JP2022137567A - 表皮材 - Google Patents

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Abstract

【課題】付与したイソシアネートやプリント液など液体が表皮材の主面上へ染み出すことを防止して、品位に優れる内装材を実現可能な、表皮材の提供を目的とする。【解決手段】本願出願人が検討した結果、繊維シートと界面活性剤およびバインダ樹脂を備える表皮材において、界面活性剤の層を間に介して、繊維シートの構成繊維の表面上にバインダ樹脂が存在する部分を有している、という構成を満足することによって、染み出しが発生し難い表皮材を提供できることを見出した。また、繊維シートへ界面活性剤を付与した後、バインダ液を付与する工程を備えた表皮材の製造方法によって、本願発明にかかる構成を備えた、染み出しが発生し難い表皮材を製造できることを見出した。【選択図】なし

Description

本発明は、イソシアネートやプリント液など液体の染み出しが発生し難い表皮材に関する。
近年、接着剤として液状のイソシアネートを、繊維シートを備える表皮材と基材との間に付与して積層体を形成し、当該積層体を加熱成形し内装材を製造することが検討されている。また、意匠性に富む内装材を実現するため、プリント液を表皮材へ付与することが検討されている。
しかし、上述したような内装材の製造工程において、例えばイソシアネートやプリント液など液体の付与時、あるいは、その後の加熱成形時に、付与したイソシアネートやプリント液が表皮材の主面上へ染み出すことがあった。その結果、加熱成形して製造された内装材は意匠性が悪いなど品位に劣るという問題が発生した。
このような問題を解決可能な表皮材として、例えば特開2019-59390号公報(特許文献1)に開示されている車両用内装基材(上述した表皮材に相当する)が知られている。特許文献1では、車両用内装基材の備える繊維シートに、例えばフッ素系樹脂やシリコン系樹脂などの撥水剤および/または撥油剤を含ませることによって、イソシアネートの染み出しを防止している。なお、特許文献1には、繊維シートの主面上に界面活性剤とバインダ樹脂とが混在してなるバインダエマルジョンを付与してなるプリント層を設けたことが開示されている。
特開2019-59390号公報
特許文献1にかかる発明はイソシアネートの染み出しを防止するため、繊維シートに撥水剤および/または撥油剤を含ませることを必須としているが、例えばフッ素系樹脂やシリコン系樹脂などの撥水剤および/または撥油剤は高価であるという問題を有していた。そのため、撥水剤および/または撥油剤を使用しなくとも、付与したイソシアネートやプリント液など液体が表皮材の主面上へ染み出すこと(以降、染み出しと称することがある)が発生し難い表皮材の提供が求められた。
付与したイソシアネートやプリント液など液体が表皮材の主面上へ染み出すことを防止して、品位に優れる内装材を実現可能な、表皮材の提供を目的とする。
第一の発明は「繊維シートと界面活性剤およびバインダ樹脂を備える、表皮材であって、前記界面活性剤の層を間に介して、前記繊維シートの構成繊維の表面上に前記バインダ樹脂が存在する部分を有している、表皮材。」である。
第二の発明は「(1)繊維シートを用意する工程、
(2)界面活性剤を用意する工程、
(3)バインダ樹脂が分散媒に分散しているバインダ液、および/または、前記バインダ樹脂が溶媒に溶解しているバインダ液を用意する工程、
(4)前記繊維シートに、前記界面活性剤を付与する工程、
(5)前記界面活性剤を付与した繊維シートに、前記バインダ液を付与する工程、
(6)前記バインダ液を付与した繊維シートから、前記分散媒および/または前記溶媒を除去する工程、
を備える、表皮材の製造方法。」である。
本願出願人が検討した結果、繊維シートと界面活性剤およびバインダ樹脂を備える表皮材において、界面活性剤の層を間に介して、繊維シートの構成繊維の表面上にバインダ樹脂が存在する部分を有している、という構成を満足することによって、染み出しが発生し難い表皮材を提供できることを見出した。
また、繊維シートへ界面活性剤を付与した後、バインダ液を付与する工程を備えた表皮材の製造方法によって、本願発明の請求項1にかかる構成を備えた、染み出しが発生し難い表皮材を製造できることを見出した。この理由は完全には明らかにできていないが、次の効果が発揮されているためだと考えられる。
本願出願人は、バインダ樹脂の分布状態が不均一な繊維シートは、空隙の大きさや分布状態が不均一な箇所を有すること、そして、当該箇所は液体が通過し易い箇所(例えば、他の箇所よりも多数の大きな空隙が存在している箇所)になり得ると考えた。
