JP2019029503A - 異方性希土類磁石の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
焼結と熱処理との処理を伴う異方性希土類磁石の中で、強磁性の主相がNd2Fe14Bの組成式からなるネオジウム磁石は、最大エネルギー積が永久磁石の中で最も大きい。ネオジウム磁石の最大エネルギー積をさらに向上させるため、微量のアルミニウムや銅などの金属元素を添加したネオジウム磁石がある。また、ネオジウム磁石の保磁力を高めるため、ネオジウムNdの一部を希土類元素のジスプロシウムDyで置き換えたネオジウム磁石もある。こうしたネオジウム磁石以外の異方性希土類磁石に、希土類元素であるプラセオジムPrを含み、強磁性の主相がネオジウム磁石と同じ組成式Re2Fe14B(Reは希土類元素)を持つプラセオジム磁石Pr2Fe14Bと、希土類元素としてNdとPrとのジシム合金を用いるジシム合金磁石(NdxPr1−x)2Fe14Bがある。
このような異方性希土類磁石は、磁石の組成からなる合金のインゴットを、微細な合金微粒子に粉砕し、この合金微粒子の集まりを磁場成形機に充填し、磁場を加えて圧縮成形し、さらに、焼結と熱処理との処理を加えて異方性希土類磁石を製造する。他の異方性希土類磁石として、強磁性の主相がSm2Co17の組成式からなるサマリウムコバルト磁石がある。この磁石は、磁気キュリー点がネオジウム磁石より500℃以上高く、ネオジウム磁石より錆びにくい性質を持つ。しかし、抗折強度が15kgf/mm2で、ネオジウム磁石の25kgf/mm2より低く壊れやすいため、350℃を超える高温で使用される用途以外には使われる頻度は低い。このサマリウムコバルト磁石も、焼結と熱処理との処理を伴って製造される異方性希土類磁石である。
さらに、サマリウム元素を含む希土類磁石として、サマリウム鉄窒素磁石がある。しかし、サマリウム鉄窒素化合物が550℃付近で熱分解するため、合金微粒子の焼結固化が困難になる。このため、サマリウム鉄窒素化合物からなる合金微粒子を、合成樹脂と共に射出成形ないしは圧縮成形し、等方性のプラスチックボンド磁石として製造する。このボンド磁石は、サマリウム鉄窒素化合物の磁気キュリー点が、ネオジウム鉄ボロン化合物の磁気キュリー点より150℃以上高いため、下記に説明するネオジウム鉄ボロン化合物の等方性ボンド磁石より、高温での使用が可能になる。しかし、等方性磁石で、かつ、非磁性の合成樹脂の配合割合に応じて、磁石の最大エネルギー積が低下する。
また、上記の薄片状の合金粒子の集まりを金型でホットプレスし、合金の密度に近い等方性の磁石とし、この等方性の磁石を、熱間押出しによって異方性ラジアルリング磁石を製造するネオジウム磁石がある。この磁石は、ラジアル方向の最大エネルギー積は焼結のネオジウム磁石に近く、保磁力が燒結のネオジウム磁石より大きく、高温での使用が可能になるが、形状がリング磁石に制約される。
しかし、強磁性の主相を取り囲むNdリッチ相の中で、非磁性のNdリッチ相は、磁石の保磁力を発現させる上で欠かせない。従って、焼結と熱処理との処理を伴うネオジウム磁石には、耐食性の処理が必須になる。また、プラセオジム磁石についても同様である。
異方性ネオジウム磁石の腐食を防止する方法として、希土類磁石の表面に、射出成形、押出し成形、トランスファー成形などによって合成樹脂の保護膜を形成する方法、樹脂の溶液を塗布して被膜を形成する方法、ニッケルメッキの被膜を施す方法などが、希土類磁石メーカの製品カタログに記載されている。しかし、磁石の表面に非磁性の保護膜を形成する方法では膜厚が厚くなり、希土類磁石の表面からの漏れ磁束量が低減し、磁気エネルギーの損失が大きくなる。一方、膜厚を薄くした場合は、膜の内部にあるボイド等の構造欠陥部が温度衝撃等の熱応力を受けて破壊され、希土類磁石が腐食される恐れがある。樹脂の溶液を塗布する方法では、複数回塗布することによって塗膜の厚みを確保するが、このような塗膜も内部にボイド等の欠陥を有し、温度衝撃等の熱応力によって塗膜の内部が破壊されるため、磁石の使用環境条件が限定されていた。
しかし、磁石の原料である合金粒子は活性状態にある。従って、活性状態にある合金粒子の表面にフッ化物を形成する際に、合金粒子の表面に酸化物ないしは水酸化物が容易に形成される。こうした合金粒子を用いて製造した磁石は、前記した腐食が進行する。
いっぽう、ジスプロシウムDyやテルビウムTbの地下資源が特定の国に偏在し、将来の安定供給の観点から、ジスプロシウムDyやテルビウムTbを用いない希土類磁石が必要とされている。このため、ジスプロシウムDyやテルビウムTbを用いない希土類磁石の技術開発が行われている(例えば、非技術文献1−3を参照)。
さらに、サマリウム鉄窒素化合物が550℃程度で熱分解する性質に対し、高加圧通電焼結法という低温燒結技術の開発によって、400℃でサマリウム鉄窒素粉末を焼結する等方性磁石の技術開発が行われている(非特許文献4を参照)。
第一に、インゴットを微粉砕した合金微粒子の表面に酸化物や水酸化物が形成される。このため、合金微粒子は酸素ガスや水蒸気が排除された雰囲気での処理を継続して行う。これによって、希土類磁石の製造コストが高まる。従って、合金微粒子の表面が不活性化できれば、合金微粒子の取り扱いが容易になり、磁石の製造コストが下がる。さらに、不活性な物質で覆われた合金微粒子は、外界から遮断され、この合金微粒子を原料として用いて製造した磁石は腐食しにくい。また、合金微粒子の表面が絶縁性物質で不活性化できれば、こうした合金微粒子を用いて製造した磁石の渦電流損失は大幅に低減する。
第二に、成形機による成形密度がある。つまり、合金微粒子は硬く、かつ、活性状態にあるため、圧縮成形時に合金微粒子同士の接触部に過大な摩擦力が発生し、成形体の密度が真密度の50−60%程度に抑制される。このため、合金の真密度に近づける焼結処理が必須となり、磁石の製造コストを高める。従って、圧縮成形時に、合金微粒子を覆う物質が、合金微粒子同士を直接接触させず、これによって、摩擦力が発生せず、さらに、合金微粒子の移動を妨げられなければ、合金の真密度に近い成形体が成形できる。これによって、焼結過程が不要になり、磁石の製造コストが大幅に下がる。また、焼結に依る成形体の収縮がなく、磁石の機械加工が不要になる。さらに、焼結に依る合金微粒子の成長がない。従って、圧縮成形体をフル着磁した異方性希土類磁石では、合金微粒子同士が強固に磁気吸着し、磁石を落下させても、重量が極わずかである合金微粒子が磁気吸着力で剥がれず、焼結を伴う異方性希土類磁石より、機械的強度が増大する。
第三に、保磁力を発現させる機構がある。ところで、強磁性相のみで構成された合金微粒子を磁石の原料として用いて製造した磁石に、逆磁界を印加させると、強磁性相の磁化の反転を妨げる非磁性相が存在しないため、磁石は保磁力を持たない。このため、焼結後の成形体に熱処理を施し、保磁力を発現させることが必須になる。つまり、第二の課題で説明したように、圧縮成形しただけでは、成形体の密度が合金の50−60%でしかないため、1100℃に近い温度で焼結を行ない、成形体の密度を合金の密度に近づけた。いっぽう、保磁力を発現させる熱処理は、焼結温度より低い。このため、保磁力をもたらす熱処理は、焼結の後工程にしなければならい。従って、磁石の組成からなる合金に、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を実現させる熱処理を施し、この合金からなる微粒子を、磁石の原料として用いても、熱処理温度より高い焼結処理によって成形体の密度を高めるため、熱処理に依る保持力を発現させる結晶の微細構造は、焼結によって消滅する。このため、異方性希土類磁石の製造には、焼結工程と熱処理工程とが不可欠になり、磁石の製造コストを押し上げる。
これに対し、合金微粒子の焼結工程が不要になれば、つまり、圧縮成形で合金の密度に近い成形体が得られれば、磁石の組成からなる合金に対し、保磁力を発現させる結晶の微細構造を実現させる熱処理を行なうことができる。こうした合金を粉砕した合金微粒子を原料とした磁石は保磁力を持つ。これによって、焼結と熱処理とが不要になり、異方性希土類磁石の製造コストが大幅に下がる。なお、合金微粒子における非磁性相の割合に応じて、異方性希土類磁石の飽和磁束密度が下がる。また、合金微粒子に希土類元素がリッチな非磁性相が存在するが、合金微粒子を不活性化できれば、合金微粒子は腐食しない。
さらに、合金微粒子を非磁性の物質で覆えば、圧縮成形体における合金微粒子は非磁性の物質で囲まれる。このような成形体で磁石を構成し、磁石に逆磁界を印加すると、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層が、その内側に存在する合金微粒子に逆磁界が印加されにくくなり、新たな機構による保磁力が発現し、異方性希土類磁石における保磁力が増大する。いっぽう、合金微粒子の磁化を飽和させる際に、非磁性の物質の層が、その内側にある合金微粒子の磁化を飽和させる障害になり、より大きな磁界の印加が必要になるが、着磁の処理コストは上がらない。
第一に、薄片状の合金粒子が活性状態にある。このため、合金粒子の表面に酸化物や水酸化物が容易に形成される。このため、合金粒子は、酸素ガスや水蒸気が排除された雰囲気での処理を継続して行う。これによって、磁石の製造コストが高まる。合金粒子を不活性化すれば、合金微粒子の処理が容易になり、磁石の製造コストが下がる。さらに、不活性な物質で合金粒子を覆えば、合金粒子の表面が外界から遮断され、この合金粒子を原料として用いて製造した磁石は腐食しにくい。さらに、合金粒子を絶縁性の物質で不活性化すれば、合金粒子を原料として用いて製造した磁石の渦電流損失は大きく低減する。
