JP2019100379A - ピストンリングセット - Google Patents

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Abstract

【課題】オイル消費を十分に抑制できるとともにシール性能を十分に長期にわたって維持できるピストンリングセットを提供する。【解決手段】本開示は内燃機関のピストンに装着される複数のピストンリングを含むピストンリングセットに関する。このピストンリングセットは、トップリングとして使用される第一のリングと、セカンドリングとして使用される第二のリングとを含み、第一のリングは合口部を有する金属材料からなり、第二のリングは合口部を有する樹脂組成物からなる。【選択図】図25

Description

本開示は内燃機関のピストンに装着される複数のピストンリングを含むピストンリングセットに関する。
自動車等の内燃機関にはピストンリングが用いられている。ピストンリングは、ピストンの外周面に設けられた複数の溝にそれぞれ装着される。ピストンリングには、シリンダボア内壁のオイルがクランク室側から燃焼室側に入り込むこと(オイルアップ)と、ガスが燃焼室側からクランク室側に入り込むこととを抑制するシール性能が求められる。オイルアップはオイル消費の増加につながり、他方、燃焼室側からクランク室側に入り込むガス(ブローバイガス)の増加は燃費の低下につながる。
特許文献1はピストンと二つの圧力リング(トップリング及びセカンドリング)を備えたエンジンのピストン構造を開示している。特許文献1によれば、トップリングが金属製リングであり且つセカンドリングがエラストマー製無端リングであることで、圧力リングの耐久性を高めるとともにピストンの放熱性を高めることができるとされている。また、セカンドリングがエラストマー製無端リングであることでセカンドリングのシール性が高く、ブローバイガスの発生量を低減できるとされている。
特開2017−66868号公報
上述のとおり、特許文献1に記載の発明においては、ブローバイガス発生量の低減の点から、セカンドリングとしてエラストマー製無端リングが採用されている。しかし、セカンドリングとしてエラストマー製無端リングを採用すると、その優れたシール性に起因してセカンドリングとトップリングとの間の空間の圧力が燃焼室よりも高くなる瞬間が生じ、ガスとともにオイルが燃焼室に逆流することによってオイル消費が増大するという課題がある。他方、エラストマー製無端リングは、経年の外周面摩耗によって外径が小さくなると、リング外周面とシリンダボア内面との間に隙間が生じ、シール性能が急激に低下するという課題がある。本事象は特に冷間時やエンジン始動時に顕著に生じやすい。すなわち、樹脂材とボア材の熱膨張係数が異なるため、温度差が大きい環境下において、リング外周面とシリンダボア内面の隙間が大きくなる傾向にある。
本開示は、オイル消費を十分に抑制できるとともにシール性能を十分に長期にわたって維持できるピストンリングセットを提供することを目的とする。
本開示は内燃機関のピストンに装着される複数のピストンリングを含むピストンリングセットに関する。このピストンリングセットは、トップリングとして使用される第一のリングと、セカンドリングとして使用される第二のリングとを含み、第一のリングは合口部を有する金属材料からなるリングであり、第二のリングは合口部を有する樹脂組成物からなるリングである。第二のリングは自己張力を有するものであってもよいし、補助部品(金属製もしくはゴム製のリング、バネ及びコイルエキスパンダ)と併用されるものであってもよい。補助リングは、第二のリングの内周側に配置され、第二のリングに張力を付与する、あるいは、第二のリングの張力を高めるためのものである。
従来、セカンドリングとして樹脂組成物からなるリングであって合口部を有しない無端リングを使用することが知られていたところ、これの代わりに、樹脂組成物からなるリングであって合口部を有するリング(第二のリング)を採用したことでオイル消費を十分に抑制することができる。第二のリングの合口部の隙間を設計することで、セカンドランドからクランク室へのガス流量をコントロールでき、その結果、トップリングとセカンドリングとの間の空間の圧力の増加を制御することが可能となる。これに加え、第二のリングが合口部を有し且つ自己張力又は上記補助リングによって張力を有することで、経年劣化によって外周面が摩耗した状態でもリング外周面とシリンダボア内面との間の隙間が生じなくなるため、シール性能を維持することができる。これにより、ブローバイガス発生量及びオイル消費量の両方を十分に長期にわたって少ない状態を維持することができる。
本開示に係るピストンリングセットが含む第一のリング(トップリング)は、合口部がストレート合口であってもよいし、特殊形状の合口であってもよい。特殊形状の合口としては、第一のリングを自由状態から当該合口部を閉じた状態とする際、互いに摺動するように相対的に移動する少なくとも一対の面を有し、当該一対の面が第一のリングの径方向に広がっている態様が挙げられる。なお、この一対の面はリングの側面に対して傾斜していてもよい。第一のリングがこのような特殊形状の合口部を有していることで、より一層長期にわたってシール性能を維持することができ、特にブローバイガス発生量を長期にわたって低く維持できる。
本開示に係るピストンリングセットが含む第二のリング(セカンドリング)は、合口部がストレート合口であってもよいし、特殊形状の合口であってもよい。特殊形状の合口としては、第二のリングを自由状態から当該合口部を閉じた状態とする際、互いに摺動するように相対的に移動する少なくとも一対の面を有し、当該一対の面が第二のリングの径方向に広がっている態様が挙げられる。なお、この一対の面はリングの側面に対して傾斜していてもよい。第二のリングがこのような特殊形状の合口部を有していることで、より一層長期にわたってシール性能を維持することができ、特にブローバイガス発生量を長期にわたって低く維持できる。
第二のリングを構成する樹脂組成物は弾性率が0.3〜50GPaであることが好ましい。なお、本開示における「弾性率」はJIS K7162に規定される方法に準拠して測定される値を意味する。本発明者らの検討によれば、弾性率が0.3〜50GPaの範囲である樹脂組成物からなる第二のリングは、低い張力(自己張力)であっても、シリンダボア内壁に対する優れた追従性を有する。かかる樹脂組成物からなる第二のリングを採用することにより、優れた低フリクション性を達成できるとともに、より一層優れたシール性能を達成できる。
第二のリングを構成する樹脂組成物の比重は1.0〜3.0であることが好ましい。第二のリングの比重が十分に小さい(十分に軽い)ことで、ピストンの往復動に伴う慣性力による影響を第二のリングが受けにくい。すなわち、ピストンの往復動に伴って、ピストンの溝内において第二のリングが移動することが抑制され、より一層優れたシール性を実現できる。なお、第一のリングを構成する金属の比重は、例えば、7〜9である。
第二のリングは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、及び、液晶ポリマー(LCP)からなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂成分を含む樹脂組成物からなることが好ましい。この樹脂組成物は、ガラス繊維、カーボン繊維及び合成繊維からなる群から選ばれる少なくとも一種の繊維を更に含んでもよいし、モリブデン、銅、鉄、ブロンズ、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、マイカ、酸化亜鉛及びタルクからなる群から選ばれる少なくとも一種の材料からなる粉体(充填材)を更に含んでもよい。例えば、ピストンリングのサイズ、用途及び使用環境等に適した樹脂成分を選択するとともに、これに配合する繊維及び/又は粉体の種類及びその配合量を適宜設定することで、耐熱性及び耐摩耗性等に優れた第二のリングを得ることができる。
金属材料からなる第一のリングは、内周面、外周面、一方の側面、他方の側面及び合口部の合わせ面からなる群から選ばれる少なくとも一つの面上に形成された硬質皮膜を有してもよい。硬質皮膜は、例えば、無電解めっき及びメッキ(無電解の後に電解)、硬質塗料コーティング、物理的蒸着法(PVD)、化学的蒸着法(CVD)、スパッタ法、溶射等によって形成することができる。また、材質としては、非晶質炭素膜、窒化クロム膜(CrN)、窒化チタン膜(TiN)、炭化チタン(TiC)、窒化アルミチタン(TiAlN)、窒化クロム(CrN)、ニッケルリン(NiP)、TiCN、AlCrN、セラミック系溶射、複合粉末系溶射、メタル系溶射などが好ましい。
