以下に、本発明の実施形態に係る作業車両を、乗用型の苗移植機として図面を参照しながら詳細に説明する。なお、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、以下では苗移植機全体を指して機体と呼ぶ場合がある。
図1は、実施形態に係る作業車両である苗移植機1における走行制御の概要を示す説明図である。また、図2は、同上の苗移植機1の側面図、図3Aは、同上の苗移植機1の正面図である。本実施形態に係る苗移植機1は、それぞれ左右一対の前輪4および後輪5を備えて圃場Fを走行可能であり、作業者が着座可能な操縦座席28が設けられるとともに、後部には作業機である苗植付部50が昇降自在に連結された走行車体2を備えている。
なお、本実施形態に係る苗移植機1の前輪4は、操舵輪であるハンドル32を含む後述する操舵装置110(図4参照)によって左右に回動する転舵輪となっている。また、以下の説明においては、苗移植機1の前後、左右の方向基準は、操縦座席28に正当な姿勢で着座した作業者からみた方向とする。
本実施形態における苗移植機1は、苗移植機1の転舵輪の舵角(切れ角)と、当該苗移植機1の位置情報とに基づき、コントローラ150(図4参照)が操舵装置110の動作を制御することによって、圃場Fにおける苗移植機1の自動直進走行を支援する直進サポート機能を有する。ここでは、舵角を、前輪4の切れ角としているが、例えば、ハンドル32の操舵角を舵角として検出するようにしてもよい。苗移植機1の位置情報は、詳しくは後述するが、走行車体2に設けられた第1の検出手段120により取得される。
また、本実施形態に係る苗移植機1が有する直進サポート機能は、例えば、圃場Fの畔などである圃場周縁部F1を検出し、検出結果に基づいて、上述した操舵装置110のみならず、車速を制御して走行制御を行うことができる。すなわち、第1の検出手段120により検出した圃場周縁部F1と自車両(本実施形態に係る苗移植機1)との距離に基づいて、車速を制御することができる。
例えば、図1に示すように、圃場F内において、作業者がハンドル32の操作をすることなく苗移植機1が自動直進しながら苗の植付作業を行っている場合について説明する。苗移植機1は、圃場Fの中央を含む領域(高速域)F2では、相対的に高速な第1の速度V1以上で走行するように制御されているとする。その際に、苗移植機1は、畦際となる圃場周縁部F1に近接した領域(低速域)F3では、相対的に第1の速度V1よりも低速な第2の速度V2未満でしか走行できないように制御される。
すなわち、図1(a)に示すように、苗移植機1が高速域F2を第1の速度V1あるいはそれ以上の速度で走行している際に、走行車体2に設けられた第1の検出手段120が圃場周縁部F1(例えば「畔」)を検出したとする。
圃場周縁部F1は、例えば、耕耘作業などで用いたトラクタなどの走行により、他の領域よりも圃場面が荒れてしまい、凹凸が激しかったり、水嵩が増したりしている可能性が高い。圃場面が荒れていると、転動輪(前輪4)が直接的に影響を受けるため、直進性が損なわれるおそれがある。
そこで、本実施形態に係る苗移植機1では、図1(b)に示すように、圃場周縁部F1が接近していることを検出すると、車速を第2の速度V2未満に落として、操舵装置110の動作が円滑に行われるようにしている。
相対的に低速である第2の速度V2であれば、自動直進走行の際に、転動輪(前輪4)の適切な制御が行い易いため、直進走行性を損なうことがない。また、苗移植機1が旋回する場合も、低速走行であるため、苗植付部50の上昇タイミングが合わずに畦と接触したりするおそれも可及的に減じることができる。また、図1(b)に示すように、旋回後に枕地を自動走行する際の直進走行性も低下することがない。
特に、コントローラ150は、第1の検出手段120により検出した圃場周縁部F1と自車両との距離が所定距離以下であると判定した場合、第2の速度V2よりも遅い一定速度まで減速させるようにしている。
したがって、より確実に圃場周縁部F1の状態に起因する直進性の低下を未然に防ぐことができる。また、一定速度として、十分に安全に旋回可能な速度に設定しておくことによって、前述した旋回時などにおいて、苗植付部50が畔に接触するおそれを大きく低減することができる。なお、圃場周縁部F1と自車両との距離とは、圃場Fにおける畔などの圃場周縁部F1に対し、苗移植機1の前後方向における距離と、苗移植機1の左右方向の距離とが包含される。
以下、図2、図3Aおよび図4を参照しながら、苗移植機1の具体的な構成について説明する。図4は、コントローラを中心とした機能ブロック図である。
図2および図3Aに示すように、苗移植機1の走行車体2には、昇降装置である苗植付部昇降機構40を介して苗植付部50が昇降可能に取付けられている。走行車体2は、左右一対の前輪4と、左右一対の後輪5とが共に駆動する四輪駆動車であり、ハンドル32が回動されることによって転舵輪となる前輪4が操舵され、圃場Fや畦道などを走行することが可能である。
また、走行車体2は、車体の略中央に配置されたメインフレーム7と、このメインフレーム7の上に搭載された原動機であるエンジン10と、エンジン10の動力を前・後輪4,5と苗植付部50とに伝える動力伝達装置15とを備える。この苗移植機1では、動力源であるエンジン10には、ディーゼル機関やガソリン機関等の内燃機関が用いられ、発生した動力は、走行車体2を前進や後進させるために用いるのみでなく、苗植付部50を駆動させるためにも使用される。
また、動力伝達装置15は、エンジン10から伝達される駆動力を変速して出力する、いわゆるHST(Hydro Static Transmission)と云われる油圧式無段変速装置16と、この油圧式無段変速装置16にエンジン10からの動力を伝える動力伝達部17とを有する。
また、動力伝達装置15は、ミッションケース18を有し、エンジン10からの駆動力は、動力伝達部17を介して油圧式無段変速装置16に伝達され、この油圧式無段変速装置16で変速した動力がミッションケース18に伝達される。ミッションケース18は、メインフレーム7の前部に取り付けられる。
ミッションケース18から前輪4および後輪5に伝達される動力は、一部が左右の前輪ファイナルケース13を介して前輪4に伝達可能であり、残りが左右の後輪ファイナルケース22を介して後輪5に伝達可能となっている。左右それぞれの前輪ファイナルケース13は、ミッションケース18の左右それぞれの側方に配設される。左右の前輪4は、車軸131を介して左右の前輪ファイナルケース13に連結される。かかる前輪ファイナルケース13は、ハンドル32の操舵操作に応じて駆動し、前輪4を転舵させることができる。
