JP2019025768A - ノズルプレート、液体噴射ヘッド、液体噴射装置、ノズルプレートのメンテナンス方法、液体噴射ヘッドのメンテナンス方法、及び、液体噴射装置のメンテナンス方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ノズル形成面の撥液膜の劣化を抑制することが可能なノズルプレート、液体噴射ヘッド、液体噴射装置、ノズルプレートのメンテナンス方法、液体噴射ヘッドのメンテナンス方法、及び、液体噴射装置のメンテナンス方法を提供する。【解決手段】液体が噴射されるノズル開口(30)が形成されたノズル形成面(23)を有するノズルプレート(24)であって、ノズル開口が形成されたノズル形成領域に含まれ、ノズル形成領域よりノズル形成面を払拭する払拭部材による払拭方向側に液体に含まれる固形成分を捕捉するトラップ構造(51,75,76,79)が設けられたことを特徴とする。【選択図】図5
Description
本発明は、例えばインクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドのノズルプレート、これを備える液体噴射ヘッド、液体噴射装置、ノズルプレートのメンテナンス方法、液体噴射ヘッドのメンテナンス方法、及び、液体噴射装置のメンテナンス方法に関するものである。
液体噴射装置は液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘッドから各種の液体を噴射(吐出)する装置である。この液体噴射装置の代表的なものとして、例えば、液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドから着弾対象としての記録紙等の記録媒体に対して液体状のインクを液滴として噴射・着弾させてドットを形成することで画像等の記録を行うインクジェット式記録装置(以下、単にプリンターという)等の画像記録装置を挙げることができる。この液体噴射装置は、近年においては、画像記録装置に限らず、例えばディスプレイ製造装置等の各種の製造装置にも応用されている。
液体噴射ヘッドを搭載した液体噴射装置では、ノズルから噴射された液体が当該ノズル形成面に付着して汚染されることがあるため、ノズル形成面を払拭する払拭機構が設けられている。例えば、特許文献1には、液滴吐出ヘッドのノズルプレートのノズル形成面(吐出面)を払拭する払拭機構としてワイピングブレードを備えたワイピング手段が設けられている。また、上記のような液体噴射ヘッドでは、ノズル形成面の払拭性向上の観点から、ノズル形成面には撥液膜が形成されていることが一般的であり、当該ノズル形成面の撥液性が高められている。ところが、ノズル形成面に液体が付着した場合、ノズル形成面において液体が次第に凝集して、当該液体に含まれる顔料等の固形成分の凝集物を生じさせることがある。このような凝集物が生じた状態で、何らの対策することなく払拭部材でノズル形成面を払拭した場合、凝集物がノズル形成面を摺動することにより撥液膜を傷つけやすい。特に、固形成分として酸化チタン等の比較的硬質な成分を含む液体を噴射する用途に液体噴射ヘッドが使用される場合、このような硬い凝集物(固形成分)をノズル形成面上で引きずることでノズル形成面上の撥液膜に傷がついて次第に摩耗し、撥液性が劣化するという問題があった。特許文献1の構成では、ワイピング手段によるノズル形成面の払拭(ワイピング)時にノズル形成面に付着したインク(液状体)を溜めるための溝部がノズルプレートのノズル形成面に設けられている。この特許文献1では、ワイピング手段の払拭方向に沿った溝や、払拭方向に傾斜する方向に沿った溝を連結させることで、ワイピングの際に溝部によって液状体をノズルから離れた位置に導くように構成されている。
しかしながら、上記特許文献1の構成では、液状体をノズルから離れた位置に導くために払拭方向に沿った溝部を要するため、ノズルプレートが大型化し、これに伴い、ヘッドユニットも大型化してしまう。また、ワイピング手段による払拭を繰り返すことにより、溝部に残った固形成分が、再度ノズル側に引きずり出されて当該固形成分によりノズル形成面上の撥液膜が傷つけられてしまうおそれがあった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ノズル形成面の撥液膜の劣化を抑制することが可能なノズルプレート、液体噴射ヘッド、液体噴射装置、ノズルプレートのメンテナンス方法、液体噴射ヘッドのメンテナンス方法、及び、液体噴射装置のメンテナンス方法を提供することにある。
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体が噴射されるノズル開口が形成されたノズル形成面を有するノズルプレートであって、
前記ノズル開口はノズル形成領域に含まれ、
前記ノズル形成領域より前記ノズル形成面を払拭する払拭部材による払拭方向側に前記液体に含まれる固形成分を捕捉するトラップ構造が設けられたことを特徴とする。
前記ノズル開口はノズル形成領域に含まれ、
前記ノズル形成領域より前記ノズル形成面を払拭する払拭部材による払拭方向側に前記液体に含まれる固形成分を捕捉するトラップ構造が設けられたことを特徴とする。
本発明によれば、ノズル形成領域よりも払拭方向側に外れた領域に、液体に含まれる固形成分を捕捉するトラップ構造が設けられたので、払拭部材によるノズル形成面の払拭時にノズル形成面にある液体に含まれる固形成分がトラップ構造に捕捉される。これにより、ノズル形成面が清浄に保たれるので、固形成分によりノズル形成面の撥液膜が傷つけられて摩耗することによる撥液性の低下が抑制される。
上記構成において、前記トラップ構造は、前記払拭方向に交差する方向に延在する溝である構成を採用することができる。
この構成によれば、トラップ構造が払拭方向に交差する方向に延在する溝からなるので、ノズル形成面上のトラップ構造が設けられる領域が払拭方向において大きくなることが抑制される。このため、トラップ構造を設けることによるノズル形成面、すなわち、ノズルプレートの大型化が抑制される。その結果、本発明のノズルプレートを備える液体噴射ヘッドの小型化に寄与することが可能となる。
また、上記構成において、前記溝が、複数並設されている構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、複数並設された溝により、より多くの固形成分を捕捉することが可能となる。
上記構成において、前記トラップ構造は、複数の凹部が並設されてなる凹部群である構成を採用することができる。
この構成によれば、トラップ構造が複数の凹部が並設されてなる凹部群から構成されるので、ノズル形成面上のトラップ構造が設けられる領域が払拭方向において大きくなることが抑制される。このため、トラップ構造を設けることによるノズル形成面、すなわち、ノズルプレートの大型化が抑制される。その結果、本発明のノズルプレートを備える液体噴射ヘッドの小型化に寄与することが可能となる。
また、上記構成において、前記凹部群が、前記払拭方向に複数並設されている構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、複数並設された凹部群により、より多くの固形成分を捕捉することが可能となる。
また、上記構成において、前記トラップ構造は、開口部内に多孔質部材が充填されてなる構成を採用することも可能である。
上記各構成において、前記トラップ構造が備えるトラップ孔の大きさが、前記固形成分の大きさよりも大きく、尚且つ、前記払拭部材を構成する繊維素材の繊維の太さよりも小さい構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、払拭部材による払拭動作(ワイピング動作)時において、ノズル形成面に付着した液体の固形成分を、トラップ構造のトラップ孔により確実に捕捉させることが可能となる。また、払拭部材を構成する繊維素材の繊維がトラップ孔に入り込みにくいため、トラップ孔に一旦捕捉された固形成分が払拭部材の繊維により当該トラップ孔から掻き取られてノズル形成面側に再度運ばれてしまうことが抑制される。
上記構成において、前記トラップ孔の大きさdの平均値をμd、前記トラップ孔の大きさdの標準偏差をσdとし、前記固形成分の大きさaの最大値をMxaとしたとき、
Mxa<μd−2σd
を満たすことが望ましい。
Mxa<μd−2σd
を満たすことが望ましい。
この構成によれば、トラップ孔の大きさがばらついたとしても、固形成分をトラップ孔により確実に捕捉することができる。
又は上記構成において、前記トラップ孔の大きさdの平均値をμd、前記トラップ孔の大きさdの標準偏差をσdとし、前記固形成分の大きさaの最大値をMxaとしたとき、
Mxa<μd−3σd
を満たす構成を採用することがより望ましい。
Mxa<μd−3σd
を満たす構成を採用することがより望ましい。
この構成によれば、99.7%のトラップ孔62の大きさdがμd±3σdの範囲内にあるため、トラップ孔の大きさdがばらついたとしても、殆どの固形成分をトラップ孔に一層確実に捕捉することができる。
上記構成において、前記繊維の大きさfの平均値をμf、前記繊維の大きさfの標準偏差をσfとしたとき、
μd+2σd<μf−2σf
を満たすことが望ましい。
μd+2σd<μf−2σf
を満たすことが望ましい。
