以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
自動車(車両)は、原動機からの動力を車軸側に伝達する動力伝達機構においてさまざまな歯車が設けられている。歯車を用いた動力伝達機構の一例としては、自動車用変速機が挙げられる。本実施形態では、自動車用変速機における動力伝達機構について具体的に説明するが、本実施形態の動力伝達機構は、自動車用変速機以外にも適用可能であり、その用途が限定されるものではない。
図1は、本実施形態の動力伝達機構1を説明する図である。動力伝達機構1は、駆動歯車(歯車構造)10と従動歯車(歯車構造)20を有する。駆動歯車10は、第1回転軸12に支持され、第1回転軸12と一体的に回転する。従動歯車20は、第2回転軸22に支持され、第2回転軸22と一体的に回転する。本実施形態では、第1回転軸12と第2回転軸22は、平行に設けられる。駆動歯車10と従動歯車20は、互いに噛み合って一対の歯車対を形成している。
駆動歯車10および従動歯車20の噛合い部には、不図示の潤滑油供給ノズルにより潤滑油が供給される。潤滑油供給ノズルは、歯車対の噛込み側に設けられる。ただし、潤滑油供給ノズルは、歯車対の反噛込み側に設けられてもよい。また、潤滑油供給ノズルの向きを調整して、歯車対のいずれか一方の歯車に向けて潤滑油を供給するようにしてもよい。なお、本実施形態では、潤滑油供給ノズルを使用して潤滑油を供給する例を挙げたが、これに限定されず、例えば、飛沫潤滑や油浴潤滑等、潤滑油供給ノズルを使用しない他の潤滑油供給機構を使用して潤滑油を供給してもよい。
駆動歯車10は、複数の歯14を有する。駆動歯車10は、例えば、はすば歯車である。複数の歯14は、第1回転軸12の回転方向(以下、単に回転方向という)に沿って円環状に形成される。複数の歯14は、歯すじが第1回転軸12の中心軸に対し傾斜している。複数の歯14は、ねじれ方向が左で、所定のねじれ角を有する。
従動歯車20は、複数の歯24を有する。従動歯車20は、例えば、はすば歯車である。複数の歯24は、第2回転軸22の回転方向に沿って円環状に形成される。複数の歯24は、歯すじが第2回転軸22の中心軸に対し傾斜している。複数の歯24は、ねじれ方向が右で、所定のねじれ角を有する。
駆動歯車10と従動歯車20は、互いの歯14、24を噛み合わせて回転を伝達する。駆動歯車10は、図1の矢印A方向に回転し、従動歯車20の図1の矢印B方向への回転を導く。本実施形態では、駆動歯車10から従動歯車20に回転(動力)を伝達している。
ここで、本実施形態では、動力伝達機構1に駆動歯車10および従動歯車20を組み込む前に、駆動歯車10および従動歯車20の歯14、24の噛合い剛性変動(以下、剛性変動という)を有限要素法(FEM:Finite Element Method)により演算する。本実施形態では、不図示のコンピュータを用いて、FEMにより駆動歯車10および従動歯車20の噛合い剛性変動を演算する。FEMにより、歯車全体の剛性変動を演算することができる。FEMによれば、歯車の周方向(回転方向)だけでなく、歯車の軸方向および径方向の剛性変動を演算することができる。
以下、FEMにより演算される駆動歯車10と従動歯車20の剛性変動について説明する。ここでは、まず、駆動歯車10および従動歯車20の形状を、比較例である基準形状とした場合について説明する。図2は、比較例における駆動歯車100および従動歯車200の形状(基準形状)を説明する図である。図2(a)は比較例における駆動歯車100の概略断面図を示し、図2(b)は比較例における従動歯車200の概略断面図を示す。図2(c)は、図2(a)に示す駆動歯車100の一点鎖線部分を抽出した図である。図2(d)は、図2(b)に示す従動歯車200の一点鎖線部分を抽出した図である。
図2(a)に示すように、駆動歯車100は、軸部32と、複数の噛合い面34と、接続部136とを備える。軸部32は、円筒形状であり、第1回転軸12に接続される。軸部32の中心軸は、第1回転軸12の中心軸と略一致する。複数の噛合い面34は、複数の歯14の歯先から複数の歯14の歯元までの部位を指す。複数の噛合い面34は、軸部32よりも径方向外側に設けられ、回転方向に配列される。接続部136は、噛合い面34と軸部32との間に位置し、噛合い面34(すなわち、複数の歯14の歯元)と軸部32とを接続する。
