以下、図面を参照しながら、高圧ポンプ制御装置の一実施形態として、筒内直噴式エンジンシステム1を構成する高圧ポンプ20を制御する電子制御ユニット(ECU)50を説明する。
(実施形態)
まず、図1に基づいて筒内直噴式エンジンシステム1の概略構成を説明する。この筒内直噴式エンジンシステム1では、ガソリン機関等の内燃機関(エンジン)の筒内に直接噴射する燃料を微粒化するために、燃料タンク11から汲み上げられた低圧燃料を高圧ポンプ20が高圧にして吐出する。
詳しくは、図1に示すように、燃料を貯溜する燃料タンク11内には、燃料を汲み上げる低圧ポンプ12が設置されている。この低圧ポンプ12から吐出される燃料は、低圧配管13を介して高圧ポンプ20に供給される。高圧ポンプ20に導入された燃料は、高圧ポンプ20で高圧化された後、蓄圧室14に圧送される。圧送された高圧燃料は、蓄圧室14内に高圧状態で蓄えられた後、エンジンの各気筒に取り付けられた燃料噴射弁15から気筒内に直接噴射される。
次に、高圧ポンプ20を説明する。図1に示すように、筒内直噴式エンジンシステム1の高圧ポンプ20は、シリンダ21内でプランジャ22を往復移動させて、燃料を吸入及び吐出するプランジャポンプである。具体的には、プランジャ22の一方の端部22aは、図示しないスプリングの付勢力によりカム23に当接されている。カム23は、複数のカム山を有しており、エンジンのクランク軸16の回転に伴い回転するカム軸24に固定されている。これにより、エンジン運転時にクランク軸16が回転すると、カム23の回転に伴いプランジャ22がシリンダ21内を軸方向に往復する。
プランジャ22の他方の端部22bには加圧室25が設けられている。加圧室25は、燃料導入のための燃料吸入通路26と、燃料排出のための燃料排出通路27と、に連通している。これら燃料吸入通路26及び燃料排出通路27を介して加圧室25への燃料の導入及び排出が行われる。
燃料吸入通路26には、高圧ポンプ20の燃料吐出量を調整するスピル弁30が設けられている。スピル弁30は、燃料吸入通路26に配置された調量弁31と、調量弁31を開閉移動させる電磁駆動部40と、を備える。スピル弁30は、調量弁31が変位することで燃料吸入通路26内の燃料の流通を許容又は遮断する開閉弁として構成されている。
電磁駆動部40は、調量弁31の開閉移動の方向と同一方向に移動可能な可動部41と、可動部41を移動させる電磁部としてのコイル42と、可動部41に取り付けられたスプリング43と、を備える。可動部41は、コイル42の非通電時には、スプリング43により開弁位置に保持される。可動部41は、コイル42の通電時には、スプリング43の付勢力に抗して、ストッパ部44に当接する位置に変位する。なお、ストッパ部44は、可動部41の移動を制限する移動制限部材である。可動部41がストッパ部44に当接する位置は、可動部41の閉弁位置として定義される。コイル42の入力端子側には電源53が接続されており、電源53からコイル42に電力が供給される。
可動部41は、コイル42への通電及び非通電の切り替えにより調量弁31に当接又は調量弁31から離間することで調量弁31を開閉移動する。具体的には、図2(a)に示すように、コイル42が非通電であり、可動部41が開弁位置にある場合、調量弁31は可動部41によって押圧される。この場合、調量弁31は、スプリング32の付勢力に抗して、ストッパ部33に当接した位置で保持される。なお、ストッパ部33は、調量弁31の移動を制限する移動制限部材である。この状態では調量弁31は弁座34から離座しており、低圧配管13と加圧室25とが連通されることで加圧室25への低圧燃料の導入が許容される。
コイル42への通電に伴い可動部41が閉弁位置にある場合、図2(b)に示すように、調量弁31は可動部41による押圧から解放される。この場合、調量弁31は、スプリング32の付勢力によって弁座34に着座し、閉弁位置で保持される。この状態では、燃料吸入通路26内の燃料の流通が遮断された状態となり、加圧室25への低圧燃料の導入が遮断される。
燃料排出通路27には、逆止弁45が設けられている。逆止弁45は、弁体46とスプリング47とを備えている。加圧室25内の燃料圧力が所定圧以上になった場合に逆止弁45は開弁する。具体的には、加圧室25内の燃料圧力が所定圧未満では、スプリング47の付勢力によって弁体46が閉弁位置で保持された状態となり、加圧室25から燃料排出通路27への燃料の排出が遮断される。加圧室25内の燃料圧力が所定圧以上となると、スプリング47の付勢力に抗して弁体46が変位して開弁し、加圧室25から燃料排出通路27への燃料の排出が許容される。
高圧ポンプ20の燃料の吸入及び吐出について具体的に説明する。図2(a)に示す吸入行程では、スピル弁30が開弁状態にあると共にプランジャ22が加圧室25の容積を大きくする側に移動する。その移動に伴い、低圧配管13内の低圧の燃料が燃料吸入通路26を介して加圧室25に吸入される。図2(b)に示す吐出行程では、プランジャ22が加圧室25の容積を小さくする側に移動する。その移動に際にスピル弁30が閉弁していると、加圧室25内の燃料が加圧室25から燃料排出通路27へ吐出される。なお、高圧ポンプ20では、燃料の吸入行程及び吐出行程をそれぞれ1回ずつ含む期間をポンプ駆動の1周期Tpとしており、ポンプ駆動周期の繰り返しによって燃料の吸入及び吐出が実施される。
高圧ポンプ20の燃料吐出量は、コイル42の通電開始タイミングを制御してスピル弁30の閉弁開始タイミングを制御することによって調整される。具体的には、蓄圧室14の燃料圧力を上昇させる場合、コイル42の通電開始タイミングを進角させることによってスピル弁30の閉弁開始タイミングを進角させる。これによりプランジャ22の上方向への移動時における燃料の戻り量を少なくし、高圧ポンプ20の燃料吐出量を増大させる。一方、燃料圧力を低下させる場合、コイル42の通電開始タイミングを遅角させることによってスピル弁30の閉弁開始タイミングを遅角させる。これによりプランジャ22の上方向への移動時における燃料の戻り量を多くし、高圧ポンプ20の燃料吐出量を減少させる。
以上の他、筒内直噴式エンジンシステム1には、図1に示すように、クランク角センサ51、燃圧センサ52、及び電流センサ54を含む各種センサが設けられている。クランク角センサ51は、エンジンの所定クランク角毎に矩形状のクランク角信号を出力する。燃圧センサ52は、蓄圧室14内の燃料圧力を検出する。電流センサ54は、コイル42の出力電流を検出する。
ECU50は、マイクロコンピュータを主体として構成される。ECU50は、例えばROM等の記憶装置に記憶された各種の制御プログラムをCPU等のプロセッサが実行することで、都度のエンジン運転状態に応じてエンジンの各種制御を実施する機能を有する。例えば、ECU50は、前述した各種センサなどから各々検出信号を入力し、それら検出信号に基づいて、エンジンの運転に関する各種パラメータの項を演算すると共に、その演算値に基づいて燃料噴射弁15やスピル弁30の駆動を制御する。なお、ECU50の機能の少なくとも一部は、専用のIC等によって提供されてもよい。また、ECU50は、互いに通信可能な複数の離間した制御装置として提供されてもよい。