同様に、左右それぞれの後輪ファイナルケース22には、車軸220を介して後輪5が連結されている。一方、ミッションケース18からは、図示しない作業機駆動軸から走行車体2の後部に設けた植付クラッチ500を介して苗植付部50へ動力が伝達される。なお、植付クラッチ500は、後に詳述するコントローラ150に接続された植付クラッチモータ510によって動作する(図4参照)。
ところで、エンジン10は、走行車体2の左右方向における略中央で、且つ、作業者が乗車時に足を載せるフロアステップ26よりも上方に突出させた状態で配置される。フロアステップ26は、走行車体2の前部とエンジン10の後部との間に亘って設けられてメインフレーム7上に取り付けられており、その一部が格子状になることにより、靴に付いた泥を圃場Fに落とすことができる。また、フロアステップ26の後方には、後輪5のフェンダを兼ねたリアステップ27が設けられる。リアステップ27は、後方に向うに従って上方に向う方向に傾斜した傾斜面を有し、エンジン10の左右それぞれの側方に配置される。
また、エンジン10は、これらのフロアステップ26とリアステップ27とから上方に突出しており、これらのステップ26,27から突出している部分には、エンジン10を覆うエンジンカバー11が配設される。
そして、エンジンカバー11の上部に、作業者が着席する操縦座席28が設置され、かかる操縦座席28の前方で、且つ走行車体2の前側中央部に操縦部30が設けられる。かかる操縦部30は、フロアステップ26の床面から上方に突出した状態で配置されており、フロアステップ26の前部側を左右に分断している。
操縦部30には、ステアリングポスト315が設けられ、このステアリングポスト315の上部には、作業者による操舵が可能なハンドル32が設けられる。そして、ステアリングポスト315に設けられた計器パネル33には、直進サポート開始スイッチ83を含む各種スイッチ153(図4参照)やメータなどが設けられる。また、操縦部30には、ステアリングポスト315の下側部分に着脱自在に取付けられた、後述するタブレット端末装置140を備えている。また、操縦部30の所定位置には、例えば、報知装置200の一例となるランプ210やブザー215が設けられる(図4参照)。
さらに、操縦部30には、ステアリングポスト315の近傍に主変速レバー81と副変速レバー82とが設けられる。主変速レバー81は、操縦部30の右側に設けられ、副変速レバー82はハンドル32の下方に設けられている。
主変速レバー81は、走行車体2の前後進と走行出力を切替操作するレバーであり、作業者が操作することにより、油圧式無段変速装置16のトラニオン(不図示)の回動角度を調節して走行車体2の速度調節を行うことができる。
他方、副変速レバー82は、走行車体2の走行速度を規定する走行モードを、走行する場所に応じて低速モードと高速モードとに切り替えるレバーである。ここで、低速モードとは、苗移植機1が圃場Fで植付作業を行うに相応しい速度範囲に規定される走行モードである。したがって、図1に示した第1の速度V1および第2の速度V2は、いずれも低速モードが選択された場合に規定される速度である。
他方、高速モードとは、例えば、苗移植機1を畦道などで移動させたりする際の走行モードであり、低速モードのときよりも高速で走行することが可能となる。これらのモード切替えは、副変速レバー82の位置に応じて、ミッションケース18内に設けられた副変速機構により行われる。
また、操縦部30の前部には、開閉可能なフロントカバー31が設けられる。そして、このフロントカバー31の前端中央に位置するように、走行の指標となる指標部材としてのセンターマスコット353が取り付けられている。なお、図2では、便宜上、図示を省略しているが、走行車体2の前側左右には、図3Aに示すように、操縦部30との間に作業通路Qをあけて予備苗載置部400,400が設けられている。
また、本実施形態に係る苗移植機1は、図2および図3Aに示すように、第1の検出手段120として、受信アンテナ122(図4参照)と接続したGNSSユニット121が走行車体2に配設されている。このGNSSユニット121は、受信アンテナ122で一定時間毎にGNSS座標を取得することにより、地球上での位置情報を所定間隔で取得することができる。また、本実施形態に係るGNSSユニット121には、図示しないが、ジャイロセンサや加速度センサを利用した慣性航法装置と、これらを制御する制御基板が内蔵されている。
GNSSユニット121は、前輪4の車軸131の直上方に位置するように、走行車体2の前端側に基端が連結されたアンテナフレーム124の頂部に取り付けられる。通常状態におけるアンテナフレーム124の高さは、標準的な一般男性がフロアステップ26上で起立しても頭部と干渉しない程度の高さに設定される。
アンテナフレーム124は、図2および図3Aに示すように、左右の下部フレーム124a,124aと、これらの上端に連結具124f,124fを介して連結され、途中にそれぞれ設けられた回動連結プレート125を介して後方へ所定角度だけ回動可能な左右の上部フレーム124b,124bとから構成される(図2の二点鎖線を参照)。回動連結プレート125,125間には、回動支軸124dが架設されており、この回動支軸124dを中心に上部フレーム124bは回動する。
そして、左右の上部フレーム124b,124bの上部間に、GNSSユニット121が配設される。なお、GNSSユニット121は、アルミブロック124g上に設けられる。すなわち、GNSSユニット121と鋼管製のアンテナフレーム124との間にアルミブロック124gを介在させることによって受信感度を向上させることが可能となるからである。
このように、アンテナフレーム124は、その上部の一部が後方へ所定角度だけ回動可能に構成されている。具体的には、上部フレーム124bの中途に設けた回動連結プレート125を介して、上部フレーム124bの上部側が回動して折り畳まれる。そのため、折り畳んだ状態であっても、作業者は操縦座席28に座して通常の作業を行うことができる。
また、従来のように、操縦座席28の後部から前方側へ延在して上部フレーム124bを支持していたフレームが存在しないため、後述する苗植付部50に苗を補充したり、施肥装置70の貯留ホッパ71に肥料を補充したりする作業の妨げになることもない。
さらに、アンテナフレーム124の軽量化を図ることが可能となるため、特に、操縦座席28の下方にエンジン10が搭載されている苗移植機1は、機体前側部が軽くなって前輪4にトラクションが十分に生じなくなるおそれがあるが、アンテナフレーム124は機体前側のみに配置されることになるため、機体の前後の重量バランスが改善され、直進性が向上する。
また、下部フレーム124a,124aの基端部は、走行車体2のバンパ700に取付けられる。下部フレーム124a,124aの上端に設けられた連結具124f,124fとフロントカバー31との間には第1補強フレーム124eが掛け渡される。