接続部136は、肉厚部136aと、肉薄部136bとを有する。肉厚部136aは、肉薄部136bよりも噛合い面34側に位置し、肉薄部136bよりも軸方向の幅が大きい。肉厚部136aは、噛合い面34の第1回転軸12における軸方向(以下、単に軸方向という)の幅と等しい幅を有する。ここで、等しい(同じ)とは、完全に等しい(同じである)場合と、許容誤差(加工精度や組付誤差等)の範囲内で完全に等しい(同じである)場合からずれている場合とを含む意味である。以下、等しい、あるいは、同じ、という記載は、上述した内容と同様の意味とする。肉薄部136bは、肉厚部136aよりも軸部32側に位置し、噛合い面34および肉厚部136aよりも軸方向の幅が小さい。接続部136の軸方向において、肉厚部136aの中心位置は、肉薄部136bの中心位置と等しい。
図2(c)に示すように、駆動歯車100の噛合い面34は、第1回転軸12の軸方向の一方側における歯14の歯元(図中右下)において、従動歯車200の歯24と噛合いを開始する(以下、噛合い始めという)。また、駆動歯車100の噛合い面34は、第1回転軸12の軸方向の他方側における歯14の歯先(図中左上)において、従動歯車200の歯24と噛合いを終了する(以下、噛合い終わりという)。
肉厚部136aは、噛合い面34における噛合い始め側(一方側)の厚さと、噛合い面34における噛合い終わり側(他方側)の厚さが等しい。つまり、肉厚部136aは、軸方向の一方側と他方側とで径方向の厚みが等しい。
図2(b)に示すように、従動歯車200は、軸部42と、複数の噛合い面44と、接続部46とを備える。軸部42は、円筒形状であり、第2回転軸22に接続される。軸部42の中心軸は、第2回転軸22の中心軸と略一致する。複数の噛合い面44は、複数の歯24の歯先から複数の歯24の歯元までの部位を指す。複数の噛合い面44は、軸部42よりも径方向外側に設けられ、回転方向に配列される。接続部46は、噛合い面44と軸部42との間に位置し、噛合い面44(すなわち、複数の歯24の歯元)と軸部42を接続する。
接続部46は、肉厚部46aと、肉薄部46bとを有する。肉厚部46aは、肉薄部46bよりも噛合い面44側に位置し、肉薄部46bよりも軸方向の幅が大きい。肉厚部46aは、噛合い面44の軸方向の幅と等しい幅を有する。肉薄部46bは、肉厚部46aよりも軸部42側に位置し、噛合い面44および肉厚部46aよりも軸方向の幅が小さい。接続部46の軸方向において、肉厚部46aの中心位置は、肉薄部46bの中心位置と等しい。
図2(d)に示すように、従動歯車200の噛合い面44は、第2回転軸22の軸方向の一方側における歯24の歯先(図中右下)において、駆動歯車100の歯14と噛合いを開始する。また、従動歯車200の噛合い面44は、第2回転軸22の軸方向の他方側における歯24の歯元(図中左上)において、駆動歯車100の歯14と噛合いを終了する。
肉厚部46aは、噛合い面44における噛合い始め側(一方側)の厚さと、噛合い面44における噛合い終わり側(他方側)の厚さが等しい。つまり、肉厚部46aは、軸方向の一方側と他方側とで径方向の厚みが等しい。
図3は、FEMにより演算された比較例における駆動歯車100および従動歯車200の剛性変動の波形を示す図である。縦軸はFEMにより演算された剛性値(以下、単に剛性ともいう)を表し、横軸は噛合い進行方向を表す。ここで、剛性値とは、歯14、24(すなわち、噛合い面34、44)に荷重を付加した場合の荷重/変位量の値である。図3(a)では、駆動歯車100の歯14の噛合い始めから噛合い終わりまでの剛性変動の波形を示している。図3(b)では、従動歯車200の歯24の噛合い始めから噛合い終わりまでの剛性変動の波形を示している。図3(c)では、図3(a)に示す剛性変動の波形と図3(b)に示す剛性変動の波形を合成した合成波形を示している。図3(d)では、駆動歯車100の複数の歯14と従動歯車200の複数の歯24が連続して噛み合うときの複数の合成波形を示している。図3(e)では、図3(d)に示す複数の合成波形の包絡線を示している。