本実施形態のECU50は、燃圧センサ52により検出される燃圧である実燃圧を目標燃圧にするべく、高圧ポンプ20の吐出量制御として、実燃圧と目標燃圧との偏差に基づくフィードバック制御を実施する。これによりECU50は、蓄圧室14内の燃料圧力が、エンジン運転状態に応じた目標燃圧になるように制御する。
スピル弁30の開弁と閉弁の切り替えの際には、可動部41や調量弁31がストッパ部33や弁座34に衝突することで振動が発生し、この振動によって作動音が発生する。具体的には、スピル弁30を閉弁させる際には、コイル42の電磁吸引力により可動部41が閉弁位置に移動し、ストッパ部44に衝突することによって振動が発生する。また、スピル弁30を開弁させる際には、コイル42への通電停止に伴い可動部41が開側に移動して調量弁31に衝突すると振動が発生する。スピル弁30を開弁させる際にはさらに、可動部41に押圧されることで調量弁31がストッパ部33に衝突すると振動が発生する。こうした振動に伴う作動音は、搭乗者に違和感を与える虞がある。
そこで本実施形態のECU50は、静音制御が必要と予測される静音制御実行条件が成立している場合に、通常時(通常制御時)とは異なる態様でコイル42へ通電する静音制御を実施する。静音制御実行条件は、高圧ポンプ作動音が聞こえやすいと予測される場合等に成立するものであり、その詳細は後述する。以下、通常制御及び静音制御の概略を先ず説明し、その後、本実施形態の静音制御の詳細を説明する。
図3は通常制御の概略を示すタイムチャートである。通常制御は、静音制御実行条件が非成立と判定された場合、例えば高圧ポンプ20の作動音が目立たない状況であると判定された場合等に実行される。静音制御実行条件が成立しているか否かの判定処理の詳細は後述する。
図3において、プランジャ22が加圧室25の容積を小さくする側に移動している期間に通電開始タイミングが到来すると、ポンプ駆動信号をオフからオンに切り替える(時刻t11)。なお、通電開始タイミングは、蓄圧室14の燃料圧力の目標値である目標燃圧、エンジン回転速度、及び燃料噴射弁15の要求噴射量等に基づき算出される。通常制御では、まず、所定の電圧デューティ比(例えば100%)でコイル42に電圧印加し、コイル42に流れる電流を第1電流値A1(以下、閉弁電流ともいう)まで一気に上昇させる。その後、電流制御に移行する。詳しくは、コイル電流を第1電流値A1で制御する第1定電流制御を所定時間実施した後、第1電流値A1よりも低い第2電流値A2(以下、保持電流でもいう)で制御する第2定電流制御に移行する。こうした通電制御により、可動部41がコイル42に向けて吸引され、ストッパ部44に当接する位置まで移動する。また、調量弁31が弁座34に着座して閉弁状態になる(時刻t12)。この場合、可動部41がストッパ部44に衝突し、調量弁31が弁座34に衝突することで振動が発生し、作動音が生じる。
スピル弁30を開弁するための予め定められた開弁タイミングになると、ポンプ駆動信号をオフに切り替え、コイル42への通電を停止する(時刻t13)。予め定められた開弁タイミングとは、例えばプランジャ22の上死点TDC又は上死点前のタイミング等である。この通電停止により可動部41が開弁側へと移動し、調量弁31に衝突することで、閉弁時の振動よりも小さな振動が発生する。また、調量弁31がさらに開弁側に移動し、ストッパ部33に衝突することで閉弁時の振動と同等の振動が再び発生する(時刻t14)。なお、以上の通常制御は、このような振動による高圧ポンプ20の作動音が目立たないと予測される静音制御実行条件の非成立の場合に実施される。
これに対し静音制御では、図4に示すように、スピル弁30を閉弁させる際には通常制御よりも小さい電圧ディーティ比を設定し、可動部41をPWM駆動する。この場合、可動部41が通常制御よりも遅い速度で閉弁位置に移動することで可動部41がストッパ部44に衝突する際のエネルギが小さくなり、その結果、衝突する際の振動及び作動音が小さくなる(時刻t22)。
なお、コイル電流を第1電流値A1までゆっくりと上昇させることにより、電流の上昇過程の時刻t22で電流の一時的な低下が生じる。この電流変化は、可動部41がコイル42に近付くことによるコイル42のインダクタンスの変化に起因するものである。電流の一時的な低下が生じた時刻t22は、可動部41が閉弁位置まで移動したこと、つまりスピル弁30が閉弁状態になったことを示している。この電流の上昇過程での電流の一時的な低下の有無から、本実施形態のECU50は、電磁駆動部40への通電に応じて可動部41が閉弁位置まで移動したか否か、つまり、通電に応じて電磁駆動部40が実際に閉弁したか否かを判定する。さらに、ECU50は、通電に応じて電磁駆動部40が閉弁したと判定した場合、電磁駆動部40への通電開始から可動部41が閉弁位置まで移動するまでに要した時間の検出値である実応答時間を取得する。なお、電流の上昇過程での電流の一時的な低下は、コイル42に印加する電圧ディーティ比を大きくするほど小さくなり、やがて検出不能なほど小さくなる。
PWM駆動によりコイル電流を第1電流値A1まで上昇させた後では、通常制御と同様、第1定電流制御及び第2定電流制御を実施する。ただし、静音制御では、第2電流値A2で保持する期間を通常制御よりも長くして、可動部41を閉弁位置に保持しておく期間を延長する。
静音制御で可動部41を閉弁位置に保持しておく期間を延長する理由は以下の通りである。スピル弁30の開弁タイミングであるプランジャ22の上死点TDC及びその付近では未だ加圧室25内の燃圧が高く、加圧室25内の燃圧が可動部41を開側位置に移動させる方向に作用している。そのため、可動部41が調量弁31に突き当たって振動が発生し、これにより作動音が発生する(図3の時刻t13付近)。
こうした点を考慮し、静音制御のうち開弁制御では、コイル42への通電停止を通常制御よりも遅いタイミングで実施する。これにより加圧室25内の燃圧が十分に低下し、調量弁31が開弁側に移動を開始した後に可動部41を調量弁31に突き当てるようにしている。具体的には、静音制御の開弁制御では、プランジャ22の上死点後にコイル42への通電を停止する(時刻t24)。この場合、加圧室25の燃圧が高いほど、加圧室25内の燃圧が十分に低下するまでのカムリフト量の降下分が大きくなる。この点を考慮して本実施形態では、図5に示すように、加圧室25の燃圧ピーク値が高いほど、コイル42の通電延長期間が長くなるようにしている。この通電延長期間を本明細書では、静音制御用の閉弁保持延長通電期間とも呼ぶ。
