JP2019067768A - シート状空気電池、その製造方法およびパッチ - Google Patents

シート状空気電池、その製造方法およびパッチ Download PDF

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Abstract

【課題】貯蔵特性に優れたシート状空気電池およびその製造方法と、前記シート状空気電池を備えたパッチとを提供する。【解決手段】本発明のシート状空気電池1は、触媒層を有する正極、負極、セパレータおよび電解液が、シート状外装体60内に収容されてなり、前記電解液は、電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液であり、全溶媒中に、沸点が150℃以上の水溶性高沸点溶媒を3〜30質量%含有していることを特徴としているか、または、触媒層を有する正極、負極、セパレータおよび電解質が、シート状外装体内に収容されてなり、前記電解質が、電解液と増粘剤とを配合してなるものであり、前記電解液が、電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液であることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、貯蔵特性に優れたシート状空気電池およびその製造方法と、前記シート状空気電池を備えたパッチに関するものである。
二酸化マンガンやカーボンなどを触媒とする空気極からなる正極と、亜鉛粒子や亜鉛合金粒子といった亜鉛系粒子などの金属粒子を活物質とする負極とを有する空気電池は、長年補聴器などの電源として用いられてきた。
この種の電池は、外装体に金属缶を使用したボタン型の形状のものが一般的であり、市販されている電池には、正極側の底面に、空気(酸素)を内部に取り込むための空気孔が、0.2〜0.5mm程度の径で1個〜数個形成されている。
また、アルミニウムと熱可塑性樹脂とをラミネートしたラミネートフィルムなどのような、樹脂製のフィルムを用いた外装体を使用したシート状のものも提案されており、電池の形状に自由度を持たせた、放電特性に優れた空気電池を構成可能であることが開示されている(特許文献1)。
このような空気電池では、前記空気孔を通じて気体の流通が可能であるため、例えば、周囲の環境の湿度が低くなると、電池内の電解液から水分が蒸発して前記空気孔を通って電池系外に散逸し、一方、周囲の環境の湿度が高くなると、電池内に水蒸気が取り込まれて電解液の水分量が増加するなど、周囲の環境の湿度の変化により、電解液の組成が変化することが知られている。
そのため、電池を長期間放置した場合には、電解液組成の変化により、電池の特性が低下したり、電解液が漏液するなどの問題が生じやすくなったりする。
このような問題を解決するため、電解液中に多価アルコールおよび/またはその誘導体を含有させて電解液の蒸気圧を低下させることや、ポリメタクリル酸−エチレングリコール共重合体を架橋剤で架橋させた樹脂、架橋カルボキシメチルセルロース、架橋ポリアクリル酸などの架橋体を負極のゲル化剤として用い、負極をゲル化させることが提案されている(特許文献2〜5)。
特開2004−288571号公報 特開昭61−13580号公報 特開2002−343450号公報 特公平7−32030号公報 特表2009−530786号公報
しかし、前記技術を用いるだけでは、空気電池の貯蔵特性を大幅に改善することはできなかった。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、貯蔵特性に優れたシート状空気電池およびその製造方法と、前記シート状空気電池を備えたパッチとを提供することにある。
前記目的を達成し得た本発明のシート状空気電池の第1の態様は、触媒層を有する正極、負極、セパレータおよび電解液が、シート状外装体内に収容されてなり、前記電解液は、電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液であり、全溶媒中に、沸点が150℃以上の水溶性高沸点溶媒を3〜30質量%含有していることを特徴とする。
また、本発明のシート状空気電池の第2の態様は、触媒層を有する正極、負極、セパレータおよび電解質が、シート状外装体内に収容されてなり、前記電解質は、電解液と増粘剤とを配合してなるものであり、前記電解液は、電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液であることを特徴とする。
前記第2の態様のシート状空気電池においては、前記電解質において、カルボキシル基またはその塩からなる官能基を分子内に含有する増粘剤を使用すると共に、多価金属塩からなるゲル化促進剤を配合することが好ましい態様として挙げられるが、こうした態様のシート状空気電池は、電解質塩を含有するpHが3以上12未満である水溶液(電解液)にカルボキシル基またはその塩からなる官能基を分子内に含有する増粘剤を溶解させたものと、多価金属塩からなるゲル化促進剤を溶解させた水溶液とを混合して、前記電解質を形成する本発明の製造方法によって製造することが好ましい。
また、本発明のパッチは、身体に装着可能であって、本発明のシート状空気電池を電源として備えたものである。
本発明によれば、貯蔵特性に優れたシート状空気電池およびその製造方法と、前記シート状空気電池を備えたパッチとを提供することができる。
本発明のシート状空気電池の一例を模式的に表す平面図である。 図1のI−I線断面図である。
本発明のシート状空気電池の第1の態様においては、pHが3以上12未満の水溶液であり、全溶媒中に、沸点が150℃以上の水溶性高沸点溶媒を3〜30質量%含有している電解液を使用する。
前記高沸点溶媒は、実質的に不揮発性と見なすことができ、含有量に応じて水の蒸気圧を低下させ、電解液からの水の揮発を抑制することができると考えられる。これにより、第1の態様のシート状空気電池においては、シート状外装体に設けられる空気孔を通じて、電解液から水分が揮発して電池外に散逸することなどによって生じ得る液枯れを抑制できるため、良好な放電特性を長期にわたって維持できる。よって、第1の態様のシート状空気電池は、優れた貯蔵特性を有するものとなる。
水溶性高沸点溶媒の沸点の上限値は、通常、320℃である。
シート状空気電池の放電特性をより良好に維持する観点からは、水溶性高沸点溶媒は、その表面張力や比誘電率が高いことが望ましい。シート状空気電池においては、放電に際し正極(触媒層)が空気と触れる必要があり、電解液中の水溶性高沸点溶媒の表面張力が低いと、正極の触媒層の表面が電解液で濡れやすくなり、触媒層の反応を阻害して放電特性を低下させる虞を生じるが、表面張力が高い水溶性高沸点溶媒を使用することで、こうした問題を回避することができる。
また、有機溶媒は、通常、水よりも比誘電率が低いため、これを水と混合して電解液を調製すると、水のみを使用した場合よりもイオン伝導性が低下して、電池の放電特性を損なう虞があるが、比誘電率が高い水溶性高沸点溶媒を使用することで、こうした問題の発生を抑制することができる。
具体的には、水溶性高沸点溶媒の表面張力は、30mN/m以上であることが好ましい。また、水溶性高沸点溶媒の表面張力の上限値は、通常、70mN/mである。本明細書でいう水溶性高沸点溶媒の表面張力は、市販の装置(例えば、協和界面科学社製「CBVP−Z」)を使用して、Wilhelmy法によって測定される値である。