また、第1補強フレーム124eの基端部と上部フレーム124bに設けた回動連結プレート125とは、第2補強フレーム124cにより連結される。
ところで、苗移植機1の中には、操縦部30の上方にバイザ126が設けられたものがある。図3Bは、バイザ126を備える苗移植機1のアンテナフレーム124を示す説明図である。
樹脂製のバイザ126を備える苗移植機1であれば、アンテナフレーム124は、図3Bに示すように、バイザ126を連結しながら、このバイザ126を跨ぐ長さを有する支持フレーム124hを用いることができる。
すなわち、かかる支持フレーム124hの左右側とバイザ126の補強フレームとを連結するとともに、支持フレーム124hの左右端部をフロアステップ26に基端を連結したフレームに連結するとよい。そして、支持フレーム124hの略中央に、アルミブロック124gを介してGNSSユニット121を配設する。なお、この場合、バイザ126自体を折り畳み可能に構成すれば、アンテナフレーム124については回動連結部などは設ける必要はなく、強度アップを図ることができる。
次に、苗植付部50およびその他の構成について説明する。図2に示すように、苗植付部50は、走行車体2の後部に、苗植付部昇降機構40を介して昇降可能に取付けられている。苗植付部昇降機構40は昇降リンク装置41を備えており、この昇降リンク装置41は、走行車体2の後部と苗植付部50とを連結させる平行リンク機構を備える。かかる平行リンク機構は、上リンク41aと下リンク41bとを有し、これらのリンク41a,41bが、メインフレーム7の後部端に立設した背面視門型のリンクベースフレーム43に回動自在に連結される。そして、リンク41a,41bの他端側が苗植付部50に回転自在に連結されている。こうして、苗植付部50は走行車体2に昇降可能に連結されることになる。
また、苗植付部昇降機構40は、油圧によって伸縮する油圧昇降シリンダ44を有し、油圧昇降シリンダ44の伸縮動作によって、苗植付部50を昇降させることができる。油圧昇降シリンダ44は、前述した油圧式無段変速装置16により駆動され、苗植付部昇降機構40の昇降動作によって、苗植付部50を非作業位置まで上昇させたり、対地作業位置(植付位置)まで下降させたりすることができる。
また、苗植付部50は、苗を植え付ける範囲を、複数の区画、あるいは複数の列で植え付けることができる。例えば、苗を6つの区画で植え付ける、いわゆる6条植の苗植付部50とすることができる。
また、苗植付部50は、苗植付装置60と、苗載置台51及びフロート47(48,49)を備える。このうち、苗載置台51は、走行車体2の後部に複数条の苗を積載する苗載置部材として設けられており、走行車体2の左右方向において仕切られた植付条数分の苗載せ面52を有し、それぞれの苗載せ面52に土付きのマット状苗を載置することが可能である。
苗植付装置60は、苗を載置する苗載置台51の下部に配設され、苗を苗載置台51から取って圃場Fに植え付ける装置であり、苗載置台51の前面側に配設される植付支持フレーム55によって支持される。苗植付装置60は、植付伝動ケース64と植付体61とを有し、植付体61は、苗載置台51から苗を取って圃場Fに植え付けることができるように一対の植込杆62を備え、植付伝動ケース64に回転可能に連結されている。
植付伝動ケース64は、エンジン10から苗植付部50に伝達された動力を植付体61に供給可能に構成されている。また、植付体61は、苗載置台51から苗を取って圃場Fに植え付ける植込杆62に加えて、植込杆62を回転可能に支持すると共に植付伝動ケース64に対して回転可能に連結されるロータリケース63を有する。ロータリケース63は、植付伝動ケース64から伝達された駆動力によって植込杆62を回転させる際に、回転速度を変化させながら回転させることのできる不等速伝動機構(不図示)を内装している。これにより、植付体61の回転時において、植込杆62は、ロータリケース63に対する回転角度によって回転速度が変化しながら回転する。
このように構成される苗植付装置60は、2条毎に1つずつ配設される。すなわち、6条植であれば、3つの苗植付装置60が設けられる。また、各植付伝動ケース64は、2条分の植付体61を回転可能に備えている。つまり、1つの植付伝動ケース64には、2つのロータリケース63が、機体左右方向の両側に連結される。
また、フロート47は、走行車体2の移動と共に、圃場面上を滑走して整地するものであり、走行車体2の左右方向における苗植付部50の中央に位置するセンターフロート48と、左右方向における苗植付部50の両側に位置するサイドフロート49とを有する。
本実施形態におけるセンターフロート48には、圃場Fの状況に合わせて苗植付部50を上下へ昇降させる油圧感度機構として機能するフロートポテンショメータ154(図4参照)が設けられる。かかるフロートポテンショメータ154は、センターフロート48の上下動を検出する感度の幅を変更することができる。例えば、感度を敏感にすれば、センターフロート48の小さな上下動についても検出してコントローラ150へ検出信号を送信するようになる。一方、感度を鈍感にすれば、センターフロート48の小さな上下動については検出することなく、一定振幅以上の上下動のみ検出して検出信号をコントローラ150へ送信するようになる。
また、苗植付部50の下方側の位置における前側には、圃場Fの整地を行う複数の整地用ロータ(ここでは左右および中央の3つのロータ)67が設けられる。この整地用ロータ67は、後輪ファイナルケース22を介して伝達されるエンジン10からの出力によって回転可能に構成されるとともに、電動モータであるロータ用モータ165(図4参照)によって昇降可能に設けられている。
ところで、複数の整地用ロータ67,67については、駆動力をエンジン10から受けるのではなく、それぞれに独立した駆動モータ(不図示)を設けることができる。このように、複数の整地用ロータ67,67を独立して駆動可能とすれば、例えば、機体の向きが左右いずれかにぶれると、ぶれた側の整地用ロータ67の回転を速めることで、機体の向きが真っ直ぐとなるように修正することができる。また、中央の整地用ロータ67については、左右の整地用ロータ67よりも回転を遅くして引き摺られる構成とすれば、機体の直進走行をアシストすることも可能である。また、機体の直進走行のアシストであれば、中央の整地用ロータ67を上昇させて収納位置に戻し、左右の整地用ロータ67,67のみを駆動させるようにしてもよい。
なお、本実施形態に係る苗移植機1では、整地用ロータ67,67が接地していることを条件として、後述するコントローラ150が直進サポートを実行するようにしている。
しかし、直進サポートを実行する条件は、必ずしも設けなくて構わない。
