以下に、本発明に係る無段変速機の制御装置の一実施形態について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
図1は、実施形態に係る車両10を構成するエンジン12から駆動輪24までの動力伝達経路の概略構成を説明する図である。図1において、例えば走行用の駆動力源として用いられるエンジン12により発生させられた動力は、トルクコンバータ14、前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機18、減速歯車装置20、差動歯車装置22などを順次介して、左右の駆動輪24へ伝達される。
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸13に連結されたポンプ翼車14p、及び、トルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸30を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、このロックアップクラッチ26が完全係合させられることによって、ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tは一体回転させられる。ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したり、無段変速機18におけるベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26のトルク容量を制御したり、前後進切換装置16における動力伝達経路を切り換えたり、車両10の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給したりするための作動油圧を、エンジン12により回転駆動されることにより発生させる機械式のオイルポンプ28が連結されている。
前後進切換装置16は、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されている。トルクコンバータ14のタービン軸30は、遊星歯車装置16pのサンギヤ16sに一体的に連結されている。また、無段変速機18の入力軸32は、遊星歯車装置16pのキャリア16cに一体的に連結されている。一方、キャリア16cとサンギヤ16sとは、前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、遊星歯車装置16pのリングギヤ16rは、後進用ブレーキB1を介して非回転部材としてのハウジング34に選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は、断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
このように構成された前後進切換装置16では、前進用クラッチC1が係合されるとともに後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸30が入力軸32に直結され、前進用動力伝達経路が成立させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合されるとともに前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立させられて、入力軸32はタービン軸30に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1がともに解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)とされる。
エンジン12は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関にて構成されている。このエンジン12の吸気配管36には、スロットルアクチュエータ38を用いてエンジン12の吸入空気量を電気的に制御する為の電子スロットル弁40が備えられている。
無段変速機18は、入力軸32に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側可変プーリであるプライマリプーリ42、及び、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側可変プーリであるセカンダリプーリ46と、プライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46の間に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、プライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
