JP2019094448A - 蛍光体、該蛍光体を含む蛍光体材料、並びに該蛍光体材料を備えた検査装置及び診断装置 - Google Patents

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博充 木村
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Abstract

【課題】シンチレータ特性が大幅に改善され得る、新規組成を有する蛍光体材料を提供することを課題とする。【解決手段】式(1)で表される蛍光体。Rs(GO4)p(TO4)qOr・・・(1)(式(1)中、Rはアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、Bi、及びPbからなる群から選択される1種以上を含み、G及びTは、それぞれ独立にSi、Ge、Sn、B、Al、Ga、P、Asからなる群から選択される1種以上を含む。また、s、p、q及びrはそれぞれ2.7≦s≦3.3、0.9≦p≦1.1、0.9≦q≦1.1、0.9≦r≦1.1を満たす。)【選択図】図1

Description

本発明は、新規組成を有する蛍光体に関し、特に電離放射線検出用蛍光体に関する。
放射線を検出するための蛍光体材料では、代表的なものとして、LuSiO、LuAl12、GdSiなどが知られている。これらの分野の研究開発では、これらの化合物の構造をベースとして、母体原子を同族原子で置換したり、発光中心原子とともに価数の異なる不純物原子を共添加するなどの方法で、シンチレータ特性の改善が図られてきた(特許文献1〜3参照)。
特許第5674385号 特開2016−56378号公報 特開2015−151535号公報
しかし、従来行われてきたシンチレータ特性の改善方法では、母体の結晶構造が同じである以上、原子置換や不純物添加による改善には限界があり、より優れた蛍光体材料を開発するには、従来蛍光体として知られていない結晶構造や組成を有する新しい蛍光体材料の創出が必要となる。
本発明は、シンチレータ特性が大幅に改善され得る、新規蛍光体材料を提供することを課題とする。
本発明者らは上記課題に鑑み、蛍光体材料の新規探索を鋭意検討したところ、従来の放射線検出用途の蛍光体とは異なる組成、結晶構造を有する、新しい蛍光体材料に想到し本発明を完成させた。
本発明は、以下の蛍光体を含む。
[1]式(1)で表される蛍光体。
(GO(TO ・・・(1)
(式(1)中、Rはアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、Bi、及びPbからなる群から選択される1種以上を含み、G及びTは、それぞれ独立にSi、Ge、Sn、B、Al、Ga、P、Asからなる群から選択される1種以上を含む。また、s、p、q及びrはそれぞれ2.7≦s≦3.3、0.9≦p≦1.1、0.9≦q≦1.1、0.9≦r≦1.1を満たす。)
[2]前記式(1)中のRは、賦活剤として、Ce、Pr、Nd、Eu、Tb及びYbからなる群から選択される1種以上を含む、[1]に記載の蛍光体。
[3]前記式(1)中、Rは少なくともGdを含み、Gは少なくともSiを含み、Tは少なくともPを含む、[1]または[2]に記載の蛍光体。
[4]格子定数a、b、c、β及び、格子体積Vを有し、かつ、結晶系が単斜晶である蛍光体。
但し格子定数a、b、c、β、及び格子体積Vは、以下を満たす。
6.346Å≦a≦7.464Å、
11.240Å≦b≦13.325Å、
8.444Å≦c≦9.770Å、
104.301°≦β≦111.502°、
634Å≦V≦841Å
[5]単結晶である、[1]〜[4]のいずれかに記載の蛍光体。
また、本発明は、以下のものを含む。
[6][1]〜[5]のいずれかに記載の蛍光体を含み、
電離放射線の照射により励起され、160nm〜700nmの波長領域で発光する、蛍光体材料。
[7][6]に記載の蛍光体材料を備えた、放射線検出を利用した検査装置。
[8][6]に記載の蛍光体材料を備えた、放射線検出を利用した診断装置。
本発明により、X線、γ線等の放射線を検出するための新規蛍光体、及び該蛍光体を含む蛍光体材料が提供される。