時刻t24でコイル42への通電を停止すると可動部41が開弁側に移動を開始し、可動部41が調量弁31に突き当たることで振動が発生する。この場合、通電停止タイミングを通常制御よりも遅くすることで、可動部41が調量弁31に突き当たって発生する振動は通常制御の場合よりも小さくなる。
静音制御の開弁制御ではさらに、時刻t24でコイル42への通電停止後、可動部41が開弁位置に到達する前にコイル42に一時的に再通電する。これにより、コイル42に電磁吸引力を一時的に発生させ、この電磁吸引力により可動部41が開弁側に移動する際の移動速度を低下させる。こうした通電制御により、調量弁31がストッパ部33に衝突する際の振動が小さくなり、振動に伴い生じる作動音が低減される(時刻t27)。なお、一時的な再通電は、可動部41の閉弁位置方向への逆戻りが発生しない範囲の小さい電流で実施される。
以下、本実施形態の静音制御及び通常制御を実施するためのスピル弁制御の詳細を説明する。本実施形態のECU50は、図5に示すスピル弁制御ルーチンを、ECU50の電源オン期間中に所定周期で繰り返し実施する。
<通常制御用の通電開始角度処理>
図5に示すようにスピル弁制御ルーチンを開始すると、S100でECU50は、電磁駆動部40への通電開始角度[℃A]について通常制御用の通電開始角度onangbを算出する。通常制御用の通電開始角度onangbは、後述の処理S510(図12参照)で用いられる。本実施形態では、通常制御用の通電開始角度onangbは、目標燃圧、エンジン回転速度、及び燃料噴射弁15の要求噴射量等に基づいて公知の手法により算出される。公知の手法で算出される通電開始角度は、目標燃圧が大きいほど且つエンジン回転速度が大きいほど且つ燃料噴射弁15の要求噴射量が大きいほど、進角側となる。
さらにS100でECU50は、例えばプランジャ22の上死点TDC等の予め定めたる角度と通常制御用の通電開始角度onangbとの差から、通常制御用の通電角度期間を取得する。ECU50は、通常制御用通電角度期間をエンジン回転速度に基づいて時間に変換することにより、通常制御用通電期間を算出する。
<閉弁検出処理>
図5に示すようにS100が終了すると、次に閉弁検出処理がS101で実行される。以下、閉弁検出処理S101について説明する。
ECU50は、前回のスピル弁制御ルーチンのS107(後述)で実施した電磁駆動部40への通電に応じて、可動部41が閉弁位置まで移動したか否か、即ちスピル弁30が実際に閉弁したか否かが判定する。ECU50は、可動部41が実際に閉弁位置まで移動したと判定した場合、閉弁フラグをFLAG_CL=1に設定する。ECU50は、可動部41が実際に閉弁位置まで移動しなかったと判定した場合、閉弁フラグをFLAG_CL=0に設定する。閉弁フラグFLAG_CLは、後述の処理S502(図12参照)で用いられる。
さらに、ECU50は、可動部41が実際に閉弁位置まで移動したと判定した場合、電磁駆動部40への通電を開始してから可動部41が実際に閉弁位置まで移動した時間として実応答時間TIME_CLを検出する。実応答時間TIME_CLは、後述の処理S403等(図8参照)で用いられる。本実施形態では、可動部41が実際に閉弁位置まで移動したかの検出方法及び実応答時間の検出方法として、上記した電磁駆動部40への通電時にコイル42に流れる電流値変化に基づいた方法を採用する。この方法では、電磁駆動部40への供給電力が大きく通電開始から可動部41が閉弁位置に移動するまでの時間が短いと、コイル電流の上昇過程における電流の一時的な低下が検出不可能なほど小さくなる。よって、閉弁検出処理S101より検出可能な実応答時間の最小値がある。この最小値を、本明細書では閉弁検出可能最小時間とも呼ぶ。
<静音制御実行判定処理>
図5に示すように閉弁検出処理S101が終了すると、次にS102で、高圧ポンプ作動音が聞こえやすいと予測される等の静音制御が必要と予測される静音制御実行条件が成立しているか否かが判定される。以下、本実施形態の静音制御実行判定処理S102を、図6を参照して説明する。
図6に示すように、静音制御実行判定処理S102を開始すると、S201でECU50は、静音制御で使用可能なスピル弁30の閉弁所要角度期間の最大値[℃A]を算出する。この最大値を、本明細書では、使用可能角度期間最大値tgtbcaと呼ぶ。使用可能角度期間最大値tgtbcaは、次式より算出される。
tgtbca-=所定角度―第1角度期間―第2角度期間
所定角度とは、電磁駆動部40のコイル過熱によるコイル被覆劣化を防止する観点から予め定められた、ポンプ駆動の一周期辺りコイル42への通電許容最大角度であり、例えば、108[℃A]等である。第1角度期間とは、通常制御を実施すると仮定した場合の通電角度期間であり、例えばプランジャ22の上死点TDC等の予め定めた角度と通電開始角度onangとの差として算出できる。第1角度期間を、通常制御用の通電角度期間とも呼ぶ。第1角度期間は、図3に示す通常制御時のTonの期間に相当する。第2角度期間は、図4の説明で記載したように可動部41を閉弁位置に保持しておく期間を静音制御において通常制御と比べて延長した分の通電期間である。第2角度期間を、静音制御用の閉弁保持延長通電角度期間とも呼ぶ。以上より、使用可能角度期間最大値tgtbcaとは、コイル被覆劣化が防止されるように通電角度期間の上限を制約した場合の、静音制御で使用可能な閉弁所要角度最大値である。
S202でECU50は、S201で算出した使用可能角度期間最大値tgtbcaをエンジン回転速度に基づいて時間に換算することにより、静音制御で使用可能なスピル弁30の閉弁所要時間の最大値tgtbを算出する。閉弁所要時間の最大値tgtbを、使用可能時間最大値とも呼ぶ。
S203〜S211でECU50は、静音制御を実行すべきか否かを、例えば次の条件1〜9が成立するか否かに基づいて判定する。条件1〜9すべてが成立する場合、S212に進みECU50は、静音制御実行フラグsilent_exeを静音制御実行を示す1に設定する。条件1〜9のうち何れか一つでも成立しない場合、S213に進みECU50は、静音制御実行フラグを通常制御実行を示す0に設定する。
条件1:S202で算出したtgtbが、閉弁検出可能最小時間以上であること(S203)
条件2:エンジン負荷が所定負荷以下であること(S204)
条件3:エンジン回転速度が所定範囲内であること(S205)
条件4:バッテリ電圧が所定電圧以上であること(S206)
条件5:エンジン冷却水温度が所定温度以上であること(S207)
条件6:エンジン始動後、所定時間以上経過していること(S208)
条件7:車速が所定速度以下であること(S209)
条件8:目標燃圧に制御不能な状態が所定時間以内であること(S210)
条件9:所定禁止条件に該当しないこと(S211)
条件1は、使用可能時間最大値tgtbが、ECU50が検出可能な実応答時間の最小値以上であることを判定するための条件である。後述するように本実施形態の静音制御では、実応答時間を用いて、電磁駆動部40への供給電力を制御する。そのため、条件1が設けられている。
