JP2019082717A - 眼鏡レンズおよび眼鏡 - Google Patents
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Abstract
Description
しかるに、レンズ基材の両表面上に青色光を選択的に強く反射する性質を有する多層膜を設けると、眼鏡レンズの装用感が低下する傾向がある。詳しくは、かかる眼鏡レンズを備えた眼鏡を装用した装用者が、ゴーストと呼ばれる二重像を視認しやすくなるため、装用感が低下する傾向がある。
青色光吸収性化合物を含むレンズ基材と、
膜厚1.0〜10.0nmの金属層を含む多層膜と、
を有し、
青色光カット率が35.0%以上であり、
物体側から測定して求められる物体側表面における400〜500nmの波長域での平均反射率が15.00〜25.00%の範囲であり、かつ
物体側から測定して求められる眼球側表面における400〜500nmの波長域での平均反射率が2.00%未満である、眼鏡レンズ、
に関する。
この35.0%以上の青色光カット率が実現できることには、
(i)レンズ基材が青色光吸収性化合物を含むこと、
(ii)物体側から測定して求められる物体側表面における400〜500nmの波長域での平均反射率が15.00〜25.00%の範囲であること、および
(iii)膜厚1.0〜10.0nmの金属層を含む多層膜を有すること、
が主に寄与し得る。(iii)に関しては、金属は、可視領域の光を吸収する性質を有するため、青色光も吸収することができる。このことが、眼鏡レンズの青色光カット率を高めることに寄与し得る。また、金属層を厚膜にすると眼鏡レンズの透過率(例えば視感透過率)を大きく低下させるおそれがあるが、膜厚1.0〜10.0nmの金属層であれば、眼鏡レンズの透過率が大きく低下することを防ぐことができる。
また、レンズ基材の両表面上に青色光を選択的に強く反射する性質を有する多層膜を設けた眼鏡レンズにおけるゴースト(二重像)の主な発生原因は、眼鏡レンズの物体側表面で反射されずに眼鏡レンズ内部に入射した青色光が、眼鏡レンズ内部で、青色光を強く反射する性質を有する多層膜が設けられた両表面の間で多重反射することにあると考えられる。これに対し、上記眼鏡レンズは、上記(i)〜(iii)により、レンズ基材の眼球側表面において青色光を選択的に強く反射することを要さずに35.0%以上の青色光カット率を実現できる。これにより、眼鏡レンズ内部での青色光の多重反射により結像するゴースト(二重像)が視認される強度を下げることができるか、または視認されないほど強度を下げることが可能になる。
本発明の一態様にかかる眼鏡レンズは、青色光吸収性化合物を含むレンズ基材と膜厚1.0〜10.0nmの金属層を含む多層膜とを有し、青色光カット率が35.0%以上であり、物体側から測定して求められる物体側表面における400〜500nmの波長域での平均反射率が15.00〜25.00%の範囲であり、かつ物体側から測定して求められる眼球側表面における400〜500nmの波長域での平均反射率が2.00%未満である眼鏡レンズである。
(式1)
青色光カット率Cb=1−τb
また、後述の眼球側から測定して求められる眼球側表面における青色光反射率は、眼球側から直入射する光に対する眼球側表面における平均反射率であって、眼鏡レンズの眼球側から分光光度計を用いて波長400〜500nmの波長域で眼球側表面において測定される反射率の算術平均である。後述の眼球側から測定して求められる物体側表面における青色光反射率は、眼球側から直入射する光(即ち入射角度が0°)に対する物体側表面における平均反射率であって、眼鏡レンズの眼球側から分光光度計を用いて波長400〜500nmの波長域で物体側表面において測定される反射率の算術平均である。
レンズ反射率測定装置(例えばオリンパス社製USPM−RU)による測定において、焦点位置を測定対象面(物体側表面または眼球側表面)に合わせることにより、同じ方向から入射する光に対する物体側表面における反射率および眼球側表面における反射率を、それぞれ測定することができる。また、測定にあたり、測定波長間隔(ピッチ)は、任意に設定可能である。例えば、1〜5nmの範囲で設定することができる。