また、苗植付部50の左右両側には、次の植付条に進行方向の目安になる線を形成する線引きマーカ68が備えられる。線引きマーカ68は、苗移植機1が圃場F内における直進前進時に、圃場Fの畦際で転回した後に直進前進する際の目印を圃場F上に線引きする。しかしながら、本実施形態に係る苗移植機1は、GNSS(Global Navigation Satellite System)を利用して直進サポートを実行することができるため、線引きマーカ68を廃止することもできる。
また、走行車体2における操縦座席28の後方には、施肥装置70が搭載される。施肥装置70は、肥料を貯留する左右の貯留ホッパ71と、貯留ホッパ71から供給される肥料を設定量ずつ繰り出す繰出し装置72と、繰出し装置72により繰り出される肥料を圃場Fに供給する施肥通路である施肥ホース74と、施肥ホース74に搬送風を供給するブロア73とを備える。このブロア73により、施肥ホース74内の肥料が苗植付部50側に移送される。さらに、施肥装置70は、施肥ホース74によって肥料が移送される施肥ガイド75と、施肥ホース74によって移送された肥料を苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落とし込む作溝器76とを有する。
ところで、本実施形態に係る苗移植機1は、電子制御によって直進サポートを行うとともに、各部を制御することが可能になっている。そのために、苗移植機1は、図4に示すように、各部を制御する制御装置としてのコントローラ150を備える。このコントローラ150は、CPU(Central Processing Unit)等を有する処理部や、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の記憶部、さらには入出力部が設けられ、これらは互いに接続されて互いに信号の受け渡しが可能である。記憶部には、
苗移植機1を制御するコンピュータプログラムが格納される。また、記憶部には、圃場Fや畦などの圃場周縁部F1に関する画像データなども種々記憶されている。
図示するように、コントローラ150には、タブレット端末装置140をはじめ、各種アクチュエータ類や、各部の情報を取得するセンサ類等が通信可能に接続されている。なお、本実施形態においては、コントローラ150とタブレット端末装置140とは、所定の無線通信規格による無線接続としている。
コントローラ150には、アクチュエータ類として、例えば、エンジン10の吸気量を調節するスロットルモータ100、整地用のロータ67を昇降させるロータ用モータ165、植付クラッチ500を作動させる植付クラッチモータ510が接続される。なお、図示は省略したが、油圧式無段変速装置16のトラニオンの回動角度を変化させるトラニオン駆動モータもコントローラ150に接続される。
また、コントローラ150には、舵角センサ160、方位センサ170、姿勢センサ175、傾きセンサ180、着座センサ190、さらには、主変速レバー81や副変速レバー82の操作量を傾動角度で検出するレバーセンサなどを含む各種のセンサ199が接続されている。
舵角センサ160は、例えば、操舵輪であるハンドル32の回動角度を検出するセンサ、あるいは、ハンドル32の操作によって転舵輪である前輪4が操舵された際の切れ角を検出するセンサである。舵角センサ160が検出した値を、コントローラ150は、記憶部のRAMに格納する。
方位センサ170は、機体の向きを検出するセンサであり、自動車のカーナビゲーションシステムなどに一般的に採用されている。コントローラ150は、かかる方位センサ170から取得した値に基いて、機体の実際の進行方向を導出することができる。
姿勢センサ175は、走行車体2の姿勢が、自動直進ラインに対してどの程度斜め姿勢になっているかを検出するもので、ジャイロセンサなどで構成される。
傾きセンサ180は、走行車体2の上下方向の傾き、すなわち前傾姿勢または後傾姿勢の程度を検出するもので、加速度センサなどを用いて構成される。
着座センサ190は、ロードセルや感圧フィルムセンサなどにより構成されたセンサであり、着座検出手段として機能し、作業者が操縦座席28に着座しているか否かを検出することができる。図5は、着座センサ190の一例を示す説明図であり、図示するように、操縦座席28を、座部前側に設けた枢軸281周りに前後揺動可能に構成するとともに、座部後側に例えばコイルスプリングなどの弾性体282を設けて操縦座席28を支持している。そして、操縦座席28の座部裏面が当接するように、エンジンカバー11上に着座センサ190を設けている。
かかる構成により、作業者が着座すると操縦座席28の座部が若干沈み込み、着座センサ190が押下されて圧力が加わる。この圧力を着座センサ190が検出することで、コントローラ150は、作業者が着座したことを判定することができる。逆に、着座センサ190に圧力が加わっていない場合は、コントローラ150は、作業者が着座していないと判定することになる。
本実施形態では、作業者が操縦座席28へ着座していないことを着座センサ190が検出した場合、コントローラ150は、走行車体2を停止する制御を行うようにしている。
そのため、圃場Fの状態が荒れている可能性のある畦際、すなわち、図1における圃場周縁部F1に近接した領域(低速域)F3においては、作業者が着座していない場合は停止するため、圃場Fの凹凸などで予期せぬバウンドが生じて作業者が大きくよろめいたり、走行車体2から落下するおそれがない。
なお、操縦座席28へ作業者が着座していないことを着座センサ190が検出した場合、コントローラ150は、走行車体2を停止させるのではなく、徐行速度程度まで大きく減速するような制御を行うこともできる。なお、本実施形態において、走行車体2の停止とは、走行速度がゼロになるまで減速するという概念に含まれる。
また、着座センサ190の機能を失効させるセンサ切ボタンなどを別途設け、着座センサ190を強制的に機能させない状態にした中で直進サポートを行わせ、その間に、作業者は操縦座席28から離れて必要な別作業を行うようにすることも可能である。
各種センサ199を含むいずれのセンサを用いる場合でも、検出結果は、コントローラ150を介してタブレット端末装置140のタッチパネル142にリアルタイムで表示されるようにするとよい。
また、コントローラ150には、報知装置200として、例えば発光して報知するランプ210と、警報などを発するブザー215とが接続される。報知装置200は、例えば計器パネル33など、操縦部30に設けられる。かかるブザー215やランプ210を含む報知装置200を用いて、コントローラ150は、直進サポートの実行や停止などを含むサポート状況を報知することができる。
また、苗移植機1は、コントローラ150により制御可能な操舵装置110と、検出手段の一例であって、第1の検出手段120としての位置情報取得ユニットであるGNSSユニット121と、情報処理端末装置であるタブレット端末装置140とを備えており、これらがコントローラ150に接続される。
