JP2019059390A - 車両用内装基材 - Google Patents

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利晃 廣橋
啓治 臼田
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Abstract

【課題】イソシアネートの染み出しが発生するのを防止してなると共に、意図した態様のプリント層を主面上に備えることで優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な、車両用内装基材に関する。【解決手段】撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートにおける少なくとも一方の主面上にプリント層が存在してなる、車両用内装基材において、界面活性剤を含有するプリント層を備える車両用内装基材であることによって、プリントムラが少ないプリント層を備えた車両用内装基材を実現して、課題を解決できる。また、該車両用内装基材において、繊維シートの少なくとも一方の主面上に存在するプリント層におけるプリント面積のCV値が3.34%未満であることによって、プリントムラが少ないプリント層を備える車両用内装基材を実現して、課題を解決できる。【選択図】図2

Description

本発明は、イソシアネートの染み出しが発生するのを防止してなると共に、意図した態様のプリント層を主面上に備えることで優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な、車両用内装基材に関する。
近年、ソフトな風合と優れた外観を有する車両用内装材として、例えば特開2004−027466号公報(特許文献1)に開示されているような、繊維シートからなる車両用内装基材の主面上に、液状イソシアネートと水とを反応させてなるポリウレタン系樹脂の層を備えた車両用内装材が検討されている。なお、特許文献1には、車両用内装基材を構成している繊維シートが撥水剤および/または撥油剤を含有しているため、車両用内装基材に液状イソシアネートの染み出しが発生するのを防止して、車両用内装材を製造できることが開示されている。
また、同様に優れた外観を有する車両用内装材として、例えば特開2014−214395号公報(特許文献2)に開示されているような、繊維シートの主面上にプリント液を付与することで形成したプリント柄を備えた車両用内装基材を用いて、車両用内装材を製造できることが開示されている。
特開2004−027466号公報 特開2014−214395号公報
本願出願人は、イソシアネートの染み出しが発生するのを防止してなると共に、意図した態様のプリント層を主面上に備えることで優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な、車両用内装基材の実現を目指した。そして、従来技術を参考にして、撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートの主面上に、プリント液を付与することで形成したプリント層を備える車両用内装基材について検討した。
しかしながら、得られた車両用内装基材のプリント層には多くのプリントムラが認められた。なお、得られた車両用内装基材が有するプリントムラの程度を、後述するプリント面積のCV値として算出し評価したところ、その値は3.34%以上となるものであった。
そのため従来技術の限りでは、イソシアネートの染み出しが発生するのを防止してなると共に、プリントムラが少ないことによって、意図した態様のプリント層を主面上に備えることで優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な、車両用内装基材を実現できなかった。
本発明は、イソシアネートの染み出しが発生するのを防止してなると共に、意図した態様のプリント層を主面上に備えることで優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な、車両用内装基材の提供を目的とする。
第一発明は「撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートにおける少なくとも一方の主面上にプリント層が存在してなる、車両用内装基材であって、前記主面上に存在するプリント層は界面活性剤を含有している、車両用内装基材。」である。

第二発明は「撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートにおける少なくとも一方の主面上にプリント層が存在してなる、車両用内装基材であって、前記主面上に存在するプリント層における、下記方法で算出したプリント面積のCV値が3.34%未満である、車両用内装基材。

1.車両用内装基材における、プリント層が存在している主面の正面写真を撮影する、
2.撮影した正面写真から、同一単位のプリント形状を有する一辺4.23cm(600dpi,1000ピクセル)の正方形形状の区画を、重複部分が存在しないようにして合計16区画選出する、
3.選出した各区画におけるプリントが存在している各面積(プリント面積)から、以下式に基づきCV値を算出する、
CV値(%)=100×(各プリント面積の標準偏差/各プリント面積の平均値)」である。
本願出願人は、従来技術に基づき検討した車両用内装基材に多くのプリントムラが発生した理由をつきとめた。
つまり、繊維シートへプリント液を付与する際、繊維シートに含まれる撥水剤および/または撥油剤の存在によって、繊維シート表面からプリント液がはじかれ易い。その結果、繊維シート表面全体にわたりプリント液の存在量にムラが生じることから、得られたプリント層を備える車両用内装基材は、プリント層に多くのプリントムラが存在するものとなった。
そして、本願出願人は上述の問題を解決するため検討を続けた結果、界面活性剤を含有するプリント液は繊維シート表面からはじかれ難いことを見出した。そのため、界面活性剤を含有するプリント層を備える車両用内装基材であることによって、プリントムラが少ないプリント層を備えた車両用内装基材を実現できることを見出した。

また、本発明の車両用内装基材は、撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートを備える車両用内装基材であるためイソシアネートの染み出し防止性能に優れていると共に、繊維シートの少なくとも一方の主面上に存在するプリント層におけるプリント面積のCV値が3.34%未満であることから、プリントムラが少ないプリント層を備える車両用内装基材である。

以上から、本発明によって、イソシアネートの染み出しが発生するのを防止してなると共に、プリントムラが少ないことによって、意図した態様のプリント層を主面上に備えることで優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な、車両用内装基材を提供することができる。
比較例2で製造した車両用内装基材における、プリント層が存在している主面を撮影した正面写真である。 実施例2で製造した車両用内装基材における、プリント層が存在している主面を撮影した正面写真である。
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。

