以下に添付図面を参照して、この発明にかかる補強治具の好適な実施の形態を詳細に説明する。
(補強治具の構成)
まず、この発明にかかる実施の形態の補強治具の構成について説明する。図1、図2、図3および図4は、この発明にかかる実施の形態の補強治具の構成を示す説明図である。図1においては、この発明にかかる実施の形態の補強治具の外観を示している。図2においては、図1に示した補強治具を分解した状態を示している。図3の天地方向上側においては図1におけるX矢視図を示し、図3の天地方向下側においては図1におけるY矢視図を示している。図4においては、図1におけるZ矢視図を示している。
図1〜図4において、この発明にかかる実施の形態の補強治具100は、一対の山形鋼110、120を備えている。一対の山形鋼110、120は、それぞれ、鋼鉄を加工することによって形成される鋼材であり、長さが断面に比して著しく長い条鋼である形鋼であって、補強治具100を用いた取り替え作業の対象となる鉄塔(図5を参照)を構成する山形鋼と同種の山形鋼によって実現される。
具体的に、一対の山形鋼110、120は、等辺山形鋼によって実現されることが好ましい。等辺山形鋼は、既設の鉄塔を構成する鉄塔部材として多く用いられている形鋼であって、一対の短辺に対して一対の長辺が著しく長い長方形状をなし、一対の長辺のうちの一方の長辺を共有するように連続した2つの平面部111、112、121、122を備えている。2つの平面部111、112、121、122は、互いの面が直交するように連続している。
等辺山形鋼は、長さ方向に直交する平面に沿って切断した断面における、略「L」字型をなす2辺、すなわち、平面部における各短辺の長さが等しい。具体的に、山形鋼110においては、平面部111における各短辺の長さと、平面部112における各短辺の長さと、が等しい。また、山形鋼120においては、平面部121における各短辺の長さと、平面部122における各短辺の長さと、が等しい。
補強治具100を構成する一対の山形鋼110、120は、長さ方向に直交する平面に沿って切断した断面における、略「L」字型をなす2辺の長さが異なる不等辺山形鋼によって実現することもできる。不等辺山形鋼は、2つの平面部のうちの一方の平面部における一対の短辺の長さが、他方の平面部における一対の短辺の長さよりも長い。
補強治具100において、一対の山形鋼110、120は、一方の山形鋼110がなす略「L」字型の角部分の内側に、他方の山形鋼120がなす略「L」字型の角部分を嵌め込むような状態で、同じ向きに重ね合わされている。これにより、一方の山形鋼110がなす略「L」字型の内側面は、他方の山形鋼120がなす略「L」字型の外側面に対向している。
一対の山形鋼110、120は、長さ方向に沿って相対的にスライド可能な状態で重ね合わされている。一対の山形鋼110、120を重ね合わされた状態において、一方の山形鋼110が備える2つの平面部111、112のうちの一方の平面部111は、他方の山形鋼120が備える2つの平面部121、122のうちの一方の平面部121と重ね合わされる。また、一対の山形鋼110、120を重ね合わせた状態において、一方の山形鋼110が備える2つの平面部のうちの他方の平面部112は、他方の山形鋼120が備える2つの平面部のうちの他方の平面部122と重ね合わされる。
一対の山形鋼110、120は、それぞれ、平面部111、112、121、122を板厚方向に貫通する貫通孔111a、112a、121a、122aを備えている。貫通孔111a、112a、121a、122aは、一対の山形鋼110、120の長さ方向を長手方向とする長孔形状をなす。
貫通孔111a、112a、121a、122aは、重ね合わされた状態の一対の山形鋼110、120を長さ方向に沿って相対的にスライドさせることによる移動軌跡が、各平面部111、112、121、122の重なり方向において重複するように設けられている。具体的には、重ね合わされる平面部111および平面部121に設けられた貫通孔111a、121aの移動軌跡は、平面部111と平面部121との重なり方向(板厚方向)において重複する。また、具体的には、重ね合わされる平面部112および平面部122に設けられた貫通孔112a、122aの移動軌跡は、平面部112と平面部122との重なり方向(板厚方向)において重複する。
各山形鋼110、120における一方の平面部111、121に設けられる貫通孔111a、121aの長手方向における寸法と、各山形鋼110、120における他方の平面部112、122に設けられる貫通孔112a、122aの長手方向における寸法とは、同じ長さであってもよく、異なる長さであってもよい。また、一方の山形鋼110に設けられる貫通孔111a、112aの長手方向における寸法と、他方の山形鋼120に設けられる貫通孔121a、122aの長手方向における寸法とは、同じ長さであってもよく、異なる長さであってもよい。