実施例1で製造した蛍光体の結晶構造を示す模式図である。 実施例2で製造した蛍光体のXRD測定結果と、実施例1の結晶構造解析結果からシミュレーションされたXRDパターンを示す。 実施例2で製造した蛍光体のUV励起発光スペクトルを示す。 実施例3で製造した蛍光体のUV励起発光スペクトルを示す。 実施例4で製造した蛍光体のUV励起発光スペクトルを示す。 実施例5で製造した蛍光体のUV励起発光スペクトルを示す。 実施例2、9、16で製造した蛍光体のXRD測定結果を示す。
本発明の一実施形態は新規蛍光体である。本実施形態に係る蛍光体は下記式(1)を満たす蛍光体である。
(GO(TO ・・・(1)
式(1)中、Rはアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、Bi、及びPbからなる群から選択される1種以上を含み、G及びTは、それぞれ独立にSi、Ge、Sn、B、Al、Ga、P、Asからなる群から選択される1種以上を含む。また、s、p、q及びrはそれぞれ2.7≦s≦3.3、0.9≦p≦1.1、0.9≦q≦1.1、0.9≦r≦1.1を満たす。
Rの典型例は、Gd、Lu、La、Y、Pr、Bi、Caなどであり、少なくともGdを含むことが好ましい。例えばRとしてGdを含む場合、Gdサイトは他の金属で置換されてよく、置換される割合はGd全量に対し90%以下であってよい。また、R全量に対してGdを50%以上含むことが好ましく、60%以上含むことがより好ましい。上記範囲であれば、上記式(1)で表される構造を有する化合物が安定に生成され得る。
G及びTは、結晶構造において、4つの酸素原子に囲まれた4面体を形成しうる元素であり、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、P、Asからなる群から選択される1種以上を含み、同一であっても異なっていてもよい。即ち、GOで構成されるユニットとTOで構成されるユニットは同一であっても異なっていてもよい。
G及びTとして好ましい元素はSi、Ge、Pが挙げられ、GとTの好ましい組み合わせとして、GがSiでTがP、及びGがGeでTがPの場合があげられる。
GOで構成されるユニットとTOで構成されるユニットにおけるG及びTは、2種以上の元素で構成される場合もあり得る。そのような場合の例としては、G及びTがいずれもSiとP、または、GeとPから構成される場合が挙げられる。また、GがSiとGe、TがPとAsのように、GとTがそれぞれ異なる2種類以上の元素から構成される場合もあり得る。
上記式(1)のRは、Ce、Pr、Nd、Eu、Tb及びYbからなる群から選択される1種以上の賦活剤を含むことが好ましい。電離放射線検出用の蛍光体材料としては、Ce、Pr、Nd、Eu、Tbを含むことが好ましく、Ceを含むことがより好ましい。発光量、発光寿命の制御の観点で、アルカリ土類金属などの上記賦活剤として例示した原子以外の原子を、賦活剤と共に添加することもできる。
詳細は実施例において説明するが、本発明者らは、式(1)で表される化合物のうち、組成式がGdSiPOである結晶について結晶構造解析を行ったところ、GdSiPO結晶は単斜晶であった。また、空間群はP21/nに属し、格子定数はa=6.8106Å、b=12.0865Å、c=9.0296Å、α=90°、β=108.284°、γ=90°、格子体積はV=705.7574Åであった。
これらの結果に基づき本発明者らは、本実施形態に係る新規蛍光体は、1つの結構構造単位中に、G元素であるSiに配位した4つのOが四面体を形成し、また、T元素であるPに配位したOが四面体を形成し、これらの構造に加え、GdとOが適宜配置されることにより形成される結晶構造であることに想到した。また、GdSiPOは理論密度が6.4g/cmと大きいため、LuSiOに代表されるシンチレータ結晶と同様に、電離放射線検出用の蛍光体として好適に用いることができる。
なお、本実施形態に係る化合物の結晶構造は、X線回折などにより同定することができる。
また、上記のような結晶構造であることから、式(1)中のG及びTは4つの酸素原子に囲まれた4面体を形成しうる元素であり、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、P、Asであり得る。
一方で、式(1)中のRは、結晶構造中に適宜配置されるものであるため様々な元素が採用され得る。具体的には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、Bi、及びPbから選択され得る。
