JP2019081980A - 炭素短繊維湿式不織布 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明の課題は、CFRPに加工する際に優れた加工性を持つ炭素短繊維湿式不織布を得ることができる。【解決手段】炭素短繊維湿式不織布において、炭素短繊維湿式不織布の片面に、炭素短繊維湿式不織布の坪量とエポキシ樹脂の乾燥塗布量とが同量となるように、粘度が505cpsであるエポキシ樹脂を均一に表面塗布した際に、反対面への10秒後の裏抜けが塗布面積の10%以上であることを特徴とする炭素短繊維湿式不織布。【選択図】なし

Description

本発明は、炭素短繊維湿式不織布に関する。
炭素繊維は鉄よりも軽量であり、強度が強いという優れた力学特性を有している。そのため、炭素繊維複合材料は航空機、自動車、テニスラケット、釣り竿、風力発電の羽根などの幅広い分野で使用されており、今後も用途が拡大すると予想される。
炭素繊維としては、現在主に、ポリアクリロニトリルを炭素化、黒鉛化することで得られるPAN系炭素繊維と、タールピッチ液化石炭を溶融紡糸してから炭素化、黒鉛化することで得られるピッチ系炭素繊維とが使用されている。こうして生産された炭素繊維は、織物として加工するか、あるいは一方向に並べた後に、未硬化樹脂を含浸させた炭素繊維プリプレグと呼ばれる材料を、目標とする成形物の型に合うように裁断した後に樹脂を硬化することで得られる、炭素繊維強化樹脂(以下「CFRP」と略記する)として使用されることが多い。あるいは、CFRP廃材をリサイクルして得られた炭素繊維を使用する場合は、炭素繊維がリサイクル過程において短繊維化して炭素短繊維となることから、織物として加工することはできないため、不織布として加工されることが一般的である。
炭素短繊維をシート化して炭素短繊維湿式不織布とする方法としては、炭素短繊維と水膨潤フィブリル化繊維とを水中に分散させ、抄紙用スラリーを作製し、繊維を交絡させて、炭素短繊維湿式不織布を製造する方法が開示されている。水膨潤フィブリル化繊維としては、フィブリル化パラ型芳香族ポリアミド繊維や、フィブリル化アクリル繊維が挙げられている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法は、炭素短繊維湿式不織布をCFRPに加工する際の断裁、圧縮などの工程において、炭素短繊維湿式不織布内への樹脂の浸透性や、炭素短繊維湿式不織布内に樹脂を均一に浸透させるという点については考慮されておらず、CFRP加工する際にトラブルが発生する場合がある。樹脂が浸透しづらい炭素短繊維湿式不織布を使用した場合、炭素短繊維湿式不織布に樹脂を浸透させるのに時間がかかることや、樹脂の浸透量に表裏差が発生することがある。また、樹脂を均一に浸透させづらい炭素短繊維湿式不織布を使用した場合、炭素短繊維湿式不織布内に樹脂が多く存在する箇所とあまり存在しない箇所が発生し、圧縮・熱加工した際に品質に差が出る場合がある。
また、炭素短繊維湿式不織布を製造する別方法としては、炭素短繊維75質量%〜97質量%、セルロース25質量%〜3質量%からなる炭素短繊維湿式不織布を製造する方法において、含窒素有機溶媒を含有する水性分散助剤を炭素短繊維に対して10質量%以下と炭素短繊維を所定量の水に添加して撹拌し、さらに水でスラリー固形分濃度を0.05質量%以下に希釈して回流させる工程を経た後、湿式抄紙する方法が示されている(特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2の炭素短繊維湿式不織布は、ガス透過性や導電性を有する不織布であり、CFRPに使用される不織布ではないため、炭素短繊維湿式不織布をCFRPに加工する際に断裁、圧縮などの工程において樹脂を浸透しやすくする点、あるいは樹脂を均一に浸透させるという点については考慮されておらず、CFRPとして加工した場合に問題が発生することが考えられる。