図3(a)に示すように、比較例における駆動歯車100は、噛合い終わり側よりも噛合い始め側の方が剛性値が大きい。これは、図2(c)に示すように、駆動歯車100において、噛合い始めの位置が歯14の歯元であるのに対し、噛合い終わりの位置が歯14の歯先であるためである。一方、図3(b)に示すように、比較例における従動歯車200は、噛合い始め側よりも噛合い終わり側の方が剛性値が大きい。これは、図2(d)に示すように、従動歯車200において、噛合い始めの位置が歯24の歯先であるのに対し、噛合い終わりの位置が歯24の歯元であるためである。
この比較例における駆動歯車100の剛性変動の波形と、比較例における従動歯車200の剛性変動の波形を合成すると、図3(c)に示す合成波形(以下、比較例の合成波形という)となる。図3(c)に示すように、比較例の合成波形は、噛合い終わり側よりも噛合い始め側の方で剛性値が大きくなる部分を有する。したがって、図3(d)に示す比較例の複数の合成波形から包絡線(以下、比較例の包絡線という)を導出すると、比較例の包絡線は、図3(e)に示すように所定の振幅を有する。
この包絡線の振幅を小さくすることができれば、歯車の騒音を小さくする、すなわち、歯車の騒音を改善することができる。
そこで、本実施形態では、比較例における駆動歯車100および従動歯車200のうち、駆動歯車100に着目し、図3(c)に示す合成波形に基づいて、駆動歯車100の形状(基準形状)を変更することで、歯車の騒音を改善することを目的とする。不図示のコンピュータは、駆動歯車100の形状を変更する前に、まず、図3(c)に示す合成波形に基づいて、駆動歯車100の接続部136における剛性を変更する。例えば、不図示のコンピュータは、駆動歯車100の接続部136における噛合い始め側の剛性を高く、あるいは、低くした場合における、合成波形(図3(c))の変化度合いをシミュレートする。しかし、これに限定されず、不図示のコンピュータは、例えば、駆動歯車100の接続部136における噛合い終わり側の剛性を高く、あるいは、低くした場合における、合成波形(図3(c))の変化度合いをシミュレートしてもよい。
つぎに、不図示のコンピュータは、図3(c)に示す合成波形が噛合い始めと噛合い終わりとの間で最も平坦形状に近づく波形となる、駆動歯車100の接続部136における噛合い始め側(あるいは、噛合い終わり側)の剛性を導出する。その後、不図示のコンピュータは、導出した剛性に基づいて、寸法最適化ツールにより接続部136の最適な形状を導出する。ここで、例えば、寸法最適化ツールにより、接続部136の軸方向における噛合い始め側と噛合い終わり側のうち一方側の形状を変更する。このとき、駆動歯車100の歯14と従動歯車200の歯24が噛み合う位置(以下、噛合い位置という)と、第1回転軸12との間の距離に応じて、上記一方側を決定するとよい。例えば、噛合い始め側における噛合い位置と第1回転軸12との間の距離が、噛合い終わり側における噛合い位置と第1回転軸12との間の距離よりも短い場合、上記一方側を噛合い始め側に決定するとよい。逆に、噛合い始め側における噛合い位置と第1回転軸12との間の距離が、噛合い終わり側における噛合い位置と第1回転軸12との間の距離よりも長い場合、上記一方側を噛合い終わり側に決定するとよい。噛合い位置が第1回転軸12に近い側の接続部136の形状を変更することで、噛合い位置が第1回転軸12から遠い側の接続部136の形状を変更するよりも、剛性の変化度合いを大きくすることができる。したがって、寸法最適化ツールにより接続部136の最適な形状を得やすくすることができる。以下、不図示のコンピュータにより導出された最適な形状を有する駆動歯車10の形状について説明する。
図4は、本実施形態における駆動歯車10および従動歯車20の概略断面図である。図4(a)は本実施形態における駆動歯車10の概略断面図を示し、図4(b)は本実施形態における従動歯車20の概略断面図を示す。図4(c)は、図4(a)に示す駆動歯車10の一点鎖線部分を抽出した図である。図4(d)は、図4(b)に示す従動歯車20の一点鎖線部分を抽出した図である。ここで、本実施形態における従動歯車20は、上記比較例における従動歯車200と同じであるため、従動歯車20についての詳細な説明は省略する。
図4(a)に示すように、駆動歯車10は、軸部32と、複数の噛合い面34と、接続部36とを備える。本実施形態における駆動歯車10の軸部32および噛合い面34は、比較例における駆動歯車100の軸部32および噛合い面34と同じである。しかし、本実施形態における駆動歯車10は、比較例における駆動歯車100に対し、接続部36の形状が異なる。
