以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1、図2(a)を参照して、転造ダイス1の全体構成について説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における転造ダイス1及び被加工物10の側面図である。図2(a)は、転造ダイス1の側面図である。なお、図1及び図2では理解を容易にするため、各部の寸法を誇張して図示する共に、複数の加工歯20を模式的に図示している。
図1に示すように、転造ダイス1は、円柱状の被加工物10の外周面を塑性変形させてスプラインや歯車を転造するための工具であって、転造平ダイスである。転造ダイス1は、合金工具鋼または高速度工具鋼等の金属材料から略直方体状に形成される。
転造加工は、被加工物10を一対の転造ダイス1の対向面間に挟持しつつ、被加工物10を回転可能に支持した状態で、一対の転造ダイス1を互いに反対方向に平行移動させる。このときの被加工物10に対する転造ダイス1の相対移動方向が転造方向Dである。なお、一対の転造ダイス1の一方を固定して、一対の転造ダイス1の他方を転造方向Dに移動させることで被加工物10に転造加工しても良い。
転造加工時、転造ダイス1と被加工物10との潤滑性を向上させて転造ダイス1の損傷を抑制するために、転造ダイス1と被加工物10との間に潤滑油11が供給される。潤滑油11は、被加工物10に接触する前の転造ダイス1へ向かって供給部12から噴射して供給される。
図2(a)に示すように、転造ダイス1は、その上面(図2(a)の紙面上側)における始端側から終端側(図2(a)の右側から左側)へ向けて形成される食付き部2と、その食付き部2の終端側に連設される仕上げ部3と、その仕上げ部3の終端側に連設される逃げ部4と、を備える。なお、「始端側」及び「終端側」とは、転造方向Dにおける始端側および終端側と定義し、以下の説明においても同様とする。
食付き部2、仕上げ部3及び逃げ部4には、複数の加工歯20が刻設され、それら複数の加工歯20が食付き部2の始端側から逃げ部4の終端側にかけて連続して形成される。複数の加工歯20は、転造方向Dに対してねじれを有さずに(即ち、リード角が略90°で)刻設される。
食付き部2は、加工歯20を被加工物10(図1参照)の外周面に食付かせると共に、その加工歯20によって被加工物10を徐々に塑性変形させるための部位である。その食付き部2の加工歯20の山頂21(図2(b)参照)どうしを結ぶ平面は、始端側から終端側にかけて上昇傾斜して形成される。
仕上げ部3は、食付き部2において被加工物10に転造されたスプラインを仕上げるための部位である。その仕上げ部3の加工歯20の山頂21どうしを結ぶ平面は、転造ダイス1の支持面(図1(b)の下側の面)に対して平行に形成される。
逃げ部4は、仕上げ部3によって仕上げられた被加工物10を排出するための部位である。その逃げ部4の加工歯20の山頂21どうしを結ぶ平面は、始端側から終端側にかけて下降傾斜して形成される。
次に図2(b)、図3(a)及び図3(b)を参照して加工歯20の詳細構成について説明する。図2(b)は転造ダイス1の斜視図である。図3(a)は転造ダイス1の上面図である。図3(b)は図3(a)のIIIb−IIIb線における転造ダイス1の断面図である。なお、図2(b)及び図3(a)には、油溝30の溝底部分が二点鎖線で模式的に図示されている。また、図2(b)、図3(a)及び図3(b)では、各部の理解を容易にするため、複数の油溝30のうち一部を間引いて図示したり、油溝30や加工歯20の寸法を誇張して図示している。
図2(b)及び図3(a)に示すように、加工歯20は、転造ダイス1から上方へ突出する突起であり、側面視において略台形状に形成される。加工歯20は、転造方向D及び上下方向(加工歯20の高さ方向)に直交する転造ダイス1の幅方向Wに延設される(転造方向Dに対してねじれを有しない)。
加工歯20は、上方に突出した突起の先端部分である山頂21と、山頂21の転造方向Dの両端から下降傾斜して形成される一対のフランク22とを備える。転造方向Dに隣接する加工歯20どうしの間が谷底23である。谷底23は、隣接する加工歯20のフランク22にそれぞれ接続される。