貫通孔111a、112a、121a、122aは、同一の平面部111、112、121、122において、複数設けることが好ましい。具体的には、たとえば、平面部111に設けられる貫通孔111aは、平面部111において、平面部111の長さ方向に沿って複数設けることができる。あるいは、具体的には、たとえば、平面部111に設けられる貫通孔111aは、平面部111において、平面部111の幅方向に沿って複数設けてもよい。
この実施の形態においては、各山形鋼110、120における一方の平面部111、121、および、他方の平面部112、122のそれぞれに、2つの貫通孔111a、112a、121a、122aを設けた例を示しているが、これに限るものではない。1つの平面部111、112、121、122に設ける貫通孔の数は、3つ以上であってもよい。
この実施の形態においては、各山形鋼110、120における一方の平面部111、121、および、他方の平面部112、122のそれぞれに貫通孔111a、112a、121a、122aを設けた例を示しているが、これに限るものではない。たとえば、各山形鋼110、120における一方の平面部111、121、あるいは、他方の平面部112、122のみに、貫通孔を設けるようにしてもよい。
また、この実施の形態においては、各山形鋼110、120における一方の平面部111、121、および、他方の平面部112、122のそれぞれに複数の貫通孔111a、112a、121a、122aを設けた例を示しているが、これに限るものではない。たとえば、一方の山形鋼110における2つの平面部111、112にそれぞれ複数の貫通孔111a、112aを設け、他方の山形鋼120における2つの平面部121、122にそれぞれ1つの貫通孔121a、122aを設けるようにしてもよい。
一対の山形鋼110、120は、重ね合わされる各平面部111、112、121、122に設けられた貫通孔111a、112a、121a、122aどうし、すなわち、貫通孔111aと貫通孔121a、および、貫通孔112aと貫通孔122aの少なくとも一部がそれぞれ重複する状態で、重複する貫通孔(すなわち、貫通孔111aおよび貫通孔121a、貫通孔112aおよび貫通孔122a)を貫通するように挿入されるボルト131と、当該ボルト131に螺合されるナット132と、によって連結されている。
一対の山形鋼110、120の位置関係の固定に際しては、貫通孔111a、121aを貫通するボルト131および当該ボルト131に螺合されるナット132と、貫通孔112a、122aを貫通するボルト131および当該ボルト131に螺合されるナット132とを、それぞれ、山形鋼110、120の長さ方向において重複しない位置に位置付ける。これにより、重ね合わされる関係にない各平面部(具体的には、平面部111および平面部121と、平面部112および平面部122)に設けられたボルト131やナット132が干渉したり、締め付けに用いる工具がナット131やボルト132に干渉することがないので、一対の山形鋼110、120の位置関係を確実に固定することができる。
貫通孔111a、112a、121a、122aの幅方向(短辺方向)の寸法は、ボルト131の直径寸法と同等であって、ボルト131の直径寸法よりも若干大きい。ボルト131の頭部の外形寸法およびナット132の外径寸法は、貫通孔111a、112a、121a、122aの幅方向の寸法よりも大きい。これにより、ボルト131の頭部とナット132との間に一対の山形鋼110、120を挟み込むことができ、かつ、挟み込んだ状態でボルト131に対してナット132を締め付けることによって、一対の山形鋼110、120の位置関係を固定することができる。
また、上記のように、貫通孔111a、112a、121a、122aは、一対の山形鋼110、120の各平面部111、112、121、122において、それぞれ、長さ方向に沿って複数(この実施の形態においては2つずつ)設けられているため、一対の山形鋼110、120を長さ方向に沿って複数箇所で固定することができる。これにより、一対の山形鋼110、120がボルトの位置で屈曲してしまうことを確実に防止できる。また、一対の山形鋼110、120を複数箇所で固定することにより、一対の山形鋼110、120の位置関係を確実に固定することができる。
