JP2019023323A - 鋼板および鋼板の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】HAZにおいて優れた靱性を有し、かつ、母材において優れた機械的特性を有する鋼板の提供。【解決手段】所定の化学組成を有し、特定の式から求められる、BF、BasBNが特定範囲であり、炭素当量Ceq.0.40%〜0.55%であり、板厚方向1/4位置、及び板厚方向5mm位置と板厚方向1/2位置から鋼板表面に向かって5mmの位置との間の領域における有効結晶粒径の平均値と有効結晶粒径の分布が特定範囲であり、ミクロ組織が、面積率の平均値で、ベイナイト分率80%以上、フェライト分率20%以下、パーライト分率1%以下、MA分率1%以下であり、ベイナイト分率の分布が特定範囲であり、Al酸化物の質量換算値が20%以下、Zr酸化物の質量換算値が5%以上、Zr酸化物とTi酸化物の質量換算値の含有割合の合計が80%以上を満足し、円相当径が0.5μm〜10μmの酸化物の個数密度が10個/mm2以上である鋼板。【選択図】なし

Description

本発明は、鋼板および鋼板の製造方法に関する。
鋼板の用途として、例えば、船舶、高層建築物、その他の建築物、橋梁、海洋構造物、LNG貯蔵タンク、その他の大型タンク、ラインパイプ等が挙げられる。近年、建築構造物の高層化、及びコンテナ船の積載重量増大のため、溶接構造物の大型化が進められている。これに伴い、鋼板の板厚の厚肉化および高強度化が求められている。さらに、万が一、脆性亀裂が溶接継手箇所に発生した場合でも、脆性亀裂を母材にて停止させる性能(以下、「アレスト性」と称する場合がある。)が求められる。板厚が厚くなるに従って、アレスト性は劣位となる傾向があるが、その一方で、要求されるアレスト性は高くなる。
例えば、非特許文献1では、板厚80mm超え100mm以下の極厚アレスト鋼板の−10°Cにおける必要最小アレスト靱性値(Kca値)は、最も厳しい条件の場合、8000N/mm1.5とすることが記載されている。
アレスト性を確保するためには、鋼板を高強度化し、板厚を薄肉化することが有効となる。しかし、一般に、鋼板を高強度化すると、溶接熱影響部が高硬度化し、溶接熱影響部の靱性は劣化する。溶接構造物の一層の安全性、信頼性の確保をするためには、鋼板を高強度化しつつ、溶接熱影響部(以下、「HAZ」と称する場合がある。)の靱性(以下、「溶接熱影響部の靱性」を「HAZ靱性」と称する場合がある。)を確保することが重要となる。
従来、高張力鋼板のHAZ靱性に対して、オーステナイト(γ)の結晶粒径、変態組織、HAZの硬さ、粗大硬質相等が大きな影響を及ぼすことが知られており、種々の対策が提案されている。このうち、HAZ靱性の向上には、HAZ組織の微細化が最も有効であり、介在物を活用する方法が数多く提案されている。
介在物を活用したHAZ組織の微細化には、結晶粒の成長を抑制するピン止め効果と、新たにフェライトを生成させる粒内変態とがある。粒内変態は、溶接時の熱影響によって粗大化したオーステナイト粒内に、介在物を核としてフェライトを生成させて組織を微細化する方法である。これまでに、TiNなどの窒化物、MnSなどの硫化物に加えて、高温でも化学的に安定な酸化物などをフェライト生成核として利用する技術が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
特許文献1に開示されている技術は、実質的にAlを含有しない鋼板に、粒内変態の核(以下、「IGF核」と称する場合がある。)となるTiとZrとの複合酸化物を微細分散させることによって、溶接熱影響部の組織を微細化する方法を提案するものである。特許文献1に開示される方法では、IGF核として有効に働くTiとZrとの複合酸化物を生成させるために、TiとZrとを同時に添加し、かつTi、ZrおよびO量のバランスを最適化している。
特許文献2に開示されている技術は、実質的にAlを含有しない鋼板に、REM、ZrおよびTiを添加することで、REMとZrを含有する介在物によってHAZ靱性を向上させる方法を提案するものである。
特許文献3に開示されている技術は、実質的にAlを含有しない鋼板に、Tiを主成分とする酸化物とTiN、MnS及びBNの複合析出物を分散させる方法を提案するものである。これは、Ti酸化物による粒内変態に加え、Bによって粒界からのフェライトの生成を抑制し、HAZ靱性を向上させるものである。