本発明の車両用内装基材は、撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートにおける少なくとも一方の主面上にプリント層が存在する構成を備えている。
本発明でいう繊維シートとは、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編み物などの、シート状の布帛あるいは該布帛由来の繊維層を備えたシート状の繊維構造体である。
本発明の車両用内装基材は、繊維シート(特に、不織布)を含んでいるため柔軟であり、ソフトな風合と優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な車両用内装基材であると共に、柔軟で金型への追従性に優れる車両用内装材を提供可能な車両用内装基材である。
繊維シートの構成繊維は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機樹脂を用いて構成できる。
なお、これらの有機樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また有機樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また有機樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。更には、多成分の有機樹脂を混ぜ合わせたものでも良い。
なお、車両用内装基材に難燃性が求められる場合には、繊維シートの構成繊維が難燃性の有機樹脂を含んでいるのが好ましい。このような難燃性の有機樹脂として、例えば、モダアクリル樹脂、ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ノボロイド樹脂、ポリクラール樹脂、リン化合物を共重合したポリエステル樹脂、ハロゲン含有モノマーを共重合したアクリル樹脂、アラミド樹脂、ハロゲン系やリン系又は金属化合物系の難燃剤を練り込んだ樹脂などを挙げることができる。
構成繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。

構成繊維は、一種類の有機樹脂から構成されてなるものでも、複数種類の有機樹脂から構成されてなるものでも構わない。複数種類の有機樹脂から構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
また、構成繊維は、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維であってもよい。
繊維シートが構成繊維として熱融着性繊維を含んでいる場合には、繊維同士を熱融着することによって繊維シートに強度と形態安定性を付与でき、更に、毛羽立ちや繊維の飛散を抑制して、優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な車両用内装基材となり好ましい。このような熱融着性繊維は、全融着型の熱融着性繊維であっても良いし、上述した複合繊維のような一部融着型の熱融着性繊維であっても良い。熱融着性繊維の熱融着性を発揮する成分の種類は適宜選択するが、例えば、低融点ポリオレフィン系樹脂や低融点ポリエステル系樹脂などを使用することができる。
繊維シートが捲縮性繊維を含んでいる場合には、伸縮性が増して金型への追従性に優れ、優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な車両用内装基材となり好ましい。このような捲縮性繊維として、例えば、潜在捲縮性繊維の捲縮を発現した捲縮性繊維やクリンプを有する繊維などを使用することができる。
繊維シートが繊維ウェブや不織布である場合、例えば、上述の繊維をカード装置やエアレイ装置などに供することで繊維を絡み合わせる乾式法、繊維を分散媒に分散させシート状に抄き繊維を絡み合わせる湿式法、繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集する直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009−287138号公報に開示の方法)など)などによって、繊維シートを調製できる。
上述のようにして調製した繊維ウェブの構成繊維を、絡合および/または一体化させることで不織布を調製できる。構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法として、例えば、ニードルや水流あるいは水蒸気流などの気体流によって絡合する方法、バインダあるいは接着繊維によって繊維ウエブの構成繊維同士を接着により一体化させる方法などを挙げることができる。
加熱処理によってバインダや接着繊維の一部あるいは全てを溶融させて、構成繊維同士を溶融接着により一体化させてもよい。その際の加熱処理の方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して含まれている有機樹脂を加熱する方法などを用いることができる。
使用可能なバインダの種類は適宜選択するが、例えば、ポリオレフィン(変性ポリオレフィンなど)、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリレート共重合体、各種ゴムおよびその誘導体[スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)など]、セルロース誘導体[カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど]、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF−HFP)、アクリル系樹脂などを使用できる。特に、バインダがアクリル系樹脂を含有していると、金型を用いたヒートプレス等の熱成型時に適度に軟化するため、金型への追従性に優れ、優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な車両用内装基材となり好ましい。
また、バインダには上述した樹脂以外にも、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、増粘剤、消泡剤などの添加剤を含有していてもよい。
繊維シートに含まれるバインダ量は適宜選択するが、バインダ量が多いほど主面が平滑であるなど、優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な車両用内装基材となり好ましいことから、繊維シートに含まれるバインダ量は、2g/m以上であるのが好ましい。一方、バインダ量が過剰に多い場合には、繊維シートの柔軟性が劣ることで、金型への追従性に劣り、優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な車両用内装基材を提供し難くなる恐れがあることから、バインダ量は、20g/m以下であるのが好ましく、10g/m以下であるのが好ましく、5g/m以下であるのが好ましい。
繊維シートが織物や編物である場合、上述のようにして調製した繊維を織るあるいは編むことで、織物や編物を調製できる。
なお、繊維ウェブ以外にも不織布あるいは織物や編物など繊維シートを、上述した構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法へ供しても良い。
繊維シートの構成繊維の繊度は特に限定するものではないが、優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な車両用内装基材であるように、1dtex以上であるのが好ましく、1.5dtex以上であるのがより好ましく、2dtex以上であるのがより好ましい。他方、均質な地合いであることで優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な車両用内装基材であるように、100dtex以下であるのが好ましく、50dtex以下であるのがより好ましく、30dtex以下であるのがより好ましく、10dtex以下であるのが更に好ましい。