本発明にかかる表皮材の製造方法は、始めに繊維シートへ界面活性剤を付与する工程を備えているため、繊維シートの構成繊維の表面に界面活性剤の層を設けることができる。次いで、界面活性剤を付与した繊維シートへバインダ液を付与するため、構成繊維の表面に存在する界面活性剤の層上をバインダ液が容易に移動して、構成繊維の表面に沿ってバインダ液が広がり易い。その結果、繊維シートの面方向や厚さ方向へバインダ液が均一的に分布可能となり、バインダ樹脂が均一に分布している繊維シートを備えた表皮材を製造できる。
以上から、本発明によって、染み出しが発生し難く、品位に優れる内装材を実現可能な表皮材を提供できる。
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。なお、本発明で説明する各種測定は特に記載のない限り、大気圧下のもと測定を行った。また、25℃温度条件下で測定を行った。そして、本発明で説明する各種測定結果は特に記載のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、前記値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、小数第一位までが求める値である場合、測定によって小数第二位まで値を求め、得られた小数第二位の値を四捨五入することで小数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。そして、本発明で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
本発明でいう繊維シートとは、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編み物などの布帛である。本発明の表皮材は繊維シートを備えているため、柔軟性に富み金型への追従性に優れるなど成形性に優れる。なお、全ての構成繊維がランダムに絡合してなる繊維シート(特に、繊維ウェブや不織布)を備えた表皮材は、より柔軟性に富み成形性に優れ好ましい。
繊維シートの構成繊維は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の樹脂を用いて構成できる。
なお、これらの樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。更には、多成分の樹脂を混ぜ合わせたものでも良い。
表皮材に難燃性が求められる場合には、繊維シートの構成繊維が難燃性の樹脂を含んでいるのが好ましい。このような難燃性の樹脂として、例えば、モダアクリル樹脂、ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ノボロイド樹脂、ポリクラール樹脂、リン化合物を共重合したポリエステル樹脂、ハロゲン含有モノマーを共重合したアクリル樹脂、アラミド樹脂、ハロゲン系やリン系又は金属化合物系の難燃剤を練り込んだ樹脂などを挙げることができる。また、顔料を練り込み調製された繊維や、染色された繊維などの原着繊維であってもよい。また、後述するバインダ樹脂により難燃剤を担持してもよい。
構成繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
構成繊維は、一種類の樹脂から構成されてなるものでも、複数種類の樹脂から構成されてなるものでも構わない。複数種類の樹脂から構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
また、構成繊維は、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維であってもよい。
繊維シートが構成繊維として熱融着性繊維を含んでいる場合には、繊維同士を熱融着することによって、繊維シートに強度と形態安定性を付与でき好ましい。このような熱融着性繊維は、全融着型の熱融着性繊維であっても良いし、上述した複合繊維のような態様の一部融着型の熱融着性繊維であっても良い。熱融着性繊維において熱融着性を発揮する成分(樹脂)として、例えば、低融点ポリオレフィン系樹脂や低融点ポリエステル系樹脂を含む熱融着性繊維などを適宜選択して使用することができる。
繊維シートが捲縮性繊維を含んでいる場合には、伸縮性が増して金型への追従性に優れ好ましい。このような捲縮性繊維として、例えば、潜在捲縮性繊維の捲縮を発現した捲縮性繊維やクリンプを有する繊維などを使用することができる。また、繊維シートが加熱することで捲縮を発現する潜在捲縮性繊維を含んでいてもよい。
一般的には帯電防止やカーディング性を上げる目的で繊維紡糸工程において、繊維表面に油剤を付着させることがある。本発明にかかる繊維シートの構成繊維は、その表面上に油剤を備えていてもよい。また、当該油剤は界面活性剤を含んでいても良い。