第二に、熱間プレスによる成形密度である。つまり、薄片状の合金粒子は活性状態にあるため、10段落で説明した焼結と熱処理とを伴う異方性希土類磁石における合金微粒子と同様に、圧縮成形時に薄片状の合金粒子同士の接触部に過大な摩擦力が発生し、圧縮成形体の成形密度が抑制される。このため、800℃前後まで昇温し、薄片状の合金粒子を液相化させ、熱間プレスによって、合金密度に近い等方性磁石を作成した。いっぽう、磁石の組成からなる溶湯を急冷して製造した薄帯における結晶粒が、僅かに30nm程度である。こうした薄帯を原料として異方性の希土類磁石を製造するには、薄帯を150μm程度の薄片に粉砕し、この薄片の集まりを、熱間塑性加工で結晶粒のc軸を圧延方向に配向させる手段しかないため、800℃に近い温度で熱間押出しによって、異方性のリング磁石を製造することになった。いっぽう、薄片状の合金粒子を不活性な物質で覆い、この合金粒子の集まりを圧縮した際に、薄片状の合金粒子を覆う不活性な物質が、合金粒子同士を直接接触させず、これによって、摩擦力が発生せず、さらに、合金粒子の移動を妨げられなければ、合金の真密度に近い成形体が成形でき、磁石の残留磁束密度が高まる。これによって、熱間プレス工程が不要になり、磁石の製造コストが下がる。
第三に、磁石の異方性と保磁力とを発現させる機構である。第二の課題で説明したように、僅かに30nm程度の結晶粒からなる薄帯を原料とし、異方性の希土類磁石を製造するには、薄帯を150μm程度の薄片に粉砕し、この薄片の集まりを、熱間塑性加工で結晶粒のc軸を圧延方向に配向させる手段しかない。このため、800℃に近い温度で熱間押出しによって、合金粒子の結晶粒のc軸方向に磁化が拘束され、磁石に必要な異方性と保持力とが得られるようになる。しかし、熱間押出しの処理が必須になり、磁石の製造コストを高め、また、熱間押出しの製法上の制約で、磁石がリング磁石に限定される。
いっぽう、薄片状の合金粒子が、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を持てば、保磁力が発現する。さらに、薄片状の合金粒子を不活性な物質で覆い、合金粒子の集まりに磁場を印加して圧縮した際に、不活性な物質が合金粒子同士を直接接触させず、これによって、摩擦力が発生せず、さらに合金粒子の移動を妨げられなければ、合金粒子の磁化が磁場方向に配向されるとともに、合金の真密度に近い成形体が成形できる。これによって、異方性の希土類磁石が製造できる。この結果、熱間押出し加工が不要になり、また、磁石形状がリング状に制約されない。なお、薄片状の合金粒子における不活性な物質の割合に応じて、異方性希土類磁石の飽和磁束密度が下がる。また、合金粒子には希土類元素がリッチな非磁性相が存在するが、合金微粒子を不活性な物質で覆えば、合金微粒子は腐食しない。
さらに、薄片状の合金粒子を、焼結と熱処理とを伴う異方性希土類磁石における合金微粒子と同様の大きさに微粉砕し、この合金微粒子を非磁性物質で覆い、この合金微粒子の集まりを、磁界を印加して圧縮成形し、さらに、より大きな磁界を印加し、合金微粒子の磁化を飽和させて異方性希土類磁石とする。このような異方性希土類磁石に、逆磁界を印加すると、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層が、その内側に存在する合金微粒子に逆磁界が印加されにくくなり、新たな機構による保磁力が発現し、異方性希土類磁石における保磁力が増大する。いっぽう、合金微粒子の磁化を飽和させる際に、非磁性の物質の層の存在で、その内側に存在する合金微粒子の磁化を飽和させるには、より大きな磁界の印加が必要になるが、着磁の処理コストは上がらない。
ところで、サマリウム鉄窒素化合物において、Sm2Fe17N3の組成からなる化合物は、自発磁化が1.57Tで、異方性磁界が20.69MA/mで、磁気キュリー点が476℃である。また、Sm1Fe9N1.5の組成からなる化合物は、自発磁化が1.70Tで、異方性磁界が6.13MA/mで、磁気キュリー点が520℃である。これに対し、ネオジウム磁石の強磁性の主相を構成するNd2Fe14Bの組成からなる化合物は、自発磁化は1.61Tで、異方性磁界は6.13MA/mで、磁気キュリー点が312℃である。このように、サマリウム鉄窒素化合物は、ネオジウム鉄ボロン化合物より磁気物性に優れ、磁気キュリー点が150℃以上高いため、ジスプロシウムDyやテルビウムTbなどの希土類元素を用いなくても、高温時の保磁力が確保できる長所を持つ。従って、サマリウム鉄窒素磁石のポテンシャルは、ネオジウム磁石の実力より高いが、以下に説明する課題を持つ。
第一の課題は、サマリウム鉄窒素化合物が550℃付近で熱分解する。このため、サマリウム鉄窒素化合物の焼結に依る固化が困難であると考えられてきた。しかし、最近、高加圧通電焼結技術の開発によって400℃で焼結固化が可能になり、最大エネルギー積が16.2MGOeを持つ等方性磁石が得られている。この最大エネルギー積は、ネオジウムの等方性磁石の最大エネルギー積より大きい(非特許文献4を参照)。
第二の課題は、高加圧通電焼結技術は、まだ実験室レベルの技術である。つまり、真空チャンバー内に配置された金型に充填された合金微粒子に、1GPaを超える巨大な圧力を加え、金型にパルス電流を流して合金微粒子同士を焼結する。この際、全ての合金微粒子に均等に圧縮応力が加わり、全ての合金微粒子の周囲が合金微粒子と接し、合金微粒子同士が接する面が再現性良く焼結することに依って、真密度に近い焼結体が得られる。しかし、再現性を持って等方性のサマリウム鉄窒素磁石を製作する製造上の課題はいまだ多い。また、高加圧通電焼結技術が、特殊な環境と特殊な条件とによって、合金微粒子が焼結されるため、磁石を製造するコストを引き上げる。
第三に、高加圧通電焼結技術では、製造できる磁石が等方性に制限される。上記したように、サマリウム鉄窒素化合物はネオジウム鉄ボロン化合物より磁気物性が優れるため、サマリウム鉄窒素磁石のポテンシャルは、ネオジウム磁石の実力より高い。従って、異方性磁石であれば、サマリウム鉄窒素磁石のポテンシャルが発揮でき、異方性ネオジウム磁石の最大エネルギー積を超える磁石が実現でき、最大エネルギー積が最も大きい永久磁石が実現できる。また、磁気キュリー点が高いため、高温でも減磁しない。
第四は、焼結によって磁石を製造する。このため、上記した高加圧通電焼結技術のような特殊な技術が必要になり、磁石の製造コストが増大する。
ここで、サマリウム鉄窒素化合物からなる磁石の原料の製造方法を説明する。最初に、原料となる酸化サマリウム、鉄、カルシウムからなる粉体を混合する。次に、還元雰囲気の熱処理炉において混合粉を加熱し、酸化サマリウムをカルシウムによって還元してサマリウムとし、カルシウムは酸化されて酸化カルシウムになる。還元されたサマリウムは、鉄に拡散し、サマリウム鉄合金が生成される。この後、酸化カルシウムを取り除くと、平均粒径が30μmに近いサマリウム鉄合金の微粒子が得られる。この後、サマリウム鉄合金の微粒子を窒素雰囲気で熱処理すると、窒素がサマリウム鉄合金に拡散してサマリウム鉄窒素化合物からなる微粒子が得られる。さらに、窒素雰囲気で微粒子を平均粒径が2−3μmからなる微粒子に微粉砕し、磁石の原料を得る。
いっぽう、10段落と12段落で説明したように、活性状態にある合金微粒子の表面を不活性化させ、この合金微粒子の集まりを、磁界を印加して圧縮成形する際に、合金微粒子の磁化を磁場の印加方向に配向させ、かつ、合金の真密度に近い成形体が得られれば、サマリウム鉄窒素化合物の優れた磁気物性を発揮する異方性磁石が製造できる。これによって、焼結工程が不要になる。また、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を持たせる熱処理を、サマリウム鉄窒素合金に施し、こうした合金を粉砕した合金微粒子を原料として製造した磁石は保磁力を持つ。なお、合金微粒子における非磁性相の組成割合に応じて、異方性希土類磁石の飽和磁束密度が下がる。合金微粒子に希土類元素がリッチな非磁性相が存在するが、合金微粒子を不活性化できれば、合金微粒子は腐食しない。
さらに、合金微粒子を非磁性の物質で覆えば、圧縮成形体における合金微粒子は非磁性の物質で囲まれる。このような成形体で磁石を構成し、磁石に逆磁界を印加すると、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層が、その内側に存在する合金微粒子に逆磁界が印加されにくくなり、新たな機構による保磁力が発現し、異方性希土類磁石における保磁力が増大する。いっぽう、合金微粒子の磁化を飽和させる際に、非磁性の物質の層が、その内側にある合金微粒子の磁化を飽和させる障害になり、より大きな磁界の印加が必要になるが、着磁の処理コストは上がらない。また、不活性化する物質が絶縁性であれば、圧縮成形で製造した磁石の渦電流損失は大幅に低減する。
この結果、異方性ネオジウム磁石の性能を凌駕する異方性サマリウム鉄窒素磁石が実現でき、さらに、磁石の製造コストが大幅に下がる。
第一の課題は、合金のインゴットを微粉砕した合金微粒子が活性状態にある。この課題は、合金微粒子を不活性な物質で覆えば解決される。これによって合金微粒子の取り扱いが容易になり、磁石の製造コストが引き下がる。
第二の課題は、希土類磁石が腐食する。合金微粒子が不活性な物質で覆えば、上記の課題と同様に解決できる。
第三の課題は、圧縮成形した成形体の密度は、合金の真密度の50−60%程度に抑制される。このため、焼結工程によって成形体の密度を真密度に近づけた。つまり硬度が高く、活性状態にある合金微粒子の集まりを圧縮成形すると、微粒子の接触部に過大な摩擦力が発生し、圧縮成形に依る密度が真密度の50−60%程度に抑制された。いっぽう、不活性な物質で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮すると、合金微粒子同士が直接接触せず、これによって、摩擦力が発生せず、かつ、圧縮の際に発生する空隙を埋めるように合金微粒子が移動すれば、合金の密度に近い成形体が得られる。従って、不活性な物質で覆われた合金微粒子の集まりに、磁場を印加して圧縮した成形体は、合金微粒子の磁化が磁場方向に配向され、かつ、合金の密度に近い密度を持つため、第三の課題が解決できる。このような成形体に、合金微粒子の磁化を飽和させる磁場を加えると、必要となる最大エネルギー積を持つ異方性希土類磁石が得られる。これによって、焼結工程が不要なり、焼結による成形体の収縮がなくなり、磁石の機械加工も不要になり、磁石の製造コストが大幅に下がる。