なお、被加工物10にスプラインや歯車を転造するための転造ダイス1では、加工歯20を「歯」といい、山頂21を「歯の頂部」、フランク22を「歯面」、谷底23を「歯底」という。また、被加工物10にねじ山を転造する転造ダイスに本発明を適用しても良く、その場合、加工歯20を「ねじ山」、山頂21を「山の頂」、フランク22を「フランク」、谷底23を「谷底」という。
加工歯20(転造ダイス1の上面)には、複数の油溝30が形成される。油溝30は、供給部12(図1参照)から転造ダイス1に供給された潤滑油11(図1参照)を加工歯20に保持するための溝である。油溝30により加工歯20と被加工物10(図1参照)との間に潤滑油11を入り込み易くすることで、潤滑油11により加工歯20の損傷を抑制でき、転造ダイス1の耐久性を向上できる。
本実施の形態では、食付き部2のみに油溝30が設けられる。転造時、被加工物10からの圧力は、仕上げ部3や逃げ部4に比べて食付き部2に大きく付与されるので、食付き部2に油溝30を設けることで、特に食付き部2の加工歯20の損傷を抑制できる。
油溝30は、山頂21に形成される複数の第1油溝31と、フランク22に形成される複数の第2油溝32とを備える。第1油溝31は、加工歯20の両側のフランク22に接続される。第1油溝31は、図3(a)のような上面視において(加工歯20の高さ方向から見て)転造方向Dに沿って設けられる。即ち、第1油溝31は、上面視において加工歯20の延設方向(幅方向W)と直交して設けられる。
第2油溝32は、加工歯20の両側のフランク22に、上面視において転造方向Dに沿って形成される。両側のフランク22の第2油溝32は、自身が形成される加工歯20の山頂21の第1油溝31の両端にそれぞれ連なる。
第1油溝31及び第2油溝32(油溝30)は、レーザ加工や切削加工などによって形成される。なお、加工歯20のフランク22に第2油溝32を形成するには、レーザ加工であることが好ましい。切削加工で第2油溝32を形成する場合、隣接する加工歯20の間に切削工具を挿入する必要があり、切削加工が困難となるためである。レーザ加工であれば、第2油溝32の形成を容易にできる。
第1油溝31及び第2油溝32は、上面視において転造方向Dに沿って形成されつつ、互いに連なるので、上面視において第1油溝31及び第2油溝32が一直線上に配置される。これにより、レーザ光の照射部や切削工具を直線的に移動させて第1油溝31及び第2油溝32を形成できるので、第1油溝31及び第2油溝32の形成を容易にできる。
転造時、被加工物10から加工歯20が受ける圧力は、フランク22に比べて山頂21で大きい。そのため、転造時には、フランク22と被加工物10との間に比べて、山頂21と被加工物10との間に潤滑油11が入り込み難い。潤滑油11が入り込み難いと、加工歯20と被加工物10とが直接的に(潤滑油11を介さずに)金属接触してしまい、加工歯20の摩耗やチッピング等の損傷を潤滑油11により十分に抑制できなくなる。
しかし、本実施の形態では、山頂21に第1油溝31が形成されるので、山頂21と被加工物10との間に第1油溝31による空間が形成され、その空間で潤滑油11を保持できる。さらに、第1油溝31の内部の潤滑油11を第1油溝31の周辺へ広げることができる。これらの結果、山頂21と被加工物10との間に潤滑油11を入り込み易くできるので、山頂21と被加工物10との潤滑性を向上でき、潤滑油11によって山頂21の損傷を抑制できる。その結果、転造ダイス1の耐久性を向上できる。
さらに、第1油溝31が加工歯20の両側のフランク22に接続されるので、フランク22上の潤滑油11を第1油溝31に供給し易くできる。これにより、第1油溝31を介して山頂21と被加工物10との間に潤滑油11をより供給し易くできるので、潤滑油11によって山頂21の損傷をより抑制できる。
フランク22に第2油溝32が形成されるので、フランク22と被加工物10との間に、潤滑油11を保持するための第2油溝32による空間を形成できる。さらに、第2油溝32の内部の潤滑油11を第2油溝32の周辺へ広げることができる。これらの結果、フランク22と被加工物10との間に潤滑油11を入り込み易くできる。