樹脂組成物からなる第二のリングは、内周面、外周面、一方の側面、他方の側面及び合口部の合わせ面からなる群から選ばれる少なくとも一つの面上に形成された表面処理膜を有してもよい。表面処理膜は、比較的低温度条件で形成され、例えば、無電解めっき及びメッキ(無電解の後に電解)、硬質塗料コーティング、物理的蒸着法(PVD)、化学的蒸着法(CVD)、スパッタ法によって形成することができる。また、材質としては、非晶質炭素膜、窒化クロム膜(CrN)、窒化チタン膜(TiN)、炭化チタン(TiC)、窒化アルミチタン(TiAlN)、窒化クロム(CrN)、ニッケルリン(NiP)、TiCN、AlCrNなどが好ましい。
本開示によれば、オイル消費を十分に抑制できるとともにシール性能を十分に長期にわたって維持できるピストンリングセットが提供される。
図1はストレート形状の合口部を有するピストンリングの一例を示す斜視図である。 図2はダブルステップ形状の合口部を有するピストンリングの一例を示す斜視図である。 図3は図2に示したピストンリングの合口部の要部拡大斜視図である。 図4は図2に示したピストンリングの合口部を一側面側から示す要部拡大斜視図である。 図5は図2に示したピストンリングの合口部を他側面側から示す要部拡大斜視図である。 図6は図2に示したピストンリングの合口部を他側面側から見た要部拡大図である。 図7(a)は、比較の態様に係るピストンリングの縮径時を示す要部拡大斜視図であり、図7(b)は、図2に示したピストンリングの縮径時を示す要部拡大斜視図である。 図8(a)は、自由状態におけるピストンリングの合口部を外周面側から見た要部拡大図であり、図8(b)は、ピストンへの組み付け後のピストンリングの合口部を外周面側から見た要部拡大図である。 図9は図2に示したピストンリングの合口部の変形例を他側面側から見た要部拡大図である。 図10(a)は、ダブルステップ形状の合口部を有するピストンリングの他の例を他側面側から見た要部拡大図であり、図10(b)は、図10(a)に示したピストンリングの合口部の変形例を他側面側から見た要部拡大図である。 図11はダブルアングル形状の合口部を有するピストンリングの一例を示す斜視図である。 図12はトリプルステップ形状の合口部を有するピストンリングの一例を示す斜視図である。 図13は図12に示したピストンリングの合口部の要部拡大斜視図である。 図14(a)はトリプルステップ形状の合口部の平面図であり、図14(b)はトリプルステップ合口の正面図である。 図15(a)は本体部の断面図(図12のXV−XV断面図)であり、図15(b)は合口端部の概略断面図(図12のB−B断面図)である。 図16(a)及び図16(b)は図12に示したピストンリングの第1変形例の合口端部の概略断面図である。 図17は図12に示したピストンリングの第2変形例の本体部の概略断面図である。 図18(a)及び図18(b)は図17に示したピストンリングの合口端部の概略断面図である。 図19は図12に示したピストンリングの第3変形例の本体部の断面図である。 図20(a)は図19に示したピストンリングの合口部の平面図であり、図20(b)は図19に示したピストンリング1Cの合口部の正面図である。 図21(a)及び図21(b)は図19に示したピストンリングの合口端部の概略断面図である。 図22(a)は内周面にバネ溝を有するピストンリングの本体部の断面図であり、図22(b)は合口端部の概略断面図である。 図23(a)及び図23(b)は内周面の形状の変更例を示す断面図である。 図24はダブルカット形状の合口部を有するピストンリングの一例を示す斜視図である。 図25は実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
<ピストンリングセット>
本実施形態に係るピストンリングセットは、内燃機関のピストンに装着される複数のピストンリングを含む。このピストンリングセットは、トップリングとして使用される第一のリングと、セカンドリングとして使用される第二のリングとを含み、第一のリングは合口部を有する金属材料からなるリングであり、第二のリングは合口部を有する樹脂組成物からなるリングである。
第一及び第二のリングの合口部としては、種々の形状のものを採用できる。図1はストレート形状の合口部を図示しており、図2〜10はダブルステップ形状の合口部を図示しており、図11はダブルアングル形状の合口部を図示しており、図12〜23はトリプルステップ形状の合口部を図示しており、図24はダブルカット形状の合口部を図示している。
本実施形態において、第一のリング(トップリング)の合口形状と、第二のリング(セカンドリング)の合口形状との組合せ(ピストンリングセットのバリエーション)は表1に示す12通りである。なお、表1に示す組合わせは例示であってこれらの組合せに限定されるものではない。
Figure 2019100379
<第一のリング>
上述のとおり、第一のリングはトップリングとして使用されるリングであって、金属材料からなり且つ合口部を有する。第一のリングの合口部の隙間を設計することで、燃焼室からクランク室へのガス流量をコントロールでき、その結果、ブローバイガスの発生量を低減できる。
第一のリングの合口部は、ストレート形状であってもよいし(図1参照)、特殊形状であってもよい。特殊形状の合口部としては、ダブルステップ(図2〜10参照)及びダブルアングル(図11参照)と称される形状のものが挙げられる。これらの特殊形状の合口部は、第一のリングを自由状態から当該合口部を閉じた状態とする際、互いに摺動するように相対的に移動する少なくとも一対の面を有し、当該一対の面が第一のリングの径方向(幅方向)に広がっている。なお、この一対の面はリングの側面に対して傾斜していてもよい。特殊形状の合口部は、第一のリングを自由状態から当該合口部を閉じた状態とする際、互いに摺動するように相対的に移動する他の一対の面を更に有してもよい。当該他の一対の面としては、第一のリングの厚さ方向に広がった面が挙げられる。
第一のリングとして、ストレート形状の合口部を有するピストンリングを採用することにより、合口部特殊形状と比べるとリングの薄幅化が可能となるため、摺動ロスを十分に小さくする傾向にあり、これにより燃費を向上しやすい。第一のリングとして、特殊形状の合口部(ダブルステップ合口又はダブルアングル合口)を有するピストンリングを採用することにより、ブローバイガスを極めて効果的に低減できる傾向にある。
第一のリングは、金属又は合金(複数の金属元素を含有する鋳鉄又は鋼材)からなり、十分な強度、耐熱性及び弾性を有する。第一のリングは、金属材料からなる本体部と、本体部の表面の少なくとも一部を覆うように形成された皮膜(硬質皮膜)とによって構成されるものであってもよい。皮膜は、例えば、硬質クロムめっき層、PVD処理層、鉄又はクロム等の窒化物層あるいはDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜などの硬質膜である。皮膜が設けられることにより、本体部の耐摩耗性の向上が図られる。皮膜は、ピストンリングの内周面、外周面、一方の側面、他方の側面及び合口部の合わせ面からなる群から選ばれる少なくとも一つの面上に形成することが好ましい。
<第二のリング>
上述のとおり、第二のリングはセカンドリングとして使用されるリングであって、樹脂組成物からなり且つ合口部を有する。第二のリングの合口部の隙間を設計することで、セカンドランドからクランク室へのガス流量をコントロールでき、その結果トップリングとセカンドリングとの間の空間の圧力の増加を制御することが可能となる。
第二のリングの合口部は、ストレート形状であってもよいし(図1参照)、特殊形状であってもよい。特殊形状の合口部としては、ダブルステップ(図2〜10参照)、トリプルステップ(図12〜23参照)及びダブルカット(図24参照)と称される形状のものが挙げられる。これらの特殊形状の合口部は、第二のリングを自由状態から当該合口部を閉じた状態とする際、互いに摺動するように相対的に移動する少なくとも一対の面を有し、当該一対の面が第二のリングの径方向(幅方向)に広がっている。なお、この一対の面はリングの側面に対して傾斜していてもよい。特殊形状の合口部は、第二のリングを自由状態から当該合口部を閉じた状態とする際、互いに摺動するように相対的に移動する他の一対の面を更に有してもよい。当該他の一対の面としては、第二のリングの厚さ方向に広がった面が挙げられる。
第二のリングとして、ストレート形状の合口部を有するピストンリングを採用することにより、第二のリングがオイル掻き性能を発揮し、オイル消費を十分に少なくできる傾向にある。第二のリングとして、特殊形状の合口部(ダブルステップ合口、トリプルステップ合口又はダブルカット合口)を有するピストンリングを採用することにより、ブローバイガスを極めて効果的に低減できる傾向にある。
