以下、本発明に係る画像形成装置を図面に則して更に詳しく説明する。
[実施例1]
1.画像形成装置の全体的な構成及び動作
図1は、本実施例の画像形成装置50の概略断面図である。本実施例では、画像形成装置50は、A4サイズ(210mm×297mm)までの大きさの記録材15への画像の出力に対応した、解像度が主走査方向600dpi×副走査方向400dpi、プリント速度が20ppmのレーザプリンタである。
画像形成装置50は、トナー像を担持する像担持体としての回転可能な感光体(電子写真感光体)である感光ドラム1を有する。感光ドラム1は、感光体駆動手段(図示せず)によって図中矢印R1(反時計回り)に回転駆動される。回転する感光ドラム1の表面は、帯電手段としてのローラ型の帯電部材である帯電ローラ2によって、所定の極性(本実施例では負極性)の所定の電位に一様に帯電処理される。帯電工程時に、帯電ローラ2には、帯電電圧印加手段としての帯電電源E1によって、負極性の直流電圧である帯電バイアス(帯電電圧、帯電DCバイアス)が印加される。
帯電処理された感光ドラム1の表面は、露光手段としての露光装置(光走査装置、光学走査ユニット)400によって走査露光され、感光ドラム1上に潜像(静電潜像)が形成される。露光装置400内には、レーザ駆動手段としてのレーザ駆動部300が設けられている。レーザ駆動部300は、画像信号生成部100から出力された画像信号に基づいて、走査光(レーザ光)Lを出射する。そして、露光装置400は、感光ドラム1をレーザ光Lで走査することで、感光ドラム1の表面に潜像を形成する。
感光ドラム1上に形成された潜像は、現像手段としての現像装置4によって現像剤としてのトナーが供給されて現像(可視化)され、感光ドラム1上に潜像に対応したトナー像(現像剤像)が形成される。本実施例では、一様に帯電処理された後に露光されることで電位の絶対値が低下した感光ドラム1上の露光部に、感光ドラム1の帯電極性と同極性(本実施例では負極性)に帯電したトナーが付着する(反転現像)。つまり、本実施例では、現像時のトナーの帯電極性であるトナーの正規の帯電極性は負極性である。現像装置4は、トナーを担持して感光ドラム1との対向部へと搬送する現像剤担持体としての現像ローラ41を有する。現像工程時に、現像ローラ41には、現像電圧印加手段としての現像電源E2によって、負極性の直流成分(現像DCバイアス)を含む現像バイアス(現像電圧)が印加される。
感光ドラム1に対向して、転写手段としてのローラ型の転写部材である転写ローラ5が配置されている。転写ローラ5は、感光ドラム1に向けて付勢され、感光ドラム1と転写ローラ5とが接触する転写ニップ(転写部)Ntを形成する。上述のように感光ドラム1上に形成されたトナー像は、転写ニップNtにおいて、感光ドラム1と転写ローラ5とに挟持されて搬送される紙などの記録材(転写材、記録媒体、シート)15に転写される。転写工程時に、転写ローラ5には、転写電圧印加手段としての転写電源E3によって、トナーの正規の帯電極性とは逆極性(本実施例では正極性)の直流電圧である転写バイアス(転写電圧、転写DCバイアス)が印加される。記録材15は、カセット7に収容されており、カセット7から給送ローラ8によって給送され、搬送ローラ9によって転写ニップNtに供給される。
トナー像が転写された記録材15は、定着手段としての定着装置10へと搬送される。定着装置10は、加熱源を備えた加熱回転体10aと、加熱回転体10aに圧接する加圧回転体10bと、を有する。加熱回転体10aと加圧回転体10bとは互いに当接して定着ニップNfを形成する。定着装置10は、定着ニップNfで記録材15を挟持して搬送しながら加熱及び加圧することで、トナー像を記録材15に定着(溶融、固着)させる。トナー像が定着された記録材15は、排出ローラ11によって画像形成装置50の装置本体の外部に排出(出力)される。
本実施例では、帯電ローラ2による帯電処理で形成される感光ドラム1の帯電電位Vdは−630Vである。また、本実施例では、現像バイアスの直流成分の電位である現像電位Vdcは−470Vである。また、本実施例では、レーザが1画素内の全領域で発光した場合の感光ドラム1の露光電位Vlは約−150Vである。帯電電位Vdと露光電位Vlとの差が潜像コントラストWである。また、本実施例では、レーザ光のスポットの直径(スポット径)は、後述する走査領域の主走査方向における中央部において70[μm]である。また、本実施例では、1ドット(画素)のサイズは42.3μm(主走査方向)×42.3μm(副走査方向)である。
2.露光装置
図2は、本実施例における露光装置400の断面図であり、図2(a)は主走査断面、図2(b)は副走査断面を示している。なお、「主走査方向」は、後述するポリゴンミラー405の回転によるレーザ光のスポットの感光ドラム1上での移動方向であり、「副走査方向」は、主走査方向に直交する方向である。主走査方向は、感光ドラム1の回転軸線方向(長手方向)と略平行であり、副走査方向は、感光ドラム1の表面の移動方向と略平行である。
レーザ光源401は、半導体レーザチップである。レーザ光源401から出射されたレーザ光Lは、開口絞り402によって楕円形状に整形されて、カップリングレンズ403に入射する。カップリングレンズ403を通過した光束は、略平行光に変換されて、アナモフィックレンズ404に入射する。アナモフィックレンズ404は、主走査断面内において正の屈折力を有しており、主走査断面内においては、入射する光束を収束光に変換する。また、アナモフィックレンズ404は、副走査断面内においては、入射する光束をポリゴンミラー(偏向器、回転多面鏡)405の偏向面(反射面)405aの近傍に集光し、主走査方向に長い線像を形成する。
アナモフィックレンズ404を通過した光束は、ポリゴンミラー405の偏向面405aで反射される。反射面405aで反射された光束は、走査光Lとして、結像レンズ406を透過し、感光ドラム1の表面に入射する。結像レンズ406は、結像光学素子である。本実施例では、単一の結像光学素子(結像レンズ406)のみで、結像光学系が構成されている。結像レンズ406を通過(透過)した光束が入射する感光ドラム1の表面は、光束によって走査される被走査面407である。結像レンズ406によって被走査面407上で光束が結像し、所定のスポット状の像(スポット)を形成する。ポリゴンミラー405を駆動部(図示せず)により図中矢印A方向に一定の角速度で回転させることにより、被走査面407上でスポットが主走査方向に移動し、被走査面407上に潜像を形成する。
ビームディテクト(以下「BD」という。)センサ409及びBDレンズ408は、被走査面407上に潜像を書き込むタイミングを決定する同期用光学系である。BDレンズ408を通過した光束は、フォトダイオードを備えたBDセンサ409に入射し、BDセンサ409によって検知される。BDセンサ409により光束が検知されたタイミングに基づいて、被走査面407上への潜像の書き込みタイミングの制御が行われる。