接続部36は、肉厚部36aと、肉薄部36bとを有する。肉厚部36aは、肉薄部36bよりも噛合い面34側に位置し、肉薄部36bよりも軸方向の幅が大きい。本実施形態において、肉厚部36aは、噛合い面34の軸方向の幅と等しい幅を有する。肉薄部36bは、肉厚部36aよりも軸部32側に位置し、噛合い面34および肉厚部36aよりも軸方向の幅が小さい。ここで、肉薄部36bの軸方向の幅および径方向の高さは、比較例における肉薄部136bの軸方向の幅および径方向の高さと等しい。接続部36の軸方向において、肉厚部36aの中心位置は、肉薄部36bの中心位置と等しい。
図4(c)に示すように、駆動歯車10の噛合い面34は、第1回転軸12の軸方向の一方側における歯14の歯元(図中右下)において、従動歯車20の歯24と噛合いを開始する。また、駆動歯車10の噛合い面34は、第1回転軸12の軸方向の他方側における歯14の歯先(図中左上)において、従動歯車20の歯24と噛合いを終了する。
図4(a)および図4(c)に示すように、肉厚部36aは、噛合い面34における噛合い始め側(一方側)の厚さよりも噛合い面34における噛合い終わり側(他方側)の厚さの方が大きい。換言すれば、肉厚部36aは、噛合い面34における噛合い始め側(一方側)の厚さが、噛合い面34における噛合い終わり側(他方側)の厚さよりも小さい。このように、本実施形態の肉厚部36aは、軸方向の一方側と他方側とで径方向の厚みが異なる。
ここで、本実施形態における肉厚部36aの噛合い終わり側(他方側)の厚さは、比較例における肉厚部136aの噛合い終わり側(他方側)の厚さと同じである。しかし、本実施形態における肉厚部36aの噛合い始め側(一方側)の厚さは、比較例における肉厚部136aの噛合い始め側(一方側)の厚さよりも小さい。
図2(a)および図2(c)に示すように、比較例の駆動歯車100の接続部136は、軸方向の中心線に対して対称形状である。したがって、比較例の駆動歯車100は、接続部136の噛合い始め側(一方側)と噛合い終わり側(他方側)の剛性が等しい。一方、図4(a)および図4(c)に示すように、本実施形態の駆動歯車10の接続部36は、軸方向の中心線に対して非対称形状である。したがって、本実施形態の駆動歯車10は、接続部36の噛合い始め側(一方側)と噛合い終わり側(他方側)の剛性が異なっている。ここで、駆動歯車10は、軸方向の一方側において噛合い面34が従動歯車20の噛合い面44に噛合い始め、軸方向の他方側において噛合い面34が従動歯車20の噛合い面44に噛合い終わるとする。このとき、接続部36は、軸方向の一方側の剛性が他方側の剛性よりも低くなるように設定される。このように、本実施形態の駆動歯車10では、接続部36の一方側(噛合い始め側)が低剛性化されている。
図5は、FEMにより演算された駆動歯車10、100および従動歯車20、200の剛性変動の波形を示す図である。縦軸はFEMにより演算された剛性値を表し、横軸は噛合い進行方向を表す。図5において、破線は本実施形態における駆動歯車10および従動歯車20の剛性変動を表し、実線は比較例における駆動歯車100および従動歯車200の剛性変動を表す。図5(a)では、駆動歯車10、100の歯14の噛合い始めから噛合い終わりまでの剛性変動の波形を示している。図5(b)では、従動歯車20、200の歯24の噛合い始めから噛合い終わりまでの剛性変動の波形を示している。図5(c)では、図5(a)に示す剛性変動の波形と図5(b)に示す剛性変動の波形を合成した合成波形を示している。図5(d)では、駆動歯車10、100の複数の歯14と従動歯車20、200の複数の歯24が連続して噛み合うときの複数の合成波形を示している。図5(e)では、図5(d)に示す複数の合成波形の包絡線を示している。なお、本実施形態の従動歯車20と比較例の従動歯車200が同じであるため、従動歯車20の破線、および従動歯車200の実線を重ねて示している。
図5(a)に示すように、本実施形態における駆動歯車10の剛性は、噛合い始め側において、比較例における駆動歯車100の剛性よりも低くなっている。これは、本実施形態の駆動歯車10の肉厚部36aの噛合い始め側の厚さが、比較例の駆動歯車100の肉厚部136aの噛合い始め側の厚さより小さいためである。