国際公開第2014/021366号パンフレット 特開2004−353124号公報
本発明の課題は、CFRPに加工する際に優れた加工性を示す炭素短繊維湿式不織布を提供するものである。
本発明者らは、この課題を解決するため研究を行った結果、下記手段を見出した。
(1)炭素短繊維湿式不織布において、炭素短繊維湿式不織布の片面に、炭素短繊維湿式不織布の坪量とエポキシ樹脂の乾燥塗布量とが同量となるように、粘度が505cpsであるエポキシ樹脂を均一に表面塗布した際に、反対面への10秒後の裏抜けが塗布面積の10%以上であることを特徴とする炭素短繊維湿式不織布。
(2)坪量が10g/m以上である上記(1)記載の炭素短繊維湿式不織布。
(3)炭素繊維の平均繊維長が1mm以上である上記(1)又は(2)記載の炭素短繊維湿式不織布。
本発明によれば、CFRPに加工する際に樹脂が短時間で、且つ均一に浸透する優れた加工性を持つ炭素短繊維湿式不織布を得ることができる。
本発明は、CFRPに加工する際に優れた加工性を持つ炭素短繊維湿式不織布を得るための手法である。炭素短繊維を含む不織布においては、CFRPに加工する際に、樹脂濃度が不均一になるという問題が発生する場合がある。すなわち、塗布する樹脂に対して炭素短繊維湿式不織布の空隙が大きいため、樹脂を均一に炭素短繊維湿式不織布内に浸透させるのが難しく、樹脂の浸透量にムラが生じる場合がある。樹脂の浸透量が少ない箇所がある場合、CFRP加工後に強度が弱い箇所が生じてしまい、品質が一定とならない場合がある。熱可塑性樹脂フィルムの貼り合わせや、熱可塑性樹脂バインダー繊維と混抄することで、炭素短繊維湿式不織布内に樹脂を均一に行き渡らせる方法もあるが、フィルムもバインダー繊維もいずれも熱可塑性樹脂の場合でのみに使用できる方法であり、熱硬化性樹脂には適用できないという問題があった。
これらの問題を解決するため、鋭意研究を行った結果、炭素短繊維湿式不織布の片面に、炭素短繊維湿式不織布の坪量と同量となるように、粘度が505cps(0.505Pa・s)であるエポキシ樹脂を均一に表面塗布した際に、反対面への10秒後の裏抜けが塗布面積の10%以上であることを特徴とする炭素短繊維湿式不織布は、樹脂浸透性に優れ、優れたCFRP加工性を持つことが分かった。この炭素短繊維湿式不織布は、空隙が少なく、樹脂が浸透しやすいため、炭素短繊維湿式不織布に樹脂を浸透させた際に樹脂の濃度が均一になり、優れた物理特性を有するCFRPを得ることができる。
本発明において、10秒後の裏抜けが塗布面積の10%以上であるためには、炭素短繊維湿式不織布の密度が高いこと、且つ不織布内の空隙の体積が少ないことが重要である。すなわち、炭素短繊維湿式不織布内に樹脂が浸透することができる空間が多くなればなるほど、限られた量の樹脂を非塗布面まで浸透させることが難しくなり、樹脂の比率の多い塗布面と樹脂の比率が少ない非塗布面とで性能に差が出ることになるため、加工後のCFRPの強度、弾性率が低くなる傾向にある。なお、非塗布面とは、エポキシ樹脂を塗布した面とは反対の面である。本発明の炭素短繊維湿式不織布の密度は、0.12g/cm以上であることが好ましく、0.15g/cm以上であることがより好ましく、0.16g/cm以上であることが更に好ましい。密度が0.12g/cm未満では、炭素短繊維湿式不織布内の空隙が多く、樹脂を塗布した際に裏面まで樹脂が浸透しないことから、CFRPの品質に表裏差が発生する場合がある。密度の上限値は特に限定しないが、0.5g/cm未満であることが好ましく、0.4g/cm未満であることがより好ましい。密度が0.5g/cm以上では、樹脂の浸透が阻害され、樹脂の裏面まで樹脂が浸透しないことから、CFRP加工後の強度にムラが生じる場合がある。