第二のリングは樹脂組成物からなる。樹脂組成物における樹脂の割合は50質量%以上であることが好ましい。第二のリングを構成する樹脂は特に限定されないが、高強度耐熱樹脂を選択することができる。高強度耐熱樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)又はポリフェニレンサルファイド(PPS)等に代表されるスーパーエンジニアリングプラスチックを例示することができる。また、さらに耐熱性の高いポリベンゾイミダゾール(PBI)も使用できる。そのほか、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、及び、液晶ポリマー(LCP)等を用いることもできる。上記の材料の一部は射出成形が可能であり、特殊形状の合口部を有するピストンリングも容易に製造することができる。なお、第二のリングの製造方法は射出成形に限定されず、例えば、樹脂粉末をリング状に圧縮成形した後に合口部を薄刃カッターで形成してもよい。
第二のリングを構成する樹脂組成物にはカーボン繊維、ガラス繊維又は合成繊維を含む繊維強化樹脂とすることで、さらに耐熱性を高めると共に強度を高めることができる。また、当該樹脂組成物に充填材等を添加してもよい。充填材としては、例えば、モリブデン、金属粉(Cu、Fe)、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ブロンズ、マイカ、酸化亜鉛(ZnO)、タルクなどが挙げられる。
第二のリングを構成する樹脂組成物の弾性率は0.3〜50GPaであることが好ましい。弾性率0.3〜50GPaの樹脂組成物からなる第二のリングは、低い張力(自己張力)であっても、シリンダボア内壁に対する優れた追従性を有する。高い自己張力及び適度な追従性を実現する観点から、第二のリングを構成する樹脂組成物の弾性率は5〜30GPaであることがより好ましく、10〜16GPaであることが更に好ましい。かかる樹脂組成物からなる第二のリングを採用することにより、優れた低フリクション性を達成できるとともに、より一層優れたシール性能を達成できる。
第二のリングを構成する樹脂組成物の比重は1.0〜3.0であることが好ましい。第二のリングの比重が十分に小さい(十分に軽い)ことで、ピストンの往復動に伴う慣性力による影響を第二のリングが受けにくい。すなわち、ピストンの往復動に伴って、ピストンの溝内において第二のリングが移動することが抑制され、より一層優れたシール性を実現できる。
第二のリングは、樹脂組成物からなる本体部と、本体部の表面の少なくとも一部を覆うように形成された皮膜(表面処理膜)とによって構成されるものであってもよい。皮膜は、例えば、硬質クロムめっき層、PVD処理層、鉄又はクロム等の窒化物層あるいはDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜などの硬質膜である。皮膜が設けられることにより、本体部の耐摩耗性の向上が図られる。皮膜は、ピストンリングの内周面、外周面、一方の側面、他方の側面及び合口部の合わせ面からなる群から選ばれる少なくとも一つの面上に形成することが好ましい。
第二のリングは自己張力を有するものであってもよいし、補助部品(金属製もしくはゴム製のリング、バネ及びコイルエキスパンダ)と併用されるものであってもよい。補助部品は、例えば、第二のリングの内周側に配置され、第二のリングに張力を付与する、あるいは、第二のリングの張力を高めるためのものである。
以下、図面を参照しながら、ピストンリングの合口部の形状について説明する。
(ストレート合口)
図1に部分的に示すピストンリング1は、ストレートと称される合口部(ストレート合口)1aを有する。合口部1aは、環状の本体部1bの一部に形成されている。本体部1bは、幅方向の端面である一方の側面1c及び他方の側面1dと、厚さ方向の端面である内周面1e及び外周面1fとによって、厚さ方向が長辺かつ幅方向が短辺となる断面略長方形状をなしている。合口部1aは、本体部1bの一方の端面1gと他方の端面1hとによって構成されている。
(ダブルステップ合口)
図2に示すピストンリング2は、ダブルステップと称される特殊形状の合口部(ダブルステップ合口)2aを有する。合口部2aは、環状の本体部2bの一部に形成されている。本体部2bは、幅方向の端面である一方の側面2c及び他方の側面2dと、厚さ方向の端面である内周面2e及び外周面2fとによって、厚さ方向が長辺かつ幅方向が短辺となる断面略長方形状をなしている。なお、ピストンリング2は、側面2cが燃焼室側となり、側面2dがクランク室側となるように、ピストンに対して取り付けられる。
図3は合口部2aの要部拡大斜視図であり、図4は合口部2aを側面2c側から示す要部拡大斜視図であり、図5は合口部2aを側面2d側から示す要部拡大斜視図である。図3〜5に示すように、合口部2aは、本体部2bの一部に形成された切れ目であり、ピストンリング2をピストン外周面のリング溝に装着する際の装着性の確保を目的として設けられている。合口部2aでは、ピストンリング2をリング溝に装着する前の状態において、一方の合口端部11と他方の合口端部12とが所定の間隔をもって互いに対向した状態となっている。
合口部2aにおいては、図3〜5に示すように、本体部2bの側面2c側には、一方の合口端部11から他方の合口端部12に向かって突出する第1の突出部13と、他方の合口端部12において第1の突出部13を受ける第1の受け部14とが設けられている。また、本体部2bの側面2d側には、他方の合口端部12から一方の合口端部11に向かって突出する第2の突出部15と、一方の合口端部11において第2の突出部15を受ける第2の受け部16とが設けられている。
より具体的には、第1の突出部13では、一方の合口端部11から本体部2bの側面2c側の略半分部分が断面略長方形状に突出した状態となっている。また、第1の突出部13において、第1の受け部14に対向する側面2d側の先端角は切り欠かれている。これにより、第1の突出部13において第1の受け部14に対向する側面2d側の先端には、切欠面S1が形成されている。加えて、第1の受け部14では、他方の合口端部12において本体部2bの側面2c側の略半分部分が第1の突出部13の形状に対応して断面略長方形状に切り欠かれた状態となっている。したがって、第1の突出部13における第1の受け部14との対向面である先端面13a、及び第1の受け部14における第1の突出部13との対向面である先端面14aは、それぞれ周方向に対して垂直又は略垂直に延在する略長方形状である。
同様に、第2の突出部15では、他方の合口端部12から本体部2bの側面2d側の略半分部分が断面略長方形状に突出した状態となっている。また、第2の突出部15において、第2の受け部16に対向する側面2c側の先端角は切り欠かれている。これにより、第2の突出部15において第2の受け部16に対向する側面2c側の先端には、切欠面S2が形成されている。加えて、第2の受け部16では、一方の合口端部11において本体部2bの側面2d側の略半分部分が第2の突出部15の形状に対応して断面略長方形状に切り欠かれた状態となっている。
さらに、本体部2bの側面2d側において、本体部2bの内周面2e側には、第2の突出部15から第2の受け部16に向かって突出する第1のオス部21と、第2の受け部16において第1のオス部21を受ける第1のメス部22とが設けられている。また、本体部2bの側面2d側において、本体部2bの外周面2f側には、第2の受け部16から第2の突出部15に向かって突出する第2のオス部23と、第2の突出部15において第2のオス部23を受ける第2のメス部24とが設けられている。このため、側面2d側においては、第1のオス部21、第1のメス部22、第2のオス部23、及び第2のメス部24によって、いわゆるステップ合口が形成されている。
以下では、図6を用いながら、第1のオス部21、第2のオス部23、第1のメス部22、及び第2のメス部24を、これらの順番にて詳細に説明する。図6は、合口部2aを側面2d側から見た要部拡大図である。
図6に示すように、第1のオス部21では、第2の突出部15の内周面2e側の略半分部分が突出した状態となっている。具体的には、第1のオス部21は、第1のメス部22との合わせ面21aと、第1のオス部21の先端が先細りとなるように、合わせ面21aに対して傾斜し、かつ外周面2f側を向く傾斜面21bとを有している。合わせ面21aは、傾斜面21bよりも第1のオス部21の先端側であって内周面2e側に位置しており、周方向に対して垂直に延在する先端面である。合わせ面21aの一端は、内周面2eと直交している。傾斜面21bは、合わせ面21aの外周面2f側の端につながっている平面であり、例えば第1のオス部21における外周面2f側の角部を切り欠くことによって形成される。合わせ面21aと傾斜面21bとは、鈍角をなしている。合わせ面21aと傾斜面21bとがなす角度は、例えば、100°〜170°、120°〜160°、又は120°〜150°である。第1のオス部21の厚さ方向において、傾斜面21bの占める割合は、例えば、合わせ面21aの占める割合の0.1倍〜100倍、0.2倍〜50倍、又は0.5倍〜35倍である。