この構成によれば、トラップ孔の大きさdがばらついたとしても、95%のトラップ孔62の大きさdはμd±2σdの範囲内であり、また、繊維の太さfがばらついたとしても、95%の繊維の太さfはμf±2σfの範囲内であるため、トラップ孔の大きさd及び繊維の太さfがそれぞればらついたとしても、トラップ孔に払拭部材の繊維が入り込むことがより確実に抑制される。その結果、トラップ孔に一旦捕捉された固形成分が払拭部材の繊維により当該トラップ孔から掻き取られてノズル形成面側に運ばれてしまうことがより確実に抑制される。
又は上記構成において、前記繊維の大きさfの平均値をμf、前記繊維の大きさfの標準偏差をσfとしたとき、
μd+3σd<μf−3σf
を満たす構成を採用することがより望ましい。
μd+3σd<μf−3σf
を満たす構成を採用することがより望ましい。
この構成によれば、99.7%のトラップ孔の大きさdがμd±3σdの範囲内であり、また、99.7%の繊維の太さfはμf±3σfの範囲内であるため、トラップ孔62の大きさd及び繊維の太さfがそれぞればらついたとしても、トラップ孔に払拭部材の繊維が入り込むことがさらに確実に抑制される。その結果、トラップ孔に一旦捕捉された固形成分が払拭部材の繊維により当該トラップ孔から掻き取られてノズル形成面側に運ばれてしまうことが一層確実に抑制される。
本発明の液体噴射ヘッドは、上記何れかの構成のノズルプレートを備えることを特徴とする。
本発明によれば、固形成分によりノズル形成面の撥液膜が傷つけられて摩耗することによる撥液性の低下が抑制されるので、液体噴射ヘッドの耐久性が向上する。
上記構成において、前記ノズルプレートを囲う開口を有する外周材と前記ノズルプレートとの間に充填材が充填され、
前記充填材に前記トラップ構造が設けられた構成を採用することができる。
前記充填材に前記トラップ構造が設けられた構成を採用することができる。
この構成によれば、トラップ構造を設ける領域を別途設ける必要がないため、トラップ構造を設けることによるノズル形成面の大型化が防止される。その結果、液体噴射ヘッドの小型化に寄与することが可能となる。
さらに、本発明の液体噴射装置は、上記何れかの構成の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドの前記ノズル形成面を払拭する払拭機構と、
前記トラップ構造における前記液体又は前記液体に含まれる固形成分を吸引する吸引機構と、
を備えることを特徴とする。
前記液体噴射ヘッドの前記ノズル形成面を払拭する払拭機構と、
前記トラップ構造における前記液体又は前記液体に含まれる固形成分を吸引する吸引機構と、
を備えることを特徴とする。
本発明によれば、固形成分によりノズル形成面の撥液膜が傷つけられて摩耗することによる撥液性の低下が抑制されるので、液体噴射ヘッドの耐久性が向上する。
また、吸引機構によりトラップ構造が吸引されることにより、トラップ構造に捕捉されている液体及びその固形成分が蓄積される前に除去されるので、トラップ構造のトラップ機能を維持することが可能となる。したがって、トラップ孔に一旦捕捉された固形成分が払拭機構により当該トラップ孔から掻き取られてノズル形成面側に再度運ばれてしまうリスクが低減される。
また、吸引機構によりトラップ構造が吸引されることにより、トラップ構造に捕捉されている液体及びその固形成分が蓄積される前に除去されるので、トラップ構造のトラップ機能を維持することが可能となる。したがって、トラップ孔に一旦捕捉された固形成分が払拭機構により当該トラップ孔から掻き取られてノズル形成面側に再度運ばれてしまうリスクが低減される。
本発明のノズルプレートのメンテナンス方法は、上記何れか構成のノズルプレートのメンテナンス方法であって、
前記ノズル形成面を払拭部材により払拭して当該ノズル形成面に付着していた液体及び当該液体に含まれる固形成分を前記トラップ構造に導いて当該トラップ構造が有するトラップ孔に捕捉させ、
前記トラップ構造における前記液体又は前記液体に含まれる固形成分を吸引することを特徴とする。
前記ノズル形成面を払拭部材により払拭して当該ノズル形成面に付着していた液体及び当該液体に含まれる固形成分を前記トラップ構造に導いて当該トラップ構造が有するトラップ孔に捕捉させ、
前記トラップ構造における前記液体又は前記液体に含まれる固形成分を吸引することを特徴とする。
本発明によれば、トラップ構造に捕捉されている液体及びその固形成分が蓄積される前に除去されるので、トラップ構造のトラップ機能を維持することが可能となる。したがって、トラップ孔に一旦捕捉された固形成分が払拭機構により当該トラップ孔から掻き取られてノズル形成面側に再度運ばれてしまうリスクが低減される。
本発明の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法は、上記何れか構成の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法であって、
前記ノズル形成面を払拭部材により払拭して当該ノズル形成面に付着していた液体及び当該液体に含まれる固形成分を前記トラップ構造に導いて当該トラップ構造が有するトラップ孔に捕捉させ、
前記トラップ構造における前記液体又は前記液体に含まれる固形成分を吸引することを特徴とする。
前記ノズル形成面を払拭部材により払拭して当該ノズル形成面に付着していた液体及び当該液体に含まれる固形成分を前記トラップ構造に導いて当該トラップ構造が有するトラップ孔に捕捉させ、
前記トラップ構造における前記液体又は前記液体に含まれる固形成分を吸引することを特徴とする。
本発明によれば、トラップ構造に捕捉されている液体及びその固形成分が蓄積される前に除去されるので、トラップ構造のトラップ機能を維持することが可能となる。したがって、トラップ孔に一旦捕捉された固形成分が払拭機構により当該トラップ孔から掻き取られてノズル形成面側に再度運ばれてしまうリスクが低減される。
本発明の液体噴射装置のメンテナンス方法は、上記構成の液体噴射装置のメンテナンス方法であって、
前記ノズル形成面を前記払拭部材により払拭して当該ノズル形成面に付着していた液体及び当該液体に含まれる固形成分を前記トラップ構造に導いて当該トラップ構造が有するトラップ孔に捕捉させ、
前記トラップ構造を含む領域における前記液体又は前記液体に含まれる固形成分を吸引することを特徴とする。
前記ノズル形成面を前記払拭部材により払拭して当該ノズル形成面に付着していた液体及び当該液体に含まれる固形成分を前記トラップ構造に導いて当該トラップ構造が有するトラップ孔に捕捉させ、
前記トラップ構造を含む領域における前記液体又は前記液体に含まれる固形成分を吸引することを特徴とする。
本発明によれば、トラップ構造に捕捉されている液体及びその固形成分が蓄積される前に除去されるので、トラップ構造のトラップ機能を維持することが可能となる。したがって、トラップ孔に一旦捕捉された固形成分が払拭機構により当該トラップ孔から掻き取られてノズル形成面側に再度運ばれてしまうリスクが低減される。
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。なお、本実施形態では、液体噴射装置の一形態である画像記録装置、詳しくは、液体噴射ヘッドとしてインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を搭載したインクジェット式プリンター(以下、プリンターという)を例に挙げて説明する。
図1は、プリンター1の構成を説明する正面図、図2は、プリンター1の電気的な構成を説明するブロック図である。液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2は、インクカートリッジ(液体供給源)を搭載したキャリッジ3の底面側に取り付けられている。そして、当該キャリッジ3は、キャリッジ移動機構18によってガイドロッド4に沿って往復移動可能に構成されている。すなわち、プリンター1は、紙送り機構17によって記録媒体をプラテン5上に順次搬送すると共に、記録ヘッド2を記録媒体の幅方向(主走査方向)に相対移動させながら当該記録ヘッド2のノズル30(図3及び図4等参照)から本発明における液体の一種であるインクを噴射させて、記録媒体上に着弾させることにより画像等を記録する。なお、インクカートリッジがプリンターの本体側に配置され、当該インクカートリッジのインクが供給チューブを通じて記録ヘッド2側に送られる構成を採用することもできる。
本実施形態におけるプリンター1においては、インクとして、色材や、当該色材を分散または溶解させる溶剤などを含むものが使用される。色材は、例えば顔料であり、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料などのアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料などの多環式顔料、染料キレート、染色レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料、カーボンブラック、卑金属顔料などを使用することができる。さらに、顔料としては、例えば酸化銅や二酸化マンガンなどの無機材料(黒色顔料)、並びに、例えば亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛、などの無機材料などを使用することができる。また、染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料などを使用することができる。水系インクの溶媒としては、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水などの純水または超純水を使用することができる。油性インクの溶剤としては、エチレングリコールやプロピレングリコールなどの揮発性の有機溶剤を含んだものを使用することができる。さらに、インクは、上述した色材や溶剤の他に、塩基性触媒、界面活性剤、第三級アミン、熱可塑性樹脂、pH調整剤、緩衝液、定着剤、防腐剤、酸化防止剤・紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤などを含んでいてもよい。