本発明において、炭素短繊維湿式不織布に樹脂を塗布する面は特に限定されないが、平滑面に塗布することが望ましい。凹凸が大きい面に表面塗布を行う場合、均一な表面塗布を行うことが難しい場合がある。樹脂の裏抜けには炭素短繊維湿式不織布内の空隙の体積が重要な要素となるため、樹脂を塗布する面については特に限定されない。
炭素短繊維としては、PAN系、ピッチ系など、どのような製法で製造された炭素短繊維でも使用することができる。また、新品未使用の炭素短繊維でも、廃棄された炭素繊維をリサイクル処理して得られた炭素短繊維でもなんら問題は無い。炭素短繊維を得るのに必要なコストを考慮するとリサイクル処理して得られた炭素短繊維がより好ましい。
炭素短繊維の平均繊維長は、1mm以上が好ましく、3mm以上がより好ましく、5mm以上が更に好ましい。炭素短繊維の平均繊維長が長いほど、炭素短繊維湿式不織布が高密度になる傾向にあり、樹脂の均一性が上がる傾向にある。平均繊維長の最大値は特に限定しないが、平均繊維長が長過ぎる場合、抄紙法でシート化する際に操業性が不安定となる場合があるため、100mm未満であることが望ましい。
ここで、炭素短繊維の平均繊維長は以下の方法により求められる。まず、炭素短繊維をランダムに20本採取し、その繊維長を測定する。その後以下の計算方法で炭素短繊維の平均繊維長を求める。
平均繊維長={(炭素短繊維1の繊維長(mm))+(炭素短繊維2の繊維長(mm))+(炭素短繊維3の繊維長(mm))+…(炭素短繊維20の繊維長(mm))}/20
本発明の炭素短繊維湿式不織布においては、性能を阻害しない範囲で、セルロース繊維を使用することができる。セルロース繊維の種類としては針葉樹パルプ、広葉樹パルプなどの木材パルプ;藁パルプ、竹パルプ、リンターパルプ、ケナフパルプなどの木本類、草本類のパルプなどの天然パルプ繊維や、レーヨン、キュプラ、リヨセル等の再生セルロース繊維などが挙げられる。これらのセルロース繊維は、フィブリル化(叩解)されていてもなんら差し支えない。さらに、古紙、損紙などから得られる天然パルプ繊維を使用してもよい。
上記セルロース繊維の中で針葉樹パルプ、リンターパルプ、及びリヨセルの群から選ばれる1種以上のセルロース繊維を使用することが好ましく、リヨセルを使用することがより好ましい。また、リヨセル繊維はフィブリル化(叩解)されていることが好ましい。これらの好ましいセルロース繊維を使用することによって、セルロース繊維を必須成分とする網状構造体が形成されやすくなり、繊維の脱落を抑制することができる。また、炭素短繊維湿式不織布を抄紙法で製造する場合の操業性が安定するという効果も得られる。
フィブリル化(叩解)セルロース繊維は、上記のセルロース繊維をフィブリル化することによって製造することができる。フィブリル化するための装置としては、ビーター、PFIミル、シングルディスクリファイナー(SDR)、ダブルディスクリファイナー(DDR)、また、顔料等の分散や粉砕に使用するボールミル、ダイノミル、ミキサー、摩砕装置、高速の回転刃により剪断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間で剪断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、繊維懸濁液に少なくとも20MPaの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを衝突させて急減速することにより繊維に剪断力、切断力を加える高圧ホモジナイザー等の装置が挙げられる。これらの装置を、単独又は組み合わせて用いることによって、フィブリル化セルロース繊維を製造することができる。そして、これらの装置の種類、処理条件(繊維濃度、温度、圧力、回転数、リファイナーの刃の形状、リファイナーのプレート間のギャップ、処理回数)等のフィブリル化条件の調整により、目的のフィブリル化状態を得ることができる。