更に、水溶性高沸点溶媒の比誘電率は、30以上であることが好ましい。また、水溶性高沸点溶媒の比誘電率の上限値は、通常、65である。本明細書でいう水溶性高沸点溶媒の比誘電率は、HEWLETTPACKARD社製「プレジョンLCRメーターHP4284」などを用い測定される誘電率より求まる値である。
電解液に好適な水溶性高沸点溶媒の具体例としては、エチレングリコール(沸点197℃、表面張力48mN/m、比誘電率39)、プロピレングリコール(沸点188℃、表面張力36mN/m、比誘電率32)、グリセリン(沸点290℃、表面張力63mN/m、比誘電率43)などの多価アルコール;ポリエチレングリコール(PEG;例えば、沸点230℃、表面張力43mN/m、比誘電率35)などのポリアルキレングリコール(分子量が600以下のものが好ましい);などが挙げられる。電解液には、これらの水溶性高沸点溶媒のうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、グリセリンを使用することがより好ましい。
水溶性高沸点溶媒を使用する場合、その使用による効果を良好に確保する観点から、電解液の全溶媒中の水溶性高沸点溶媒の含有量は、1質量%以上であり、3質量%以上であることが好ましい。ただし、電解液中の水溶性高沸点溶媒の量が多すぎると、電解液のイオン伝導性が小さくなりすぎて、電池特性が低下する虞があることから、電解液の全溶媒中の水溶性高沸点溶媒の含有量は、30質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましい。
本発明のシート状空気電池の第2の態様においては、電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液(電解液)と、増粘剤とを配合してなる電解質を使用する。
電解液に配合する増粘剤は、電解液の粘度を高め、好ましくはゲル状の電解質にすると共に、保湿剤としても機能する。これにより、第2の態様のシート状空気電池においては、シート状外装体に設けられる空気孔を通じて、電解質から水分が揮発して電池外に散逸することなどによって生じ得る液枯れを抑制できるため、良好な放電特性を長期にわたって維持できる。よって、第2の態様のシート状空気電池は、優れた貯蔵特性を有するものとなる。
電解質を形成するための増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース(CEC)などのセルロースの誘導体;ポリエチレングリコール(PEG)などのポリアルキレングリコール(ただし、分子量が1000以上のものが望ましく、10000以上のものがより望ましい);ポリビニルピロリドン;ポリ酢酸ビニル;デンプン;グアーガム;キサンタンガム;アルギン酸ナトリウム;ヒアルロン酸;ゼラチン;ポリアクリル酸;などの各種合成高分子または天然高分子が挙げられる。電解質の形成には、前記の各水溶性高分子のうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、PEGなどのポリアルキレングリコールは、一般に分子量(平均分子量)を明示した状態で市販されており、本明細書でいうポリアルキレングリコールの分子量は、このような製造会社の公称値を意味している。
前記の水溶性高分子の中でも、電解液の増粘作用が高く、良好な性状の電解質をより容易に調製し得ることから、CMC、キサンタンガムなどの多糖類や、高分子量(分子量が1000以のもの)のポリアルキレングリコールがより好ましい。
なお、CMCはアニオン性の高分子であり、金属イオンや塩が共存するとその影響を受けやすいため、電解液の増粘作用が小さくなる場合がある。しかしながら、CMCのエーテル化度が高い場合には、金属イオンや塩の影響を受け難く、電解液の増粘作用がより良好に発揮できるようになる。具体的には、CMCのエーテル化度は、0.9以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましい。ここでいうCMCのエーテル化度とは、無水グルコース単位1個について、何個のカルボキシメチル基がエーテル結合しているかを表す数値である。また、CMCのエーテル化度は、1.6以下であることが好ましい。
更に、CMC、CEC、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウムのように、カルボキシル基やその塩からなる官能基(−COOH、−COONaなど)を分子内に有する増粘剤を用いる場合には、ゲル化促進剤として作用する多価金属塩を電解質に配合することが好ましい。この場合には、ゲル化促進剤が増粘剤に作用することで、電解質がより良好にゲル化するため、性状の良好なゲル状電解質の形成が更に容易となる。
ゲル化促進剤として使用可能な多価金属塩としては、用いる増粘剤の種類によって異なるが、2価または3価の金属イオンの塩が好ましく、マグネシウム塩(硫酸マグネシウムなど)、カルシウム塩(硫酸カルシウム)などのアルカリ土類金属塩;硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどのアルミニウム塩;塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)などの鉄塩;硝酸クロムなどのクロム塩;などが挙げられる。これらの中でも、アルミニウム塩や鉄塩がより好ましい。第2の態様のシート状空気電池においては、電解質の形成には、pHが3以上12未満の水溶液を使用し、これによって電池による環境負荷の低減を図っているが(詳しくは後述する)、ゲル化促進剤にアルミニウム塩や鉄塩を使用した場合には、このゲル化促進剤による環境負荷の増大を抑えることができる。
また、電解質における増粘剤の配合量は、電解質の粘度を十分に高めるとともに、良好なイオン伝導性を確保する観点から0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
更に、ゲル化促進剤である多価金属塩を電解質に配合する場合には、多価金属塩の配合量は、その作用をより良好に発揮させる観点から、質量比で増粘剤の割合を100としたときに、1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。また、多価金属塩の配合量を多くしても、その効果が飽和するため、電解質における多価金属塩の配合量は、質量比で増粘剤の割合を100としたときに、30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。
なお、電解質塩がゲル化促進剤を兼ねる場合には、ゲル化促進剤の配合量は、前記した電解質塩の好適な濃度範囲とすればよい。
第1の態様のシート状空気電池に係る電解液は、水溶性高沸点溶媒と共に電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液である。また、第2の態様のシート状空気電池において、電解質の形成には、電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液を使用する。
