以下の実施の形態において、便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足、説明等の関係にある。
また、以下の実施の形態で用いる図面においては、平面図であっても図面を見易くするためにハッチングを付す場合もある。また、以下の実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、「−」および「+」は、n型(第1導電型)層またはp型(第2導電型)層における不純物濃度の高低を示したもので、例えば、「n−−」、「n−」、「n」、「n+」、「n++」の順にn型の不純物の濃度が高くなることを示している。また、本願明細書において平面視とは、半導体基板の主面に垂直な方向から視た場合を意味する。また、図中の矢印X,Yは、平面視において互いに交差(好ましくは直交)する2つの方向を示している。以下、実施の形態について図面を用いて説明する。
<発明者の検討>
SiC基板を用いたパワーMISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)は、Si基板を用いたパワーMISFETと比較して高耐圧化および低損失化が可能であるため、省電力または環境配慮型のインバータ技術の分野等において注目されている。
SiC基板を用いたパワーMISFET(以下、SiCパワーMISという)は、Si基板を用いたパワーMISFET(以下、SiパワーMISという)と比較して、同耐圧ではオン抵抗の低抵抗化が可能である。これは、SiCは、Siと比較して絶縁破壊電界強度が約7倍と大きく、ドリフト層となるエピタキシャル層を薄くできるからである。
ところで、パワーMISFETの一例として縦型2重拡散MOSFET(Double diffused MOS FET:以下、DMOSという)がある。このDMOSにおいてオン抵抗に関して解決すべき課題の1つが、チャネル寄生抵抗である。低耐圧(例えば、600V耐圧)のDMOSでは、チャネル寄生抵抗が寄生抵抗の主因であり、高耐圧(例えば、3300V耐圧)のDMOSにおいてもドリフト抵抗の次に高い。したがって、SiCパワーMISには、チャネル寄生抵抗の低減が必要となる。
チャネル寄生抵抗が高い要因はDMOSのチャネル面となる4H−SiC基板の表面のチャネル移動度の低さにある。この問題を解決するために、特許文献1には、高チャネル移動度が得られる(11−20)面や(1−100)面をチャネルとして利用するトレンチゲート型MOSFET(以下、トレンチゲート型MOSという)をSiC基板に形成する方法が開示されている。
図35は典型的なトレンチゲート型MOSの断面図である。n+型のSiC基板100の主面上には、エピタキシャル層101が形成されている。このエピタキシャル層101には、下層から順に、n−−型のドリフト層102およびp型のボディ層103が形成されている。このボディ層103の上部には、n++型のソース領域104およびp++型の電位固定領域105が隣接した状態で形成されている。このエピタキシャル層101の上部には、エピタキシャル層101の上面からソース領域104およびボディ層103を貫通してドリフト層102に達する溝106が形成されている。そして、この溝106内には、ゲート絶縁膜107を介してゲート電極108が埋め込まれている。また、エピタキシャル層101上には、ゲート電極108を覆うように層間絶縁膜109が形成されている。この層間絶縁膜109上には、ソース電極110が形成されている。ソース電極110は、層間絶縁膜109に形成されたコンタクトホール111を通じてソース領域104および電位固定領域105と電気的に接続されている。一方、SiC基板100の裏面側には、n++型のドレイン領域112が形成されている。このSiC基板100の裏面には、シリサイド層113を介してドレイン電極114が形成されている。
ところで、一般的に4H−SiC基板は、エピタキシャル層の成長時の欠陥を低減する観点から、Si(0001)面またはC(000−1)面が<11−20>方向に4°微傾斜した面を主面として用いている。したがって、トレンチゲート型MOSをSiC基板100上に形成した場合、(11−20)面から微傾斜した面や(1−100)面など、DMOSよりも高いチャネル移動度が得られる面を、チャネルとして利用できる。また、トレンチゲート型MOSは、その構造上、セル寸法をDMOSより小さくすることができる。また、トレンチゲート型MOSは、DMOSよりチャネル幅を広くすることができる。したがって、高チャネル移動度を実現でき、かつ、幅広いチャネル幅を有するトレンチゲート型MOSを用いることにより、チャネル寄生抵抗を下げることができる。このトレンチゲート型MOSの低チャネル寄生抵抗は導通損失を低減させる効果がある。
一方、スイッチング損失を低減するためには、寄生ゲート抵抗を低減させる必要がある。この寄生ゲート抵抗を低減するには、セル配置の工夫が重要となる。図36はトレンチゲート型MOSの溝を格子状に配置した場合を模式的に示した平面図である。また、図37はトレンチゲート型MOSの溝を縞状に配置した場合を模式的に示した平面図である。
図36に示す格子状構造の場合、寄生ゲート抵抗は格子状抵抗回路となり、図37に示す縞状構造より寄生ゲート抵抗は低くなる。図37に示す縞状構造は、図36に示す格子状構造と比較して、上下のマスク合わせずれの問題が生じない点や、溝106の角部(耐圧に問題が生じ易い部分)が少ない点など利点が多いが、採用するためには、寄生ゲート抵抗を低減する必要がある。最も有効な手段は、図37に示すように、複数の溝106の長手方向の両端側に、溝106内のゲート電極108より低抵抗なゲート配線115を設けることである。このトレンチゲート型MOSの場合、ゲート配線115の延在方向Y100が、溝106の長辺側の側面(チャネルが形成される面)の面方位Y101に沿うように、ゲート配線115を配置することが最適である。実際、この最適配置は、Si基板を用いたトレンチ型の絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:IGBT)で通常用いられている。
ここで、トレンチゲート型MOSのゲート配線の最適配置について図38および図39を用いてより具体的に説明する。図38は図37のX100−X100線の断面図である。溝106内にはゲート電極108の一部が埋め込まれている。このゲート電極108は、一般に多結晶Siで形成されており、溝106の長手方向端部で厚いフィールド絶縁膜116上まで引き出され、そのフィールド絶縁膜116上でゲート配線115と電気的に接続される。このゲート配線115は、一般に、抵抗率が多結晶Siの1/100程度の金属で形成されている。