条件2は、吸気音等のエンジン負荷に相関がある騒音に比べて高圧ポンプ20の作動音が相対的に運転者に聞こえ易い状況であるか否かを判定するための条件であり、所定負荷はこの観点から予め定められる。
条件3は、エンジン回転速度数が、静音制御に不適な所定範囲外でないことを確認するための条件である。条件3における所定範囲の上限は、例えば2000rpmと設定される。
条件4は、バッテリ電圧が安定してコイル42へ安定した電力を供給できる状態であるかを判定するための条件であり、所定電圧はこの観点から予め定められる。
条件5は、エンジン冷却水温度が安定した状態であるかを判定するための条件であり、所定温度はこの観点から予め定められる。
条件6は、エンジン始動直後の触媒暖気のための期間経過後であるかを判定するための条件であり、所定時間は例えば0.5秒〜1秒とされる。
条件7は、車速の大きさと相関があるロードノイズ等に比べて高圧ポンプ20の作動音が相対的に運転者に聞こえ易い状況であるかを判定するための条件であり、所定速度はこの観点から予め定められる。
条件8は、ベーパロック等が原因の実燃圧が目標燃圧と一致しない燃圧制御不能状態についてその非発生を確認するための条件であり、所定時間はこの観点から予め定められる。実燃圧が目標燃圧と一致しないとは、厳密に一致しないことを意味しない。例えば、実燃圧と目標燃圧との間の偏差が所定値以上である場合に、一致しないとする。
条件9は、例えば断線等の所定禁止条件に該当しないことを確認するための条件である。
<目標応答時間算出処理>
図5に示すように静音制御実行判定処理S102が終了すると、次に目標時間応答算出処理がS103で実行される。
ECU50は、目標応答時間算出処理を実施することにより、電磁駆動部40への通電開始から可動部41が閉弁位置に移動する時間の目標値を目標応答時間tgtとして算出する。目標応答時間は後述の処理において、実応答時間と目標応答時間との間の偏差に基づいて電磁駆動部40への供給電力をフィードバック制御する際等に用いられる。以下、本実施形態の目標応答時間算出処理S103を、図7を参照して説明する。
図7に示すように、目標応答時間算出処理S103を開始すると、S301でECU50は、静音制御実行フラグがsilent_exe=1であるか否か判定する。S301で肯定判定がなされるとS302に進む。S301で否定判定がなされるとS307に進む。
S302でECU50は、使用可能時間最大値tgtbが回路検出可能時間内であるか否かを判定する。即ちS302でECU50は、使用可能時間最大値tgtbが閉弁検出可能最小時間以上であるか否かを判定する。S302で肯定判定がなされるとS304に進む。S302で否定判定がなされるとS303に進む。
S303でECU50は、tgtbに所定の固定値を代入する。所定の固定値は、閉弁検出可能最小時間以上の値として予め定められた値である。換言するとS303でECU50は、閉弁検出処理S101で検出可能な実応答時間の最小値以上の所定値をtgtbに代入する。
S304でECU50は、前回の目標応答時間算出処理で算出した目標応答時間tgt(i―1)が、使用可能時間最大値tgtbよりも小さいか否かを判定する。S304で肯定判定がなされるとS305に進む、S304で否定判定がなされるとS306に進む。
S305でECU50は、前回算出した目標応答時間tgt(i―1)を用いて、今回の目標応答時間tgtを次式により算出して、目標応答時間算出処理を終了する。
tgt=tgt(i―1)×(1−α)+tgtb×α
ここでαは、ゼロより大きく1よりも小さい所定値である。これにより、今回の目標応答時間tgtが使用可能時間最大値tgtbに漸近的に近づくように設定される。
S306は、S304で否定判定がなされた場合に実行されるステップである。S306でECU50は、今回の目標応答時間tgtとして使用可能時間最大値tgtbを設定して、目標応答時間算出処理を終了する。前回の目標応答時間tgt(i―1)が使用可能時間最大値tgtb以上の場合に今回の目標応答時間tgtを使用可能時間最大値tgtbで制限する理由は、例えば吐出不良等の不具合の可能性を考慮してのことである。このようにS305及びS306で今回の目標応答時間tgtが使用可能時間最大値tgtb以下となるように設定される。このため、使用可能時間最大値tgtbは目標応答時間の上限(目標時間上限値とも呼ぶ)として機能する。
S307は、S301で静音制御実行条件が非成立と判定された場合に実行されるステップである。S307でECU50は、目標応答時間tgtとして閉弁検出可能最小時間を設定する。なお、S307で算出された目標応答時間tgtは、次回の静音制御実行判定処理で静音制御実行フラグがsilent_exe=0からsilent_exe=1と設定された場合にS305で用いられる。つまり、S307で設定された目標応答時間は、静音制御実行条件が非成立から成立に切り替わった際にS305で目標応答時間を算出する際に用いられる。この観点から閉弁検出可能最小時間は、目標応答時間の初期値(目標時間初期値とも呼ぶ)として機能する。S307が完了すると、目標応答時間算出処理は終了する。
ECU50は以上の目標時間応答算出処理を繰り返し実施することにより、静音制御実行条件が非成立から成立に切り替わり成立が維持されている間、目標時間初期値と目標時間上限値との間の範囲で目標応答時間を目標時間上限値に向けて徐々に大きくする。
<駆動デューティ比算出処理>
図5に示すように目標応答時間算出処理S103が終了すると、次に駆動デューティ比算出処理がS104で実行される。
ECU50は、駆動デューティ比算出処理を実行することにより、電磁駆動部40へ通電する際の電圧デューティ比を算出する。電圧デューティ比を、駆動デューティ比とも称する。ECU50は、静音制御実行条件が非成立の場合、通常制御用の駆動デューティ比として所定値(例えば100%)を設定する。ECU50は、静音制御実行条件が成立している場合、目標応答時間と実応答時間とに基づいたフォードバック制御により、静音制御用の駆動デューティ比を算出する。本実施形態では、フィードバック制御として比例積分制御(PI制御)を用いる。以下、本実施形態の駆動デューティ比算出処理を、図8を参照して説明する。
図8に示すように駆動デューティ比算出処理を開始すると、S401でECU50は、静音制御実行フラグがsilent_exe=1であるか否か判定する。S401で肯定判定がなされるとS402に進む。S401で否定判定がなされるとS416に進み、通常制御用の駆動デューティ比(例えば、100%)を今回の駆動デューティ比として設定する。
S402でECU50は、目標応答時間tgtに基づいて駆動デューティ比ベース値[%]のフィードフォワード(F/F)項ffを例えば図9のテーブル等を用いて算出する。このテーブルは、大きな目標応答時間ほど小さい駆動デューティ比ベース値のF/F項ffを算出させる。