前記水溶液に溶解させる電解質塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウムや塩化亜鉛などの塩化物;アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムなど)、酢酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウムなど)、硝酸塩(硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウムなど)、硫酸塩(硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウムなど)、リン酸塩(リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウムなど)、ホウ酸塩(ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸マグネシウムなど)、クエン酸塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸マグネシウムなど)、グルタミン酸塩(グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、グルタミン酸マグネシウムなど);アルカリ金属の炭酸水素塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなど);アルカリ金属の過炭酸塩(過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムなど);フッ化物などのハロゲンを含む化合物;多価カルボン酸;などが挙げられ、前記水溶液は、これらの電解質塩のうちの1種または2種以上を含有していればよい。
なお、前記電解質塩としては、塩酸、硫酸および硝酸より選択される強酸と、アンモニアや、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなど金属元素の水酸化物に代表される弱塩基との塩が好ましく、アンモニウム塩または特定の金属元素の塩を使用することがより好ましい。具体的には、Cl、SO 2−、HSO およびNO より選択される少なくとも1種のイオンと、Alイオン、Mgイオン、Feイオンおよびアンモニウムイオンより選択される少なくとも1種のイオンとの塩であることがより好ましく、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム〔(NH)HSO〕、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩;硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどのアルミニウム塩;硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化水酸化マグネシウム〔MgCl(OH)〕、硝酸マグネシウムなどのマグネシウム塩;硫酸鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(II)〔(NHFe(SO〕、硫酸鉄(III)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)などの鉄塩;などが例示される。
前記例示の強酸と弱塩基との塩を含有する水溶液は、塩化ナトリウムなどの強酸と強塩基との塩を含有する水溶液(電解液)などに比べて、負極活物質である金属や合金を腐食させる作用が比較的弱い。また、強酸の塩のうち、Al、MgおよびFeより選択される金属元素の塩またはアンモニウム塩を含有する水溶液は、例えば塩化亜鉛水溶液などに比べて比較的高い導電率を有している。よって、強酸と弱塩基との塩として、Cl、SO 2−、HSO およびNO より選択される少なくとも1種のイオンと、Alイオン、Mgイオン、Feイオンおよびアンモニウムイオンより選択される少なくとも1種のイオンとの塩を含有する水溶液を用いた場合には、シート状空気電池の放電特性をより高めることができる。
ただし、ClイオンとFe3+イオンとの塩〔塩化鉄(III)〕については、その他のイオンの組み合わせによる塩に比べて負極活物質である金属材料を腐食させる作用が強いため、塩化鉄(III)以外の塩を用いることが好ましく、負極活物質である金属材料を腐食させ難いことから、アンモニウム塩を用いることがより好ましい。
なお、第2の態様のシート状空気電池に使用する電解質においては、電解質塩と増粘剤との組み合わせによっては、電解質塩自体がゲル化促進剤として作用してしまい、均質なゲル状電解質を形成できなくなったり、十分なイオン伝導性を有するゲル状電解質を形成できなくなったりする虞がある。そのような場合には、電解質塩として、1価の金属イオンの塩のみを用いたり、多価の金属イオンの塩と1価の金属イオンの塩とを併用したり、電解質塩を含有する水溶液と、増粘剤を含有する水溶液とを別々に調製した後、これらを混合して電解質を調製したりすることにより、前記問題の発生を防ぐことができる。また、電解質塩として、アンモニウム塩を用いることも好ましい。
また、前記強酸と弱塩基との塩のうち、過塩素酸塩は、加熱や衝撃により燃焼や爆発の危険を生じることから、環境負荷や廃棄時の安全性の観点からは、前記水溶液に含有させないか、または含有しても過塩素酸イオンの量がわずか(100ppm未満が好ましく、10ppm未満がより好ましい)であることが好ましい。
また、前記強酸と弱塩基との塩のうち、塩化亜鉛や硫酸銅などに代表される重金属塩(鉄の塩を除く)は、有害であるものが多いため、環境負荷や廃棄時の安全性の観点からは、前記水溶液に含有させないか、または含有しても鉄イオンを除く重金属イオンの量がわずか(100ppm未満が好ましく、10ppm未満がより好ましい)であることが好ましい。
前記水溶液のpHは、3以上、好ましくは5以上であって、12未満、好ましくは10以下、より好ましくは7未満である。このようなpHの水溶液を使用することで、例えば、強アルカリである高pHのアルカリ水溶液を用いる場合に比べて、シート状空気電池を廃棄する際の安全性を高め、また、廃棄後の環境への負荷の低減を図ることができる。
前記水溶液における電解質塩の濃度は、例えば、電解液の導電率が80〜700mS/cm程度に調整できる濃度であればよく、通常は、5〜50質量%である。
前記水溶液には、インジウム化合物が溶解していることが好ましい。前記水溶液中にインジウム化合物が溶解している場合には、電池内での水素ガスの発生を良好に抑制することができる。
前記水溶液に溶解させるインジウム化合物としては、水酸化インジウム、酸化インジウム、硫酸インジウム、硫化インジウム、硝酸インジウム、臭化インジウム、塩化インジウムなどが挙げられる。
インジウム化合物の前記水溶液中の濃度は、質量基準で、0.005%以上であることが好ましく、0.01%以上であることがより好ましく、0.05%以上であることが特に好ましく、また、1%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることが特に好ましい。
前記水溶液には、前記の各成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて公知の各種添加剤を添加してもよい。例えば、負極に用いる金属材料の腐食(酸化)を防止するために、酸化亜鉛を添加するなどしてもよい。なお、酸化亜鉛は、負極に添加することもできる。