繊維シートが繊維ウェブや不織布である場合、例えば、上述の繊維をカード装置やエアレイ装置などに供することで繊維を絡み合わせる乾式法、繊維を溶媒に分散させシート状に抄き繊維を絡み合わせる湿式法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009-287138号公報に開示の方法)など)を用いて繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集する方法、などによって調製できる。
調製した繊維ウェブの構成繊維を絡合および/または一体化させて不織布を調製できる。構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法として、詳細は後述するようにバインダ樹脂によって構成繊維同士を一体化させる以外にも、例えば、ニードルや水流によって絡合する方法、繊維ウェブを加熱処理へ供するなどして接着繊維(全溶融型接着繊維や芯鞘型接着繊維など)によって構成繊維同士を接着一体化させる方法などを挙げることができる。
加熱処理の方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して含まれている樹脂を加熱する方法などを用いることができる。
繊維シートが織物や編物である場合、上述のようにして調製した繊維を織るあるいは編むことで、織物や編物を調製できる。
なお、繊維ウェブ以外にも不織布あるいは織物や編物を、上述した構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法へ供しても良い。
繊維シートの構成繊維の繊度は特に限定するものではないが、剛性に優れる表皮材を提供できるように、1dtex以上であるのが好ましく、1.5dtex以上であるのがより好ましく、2dtex以上であるのがより好ましい。他方、成形性に優れる表皮材となるように、100dtex以下であるのが好ましく、50dtex以下であるのがより好ましく、30dtex以下であるのがより好ましく、10dtex以下であるのが更に好ましい。
また、繊維シートの構成繊維の繊維長も特に限定するものではないが、剛性の観点から、20mm以上であるのが好ましく、25mm以上であるのがより好ましく、30mm以上であるのが更に好ましい。他方、繊維長が110mmを超えると、繊維シートの調製時に繊維塊が形成される傾向があり、成形性が劣る表皮材となるおそれがあることから、110mm以下であるのが好ましく、60mm以下であるのがより好ましい。なお、「繊維長」は、JIS L1015(2010)、8.4.1c)直接法(C法)に則って測定した値をいう。
繊維シートの、例えば、厚さ、目付などの諸構成は、特に限定されるべきものではなく適宜調整する。繊維シートの厚さは、0.5~5mmであることができ、1~3mmであることができ、1.1~1.9mmであることができる。また、繊維シートの目付は、例えば、50~500g/mであることができ、80~300g/mであることができ、100~250g/mであることができる。なお、本発明において厚さとは主面と垂直方向へ20g/cm圧縮荷重をかけた時の当該垂直方向の長さをいい、目付とは測定対象物の最も広い面積を有する面(主面)における1mあたりの質量をいう。
本発明にかかる表皮材は、繊維シートに加えバインダ樹脂を備えている。バインダ樹脂は繊維シートの構成繊維同士を固定する役割を担う。
使用可能なバインダの種類は適宜選択するが、例えば、ポリオレフィン(変性ポリオレフィンなど)、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリレート共重合体、各種ゴムおよびその誘導体(スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)など)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、エポキシ樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、アクリル系樹脂(アクリル酸エステル樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合体樹脂など)、ポリウレタン樹脂などを使用できる。バインダ樹脂がアクリル系樹脂を含有している(より好ましくは、バインダ樹脂がアクリル系樹脂のみである)と、金型を用いたヒートプレス等の熱成形時に適度に軟化するため、金型への追従性に優れる表皮材を提供でき好ましい。
また、バインダ樹脂は上述した樹脂以外にも、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤などの添加剤を含有していてもよい。特に、繊維シートが界面活性剤を混在させたバインダ樹脂を含んでいると、汚れふき取り性に優れる表皮材を提供でき好ましい。