本実施形態における駆動歯車10の剛性変動の波形と、本実施形態における従動歯車20の剛性変動の波形を合成すると、図5(c)の破線で示す合成波形(以下、本実施形態の合成波形という)となる。また、図5(d)の破線で示す本実施形態の複数の合成波形から包絡線を導出すると、図5(e)の破線で示すような包絡線(以下、本実施形態の包絡線という)が得られる。
ここで、図5(e)に示すように、本実施形態の包絡線(破線)の振幅は、比較例の包絡線(実線)の振幅より小さい。つまり、本実施形態の駆動歯車10および従動歯車20は、比較例である駆動歯車100および従動歯車200に対し、歯車の騒音を小さくすることができる。
(第1変形例)
上記実施形態では、接続部36において、肉厚部36aの噛合い始め側(一方側)の厚さを、比較例における肉厚部136aの噛合い始め側(一方側)の厚さよりも小さくし、接続部36の噛合い始め側を低剛性化する例について説明した。第1変形例では、比較例における接続部136の噛合い始め側(一方側)に切り欠き溝(切り欠き部)を形成することで、接続部56の噛合い始め側を低剛性化する。
図6は、第1変形例における駆動歯車50および従動歯車20の概略断面図である。図6(a)は第1変形例における駆動歯車50の概略断面図を示し、図6(b)は第1変形例における従動歯車20の概略断面図を示す。図6(c)は、図6(a)に示す駆動歯車50の一点鎖線部分を抽出した図である。図6(d)は、図6(b)に示す従動歯車20の一点鎖線部分を抽出した図である。なお、第1変形例における従動歯車20は、上記実施形態における従動歯車20と同じであるため、従動歯車20についての詳細な説明は省略する。
図6(a)に示すように、駆動歯車50は、軸部32と、複数の噛合い面34と、接続部56とを備える。第1変形例における駆動歯車50の軸部32および噛合い面34は、上記実施形態における駆動歯車10の軸部32および噛合い面34と同じである。しかし、第1変形例における駆動歯車50は、上記実施形態における駆動歯車10に対し、接続部56の形状が異なる。
接続部56は、肉厚部56aと、肉薄部56bとを有する。肉厚部56aは、肉薄部56bよりも噛合い面34側に位置し、肉薄部56bよりも軸方向の幅が大きい。第1変形例において、肉厚部56aは、噛合い面34の軸方向の幅と等しい幅を有する。肉薄部56bは、肉厚部56aよりも軸部32側に位置し、噛合い面34および肉厚部56aよりも軸方向の幅が小さい。ここで、肉薄部56bの軸方向の幅および径方向の高さは、比較例における肉薄部136bの軸方向の幅および径方向の高さと等しい。接続部56の軸方向において、肉厚部56aの中心位置は、肉薄部56bの中心位置と等しい。
肉厚部56aは、噛合い面34における噛合い始め側(一方側)の厚さと、噛合い面34における噛合い終わり側(他方側)の厚さが等しい。つまり、肉厚部56aは、軸方向の一方側と他方側とで径方向の厚みが等しい。
ここで、第1変形例における肉厚部56aの厚さは、軸方向における噛合い始め側と噛合い終わり側とで、比較例における肉厚部136aの厚さと等しい。したがって、第1変形例における肉厚部56aの噛合い終わり側(他方側)の厚さは、上記実施形態における肉厚部36aの噛合い終わり側(他方側)の厚さと同じである。しかし、第1変形例における肉厚部56aの噛合い始め側(一方側)の厚さは、上記実施形態における肉厚部36aの噛合い始め側(一方側)の厚さよりも大きい。その代わりに、第1変形例における肉厚部56aは、噛合い始め側(一方側)に切り欠き溝58を有する。切り欠き溝58は、第1回転軸12の回転方向に延在する。
第1変形例の駆動歯車50では、肉厚部56aの噛合い始め側(一方側)に切り欠き溝58を設けることで、接続部56の噛合い始め側(一方側)と噛合い終わり側(他方側)の剛性を異ならせている。ここで、駆動歯車50は、軸方向の一方側において噛合い面34が従動歯車20の噛合い面44に噛合い始め、軸方向の他方側において噛合い面34が従動歯車20の噛合い面44に噛合い終わるとする。このとき、接続部56は、軸方向の一方側が他方側よりも剛性が低くなるように設定される。このように、第1変形例の駆動歯車50では、接続部56の一方側(噛合い始め側)が低剛性化されている。