このようなインクのうち、特に、溶質として酸化チタン(TiOx)等の比較的硬質な固形成分を含むインクは、ノズル30から噴射された際や上記のメンテナンス処理(クリーニング処理)が行われた際にノズル形成面23に付着した場合、ノズル形成面23において次第に凝集して、当該インクに含まれる固形成分が集塊した凝集物を生じさせる。このような固形成分の凝集物が生じた状態で、何らの対策することなく後述するワイピング機構7で当該ノズル形成面23を払拭した場合、固形成分がノズル形成面23を摺動することにより撥液膜60を傷つけやすい。本発明に係るプリンター1では、インクに含まれる固形成分によってノズル形成面23が傷つけられにくくするように構成されている。この点の詳細については後述する。
プリンター1の内部において、プラテン5に対して主走査方向の一端側(図2中、右側)に外れた位置には、記録ヘッド2の待機位置であるホームポジションが設定されている。このホームポジションには、一端側から順にキャッピング機構6(封止機構の一種)、および、ワイピング機構7(払拭機構の一種)が設けられている。キャッピング機構6は、例えば、エラストマー等の弾性部材からなるキャップ8(封止部材の一種)を有しており、当該キャップ8を記録ヘッド2のノズル形成面23に対して当接させて封止した状態(キャッピング状態)あるいは当該ノズル形成面23から離隔した待避状態に変換可能に構成されている。このキャッピング機構6では、キャップ8内の空間が封止空部として機能し、この封止空部内に記録ヘッド2のノズル30を臨ませた状態でノズル形成面23を封止する。また、このキャッピング機構6には、図示しないポンプユニット(吸引機構)が接続されており、このポンプユニットの作動によって封止空部内を負圧化することができる。そして、吸引動作(クリーニング動作)においては、ノズル形成面23への密着状態でポンプユニットが作動され、封止空部内が負圧化されると、ノズル30から記録ヘッド2内のインクや気泡が吸引されてキャップ8の封止空部内に排出される。また、本実施形態においては、吸引動作により、後述するトラップ構造のトラップ孔に捕捉されたインクやこれに含まれる固形成分が吸引される。
本実施形態におけるワイピング機構7は、記録ヘッド2の主走査方向に対して交差する方向、換言すると後述するノズル列方向に沿って払拭部材の一形態であるワイパー9を摺動可能に有している。そして、ワイピング機構7は、ワイパー9をノズル形成面23に当接させた状態で摺動させることでノズル形成面23を払拭する払拭動作(ワイピング動作)を行う。なお、ワイピング機構7の詳細については後述する。
本実施形態におけるプリンター1は、プリンターコントローラー11により各部の制御が行われる。本実施形態におけるプリンターコントローラー11は、インターフェース(I/F)部12と、CPU13と、記憶部14と、駆動信号発生回路15と、を有する。インターフェース部12は、コンピューターや携帯情報端末機等の外部機器から印刷データや印刷命令を受け取ったり、プリンター1の状態情報を外部機器側に出力したりする。記憶部14は、CPU13のプログラムや各種制御に用いられるデータを記憶する素子であり、ROM、RAM、NVRAM(不揮発性記憶素子)を含む。
CPU13は、記憶部14に記憶されているプログラムに従って、各ユニットを制御する。また、本実施形態におけるCPU13は、外部機器等からの印刷データに基づき、記録動作時に記録ヘッド2のどのノズル30からどのタイミングでどの大きさ(量)のインクを噴射させるかを示す噴射データを生成し、当該噴射データを記録ヘッド2のヘッドコントローラー16に送信する。また、CPU13は、リニアエンコーダー19から出力されるエンコーダーパルスからラッチ信号LAT等のタイミング信号を生成して記録ヘッド2のヘッドコントローラー16に出力する。ヘッドコントローラー16は、上記噴射データおよびタイミング信号に基づき駆動信号中の駆動パルスを選択的に圧電素子32(図3参照)に印加する。これにより圧電素子32が駆動されてノズル30からインク滴が噴射されたり、あるいは、インク滴が噴射されない程度に微振動動作が行われたりする。駆動信号発生回路15は、記録媒体に対してインク滴を噴射して画像等を記録するための駆動パルスを含む駆動信号を発生する。
図3は、記録ヘッド2の構成の一例について説明する断面図である。
本実施形態における記録ヘッド2は、固定板22、ノズルプレート24、連通基板25、アクチュエーターユニット26、コンプライアンス基板27、ケース28等の複数の構成部材が積層されて接着剤等によって接合されて構成されている。なお、以下においては、記録ヘッド2の各構成部材の積層方向を、適宜上下方向として説明する。
本実施形態における記録ヘッド2は、固定板22、ノズルプレート24、連通基板25、アクチュエーターユニット26、コンプライアンス基板27、ケース28等の複数の構成部材が積層されて接着剤等によって接合されて構成されている。なお、以下においては、記録ヘッド2の各構成部材の積層方向を、適宜上下方向として説明する。
アクチュエーターユニット26は、ノズルプレート24に形成されたノズル30と連通する圧力室33が形成された圧力室形成基板31と、各圧力室33内のインクに圧力変動を生じさせるアクチュエーター(駆動素子)としての圧電素子32と、これらの圧力室形成基板31および圧電素子32を保護する封止板34とがユニット化されたものである。封止板34の平面視における略中央部には、駆動IC等の駆動回路36を実装した配線基板37が挿通される配線空部38が開設されている。この配線空部38内に圧電素子32のリード電極が配置され、このリード電極に配線基板37の配線端子が電気的に接続される。
アクチュエーターユニット26の圧力室形成基板31は、例えば、シリコン基板から作製されている。この圧力室形成基板31には、圧力室33となるべき空間が各ノズル30に対応して複数列設されている。この圧力室33は、ノズル列44に交差する方向(本実施形態においては直交する方向)に長尺な空部であり、圧力室33の長手方向の一側の端部にノズル連通口39が連通し、他側の端部に供給口40が連通する。本実施形態における圧力室形成基板31には、圧力室33の列が2列形成されている。
圧力室形成基板31の上面(連通基板25側とは反対側の面)には、振動板41が積層され、この振動板41によって圧力室33の上部開口が封止されている。すなわち、振動板41により、圧力室33の一部が区画されている。この振動板41は、例えば、圧力室形成基板31の上面に形成された二酸化シリコン(SiO2)からなる弾性膜と、この弾性膜上に形成された酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜と、から成る。そして、この振動板41上における各圧力室33に対応する領域に圧電素子32がそれぞれ積層されている。
本実施形態の圧電素子32は、所謂撓みモードの圧電素子である。この圧電素子32は、例えば、振動板41上に、下電極層、圧電体層および上電極層(いずれも図示せず)が順次積層されてなる。このように構成された圧電素子32は、下電極層と上電極層との間に両電極の電位差に応じた電界が付与されると、上下方向に撓み変形する。本実施形態では、2列に形成された圧力室33の列に対応して、圧電素子32の列が2列形成されている。なお、下電極層および上電極層は、両側の圧電素子32の列から当該列の間の配線空部38内までリード電極として延在され、上述したように配線基板37と電気的に接続されている。
封止板34は、2列に形成された圧電素子32の列を覆うように振動板41上に積層されている。封止板34の内部には、圧電素子32の列を収容可能な長尺な収容空間42が形成されている。この収容空間42は、封止板34の下面側(振動板41側)から上面側(ケース28側)に向けて封止板34の高さ方向途中まで形成された窪みである。本実施形態における封止板34には、配線空部38の両側に収容空間42が形成されている。
アクチュエーターユニット26の下面には、このアクチュエーターユニット26よりも広い面積を有する連通基板25が接合される。この連通基板25は、圧力室形成基板31と同様にシリコン基板から作製されている。本実施形態における連通基板25には、圧力室33とノズル30とを連通するノズル連通口39と、各圧力室に共通に設けられた共通液室43と、この共通液室43と圧力室33とを連通する供給口40と、が形成されている。共通液室43(リザーバー若しくはマニホールドとも呼ばれる)は、ノズル列方向に沿って延在する空部であり、連通基板25において、ノズルプレート24のノズル列44毎に対応して2つ形成されている。この共通液室43は、連通基板25の板厚方向を貫通した第1液室43aと、連通基板25の下面側から上面側に向けて当該連通基板25の板厚方向の途中まで窪ませ、上面側に薄板部を残した状態で形成された第2液室43bと、から構成される。供給口40は、第2液室43bの薄板部において、圧力室33に対応してノズル列方向に沿って複数形成されている。この供給口40は、連通基板25と圧力室形成基板31とが位置決めされて接合された状態で、対応する圧力室33の長手方向における他側(ノズル連通口39とは反対側)の端部と連通する。