上記眼鏡レンズの青色光カット率は、35.0%以上である。青色光カット率が35.0%以上の眼鏡レンズによれば、この眼鏡レンズを備えた眼鏡を装用者が装用することにより、装用者の眼に入射する青色光の光量を低減し、装用者の眼への青色光による負担を軽減することができる。青色光カット率は、36.0%以上であることが好ましく、37.0%以上であることがより好ましく、38.0%以上であることが更に好ましい。また、青色光カット率は、例えば80.0%以下、60.0%以下、50.0%以下または45.0%以下であることができる。ただし、装用者の眼に入射する青色光の光量を低減する観点からは青色光カット率は高いほど好ましいため、上記に例示された上限を超えてもよい。
上記眼鏡レンズにおいて、眼鏡レンズの物体側から測定して求められる眼球側表面における青色光反射率は、2.00%未満である。先に記載したように、レンズ基材の両表面上に青色光を選択的に強く反射する性質を有する多層膜を設けると、眼鏡レンズの装用感は低下してしまう。これに対し、上記眼鏡レンズは、上記(i)〜(iii)により、眼鏡レンズの眼球側表面における青色光反射率を高くすることを要さずに、35.0%以上の青色光カット率を実現することができる。これにより、ゴースト(二重像)の発生により眼鏡レンズの装用感が低下することを抑制することができる。眼鏡レンズの物体側から測定して求められる眼球側表面における青色光反射率は、ゴーストの発生をより一層抑制する観点からは、1.50%以下であることが好ましく、1.00%以下であることが更に好ましい。また、眼鏡レンズの物体側から測定して求められる眼球側表面における青色光反射率は、例えば0.10%以上または0.20%以上であることができる。ただし、ゴーストの発生を抑制する観点からは、眼鏡レンズの物体側から測定して求められる眼球側表面における青色光反射率が低いことが好ましいため、上記に例示した下限を下回ってもよい。
なお眼球側表面における青色光反射率を、眼球側とは逆側の物体側から測定する理由は、物体側から入射した光が眼鏡レンズ内部で多重反射することに対しては、眼球側から測定される青色光反射率より物体側から測定される青色光反射率が、より大きく影響すると考えられるためである。
上記眼鏡レンズに含まれるレンズ基材は、青色光吸収性化合物を含むものである限り、特に限定されない。レンズ基材は、プラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材であることができる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。レンズ基材としては、軽量で割れ難く、かつ青色光吸収性化合物の導入が容易であるという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。硬化性組成物は、重合性組成物ともいうことができる。なおレンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.60〜1.75程度であることができる。ただしレンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。本発明および本明細書において、屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
上記レンズ基材は、青色光吸収性化合物を含む。このことが、上記眼鏡レンズに35.0%以上の青色光カット率をもたらすことができる理由の1つである。青色光吸収性化合物は、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物、インドール化合物等の青色光の波長域に吸収を有する各種化合物を挙げることができ、好ましい青色光吸収性化合物としてはベンゾトリアゾール化合物およびインドール化合物を挙げることができ、より好ましい青色光吸収性化合物としてはベンゾトリアゾール化合物を挙げることができる。ベンゾトリアゾール化合物としては、下記式(1)で表されるベンゾトリアゾール化合物が好ましい。
Xの例としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子、スルホ基、カルボキシ基、ニトリル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基が挙げられ、これらの中でも、塩素原子、臭素原子、フッ素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
アルキル基およびアルコキシ基は、分岐であっても直鎖であってもよい。アルキル基およびアルコキシ基の中でも、アルキル基が好ましい。