結像レンズ406は、所謂fθ特性を有していない。つまり、結像レンズ406は、ポリゴンミラー405が等角速度で回転している場合に、結像レンズ406を通過する光束のスポットを被走査面407上で等速に移動させるような走査特性を有していない。fθ特性を有していない結像レンズ406を用いることにより、結像レンズ406を、ポリゴンミラー405に近接して、すなわち、図中距離D1が小さい位置に配置することが可能となる。また、fθ特性を有していない結像レンズ406は、fθ特性を有する結像レンズよりも、主走査方向の大きさ(図中幅LW)及び光軸方向の大きさ(図中厚みLT)を小さくすることができる。これらのことから、本実施例では、露光装置400の小型化が実現されている。
図3は、本実施例における、被走査面407上での主走査方向における走査位置(集光位置)である像高と、部分倍率と、の関係を示すグラフ図である。本実施例では、結像レンズ406がfθ特性を有していないことで、軸上像高から軸外像高に向かうにつれて徐々に走査速度が速くなるため、部分倍率が大きくなっている。なお、被走査面407上の主走査方向における潜像を形成可能な所定の幅(走査幅)Gの領域を走査領域(感光ドラム1上の画像を形成することのできる領域である画像形成領域に対応)とする。軸上像高は、光軸上の像高であり、主走査方向における走査領域の中央部(0mm)を指す。軸外像高は、中心光軸よりも外側の像光であり、主走査方向における走査領域の端部が最軸外像高となる。部分倍率135%は、単位時間だけレーザ光を照射した場合に、被走査面(被照射面)407上での主走査方向における照射長が、部分倍率100%の場合の1.35倍となることを意味している。したがって、画像クロックの周期によって決めた一定の時間間隔で主走査方向の画素幅を決めてしまうと、軸上像高と軸外像高とで画素密度が異なってしまう。
また、像高が、軸上像高から離れて最軸外像高に近づくに連れて、徐々に走査速度が速くなる。これにより、像高が軸上像高付近の場合に被走査面407上の単位長さを走査するのにかかる時間よりも、像高が最軸外像高付近の場合に被走査面407上の単位長さを走査するのにかかる時間の方が短くなる。これは、レーザ光源401の発光輝度が一定であるときに、像高が軸上像高付近の場合の単位長さ辺りの総露光量よりも、像高が最軸外像高付近の場合の単位長さ辺りの総露光量の方が少なくなることを意味する。
このように、上述のような光学構成の場合、主走査方向における部分倍率及び単位長さ辺りの総露光量の差が生じる。特に、上述のような光学構成の場合、ポリゴンミラー405から感光ドラム1までの光路長が短くなるほど、画角が大きくなるため、上述した軸上像高と最軸外像高とで走査速度の差が大きくなる。なお、本実施例の光学構成では、軸上像高(走査領域の中央部)で最も遅い走査速度となり、最軸外像高(走査領域の端部)で最も速い走査速度となる。そのため、上述のような光学構成の場合、主走査方向における部分倍率及び単位長さ辺りの総露光量の差の影響を受ける。そこで、本実施例では、後述するように、部分倍率の補正とレーザ光の発光輝度の補正(画像濃度の補正)とを行う。これにより、良好な画質を得ることを可能とする。
3.露光制御構成
図4は、本実施例における露光制御構成を示すブロック図である。画像信号生成部100は、ホストコンピュータ(図示せず)から印字データを受け取り、対応するVDO信号110を生成する。また、画像信号生成部100は、画像濃度を補正する濃度補正手段としての機能を有する。制御部200は、画像信号生成部100及び画像形成装置50の全体の制御を行う。レーザ駆動部300には、レーザドライバIC(図示せず)が搭載されている。このレーザドライバICは、VDO信号110に基づき、レーザ光源401の発光のON/OFFを制御する。
画像信号生成部100は、画像形成のための画像信号の出力の準備が整ったら、制御部200に印字開始の指示をする。制御部200は、CPU201を有しており、印字の準備が整ったら、副走査同期信号であるTOP信号112と、主走査同期信号であるBD信号111と、を画像信号生成部100に送信する。画像信号生成部100は、上記の同期信号を受信したら、所定タイミングで画像信号であるVDO信号110をレーザ駆動部300に出力する。画像信号生成部100、制御部200及びレーザ駆動部300のそれぞれの主な構成ブロックの作用については後述する。
図5(a)は、記録材15の1ページ分に相当する画像形成動作を行った際の同期信号(BD信号111、TOP信号112)と画像信号(VDO信号110)とのタイミング関係を示すチャート図である。図5(a)において、時間は左から右に向かって経過する。TOP信号112の「HIGH」は、記録材15の搬送方向の先端が所定の位置に到達したことを表す。画像信号生成部100は、TOP信号112の「HIGH」を受信したら、BD信号111に同期して、VDO信号110をレーザ駆動部300に送信する。このVDO信号110に基づいて、レーザ光源401が発光し、感光ドラム1に潜像が形成される。
なお、図5(a)では、図の簡略化のため、VDO信号110が複数のBD信号111を跨いで連続的に出力されているように記載している。しかし、実際には、VDO信号110はBD信号111が出力されてから次のBD信号111が出力されるまでの間の所定の期間に出力されるものである。
4.部分倍率補正
次に、部分倍率の補正(部分倍率補正)について説明する。図5(b)は、BD信号111とVDO信号110とのタイミング関係を示すチャート図、及び被走査面407上の潜像により形成したドットイメージを主走査方向の位置に沿って示した模式図である。図5(b)において、時間は左から右に向かって経過する。
画像信号生成部100は、BD信号111の立ち上がりエッジを受信したら、走査領域の主走査方向における一端(図中左端)から所望の距離だけ離れた位置に潜像を形成できるように、所定タイミング後にVDO信号110を送信する。そして、このVDO信号110に基づいてレーザ光源401が発光し、被走査面407上にVDO信号110に応じた潜像を形成する。
ここで、VDO信号110に基づき、軸上像高及び最軸外像高において同じ期間だけレーザ光源401を発光させてドット形状の潜像を形成した場合について説明する。上述のように、本実施例では、露光装置400は、被走査面407上の走査領域の中央部(軸上像高)の走査速度に比べて端部(最軸外像高)の走査速度が速い光学構成である。この場合、潜像Aに示すように、軸上像高の潜像dot2に比べて、最軸外像高の潜像dot1は、主走査方向に肥大する。潜像dot1、dot2は、軸上像高で600dpiの1ドット(主走査方向42.3μmの幅)に相当する時間だけレーザ光源401を発光させた際に形成されるものである。
そこで、本実施例では、部分倍率補正として、主走査方向の位置に応じてVDO信号110の周期と時間幅とを補正する。すなわち、部分倍率補正により、最軸外像高の発光時間間隔を軸上像高の発光時間間隔に比べて短くし、潜像Bに示すように最軸外像高の潜像dot3と軸上像高の潜像dot4とを同等のサイズにする。このような部分倍率補正によって、主走査方向に関して、実質的に等間隔、等サイズで、各画素に対応する潜像ドットを形成できるようにする。