第2のオス部23では、第2の受け部16の外周面2f側の略半分部分が突出した状態となっている。具体的には、第2のオス部23は、第2のメス部24との合わせ面23aと、第2のオス部23の先端が先細りとなるように、合わせ面23aに対して傾斜し、かつ内周面2e側を向く傾斜面23bとを有している。合わせ面23aは、傾斜面23bよりも第2のオス部23の先端側であって外周面2f側に位置しており、周方向に対して垂直に延在する先端面である。合わせ面23aの一端は、外周面2fと直交している。傾斜面23bは、合わせ面23aの内周面2e側の端につながっている平面であり、例えば第2のオス部23における内周面2e側の角部を切り欠くことによって形成される。合わせ面23aと傾斜面23bとは、鈍角をなしている。合わせ面23aと傾斜面23bとがなす角度は、例えば、100°〜170°、120°〜160°、又は120°〜150°である。第2のオス部23の厚さ方向において、傾斜面23bの占める割合は、例えば、合わせ面23aの占める割合の0.1倍〜100倍、0.2倍〜50倍、又は0.5倍〜35倍である。
第1のメス部22では、第2の受け部16の内周面2e側の略半分部分が、第1のオス部21と接しないように切り欠かれた状態となっている。第1のメス部22と第2のオス部23とがなす第1の入隅部25には、傾斜面21bに対向する対向面25a(第1の対向面)が設けられている。この対向面25aは、内周面2e側を向く凹状の湾曲面をなしており、第2のオス部23の第1のオス部21との合わせ面23cと、第1のメス部22の第1のオス部21との合わせ面22aとを滑らかにつないでいる。なお、第1の入隅部25をなす第2のオス部23の基端側は、第2のオス部23の先端側よりも厚くなっているので、第2のオス部23の基端側における折れに対する強度(折損強度)が高まっている。
第2のメス部24では、第2の突出部15の外周面2f側の略半分部分が、第2のオス部23と接しないように切り欠かれた状態となっている。第2のメス部24と第1のオス部21とがなす第2の入隅部26には、傾斜面23bに対向する対向面26a(第2の対向面)が設けられている。この対向面26aは、外周面2f側を向く凹状の湾曲面をなしており、第1のオス部21の第2のオス部23との合わせ面21cと、第2のメス部24の第2のオス部23との合わせ面24aとを滑らかにつないでいる。なお、第2の入隅部26をなす第1のオス部21の基端側は、第1のオス部21の先端側よりも厚くなっているので、第1のオス部21の基端側における折れに対する強度(折損強度)が高まっている。
以上のような構成を有するピストンリング2の作用効果について、図7を用いながら説明する。図7(a)は、比較の態様に係るピストンリングの縮径時を示す要部拡大斜視図であり、図7(b)はピストンリング2の縮径時を示す要部拡大斜視図である。
ピストンリングの組み付け(ピストン外周面のリング溝へ装着)では、まず、リング内径をピストンの外径以上に拡径することによって、当該リング溝へピストンリングを装着する。ピストンリングが装着されたピストンは、エンジン組み付け工程においてシリンダブロックに挿入される。このとき、ピストンリングによるピストンのシリンダブロックへの挿入を妨げないように、ピストンリングをシリンダ内径まで縮径する。なお、ピストンリングの縮径は、例えばテーパーコーン等の治具を用いて実施される。
ここで、図7(a)に示されるように、比較の態様に係るピストンリング100では、第1のオス部121は傾斜面21bを有しておらず、第2のオス部123は傾斜面23bを有していない。このため、第1のオス部121の外周面2f側の先端には角部121dが設けられており、第2のオス部123の内周面2e側の先端には角部123dが設けられている。このようなピストンリング100を縮径すると、図7(a)に示されるように、第1のオス部121の角部121dが第2のオス部123の先端面123aに衝突し、角部121dが第2のオス部123に引っかかることがある(もしくは、第2のオス部123の角部123dが第1のオス部121の先端面121aに衝突し、角部123dが第1のオス部121に引っかかることがある)。この場合、ピストンリング100を縮径する際に加わる力は、第1のオス部121及び第2のオス部123に集中し、合口端部111,112に欠けや破損が発生してしまうことがある。
一方、ピストンリング2では、第1のオス部21及び第2のオス部23の先端は共に先細りとなっている。また、第1のオス部21が有する傾斜面21bと、第2のオス部23が有する傾斜面23bとは、ピストンリング1の厚さ方向において、互いに対向するように設けられている。このような第1のオス部21及び第2のオス部23が合口部2aに設けられることにより、図7(b)に示されるように、ピストンリング2を縮径するときに合口端部11,12同士が衝突する場合、傾斜面21b,23bを互いに最初に衝突させることができる。この場合、角部が設けられていない傾斜面21b,23b同士が衝突するので、第1のオス部21と第2のオス部23とが引っかかりにくくなる。加えて、上記衝突時に傾斜面21b,23bが互いに面接触するので、応力集中が発生しにくくなる。したがって、合口部2aの破損を良好に抑制できる。さらには、ピストンリング2を縮径する際に加わる力に応じて傾斜面21b,23b同士が滑り、ピストンリング2を容易に閉じることができる。
加えて、図6に示すように、ピストンリング2では、本体部2bの内周面2e側で第1のオス部21及び第1のメス部22が対向する位置と、本体部2bの外周面2f側で第2のオス部23及び第2のメス部24が対向する位置とが、本体部の周方向に互いにずれている。これにより、合口部2aを側面2d側から見た場合、図6に示すように、第1のオス部21の合わせ面21a及び傾斜面21b、第1のメス部22の合わせ面22a、第1の入隅部25の対向面25a、第1のオス部21の合わせ面21c、第2のオス部23の第1のオス部21との合わせ面23c、第2の入隅部26の対向面26a、第2のオス部23の合わせ面23a及び傾斜面23b、及び第2のメス部24の合わせ面24aによって、クランクC1が形成されている。
このクランクC1において、第1のオス部21の第2のオス部23との合わせ面21c、及び第2のオス部23の第1のオス部21との合わせ面23cは、ピストンリング2の使用時における温度膨張の影響を受けにくい。また、ピストンの上下運動による荷重がピストンリング2に加わった場合でも当該荷重が合わせ面21c,23cの対向方向にかかりにくく、摩耗の影響も小さいため、合わせ面21c,23c間の間隔を小さく保つことができる。したがって、クランクC1におけるガスの流通面積を極小化することが可能となり、ピストンリング2の内周面2e側に回り込んだガスがクランクC1を通って外周面2f側に抜けてしまうことを抑制できる。
図8(a)は、自由状態におけるピストンリング2の合口部2aを外周面2f側から見た要部拡大図であり、図8(b)は、ピストンへの組み付け後のピストンリング2の合口部2aを外周面2f側から見た要部拡大図である。図8(b)に示すように、ピストンリング2をピストン外周面のリング溝へ装着すると、本体部2bの側面2c側で第1の突出部13及び第1の受け部14が対向する位置と、本体部2bの側面2d側で第2の突出部15及び第2の受け部16が対向する位置とが、本体部2bの周方向に互いにずれている。これにより、合口部2aを外周面2f側から見た場合、第1の突出部13の先端面13a、第1の受け部14の先端面14a、切欠面S1、第1の突出部13における第2の突出部15との合わせ面13b、第2の突出部15における第1の突出部13との合わせ面15b、切欠面S2、第2の突出部15の先端面15a、及び第2の受け部16の先端面16aによってクランクC2が形成されている。
したがって、ピストンリング2がピストン外周面のリング溝に装着されてピストンの上下運動による荷重を受けた場合に、第1の突出部13の合わせ面13bと第2の突出部15の合わせ面15bとが本体部2bの幅方向に合わさり、クランクC2が閉鎖することで、ピストンリング2の幅方向に抜けるガスを遮断できる。なお、図8(a)及び図8(b)に示されるように、第1の突出部13と第2の受け部16とがなす入隅部31と、第1の突出部13と第2の受け部16とがなす入隅部32とのそれぞれは、面取りされており、凹状の湾曲面を構成している。
