JP2019119868A - 微細セルロース繊維複合体分散液 - Google Patents

微細セルロース繊維複合体分散液 Download PDF

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Takuma Tsuboi
拓磨 坪井
穣 吉田
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Abstract

【課題】分散剤を使用しなくても、有機性の液体化合物に対する分散性に優れる微細セルロース繊維複合体分散液を提供すること。【解決手段】アニオン性基を含むアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に、炭化水素基を有するアミンがイオン結合を介して結合されてなる微細セルロース繊維複合体及び有機性の液体化合物を含む、微細セルロース繊維複合体分散液。【選択図】なし

Description

本発明は微細セルロース繊維複合体分散液に関する。
従来、有限な資源である石油由来のプラスチック材料が多用されてきたが、近年、環境に対する負荷の少ない技術が脚光を浴びるようになり、かかる技術背景の下、天然に多量に存在するバイオマスであるセルロース繊維を用いた材料が注目されている。例えば、セルロース繊維が各種媒体に分散した分散液を樹脂等に配合することで、得られる材料の機械的強度等を向上させることができる。
例えば、特許文献1には、再分散促進剤を混合する工程と分散剤を混合する工程を含む方法で製造したカルボキシ基含有セルロース微細繊維が、分散媒に対する分散性が向上することが示されている。
また、例えば特許文献2には、アミド結合を介して炭化水素基が結合してなるセルロースナノファイバーと熱可塑性樹脂が低線熱膨張係数を有することが示されており、アルキルイミダゾリン系分散剤を使用して均一な分散を高めることが記載されている。
特許文献1及び2に記載の技術は、分散剤を使用してセルロース繊維の分散性を高めている。このように、セルロース繊維を樹脂や有機溶媒に十分に分散させるには、分散剤を使用することが一般的であった。
特許第6095355号 特開2015−000934号公報
近年は各種樹脂製品の機械的強度のさらなる向上が求められていることから、有機性の液体化合物にセルロース繊維を高分散させる技術のより一層の改良が望まれている。
本発明は、分散剤を使用しなくても、有機性の液体化合物に対する分散性に優れる微細セルロース繊維複合体分散液に関する。
即ち、本発明の要旨は、下記[1]〜[3]に関する。
[1] アニオン性基を含むアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に、炭化水素基を有するアミンがイオン結合を介して結合されてなる微細セルロース繊維複合体及び有機性の液体化合物を含む、微細セルロース繊維複合体分散液。
[2〕 さらに樹脂を含む、前記[1]に記載の微細セルロース繊維複合体分散液。
[3〕 前記[2]に記載の微細セルロース繊維複合体分散液を成形してなる樹脂成形体。
本発明によれば、分散剤を使用しなくても、有機性の液体化合物に対する分散性に優れる微細セルロース繊維複合体分散液を提供することができる。
<微細セルロース繊維複合体分散液>
本発明の微細セルロース繊維複合体分散液は、微細セルロース繊維複合体及び有機性の液体化合物を含む。
本発明者らが検討した結果、驚くべきことに、炭化水素基を有するアミンがアニオン性基とイオン結合を介して結合されてなる微細セルロース繊維複合体は、有機性の液体化合物に良好に分散することが判明した。その詳細な理由は不明であるが、有機性の液体化合物と近い構造を有する炭化水素基で修飾された微細セルロース繊維複合体は、有機性の液体化合物と親和性を有しており、分散性が向上したと考えられる。
本発明の分散液の粘度は特に限定されず、取扱い性の観点から、低ければ低いほど好ましい。例えば、前記分散液の25℃の粘度が好ましくは50,000mPa・s以下であり、より好ましくは10,000mPa・s以下である。分散液の粘度は、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
かかる本発明の微細セルロース繊維複合体分散液は、分散剤を使用しなくても、有機性の液体化合物に対する分散性に優れるため、例えば、各種樹脂製品の機械的強度の向上剤として利用することができる。
〔微細セルロース繊維複合体〕
本発明で用いられる微細セルロース繊維複合体は、アニオン性基を含むセルロース繊維(アニオン変性セルロース繊維)に、炭化水素基を有するアミンがイオン結合を介して結合されており、微細化されたものである。本発明で用いられる微細セルロース繊維複合体は、原料のセルロース繊維にアニオン性基を導入してアニオン性基を含むアニオン変性セルロース繊維を得る工程(アニオン性基を導入する工程:工程A)、アニオン性基を含むアニオン変性セルロース繊維に、炭化水素基を有するアミンを導入する工程(アミンを導入する工程:工程B)、及び微細化処理工程(工程C)を行うことによって製造することができる。なお、微細化処理工程は、工程Aと工程Bとの間で実施してもよく、複数回実施してもよい。
(セルロース繊維)
原料のセルロース繊維としては、環境負荷の観点から、天然セルロース繊維を用いることが好ましい。天然セルロース繊維としては、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
原料のセルロース繊維の平均繊維径は特に限定されないが、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、同様の観点から、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは300μm以下である。
また、原料のセルロース繊維の平均繊維長は特に限定されないが、入手性及びコストの観点から、好ましくは1,000μm以上、より好ましくは1,500μm以上であり、同様の観点から、好ましくは5,000μm以下、より好ましくは3,000μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
(アニオン性基を含むアニオン変性セルロース繊維)
本発明で用いられるアニオン性基を含むアニオン変性セルロース繊維(単に「アニオン変性セルロース繊維」とも称する。)は、セルロース繊維中にアニオン性基を含むようにアニオン変性されたセルロース繊維である。
アニオン性基としては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。セルロース繊維への導入効率の観点から、好ましくはカルボキシ基である。アニオン性基は、単独で又は2種以上を組み合わせて導入されていてもよい。なお、アニオン性基の対となるイオン(カウンターイオン)は、好ましくはプロトンである。
