pを移動させなくても、被処理部材Cの互いに異なる複数の点に対して、同時に、点状にパルスレーザ光を照射することが可能となる。
或いは、他の態様に係る金属微細構造体の製造方法(第5態様)においては、直線偏光又は円偏光のパルスレーザ光を複数のパルスレーザ光に分岐させることで、被処理部材Cへのパルスレーザ光のスポット照射を、被処理部材C上の互いに異なる複数の点に同時に行ってもよい。このような方法について、より詳細には、出力ステップにおいて、レーザ装置からパルスレーザ光を出力するとともに、直線偏光又は円偏光となるように当該パルスレーザ光の偏光状態をレーザ装置により制御する。そして、照射ステップにおいて、例えばマイクロレンズアレイ(集光部材)を用いてパルスレーザ光を複数のパルスレーザ光に分岐させるとともに点状に集光して、被処理部材C上の互いに異なる複数の点に同時にスポット照射する。このとき、照射ステップにおいて、処理対象物P及びパルスレーザ光の光軸のいずれも移動させずに、パルスレーザ光を処理対象物Pにスポット照射する。これにより、直線偏光又は円偏光となるように偏光状態を制御されたパルスレーザ光を走査させずに照射する照射パターンで、被処理部材C上の互いに異なる複数の点のそれぞれに同時に一点照射することとなる。なお、形成ステップ及び除去ステップについては、上述した実施形態と同じ処理を行ってもよい。この方法によれば、処理対象物Pを移動させなくても、被処理部材Cの互いに異なる複数の点に対して、同時に、点状にパルスレーザ光を照射することが可能となる。