図39は図37のX101−X101線の断面図である。この断面では、ゲート電極108がアクティブ領域(SiCパワーMIS形成領域、素子形成領域)に配置されておらず、フィールド絶縁膜116とゲート配線115との間にのみ配置されている。これは、アクティブ領域では、ソース電極110をソース領域104および電位固定領域105と電気的に接続する必要があるためである。すなわち、溝106の隣接間で、ソース電極110とソース領域104および電位固定領域105とを接続する関係上、溝106の幅を狭くせざるを得ず、溝106の幅で規定されるゲート電極108の短手方向の電極幅も狭くせざるを得ない。ゲート電極108の電極幅は、一般的に10μm以下である。このため、ゲート電極108を長手方向へ延在させるほどゲート抵抗は上昇する。
そこで、トレンチゲート型MOSでゲート抵抗を低減させるには、ゲート電極108の長手方向の距離を仕様許容内に収めながら、溝106の長手方向の端部からゲートパッド(図示せず)までの間に、ゲート電極108より低抵抗なゲート配線115を配置する必要がある。したがって、一般的なトレンチゲート型MOSでゲート抵抗を最も低減させるには、図37に示すように、溝106の長手方向の端部領域に、溝106の長辺側の側面(チャネルが形成される面)の面方位Y101に沿うように、ゲート配線115を配置することである。
ところで、上記のトレンチゲート型MOSをSiC基板に形成した場合、耐圧を高くできるものの、p型のボディ層103を貫通する溝106内に形成されたゲート絶縁膜107部分にかかる電界が、トレンチゲート型MOSをSi基板に形成した場合に比べて高くなり、ゲート絶縁耐圧に課題が生じる。
そこで、特許文献2には、溝がp型のボディ層を貫通せず、p型のボディ層内に形成される、トレンチ型DMOS(TED型MOSFET:Trench-etched double diffused MOS FET)が提案されている。この構造の場合、SiC基板を用いた場合でも、溝内のゲート絶縁膜にかかる電界を大幅に緩和できるので、信頼性を確保できる。しかし、このようなトレンチ型DMOSにおいては、さらなる性能の向上が望まれている。以下では、トレンチ型DMOSにおいて、例えば、スイッチング損失を低減するためのゲート配線の最適な配置の仕方について説明する。
(実施の形態)
<SiC半導体装置の構造例>
本実施の形態のSiC半導体装置は、例えば、トレンチ型DMOS(TED型MOS)構造のパワートランジスタを有するスイッチングデバイス(パワー半導体装置)である。図1は本実施の形態のSiC半導体装置を構成する半導体チップの一例の平面図である。
半導体チップ(以下、単にチップという)1Cは、例えば、4H−SiC基板を有する平面視で四角形状の薄板で構成されている。このチップ1Cの主面上には、トレンチ型DMOSのソース電極2Sおよびゲート電極配線2Gが互いに絶縁された状態で配置されている。
ゲート電極配線2Gは、複数本のゲート配線部(ゲート配線)2Gwと、1個のゲート電極部(第2ゲート電極)2Geとを一体で有している。図1ではゲート配線部2GwをY方向(第1方向)に沿って3本並べて配置した場合を例示したが、これに限定されるものではなく、4本以上配置しても良い。また、ゲート電極部2Geは、ゲート配線部2Gwより幅広に形成されており、例えば、チップ1CのY方向のほぼ中央に配置されている。ただし、ゲート電極部2Geの配置位置は、Y方向の中央に限定されるものではなく、例えば、Y方向の端部(図1の上端または下端)に配置しても良い。
ソース電極2Sおよびゲート電極配線2Gは、後述するように、チップ1Cの主面上に堆積された表面保護膜(図1には図示せず)で覆われているが、表面保護膜の一部に形成された開口部を通じて一部が露出されている。その開口部から露出されている部分は、ソース電極やゲート電極を外部に引き出すソースパッドおよびゲートパッドになっている。ゲートパッドは、ゲート電極部2Geに形成されている。このソースパッドやゲートパッドには、ボンディングワイヤ等が接合される。なお、ソース電極2Sおよびゲート電極配線2Gの下層には、後述の多結晶Siからなるゲート電極(第1ゲート電極)が形成されている。
図2は図1の破線で囲んだ領域の拡大平面図である。なお、図2は、ソース電極2Sおよびその下層の多結晶Siで形成されるゲート電極を取り除いた状態を示している。
チップ1Cの主面内においてゲート電極配線2Gの下層にはフィールド領域FRが配置されている。このフィールド領域FRに囲まれた領域(図1のゲート電極配線2Gに囲まれた領域)には、アクティブ領域ARが配置されている。
このアクティブ領域ARには、例えば、トレンチ型DMOSを構成するストライプ型の単位セルUCが配置されている。単位セルUCは、平面視でY方向(第1方向)の寸法がX方向(第2方向)の寸法より長い帯状に形成されていて、X方向に沿って所定の間隔毎に複数並んで配置されている。
各単位セルUCには、複数の溝TがY方向に沿って所定の間隔毎に並んで配置されている。溝Tは、例えば、平面視で長方形(X方向の長さがY方向の長さより長い形状)に形成されている。この溝T内には、上記した多結晶Siからなるゲート電極の一部が埋め込まれている。すなわち、この溝Tの配置位置にトレンチ型DMOSが形成されている。したがって、各単位セルUCには、複数のトレンチ型DMOSが並列に接続されている。そして、複数の単位UCが並列に接続されて全体として1つのパワートランジスタが形成されている。この単位セルUCを並列に接続した数(すなわち、アクティブ領域AR内に敷き詰められた単位セルUCの数)を多くし、アクティブ領域ARに配置されるパワートランジスタのチャネル幅を大きくすることで、チップ1Cの全体のパワートランジスタのチャネル抵抗を下げることができる。
ここで、チップ1CのY方向の寸法によってはY方向の端から端まで単位セルUCを延在させるとゲート抵抗が大きくなり、パワートランジスタのスイッチング損失が増大してしまう場合がある。そこで、図1に示したように、単位セルUCに対して交差するように、Y方向のほぼ中央にゲート配線部2Gwを配置している。すなわち、ゲート配線部2GwをY方向に沿って複数並べて配置している。これにより、単位セルUCのY方向の長さを短くすることができるので、ゲート抵抗を低減でき、パワートランジスタのスイッチング損失を低減できる。ただし、チップ1CのY方向の寸法が短い場合は、ゲート配線部2Gwを2本(チップ1CのY方向の両端側にそれぞれ1本ずつ)配置する構成にしても良い。
図3〜図5は図2の破線で囲んだ領域の拡大平面図、図6は図3のX1−X1線の断面図、図7は図3のY1−Y1線の断面図、図8は図3のY2−Y2線の断面図、図9は図3のY3−Y3線の断面図、図10は図1のチップに形成されたトレンチ型DMOSの要部斜視図である。なお、図3ではゲート配線部2Gwの下層を透かして見せている。また、図3および図4では図面を見易くするためp型のボディ層および電位固定領域にハッチングを付している。また、図4では図面を見易くするため多結晶Siで形成されたゲート電極にハッチングを付している。