ノズル連通口39は、連通基板25の各ノズル30に対応する位置を板厚方向に貫通して形成される。すなわち、ノズル連通口39は、圧力室形成基板31とノズルプレート24との間において、ノズル30とこれに対応する圧力室33とを連通する。このノズル連通口39は、圧力室33にそれぞれ個別に対応するようにノズル列方向に沿って複数形成されている。本実施形態のノズル連通口39は、連通基板25と圧力室形成基板31とが位置決めされて接合された状態で、対応する圧力室33の一側(供給口40とは反対側)の端部と連通する。
上記の連通基板25の下面の略中央部分には、複数のノズル30が形成されたノズルプレート24が接合される。本実施形態におけるノズルプレート24は、連通基板25およびアクチュエーターユニット26よりも小さい面積の板材であり、シリコン基板から構成されている。このノズルプレート24は、連通基板25の下面において、共通液室43の開口部から外れた位置であって、ノズル連通口39が複数開口した領域に、これらのノズル連通口39と複数のノズル30とがそれぞれ連通する状態で接着剤等により接合される。
本実施形態におけるノズルプレート24には、主走査方向に交差する副走査方向(記録媒体の搬送方向)に沿って複数のノズル30が列設されてなるノズル列44が合計2条形成されている(図5参照)。このノズルプレート24は、例えばシリコン基板から作製され、当該基板に対してドライエッチングにより円筒形状のノズル30が形成されている。また、本実施形態において、ノズルプレート24のインクが噴射される側の面(連通基板25が接合されている面とは反対側の面)と、このノズルプレート24の周囲を囲むように配置された固定板22(本発明における外周材の一種)の下面(記録動作時に記録媒体等と対向する面)とで構成される面がノズル形成面23として機能する。また、後述するように、ノズルプレート24の外周と、このノズルプレート24を囲う貫通口46を有する固定板22との間(隙間)には充填材51が充填されており、当該充填材51の表面もノズル形成面23の一部である。
図4は、ノズル30の中心軸方向(インク噴射方向)に沿った断面図である。なお、同図において上側がインク噴射方向における上流側(圧力室33側)であり、下側がインク噴射方向における下流側(記録動作時における記録媒体側)である。本実施形態におけるノズル30は、下流側の第1ノズル部56と上流側の第2ノズル部57とにより2段の円筒状を呈し、第1ノズル部56の流路断面積は、第2ノズル部57の流路断面積よりも小さくなっている。これらの第1ノズル部56と第2ノズル部57とは、平面視においていずれも円形状を呈している。第1ノズル部56における第2ノズル部57側とは反対側の開口(すなわち、ノズル形成面23におけるノズル開口)からインクが噴射される。なお、第2ノズル部57の内径が、下流側(第1ノズル部56側)から上流側(圧力室33側)に向けて拡大するように内壁面が傾斜したテーパー形状のものであってもよい。
ノズルプレート24のノズル形成面23には、保護膜59を介して撥液膜60が形成されている。この保護膜59は、ノズル30の内壁面も含むノズルプレート24の表面全体を図示しない酸化膜(SiOx)を介して被覆するように形成されており、ノズルプレート24の基材をインクから保護するための膜である。また、この保護膜59は、ノズルプレート24の基材と保護膜59とを結び付ける下地膜としての機能も有する。撥液膜60は、保護膜59の上に重ねて形成された撥液性を有する膜である。この撥液膜60は、例えばフッ素を含む撥液剤(シランカップリング剤)が塗布されることで形成されている。この撥液剤としては、フルオロアルキル基を含むシラン化合物、例えば、トリフルオロプロピルトリメトキシシランが用いられる。また、塗布によるものではなく、例えば、PVD,CVD,あるいはALD等の気相成長法によって撥液膜60が成膜されてもよい。同様に、固定板22のノズル形成面23として機能する下面にも撥液膜が形成されている。
また、連通基板25の下面において、ノズルプレート24の周囲を囲むように、当該ノズルプレート24の外形に倣った形状の貫通開口45が中央部に形成されたコンプライアンス基板27が接合される。このコンプライアンス基板27の貫通開口45は、固定板22の貫通口46と連通して、その内側にノズルプレート24が配置されるように構成されている。コンプライアンス基板27は、連通基板25の下面に位置決めされて接合された状態で、連通基板25の下面における共通液室43の開口を封止する。本実施形態におけるコンプライアンス基板27は、可撓フィルム47と、これを支持する支持板48とが接合されて構成されている。
連通基板25の下面には、コンプライアンス基板27の可撓フィルム47が接合されて、連通基板25と支持板48との間に可撓フィルム47が挟まれた状態となる。可撓フィルム47は、可撓性を有する薄膜、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)等の合成樹脂材料により作製されている。支持板48は、可撓フィルム47よりも剛性が高く且つ厚みのあるステンレス鋼等の金属材料で形成されている。この支持板48の共通液室43に対向する領域には、この共通液室43の下面開口に倣った形状に支持板48の一部が除去されている。このため、共通液室43の下面側の開口は、可撓性を有する可撓フィルム47のみで封止されている。換言すると、可撓フィルム47は、共通液室43の一部を区画している。
支持板48の下面には固定板22が接合されている。これにより、可撓フィルム47の可撓領域と、これに対向する固定板22との間には、コンプライアンス空間50が形成されている。そして、このコンプライアンス空間50における可撓フィルム47の可撓領域が、インク流路内、特に共通液室43内の圧力変動に応じて共通液室43側又はコンプライアンス空間50側に変位する。
アクチュエーターユニット26及び連通基板25は、ケース28に固定されている。ケース28の下面側にはアクチュエーターユニット26を収容する収容空部52が形成されている。そして、収容空部52にアクチュエーターユニット26が収容された状態でケース28の下面が連通基板25によって封止される。このケース28の平面視における略中央部分には、収容空部52と連通する挿通空部53が開設されている。この挿通空部53は、アクチュエーターユニット26の配線空部38とも連通する。上記の配線基板37は、挿通空部53を通じて配線空部38に挿入されるように構成されている。また、ケース28の内部において、挿通空部53及び収容空部52の両側には、連通基板25の共通液室43と連通する液室空部54が形成されている。また、ケース28の上面には、各液室空部54と連通する導入口55がそれぞれ開設されている。インクカートリッジ側から送られてきたインクは、導入口55、液室空部54、及び共通液室43へと導入され、共通液室43から供給口40を通じて各圧力室33に供給される。
固定板22は、例えば、ステンレス鋼等の金属製の板材である。本実施形態における固定板22には、ノズルプレート24に対応する位置に、当該ノズルプレート24に形成されたノズル30を露出させるため、ノズルプレート24の外形に倣った形状の貫通口46(本発明におけるノズルプレートを囲う開口に相当)が厚さ方向を貫通する状態で形成されている。上述したように、この貫通口46は、コンプライアンス基板27の貫通開口45と連通する。
そして、上記構成の記録ヘッド2では、液室空部54から共通液室43及び圧力室33を通ってノズル30に至るまでの流路内がインクで満たされた状態で、駆動回路36からの駆動信号に従い圧電素子32が駆動されることにより、圧力室33内のインクに圧力変動が生じ、この圧力振動によって所定のノズル30からインクが噴射される。
ここで、記録ヘッド2のノズル30から噴射されるインク(インク滴)は、数〔ng〕から十数〔ng〕と微小であるため、噴射に伴ってさらに微小なミストが生じ、このようなミストがノズル形成面23に付着する場合がある。また、キャップ8によりノズル形成面23が封止された状態でノズル30からインクを排出させる上記クリーニング処理においてもノズル形成面23にインクが付着する。ノズル形成面23に付着したインクには、顔料等の固形成分(本実施形態においては、酸化チタンのような無機成分)が含まれており、ノズル形成面23に付着したインクWi(図4参照)を放置しておくと、このインクWiに含まれる固形成分が凝集した凝集物が生じる場合がある。このような状態でワイピング機構7によりノズル形成面23を払拭すると、ワイパー9が凝集物をノズル形成面23に対し押し付けて引き摺ることにより、撥液膜60を劣化させるおそれがある。このような問題を防止するため、ノズル形成面23には、インクWi及びこれに含まれる固形成分63ができるだけ残らないようにすることが肝要となる。本発明に係るプリンター1では、ノズル形成面23に付着したインク及びこれに含まれる固形成分をより確実に除去して、当該固形成分により撥液膜60を損傷しにくいように構成されている。以下、この点について説明する。