式(1)において、R2の置換位置は、ベンゾトリアゾリル基の置換位置を基準として、3位,4位または5位が好ましい。
R3で表される2価の炭化水素基の例としては、メタンジイル基、エタンジイル基、プロパンジイル基、ベンゼンジイル基、トルエンジイル基等が挙げられ、これらの中でもメタンジイル基が好ましい。
(金属層入り多層膜)
上記眼鏡レンズは、膜厚1.0〜10.0nmの金属層を含む多層膜を有する。
金属層入り多層膜は、眼鏡レンズの物体側表面上に位置することができ、眼球側表面上に位置することもでき、両表面上に位置することもできる。また、一態様では、眼鏡レンズの眼球側表面および物体側表面の一方の表面上に金属層入り多層膜が位置し、他方の表面上に他の多層膜が位置することができる。他の一態様では、眼鏡レンズの眼球側表面および物体側表面の一方の表面上に金属層入り多層膜が位置し、他方の表面上には金属層入り多層膜も他の多層膜も位置しないこともあり得る。一態様では、眼鏡レンズの物体側から測定して求められる眼球側表面における青色光反射率を2.00%未満に制御することの容易性の観点からは、金属層入り多層膜は、眼鏡レンズの少なくとも眼球側表面上に位置することが好ましく、眼球側表面上のみに位置することがより好ましい。金属層入り多層膜および他の多層膜は、いずれもレンズ基材の表面上に直接位置してもよく、一層以上の他の層を介して間接的にレンズ基材の表面上に位置してもよい。レンズ基材と多層膜との間に形成され得る層としては、例えば、偏光層、調光層、ハードコート層等を挙げることができる。ハードコート層を設けることにより眼鏡レンズの耐久性(強度)を高めることができる。ハードコート層は、例えば硬化性組成物を硬化した硬化層であることができる。ハードコート層の詳細については、例えば特開2012−128135号公報の段落0025〜0028、0030を参照できる。また、レンズ基材と上記多層膜との間には、密着性向上のためのプライマー層を形成してもよい。プライマー層の詳細については、例えば特開2012−128135号公報の段落0029〜0030を参照できる。
金属層入り多層膜の層構成としては、例えば、レンズ基材側からレンズ最表面側に向かって、
第一層(低屈折率層)/第二層(高屈折率層)/第三層(低屈折率層)/第四層(高屈折率層)/第五層(低屈折率層)/第六層(高屈折率層)/第七層(金属層)/第八層(低屈折率層)、
等を挙げることができる。なお、上記の層構成の例示において、「/」との表記は、「/」の左に記載されている層と右に記載されている層が隣接する場合と、「/」の左に記載されている層と右に記載されている層の間に後述する導電性酸化物層が存在す場合とを包含する意味で用いられている。
導電性酸化物層としては、眼鏡レンズの透明性の観点から、膜厚10.0nm以下の酸化インジウムスズ(tin−doped indium oxide;ITO)層、膜厚10.0nm以下のスズ酸化物層、および膜厚10.0nm以下のチタン酸化物層が好ましい。酸化インジウムスズ(ITO)層とは、ITOを主成分として含む層である。この点は、スズ酸化物層、チタン酸化物層についても同様である。金属層入り多層膜および他の多層膜は、導電性酸化物層を含むことにより、眼鏡レンズが帯電し塵や埃が付着することを防ぐことができる。なお本発明および本明細書において、金属層入り多層膜および他の多層膜に含まれる「金属層」、「高屈折率層」および「低屈折率層」としては、膜厚10.0nm以下の酸化インジウムスズ(ITO)層、膜厚10.0nm以下のスズ酸化物層、および膜厚10.0nm以下のチタン酸化物層は考慮されないものとする。即ち、これらの層の一層以上が金属層入り多層膜または他の多層膜に含まれる場合であっても、これらの層は「金属層」、「高屈折率層」または「低屈折率層」とは見做さないものとする。膜厚10.0nm以下の上記の導電性酸化物層の膜厚は、例えば0.1nm以上であることができる。
上記眼鏡レンズが、物体側表面および眼球側表面の一方の表面上に金属層入り多層膜を有し、他方の表面上に他の多層膜を有する場合、他の多層膜としては、青色光を強く反射する性質を有する多層膜、眼鏡レンズに反射防止膜として通常設けられる多層膜等を挙げることができる。反射防止膜としては、可視光(380〜780nmの波長域の光)に対して反射防止効果を発揮する多層膜を挙げることができる。他の多層膜は、例えば無機多層膜であることができる。青色光を強く反射する性質を有する多層膜および反射防止膜として機能する多層膜の構成は公知である。例えば、他の多層膜としては、高屈折率層と低屈折率層が交互に合計3〜10層積層された多層膜を挙げることができる。高屈折率層および低屈折率層の詳細は、先に記載した通りである。例えば、レンズ基材の眼球側表面上に金属層入り多層膜を設ける場合には、物体側表面上に青色光を強く反射する性質を有する多層膜を設けることにより、眼鏡レンズの物体側から測定して求められる物体側表面における青色光反射率を15.0〜25.0%の範囲とすることができる。そのような多層膜の層構成としては、例えば、