チップ1Cを構成する半導体基板3Sは、図6〜図10に示すように、基板層(炭化ケイ素基板)3SBと、その上に形成されたエピタキシャル層(炭化ケイ素層)3EPとを有している。したがって、半導体基板3Sは、エピタキシャル層3EP側の主面と、その反対側の基板層3SB側の主面とを有している。エピタキシャル層3EP側の主面が上記チップ1Cの主面に相当している。
基板層3SBは、例えば、n+型の4H−SiC基板からなり、その第1主面側(図6〜図10の下側:第1面)には、n++型のドレイン領域(第1半導体領域)4Dが形成されている。基板層3SBおよびドレイン領域4Dには、例えば、窒素(N)またはリン(P)等のような不純物が含まれている。基板層3SBの不純物濃度の好ましい範囲は、例えば、1×1018〜1×1021cm−3である。また、ドレイン領域4Dの不純物濃度の好ましい範囲は、例えば、1×1019〜1×1021cm−3である。
このドレイン領域4Dは、シリサイド層5を介してドレイン電極6Dと電気的に接続されている。ドレイン電極6Dは、例えば、チタン(Ti)膜と、窒化チタン(TiN)膜と、アルミニウム(Al)膜とを基板層3SBの主面から順に積層することで形成されている。なお、ドレイン電極6Dは、チップ1Cの基板層3SBの主面内の全域を覆うように形成されている。
この基板層3SBの第2主面(図6〜図10の上側:第2面)上にはエピタキシャル層3EPが形成されている。このエピタキシャル層3EPは、例えば、基板層3SBより不純物濃度の低いn−−型のSiCからなり、このエピタキシャル層3EPによりドリフト層(第2半導体領域)3DRが形成されている。エピタキシャル層3EPには、例えば、NまたはP等のような不純物が含まれている。エピタキシャル層3EPの不純物濃度の好ましい範囲は、SiCパワートランジスタの素子定格に依存するが、例えば、1×1014〜1×1017cm−3である。また、エピタキシャル層3EPの厚さは、例えば、5〜50μm程度である。
エピタキシャル層3EPの主面側の上部(ドリフト層3DR上)には、p型のボディ層(第3半導体領域)7Bが形成されている。ボディ層7Bは、エピタキシャル層3EPの主面から基板層3SBに向かって延び、エピタキシャル層3EPの深さ方向の途中で終端している。エピタキシャル層3EPの主面からのボディ層7Bの深さは、例えば、0.5〜2.0μm程度である。また、ボディ層7Bには、例えば、Alまたはホウ素(B)等のような不純物が含まれている。ボディ層7Bの不純物濃度の好ましい範囲は、例えば、1×1016〜1×1019cm−3である。
また、図3に示すように、エピタキシャル層3EPの主面内には、Y方向に延在するn++型のソース領域(第5半導体領域)8Sとn型の半導体領域9とが、それらの間にp型のボディ層7Bを介在させた状態でX方向に沿って交互に配置されている。
ソース領域8Sは、平面視でY方向(図2の単位セルUCの長手方向)に沿って帯状に形成されている。このソース領域8Sは、図6、図8および図10に示すように、ボディ層7Bに内包されている。すなわち、ソース領域8Sは、エピタキシャル層3EPの主面から基板層3SBに向かって延び、ボディ層7Bの深さ方向の途中で終端している。エピタキシャル層3EPの主面からのソース領域8Sの深さは、例えば、0.1〜0.6μm程度である。また、ソース領域8Sには、例えば、NまたはP等のような不純物が含まれている。ソース領域8Sの不純物濃度の好ましい範囲は、例えば1×1019〜1×1021cm−3である。
また、図3および図4に示すように、ソース領域8S内には、複数のp++型の電位固定領域10BがY方向に沿って所定の間隔毎に配置されている。この電位固定領域10Bは、ボディ層7Bの電位を固定するためにソース電極2S(図6等参照)とボディ層7Bとを電気的に接続する導通領域である。ソース領域8Sおよび電位固定領域10Bは、図6および図8に示すコンタクトホールHsを通じてソース電極2Sと電気的に接続されている。この電位固定領域10Bは、エピタキシャル層3EPの主面から深さ方向に延び、ボディ層7Bの深さ方向の途中で終端している。これにより、電位固定領域10Bは、ボディ層7Bと電気的に接続されている。エピタキシャル層3EPの主面からの電位固定領域10Bの深さは、例えば、0.1〜0.3μm程度である。この電位固定領域10Bには、例えば、AlまたはB等のような不純物が含まれている。電位固定領域10Bの不純物濃度の好ましい範囲は、例えば、1×1019〜1×1021cm−3である。
また、ここでは、図3に示すように、電位固定領域10Bが、例えば、平面視で略四角形状に形成されており、ソース領域8Sの幅方向(X方向)の中央位置に、ソース領域8Sの長手方向(Y方向)に沿って所定の間隔毎に配置されている。このように電位固定領域10Bを小面積にすることで、図2に示したアクティブ領域AR内に配置可能な単位セルUCの数を増やすことができるので、パワートランジスタのオン抵抗を低減できる。ただし、電位固定領域10Bの数、大きさ、あるいは間隔は種々変更可能である。また、電位固定領域10Bの平面視の形状も種々変更可能であり、例えば、電位固定領域10Bの平面視での形状を、ソース領域8Sの長手方向に沿って連続的に延びる帯状にしても良い。この場合、ソース電極2Sとボディ層7Bとの間の抵抗を低減できるので、ボディ層7Bの電気的安定性を向上させることができる。
n型の半導体領域9は、図3に示すように、平面視でY方向(図2の単位セルUCの長手方向)に沿って帯状に形成されている。n型の半導体領域9は、その幅方向(X方向)中央のn−型のJFET領域(第6半導体領域)9aと、その幅方向両側に接して設けられたn型の電流拡散領域(第4半導体領域)9bとを有している。
JFET領域9aは、図6、図9および図10に示すように、エピタキシャル層3EPの主面側から基板層3SBに向かって延び、ドリフト層3DRに達する位置で終端している。そして、n−型のJFET領域9aは、n型の電流拡散領域9bとn−−型のドリフト層3DRとの間に、電流拡散領域9b、ボディ層7Bおよびドリフト層3DRに接した状態で設けられている。このようにn型の電流拡散領域9bとn−−型のドリフト層3DRとの間に、n−−型のドリフト層3DRより不純物濃度の高いn−型のJFET領域9aを設けることでJFET抵抗を低減できる。エピタキシャル層3EPの主面からのJFET領域9aの深さは、例えば、0.5〜2.0μm程度である。また、JFET領域9aには、例えば、NまたはP等のような不純物が含まれている。JFET領域9aの不純物濃度の好ましい範囲は、例えば1×1016〜1×1017cm−3である。
電流拡散領域9bは、図6および図10に示すように、p型のボディ層7B上に設けられ、ボディ層7Bとn−型のJFET領域9aとに接した状態で設けられている。この電流拡散領域9bは、エピタキシャル層3EPの主面から基板層3SBに向かって延び、ボディ層7BおよびJFET領域9aの深さ方向の途中で終端している。エピタキシャル層3EPの主面からの電流拡散領域9bの深さは、例えば、0.1〜0.7μm程度である。また、電流拡散領域9bには、例えば、NまたはP等のような不純物が含まれている。電流拡散領域9bの不純物濃度の好ましい範囲は、例えば5×1016〜5×1018cm−3である。