S403でECU50は、応答時間偏差を次式より算出する。
応答時間偏差=目標応答時間tgt−実応答時間TIME_CL
S403でECU50はさらに、応答時間偏差に基づいてPI制御の比例項ppを、例えば図10のマップ等を用いて算出する。具体的には、次のような比例項ppが算出される。応答時間偏差が所定偏差以上の場合、大きな応答時間偏差ほど小さな比例項となるように負の比例項が算出される。応答時間偏差が所定偏差以下の場合、小さな応答時間偏差ほど大きな比例項となるように正の比例項が算出される。応答時間偏差の絶対値が所定偏差よりも小さい場合、比例項としてゼロが算出される。この所定偏差は、駆動デューティ比の不要な変動ひいては高圧ポンプ作動音の音色変化を抑制するための不感帯として機能するように予め設定される。
S404でECU50は、閉弁フラグFLAG_CLが1であるか否を判定する。S404で肯定判定がなされるとS405に進む。S404で否定判定がなされるとS414に進む。
S405でECU50は、デューティ比カードヒットフラグがflag_dgrd=0であるか否かを判定する。デューティ比カードヒットフラグについては後述する。S405で肯定判定がなされるとS406に進む。S405で否定判定がなされると、今回算出する積分項iiとして、前回の駆動デューティ比算出処理で算出した積分項ii(i−1)を設定してS410に進む。
S406でECU50は、応答時間偏差に基づいて積分量iを算出する。具体的には例えば図11のマップ等を用いて次のように算出する。応答時間偏差が所定偏差以上の場合、大きな応答時間偏差ほど小さな積分量となるように負の積分量が算出される。応答時間偏差が所定偏差以下の場合、小さな応答時間偏差ほど大きな積分量となるように正の積分量が算出される。応答時間偏差の絶対値が所定偏差よりも小さい場合、積分量としてゼロが算出される。所定偏差は、駆動デューティ比の不要な変動ひいては高圧ポンプ作動音の音色の変化を抑制するための不感帯として機能するように予め設定される。
S407でECU50は、今回算出した積分量iと、前回算出した積分項ii(i−1)と、を用いて、今回の積分項iiを次式より算出する。
積分項ii=前回の積分項ii(i−1)+積分量i
S408でECU50は、S407で算出した積分項iiがガードにヒットとするか否か、即ち積分項iiが上限ガード値と下限ガード値との範囲外であるか否かを判定する。S408で否定判定がなされるとS410に進む。S408で肯定判定がなされるとS409に進む。
S409でECU50は、積分項iiをガード処理する。具体的にはS407で算出した積分項iiが積分項下限カード値よりも小さい場合、積分項iiを積分項下限ガード値に修正する。S407で算出した積分項iiが積分項上限カード値より大きい場合、積分項iiを積分項上限ガード値に修正する。
S410でECU50は、今回算出した比例項ppと積分項iiとを用いて、駆動デューティ比ベース値のF/B項fbを次式より算出する。
F/B項fb=比例項pp+積分項ii
S411でECU50は、F/F項ffとF/B項fbとを用いて、駆動デューティ比ベース値spill_duty_bを次式より算出する。
spill_duty_b=F/F項ff+F/B項fb
S412でECU50は、S411で算出された駆動デューティ比ベース値が下限ガード値dutymingrd及び上限ガード値の範囲外であるか否かを判定すると共に、駆動デューティ比ベース値に対してガード処理を行う。具体的には駆動デューティ比ベース値が下限ガード値よりも小さい場合、駆動デューティ比ベース値が下限ガード値に修正されると共に、デューティ比カードヒットフラグがflag_dgrd=1と設定される。駆動デューティ比ベース値が上限ガード値よりも大きい場合も、駆動デューティ比ベース値が上限ガード値に修正されると共に、デューティ比カードヒットフラグがflag_dgrd=1と設定される。なお下限ガード値dutymingrdは可変であり、後述するS414又はS415で変更されるものである。下限ガード値の初期値は、規定値であり例えば20%である。上限ガード値は固定値であり、例えば100%である。
S413でECU50は、電磁駆動部40の温度及び電源電圧等に基づいて駆動デューティ比ベース値を補正することにより、駆動デューティ比spill_dutyを算出する。駆動デューティ比ベース値の補正は、電磁駆動部40の温度に応じてとコイル42のインダクタンスが変化すること、及び電源電圧に応じて電磁駆動部通電時の電圧パルスの大きさが変化すること等を考慮して行われる。
S414は、S404で閉弁フラグFLAG_CLが0であると判定された場合に実施されるステップである。S414でECU50は、駆動デューティ比ベース値の下限ガード値dutymingrdを所定値だけ増加させる。所定値は、例えば1%である。さらにECU50は、増加させた下限ガード値を、今回の駆動デューティ比ベース値spill_duty_bとして設定する。このように前回通電時に可動部41が閉弁位置まで移動しなかったと判定された場合、駆動デューティ比ベース値の下限を大きくすることで、今回以降の通電で可動部41を閉弁位置まで移動させるための電磁駆動部40に供給する電力を大きくする。
S415は、S401で静音制御実行条件が非成立であると判定された場合に実行されるステップである。S415でECU50は、今回の駆動デューティ比として、通常制御用の所定値(例えば100%)を設定する。さらに、次回の駆動デューティ比算出処理のために、積分項iiをゼロにリセットすると共に、下限ガード値dutymingrdを初期値(例えば20%)にリセットする。さらに、デューティ比カードヒットフラグflag_dgrdを0にリセットし、駆動デューティ比算出処理を終了する。
<通電開始角度算出処理>
図5に示すように駆動デューティ比算出処理が終了すると、次に通電開始角度算出処理がS105で実行される。
ECU50は、通電開始角度算出処理を実施することにより、電磁駆動部40への通電を開始する角度である通電開始角度[℃A]を算出する。ECU50は、静音制御実行条件が非成立の場合、通常制御用の通電開始角度を今回の通電開始角度として設定する。ECU50は、静音制御実行条件が成立の場合、目標応答時間等に基づいて静音制御用の通電開始角度を算出して、今回の通電開始角度として設定する。以下、本実施形態の通電開始角度算出処理を、図12を参照して説明する。
図12に示すように通電開始角度算出処理を開始すると、S501でECU50は、静音制御実行フラグがsilent_exe=1であるか否か判定する。S501で否定判定がなされると、S510に進み、通常制御用の通電開始角度onangbを通電開始角度onangとして設定して通電開始角度算出処理を終了する。S501で肯定判定がなされると、S502に進む。