アニオン変性セルロース繊維は、安定的な微細化及び炭化水素基を有するアミン導入の観点から、アニオン性基の含有量が、好ましくは0.1mmol/g以上であり、より好ましくは0.4mmol/g以上であり、更に好ましくは0.6mmol/g以上である。その上限は、好ましくは3.0mmol/g以下であり、より好ましくは2.0mmol/g以下であり、更に好ましくは1.8mmol/g以下である。アニオン性基含有量とは、アニオン性基含有セルロース繊維を構成するセルロース繊維中のアニオン性基の総量を意味する。アニオン性基の含有量は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長の好適範囲は、製造工程の順序にもよるが、原料のセルロース繊維のものと同等である。
(アニオン性基を導入する工程:工程A)
本発明で用いられるアニオン変性セルロース繊維は、対象のセルロース繊維にアニオン性基を導入してアニオン変性させることによって得ることができ、例えば、対象の原料のセルロース繊維に酸化処理又はアニオン性基の付加処理を施して、アニオン性基を導入することができる。
(i)セルロース繊維にアニオン性基としてカルボキシ基を導入する場合
セルロース繊維にカルボキシ基を導入する方法としては、例えばセルロースの水酸基を酸化してカルボキシ基に変換する方法や、セルロースの水酸基にカルボキシ基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を反応させる方法が挙げられる。
前記セルロースの水酸基を酸化処理する方法としては特に制限されないが、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)を触媒として、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤及び臭化ナトリウム等の臭化物を反応させて酸化処理する方法が適用できる。より詳細には、特開2011−140632号公報に記載の方法を参照することができる。
TEMPOを触媒としてセルロース繊維の酸化処理を行うことによって、セルロース構成単位のC6位のヒドロキシメチル基(−CHOH)が選択的にカルボキシ基に変換される。特にこの方法は、原料のセルロース繊維表面の酸化対象となるC6位の水酸基の選択性に優れており、且つ反応条件も穏やかである点で有利である。従って、本発明におけるアニオン変性セルロース繊維の好ましい態様として、セルロース構成単位のC6位がカルボキシ基であるセルロース繊維が挙げられる。本明細書において、かかるセルロース繊維を「酸化セルロース繊維」という場合がある。
セルロース繊維へのカルボキシ基の導入に使用するための、カルボキシ基を有する化合物は特に限定されないが、具体的にはハロゲン化酢酸が挙げられる。ハロゲン化酢酸としては、クロロ酢酸等が挙げられる。
セルロース繊維へのカルボキシ基の導入に使用するための、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物及びそれらの誘導体は特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸及び無水アジピン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物やカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。これらの化合物は疎水基で置換されていてもよい。
(ii)セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基又はリン酸基を導入する場合
セルロース繊維へスルホン酸基を導入する方法としては、セルロース繊維に硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。
セルロース繊維へリン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態のセルロース繊維に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、セルロース繊維の分散液にリン酸又はリン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらの方法を採用した場合、一般的に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合または添加した後に、脱水処理及び加熱処理等を行う。
上述のいずれかの方法でセルロース繊維にアニオン性基を導入することによって、原料のセルロース繊維がアニオン変性され、アニオン変性セルロース繊維となる。この時点では、微細化処理は施されていない。本発明の繊維の熱寸法安定性や機械的強度を向上させる観点から、還元処理や低アスペクト比化処理を更に行うことが好ましい。
(アニオン変性セルロース繊維複合体)
本発明におけるアニオン変性セルロース繊維複合体とは、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に特定アミンがイオン結合を介して結合してなるセルロース繊維である。なお、本明細書において、「アニオン性基に、炭化水素基を有するアミンがイオン結合を介して結合」とは、アニオン性基、例えばカルボキシ基が脱プロトン化するとともに、炭化水素基を有するアミンがアンモニウム塩となり、両者がイオン結合した状態を意味する。
(炭化水素基を有するアミン)
炭化水素基を有するアミンとしては、後述の炭化水素基を有するものであればよく、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンのいずれでもよいが、反応性の観点から、第1級アミン又は第2級アミンが好ましく、第1級アミンがより好ましい。アミンは単独で又は2種以上を組み合わせ用いてもよい。
分散性の観点から、炭化水素基を有するアミンの炭素数が好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、更に好ましくは3以上であり、同様の観点から、炭素数が好ましくは30以下であり、より好ましくは25以下であり、更に好ましくは20以下である。
炭化水素基を有するアミンは公知の方法に従って調製することができ、あるいは市販品を用いてもよい。後述の鎖式飽和炭化水素基を有するアミンとしては、例えば、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、イソブチルアミン、ペンチルアミン、tert−ペンチルアミン、イソペンチルアミン、ヘキシルアミン、イソヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、オクタデシルアミン、ドコシルアミン、オクタコサニルアミンが挙げられる。
後述の鎖式不飽和炭化水素基を有するアミンとしては、エテニルアミン、プロペニルアミン、ブテニルアミン、イソブテニルアミン、イソプレニルアミン、ペンテニルアミン、ヘキセニルアミン、ヘプテニルアミン、オクテニルアミン、ノネニルアミン、デセニルアミン、ドデセニルアミン、トリデセニルアミン、テトラデセニルアミン、オクタデセニルアミン、オレイルアミンが挙げられる。