表皮材が備えているバインダ樹脂の目付は適宜選択するが、バインダ樹脂の量が多いほど主面が平滑な表皮材を提供し易いことから、バインダ樹脂の目付は、1g/m以上であるのが好ましい。一方、バインダ樹脂の量が過剰に多い場合には、柔軟性が劣る表皮材となるおそれがあることから、バインダ樹脂の目付は、50g/m以下であるのが好ましく、30g/m以下であるのが好ましく、20g/m以下であるのが好ましい。
本発明にかかる表皮材は、繊維シートとバインダ樹脂に加え界面活性剤を備えている。界面活性剤は本発明にかかる態様で存在していることによって、付与したイソシアネートやプリント液など液体が表皮材の主面上へ染み出すことを防止する役割を担うことができ、品位に優れる内装材を実現可能な表皮材を提供できる。なお本発明でいう界面活性剤は、一つの分子中に、水に馴染み易い親水基と油に馴染み易い親油基を有する化合物であって、特許文献1が開示するようなフッ素系樹脂やシリコン系樹脂などの撥水剤および/または撥油剤ではない。
使用可能な界面活性剤の種類は適宜選択するが、例えば、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤から適宜選択できるが、染み出しが発生し難く、品位に優れる内装材を実現可能な表皮材を提供できることから、ノニオン界面活性剤が好ましい。また、界面活性剤は、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、増粘剤などの添加剤を含有していてもよい。
表皮材が含んでいる界面活性剤の目付は適宜選択するが、界面活性剤の量が多いほど繊維シートを構成する構成繊維の表面に沿ってバインダ液を効果的に広げ、バインダ樹脂が均一に分布している繊維シートを備えた表皮材を製造でき好ましい。そのため、界面活性剤の目付は、0.1g/m以上であるのが好ましい。一方、界面活性剤の量が過剰に多い場合には、表皮材の表面がベトつき、ハンドリング性が悪くなるという恐れがあることから、界面活性剤の目付は、10g/m以下であるのが好ましく、5g/m以下であるのが好ましく、2g/m以下であるのが好ましい。
本発明にかかる表皮材では、界面活性剤の層を間に介して、繊維シートの構成繊維の表面上にバインダ樹脂が存在する部分を有しているという構成を満足することによって、染み出しが発生し難い。
本発明でいう「界面活性剤の層」とは、繊維シートの構成繊維の表面上に当該構成繊維と接触して界面活性剤が存在している部分を指し、インダ樹脂を含んでいない層である。その存在態様は適宜調製できるが、繊維シートの構成繊維の表面上に界面活性剤は被膜状あるいは不定形状に存在できる。なお、界面活性剤の層は界面活性剤以外にもバインダ樹脂以外の、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、増粘剤、油剤などの添加剤を含有していてもよい。しかし、より染み出しが発生し難い表皮材を提供できるよう、界面活性剤の層は界面活性剤のみで形成された層であるのが好ましい。
本発明でいう「界面活性剤の層を間に介して、繊維シートの構成繊維の表面上にバインダ樹脂が存在する部分」とは、構成繊維の表面に界面活性剤の層が存在しており、当該界面活性剤の層上にバインダ樹脂が存在している部分を指す。つまり当該部分では、構成繊維の表面とバインダ樹脂は直接接触していない。そのため、特許文献1が開示するように、界面活性剤を配合したバインダ樹脂を繊維シートへ付与しただけの場合、本発明にかかる構成を満足する表皮材を調製できない。
なお、本発明の構成を満足する表皮材であるか否かは、測定対象を以下の分析方法へ供することで判断できる。
(本発明の構成を満足する表皮材であるか否かの判断方法)
1.測定対象(表皮材)に含まれる、繊維シートの構成繊維とバインダ樹脂を染色可能な染色液(例えば、カヤステインQ(日本化薬(株)製)など)を用意する。
2.測定対象(表皮材)から試料(形状:正方形あるいは長方形)を採取する。
3.染色液を用いて、試料中に含まれる繊維シートの構成繊維とバインダ樹脂を染色する。
4.染色後の試料を厚さ方向に切断し、断面を30倍の光学顕微鏡で撮影する。
5.光学顕微鏡写真に写る構成繊維の断面を確認し、前記構成繊維の表面とバインダ樹脂が直接接触していない部分が有るか確認する。
6.前記構成繊維の表面とバインダ樹脂が直接接触していない部分が有る場合、試料から、前記部分における構成繊維の表面とバインダ樹脂の間に存在する化合物を抽出し、FT-IRなど各種分析機器を用いて、当該化合物が界面活性剤であるか確認する。
7.前記化合物が界面活性剤である場合、本判断方法へ供した測定対象(表皮材)は、本発明の構成を満足すると判断する。
なお、表皮材あるいは繊維シートの製造工程が判明しており当該製造工程において、界面活性剤を付与した繊維を構成繊維として用いてなる繊維シートへバインダ樹脂を付与している場合、あるいは、用意した繊維シートへ界面活性剤を付与した後にバインダ樹脂を付与している場合、当該製造工程を経て製造された表皮材は、本発明の構成を満足するものである。