上記のように、貫通孔111a、112a、121a、122aは、一対の山形鋼110、120の長さ方向を長手方向とする長孔形状をなし、かつ、重ね合わせた状態の一対の山形鋼110、120を長さ方向に沿って相対的にスライドさせることによる移動軌跡が、各平面部111、112、121、122の重なり方向において重複するように設けられているため、一対の山形鋼110、120は、ボルト131に螺合されたナット132を緩めることにより、ボルト131およびナット132を取り外して分離することなく、重ね合わせた状態のまま、山形鋼110、120の長さ方向に沿って相対的にスライドすることができる。すなわち、一対の山形鋼110、120は、少なくとも一部を重ね合わせた状態で、山形鋼110、120の長さ方向に沿って相対的にスライド可能に連結されている。
同一のボルト131が貫通する貫通孔どうし(すなわち、貫通孔111aおよび貫通孔112a、貫通孔121aおよび貫通孔122a)が重複する度合いは、一対の山形鋼110、120を長さ方向に沿って相対的にスライドすることによって調整することができる。そして、一対の山形鋼110、120は、貫通孔111a、112a、121a、122aがそれぞれ重複する範囲内で、山形鋼110、120の長さ方向に沿って相対的にスライドすることができる。すなわち、補強治具100の長さ方向の寸法は、貫通孔111a、112a、121a、122aが重複する範囲内において、一対の山形鋼110、120を分離することなく、任意に調整することができる。
この実施の形態においては、ボルト131によって、この発明にかかる規制ピンを実現することができる。また、この実施の形態においては、貫通孔111a、112a、121a、122a、ボルト131、ナット132によって、この発明にかかるスライド機構を実現することができる。また、この実施の形態においては、貫通孔111a、112a、121a、122aに挿入されるボルト131、およびナット132によって、この発明にかかる位置決め機構を実現することができる。
この実施の形態の補強治具100においては、一対の山形鋼110、120の長さ方向に沿って複数(この実施の形態においては、各平面部111、112、121、122において2つずつ)の貫通孔111a、112a、121a、122aを設けることにより、単一のボルト131によって貫通される貫通孔111a、112a、121a、122aの組み合わせを変えることもできる。
具体的には、たとえば、長さ方向においてもっとも端部に設けられた貫通孔111a、112a、121a、122aどうしを組み合わせて、ボルト131およびナット132によって連結してもよい。1つの平面部111、112、121、122に3つ以上の貫通孔111a、112a、121a、122aを設ける場合、一対の山形鋼110、120を長さ方向に沿って相対的にスライドさせ、単一のボルト131によって貫通される貫通孔111a、112a、121a、122aの組み合わせを変えても、一対の山形鋼110、120を複数箇所で固定することができ、一対の山形鋼110、120がボルトの位置で屈曲してしまうことを確実に防止できる。
このように、単一のボルト131によって貫通される貫通孔111a、112a、121a、122aの組み合わせを変えることにより、補強治具100の長さ寸法を、同じ組み合わせの貫通孔111a、112a、121a、122aどうしでの調整幅よりも大きく調整することができる。そして、これにより、重複する貫通孔111a、112a、121a、122aの組み合わせによって大まかな寸法調整をおこない、大まかな寸法調整によって選択された同じ組み合わせの貫通孔111a、112a、121a、122aどうしの位置関係を調整することにより、補強治具100の長さ寸法の微調整をおこなうことができる。
また、一対の山形鋼110、120は、ボルト131からナット132を取り外し、組み合わされた貫通孔111a、112a、121a、122aからボルト131を引き抜くことにより、分離することができる。これにより、組み合わせる山形鋼の長さを複数パターンに調整することができる。
具体的には、たとえば、同じ長さの一対の山形鋼110、120を組み合わせて補強治具100を構成してもよく、異なる長さの一対の山形鋼110、120を組み合わせて補強治具100を構成してもよい(図7を参照)。また、異なる長さの一対の山形鋼110、120を組み合わせて補強治具100を構成する場合は、補強治具100の取り付け位置に応じて、組み合わせる山形鋼の長さを適宜調整することができる。これにより、補強治具100の寸法を、山形鋼の長さ単位で調整することができる。
このように、この実施の形態の補強治具100においては、一対の山形鋼110、120の組み合わせによって、山形鋼110、120の長さ単位で、補強治具100の概ねの寸法を調整することができる。また、長さ方向において配列された複数の貫通孔111a、112a、121a、122aを備えた補強治具100の場合は、山形鋼110、120の組み合わせに加えて、重複する貫通孔111a、112a、121a、122aの組み合わせによって大まかな寸法調整をおこなうことができる。