炭化水素基としては、例えば、炭素数1以上以上30以下の鎖式飽和炭化水素基又は鎖式不飽和炭化水素基を含むことが好ましく、炭素数としては、分散性の観点から、より好ましくは2以上であり、更に好ましくは3以上であり、同様の観点から、より好ましくは25以下であり、更に好ましくは20以下である。
鎖式飽和炭化水素基は、直鎖状又は分岐状であってもよい。鎖式飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基等が挙げられ、分散性の観点から、好ましくは、ドデシル基、デシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基である。これらは、単独で又は2種以上が任意の割合でそれぞれ導入されていてもよい。
鎖式不飽和炭化水素基は、直鎖状又は分岐状であってもよい。鎖式不飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、イソプレニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、オクタデセニル基、オレイル基が挙げられ、分散性の観点から、好ましくは、オレイル基、 デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、オクタデセニル基である。これらは、単独で又は2種以上が任意の割合でそれぞれ導入されていてもよい。
アニオン変性セルロース繊維複合体における炭化水素基を有するアミンの平均結合量は、分散性を向上させる観点から、好ましくは0.01mmol/g以上であり、より好ましくは0.05mmol/g以上であり、更に好ましくは0.1mmol/g以上であり、更に好ましくは0.3mmol/g以上であり、更に好ましくは0.5mmol/g以上である。また、反応性の観点から、好ましくは3mmol/g以下であり、より好ましくは2.5mmol/g以下であり、更に好ましくは2mmol/g以下であり、更に好ましくは1.8mmol/g以下であり、更に好ましくは1.5mmol/g以下である。炭化水素基を有するアミンとして任意の2種以上の炭化水素基を有するアミンが同時にセルロース繊維に導入されている場合、炭化水素基を有するアミンの平均結合量は、導入されている、炭化水素基を有するアミンの合計量が前記範囲内であることが好ましい。
アニオン変性セルロース繊維複合体における炭化水素基を有するアミンの導入率は、いずれの炭化水素基を有するアミンについても、分散性の観点から、好ましくは5%以上であり、より好ましくは10%以上であり、更に好ましくは15%以上であり、反応性の観点から、好ましくは100%以下であり、より好ましくは60%以下であり、更に好ましくは50%以下である。
本明細書において、炭化水素基を有するアミンの平均結合量及び導入率は、炭化水素基を有するアミンの添加量、炭化水素基を有するアミンの種類、反応温度、反応時間、溶媒などによって調整することができる。炭化水素基を有するアミンの平均結合量(mmol/g)及び導入率(%)とは、アニオン変性セルロース繊維表面のアニオン性基に炭化水素基を有するアミンが導入された量及び割合のことである。アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基含有量や水酸基含有量は公知の方法(例えば、滴定、IR測定等)に従って測定することで算出できる。
アニオン変性セルロース繊維複合体の平均繊維径、平均繊維長の好適範囲は、製造工程の順序にもよるが、原料のセルロース繊維のものと同等である。
(アミンを導入する工程:工程B)
本発明に用いるアニオン変性セルロース繊維複合体は、上述したアニオン性基を含むアニオン変性セルロース繊維に炭化水素基を有するアミンを導入できるのであれば、特に限定なく公知の方法に従って製造することができる。
例えば、以下に示すように、炭化水素基を有するアミンをイオン結合によってアニオン変性セルロース繊維に結合させる態様(態様A)が挙げられる。
(態様A):アニオン変性セルロース繊維としてカルボキシ基変性セルロース繊維と、炭化水素基を有するアミンを混合する工程(工程B1)。
アニオン性基がカルボキシ基の場合の具体的な方法としては、態様Aは特開2015−143336号公報の工程(B)に記載の方法を参照して実施することができる。
〔微細セルロース繊維複合体〕
本発明で用いられる微細セルロース繊維複合体は、アニオン性基を含むセルロース繊維(アニオン変性セルロース繊維)に炭化水素基を有するアミンがイオン結合を介して結合されており、微細化されたものである。具体的には、微細セルロース繊維複合体は、前述した工程A、工程B、及び後述の工程Cを行うことによって製造することができる。
本発明で用いられる微細セルロース繊維複合体は、原料として天然セルロース繊維を使用していることに起因して、セルロースI型結晶構造を有している。セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。
本発明における微細セルロース繊維複合体の結晶化度は、本発明の効果を発現する観点から、好ましくは30%以上であり、より好ましくは35%以上であり、更に好ましくは40%以上であり、更に好ましくは45%以上である。また、使用するセルロース原料コストの観点から、好ましくは95%以下であり、より好ましくは90%以下であり、更に好ましくは85%以下であり、更に好ましくは80%以下である。なお、本明細書において、本発明におけるセルロースの結晶化度は、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
微細セルロース繊維複合体は、その平均繊維径が、本発明の効果を発現する観点から、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは0.5nm以上、更に好ましくは1nm以上、更に好ましくは2nm以上、更に好ましくは3nm以上である。また、同様の観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは20nm以下、更に好ましくは10nm以下、更に好ましくは6nm以下、更に好ましくは5nm以下である。微細セルロース繊維複合体の平均繊維径は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
微細セルロース繊維複合体の平均繊維長は、本発明の効果を発現する観点から、好ましくは150nm以上、より好ましくは200nm以上である。同様の観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは750nm以下、更に好ましくは500nm以下、更に好ましくは400nm以下である。微細セルロース繊維複合体の平均繊維長は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