操舵装置110は、ハンドル32と、かかるハンドル32の軸体と連動連結する伝動機構112を備えるとともに、任意の回転力をハンドル32の軸体に付与する直進サポート機構310を備えており、コントローラ150による自動操舵を可能にしている。伝動機構112には、ハンドル32を回動させるステアリングモータが含まれる。コントローラ150は、例えば、直進サポート開始スイッチ83が操作されると、GNSSユニット121が取得した位置情報に基づき、直進サポート機構310を介して転舵輪(前輪4)を自動操舵することにより、走行車体2を直進方向に維持することができる。
第1の検出手段120であるGNSSユニット121は、GNSSで使用される人工衛星からの信号を受信する受信アンテナ122(図4参照)を有し、地球上における苗移植機1の位置情報(座標情報)を取得し、取得した位置情報をコントローラ150に伝達する。
かかるGNSSユニット121で取得した機体の位置データと、コントローラ150の記憶部に予め記憶されている圃場Fの地図データとから、第1の検出手段120であるGNSSユニット121を用いて圃場周縁部F1を検出し、その結果、圃場周縁部F1と自車両(苗移植機1)との距離を導出することができる。なお、GNSSユニット121では、苗移植機1の実速度を導出することもできる。すなわち、一定時間内における機体の移動量から実走行速度を逐次算出することができるため、コントローラ150は、例えば走行車輪4,5がスリップなどした場合でも、後輪5の回転量と関係なく、苗移植機1の実車速を取得することができる。
また、コントローラ150には、第2の検出手段130として、カメラ135が接続されている。カメラ135は、図2および図3Aに示すように、走行車体2に設けたアンテナフレーム124の上部フレーム124bの上部に、左右一対で設けられる。左右一対のカメラ135でそれぞれ同時に撮像されたデータから、コントローラ150は、自車両と圃場周縁部F1までの距離を導出することができる。なお、ここでは、苗移植機1は、機体前方にレンズを向けた一対のカメラ135を備える構成としているが、さらに機体の左右方向にレンズを向けたカメラを別途一対ずつ設けて、機体の前方および左右方向の圃場周縁部F1までの距離を導出可能とすることもできる。
第2の検出手段130は、カメラ135で撮像したデータについて、例えば二値化処理を行って、畔などの圃場周縁部F1(図1参照)を検出することができる。第2の検出手段130はカメラ135であるため、衛星航法システムを用いる第1の検出手段120よりも精度良く圃場周縁部F1(畦)を検出することができる。
コントローラ150は、通常は第1の検出手段120であるGNSSユニット121を用いて得られた圃場周縁部F1と自車両との距離を用いるが、GNSSユニット121による衛星からの受信状態が一定レベルを満たさない場合、カメラ135を用いて取得した検出結果に基づいて車速を制御するようにしている。
このように、圃場周縁部F1の検出を二重で行うようにしているため、圃場周縁部F1に近接して、圃場面が荒れているような領域における直進サポートの安全性が、より向上する。
また、タブレット端末装置140は、内蔵される端末通信部144とコントローラ150に接続される車体通信部151との間で無線接続可能に構成される。そして、タブレット端末装置140は、制御部141と、情報を表示する表示部および各種の入力操作を行う入力操作部とを兼用するタッチパネル142と、情報を記憶する記憶部143とを備える。この記憶部143には、一または複数の圃場Fの地図情報や、その他、苗移植機1の制御に必要な各種プログラムや各種データが記憶されているが、これらは、コントローラ150の記憶部に記憶されていてもよい。
タブレット端末装置140は、所謂マップ機能を有しており、本実施形態に係る苗移植機1は、GNSSユニット121により取得した走行車体2の位置情報に基づき、タッチパネル142上において、機体位置を、作業領域を含む圃場Fの地図情報上に重畳表示することができる。
そして、前述したように、コントローラ150は、タブレット端末装置140に対し、直進サポートの実行可否を含むサポート状況や、苗や肥料などの残量に関する情報を報知することができる。
また、苗移植機1は、直進サポートス開始スイッチ83をはじめとする各種スイッチ153を備えており、これらがコントローラ150に接続される。
フロートポテンショメータ154は、圃場Fの凹凸に追従して上下動するセンターフロート48に設けられており、このセンターフロート48の上下動を感知して苗植付部50を圃場Fの凹凸に応じて昇降させることができる。
また、コントローラ150は、直進サポート実行中に、次のような制御も行うことができる。すなわち、走行車体2の前上がり姿勢が所定角度以上であることを傾きセンサ180が検出した場合、コントローラ150は、苗植付部50の少なくとも一部、例えばロータ用モータ165を駆動制御して、整地用ロータ67を下降させ、これを機体の重心後方で圃場面に突っ張らせた状態とすることで、走行車体2の傾きを抑制することができる。したがって、前輪4の駆動トルクを確保して直進性を向上させることができ、直進サポートの精度を向上させることができる。
また、コントローラ150は、走行車体2が旋回した後に舵角センサ160が検出した舵角が直進状態を示す値ではない場合、あるいは、姿勢センサ175により検出した走行車体2の姿勢が、進行方向に対して斜め姿勢である場合は、直進サポートを禁止する。
本実施形態に係る苗移植機1は、上述してきた構成を有し、以下、苗移植機1が実行する直進サポートの一例について説明する。図6は、直進サポートの一例を示すフローチャート、図7は、画像解析による畦位置検出処理の一例を示すフローチャートである。
図6に示すように、直進サポート開始スイッチ83が操作されて直進サポートが開始されると、コントローラ150は、操縦座席28に作業者が着座していないか、換言すれば離席しているかを判定し(ステップS110)、操縦座席28に作業者が着座していると判定すれば(ステップS110:No)、この処理フローを終える。すなわち、この直進サポートにおける処理フローは、作業者が操縦座席28から離れているときに、苗移植機1が、圃場面が荒れている可能性が高い圃場周縁部F1に接近した場合、作業者の危険を未然に防止するために行うことを目的としているからである。
作業者が離席していると判定すれば(ステップS110:Yes)、コントローラ150は、GNSSユニット121の受信状態が良好であるか否かを判定する(ステップS120)。
GNSSユニット121の受信状態が良好であると判定した場合(ステップS120:Yes)、コントローラ150は、処理をステップS130に移し、衛星航法システムを用いた畦位置検出処理を行う。一方、GNSSユニット121の受信状態が良好ではないと判定した場合(ステップS120:No)、コントローラ150は、処理をステップS140に移し、カメラ135を用いた画像解析による畦位置検出処理を行う。