また、第1のオス部21は、第1のメス部22との合わせ面21aであり、周方向に対して垂直に延在する先端面を有し、第2のオス部23は、第2のメス部24との合わせ面23aであり、周方向に対して垂直に延在する先端面を有している。このため、第1のオス部21及び第2のオス部23の先端は、互いに合わせ面21a,23aに相当する厚さを有している。このため、第1のオス部21及び第2のオス部23の先端における強度を確保でき、合口部2aの破損を良好に抑制できる。
また、第1のメス部22と第2のオス部23とがなす第1の入隅部25には、第1のオス部21の傾斜面21bに対向する対向面25aが設けられており、第2のメス部24と第1のオス部21とがなす第2の入隅部26には、第2のオス部23の傾斜面23bに対向する対向面26aが設けられており、対向面25aは、内周面2e側を向く凹状の湾曲面であり、対向面26aは、外周面2f側を向く凹状の湾曲面であってもよい。この場合、第1のオス部21が有する傾斜面21bと対向面25aとの隙間、及び第2のオス部23が有する傾斜面23bと対向面26aとの隙間を狭めることができる。これにより、上記隙間内におけるスラッジ等の堆積を抑制できる。
側面2c,2d、内周面2e及び外周面2fの少なくとも一面上には、皮膜(硬質皮膜又は表面処理膜)が設けられていてもよい。この場合、本体部2bを皮膜によって保護できる。
上記実施形態では、第1のオス部21は傾斜面21bを有しているが、例えば図9に示すように、変形例では、第1のオス部21は、その合わせ面21aに対して傾斜し、かつ外周面2f側を向く凸状の湾曲面21dを有してもよい。同様に、変形例では、第2のオス部23は、その合わせ面23aに対して傾斜し、かつ内周面2e側を向く凸状の湾曲面23dを傾斜面23bの代わりに有してもよい。このように合口部2aに湾曲面21d,23dが設けられることによって、ピストンリング2のピストン外周面のリング溝への装着時に、第1のオス部21及び第2のオス部23の引っかかりを良好に抑制できる。加えて、図9に示すように、第1のオス部21が有する湾曲面21dと、第1の入隅部25の対向面25aとの隙間をさらに狭めることができると共に、第2のオス部23が有する湾曲面23dと、第2の入隅部26の対向面26aとの隙間をさらに狭めることができるので、上記隙間内におけるスラッジ等の堆積を良好に抑制できる。
以下では、図10(a)及び図10(b)を用いながら、ダブルステップ形状の合口部を有するピストンリングの他の実施形態及びその変形例について説明する。なお、上記実施形態と重複する事項の説明は省略する。
図10(a)は、他の実施形態に係るピストンリングの合口部を他側面側から見た要部拡大図である。図10(a)に示されるピストンリング2Aは、第1のオス部21、第1のメス部22、第2のオス部23、及び第2のメス部24の設けられる位置の点で、ピストンリング2と異なっている。具体的には、本体部2bの側面2d側において、本体部2bの外周面2f側には、第2の突出部15から第2の受け部16に向かって突出する第1のオス部21と、第2の受け部16において第1のオス部21を受ける第1のメス部22とが設けられている。また、本体部2bの側面2d側において、本体部2bの内周面2e側には、第2の受け部16から第2の突出部15に向かって突出する第2のオス部23と、第2の突出部15において第2のオス部23を受ける第2のメス部24とが設けられている。
ピストンリング2Aにおける第1のオス部21は、その先端が先細りとなるように、第1のメス部22との合わせ面22aに対して傾斜し、かつ内周面2e側を向く傾斜面21bを有している。同様に、第2のオス部23は、その先端が先細りとなるように、第2のメス部24との合わせ面24aに対して傾斜し、かつ外周面2f側を向く傾斜面23bを有している。加えて、第1のメス部22と第2のオス部23とがなす第1の入隅部25に設けられる対向面25aは、外周面2f側を向く凹状の湾曲面をなしており、第2のメス部24と第1のオス部21とがなす第2の入隅部26に設けられる対向面26aは、内周面2e側を向く凹状の湾曲面をなしている。
ピストンリング2Aにおいても、当該ピストンリング2Aを縮径するときに合口端部11,12同士が衝突する場合、傾斜面21b,23bを互いに最初に衝突させることができる。したがって、ピストンリング2Aも、ピストンリング2と同様の作用効果が奏される。
図10(b)は、図10(a)に示すピストンリングの変形例に係る合口部を他側面側から見た要部拡大図である。図10(b)に示される変形例の第1のオス部21は、その合わせ面21aに対して傾斜し、かつ内周面2e側を向く凸状の湾曲面21dを有してもよい。同様に、変形例では、第2のオス部23は、その合わせ面23aに対して傾斜し、かつ外周面2f側を向く凸状の湾曲面23dを傾斜面23bの代わりに有してもよい。このように合口部2aに湾曲面21d,23dが設けられることによって、ピストンリング2の変形例と同様の作用効果が奏される。
(ダブルアングル合口)
図11に示す部分的にピストンリング3は、ダブルアングルと称される特殊形状の合口部(ダブルアングル合口)3aを有する。合口部3aは、環状の本体部3bの一部に形成されている。本体部3bは、幅方向の端面である一方の側面3c及び他方の側面3dと、厚さ方向の端面である内周面3e及び外周面3fとによって、厚さ方向が長辺かつ幅方向が短辺となる断面略長方形状をなしている。なお、ピストンリング3は、側面3cが燃焼室側となり、側面3dがクランク室側となるように、ピストンに対して取り付けられてもよいし、この逆であってもよい。前者の向きはオイル消費量の削減に特に効果があり、後者の向きはブローバイガス量の低減に特に効果がある。
合口部3aは、本体部3bの一方の端面3gと、他方の端面3hと、端面3gに設けられた突出部33と、他方の端面3h側に設けられた受け部34とによって構成されている。受け部34は側面3cの途中から外周面3fと途中に至る傾斜面34aを有し、突出部33は受け部34に対応する形状を有する。
(トリプルステップ合口)
図12に示すピストンリング4は、トリプルステップと称される特殊形状の合口部(トリプルステップ合口)4aを有する。合口部4aは、環状の本体部4bの一部に形成されている。本体部4bは、幅方向の端面である一方の側面4c及び他方の側面4dと、厚さ方向の端面である内周面4e及び外周面4fとによって、厚さ方向が長辺かつ幅方向が短辺となる断面略長方形状をなしている。ただし、後述のように外周面4fが傾斜しているため、側面4c及び側面4dの長さは互いに異なる。また、断面形状は上記の形状に限定されない。なお、ピストンリング4は、側面4cが燃焼室側となり、側面4dがクランク室側となるように、ピストンに対して取り付けられる。
合口部4aは、環状の本体部4bの両端部に設けられた合口端部41,42を含む。合口端部41,42は、ピストンリング4をリング溝に装着する前の状態において、所定の間隔をもって対向した状態となっている。
図13及び図14は合口部4aの構造を説明する図である。図13は、合口部4aの構造を説明する斜視図であり、図14(a)は、合口部4aの平面図(側面4c側から見た図)であり、図14(b)は、合口部4aの正面図(外周面4f側から見た図)である。合口部4aは、所謂トリプルステップ形状を呈している。トリプルステップ形状とは、合口部4aを三方向から見た際にステップ形状を呈しているものである。ピストンリング4の場合、上側の側面4c側から見たとき、下側の側面4d側から見たとき、及び、外周面4f側から見たときに、合口部4aがステップ形状となっている。
より具体的には、図13,14に示すように、合口端部41及び合口端部42の対向面は、本体部4bの内周面4e側の略半分における対向面41a,42aと比較して、本体部4bの外周面4f側の略半分では、側面4c側において合口端部42が合口端部41側に突出し、側面4d側において合口端部41が合口端部42側に突出するように凹凸が形成されている。
具体的には、本体部4bの外周面4f側の略半分且つ側面4c側の略半分(図13において略上半分となる部分)において、合口端部42には対向面42aよりも合口端部41側に突出する第1突出部43が設けられる一方、合口端部41には、第1突出部43を受ける第1受け部44が設けられる。第1突出部43の先端面43aと、第1受け部44の受け面44aとが対向する。また、本体部4bの外周面4f側の略半分且つ側面4d側の略半分(図13において略下半分となる部分)において、合口端部41には対向面41aよりも合口端部42側に突出する第2突出部45が設けられる一方、合口端部42には、第2突出部45を受ける第2受け部46が設けられる。第2突出部45の先端面45aと、第2受け部46の受け面46aとが対向する。