微細セルロース繊維複合体の平均アスペクト比、すなわち繊維長/繊維径の値は、接着性の観点から、好ましくは1以上であり、より好ましくは10以上であり、更に好ましくは20以上であり、更に好ましくは40以上であり、更に好ましくは50以上であり、その上限は好ましくは250以下であり、より好ましくは200以下であり、更に好ましくは150以下であり、更に好ましくは100以下であり、更に好ましくは90以下である。同様の観点から、平均アスペクト比が前記範囲内にある場合、アスペクト比の標準偏差は、好ましくは60以下であり、より好ましくは50以下であり、更に好ましくは45以下であり、下限は特に設定されないが、経済性の観点から、好ましくは4以上である。微細セルロース繊維複合体の平均アスペクト比は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
微細セルロース繊維複合体は、微細化処理されたアニオン変性セルロース繊維複合体である。したがって、平均繊維径、平均繊維長以外の炭化水素基を有するアミンの平均結合量や導入率、炭化水素基を有するアミンの種類に関する、微細セルロース繊維複合体の好適範囲は、アニオン変性セルロース繊維複合体のものと同等である。
本発明の分散液における微細セルロース繊維複合体の含有量は、製品の機械的強度を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上であり、更に好ましくは1.0質量%以上である。一方、費用対効果の観点から、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは4質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以下である。なお、本発明の分散液や樹脂成形体に用いる本明細書中の「含有」は「配合」と読み替えることができる。
(微細化処理工程:工程C)
本工程は、前述のようにして得られたアニオン変性セルロース繊維複合体を、有機溶媒中で微細化処理する工程であり、微細化処理によって微細セルロース繊維複合体が得られる。微細化処理工程では、前述のようにして得られたアニオン変性セルロース繊維複合体が有機溶媒に分散した状態のものや、有機溶媒を除去したものについては新たに溶媒に分散させたものに対して微細化処理を行うことが好ましい。具体的には、特開2013−151661号の微細化工程の説明を参照して実施することができる。
〔有機性の液体化合物〕
有機性の液体化合物は、微細セルロース繊維複合体の分散媒としての役割を有する。有機性の液体化合物とはSP値10以下の液体化合物であり、好ましくは、植物性油、動物性油、合成油及び流動パラフィンからなる群より選択される1種以上の油を含む。本発明において、有機性の液体化合物は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本明細書におけるSP値とは、Fedors法で計算される溶解度パラメーター(単位:(cal/cm1/2)を示し、例えば、参考文献「SP値基礎・応用と計算方法」(情報機構社、2005年)、Polymer handbook Third edition(A Wiley-Interscience publication, 1989)等に記載されている。
植物性油としては、植物に由来する油類であって、具体的には、菜種油、ピーナッツ油、コーン油、綿実油、キャノーラ油、大豆油、ヒマワリ油、パーム油、やし油、ベニバナ油、ツバキ油、オリーブ油、落花生油等が挙げられる。
動物性油としては、動物に由来する油類であって、具体的には、ラード、牛脚油、サナギ油、イワシ油、ニシン油等が挙げられる。
合成油としては、脂肪酸エステルが挙げられ、具体的には、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ジグリセリンカプリル酸エステル、ジグリセリンカプリル酸オレイン酸エステル、ジグリセリンオレイン酸エステル、デカグリセリンカプリル酸オレイン酸エステル、デカグリセリンオレイン酸エステル等が挙げられる。また、脂肪酸エステル以外の合成油としては、シリコーンオイル、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセンとエチレンとの共重合体等のポリα−オレフィン(PAO)及びこれらの水素化物等が挙げられる。
脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数が8〜22の脂肪酸が好ましく、具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、エルカ酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、アラキン酸、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。具体的な脂肪酸エステルとしては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びプロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる
流動パラフィンとしては、CmHn(m、nは1以上の整数、ただしn<2m+2)で示される分岐構造、環構造を有する脂環式炭化水素化合物又はそれらの混合物が挙げられる。
上記に例示した有機性の液体化合物は、いずれもSP値が10以下である。
本発明の分散液における有機性の液体化合物の含有量は、微細セルロース繊維複合体を分散液として得る観点から、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。一方、費用対効果の観点から、好ましくは99.5質量%以下であり、より好ましくは99.0質量%以下であり、更に好ましくは98.5質量%以下である。
〔微細セルロース繊維複合体分散液の製造方法〕
本発明の微細セルロース繊維複合体分散液は、前記微細セルロース繊維複合体及び前記有機性の液体化合物を所定量混合し、撹拌することによって製造することができる。
撹拌に用いる撹拌機としては、撹拌翼を備えた撹拌機、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、ロールミル、短軸混練機、2軸機混練機、短軸押出機、2軸押出機、超音波撹拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。またマグネチックスターラーやプロペラミキサー、薬匙や振とう等による手動の撹拌など軽微な機械力でも、各成分を十分に撹拌することが可能である。撹拌機は1種のみでも、2種以上を組み合わせてもよい。撹拌時の温度や圧力の条件も、各成分の量や種類に応じて適宜設定することができる。
<さらに樹脂を含有する態様の微細セルロース繊維複合体分散液>
本発明の微細セルロース繊維複合体分散液は、樹脂をさらに含んでいてもよい。樹脂を含む本態様の分散液(「樹脂含有組成液」とも称する。)を使用して、公知の成形方法により成形体を製造できるため、さらに樹脂を含有する態様の微細セルロース繊維複合体分散液は、本発明における好ましい態様の一つである。
〔樹脂〕