特許文献4に開示されている技術は、TiNによるピン止め効果とBNによる粒内変態とによってHAZを微細化し、Bによる焼入れ性の向上を利用してHAZの軟化を抑制し、靱性を向上させる方法を提案するものである。
2016年7月27日 一般財団法人日本海事協会(Class NK) プレスリリース「超大型コンテナ船に用いられる板厚100mmの極厚アレスト鋼板に対する必要最小アレストじん性について世界初の知見」
特開平1−159356号公報 特開2008−291347号公報 特開平3−162522号公報 特開2007−177327号公報
上記の非特許文献1に記載の鋼板について、本発明者らが検討したところ、次のような知見を得た。
非特許文献1に記載される、板厚80mm超の鋼板のアレスト靱性値Kcaが8000N/mm1.5以上である安定して確保するには、例えば、Ni含有量の増加、有効結晶粒径を微細化するために製造負荷が高い工程の適用等の方法が挙げられる。しかし、これらはコストがかかる。
また、上記の特許文献1〜4に開示される技術について、本発明者らが検討したところ、次のような知見を得た。
特許文献1に開示される技術を検討した結果、TiとZrとの複合酸化物を生成させるために、TiとZrとを同時に添加し、かつTi量、Zr量およびO量のバランスを最適化しただけでは、HAZ靱性をさらに向上させることは不十分であることが分かった。
特許文献2に開示される技術を検討した結果、REMはAlとZrよりも強脱酸であり、ZrおよびTiの酸化物生成を阻害することが分かった。
特許文献3に開示される技術を検討した結果、Alを含有しない溶鋼中にTiを添加するだけでは、鋼板のTi酸化物の個数を確保することは困難であることが分かった。
特許文献4に開示される技術を検討した結果、溶接金属に隣接した部位が高温に晒されるため、ピン止め効果を利用したTiNが固溶消失してしまい、HAZ靱性の劣化が抑制されないことが分かった。
ところで、溶接構造物の建造費全体に占める溶接施工費用は大きい。この費用を削減するためには、鋼板を高強度化し、薄肉化することで、溶接パス数を減らすことが有効である。しかし、単純に、鋼板を高強度化するだけでは、HAZが硬化し、靱性の劣化が避けられない。
従来、HAZ靱性の改善のために、鋼板の介在物などの分散粒子が利用されている。しかし、鋼板を高強度化すると、HAZ靱性を安定して向上させることは困難であった。この原因として、例えば、酸化物等の介在物が溶鋼中で凝集し易く、鋼板に均一に分散し難いため、粒内変態の核の数を十分に確保することが難しいことなどが考えられる。
上記のように、高強度化した鋼板のHAZ靱性を向上させる技術は確立されていなかったのが実情である。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、溶接を行った際のHAZにおいて優れた靱性を有し、かつ、HAZと溶接金属部以外の部分である母材において優れた機械的特性を有する鋼板の提供を課題とするものである。
本発明者は、HAZ部の組織を微細化することができる粒内フェライト生成核として、粒内変態核となる酸化物と固溶Bに着目して鋭意検討を行った結果、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させた。
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)
質量%で、
C:0.01%〜0.20%、
Si:0.02%〜0.50%、
Mn:0.30%〜2.50%、
Ti:0.003%〜0.024%、
B:0.0005%〜0.0030%、
N:0.0010%〜0.0090%、
O:0.0010%〜0.0050%、
Zr:0.0005%〜0.0100%、
Sol.Zr:0%〜0.0020%、
Cu:0.1%〜1.5%、
Ni:0.1%〜3.0%、
Al:0%〜0.0050%、
P:0.050%以下、
S:0.0080%以下、
Nb:0%〜0.035%
Cr:0%〜1.0%、
Mo:0%〜1.00%、
V :0%〜0.10%
Mg:0%〜0.0005%
Ca+REM:0%〜0.0005%、並びに、
残部:Fe及び不純物からなる化学組成を有し、
下記式(1)で表されるBが0.0005%〜0.0030%であり、
下記式(2)で表されるBasBNが0%以下であり、