第一層(低屈折率層)/第二層(高屈折率層)/第三層(低屈折率層)/第四層(高屈折率層)/第五層(低屈折率層)/第六層(高屈折率層)/第七層(低屈折率層)の順に積層された構成;
第一層(高屈折率層)/第二層(低屈折率層)/第三層(高屈折率層)/第四層(低屈折率層)/第五層(高屈折率層)/第六層(低屈折率層)の順に積層された構成;
第一層(低屈折率層)/第二層(高屈折率層)/第三層(低屈折率層)/第四層(高屈折率層)/第五層(低屈折率層)の順に積層された構成;
等を挙げることができる。
また、他の多層膜に含まれる低屈折率層と高屈折率層の組み合わせの好ましい一例としては、ケイ素酸化物を主成分とする膜(低屈折率層)とジルコニウム酸化物を主成分とする膜(高屈折率層)との組み合わせを挙げることができる。また、ケイ素酸化物を主成分とする膜(低屈折率層)とニオブ酸化物を主成分とする膜(高屈折率層)との組み合わせを挙げることもできる。上記組み合わせの二層の膜が隣接する積層構造を少なくとも1つ含む多層膜を、他の多層膜の好ましい一例として例示することができる。
(視感透過率)
上記眼鏡レンズは、一態様では、高い視感透過率を有する透明性に優れた眼鏡レンズであることができる。上記眼鏡レンズの視感透過率は、例えば35.0%以上であり、40.0%以上であることが好ましく、45.0%以上であることがより好ましく、50.0%以上であることが更に好ましく、55.0%以上であることが一層好ましく、60.0%以上であることがより一層好ましく、65.0%以上であることが更に一層好ましく、70.0%以上であることが更により一層好ましく、75.0%以上であることがなお一層好ましく、80.0%以上であることがなお更に一層好ましく、85.0%以上であることがなお更により一層好ましい。また、上記眼鏡レンズの視感透過率は、例えば95.0%以下であり、90.0%以下であることもできる。金属層入り多層膜に含まれる金属層を薄膜(詳しくは膜厚1.0〜10.0nm)とすることにより、視感透過率を大きく下げることなく先に記載した青色光カット率を実現することができる。
眼鏡レンズの外観品質向上の観点からは、眼鏡レンズの物体側表面において測定される視感反射率は低いことが好ましい。また、眼鏡レンズの装用感の更なる向上の観点からは、眼鏡レンズの眼球側表面において測定される視感反射率は低いことが好ましい。外観品質向上の観点からは、眼鏡レンズの物体側から測定して求められる物体側表面における視感反射率は、2.00%以下であることが好ましく、1.80%以下であることがより好ましく、1.50%以下であることが更に好ましく、1.30%以下であることが一層好ましい。一方、装用感の更なる向上の観点からは、眼鏡レンズの眼球側から測定して求められる眼球側表面における視感反射率は、2.00%以下であることが好ましく、1.80%以下であることがより好ましく、1.50%以下であることが更に好ましく、1.30%以下であることが一層好ましい。
眼鏡レンズの物体側から測定して求められる物体側表面における視感反射率および眼鏡レンズの眼球側から測定して求められる眼球側表面における視感反射率は、それぞれ、例えば0.10%以上、0.20%以上、0.30%以上、0.40%以上、または0.50%以上であることができるが、上記の下限は例示であって、これらに限定されるものではない。レンズ基材の物体側表面上および/または眼球側表面上に設けられる金属層入り多層膜または他の多層膜の膜設計によって、上記視感反射率を実現することができる。膜設計は、公知の方法による光学的シミュレーションによって行うことができる。