使用できる樹脂は特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂を用いることができる。かかる熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、セルロース系樹脂及びゴム系樹脂は、樹脂として1種のみ使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、ポリ乳酸樹脂等の飽和ポリエステル樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のオレフィン樹脂;塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、スチレン樹脂、ビニルエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂等のビニル樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリウレタン樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いても良い。これらの中でも、分散性に優れる分散液が得られることから、オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂及びポリウレタン樹脂が好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリル系樹脂とは、メタクリル系樹脂及びアクリル系樹脂を含む概念を意味する。
(メタ)アクリル系樹脂としては、該樹脂を構成する全重合体の単量体単位の合計を基準として、50重量%以上の(メタ)アクリル酸メチルを単量体単位として含むものが好ましく、メタクリル系樹脂がより好ましい。
メタクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル及びこれに共重合可能な他の単量体を共重合することによって製造することができる。重合方法は特に限定されず、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、注型重合法(例えば、セルキャスト重合法)などが挙げられる。
(硬化性樹脂)
硬化性樹脂としては、光硬化性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂が好ましい。
光硬化性樹脂は、紫外線や電子線等の活性エネルギー線照射により、ラジカルやカチオンを発生する光重合開始剤を用いることで重合反応が進行する。
前記光重合開始剤としては、例えばアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物、2,3−ジアルキルジオン類化合物類、ジスルフィド化合物、チウラム化合物類、フルオロアミン化合物等が挙げられる。より具体的には、特開2018−024967号公報の段落0113に記載の化合物が挙げられる。
光重合開始剤で、例えば、単量体(単官能単量体、多官能単量体)、反応性不飽和基を有するオリゴマー又は樹脂等を重合することができる。
単官能単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体、ビニルピロリドンなどのビニル系単量体、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレートなどの架橋環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。多官能単量体には、2〜8程度の重合性基を有する多官能単量体が含まれ、2官能単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの架橋環式炭化水素基を有するジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。3〜8官能単量体としては、例えば、グリセリントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
反応性不飽和基を有するオリゴマー又は樹脂としては、ビスフェノールA−アルキレンオキサイド付加体の(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート(ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ノボラック型エポキシ(メタ)アクリレートなど)、ポリエステル(メタ)アクリレート(例えば、脂肪族ポリエステル型(メタ)アクリレート、芳香族ポリエステル型(メタ)アクリレートなど)、ウレタン(メタ)アクリレート(ポリエステル型ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル型ウレタン(メタ)アクリレートなど)、シリコーン(メタ)アクリレートなどが例示できる。これらのオリゴマー又は樹脂は、前記単量体と共に用いても良い。
光硬化性樹脂は、凝集物が少なく、透明性に優れる分散液や樹脂成形体が得られる観点から、好ましい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂及びポリイミド樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらの中では、分散性に優れる分散液が得られることから、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましく、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ポリウレタン樹脂がより好ましい。
前記樹脂成分を用いる場合は、硬化剤を使用することが好ましい。硬化剤を配合することによって、樹脂を含む分散液から得られる樹脂成形体を強固に成形することができ、機械的強度を向上させることができる。尚、硬化剤の配合量は、樹脂の種類及び/又は使用する硬化剤の種類により適宜設定すればよい。
(セルロース系樹脂)
セルロース系樹脂としては、酢酸セルロース(セルロースアセテート)、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロース混合アシレートなどの有機酸エステル;硝酸セルロース、リン酸セルロース等の無機酸エステル;硝酸酢酸セルロース等の有機酸無機酸混酸エステル;アセチル化ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロースエーテルエステルなどが挙げられる。上記酢酸セルロースには、セルローストリアセテート(アセチル置換度2.6〜3)、セルロースジアセテート(アセチル置換度2以上2.6未満)、セルロースモノアセテートが含まれる。セルロース系樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(ゴム系樹脂)