このようなn型の半導体領域9(JFET領域9aおよび電流拡散領域9b)上には、図6、図9および図10に示すように、p型の電界緩和層11が形成されている。エピタキシャル層3EPの主面からの電界緩和層11の深さは、例えば、0.05〜0.3μm程度である。また、電界緩和層11には、例えば、AlまたはB等のような不純物が含まれている。電界緩和層11の不純物濃度の好ましい範囲は、例えば、5×1016〜5×1018cm−3である。
また、図3等に示すように、ソース領域8Sと半導体領域9との間には、上記した複数の溝Tが形成されている。この溝Tの部分にトレンチ型DMOSが形成される。図10に示すように、各トレンチ型DMOSのチャネルは、主に溝Tの長辺側の側面(第1側面)に形成される他、溝Tの底面および溝TのY方向の隣接間のボディ層7Bの上面に形成される。なお、図10の矢印はドレイン電流idが流れる方向を示している。
図3に示すように、各溝Tは、平面視でソース領域8S、ボディ層7Bおよび電流拡散領域9bに接するように形成されている。また、図6、図7および図10に示すように、各溝Tはエピタキシャル層3EPの主面から基板層3SBに向かって延び、ボディ層7Bの深さ方向の途中で終端している。すなわち、各溝Tの底面は、ボディ層7Bに接している。エピタキシャル層3EPの主面からの溝Tの深さは、ソース領域8Sおよび電流拡散領域9bより深く、かつ、ボディ層7Bより浅く、例えば、0.1〜1.5μm程度である。また、図3〜図5に示すように、平面視で溝Tの長辺の長さ(トレンチ型DMOSのチャネル長に並行なX方向の長さ)は、例えば、1〜3μm程度である。また、平面視で溝Tの短辺の長さ(トレンチ型DMOSのチャネル幅に並行なY方向の長さ)は、例えば、0.1〜2μm程度である。さらに、平面視で溝Tの短方向(Y方向)の隣接間隔は、例えば、0.1〜2μm程度である。
また、アクティブ領域AR(図2参照)のエピタキシャル層3EPの主面上には、図6〜図9に示すように、溝Tの内面(側面および底面)をも覆うように、ゲート絶縁膜15が形成されている。ゲート絶縁膜15は、例えば、酸化シリコン膜(SiO2)からなり、その厚さは、例えば、0.01〜0.1μm程度である。また、フィールド領域FR(図2参照)のエピタキシャル層3EPの主面上には、図7〜図9に示すように、フィールド絶縁膜16が形成されている。フィールド絶縁膜16は、例えば、酸化シリコン膜(SiO2)からなり、その厚さは、ゲート絶縁膜15より厚く、例えば、0.3〜2μm程度である。
さらに、図6〜図9に示すように、アクティブ領域ARのエピタキシャル層3EPの主面上には、ゲート絶縁膜15を介してゲート電極(第1ゲート電極)17Gが形成されている。ゲート電極17Gは、例えば、低抵抗なn型の多結晶Siからなり、その厚さは、例えば、0.3〜1μm程度である。このゲート電極17Gは、図4に示すように、一部(ソース電極2Sとソース領域8S等との接続部等)を除いて、エピタキシャル層EPの主面(溝Tおよびフィールド絶縁膜16)を覆うように形成されている。すなわち、複数の溝T内には、ゲート絶縁膜15を介してゲート電極17Gの一部が埋め込まれており、複数の溝T内のゲート電極17Gは一体になっていて互いに電気的に接続されている。また、ゲート電極17Gの一部は、フィールド絶縁膜16上まで引き出されている。
また、図6〜図9に示すように、エピタキシャル層3EPの主面上には、ゲート電極17Gを覆うように層間絶縁膜18iが形成されている。層間絶縁膜18iは、例えば、酸化シリコン膜(SiO2)からなり、その厚さは、例えば、0.3〜2μm程度である。この層間絶縁膜18i上には、ソース電極2Sおよびゲート電極配線2G(ゲート配線部2Gwおよびゲート電極部2Ge(図1参照))が形成されている。
ソース電極2Sは、例えば、Ti膜と、TiN膜と、Al膜とを下層から順に積層することで形成されており、その厚さは、例えば、1〜10μm程度である。ソース電極2Sは、層間絶縁膜18iおよびゲート絶縁膜15に穿孔されたコンタクトホールHs(図6および図8参照)を通じてソース領域8Sおよび電位固定領域10Bと電気的に接続されている。ただし、図6および図9に示すように、ソース電極2Sは、層間絶縁膜18iによって下層のゲート電極17Gとは電気的に絶縁されている。
一方、ゲート電極配線2G(ゲート配線部2Gwおよびゲート電極部2Ge(図1参照))は、厚いフィールド絶縁膜16の上層に形成されている。このゲート電極配線2Gのゲート配線部(ゲート配線)2Gwは、図7〜図9に示すように、層間絶縁膜18iに形成されたコンタクトホールHgを通じて下層のゲート電極17Gと電気的に接続されている。
このゲート電極配線2G(ゲート配線部2Gwおよびゲート電極部2Ge)の構成材料および厚さは、例えば、上記したソース電極2Sと同じである。すなわち、ゲート電極配線2G(ゲート配線部2Gwおよびゲート電極部2Ge)は、下層のゲート電極17Gよりも抵抗率の低い金属で構成されている。そして、ゲート配線部2Gwは、図3〜図5に示すように、X方向に延在している。すなわち、ゲート配線部2Gwは、図5に示すように、溝Tの長辺側の側面(チャネルが形成される側面:第1側面)に延在している。または、ゲート配線部2Gwは、図5に示すように、溝Tの長辺側の側面の面方位に対して交差(直交)する方向に延在している。あるいは、ゲート配線部2Gwは、チャネル電流が流れる方向(X方向)に延在している。この配置により、ゲート電極17Gとゲート電極部2Geとを短い距離で電気的に接続できる。このように本実施の形態では、ゲート電極17Gとゲート電極部2Ge(ゲートパッド)との間に、ゲート電極17Gよりも低抵抗なゲート配線部2Gwを上記のように配置したことにより、ゲート抵抗を低減できるので、パワートランジスタのスイッチング損失を低減できる。したがって、SiC半導体装置の動作周波数を向上させることができるので、SiC半導体装置の性能を向上させることができる。なお、コンタクトホールHgは、平面視でゲート配線部2Gwに沿って複数配置しても良いし、ゲート配線部2Gwに沿って延びる平面視で帯形状にしても良い。また、コンタクトホールHgの底面(ゲート電極17Gの上部)にシリサイド層を形成しても良い。これにより、ゲート配線部2Gwとゲート電極17Gとの接触抵抗を低減できる。なお、上記の例では、ゲート配線部2Gwの抵抗値が、ゲート電極17Gおよびゲート電極部2Geの抵抗値より低い場合について説明したが、ゲート配線部2Gwの抵抗値がゲート電極17Gおよびゲート電極部2Geの抵抗値と同一の場合もある。その場合でも上記のようなゲート配線部2Gwの配置の仕方によりゲート抵抗を低減できるので、パワートランジスタのスイッチング損失を低減できる。