表皮材は、その少なくとも一方の主面上に、更にプリントを備えていても良い。プリントを構成する樹脂は、表皮材の少なくとも一方の主面上に意匠性を付与する役割や顔料や粒子を担持する役割を担う。その種類は適宜選択でき、上述したバインダ樹脂と同様の樹脂を採用することができる。特に、金型を用いたヒートプレス等の熱成形時に適度に軟化するため、金型へ追従し、成形性に優れる表皮材を提供できることから、プリントを構成する樹脂がアクリル系樹脂を含んでいるのが好ましい。なお、プリントは樹脂以外に、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤などの添加剤を含有していてもよい。
表皮材の一方の主面上に存在するプリントの態様は適宜調整でき、主面全体に存在する態様以外にも、平行線や格子状などのパターンを有する柄、ドット状あるいは不定形状などの柄といった、柄を有する態様であることができる。なお、本発明でいう、プリントが部分的に存在しているとは、表皮材のプリントが存在している側の主面において、プリントの存在していない部分があることを意味する。
また、プリントは一種類の樹脂を含有する層を備えていても、一種類あるいは複数種類の樹脂を含有する層を複数備えていても良く、具体的には、柄あるいは樹脂や含有物が同一あるいは異なるプリントを複数備えていても良い。
プリントは表皮材の一方の主面上に存在するのであれば、表皮材の両主面上にプリントが存在していても良い。なお、プリントは表皮材の主面上にのみ存在する態様以外にも、プリントを構成する成分(樹脂や粒子など)の一部が表皮材を構成する構成繊維間に侵入している態様であってもよい。
プリントの目付は適宜選択できるが、例えば、2~50g/mであることができ、5~30g/mであることができる。
表皮材の、例えば、厚さ、目付などの諸構成は、特に限定されるべきものではなく適宜調整する。表皮材の厚さは、0.5~5mmであることができ、1~3mmであることができ、1.1~1.9mmであることができる。また、表皮材の目付は、例えば、50~500g/mであることができ、80~300g/mであることができ、100~250g/mであることができる。
本発明の表皮材は、更に別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を備えていてもよい。
次に、本発明の表皮材の製造方法について説明する。なお、上述の表皮材について説明した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
本発明にかかる表皮材の製造方法は適宜選択することができるが、一例として、
(1)繊維シートを用意する工程、
(2)界面活性剤を用意する工程、
(3)バインダ樹脂が分散媒に分散しているバインダ液、および/または、前記バインダ樹脂が溶媒に溶解しているバインダ液を用意する工程、
(4)前記繊維シートに、前記界面活性剤を付与する工程、
(5)前記界面活性剤を付与した繊維シートに、前記バインダ液を付与する工程、
(6)前記バインダ液を付与した繊維シートから、前記分散媒および/または前記溶媒を除去する工程、
を備える、表皮材の製造方法を挙げることができる。
工程1および工程2について説明する。
繊維シートとして、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編み物などの布帛を用意する。なお、繊維シートにおける構成繊維の繊度や繊維長、繊維シートの厚さや目付は上述した数値のものを採用することができる。
界面活性剤はそのまま繊維シートへ付与してもよいが、繊維シートへ好適に界面活性剤を付与できるよう、界面活性剤を分散媒に分散あるいは溶媒に溶解させてなる界面活性剤液を用意し用いても良い。また、界面活性剤あるいは界面活性剤液へ、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、増粘剤などの添加剤を溶解あるいは分散させ、含有してもよい。
工程3について説明する。
溶媒あるいは分散媒の種類は適宜選択できるが、繊維シートへ好適にバインダ樹脂を付与できるよう、バインダ樹脂が溶解せず分散可能な分散媒、あるいは、バインダ樹脂が溶解する溶媒を採用するのが好ましい。また、バインダ液へ、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤などの添加剤を溶解あるいは分散させ、含有してもよい。
工程4について説明する。
繊維シートへ界面活性剤を付与する方法は適宜選択できるが、繊維シートの主面に界面活性剤あるいは界面活性剤液をそのまま、あるいは泡立てた状態で、スプレーやグラビアロールなどを用いて付与する方法などを選択できる。また、繊維シートを界面活性剤あるいは界面活性剤液へ浸漬してもよい。