本発明の炭素短繊維湿式不織布においては、性能を阻害しない範囲で、バインダー合成繊維を使用することができる。バインダー合成繊維としては、芯鞘繊維(コアシェルタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)、放射状分割繊維などの複合繊維;未延伸繊維;低融点合成樹脂単繊維;熱水可溶性繊維等が挙げられる。バインダー合成繊維は、繊維全体又は繊維の一部のガラス転移温度又は溶融温度(融点)が低く、抄紙機の乾燥工程において、バインダー能力を発現する。複合繊維は、皮膜を形成しにくいので、炭素短繊維湿式不織布の空間を保持したまま、機械的強度を向上させることができる。より具体的には、複合繊維としては、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせが挙げられる。未延伸繊維としては、ポリエステル等の未延伸繊維が挙げられる。また、ポリエチレンやポリプロピレン等の低融点樹脂のみで構成される単繊維(全融タイプ)等の低融点合成樹脂単繊維や、ポリビニルアルコール系のような熱水可溶性繊維は、乾燥工程で皮膜を形成しやすいが、本発明では使用することができる。本発明においては、熱水可溶性繊維であるポリビニルアルコール系のバインダー合成繊維が、炭素短繊維表面の官能基と水素結合を形成して強度を発揮しやすいため、好ましい。
本発明では、合成繊維、無機繊維等を、炭素短繊維湿式不織布に配合することができる。例えば、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、ベンゾエート系、ポリクラール系、フェノール系などの合成繊維;ガラス繊維や岩石繊維、スラッグ繊維や金属繊維などの無機繊維が挙げられる。また、半合成繊維のアセテート、トリアセテート、プロミックス等も使用することができる。
合成繊維、無機繊維及び半合成繊維の繊維長は特に限定しないが、3mm以上30mm未満であることが好ましい。合成繊維、無機繊維及び半合成繊維の繊維長が長いほど、一本あたりの繊維同士の接触点が多くなり、繊維が脱落しにくくなる傾向があるため、合成繊維、無機繊維及び半合成繊維の繊維長は3mm以上であることが好ましい。繊維長が長過ぎる場合は、抄紙性や不織布の地合いが悪化する場合があるため、30mm未満であることが好ましい。繊維径についても特に限定しないが、1μm以上30μm未満であることが好ましく、2μm以上20μm未満であることが特に好ましい。繊維径が1μm未満の繊維を多く配合すると、炭素短繊維湿式不織布内が密な構造になることから、例えば炭素短繊維湿式不織布に樹脂を浸透させるなどの加工を行う際に樹脂の浸透を阻害し、性能が下がる場合がある。繊維径が30μm以上である場合は、バインダー能力を持たない合成繊維又は無機繊維が脱落しやすい場合がある。
本発明において、炭素短繊維湿式不織布に含まれる全繊維に対して、炭素短繊維の含有量は10〜98質量%であることが好ましく、20〜97質量%であることがより好ましく、30〜96質量%であることが更に好ましい。炭素短繊維の含有量が10質量%未満である場合は、加工した際に炭素短繊維が持つ「強度が高く、質量が軽い」という効果が十分に発揮できない場合がある。炭素短繊維の含有量が98質量%よりも多い場合は、繊維同士の結着が不十分となり、脱落繊維が発生する場合がある。
本発明では、炭素短繊維は抄紙機でシート化される。すなわち、抄紙法で炭素短繊維湿式不織布を製造する。
抄紙法では、例えば、長網式、円網式、傾斜ワイヤー式を用いることができる。これらの抄紙方式を単独で有する抄紙機を使用しても良いし、同種又は異種の2機以上の抄紙方式がオンラインで設置されているコンビネーション抄紙機を使用しても良い。均一性に優れた炭素短繊維湿式不織布を製造するには、長網式、傾斜ワイヤー式のように、緩やかに、ワイヤー上のスラリーから脱水することができる抄紙方式を使用することが好ましい。本発明の炭素短繊維湿式不織布は、単層であっても良いし、複層であっても良い。