第1変形例の駆動歯車50および従動歯車20によれば、上述した図5(e)に示す上記実施形態の包絡線と同様の包絡線を得ることができる。したがって、図5(e)に示すように、第1変形例の包絡線の振幅は、比較例の包絡線の振幅より小さくすることができる。その結果、第1変形例の駆動歯車50および従動歯車20は、比較例である駆動歯車100および従動歯車200に対し、歯車の騒音を小さくすることができる。
(第2変形例)
上記実施形態では、接続部36において、肉厚部36aの噛合い始め側(一方側)の厚さを、比較例における肉厚部136aの噛合い始め側(一方側)の厚さよりも小さくし、接続部36の噛合い始め側を低剛性化する例について説明した。第2変形例では、肉厚部66aの軸方向の中心位置を、肉薄部66bの軸方向の中心位置と異ならせることで、接続部66の噛合い始め側を低剛性化する。
図7は、第2変形例における駆動歯車60および従動歯車20の概略断面図である。図7(a)は第2変形例における駆動歯車60の概略断面図を示し、図7(b)は第2変形例における従動歯車20の概略断面図を示す。図7(c)は、図7(a)に示す駆動歯車60の一点鎖線部分を抽出した図である。図7(d)は、図7(b)に示す従動歯車20の一点鎖線部分を抽出した図である。なお、第2変形例における従動歯車20は、上記実施形態における従動歯車20と同じであるため、従動歯車20についての詳細な説明は省略する。
図7(a)に示すように、駆動歯車60は、軸部32と、複数の噛合い面34と、接続部66とを備える。第2変形例における駆動歯車60の軸部32および噛合い面34は、上記実施形態における駆動歯車10の軸部32および噛合い面34と同じである。しかし、第2変形例における駆動歯車60は、上記実施形態における駆動歯車10に対し、接続部66の形状が異なる。
接続部66は、肉厚部66aと、肉薄部66bとを有する。肉厚部66aは、肉薄部66bよりも噛合い面34側に位置し、肉薄部66bよりも軸方向の幅が大きい。第2変形例において、肉厚部66aは、噛合い面34の軸方向の幅と等しい幅を有する。肉薄部66bは、肉厚部66aよりも軸部32側に位置し、噛合い面34および肉厚部66aよりも軸方向の幅が小さい。ここで、肉薄部66bの軸方向の幅および径方向の高さは、比較例における肉薄部136bの軸方向の幅および径方向の高さと等しい。
肉厚部66aは、噛合い面34における噛合い始め側(一方側)の厚さと、噛合い面34における噛合い終わり側(他方側)の厚さが等しい。つまり、肉厚部66aは、軸方向の一方側と他方側とで径方向の厚みが等しい。
ここで、第2変形例における肉厚部66aの厚さは、軸方向における噛合い始め側から噛合い終わり側まで、比較例における肉厚部136aの厚さと等しい。したがって、第2変形例における肉厚部66aの噛合い終わり側(他方側)の厚さは、上記実施形態における肉厚部36aの噛合い終わり側(他方側)の厚さと同じである。しかし、第2変形例における肉厚部66aの噛合い始め側(一方側)の厚さは、上記実施形態における肉厚部36aの噛合い始め側(一方側)の厚さよりも大きい。その代わりに、第2変形例における肉薄部66bの軸方向の中心位置は、肉厚部66aの軸方向の中心位置に対し、噛合い終わり側(他方側)に位置している(ずれている)。
第2変形例の駆動歯車60では、肉薄部66bの軸方向の中心位置を肉厚部66aの軸方向の中心位置から噛合い終わり側(他方側)にずらすことで、接続部66の噛合い始め側(一方側)と噛合い終わり側(他方側)の剛性を異ならせている。ここで、駆動歯車60は、軸方向の一方側において噛合い面34が従動歯車20の噛合い面44に噛合い始め、軸方向の他方側において噛合い面34が従動歯車20の噛合い面44に噛合い終わるとする。このとき、接続部66は、軸方向の一方側が他方側よりも剛性が低くなるように設定される。このように、第2変形例の駆動歯車60では、接続部66の一方側(噛合い始め側)が低剛性化されている。
第2変形例の駆動歯車60および従動歯車20によれば、上述した図5(e)に示す上記実施形態の包絡線と同様の包絡線を得ることができる。したがって、図5(e)に示すように、第2変形例の包絡線の振幅は、比較例の包絡線の振幅より小さくすることができる。その結果、第2変形例の駆動歯車60および従動歯車20は、比較例である駆動歯車100および従動歯車200に対し、歯車の騒音を小さくすることができる。