なお、第1の態様のシート状空気電池において、電解液は、液状でもよいが、増粘剤などを用いて、いわゆるゲル状としたものであってもよい。ゲル状電解液(ゲル状電解質)を用いた場合には、負極活物質の腐食抑制効果がより向上する。
例えば、負極には、負極活物質となる金属や合金の箔をそのまま使用することができるが、この場合、電解液による腐食によって箔が切れるなどして負極の導電性が損なわれ、負極が有する容量を十分に引き出し得ないことがある。このような負極を用いた場合でも、前記の電解質塩濃度を有する電解液の使用によって、負極である箔の破断などを抑制できるが、ゲル状の電解質を用いた場合には、その抑制効果がより向上するため、電池容量の低下をより良好に抑えることができる。
電解液に使用可能な増粘剤としては、例えば、ポリアクリル酸類(ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸アンモニウムなど)、セルロース類(CMC、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースや、それらのアルカリ塩など)が挙げられる。また、特開2001−307746号公報に開示されているように、架橋ポリアクリル酸またはその塩類型吸水性ポリマー(例えば、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸アンモニウムなど)と、それら以外の増粘剤とを併用することも好ましい。架橋ポリアクリル酸またはその塩類型吸水性ポリマーと併用する増粘剤としては、前述のセルロース類や、架橋分枝型ポリアクリル酸またはその塩類(例えば、ソーダ塩、アンモニウム塩など)などが挙げられる。また、これら以外にも、第2の態様のシート状空気電池における電解質に使用可能な増粘剤として例示した各種合成高分子または天然高分子も、増粘剤として使用できる。これらの増粘剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの増粘剤の中でも、第2の態様のシート状空気電池に係る電解質の増粘剤に関して先に記載したように、電解液を増粘させる作用が強く、より良好な性状のゲル状電解液(ゲル状電解質)を容易に調製できることから、エーテル化度が0.9〜1.6のCMCが好ましい。
また、第2の態様のシート状空気電池においては、電解質に、沸点が150℃以上の水溶性高沸点溶媒を含有させることが好ましく、これにより、電解質からの水分の揮発(液枯れ)による電池特性の低下をより良好に抑制して、電池の貯蔵特性を更に高めることができる。水溶性高沸点溶媒の沸点の上限値は、通常、320℃である。
更に、第1の態様のシート状空気電池の場合と同じ理由から、第2の態様のシート状空気電池で使用する水溶性高沸点溶媒は、その表面張力や比誘電率が高いことが望ましい。水溶性高沸点溶媒の好適な表面張力や比誘電率の値も、第1の態様のシート状空気電池の場合と同じである。また、第2の態様のシート状空気電池で使用可能な水溶性高沸点溶媒の具体例も、第1の態様のシート状空気電池の場合と同じである。
そして、第2の態様のシート状空気電池の電解質に水溶性高沸点溶媒を使用する場合の、電解質の全溶媒中の水溶性高沸点溶媒の含有量は、第1のシート状空気電池の電解液における全溶媒中の水溶性高沸点溶媒の含有量と同じ理由から、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、また、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
以下には、第1の態様のシート状空気電池と第2の態様のシート状空気電池とで共通する構成について説明する。
シート状空気電池の正極(空気極)は、触媒層を有するものであり、例えば、触媒層と集電体とを積層した構造のものを使用することができる。
触媒層には、触媒やバインダなどを含有させることができる。
触媒層に係る触媒としては、例えば、銀、白金族金属またはその合金、遷移金属、Pt/IrOなどの白金/金属酸化物、La1−xCaCoOなどのペロブスカイト酸化物、WCなどの炭化物、MnNなどの窒化物、二酸化マンガンなどのマンガン酸化物、カーボン〔黒鉛、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなど)、木炭、活性炭など〕などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上が使用される。
なお、触媒層は、電解液の成分を除く重金属の含有量が、1質量%以下であることが好ましい。重金属の含有量が前記のように少ない触媒層を有する正極の場合、特別な処理などを経ずに廃棄しても環境負荷が小さい電池とすることができる。
本明細書でいう触媒層中の重金属の含有量は、蛍光X線分析により測定することができる。例えば、リガク社製「ZSX100e」を用い、励起源:Rh50kV、分析面積:φ10mmの条件で測定することができる。
よって、触媒層に係る触媒には、重金属を含有していないものが推奨され、前記の各種カーボンを使用することがより好ましい。
また、正極の反応性をより高める観点からは、触媒として使用するカーボンの比表面積は、200m/g以上であることが好ましく、300m/g以上であることがより好ましく、500m/g以上であることが更に好ましい。本明細書でいうカーボンの比表面積は、JIS K 6217に準じた、BET法によって求められる値であり、例えば、窒素吸着法による比表面積測定装置(Mountech社製「Macsorb HM modele−1201」)を用いて測定することができる。なお、カーボンの比表面積の上限値は、通常、2000m/g程度である。
触媒層における触媒の含有量は、20〜70質量%であることが好ましい。
触媒層に係るバインダとしては、PVDF、PTFE、フッ化ビニリデンの共重合体やテトラフルオロエチレンの共重合体〔フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(PVDF−CTFE)、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体(PVDF−TFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体(PVDF−HFP−TFE)など〕などのフッ素樹脂バインダなどが挙げられる。これらの中でも、テトラフルオロエチレンの重合体(PTFE)または共重合体が好ましく、PTFEがより好ましい。触媒層におけるバインダの含有量は、3〜50質量%であることが好ましい。
正極は、例えば、前記触媒、バインダなどを水と混合してロールで圧延し、集電体と密着させることにより製造することができる。また、前記の触媒や必要に応じて使用するバインダなどを、水や有機溶媒に分散させて調製した触媒層形成用組成物(スラリー、ペーストなど)を、集電体の表面に塗布し乾燥した後に、必要に応じてカレンダ処理などのプレス処理を施す工程を経て、正極を製造することもできる。
正極に係る集電体には、例えば、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、銅などの金属の網、箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル;カーボンの網、カーボンクロス、カーボンペーパーなどの多孔質カーボンシート;などを用いることができる。正極に係る集電体の厚みは、10μm以上300μm以下であることが好ましい。