第四の課題は、熱処理以外の手段で保磁力を発現させる。つまり、熱処理によって、非磁性の希土類元素リッチ相と非磁性のボロンリッチ相とが、強磁性の主相が形成する粒界相として形成され、この結晶の微細構造で保磁力が発現した。この課題は、希土類磁石の組成からなる合金に対し、熱処理によって、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を実現させ、この合金を粉砕した合金微粒子を、希土類磁石を製造する際の原料として用いることで解決する。しかし、成形体の密度を高める焼結の処理を実施しないことが前提になる。つまり、熱処理温度が焼結温度より低く、焼結処理を実施すると、合金に実施した熱処理の効果は消滅する。従って、第三の課題が解決できれば、第四の課題も解決できる。これによって、熱処理が不要になり、磁石の製造コストが下がる。なお、合金微粒子における非磁性相の割合に応じて、異方性希土類磁石の飽和磁束密度が下がる。いっぽう、合金微粒子を覆う不活性な物質を非磁性の物質で構成すれば、合金微粒子が非磁性の物質の層で覆われ、非磁性の物質の層が、内側に存在する合金微粒子に、逆磁界が印加される障害となり、新たな機構による保磁力が発現し、保磁力が増大する。また、非磁性の物質の層で覆われた合金微粒子の集りからなる磁石は錆びにくい。これによって、第一と第二の課題も同時に解決される。従って、第一から第四の課題を解決する上で、合金微粒子を不活性な非磁性の物質で覆う事が最も重要である。
第五の課題は、磁石における渦電流損失の発生である。磁石の原料である合金微粒子が導電性であるため、磁石が渦電流損失で発熱し、保磁力が低減し、磁石が減磁する。この課題は、合金微粒子を不活性化させる物質が絶縁性であれば解決される。
上記した5つの課題を解決する異方性希土類磁石を製造する新たな製造方法は、合金微粒子の取り扱いが容易で、焼結と熱処理との過程が不要になり、製造後の磁石の機械加工も不要になり、異方性希土類磁石の製造コストは大幅に低減される。また、渦電流損失に依る磁石の減磁が起きない。さらに、製造された磁石は腐食しにくい。本発明が解決しようとする課題は、これら5つの課題を同時に解決する異方性希土類磁石の新たな製造方法を実現することである。
第一の課題は、原料の合金粒子が活性状態にある。この課題は、合金微粒子を不活性な物質で覆えば解決される。これによって合金微粒子の取り扱いが容易になり、磁石の製造コストが引き下がる。
第二の課題は、希土類磁石が腐食する。合金微粒子が不活性な物質で覆えば、上記の課題と同様に解決できる。
第三の課題は、合金粒子の磁化の異方性を熱間押出し以外の方法で実現する。これによって、磁石がリング形状に限定されない。つまり、150μm程度の大きさからなる合金粒子を熱間押出しによって、結晶粒のc軸方向に磁化を配向できるため、磁石はリング形状に限定された。従って、熱間押出し以外の方法で、合金粒子の磁化が配向できれば、磁石はリング形状に限定されない。このため、薄帯を微粉砕した合金微粒子の集まりに、磁場を印加して圧縮成形した際に、合金微粒子の磁化が磁場方向によって配向できれば、第三の課題が解決される。
第四の課題は、熱間プレス以外の方法で、合金の密度に近い成形体を得る。つまり、薄片状の粒子を800℃前後まで昇温して液相化させ、この後熱間プレスで、合金の密度に近い等方性磁石を得た。ところで、150μm程度の大きさからなる薄片を、2桁小さい合金微粒子に粉砕し、合金微粒子の集まりを圧縮するだけで、合金の密度に近い成形体が得られれば、熱間プレスの処理が不要になる。このため、不活性な物質で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮すると、合金微粒子同士が直接接触せず、これによって、摩擦力が発生せず、かつ、圧縮の際に発生する空隙を埋めるように合金微粒子が移動すれば、合金の密度に近い成形体が得られる。さらに、不活性な物質で覆われた合金微粒子の集まりに、磁場を印加して圧縮した成形体は、合金微粒子の磁化が磁場方向に配向し、かつ、合金の密度に近い密度を持つ。このような成形体に、合金微粒子の磁化を飽和させる磁場を加えると、必要となる最大エネルギー積を持つ異方性希土類磁石になる。これによって、第三と第四の課題とが同時に解決される。
第五の課題は、熱間押出し以外の方法で保磁力を発現する。この課題は、合金の溶湯を急冷させて作成した薄帯を粉砕した薄片に対し、熱処理によって、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を実現させ、この薄片を粉砕した合金微粒子を、希土類磁石を製造する際の原料として用いることで解決する。
さらに、合金微粒子を覆う不活性な物質を非磁性の物質で構成し、合金微粒子の集まりに磁場を印加して圧縮した成形体は、合金微粒子の磁化が磁場方向に配向し、かつ、合金の密度に近い密度を持つ。このような成形体に、合金微粒子の磁化が飽和する磁場を加えると、異方性希土類磁石になる。さらに、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層が、内側に存在する合金微粒子に、逆磁界が印加される障害となり、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層によって、新たな保磁力が発現し、保磁力が増大する。これによって、熱間押出しの工程が不要になり、磁石形状がリング磁石に限定されない。また、合金微粒子には、希土類元素がリッチな非磁性相が存在するが、合金微粒子を非磁性の物質で覆うため、合金微粒子は腐食しにくい。この結果、第五の課題が解決されるとともに、第一からと第四の課題も同時に解決される。従って、第一から第四の課題を解決する上で、合金微粒子を不活性な非磁性の物質で覆う事が最も重要になる。
第六の課題は、磁石に渦電流が発生する。つまり、原料である合金微粒子が導電性で、これによって、磁石が渦電流損失で発熱し、保磁力が低減し、磁石が減磁する。この課題は、合金微粒子を不活性化させる物質が絶縁性であれば解決される。
上記した6つの課題を解決する異方性希土類磁石の製造方法は、合金微粒子の取り扱いが容易で、熱間プレスと熱間押出しとが不要になり、希土類磁石の製造コストは大幅に低減される。また、磁石はリング形状に限定されない。さらに、渦電流損失に依る磁石の減磁が起きない。また、磁石は腐食しにくい。本発明が解決しようとする課題は、前記した5つの課題を同時に解決する異方性希土類磁石の新たな製造方法を実現することである。
第一の課題は、インゴットを微粉砕した合金微粒子と、溶湯を急冷させて作成した薄帯を粉砕した合金微粒子と同様に、原料の合金微粒子が活性状態にある。従って、合金微粒子を不活性な物質で覆えば、この課題は解決される。これによって、合金微粒子の取り扱いが容易になり、磁石の製造コストが引き下がる。
第二の課題は、希土類磁石が腐食する。合金微粒子が不活性な物質で覆えば、上記の課題と同様に解決できる。
第三の課題は、異方性磁石を実現する。これによって、サマリウム鉄窒素化合物の優れた磁気物性を発揮する異方性磁石が得られる。磁石の原料として用いる合金微粒子の磁化が、磁場を印加した方向に配向されれば、この課題は解決される。
第四の課題は、焼結以外の方法で合金の密度に近い成形体を得る。これによって、高加圧通電焼結技術という特殊な焼結処理が不要になる。さらに、焼結による成形体の収縮がなく、製造した磁石の機械加工も不要になる。このため、不活性な物質で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮すると、合金微粒子同士が直接接触せず、これによって、摩擦力が発生せず、かつ、圧縮の際に発生する空隙を埋めるように合金微粒子が移動すれば、合金の密度に近い成形体が得られる。さらに、合金微粒子の集まりに、磁場を印加して圧縮した成形体は、合金微粒子の磁化が磁場方向に配向し、合金の密度に近い密度を持つ。このような成形体に、合金微粒子の磁化が飽和する磁場を加えると、異方性希土類磁石になる。
第五の課題は、異方性磁石に保磁力が発現する。この課題は、磁石の組成からなるサマリウム鉄窒素合金に対し、熱処理によって、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を実現させ、この合金を粉砕した合金微粒子を、希土類磁石を製造する際の原料として用いることで解決する。しかし、成形体の密度を高める焼結の処理を実施しないことが前提になる。つまり、熱処理温度が焼結温度より低いため、焼結処理を実施すると、合金に実施した熱処理の効果は消滅する。従って、第四の課題が解決できれば、第五の課題も解決できる。さらに、熱処理された合金を粉砕して微粒子とし、この合金微粒子を非磁性の物質の層で覆い、この合金微粒子の集まりに、磁場を印加して圧縮成形し、さらに、合金微粒子の磁化が飽和する磁場を加えると、サマリウム鉄窒素化合物の優れた磁気物性を発揮する異方性磁石が製造できる。さらに、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層が、内側に存在する合金微粒子に、逆磁界が印加される障害となり、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層によって新たな保磁力が発現し、保磁力が増大する。さらに、非磁性の物質で覆われた合金微粒子は錆びにくい。これによって、第五の課題が解決するとともに、第一から第四の課題が同時に解決される。従って、第一から第五の課題を解決する上で、合金微粒子を不活性な非磁性の物質で覆う事が最も重要になる。
第六の課題は、磁石に渦電流が発生する。つまり、磁石の原料である合金微粒子が導電性であり、磁石が渦電流損失で発熱し、保磁力が低減し、磁石が減磁する。この課題は、合金微粒子を不活性化させる物質が絶縁性であれば、この課題は解決される。