図5は、記録ヘッド2の下面(ノズル形成面23)の構成を説明する平面図である。同図において、充填材51の一部が拡大されて図示されている。本実施形態におけるノズルプレート24の外周と、コンプライアンス基板27の貫通開口45の内周及び固定板22の貫通口46の内周との間には、若干の隙間が生じる。そして、この隙間にワイパー9や記録紙等の記録媒体が入り込んでノズルプレート24の側面に引っ掛かる等して当該ノズルプレート24が損傷することを防止するため、本実施形態においてはこの隙間に充填材51が充填されている。この充填材51のうち、ノズル形成面23のノズル30(ノズル列44)が形成された領域(図5中、Anで示される領域)よりも上流側の領域A1及び下流側の領域A2(より具体的にはこれらの領域A1,A2における後述するトラップ孔62)が、本発明におけるトラップ構造として機能する。図5において拡大して示されるように、充填材51は、例えば、シリカ、カーボン、セラミック、ポリエチレン、ポリメチルメタアクリレート等を基材とした多孔質部材が用いられる。多孔質部材の孔(以下、トラップ孔62)の大きさに関し、ノズル形成面23に付着したインクの溶質、すなわち、顔料等の固形成分63(本実施形態においては、酸化チタンのような無機成分)を捕捉(トラップ)することが可能な大きさに調整されている。すなわち、トラップ構造が備えるトラップ孔(気孔)62の大きさ(内寸)が、固形成分63(これらの凝集物を含む)の大きさよりも大きく、尚且つ、ワイパー9を構成する繊維素材の繊維の太さよりも小さくなっている。より具体的には、トラップ孔62の大きさdの平均値μdが、ノズル形成面23におけるインクの固形成分63の大きさ(粒子径)aの最大値Mxaよりも大きく、尚且つ、ワイパー9の繊維の太さfの平均値μfよりも小さくなっている。すなわち、以下の条件(A)を満たすように設計されている。
Mxa<μd<μf …(A)
上記条件(A)を満たすことにより、ワイピング動作時において、ノズル形成面23に付着したインクの固形成分63を、トラップ構造として機能する充填材51に捕捉(トラップ)させることが可能となる。これにより、ノズル形成面23が清浄に保たれるので、固形成分63によりノズル形成面23の撥液膜60が傷つけられて摩耗することによる撥液性の低下が抑制される。また、ワイパー9の繊維がトラップ孔62に入り込みにくいため、トラップ孔62に一旦捕捉された固形成分63がワイパー9の繊維により当該トラップ孔62から掻き取られてノズル形成面23側に運ばれてしまうことが抑制される。なお、繊維の太さfは、ノズル30(第1ノズル部56)の開口径(例えば、20〔μm〕)よりも小さく、例えば、数〔μm〕から十数〔μm〕である。
Mxa<μd<μf …(A)
上記条件(A)を満たすことにより、ワイピング動作時において、ノズル形成面23に付着したインクの固形成分63を、トラップ構造として機能する充填材51に捕捉(トラップ)させることが可能となる。これにより、ノズル形成面23が清浄に保たれるので、固形成分63によりノズル形成面23の撥液膜60が傷つけられて摩耗することによる撥液性の低下が抑制される。また、ワイパー9の繊維がトラップ孔62に入り込みにくいため、トラップ孔62に一旦捕捉された固形成分63がワイパー9の繊維により当該トラップ孔62から掻き取られてノズル形成面23側に運ばれてしまうことが抑制される。なお、繊維の太さfは、ノズル30(第1ノズル部56)の開口径(例えば、20〔μm〕)よりも小さく、例えば、数〔μm〕から十数〔μm〕である。
図6は、多孔質部材のトラップ孔62の大きさdの正規分布を示す図である。
ここで、多孔質部材からなるトラップ構造のトラップ孔62の大きさは比較的ばらつきがあるため、当該トラップ孔62の大きさdの標準偏差をσdとしたとき、以下の条件(B)を満たすことがより望ましい。
Mxa<μd−2σd …(B)
すなわち、正規分布に従えば、トラップ孔62がばらついたとしても、95%のトラップ孔62の大きさdは、μd±2σdの範囲内であるため、上記条件(B)を満たすことにより、トラップ孔62の大きさdがばらついたとしても、トラップ孔62の大きさdは固形成分63の大きさaの最大値Mxaよりも概ね大きいので、固形成分63をトラップ孔62により確実に捕捉することができる。
ここで、多孔質部材からなるトラップ構造のトラップ孔62の大きさは比較的ばらつきがあるため、当該トラップ孔62の大きさdの標準偏差をσdとしたとき、以下の条件(B)を満たすことがより望ましい。
Mxa<μd−2σd …(B)
すなわち、正規分布に従えば、トラップ孔62がばらついたとしても、95%のトラップ孔62の大きさdは、μd±2σdの範囲内であるため、上記条件(B)を満たすことにより、トラップ孔62の大きさdがばらついたとしても、トラップ孔62の大きさdは固形成分63の大きさaの最大値Mxaよりも概ね大きいので、固形成分63をトラップ孔62により確実に捕捉することができる。
なお、例えば、本実施形態におけるインクに含まれる酸化チタンからなる固形成分63の大きさa(粒子径)は約300±20〔nm〕であるが、前回ワイピング動作から今回ワイピング動作までの間にノズル形成面23上で固形成分63が凝集した場合、最大値Mxaは、これよりも大きくなることがある。ノズル形成面23に付着した固形成分63の大きさaの最大値Mxaは、前回実行されたワイピング動作から今回のワイピング動作まで間(その経過時間)において記録ヘッド2から噴射されたインクの総噴射量(総噴射回数)に応じて推定することができる。この経過時間あるいは総噴射量と固形成分63の大きさaの最大値Mxaとの関係は、予め試験等により取得され、その算出式あるいはその関係が記述されたテーブル等が固形成分サイズ情報として記憶部14等に記憶されている。そして、ワイピング動作の実行時には、前回ワイピング動作の実行時から今回のワイピング動作の実行までの経過時間又は総噴射量に基づき固形成分63の大きさaの最大値Mxaを推測することができる。
さらに望ましくは、以下の条件(C)を満たすことである。
Mxa<μd−3σd …(C)
すなわち、99.7%のトラップ孔62の大きさdがμd±3σdの範囲内にあるため、上記条件(C)を満たすことにより、トラップ孔62の大きさdがばらついたとしても、殆どの固形成分をトラップ孔62に一層確実に捕捉することができる。
Mxa<μd−3σd …(C)
すなわち、99.7%のトラップ孔62の大きさdがμd±3σdの範囲内にあるため、上記条件(C)を満たすことにより、トラップ孔62の大きさdがばらついたとしても、殆どの固形成分をトラップ孔62に一層確実に捕捉することができる。
同様に、ワイパー9を構成する繊維素材の繊維の太さ(外径)fの標準偏差をσfとしたとき、以下の条件(D)を満たすことがより望ましい。
μd+2σd<μf−2σf …(D)
すなわち、トラップ孔62の大きさdがばらついたとしても、95%のトラップ孔62の大きさdはμd±2σdの範囲内であり、また、繊維の太さfがばらついたとしても、95%の繊維の太さfはμf±2σfの範囲内であるため、上記条件(D)を満たすことにより、トラップ孔62の大きさd及び繊維の太さfがそれぞればらついたとしても、トラップ孔62にワイパー9の繊維が入り込むことがより確実に抑制される。その結果、トラップ孔62に一旦捕捉された固形成分63がワイパー9の繊維により当該トラップ孔62から掻き取られてノズル形成面23側に運ばれてしまうことがより確実に抑制される。さらに望ましくは、以下の条件(E)を満たすことである。
μd+3σd<μf−3σf …(E)
すなわち、99.7%のトラップ孔62の大きさdがμd±3σdの範囲内であり、また、99.7%の繊維の太さfはμf±3σfの範囲内であるため、上記条件(E)を満たすことにより、トラップ孔62の大きさd及び繊維の太さfがそれぞればらついたとしても、トラップ孔62にワイパー9の繊維が入り込むことがさらに確実に抑制される。その結果、トラップ孔62に一旦捕捉された固形成分63がワイパー9の繊維により当該トラップ孔62から掻き取られてノズル形成面23側に運ばれてしまうことが一層確実に抑制される。
μd+2σd<μf−2σf …(D)
すなわち、トラップ孔62の大きさdがばらついたとしても、95%のトラップ孔62の大きさdはμd±2σdの範囲内であり、また、繊維の太さfがばらついたとしても、95%の繊維の太さfはμf±2σfの範囲内であるため、上記条件(D)を満たすことにより、トラップ孔62の大きさd及び繊維の太さfがそれぞればらついたとしても、トラップ孔62にワイパー9の繊維が入り込むことがより確実に抑制される。その結果、トラップ孔62に一旦捕捉された固形成分63がワイパー9の繊維により当該トラップ孔62から掻き取られてノズル形成面23側に運ばれてしまうことがより確実に抑制される。さらに望ましくは、以下の条件(E)を満たすことである。
μd+3σd<μf−3σf …(E)
すなわち、99.7%のトラップ孔62の大きさdがμd±3σdの範囲内であり、また、99.7%の繊維の太さfはμf±3σfの範囲内であるため、上記条件(E)を満たすことにより、トラップ孔62の大きさd及び繊維の太さfがそれぞればらついたとしても、トラップ孔62にワイパー9の繊維が入り込むことがさらに確実に抑制される。その結果、トラップ孔62に一旦捕捉された固形成分63がワイパー9の繊維により当該トラップ孔62から掻き取られてノズル形成面23側に運ばれてしまうことが一層確実に抑制される。
また、本実施形態における充填材51は、親液性を有している。より具体的には、例えば、親液化剤(ポリビニルピロリドン等)や光触媒材料の塗布或はプラズマ処理により、ノズル形成面23における他の部分と比較して親液性が高められている。これにより、ワイピング動作時にワイパー9に付着したインクが充填材51に吸収されやすくなり、固形成分63をより円滑に充填材51に捕捉することができる。