また、正極の集電体には、シート状外装体を構成する樹脂製フィルムや、樹脂製フィルムと金属フィルムとの積層体の一部を利用することもできる。この場合、例えば、樹脂製フィルムや前記積層体の、シート状外装体の内面となることが予定される面にカーボンペーストを塗布して集電体としたり、前記積層体の金属層を集電体としたりし、この表面に前記と同様の方法で正極合剤層や触媒層を形成することで、正極とすることができる。前記のカーボンペースト層の厚みは、30〜300μmであることが好ましい。
シート状空気電池の負極には、例えば、亜鉛系材料(亜鉛材料と亜鉛合金材料とを纏めてこのように称する)やマグネシウム系材料(マグネシウム材料とマグネシウム合金材料とを纏めてこのように称する)、アルミニウム系材料(アルミニウム材料とアルミニウム合金材料とを纏めてこのように称する)などの金属材料を含有するものが使用できる。このような負極では、亜鉛やマグネシウムやアルミニウムといった金属が、活物質として作用する。
金属材料を含有する負極の具体例としては、亜鉛系粒子(亜鉛粒子と亜鉛合金粒子とを纏めてこのように称する)やマグネシウム系粒子(マグネシウム粒子とマグネシウム合金粒子とを纏めてこのように称する)やアルミニウム系粒子(アルミニウム粒子とアルミニウム合金粒子とを纏めてこのように称する)などを含有する負極が挙げられる。
亜鉛合金粒子の合金成分としては、例えば、インジウム(例えば含有量が質量基準で0.005〜0.05%)、ビスマス(例えば含有量が質量基準で0.005〜0.05%)、アルミニウム(例えば含有量が質量基準で0.001〜0.15%)などが挙げられる。
また、マグネシウム合金粒子の合金成分としては、例えば、カルシウム(例えば含有量が質量基準で1〜3%)、マンガン(例えば含有量が質量基準で0.1〜0.5%)、亜鉛(例えば含有量が質量基準で0.4〜1%)、アルミニウム(例えば含有量が質量基準で8〜10%)などが挙げられる。
更に、アルミニウム合金粒子の合金成分としては、例えば、亜鉛(例えば含有量が質量基準で0.5〜10%)、スズ(例えば含有量が質量基準で0.04〜1.0%)、ガリウム(例えば含有量が質量基準で0.003〜1.0%)、ケイ素(例えば含有量が質量基準で0.05%以下)、鉄(例えば含有量が質量基準で0.1%以下)、マグネシウム(例えば含有量が質量基準で0.1〜2.0%)、マンガン(例えば含有量が質量基準で0.01〜0.5%)などが挙げられる。
金属粒子を含有する負極の場合、その金属粒子は、1種単独でもよく、2種以上であってもよい。
なお、電池の廃棄時の環境負荷の低減を考慮すると、負極に使用する金属材料は、水銀、カドミウム、鉛およびクロムの含有量が少ないことが好ましく、具体的な含有量が、質量基準で、水銀:0.1%以下、カドミウム:0.01%以下、鉛:0.1%以下、およびクロム:0.1%以下であることがより好ましい。
亜鉛系粒子の粒度としては、例えば、全粒子中、粒径が75μm以下の粒子の割合が50質量%以下のものが好ましく、30質量%以下のものがより好ましく、また、粒径が100〜200μmの粒子の割合が、50質量%以上、より好ましくは90質量%以上であるものが挙げられる。
また、マグネシウム系粒子およびアルミニウム系粒子の粒度としては、例えば、全粒子中、粒径が30μm以下の粒子の割合が50質量%以下のものが好ましく、30質量%以下のものがより好ましく、また、粒径が50〜200μmの粒子の割合が、50質量%以上、より好ましくは90質量%以上であるものが挙げられる。
本明細書でいう金属粒子における粒度は、レーザー散乱粒度分布計(例えば、堀場製作所製「LA−920」)を用い、粒子を溶解しない媒体に、これらの粒子を分散させて測定した、体積基準での累積頻度50%における粒径(D50)である。
前記の金属粒子を含有する負極の場合には、必要に応じて添加される増粘剤〔ポリアクリル酸ソーダ、CMC(特に、電解液の増粘剤として好適な前記のエーテル化度を有するCMC)など〕やバインダを含んでもよく、これに電解液を加えることで構成される負極剤(ゲル状負極など)を使用することができる。負極中の増粘剤の量は、例えば、0.5〜1.5質量%とすることが好ましく、バインダの量は、0.5〜3質量%とすることが好ましい。
金属粒子を含有する負極に係る電解液には、第1の態様のシート状空気電池に注入するものと同じ前記水溶液や、第2の態様のシート状空気電池の電解質の形成に使用される前記水溶液と同じものを使用することができる。
負極における金属粒子の含有量は、例えば、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、また、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
金属粒子を含有する負極は、インジウム化合物を含有していることが好ましい。負極がインジウム化合物を含有することによって、金属粒子と電解液(電解質)との腐食反応による水素ガス発生をより効果的に防ぐことができる。
前記のインジウム化合物としては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウムなどが挙げられる。
負極に使用するインジウム化合物の量は、質量比で、金属粒子:100に対し、0.003〜1であることが好ましい。
また、負極には、前記亜鉛系粒子と同じ組成の亜鉛系シート(亜鉛箔や亜鉛合金箔など)や、前記マグネシウム系粒子と同じ組成のマグネシウム系シート(マグネシウム箔やマグネシウム合金箔など)といった金属シートを用いることもできる。このような負極の場合、その厚みは、10〜500μmであることが好ましい。
また、金属材料を含有する負極には、必要に応じて集電体を用いてもよい。金属材料を含有する負極の集電体としては、ニッケル、銅、ステンレス鋼などの金属の網、箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル;カーボンのシート、網;などが挙げられる。負極の集電体の厚みは、10μm以上300μm以下であることが好ましい。
また、負極の集電体には、前記正極の場合と同様に、シート状外装体の内面となることが予定される面にカーボンペーストを塗布して用いたり、シート状外装体を構成する金属層を用いたりすることができる。前記のカーボンペースト層の厚みは、50〜200μmであることが好ましい。
シート状空気電池のセパレータとしては、樹脂製の多孔質膜(微多孔膜、不織布など)や、セロファンフィルムに代表される半透膜などの、各種電池で一般的に採用されているセパレータが挙げられる。なお、シート状空気電池の短絡防止および負荷特性を向上させる観点からは、半透膜をセパレータに使用することが好ましい。
樹脂製の多孔質膜からなるセパレータを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィンなどが挙げられる。
樹脂製のセパレータの場合、空孔率は30〜80%であることが好ましく、また、厚みは10〜100μmであることが好ましい。
また、セロファンフィルムなどの半透膜をセパレータに使用する場合、半透膜のみでセパレータを構成してもよい。しかしながら、半透膜は強度が小さいため、電池組み立て時の破損などの問題が発生しやすい。よって、特定の重合体で構成されるグラフトフィルムと、半透膜とを積層した積層体でセパレータを構成することも推奨される。