本発明が解決しようとする課題は、前記した6つの課題を同時に解決するサマリウム鉄窒素化合物を原料とする新たな異方性磁石の製造方法を実現することである。
上記した6つの課題を解決するサマリウム鉄窒素化合物を原料とする磁石の新たな製造方法は、合金微粒子の取り扱いが容易で、焼結工程が不要になり、製造後の磁石の機械加工も不要になり、これらによって、異方性希土類磁石の製造コストは大幅に低減される。さらに、サマリウム鉄窒素化合物の優れた磁気物性が、異方性磁石として発現される。また、渦電流損失に依る磁石の減磁が起きない。
本製造方法における磁石の原料である合金微粒子の第一の処理は、窒素ガスと共に封入された合金微粒子の集まりを、アルコールが過剰な有機金属化合物のアルコール分散液に直接混合し、懸濁液を作成する。このため、合金微粒子同士が大気雰囲気で接触することはない。第二の処理は、真空チャンバーの圧力を減圧し、アルコールを気化させる。アルコールが沸騰する際に懸濁液が撹拌され、アルコールが気化した後は、合金微粒子の表面は、有機金属化合物の微細結晶の集まりで覆われる。これによって、合金微粒子が外界から遮断され、以降の処理は、大気雰囲気での処理が可能になる。なお、有機金属化合物の微細結晶の大きさは、熱分解で析出する金属酸化物の粒状微粒子の大きさに近い。また、有機金属化合物は吸湿性を持たない。いっぽう、懸濁液を作成する際に、水蒸気や有機物などの異物が、懸濁液に混入したとしても、真空チャンバーを減圧する際に全ての異物は気化し、合金微粒子は有機金属化合物の微細結晶で覆われ、一切の異物が付着しない。また、合金微粒子に酸化物や水酸化物が形成されない。
次に、合金微粒子の集まりを、真空チャンバーから金型に移す。さらに、金型を昇温して有機金属化合物を熱分解し、合金微粒子の表面に、非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物の微粒子の集まりが析出し、全ての合金微粒子が金属酸化物の微粒子で覆われる。この有機金属化合物の熱分解は、合金微粒子の表面で起こる。つまり、熱分解温度に近づくと、有機金属化合物が金属酸化物と有機物とに分解し、有機物の密度が金属酸化物の密度より小さいため、有機物が上層に金属酸化物が下層になるように析出し、上層の有機物が気化した後に、金属酸化物が、10−100nmの間に入る粒状の微粒子を析出して熱分解反応を終え、金属酸化物の微粒子より2桁大きい合金微粒子の表面は、金属酸化物の微粒子の集まりで覆われる。金属酸化物は安定な物質で、合金微粒子の表面と反応しない。このように、有機金属化合物の熱分解が、合金微粒子の表面を覆った状態で進むため、合金微粒子の表面は外界に触れない。このため、合金微粒子に酸化物や水酸化物が形成されない。また、合金微粒子の集まりを、真空チャンバーから金型に移す際に、水蒸気や有機物などの異物が混入したとしても、有機金属化合物を熱分解する際に、異物は気化する。このため、合金微粒子は、金属酸化物の微粒子のみで覆われ、異物は一切存在しない。
さらに金型を室温に戻し、金型に一定の磁場を同一方向に印加し、徐々に増大する圧縮応力を、金型内の合金微粒子の集まりに加える。こうして、金属酸化物の微粒子で覆われた合金微粒子の集まりからなる圧縮成形体が金型内に形成される。この圧縮成形体の密度は、下記に説明するように合金の密度に近い。このような圧縮成形体に大きな磁界を印加し、強磁性の主相の磁化を飽和させると、異方性希土類磁石が製造される。なお、圧縮成形体は、金属酸化物の微粒子が1%より少ない体積で、合金微粒子が99%より多い体積を占めるように、有機金属化合物を合金微粒子に吸着させる。このため、アルコールに分散された有機金属化合物の分散濃度は極めて低く、全ての合金微粒子の表面が、有機金属化合物のアルコール分散液と接触する。
こうして製造された異方性希土類磁石は、合金微粒子が金属酸化物の微粒子で覆われているため、異方性希土類磁石を液体中で使用することができる。液体中で使用する際に、希土類磁石の表面の合金微粒子を覆う金属酸化物の微粒子のみが脱落するため、表面の合金微粒子のみが腐食されるが、圧縮成形体を着磁した後においては、合金微粒子同士が強固に磁気吸着するため、金属酸化物の微粒子の集まりが障害になり、その他の合金微粒子への腐食は進行しない。さらに、金属酸化物が絶縁性であり、異方性希土類磁石には渦電流損失が発生せず、希土類磁石の発熱がないため、保磁力が低下しない。
ここで、圧縮成形時における、金型内の合金微粒子の挙動を説明する。合金微粒子は、高圧で超音速の窒素気流ないしはヘリウム気流によるジェットミルなどの手段で機械的に微粉砕されたものを用いる。従って、合金微粒子同士が、超音速で衝突を繰り返すことで微細化されるため、合金微粒子は様々な異形形状で構成され、大きさにも偏差がある。このような合金微粒子を有機金属化合物の微細結晶で覆い、合金微粒子の集まりを金型に充填すると、ランダムに混じり合った合金微粒子の集まりには、僅かな大きさであるが、非常に多くの空隙が形成される。さらに、金型を昇温して有機金属化合物を熱分解すると、大きさが合金微粒子より2桁小さい金属酸化物の微粒子が、空隙を埋めるように合金微粒子の表面に一斉に析出し、全ての合金微粒子は金属酸化物の微粒子の集まりで覆われる。さらに、金型に一定の磁場を同一方向に印加しながら、合金微粒子に加える応力を少しずつ増大して圧縮する。合金微粒子は金属酸化物の微粒子で覆われているため、合金微粒子同士は直接接触せず、合金微粒子に摩擦力が発生せず、金属酸化物の微粒子を伴って、空隙を埋めるように、合金微粒子が僅かに回転を伴って移動する。なお、磁場が同一方向に継続して印加されるため、合金微粒子が回転を伴って移動しても、合金微粒子の主相の磁化は磁場方向に継続して配向する。合金微粒子が移動できる大きさの空隙がなくなると、圧縮応力は金属酸化物の微粒子に加わり、金属酸化物の微粒子の硬度が合金微粒子の硬度より低いため、金属酸化物の微粒子が優先して破壊され、より微細な微粒子となって空隙を埋める。空隙が金属酸化物の破壊で埋められない数ナノ程度の大きさになると、金属酸化物の微粒子の破壊が停止し、合金微粒子に圧縮応力が加わる。さらに圧縮応力が増大すると、合金微粒子の塑性変形が始まり、金属酸化物の微粒子の集まりを介して、合金微粒子が絡み合いを始める。この段階で圧縮応力の印加を停止する。こうして製造された圧縮成形体は、数ナノから数十ナノの様々な大きさからなる金属酸化物の微粒子の数十個が合金微粒子を取り囲み、空隙が数ナノ程度の大きさである稠密構造となる。また、金属酸化物の微粒子が1%より少ない体積で、合金微粒子が99%より多い体積を占める、稠密構造からなる成形体が製造され、成形体の密度は合金の密度に近い。この圧縮成形体は、衝撃力以外の応力に耐えられる一定の機械的強度を持つ。なお、前記した合金微粒子の集まりの金型内における挙動は、圧縮応力を加えた際の金型が受ける反発力の大きさから判断でき、合金微粒子の塑性変形が開始された際に反発力が最大となり、この時点で圧縮応力の印加を停止する。従って、合金微粒子には圧縮応力の印加に依る磁気歪は残留しない。
いっぽう、圧縮成形体は、モータなどに組み込む際に破壊しない程度の機械的強度が必要になる。この機械的強度が不十分であれば、圧縮成形体を着磁する際に加える磁場の1/5程度の磁界を加えれば、圧縮成形体は十分な機械的強度を持つ。つまり、圧縮成形体は、モータなどに組み込んだ後に着磁し、合金微粒子の主相の磁化を飽和させ、合金微粒子の磁力を最大限発揮させ、異方性希土類磁石とする。この際、合金微粒子に大きな磁界が加わり、主相の磁化が飽和した合金微粒子は、強力な磁気吸引力で互いに磁気吸着し、重量が極僅かな合金微粒子は、磁化を消磁させない限り、磁気吸着力で剥がれない。また合金微粒子は、ミクロンの大きさになるまで十分な時間をかけて粉砕しているため、異方性希土類磁石を落下させても、磁気吸着力で合金微粒子が剥がれず、また、合金微粒子は破棄されない。従って、異方性希土類磁石は、磁石として必要な機械的強度を有する。
以上に説明したように、本製造方法に依れば、従来のネオジウム磁石とサマリウムコバルト磁石とサマリウム鉄窒素磁石とにおける焼結工程と、従来のネオジウム磁石とサマリウムコバルト磁石とにおける熱処理工程と、異方性ラジアルリング磁石における熱間プレス工程と熱間押出し工程とが不要になる。このため、従来に比べて著しく安価な異方性希土類磁石が製造できる。さらに、焼結に伴う成形体の収縮がないため、圧縮成形体を機械加工する必要がない。なお、金属酸化物を析出する有機金属化合物の熱分解温度は、最高でも330℃程度で、従来の熱処理と熱間プレス処理より450℃以上低く、かつ、大気雰囲気での熱処理であり、熱処理費用は著しく安価で済む。また、圧縮成形時に、同一方向の磁場を継続して印加するため、全ての主相の磁化は磁場の印加方向に配向する。この後、着磁によって強磁性の主相の磁化を飽和させ、異方性希土類磁石が製造される。
ここで、製造した異方性希土類磁石の性能を説明するにあたり、永久磁石の残留磁束密度と保持力との定義を説明する。永久磁石に外部磁場を印加すると、磁場と磁化との関係が、よく知られた角形のヒステリシスループを描く。すなわち、正の方向の外部磁場を、磁石の正の方向の磁化が飽和するまで徐々に増大し、この後、正の方向の外部磁場の大きさを徐々に低下させ、外部磁場をゼロに戻す。この後、負の方向の外部磁場を、磁石の負の方向の磁化が飽和するまで徐々に増大し、この後、負の方向の外部磁場の大きさを徐々に低下させ、外部磁場をゼロに戻す。再度、正の方向の外部磁場を徐々に増やすと、磁場と磁化との関係が、よく知られた角形のヒステリシスループを示す。このヒステリシスループにおいて、外部磁場がゼロにおいて磁石が発生する磁化の大きさが、残留磁束密度である。従って、残留磁束密度の大きさに応じて、磁石は磁束を外界に漏らし、磁石の磁力は残留磁束密度で決まる。さらにヒステリシスループにおいて、磁化がゼロにおける磁場の大きさが保磁力であり、磁石内部の磁化の半分が反転して磁化を打ち消し、磁石の磁化がゼロになる外部磁場の大きさを意味する。このため、保磁力以上の磁場が磁石に加わると、磁石の特性が不可逆変化し、減磁という現象を引き起こす。減磁した磁石は、再度着磁する、つまり、磁石の磁化が再度飽和する大きさの磁場を加えると、磁石の磁気特性が復元する。しかし、磁石をモータから取り外して、再度着磁する必要がある。