このような部分倍率補正は、特許文献1に示されるような公知の構成で行うことができる。図4に示すように、制御部200のCPU201から、画像信号生成部100の画像処理部101に対し、主走査方向の位置に応じてVDO信号110の周期や時間幅を補正するためのビデオクロック周波数の変更を、信号VCLK113を用いて指定する。この際、画像処理部101に設けられた、複数の異なる周波数のクロックを出力可能なクロック生成手段(図示せず)が用いられる。図6は、部分倍率補正の一例を示す説明図である(後述する輝度補正の一例も併せて示している。)。図6には、走査速度の変化が35%で、軸上像高を100%としたとき最軸外像高で135%の部分倍率補正が発生する場合の例を示している。図4に示す制御部200のROM202には、露光装置400に関するクロック周波数比が記憶されており、CPU201は、この情報に基づいて、ビデオクロック信号VCLK113を画像処理部101に送信し、クロック周波数を制御する。つまり、図6に示す例の場合、画像処理部101から発信されるVDO信号110のクロック周波数比が、軸上像高を100%としたとき最軸外像高で135%とされる。このとき、レーザ光Lのスポットが、走査面407上を主走査方向に1ドット(画素)の幅(42.3μm)だけ移動する期間は、最軸外像高で軸上像高の0.74倍になる。このような部分倍率補正により、画素幅を補正し、主走査方向に関して実質的に等間隔、等サイズで、各画素に対応する潜像を形成することができる。
5.輝度補正
次に、レーザ光の発光輝度の補正(輝度補正)について説明する。輝度補正を行う理由は、次のとおりである。つまり、部分倍率補正により、像高の絶対値が大きくなるほど、1画素の長さが短くなるよう補正を行う。そのため、レーザ光源401による1画素への総露光量(積分光量)が、像高の絶対値が大きくなるほど低下する。そのため、輝度補正では、レーザ光源401の輝度を補正することで、1画素への総露光量(積分光量)が各像高で一定となるようにする。
図4に示す制御部200は、CPU201と、DAコンバータ(図示せず)と、レギュレータ(図示せず)と、を有しており、該制御部200とレーザ駆動部300とで輝度補正手段を構成する。レーザ駆動部300は、電圧を電流に変換するVI変換回路306と、レーザドライバIC307と、を有し、レーザ光源401の発光部401aへ駆動電流を供給する。本実施例では、発光部401aは、レーザダイオードである。制御部200のROM202には、部分倍率特性情報が保存されていると共に、発光部401aに供給する補正電流の情報が保存されている。
制御部200は、ROM202に格納された発光部401aに対する補正電流の情報に基づき、BD信号111に同期して、一走査内で増加減する輝度補正アナログ電圧312を出力する。この輝度補正アナログ電圧312は、後段のVI変換回路306で電流値に変換され、レーザドライバIC307に出力される。
レーザドライバIC307は、発光部401aの光量のモニタ用にレーザ光源401に設けられたフォトディテクタ(図示せず)によって検知される輝度が所望の輝度となるように、レーザドライバIC307の内部の回路によりフィードバック制御を行う。これにより、レーザドライバIC307は、発光部401aの光量を自動調整する。つまり、レーザドライバIC307は、所謂APC(Auto Power Control)を行う。図6は、輝度補正の一例を示す説明図である(上述の部分倍率補正の一例も併せて示している。)。図6に示すように、発光部401aの輝度の自動調整は、一走査毎に、印字領域(走査領域)外でBD信号を検知するために発光部401aを発光させている間に実施する。
発光部401aの輝度補正は、次のような方法で行う。つまり、最軸外像高における輝度を得るために必要な電流をAPCで自動調整する。また、ROM202に格納された発光部401aに対する補正電流の情報に基づいて輝度補正アナログ電圧312を制御し、上記APCで自動調整した発光部401aの駆動電流から所定電流分差し引く。これにより、図6に示すように、像高の絶対値が大きくなるほど、輝度が大きくなるように、発光部401aの光量の補正を行う。このような輝度補正により、レーザ光源401の輝度は、最軸外像高で100%としたときに、軸上像高が74%(≒100%/135%)となり、1画素への総露光量(積分光量)が各像高で一定となるように補正を行うことができる。
6.1ドット露光時の光量分布
本実施例では、上述のように、主走査方向の倍率の補正と1画素への総露光量が各像高で一定となるような補正とを行っているが、レーザ光のスポット径に関しては、主走査方向における走査領域の中央部と端部とで同一とはならない。これは、該中央部と端部とで光路長の違いがあると共に、結像レンズ406によって被走査面407上に結像させるレーザ光Lのスポットの形状を最軸外像高と軸上像高とで完全に一致させられないためである。その結果、本実施例では、露光装置400の被走査面407上におけるスポット径は、軸上像高部において70μm、最軸外像高において90μmとなっている。
図7(a)は、軸上像高でのスポット径(70μm)に対応した被走査面407上のレーザ光のスポットの光量分布を示す。また、図7(b)は、最軸外像高でのスポット径(90μm)に対応した被走査面407上のレーザ光のスポットの光量分布を示す。このレーザ光のスポットの光量分布は、ガウス分布を有するものとして近似している。
図8は、上述のスポット径において1画素に渡りレーザ走査し、1ドットを形成した際の主走査LSFプロファイルを示す。主走査LSFプロファイルとは、上述の光量分布(光波形)で被走査面407上に形成されたスポットのプロファイルを、主走査方向に該スポットを移動させて主走査方向に積分したものである。つまり、図8に示す主走査LSFプロファイルは、図7に示した光量分布のスポットを主走査方向に移動させながら露光した際の総露光量(積分光量)を示すものである。図8(a)は軸上像高の主走査LSFプロファイル、図8(b)は最軸外像高の主走査LSFプロファイルである。図8(c)は、図8(a)、(b)に示した軸上像高と最軸外像高の1ドットの主走査LSFプロファイルを重ねて記載したものである。なお、本実施例では、解像度は主走査方向600dpiであり、1ドット(画素)の主走査方向の幅は42.3μmである。
図8(c)に示すように、1ドットの主走査LSFプロファイルを比較すると、最軸外像高の方が、軸上像高に比べて、積算光量のピークが低く、プロファイルの裾野部分の幅が広くなっていることがわかる。つまり、軸上像高と最軸外像高とで完全に主走査LSFプロファイルを一致させることができていないことがわかる。また、軸上像高から最軸外像高に向けて徐々に積算光量のピークが低くなり、プロファイルの裾野部分の幅が広くなる傾向となる。
このように、軸上像高と最軸外像高とで1ドットの主走査LSFプロファイルが異なるのは、図8(a)、(b)にそれぞれ破線で示したそれぞれのスポット径に対応して、光量分布が異なるからである。
7.1ドット露光時の感光ドラム電位
次に、上述のようにレーザ光のスポット径の差による露光量の差があるときの1ドット露光時の感光ドラム1の露光電位の差について説明する。