界面活性剤を付与した繊維シートは、そのまま次の工程へ供しても良いが、繊維シートが、界面活性剤の層を間に介して、構成繊維の表面上にバインダ樹脂が存在する部分をより多く有することができるよう、不要な界面活性剤を除去した後に次の工程へ供する、および/または、乾燥工程へ供して溶媒あるいは分散媒を除去した後に次の工程へ供するのが好ましい。
なお、溶媒あるいは分散媒を除去する方法は適宜選択できるが、後述する工程6で使用可能であると挙げる方法を採用できる。
工程5について説明する。
繊維シートへバインダ液を付与する方法は適宜選択できるが、繊維シートの主面にバインダ液をそのまま、あるいは泡立てた状態で、スプレーやグラビアロールなどを用いて付与する方法などを選択できる。また、繊維シートをバインダ液へ浸漬してもよい。
工程6について説明する。
溶媒あるいは分散媒を除去する方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して含まれている溶媒あるいは分散媒を蒸散させる方法などを用いることができる。
溶媒あるいは分散媒を除去する際の加熱温度は溶媒あるいは分散媒が揮発可能な温度であると共に、繊維シートや界面活性剤など構成部材の形状や機能などが意図せず低下することがないよう、加熱温度の上限を選択する。なお、繊維シートが繊維ウェブの場合には、本工程によって構成繊維同士を接着する(溶融したバインダで接着する、あるいは、構成繊維に含まれる熱可塑性成分を溶融させ接着する)ことで、不織布を形成してもよい。
また、室温雰囲気下や減圧雰囲気下に静置するなどして、溶媒あるいは分散媒を蒸発させ除去してもよい。
上述の工程1~6を備えた製造方法によって、繊維シートと界面活性剤およびバインダ樹脂を備える表皮材であって、前記界面活性剤の層を間に介して、前記繊維シートの構成繊維の表面上に前記バインダ樹脂が存在する部分を有している、表皮材を実現できる。
このようにして製造された表皮材をそのまま加熱成形し内装材を製造してもよいが、表皮材を更に、別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を積層する工程、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工する工程などの、各種二次工程へ供し、その後加熱成形し内装材を製造してもよい。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
(ニードルパンチ不織布の調製方法)
原着ポリエステル繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:38mm)を100%用いて、カード機により開繊して繊維ウェブを形成した後、片面から針密度400本/mでニードルパンチ処理を行った。その後、熱ロール間(ギャップ間隔:0.6mm、ロール加熱温度:165℃)へ供することで、ニードルパンチ不織布A(目付:180g/m、厚さ:1.6mm)を調製した。
また、使用する繊維ウェブの目付を変更したこと以外は同様にして、ニードルパンチ不織布B(目付:200g/m、厚さ:1.8mm)を調製した。
(界面活性剤の用意)
水にアニオン界面活性剤を溶解させ、界面活性剤液(固形分質量:0.1質量%)を用意した。
(バインダ液の用意)
アクリル酸エステル樹脂のエマルジョン液(バインダ樹脂であるアクリル酸エステル樹脂の固形分濃度:5.6質量%)をバインダ液1として用意した。
また、バインダ液1へ(界面活性剤の用意)にて用いたアニオン界面活性剤を、アクリル酸エステル樹脂の固形分濃度5.6質量%に対し、0.3質量%となるように添加してバインダ液2として用意した。
(比較例1)
ニードルパンチ不織布Aにおけるニードリングを施した面とは反対の面から、バインダ液2を泡立てた状態で付与し、ロール間(ギャップ間隔:0.25mm)へ供した。その後、温度160℃のキャンドライヤーで乾燥することで、表皮材を調製した。
(比較例2)
付与するバインダ液2の量を変えたこと以外は、比較例1と同様にして表皮材を調製した。
なお、比較例1~2で調製した表皮材は、界面活性剤の層を備えておらず、表皮材を構成する繊維シートの構成繊維の表面上に直接、バインダ樹脂(界面活性剤が混在したバインダ樹脂)が存在しているのみであった。
(実施例1)
界面活性剤液へニードルパンチ不織布Aを浸漬した。その後、界面活性剤液を含んだニードルパンチ不織布をラバーマングル(圧力:0.2Mpa、搬送速度:1m/min)へ供することで、不要な界面活性剤液を除いた。そして、オーブン装置(加熱温度:160℃)へ供することで水を除去し、界面活性剤を付与したニードルパンチ不織布Aを調製した。