また、後述の実施例において製造した、式(1)に係る蛍光体(置換体)の格子定数から、本実施形態に係る新規蛍光体は、その格子定数が、6.346Å≦a≦7.464Å、11.240Å≦b≦13.325Å、8.444Å≦c≦9.770Å、104.301°≦β≦111.502°の範囲となる蛍光体であった。また、格子体積Vが634Å≦V≦841Åの範囲となる蛍光体であった。
上記格子定数及び格子体積は、6.480Å≦a≦7.322Å、11.477Å≦b≦13.071Å、8.622Å≦c≦9.584Å、107.527°≦β≦108.254°の範囲となる蛍光体であることが好ましい。また、格子体積Vが667Å≦V≦800Åの範囲となる蛍光体であることが好ましい。
上記新規蛍光体は、発光中心となる原子を賦活することで、蛍光体として機能し得る。
蛍光体を粉体として用いる場合には、体積基準の平均一次粒子径(D50)が通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上であり、また通常500μm以下、好ましくは200μm以下である。また、陽電子放射断層撮影(PET)装置などに用いる電離放射線検出用の蛍光体としては、単結晶であることが好ましい。
以下、本実施形態に係る蛍光体を得る方法を例示する。
原料は、各々の構成原子の酸化物を用いることができる。蛍光体材料として用いる場合は、微量な不純物原子が発光中心からの発光を阻害する可能性があるため、純度3N以上の原料を用いることが好ましい。さらには、純度4N以上の原料を用いることがより好ましい。
目的とする組成が得られるように原料を秤量し、ボールミル等を用いて十分混合したのち、ルツボに充填し、所定温度、雰囲気下で焼成し、焼成物を粉砕、洗浄することにより、本実施形態に係る蛍光体を得ることができる。
原料を混合する方法としては特に限定はされず、一般的に用いられている方法が適用可能であり、乾式混合法、湿式混合法のいずれであってもよい。
乾式混合法としては、例えば、ボールミルなどを用いた混合があげられる。
湿式混合法としては、例えば、原料に水等の溶媒又は分散媒を加え、乳鉢と乳棒、を用いて混合し、分散溶液又はスラリーの状態とした上で、噴霧乾燥、加熱乾燥、又は自然乾燥等により乾燥させる方法があげられる。
得られた混合物は、各酸化物原料と反応性の低い材料からなるルツボ又はトレイ等の耐熱容器中に充填し、焼成される。焼成時に用いる耐熱容器の材質としては、各酸化物原料と反応性の低い材料であれば特に制限はないが、例えば、Pt、Pt/Rh合金、Irなどの白金系の容器が挙げられる。焼成時の雰囲気は、還元雰囲気での焼成であってよく、この場合は、白金系の容器以外に、Mo、W系の容器なども使用できる。
焼成温度、時間については、本実施形態に係る蛍光体が得られる限り特に制限はなく、混合した各原料が充分に反応する温度、時間とすることが好ましい。ただし、温度が高すぎる場合、焼成時間が長すぎる場合は、原料成分の蒸発による組成ずれを起こす恐れがある。通常1000℃以上、2000℃以下で焼成され、1400℃以上、1800℃以下での焼成が好ましい。
焼成時の圧力については、本実施形態に係る蛍光体が得られる限り特に制限はないが、実施容易性の観点からは常圧での焼成が好ましい。
また、焼成時の雰囲気は、本実施形態に係る蛍光体が得られる限り特に制限はないが、材料や焼成部材の安定性を考慮し、適宜適した雰囲気をとることが好ましい。例えば、Ce3+を発光中心とする蛍光体材料とする場合、Ce3+←→Ce4+の価数変化を抑える目的では、還元雰囲気とすることが好ましい。具体的には、アルゴン雰囲気、窒素雰囲気、または、これらの水素含有雰囲気が挙げられる。一方、還元雰囲気とすることで、蛍光体中に酸素欠陥などが導入され、特性に悪影響を与える場合には、酸化雰囲気とすることが好ましい。具体的には、数ppm以上の酸素を含有するアルゴン雰囲気、窒素雰囲気、または、大気雰囲気などが挙げられる。また、還元雰囲気で焼成した後、酸化雰囲気でアニールするなどの手法も用いることができる。
単結晶が必要な場合は、上記焼成により得られた焼成体を、加熱溶融し、融液から単結晶を作製することができる。単結晶作製時の容器や雰囲気は、焼成と同様の観点で適宜選択することができる。単結晶育成の方法には特に制限がなく、一般的なチョクラルスキー法、ブリッジマン法、マイクロ引下げ法、EFG法、ゾーンメルト法、などを用いることができる。融点を下げる目的では、フラックス法などを用いることもできる。大型の結晶を育成する観点では、チョクラルスキー法、ブリッジマン法が好ましい。