抄紙法において、炭素短繊維やその他の繊維を分散することを目的に、パルパーでの離解作業を行う。パルパーの種類は特に限定しておらず、縦型パルパーを使用しても良いし、横型パルパーを使用しても良いし、その他の形式のパルパーでもなんら問題は無い。パルパーの離解能力も特に限定していないが、パルパーの離解能力が強すぎる場合、炭素短繊維がパルパーによって砕かれ、ミルド状となり、CFRP加工後の強度が低くなる場合がある。パルパーの離解能力が弱すぎる場合、炭素短繊維が全く離解せずに、地合いが悪くなり、炭素短繊維が不均一になり、CFRP加工後の強度にムラが生じる場合がある。炭素短繊維の離解の状態については、パルパーの強度、時間を調節することでコントロールすることが望ましい。
抄紙法において、繊維を均一に水中に分散させる目的や各種機能を付与する目的で、繊維を水中に分散する際に、各種アニオン性、ノニオン性、カチオン性、あるいは両性の分散剤、消泡剤、親水剤、濾水剤、紙力向上剤、粘剤、帯電防止剤、高分子粘剤、離型剤、抗菌剤、殺菌剤、pH調整剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の薬品を添加する場合もある。
本発明の炭素短繊維湿式不織布には、必要に応じてサイズ剤を配合することができる。サイズ剤としては、本発明の所望の効果を損なわないものであれば、強化ロジンサイズ剤、ロジンエマルジョンサイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、合成サイズ剤、中性ロジンサイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)などのサイズ剤の中からいずれをも用いることができる。
抄紙機で製造された湿紙を、ヤンキードライヤー、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラム式ドライヤー、赤外方式ドライヤー等で乾燥することにより、炭素短繊維湿式不織布を得る。湿紙の乾燥の際に、ヤンキードライヤー等の熱ロールに密着させて熱圧乾燥させることによって、密着させた面の平滑性が向上する。熱圧乾燥とは、タッチロール等で熱ロールに湿紙を押しつけて乾燥させることをいう。熱ロールの表面温度は、100〜180℃が好ましく、100〜160℃がより好ましく、110〜160℃が更に好ましい。圧力は、好ましくは50〜1000N/cmであり、より好ましくは100〜800N/cmである。
本発明の炭素短繊維湿式不織布の坪量は、特に限定しないが、10g/m以上350g/m未満が好ましく、30g/m以上300g/m未満がより好ましい。坪量が10g/m未満では、不織布の密度が低くなる傾向にあり、またCFRP加工時に多数の不織布を重ねる必要があり、樹脂の浸透量に表裏差が発生しやすくなることから、CFRPの均一性を損ねる可能性がある。坪量が350g/m以上では、ドライヤーでの乾燥の際に均一に乾燥することが難しく、炭素短繊維湿式不織布の品質にムラが生じる場合がある。
以下、実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部数や百分率は質量基準である。
実施例1
炭素短繊維(平均繊維長5mm)と叩解した叩解リヨセル繊維とPVAバインダー繊維(クラレ製、製品名:VPB107−1)とを、表1記載の配合比率(質量基準)で水に投入して、縦型パルパーで10分間混合分散した後、湿紙を傾斜ワイヤー方式で、一層抄きで湿式抄紙し、表面温度130℃のヤンキードライヤーで乾燥し、抄紙速度20m/minで、坪量50g/mの炭素短繊維湿式不織布を得た。
実施例2〜4、比較例1〜2
繊維の分散時間を表1記載内容に変えた以外は、実施例1と同様に実施例2〜4及び比較例1〜2の炭素短繊維湿式不織布を得た。
実施例5〜8
炭素短繊維湿式不織布の配合を表1の値に変えた以外は、実施例1と同様に実施例5〜8の炭素短繊維湿式不織布を得た。