この結果、側面4c側から見たときには、図14(a)に示すように、対向面41a,42aが設けられる位置と、第1突出部43の先端面43a及び第1受け部44の受け面44aが設けられる位置と、が本体部4bの長手方向に沿って互いに異なるため、ステップ形状となる。また、外周面4f側から見たときには、図14(b)に示すように、第1突出部43の先端面43a及び第1受け部44の受け面44aが設けられる位置と、第2突出部45の先端面45a及び第2受け部46の受け面46aが設けられる位置と、が本体部4bの長手方向に沿って互いに異なるため、ステップ形状となる。さらに、側面4d側から見たときも、図13に示すように、対向面41a,42aが設けられる位置と、第2突出部45の先端面45a及び第2受け部46の受け面46aが設けられる位置と、が本体部4bの長手方向に沿って互いに異なるため、ステップ形状となる。各面でのステップ形状の段差となる領域(ステップの割位置)は、それぞれ略中央付近となっている。なお、図13及び図14に示すように、対向面41aと対向面42aとの間、第1突出部43の先端面43aと第1受け部44の受け面44aとの間、及び、第2突出部45の先端面45aと第2受け部46の受け面46aとの間にはそれぞれ空隙が設けられている。
図15(a)は、ピストンリング4の本体部4bの概略断面図であり、図12のXV−XV断面図に相当する。また、図15(b)は、ピストンリング4の合口端部42の概略断面図であり、図12のB−B断面図に相当する。
ピストンリング4は、図15(a)及び図15(b)に示すように、上方の側面4c(一方の側面)側から下方の側面4d(他方の側面)側に向かうにつれて、外周面4fの径が大きくなるテーパ面(テーパフェース)を有するテーパ形状を呈している。図15(a)では、ピストンリング4の本体部4bの断面を示している。このように、ピストンリング4においては、外周面4fの全面がテーパ面となっている。したがって、図13に示すように、合口部4a周辺もテーパ面となっている。具体的には、図15(b)に示すように、合口端部42では、第1突出部43の外周面4f側がテーパ面となる。同様に、合口端部41では、第2突出部45の外周面4f側もテーパ面となる。テーパ面を有しているピストンリング4では、ピストンリング4の外径が最も大きい領域が、ボア内周面と接した状態で摺動する。ピストンリング4の場合には、側面4dと外周面4fとにより形成される角部T1において最も径が大きくなっている。したがって、ピストンリング4を取り付けた場合には、この側面4dと外周面4fとの角部T1がボア内周面と接した状態で摺動する。このような構成とすることで、シリンダのボア内周面との接触面積が小さくなるため、オイルの初期馴染み性が高められる。また、ピストンリング4とボア内周面との接触面積が小さくなることで、接触面圧が高められ、ボア内周面に付着するオイルを良好に掻き取ることができる。
テーパ面により構成される外周面4fの傾斜角α(図15参照:ピストンリングの軸方向に対する外周面4fの角度)は、1°〜10°とすることができる。このように、外周面4fがテーパ面を含み、その傾斜角αを1°〜10°とすることで、ピストンリング4の外周面4fによるオイルの掻き取り効果が高められ、オイル消費量を低減することができる。なお、側面4dとボア内周面Wのなす角β(図15参照)は90°であり、角部T1の図15における上下方向の位置を調整することで90°前後(例えば、80〜100°)としてもよい。
なお、外周面2fの全面をテーパ面とするのではなく、外周面2fの角部T1近傍において、外周面2fとボア内周面とが当接する領域を大きくするように、角部T1近傍はテーパ面とせず、ボア内周面(すなわち、ピストンリングの軸方向)と平行とする(α=0°とする)構成としてもよい。
(変形例−1)
次に、ピストンリング4の変形例について、説明する。まず、図16に第1変形例に係るピストンリング4Aを示す。図16(a)は、ピストンリング4Aの合口端部41の概略断面図であり、図12のA−A断面図に相当する。図16(a)では、合口端部41の第2突出部45が断面で示されている。また、図16(b)は、ピストンリング4Aの合口端部42の概略断面図であり、図12のB−B断面図に相当する。また、図16(b)では、合口端部42の第1突出部43が断面で示されている。
第1変形例に係るピストンリング4Aは、ピストンリング4と比較して、以下の点が相違する。まず、ピストンリング4Aは、ピストンリング4と同様に外周面4fがテーパ形状を呈しているが、外周面4f全面がテーパ面となっているのではなく、側面4c側の一部(図16では略半分)のみがテーパ面となっていて、側面4d側の残りの部分は、傾斜していない(α=0°)。なお、図16では、ピストンリング4Aの合口端部41,42周辺を示しているが、本体部4bにおいても、同様に側面4c側の一部のみがテーパ形状となっている。
そして、突出部と受け部とにより形成されて外周面4fに連続して形成されるステップ形状の段差部(割位置)が、側面4cと側面4dとの間の中央付近から側面4d側に移動されている。すなわち、図16(a)に示すように、第1受け部44の幅(ピストンリング4Aの幅方向の長さ)が第2突出部45よりも大きくなっている。また、図16(b)に示すように、第1突出部43の幅(ピストンリング4Aの幅方向の長さ)が第2受け部46よりも大きくなっている。その結果、ステップ形状の段差部の外周面4f側の端部は、上記テーパ面とは異なる位置に設けられる。
上記のピストンリング4Aの構造を採用すると、ピストンリング4と比較して、ブローバイガスをさらに抑制することができる。ピストンリング4は、上述したように、トリプルステップ形状の合口部4aを採用することで、ブローバイガスを抑制することを実現している。しかしながら、外周面4fの全面をテーパ面とすることで、外周面4fと側面4dとによる角部T1のみがボア内周面と当接する構造となる。この場合、図13に示すように、第2突出部の先端面45aと、第2受け部46の受け面46aとの対向面の付近で側面4c側から側面4d側へのガスの移動経路が形成される。図15(b)では、ピストンリング4を取り付けた際のボア内周面Wの配置を破線で示しているが、矢印Aで示す部分にガスの移動経路が形成されてしまう。その結果、僅かながらブローバイガスが発生する可能性がある。
これに対して、ピストンリング4Aでは、ステップ形状の段差部(割位置)を側面4d側に移動し、外周面4f側の端部がテーパ面とは異なる位置に設けられる構成としている。その上で、ピストンリング4Aでは、外周面4fのテーパ面を側面4c側のみに形成している。この結果、第1突出部43及び第1受け部44側の外周面4fは一部テーパ面となっているが、第2突出部45及び第2受け部46側の外周面4fは、テーパ面ではなく、ボア内周面に当接する状態となる。
上記の構造を有するピストンリング4Aでは、ピストンリング4と同様に合口部4aがトリプルステップ形状を有しているため、ガスシール性が向上し、ブローバイガスを抑制することが可能となる。また、ピストンリング4Aにおいても、外周面4fの一部がテーパ面となっているため、ピストンリング4の外周面4fによるオイルの掻き取り効果が高められ、オイル消費量を低減することができる。さらに、ステップ形状の段差部(割位置)と、段差部よりも側面4d側の第2突出部45及び第2受け部46の外周面4fは、傾斜していないため、ボア内周面に当接することから、第2突出部の先端面45aと、第2受け部46の受け面46aとの対向面の付近ではガスの移動経路は形成されず、ブローバイガスの抑制効果が高められる。
(変形例−2)
図17及び図18に第2変形例に係るピストンリング4Bを示す。図17は、ピストンリング4Bの本体部4bの概略断面図である。また、図18(a)は、ピストンリング4Bの合口端部41の概略断面図であり、図12のA−A断面図に相当する。図18(b)では、合口端部41の第2突出部45が断面で示されている。また、図18(b)は、ピストンリング4Bの合口端部42の概略断面図であり、図12のB−B断面図に相当する。また、図18(b)では、合口端部42の第1突出部43が断面で示されている。
第2変形例に係るピストンリング4Bは、ピストンリング4と比較して、以下の点が相違する。まず、ピストンリング4Bは、ピストンリング4と同様に外周面4fがテーパ面を含んでいるが、外周面4f全面がテーパ面であるのではなく、側面4c側の一部のみがテーパ面となっている。また、ピストンリング4Aでは、側面4d側の残りの部分は傾斜していない(α=0°)のに対して、ピストンリング4Bでは、残りの部分は、傾斜していない領域と、逆テーパ形状(α<0°)である逆テーパ面とを有する。