本発明の実施形態は、電離放射線の照射により励起され、最大発光ピーク波長が、160nm〜700nmの波長領域内に存在する蛍光体である。電離放射線としてはX線、γ線、α線、中性子線が利用される。
放射線検出器の用途に用いられる際、本実施形態における蛍光体は、粉体、セラミックス、単結晶のいずれの形態でもよい。蛍光体は、受光器と組み合わせることで、放射線検出器としての使用が可能となる。放射線検出器において使用される受光器としては、位置検出型光電子増倍管(PS−PMT)、シリコンフォトマルチプライヤー(Si−PM)フォトダイオード(PD)またはアバランシェ―フォトダイオード(APD)があげられる。
さらに、これらの放射線検出器を備えることで放射線検査装置としても使用可能である。放射線検査装置としては、非破壊検査用検出器、資源探査用検出器、高エネルギー物理用検出器などの非破壊検査用の検査装置、又は医用画像処理装置などの診断装置があげられる。医用画像処理装置の例としては、陽電子放射断層撮影(PET)装置、X線CT、SPECTなどがあげられる。また、PETの形態としては、二次元型PET、三次元型PET、タイム・オブ・フライト(TOF)型PET、深さ検出(DOI)型PETがあげられる。また、これらを組み合わせて使用することができる。
本実施形態に係る蛍光体は、構成原子の一部、または、全てを他の原子で置き換えた固溶体、置換体を合成することが可能である。ここで、原子の選択は、用途、目的に応じて適した原子を選択することができる。
例えば、放射線検出器用途においては、放射線との反応断面積の観点から原子番号の大きい原子で構成されることが好ましく、主要原子であるR原子としてはGdを含むことが好ましい。
その他、発光量、減衰時間、材料安定性、合成のしやすさなどの観点で、適宜適した原子を選択することが好ましい。
また、化合物として電気的中性が保たれれば、置換する原子は構成原子と同族の原子に限らず、族の異なる原子でも置換体の生成は可能である。
本実施形態に係る蛍光体を放射線検出器用途で用いる場合、発光量や発光寿命の短寿命化に不純物の共添加を用いることができる。
また、蛍光体の形態には特に制限がなく、粉末、焼結体、単結晶のいずれでもよく、各々の用途、目的に合わせた形態が好ましい。例えば、PET装置では、単結晶が好ましく、X線CT装置では単結晶、または、焼結体のブロック、非破壊検査用のX線検出フィルムとして用いる場合は、粉末を樹脂性のシートに分散させたフィルムとして用いることが好ましい。
以下、本発明について、実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
実施例において用いた評価装置、構造特定、結晶構造解析の手法は以下のとおり。
[結晶構造解析]
単結晶粒子のX線回折データの取得、吸収補正、構造モデルの算出は、Mo KαをX線源とする単結晶X線回折装置D8QUEST(Bruker社製)と解析ソフトAPEX3(Bruker社製)で実施した。F2のデータに基づく結晶構造パラメータの精密化は、SHELXL−97を用いて行った。
[粉末X線回折測定]
粉末X線回折は、粉末X線回折装置D2 PHASER(BRUKER社製)にて精密測定した。測定条件は以下の通りである。
CuKα管球使用
X線出力=30KV,10mA
走査範囲 2θ=5°〜65°
読み込み幅=0.025°
[格子定数算出、格子体積算出]
各実施例の粉末X線回折測定データより各実施例の蛍光体の結晶構造、つまり空間群がP21/nに分類される結晶構造に起因したピークを選択し、データ処理用ソフトTOPAS 4(Bruker社製)を用いて精密化することにより各格子定数の値を求めた。また、得られた格子定数の値から、格子体積の値を求めた。
[UV励起発光スペクトル]
試料を銅製試料ホルダーに詰め、蛍光分光光度計FP−6500(JASCO社製)を用いて励起発光スペクトルと発光スペクトルを測定した。なお、測定時には、光源側分光器のスリット幅、及び、受光側分光器のスリット幅を1nmに設定して測定を行った。
[X線励起発光の確認]
Wを線源とするX線発生装置RXG−120P(アールテック社製)により発生させたX線を、石英セルに充填した粉末試料に照射し、照射面と反対側に設置した光ファイバーから、試料の発光を取り出し、光電子増倍管とカウンターユニットH12126_C12918(浜松ホトニクス社製)で検出を行った。X線照射時は、石英セルや光ファイバーからの発光も検出されるため、試料本体からの発光有無は、セルに試料を入れない場合の光電子増倍管のカウント数と、試料を入れた場合のカウント数を比較し判断した。