プライマリプーリ42は、入力軸32に固定された固定シーブ42aと、入力軸32に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた可動シーブ42bと、それらの間のV溝幅を変更するためのプライマリプーリ42における入力側推力であるプライマリ推力Win(=プライマリ圧Pin×受圧面積)を付与するプライマリ側油圧シリンダ42cとを備えて構成されている。また、セカンダリプーリ46は、出力軸44に固定された固定シーブ46aと、出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた可動シーブ46bと、それらの間のV溝幅を変更するためのセカンダリプーリ46における出力側推力であるセカンダリ推力Wout(=セカンダリ圧Pout×受圧面積)を付与するセカンダリ側油圧シリンダ46cとを備えて構成されている。
そして、プライマリ側油圧シリンダ42cへの油圧であるプライマリ圧Pin及びセカンダリ側油圧シリンダ46cへの油圧であるセカンダリ圧Poutが油圧制御回路21(図3参照)によって各々独立に調圧制御されることにより、プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutが制御される。これにより、プライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)が連続的に変化させられると共に、伝動ベルト48が滑りを生じないようにプライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46と伝動ベルト48との間の摩擦力(ベルト挟圧力)が制御される。このように、プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutが各々制御されることで伝動ベルト48の滑りが防止されつつ実際の変速比γである実変速比γactが目標変速比γ*とされる。なお、入力軸回転速度Ninは入力軸32の回転速度であり、出力軸回転速度Noutは出力軸44の回転速度である。また、図1からわかるように、入力軸回転速度Ninはプライマリプーリ42の回転速度と同一であり、出力軸回転速度Noutはセカンダリプーリ46の回転速度と同一である。
無段変速機18では、例えばプライマリ圧Pinが高められると、プライマリプーリ42のV溝幅が狭くされて変速比γが小さくされるすなわち無段変速機18がアップシフトされる。また、プライマリ圧Pinが低められると、プライマリプーリ42のV溝幅が広くされて変速比γが大きくされるすなわち無段変速機18がダウンシフトされる。従って、プライマリプーリ42のV溝幅が最小とされるところで、無段変速機18の変速比γとして最小変速比γmin(最高速側変速比、最Hi)が形成される。また、プライマリプーリ42のV溝幅が最大とされるところで、無段変速機18の変速比γとして最大変速比γmax(最低速側変速比、最Low)が形成される。
図2は、油圧制御回路21における無段変速機18の駆動を行う部分を示した図である。油圧制御回路21においては、オイルポンプ28から吐出されたオイルが油路71に供給される。この油路71は、無段変速機18のプライマリプーリ42にオイルを供給してプライマリプーリ42に油圧を作用させるとともに、無段変速機18のセカンダリプーリ46にオイルを供給してセカンダリプーリ46に対し油圧を作用させるためのものである。
油圧制御回路21には、オイルポンプ28のオイル吐出圧を無段変速機18の油圧駆動等に用いられる油圧であるライン圧に調圧するプライマリレギュレータバルブ72が設けられている。さらに、油圧制御回路21には、ライン圧を元にしてプライマリプーリ42に作用する油圧を調圧するプライマリプーリコントロールバルブ75と、同じくライン圧を元にしてセカンダリプーリ46に作用する油圧を調圧するセカンダリプーリコントロールバルブ73とが設けられている。プライマリプーリコントロールバルブ75はリニアソレノイドバルブ76により油圧を利用して駆動制御され、セカンダリプーリコントロールバルブ73はリニアソレノイドバルブ74により油圧を利用して駆動制御される。
セカンダリプーリ46に作用する油圧の調整に関しては、リニアソレノイドバルブ74の駆動制御を通じて、上記油圧の作用に基づきセカンダリプーリ46(図1)の軸線方向に生じるセカンダリ推力Woutが、伝動ベルト48とプライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46との間に滑りを生じさせることのない値となるように行われる。また、プライマリプーリ42に作用する油圧の調整に関しては、リニアソレノイドバルブ76の駆動制御を通じて、上記油圧の作用に基づきプライマリプーリ42(図1)の軸線方向に生じるプライマリ推力Winが目標変速比γ*を実現可能な値となるように行われる。例えば、変速比γをLow側に変更しようとする際にはプライマリ推力Winが小となるようプライマリプーリ42に作用する油圧が小とされ、変速比γをHi側に変更しようとする際にはプライマリ推力Winが大となるようプライマリプーリ42に作用する油圧が大とされる。