グラフトフィルムを構成するグラフト重合体は、例えば、幹ポリマーであるポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)に、(メタ)アクリル酸またはその誘導体が、グラフト重合した形態を有するものである。ただし、グラフト重合体は前記の形態を有していればよく、ポリオレフィンに、(メタ)アクリル酸やその誘導体をグラフト重合させる方法により製造されたものでなくともよい。
前記グラフト重合体を構成する(メタ)アクリル酸またはその誘導体とは、下記一般式(1)によって表されるものである。なお、下記一般式(1)のうち、RはHまたはCHであり、RはHまたはNH、Na、K、Rb、Csなどの親水性置換基を意味している。
Figure 2019067768
前記のグラフトフィルムやセロファンフィルムは、これらのフィルムを構成する重合体自身が、電解液(電解質)を吸収してイオンを透過する機能を有するものである。
前記グラフトフィルムを構成するグラフト重合体は、下記式(2)で定義されるグラフト率が、160%以上であることが好ましい。グラフト重合体のグラフト率とグラフトフィルムの電気抵抗には相関関係があるため、グラフト率が上記のような値のグラフト重合体を用いることで、グラフトフィルムの電気抵抗が、20〜120mΩ・inの好適値となるように制御することができる。なお、グラフトフィルムの電気抵抗は交流式電圧降下法(1kHz)により得られる値である。雰囲気温度を20〜25℃とし、25±1℃の40%KOH(比重:1.400±0.005)水溶液中にフィルムを浸漬し、5〜15時間後に取り出して、電気抵抗を測定すればよい。
グラフト率(%)=100×(A−B)/B (2)
前記式(2)中、A:グラフト重合体の質量(g)、B:グラフト重合体中の幹ポリマーの質量(g)である。なお、前記式(2)の「B(グラフト重合体中の幹ポリマーの質量)」は、例えば、グラフト重合体を、幹ポリマーであるポリオレフィンに、(メタ)アクリル酸やその誘導体をグラフト重合させる方法で形成する場合には、このグラフト重合に用いる幹ポリマーの質量をあらかじめ測定しておけばよい。また、前記グラフト重合体において、グラフト率が100%を超える場合があるのは、グラフト重合に用いるモノマー〔(メタ)アクリル酸やその誘導体〕同士が重合して、グラフト分子が長鎖となる場合があるからである。前記式(2)で定義されるグラフト重合体のグラフト率の上限値は、400%であることが好ましい。なお、前記の「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸とを纏めて表現したものである。
セロファンフィルムのみで構成されるセパレータの場合、その厚みは、例えば、15μm以上であることが好ましく、また、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
更に、グラフトフィルムとセロファンフィルムとの積層体で構成されるセパレータの場合、グラフトフィルムとセロファンフィルムとの合計厚みで、例えば、30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましく、また、70μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましい。
更に、グラフトフィルムとセロファンフィルムの積層体で構成されるセパレータの場合、グラフトフィルムの厚みは、例えば、15μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましく、また、30μm以下であることが好ましい。
セパレータを構成するためのグラフトフィルムとセロファンフィルムとの積層体としては、例えば、株式会社ユアサメンブレンシステムから「YG9132」や「YG9122」、「YG2152」の名称で市販されているものが挙げられる。
また、セロファンフィルムや、セロファンフィルムおよびグラフトフィルムと、ビニロン−レーヨン混抄紙のような吸液層〔電解液(電解質)保持層〕とを組み合わせてセパレータを構成してもよい。このような吸液層の厚みは20〜500μmであることが好ましい。
本発明のシート状空気電池は、シート状外装体を有している。外装缶を有する形態では使用し難い用途への適用が可能となるほか、外装缶を有する形態のものに比べて廃棄も容易になることから、環境負荷が小さい利点をより生かすことが期待できる。
図1および図2に本発明のシート状空気電池の一例を模式的に示している。図1はシート状空気電池の平面図であり、図2は図1のI−I線断面図である。
図2に示すように、シート状空気電池1は、正極20、セパレータ40および負極30と、電解液や電解質(図示しない)とが、シート状外装体60内に収容されている。正極20は、電池1内でリード体を介して正極外部端子21と接続しており、また、図示していないが、負極30も、電池1内でリード体を介して負極外部端子31と接続している。なお、図1における点線は、シート状外装体60内に収容された正極20に係る触媒層の大きさを表している。
シート状外装体60は、正極20が配置された側の片面に、正極に空気を取り込むための空気孔61が複数設けられており、正極20のシート状外装体60側には、空気孔61からの電解液(電解質)の漏出を防止するための撥水膜50が配置されている。
正極20は、触媒層を有しており、前記の通り、例えば触媒層が集電体と積層された構造を有しているが、図2では、図面が煩雑になることを避けるために、正極20の有する各層を区別して示していない。
シート状外装体は、例えば樹脂フィルムで構成することができ、このような樹脂フィルムとしては、ナイロンフィルム(ナイロン66フィルムなど)、ポリエステルフィルム〔ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなど〕などが挙げられる。樹脂フィルムの厚みは、20〜100μmであることが好ましい。
なお、シート状外装体の封止は、シート状外装体の上側の樹脂フィルムの端部と下側の樹脂フィルムの端部との熱融着によって行うことが一般的であるが、この熱融着をより容易にする目的で、前記例示の樹脂フィルムに熱融着樹脂層を積層してシート状外装体に用いてもよい。熱融着樹脂層を構成する熱融着樹脂としては、変性ポリオレフィンフィルム(変性ポリオレフィンアイオノマーフィルムなど)、ポリプロピレンおよびその共重合体などが挙げられる。熱融着樹脂層の厚みが20〜100μmであることが好ましい。
また、樹脂フィルムには金属層を積層してもよい。金属層は、アルミニウムフィルム(アルミニウム箔。アルミニウム合金箔を含む。)、ステンレス鋼フィルム(ステンレス鋼箔。)などにより構成することができる。金属層の厚みが10〜150μmであることが好ましい。
また、シート状外装体を構成する樹脂フィルムは、前記の熱融着樹脂層と前記の金属層とが積層された構成のフィルムであってもよい。
シート状外装体の形状は、平面視で多角形(三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形)であってもよく、平面視で円形や楕円形であってもよい。なお、平面視で多角形のシート状外装体の場合、正極外部端子および負極外部端子は、同一辺から外部へ引き出してもよく、それぞれを異なる辺から外部へ引き出しても構わない。