実施例9〜12、比較例3
炭素短繊維湿式不織布の坪量を表1の値に変えた以外は、実施例1と同様に実施例9〜12及び比較例3の炭素短繊維湿式不織布を得た。
実施例13〜16
炭素短繊維の平均繊維長を表1記載内容に変えた以外は、実施例1と同様に実施例13〜16の炭素短繊維湿式不織布を得た。
実施例17〜22
炭素短繊維湿式不織布の配合を表1記載内容に変えた以外は、実施例1と同様に実施例17〜22の炭素短繊維湿式不織布を得た。
Figure 2019081980
表1に記載されている繊維の詳細は、以下のとおりである。
叩解リヨセル:リヨセル繊維(繊度1.4デシテックス、繊維長3mm)を、ダブルディスクリファイナーを用いて処理し、平均繊維径14.0μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部を発生させるように調製した繊維。
叩解針葉樹パルプ:ろ水度500mlCSFとなるように調製した天然針葉樹パルプ。
PET繊維:ポリエチレンテレフタレート(PET)延伸繊維、繊度1.7デシテックス、繊維長5mm
アラミド繊維:繊度0.9デシテックス、繊維長5mm
PETバインダー:PET未延伸バインダー繊維、繊度1.2デシテックス、繊維長5mm
実施例及び比較例で作製した炭素短繊維湿式不織布において、坪量、密度、エポキシ樹脂の裏抜けを測定し、また、CFRP加工後の樹脂の均一性を評価し、測定結果及び評価結果を表1に示した。
<密度>
炭素短繊維湿式不織布の坪量をJIS P 8124:2011に則って測定した。また、厚みは、テクロック製厚み計(測定子直径16mm、測定荷重5N)で測定した。得られた坪量及び厚みから密度を求めた。
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂:GM−6800(有限会社ブレニー技研)
硬化剤混合後粘度:505cps
エポキシ樹脂は硬化剤を主剤/硬化剤が10部/3部となるように混合した後、裏抜けの測定試験を実施した。
<エポキシ樹脂の裏抜けの測定>
台紙の上に炭素短繊維湿式不織布を固定し、不織布の片面に、炭素短繊維湿式不織布の坪量とエポキシ樹脂の乾燥塗布量とが同量になるように、エポキシ樹脂を室温(25℃)で塗布した。樹脂が均一に塗布されるようにフラットな手塗りバーでバー塗布を行い、塗布後10秒間静置し、樹脂を塗布した炭素短繊維湿式不織布を台紙から取り外し、台紙に付着した樹脂の面積を測定することで、樹脂の裏抜け評価を行った。
○:裏抜けした樹脂の面積が塗布面積に対して30%以上100%以下であった。
△:裏抜けした樹脂の面積が塗布面積に対して10%以上30%未満であった。
×:裏抜けした樹脂の面積が塗布面積に対して10%未満であった。
<CFRP加工性>
炭素短繊維湿式不織布に、炭素短繊維湿式不織布の二倍量の硬化剤添加済みのエポキシ樹脂を塗布して、熱プレス加工を行い、硬化させた。その後作製したCFRPの断面をSEMで観察して、樹脂が均一に浸透しているかを評価した。
○:樹脂が浸透していない箇所は見られなかった。
△:樹脂が浸透していない箇所がわずかに見られた。
×:樹脂が浸透していない箇所が多く見られた。
炭素短繊維湿式不織布の片面に、炭素短繊維湿式不織布の坪量とエポキシ樹脂の乾燥塗布量とが同量になるように、エポキシ樹脂を塗布した際の反対面への10秒後の裏抜けが塗布面積の30%以上である炭素短繊維湿式不織布である実施例1〜3においては、CFRP加工後に樹脂が浸透していない箇所が見られず、優れたCFRP加工性を持つことが分かる。ただし、パルパーでの離解時間を長くして、裏抜けが10%以上30%未満であった実施例4においては、炭素短繊維が複雑な立体構造を形成し、炭素短繊維湿式不織布の密度が低くなることから、炭素短繊維湿式不織布の内部に空隙が多くなり、エポキシ樹脂が均一に浸透するのがやや難しくなり、CFRP加工性がやや劣ることが分かる。