GNSSユニット121を用いた衛星航法システムによる畦位置検出処理は、コントローラ150の記憶部に予め記憶させた圃場情報と、GNSSユニット121により得た走行車体2の位置情報とを比較して圃場周縁部F1と自車両との間隔を導出する。
他方、画像解析による畦位置検出処理は、図7に示すように、コントローラ150は、カメラ135で撮像した画像データを取得して解析する。例えば、画像データを色の属性である色相、彩度、明度で分解し、その中で最も差が大きくなる属性を選択する。そして、同一のトーンを示す信号が連続する部分を検出する(ステップS210)。
次いで、コントローラ150は、取得画像が畔形状のパターンに合致するか否かを判定する(ステップS220)。すなわち、コントローラ150は、同一のトーンを示す信号が連続する部分と、予め記憶されている畦の画像データとを比較し、画像データにおいて、畦を示す直線パターンに対応したと判定すれば(ステップS220:Yes)、畦と認識する。そして、その後、コントローラ150は、畦位置を記憶部に記憶し(ステップS230)、本処理を終える。一方、取得画像が畔形状のパターンに合致しないと判定すれば(ステップS220:No)、この処理を終える。
このように、本実施形態によれば、圃場周縁部F1の検出を、第1の検出手段120としてのGNSSユニット121と第2の検出手段130であるカメラ135とで二重に行えるようにしている。したがって、GNSSユニット121の受信状態が良好ではない場合でも、カメラ135を用いて画像解析による畦位置検出処理を行うことができるため、安全性の担保能力がより向上する。
図6に戻り、ステップS150以降の処理について説明する。コントローラ150は、ステップS130あるいはステップS140の処理結果を受けて、畦位置となる圃場周縁部F1に、自車両が所定範囲を超えて接近しているか否かを判定する(ステップS150)。所定範囲としては、苗移植機1の型式などに応じて予め定められた値がコントローラ150の記憶部内に格納されている。なお、この所定範囲を示す値は、作業者によって適宜更新できるようしてもよい。
コントローラ150は、圃場周縁部F1と自車両とが所定範囲を超えた接近状態にはないと判定すると(ステップS150:No)、この処理フローを終える。一方、圃場周縁部F1と自車両とが所定範囲を超えて接近していると判定すると(ステップS150:Yes)、走行規制制御処理を行う(ステップS160)。
ここで、走行規制制御処理とは、例えば、予め定められた速度まで減速していく処理、あるいは、停止するまで減速していく処理などが含まれる。このように、圃場周縁部F1が接近すると、圃場面も荒れていると推定できるため、減速することで、圃場面の凹凸の影響を抑えながら自動操舵することが可能となる。その結果、圃場面の凹凸に起因する直進性の低下を抑制することができる。
ところで、図6で示したステップS140の処理(図7参照)について、その変形例として、カメラ135で撮像した圃場周縁部F1となる畦が、コンクリートで形成されているのか、土で形成されているのかを判定し、判定結果に応じて、苗移植機1の走行経路を補正する制御を行うことができる。図8は、画像解析による走行経路補正処理の一例を示すフローチャートである。
ここでは、図7のステップS230と図6のステップS150との間、すなわち、圃場周縁部F1に接近したか否かを判定する前に、畦が、コンクリートで形成されているのか、土で形成されているのかを判定するようにしている。なお、畦の性質の判定は、例えば、画像データを色の属性である色相、彩度、明度を用いて判定することができる。例えば、色相を利用する場合、色相が有ると判定されればコンクリート製であると判断することができる。また、色相は無いが、彩度と明度とが一定値以上あれば土の畔であると判断することができる。
図8に示すように、コントローラ150は、畦位置を記憶した後(ステップS610)、畦の種類がコンクリートか否かを判定する(ステップS620)。コンクリートであると判定すると(ステップS620:Yes)、コントローラ150は、畦までの間隔を、予め苗移植機1に設定されている規定値よりも1条分だけ広げるように走行経路を補正する(ステップS630)。
一方、コンクリートではないと判定すると(ステップS620:No)、コントローラ150は、畦の種類が直進性の低い土であるか否かを判定する(ステップS640)。ここでは、相対的に軟らかい土を直進性の低い土、相対的に硬い土を直進性の高い土としている。
直進性の低い土であると判定すると(ステップS640:Yes)、コントローラ150は、畦までの間隔を、予め苗移植機1に設定されている規定値よりも0.5条分だけ広げるように走行経路を補正する(ステップS650)。他方、直進性の低い土ではないと判定すると(ステップS640:No)、直進性は高いと判定できるため、特に補正はしない(ステップS660)。
自動直進走行を支援するシステムとして、図4に二点鎖線で囲んで記したように、無人飛行体であるドローン20を用いた自動直進走行支援システムを構築することができる。すなわち、自動直進走行支援システムは、上述した走行車体2、苗植付部50と、GNSSユニット121と、さらにカメラ136を搭載したドローン20と、コントローラ150とを備える構成とすることができる。コントローラ150は、GNSSユニット121による検出結果およびドローン20に搭載したカメラ136による画像解析に基づいて、操舵装置110および車速を制御して走行車体2の走行制御を行う。なお、この自動直進走行支援システムであれば、上述してきた第2の検出手段130としてのカメラ135は廃止しても構わない。
ドローン20を有する自動直進走行支援システムでは、ドローン20が備えるカメラ136による空撮して得た画像データを用いて、走行制御の一例として、苗移植機1に設定されている直進サポート時の走行経路を補正することができる。
例えば、コントローラ150は、ドローン20に搭載されたカメラ136による画像解析に基づいて検出された作物の植付条列と、走行車体2の自律走行経路との差分に基づいて、走行経路を補正することができる。なお、コントローラ150の記憶部には、予め、苗移植機1の種別毎に設定された基準となる苗条例パターンデータを記憶しておくものとする。なお、基準となる苗条例パターンデータとしては、昨年の作業実績を空撮して得たデータを記憶しておいてもよい。
図9は、ドローン20を用いた走行経路補正処理の一例を示すフローチャートである。また、図10Aおよび図10Bは、ドローン20を用いた直進サポートの一例を示すフローチャートである。