特に、転造時には、始端側を向いたフランク22に被加工物10から大きい圧力が加わる。始端側を向いたフランク22に第2油溝32が形成されるので、大きい圧力が加わるフランク22と被加工物10との間に潤滑油11を供給し易くできる。その結果、潤滑油11によってフランク22の損傷を抑制できるので、転造ダイス1の耐久性を向上できる。
複数の第2油溝32が複数の第1油溝31にそれぞれ連なるので、フランク22上の潤滑油11を第2油溝32を介して第1油溝31に供給し易くできる。特に、始端側を向いたフランク22に形成される第2油溝32の内部の潤滑油11は、被加工物10によって終端側へ押されるように移動する。そのため、第2油溝32の終端側が第1油溝31に連なることで、第2油溝32を介して第1油溝31へ潤滑油11をより供給し易くできる。これらの結果、山頂21と被加工物10との間に潤滑油11をより供給し易くできるので、潤滑油11によって山頂21の損傷をより抑制できる。
転造時の塑性変形に伴う被加工物10の材料の流れは、転造方向Dに沿い易く、加工歯20のうち特にフランク22で生じ易い。フランク22に形成される第2油溝32が、上面視において転造方向Dに対して傾斜している場合には、被加工物10の材料の流れが第2油溝32によって妨げられることがあり、転造ダイス1の加工精度が十分に得られないことがある。
本実施の形態では、第2油溝32が上面視において転造方向Dに沿って形成されるので、被加工物10の材料の流れを第2油溝32に妨げられ難くできる。その結果、被加工物10の材料の流れを円滑にできるので、転造ダイス1の加工精度を向上できる。
被加工物10の材料の流れは、フランク22だけでなく山頂21でも同様に、転造方向Dに沿い易い。第2油溝32と同様に、第1油溝31も上面視において転造方向Dに沿って形成されるので、被加工物10の材料の流れを円滑にできる。その結果、転造ダイス1の加工精度を向上できる。
図3(b)に示すように、複数の第1油溝31は、溝幅方向(本実施の形態では幅方向W)に連続する波状に形成されている。即ち、1つの第1油溝31は、溝幅方向の両端部が凸の曲面、且つ、溝幅方向の中央部が凹の曲面に形成される。なお、第2油溝32の形状は第1油溝31の形状と同一である。また、後述する第1油溝31の溝深さL1や溝幅L2も、第2油溝32の溝深さや溝幅と同一である。
複数の第1油溝31や第2油溝32が連続する波状であるので、被加工物10と加工歯20との間に第1油溝31や第2油溝32による空間を多く形成できる。これにより、被加工物10と加工歯20との間に潤滑油11を保持・供給し易くできるので、潤滑油11によって加工歯20の損傷をより抑制できる。
さらに、第1油溝31や第2油溝32は、溝幅方向の両端部が凸の曲面状に形成されている。この曲面に沿って第1油溝31や第2油溝32の内部の潤滑油11を、第1油溝31や第2油溝32の外側であって加工歯20(山頂21やフランク22)と被加工物10との間に供給し易くできる。その結果、潤滑油11によって加工歯20の損傷を更に抑制できるので、転造ダイス1の耐久性を更に向上できる。
谷底23から山頂21までの加工歯20の山の高さL3に対する第1油溝31の溝深さL1(以下「L1/L3」と称す)は0.5〜10%の範囲に設定される。L1/L3が0.5%未満である場合には、山頂21と被加工物10との間に第1油溝31による空間を十分に確保できず、第1油溝31に潤滑油11を十分に供給できない。
L1/L3が10%より大きい場合には、転造時に塑性変形する被加工物10の材料が第1油溝31に流れ込み易くなり、被加工物10が第1油溝31の形状に沿って塑性変形してしまい、転造ダイス1による被加工物10の加工精度が低下する。特に、食付き部2で被加工物10の一部が第1油溝31に対応して盛り上がった後、加工歯20に第1油溝31がない仕上げ部3へ転造箇所が移行しても、食付き部2で盛り上がった部分は加工歯20に沿って流れ難い。そのため、被加工物10に転造された歯やねじ山の形状、ピッチ等の精度が低下する。
これに対してL1/L3を0.5〜10%の範囲に設定することで、第1油溝31に潤滑油11を供給し易くして転造ダイス1の耐久性を向上できると共に、転造ダイス1による加工精度を向上できる。なお、第1油溝31と同様に、加工歯20の山の高さL3に対する第2油溝32の溝深さが0.5〜10%の範囲に設定されることで、第2油溝32に潤滑油11を供給し易くして転造ダイス1の耐久性を向上できると共に、転造ダイス1による加工精度を向上できる。