また、図7〜図9に示すように、層間絶縁膜18i上には、ゲート電極配線2Gおよびソース電極2Sを覆うように表面保護膜19が形成されている。この表面保護膜19には、上記したようにソース電極2Sの一部が露出される開口部Hspが形成されており、その開口部Hspから露出するソース電極2Sの一部がソースパッドになっている。また、表面保護膜19には、上記したようにゲート電極部2Geの一部が露出される開口部(図示せず)が形成されており、その開口部から露出するゲート電極部2Geの一部がゲートパッドになっている。表面保護膜19の厚さは、例えば、1〜10μm程度である。
<トレンチ型DMOSの動作説明>
次に、トレンチ型DMOSの動作例について図6および図10を参照して説明する。SiC半導体装置のゲート電極(すなわち、図6のゲート電極17G)に正電圧を印加すると、溝Tの長辺側の側面のp型のボディ層7B、溝Tの底面のp型のボディ層7Bおよび溝Tの隣接間のp型のボディ層7Bにおいてゲート絶縁膜15が接する部分にチャネルが形成される。これにより、ソース電極2Sからn++型のソース領域8S、チャネルおよびn型の電流拡散領域9bを順に介してドレイン電極6Dに電子(キャリア)が流れる。すなわち、ドレイン電極6Dからn型の電流拡散領域9b、チャネルおよびn++型のソース領域8Sを順に介してソース電極2Sにドレイン電流idが流れる。
このように本実施の形態のトレンチ型DMOSでは、溝Tの長辺側の側面等がチャネル領域となるため、4H−SiC基板の主面にチャネル領域が形成される場合と比較して、チャネル移動度を向上させることができる。また、溝Tを形成しない通常のDMOS構造と比較して、チャネル幅を広くすることができるので、電流密度を向上させることができる。したがって、トレンチ型DMOSのチャネル抵抗を低減できるので、パワートランジスタの電力変換効率および動作効率を向上させることができる。
また、溝Tはp型のボディ層7B内に形成されるので、通常のトレンチゲート型MOS(溝がボディ層を貫通する構造)と比較して、耐圧保持時に溝Tの表面に形成されたゲート絶縁膜15にかかる電界を大幅に緩和できる。このため、通常のSiC・DMOSやトレンチゲート型MOSと比較して、パワートランジスタの信頼性を向上させることができる。
さらに、ゲート電極部2Ge(ゲートパッド)とゲート電極17Gとの間に上記のようにゲート配線部2Gwを配置したことにより、ゲート抵抗を低減でき、パワートランジスタのスイッチング損失を低減できる。したがって、導通損失およびスイッチング損失を低減できるので、パワートランジスタの電力変換効率および動作効率を向上させることができる。
<ミラー指数との関係>
次に、本実施の形態のSiC半導体装置とSiC基板のミラー指数との関係について図11〜図15を参照して説明する。
図11はSiC半導体装置の製造に用いる半導体ウエハの平面図、図12〜図14は図11の半導体ウエハの主面を側面側から見た説明図である。なお、図11〜図14では、理解をし易くするためミラー指数を記した。
半導体ウエハ(以下、単にウエハという)3Wは、例えば、4H−SiC基板からなり、一般的に図11および図12に示すような方位の関係を有している。そして、上記したように、一般的に4H−SiC基板で構成されるウエハ3Wは、エピタキシャル層3EP(図6等参照)の成長時の欠陥を低減するために、図12に示すように、Si(0001)面またはC(000−1)面が、<11−20>方向に4°微傾斜した面を主面(第2面:上記したドレイン電極6Dが配置される主面とは反対側の主面)として用いる。このため、ウエハ3Wの主面に対して垂直に溝Tを形成した場合、チャネル移動度が高い(11−20)面や(−1−120)面を得ることはできず、図13に示すように、{11−20}面に対して微傾斜した面を得ることになる。一方、チャネル移動度が高い(1−100)面と(−1100)面は溝Tの側面として得ることができる。したがって、トレンチ型DMOSのチャネル形成面(図3等に示した溝Tの長辺側の側面(第1側面))として(1−100)面と(−1100)面を用いることが適当である。この場合、図13に示すように、溝Tの長辺側の側面(チャネル形成面)は、断面視で(11−20)面および(−1―120)面に対して4°(=θ)傾いた状態で形成される。
また、溝Tの長辺側の側面(チャネル形成面)が(1−100)面と(−1100)面とであることから、図14に示すように、断面視でゲート配線部2Gwの延在方向は、<11−20>方向(すなわち、[11−20]方向および[−1−120]方向)に対して4°(=θ)微傾斜した方向となる。この場合、上記したゲート電極部2Ge(ゲートパッド)の配置位置は、ゲート配線部2Gwの延在方向の一端側であってチップ1Cの(11−20)面または(−1−120)面の側面近傍に配置するのが適当である。ここで、図15は本実施の形態のSiC半導体装置を構成するチップの平面図である。なお、図15では、理解をし易くするためミラー指数を記すとともに、図面を見易くするためにソース電極を取り外した状態を示した。
図15では、ゲート電極部2Ge(ゲートパッド)が、例えば、チップ1Cの(11−20)面側(図15の右端側)に配置されている。ただし、ゲート電極部2Ge(ゲートパッド)は、<11−20>方向の両端のいずれか一方に配置されていることが好ましく、(11−20)面の反対側の(−1−120)面側(図15の左端側)に配置しても良い。また、ゲート電極部2Ge(ゲートパッド)は、複数のゲート配線部2Gwの同じ延在方向の一端側に配置することが好ましい。また、ゲート配線部2Gwは、平面視で<11−20>方向に延在した状態で配置されている。すなわち、ゲート配線部2Gwは、<1−100>方向に交差(直交)する方向に延在した状態で配置されている。
<SiC半導体装置の適用例>
図16は本実施の形態のSiC半導体装置を適用した電力変換装置を有する負荷駆動システムの要部回路図である。
負荷駆動システムSYは、負荷LDと、負荷LDの動作を制御するパワーモジュール(電力変換装置)PMと、パワーモジュールPMの動作を制御する制御回路CCとを有している。
パワーモジュールPMは、三相インバータ回路を有している。この三相インバータ回路は、三相交流電力を生成して負荷LDに供給し、負荷LDの動作を制御する回路であり、三相に対応する3個の単相インバータ回路iVを備えている。この3個の単相インバータ回路iVの各々は、例えば、三相インバータ回路のハーフブリッジ回路を構成する1単位(1相分)のインバータ回路(レグ)であり、高電位側の電源配線(第1電源配線)HWと、低電位側の電源配線(第2電源配線)LWとの間に並列に接続されている。