(第3変形例)
上記実施形態では、接続部36の噛合い始め側を低剛性化する例について説明した。第3変形例では、接続部76の噛合い始め側を低剛性化せずに、接続部76の噛合い終わり側を高剛性化する例について説明する。
図8は、第3変形例における駆動歯車70および従動歯車20の概略断面図である。図8(a)は第3変形例における駆動歯車70の概略断面図を示し、図8(b)は第3変形例における従動歯車20の概略断面図を示す。図8(c)は、図8(a)に示す駆動歯車70の一点鎖線部分を抽出した図である。図8(d)は、図8(b)に示す従動歯車20の一点鎖線部分を抽出した図である。なお、第3変形例における従動歯車20は、上記実施形態における従動歯車20と同じであるため、従動歯車20についての詳細な説明は省略する。
図8(a)に示すように、駆動歯車70は、軸部32と、複数の噛合い面34と、接続部76とを備える。第3変形例における駆動歯車70の軸部32および噛合い面34は、上記実施形態における駆動歯車10の軸部32および噛合い面34と同じである。しかし、第3変形例における駆動歯車70は、上記実施形態における駆動歯車10に対し、接続部76の形状が異なる。
接続部76は、肉厚部76aと、肉薄部76bとを有する。肉厚部76aは、肉薄部76bよりも噛合い面34側に位置し、肉薄部76bよりも軸方向の幅が大きい。第3変形例において、肉厚部76aは、噛合い面34の軸方向の幅と等しい幅を有する。肉薄部76bは、肉厚部76aよりも軸部32側に位置し、噛合い面34および肉厚部76aよりも軸方向の幅が小さい。ここで、肉薄部76bの軸方向の幅および径方向の高さは、比較例における肉薄部136bの軸方向の幅および径方向の高さと等しい。接続部76の軸方向において、肉厚部76aの中心位置は、肉薄部76bの中心位置と等しい。
肉厚部76aは、噛合い面34における噛合い始め側(一方側)の厚さよりも噛合い面34における噛合い終わり側(他方側)の厚さの方が大きい。換言すれば、肉厚部76aは、噛合い面34における噛合い始め側(一方側)の厚さが、噛合い面34における噛合い終わり側(他方側)の厚さよりも小さい。このように、第3変形例の肉厚部76aは、軸方向の一方側と他方側とで径方向の厚みが異なる。
ここで、第3変形例における肉厚部76aの噛合い始め側(一方側)の厚さは、比較例における肉厚部136aの噛合い始め側(一方側)の厚さと等しい。しかし、第3変形例における肉厚部76aの噛合い終わり側(他方側)の厚さは、比較例における肉厚部136aの噛合い終わり側(他方側)の厚さよりも大きい。
第3変形例の駆動歯車70では、肉厚部76aの噛合い終わり側(他方側)の厚さを噛合い始め側(一方側)の厚さより大きくすることで、接続部76の噛合い始め側(一方側)と噛合い終わり側(他方側)の剛性を異ならせている。ここで、駆動歯車70は、軸方向の一方側において噛合い面34が従動歯車20の噛合い面44に噛合い始め、軸方向の他方側において噛合い面34が従動歯車20の噛合い面44に噛合い終わるとする。このとき、接続部76は、軸方向の他方側が一方側よりも剛性が高くなるように設定される。このように、第3変形例の駆動歯車70では、接続部76の他方側(噛合い終わり側)が高剛性化されている。
図9は、FEMにより演算された駆動歯車70、100および従動歯車20、200の剛性変動の波形を示す図である。縦軸はFEMにより演算された剛性値を表し、横軸は噛合い進行方向を表す。図9において、破線は第3変形例における駆動歯車70および従動歯車20の剛性変動を表し、実線は比較例における駆動歯車100および従動歯車200の剛性変動を表す。図9(a)では、駆動歯車70、100の歯14の噛合い始めから噛合い終わりまでの剛性変動の波形を示している。図9(b)では、従動歯車20、200の歯24の噛合い始めから噛合い終わりまでの剛性変動の波形を示している。図9(c)では、図9(a)に示す剛性変動の波形と図9(b)に示す剛性変動の波形を合成した合成波形を示している。図9(d)では、駆動歯車70、100の複数の歯14と従動歯車20、200の複数の歯24が連続して噛み合うときの複数の合成波形を示している。図9(e)では、図9(d)に示す複数の合成波形の包絡線を示している。なお、第3変形例の従動歯車20と比較例の従動歯車200が同じであるため、従動歯車20の破線、および従動歯車200の実線を重ねて示している。