図7は、払拭機構の一形態であるワイピング機構7の構成について説明する模式図である。また、図なお、同図において、ワイピング機構7については、主走査方向に交差する副走査方向(本実施形態においては記録ヘッド2のノズル列方向)における断面で表されている。本実施形態におけるワイピング機構7は、副走査方向に沿って配設されたレール65にユニット本体66が摺動可能に取り付けられて構成されている。ユニット本体66は、図示しないラックギア、ピニオンギア、および駆動源等からなるワイパー移動機構によってレール65に案内されつつ、図中白抜きの矢印で示される副走査方向に沿った払拭方向に往復移動することが可能となっている。このユニット本体66は、織物・編物・不織布等の布、すなわち繊維素材からなるシート状のワイパー9が巻き回された第1ロール67と、払拭後のワイパー9が巻き取られる第2ロール68と、が収容されている。
第1ロール67と第2ロール68とは、払拭方向において互いに所定の距離を隔てた状態で軸支されている。第1ロール67は、第1軸69に未使用のワイパー9が巻装されており、ワイピングの際にワイパー9を第2ロール68側に順次繰り出す。また、第2ロール68は、第2軸70に使用済み(ノズル形成面23の払拭後)のワイパー9を巻き取る。払拭方向における第1ロール67および第2ロール68との間であって、上方(ノズル形成面23側)の位置には、押圧ローラー71が配置されている。第1ロール67から繰り出されたワイパー9は、押圧ローラー71の外周の上部に架け渡され、その先が第2ロール68に巻き取られるようになっている。
押圧ローラー71は、第1ロール67と第2ロール68の回動に応じて回転可能に遊転軸72に軸支されている。ユニット本体66の上面、すなわち、記録ヘッド2のノズル形成面23と相対する面の中央部には、挿通口73が開設されている。そして、ユニット本体66の内部から当該挿通口73を介して押圧ローラー71の一部(上部)が外側のノズル形成面23側に突出している。このため、ワイパー9において押圧ローラー71に架け渡された部分(払拭領域)もユニット本体66の上面よりノズル形成面23側に突出して、ノズル形成面23と相対している。上記押圧ローラー71の遊転軸72は、図示しないばね等の付勢部材により、上方、すなわちノズル形成面23側へ付勢されている。このため、ワイパー9の払拭領域は、押圧ローラー71を介してノズル形成面23に当接する側へ付勢されている。
本実施形態におけるワイパー9は、織物(布帛)、編物、または不織布等の天然繊維あるいは化学繊維を含む薄手の繊維素材(布材)である。ワイパー9の幅(主走査方向における寸法)は、記録ヘッド2のノズル形成面23の主走査方向の寸法よりも長くなっている。これにより、ワイピング動作時においてワイパー9によりノズル形成面23の全面を払拭することができるようになっている。なお、ワイパー9を構成している繊維素材は、繊維の他に繊維同士を接着する接着剤等を含んでいてもよい。
図8は、プリンター1におけるメンテナンス方法について説明するフローチャートである。また、図9〜図11は、ワイピング機構7により記録ヘッド2のノズル形成面23が払拭される様子を説明する工程図である。ワイピング動作は、所定のワイピング実行条件が成立した場合に実行される。当該ワイピング実行条件は、ノズル形成面23に付着したインクWiに含まれる固形成分63(固形成分63の凝集物を含む)の大きさaの最大値Mxaが上記条件(A)を満たすような範囲内に設定される。すなわち、CPU13は、固形成分サイズ情報を記憶部14から取得して、前回実行されたワイピング動作からの経過時間、又は、前回ワイピング動作からの記録ヘッド2から噴射されたインクの総噴射量に基づき、現時点における固形成分の大きさの最大値Mxaを推定する(ステップS1)。続いて、CPU13は、推定された最大値Mxaに基づき、ワイピング実行条件が成立したか否かを判定する(ステップS2)。ワイピング実行条件が成立していないと判定された場合、処理は終了する。なお、上記最大値Mxaの推定は、例えば、記録動作中やプリンター1の電源が投入されたとき等に定期的に実行される。ステップS2において、ワイピング実行条件が成立したと判定された場合、CPU13は、キャリッジ移動機構18を制御して、記録ヘッド2が搭載されたキャリッジ3をワイピング機構7の上方のワイピング位置まで移動させる(ステップS3)。
続いて、図9に示されるように、ワイパー9がノズル形成面23に当接した状態でユニット本体66が矢印で示される払拭方向に移動することでワイピング動作が行われる(ステップS4)。本実施形態においては、ノズル列方向に沿ってワイパー9によってノズル形成面23が払拭され、当該ノズル形成面23に付着していた固形成分63を含むインクWiがワイパー9によって掻き集められる。そして、図10及び図11に示されるように、ワイパー9が、払拭方向におけるノズル形成領域よりも下流側に設けられた充填材51、すなわち、トラップ構造に到達すると、ワイパー9によって掻き集められたインクWiが充填材51のトラップ孔62に吸収されて保持される。上述したように、条件(A)を満たすことにより、インクWiに含まれる殆どの固形成分63をトラップ構造として機能する充填材51に捕捉させることが可能となる。また、本実施形態においては、トラップ孔62の大きさdの平均値μdがワイパー9を構成する繊維素材の繊維の太さfの平均値μfよりも小さくなっているので、ワイパー9がノズル形成面23を往復する場合においても、充填材51のトラップ孔62に一旦捕捉された固形成分63がワイパー9の繊維により当該トラップ孔62から掻き取られてノズル形成面23側に再度運ばれてしまうことが抑制される。
ワイピング動作が実行された後、続いて、CPU13はキャリッジ移動機構18を制御して、キャリッジ3をキャッピング機構6の上方のキャッピング位置まで移動させる(ステップS5)。そして、ノズル形成面23における充填材51を含む領域をキャップ8により封止(キャッピング)した状態で吸引動作が行われる(ステップS6)。これにより、ノズル30から記録ヘッド2内のインクや気泡と共に充填材51のトラップ孔62に捕捉されているインクWi及びこれに含まれる固形成分63が吸引されてキャップ8の封止空部内に排出される。このようにして、充填材51のインクWi及び固形成分63が蓄積される前に除去される。
以上のようにワイピング動作及び吸引動作が行われると、ノズル形成面23に付着したインクWiに含まれる顔料等の固形成分63がトラップ構造として機能する充填材51のトラップ孔62に捕捉されるので、ノズル形成面23が清浄に保たれる。これにより、ワイピング動作時にワイパー9とノズル形成面23との間で固形成分63が挟まれた状態でノズル形成面23を摺動することが抑制されるので、当該固形成分63により傷つけられて摩耗することによる撥液膜60の劣化(撥液性の低下)が抑制される。その結果、撥液膜60の撥液性の低下によるインク滴の飛翔曲がり等の不具合が抑制される。そして、このような構成を有する記録ヘッド2及びこれを備えるプリンター1では、固形成分により記録ヘッド2のノズル形成面23の撥液膜60が摩耗することによる撥液性の低下が抑制されるので、耐久性が向上する。また、本実施形態においては、ノズルプレート24の外周と固定板22との間に充填された充填材51の一部が本発明におけるトラップ構造として機能するので、トラップ構造を設ける領域を別途設ける必要がない。このため、トラップ構造を設けることによるノズル形成面23の大型化が防止される。その結果、記録ヘッド2の小型化に寄与することが可能となる。特に、複数の記録ヘッド2を組み合わせて所謂ライン型の液体噴射ヘッドを構成する場合には、ライン型液体噴射ヘッド及びこれを備える液体噴射装置が全体的に大型化することが低減される。
さらに、今回のワイピング動作後、次回のワイピング動作が行われるまでに、上記の吸引動作が行われることにより、充填材51のトラップ孔62に捕捉されているインクWiが蓄積される前に除去されるので、トラップ構造のトラップ機能を維持することが可能となる。したがって、トラップ孔62に一旦捕捉された固形成分63が払拭機構により当該トラップ孔62から掻き取られてノズル形成面23側に再度運ばれてしまうリスクが低減される。なお、吸引動作は、今回のワイピング動作後、次回のワイピング動作が行われるまでに行われればよく、必ずしも今回のワイピング動作の直後に行われなくてもよい。但し、トラップ孔62に捕捉された固形成分63を含むインクが乾燥する前に吸引動作が行われることが望ましい。また、この時の吸引動作は、充填材51に捕捉されたインクWi及び固形成分63を吸引する目的のためだけに行われてもよく、必ずしもノズル30からインク等が吸引されるものでなくてもよい(すなわち、ノズル30の噴射機能を回復させる所謂クリーニング動作とは別途に行われてもよい)。
なお、本実施形態においては、ノズル形成面23のノズル形成領域よりも払拭方向における上流側及び下流側の両方にトラップ構造が設けられた構成を例示したが、これには限られず、ワイピング動作が一方向のみ行われる構成においては、少なくとも払拭方向における下流側にトラップ構造が設けられていればよい。
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