各単相インバータ回路iVには、スイッチングデバイスとして動作する2つのパワートランジスタ(SiC半導体装置、第1SiC半導体装置、第2SiC半導体装置)QH,QLが電源配線HW,LW間に直列に接続されている。すなわち、各単相インバータ回路iVは、高電位側の電源配線HWと負荷LDの入力との間に接続されたハイサイド用のパワートランジスタQH(上アーム:第1パワートランジスタ)を有している。また、各単相インバータ回路iVは、負荷LDの入力と低電位側の電源配線LWとの間に接続されたローサイド用のパワートランジスタQL(下アーム:第2パワートランジスタ)とを有している。
また、各単相インバータ回路iVの各パワートランジスタQH,QLには、ダイオードDfが逆方向に並列に接続されている。このダイオードDfは、負荷LDにインダクタンスがある場合に、そのインダクタンスに蓄えられた還流電流を放出するための還流電流用のダイオードである。なお、各単相インバータ回路iVには、2個のパワートランジスタQH,QLと、2個のダイオードDf,Dfとが設けられているので、パワーモジュールPM(三相インバータ回路)には、6個のパワートランジスタと6個のダイオードとが設けられている。
制御回路CCは、各パワートランジスタQH,QLを駆動し、各パワートランジスタQH,QLのスイッチング動作を制御することで三相インバータ回路の動作を制御する回路であり、各単相インバータ回路iVのパワートランジスタQH,QLのゲート電極と電気的に接続されている。制御回路CCは、例えば、矩形波のパルス幅を変化させるパルス幅変調動作を行っている。すなわち、制御回路CCは、各単相インバータ回路iVのパワートランジスタQH,QLのオンオフ時間の幅を調整することで、出力される交流の電圧振幅や周波数を制御するようになっている。
このようなパワーモジュールPM(三相インバータ回路)の動作時には、単相インバータ回路iVのパワートランジスタQH,QLが同時にオンしないように、パワートランジスタQH,QLを交互にオンオフさせる。例えば、ハイサイド用のパワートランジスタQHがオン、ローサイド用のパワートランジスタQLがオフすると、出力の電位は高電位側の電源配線HWの電位となる。逆に、ハイサイド用のパワートランジスタQHがオフ、ローサイド用のパワートランジスタQLがオンすると出力の電位は低電位側の電源配線LWの電位となる。そして、三相インバータ回路の3つの出力配線U,V,Wに接続される各単相インバータ回路iVのパワートランジスタQHのオンオフのタイミングを120°ずらすことで三相交流電力を生成する。これにより、負荷LDを駆動することができる。
このように本実施の形態のパワーモジュールPMでは、三相インバータ回路を構成するパワートランジスタQH,QLを本実施の形態のSiC半導体装置で構成することにより、パワーモジュールPMの小型化や高性能化を実現できる。また、オン抵抗の小さな本実施の形態のSiC半導体装置を用いることで、発熱量を低減できるので、冷却用のヒートシンク等を小型化できる。このため、パワーモジュールPMを小型化および軽量化できる。また、本実施の形態のSiC半導体装置においてはゲート絶縁膜の信頼性が高いので、これを用いたパワーモジュールPMの信頼性をも向上させることができる。
上記負荷としては、蛍光灯、ヒータまたはモータを例示できる。特に、電気自動車等の動力源である三相誘導モータを負荷LDとすることで、三相インバータ回路により三相誘導モータに供給される三相交流電力の電圧や周波数をきめ細やかに制御できるので、電気自動車等の走行性とエネルギー効率とを向上させることができる。また、上記したようにパワーモジュールPMの小型化および高性能化を実現できるので、パワーモジュールPMを含む負荷駆動システムSYの小型化および高性能化をも実現できる。
図17は本実施の形態のSiC半導体装置を適用した電力変換装置を有する負荷駆動システムの変形例の要部回路図である。
この変形例では、パワーモジュールPMを構成する三相インバータ回路に個別の還流電流用のダイオードが設けられておらず、パワートランジスタQH,QL自体(パワートランジスタQH,QLの内蔵ダイオードDi)が還流電流用のダイオードとして機能するようになっている。すなわち、還流時にパワートランジスタQH,QLをオンして逆導通させる。このため、還流時の導通損失はダイオードの特性ではなく、パワートランジスタの特性で決まる。また、還流時に同期整流駆動を行う場合は、上下アームの短絡を防ぐため、上下アームのパワートランジスタQH,QLが共にオフとなる不動作時間が必要となる。この不動作時間には、パワートランジスタQH,QLのn−−型のドリフト層3DRとp型のボディ層7Bとによって形成される内蔵ダイオードDiが駆動する。ただし、SiCはキャリアの走行距離がSiより短く、不動作時間の損失は小さく、上記内蔵ダイオードDiとしてSiCショットキーバリアダイオードを用いた場合と同等である。
この図17の変形例のパワーモジュールPMでは、三相インバータ回路の上下アームのパワートランジスタQH,QLとして本実施の形態のSiC半導体装置を用いることにより、パワートランジスタQH,QLが高性能であるため、還流時の損失を低減できる。また、還流電流用のダイオードを設けない分、パワーモジュールPMをさらに小型化できる。それ以外の効果は、図16に示したパワーモジュールPMと同じである。また、負荷LDの例も図16で説明したものと同じである。
<SiC半導体装置の製造方法例>
次に、本実施の形態のSiC半導体装置の製造方法の一例について図18の工程に沿って、図19〜図34を参照して説明する。図19〜図32はSiC半導体装置の製造工程中の要部断面図である。なお、図19〜図32において、左は図3のY1−Y1線に相当する箇所の断面図、右は図3のX1−X1線に相当する箇所の断面図である。
まず、図11および図12に示したウエハ3Wを製造ラインに導入する(St100)。この段階のウエハ3Wは、例えば、n+型の4H−SiC基板(図6等に示した基板層3SB)からなり、平面視で略円形状の薄板で形成されている。このウエハ3Wには、例えば、N等のような不純物が含まれている。このウエハ3Wの不純物濃度は、例えば、1×1018〜1×1021cm−3の範囲である。
また、ウエハ3Wを構成するn+型のSiC基板はSi面とC面との両面を有するが、n+型のSiC基板においてエピタキシャル層が形成される第2主面(第2面)は、Si面またはC面のどちらでも良い。図12で示したように、断面視でウエハ3Wにおいてエピタキシャル層が形成されるSi(0001)面またはC(000−1)面は、<11−20>方向に4°微傾斜している。
続いて、図19に示すように、ウエハ3Wの第2主面(第2面)上に、SiCからなるn−−型のエピタキシャル層3EPをエピタキシャル成長法により形成する(St101)。エピタキシャル層3EPには、例えば、NまたはP等のような不純物が含まれている。このエピタキシャル層3EPの不純物濃度は、SiCパワートランジスタの素子定格に依存するが、SiC基板(基板層3SB)の不純物濃度よりも低く、例えば、1×1014〜1×1017cm−3の範囲である。また、エピタキシャル層3EPの厚さは、例えば5〜50μmである。