重複する貫通孔111a、112a、121a、122aの組み合わせによる補強治具100の寸法調整は、長さ寸法の異なる山形鋼110、120どうしの組み合わせによる補強治具100の寸法調整よりも、細かい単位でおこなうことができる。そして、さらに、同じ組み合わせの貫通孔111a、112a、121a、122aの位置関係を調整することにより、重複する貫通孔111a、112a、121a、122aの組み合わせによる補強治具100の寸法調整よりも細かい微調整をおこなうことができる。
(鉄塔の模式的な構成)
つぎに、この発明にかかる実施の形態の補強治具100を用いた、鉄塔部材の取り替え対象となる鉄塔の模式的な構成について説明する。図5は、この発明にかかる実施の形態の補強治具100を用いた、鉄塔部材の取り替え対象となる鉄塔の模式的な構成を示す説明図である。図5においては、鉄塔の模式的な構成として、ブライヒ結構による鉄塔を示している。
図5において、鉄塔500は、基礎部510と、鉄塔上部構造物520と、によって構成されている。基礎部510は、鉄塔上部構造物520を支持し、当該鉄塔上部構造物520の荷重を地盤に伝える、基礎部510により鉄塔上部構造物520を支持することにより、沈下や振動などを抑制することができる。具体的に、基礎部510は、たとえば、掘削穴内に据え付けられた基礎材と、当該掘削穴内に充填されたコンクリートと、によって構成される。
鉄塔上部構造物520は、主柱材(メインポスト)521、腕金部材(アーム)522、斜材(ブレーシング)523、水平材524などの各鉄塔部材を、ボルトなどを用いて固定することによって構成されている。鉄塔500は、さらに、補助材や対角材などの鉄塔部材を含んで構成されていてもよい。各鉄塔部材は、等辺山形鋼によって実現することができる。
主柱材521は、基礎部510から起立して設けられる。主柱材521は、鉄塔500を水平方向に切断した断面がなす四角形の頂点に位置するように設けられる。主柱材521は、腕金部材522を所定の高さにおいて支持するため、長さ方向に沿って複数接合されている。腕金部材522は、主柱材521に固定され、腕金を構成する。腕金部材522は、主柱材521がなす四角形の外周側に向かって、水平方向に沿って突出している。腕金は、先端部分において、架設送電線を支持する。
斜材523は、水平方向および鉛直方向に対して傾斜させた状態で、隣接する主柱材521の間に架け渡されている。斜材523を設けることにより、鉄塔上部構造物520の強度を高めることができる。水平材524は、斜材523の交点を通り、かつ、水平方向に沿って、隣接する主柱材521の間に架け渡されている。対辺材は、鉄塔500を水平方向に切断した断面において隣り合う水平材524の中央どうしをつなぐように、当該隣り合う水平材524の間に架け渡されている。
主柱材521に対しては、架空送電線によって主柱材521どうしを相互に離間するように引っ張る外力が作用している。斜材523は、この外力に抗して、隣り合う主柱材521どうしを相互に引き寄せるように補強している。斜材523や水平材524は、水平方向および鉛直方向に対して傾斜した状態で取り付けられており、特に、斜材523による補強は、主柱材521に対して、鉛直方向において所定の幅を持った範囲に作用する。
斜材523用補助材や主柱材521用補助材などの補助材は、主柱材521と斜材523と水平材524とによって形成される三角形をさらに小さい三角形に区切るように設けられる。このような補助材を設けることにより、斜材523を太くすることなく強度を上げることができる。
対角材は、主柱材521がなす四角形の対角に位置する主柱材521の間に架け渡されている。同一水平面内において主柱材521がなす四角形の対角線が交差する位置には、対角材を支持する鋼板が設けられていてもよい。対角材は、たとえば、腕金部材522と同じ高さに設けられている。
主柱材521、腕金部材522、斜材523などの鉄塔部材は、たとえば、主柱材521に溶接などの方法で設けられた主柱材プレートに、腕金部材522、斜材523、水平材524、対辺材の端部をボルトで固定することによって互いに連結されている。鉄塔部材どうしを主柱材プレートを介して連結することにより、たとえば、ブライヒ結構による鉄塔500などのように、一箇所に集中して固定される複数本の鉄塔部材のそれぞれを確実に固定することができる。
(鉄塔部材の取り替え手順)