また、L1/L3を1〜5%の範囲に設定することがより好ましい。この場合、第1油溝31や第2油溝32に潤滑油11をより供給し易くして転造ダイス1の耐久性をより向上できると共に、転造ダイス1による加工精度をより向上できる。
また、加工歯20の山の高さL3に係わらず、第1油溝31や第2油溝32の溝深さL1を0.005〜0.03mmの範囲に設定しても良い。さらに、溝深さL1を0.01〜0.015mmの範囲に設定することが好ましい。これらの場合も同様に、第1油溝31や第2油溝32に潤滑油11を供給し易くして転造ダイス1の耐久性をより向上できると共に、転造ダイス1による加工精度をより向上できる。
加工歯20の山の高さL3に対する第1油溝31の溝幅L2(以下「L2/L3」と称す)が5〜1000%の範囲に設定される。L2/L3が5%未満である場合に、複数の第1油溝31を幅方向Wに連続して形成すると、第1油溝31の数が多くなり、第1油溝31の加工工数が増大する。一方、L2/L3が5%未満である場合に、複数の第1油溝31を幅方向Wに離隔して配置すると、山頂21と被加工物10との間に第1油溝31による空間を十分に確保できず、第1油溝31に潤滑油11を十分に供給できない。また、L2/L3が1000%より大きいと、転造時に塑性変形する被加工物10の材料が第1油溝31に流れ込み易くなり、被加工物10が第1油溝31の形状に沿って塑性変形してしまい、転造ダイス1による被加工物10の加工精度が低下する。
これに対してL2/L3を5〜1000%の範囲に設定することで、第1油溝31に潤滑油11を供給し易くして転造ダイス1の耐久性を向上できると共に、転造ダイス1による加工精度を向上できる。なお、第1油溝31と同様に、加工歯20の山の高さL3に対する第2油溝32の溝幅が5〜1000%の範囲に設定されることで、第2油溝32に潤滑油11を供給し易くして転造ダイス1の耐久性を向上できると共に、転造ダイス1による加工精度を向上できる。
また、L2/L3を10〜500%の範囲に設定することがより好ましい。この場合、第1油溝31や第2油溝32に潤滑油11をより供給し易くして転造ダイス1の耐久性をより向上できると共に、転造ダイス1による加工精度をより向上できる。
また、加工歯20の山の高さL3に係わらず、第1油溝31や第2油溝32の溝幅L2を0.05〜3mmの範囲に設定しても良い。さらに、溝幅L2を0.1〜1.5mmの範囲に設定することが好ましい。これらの場合も同様に、第1油溝31や第2油溝32に潤滑油11をより供給し易くして転造ダイス1の耐久性をより向上できると共に、転造ダイス1による加工精度をより向上できる。
次に図4を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、第1油溝31及び第2油溝32が上面視において転造方向Dに沿って形成される場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、第1油溝42及び第2油溝43が上面視において転造方向Dに対して傾斜する場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図4(a)は第2実施の形態における転造ダイス40の上面図である。図4(b)は図4(a)のIVb−IVb線における転造ダイス40の断面図である。なお、図4(a)には、複数の油溝41の溝底部分が二点鎖線で模式的に図示されている。また、図4(a)、図4(b)では、各部の理解を容易にするため、複数の油溝41のうち一部を間引いて図示したり、油溝41や加工歯20の寸法を誇張して図示している。
転造ダイス40の加工歯20(転造ダイス40の上面)には、複数の油溝41が形成される。油溝41は、潤滑油11(図1参照)を加工歯20に保持するための溝である。油溝41は、山頂21に形成される複数の第1油溝42と、フランク22に形成される複数の第2油溝43と、谷底23に形成される複数の第3油溝44とを備える。
山頂21に形成される第1油溝42は、加工歯20の両側のフランク22に接続する。これにより、第1実施の形態と同様に、山頂21と被加工物10との間に潤滑油11を入り込み易くできるので、潤滑油11によって山頂21の損傷を抑制できる。その結果、転造ダイス40の耐久性を向上できる。