次に、本製造方法に依る異方性希土類磁石の残留磁束密度を説明する。圧縮成形体を着磁する際に、強磁性の主相が持つ固有の物性である、異方性磁界より大きな磁界を圧縮成形体に加え、主相の磁化を飽和させる。ところで、圧縮成形体における金属酸化物の微粒子が占める体積割合は1%より少なく、99%より多い体積が合金微粒子で占められる。従って、異方性希土類磁石の残留磁束密度の大きさは、飽和された主相の磁化の総和に近く、主相が持つ固有の物性である自発磁化の大きさの総和に近づく。この結果、従来の異方性希土類磁石に近い残留磁束密度が得られる。なお、合金微粒子を覆う非磁性の金属酸化物の層が存在するため、圧縮成形体を着磁する際には、従来の希土類磁石より大きな磁界を印加させ、合金微粒子の磁化を飽和させる必要がある。また、異方性希土類磁石の表面から漏れる磁束密度の大きさは、金属酸化物の微粒子が占める体積割合は1%より少ないため、金属酸化物の存在による漏れ磁束の低減は、極わずかである。
次に、本製造方法に依る異方性希土類磁石の保磁力を説明する。従来の異方性希土類磁石は、圧縮成形体を焼結した後に、熱処理を施すことで、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を実現させ、保磁力を発現させた。この非磁性相の大きさは数ナノである。つまり、数ナノの大きさの非磁性相が、2桁大きい強磁性の主相に隣接して粒界相を形成することで、磁化の反転が妨げられた。
いっぽう、本製造方法で製作した圧縮成形体においては、数ナノから数十ナノの大きさからなる金属酸化物の微粒子の数十個が、稠密構造によって合金微粒子を囲む。従って、従来の異方性希土類磁石の粒界相の大きさより、2ないし3桁厚みが大きい非磁性層が、合金微粒子を囲む。このような圧縮成形体に、合金微粒子の強磁性の主相の磁化を飽和させるのに十分な磁界を印加し、異方性希土類磁石を製作する。こうして製造された異方性希土類磁石に逆磁界を印加すると、合金微粒子を囲む非磁性の層が、その内側に存在する合金微粒子の磁化を反転させる障害となり、異方性希土類磁石の保磁力が発現する。
ここで、本発明の異方性希土類磁石の製造方法がもたらす作用効果を整理する。
第一に、真空チャンバー内で、合金微粒子を有機金属化合物の微細結晶で覆うため、合金微粒子に酸化物や水酸化物などが形成されない。さらに、有機金属化合物の微細結晶で覆われた合金微粒子は、外界から遮断され、有機金属化合物の熱分解と圧縮成形とが大気雰囲気で行え、製造コストが大幅に抑えられる。
第二に、懸濁液からアルコールが気化する際と、有機金属化合物が熱分解する際に、水蒸気や有機物からなる異物が気化し、圧縮成形体には一切の異物が存在せず、また、合金微粒子の表面は腐食しない。このため、合金微粒子の磁気特性が反映された異方性希土類磁石が製造できる。
第三に、合金微粒子の集まりを圧縮成形する際に、一定の磁場を同一方向に継続して印加するため、異方性希土類磁石が製造できる。
第四に、合金微粒子の集まりを圧縮成形する際に、合金微粒子同士が直接接触せず、摩擦力が発生しない。また、金属酸化物の微粒子が破壊されて空隙を埋めるため、金属酸化物の微粒子が破壊されない、数ナノの大きさからなる空隙しか存在しない稠密構造が、圧縮成形体として形成される。さらに、圧縮成形体における金属酸化物が占める体積割合は1%より少なく、99%より多い体積を合金微粒子が占めるため、圧縮成形体は合金の密度に近づく。圧縮成形で合金の密度に近い成形体が得られるため、従来の焼結や熱処理や熱間圧延や熱間押出し処理などの熱処理が一切不要になり、異方性希土類磁石の製造コストが大幅に下がる。また、焼結処理に伴う成形体の収縮がなく、機械加工が不要になる。
第五に、合金微粒子が非磁性で絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりで覆われ、合金微粒子同士が強固に磁気吸着するため、異方性希土類磁石は錆びにくく、また、渦電流損失が大幅に低減する。
第六に、圧縮成形体は、金属酸化物の微粒子が1%より少なく、99%より多い体積が合金微粒子で占められ、また、合金微粒子は、主相が90%より多い体積を占める合金で構成されるため、異方性希土類磁石の残留磁束密度の大きさは、飽和された主相の磁化の総和に近く、主相が持つ固有の物性である自発磁化の大きさの総和に近づく。このため、異方性希土類磁石の最大エネルギー積は、従来の異方性希土類磁石と劣らない。
第七に、逆磁界を異方性希土類磁石に印加した際に、合金微粒子を囲む非磁性の層が、内側に存在する合金微粒子の磁化を反転させる障害となり、保磁力が発現する。しかし、従来の異方性希土類磁石より高温で使用できる高保磁力の異方性希土類磁石としては、さらなる保磁力の増大が必要になる。
以上に説明した本発明の異方性希土類磁石の製造方法がもたらす作用効果によって、15−17段落に記載した異方性希土類磁石における課題の内、さらなる保磁力の増大を除く課題が解決された。
保磁力を発現させる結晶の微細構造を持つ4種類の合金微粒子は、以下に説明する方法で製造し、異方性希土類磁石の原料として使用する。
第一の原料は、合金のインゴットを微粉砕した合金微粒子である。Nd2Fe14Bの組成からなる強磁性の主相が、90%より多い体積を占めるように、ネオジウム、電解鉄およびフェロボロン合金を秤量し、これらを坩堝に入れ、真空溶解炉で坩堝に高周波を印加して溶解し、均質に合金化した溶湯を鋳型に流し込んで合金のインゴットを作成する。次に、インゴットに水素ガスを吸蔵させ、水素ガスの吸蔵に依る体積膨張で無数のクラックを発生させる。この後、減圧状態で600℃に昇温し、インゴットの内部に存在する水素ガスを取り除く。さらに、インゴットを窒素ガス中で100μm程度に機械的に粗粉砕する。この後、合金粒子の集まりを、アルゴンガス雰囲気で、熱処理炉を800℃付近まで昇温し、一定時間放置した後に、さらに550℃に一定時間放置し急冷する。さらに、高圧で超音速の窒素気流によるジェットミルで、平均粒径が4−5μmに入る粉末に微粉砕し、異方性ネオジウム磁石の原料として用いる。従って、従来の磁石の原料である合金微粒子の製造方法に比べ、800℃と550℃での2段階の熱処理が追加される。これによって、合金微粒子に保磁力を発現させる結晶の微細構造が形成される。
第二の原料も、合金のインゴットを微粉砕した合金微粒子である。Sm2Co17の組成からなる強磁性の主相が、90%より多い体積を占めるように、サマリウムとコバルトを秤量し、これらを坩堝に入れ、真空溶解炉で坩堝に高周波を印加させて溶解し、均質に合金化した溶湯を鋳型に流し込んで合金のインゴットを作成する。次に、インゴットに水素ガスを吸蔵させ、水素ガスの吸蔵に依る体積膨張で無数のクラックを発生させる。この後、減圧状態で500−600℃に昇温し、インゴットの内部に存在する水素ガスを取り除く。さらに、インゴットを窒素ガス中で100μm程度に機械的に粗粉砕し合金粒子を作成する。この後、合金粒子の集まりを、真空ないしはアルゴンガス雰囲気で、熱処理炉を800℃付近まで昇温し、一定時間放置した後に急冷する。さらに、高圧で超音速の窒素気流によるジェットミルで、平均粒径が4−5μmに入る粉末に微粉砕し、異方性サマリウムコバルト磁石の原料として用いる。従って、従来の磁石の原料である合金微粒子の製造方法に比べ、800℃近辺での熱処理が追加される。これによって、合金微粒子に保磁力を発現させる結晶の微細構造が形成される。
第三の原料は、合金の溶湯を急冷させて作成した薄帯を微粉砕した合金微粒子である。Nd2Fe14Bの組成からなる強磁性の主相が、90%より多い体積を占めるように、ネオジウム、電解鉄およびフェロボロン合金を秤量し、真空中ないしはアルゴンガス中で溶解させて溶湯を作る。この溶湯を窒素ガスの雰囲気で高速回転するロールに噴射させ、溶湯を急冷させて薄帯を製造する。さらに、薄帯を窒素ガス中で150μm程度の薄片に機械的に粉砕する。この薄片の集まりを、真空ないしはアルゴンガス雰囲気で、熱処理炉を600℃付近まで昇温し、一定時間放置し、この後急冷する。さらに、高圧で超音速の窒素気流によるジェットミルで、平均粒径が2−3μmに入る粉末に微粉砕し、異方性希土類磁石の原料として用いる。この合金微粒子の製造方法も、従来の合金微粒子の製造方法に比べ、600℃付近での熱処理が追加される。これによって、合金微粒子に保磁力を発現させる結晶の微細構造が形成される。
第四の原料は、サマリウム鉄窒素化合物合金を微粉砕した合金微粒子である。Sm2Fe17N3の組成、ないしは、Sm1Fe9N1.5の組成からなる強磁性の主相が、90%より多い体積を占めるように、酸化サマリウム、鉄およびカルシウムからなる粉体を秤量して混合する。次に、還元雰囲気の熱処理炉において混合粉を加熱し、酸化サマリウムをカルシウムによって還元してサマリウムとし、カルシウムは酸化されて酸化カルシウムとする。還元されたサマリウムは、鉄に拡散し、サマリウム鉄合金が生成される。この後、酸化カルシウムを取り除き、平均粒径が30μmに近いサマリウム鉄合金の微粒子を得る。この後、サマリウム鉄合金の微粒子を窒素雰囲気で熱処理すると、窒素がサマリウム鉄合金に拡散し、サマリウム鉄窒素化合物からなる微粒子が得られる。さらに、微粒子の集まりを、アルゴンガス雰囲気で熱処理炉450℃付近まで昇温し、一定時間放置し、この後急冷する。さらに、高圧で超音速の窒素気流によるジェットミルで、平均粒径が2−3μmに入る粉末に微粉砕し、希土類磁石の原料として用いる。この合金微粒子の製造方法も、従来の合金微粒子の製造方法に比べ、450℃での熱処理が追加される。これによって、合金微粒子に保磁力を発現させる結晶の微細構造が形成される。