図9に示すように、コントローラ150は、先ず、ドローン20が備えるカメラ136が空撮して得た画像データを取得し、圃場面と苗の条列とを識別するために二色相化する(ステップS310)。ここで、空撮の開始は、少なくとも一列分の苗植付作業を終えたタイミングとするとよい。
次いで、コントローラ150は、二色相化した取得画像から得られる連続パターンが、予め記憶部に記憶された基準となる苗条例パターンデータと合致するまで撮像と二色相化を繰り返す(ステップS320)。
次いで、コントローラ150は、取得した画像データに基づいて、実際に作業した苗の条列を認識し、記憶部に記憶する(ステップS330)。
そして、コントローラ150は、現在実施している自律走行、すなわち自動直進走行による苗植付作業の結果と、予め記憶されている基準となる苗条例パターンデータとを比較する。すなわち、自律走行による条列と撮像画像による実条列との間が1.5条以上広いか否かを判定する(ステップS340)。該当する条列同士との間に1.5条以上のずれがある場合、すなわち、実際の条間隔が基準データよりも1.5条以上広い場合(ステップS340:Yes)、コントローラ150は、1.5条未満となるまで自律走行経路を補正する(ステップS350)。ステップS340の処理において、条列同士との間に1.5条以上のずれがない場合(ステップS340:No)、コントローラ150は、本処理を終了する。
また、上述の自動直進走行支援システムでは、ドローン20を安全装置として利用することもできる。すなわち、ドローン20が備えるカメラ136で苗移植機1を空撮し、その空撮データを苗移植機1のコントローラ150へ送信する。コントローラ150は、取得した空撮データを解析して、作業者が着座しているか否かを判定し、判定結果に基づいて操舵装置110を制御するのである。なお、ここでは、ドローン20が、カメラ136の撮像データを解析する機能を有する制御部を備えるものとして説明する。
すなわち、図10Aに示すように、ドローン20の制御部は、撮像した画像データを解析する(ステップS410)。例えば、操縦座席28を画像中心とする画像データを、例えば2色相化して、操縦座席28を中心とする部分を二色相した画像データを取得する。
そして、取得した画像データと、制御部は、予め記憶した着座パターンと合致するか否かを判定する(ステップS420)。そして、合致すると判定すると(ステップS420:Yes)、制御部は、作業者が起立している状態を示す起立フラグが立っているか否かを判定し(ステップS430)、フラグが立っている場合は(ステップS430:Yes)、解除信号を送信して(ステップS440)処理を終える一方、フラグが立っていない場合は(ステップS430:No)、そのまま処理を終える。
ステップS420の処理で、取得した画像データと着座パターンとが合致しないと判定した場合(ステップS420:No)、制御部は起立信号を苗移植機1のコントローラ150へ送信し(ステップS450)、次いで起立フラグを設定して(ステップS460)本処理を終える。上述した一連の処理は、ドローン20が飛行している間、制御部により繰り返し実行される。
次に、苗移植機1側の処理について説明すると、図10Bに示すように、コントローラ150は、作業者が起立していることを示す起立信号をドローン20から受信したか否かを判定し(ステップS510)、受信していない場合は(ステップS510:No)この処理を終える。
起立信号を受信したと判定した場合(ステップS510:Yes)、コントローラ150は、所定の走行規制処理を行う(ステップS520)。ここでの走行規制処理も、例えば、走行速度を減速したり、転舵速度を鈍くしたりする処理である。
次いで、コントローラ150は、ドローン20から解除信号を受信したか否かを判定し(ステップS530)、受信していないと判定した場合は(ステップS530:No)この処理を終え、受信したと判定した場合は(ステップS530:Yes)、規制解除処理を行って(ステップS540)、処理を終える。
このように、本実施形態に係る自動直進走行支援システムによれば、作業者が着座していないと判定した場合は、走行速度を減速したり、転舵速度を鈍くして急ハンドルのような動きとならないようにしたりすることができるため、作業者が落車したりするおそれを未然に防止することができる。
なお、上述した処理では、ドローン20が備える制御部によって作業者が着座しているか否かを判定し、着座していないと判定すると起立信号を苗移植機1のコントローラ150に送信するようにした。しかし、ドローン20は、苗移植機1の操縦座席28を画像の中心とする空撮データをコントローラ150へ送信するのみとし、空撮データを取得したコントローラ150によって、上述した一連の制御を行うこともできる。
(第1の変形例)
ところで、上述してきた苗移植機1が備えるGNSSユニット121は、ローリングセンサ(不図示)を備えている。かかるローリングセンサを利用して、機体のローリング(揺れ)の程度が一定のレベルを超えると、コントローラ150が走行制御を行うようにすることもできる。
例えば、圃場面の荒れによって、前輪4の直上方位置に配置されたGNSSユニット121のローリングセンサが機体の揺れを検出すると、その揺れが一定レベル以上である場合、検知した位置を後輪5が通過するまで走行速度を減速する。このようにすることで、機体の揺れに起因する苗の植付不良などの発生を可及的に抑えることができる。
なお、コントローラ150による機体の揺れ(ローリング)のレベル判定は、図示しないが、前輪4のサスペンションの挙動をストロークセンサで検出し、検出結果の変化率が一定値以上である場合に、揺れが一定レベル以上にあると判定することもできる。
(第2の変形例)
ところで、上述した苗移植機1の走行車体2を、四輪操舵車とすることができる。図11は、変形例に係る作業車両の走行部の構成を示す概略説明図である。また、図12は、苗移植機1の走行部を4WS(四輪操舵)に切り替えた状態の一例を示す概略説明図である。
図11に示すように、四輪操舵とする構成を簡易的に実現するために、ここでは、前輪ファイナルケース13と後輪ファイナルケース22のケース本体に連結孔を設け、これらの連結孔同士をロッド600で着脱自在に連結した構成としている。すなわち、前輪ファイナルケース13におけるキングピン4aの外側位置および内側位置にそれぞれ前側連結孔(不図示)を設け、後輪ファイナルケース22におけるキングピン5aの内側位置には後側連結孔(不図示)を設ける。
そして、図11(a)に示すように、前輪ファイナルケース13の外側と後輪ファイナルケース22とを連結した場合は、逆位相の4WSとなる。すなわち、ハンドル32(図2参照)を時計回り(右回り)に回せば、前輪4は矢印4Rで示すように時計回りに回動し、後輪5は矢印5Rで示すように反時計回りに回動する。