また、繊維シートの構成繊維の繊維長も特に限定するものではないが、均質な地合いであることで優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な車両用内装基材であるように、20mm以上であるのが好ましく、25mm以上であるのがより好ましく、30mm以上であるのが更に好ましい。他方、繊維長が110mmを超えると、繊維シートの調製時に繊維塊が形成される傾向があり地合が均質とならず、優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な車両用内装基材を提供できなくなる恐れがあることから、110mm以下であるのが好ましく、60mm以下であるのがより好ましい。
なお、「繊維長」は、JIS L1015(2010)、8.4.1c)直接法(C法)に則って測定した値をいう。
繊維シートの、例えば厚さや目付などの諸構成は、特に限定されるべきものではなく適宜選択するが、例えば繊維シートの厚さは、0.5〜5mmであるのが好ましく、1〜3mmであるのがより好ましく、1.1〜1.9mmであるのが最も好ましい。また、繊維シートの目付は、50〜500g/mであるのが好ましく、80〜300g/mであるのがより好ましく、100〜250g/mであるのが最も好ましい。
なお、本発明において厚さとは、測定対象物の最も広い面積を有する面(主面)と垂直をなす方向へ20g/cm圧縮荷重をかけた時の、測定対象物における該垂直方向の長さをいい、目付とは測定対象物の主面における1mあたりに換算した質量をいう。
本発明において撥水剤とは、繊維シートの撥水性能を向上でき、イソシアネートの染み出しが発生するのを防止した車両用内装基材を提供可能な薬剤を指す。このような撥水剤として、例えば、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂などを使用できる。
本発明において撥油剤とは、繊維シートの撥油性能を向上でき、イソシアネートの染み出しが発生するのを防止した車両用内装基材を提供可能な薬剤を指す。このような撥油剤として、例えば、フッ素系撥油剤(特にパーフルオロアルキル基を有するフッ素系撥油剤)、シリコン系樹脂などを使用できる。なお、撥油剤は、通常、撥水剤としても機能するため、撥油剤を使用することで所望する撥水性能を向上させることも可能である。
本発明でいう繊維シートが撥水剤および/または撥油剤を含有している態様は、適宜選択できるが、例えば、(1)繊維シートの表面全面のみ、あるいは、一方の主面のみなど繊維シートの表面一部にのみに存在している態様、(2)前述の(1)に加え繊維シートの内部にも存在している態様などの態様であることができる。
なお、撥水剤および/または撥油剤は、繊維シートの構成繊維表面上に皮膜状あるいは粒子状に存在する、繊維シートの構成繊維同士の間に存在する、繊維シートの構成繊維中に練り込まれた態様で存在する、何れかの態様あるいは複数の態様を複合した態様で存在することができる。
繊維シートが含有する撥水剤および/または撥油剤の含有量(固形分質量)は、イソシアネートの染み出しが発生するのを防止した車両用内装基材を提供できるよう、適宜選択する。具体的には、0.1g/m以上であるのが好ましく、2g/m以上であるのがより好ましく、50g/m以下であるのが好ましい。
本発明の車両用内装基材は、撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートの少なくとも一方の主面上(換言すれば、繊維シートにおける撥水剤および/または撥油剤を含有する少なくとも一方の主面上)にプリント層が存在してなる構造を備えている。
本発明でいうプリント層とは、前記主面上に存在する樹脂を含有する層を指す。
プリント層を構成する樹脂の種類は適宜選択でき、上述したバインダと同様の樹脂を採用することができる。特に、金型を用いたヒートプレス等の熱成型時に適度に軟化することで、金型への追従性に優れ、優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な車両用内装基材となり好ましいことから、プリント層を構成する樹脂がアクリル系樹脂を含んでいるのが好ましい。
繊維シートの少なくとも一方の主面上に存在するプリント層の態様は適宜選択でき、該主面全面を覆うように存在している態様、あるいは、線状やドット状あるいは不定形状などの柄を形成するように該主面の一部を覆い存在している態様であることができる。なお、該主面全面を覆うようにプリント層が存在している態様において、プリント層は通気性を有する態様で存在していても、通気性を有していないフィルム状の態様で存在していてもよいが、金型への追従性に優れ、優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な車両用内装基材となり好ましいことから、プリント層は通気性を有する態様で存在しているのが好ましい。なお、該主面の一部を覆いプリント層が存在している態様もまた、通気性を有する態様でプリント層が存在している態様である。
プリント層は一種類あるいは複数種類の樹脂を含有する層を一層だけ備えるものであっても、数種類の樹脂を含有する層を複数備えるものであっても良い。また、複数の層が含有する後述の添加剤の種類は互いに異なるものであっても良い。
なお、プリント層は繊維シートにおける少なくとも一方の主面上に存在するのであれば、繊維シートの一方の主面上や繊維シートの両主面上、あるいは、繊維シートの表面全面にプリント層が存在していても良い。また、プリント層は繊維シート表面のみに存在する態様以外にも、前述の態様に加えプリント層を構成する樹脂などの成分が繊維シートの内部に侵入している態様であってもよい。
本発明の車両用内装基材は、界面活性剤を含有するプリント層を備えている。
本願出願人は検討を続けた結果、界面活性剤を含有するプリント液は繊維シート表面からはじかれ難いことを見出した。そのため、界面活性剤を含有するプリント層を備える車両用内装基材であることによって、プリントムラが少ないプリント層を備えた車両用内装基材を実現できることを見出した。
本発明において界面活性剤とは、撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シート表面からプリント液をはじかれ難くする機能を有するものであり、その種類は、プリントムラが少ないプリント層を備えた車両用内装基材を提供できるよう、広く界面活性剤として使用されている薬剤のうちから適宜選択できるが、例えば、マーポマーセOT(松本油脂製薬株式会社、登録商標)などを使用できる。
プリント層が含有する界面活性剤の固形分質量は適宜選択するが、その量が少なすぎるとプリントムラが少ない車両用内装基材を提供し難くなる恐れがあり、その量が多過ぎると金型への追従性に劣り、優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な車両用内装基材を提供し難くなる恐れがある。そのため、プリント層が含有する界面活性剤の固形分質量は0.05g/m以上であるのが好ましく、0.06g/m以上であるのがより好ましく、0.10g/m以上であるのがより好ましく、0.30g/m以上であるのがより好ましく、0.40g/m以上であるのがより好ましく、0.70g/m以上であるのがより好ましい。一方、上限値は適宜選択するが、2.2g/m以下であることができ、2.0g/m以下であることができ、1.5g/m以下であることができ、1.0g/m以下であることができる。