スポット径がF[μm]で、露光幅がS[μm]であるとき、そのピーク光量比は誤差関数erf(error function)を用いて下記式(1)で計算できる。
ただし、ベタ画像の露光時のピーク光量はS=∞として計算することができる。また、軸上像高におけるスポット径(F=φ1)でのベタ画像の露光時の光量をLffc、最軸外像高におけるスポット径(F=φ2)でのベタ画像の露光時の光量をLffeとすると、Lffc=Lffe=1となる。
ベタ画像の露光時の潜像コントラストをW[V]とすると、軸上像高と最軸外像高とでの1ドット(画素)露光時に形成されるピーク電位(露光電位のピーク値、潜像ピーク電位)の差Decは、次のLc、Leを用いて、下記式(2)で計算できる。Lcは、軸上像高部のスポット径(F=φ1)での1ドット(画素)露光時のピーク光量であり、Leは、最軸外像高部のスポット径(F=φ2)での1ドット(画素)露光時のピーク光量である。
Dec=W*(1−Lc)−W*(1−Le) ・・・(2)
ただし、W*(1−Lc)は、軸上像高での1ドットの露光時のピーク電位
W*(1−Le)は、最軸外像高での1ドットの露光時のピーク電位
これを整理すると、下記式(3)となる。
つまり、スポット径がφ1の場合とφ2の場合とでは、1ドット(画素)露光時のピーク電位の差が上記Decだけ生じることとなる。なお、本実施例では、1ドット(画素)の露光幅Sは、上述のように主走査方向600dpiの1ドット(画素)の主走査方向の幅42.3μmである。この1ドット(画素)露光時のピーク電位の差Decは、現像工程において露光電位部に付着するトナー量の差を生じさせる原因となり得る。
本実施例の画像形成装置50では、マイナス帯電トナーを用いて反転現像を行う。この画像形成装置50において、仮に、同じ帯電電位Vd(ここでは、Vd=−630V)に対して、異なるスポット径(F=70μm、F=90μm)で1ドット(画素)を露光した場合の感光ドラム1の露光電位Vlのモデル図を図9(a)、(b)に示す。図9(a)に示した軸上像高を想定したスポット径F=70μmで露光した場合のピーク電位Vlcは−375[V]である。一方、図9(b)に示した最軸外像高を想定したスポット径F=90μmで露光した場合のピーク電位Vleは−411[V]である。図9(b)には、比較のため図9(a)に示したピーク電位Vlcを重ねて示している。図9(b)より、VlcとVleとの間に36[V]の電位差が生じることがわかる。
これに対して、現像電位Vdc(ここでは、Vdc=−470V)で現像を行うと、上記ピーク電位Vlc、Vleのそれぞれと、現像電位Vdcと、の差分に対応して、露光電位部にトナーが付着することになる。つまり、帯電電位Vd(=−630V)に対しては、マイナス帯電トナーは付着しない。一方、図9(a)、(b)に示したスポット径F=70μm、F=90μmで露光した場合の感光ドラム1の露光電位Vlに対しては、それぞれ現像電位Vdc(=−470V)との電位差が異なるため、付着するトナー量に差が生じる。スポット径F=70μmで露光した場合のピーク電位Vlc(=−375[V])と現像電位Vdc(=−470[V])との差は95[V]である。スポット径F=90μmで露光した場合のピーク電位Vle(=−411[V])と現像電位Vdc(=−470[V])との差は59[V]である。ピーク電位Vlc、Vleと現像電位Vdcとの電位差が大きいほど、その電位を埋めるために必要なトナー量が多くなるので、露光電位部に付着するトナー量は多くなる。したがって、スポット径F=90μmで露光した1ドット(画素)の潜像(Vle=−411[V])の方が、スポット径F=70μmで露光した1ドット(画素)の潜像(Vlc=−375[V])よりも付着するトナー量が少なくなる。そのため、前者の方が、後者よりも画像濃度が相対的に薄くなる。
8.画像処理フロー
次に、本実施例の画像形成装置50の画像処理フローについて説明する。図10は、プリント時の画像処理フローを説明する機能ブロック図である。画像処理部101は、濃度補正処理部101z、中間調処理部101a、位置制御部101b、PWM制御部101cを有し、以下に説明する画像処理フローを実行する。
本実施例の画像形成装置50は、ディザ法に基づく階調変換を行い連続的なハーフトーン画像を得る画像処理を行う。ホストコンピュータ(図示せず)からの印字データは、一旦、メモリ114に蓄えられる。そして、濃度補正処理部101zで画像形成装置50に合わせた所定の濃度補正処理を終えた印字データが、中間調処理部101aに送られる。中間調処理部101aは、ビット深さ8ビット(256階調)の印字データを多値ディザ処理して、ビット深さ5ビット(32階調)の画像データに変換する。位置制御部101bは、中間調処理部101aが多値ディザ処理に用いたディザマトリクスに対応する位置制御マトリクスを用いて、ドットの成長方向を表す2ビットの位置制御データを、中間調処理部101aが出力する画像データに付加する。PWM制御部101cは、位置制御データが付加された7ビットの画像データを、PWM制御を行ってパルス信号であるVDO信号に変換し、レーザ駆動部300へ出力する。
このようなディザ法を用いた画像処理フローにより、印字データを、画像形成装置50において適切に階調表現するためのハーフトーン処理を行った露光用のVDO信号へ変換する。
(中間調処理)
中間調処理部101aによる多値(5ビット)ディザ処理について説明する。ディザマトリクスは複数の画素の集合体であり、図11(a)には、一例として、主走査方向(図の左右方向)に3画素、副走査方向(図の上下方向)に3画素ずつ計9個の画素(画素a〜i)から構成されるディザマトリクスを示す。図中の1マスは1画素である。図12は、図11(a)に示したディザマトリクスを構成する画素毎の階調のレベル(レベル1〜31)と、それに対応して設定された閾値と、を示すテーブルである。なお、図12に示す各画素に対応するテーブル(それぞれレベル列と閾値列とで構成される。)は、図11(a)に示した画素配置と同じ配置で示されている。
中間調処理部101aは、各座標に8ビット(256階調:0〜255)の階調値が割り当てられている入力画像データ(印刷データ)の各座標に対して、上述したディザマトリクスを割り当てる処理を行う。中間調処理部101aは、各座標の階調値に基づいて、その座標に割り当てられるディザマトリクスを構成する各画素に5ビットの出力データを付与し、出力画像データを生成する。つまり、階調値が1以上の場合、図12に示すテーブルに基づいて、入力画像データの各座標の階調値と、ディザマトリクスを構成するそれぞれの画素に設定された閾値と、を比較する。そして、レベル1〜31の中から、階調値が対応する閾値以上、かつ、1レベル上の閾値未満のレベルを選択し、それを各画素の出力データとする。複数のレベルにまたがり同一の閾値が記載されている場合は、1レベル上の閾値未満であり、かつ、同一閾値の中では最も高いレベルを各画素の出力データとする。出力される画像データは各画素にレベル0〜31のいずれかに対応する5ビットのデータが割り当てられた画像データとなる。
(位置制御)