<実施例1 新規蛍光体GdSiPOの構造特定>
原料として、純度3N以上のGd、SiO、NHPO、CeOを表1の重量で秤量し、メノウ乳鉢に入れ、均一になるまで粉砕及び混合した。
得られた原料混合粉末をアルミナ坩堝に入れ、これを、モリブデンシリサイドをヒーターとする電気炉にて、大気下、1200℃設定、保持時間5時間の仮焼成を行った。保持後、室温まで冷却し、アルミナ坩堝から原料を取り出し、試料が均一になるまで、再度、粉砕、混合を行った。
混合した原料は、φ5mmの一軸プレス用のダイスに入れ、圧力10MPaで1分間プレスを行い、ペレット状に加工した。このペレット原料は、アルミナ製の匣鉢内に敷いたPt−Rh(30%)板の上に設置し、上記と同様の電気炉で、大気下、1500℃設定で保持時間10時間の本焼成を行い、引き続き、1800℃設定で保持時間3時間の本焼成を行った。本焼成後は室温まで炉冷した後、試料を取出した。
Figure 2019094448
取出し後、試料は溶融し、結晶化していた。結晶化した試料から、結晶粒を一部取り出し、単結晶X線構造解析を行った。構造解析では、X線回折により得られた基本反射より、単結晶粒の平均構造の結晶系は、単斜晶系であり、格子定数は、a=6.8106Å、b=12.0865Å、c=9.0296Å、α=90°、β=108.284°、γ=90°、格子体積はV=705.7574Åであることが判明した。また、得られた反
射点について消滅則に基づき検討し、単結晶粒の空間群をP21/nとして解析を行った。その結果、得られた結晶粒は、組成式GdSiPOで表され、図1に示した結晶構造を有する化合物であることが判明した。すなわち、一般式として以下の式(1)で表される構造を有することが判明した。
(GO(TO・・・(1)
実施例1で製造した蛍光体は、上記一般式(1)における、R原子がGd、G原子がSi、T原子がPに相当し、Gd(SiO)(PO)Oで表される。その結晶構造は、G原子であるSi、及び、T原子であるPに配位した4つのOが四面体を形成し、該四面体の頂点は、各々共有することなく孤立して存在し、これらの四面体に加え、R原子であるGdが適宜配置されることにより形成される結晶構造である。
この化合物は、理論密度6.4g/cmと大きいため、LuSiOに代表されるシンチレータ結晶と同様に、電離放射線検出器用の蛍光体として好適に用いることができる。また、Luに対して安価なGd原料を主成分として合成できるため、低コストでシンチレータ結晶を製造できる利点を有する。
<実施例2〜5 Gd(SiO)(PO)O相の各種賦活体の合成>
実施例1で特定したGd(SiO)(PO)O相の組成、及び、構造を基に、Gd(SiO)(PO)O相の各種賦活体の合成を行った。合成は、実施例1と同様に、秤量、混合、仮焼成、ペレット化、本焼成の手順で実施した。実施例2で使用した賦活剤原料はCeO、実施例3はPr11、実施例4はEu、実施例5はTbである。仮焼成と本焼成の温度、時間、雰囲気は、原料の反応性、揮発性などを考慮し、適宜調整した。各々の実験条件を表2に示す。
Figure 2019094448
本焼成後の試料は、乳鉢で粉砕、混合し、xrd測定を実施した。実施例2で合成した試料のxrd測定結果と、実施例1の結晶構造解析結果からシミュレーションされたxrdパターンを図2に示す。ピークパターンは一致し、実施例2ではGd(SiO)(PO)O相が主相として得られたことがわかる。
実施例2〜5で得られた各々について、UV励起発光スペクトルを測定した結果を図3〜図6に示す。Ceを添加した実施例2の試料からは、最大ピーク波長403nmとするCe3+のf−d遷移に由来する発光が観察された。同様に、実施例3の試料からは、最大ピーク波長384nmとするPr3+の5d−4f遷移由来の発光が観測された。これらCe3+、および、Pr3+の発光は、発光寿命が短いため、PETなどの診断装置への利用に適している。一方、Eu、Tbを添加した実施例4、5の試料からは、Eu3+、Tb3+のf−f遷移に由来する発光が観測された。
上記の実施例2〜5で作製した試料にX線を照射した際の発光を光検出器で検出した際のカウント数を表3にまとめた。
Figure 2019094448