上記眼鏡レンズは、35.0%以上の青色光カット率を示すため、眼鏡装用者の眼に入射する青色光の光量を低減することができる。この点に関して、レンズ基材の両表面上に青色光を選択的に強く反射する性質を有する多層膜を設けると、眼鏡レンズの青色光カット率を高めることはできるものの、眼鏡装用者の視界が黄色み(以下、単に「黄色み」とも記載する。)を帯びる傾向がある。これは、可視領域の様々な波長の光の中の青色光がカットされることにより、相対的に緑色光と赤色光の割合が高くなる結果、赤色と緑色の混色の黄色みが視認されやすくなるためである。これに対し、本発明の一態様にかかる眼鏡レンズは、35.0%以上の青色光カット率を示しつつ、黄色みの低減も可能である。金属は、可視領域の光を吸収する性質を有する。そのため、上記眼鏡レンズに含まれる金属層入り多層膜は、金属層により、青色光のみならず緑色光や赤色光等も吸収することができる。このことが、35.0%以上の青色光カット率を実現しつつ、眼鏡装用者の視界が黄色みを帯びることを抑制することに寄与すると考えられる。好ましくは、上記眼鏡レンズは、27.0%以下のYI値を示すことができる。YI値は、26.0%以下であることがより好ましく、25.0%以下であることが更に好ましい。また、YI値は、例えば15.0%以上または20.0%以上であることができるが、YI値が低いほど黄色みが低減され好ましいため、上記の例示した下限を上回ってもよい。
上記眼鏡レンズは、眼鏡レンズの物体側から測定して求められる物体側表面における青色光反射率が15.0〜25.0%であり、物体側表面において青色光を強く反射する性質を有する。このような眼鏡レンズの物体側から測定して求められる物体側表面における主波長は、青色光の波長域である400.0〜500.0nmの範囲にあることができる。
一方、眼鏡レンズの外観品質向上の観点からは、眼鏡レンズの両表面において測定される主波長が大きく異ならないことが好ましい。この点から、上記眼鏡レンズの物体側から測定して求められる眼球側表面における主波長も、400.0〜500.0nmの範囲にあることが好ましい。
また、眼鏡レンズの装用感をより一層向上する観点からは、眼鏡レンズの眼球側から測定して求められる両表面における主波長が大きく異ならないことが好ましい。この点からは、上記眼鏡レンズの眼球側から測定して求められる物体側表面における主波長および眼球側から測定して求められる眼球側表面における主波長も、400.0〜500.0nmの範囲にあることが好ましい。
上記の各主波長は、例えば410.0nm以上または420.0nm以上であることができ、また例えば490.0nm以下または485.0nm以下であることができる。
主波長に関しては、金属層がレンズ基材に近い位置にある場合とレンズ基材から遠い位置にある場合とを対比すると、金属層がレンズ基材からより遠い位置にある場合に、主波長がより短波長側にある傾向がある。
本発明の更なる態様は、上記の本発明の一態様にかかる眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡レンズは、かかる眼鏡レンズを備えることにより、眼鏡装用者の眼への青色光による負担を軽減することができる。また、上記眼鏡に備えられた眼鏡レンズは、眼鏡レンズ内部での青色光の多重反射により結像するゴースト(二重像)が眼鏡装用者に視認される強度を下げることができるか、または視認されないほど強度を下げることができる。フレーム等の眼鏡の構成については、特に制限はなく、公知技術を適用することができる。
(1)青色光吸収性化合物を含むレンズ基材(レンズ基材A)の作製
ビス−(β−エピチオプロピル)スルフィド100.00質量部、青色光吸収性化合物である2−(3−tertブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール0.40質量部を攪拌混合した後、触媒としてテトラ−n−ブチルホスホニュウムブロマイド0.05質量部を添加し、10mmHgの減圧下で3分間攪拌混合し、レンズ用モノマー組成物(硬化性組成物)を調製した。次いで、このレンズ用モノマー組成物を、予め準備したガラス製モールドと樹脂製ガスケットから構成されるレンズ成型用鋳型(0.00D、肉厚2.0mmに設定)の中に注入し、炉内温度20℃〜100℃の電気炉中で20時間かけて重合を行った。重合終了後、ガスケットおよびモールドを取り外した後、110℃で1時間熱処理してプラスチックレンズ(レンズ基材A)を得た。得られたレンズ基材Aは、物体側表面が凸面、眼球側表面が凹面、屈折率は1.60であった。
レンズ基材Aの両表面を光学的に加工(研磨)して光学面とした後に、両表面上にそれぞれ膜厚3000nmのハードコート層(硬化性組成物を硬化した硬化層)を形成した。