下記式(3)で表される炭素当量Ceq.が0.45%〜0.55%であり、
圧延方向に垂直な断面の電子線後方散乱回折法(EBSD)を用いた結晶方位解析において、鋼板表側から板厚方向の5mmの位置と板厚方向の1/2位置から鋼板表面に向かって5mmの位置との間の領域での有効結晶粒径の平均値が30μm以下であり、
前記領域での板厚方向の各測定位置における有効結晶粒径の平均値が、前記領域全体での有効結晶粒径の平均値−15μm〜前記領域全体での有効結晶粒径の平均値+15μmの範囲を満足し、
前記領域全体でのミクロ組織が、面積率の平均値にして、ベイナイト分率が80.0%〜100.0%、フェライト分率が0%〜20.0%、パーライト分率が0%〜1.0%、MA分率が0%〜1.0%以下であり、
前記領域での板厚方向の各測定位置におけるベイナイト分率が、前記領域全体でのベイナイト分率の平均値−15%〜前記領域全体でのベイナイト分率の平均値+15%の範囲を満足し、
板厚方向の1/4位置で解析される酸化物は、酸化物中のO量、Ti量、Zr量、およびAl量の測定値から求められる、Ti、Zr、およびAlの元素による単独酸化物と仮定したときの前記Ti、前記Zr、および前記Alの各元素の酸化物の質量換算値の合計に対する、Al酸化物の質量換算値の含有割合が20%以下、Zr酸化物の質量換算値が5%以上、およびZr酸化物とTi酸化物の質量換算値の合計が80%以上を満足し、円相当径が0.5μm〜10μmの個数密度が10個/mm以上の酸化物である鋼板。
ただし、式(1)中、BasBNは下記式(2)で表わされる。また、Bは、鋼板に含まれる前記B元素の含有量(質量%)であり0≦B≦Bの関係を満たす。
ただし、式(2)中、0≦BasBN≦B(BasBN<0の場合、BasBN=0とする)、0≦Insol.Zrの関係を満たし、N、Ti、O、及びAlは、鋼板に含まれる各元素の含有量(質量%)であり、Insol.Zrは、酸不溶性Zrの含有量(質量%)であることを示す。
Ceq.=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(3)
ただし、式中のC、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、鋼板に含まれる各元素の含有量(質量%)である。
(2)
板厚が50mm以上であり、溶接熱影響部および溶接金属部以外の部分である、母材の降伏応力が550MPa以上であり、かつアレスト靱性値Kcaが6000N/mm1.5になる温度が−10℃以下であり、入熱4.5kJ/mm〜6.0kJ/mmで溶接を行ったときに発生する溶接熱影響部を、試験温度−10℃で行う亀裂開口変位試験で、破壊直前の亀裂開口量が0.15mm以上である(1)に記載の鋼板。
(3)
(1)又は(2)に記載の鋼板を製造する方法であって、
減圧雰囲気の二次精錬において、溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した溶鋼へ、Ti添加後Zrの順に添加、Zr添加後Tiの順に添加、または、TiとZrとを同時に添加、のいずれか一つの添加順序で、TiとZrとを添加した後、Ti及びZr添加後の溶鋼を鋳造して、鋳片を得る鋳造工程と、
前記鋳造工程後の鋼片を、1000℃〜1150℃の温度域で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後の鋼片を、650℃〜850℃の温度域で圧延を開始し、累積圧下率が50%以上、仕上圧延完了から1sec後の温度が圧延開始温度−80℃〜圧延開始温度+80℃となる圧延を実施する圧延工程と、
前記圧延工程後の鋼板を、650℃〜850℃の温度域であるときに水冷を開始し、表面温度が500℃以下の温度域で水冷を停止する冷却工程と、
を有する鋼板の製造方法。
(4)
(1)又は(2)に記載の鋼板を製造する方法であって、
減圧雰囲気の二次精錬において、溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した溶鋼へTiを添加し、Ti添加後の溶鋼中の溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した後、Zrを添加し、Ti及びZr添加後の溶鋼を鋳造して、鋳片を得る鋳造工程と、