また、本発明では、樹脂としてゴム系樹脂を用いることができる。ゴム系樹脂は、強度を高めるために、補強材としてカーボンブラックやシリカ等の無機フィラー配合品が汎用されているが、その補強効果にも限界があると考えられる。しかしながら、本発明の分散液にゴム系樹脂を配合することで得られる分散液中での分散性に優れることから、機械的強度及び耐熱性に優れる分散液や成形体(ゴム)を提供することが可能になると考えられる。
ゴム系樹脂としては、ジエン系ゴム、非ジエン系ゴムが好ましい。
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ブチルゴム、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体ゴム、クロロプレンゴム及び変性天然ゴム等が挙げられる。変性天然ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム、水素化天然ゴム等が挙げられる。非ジエン系ゴムとしては、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、多硫化ゴム、エピクロルヒドリンゴムなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
総合すると、微細セルロース繊維複合体分散液に含有される樹脂としては、オレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ビニル樹脂及びゴム系樹脂からなる群より選択される1種以上が好ましい。
本態様の分散液中の樹脂の量は、分散液の所望の物性や成型法によって一概には決められないが、配合量で換算して、有機性の液体化合物100質量部に対して、得られる成形体の機械的強度の観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上であり、一方、得られる成形体の透明性の観点から、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下、更に好ましくは300質量部以下である。
〔その他の成分〕
微細セルロース繊維複合体分散液には、前記微細セルロース繊維複合体及び前記有機性の液体化合物以外の成分が含まれていてもよい。かかる「その他の成分」としては、例えば、グリセリン、グリセリン誘導体、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ジメチルホルムアミド等の有機性の液体化合物に溶解しやすいものが挙げられる。
また、前記成分以外に、各用途に合わせて、可塑剤、結晶核剤、充填剤(無機充填剤、有機充填剤)、加水分解抑制剤、難燃剤、酸化防止剤、炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;香料;流動調整剤;レべリング剤;導電剤;紫外線分散剤;消臭剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。また同様に、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の高分子材料や他の樹脂組成物を添加することも可能である。
可塑剤としては、特に限定はなく、従来からの可塑剤であるフタル酸エステルやコハク酸エステル、アジピン酸エステルといった多価カルボン酸エステル、グリセリン等脂肪族ポリオールの脂肪酸エステル等が挙げられる。具体的には、特開2008−174718号公報及び特開2008−115372号公報に記載の可塑剤が例示される。
また、本態様の分散液がゴム系樹脂を含有する場合には、前記以外の成分として、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により、ゴム工業界で通常用いられるカーボンブラックやシリカ等の補強用充填剤、各種薬品、例えば加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、プロセスオイル、植物油脂、可塑剤等のタイヤ用、その他一般ゴム用に配合されている各種添加剤を従来の一般的な量で配合させることができる。
本発明の分散液における「その他の成分」の含有量は、特に限定されないが、分散性の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
〔本態様の分散液の調製方法〕
本態様の分散液、即ち、前記樹脂含有組成液は、前述の樹脂、微細セルロース繊維複合体、分散剤、有機性の液体化合物を、必要により、これら以外の成分と一緒に、高圧ホモジナイザーで分散処理を行うことにより、調製することができる。あるいは、これらの各原料を、ヘンシェルミキサー、自転公転式攪拌機等で攪拌、あるいは密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて溶融混練することでも調製することができる。
<樹脂成形体>
樹脂成形体は、樹脂を含む前記態様の分散液を利用した押出成形、射出成形、プレス成形、注型成型又は溶媒キャスト法等の公知の成形方法を適宜用いることによって調製することができる。本発明の分散液は、微細セルロース繊維複合体の分散性に優れているので、成形体である各種樹脂製品の機械的強度が従来品よりも向上している。そのため、樹脂成形体を各種用途に好適に用いることができる。
樹脂を含む前記態様の分散液や樹脂成形体が使用できる用途は特に限定されないが、例えば透明樹脂材料、3次元造形材料、クッション材、補修材、接着剤、粘着剤、シーリング材、断熱材、吸音材、人工皮革材料、塗料、電子材、包装材料、タイヤ、自動車部品、繊維複合材料に用いることができる。これらの中でも、透明性に優れる成形体が得られる観点からは、特に透明樹脂材料、接着剤、粘着剤、人工皮革材料、塗料、電子材、繊維複合材料用途が好ましく、強度発現の観点からは3次元造形材料、クッション材、補修材、シーリング材、断熱材、吸音材、タイヤ、自動車部品用途が好ましい。
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
〔セルロースの結晶化度〕
微細セルロース繊維及び微細セルロース繊維複合体におけるセルロースの結晶化度は、X線回折法による回折強度値からSegal法により算出したセルロースI型結晶化度であり、下記計算式(A)により定義される。
セルロースI型結晶化度(%)=[(I22.6−I18.5)/I22.6]×100 (A)
〔式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は,アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。〕
〔セルロース繊維、アニオン変性セルロース繊維及びアニオン変性セルロース繊維複合体の平均繊維径及び平均繊維長〕
測定対象のセルロース繊維にイオン交換水を加えて、その含有量が0.01質量%の分散液を調製する。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、商品名:IF−3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:500μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定する。セルロース繊維を100本以上測定し、それらの平均ISO繊維径を平均繊維径をとして、平均ISO繊維長を平均繊維長として算出する。