具体的には、図17に示すように、ピストンリング4Bの外周面4fは、側面4c側から側面4d側に向かうにつれて、テーパ面4f、平坦面4f、及び逆テーパ面4fがこの順となるように配置される。テーパ面4fは、ボア内周面Wに対する傾斜角αを1°〜20°とすることができる。テーパ面4fの幅(ピストンリング4Bの幅方向の長さ)は、ピストンリング4Bの幅に対して30%〜50%とすることができる。また、平坦面4fは、ボア内周面Wに対して当接して摺動する領域であり、ピストンリング4Bの軸方向に沿って延びる面である。平坦面4fの幅(ピストンリング4Bの幅方向の長さ)は、ピストンリング4Bの幅に対して0%〜40%とすることができる。すなわち、平坦面4fは、テーパ面4fと逆テーパ面4fとの間に設けられていなくてもよい。なお、平坦面4fを設ける場合、好ましい平坦面4fの幅は、ピストンリング4Bの幅に対して3%〜40%である。さらに、逆テーパ面4fは、側面4d側に向かうにつれて外周面4fの径が小さくなる領域である。逆テーパ面4fは、ボア内周面Wに対する傾斜角αを10°〜70°とすることができる。好ましい傾斜角αは、10°〜50°である。ただし、α<αであることが好ましい。逆テーパ面4fの幅(ピストンリング4Bの幅方向の長さ)は、ピストンリング4Bの厚さに対して30%〜50%とすることができる。
また、合口部4a付近においては、図18(a)及び図18(b)に示すように、ステップ形状の段差部(割位置)が中央付近の平坦面4fとなるように設けられる。すなわち、第1受け部44と第2突出部45との境界の外周面4f、及び、第1突出部43と第2受け部46との境界の外周面4fは、平坦面4fとなっている。したがって、第1突出部43及び第1受け部44の外周面4fは、テーパ面4f及び平坦面4fから構成され、第2突出部45及び第2受け部46の外周面4fは、接領域4f及び逆テーパ面4fから構成される。
上記の構造を有するピストンリング4Bでは、ピストンリング4と同様に合口部4aがトリプルステップ形状を有しているため、ガスシール性が向上し、ブローバイガスを抑制することが可能となる。また、ピストンリング4Bにおいては、外周面4fの一部がテーパ面4fとなっているため、ピストンリング4Bの外周面4fによるオイルの掻き効果のうち特に燃焼室側へのオイルの掻き上げを抑制する効果が高められる。また、ステップ形状の段差部(割位置)の外周面4f側は平坦面4fとなるため、外周面4fの外側を利用したガスの移動を抑制することができるため、ピストンリング4よりもブローバイガスの抑制効果が高められる。さらに、外周面4fにおいて平坦面4fよりも側面4d側に逆テーパ面4fが形成されていると、ピストンリング4Bの外周面4fによるオイルの掻き取り効果のうち特にクランク室側へのオイルの掻き下げを促進する効果が高められる。したがって、ピストンリング4Bにおいても、ブローバイガスの抑制とオイル消費量の軽減とを両立することが可能となる。上記の効果は、テーパ面4fにおけるボア内周面Wに対する傾斜角αと、逆テーパ面4fにおけるボア内周面Wに対する傾斜角αと、がα<αの関係を満たしている場合に顕著である。ただし、α≧αの関係を満たしている場合であっても、逆テーパ面が設けられることで、オイル消費量の軽減効果は高められる。
(変形例−3)
図19〜21に第3変形例に係るピストンリング4Cを示す。図19は、ピストンリング4Cの本体部4bの断面図である。図20(a)は、ピストンリング4Cにおける合口部4aの平面図(側面4c側から見た図)であり、図20(b)は、ピストンリング4Cにおける合口部4aの正面図(外周面4f側から見た図)である。図21(a)は、ピストンリング4Cの合口端部41の概略断面図であり、図12のA−A断面図に相当する。また、図21(b)は、ピストンリング4Cの合口端部42の概略断面図であり、図12のB−B断面図に相当する。
第3変形例に係るピストンリング4Cは、第2変形例に係るピストンリング4Bと比較して、以下の点が相違する。ピストンリング4Cには、図19の仮想線にて示されるように、側面4dと外周面4fとがなす角部T2に切欠部48(アンダーカット)が設けられている。すなわち、切欠部48は、側面4d側且つ外周面4f側の本体部4bの一部に設けられている。切欠部48は、第2変形例に係るピストンリング4Bの外周面4fのうちの逆テーパ面4f及び逆テーパ面4fから連続する平坦面4fの一部に対応する位置に形成される。したがって、ピストンリング4Cの外周面4fには、テーパ面4fと平坦面4fの一部とが存在する状態となっている。
切欠部48は、ピストンリング4Cの射出成型時から形成されていてもよい。また、例えば、切削用、研削用、又は研磨用の治具等によって、側面4d側且つ外周面4f側の本体部4bの一部を切り欠くことで切欠部48を形成してもよい。
切欠部48は、外周面4f側を向く第1面48aと、側面4dを向く第2面48bとを有している。第1面48aと第2面48bとがなす角度は、例えば、直角(90°)とすることができるが、特に限定されない。また、第1面48aと第2面48bとの境界部分の形状についても特に限定されない。また、切欠部48の深さ(ピストンリング4Cの幅方向に沿った第1面48aの長さ、及び、ピストンリング4Cの厚さ(半径)方向に沿った第2面48bの長さ)は適宜変更することができる。例えば、ピストンリング4Cでは、ピストンリング4Cの幅方向に沿った第1面48aの長さは、ピストンリング4Cの幅に対して約1/5〜略半分程度であり、ピストンリング4Cの半径方向に沿った第2面48bの長さは、ピストンリング4Cの厚さ(本体部4bの厚さ)に対して約1/5〜略半分程度である。
なお、切欠部48は、合口部4aを構成する合口端部41,42にも設けられていてもよい、すなわち、ピストンリング4Cの全周にわたって形成されていてもよい。ただし、第3変形例で説明するピストンリング4Cでは、合口部4aにおいては、切欠部48が形成されていない、インターラプト型となっている。具体的には、図20(a)及び図20(b)に示すように、本体部4bの角部T1に沿って形成される切欠部48は、合口端部41及び合口端部42に到達する前に終端される。この結果、平面視において、合口端部41及び合口端部42と、切欠部48とは互いに重ならない状態となっている。したがって、ピストンリング4Cにおける合口端部41及び合口端部42の形状は、ピストンリング4Bと同様となる。具体的には、図21(a)及び図21(b)に示すように、ピストンリング4Cにおいても、第1突出部43及び第1受け部44の外周面4fは、テーパ面4f及び平坦面4fから構成され、第2突出部45及び第2受け部46の外周面4fは、接領域4f及び逆テーパ面4fから構成される。
上記の構造を有するピストンリング4Cでは、ピストンリング4と同様に合口部4aがトリプルステップ形状を有しているため、ガスシール性が向上し、ブローバイガスを抑制することが可能となる。また、ピストンリング4Cにおいては、外周面4fの一部がテーパ面4fとなっているため、ピストンリング4Cの外周面4fによるオイルの掻き取り効果のうち特に燃焼室側へのオイルの掻き上げを抑制する効果が高められる。また、ステップ形状の段差部(割位置)の外周面4f側は平坦面4fとなるため、外周面4fの外側を利用したガスの移動を抑制することができ、ピストンリング4よりもブローバイガスの抑制効果が高められる。さらに、外周面4fにおいて平坦面4fよりも側面4d側には、合口部4aを除いて切欠部48が形成されている。したがって、切欠部48により、ピストンリング4Cの外周面4fによるオイルの掻き取り効果のうち特にクランク室側へのオイルの掻き下げを促進する効果が高められる。したがって、ピストンリング4Cにおいても、ブローバイガスの抑制とオイル消費量の軽減とを両立することが可能となる。
なお、テーパ面4fと逆テーパ面4fとの間に平坦面4fが設けられていない場合であっても、ステップ形状の段差部(割位置)の外周面4f側をテーパ面4fと逆テーパ面4fとの境界部分にすることで、外周面4fの外側を利用したガスの移動を抑制することができ、ピストンリング4よりもブローバイガスの抑制効果を高めることができる。
なお、切欠部48が、合口部4aを構成する合口端部41,42を含むピストンリング4Cの全周にわたって形成されている場合、図21(a)及び図21(b)に仮想線で示すように切欠部48が形成される。ただし、合口端部の突出部に対して切欠部48が形成されると、図21(a)に示す合口端部41の第2突出部45のように、突出部の強度が低下する可能性が考えられる。したがって、合口端部41,42に対しても切欠部48を設ける場合には、例えば、切欠部48の深さを変更する等により合口端部41,42の各部の強度が低下しないようにすることが好ましい。
以上、ピストンリング4及びその変形例に係るピストンリング4A〜4Cについて説明したが、これらのピストンリングはいずれも、内周面4eにコイルバネを収容するためのバネ溝が形成されていてもよい。図22は内周面4eにバネ溝4gが設けられたピストンリング4Dを図示したものである。図22(a)は図12のXV−XV断面図に相当し、図22(b)は図12のB−B断面図に相当する。