図9(a)に示すように、第3変形例における駆動歯車70の剛性は、噛合い終わり側において、比較例における駆動歯車100の剛性よりも高くなっている。これは、第3変形例の駆動歯車70の肉厚部76aの噛合い終わり側の厚さが、比較例の駆動歯車100の肉厚部136aの噛合い終わり側の厚さより大きいためである。
この第3変形例における駆動歯車70の剛性変動の波形と、上記実施形態における従動歯車20の剛性変動の波形を合成すると、図9(c)の破線で示す合成波形(以下、第3変形例の合成波形という)となる。また、図9(d)の破線で示す第3変形例の複数の合成波形から包絡線を導出すると、図9(e)の破線で示すような包絡線(以下、第3変形例の包絡線という)が得られる。
ここで、図9(e)に示すように、第3変形例の包絡線(破線)の振幅は、比較例の包絡線(実線)の振幅より小さい。つまり、第3変形例の駆動歯車70および従動歯車20は、比較例である駆動歯車100および従動歯車200に対し、歯車の騒音を小さくすることができる。
上述した上記実施形態および上記変形例では、比較例における駆動歯車100の接続部136の形状を変更することで、接続部136の噛合い始め側を低剛性化、あるいは、噛合い終わり側を高剛性化させ、歯車の騒音を改善する例について説明した。しかし、これに限定されず、例えば、比較例における従動歯車200の接続部46の形状を変更することで、接続部46の噛合い始め側を低剛性化、あるいは、噛合い終わり側を高剛性化させ、歯車の騒音を改善するようにしてもよい。
例えば、上記実施形態および上記変形例における従動歯車20の接続部46は、上記実施形態のように、肉厚部46aの噛合い始め側(一方側)の厚さを、比較例における肉厚部46aの噛合い始め側(一方側)の厚さより小さくしてもよい。また、上記実施形態および上記変形例における従動歯車20の接続部46は、第1変形例の駆動歯車50ように、肉厚部46aの噛合い始め側(一方側)に切り欠き溝(切り欠き部)を形成してもよい。また、上記実施形態および上記変形例における従動歯車20の接続部46は、第2変形例の駆動歯車60ように、肉薄部46bの軸方向の中心位置を、肉厚部46aの軸方向の中心位置に対し、噛合い終わり側(他方側)にずらしてもよい。また、上記実施形態および上記変形例における従動歯車20の接続部46は、第3変形例の駆動歯車70ように、肉厚部46aの噛合い終わり側(他方側)の厚さを、比較例における肉厚部46aの噛合い終わり側(他方側)の厚さよりも大きくしてもよい。
従動歯車20の接続部46の形状を、上記実施形態および上記変形例の駆動歯車(10、50、60、70)の接続部(36、56、66、76)のように変更することによっても、上述したように歯車の騒音を改善することができる。
また、比較例における駆動歯車100の接続部136および従動歯車200の接続部46の両方の形状をバランスよく変更することで、歯車の騒音を改善するようにしてもよい。
以上説明したように、上記実施形態および上記変形例によれば、不図示のコンピュータは、まず、FEMにより駆動歯車100および従動歯車200、すなわち、基準形状における剛性変動を演算する。つぎに、駆動歯車100の剛性変動の波形と、従動歯車200の剛性変動の波形と、を合成した合成波形を生成する。そして、生成した合成波形に基づいて、駆動歯車100および従動歯車200のうち少なくとも一方の接続部136、46の剛性を変更(調整)する。その後、変更した剛性に基づいて、寸法最適化ツールにより接続部136および接続部46のうち少なくとも一方の最適な形状を導出する。これにより、接続部136および接続部46の少なくとも一方の噛合い始め側を低剛性化、あるいは、噛合い終わり側を高剛性化させ、歯車の騒音を改善することができる。
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
上記実施形態および上記変形例において、駆動歯車(10、50、60、70)および従動歯車20は、はすば歯車である例について説明した。しかし、これに限定されず、駆動歯車および従動歯車は、ねじ歯車、やまば歯車、かさ歯車、スパイラルベベルギア、ハイポイドギヤなどの他の歯車であってもよく、駆動歯車および従動歯車の軸は平行でも斜交でもよい。