物体側のハードコート層表面上および眼球側のハードコート層表面上に、それぞれ、アシストガスとして酸素ガスおよび窒素ガスを用いて、イオンアシスト蒸着により表1(表1−1、表1−2)に示す構成の多層蒸着膜を成膜した。
こうして、眼球側に金属層(クロム(金属Cr)層)入り多層膜を有し、物体側に他の多層膜(金属層を含まない)を有する実施例1の眼鏡レンズを得た。
本実施例では、凸面側、凹面側とも、多層蒸着膜は、レンズ基材側(ハードコート層側)から眼鏡レンズの表面側に向かって、1層、2層・・・の順に積層し、眼鏡レンズ表面側の最外層が表1中の最下欄に記載の層になるように形成した。また、本実施例では、不可避的に混入する可能性のある不純物を除けば表1に示す酸化物またはクロム(金属Cr)からなる蒸着源(成膜材料)を使用して成膜を行った。したがって、ここで形成された金属層は、クロム層(金属Cr層)である。各酸化物の屈折率および各層の膜厚を表1に示す。これらの点は、後述の実施例および比較例についても同様である。
レンズ基材Aの両表面を光学的に加工(研磨)して光学面とした後に、両表面上にそれぞれ膜厚3000nmのハードコート層(硬化性組成物を硬化した硬化層)を形成した。
物体側のハードコート層表面上および眼球側のハードコート層表面上に、それぞれ、アシストガスとして酸素ガスおよび窒素ガスを用いて、イオンアシスト蒸着により表2(表2−1、表2−2)に示す構成の多層蒸着膜を成膜した。
こうして、眼球側に金属層(クロム(金属Cr)層)入り多層膜を有し、物体側に他の多層膜(金属層を含まない)を有する実施例2の眼鏡レンズを得た。
レンズ基材Aの両表面を光学的に加工(研磨)して光学面とした後に、両表面上にそれぞれ膜厚3000nmのハードコート層(硬化性組成物を硬化した硬化層)を形成した。
物体側のハードコート層表面上および眼球側のハードコート層表面上に、それぞれ、アシストガスとして酸素ガスおよび窒素ガスを用いて、イオンアシスト蒸着により表3(表3−1、表3−2)に示す構成の多層蒸着膜を成膜した。
こうして、眼球側に金属層(クロム(金属Cr)層)入り多層膜を有し、物体側に他の多層膜(金属層を含まない)を有する実施例3の眼鏡レンズを得た。
レンズ基材Aの両表面を光学的に加工(研磨)して光学面とした後に、両表面上にそれぞれ膜厚3000nmのハードコート層(硬化性組成物を硬化した硬化層)を形成した。
物体側のハードコート層表面上および眼球側のハードコート層表面上に、それぞれ、アシストガスとして酸素ガスおよび窒素ガスを用いて、イオンアシスト蒸着により表4(表4−1、表4−2)に示す構成の多層蒸着膜を成膜した。
こうして、眼球側に金属層(ニッケル(金属Ni)層)入り多層膜を有し、物体側に他の多層膜(金属層を含まない)を有する実施例4の眼鏡レンズを得た。
レンズ基材Aの両表面を光学的に加工(研磨)して光学面とした後に、両表面上にそれぞれ膜厚3000nmのハードコート層(硬化性組成物を硬化した硬化層)を形成した。
物体側のハードコート層表面上および眼球側のハードコート層表面上に、それぞれ、アシストガスとして酸素ガスおよび窒素ガスを用いて、イオンアシスト蒸着により表5(表5−1、表5−2)に示す構成の多層蒸着膜を成膜した。
こうして、眼球側に金属層(銀(金属Ag)層)入り多層膜を有し、物体側に他の多層膜(金属層を含まない)を有する実施例5の眼鏡レンズを得た。
レンズ基材Aの両表面を光学的に加工(研磨)して光学面とした後に、両表面上にそれぞれ膜厚3000nmのハードコート層(硬化性組成物を硬化した硬化層)を形成した。
物体側のハードコート層表面上および眼球側のハードコート層表面上に、それぞれ、アシストガスとして酸素ガスおよび窒素ガスを用いて、イオンアシスト蒸着により表6(表6−1、表6−2)に示す構成の多層蒸着膜を成膜した。
こうして、眼球側に金属層(クロム(金属Cr)層)入り多層膜を有し、物体側に他の多層膜(金属層を含まない)を有する実施例6の眼鏡レンズを得た。
レンズ基材Aの両表面を光学的に加工(研磨)して光学面とした後に、両表面上にそれぞれ膜厚3000nmのハードコート層(硬化性組成物を硬化した硬化層)を形成した。
物体側のハードコート層表面上および眼球側のハードコート層表面上に、それぞれ、アシストガスとして酸素ガスおよび窒素ガスを用いて、イオンアシスト蒸着により表7(表7−1、表7−2)に示す構成の多層蒸着膜を成膜した。
こうして、眼球側に金属層(クロム(金属Cr)層)入り多層膜を有し、物体側に他の多層膜(金属層を含まない)を有する実施例7の眼鏡レンズを得た。