なお、車両用内装基材におけるプリント層を構成する成分、あるいは、車両用内装基材または車両用内装材を、赤外分光分析装置(IR)、元素分析装置、高速液体クロマトグラフィー装置(質量分析計を備えていても良い)、ガスクロマトグラフィー装置(質量分析計を備えていても良い)、核磁気共鳴装置(NMR)などの各種分析装置へ供することで、プリント層が含有する界面活性剤の種類や量を確認することができる。
プリント層は樹脂と界面活性剤以外に、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、中実粒子や中空粒子(既膨張粒子、加熱により膨張する粒子)などの添加剤を含有していてもよい。
プリント層の量は適宜選択するが、その量が少なすぎるとイソシアネートの染み出しが発生するのを防止した車両用内装基材を提供し難くなる恐れがあり、その量が多過ぎると金型への追従性に劣り、優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な車両用内装基材を提供し難くなる恐れがあることから、プリント層の量は2〜50g/mであるのが好ましく、10〜30g/mであるのが好ましい。
車両用内装基材の厚さは適宜選択するが、2.5mm以下であることができ、2.0mm以下であることができ、1.4mm以下であることができる。一方、厚さの下限値は適宜調整するが、0.5mm以上であるのが現実的である。
車両用内装基材の目付は適宜選択するが、300g/m以下であることができ、250g/m以下であることができる。一方、目付の下限値は適宜調整するが、100g/m以上であるのが現実的である。
車両用内装基材の通気度は適宜選択するが、吸音効果が期待される周波数領域の範囲が広い車両用内装基材を提供できるように、通気度は5cm/cm・s以上であるのが好ましい。上限値は適宜選択できるが、吸音効果に富むよう、通気度は100cm/cm・s以下であるのが好ましい。
なお、この「通気度」はJIS L1913:2010「一般不織布試験方法」に規定される6.8.1(フラジール形法)によって測定される値をいう。
また、本願出願人は従来技術にかかる、撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートにおける少なくとも一方の主面上にプリント層が存在してなる車両用内装基材は、以下の方法で算出したプリント面積のCV値が3.34%以上であること、更には、該車両用内装基材のプリント面積のCV値は3.34%未満にならず、主面上に存在するプリント層にプリントムラが多いため、優れた外観を有する車両用内装材を提供できないことを見出した。
(プリント面積のCV値の算出方法)
1.車両用内装基材における、プリント層が存在している主面の正面写真を撮影する、
2.撮影した正面写真から、同一単位のプリント形状を有する一辺4.23cm(600dpi,1000ピクセル)の正方形形状の区画を、重複部分が存在しないようにして合計16区画選出する、
3.選出した各区画におけるプリントが存在している各面積(プリント面積)から、以下式に基づきCV値を算出する。
CV値(%)=100×(各プリント面積の標準偏差/各プリント面積の平均値)
一方、本願発明の車両用内装基材はプリント面積のCV値が3.34%未満であるため、プリント層のプリントムラが少ないことで、優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な車両用内装基材である。
本発明の車両用内装基材におけるプリント面積のCV値は、低ければ低いほど、よりプリント層のプリントムラが少ないことで、優れた外観を有する車両用内装材を提供可能である。そのため、CV値は3.0%以下であるのが好ましく、2.5%以下であるのが好ましく、2.0%以下であるのが好ましく、1.5%以下であるのが好ましく、1.0%以下であるのが好ましく、理想的には0%が最も好ましい。
このような、プリント面積のCV値が3.34%未満の該車両用内装基材を提供できる方法は適宜選択するが、一例として、本願発明にかかる界面活性剤を含有しているプリント層を備える車両用内装基材およびその製造方法によって提供することができる。
なお、上述したプリント面積のCV値が3.34%未満の車両用内装基材は、界面活性剤が含有されているプリント層を備えた車両用内装基材によって実現できるものであるが、後述するプリント液(繊維シートに付与しプリント層を形成可能)として、アルコールを含有するプリント液を採用することによっても、プリント面積のCV値が3.34%未満の車両用内装基材を実現し得る。このようなアルコールの種類は適宜選択できるが、後述する「(4)プリント液を付与した繊維シートから、プリント液に含まれている溶媒あるいは分散媒を除去する工程」において揮発させることで除去可能なアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)あるいは、該工程において除去できないアルコール(例えば、高級アルコールなど)を使用し得る。
しかし、イソシアネートの染み出しが発生するのを防止する効果がより発揮され易い車両用内装基材を提供できることから、プリント層(上述製造工程においては、プリント層を形成可能なプリント液)に界面活性剤が含有されているのがより好ましい。
本発明の車両用内装基材は、更に別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を備えていてもよい。これらの構成部材は車両用内装基材における、プリント層が存在する主面とは異なる主面側に積層して備えることができる。
次に、本発明の車両用内装基材の製造方法について説明する。なお、上述の車両用内装基材について説明した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。