つぎに、この発明にかかる実施の形態の補強治具100を用いた、鉄塔部材の取り替え手順について説明する。図6は、この発明にかかる実施の形態の補強治具100を用いた、鉄塔部材の取り替え対象となる鉄塔の一部を示す説明図である。この実施の形態においては、図6において一部を示す、鉄塔500における斜材523Aを取り替える際の取り替え手順について説明する。
図6において、斜材523Aの取り替え作業に際しては、まず、補強治具100の長さ寸法を調整する。具体的には、補強治具100の取り付け位置の寸法を測定し、補強治具100の長さ寸法を、測定された寸法に合わせる。現場において補強治具100の長さを測定することにより、鉄塔の転びに起因して机上の塔体幅と実際の塔体幅とが異なる場合にも、補強治具100の長さ寸法を、所望の取り付け位置に応じた長さ寸法に調整することができる。
必要な補強治具100の長さ寸法は、設計図から計算によって求めることもできる。このため、補強治具100の長さ寸法の微調整をおこなう前に、計算によって求められた寸法にあわせて、補強治具100の長さ寸法を仮調整しておくことができる。そして、これにより、事前に補強治具100の長さ寸法を調整しておき、現場で迅速に作業を開始することができ、作業効率の向上を図ることができる。
補強治具100は、取り替え作業の支障とならない位置に取り付ける。たとえば、斜材523Aを取り替え対象とする場合、補強治具100は、斜材523Aを取り外すことによって低下する強度を補う位置に取り付ける。具体的に、斜材523Aと主柱材521との連結位置においては、主柱材521どうしを相互に離間するように引っ張る外力が作用しているため、補強治具100は、当該外力に抗する力を作用させる位置に取り付ける。
上記のように、斜材523Aによる補強は、主柱材521に対して、鉛直方向において所定の幅を持った範囲に作用している。このため、当該範囲全体にわたって補強するために、補強治具100は、鉛直方向において斜材523Aを補強治具100によって挟み込むように、斜材523Aの上側と下側との2箇所に取り付けることが好ましい。
この場合、主柱材521が鉛直方向に対して傾斜していると、取り替え対象とする鉄塔部材が単一の斜材523Aであっても補強治具100の取り付け位置に応じて、補強治具100に必要な長さ寸法が異なる。すなわち、補強治具100の長さ寸法は、補強治具100の取り付け位置に応じて異なる。具体的には、取り替え対象とする斜材523Aより上側の位置に取り付けられる補強治具100の長さ寸法は、斜材523Aより下側の位置に取り付けられる補強治具100の長さ寸法よりも短くなるように調整する。
補強治具100の長さの調整に際しては、まず、一対の山形鋼110、120の組み合わせによって、山形鋼110、120の長さ単位で、補強治具100の概ねの寸法を調整する。補強治具100の概ねの長さ寸法の調整に際しては、まず、山形鋼110、120の組み合わせを決定する。
図7は、一対の山形鋼110、120の組み合わせを例示する説明図である。図7に示すように、一対の山形鋼110、120のうち、長さ寸法が一定に固定された一方の山形鋼110に対して、組み合わせる他方の山形鋼120の長さ寸法を変えることにより、補強治具100の長さ寸法を調整することができる。
一対の山形鋼110、120は、たとえば、挟締金具700を用いて、主柱材521などに取り付ける。この場合、補強治具100は、挟締金具700によって主柱材521とともに挟み込むことができる長さ寸法に調整する。
具体的には、たとえば、一方の山形鋼110に他方の山形鋼120である「A」を組み合わせた場合の補強治具100の長さがAである場合、一方の山形鋼110の長さを一定にした状態で、他方の山形鋼120である「A」よりも長い他方の山形鋼120である「B」を組み合わせると、差分ABの分、補強治具100を長くすることができる。同様に、具体的には、たとえば、一方の山形鋼110の長さを一定にした状態で、他方の山形鋼120である「A」よりも長い他方の山形鋼120である「C」を組み合わせると、差分ACの分、補強治具100を長くすることができる。
また、補強治具100の長さ寸法は、上記のように、一対の山形鋼110、120の組み合わせによる調整に代えて、あるいは加えて、長さ方向において配列された複数の貫通孔111a、112a、121a、122aのうちのいずれの貫通孔111a、112a、121a、122aどうしを重複させるか、すなわち、重複する貫通孔111a、112a、121a、122aの組み合わせを選択することによっておこなうこともできる。重複する貫通孔111a、112a、121a、122aの組み合わせによる補強治具100の寸法調整は、山形鋼の組み合わせによる補強治具100の寸法調整よりも細かい単位でおこなうことができる。