レンズ基材Aの両表面を光学的に加工(研磨)して光学面とした後に、両表面上にそれぞれ膜厚3000nmのハードコート層(硬化性組成物を硬化した硬化層)を形成した。
物体側のハードコート層表面上および眼球側のハードコート層表面上に、それぞれ、アシストガスとして酸素ガスおよび窒素ガスを用いて、イオンアシスト蒸着により表8に示す構成の多層蒸着膜を成膜した。
こうして、物体側および眼球側に他の多層膜(金属層を含まない)を有する比較例1の眼鏡レンズを得た。
レンズ基材Aの両表面を光学的に加工(研磨)して光学面とした後に、両表面上にそれぞれ膜厚3000nmのハードコート層(硬化性組成物を硬化した硬化層)を形成した。
物体側のハードコート層表面上および眼球側のハードコート層表面上に、それぞれ、アシストガスとして酸素ガスおよび窒素ガスを用いて、イオンアシスト蒸着により表9に示す構成の多層蒸着膜を成膜した。
こうして、物体側および眼球側に他の多層膜(金属層を含まない)を有する比較例2の眼鏡レンズを得た。
レンズ基材Aの両表面を光学的に加工(研磨)して光学面とした後に、両表面上にそれぞれ膜厚3000nmのハードコート層(硬化性組成物を硬化した硬化層)を形成した。
物体側のハードコート層表面上および眼球側のハードコート層表面上に、それぞれ、アシストガスとして酸素ガスおよび窒素ガスを用いて、イオンアシスト蒸着により表10(表10−1、表10−2)に示す構成の多層蒸着膜を成膜した。
こうして、眼球側にクロム層入り多層膜を有し、物体側に他の多層膜(クロム層を含まない)を有する比較例3の眼鏡レンズを得た。
比較例3の眼鏡レンズの眼球側に位置する金属層入り多層膜は、2層目に金属層(クロム層)を有する点で、実施例2の眼鏡レンズの眼球側に位置するクロム層入り多層膜(7層目にクロム層を有する)と相違する。
<1.眼鏡レンズの青色光カット率、視感透過率>
実施例および比較例の各眼鏡レンズの直入射透過分光特性を、日立製作所製分光光度計U4100を用いて、眼鏡レンズの物体側の表面側(凸面側)から物体側表面の光学中心に光を入射させて波長380nmから780nmまで1nmピッチで測定した。
測定結果を用いて、先に記載した方法により、青色光カット率および視感透過率を求めた。
実施例および比較例の各眼鏡レンズの物体側から、物体側表面(凸面側)および眼球側表面(凹面側)において、それぞれ光学中心における直入射反射分光特性を測定した。
測定結果を用いて、先に記載した方法により、400〜500nmの波長域における物体側から測定される物体側表面および眼球側表面における平均反射率(青色光反射率)を、それぞれ求めた。
また、実施例および比較例の各眼鏡レンズの眼球側から、物体側表面(凸面側)および眼球側表面(凹面側)において、それぞれ光学中心における直入射反射分光特性を測定した。
測定結果を用いて、先に記載した方法により400〜500nmの波長域における眼球側から測定される物体側表面および眼球側表面における平均反射率(青色光反射率)を、それぞれ求めた。
上記測定は、オリンパス社製レンズ反射率測定器USPM−RUを用いて行った(測定ピッチ:1nm)。測定時、分光光度計の試料台の高さを調整することにより、測定対象面に焦点位置を合わせた。
実施例1の眼鏡レンズについて得られた反射分光スペクトル(物体側から測定)を図1に示し、実施例2の眼鏡レンズについて得られた反射分光スペクトル(物体側から測定)を図2に示す。
上記2.で得られた物体側から測定された物体側表面における直入射反射分光特性の測定結果を用いて、先に記載した方法により、物体側から測定して得られる物体側表面における視感反射率を求めた。
また、上記2.で得られた眼球側から測定された眼球側表面における直入射反射分光特性の測定結果を用いて、先に記載した方法により、眼球側から測定して得られる眼球側表面における視感反射率を求めた。
眼鏡レンズの物体側から測定して求められる物体側表面における主波長は、上記2.で眼鏡レンズの物体側から測定して物体側表面について得られた直入射反射分光特性の測定結果を用いて、JIS Z 8781−3:2016の附属書JAにしたがい求めた。
眼鏡レンズの物体側から測定して求められる眼球側表面における主波長は、上記2.で眼鏡レンズの物体側から測定して眼球側表面について得られた直入射反射分光特性の測定結果を用いて、JIS Z 8781−3:2016の附属書JAにしたがい求めた。