以上に説明した保磁力を発現する熱処理は、異方性希土類磁石の原料である合金微粒子を製造する一環として行われる。これに対し、従来の異方性希土類磁石の製造における保磁力を発現する熱処理は、異方性希土類磁石を製造する一環として行われる。従って、同様の熱処理であっても、磁石の原料となる大量の合金微粒子に熱処理を施すため、異方性希土類磁石の原料である合金微粒子に加える熱処理費用の方が安価になる。
第一の合金微粒子を製造する際に製造する合金のインゴットは、Nd2Fe14Bの組成が、90%より多い体積を占める合金のインゴットである。つまり、原料であるネオジウム、電解鉄およびフェロボロン合金の各々を、合金の組成に応じて秤量し、これらを坩堝に入れ、真空溶解炉で坩堝に高周波を印加させて溶解し、均質に合金化した溶湯を鋳型に流し込むと、Nd2Fe14Bの組成が90%より多い体積を占める合金のインゴットが製造される。この合金のインゴットを、21段落で説明した製造方法に準じて、平均粒径が4−5μmに入る微粒子を製作し、この合金微粒子を原料として用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に基づいて磁石を製造すると、第一の異方性ネオジウム磁石が製造される。
第二の合金微粒子を製造する際に製造する合金の溶湯は、Nd2Fe14Bの組成が90%より多い体積を占める合金の溶湯である。原料であるネオジウム、電解鉄およびフェロボロン合金の各々を、合金の組成に応じて秤量し、これらを坩堝に入れ、真空溶解炉で坩堝に高周波を印加させて溶解し、均質に合金化したNd2Fe14Bの組成が90%より多い体積を占める合金の溶湯が得られる。この溶湯を、ストリップキャスト法で急冷させて合金の薄帯を製造し、この薄帯を21段落で説明した製造方法に準じて、平均粒径が2−3μmに入る微粒子を製作する。この合金微粒子を用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に基づいて磁石を製造すると、第二の異方性ネオジウム磁石が製造される。
第三の合金微粒子における合金は、Sm2Fe17N3の組成、ないしは、Sm1Fe9N1.5の組成が、90%より多い体積を占めるサマリウム鉄窒素化合物である。最初に、酸化サマリウム、鉄およびカルシウムの粉体を、合金の組成に応じて秤量して混合する。次に、還元雰囲気の熱処理炉で混合粉を加熱し、酸化サマリウムをカルシウムで還元してサマリウムとし、カルシウムは酸化されて酸化カルシウムになる。さらに、還元されたサマリウムは鉄に拡散し、サマリウム鉄合金が生成される。この後、酸化カルシウムを取り除くと、平均粒径が30μmに近いサマリウム鉄合金の微粒子が得られる。この後、サマリウム鉄合金の微粒子を窒素雰囲気で熱処理し、窒素がサマリウム鉄合金に拡散し、Sm2Fe17N3の組成、ないしは、Sm1Fe9N1.5の組成が、90%より多い体積を占めるサマリウム鉄窒素化合物の微粒子が得られる。このサマリウム鉄窒素化合物の微粒子を、21段落で説明した製造方法に準じて、平均粒径が2−3μmに入る微粒子を製作し、この合金微粒子を用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に基づいて磁石を製造すると、異方性サマリウム鉄窒素磁石が製造される。
第四の合金微粒子における合金のインゴットは、主相のSm2Co17の組成が90%より多い体積を占める合金のインゴットである。この合金インゴットは、原料であるサマリウムとコバルトを合金の組成に応じて秤量して坩堝に入れ、真空溶解炉で坩堝に高周波を印加させて溶解し、均質に合金化した溶湯を鋳型に流し込むと、Sm2Co17の組成が90%より多い体積を占める合金のインゴットが製造される。この合金インゴットを、21段落で説明した製造方法に準じて、平均粒径が4−5μmに入る合金の微粒子を製作し、この合金微粒子を用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に基づいて磁石を製造すると、異方性サマリウムコバルト磁石が製造される。
すなわち、カルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になって、金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸金属化合物は、最も大きいイオンである金属イオンに酸素イオンが近づいて配位結合するため、両者の距離は短くなる。これによって、金属イオンに配位結合する酸素イオンが、金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの距離が最も長くなる。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物は、カルボン酸金属化合物を構成するカルボン酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの結合部が最初に分断され、金属イオンと酸素イオンとの化合物である金属酸化物とカルボン酸とに分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後に金属酸化物が析出する。こうしたカルボン酸金属化合物として、酢酸金属化合物、カプリル酸金属化合物、安息香酸金属化合物、ナフテン酸金属化合物などがある。
また、カルボン酸金属化合物は、いずれも容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、汎用的なカルボン酸を強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。この後、カルボン酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させることで、カルボン酸金属化合物が合成される。また、原料となるカルボン酸は、有機酸の沸点の中で相対的に低い沸点を有する有機酸であるため、大気雰囲気においては330℃程度の低い熱処理で金属酸化物の微粒子が析出する。
以上に説明したように、18段落の異方性希土類磁石の製造方法において、合金微粒子の表面が金属酸化物の微粒子の集まりで覆われるため、18段落の異方性希土類磁石の製造方法において、カルボン酸金属化合物は有機金属化合物を構成する。
なお、鉄の酸化物であるマグネタイトFe3O4を除く金属酸化物は、不純物を含まなければ絶縁性である。酸化錫SnO2と酸化チタンTiO2とは、不純物として金属をドーピングすることで半導体性を持つ。多くの金属酸化物は非磁性であり、鉄の酸化物であるマグネタイトFe3O4とマグヘマイトγ―Fe2O3と、各種フェライトは強磁性の性質を持つ。従って、前記したカルボン酸金属化合物の熱分解で析出した多くの金属酸化物は、非磁性で絶縁性である。
第一に、非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物である。
第二に、前記した酢酸金属化合物、カプリル酸金属化合物、安息香酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物からなるカルボン酸金属化合物は、アルコールに分散し、アルコールを気化させた後に、カルボン酸金属化合物を熱分解すると、金属酸化物が析出する。いっぽう、酢酸金属化合物の多くはアルコールに溶解するため、カルボン酸金属化合物として望ましくない。また、安息香酸金属化合物は、酸素イオンが金属イオンに近づいて配位結合して複核錯塩を形成するが、熱分解の途上においては不安定な物質を生成する安息香酸金属化合物がある。このため、熱分解で金属酸化物を析出するカルボン酸金属化合物は、カプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物が望ましい。従って、カプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物の合成が容易で、熱分解で金属酸化物を析出することが望ましい。
第三に、加水分解性を有する、あるいは、水との反応を伴う、アルカリ金属とアルカリ土類金属の金属酸化物は望ましくない。また、アルカリ金属とアルカリ土類金属からなるカプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化物の多くは、アルコールに溶解する。
第四に、磁石の原料である合金微粒子より硬度が低いことが望ましい。つまり、金属酸化物微粒子の硬度が、合金微粒子より低ければ、圧縮成形時に金属酸化物微粒子が、より微細な微粒子に破壊され、圧縮成形体における空隙を、破壊された金属酸化物の微粒子が埋め尽くし、稠密構造からなる圧縮成形体が容易に製造できる。また、成形時に過度な圧縮応力が不要になるため、合金微粒子の磁気特性を低減させる磁気歪が残留しない。
いっぽう、ネオジウム磁石の原料の合金微粒子は、ビッカース硬度が600HVで、サマリウムコバルト磁石の原料の合金微粒子は、ビッカース硬度が550HVである。これに対し、金属酸化物の粒子は、酸化アルミ二ウムAl2O3、酸化ケイ素SiO2、酸化錫SnO2、酸化クロムCr2O3、酸化マグネシウムMgOおよび酸化チタンTiO2の順で硬度が高く、また、希土類磁石の原料である合金微粒子より硬度が高い。
第五に、カプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物が安価に合成できる。このため、銅を除く貴金属元素、白金族元素及び重金属元素からなるカプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物は、高価な有機金属化合物であるため望ましくない。なお酸化鉄FeOは、非磁性でかつ絶縁性で脆い性質を持つが、熱力学的に不安定な物質で、導電性のマグネタイトFe3O4に徐々に変化する性質を持つため、望ましくない。
以上に説明した5つの性質を兼備する金属酸化物として、酸化マンガンMnO2、酸化銅CuO、酸化ニッケルNiO、ないしは、酸化亜鉛ZnOがある。また、こうした金属酸化物を熱分解で析出するカプリル酸金属化合物とナフテン酸金属化合物とは、合成が容易であるため、金属酸化物の安価な原料になる。