〔微細セルロース繊維及び微細セルロース繊維複合体の平均繊維径〕
微細セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体に水又はエタノールを加えて、その含有量が0.0001質量%の分散液を調製し、該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM、Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製、プローブはナノセンサーズ社製Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さを測定する。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、微細セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体を100本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出する。平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径より算出し、標準偏差も算出する。
〔アニオン変性セルロース繊維、微細セルロース繊維及び微細セルロース繊維複合体のアニオン性基含有量〕
乾燥質量0.5gの測定対象のセルロース繊維又は複合体を100mLビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mLとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製する。測定対象のセルロース繊維又は複合体が十分に分散するまで該分散液を撹拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5〜3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名「AUT−501」)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定する。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維又は複合体のアニオン性基含有量を算出する。
アニオン性基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/測定対象のセルロース繊維又は複合体の質量(0.5g)
〔微細セルロース繊維複合体における炭化水素基を有するアミンの平均結合量及び導入率(イオン結合)〕
炭化水素基を有するアミンの結合量を次のIR測定方法によって求め、下記式によりその平均結合量及び導入率を算出する。IR測定は、具体的には、乾燥させた微細セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体を赤外吸収分光装置(IR)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:Nicolet 6700)を用いATR法にて測定し、次式により、イオン結合による炭化水素基を有するアミンの平均結合量及び導入率を算出する。以下はアニオン性基がカルボキシ基の場合を示す。以下の「1720cm−1のピーク強度」は、カルボニル基に由来するピーク強度である。なお、カルボキシ基以外のアニオン性基の場合はピーク強度の値を適宜変更し、炭化水素基を有するアミンの平均結合量及び導入率を算出すればよい。
炭化水素基を有するアミンの結合量(mmol/g)=[微細セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)]×[(微細セルロース繊維の1720cm−1のピーク強度−炭化水素基を有するアミン結合後の微細セルロース繊維複合体の1720cm−1のピーク強度)/微細セルロース繊維の1720cm−1のピーク強度]
炭化水素基を有するアミンの導入率(%)=100×(炭化水素基を有するアミンの結合量(mmol/g))/(導入前の微細セルロース繊維中のカルボキシ基含有量(mmol/g))
〔分散液の粘度〕
微細セルロース繊維複合体分散液の粘度は、レオメーター(MCR502、Anton Paar社製)で、コーンプレート(CP75−1)を用い、25℃、せん断速度1rpmで測定した。
〔微細セルロース繊維の調製〕
調製例1
針葉樹の漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ社製、商品名「Machenzie」、CSF650ml)を天然セルロース繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(ALDRICH社製、Free radical、98質量%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウム及び臭化ナトリウムは市販品を用いた。
まず、針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9,900gのイオン交換水で十分に撹拌した後、該パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25g、臭化ナトリウム12.5g、次亜塩素酸ナトリウム28.4gをこの順で添加した。自動滴定装置AUT−701(東亜ディーケーケー社製)でpHスタット滴定を用い、十分な撹拌下、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保持した。反応を120分(20℃)行った後、水酸化ナトリウム水溶液の滴下を停止し、酸化パルプを得た。イオン交換水を用いて、得られた酸化パルプを、コンパクト電気伝導率計(堀場製作所製、LAQUAtwin EC−33B)によるろ液の電導度測定において200μs/cm以下になるまで十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。その後、酸化パルプ3.9gとイオン交換水296.1gを高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバーストラボ HJP−2 5005)を用いて245MPaで酸化パルプの微細化処理を2回行い、カルボキシ基含有微細セルロース繊維の分散液(固形分含有量1.3質量%)を得た。この微細セルロース繊維の平均繊維径は3.3nm、カルボキシ基含有量は1.8mmol/gであった。
調製例2
調製例1で得られたカルボキシ基含有微細セルロース繊維の分散液4,088.75g(固形分含有量1.3質量%)及びイオン交換水4,085gをビーカーに入れて、0.5質量%の水溶液とし、メカニカルスターラーにて室温(25℃)下、30分間撹拌した。続いて1M塩酸水溶液245gをビーカーに仕込み、室温下、1時間撹拌して反応させた。