すなわち、苗移植機1を逆位相の4WSとすれば、図12に示すように、圃場Fを走行している場合、圃場周縁部F1で旋回する際に旋回半径が小さくなって、切り返したりすることなく旋回できるため旋回経路が短くなる。しかも、旋回時にスリップし難く、枕地を荒らし難い。また、旋回半径が小さくなる分、苗移植機1のプラットホームを拡げることもできるため、苗の積載能力も向上する。
また、図11(b)に示すように、ロッド600を前輪ファイナルケース13から外して走行車体のフレームに連結すると、後輪5へは操舵力が伝達されないため、通常の2WSとなる。例えば、路上走行などにおいて比較的に高速走行する場合、2WSに切り替えるとよい。
また、図11(c)に示すように、前輪ファイナルケース13の内側と後輪ファイナルケース22とを連結した場合は、同位相の4WSとなる。すなわち、ハンドル32(図2参照)を時計回り(右回り)に回せば、前輪4は矢印4Rで示すように時計回りに回動し、後輪5も矢印5Rで示すように時計回りに回動する。この場合は、小回りが利く苗移植機1として畦道などを走行する際に適しており、また、後輪5を含めて車輪がスリップしにくくなる。
このように、上述した構成の苗移植機1では、逆位相の4WS、同位相の4WS、さらには2WSへと作業者によって簡単に切り替えることが可能となる。なお、4WSとした場合、後輪5についても転舵輪となる。
(第3の変形例)
また、苗移植機1の変形例として、図13〜図15に示すように、予備苗載置部400を、苗載台410が複数段(ここでは3段)に積層した状態から列状に展開した状態まで変位自在に構成するとともに、予備苗載置部400に空箱入具420を取付けることができる。
図13は、変形例に係る苗移植機1が備える予備苗載置部400を正面視で示す説明図、図14は、同上の予備苗載置部400を側面視で示す説明図である。また、図15は、同上の予備苗載置部400に設けた空箱入具420の説明図である。
図13に示すように、苗移植機1は、予備苗載置部400の外側枠に、空箱入具420の基部に設けた軸体を揺動自在に取付け、起立状態の際には苗取板800を収容可能にするとともに、倒伏状態の際には、苗の空箱850を段積み可能に構成している。ここでは、空箱入具420は、中段に位置する苗載台410の外枠に取付けられている。
空箱入具420を予備苗載置部400の外側枠に設けたことにより、ハンドル32や計器パネル33を備える操縦部30と予備苗載置部400との間の作業通路Qを形成する空間を広く使えるとともに、機体前方からの乗降も可能となって作業性が向上する。
また、空箱入具420の揺動は、予備苗載置部400の展開動作と連動させることができる。すなわち、空箱入具420は、図14に示すように、3段の苗載台410が積層された状態においては、上縁部に形成された係止爪421を、上段に位置する苗載台410に設けたストッパ422のフック部分に係止させて起立状態を維持している(図13参照)。
かかる状態から、作業者が上段に位置する苗載台410を図示しない把持部をもって前方へスライドさせると(図中の二点鎖線を参照)、ストッパ422も前方へ移動して、空箱入具420の係止爪421が自由になる。そのため、空箱入具420は外側へ倒伏し、最終的には、図15に示すように、空箱850が載置できる略水平状態となる。図示するように、空箱入具420を中央(積層状態では中段)に位置する苗載台410に取付けたので、操縦部30にいる作業者からも、機外にいる補助作業者からも手が届きやすく、使い勝手が向上する。
なお、ここでは、空箱入具420は、起立状態では外側に僅かに傾斜した状態になるようにして、自重により倒伏するようにしたが、苗載台410に取付けた基端部の軸体に、倒伏方向へ付勢するテンションバネなどを設けてもよい。
ところで、図13〜図15に示したように、空箱入具420は、アルミ材、ステンレス材、あるいは鋼材などの線条体を組んで可及的に軽量化を図って構成するとよい。また、空箱入具420を揺動自在に取付ける構成は、上述した例の他、適宜設計可能である。
上述した実施形態から以下の苗移植機1が実現する。
(1)操舵装置110により操舵される転舵輪4と、エンジン10とを備えて圃場Fを走行する走行車体2と、走行車体2の後部に昇降自在に連結される苗植付部50と、圃場Fの周縁部F1を検出する検出手段と、検出手段により検出した圃場周縁部F1と自車両との距離に基づいて、操舵装置110およびエンジン10からの動力を制御して走行車体2の走行制御を行うコントローラ150とを備える苗移植機1。
(2)上記(1)において、コントローラ150は、検出手段により検出した圃場周縁部F1と自車両との距離が所定距離以下であると判定した場合、一定速度まで減速させる苗移植機1。
(3)上記(1)または(2)において、走行車体2に設けられた操縦座席28に作業者が着座しているか否かを検出する着座センサ190を備え、コントローラ150は、着座センサ190により、作業者が操縦座席28へ着座していないことを検出した場合、走行車体2を停止する苗移植機1。
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、検出手段は、衛星航法システムを利用可能なGNSSユニット121を備える第1の検出手段120と、走行車体2から圃場周縁部F1までの距離を検出する第2の検出手段130とを備え、コントローラ150は、第1の検出手段120におけるGNSSユニット121による衛星からの受信状態が一定レベルを満たさない場合、第2の検出手段130を用いて取得した検出結果に基づいて車速を制御する苗移植機1。
(5)上記(4)において、第2の検出手段130は、走行車体2に設けたカメラ135である苗移植機1。
また、上述してきた実施形態から以下の作業車両の自動直進走行支援システムが実現する。
(6)操舵装置110により操舵される転舵輪4と、エンジン10とを備えて圃場Fを走行する走行車体2と、走行車体2の後部に昇降自在に連結される苗植付部50と、圃場周縁部F1を検出する検出手段と、カメラ136を搭載したドローン20と、検出手段による検出結果およびドローン20に搭載されたカメラ136による画像解析に基づいて、操舵装置110およびエンジン10からの動力を制御して走行車体2の走行制御を行うコントローラ150とを備える作業車両の自動直進走行支援システム。
(7)上記(6)において、コントローラ150は、ドローン20に搭載されたカメラ136による画像解析に基づいて検出された作物の植付条列と、走行車体2の自律走行経路との差分に基づいて、走行経路を補正する作業車両の自動直進走行支援システム。
上述してきた実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、表示要素などのスペック(構造、種類、方向、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質など)は、適宜に変更して実施することができる。