眼鏡レンズの眼球側から測定して求められる物体側表面における主波長は、上記2.で眼鏡レンズの眼球側から測定して物体側表面について得られた直入射反射分光特性の測定結果を用いて、JIS Z 8781−3:2016の附属書JAにしたがい求めた。
眼鏡レンズの眼球側から測定して求められる眼球側表面における主波長は、上記2.で眼鏡レンズの眼球側から測定して眼球側表面について得られた直入射反射分光特性の測定結果を用いて、JIS Z 8781−3:2016の附属書JAにしたがい求めた。
実施例および比較例の各眼鏡レンズを、暗室において蛍光灯下30cmの位置で眼球側から観察し、ゴースト(二重像)の発生の有無および程度を、以下の評価基準に基づき官能評価した。
A+:ゴーストが観察されない。または薄いゴーストが観察されるがAより軽度である。
A:明瞭なゴーストは観察されない。薄いゴーストが観察される。
B:明瞭なゴーストが観察される。
上記1.で得られた直入射透過分光特性の測定結果を用いて、JIS K 7373:2006にしたがいYI値を求めた。具体的には、直入射透過分光特性の測定により得られた透過スペクトルから、JIS Z 8701:1999の式(3)にしたがって、X, Y, Zを算出し、JIS K 7373:2006の6.1節の計算式により、D65光源に対するYI値を算出した。
比較例3の眼鏡レンズは、眼球側に位置する金属層入り多層膜が2層目に金属層(クロム層)を有する点で、7層目に金属層(クロム層)を有する実施例2の眼鏡レンズの眼球側に位置する金属層入り多層膜と相違する。このことが、比較例3の眼鏡レンズの物体側から測定して求められる眼球側表面における青色光反射率が2.00%以上であることの理由と推察され、これにより、比較例3の眼鏡レンズのゴースト評価結果がBになったと考えられる。
これに対し、表11に示されている結果から、実施例1〜7の眼鏡レンズは、35.0%以上の高い青色光カット率を示すものの、ゴーストの発生が抑制されていることが確認できる。
眼鏡の装用者の後方から眼鏡レンズの物体側表面に入射する青色光が眼鏡レンズの眼球側表面で反射されて装用者の眼に入射する青色光の光量を低減する観点からは、眼鏡レンズの眼球側から測定して求められる眼球側表面における青色光反射率は5.00%以下であることが好ましい。上記青色光反射率は、例えば2.00%未満であることができ、これより更に低くてもよい。
また、眼鏡の装用者の後方から眼鏡レンズに入射し物体側表面で反射されずに眼球側表面で反射されて物体側表面から出射して装用者の眼に入射する青色光の光量を低減する観点からは、眼鏡レンズの眼球側から測定して求められる物体側表面における青色光反射率は、15.00%以下であることが好ましく、12.00%以下であることがより好ましい。かかる青色光反射率は、例えば5.00%以下であることができ、これより更に低くてもよい。
Claims (9)
- 青色光吸収性化合物を含むレンズ基材と、
膜厚1.0〜10.0nmの金属層を含む多層膜と、
を有し、
青色光カット率が35.0%以上である、眼鏡レンズ。 - 眼鏡レンズの物体側から測定して求められる物体側表面における主波長は、400.0〜500.0nmの範囲である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
- 眼鏡レンズの物体側から測定して求められる眼球側表面における主波長は、400.0〜500.0nmの範囲である、請求項1または2に記載の眼鏡レンズ。
- 前記レンズ基材の物体側表面上および眼球側表面上に多層膜が位置し、
前記金属層を含む多層膜は、前記レンズ基材の眼球側表面上に位置する多層膜である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。 - 前記金属層は、クロム層である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
- 前記金属層は、ニッケル層である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
- 前記金属層は、銀層である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
- 視感透過率が80.0%以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
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