熱分解で金属酸化物を析出する金属化合物は、第一にアルコールに分散する性質と、第二に合金微粒子の表面で、金属酸化物微粒子の集まりを析出する性質とを兼備する。以下の説明では、酸化ニッケルNiOを析出する原料を例として説明する。
無機ニッケル化合物は、熱分解で酸化ニッケルを析出しないため、アルコールに分散する有機ニッケル化合物が望ましい。また、有機ニッケル化合物から酸化ニッケルが生成される化学反応の中で、最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。つまり、有機ニッケル化合物を昇温するだけで、熱分解によって酸化ニッケルが析出する。さらに、有機ニッケル化合物の合成が容易でれば、有機ニッケル化合物が安価に製造できる。これら2つの性質を兼備する有機ニッケル化合物に、カルボン酸ニッケル化合物がある。
つまり、カルボン酸ニッケル化合物を構成する物質の中で、最も大きい共有結合半径を持つ物質はニッケルイオンNi2+である。いっぽう、ニッケルイオンNi2+とカルボキシル基を構成する酸素イオンO−とが共有結合するカルボン酸ニッケル化合物は、ニッケルイオンと酸素イオンとの距離が最大になる。この理由は、ニッケルの共有結合半径は110pmであり、酸素の単結合の共有結合半径は63pmであり、炭素の二重結合の共有結合半径は67pmであることによる。このため、ニッケルイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとが共有結合するカルボン酸ニッケル化合物は、カルボン酸の沸点において、結合距離が最も長いニッケルイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの結合部が最初に分断され、ニッケルとカルボン酸とに分離する。さらに昇温すると、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後にニッケルが析出する。従って、熱分解で酸化ニッケルNiOを析出するカルボン酸ニッケル化合物は、ニッケルイオンNi2+と結合する酸素イオンO−との距離が短く、酸素イオンO−がニッケルイオンNi2+の反対側で結合するイオンと結合する距離が長い分子構造上の特徴を持つ必要がある。これによって、酸素イオンO−がニッケルイオンNi2+の反対側で結合するイオンと結合する部位が最初に切れ、酸化ニッケルNiOとカルボン酸とに分解する。このような分子構造上の特徴を持つカルボン酸ニッケル化合物として、カルボキシル基を構成する酸素イオンO−が配位子になってニッケルイオンNi2+に近づいて配位結合するカルボン酸ニッケル化合物がある。
また、カルボン酸ニッケル化合物は合成が容易で、安価な有機ニッケル化合物である。つまり、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液と反応させると、カルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。カルボン酸アルカリ金属化合物を、硫酸ニッケルなどの無機ニッケル化合物と反応させると、カルボン酸ニッケル化合物が生成される。さらに、カルボン酸の沸点が低いため熱分解温度が相対的に低い。このため、カルボキシル基を構成する酸素イオンが、配位子となって金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸ニッケルは、安価な化学薬品であり、熱処理費用も安価で済む。こうしたカルボン酸ニッケルとして、カプリル酸ニッケル、安息香酸ニッケル、ナフテン酸ニッケルなどが挙げられる。なお、酢酸ニッケルは、アルコールに溶解するため望ましくない。また、安息香酸ニッケルは、熱分解の途上においては不安定な物質を生成する。従って、酸化ニッケルの原料として、カプリル酸ニッケルないしはナフテン酸ニッケルが望ましい。
本実施例は、酸化ニッケルNiOの微粒子で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮成形して、異方性ネオジウム磁石を製造する実施例である。合金微粒子は、90%より多い体積をNd2Fe14Bの組成からなる主相が占める合金のインゴットに、水素ガスを吸蔵させ、この後、窒素ガス中で100μm程度に機械的に粗粉砕し、この後アルゴンガス雰囲気で、800℃と550℃とに1時間ずつ放置し、急冷した後に、窒素ガスの雰囲気で平均粒径が5μmに機械的に微粉砕して製造した合金微粒子(日立金属株式会社の供試品)を用いた。有機金属化合物として、カプリル酸ニッケルNi(C7H15COO)2(例えば、三津和化学薬品株式会社の製品)を用いた。
なお、合金微粒子を覆う金属酸化物の微粒子は、酸化ニッケルに限定されない、27段落で説明したように、5つの性質を兼備する金属酸化物として、酸化ニッケルNiOの他に、酸化マンガンMnO2、酸化銅CuO、ないしは、酸化亜鉛ZnOがある。従って、これらの金属からなるカプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物を用い、合金微粒子を覆う事ができる。
最初に、カプリル酸ニッケルの2.4gを、100ccのn−ブタノールが充填された容器に混合し、分散液を作成した。この分散液に、窒素ガスと共に封入された合金微粒子の190gを混合し、懸濁液を作成した。さらに、懸濁液が入った容器を真空チャンバーに配置し、真空チャンバーを減圧し、n−ブタノールを気化させ、気化したn−ブタノールを回収した。この後真空チャンバーを大気圧に戻し、容器内の合金微粒子の集まりを金型に移した。金型は、直径が4cmで、高さが2cmの円柱形状の成形体が成形される形状を持つ。この金型を、磁場中成形油圧プレス(株式会社玉川製作所の製品)に取り付けた。最初に、円柱形状の厚み方向に、12キロエルステッドの磁界を、合金微粒子の集まりの圧縮成形が完了するまで加えた。次に、金型を290℃まで昇温し、290℃に1分間放置し、カプリル酸ニッケルを熱分解した。金型を室温に戻した後に、金型内の合金微粒子の集りに、10MPa/分の昇圧速度で圧力を加え、合金微粒子を成形した。プレス機が受ける反発力が増大した時点で昇圧を停止し、圧縮成形体を製作した。
この後、円柱形状からなるアシュク成形体の厚み方向に、35キロエルステッドの磁界を加えて着磁し、異方性ネオジウム磁石を製作した。なお、190gの合金微粒子の集まりに、2.4gのカプリル酸ニッケルが熱分解して酸化ニッケルの微粒子が覆うと、酸化ニッケルの微粒子が異方性希土類磁石に占める体積割合は、0.3%と極めて少ない。
次に、製作した圧縮成形体の観察と分析とを行なった。圧縮成形体を厚み方向に2つに切断し、切断面を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は100Vからの極低加速電圧による観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料が観察できる特徴を有する。
最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行い、切断面を観察した。5−60nmに及ぶ様々な大きさからなる粒状の微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くし、4nm以下の大きさからなる空隙が、ランダムに多くの場所で形成されていることが確認できた。また、隣り合う合金微粒子が最も近づく箇所で、様々な大きさの30−40個の粒状微粒子が存在し、合金微粒子で囲まれた箇所では、様々な大きさの50−100個の粒状微粒子が存在した。次に、特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒状微粒子を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。ニッケル原子と酸素原子の双方が均一に分散して存在し、特段に偏在する箇所が見られないため、酸化ニッケルの粒状微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くしていることが確認できた。図1に、合金微粒子1が酸化ニッケルの微粒子2によって、満遍なく覆われている状態を模式的に拡大して示す。
次に、異方性ネオジウム磁石の磁気特性を測定した。測定装置は、東英工業株式会社のパルス励磁型磁気特性測定装置を用いた。残留磁束密度Brは1.4テスラで、保磁力Hcjは21キロエルステッドで、最大エネルギー積(BH)max.は38MGOeであった。これらの磁気特性は従来の異方性ネオジウム焼結磁石の性能に劣らない。
本実施例は、酸化ニッケルNiOの微粒子で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮成形して、異方性ネオジウム磁石を製造する実施例である。合金微粒子として、90%より多い体積をNd2Fe14Bの組成からなる主相が占める合金の溶湯を急冷して作成した薄帯を、窒素ガス中で薄片に機械的に粗粉砕し、さらに、アルゴンガス雰囲気で600℃に1時間放置し、急冷した後に、窒素ガスの雰囲気で平均粒径が4μmに機械的に微粉砕した合金微粒子(大同特殊鋼株式会社の供試品)を用いた。また、有機金属化合物として、実施例1のカプリル酸ニッケルを用いた。
実施例1と同様に、カプリル酸ニッケルの2.4gを、100ccのn−ブタノールに分散し、これに合金微粒子の190gを混合し、懸濁液を作成した。n−ブタノールを気化した後に、カプリル酸ニッケルの微細結晶で覆われた合金微粒子の集まりを、実施例1と同じ形状の金型に移した。さらに、実施例1と同様に、合金微粒子の集りに12キロエルステッドの磁界を、合金微粒子の集まりの圧縮成形が完了するまで加えた。次に、金型を290℃に昇温し、1分間放置し、カプリル酸ニッケルを熱分解した。金型を室温に戻した後に、合金微粒子の集りに、10MPa/分の昇圧速度で圧力を加え、プレス機が受ける反発力が増大した時点で昇圧を停止し、圧縮成形体を製作した。