本発明にかかる車両用内装基材の製造方法は適宜選択することができるが、一例として、
(1)撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートを用意する工程、
(2)界面活性剤および樹脂を溶媒あるいは分散媒に混合してなる、プリント層を構成可能なプリント液を調製する工程、
(3)繊維シートにおける撥水剤および/または撥油剤を含有する少なくとも一方の主面上に、プリント液を付与する工程、
(4)プリント液を付与した繊維シートから、プリント液に含まれている溶媒あるいは分散媒を除去する工程、
を備える製造方法を挙げることができる。
まず、(1)撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートを用意する工程、について説明する。
繊維シートとして、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編み物などの、シート状の布帛あるいは該布帛由来の繊維層を備えたシート状の繊維構造体を用意する。繊維シートにおける構成繊維の繊度や繊維長、繊維シートの厚さや目付は上述した数値のものを採用することができる。
繊維シートに撥水剤および/または撥油剤を含有させる方法は、適宜選択するが、撥水剤および/または撥油剤を含有した分散液あるいは溶液を用意し、繊維シートを該分散液あるいは溶液に含浸する方法、該分散液あるいは溶液を繊維シートの一方の主面上へ泡立て含浸、スプレー、散布などすることによって付与する方法などを採用することができる。なお、分散液あるいは溶液を構成する分散媒や溶媒の種類は適宜選択でき、例えば、水、メタノールやエタノールなどのアルコールあるいはこれらの混合液を用いることができる。なお、該分散液あるいは溶液にバインダや上述した添加剤などが混合していてもよい。
該分散液あるいは溶液に含まれる、撥水剤および/または撥油剤の固形分濃度は適宜選択する。
このようにして調製した該分散媒あるいは溶媒が付与された繊維シートを、例えば、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する、室温雰囲気下や減圧雰囲気下に静置するなどして、分散媒あるいは溶媒を蒸発させ除去できる。
分散媒あるいは溶媒を除去する際の加熱温度は分散媒あるいは溶媒が揮発可能な温度であると共に、構成繊維や撥水剤および/または撥油剤などの構成部材の形状や機能などが意図せず低下することがないよう、加熱温度を調整する。
なお、繊維シートが繊維ウェブの場合には、本工程によって構成繊維同士を接着する(溶融したバインダで接着する、あるいは、構成繊維に含まれる熱可塑性成分を溶融させ接着する)ことで、不織布を形成してもよい。
このようにして、撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートを調製できる。
あるいは、繊維シートの構成繊維として、撥水剤および/または撥油剤を含有する油剤を付与してなる繊維を採用する、あるいは、撥水剤および/または撥油剤を含有する樹脂で構成された繊維を採用し、該繊維を用いて繊維シートを調製することで、撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートを調製できる。
次いで、(2)界面活性剤および樹脂を溶媒あるいは分散媒に混合してなる、プリント層を構成可能なプリント液を調製する工程、および、(3)繊維シートにおける撥水剤および/または撥油剤を含有する少なくとも一方の主面上に、プリント液を付与する工程、について説明する。
界面活性剤および樹脂、溶媒あるいは分散媒の種類は、上述したものを採用することができる。
プリント液に含まれる界面活性剤の固形分濃度は適宜選択するが、0.6〜5.9質量%であることができ、0.8〜7.2質量%であることができ、1.9〜6.4質量%であることができる。また、プリント液に含まれる樹脂の固形分濃度は適宜選択するが、60〜90質量%であることができる。
このようにして用意したプリント液を、繊維シートにおける撥水剤および/または撥油剤を含有する少なくとも一方の主面上に付与する。この時、使用するプリント液が有する表面張力は適宜選択するが、表面張力が78mN/m未満の範囲に調整されたプリント液を繊維シートへ付与することで、よりイソシアネートの染み出しが発生するのを防止してなると共に、プリントムラが少ないことによって、意図した態様のプリント層を主面上に備えることで優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な、車両用内装基材を製造し易く好ましい。
この理由は完全に明らかになっていないが、表面張力が78mN/m未満の繊維シートに対し浸透性に優れるプリント液を用いることで繊維シート表面にプリント液が均一に分散して広がることができ、該主面上にプリント層が均一的に存在することで、イソシアネートの染み出し防止効果が効率良く発揮されるためだと考えられる。一方、プリント液の表面張力が低すぎるとプリント液が繊維シート内部へ吸液され易いなど繊維シート表面に留まり存在することが難しくなるため、該主面上にプリント層が均一的に存在し難くなることで、イソシアネートの染み出し防止効果が発揮され難くなる恐れがあると考えられる。そのため、プリント液の表面張力の値は50mN/m以上78mN/m未満であるのが好ましく、55mN/m以上70mN/m以下であるのがより好ましく、55mN/m以上60mN/m以下であるのがより好ましい。
なお、プリント液の表面張力は、以下の方法で算出することができる。
(プリント液の表面張力の算出方法)
Wilhelmy法を利用した自動表面張力計(商品名「ESB−V」、協和科学株式会社製)及びプラチナ製プレートを使用し、25℃におけるプリント液の静的表面張力(mN/m)を測定した。