図3は、エンジン12や無段変速機18などを制御するために車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図3において、車両10には、例えば無段変速機18の変速制御などに関連する変速機の制御装置としての機能を有する電子制御装置110が備えられている。電子制御装置110は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置110は、エンジン12の出力制御や無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力制御などを実行するようになっている。
電子制御装置110には、エンジン回転速度センサ120により検出されたクランク軸13の回転角度(位置)ACR及びエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEを表す信号、タービン回転速度センサ121により検出された入力軸32(タービン軸)の回転速度(タービン回転速度)NTを表す信号、入力軸回転速度センサ122により検出された無段変速機18の入力回転速度である入力軸回転速度Ninを表す信号、出力軸回転速度センサ123により検出された車速Vに対応する無段変速機18の出力回転速度である出力軸回転速度Noutを表す信号、スロットルセンサ124により検出された電子スロットル弁のスロットル弁開度θTHを表す信号、アクセル開度センサ125により検出された運転者の加速要求量としてのアクセルペダルの操作量であるアクセル開度ACCを表す信号、フットブレーキスイッチ126により検出された常用ブレーキであるフットブレーキが操作された状態を示すブレーキオンBONを表す信号、レバーポジションセンサ127により検出されたシフトレバーのレバーポジション(操作位置)PSHを表す信号、セカンダリ圧センサ128により検出されたセカンダリプーリ46への供給油圧であるセカンダリ圧Poutを表す信号などが、それぞれ供給される。なお、電子制御装置110は、例えば、出力軸回転速度Noutと入力軸回転速度Ninとに基づいて無段変速機18の実変速比γact(=Nin/Nout)を逐次算出する。
また、電子制御装置110からは、エンジン12の出力制御のためのエンジン出力制御指令信号SEや、無段変速機18の変速に関する油圧制御のための油圧制御指令信号SCVTなどが、それぞれ出力される。具体的には、エンジン出力制御指令信号SEとして、スロットルアクチュエータ130を駆動して電子スロットル弁の開閉を制御するためのスロットル信号や、燃料噴射装置131から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号や、点火装置132によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力される。また、油圧制御指令信号SCVTとしては、プライマリ圧Pinを調圧するリニアソレノイドバルブ76を駆動するための指令信号や、セカンダリ圧Poutを調圧するリニアソレノイドバルブ740を駆動するための指令信号などが、油圧制御回路21へ出力される。
図4は、プライマリ圧Pinの油圧制御構造の一例を示したブロック図である。なお、図4において、プライマリプーリ42への入力トルクTin及び目標変速比γ*などが、電子制御装置110により逐次算出される。
電子制御装置110は、例えば、プライマリプーリ42に入力された入力トルクTinや目標変速比γ*に基づいて予め設定された推力比マップにより求めた推力比τなどから、下記(1)式に示すプライマリシーブバランス推力演算式を用いて、プライマリシーブバランス推力Winblを算出する(図1のブロックB1)。
そして、電子制御装置110は、その算出したプライマリシーブバランス推力Winblに、プライマリプーリ42側にて目標の変速を実現する場合のプライマリプーリ側換算の差推力であるプライマリ変速差推力を加算することによって、プライマリフィードフォワード推力Winffを算出する(図4のブロックB2)。
また、電子制御装置110は、目標変速比γ*と実変速比γactとの変速比偏差(=γ*−γ)Δγに基づいて、例えば下記(2)式に示すようなフィードバック制御式を用いて、実変速比γactを目標変速比γ*と一致させるためのプライマリフィードバック推力Winfbを算出する(図4のブロックB3及びブロックB4など)。なお、下記(2)式において、比例項(FB推力比例項)におけるKPは比例ゲイン(所定の比例定数)であり、積分項(FB推力積分項)におけるKIは積分ゲイン(所定の積分定数)である。
そして、電子制御装置110は、プライマリフィードフォワード推力Winffに対して、プライマリフィードバック推力Winfbにより補正された値を目標プライマリ推力として設定する。
また、電子制御装置110は、上記(2)式を用いてプライマリフィードバック推力Winfbを算出した際の上記積分項の値を、所定の条件を満たした場合に、Pin誤差値として学習する(図4のブロックB5)。