第1油溝42は、上面視において転造方向Dに対して傾斜する2種類の第1傾斜油溝42a,42bを備える。第1傾斜油溝42aは、上面視において終端側を左側とした場合、始端側へ向かうにつれて上昇傾斜するように(図4(a)の左下から右上へ向かって)設けられる。第1傾斜油溝42bは、上面視において終端側を左側とした場合、始端側へ向かうにつれて下降傾斜するように(図4(a)の左上から右下へ向かって)設けられる。
このように、上面視において第1傾斜油溝42a,42bが転造方向Dに対して傾斜しているので、上面視において転造方向Dに沿った第1実施の形態の第1油溝31と比べて、山頂21と被加工物10との間への潤滑油11の供給領域を幅方向Wに拡大できる。これにより、山頂21と被加工物10との間に更に潤滑油11を供給し易くできるので、潤滑油11によって山頂21の損傷を更に抑制できる。
ここで、転造時には、山頂21と被加工物10との間に生じる圧力分布などによって、複数の第1油溝42への、フランク22上の潤滑油11の供給され易さにも分布が生じることがある。例えば、第1傾斜油溝42aに潤滑油11が供給され易く、第1傾斜油溝42bに潤滑油11が供給され難いと、第1傾斜油溝42bが形成される方向に潤滑油11が広がり難くなる。
本実施の形態では、第1傾斜油溝42aと第1傾斜油溝42bとが互いに交差する。そのため、例えば、第1傾斜油溝42aに潤滑油11が供給され易ければ、第1傾斜油溝42bに潤滑油11が供給され難くても、第1傾斜油溝42aから第1傾斜油溝42bへ潤滑油11を供給できる。その結果、第1傾斜油溝42a,42bが形成されるいずれの方向にも潤滑油11を広げ易くできるので、山頂21と被加工物10との間に潤滑油11を更に供給し易くできる。よって、潤滑油11によって山頂21の損傷を更に抑制できる。
第1傾斜油溝42a,42bは、上面視において転造方向Dに対する傾斜角度は同一に設定される。これにより、第1傾斜油溝42a及び第1傾斜油溝42bの本数を増やした場合、1本の第1傾斜油溝42aに第1傾斜油溝42bが交差する数と、1本の第1傾斜油溝42bに第1傾斜油溝42aが交差する数とを同一にできる。そのため、第1傾斜油溝42aが形成される方向への潤滑油11の広がりと、第1傾斜油溝42bが形成される方向への潤滑油11の広がりとを均一に近づけることができる。その結果、山頂21と被加工物10との間の全体に亘って潤滑油11を供給し易くできるので、潤滑油11が少ない箇所の山頂21が損傷することを抑制できる。
第2油溝43は、上面視において転造方向Dに対して傾斜する2種類の第2傾斜油溝43a,43bを備える。第2傾斜油溝43aは、上面視において終端側を左側とした場合、始端側へ向かうにつれて上昇傾斜するように(図4(a)の左下から右上へ向かって)設けられる。第2傾斜油溝43bは、上面視において終端側を左側とした場合、始端側へ向かうにつれて下降傾斜するように(図4(a)の左上から右下へ向かって)設けられる。
第2傾斜油溝43aが第1傾斜油溝42aに連なり、第2傾斜油溝43bが第1傾斜油溝42bに連なる。これにより、第1実施の形態と同様に、フランク22と被加工物10との間に潤滑油11を入り込みやすくできると共に、第2油溝43(第2傾斜油溝43a,43b)を介して第1油溝42(第1傾斜油溝42a,42b)へ潤滑油11を供給し易くして山頂21と被加工物10との間に潤滑油11を入り込み易くできる。その結果、潤滑油11によってフランク22や山頂21の損傷を抑制できるので、転造ダイス40の耐久性を向上できる。
上面視において、第2傾斜油溝43aと第1傾斜油溝42aとが略一直線上に設けられ、第2傾斜油溝43bと第1傾斜油溝42bとが略一直線上に設けられる。これにより、レーザ光の照射部や切削工具を直線的に移動させて第1油溝42及び第2油溝43を加工歯20に形成できるので、第1油溝42及び第2油溝43の形成を容易にできる。
上面視において第1傾斜油溝42a,42b及び第2傾斜油溝43a,43bが幅方向Wに非平行なので、被加工物10の材料の流れを第1傾斜油溝42a,42b及び第2傾斜油溝43a,43bに妨げられ難くできる。上面視において転造方向Dに対する第1傾斜油溝42a,42bや第2傾斜油溝43a,43bの傾斜角度が小さい程、被加工物10の材料の流れを円滑にでき、転造ダイス40の加工精度を向上できる。