次いで、界面活性剤を付与したニードルパンチ不織布Aにおけるニードリングを施した面とは反対の面から、バインダ液2を泡立てた状態で付与し、ロール間(ギャップ間隔:0.25mm)へ供した。その後、温度160℃のキャンドライヤーで乾燥することで、表皮材を調製した。
(実施例2)
付与するバインダ液2の量を変えたこと以外は、実施例1と同様にして表皮材を調製した。
なお、実施例1~2で調製した表皮材はいずれも、界面活性剤の層を間に介して、表皮材を構成する繊維シートの構成繊維の表面上に、バインダ樹脂(界面活性剤が混在したバインダ樹脂)が存在する部分を有していた。
上述のようにして調製した各表皮材の物性、ならびに、以下の評価方法に基づく判断を行い、その結果を表1にまとめた。
(イソシアネートの染み出し防止性能の評価方法)
表皮材におけるニードリングを施した側の主面が露出するようにして、表皮材を平滑な板の上に静置した。そして、表皮材の露出する主面上へ、液体であるポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)を500μl滴下した。そして、滴下したポリメリックMDIの液滴における、滴下直後、1分後、2分後、3分後、5分後の形状を目視で評価した。
なお、表皮材の主面上で、表皮材へポリメリックMDIが染み込むことなく存在していた場合には染み出しが防止されているとして「〇」と評価し、表皮材へポリメリックMDIが若干染み込んでいた場合には染み出しがやや防止されているとして「△」と評価し、表皮材へポリメリックMDIがすべて染み込んでいた場合には染み出しが防止されていないとして「×」と評価した。
そして、本評価のいずれにおいても「×」と評価されなかった表皮材は、染み出しが発生し難い表皮材であると判断した。一方、本評価のいずれか一つでも「×」と評価された表皮材は、染み出しが発生し難い表皮材ではないと判断した
Figure 2022137567000001
比較例と実施例を比較した結果から、本発明の構成を満足する表皮材は、染み出しが発生し難い表皮材であることが判明した。
なお、バインダ樹脂の付与量が比較例2よりも少ない実施例1と、バインダの付与量が比較例2よりも多い実施例2は、いずれも比較例2よりも染み出しが発生し難い表皮材であった。そのため、染み出しが発生し難いという効果は、ただバインダ樹脂の付与量の多少によってのみ発揮されるものではないことが判明した。
(実施例3)
界面活性剤を付与したニードルパンチ不織布Aにおけるニードリングを施した面から、バインダ液2を泡立てた状態で付与したこと以外は、実施例2と同様にして表皮材を調製した。
(実施例4)
ニードルパンチ不織布Aの代わりにニードルパンチ不織布Bを用いたこと、また、バインダ液2の付与量を変更したこと以外は、実施例3と同様にして表皮材を調製した。
(実施例5)
バインダ液2の代わりにバインダ液1を用いたこと以外は、実施例3と同様にして表皮材を調製した。
なお、実施例3~4で調製した表皮材はいずれも、界面活性剤の層を間に介して、表皮材を構成する繊維シートの構成繊維の表面上に、バインダ樹脂(界面活性剤が混在したバインダ樹脂)が存在する部分を有していた。また、実施例5で調製した表皮材は、界面活性剤の層を間に介して、表皮材を構成する繊維シートの構成繊維の表面上に、バインダ樹脂が存在する部分を有していた。
上述のようにして調製した各表皮材の物性、ならびに、上述した評価方法に基づく判断を行い、その結果を表2にまとめた。
Figure 2022137567000002
実施例の結果から、本発明の構成を満足する表皮材は、染み出しが発生し難い表皮材であることが判明した。
以上から、本発明によって、染み出しが発生し難く、品位に優れる内装材を実現可能な表皮材を提供できることが判明した。
本発明の表皮材は、天井、ドアサイド、ピラーガーニッシュ、リヤパッケージなど自動車用;パーティションなどのインテリア用;壁装材などの建材用に、内装用途あるいは外装用途として好適に使用することができる。

Claims (2)

  1. 繊維シートと界面活性剤およびバインダ樹脂を備える、表皮材であって、
    前記界面活性剤の層を間に介して、前記繊維シートの構成繊維の表面上に前記バインダ樹脂が存在する部分を有している、
    表皮材。
  2. (1)繊維シートを用意する工程、
    (2)界面活性剤を用意する工程、
    (3)バインダ樹脂が分散媒に分散しているバインダ液、および/または、前記バインダ樹脂が溶媒に溶解しているバインダ液を用意する工程、
    (4)前記繊維シートに、前記界面活性剤を付与する工程、
    (5)前記界面活性剤を付与した繊維シートに、前記バインダ液を付与する工程、
    (6)前記バインダ液を付与した繊維シートから、前記分散媒および/または前記溶媒を除去する工程、
    を備える、表皮材の製造方法。
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