シート状空気電池には、図2に示すように、通常、正極と外装体との間に撥水膜を配するが、その撥水膜には、撥水性がある一方で空気を透過できる膜が使用される。このような撥水膜の具体例としては、PTFEなどのフッ素樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン;などの樹脂で構成された膜などが挙げられる。撥水膜の厚みは、50〜250μmであることが好ましい。
また、外装体と撥水膜との間に、外装体内に取り込んだ空気を正極に供給するための空気拡散膜を配置してもよい。空気拡散膜には、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ナイロンなどの樹脂で構成された不織布を用いることができる。空気拡散膜の厚みは、100〜250μmであることが好ましい。
シート状空気電池の厚み(図2中aの長さ)については特に制限はなく、シート状空気電池の用途に応じて適宜変更できる。なお、シート状空気電池は薄型にできることがその利点の一つであり、かかる観点からは、その厚みは、例えば1mm以下であることが好ましい。
また、シート状空気電池の厚みの下限値についても特に制限はないが、一定の容量を確保するために、通常は、0.2mm以上とすることが好ましい。
本発明のシート状空気電池は、貯蔵特性に優れていることに加えて、前記の通り、環境負荷が小さく、また、破損などによって電解液(電解質)が漏出して身体に付着しても、例えばpHが高い強アルカリ性の電解液に比べて問題が生じ難い。よって、本発明のシート状空気電池は、身体に装着可能なパッチ、特に、皮膚の表面に装着し、体温、脈拍、発汗量など身体の状況に関する測定を行うためのパッチなど、医療・健康用途の機器の電源として好適であり、また、従来から知られている空気電池が採用されている用途と同じ用途にも適用することができる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
(実施例1)
<正極>
DBP吸油量495cm/100g、比表面積1270m/gのカーボン(ケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社)):30質量部と、アクリル系分散剤:15質量部と、SBR:60質量部と、水:500質量部とを混合して触媒層形成用組成物を作製した。
集電体として多孔性のカーボンペーパー〔厚み:0.25mm、空孔率:75%、透気度(ガーレー):70秒/100ml〕を用い、前記触媒層形成用組成物を、乾燥後の塗布量が10mg/cmとなるよう前記基材の表面にストライプ塗布し、乾燥することにより、触媒層が形成された部分と形成されていない部分とを有する集電体を得た。この集電体を、触媒層の大きさが30mm×30mmで、その一端に、触媒層が形成されていない5mm×15mmの大きさのリード部となる部分を有する形状に打ち抜いて、全体の厚みが0.27mmの正極(空気極)を作製した。
<負極>
添加元素としてIn:0.05%、Bi:0.04%およびAl:0.001%含有する亜鉛合金箔(厚み:0.05mm)を、活物質として機能する30mm×30mmの大きさの部分と、その一端にリード部となる5mm×15mmの部分とを有する形状に打ち抜いて負極を作製した。
<電解液>
20質量%の硫酸アンモニウム水溶液に、グリセリンを、水との合計量中に10質量%となる量で添加して、電解液(堀場製作所製の「LAQUA twinコンパクトpHメータ」を用い、25℃環境下で測定したpHが5.3。後記の全ての実施例および比較例のシート状電池の電解液についても、同じ測定法で求められたpHは同じ値であった。)を調製した。なお、電解液中の過塩素酸イオンおよび鉄イオンを除く重金属イオンの濃度は、それぞれ100ppm未満であった。後記の実施例2〜5および比較例1、2のシート状空気電池の電解液についても、同様である。
<セパレータ>
セパレータには、ポリエチレン主鎖にアクリル酸をグラフト共重合させた構造を有するグラフト共重合体で構成された2枚のグラフトフィルム(1枚当たりの厚み:15μm)を、セロハンフィルム(厚み:20μm)の両側に配置したもの(全体の厚み:50μm)を用いた。
<撥水膜>
撥水膜には、厚みが200μmのPTFE製シートを用いた。
<電池の組み立て>
アルミニウム箔の外面にPETフィルムを有し、内面に熱融着樹脂層としてポリプロピレンフィルムを有する5cm×5cmの大きさのアルミラミネートフィルム(厚み:65μm)2枚を外装体として用いた。
正極側に配置される一方の外装体には、直径1mmの空気孔9個を縦9mm×横9mmの等間隔(空気孔同士の中心間距離は10mm)で規則的に形成し、その内面側に、ホットメルト樹脂を用いて前記撥水膜を熱溶着させた。また、負極側に配置されるもう一方の外装体には、正極および負極のリードが配置される部分に、リードと外装体との熱溶着部の封止性を高めるため、外装体の辺と平行に、変性ポリオレフィンアイオノマーフィルムを取り付けた。
撥水膜を有するシート状外装体を下にして、その外装体の前記撥水膜の上に、前記正極、前記セパレータおよび前記負極を順に積層し、更に、もう1枚の外装体を、前記正極および前記負極のリードの上に前記変性ポリオレフィンアイオノマーフィルムが位置するようにして重ねた。次に、2枚の外装体の周囲3辺を互いに熱溶着して袋状にし、その開口部から前記電解液を入れた後、前記開口部を熱溶着して封止し、シート状空気電池とした。
実施例2
グリセリンに代えてプロピレングリコールを用いた以外は実施例1と同様にして電解液を調製し、これを用いた以外は実施例1と同様にしてシート状空気電池を作製した。
実施例3
グリセリンに代えてエチレングリコールを用いた以外は実施例1と同様にして電解液を調製し、これを用いた以外は実施例1と同様にしてシート状空気電池を作製した。
実施例4
グリセリンの添加量を水との合計量中で5質量%となるようにした以外は実施例1と同様にして電解液を調製し、これを用いた以外は実施例1と同様にしてシート状空気電池を作製した。
実施例5
グリセリンの添加量を水との合計量中で20質量%となるようにした以外は実施例1と同様にして電解液を調製し、これを用いた以外は実施例1と同様にしてシート状空気電池を作製した。
比較例1
グリセリンを添加していない、20質量%の硫酸アンモニウム水溶液を電解液に用いた以外は、実施例1と同様にしてシート状空気電池を作製した。
比較例2
グリセリンの添加量を水との合計量中で50質量%となるようにした以外は実施例1と同様にして電解液を調製し、これを用いた以外は実施例1と同様にしてシート状空気電池を作製した。
実施例1〜5および比較例1、2の各シート状空気電池について、下記の評価を行った。
〔放電特性の評価〕
各シート状空気電池を組み立て後に大気中で10分間放置してから、電池の設計容量に対して100時間率相当の電流で0.5Vまで放電した時の放電容量(貯蔵前放電容量)を測定した。各電池の測定値は、比較例1の電池の放電容量を100として相対比較した。
[貯蔵試験後の放電特性維持率の評価]
各シート状空気電池を組み立て後に大気中40℃で10日間貯蔵した後、電池の設計容量に対して100時間率相当の電流で0.5Vまで放電した時の放電容量(貯蔵後放電容量)を測定した。