位置制御部101bが位置制御データを付加する処理について説明する。図11(b)は、位置制御部101bが位置制御データの付加に用いる位置制御マトリクスの一例を示す図である。位置制御マトリクスとは、ディザマトリクスを構成する各画素(画素a〜i)のそれぞれに対応して設定された位置制御データのテーブルである。位置制御データは、「R」、「C」、「L」の3つの値のいずれかであり、2ビットで表現されるデータである。つまり、R=‘01’、C=‘00’、L=‘10’のように設定されている。「R」、「C」、「L」は、画素内でのドットの位置、及びその成長方向を表す。「R」は画素の右端に配置され、左端に向う成長を行い、「C」は画素の中央に配置され、両端に向かう成長を行い、「L」は画素の左端に配置され、右端に向かう成長を行うこと意味する。
位置制御部101bは、ディザ処理後の画像データの各ディザマトリクスを構成する各画素に、位置制御データのテーブルに基づき2ビットの位置制御データを付加して、各画素に計7ビットのデータが割り当てられた画像データを出力する。なお、位置制御データは、ディザ処理後の画像データのMSB(Most Signigicant Bit)側に付加される。
(PWM処理)
PWM制御部101cによるPWM処理について説明する。図13は、各画素に割り当てられたデータ(7ビット)と、PWM処理によって生成するパルス信号と、の関係を示すテーブルの一例を示す。このテーブルでは、パルス信号の幅(PWM値)と、パルスの位置(図13では波形で示した。)に関する情報と、が関係付けられている。PWM制御部101cは、入力される画像データの各画素に割り当てられた7ビットのデータを、下位5ビットのデータ(レベル値:0〜31)と、上位2ビットのデータ(位置制御データ:C、L、R)と、に分けてPWM処理を行い、パルス信号を生成する。
PWM値は、各レベル0〜31に対し、0〜255の間の整数値が割り当てられる。パルス位置は、パルス信号を同期させる画素間隔を定義する画像クロックの基準位置(例えば1画素の起点)からのパルス立ち上がり位置の遅延量に相当する情報である。図13に示すテーブルでは、レベル0(非発光)からレベルが上がると共に、位置制御データに対応するパルス位置と成長方向でパルスの幅が太くなるように設定されている。そして、レベル17に到達すると、PWM値が255となり、全画素幅で発光する。一方、レベル17から更にレベルが上がると、パルスの幅が細くなるように設定されている。そして、レベル24に到達すると、PWM値が150になる。また、レベル24から更にレベルが上がると、パルスの幅が再び太くなるように設定されている。そして、レベル31に到達すると、PWM値が255となり、全画素幅で発光する。
このような処理を行うことにより、7ビットの画像データをパルス信号であるビデオ信号に変換する。
なお、上述した画像処理に用いられる、図11(a)、図12、図11(b)、図13に示す各テーブルは、階調毎に設けられるディザマトリクスに関する情報であり、画像処理部101に付属のROM102に保持されている。
(ディザマトリクスの成長図)
図14は、上記画像処理フローで各階調値のハーフトーン画像を処理した際の出力結果をディザマトリクス単位で示したディザ成長図であり、階調値0、10、19、29、38、48、57、67、76、86、95、105、114、124、133、143、152、162、171、181、190、200、209、218、228、237、246、255に対応するディザマトリクスの発光パターンを示している。図中の1マスは1画素である。図中、各マス内の塗りつぶし部分は露光手段が発光する領域である。同図に示すような画像処理により、良好なハーフトーン階調特性が得られる。
階調値0では、全画素がレベル0で、非発光である。
階調値0(第四階調に対応した第四ディザマトリクス)から階調値143(第三階調に対応した第三ディザマトリクス)にかけては、画素a、c、g、iがレベル0に留まる。一方で、画素b、d、e、f、h(第一座標)のレベルは進行し、画素毎に図13で定まる所定の成長方向の下で発光(露光領域)幅が単調に増大する。
階調値143では、画素b、d、e、f、hがレベル17に到達し、PWM値が255となり、全発光となる。
階調値143(第一階調に対応した第一ディザマトリクス)から階調値171(第二階調に対応した第二ディザマトリクス)にかけては、画素a、c、g、iのレベルが進行し、画素毎に図13で定まる所定の成長方向の下で発光(露光領域)幅が単調に増大する。一方で、画素b、d、e、f、h(第一座標)のレベルも進行し、画素毎に図13で定まる所定の成長方向の下で発光(露光領域)幅が単調に減少する。
階調値171では、画素a、c、g、iがレベル10に到達し、PWM値が150となり、各画素が発光している。また、画素b、d、e、f、hはレベル24に到達し、PWM値が150まで低下し、各画素が発光している。つまり、全画素がPWM値150で発光している。
階調値171から階調値255にかけては、全画素のレベルが進行し、画素毎に図13で定まる所定の成長方向の下で発光幅が単調に増大する。
階調値255では、全画素がレベル31に到達し、PWM値が255となり、全発光となる。
以上のように、本実施例の画像処理フローにおけるディザ処理では、低階調域、つまり階調値0から階調値143にかけての階調域においては、各画素の発光域が互いに距離を置かず、隣接した状態で成長している。このような成長方法の元では、発光位置に対応する感光ドラム1上の位置に潜像が形成されてトナー像が現像される際、階調増加に伴いトナーサイズが急激に成長し(大きくなり)、ハーフトーン画像濃度が急上昇する現象、いわゆる階調飛びが生じることが良好に防止される。低階調域では、濃度変化に対する人間の視覚的感度が高いため、良好な画像品位を得るために階調飛びの防止は重要である。
一方、中間階調域、つまり階調値143から階調値171にかけた階調域においては、階調増加と共に、既に発光している画素が発光幅を縮小し、未発光の画素が発光幅を拡大する。これにより、ハーフトーン画像濃度を上昇させると同時に、ディザマトリクスを構成する各画素に発光域を分散させ、階調値171に至った際には全画素が発光した状態を得ることができるようになる。
更に、高階調域、つまり階調値172以上の階調域においては、全画素が発光する状態を維持したまま各画素がその発光幅を拡大し、階調値255になると全画素が全発光した状態となる。
9.転写構成
次に、本実施例における転写構成について説明する。図15(a)は、本実施例における転写ニップNtの近傍の構成を記録材15の搬送方向と略平行に見た様子を示す側面図である。
本実施例では、転写装置14は、転写部材としての転写ローラ5と、支持部材としての転写ローラ軸受け12と、付勢部材としての加圧バネ13と、を有する。また、転写ローラ5には、転写電源E3(図1)により転写バイアスが印加される。転写ローラ5は、感光体1に当接して転写ニップNtを形成し、電圧が印加されて、転写ニップNtを通過する記録材15に感光体1からトナー像を転写させる転写部材の一例である。