繊維シートの少なくとも一方の主面上に、プリント液を付与する方法は適宜選択するが、上述した繊維シートに撥水剤および/または撥油剤を含有させる方法において説明した方法や、捺染やインクジェットプリントなどの方法を採用することができる。また、プリント液は繊維シートの該主面全面を覆うように存在している態様、あるいは、線状やドット状あるいは不定形状などの柄を形成するように該主面の一部を覆い存在している態様であることができる。
最後に、(4)プリント液を付与した繊維シートから、プリント液に含まれている溶媒あるいは分散媒を除去する工程、について説明する。
プリント液を付与した繊維シートを、例えば、ドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する、室温雰囲気下や減圧雰囲気下に静置するなどして、プリント液に含まれている溶媒あるいは分散媒を除去することができる。
プリント液に含まれている溶媒あるいは分散媒を除去する際の加熱温度は分散媒あるいは溶媒が揮発可能な温度であると共に、構成繊維や撥水剤および/または撥油剤、樹脂や界面活性剤などの構成部材の形状や機能などが意図せず低下することがないよう、加熱温度を調整する。
なお、繊維シートが繊維ウェブの場合には、本工程によって構成繊維同士を接着する(溶融したバインダで接着する、あるいは、構成繊維に含まれる熱可塑性成分を溶融させ接着する)ことで、不織布を形成してもよい。
また、本工程によってプリント液に含まれている樹脂を溶融させ、繊維シートにおける少なくとも一方の主面上に、樹脂と界面活性剤が被膜状(通気性を有する態様、あるいは、通気性を有していないフィルム状の態様)に存在してなるプリント層を形成させてもよい。
更に、樹脂が熱により架橋する樹脂である場合には、本工程によってプリント液に含まれている樹脂を架橋してもよい。架橋してなる樹脂を含んだプリント層を備えていることによってプリント層の堅牢性を向上でき、使用中に摩擦などにより車両用内装材からプリント層が剥落するのを防止できる。樹脂を架橋させる温度は適宜選択するが、プリント液に含まれる樹脂がアクリル樹脂である場合、加熱温度は160℃よりも高い温度であるのが好ましく、180℃以上の温度であるのが好ましい。温度の上限も適宜選択するが、200℃以下であるのが現実的である。
このようにして、繊維シートにおける少なくとも一方の主面上(換言すれば、繊維シートにおける撥水剤および/または撥油剤を含有する少なくとも一方の主面上に)に、界面活性剤を含有しているプリント層が存在してなる車両用内装基材を製造できる。
上述の車両用内装基材の製造方法では、更に別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を積層する工程、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工する工程などの、各種二次工程を備えていてもよい。
更に、リライアントプレス処理などの、表面を平滑とするために加圧処理する工程へ供してもよい。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
(繊維シートAの調製)
ポリエチレンテレフタレート繊維(繊度:2.2dtex、繊維径:14.3μm、繊維長:51mm)100%をカード機により開繊した後、クロスレイヤーにより繊維ウエブの進行方向に対して交差させて、交差ウエブを形成した。形成した交差ウエブの片面からニードルパンチを実施した後、温度150℃に設定されたロールと接触するように、加熱ロールと非加熱ロールとからなる一対のロール間(スリット:0.5mm)へニードルパンチ処理を施した交差ウェブを通過させて、加熱加圧絡合繊維ウエブ(目付:180g/m)を形成した。
次いで、加熱加圧絡合繊維ウエブのニードリングを施した面とは反対の面から、以下の水系バインダエマルジョンを泡立てた状態で塗布した。そして、ギャップ間隔を調整したロール間へ供した後、温度160℃のキャンドライヤーで乾燥することで、バインダ接着不織布A(目付:190g/m、厚さ:1.6mm、撥油剤あるいは撥水剤の含有量:0g/m)、アクリル系繊維結合用バインダの固形分質量:10g/m)を調製した。
(水系バインダエマルジョン)
・アクリル系繊維結合用バインダ(固形分質量:50質量%、Tg:−40℃、架橋温度:160℃よりも高い温度で架橋がより発生する)
(繊維シートBの調製)
ポリエチレンテレフタレート繊維(繊度:2.2dtex、繊維径:14.3μm、繊維長:51mm)100%をカード機により開繊した後、クロスレイヤーにより繊維ウエブの進行方向に対して交差させて、交差ウエブを形成した。形成した交差ウエブの片面からニードルパンチを実施した後、温度150℃に設定されたロールと接触するように、加熱ロールと非加熱ロールとからなる一対のロール間(スリット:0.5mm)へニードルパンチ処理を施した交差ウェブを通過させて、加熱加圧絡合繊維ウエブ(目付:178g/m)を形成した。
次いで、加熱加圧絡合繊維ウエブのニードリングを施した面とは反対の面から、以下組成の水系バインダエマルジョンを泡立てた状態で塗布した。そして、ギャップ間隔を調整したロール間へ供した後、温度160℃のキャンドライヤーで乾燥することで、バインダ接着不織布B(目付:190g/m(小数点以下は四捨五入)、厚さ:1.6mm、アクリル系繊維結合用バインダの固形分質量:10g/m、パーフルオロアルキルアクリレート撥油剤の含有量:2g/m(小数点以下は四捨五入))を調製した。
(水系バインダエマルジョンの組成)
・アクリル系繊維結合用バインダ(固形分質量:50質量%、Tg:−40℃、架橋温度:160℃よりも高い温度で架橋がより発生する):固形分質量が5質量部となるように配合
・パーフルオロアルキルアクリレート撥油剤(旭硝子株式会社製、型番:アサヒガードAG−E082(登録商標)、固形分質量:20質量%):固形分質量が1.1質量部となるように配合
(プリント液の調製)
表1に記載の割合で配合した各種プリント液A〜Eを調製した。