そして、電子制御装置110は、目標プライマリ推力を、プライマリ側油圧シリンダ42cの受圧面積に基づいて目標プライマリ圧に変換し、その変換した目標プライマリ圧を学習した上記積分項によって補正してプライマリ指示圧Pintgtを設定する(図4のブロックB6など)。そして、電子制御装置110は、油圧制御指令信号SCVTとしてプライマリ指示圧Pintgtを油圧制御回路21へ出力する。油圧制御回路21は、その油圧制御指令信号SCVTにしたがって、リニアソレノイドバルブ76を作動させてプライマリ圧Pinを調圧する。
図5は、図4のブロックB5で電子制御装置110が行うプライマリフィードバック推力Winfbの積分項の学習制御の一例を示したフローチャートである。
まず、電子制御装置110は、下記(3)式に示したモーメント法による誤差伝搬式に基づいて、右辺の第1項と第2項の誤差量を推定することで学習可能領域を算出し、推力比誤差と推定トルク誤差とが上記積分項に与える影響が、Pin誤差が上記積分項に与える影響と比較して十分に小さい(Pin学習精度が確保できる領域である)かを判定する(ステップS1)。なお、下記(3)式において、Tは推定ベルト入力トルク、Rはベルト懸り径、μはベルト−プーリ間の摩擦係数、αはシーブ角、Ainはプライマリ側油圧シリンダ42cの受圧面積、σWinはプライマリシーブ推力誤差(=積分項)、στは推力比誤差、σTは推定トルク誤差、及び、σPinはプライマリ圧Pinのバラツキである。
ステップS1にて、十分に小さくない(Pin学習精度が確保できる領域ではない)と判定した場合(ステップS1でNo)、電子制御装置110は上記積分項の学習をせずに、一連の制御を終了する。一方、ステップS1にて、十分に小さい(Pin学習精度が確保できる領域である)と判定した場合(ステップS1でYes)、電子制御装置110は、目標変速比γ*が一定(目標変速速度が0)であるかを判定する(ステップS2)。目標変速比γ*が一定ではないと判定した場合(ステップS2でNo)、電子制御装置110は上記積分項の学習をせずに、一連の制御を終了する。一方、目標変速比γ*が一定であると判定した場合(ステップS2でYes)、電子制御装置110は、実変速比γactが目標変速比γ*に収束している(上記積分項が収束している)かを判定する(ステップS3)。実変速比γactが目標変速比γ*に収束していないと判定した場合(ステップS3でNo)、電子制御装置110は上記積分項の学習をせずに、一連の制御を終了する。一方、実変速比γactが目標変速比γ*に収束していると判定した場合(ステップS3でYes)、電子制御装置110は上記積分項をPin誤差相当分(Pin誤差値)として学習を実施する(ステップS4)。そして、電子制御装置110は、一連の制御を終了する。
推力比誤差と推定トルク誤差とが上記積分項に与える影響が、Pin誤差が上記積分項に与える影響よりも十分に小さい(Pin学習精度が確保できる領域である)とき、上記積分項にはプライマリ指示圧Pintgtに対する実プライマリ圧Pinactのずれ量のみが溜まる。よって、電子制御装置110は、Pin学習精度が確保できる領域である場合には、上記積分項の値をPin誤差値として学習するため、セカンダリ圧Poutが変化しても上記積分項を変動させない誤差であるPin誤差を学習しておくことができる。よって、上記積分項をリセットした後、フィードバック制御を再開した際、フィードバック制御開始直後の変速追従性の悪化を抑制することができる。
また、電子制御装置110は、例えば、図4のブロックB4にて、上記学習が完了した後、変速方向が変化した場合または変速速度が大きい場合に、上記積分項をリセットする。具体的には、「速いアップシフト」から「変速ほぼ終了〜速いダウンシフト」や、「速いダウンシフト」から「変速ほぼ終了〜速いアップシフト」などのように、変速方向または変速速度が大きく変わるときに上記積分項をリセットする。なお、変速速度は、目標変速比γ*の変化量、目標シーブ位置の変化量、または、目標回転数の変化量の何れでも良い。
図6は、電子制御装置110が行うプライマリフィードバック推力Winfbの積分項のリセット制御の一例を示したフローチャートである。
まず、電子制御装置110は、上記積分項の学習が完了したかを判定する(ステップS11)。上記積分項の学習が完了していない場合(ステップS11でNo)、電子制御装置110は、一連の制御を終了する。一方、上記積分項の学習が完了した場合(ステップS11でYes)、電子制御装置110は、変速方向が変化したか、または、変速速度が大きいかを判定する(ステップS12)。変速方向が変化していない、及び、変速速度が大きくない場合(ステップS12でNo)、電子制御装置110は、一連の制御を終了する。一方、変速方向が変化した、または、変速速度が大きい場合(ステップS12でYes)、電子制御装置110は、上記積分項のリセットを実施する(ステップS13)。そして、電子制御装置110は、一連の制御を終了する。
本実施形態においては、上記積分項の値からPin誤差値の学習が完了した後、変速方向が変化した場合または変速速度が大きい場合に、上記積分項をリセットすることで、変速追従性を向上するために必要な値のみ学習し、変速追従性を悪化させる値はリセットすることができる。そのため、Pin誤差値の学習を行わず、上記積分項をホールドする場合と比較して、変速追従性を向上させることができる。