図12及び図13は、第2の実施形態について説明する図であり、図12は第2の実施形態におけるノズル形成面23の平面図、図13は図12における払拭方向(ノズル列方向)の断面図である。上記第1の実施形態では、充填材51として多孔質部材が用いられることにより本発明におけるトラップ構造として機能する構成を例示したが、これには限られない。図12に示される第2の実施形態では、充填材51の合成樹脂等の基材にナノインプリント法により凹部や溝等のパターンが形成されることで、トラップ構造とされる構成を採用することも可能である。ナノインプリント法としては、例えば、熱可塑性樹脂からなる基材に対する型押し、加熱、冷却、離型を経てパターンを形成する熱式、又は、光硬化樹脂からなる基材に対する型押し、光(紫外線)照射、離型を経てパターンを形成する光照射式を採用することができる。図12及び図13の例では、ノズル形成面23のノズル形成領域よりも払拭方向側、より具体的には払拭方向における少なくとも下流側の領域の充填材51に、払拭方向に直交する方向に沿った溝75が、払拭方向に沿って複数(図12の例では合計4本)形成されており、これらの複数の溝75が本発明におけるトラップ構造として機能し、各溝75の内部空間がトラップ孔として機能する。払拭方向に直交する方向(図11における上下方向)において各溝75の長さはノズル形成領域の寸法と同程度、又はそれよりもすこし長く設定されている。また、払拭方向における溝75の大きさ(幅g)に関し、その平均値μgが以下の条件(E)を満たすように設計されている。
Mxa<μg<μf …(E)
図12及び図13は、第2の実施形態について説明する図であり、図12は第2の実施形態におけるノズル形成面23の平面図、図13は図12における払拭方向(ノズル列方向)の断面図である。上記第1の実施形態では、充填材51として多孔質部材が用いられることにより本発明におけるトラップ構造として機能する構成を例示したが、これには限られない。図12に示される第2の実施形態では、充填材51の合成樹脂等の基材にナノインプリント法により凹部や溝等のパターンが形成されることで、トラップ構造とされる構成を採用することも可能である。ナノインプリント法としては、例えば、熱可塑性樹脂からなる基材に対する型押し、加熱、冷却、離型を経てパターンを形成する熱式、又は、光硬化樹脂からなる基材に対する型押し、光(紫外線)照射、離型を経てパターンを形成する光照射式を採用することができる。図12及び図13の例では、ノズル形成面23のノズル形成領域よりも払拭方向側、より具体的には払拭方向における少なくとも下流側の領域の充填材51に、払拭方向に直交する方向に沿った溝75が、払拭方向に沿って複数(図12の例では合計4本)形成されており、これらの複数の溝75が本発明におけるトラップ構造として機能し、各溝75の内部空間がトラップ孔として機能する。払拭方向に直交する方向(図11における上下方向)において各溝75の長さはノズル形成領域の寸法と同程度、又はそれよりもすこし長く設定されている。また、払拭方向における溝75の大きさ(幅g)に関し、その平均値μgが以下の条件(E)を満たすように設計されている。
Mxa<μg<μf …(E)
本実施形態においても、上記条件(E)を満たすことにより、ワイピング動作時において、ノズル形成面23に付着したインクの固形成分63を、トラップ構造として機能する溝75に捕捉させることが可能となる。また、ワイパー9の繊維が溝75に入り込みにくいため、溝75に一旦捕捉された固形成分63がワイパー9の繊維により当該溝75から掻き取られてノズル形成面23側に運ばれてしまうことが抑制される。同様に、溝75の深さdp(ノズル形成面に直交する方向の寸法)についても、少なくとも、ノズル形成面23におけるインクの固形成分63の大きさaの最大値Mxaよりも大きいことが望ましい。これにより、トラップされた固形成分63の全体を溝75に埋没させることができるので、当該溝75に一旦捕捉された固形成分63がワイパー9の繊維により当該溝75から掻き取られてノズル形成面23側に運ばれてしまうことがより確実に抑制される。
そして、本実施形態においては、トラップ構造が払拭方向に交差する方向(本実施形態においては直交する方向)に沿った溝75からなるので、ノズル形成面23上のトラップ構造が設けられる領域が払拭方向に大きくなることが抑制される。このため、トラップ構造を設けることによるノズル形成面23の大型化が抑制される。その結果、記録ヘッド2の小型化に寄与することが可能となる。また、本実施形態においては、トラップ構造として機能する溝75が、払拭方向に複数並設されていることにより、その分、より多くの固形成分63を補足することが可能となる。なお、その他の構成については第1の実施形態と同様である。
図14は、第2の実施形態の変形例について説明するノズル形成面の平面図である。上記第2の実施形態においては、トラップ構造として、払拭方向に直交する方向に延在する溝75を例示したが、これには限られず、種々の形状のトラップ構造を採用することができる。例えば、溝75は必ずしも払拭方向に直交していなくてもよく、払拭方向に交差していればよい。すなわち、図14に示される変形例における溝75は、払拭方向に対して傾斜した方向に延在されている。また、溝75は、払拭方向で見てノズル形成領域全体と重なる状態に設けられている必要はなく、図14に示されるように、払拭方向においてノズル列44の仮想延長線(図14における破線)上に少なくとも設けられていればよい。なお、他の構成については、上記第2の実施形態と同様である。
図15は、第2の実施形態の他の変形例について説明するノズル形成面の平面図である。上記第2の実施形態においては、トラップ構造として溝75を例示したが、これには限られず、矩形状の開口を有する凹部76が、ノズル形成領域よりも少なくとも下流側の領域に複数設けられていることにより、トラップ構造が構成されてもよい。これらの複数の凹部76が本発明におけるトラップ構造として機能し、各凹部76の内部空間がトラップ孔として機能する。図15に示される変形例では、払拭方向に直交する方向に並設された複数の凹部76からなる凹部群が、払拭方向に複数並設されている。隣り合う凹部群の凹部76同士は、払拭方向に直交する方向において互い違いとなるように配置されている。勿論、凹部76の開口形状は、矩形に限られず、例えば、円形を呈するものであってもよい。そして、払拭方向における凹部76の大きさ(幅w)に関し、その平均値μgが以下の条件(F)を満たすように設計されている。
Mxw<μg<μf …(F)
なお、凹部76の払拭方向に直交する方向の大きさ(長さs)に関しては、幅w以上に設定される。
Mxw<μg<μf …(F)
なお、凹部76の払拭方向に直交する方向の大きさ(長さs)に関しては、幅w以上に設定される。
本実施形態においても、上記条件(F)を満たすことにより、ワイピング動作時において、ノズル形成面23に付着したインクの固形成分63を、トラップ構造として機能する凹部76に捕捉させることが可能となる。また、ワイパー9の繊維が溝75に入り込みにくいため、凹部76に一旦捕捉された固形成分63がワイパー9の繊維により当該凹部76から掻き取られてノズル形成面23側に運ばれてしまうことが抑制される。同様に、凹部76の深さ(ノズル形成面に直交する方向の寸法)についても、少なくとも、ノズル形成面23におけるインクの固形成分63の大きさaの最大値Mxaよりも大きいことが望ましい。これにより、トラップされた固形成分63の全体を凹部76に埋没させることができるので、当該凹部76に一旦捕捉された固形成分63がワイパー9の繊維により当該溝75から掻き取られてノズル形成面23側に運ばれてしまうことがより確実に抑制される。
本実施形態においては、トラップ構造が払拭方向に交差する方向(本実施形態においては直交する方向)に沿って複数の凹部76が並設されてなる凹部群から構成されているので、ノズル形成面23上のトラップ構造が設けられる領域が払拭方向に大きくなることが抑制される。このため、トラップ構造を設けることによるノズル形成面23の大型化が抑制される。その結果、記録ヘッド2の小型化に寄与することが可能となる。また、本実施形態においては、凹部群が払拭方向に複数並設されていることにより、その分、より多くの固形成分63を補足することが可能となる。なお、他の構成については、上記第2の実施形態と同様である。
図16及び図17は、第3の実施形態について説明する図であり、図16は第3の実施形態におけるノズル形成面23(本発明に係るノズルプレート24)の平面図、図17は図16における払拭方向(ノズル列方向)の断面図である。上記第1の実施形態及び第2の実施形態においては、ノズルプレート24の外周と固定板22との間に充填された充填材51にトラップ構造が設けられた構成を例示したが、これには限られず、ノズルプレート24の外周と固定板22との間に隙間を有しない構成や、固定板22を備えていない構成等においても本発明を適用することが可能である。すなわち、ノズルプレート24自体にトラップ構造が形成された構成を採用することも可能である。
図16及び図17に示される例では、払拭方向に交差方向に延在する複数の溝75が、ノズルプレート24のノズル形成領域の払拭方向における少なくとも下流側に設けられている。勿論、当該実施形態においても溝75に限られず、凹部群等の種々の形状のトラップ構造を採用することができる。ノズルプレート24に溝75等のトラップ構造を形成する構成では、例えば、ノズルプレート24の基材であるシリコン基板にエッチング処理により、ノズル形成面23となる面(上記ノズル30の第1ノズル部56が開口する面であり、撥液膜60が形成される面(図17における上面))側からエッチング処理により第1ノズル部56が形成される際に、同じくエッチング処理によりトラップ構造(本実施形態においては溝)が形成される。そして、保護膜59及び撥液膜60が順次形成された後(何れも図示は省略)、トラップ構造が形成された領域(図16において一点鎖線で囲まれた領域)の撥液膜60がプラズマ処理等により除去される。これにより、溝75等のトラップ構造が形成された領域は、ノズル形成面23における他の部分と比較して親液性を呈する。本実施形態においても、ワイピング動作時にノズルプレート24のノズル形成面23に付着したインク等のインクに含まれる顔料等の固形成分が溝75等のトラップ構造のトラップ孔に捕捉されるので、ノズル形成面23が清浄に保たれる。これにより、ノズルプレート24における撥液膜の劣化(撥液性の低下)が抑制される。また、このようにトラップ構造がノズルプレート24に設けられる構成においても、トラップ構造が払拭方向に交差する方向に沿った溝75や凹部(凹部群)からなるので、ノズル形成面23上のトラップ構造が設けられる領域が払拭方向に大きくなることが抑制される。このため、トラップ構造を設けることによるノズルプレート24の大型化が抑制される。その結果、記録ヘッド2の小型化に寄与することが可能となる。なお、他の構成については上記各実施形態と同様である。