S502でECU50は、閉弁フラグがFLAG_CL=0であるか否かを算出する。言い換えると、前回通電時に電磁駆動部40の非閉弁が検出されたか否かが判定される。S502で肯定判定がなされるとS503に進む、S502で否定判定がなされるとS508に進む。
S503でECU50は、通電開始補正ベース時間ontimebとして目標応答時間tgtを設定し、S504に進む。
S508は、S502で否定判定がなされた場合に実行されるステップである。S508でECU50は、通電開始補正なましベース時間ontimebbとして、所定時間を設定してS509に進む。所定時間とは、所定角度期間[℃A]をエンジン回転速度を基に時間に換算にした値である。所定角度期間は、例えば使用可能角度期間最大値tgtbcaより大きな値として設定されて、所定時間は、使用可能時間最大値tgtbよりも大きな値として設定される。
S509でECU50は、今回算出した通電開始補正なましベース時間ontimebbと、前回算出した通電開始補正ベース時間ontimeb(i−1)と、を用いて次式により通電開始補正ベース時間ontimebを算出してS504に進む。
ontimeb=ontimeb(i−1)×(1−α)+ontimebb×α
ここで、αは0よりも大きく1よりも小さい所定値である。このようにして、前回通電時に可動部41が閉弁位置まで移動しなかったことが検出された場合、今回の通電開始補正ベース時間を、前回の通電開始補正ベース時間よりも増加させる。これは、前回通電時と比べて通電開始角度を早く(進角)させるために行われる。
S504は、S502で否定判定がなされた場合に実行されるステップである。S504でECU50は、通常制御時応答時間ontimenを算出してS505に進む。ここで、通常制御時応答時間とは、静音制御を実施しない場合に通電開始から可動部41が閉弁位置まで移動する時間である。本実施形態の通常制御時応答時間ontimenは、次式により算出される。
ontimen=応答時間ベース値×補正係数
応答時間ベース値は、エンジンの状態に応じた値であり、例えば図13に示すマップ等を用いて算出される。具体的には図13に示すマップは、バッテリ電圧が大きいほど且つエンジン回転速度が大きいほど小さな応答時間ベース値を算出させる。このマップは、次の2点を考慮して予め作成されたものである。バッテリ電圧が大きいほど電磁駆動部40のコイル42に印加される電圧の大きさが大きくなり、ひいては電磁吸引力が大きくなり、その結果、可動部41が閉弁位置まで移動する時間が小さくなる。またエンジン回転速度が大きいほど下死点から上死点までの圧縮行程において加圧室25から燃料吸入通路26への燃料流れの強さが大きくなり、その結果、可動部41が閉弁位置まで移動する時間が小さくなる。
補正係数は、エンジンの状態に応じた値であり、例えば図14に示すテーブル等を用いて算出される。具体的に図14に示すテーブルは、高圧ポンプ20の要求吐出量が大きいほど小さい補正係数を算出させる。このテーブルは次の点を考慮して予め作成されたものである。上記のように高圧ポンプ20の要求吐出量が小さいほど閉弁開始タイミングが遅く(遅角)なるように制御される。閉弁開始タイミングが遅いほど、圧縮行程において加圧室25から燃料吸入通路26への燃料流れの強さが大きくなり、ひいては、可動部41が閉弁位置まで移動する時間が小さくなる。
図12に示すようにS505でECU50は、通電開始補正ベース時間ontimebと通常制御時応答時間ontimenとを用いて、次式より通電開始補正時間ontimeを算出する。
ontime=ontimeb−ontimen
S506でECU50は、エンジン回転速度から通電開始補正時間ontimeを角度に変換することにより、通電開始補正角度onangcmpを算出する。
S507でECU50は、通常制御時の通電開始角度onangbから通電開始補正角度onangcmpを減算することにより、通電開始角度onangを次式により算出して通電開始角度算出処理を終了する。
onang=onangb―onangcmp
この通電開始角度onangは、静音制御用の通電開始角度であり、通常制御時の通電開始角度onangbを目標応答時間tgtに対応する角度だけ進角させたものである。
S510は、S501で静音制御実行条件が非成立であると判定された場合に実行される処理である。S510でECU50は、今回の通電開始角度onangとして通常制御用の通電開始角度onangbを設定して、通電開始角度算出処理を終了する。
<通電時間算出処理>
図5に示すようにECU50は、通電開始角度算出処理S105を終了すると、次に通電時間算出処理をS106で実行する。以下、通電開始角度算出処理を説明する。
ECU50は、静音制御実行条件が非成立の場合、S100で算出した通常制御用の通電期間を、今回の通電期間として設定する。ECU50は、静音制御実行条件が成立の場合、図4の説明で記載した通電延長時間により定まる通電終了角度と通電開始角度onangとの差をエンジン回転速度に基づいて時間に変換することにより、今回の電磁駆動部40への通電時間を算出する。
<通電実施処理>
図5に示すように通電時間算出処理S106が終了すると、次に通電実施処理がS107で実行される。以下、通電実施処理について説明する。
ECU50は、通電開始角度onangのタイミングで駆動デューティ比spill_dutyでコイル42への電圧印加を開始し、通電時間算出処理S106で算出した通電期間、コイル42へ電力を供給させる。なお、図3及び図4の説明で記載したとおり、電磁駆動部40への通電では駆動デューティ比spill_dutyでコイル42へ電力が供給された後に定電流制御が実行される。
図5に示すように通電実施処理が終了すると、今回のスピル弁制御ルーチンが終了し、処理はS100に戻る。以上のスピル弁制御ルーチンが繰り返し実行される。
<作動>
次に、本実施形態のスピル弁制御ルーチンによる高圧ポンプ20の作動例を、図15及び図16それぞれを参照して説明する。なお、以下の図15及び図16の説明では、図中の符号を省略して説明する。まず図15の作動例を説明する。
図15では、時刻T=0.6秒まで静音制御実行条件が非成立、即ち静音制御実行フラグが0であり通常制御が実行されている。このため、図15に示すように時刻T=0.6秒まで、スピル弁30を閉弁させるために電磁駆動部40へ供給される電力の駆動デューティ比は、S415で設定される所定値(例えば100%)となる。
時刻T=0.6秒で静音制御実行条件が非成立から成立に切り替わり、即ち静音制御実行フラグが0から1に切り替わり、時刻T=10.3秒まで静音制御実行条件の成立が維持される。この間、通常制御時の駆動デューティ比(例えば100%)と比べて小さい駆動デューティ比(例えば25%〜35%)が算出されて、電磁駆動部40への供給電力が小さくなっている。これより実応答時間が長くなり、高圧ポンプ20の作動音が小さくなっている。