ピストンリング4Dは、図22に示すように、本体部4bの内周面4eにピストンリング4の内側に配置されるコイルバネを収容するバネ溝4gが設けられる。このバネ溝4g内に収容されるコイルバネは、ピストンリング1をピストン外周面のリング溝に取り付けて、シリンダのボア内に挿入した際に、ピストンリング4Dを半径方向外方に押圧するために設けられる。ピストンリング4Dでは、バネ溝4gは、内周面4eの中央(側面4c及び側面4dからの距離が等しい領域)付近ではなく、図22に示すように、中央付近よりも側面4d側、すなわち、クランク室側に近付いた位置に設けられる。バネ溝4gを設ける位置は、ピストンの動作時にバネ溝4gに取り付けられたコイルバネがピストンリング4Dと離間しない範囲で適宜変更することができる。バネ溝4gが設けられる位置を中央付近よりも側面4d側(クランク室側)に移動させることで、テーパ面を有するピストンリング4Dの外周面4fとボア内周面との密着性を高めた状態でピストンリング4Dを摺動させることが可能となる。
なお、ピストンリングを半径方向外方に押圧するための手段として、コイルバネではなく板バネを用いてもよい。また、ピストンリングを半径方向外方に押圧する機能を有していればバネの形状は上記に限定されない。また、バネの形状に応じて内周面4eの形状は適宜変更することができる。また、バネの形状が同一であっても、バネによる半径方向外方への押圧力を受け止めることが可能な範囲で、ピストンリングの内周面4eの形状は適宜変更することができる。
図23は、内周面4eの形状の変更例を示すものである。図23(a)に示す変更例では、内周面4eと側面4cとの接続部分が切り欠かれ、ピストンリングの内側に設けられるコイルバネ8と当接するバネ当接面4hを形成している。ピストン外周面のリング溝6に対して、コイルバネ8及びバネ当接面4hを設けたピストンリングを取り付けてシリンダのボア内に挿入すると、図23(a)に示すように、コイルバネ8はバネ当接面4hが設けられている側(ここでは、側面4c側)へ移動した状態で、バネ当接面4hを押圧する状態となる。なお、バネ当接面は、内周面4eと側面4dとの接続部分に設けられていてもよい。図23(b)では、バネ当接面4hが側面4d側に設けられている例を示している。この場合、ピストン外周面のリング溝6に対して、コイルバネ8及びバネ当接面4hを設けたピストンリングを取り付けてシリンダのボア内に挿入すると、図23(b)に示すように、コイルバネ8はバネ当接面4hが設けられている側(ここでは、側面4d側)へ移動した状態で、バネ当接面4hを押圧する状態となる。このように、内周面4eの形状は、適宜変更することができる。
なお、トリプルステップ合口のピストンリングが図15〜21に示す外周形状を有することをここでは説明したが、他の形状(ストレート、ダブルステップ、ダブルアングル及びダブルカット)の合口部を有するピストンリングがこれらの外周形状を有してもよい。
(ダブルカット合口)
図24に示す部分的にピストンリング5は、ダブルカットと称される特殊形状の合口部(ダブルカット合口)5aを有する。合口部5aは、環状の本体部5bの一部に形成されている。本体部35は、幅方向の端面である一方の側面5c及び他方の側面5dと、厚さ方向の端面である内周面5e及び外周面5fとによって、厚さ方向が長辺かつ幅方向が短辺となる断面略長方形状をなしている。なお、ピストンリング5は、側面5cが燃焼室側となり、側面5dがクランク室側となるように、ピストンに対して取り付けられる。
合口部5aは、環状の本体部5bの両端部に設けられた合口端部51,52を含む。合口端部52の外周面5f側に図24に示す凹部52aが形成されており、他方、合口端部51の内周面5eはこれに対応した形状を有する。なお、ダブルカット形状及び上述のトリプルステップ形状の合口部は特許第4114849号公報に記載の方法によって形成することができる。
以下、本発明について実施例に基づいて説明する。本発明は以下の実施例の内容に限定されるものではない。
表2に示す組合せのピストンリングセットを準備した。
Figure 2019100379
表2において、O/S量は無端リング(合口なしリング)の外径オーバーサイズ代(単位:mm)を意味する。
水冷4サイクルの自然吸気式ガソリンエンジンを用いて、ブローバイ量及びオイル消費量の測定を行った。運転条件は、4,000rpm、全負荷(WOT:Wide Open Throttle)条件とした。上記の運転条件で運転した際のブローバイガス量及びオイル消費量をそれぞれ測定した。結果を図25に示す。
1,2,3,4,5…ピストンリング、1a,2a,3a,4a,5a…合口部、1b,2b,3b,4b,5b…本体部、1c,1d,2c,2d,3c,3d,4c,4d,5c,5d…側面、1e,2e,3e,4e,5e…内周面、1f,2f,3f,4f,5f…外周面

Claims (14)

  1. 内燃機関のピストンに装着される複数のピストンリングを含むピストンリングセットであって、
    トップリングとして使用される第一のリングと、
    セカンドリングとして使用される第二のリングと、
    を含み、
    前記第一のリングは合口部を有する金属材料からなり、前記第二のリングは合口部を有する樹脂組成物からなる、ピストンリングセット。
  2. 前記第二のリングが自己張力を有する、請求項1に記載のピストンリングセット。
  3. 前記第二のリングの内周側に配置され、前記第二のリングに張力を付与する、あるいは、前記第二のリングの張力を高める、補助部品を更に含む、請求項1又は2に記載のピストンリングセット。
  4. 前記第一のリングの前記合口部がストレート合口である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のピストンリングセット。
  5. 前記第一のリングの前記合口部は、前記第一のリングを自由状態から当該合口部を閉じた状態とする際、互いに摺動するように相対的に移動する少なくとも一対の面を有し、
    前記一対の面が前記第一のリングの径方向に広がっている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のピストンリングセット。
  6. 前記第二のリングの前記合口部がストレート合口である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のピストンリングセット。
  7. 前記第二のリングの前記合口部は、前記第二のリングを自由状態から当該合口部を閉じた状態とする際、互いに摺動するように相対的に移動する少なくとも一対の面を有し、
    前記一対の面が前記第二のリングの径方向に広がっている、請求項1〜5のいずれか一項に記載のピストンリングセット。
  8. 前記樹脂組成物の弾性率が0.3〜50GPaである、請求項1〜7のいずれか一項に記載のピストンリングセット。
  9. 前記樹脂組成物の比重が1.0〜3.0である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のピストンリングセット。
  10. 前記樹脂組成物は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン及び液晶ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂成分を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載のピストンリングセット。
  11. 前記樹脂組成物は、ガラス繊維、カーボン繊維及び合成繊維からなる群から選ばれる少なくとも一種の繊維を更に含む、請求項10に記載のピストンリングセット。
  12. 前記樹脂組成物は、モリブデン、銅、鉄、ブロンズ、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、マイカ、酸化亜鉛及びタルクからなる群から選ばれる少なくとも一種の材料からなる粉体を更に含む、請求項10又は11に記載のピストンリングセット。
  13. 前記第一のリングは、内周面、外周面、一方の側面、他方の側面及び前記合口部の合わせ面からなる群から選ばれる少なくとも一つの面上に形成された硬質皮膜を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載のピストンリングセット。
  14. 前記第二のリングは、内周面、外周面、一方の側面、他方の側面及び前記合口部の合わせ面からなる群から選ばれる少なくとも一つの面上に形成された表面処理膜を有する、請求項1〜13のいずれか一項に記載のピストンリングセット。
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