前記貯蔵前放電容量に対する貯蔵後放電容量の割合を容量維持率として求め、貯蔵特性を評価した。
実施例1〜5および比較例1、2の各シート状空気電池の電解液の構成と、前記の各評価結果とを表1に示す。なお、表1における水溶性高沸点溶媒の含有量は、電解液の全溶媒中の含有量である。
Figure 2019067768
表1に示す通り、水溶性高沸点溶媒を適正な量で含有する電解液を用いた実施例1〜5のシート状空気電池は、水溶性高沸点溶媒を含有しない電解液を用いた比較例1の電池に比べ、良好な放電容量を有しつつ、貯蔵前後での容量低下が小さく、優れた貯蔵特性も有していた。なお、水溶性高沸点溶媒の量が多すぎる電解液を用いた比較例2の電池は、実施例の電池や比較例1の電池よりも放電容量が小さかった。
実施例6
20質量%濃度の硫酸アンモニウム水溶液(堀場製作所製の「LAQUA twinコンパクトpHメータ」を用い、25℃環境下で測定したpHが5.3。以降に示すpHも同じ方法で測定した値である。)を調製し、ここにCMC(エーテル化度が1.4)を、1.0質量%となる量で添加し溶解させて、高粘度の電解質を形成した。なお、前記水溶液中の過塩素酸イオンおよび鉄イオンを除く重金属イオンの濃度は、それぞれ100ppm未満であった。後記の実施例7〜11および比較例3のシート状空気電池の電解質の形成に用いた水溶液についても、同様である。
そして、実施例1で調製した電解液に代えて前記の電解質を用いた以外は、実施例1と同様にしてシート状空気電池を作製した。
実施例7
CMCに代えてキサンタンガムを用いた以外は、実施例6と同様にして電解質を形成し、これを用いた以外は実施例1と同様にしてシート状空気電池を作製した。
実施例8
CMCに代えてPEG(分子量200万)を用いた以外は、実施例6と同様にして電解質を形成し、これを用いた以外は実施例1と同様にしてシート状空気電池を作製した。
実施例9
硫酸アンモニウム水溶液(pH=5.3)にCMC(エーテル化度が1.4)を溶解させて溶液(A)を調製した。また、ゲル化促進剤である硫酸アルミニウムの水溶液(B)を別途調製した。なお、硫酸アンモニウム、CMC、および硫酸アルミニウムの量は、それぞれ、溶液(A)と水溶液(B)との合計中の量で、硫酸アンモニウム:20質量%、CMC:1.0質量%、硫酸アルミニウム:0.05質量%となるようにした。
実施例6で調製した電解質に代えて、前記の溶液(A)と水溶液(B)とを袋状に熱溶着した外装体内に入れた以外は、実施例6と同様にしてシート状空気電池を作製した。なお、溶液(A)と水溶液(B)とは、開口部を熱溶着した後の外装体内で混合しゲル化させた。
実施例10
水溶液(B)を硫酸鉄(III)の水溶液に代えた以外は、実施例9と同様にしてシート状空気電池を作製した。
実施例11
溶媒を水とグリセリンとの混合溶媒に変更した以外は実施例9と同様にして溶液(A)(pH=5.3)を調製し、この溶液(A)を用いた以外は実施例9と同様にしてシート状空気電池を作製した。なお、グリセリンの量は、溶液(A)および水溶液(B)に使用した水の全量とグリセリンとの合計中の量で、5.0質量%となるようにした。
実施例6〜11のシート状空気電池について、実施例1の電池などと同じ方法で、放電特性および貯蔵特性(貯蔵試験後の放電特性維持率)を評価した。
実施例6〜11の各シート状空気電池の構成を表2に示し、前記の各評価結果を表3に示す。また、表2および表3には、比較例1の電池の構成および評価結果も併記する。なお、表2における増粘剤およびゲル化促進剤の含有量は、電解質全体中の含有量であり、水溶性高沸点溶媒の含有量は、電解質の全溶媒中の含有量である。
Figure 2019067768
Figure 2019067768
表2および表3に示す通り、電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液と増粘剤とを配合して調製した電解質を用いた実施例6〜11のシート状空気電池は、増粘剤を配合していない電解液を用いた比較例1の電池に比べて、放電容量が大きく、良好な放電特性を有していると共に、貯蔵前後での容量低下が小さく、優れた貯蔵特性を有していた。
1 シート状空気電池
20 正極(空気極)
21 正極外部端子
30 負極
31 負極外部端子
40 セパレータ
50 撥水膜
60 シート状外装体
61 空気孔

Claims (14)

  1. 触媒層を有する正極、負極、セパレータおよび電解液が、シート状外装体内に収容されてなるシート状空気電池であって、
    前記電解液は、電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液であり、全溶媒中に、沸点が150℃以上の水溶性高沸点溶媒を3〜30質量%含有していることを特徴とするシート状空気電池。
  2. 前記水溶性高沸点溶媒は、表面張力が30mN/m以上であり、かつ比誘電率が30以上である請求項1に記載のシート状空気電池。
  3. 前記電解液は、前記水溶性高沸点溶媒として、多価アルコールおよびポリアルキレングリコールより選択される少なくとも1種の化合物を含有している請求項1または2に記載のシート状空気電池。
  4. 触媒層を有する正極、負極、セパレータおよび電解質が、シート状外装体内に収容されてなるシート状空気電池であって、
    前記電解質は、電解液と増粘剤とを配合してなるものであり、
    前記電解液は、電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液であることを特徴とするシート状空気電池。
  5. 前記増粘剤は、カルボキシル基またはその塩からなる官能基を分子内に含有している請求項4に記載のシート状空気電池。
  6. 前記電解質は、多価金属塩からなるゲル化促進剤が更に配合されたものである請求項5に記載のシート状空気電池。
  7. 前記多価金属塩が、アルミニウム塩または鉄塩である請求項6に記載のシート状空気電池。
  8. 前記増粘剤が、多糖類または分子量が1000以上のポリアルキレングリコールである請求項4に記載のシート状空気電池。
  9. 前記増粘剤が、セルロースの誘導体である請求項8に記載のシート状空気電池。
  10. 前記セルロースの誘導体が、エーテル化度が0.9以上のカルボキシメチルセルロースである請求項9に記載のシート状空気電池。
  11. 前記電解質は、沸点が150℃以上で、表面張力が30mN/m以上であり、かつ比誘電率が30以上の水溶性高沸点溶媒が更に配合されたものである請求項4〜10のいずれかに記載のシート状空気電池。
  12. 厚みが1mm以下である請求項1〜11のいずれかに記載のシート状空気電池。
  13. 触媒層を有する正極、負極、セパレータおよび電解質が、シート状外装体内に収容されてなるシート状空気電池を製造する方法であって、
    電解質塩を含有するpHが3以上12未満である水溶液にカルボキシル基またはその塩からなる官能基を分子内に含有する増粘剤を溶解させたものと、多価金属塩からなるゲル化促進剤を溶解させた水溶液とを混合して、前記電解質を形成することを特徴とするシート状空気電池の製造方法。
  14. 身体に装着可能なパッチであって、電源として、請求項1〜12のいずれかに記載のシート状空気電池を備えていることを特徴とするパッチ。
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