ところで、本実施形態の制御を実施しないと、電磁駆動部40への通電開始から可動部41が閉弁位置まで移動する時間である実応答時間は、高圧ポンプ20の個体差に応じてばらつく虞がある。可動部41を支持するスプリング43の強さやコイル42が発生する電磁吸引力等が製造誤差等によりばらつくためである。また、実応答時間は、エンジンの状態に応じてばらつく。燃料圧力や燃料温度等に応じて可動部41の動きやすさが異なるためである。
そこで、図15に示すように本実施形態の静音制御では、実応答時間を目標応答時間に一致させるように駆動デューティ比ベース値ひいては駆動デューティ比がフィードバック制御されている。このような制御により可動部41が目標応答時間で閉弁位置まで移動するように制御されている。このようにして個体差に起因する実応答時間のばらつきの発生が抑制されていると共に、エンジンの状態に応じた実弁応答時間のばらつきの発生が抑制されつつ、高圧ポンプ20の作動音が低減されている。
また、高圧ポンプ20の個体差に起因する実応答時間のばらつきは、実応答時間が大きい場合ほど大きくなる。すなわち駆動デューティ比が小さいほど実応答時間のばらつきは大きくなる。この点に関し、静音制御実行条件が非成立から成立に切り替わった時刻T=0.6秒において、目標応答時間を目標時間上限値に設定してフィードバック制御を行う場合を考える。この場合、高圧ポンプ20の個体差に起因する実応答時間のばらつきによって、実応答時間と目標応答時間との不一致の度合いが大きくなる虞がある。この不一致の分だけ、フィードバック制御により実応答時間を目標応答時間に一致させるまでに時間を要する虞がある。この不一致は、個体差に起因した高圧ポンプ20の吐出量として現れる。
そこで、本実施形態の作動では図15の時刻T=0.6秒に静音制御実行条件が非成立から成立に切り替わり時刻T=3.0秒までの間に繰り返し算出される目標応答時間が、目標時間初期値から目標時間上限値まで徐々に大きくなっている。このような作動では、静音制御実行初期におけるフィードバック制御は、高圧ポンプ20の個体差に起因する実応答時間のばらつきの影響が小さい状況にて実施される(T=0.6秒〜1秒)。すなわち、静音制御実行初期において目標時間上限値を目標応答時間に設定する場合と比べて、速やかに実応答時間が目標応答時間に収束する。このように図15の作動では実応答時間を目標応答時間に収束させつつ、目標応答時間が目標時間上限値へ徐々に大きくされている。個体差が原因の実応答時間と目標応答時間との偏差が吸収されつつ、実応答時間が徐々に大きなっているとも言える。
また図15に示す作動例の駆動デューティ比は、フィードバック制御により算出した駆動デューティ比ベース値をエンジンの状態に応じて補正することにより算出されたものである。よって、例えば燃料圧力や燃料温度等に応じて可動部41の動きやすさが異なる等の個体差に起因する実応答時間のばらつきの影響が作動に現れる前に、事前にその影響が低減されている。
さらに図15に示す本実施形態の作動では、静音制御における通電開始角度が目標応答時間に相当する角度だけ、通常制御用の通電開始角度と比べて進角させられている。このため、静音制御時も通常制御時と同様のタイミングで可動部41が閉弁位置に達し、高圧ポンプ20の作動音を低減させつつ、所望の高圧ポンプ20の燃料吐出量が実現されている。
さらに図15に示す作動例では、静音制御において目標応答時間が目標時間上限値となった後、すなわち時刻T=3.0秒後、目標応答時間が微小に増減している。しかし、目標応答時間と実応答時間とに基づくフィードバック制御の結果としての実応答時間の変動は目標応答時間の時間変動と比べて小さい。図15に示す作動例では時刻T=3.0秒後、目標応答時間が微小に増減しているにも係らず駆動デューティ比及び実応答時間は一定となっている。これは、フィードバック制御の比例項及び積分量の算出のためのマップ等に図10及び図11に示す不感帯が設けられているためである。このように図15に示す作動例では、静音制御実行中において駆動デューティ比の微小変動が抑制されて、ひいては高圧ポンプ20の作動音の音色の変化が抑制されている。
次に図16の作動例を、図15の作動例との相違点を中心に説明する。図16の作動例は、静音制御実行中にスピル弁30の非閉弁が検出されていることが図15の作動例と異なる。
図16に示すように、静音制御実行条件が時刻T=0.6秒で成立した後に目標応答時間を目標時間上限値に向けて徐々に大きくしていく過程で、スピル弁30の非閉弁が時刻T=1.4秒で判定されている。すなあち、電磁駆動部40への通電時に可動部41が閉弁位置まで移動しなかったことが検出されている。この非閉弁は、例えば高圧ポンプ20に個体差に起因して同じ駆動デューティ比で通電しても図15の場合と比べて可動部41が閉弁位置まで移動しにくい場合等に生じ得る。
その結果、図16に示すように時刻T=1.4秒で閉弁判定フラグが0となり、駆動デューティ比ベース値の下限ガード値が所定値(例えば1%)だけ増加される。その結果、時刻T=1.4秒より後では、駆動デューティ比ベース値及び駆動デューティ比が、スピル弁30の非閉弁が判定されたときの駆動デューティ比ベース値及び駆動デューティ比と比べて大きく算出されている。図16の例では、増加された駆動デューティ比による電磁駆動部40への通電に応じて電磁駆動部40が閉弁したと判定されている。その以後、静音制御実行条件の成立が維持されている間、スピル弁30の非閉弁を防止するために、この閉弁可能な駆動デューティ比以上の駆動デューティ比で電磁駆動部40への通電が行われている。
また、図16に示す作動例では、スピル弁30の非閉弁を招いた通電(前回通電)の次に実施される通電において通電開始角度が、S505及びS507により前回通電時の通電開始角度と比べて進角されている。このように通電開始角度が進角した分だけ燃料吐出量が増加する。この吐出量の増加によって、スピル弁30の非閉弁に起因する燃料吐出量の減少が部分的に相殺されている。
<作用効果>
上記実施形態において、通常制御用通電期間算出処理S100を実施するECU50が、通常制御用通電期間算出部に相当する。閉弁検出処理S101を実施するECU50が、閉弁検出部に相当する。静音制御実行判定処理S102を実施するECU50が、静音制御実行判定部に相当する。目標応答時間算出処理S103を実施するECU50が、目標応答時間算出部に相当する。駆動デューティ比算出処理S104を実施するECU50が、通電電力制御部に相当する。通電開始角度算出処理S105を実施するECU50が、通電開始タイミング算出部に相当する。
上記実施形態のECU50は、実応答時間を検出する閉弁検出処理S101と、エンジン状態に応じて目標応答時間と目標時間上限値を算出する目標応答時間算出処理S103と、静音制御が必要と予測される静音制御実行条件が成立している場合、実応答時間を目標応答時間に一致させるように電磁駆動部40への供給電力を増減させるフィードバック制御を繰り返す駆動デューティ比算出処理S104と、を実施する。