本実施例では、転写ローラ5は、軸部材としての金属製の外径4mmのローラ軸5aと、このローラ軸5aの外周に設けられた弾性部としての弾性層5bと、を有する。本実施例では、ローラ軸5aは、鉄やステンレスなどの金属で構成された円柱状(棒状)の部材である。また、本実施例では、弾性層5bは、連続気泡を有する導電性のウレタンゴム層である。また、本実施例(特に、後述する実施例1−1)では、転写ローラ5は、ストレート形状、すなわち、回転軸線方向(長手方向)の全域で外径が略同一であり、その外径は10mmである。この転写ローラ5は、回転軸線方向の両端部において、それぞれローラ軸5aが転写ローラ軸受け12によって回転可能に支持されている。そして、この転写ローラ5は、回転軸線方向の両端部において、それぞれ転写ローラ軸受け12を介して加圧バネ13により感光ドラム1に向けて所定の荷重で付勢され、感光ドラム1に圧接されている。
転写ローラ5は、回転軸線方向の両端部で付勢されることによって、ローラ軸5aにわずかに撓みが生じる。これにより、転写ローラ5と感光ドラム1との当接部で形成される転写ニップNtは、その幅(ここでは「転写ニップ幅」ともいう。)が長手方向の中央部よりも端部の方が大きい逆クラウン形状を有する。なお、転写ニップ幅は、転写ローラ5、感光ドラム1の表面の移動方向における転写ニップNtの長さである。また、転写ニップNtの長手方向は、転写ローラ5、感光ドラム1の回転軸線方向(主走査方向に対応)と略平行である。
図15(b)は、転写ニップNtの長手方向の形状を示す模式図である。同図に示すように、転写ニップNtの長手方向の中心位置A−A’での転写ニップ幅をN1、転写ニップNtの長手方向の端部位置B−B’での転写ニップ幅をN2とすると、N1<N2の関係となっている。なお、転写ニップNtの長手方向の中心位置は、より詳細には、感光ドラム1上の画像形成領域(走査領域に対応)の主走査方向における中央部に対応する。また、転写ニップNtの長手方向の端部位置は、より詳細には、感光ドラム1上の画像形成領域(走査領域に対応)の主走査方向における端部に対応する。ここで、転写ニップ幅は、染料を転写ローラ5の表面に塗り、転写ローラ5を感光ドラム1に当接させて、離間させた後に、感光ドラム1上に付着した染料の幅を測定するという方法で求めた。本実施例では、このようにして測定した転写ニップNtの長手方向の中心位置における転写ニップ幅N1は1.5mm、端部位置における転写ニップ幅N2は1.65mmであった。
10.感光ドラム電位変化
次に、感光ドラム1の電位の変化について説明する。図16は、感光ドラム1の層構成を示す模式的な断面図である。感光ドラム1は、導電性の基体1a上に感光層1bを有する。一例として、基体1aは、アルミシリンダで構成される。基体1aは、電気的に接地されている。また、一例として、感光層1bは、基体1a側から電荷発生層、電荷輸送層が順次積層されて構成される。基体1aと感光層1bとの間に抵抗層、感光層1bの上に保護層などの他の層が設けられていてもよい。また、感光層1bは、単層であってもよい。感光ドラム1の膜厚とは、基体1aの上に設けられた層の全体(一例として、電荷発生層と電荷輸送層とで構成される感光層1b)の厚さであるものとする。また、感光ドラム1の誘電率とは、基層1aの上に設けられた層の全体(一例として、電荷発生層と電荷輸送層とで構成される感光層1b)の誘電率であるものとする。
画像形成時には、感光ドラム1の表面は、負極性の帯電DCバイアスが印加された帯電ローラ2により、負極性の所定の電位に帯電処理される。感光ドラム1の表面は、感光ドラム1の回転によって、転写ニップNtに到達する。転写ニップNtでは、転写ローラ5に正極性の転写DCバイアスが印加されているため、電気的に接地されている感光ドラム1に対して数[μA]〜数十[μA]の転写電流が流れる。この時、感光ドラム1上に電荷が保持されていると、転写ニップNtにおいて、この転写電流によって電荷の移動が起こり、わずかに電位の変動が生じる。そして、この時、転写ニップ幅が異なると、転写電流が流れる時間が異なるため、転写ニップNtを通過した後の感光ドラム1の電位にも差が生じることとなる。転写ニップNtを通過した感光ドラム1は再び帯電ローラ2によって帯電処理される。しかし、特に、帯電ローラ2に印加される帯電バイアスがDCバイアスの場合には、上記の電位差を消し去ることができず、所望の帯電電位Vdの近傍に帯電されるものの、電位差が保持されたままとなることがある。
本実施例では、主走査方向の位置に応じたスポット径の違いにより生じる露光電位Vlの差を、その主走査方向の位置に対応する転写ニップNtの長手方向の位置に応じて転写ローラ5から転写電流が流れる時間を最適化することによって解消する。すなわち、本実施例では、上記主走査方向の位置に応じたスポット径の違いにより生じる露光電位Vlの差を、その主走査方向の位置に対応する転写ニップNtの長手方向の位置に応じて転写ニップ幅を最適化することによって解消する。
11.1ドット露光時の感光ドラム電位補償構成
次に、画像濃度の差を発生させる感光ドラム1の露光電位の差を解消するために必要な条件について説明する。
スポット径(φ1とφ2)の差異によって生じる1ドット露光時の露光電位の差は、上述した通り、下記式(3)で表すことができる。
これに対して、この露光電位の差を解消するために必要な電流Jecは、感光ドラム1の静電容量Cに依存しており、下記式(4)で表すことができる。
ここで、上記式(4)中の静電容量Cは、下記式(5)で表すことができる。
ただし、ε0は、真空の誘電率
εrは、感光ドラムの比誘電率
T[mm]は、感光ドラムの膜厚
P[mm/s]は、プロセス速度(感光ドラムの表面の移動速度(周速度))
上記式を変形すると、下記式(6)が得られる。
上記式(6)を満たすことができれば、スポット径(φ1とφ2)の差異によって生じる1ドット露光時の感光ドラム1の露光電位の差を解消することができる。
一方、電流Jecを流すために必要な転写ニップ幅の差分をNec[mm]とする。また、転写時(より詳細には転写バイアス印加時)に転写ニップNtに流れる転写電流の総和である転写電流総量をI[μA]とする。また、転写ニップNtの長手方向の長さの全長をX[mm]とする。また、平均転写ニップ幅をN[mm]とする。また、転写ニップNtの長手方向の単位長さ当たりの転写電流をJ[μA/mm]とする。このとき、Necは、下記式(7)で表すことができる。
ここで、転写ニップ幅の差分Nec、平均転写ニップ幅Nは、スポット径φ1に対応する位置での転写ニップ幅をN1とし、スポット径φ2に対応する位置での転写ニップ幅をN2とすると、それぞれ下記式(8)、下記式(9)で表すことができる。
Nec=N2−N1 ・・・(8)
N=(N2+N1)/2 ・・・(9)
これらのパラメータを、前述の式(6)、すなわち、
に代入して整理すると、下記式(10)となる。