Figure 2019059390
表1においてWETはプリント液における各配合物の質量百分率(質量%)であり、DRYはプリント液における各配合物の固形分の質量百分率(質量%)である。
なお、表1に記載の各配合物として、バインダ樹脂1(DIC株式会社製、型番:ボンコートE−240N(登録商標)、固形分質量:45質量%)、バインダ樹脂2(東亞合成株式会社製、型番:NB−5(−5)、固形分質量:50質量%)、界面活性剤(松本油脂製薬株式会社製、型番:マーポマーセOT(登録商標)、固形分質量:20質量%、溶媒:イソプロピルアルコール)を使用した。
(比較例1)
バインダ接着不織布Aの一方の主面上に対して、シリンダを用いて菱形の格子状にプリント液Aを付与した後、温度200℃のドライヤーで乾燥した。
そして、最後にリライラントプレス機(温度:150℃、プレス圧力:2kgf、処理時間:12秒)へ供することで、バインダ接着不織布Aの一方の主面上にプリント液A由来のプリント層を備えた車両用内装基材(目付:200g/m、厚さ:1.6mm、プリント層の目付:10g/m、通気度:70cm/cm・s)を調製した。
(比較例2)
バインダ接着不織布Bの一方の主面上に対して、シリンダを用いて菱形の格子状にプリント液Aを付与した後、温度200℃のドライヤーで乾燥した。
そして、最後にリライラントプレス機(温度:150℃、プレス圧力:2kgf、処理時間:12秒)へ供することで、バインダ接着不織布Bの一方の主面上にプリント液A由来のプリント層を備えた車両用内装基材(目付:200g/m、厚さ:1.6mm、プリント層の目付:6g/m、通気度:70cm/cm・s)を調製した。
なお、別途用意したバインダ接着不織布Bの一方の主面上に対して、より多くのプリント液Aを付与することを試みたが、バインダ接着不織布Bの主面上からプリント液Aが流れ落ちてしまった。そのため、上述のプリント液A由来のプリント層の固形分質量(6g/m)よりも重いプリント層を形成可能な塗布量となるように、バインダ接着不織布Bの一方の主面上にプリント液Aをより多量に付与することはできなかった。
(実施例1)
バインダ接着不織布Bの一方の主面上に対して、シリンダを用いて菱形の格子状にプリント液Bを付与した後、温度200℃のドライヤーで乾燥した。
そして、最後にリライラントプレス機(温度:150℃、プレス圧力:2kgf、処理時間:12秒)へ供することで、バインダ接着不織布Bの一方の主面上にプリント液B由来のプリント層を備えた車両用内装基材(目付:200g/m、厚さ:1.6mm、プリント層の目付:7g/m、通気度:70cm/cm・s)を調製した。
(実施例2)
バインダ接着不織布Bの一方の主面上に対して、シリンダを用いて菱形の格子状にプリント液Cを付与した後、温度200℃のドライヤーで乾燥した。
そして、最後にリライラントプレス機(温度:150℃、プレス圧力:2kgf、処理時間:12秒)へ供することで、バインダ接着不織布Bの一方の主面上にプリント液C由来のプリント層を備えた車両用内装基材(目付:200g/m、厚さ:1.6mm、プリント層の目付:10g/m、通気度:70cm/cm・s)を調製した。
(実施例3)
バインダ接着不織布Bの一方の主面上に対して、シリンダを用いて菱形の格子状にプリント液Cを付与した後、温度160℃のドライヤーで乾燥した。
そして、最後にリライラントプレス機(温度:150℃、プレス圧力:2kgf、処理時間:12秒)へ供することで、バインダ接着不織布Bの一方の主面上にプリント液C由来のプリント層を備えた車両用内装基材(目付:200g/m、厚さ:1.6mm、プリント層の目付:10g/m、通気度:70cm/cm・s)を調製した。
(実施例4)
バインダ接着不織布Bの一方の主面上に対して、シリンダを用いて菱形の格子状にプリント液Cを付与した後、温度180℃のドライヤーで乾燥した。
そして、最後にリライラントプレス機(温度:150℃、プレス圧力:2kgf、処理時間:12秒)へ供することで、バインダ接着不織布Bの一方の主面上にプリント液C由来のプリント層を備えた車両用内装基材(目付:200g/m、厚さ:1.6mm、プリント層の目付:10g/m、通気度:70cm/cm・s)を調製した。
(実施例5)
バインダ接着不織布Bの一方の主面上に対して、シリンダを用いて菱形の格子状にプリント液Dを付与した後、温度200℃のドライヤーで乾燥した。
そして、最後にリライラントプレス機(温度:150℃、プレス圧力:2kgf、処理時間:12秒)へ供することで、バインダ接着不織布Bの一方の主面上にプリント液D由来のプリント層を備えた車両用内装基材(目付:200g/m、厚さ:1.6mm、プリント層の目付:10g/m、通気度:70cm/cm・s)を調製した。
(実施例6)
バインダ接着不織布Bの一方の主面上に対して、シリンダを用いて菱形の格子状にプリント液Eを付与した後、温度200℃のドライヤーで乾燥した。
そして、最後にリライラントプレス機(温度:150℃、プレス圧力:2kgf、処理時間:12秒)へ供することで、バインダ接着不織布Bの一方の主面上にプリント液E由来のプリント層を備えた車両用内装基材(目付:200g/m、厚さ:1.6mm、プリント層の目付:9g/m、通気度:70cm/cm・s)を調製した。
上述のようにして調製した、実施例および比較例の各車両用内装基材を上述した(プリント面積のCV値の算出方法)ならびに、以下方法へ供することで各種物性を評価した。
(イソシアネートの染み出し防止性能の評価方法)
ガラス繊維シートA上に、ポリメリックMDI、ジメチルエタノールアミン及び蛍光染料を保持させた軟質ポリウレタンを積層した。次いで、軟質ポリウレタン上に水を散布し該軟質ポリウレタン層上に、更にガラス繊維シートB−車両用内装基材(バインダ接着不織布におけるプリント液を付与していない側の主面がガラス繊維シートBと当接)の順に積層した後、一対の加熱加圧ロールにより加熱加圧することにより、ポリメリックMDIと水とを反応させてポリウレタン系樹脂を形成すると同時に、ポリウレタン系樹脂をガラス繊維シートAから車両用内装基材の内部にわたって進入させ、これら全体を接着一体化して、厚さが約6mmの車両用内装材(軟質ウレタン層の厚さ:4mm)を製造した。