一対の山形鋼110、120の組み合わせや、重複する貫通孔111a、112a、121a、122aの組み合わせによって補強治具100の概ねの長さ寸法を調整した後は、同じ組み合わせの貫通孔111a、112a、121a、122aの位置関係を調整することにより、補強治具100の長さ寸法の微調整をおこなうことができる。
斜材523Aの取り替え作業に際しては、つぎに、長さ寸法を調整した補強治具100を、主柱材521に取り付ける。補強治具100は、取り替え対象とする斜材523の上端の近傍であって当該上端より上側の位置と、の下端の近傍であって当該下端より下側の位置と、に水平方向に沿って取り付けることが好ましい。
補強治具100は、たとえば、挟締金具700を用いて、主柱材521に取り付ける。挟締金具700を用いて補強治具100を主柱材521に取り付ける場合、一対の山形鋼110、120、ボルト131、ナット132、および挟締金具700によってこの発明にかかる補強治具100を実現することができる。
図8は、挟締金具を示す説明図である。図8に示すように、挟締金具700は、本体部801と一対の挟締ボルト802とを備えている。本体部801は、基部801aから同一方向に略平行に突出する一対のアーム801bを備えた、略「U」字形状ないし略「C」字形状をなす。
一対のアーム801bの間には、一対のアーム801bと基部801aとによって凹部803が形成されている。本体部801は、たとえば、鉄やステンレス鋼を用いて、鋳造などの加工方法によって一体に形成されている。
本体部801には、ネジ孔が設けられている。ネジ孔は、一対のアーム801bのそれぞれに設けられ、それぞれが一対のアーム801bの対向方向に沿って各アーム801bを貫通している。ネジ孔は、同一の軸心に沿って各アーム801bを貫通している。
一対の挟締ボルト802は、それぞれ、本体部801に設けられたネジ孔に螺合されている。各挟締ボルト802は、それぞれ、ネジ孔を貫通し、先端が凹部803内に位置づけられた状態でネジ孔に螺合されている。各挟締ボルト802は、軸心周りに回転することにともなって、同一の軸心に沿って移動する。
具体的に、挟締ボルト802は、軸心周りに締め込む方向(時計回り)に回転した場合に、同一の軸心に沿って、対となる挟締ボルト802の先端に近づく方向に移動する。また、挟締ボルト802は、軸心周りに緩める方向(反時計回り)に回転した場合に、同一の軸心に沿って、対となる挟締ボルト802の先端から離間する方向に移動する。
具体的に、このような挟締金具700は、たとえば、ブルマン(登録商標)金具などと称される、架設接合用途に用いられる万力によって実現することができる。ブルマン金具は、ボルトを回転させて締め付ける際に回転方向に回転させる力である「締め付けトルク」が規定されている。
補強治具100は、主柱材521と補強材とを本体部801の凹部803内に位置付けた状態で、一対の挟締ボルト802のそれぞれを締め込む方向に回転させる。これにより、一対の挟締ボルト802の間において主柱材521と補強材とが挟持され、主柱材521に補強材を押しつけるようにして当該補強材を取り付けることができる。
挟締金具700における一対の挟締ボルト802は、それぞれの先端を主柱材521および補強治具100のいずれかに当接させた状態で、各先端が主柱材521および補強材のいずれかに食い込むようにして回転させる。挟締金具700としてブルマン金具を用いる場合、トルクレンチを用いて、規定された締め付けトルクまで締め込むことによって、補強治具100を主柱材521に取り付けることができる。
図9は、補強治具100の取り付け例を示す説明図である。図9に示すように、補強治具100を、斜材523Aの上側および下側に取り付けることにより、一対の補強治具100と、当該補強治具100が取り付けられた主柱材521と、によって囲まれる枠内に取り替え対象とする斜材523Aを位置付けることができ、斜材523Aを取り外すことによって低下する強度を補強治具100によって補うことができる。
また、補強治具100は、たとえば、ボルト(図示を省略する)を用いて、主柱材521などの鉄塔部材に取り付けてもよい。この場合、具体的には、たとえば、補強治具100の端部に補強治具100を取り付けるためのボルト孔(図示を省略する)を設けるとともに、主柱材521に設けられた主柱材プレートなどに補強治具100を取り付けるためのボルト孔(図示を省略する)を設ける。そして、これらのボルト孔を貫通させたボルトにナット(図示を省略する)を螺合させることによって、長さ寸法を調整した補強治具100を、主柱材521に取り付けることができる。