反応終了後ろ過し、ケークをイオン交換水にて洗浄し、塩酸及び塩を除去した。アセトンで溶媒置換した後、メチルエチルケトン(MEK)で溶媒置換し、カルボキシ基含有微細セルロース繊維が膨潤した状態のMEK含有酸型微細セルロース繊維の分散液(固形分含有量3.2質量%)を得た。この微細セルロース繊維の平均繊維径は3.3nm、カルボキシ基含有量は1.8mmol/gであった。
〔EOPOアミンの調製〕
調製例3
プロピレングリコール第三級ブチルエーテル132g(1モル)を1Lのオートクレーブに仕込み、75℃に加熱し、フレーク状の水酸化カリウム1.2gを加え、溶解するまで撹拌した。次いで、表1に示す量のエチレンオキシド(EO)とプロピレンオキシド(PO)を前記オートクレーブに供給し、110℃で0.34MPaにて反応させた後、Magnesol 30/40(ケイ酸マグネシウム、ダラスグループ社製)7.14gを投入して95℃で中和した。得られた生成物にジ第三級ブチル−p−クレゾール 0.16gを添加、混合した後、濾過して、EO/PO共重合体であるポリエーテルを得た。
一方、酸化ニッケル/酸化銅/酸化クロム(モル比:75/23/2)(和光純薬工業社)の触媒を充填した1.250mLの管状反応容器に、上記で得られたポリエーテル(8.4mL/min)、アンモニア(12.6mL/min)及び水素(0.8mL/min)をそれぞれ供給した。容器の温度を190℃に維持し、圧力を14MPaに維持した。そして容器からの粗流出液を70℃及び3.5mmHgにて30分間減圧留去した。得られたアミノ化ポリエーテル200g及び15%塩酸水溶液93.6gをフラスコに仕込み、混合物を100℃にて3.75時間加熱して、第三級ブチルエーテルを塩酸で開裂させた。そして生成物を15%の水酸化カリウム水溶液144gで中和した。次に中和された生成物を112℃で一時間減圧留去して濾過し、式(i)で表されるEO/PO共重合部を有するモノアミンを得た。なお、得られたモノアミンは、EO/PO共重合部とアミンが直接結合しており、式(i)におけるRは水素原子であった。
Figure 2019119868
なお、EO/PO共重合部の分子量は、例えば、調製例3のアミンの場合、
1,409〔EO分子量(44.03)×EO付加モル数(32)〕+522〔PO分子量(58.04)×PO付加モル数(9)〕+58.04〔出発原料中のPO部分分子量(プロピレングリコール)〕=1,989
を四捨五入して2,000と算出した。
調製例4
EOの量とPOの量を表1に示す量に変更した点以外は製造例1の記載に従って、式(i)で表されるEO/PO共重合部を有するモノアミンを得た。なお、得られたモノアミンは、EO/PO共重合部とアミンが直接結合しており、式(i)におけるRは水素原子であった。
Figure 2019119868
〔微細セルロース繊維複合体の製造〕
製造例1
マグネティックスターラー及び撹拌子を備えたビーカーに、調製例2で得られたカルボキシ基含有微細セルロース繊維の分散液50g(固形分含有量3.2質量%)を仕込んだ。続いて、微細セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミノ基1.0molに相当する量のドデシルアミン、及びMEK150gをこのビーカーに仕込み、室温(25℃)で14時間撹拌して反応させた。反応終了後ろ過し、ケークをMEKで洗浄することで、微細セルロース繊維にドデシル基がイオン結合を介して連結した微細セルロース繊維複合体を得た。
製造例2〜4
仕込んだアミンの種類及び量を表2に示すものに変更した点以外は製造例1の記載に従って、微細セルロース繊維にオレイル基がイオン結合を介して連結した微細セルロース繊維複合体(製造例2)、及び微細セルロース繊維にEOPO共重合部がイオン結合を介して連結した微細セルロース繊維複合体(製造例3〜4)を得た。
〔分散液の製造〕
実施例1
製造例1で製造した微細セルロース繊維複合体に、有機性の液体化合物である流動パラフィン(SP値:7.9)を表2に示す配合量となるよう添加して、超音波ホモジナイザー(US−300E、日本精機製作所社製)にて2分間撹拌後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバーストラボ HJP−2 5005)にて150MPaで5パス混合処理した。得られた混合物をガラスシャーレに注ぎ、2日間40℃で真空乾燥を行い、MEKを除去することで、流動パラフィン及び微細セルロース繊維複合体の混合物である分散液を製造した。
実施例2及び比較例1〜2
使用した微細セルロース繊維複合体の種類を表2に示すものに変更した点以外は実施例1の記載に従って、流動パラフィン及び微細セルロース繊維複合体の混合物である分散液を製造した。
試験例1(分散性)
実施例及び比較例で製造した各分散液の外観を目視で観察し、均一に分散しているかどうかを確認して、下記の基準で評価した。
○:混合物は均一に分散していた。
×:混合物は分離しており、均一に分散していなかった。
Figure 2019119868
上記の結果より、微細セルロース繊維複合体の修飾基が所定の炭化水素基である実施例の分散液は、分散性が良好であることが分かった。一方、修飾基が所定の炭化水素基でない液体は分離状態であり、分散液の状態ではなかったので、粘度測定を行わなかった(比較例1、2)。
微細セルロース繊維複合体分散液は、透明樹脂材料、3次元造形材料、クッション材、補修材、粘着剤、接着剤、シーリング材、断熱材、吸音材、人工皮革材料、塗料、電子材、包装材料、タイヤ、自動車部品、繊維複合材料等の各種樹脂製品の機械的強度の向上剤として利用することができる。

Claims (6)

  1. アニオン性基を含むアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に、炭化水素基を有するアミンがイオン結合を介して結合されてなる微細セルロース繊維複合体及び有機性の液体化合物を含む、微細セルロース繊維複合体分散液。
  2. 前記炭化水素基が、炭素数1以上30以下の鎖式飽和炭化水素基又は鎖式不飽和炭化水素基を含む、請求項1に記載の分散液。
  3. 有機性の液体化合物が、植物性油、動物性油、合成油及び流動パラフィンからなる群より選択される1種以上の油を含む、請求項1又は2に記載の分散液。
  4. さらに樹脂を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維複合体分散液。
  5. 前記樹脂が、オレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ビニル樹脂及びゴム系樹脂からなる群より選択される1種以上である、請求項4に記載の微細セルロース繊維複合体分散液。
  6. 請求項4又は5に記載の微細セルロース繊維複合体分散液を成形してなる樹脂成形体。
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