図18及び図19は、第4の実施形態について説明する図であり、図18は第4の実施形態におけるノズル形成面の平面図、図19は図18における払拭方向(ノズル列方向)の断面図である。本実施形態においては、第3の実施形態と同様に、ノズルプレート24にトラップ構造が設けられているが、開口部78内に多孔質部材からなる吸収材79が充填されてトラップ構造が構成されている点で第3の実施形態と異なっている。開口部78は、上記の溝75等のトラップ構造と同様に、ノズルプレート24の基材であるシリコン基板にエッチング処理により当該基材の厚さ方向の途中まで形成されている。なお、開口部78は、ノズルプレート24の厚さ方向を貫通してもよい。この開口部78の払拭方向に直交する方向における寸法L1は、ノズル形成領域Anの同方向の寸法と同程度、又は、これよりも大きい。また開口部78の払拭方向における寸法L2は、ノズルプレート24におけるノズル形成領域から外れた領域において可能な範囲で大きくとられている。当該開口部78に充填された吸収材79は、充填材51と同様な材料から構成され、また、当該充填材51と同様に図示しないトラップ孔を多数有する。そして、本実施形態においても、ワイピング動作時にノズルプレート24のノズル形成面23に付着したインク等のインクに含まれる顔料等の固形成分が吸収材79に捕捉され、ノズル形成面23が清浄に保たれる。これにより、ノズルプレート24における撥液膜の劣化(撥液性の低下)が抑制される。なお、他の構成については上記各実施形態と同様である。
上記各実施形態においては、ワイパー9がノズル形成面23に当接した状態でユニット本体66が払拭方向に移動してワイピング動作が行われる構成を例示したが、これには限られず、ノズル形成面23とユニット本体66との相対位置を維持した状態で、ワイパー9を回動させることによりワイピング動作が行われてもよい。あるいは、ワイピング機構7は駆動せずに、記録ヘッド2を払拭方向に移動させることによりワイピング動作を行う構成を採用することができる。要するに、ワイパー9とノズル形成面23とが相対的に移動することでワイピング動作を行えばよい。また、ワイピング機構7の構成についても、上記各実施形態で例示したものには限られず、ノズル形成面23を払拭可能な周知の種々の構成のワイピング機構を採用することができる。
なお、以上では、プリンター1の記録ヘッド2のノズル形成面23を払拭する構成に本発明を適用した例を説明したが、これに限定されるものではない。本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッドのノズル形成面を払拭部材で払拭する構成のものであれば、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等のノズル形成面にも適用することができる。
1…プリンター,2…記録ヘッド,3…キャリッジ,4…ガイドロッド,5…プラテン,6…キャッピング機構,7…ワイピング機構,8…キャップ,9…ワイパー,11…プリンターコントローラー,12…インターフェース部,13…CPU,14…記憶部,15…駆動信号発生回路,16…ヘッドコントローラー,17…紙送り機構,18…キャリッジ移動機構,22…固定板,23…ノズル形成面,24…ノズルプレート,25…連通基板,26…アクチュエーターユニット,27…コンプライアンス基板,28…ケース,30…ノズル,31…圧力室形成基板,32…圧電素子,33…圧力室,34…封止板,36…駆動回路,37…配線基板,38…配線空部,39…ノズル連通口,40…供給口,41…振動板,42…収容空間,43…共通液室,44…ノズル列,45…貫通開口,46…貫通口,47…可撓フィルム,48…保持版,49…コンプライアンス開口,50…コンプライアンス空間,51…充填材,52…収容空部,53…導入口,54…液室空部,56…第1ノズル部,57…第2ノズル部,59…保護膜,60…撥液膜,62…トラップ孔,63…固形成分,65…レール,66…ユニット本体,67…第1ロール,68…第2ロール,69…第1軸,70…第2軸,71…押圧ローラー,72…遊転軸,73…挿通口,75…溝,76…凹部,78…開口部,79…吸収材
Claims (17)
- 液体が噴射されるノズル開口が形成されたノズル形成面を有するノズルプレートであって、
前記ノズル開口はノズル形成領域に含まれ、
前記ノズル形成領域より前記ノズル形成面を払拭する払拭部材による払拭方向側に前記液体に含まれる固形成分を捕捉するトラップ構造が設けられたことを特徴とするノズルプレート。 - 前記トラップ構造は、前記払拭方向に交差する方向に延在する溝であることを特徴とする請求項1に記載のノズルプレート。
- 前記溝が、複数並設されていることを特徴とする請求項2に記載のノズルプレート。
- 前記トラップ構造は、複数の凹部が並設されてなる凹部群であることを特徴とする請求項1に記載のノズルプレート。
- 前記凹部群が、前記払拭方向に複数並設されていることを特徴とする請求項4に記載のノズルプレート。
- 前記トラップ構造は、開口部内に多孔質部材が充填されて構成されたことを特徴とする請求項1に記載のノズルプレート。
- 前記トラップ構造が備えるトラップ孔の大きさが、前記固形成分の大きさよりも大きく、尚且つ、前記払拭部材を構成する繊維素材の繊維の太さよりも小さいことを特徴とする請求項1から請求項6の何れか一項に記載のノズルプレート。
- 前記トラップ孔の大きさdの平均値をμd、前記トラップ孔の大きさdの標準偏差をσdとし、前記固形成分の大きさaの最大値をMxaとしたとき、
Mxa<μd−2σd
を満たすことを特徴とする請求項7に記載のノズルプレート。 - 前記トラップ孔の大きさdの平均値をμd、前記トラップ孔の大きさdの標準偏差をσdとし、前記固形成分の大きさaの最大値をMxaとしたとき、
Mxa<μd−3σd
を満たすことを特徴とする請求項7に記載のノズルプレート。 - 前記繊維の大きさfの平均値をμf、前記繊維の大きさfの標準偏差をσfとしたとき、
μd+2σd<μf−2σf
を満たすことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のノズルプレート。 - 前記繊維の大きさfの平均値をμf、前記繊維の大きさfの標準偏差をσfとしたとき、
μd+3σd<μf−3σf
を満たすことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のノズルプレート。 - 請求項1から請求項11の何れか一項に記載のノズルプレートを備えることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 前記ノズルプレートを囲う開口を有する外周材と前記ノズルプレートとの間に充填材が充填され、
前記充填材に前記トラップ構造が設けられたことを特徴とする請求項12に記載の液体噴射ヘッド。 - 請求項12又は請求項13に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドの前記ノズル形成面を払拭する払拭機構と、
前記トラップ構造における前記液体又は前記液体に含まれる固形成分を吸引する吸引機構と、
を備えることを特徴とする液体噴射装置。 - 請求項1から請求項11の何れか一項に記載のノズルプレートのメンテナンス方法であって、
前記ノズル形成面を払拭部材により払拭して当該ノズル形成面に付着していた液体及び当該液体に含まれる固形成分を前記トラップ構造に導いて当該トラップ構造が有するトラップ孔に捕捉させ、
前記トラップ構造における前記液体又は前記液体に含まれる固形成分を吸引することを特徴とするノズルプレートのメンテナンス方法。 - 請求項12又は請求項13に記載の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法であって、
前記ノズル形成面を払拭部材により払拭して当該ノズル形成面に付着していた液体及び当該液体に含まれる固形成分を前記トラップ構造に導いて当該トラップ構造が有するトラップ孔に捕捉させ、
前記トラップ構造における前記液体又は前記液体に含まれる固形成分を吸引することを特徴とする液体噴射ヘッドのメンテナンス方法。 - 請求項14に記載の液体噴射装置のメンテナンス方法であって、
前記ノズル形成面を前記払拭部材により払拭して当該ノズル形成面に付着していた液体及び当該液体に含まれる固形成分を前記トラップ構造に導いて当該トラップ構造が有するトラップ孔に捕捉させ、
前記トラップ構造を含む領域における前記液体又は前記液体に含まれる固形成分を吸引することを特徴とする液体噴射装置のメンテナンス方法。
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