また、上面視において第1傾斜油溝42a,42b及び第2傾斜油溝43a,43bが転造方向Dに非平行なので、第1傾斜油溝42a,42b及び第2傾斜油溝43a,43bに被加工物10が僅かに食い込み、被加工物10と加工歯20との滑りを抑制できる。上面視において転造方向Dに対する第1傾斜油溝42a,42bや第2傾斜油溝43a,43bの傾斜角度が大きい程、第1傾斜油溝42a,42bや第2傾斜油溝43a,43bによる滑り止め性能を向上でき、転造ダイス40の加工精度を向上できる。
上面視において転造方向Dに対する第1傾斜油溝42a,42bや第2傾斜油溝43a,43bの傾斜角度を40〜70°に設定することで、被加工物10の材料の流れを十分に円滑にしつつ、被加工物10と加工歯20との滑りを十分に抑制できるので、加工精度をより向上できる。その傾斜角度を30〜60°に設定することがより好ましい。この場合、被加工物10の材料の流れの円滑性と、被加工物10と加工歯20との滑り止め性能とのバランスをより良くできるので、転造ダイス40の加工精度を更に向上できる。
なお、ブラスト加工や、高摩擦係数の素材によるコーティング等の表面処理を加工歯20に施すことによって、被加工物10と加工歯20との滑り止め性能を向上させても良い。この場合には、上面視において転造方向Dに対する第1傾斜油溝42a,42bや第2傾斜油溝43a,43bの傾斜角度を0〜45°に設定することが好ましく、傾斜角度を0〜30°に設定することが好ましい。これにより、被加工物10と加工歯20との滑りを十分に抑制しつつ、被加工物10の材料の流れを円滑にできるので、転造ダイス40の加工精度を向上できる。
谷底23に形成される複数の第3油溝44は、始端側および終端側が複数の第2油溝43にそれぞれ連なる。これにより、谷底23の潤滑油11を第3油溝44を介して第2油溝43及び第1油溝42に供給できる。その結果、山頂21やフランク22と被加工物10との間に潤滑油11を更に供給し易くできる。
複数の第1油溝42と第2油溝43と第3油溝44とが連なって1本の油溝41が形成される。即ち、1本の油溝41が複数の加工歯20に亘って形成されるので、潤滑油11が複数の加工歯20の一部に偏っていても、油溝41を通して広い範囲の加工歯20に潤滑油11を供給できる。その結果、潤滑油11によって加工歯20の損傷を更に抑制できる。
また、油溝41が転造ダイス40の幅方向Wの端縁に接続されていない。これにより、加工歯20と被加工物10との間の潤滑油11を、油溝41を通って転造ダイス40の幅方向Wの端縁から外側へ排出されないようにできる。その結果、加工歯20と被加工物10との間に潤滑油11を残し易くできるので、潤滑油11によって加工歯20の損傷を更に抑制できる。
図4(b)に示すように、第1油溝42、第2油溝43及び第3油溝44は、V字状の溝から構成される。これにより、第1油溝42、第2油溝43及び第3油溝44の溝幅方向の両端部に角ができ、その角が被加工物10に食い込み易くなるので、被加工物10と加工歯20との滑りを抑制できる。
第1油溝42の溝深さL1と、第2油溝43の溝深さと、第3油溝44の溝深さとは、いずれも同一の値に設定される。また、第1油溝42の溝幅L2と、第2油溝43の溝幅と、第3油溝44の溝幅とは、いずれも同一の値に設定される。これにより、互いに連続する第1油溝42、第2油溝43及び第3油溝44を、同一条件のレーザ光や同一の切削工具などを用い1回の加工で連続して形成できる。その結果、第1油溝42、第2油溝43及び第3油溝44の形成を容易にできる。
ここで、第1実施の形態のように、複数の第1油溝31や第2油溝32を溝幅方向に連続する波状に形成する場合には、第1油溝31どうしや第2油溝32どうしが隣接するように、第1油溝31や第2油溝32の溝幅L2及び位置を適切に設定する必要がある。これに対し本実施の形態では、隣り合う第1油溝42どうしや第2油溝43どうし、第3油溝44どうしが、それぞれ溝幅方向に離隔して配置される。そのため、第1油溝42や第2油溝43、第3油溝44の溝幅L2や位置を比較的自由に設定できる。