上述の式(6)の左項「Dec」は、スポット径φ1、φ2の違いで生じた感光ドラム1の露光電位の差を表している。また、右項「Jec/C」は、スポット径φ1に対応する位置での転写ニップ幅をN1とし、スポット径φ2に対応する位置での転写ニップ幅をN2としたときの転写ニップ幅の差分(Nec)で生じる感光ドラム1の露光電位の差を表している。つまり、これら「Dec」と「Jec/C」との差を0とすれば、スポット径がφ1とφ2というように異なっていたとしても、1ドット露光時のピーク電位(露光電位のピーク値)を等しくすることができることを意味している。
露光電位Vlは、完全に一致させることが好ましいが、人間の視覚にてハーフトトーン濃度差が認識される視認限界以下であれば、実使用上問題は生じない。そこで、画像サンプルの評価を行い、許容可能な露光電位Vlの差の範囲を確認した。画像評価に用いた本実施例に従う画像形成装置50のプロセス速度Pは118[mm/s]、感光ドラム1の膜厚Tは10[μm]、感光ドラム1の比誘電率は3(真空の誘電率は8.85×10−12[F/m])である。評価用の画像としては、孤立1ドットで形成される平均画像濃度0.24の全面ハーフトーン画像を使用した。画像濃度は、濃度計(X−Rite社製504A)を用いて測定した。平均画像濃度0.24のハーフトーン画像の面内での最大濃度差が3.0%を超えると、濃度ムラが認識されるようになる。したがって、面内での最大濃度差が3.0%を超えた場合を濃度ムラ評価「×(不良)」、3.0%以内の場合を濃度ムラ評価「○(良好)」とした。
また、スポット径は、次のようにして測定することができる。つまり、レーザダイオードに対し実際の露光位置と同じ位置にCCD素子を配置して、CCD素子上を露光する。そして、そのときの発光光量分布をCCD素子により測定し、該分布において光量がピーク光量の1/e2となっている幅(主走査方向)をスポット径として測定することができる。
軸上像高でのスポット径φ1=70[μm]、最軸外像高でのスポット径φ2=90[μm]となる露光装置400を用い、複数の転写ローラ5を用意して転写ニップ幅N1、N2を下記に示した組み合わせとした構成で、濃度ムラの評価を行った。ここで、実施例1−1で使用した転写ローラ5は、ストレート形状である。一方、実施例1−2、1−3、比較例1〜3で使用した転写ローラ5は、逆クラウン形状を調整することによって所望の転写ニップ幅のとなるようにした。
実施例1−1:N1=1.5[mm]、N2=1.65[mm]
実施例1−2:N1=1.5[mm]、N2=1.90[mm]
実施例1−3:N1=1.5[mm]、N2=2.20[mm]
比較例1:N1=1.5[mm]、N2=1.50[mm]
比較例2:N1=1.5[mm]、N2=1.60[mm]
比較例3:N1=1.5[mm]、N2=2.25[mm]
表1は、これらの実施例1−1、1−2、1−3、及び比較例1〜3の構成、主走査方向における感光ドラム1の電位の差の大小を表すDec−Jec/C[V]、ハーフトーン画像の面内最大濃度差、及び濃度ムラの評価結果を示す。
表1より、濃度ムラの評価結果は、感光ドラム1の電位の差を表すDec−Jec/C[V]の値と相関があることがわかる。前述のように、Dec−Jec/Cが0の場合、主走査方向の位置に応じたスポット径の違いによる感光ドラム1の露光電位の差が、該当位置の転写ニップ幅の違いによって解消されていることを意味する。Dec−Jec/Cの値がプラスの場合は、主走査方向の位置に応じたスポット径の違いによる感光ドラム1の露光電位の差が転写ニップ幅の違いによって完全には解消されていない状態である。一方、Dec−Jec/Cの値がマイナスの場合は、主走査方向の位置に応じたスポット径の違いによる感光ドラム1の露光電位の差を解消したうえで、最軸外像高での電位を過剰に下げている(ネガトナーに対してプラス電位にしている)状態である。そもそも画像濃度の差は、露光電位の差によって発生しているものであるので、感光ドラム1の電位の差の絶対値がある所定の値以内であればよいことが類推される。表1から、実際に、Dec−Jec/Cの絶対値が25[V]以内に収まっていれば、濃度ムラとして問題ないレベルであることがわかる。
つまり、下記式(11)を満たしていれば、濃度ムラが実使用上問題のないレベルのハーフトーン画像を得ることができる。
上記式(11)に前述した各種パラメータ代入して表記すると、下記式(12)、(13)のようになる。
上記式(13)を満たすようにすることによって、fθ特性を有する走査レンズを用いることなく、主走査方向におけるハーフトーン画像の濃度ムラの発生を抑制することができる。
上述のように、転写ローラ5としてはストレート形状の転写ローラ5を用いても、予め所定のクラウン量の逆クラウン形状(あるいはクラウン形状)がつけられた転写ローラ5を用いてもよい。また、転写ニップNtは、図15(b)に示すように長手方向の端部位置から中央位置へと曲線状に転写ニップ幅が徐々に小さくなる形状に限らず、直線状に転写ニップ幅が徐々に小さくなる形状であってもよい。また、転写ローラ5は、長手方向の端部から中央部へと外径が曲線状に徐々に小さくなる形状(逆クラウン形状)に限らず、直線状に徐々に小さくなる形状(テーパ形状)であってもよい。転写ニップ幅は、転写ローラ5の硬度、弾性層の厚さ、感光ドラム1への付勢力などにも依存するため、転写ローラ5単体としての形状(逆クラウン形状、クラウン形状、あるいはテーパ形状など)は適宜調整すればよい。
また、ここでは、感光ドラム1として図17に示すようなE−Vカーブ特性を有する感光ドラム1を用いて評価を行ったが、異なるE−Vカーブ特性を有する感光ドラム1に対しては、それに合わせて転写ニップ幅などの諸設定を適正化すればよい。
また、転写ニップNtの長手方向の中心位置(走査領域の主走査方向の中央部)と転写ニップNtの長手方向の端部位置(走査領域の主走査方向の端部)とで、上述の関係を満たしていれば、その間の位置において相応の効果が得られる。好ましくは、主走査方向(転写ニップNtの長手方向)の任意の位置において上述の関係を満たしていることが好ましい。
このように、本実施例の画像形成装置50は、感光体1の表面の移動方向と略直交する主走査方向にレーザ光を走査しながら感光体1を露光し、感光体1の表面の主走査方向に関する走査領域に潜像を形成する露光装置400を有する。この露光装置400は、主走査方向に関する走査領域の走査位置に応じて走査速度が変化する。ここで、主走査方向に関する走査領域の第1、第2の走査位置におけるレーザ光のスポット径をそれぞれφ1、φ2とする。また、主走査方向に関する転写ニップNtの第1、第2の走査位置のそれぞれに対応する位置における、転写ニップNtの主走査方向と略直交する方向の幅をそれぞれN1、N2とする。このとき、本実施例では、次式、φ1<φ2、かつ、N1<N2の関係を満たす。上述のように、第1、第2の走査位置は、それぞれ走査領域における任意の位置であってよい。典型的には、第1の走査位置は、主走査方向に関する走査領域の中央部であり、第2の走査位置は、主走査方向に関する走査領域の端部である。そして、典型的には、転写ニップNtの主走査方向と略直交する方向の幅は、主走査方向に関して幅N2から幅N1まで徐々に小さくなっている。また、主走査方向に関する1ドットの幅をS[μm]、ベタ画像の潜像コントラストをW[V]、感光体1の膜厚をT[mm]、感光体1の表面の移動速度をP[mm/s]とする。また、真空の誘電率をε0[F/m]、感光体1の比誘電率をεr、転写時に転写ニップNtに流れる転写電流の総和である転写電流総量をI[μA]、転写ニップNtの主走査方向の全長をX[mm]とする。このとき、本実施例では、前述の式(13)の関係を満たす。また、本実施例では、帯電手段は、感光体1に当接する帯電部材2を有し、帯電時に帯電部材2には直流電圧のみが印加される。また、本実施例では、転写部材5は、軸部材5aと、軸部材5aの外周に設けられた弾性部5bと、を有する回転可能なローラである。また、本実施例では、転写部材5は、回転軸線方向の両端部がそれぞれ感光体1に向けて付勢される。また、本実施例では、転写部材5は、回転軸線方向の全域で外径が略同一である。