以上説明したように、この発明にかかる実施の形態の補強治具100は、山形鋼によって構成される鉄塔500における複数の鉄塔部材の一部の鉄塔部材をあらたな鉄塔部材に取り替える際に用いる補強治具100であって、鉄塔500を構成する山形鋼と同種の一対の山形鋼110、120と、一対の山形鋼110、120を、少なくとも一部を重ね合わせた状態で、長さ方向に沿って相対的にスライド可能に連結するスライド機構を実現する貫通孔111a、112a、121a、122a、ボルト131およびナット132を備える。
また、この発明にかかる実施の形態の補強治具100は、貫通孔111a、112a、121a、122aに挿入されるボルト131、およびナット132によって実現される位置決め機構により、一対の山形鋼110、120をスライド範囲内の任意の位置で固定することを特徴としている。
この発明にかかる実施の形態の補強治具100によれば、鉄塔500を構成する山形鋼と同種の一対の山形鋼110、120を少なくとも一部を重ね合わせた状態でスライドさせ、任意の位置において固定することにより、取り替え対象とする一部の鉄塔部材(たとえば、斜材523A)と同等の剛性を確保した補強治具100の長さ寸法を、取り付け位置に応じて任意の長さ寸法に調整することができる。これにより、取り替え対象とする一部の鉄塔部材の寸法や取り付け位置にかかわらず、必要な寸法が異なる複数箇所の補強を、一つの補強治具100を用いておこなうことができる。
また、この発明にかかる実施の形態の補強治具100によれば、たとえば、転びが発生するなどして設計図通りではない鉄塔においても、現場において、従来のように、補強材とする山形鋼を取り付け位置に応じた寸法に切断する大掛かりな作業をおこなうことなく、補強治具100の長さ寸法を取り付け位置に応じた任意の寸法に容易に調整することができる。
このように、この発明にかかる実施の形態の補強治具100によれば、取り付け位置にかかわらず、容易かつ確実に補強治具100を取り付けることができる。これにより、鉄塔部材の取り替え作業にかかる作業者の負担軽減を図ることができる。
また、従来のように、補強材として用いる形鋼を現場において切断する場合、限られた停電時間内に作業を完了させるために、作業員を増やさなくてはならないが、この発明にかかる実施の形態の補強治具100によれば、補強材として用いる山形鋼を現場において切断する作業や、当該作業のための作業員の増員、および、取り付け位置ごとに寸法を調整した複数の補強材を不要とすることができる。これにより、作業者の負担やコストの増加を抑えることができる。また、実際の作業が作業計画に対して大きく遅滞することを防止することができ、作業実施の確実性の向上を図ることができる。
また、この発明にかかる実施の形態の補強治具100は、一対の山形鋼110、120が、それぞれ、一対の短辺に対して一対の長辺が著しく長い長方形状をなし、一対の長辺のうちの一方の長辺を共有するように連続した2つの平面部111、112、121、122を備え、貫通孔111a、112a、121a、122a、ボルト131およびナット132によって実現されるスライド機構が、一対の山形鋼110、120の互いに重ね合わされる平面部111、112、121、122をそれぞれ貫通し、当該一対の山形鋼110、120の長さ方向を長手方向とする貫通孔111a、112a、121a、122aと、これらの貫通孔111a、112a、121a、122aを貫通する状態で挿入され一対の山形鋼110、120をスライド可能に連結する規制ピンを実現するボルト131と、を備えたことを特徴としている。
この発明にかかる実施の形態の補強治具100によれば、一対の山形鋼110、120を分離させることなく一対の山形鋼110、120をスライドさせ、各貫通孔111a、112a、121a、122aにおける規制ピンの位置を調整することによって、取り付け位置に応じて補強治具100の寸法を任意の寸法に調整することができる。これにより、現場において、山形鋼を切断することなく、補強治具100の寸法を微調整することができるので、実際の作業が作業計画に対して大きく遅滞することを防止することができ、作業実施の確実性の向上を図ることができる。
また、この発明にかかる実施の形態の補強治具100は、貫通孔111a、112a、121a、122a、ボルト131およびナット132によって実現されるスライド機構が、一対の山形鋼110、120を分離可能に連結することを特徴としている。
この発明にかかる実施の形態の補強治具100によれば、必要とされる補強治具100の長さ寸法が、貫通孔の長さを利用して調整可能な寸法範囲(調整シロ)内に収まらない場合、一対の山形鋼110、120を分離し、一方の山形鋼110に組み合わせる他方の山形鋼120の寸法を変更することができる。たとえば、一方の山形鋼110に組み合わせる他方の山形鋼120を、山形鋼120「A」から山形鋼120「B」や山形鋼120「C」に変更することができる。