前記鋳造工程後の鋼片を、1000℃〜1150℃の温度域で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後の鋼片を、650℃〜850℃の温度域で圧延を開始し、累積圧下率が50%以上、仕上圧延完了から1sec後の温度が圧延開始温度−80℃〜圧延開始温度+80℃となる圧延を実施する圧延工程と、
前記圧延工程後の鋼板を、650℃〜850℃の温度域であるときに水冷を開始し、表面温度が500℃以下の温度域で水冷を停止する冷却工程と、
を有する鋼板の製造方法。
(5)
(1)又は(2)に記載の鋼板を製造する方法であって、
減圧雰囲気の二次精錬において、溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した溶鋼へZrを添加し、Zr添加後の溶鋼中の溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した後、Tiを添加し、Ti及びZr添加後の溶鋼を鋳造して、鋳片を得る鋳造工程と、
前記鋳造工程後の鋼片を、1000℃〜1150℃の温度域で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後の鋼片を、650℃〜850℃の温度域で圧延を開始し、累積圧下率が50%以上、仕上圧延完了から1sec後の温度が圧延開始温度−80℃〜圧延開始温度+80℃となる圧延を実施する圧延工程と、
前記圧延工程後の鋼板を、650℃〜850℃の温度域であるときに水冷を開始し、表面温度が500℃以下の温度域で水冷を停止する冷却工程と、
を有する鋼板の製造方法。
(6)
さらに、前記冷却工程後の鋼板を、400℃〜600℃の温度に再加熱する熱処理工程を有する(3)〜(5)のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
本実施形態によれば、溶接を行った際のHAZにおいて優れた靱性を有し、かつ、HAZと溶接金属部以外の部分である母材において優れた機械的特性を有する鋼板を提供できる。
本実施形態の鋼板を走査型電子顕微鏡により撮影した一例を表す写真である。
以下、本発明の好ましい実施形態の一例について詳細に説明する。
なお、本明細書中において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
従来、Ti酸化物およびB窒化物が、溶接金属およびHAZに分散した場合、粒内フェライトが生成し、その組織が微細化されることが知られている。また、従来、鋼板の旧オーステナイト粒界に偏析する固溶Bは、粒界フェライトの生成を抑制し、鋼板強度を向上させることは知られている。
しかし、Zrは一般的に鋼板に添加される元素ではなく、Zrが添加された鋼板として、過去に行われた研究が非常に限られたものであった。これまでに、Zrを含有する酸化物(特にZrとTiとを含有する酸化物)を鋼板に分散させた場合、固溶BがHAZ靱性向上に及ぼす効果について検討されたことはない。
本発明者らは、HAZ部の組織を微細化することができる粒内フェライト生成核(粒内)となる酸化物、固溶Bに着目し、鋭意検討を行った。その結果、主として下記の(A)酸化物の組成と個数密度、(B)固溶Zr、(C)固溶B、(D)脱酸方法、(E)Al、(F)ミクロ組織、及び(G)鋼板の製造方法について、下記の新知見を得た。
以下、これらの新知見について説明する。
(A):酸化物の組成と個数密度
本発明者らは、Zrを添加した鋼板を実際に製造し、粒内フェライトの核となる酸化物について、個々の酸化物を詳細に調査し、HAZ靱性向上に及ぼす効果について調査検討を行った。
その結果、Ti酸化物、Zr酸化物、Al酸化物の質量換算値の合計に対して、Al酸化物の質量換算値の含有割合が20%以下、Zr酸化物の質量換算値が5%以上、かつZr酸化物とTi酸化物の質量換算値の含有割合の合計が80%以上、を含有する酸化物の円相当径(円形と仮定したときの円の直径に相当するもの)が、0.5μm〜10μmである酸化物を10個/mm以上の個数密度で含有すると、組織の微細化を通じてHAZ靱性を改善することが明らかとなった。
Al酸化物の質量換算値の含有割合が20%を超える場合、又はZr酸化物とTi酸化物の質量換算値の含有割合の合計が80%未満である場合、粒内フェライトの生成核とならなかった。なお、粒内フェライトの生成核となる酸化物は、Al酸化物の質量換算値の含有割合が20%以下の範囲内であれば、Zr酸化物とTi酸化物との質量換算値の含有割合の合計には、単独Zr酸化物、及びTiとZrとの複合酸化物が含まれる。