また、パルパーでの離解時間を更に長くした比較例1及び2では、離解時間が長いため、炭素短繊維がほぼ完全に離解し、複雑な立体構造を形成したことから、炭素短繊維湿式不織布が更に低密度になることが確認された。このため炭素短繊維湿式不織布内部の空隙が塗布する樹脂に対して多くなり、これによりエポキシ樹脂塗布後の裏抜けが10%未満となることが確認された。空隙が多くなると樹脂を均一に浸透させるのが難しくなり、CFRP加工の際に樹脂が浸透してない箇所が発生するため、CFRP加工用の炭素短繊維湿式不織布としては適さない場合がある。
裏抜けが30%以上である炭素短繊維湿式不織布である実施例5〜8においては、CFRP加工後に樹脂が浸透していない箇所が見られず、優れたCFRP加工性を持つことが分かる。実施例1の叩解リヨセルを叩解針葉樹パルプに変えた実施例5の結果及び実施例1のPVAバインダー合成繊維をPETバインダー合成繊維に変更した実施例6の結果から、炭素短繊維以外の繊維を実施例1記載の繊維以外の繊維に変更しても問題が無いことが分かる。また、合成繊維としてPET繊維又はアラミド繊維が配合されている実施例7及び8においても、CFRP加工性に問題が見られないことから、合成繊維を配合してもCFRP加工性に影響は無い様子が確認された。
裏抜けが30%以上である炭素短繊維湿式不織布である実施例9〜11においては、CFRP加工後に樹脂が浸透していない箇所が見られず、優れたCFRP加工性を持つことが分かる。坪量が350g/m以上である実施例12においては、湿式抄造の際に均一に乾燥させることが難しく、品質に表裏差が出やすく、また、高密度となったことにより、裏抜けが10%以上30%未満であり、樹脂がやや浸透しにくいという結果となった。
比較例3では、坪量を下げたことにより、密度も低くなることから、樹脂が裏面まで浸透しなくなり、裏抜けが10%未満となった。このためCFRPに加工する際に樹脂の濃度勾配が発生する場合があり、品質が安定しないことから、CFRP加工性が低く、CFRP加工用の炭素短繊維湿式不織布としては適さない場合がある。炭素短繊維湿式不織布の坪量が小さいほど、低密度になる傾向にあることから、坪量は10g/m以上であることが好ましいことが分かる。
炭素短繊維湿式不織布において、裏抜けが30%以上である炭素短繊維湿式不織布である実施例14〜16においては、CFRPに加工した後に樹脂が浸透していない箇所が見られず、優れたCFRP加工性を持つことが分かる。炭素短繊維の平均繊維長が短い実施例13においては、炭素短繊維湿式不織布は複雑な立体構造の低密度な不織布となる傾向であるため、裏抜けが10%以上30%未満であり、樹脂がやや浸透しづらい様子が確認された。
炭素短繊維湿式不織布において、裏抜けが30%以上である炭素短繊維湿式不織布である実施例18〜22においては、CFRPに加工した後に樹脂が浸透していない箇所が見られず、優れたCFRP加工性を持つことが分かる。炭素短繊維の含有量が10質量%である実施例17においては、裏抜けが10%以上30%未満であり、微細な叩解リヨセル及び合成繊維が多く配合されていることから、樹脂がやや浸透しづらい様子が確認された。
本発明によれば、優れたCFRPに加工性を有する炭素短繊維湿式不織布を得ることができる。

Claims (3)

  1. 炭素短繊維湿式不織布において、炭素短繊維湿式不織布の片面に、炭素短繊維湿式不織布の坪量とエポキシ樹脂の乾燥塗布量とが同量となるように、粘度が505cpsであるエポキシ樹脂を均一に表面塗布した際に、反対面への10秒後の裏抜けが塗布面積の10%以上であることを特徴とする炭素短繊維湿式不織布。
  2. 坪量が10g/m以上である請求項1記載の炭素短繊維湿式不織布。
  3. 炭素繊維の平均繊維長が1mm以上である請求項1又は2記載の炭素短繊維湿式不織布。
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