この後、実施例1と同様に、円柱形状からなる圧縮成形体の厚み方向に、35キロエルステッドの磁界を加えて着磁し、異方性ネオジウム磁石を製作した。
次に、実施例1と同様に、製作した圧縮成形体の断面の観察と分析とを、電子顕微鏡を用いて行なった。実施例1と同様に、5−60nmに及ぶ様々な大きさからなる酸化ニッケルの粒状微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くし、4nm以下の大きさからなる空隙が、ランダムに多くの場所で形成されていることが確認できた。また、隣り合う合金微粒子が最も近づいている箇所で、様々な大きさの30−40個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在し、合金微粒子で囲まれた箇所では、様々な大きさの50−100個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在した。
次に、異方性ネオジウム磁石の磁気特性を、実施例1と同様に測定した。残留磁束密度Brは1.2テスラで、保磁力Hcjは19キロエルステッドで、最大エネルギー積(BH)max.は35MGOeであった。これらの磁気特性は従来のラジアル異方性ネオジウム磁石の性能より優れる。
本実施例は、酸化ニッケルNiOの微粒子で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮成形して、異方性サマリウム鉄窒素磁石を製造する実施例である。合金微粒子として、90%より多い体積をSm2Fe17N3の組成からなる平均粒径が30μmに近いサマリウム鉄合金の微粒子を作成し、さらに、アルゴンガス雰囲気で450℃付近まで昇温し、1時間放置し、急冷した後に、窒素雰囲気で平均粒径が3μmに機械的に粉砕した合金微粒子(住友金属鉱山株式会社の供試品)を用いた。また、有機金属化合物として、実施例1のカプリル酸ニッケルを用いた。
実施例1と同様に、カプリル酸ニッケルの2.4gを、100ccのn−ブタノールに分散し、これに合金微粒子の190gを混合し、懸濁液を作成した。n−ブタノールを気化した後に、カプリル酸ニッケルの微細結晶で覆われた合金微粒子の集まりを、実施例1と同じ形状の金型に移した。さらに、合金微粒子の集まりに18キロエルステッドの磁界を、合金微粒子の集まりの圧縮成形が完了するまで加えた。次に、金型を290℃に昇温し、290℃に1分間放置し、カプリル酸ニッケルを熱分解した。金型を室温に戻した後に、合金微粒子の集りに、10MPa/分の昇圧速度で圧力を加え、プレス機が受ける反発力が増大した時点で昇圧を停止し、圧縮成形体を製作した。
この後、実施例1と同様に、円柱形状の成形体の厚み方向に、50キロエルステッドの磁界を加えて着磁し、異方性ネオジウム磁石を製作した。
次に、実施例1と同様に、製作した圧縮成形体の断面の観察と分析とを、電子顕微鏡を用いて行なった。実施例1と同様に、5−60nmに及ぶ様々な大きさからなる酸化ニッケルの粒状微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くし、4nm以下の大きさからなる空隙が、ランダムに多くの場所で形成されていることが確認できた。また、隣り合う合金微粒子が最も近づいている箇所で、様々な大きさの30−40個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在し、合金微粒子で囲まれた箇所では、様々な大きさの50−100個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在した。
次に、異方性ネオジウム磁石の磁気特性を、実施例1と同様に測定した。残留磁束密度Brは1.3テスラで、保磁力Hcjは28キロエルステッドで、最大エネルギー積(BH)max.は35MGOeであった。これらの磁気特性は従来の等方性サマリウム鉄窒素焼結磁石の性能より優れる。
実施例は、酸化ニッケルNiOの微粒子で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮成形し、異方性サマリウムコバルト磁石を製造する実施例である。合金微粒子は、90%より多い体積をSm2Co17の組成からなる主相が占める合金のインゴットに、水素ガスを吸蔵させ、この後、窒素ガス中で100μm程度に機械的に粗粉砕し、この後アルゴンガス雰囲気で、800℃付近に1時間放置し、急冷した後に、窒素ガスの雰囲気で平均粒径が5μmに機械的に微粉砕した合金微粒子(株式会社三徳の供試品)を用いた。また、有機金属化合物として、実施例1のカプリル酸ニッケルを用いた。
実施例1と同様に、カプリル酸ニッケルの2.4gを、100ccのn−ブタノールに分散し、さらに合金微粒子の210gを混合し、懸濁液を作成した。n−ブタノールを気化させた後に、カプリル酸ニッケルの微細結晶で覆われた合金微粒子の集まりを、実施例1と同じ形状の金型に移した。さらに、合金微粒子の集りに15キロエルステッドの磁界を、合金微粒子の集まりの圧縮成形が完了するまで加えた。次に、金型を290℃に昇温し、290℃に1分間放置し、カプリル酸ニッケルを熱分解した。金型を室温に戻した後に、合金微粒子の集りに、10MPa/分の昇圧速度で圧力を加え、合金微粒子を成形した。プレス機が受ける反発力が増大した時点で昇圧を停止し、圧縮成形体を製作した。
この後、円柱形状の圧縮成形体の厚み方向に、40キロエルステッドの磁界を加えて着磁し、異方性サマリウムコバルト磁石を製作した。
次に、実施例1と同様に、圧縮成形体の断面の観察と分析とを、電子顕微鏡を用いて行なった。実施例1と同様に、5−60nmに及ぶ様々な大きさからなる酸化ニッケルの粒状の微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くし、4nm以下の大きさからなる空隙が、ランダムに多くの場所で形成されていることが確認できた。また、隣り合う合金微粒子が最も近づいている箇所で、様々な大きさの30−40個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在し、合金微粒子で囲まれた箇所では、様々な大きさの50−100個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在した。
次に、異方性サマリウムコバルト磁石の磁気特性を、実施例1と同様に測定した。残留磁束密度Brは1.0テスラで、保磁力Hcjは23キロエルステッドで、最大エネルギー積(BH)max.は28MGOeであった。これらの磁気特性は、従来の異方性サマリウムコバルト焼結磁石の性能より劣らない。
Claims (5)
- 異方性希土類磁石の製造方法は、熱分解で非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物の微粒子を析出する有機金属化合物を、アルコールに分散してアルコール分散液を作成する、この後、90%より多い体積を強磁性の主相が占める合金である第一の特徴と、前記金属酸化物の微粒子より硬度が高い微粒子である第二の特徴と、前記金属酸化物の微粒子の大きさより2桁大きい微粒子である第三の特徴とを兼備する合金微粒子の集まりを、前記アルコール分散液に混合して懸濁液を作成する、さらに、前記懸濁液を容器に移し、該容器を真空チャンバーに配置する、この後、前記真空チャンバー内の圧力を減圧し、前記懸濁液からアルコールを気化させる、さらに、前記真空チャンバー内の圧力を大気圧に戻し、前記合金微粒子の集まりを前記容器から金型に移し、該金型を前記有機金属化合物が熱分解する温度に昇温し、この後、該金型を室温に戻す、さらに、前記金型内の合金微粒子の集まりに、一定の磁場を同一方向に印加するとともに、徐々に増大する圧縮応力を加え、該金型内に圧縮成形体を成形する、この後、前記圧縮成形体に磁場を印加し、前記合金微粒子の磁化を飽和させることで異方性希土類磁石を製造する、異方性希土類磁石の製造方法。
- 請求項1に記載した異方性希土類磁石の製造方法において、請求項1に記載した合金微粒子は、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質によって形成される合金からなる微粒子である、請求項1に記載した異方性希土類磁石の製造方法。
- 請求項1に記載した異方性希土類磁石の製造方法において、請求項1に記載した合金微粒子は、強磁性の主相が、Nd2Fe14Bの組成、Sm2Fe17N3の組成、Sm1Fe9N1.5の組成、ないしは、Sm2Co17の組成のいずれかの組成からなる強磁性の主相である合金の微粒子である、請求項1記載した異方性希土類磁石の製造方法。
- 請求項1に記載した異方性希土類磁石の製造方法において、請求項1に記載した有機金属化合物が、カルボン酸におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが、金属イオンに配位結合したカルボン酸金属化合物である、請求項1に記載した異方性希土類磁石の製造方法。
- 請求項1に記載した異方性希土類磁石の製造方法において、請求項1に記載した非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物が、酸化マンガンMnO2、酸化銅CuO、酸化ニッケルNiO、ないしは、酸化亜鉛ZnOからなるいずれかの金属酸化物である、請求項1に記載した異方性希土類磁石の製造方法。
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2017
- 2017-07-31 JP JP2017147326A patent/JP6918617B2/ja active Active
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