試料以外の部材からのX線励起発光と区別するため、同一測定系でセルに試料を充填しない状態でのカウント数も合わせて示した。表3から明らかなように、いずれの試料も、「試料なし」の場合に比べて検出カウント数が優位に大きく、X線励起により試料が発光していることを示している。
以上、実施例2〜5の結果は、本発明の蛍光体が、放射線検出器用途の蛍光体材料として好適に利用できることを示している。
<実施例6〜16 Gd(SiO)(PO)O相の各種置換体の合成>
Gd(SiO)(PO)O相の置換体、固溶体の合成を行った。合成は、実施例2〜5と同様に、秤量、混合、仮焼成、ペレット化、本焼成の手順で実施した。ただし、仮焼成、本焼成の温度、時間、雰囲気は、原料の揮発性、融点、原料同士の反応性を考慮し、適宜変更した。各々の実験条件を表4に示す。
Figure 2019094448
実施例9、及び16で合成した試料のxrd測定結果を図7、図2のxrd測定結果とともに示す。いずれもピークパターンは同一であり、置換体、固溶体が生成していることがわかる。各試料のxrd測定結果から算出した格子定数を表5に示す。表5には、参考として実施例2で作製した試料の格子定数も合わせて示す。
Figure 2019094448
実施例10で合成された試料は格子定数が小さく、a=6.6805Å、b=11.8314Å、c=8.8886Å、α=90°、β=108.254°、γ=90°、格子体積はV=667.196Åであることが判明した。これは、Gd(SiO)(PO)O相におけるGdサイトに比較的イオン半径の小さいLu原子が置換したためと解釈できる。一方、実施例16で合成された試料は格子定数が大きく、a=7.1089Å、b=12.6907Å、c=9.3052Å、α=90°、β=107.527°、γ=90°、格子体積はV=800.517Åであることが判明した。これは、Gd(SiO)(PO)O相におけるGdサイトが、比較的イオン半径の大きいLa原子で置換され、さらに、Siサイトが、比較的イオン半径の大きいGe原子で置換されたためと解釈できる。
上記の結果は、表5が示す格子定数の範囲においては、一般式R(GO)(TO)Oで表される構造を有する化合物は安定して存在できることを示しており、これらは賦活剤を添加することで蛍光体として好適に用いることができる。

Claims (8)

  1. 式(1)で表される蛍光体。
    (GO(TO ・・・(1)
    (式(1)中、Rはアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、Bi、及びPbからなる群から選択される1種以上を含み、G及びTは、それぞれ独立にSi、Ge、Sn、B、Al、Ga、P、Asからなる群から選択される1種以上を含む。また、s、p、q及びrはそれぞれ2.7≦s≦3.3、0.9≦p≦1.1、0.9≦q≦1.1、0.9≦r≦1.1を満たす。)
  2. 前記式(1)中のRは、賦活剤として、Ce、Pr、Nd、Eu、Tb及びYbからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の蛍光体。
  3. 前記式(1)中、Rは少なくともGdを含み、Gは少なくともSiを含み、Tは少なくともPを含む、請求項1または2に記載の蛍光体。
  4. 格子定数a、b、c、β及び、格子体積Vを有し、かつ、結晶系が単斜晶である蛍光体。
    但し格子定数a、b、c、β、及び格子体積Vは、以下を満たす。
    6.346Å≦a≦7.464Å、
    11.240Å≦b≦13.325Å、
    8.444Å≦c≦9.770Å、
    104.301°≦β≦111.502°、
    634Å≦V≦841Å
  5. 単結晶である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光体。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛍光体を含み、
    電離放射線の照射により励起され、160nm〜700nmの波長領域で発光する、蛍光体材料。
  7. 請求項6に記載の蛍光体材料を備えた、放射線検出を利用した検査装置。
  8. 請求項6に記載の蛍光体材料を備えた、放射線検出を利用した診断装置。
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