次に図5を参照して第3実施の形態について説明する。第1,2実施の形態では、加工歯20が転造ダイス1,40の幅方向Wに延設される場合について説明した。これに対し第3実施の形態では、上面視において加工歯51が転造ダイス50の幅方向Wに対して傾斜する場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
転造ダイス50の加工歯51は、転造ダイス50から上方へ突出する突起であり、側面視において略台形状に形成される。加工歯51は、上面視において、転造ダイス50の幅方向W、及び、転造方向Dに対して傾斜する。即ち、複数の加工歯51は、転造方向Dに対してねじれを有して(即ち、リード角が90°未満で)転造ダイス50の上面に刻設される。なお、加工歯51は、第1,2実施の形態の加工歯20に対して、転造方向Dに対してねじれを有する点が異なるが、その他の構成は略同一である。
加工歯51(転造ダイス50の上面)には、複数の油溝52が形成される。油溝52は、潤滑油11(図1参照)を加工歯51に保持するための溝である。油溝52は、加工歯51の山頂21に形成される複数の第1油溝53と、加工歯51のフランク22に形成される複数の第2油溝54と、谷底23に形成される複数の第3油溝55とを備える。
第1油溝53は、加工歯51の両側のフランク22に接続する。また、複数の第2油溝54は、複数の第1油溝53の始端側または終端側にそれぞれ連なる。そして、複数の第3油溝55は、始端側および終端側が複数の第2油溝54にそれぞれ連なる。
これにより、第1実施の形態と同様に、山頂21やフランク22と被加工物10との間に潤滑油11を入り込み易くできるので、潤滑油11によって山頂21やフランク22の損傷を抑制できる。その結果、転造ダイス50の耐久性を向上できる。
第1油溝53は、上面視において転造方向Dに沿って設けられる第1直線油溝53aと、上面視において転造方向Dに対して傾斜する第1傾斜油溝53bとを備える。第2油溝54は、上面視において転造方向Dに沿って設けられる第2直線油溝54aと、上面視において転造方向Dに対して傾斜する第2傾斜油溝54bとを備える。第3油溝55は、上面視において転造方向Dに沿って設けられる第3直線油溝55aと、上面視において転造方向Dに対して傾斜する第3傾斜油溝55bとを備える。
複数の第1直線油溝53aと第2直線油溝54aと第3直線油溝55aとが連なって、上面視において転造方向Dに沿った1本の油溝52が形成される。これにより、レーザ光の照射部や切削工具を転造方向Dに沿って直線的に移動させることで、第1直線油溝53a、第2直線油溝54a及び第3直線油溝55aを容易に形成できる。
また、第1直線油溝53a、第2直線油溝54a及び第3直線油溝55aが上面視において転造方向Dに沿っているので、転造方向Dに沿い易い転造時の被加工物10の材料の流れを円滑にできる。その結果、転造ダイス50の加工精度を向上できる。
さらに、第2直線油溝54a及び第3直線油溝55aが上面視において転造方向Dに沿っているので、転造方向Dに沿って塑性変形する被加工物10に第2直線油溝54a及び第3直線油溝55aの内部の潤滑油11が転造時に転造方向Dに押される。これにより、第2直線油溝54aや第3直線油溝55aを介して第1直線油溝53aへ潤滑油11を更に供給し易くできる。
複数の第1傾斜油溝53bと第2傾斜油溝54bと第3傾斜油溝55bとが連なって、上面視において転造方向Dに対して傾斜した1本の油溝52が形成される。これにより、レーザ光の照射部や切削工具を直線的に移動させることで、第1傾斜油溝53b、第2傾斜油溝54b及び第3傾斜油溝55bを容易に形成できる。
第2傾斜油溝54b及び第3傾斜油溝55bは、上面視において転造方向Dに沿っていない。そのため、転造方向Dに沿って塑性変形する被加工物10に第2傾斜油溝54b及び第3傾斜油溝55bの内部の潤滑油11が押されることに起因する、第1傾斜油溝53bへの潤滑油11の供給のし易さが十分に得られない。