前記の車両用内装材を形成してから1時間経過後に、車両用内装基材側からブラックライトを照射して、ポリウレタン系樹脂が染み出しているかどうかを確認した。
このとき、ポリウレタン系樹脂の染み出しが確認された車両用内装材を構成した車両用内装基材を、イソシアネートの染み出し防止性能に劣る車両用内装基材と判断し、ポリウレタン系樹脂の染み出しが確認されなかった車両用内装材を構成した車両用内装基材を、イソシアネートの染み出し防止性能に優れる車両用内装基材と判断した。
(摩擦堅牢性の評価方法)
JIS L 0849:2013「摩擦に対する染色堅ろう度試験方法」で規定する9.2「摩擦試験機II形(学振形)法」の湿潤試験を行い、JIS L 0801:2011の箇条10(染色堅ろう度の判定) a)視感法)によって、車両用内装基材のプリント層側の主面における摩擦堅牢性を評価した。なお、本評価数値が大きいほど(具体的には3よりも高い評価数値である場合)、車両用内装基材は堅牢性に優れるプリント層を備えた主面を有していることを意味し、使用中に摩擦などによりプリント層が剥落するのを防止可能な車両用内装基材であることを意味する。
上述の評価結果を表2〜表4にまとめた。
Figure 2019059390
Figure 2019059390
Figure 2019059390
評価結果から以下のことが判明した。
・比較例1と比較例2を比較した結果から、撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートを用いてなる車両用内装基材は、イソシアネートの染み出し防止性能に優れているものの、プリント面積のCV値が3.34以上と高く、主面上に存在するプリント層にプリントムラが多い車両用内装基材であった。
なお、比較例2の結果から、撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートに塗布できるプリント液の量には限界があった。つまり、該繊維シートの主面上からプリント液が流れ落ちてしまうため、より多量のプリント液を付与することによる、主面上に存在するプリント層のプリントムラの改善ができなかった。そのため、従来技術にかかる車両用内装基材は、プリント面積のCV値が3.34未満にならない。
・比較例2と実施例1を比較した結果から、プリント液由来のプリント層が界面活性剤を含有していることで、イソシアネートの染み出し防止性能に優れていると共に、プリント面積のCV値が3.34未満と低く、主面上に存在するプリント層にプリントムラが少ない車両用内装基材を実現できた。
なお、この理由は完全に判明していないが、実施例1の車両用内装基材のプリント層の目付(7g/m)を、比較例2の車両用内装基材のプリント層の目付(6g/m)よりも重くできた(繊維シートへより多量のプリント液を付与できた)ことから、撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シート表面から界面活性剤を含有するプリント液がはじかれ難かったためだと考えられる。
以上から、本発明によって、イソシアネートの染み出しが発生するのを防止してなると共に、プリントムラが少ないことによって、意図した態様のプリント層を主面上に備えることで優れた外観を有する車両用内装材を提供可能な、車両用内装基材を提供することができる。
更に、評価結果から以下のことが判明した。
・実施例1〜6を比較した結果から、プリント層に含有されている界面活性剤の固形分質量が多いことで、よりプリント面積のCV値が低くなり、主面上に存在するプリント層にプリントムラが少ない車両用内装基材を実現できた。
・実施例2〜4を比較した結果から、より架橋が発生してなる樹脂を含有しているプリント層を備えていることによって、プリント層の堅牢性が向上し、使用中に摩擦などによりプリント層が剥落するのを防止可能な車両用内装基材を提供できた。
・比較例2と実施例を比較した結果から、本発明にかかる車両用内装基材を製造する際、表面張力が78mN/m未満(具体的には、好ましくは57mN/m以上78mN/m未満、より好ましくは57mN/m以上70mN/m以下)の範囲に調整されたプリント液を繊維シートへ付与することで、よりプリントムラが少ない車両用内装基材を実現できた。
本発明の車両用内装基材は、天井、ドアサイド、ピラーガーニッシュ、リヤパッケージなど車両用内装材の用途に広く使用できる。

Claims (2)

  1. 撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートにおける少なくとも一方の主面上にプリント層が存在してなる、車両用内装基材であって、
    前記主面上に存在するプリント層は界面活性剤を含有している、車両用内装基材。
  2. 撥水剤および/または撥油剤を含有する繊維シートにおける少なくとも一方の主面上にプリント層が存在してなる、車両用内装基材であって、
    前記主面上に存在するプリント層における、下記方法で算出したプリント面積のCV値が3.34%未満である、車両用内装基材。

    1.車両用内装基材における、プリント層が存在している主面の正面写真を撮影する、
    2.撮影した正面写真から、同一単位のプリント形状を有する一辺4.23cm(600dpi,1000ピクセル)の正方形形状の区画を、重複部分が存在しないようにして合計16区画選出する、
    3.選出した各区画におけるプリントが存在している各面積(プリント面積)から、以下式に基づきCV値を算出する、
    CV値(%)=100×(各プリント面積の標準偏差/各プリント面積の平均値)
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