続いて、図19のウエハ3Wの第1主面(第1面)側の下部にn++型のドレイン領域4Dを形成する。ドレイン領域4Dには、例えば、NまたはP等のような不純物が含まれている。ドレイン領域4Dの不純物濃度は、SiC基板(基板層3SB)の不純物濃度より高く、例えば、1×1019〜1×1021cm−3の範囲である。
次いで、図20に示すように、エピタキシャル層3EPの主面上にp型のボディ層形成用のマスクM1を形成する。マスクM1の厚さは、例えば1.0〜3.0μm程度である。アクティブ領域におけるマスクM1の幅は、例えば1.0〜5.0μm程度である。マスク材料としては、例えば、無機材料の酸化シリコン(SiO2)膜、Si膜、窒化シリコン(SiN)膜や有機材料のレジスト膜、ポリイミド膜を用いることができる。
続いて、マスクM1越しに、エピタキシャル層3EPの主面に、例えば、Al原子のような不純物をイオン注入する。これにより、アクティブ領域のエピタキシャル層3EPの主面にp型のボディ層7Bを形成する。エピタキシャル層3EPの主面からのボディ層7Bの深さは、例えば、0.5〜2.0μm程度である。また、ボディ層7Bの不純物濃度は、例えば、1×1016〜1×1019cm−3の範囲である。
次いで、マスクM1を除去した後、エピタキシャル層3EPの主面上に電位固定領域形成用のマスク(図示せず)を形成する。このマスクは、例えば、レジスト膜からなり、後の工程においてボディ層7Bの電位を固定する電位固定領域10B(図8等参照)が形成される領域のみに開口部が設けられている。このマスクの厚さは、例えば、0.5〜3μm程度である。
続いて、電位固定領域形成用のマスク越しに、エピタキシャル層3EPの主面に、例えば、Al原子のような不純物をイオン注入して、p++型の電位固定領域10B(図8等参照)を形成する。エピタキシャル層3EPの表面からの電位固定領域10Bの深さは、例えば0.1〜0.3μm程度である。電位固定領域10Bの不純物濃度は、例えば1×1019〜1×1021cm−3の範囲である。
次いで、電位固定領域形成用のマスクを除去した後、図21に示すように、エピタキシャル層3EPの主面上に電流拡散領域形成用のマスクM3を形成する。このマスクM3は、例えば、レジスト膜からなり、後の工程において電流拡散領域9bの全体および電界緩和層11の一部が形成される領域に開口部が設けられている。マスクM3の厚さは、例えば、0.5〜3μm程度である。
続いて、マスクM3越しに、エピタキシャル層3EPの主面に、例えば、N等のような不純物をイオン注入してアクティブ領域にn型の電流拡散領域9bを形成する。エピタキシャル層3EPの主面からの電流拡散領域9bの深さは、例えば、0.1〜0.7μm程度である。また、電流拡散領域9bの不純物濃度は、例えば、5×1016〜5×1018cm−3の範囲である。
続いて、同じマスクM3越しに、エピタキシャル層3EPの主面に、例えば、Al原子のような不純物をイオン注入して、電流拡散領域9b上にp型の電界緩和層11の一部(端部)を形成する。エピタキシャル層3EPの主面からの電界緩和層11の深さは、例えば0.05〜0.3μm程度である。また、電界緩和層11の不純物濃度は、例えば、5×1016〜5×1018cm−3の範囲である。
次いで、電流拡散領域形成用のマスクM3を除去した後、図22に示すように、エピタキシャル層3EPの主面上にソース領域形成用のマスクM4を形成する。このマスクM4は、例えば、レジスト膜からなり、後の工程においてソース領域が形成される領域に開口部が設けられている。マスクM4の厚さは、例えば、0.5〜3μm程度である。
続いて、マスクM4越しに、エピタキシャル層3EPの主面に、例えば、N原子のような不純物をイオン注入して、アクティブ領域にn++型のソース領域8Sを形成する。エピタキシャル層3EPの主面からのソース領域8Sの深さは、例えば0.1〜0.6μm程度である。また、ソース領域8Sの不純物濃度は、例えば、1×1019〜1×1021cm−3の範囲である。
次いで、ソース領域形成用のマスクM4を除去した後、図23に示すように、エピタキシャル層3EPの主面上に、JFET領域形成用のマスクM5を形成する。このマスクM5は、例えば、レジスト膜からなり、後の工程においてJFET領域9aの全体および電界緩和層11の一部(中央)が形成される領域に開口部が設けられている。マスクM5の厚さは、例えば、0.5〜3μm程度である。
続いて、マスクM5越しに、エピタキシャル層3EPの主面に、例えば、N原子のような不純物をイオン注入して、アクティブ領域にn−型のJFET領域9aを形成する。エピタキシャル層3EPの主面からのJFET領域9aの深さは、例えば0.5〜2.0μm程度である。また、JFET領域9aの不純物濃度は、例えば、1×1015〜1×1017cm−3の範囲である。
続いて、同じマスクM5越しに、エピタキシャル層3EPの主面に、例えば、Al原子のような不純物をイオン注入して、JFET領域9a上にp型の電界緩和層11の一部(中央)を形成する。エピタキシャル層3EPの主面からの電界緩和層11の深さおよび不純物濃度は、図21で説明したのと同じである(St102)。
次いで、JFET領域形成用のマスクM5を除去した後、ウエハ3Wの表面(エピタキシャル層3EPの主面(図23の上面)および基板層3SBの主面(図23の下面))上に、例えば、炭素(C)膜をプラズマCVD法等により形成する。C膜の厚さは、例えば、0.03μm程度である。その後、ウエハ3Wに対して、例えば、1500°以上の温度で2〜3分間程度の熱処理を施す。これにより、イオン注入した各不純物を活性化する。熱処理後、酸素プラズマ処理等によりC膜を除去する(St103)。
次いで、図24に示すように、エピタキシャル層3EPの主面上に、溝形成用のマスクM6を形成する。このマスクM6は、例えば、レジスト膜からなり、後の工程において溝Tが形成される領域に開口部が設けられている。マスクM6の厚さは、例えば、0.5〜3μm程度である。
続いて、マスクM6から露出するエピタキシャル層3EPの一部をドライエッチングにより除去してエピタキシャル層3EPの主面に溝Tを形成する。溝Tは、ソース領域8Sと電流拡散領域9bとの間にそれらに接した状態で形成される。溝Tの深さは、p型の電界緩和層11、ソース領域8Sおよび電流拡散領域9bより深いが、p型のボディ層7Bより浅く、例えば、0.1〜1.5μm程度である。溝Tにおいて、パワートランジスタのチャネル長に沿う方向の長さは、例えば、1〜3μm程度である。溝Tにおいて、パワートランジスタのチャネル幅に沿う方向の長さは、例えば、0.1〜1μm程度である。さらに、パワートランジスタのチャネル幅に沿う方向の溝Tの隣接間隔は、例えば、0.1〜1μm程度である(St104)。