しかし、上面視において転造方向Dに沿う第2直線油溝54a及び第3直線油溝55aと、第2傾斜油溝54b及び第3傾斜油溝55bとが互いに交差しているので、第2直線油溝54a及び第3直線油溝55aから第2傾斜油溝54b及び第3傾斜油溝55bへ潤滑油11を供給できる。その結果、転造方向Dに沿って塑性変形する被加工物10に第2直線油溝54a及び第3直線油溝55aの内部の潤滑油11が押されることで、第2直線油溝54a及び第3直線油溝55aから第2傾斜油溝54b及び第3傾斜油溝55bを介して第1傾斜油溝53bへ潤滑油11を供給し易くできる。
加工歯51は、上面視において終端側を左側とした場合、始端側へ向かうにつれて下降傾斜するように(図5の左上から右下へ向かって)延設される。転造方向Dに加工歯51が移動する転造時には、フランク22や谷底23上を加工歯51の延設方向に沿って終端側へ潤滑油11が流れ易いので、加工歯51と被加工物10との間で加工歯51の延設方向に沿って終端側へ潤滑油11が広がり易い。
第1傾斜油溝53b、第2傾斜油溝54b及び第3傾斜油溝55bは、上面視において終端側を左側とした場合、始端側へ向かうにつれて上昇傾斜するように(図5の左下から右上へ向かって)設けられる。このように、上面視において、転造方向Dに対する傾斜方向が、第1傾斜油溝53b、第2傾斜油溝54b及び第3傾斜油溝55bと、加工歯51とで逆なので、加工歯51の延設方向だけでなく、第1傾斜油溝53b、第2傾斜油溝54b及び第3傾斜油溝55bの傾斜方向にも潤滑油11を広がり易くできる。その結果、潤滑油11によって加工歯51の損傷を更に抑制できるので、転造ダイス50の耐久性を向上できる。
以上、上記実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、加工歯20,51の各部形状、油溝30,41,52の形状や寸法、本数は例示であり、適宜設定できる。
なお、油溝30,41,52は、山頂21に形成されて両側のフランク22に接続される第1油溝31,42,53を有していれば良い。第2油溝32,43,54や第3油溝44,55を省略しても良い。
上記第2実施の形態では、油溝41が転造ダイス40の幅方向Wの端縁に接続されていない場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば油溝41の本数を増やしたり位置をずらしたりして、第1油溝42や第2油溝43を転造ダイス40の幅方向Wの端縁に接続しても良い。なお、転造ダイス40の幅方向Wの端縁に向かう第1油溝42や第2油溝43を幅方向Wの端縁の手前まで設けることで、幅方向Wの端縁に第1油溝42や第2油溝43を接続しないようにしても良い。同様に、第3実施の形態における油溝52を転造ダイス50の幅方向Wの端縁の手前まで設けて、幅方向Wの端縁に油溝52を接続しないようにしても良い。
上記各実施の形態では、油溝30,41,52が直線状である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。油溝の全てや一部を曲線状に形成したり、延設方向が異なる直線を組み合わせて油溝を形成したりしても良い。
上記第2実施の形態では、油溝41(第1油溝42、第2油溝43及び第3油溝44)がV字状の溝である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。溝幅方向の両端部に角ができるように油溝をU字状に形成しても良い。
上記各実施の形態では、転造ダイス1,40,50が転造平ダイスである場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。転造丸ダイスに本発明を適用しても良い。この場合、上記各実施の形態で説明した始端側とは転造方向(転造丸ダイスの回転方向)前方であり、終端側とは転造方向後方である。また、扇状のセグメントダイスに本発明を適用しても良い。また、被加工物10の外周面にスプラインや歯車を転造する転造ダイス1,40,50に限らず、被加工物10の外周面にねじ山を転造する転造ダイスに本発明を適用しても良い。
上記第1実施の形態では、食付き部2のみに油溝30が設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。仕上げ部3や逃げ部4に油溝30を設けても良い。この場合、仕上げ部3や逃げ部4の加工歯20と被加工物10との間に潤滑油11を入り込み易くできるので、仕上げ部3や逃げ部4の加工歯20の損傷を抑制でき、転造ダイス1の耐久性を向上できる。