以上説明したように、本実施例によれば、fθ特性を有する走査レンズを用いない構成において、主走査方向におけるハーフトーン画像の濃度ムラなどの画像濃度ムラの発生を抑制することができる。
[実施例2]
次に、本発明の他の実施例について説明する。本実施例の画像形成装置の基本的な構成及び動作は、実施例1のものと同じである。したがって、本実施例の画像形成装置において、実施例1の画像形成装置のものと同一又は対応する機能あるいは構成を有する要素については、実施例1と同一の符号を付して、詳しい説明は省略する。
本実施例では、画像形成装置50の構成は、特に、実施例1−1と同様である。本実施例では、実施例1−1の構成に加えて、次のような構成を有する。つまり、本実施例では、定着装置10の加熱回転体10aと加圧回転体10bとの当接部で形成される定着ニップNfは、その幅(ここでは「定着ニップ幅」ともいう。)が長手方向の中央部よりも端部の方が大きい逆クラウン形状を有する。なお、定着ニップ幅は、加熱回転体10a、加圧回転体10bの表面の移動方向における定着ニップNfの長さである。また、定着ニップNfの長手方向は、加熱回転体10a、加圧回転体10bの回転軸線方向(主走査方向に対応)と略平行である。
具体的には、本実施例では、長手方向におけるスポット径φ1に対応する位置での転写ニップ幅をN1、定着ニップ幅をFu1とする。また、スポット径φ2(>φ1)に対応する位置での転写ニップ幅をN2、定着ニップ幅をFu2とする。このときに、本実施例では、N1<N2の関係に加えて、Fu1<Fu2を満たす構成とした。
本実施例では、加圧回転体10bは、回転軸部材と、回転軸部材の外周に設けられた弾性部としての弾性層と、を有する。上述のような定着ニップNfの形状は、加圧回転体10bの回転軸線方向の両端部で加圧回転体10bを加熱回転体10aに付勢することによる回転軸部材の撓みによって形成することができる。あるいは、上述のような定着ニップNfの形状は、転写ニップNtの場合と同様に、例えば加圧回転体10bを予め所定の逆クラウン形状とすることで形成してもよい。なお、定着ニップ幅は、転写ニップ幅と同様、例えば染料を加圧回転体10bの表面に塗り、加圧回転体10bを加熱回転体10aに当接させて、離間させた後に、加熱回転体10a上に付着した染料の幅を測定するという方法で求めることができる。
定着ニップ幅を大きくすると、未定着トナーの加熱、加圧される時間が長くなる。同じ孤立ドットに対しては、加熱、加圧される時間が長くなれば、よりトナーの溶融変形が促進されるので、結果として定着後の孤立ドット径を大きくすることができる。つまり、孤立ドット径を大きくすることによって、画像濃度を高くすることが可能である。
軸上像高でのスポット径φ1=70[μm]、最軸外像高でのスポット径φ2=90[μm]となる露光装置400を用いて濃度ムラの評価を行った。ここでは、軸上像高でのスポット径φ1に対応する位置での転写ニップ幅をN1、定着ニップ幅をFu1、最外軸上像高でのスポット径φ2に対応する位置での転写ニップ幅をN2、定着ニップ幅をFu2とする。そして、転写ニップ幅N1、N2、定着ニップ幅Fu1、Fu2を下記に示した組み合わせとした構成で、濃度ムラの評価を行った。評価方法、評価基準は実施例1で説明したものと同様である。評価結果を表2に示す。
実施例1−1:N1=1.5[mm]、N2=1.90[mm]、
Fu1=6.0[mm]、Fu2=6.0[mm]、
実施例2:N1=1.5[mm]、N2=1.65[mm]、
Fu1=6.0[mm]、Fu2=6.5[mm]
表2に示すように、本実施例では、スポット径φ1、φ2、転写ニップ幅N1、N2が実施例1−1と同じであるが、面内最大濃度差が実施例1−1よりも少なくなった(2.62[%]から1.34[%]に低減)。
例えば、スポット径φ1、φ2が比較的大きい場合などに、スポット径の差による主走査方向におけるハーフトーン画像の濃度差を低減しようとすると、転写ニップ幅N1とN2との差が比較的大きくなる可能性がある。この転写ニップ幅の差が大きくなりすぎると、特に薄い紙などの記録材15へのトナー像の転写時に、記録材15の走行に影響する可能性がある。このような場合、定着ニップNfにおいてFu1<Fu2を満たす構成として、画像濃度差の低減をアシストすることで、転写ニップ幅N1とN2との差を大きくしすぎることなく、主走査方向においけるハーフトーン画像の濃度差を低減することができる。
なお、転写ニップNtの場合と同様、定着ニップNfは、長手方向の端部位置から中央位置へと曲線状に転写ニップ幅が徐々に小さくなる形状とすればよい。ただし、これに限らず、直線状に転写ニップ幅が徐々に小さくなる形状であってもよい。また、転写ニップ幅の場合と同様、定着ニップ幅は、定着部材(加熱回転体、加圧回転体)の硬度、定着部材の弾性層の厚さ、定着部材の付勢力などにも依存する。そのため、定着部材単体としての形状(逆クラウン形状、クラウン形状、あるいはテーパ形状など)は適宜調整すればよい。
このように、主走査方向に関する定着ニップNfの第1、第2の走査位置のそれぞれに対応する位置における、定着ニップNfの主走査方向と略直交する方向の幅をそれぞれFu1、Fu2とする。このとき、本実施例では、次式、Fu1<Fu2の関係を満たす。前述のように、第1、第2の走査位置は、それぞれ走査領域における任意の位置であってよい。典型的には、第1の走査位置は、主走査方向に関する走査領域の中央部であり、第2の走査位置は、主走査方向に関する走査領域の端部である。そして、典型的には、定着ニップNfの主走査方向と略直交する方向の幅は、主走査方向に関して幅Fu2から幅Fu1まで徐々に小さくなっている。
以上説明したように、本実施例によれば、実施例1よりも更に、主走査方向においけるハーフトーン画像の濃度差を低減しやすくすることができる。
[その他]
以上、本発明を具体的な実施例に即して説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではない。
例えば、転写部材はローラ状の部材に限定されるものではなく、例えばパッド状の部材、ブラシ状の部材、シート状(フィルム状)の部材などであってもよく、所望の転写ニップの形状が形成できればよい。また、感光体はドラム状のもの(感光ドラム)に限定されるものではなく、無端ベルト状のもの(感光体ベルト)であってもよい。