次いで、溝形成用のマスクM6を除去した後、エピタキシャル層3EPの主面上に、例えば、厚さ0.3〜2μm程度の酸化シリコン膜をプラズマCVD法等により堆積する。続いて、その酸化シリコン膜上にフィールド絶縁膜形成用のマスク(図示せず)を形成する。このマスクは、例えば、レジスト膜からなり、その厚さは、例えば、0.5〜3μm程度である。その後、フィールド絶縁膜形成用のマスクから露出する酸化シリコン膜の一部をエッチングにより除去した後、フィールド絶縁膜形成用のマスクを除去する。これにより、図25に示すように、エピタキシャル層3EPの主面上にフィールド絶縁膜16を形成する(St105)。
その後、エピタキシャル層3EPの主面(溝Tの内面(側面および底面)を含む)上にゲート絶縁膜15を形成する。ゲート絶縁膜15は、例えば、熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成された酸化シリコン(SiO2)膜からなり、その厚さは、例えば、0.01〜0.1μm程度である(St106)。
次いで、図26に示すように、エピタキシャル層3EPの主面(ゲート絶縁膜15およびフィールド絶縁膜16)上に、例えば、n型の多結晶Siからなる導体膜17をCVD法等により堆積する。導体膜17の厚さは、例えば、0.3〜1μm程度である。続いて、その導体膜17上に、ゲート電極形成用のマスクM8を形成する。このマスクM8は、例えば、レジスト膜からなり、ゲート電極形成領域を覆い、それ以外を露出させるように設けられている。その後、このマスクM8から露出する導体膜17の一部をドライエッチングにより除去した後、マスクM8を除去する。これにより、図27に示すように、導体膜17で形成されるゲート電極17Gを形成する(St107)。
次いで、エピタキシャル層3EPの主面上に、ゲート電極17Gおよびゲート絶縁膜15を覆うように、例えば、酸化シリコン膜からなる層間絶縁膜18iをプラズマCVD法等により堆積する。続いて、層間絶縁膜18i上に、ソースコンタクト形成用のマスクM9を形成する。このマスクM9は、例えば、レジスト膜からなり、後の工程においてコンタクトホールが形成される領域に開口部が設けられている。その後、このマスクM9から露出する層間絶縁膜18iの一部をドライエッチングにより除去した後、マスクM9を除去する。これにより、図28に示すように、層間絶縁膜18iにコンタクトホールHsを形成する。コンタクトホールHsからはソース領域8Sおよび電位固定領域10Bが露出される。
次いで、図29に示すように、層間絶縁膜18i上に、ゲートコンタクト形成用のマスクM10を形成した後、マスクM10から露出する層間絶縁膜18iの一部をドライエッチングにより除去して層間絶縁膜18iの一部にコンタクトホールHgを形成する。コンタクトホールHgからはゲート電極17Gの一部が露出されている。続いて、マスクM10を除去した後、図30に示すように、層間絶縁膜18i上(コンタクトホールHs,Hg内を含む)に、例えば、Ti膜、TiN膜およびAl膜を下層から順にスパッタリング法等により積層して導体膜2を堆積する。Al膜の厚さは、例えば、2.0μm以上が好ましい。
次いで、導体膜2上に、電極形成用のマスクM11を形成した後、マスクM11から露出する導体膜2の一部をドライエッチングにより除去して、図31に示すように、導体膜2で形成されるゲート電極配線2G(ゲート電極部2Ge(図1参照)およびゲート配線部2Gw)とソース電極2Sとを同時に形成する(St108)。続いて、ゲート電極配線2G(図1参照)およびソース電極2Sを覆うように、層間絶縁膜18i上に、例えば、酸化シリコン膜からなる表面保護膜19をCVD法等により堆積する(St109)。
その後、表面保護膜19の上にパッド開口部形成用のマスクM12を形成し、マスクM12から露出する表面保護膜19の一部をドライエッチングにより除去した後、マスクM12を除去する。これにより、図32に示すように、表面保護膜19に、ゲート電極部2Ge(図1参照)の一部が露出するゲートパッド用の開口部(図示せず)と、ソース電極2Sの一部が露出するソースパッド用の開口部Hspとを形成する。
次いで、基板層3SBの主面(図32の下部)に、例えば、厚さが0.1μm程度の金属膜をスパッタリング法等により堆積した後、レーザーシリサイド化熱処理等を施す。これにより、金属膜とドレイン領域4DのSiとを反応させて、ドレイン領域4Dを覆うようにシリサイド層5を形成する。続いて、シリサイド層5を覆うように、シリサイド層5上に、Ti膜、Ni膜および金(Au)膜を下層から順にスパッタリング法等により堆積してドレイン電極6Dを形成する。ドレイン電極6Dの厚さは、例えば、0.5〜1μm程度である。その後、ウエハ3Wに形成された複数のチップ形成領域(図1のチップ1Cに相当)に対して電気的特性試験を実施して前工程を終了する。ここで、図33は本実施の形態のSiC半導体装置の前工程後のウエハの平面図、図34は図37の場合の前工程後のウエハの平面図である。図33および図34では、説明を分かり易くするためにミラー指数を示した。図33に示すように、本実施の形態の前工程後のウエハ3Wでは、複数のチップ形成領域1CRの各々において、ゲート電極部2Geが(11−20)面側(図33の右側)に配置される。これに対して、図34のウエハ100Wでは、複数のチップ形成領域100CRの各々において、ゲート電極部115Geが(−1100)面側(図34の上側)に配置される。
次いで、後工程(組立工程)に移行する。ここでは、ウエハ3Wから良品のチップ形成領域1CR(図33参照)を切り出してチップ1C(図1参照)を得る(ダイシング工程)。続いて、ウエハ3Wから切り出された良品のチップ1Cをリードフレーム(図示せず)のダイパッド上に搭載する(ダイボンド工程)。その後、チップ1Cのゲートパッドおよびソースパッドとリードフレームのリードとをボンディングワイヤ等のような外部配線(図示せず)で接続する(ワイヤボンディング工程)。その後、チップ1C、ボンディングワイヤおよびリードをパッケージングしてSiC半導体装置を製造する。
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
また、各部の材質、導電型、および製造条件等は前述した実施の形態の記載に限定されるものではなく、各々多くの変形が可能であることは言うまでもない。ここで、説明の都合上、各部の導電型を固定して説明したが、前述の実施の形態に記載した導電型に限定されない。
また、パワートランジスタの「ソース」や「ドレイン」の機能は、異なる極性のパワートランジスタを採用する場合や、回路動作において電流の方向が変化する場合等には入れ替わることがある。このため、本明細書においては、「ソース」や「ドレイン」の用語は、入れ替えて用いることができる。
また、本明細書において「電極」や「配線」の用語は、これらの構成要素を機能的に限定するものではない。例えば、「電極」は「配線」の一部として用いられることがあり、その逆もまた同様である。さらに、「電極」や「配線」の用語は、複数の「電極」や「配線」が一体となって形成されている場合等も含む。