この構成によれば、個体差に起因する実応答時間のばらつきが抑制可能となり、ひいては高圧ポンプ20の吐出量が個体毎にばらつくことを抑制できる。また、実応答時間が目標応答時間に一致にするように制御されるために、エンジンの状態に応じた実応答時間のばらつきも抑制可能となる。
ところで、静音制御実行条件が非成立から成立になったときに目標応答時間として目標時間上限値を設定する場合を考える。この場合では、静音制御実行条件の成立直後のフィードバック制御において、個体差が原因で実応答時間と目標応答時間との不一致の度合いが大きい状況が生じ得る。この不一致の分だけ、フィードバック制御により実応答時間を目標応答時間に一致させるまでに時間を要する。
そこで目標応答時間算出処理S103では、静音制御実行条件が非成立から成立になり駆動デューティ比算出処理S104によりフィードバック制御が繰り返されている間、目標応答時間を目標時間上限値に向けて徐々に大きくする。
この構成によれば、静音制御実行条件の成立直後のフィードバック制御で用いる目標応答時間が目標時間上限値よりも小さくなる。このため、静音制御実行条件が非成立から成立になった時に目標応答時間として最初から目標時間上限値を設定する場合と比べて、個体差が原因の実応答時間と目標応答時間との不一致が小さい状況にてフィードバック制御を開始可能となる。言い換えると、個体差が原因の実応答時間と目標応答時間との不一致をフィードバック制御により速やかに吸収可能な状況にて、フィードバック制御が開始できる。その後、実応答時間と目標応答時間との不一致を吸収するフィードバック制御が繰り返し実施されている間、目標応答時間が目標時間上限値に向けて徐々に大きくされる。このようにして実応答時間と目標応答時間との不一致を抑制しつつ、実応答時間を徐々に大きくできる。この結果、個体差に起因する実応答時間のばらつきをさらに抑制可能となり、高圧ポンプ20の吐出量が個体毎にばらつくことをさらに抑制可能となる。
また、閉弁検出処理S101により検出可能な実応答時間の最小値を検出可能時間最小値とすると、静音制御実行条件が非成立から成立になりフィードバック制御が繰り返されている間、検出可能時間最小値と目標時間上限値との間の範囲で目標応答時間が目標時間上限値に向けて徐々に大きくされる。
このような構成によれば、実応答時間と目標応答時間とを用いたフィードバック制御を、検出可能時間最小値を目標応答時間の下限とする広い範囲で実施できるようになる。
上記実施形態のECU50は、静音制御実行条件が非成立の場合に電磁駆動部40へ通電する期間をエンジン状態に応じて通常制御用通電期間として算出する処理S100を実施する。プランジャ22の一往復あたりにおける電磁駆動部40への通電時間の最大許容時間を通電許容最大時間とすると、通常制御用通電期間と目標時間上限値との和が通電許容最大時間を超えないように目標時間上限値が目標応答時間算出処理S103で設定される。
この構成によれば、プランジャ22の一往復あたりにおける通電許容最大時間を超えた電磁駆動部40への通電が制限される。よって、過度の通電による不具合を抑制できる。また、目標時間上限値が上記のように設定されるので、実応答時間と目標応答時間とを用いたフィードバック制御を、通電許容最大時間によって制約される目標時間上限値を目標応答時間の上限とする広い範囲で実施できるようになる。
また、本実施形態のECU50は、実応答時間と目標応答時間との間の偏差が不感帯内にある場合、偏差に基づいた電磁駆動部への供給電力の増減を禁止する。
この構成によれば、電磁駆動部40への供給電力の微小な変動が抑制でき、ひいては高圧ポンプ20の作動音の音色の変化が抑制できる。
また、本実施形態のECU50では、静音制御実行条件が成立している場合に電磁駆動部40へ電力供給を開始する通電開始タイミングを目標応答時間が大きいほど早いタイミングとして通電開始角度算出処理S105で算出する。
この構成によれば、目標応答時間が大きくなるほど実応答時間が大きくなることに起因して可動部41が閉弁位置に達するタイミングが遅くなることを、通電開始タイミングを早くした分だけ抑制できる。
また、本実施形態のECU50では、電磁駆動部40への通電に応じて可動部41が閉弁位置まで実際に移動したか否かを閉弁検出処理S101で判定する。この判定で否定判定がなされた場合、通電開始角度算出処理S105において、次の電磁駆動部40への通電開始タイミングを早くする。
このように次の通電開始タイミングを早くすることに応じて調量弁31の閉弁開始タイミングを早くすることができ、燃料吐出量を増加させることができる。故に、前回通電時の非閉弁に起因する燃料吐出量の減少を打ち消すことできる。
(変形例)
上記実施形態は、様々に変形できる。以下、変形例を例示する。
上記実施形態では、筒内直噴式エンジンシステム1を構成するエンジンとしてガソリン機関を例示した。しかし、エンジンはディーゼル機関であってもよい。
上記実施形態では、電磁駆動部40への供給電力の制御方法として、コイル42に印加される電圧のデューティ比を可変制御した。しかし、電磁駆動部40への供給電力を制御する方法はこれに限定されない。例えば電圧レベルを可変にすることにより供給電力を制御してもよい。
上記実施形態の閉弁検出処理S101では、コイル42に流れる電流変化に基づいて、スピル弁30が閉弁したか否かを判定した。しかし、スピル弁30が閉弁したか否かを判定方法はこれに限定されない。例えば可動部41のストッパ部44への衝突により発生する振動を検出することにより、スピル弁30が閉弁したか否かを判定してもよい。また、振動の検出タイミングに基づいて実応答時間を検出してもよい。
上記実施形態の静音制御実行判定処理S102では、静音制御を実行すべきが否かを判定するための条件として、条件1〜条件9を用いた。しかし条件1〜条件9のうち一部の条件を用いて、静音制御を実行すべきが否かを判定してもよい。他の条件を加えて判定してもよい。
上記実施形態の目標応答時間算出処理S103では、目標応答時間を目標時間上限値に向けて徐々に大きくする方法としてS305を例示した。しかし、目標応答時間を徐々に大きくする方法はこれに限定されない。目標応答時間を目標時間初期値から目標時間上限値まで徐々に大きくできるならば、他の方法でもよい。
上記実施形態の駆動デューティ比算出処理S104では、目標応答時間と実応答時間との基づくフィードバック制御としてPI制御を用いた。しかし、フィードバック制御はこれに限定されない。例えば比例積分微分(PID)制御を用いてもよい。また駆動デューティ比算出処理S104では、静音制御実行条件が成立から非成立に切り替わった場合、S415で駆動デューティ比ベース値の下限ガード値を初期値にリセットした。しかし、ECU50の電源ON期間中は、S415で駆動デューティ比ベース値の下限ガード値を維持する構成してもよい。この場合、駆動デューティ比ベース値の下限ガード値は、ECU50の電源OFF時又は次回電源ON時に初期値にリセットする構成としてもよい。