これにより、スライド機構による調整シロを超えた塔体幅が発生しても一対の山形鋼110、120の組合せを変えるだけで、補強治具100の寸法を調整することができるので、実際の作業が作業計画に対して大きく遅滞することを防止することができ、作業実施の確実性の向上を図ることができる。
また、この発明にかかる実施の形態の補強治具100は、貫通孔111a、112a、121a、122aが、一対の山形鋼110、120の少なくとも一方の山形鋼110(あるいは山形鋼120)に、長さ方向に沿って複数設けられていることを特徴としている。
この発明にかかる実施の形態の補強治具100によれば、規制ピンを実現するボルト131が貫通する貫通孔111a、112a、121a、122aの組み合わせを変えることによって補強治具100の長さ寸法を調整することができる。これにより、同じ組み合わせの一対の山形鋼110、120において広い調整シロを確保することができるので、現場に多数の山形鋼を準備することなく、補強治具100の寸法を取り付け位置に応じた任意の寸法に容易に調整することができる。
また、この発明にかかる実施の形態の補強治具100は、位置決め機構を実現するボルト131およびナット132を、スライド機構の一部として兼用するようにしたことを特徴としている。
この発明にかかる実施の形態の補強治具100によれば、位置決め機構を実現する部材に、スライド機構を実現する部材を兼用することにより、スライド機構と位置決め機構とを一体化して構成の簡易化を図り、鉄塔上における作業箇所を最小限にすることができる。これにより、鉄塔部材の取り替え作業にかかる作業者の負担軽減を図るとともに、作業効率の向上を図ることができる。
また、この発明にかかる実施の形態の補強治具100は、取り替え対象とする一部の鉄塔部材(たとえば、斜材523A)の近傍であって当該一部の鉄塔部材とは別の鉄塔部材(たとえば、主柱材521)と、一対の山形鋼110、120とを、挟締金具700によって挟み込むことによって、一対の山形鋼110、120を鉄塔500に取り付けるようにしたことを特徴としている。
挟締金具700は、凹部803が設けられた本体部801と、共通の軸心に沿って本体部801に螺合されて凹部803の内側において先端を対向させる一対の挟締ボルト802と、を備えている。挟締金具700は、凹部803の深さ方向における最奥部に主柱材521と一対の山形鋼110、120とを突き当てた状態で、一対の挟締ボルト802を締め付けることにより、一対の挟締ボルト802の先端どうしの間に主柱材521と一対の山形鋼110、120とを挟み込むことができる。これにより、挟締金具700は、一対の山形鋼110、120を主柱材521に取り付けることができる。
この発明にかかる実施の形態の補強治具100によれば、別の鉄塔部材となる主柱材521などに孔を開けることなく、補強治具100を主柱材などに確実に固定することができる。これにより、鉄塔部材の取り替え作業にかかる作業者の負担軽減を図るとともに、作業効率の向上を図ることができる。
また、この発明にかかる実施の形態の補強治具100によれば、専門性の高い特殊技術を要することなく、補強治具100を主柱材521などに確実に固定することができる。これにより、取り替え作業をおこなう作業者の経験に左右されることなく、補強治具100を主柱材521などに確実に固定することができ、補強治具100の取り付けが不十分であるために、鉄塔部材の取り替え作業中に鉄塔の強度が低下することを確実に防止して、作業者の安全性を確保することができる。
また、この発明にかかる実施の形態の補強治具100は、山形鋼110、120が、等辺山形鋼であることを特徴としている。
この発明にかかる実施の形態の補強治具100によれば、等辺山形鋼を用いることにより、組み合わせの向きや順序にかかる制限を少なくすることができる。これにより、作業性の向上を図り、鉄塔部材の取り替え作業にかかる作業者の負担軽減を図るとともに、作業効率の向上を図ることができる。
また、この発明にかかる実施の形態の補強治具100によれば、等辺山形鋼を用いることにより、等辺山形鋼を用いた鉄塔の強度計算をおこなうようにプログラムされた既存の鉄塔の強度計算ソフトウエアを用いて、補強治具100に関する強度計算をおこなうことができる。これにより、鉄塔の強度計算ソフトウエアによる品質および安全性が確保された計算結果に基づき、補強治具100を取り付けて鉄塔部材の取り替え作業をおこなうことができるので、作業者の経験に左右されることなく、安全かつ確実な取り替え作業をおこなうことができる。