なお、Zr酸化物の質量換算値が5%以上と限定する理由は、後述の「(C):固溶B(B)」で述べる。
Al酸化物の質量換算値の含有割合は、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。Al酸化物の質量換算値の含有割合は0%でもよい。
Zr酸化物とTi酸化物の質量換算値の含有割合の合計は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。Zr酸化物とTi酸化物の質量換算値の含有割合の合計は、100%でもよい。なお、Zr酸化物の質量換算値が5%以上であるが、Zr酸化物の質量換算値の含有割合の上限としては、特に限定されないが、例えば、98%以下であることがよい。
また、円相当径が0.5μmより小さいと粒内フェライトの生成核となるIGF核としての機能が低下し、10.0μmより大きいと粗大な酸化物自体が破壊の起点として作用する可能性が高まる。そして、円相当径が0.5μm〜10μmである前記の組成を有する酸化物の個数密度が、10個/mm以上の場合には、Zrを含まない鋼と比較して、HAZ組織の微細化によりHAZ靱性を改善することが明らかとなった。
円相当径が0.5μm〜10μmである前記の組成を有する酸化物の個数密度は、好ましくは20個/mm以上、より好ましくは30個/mm以上、さらに好ましくは50個/mm以上、最も好ましくは60個/mm以上である。なお、酸化物の個数密度の上限は特に限定されるものではないが、例えば、200個/mm以下が挙げられる。
ここで、酸化物の観察方法について述べる。
本実施形態に係る鋼板に含まれるAl、Ti、及びZrのいずれか(TiとZrとは両方を含有する場合も含む)を含有する酸化物の円相当径、個数密度、および組成は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた解析により決定する。具体的には、鋼板の幅中央、板厚方向の1/4の位置で、板厚方向12mm×板幅方向12mm×圧延方向70mmの熱サイクル試験片を採取する。この試験片を1400℃に23秒間加熱保持した後、冷速1℃/secの条件で冷却し、圧延方向と垂直な方向に切断し、得られた断面を、SEM/EDX(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)で観察し、観察視野内に認められる介在物を定量分析して測定する。SEM/EDX解析は、例えば、加速電圧15kV、電流を89μA〜91μAとし、観察面積にして25mm(5mm×5mm)以上(好ましくは、観察面積にして100mm(10mm×10mm))とする。
一例として、図1にSEMによる写真を示す。11は地鉄、12は介在物を表す。図1に示す写真のように、地鉄11(背景)に対して色調の明暗差(コントラスト)により(酸化物の形態は粒状であるので)粒状に見える介在物12について、これらの介在物毎に介在物の全体の組成を定量分析する。
ここで、試験片を1400℃に加熱する熱処理は、実施しても、実施しなくても、酸化物の大きさ、個数、組成に影響しない。1400℃に加熱すると、TiNなど酸化物以外の析出物が固溶するため、観察したい酸化物が見やすくなり、解析に要する時間を減らすことができる。
分析対象とする介在物の大きさは、円相当径(直径)で0.5μm〜10μmとして、分析個数は少なくとも500個以上を分析する。
分析対象元素は、O、Ti、Zr、及びAlとし、既知の物質を用いて各元素のX線強度と元素濃度の関係をあらかじめ検量線として求めておく。そして、分析対象とする介在物から得られたX線強度と前記検量線から分析対象とする介在物に含まれる元素濃度を定量する。介在物のうち、酸化物と判断するものは、酸素のピークが明瞭に認められるものとし、その下限は測定条件、測定装置に依存する。
例えば、SEM/EDX解析を、加速電圧15kV、電流を89μA〜91μAで測定した場合について述べる。O含有量、Ti含有量、Zr含有量、及びAl含有量の質量%の合計を求めて、その合計に対して、O含有量が1.0質量%以上である場合、この介在物を酸化物とした。そして、この酸化物について、下記式(5)〜下記式(7)を用いて各元素の質量%から、これらの元素による単独酸化物を仮定したときの各元素の酸化物の質量換算値を算出する。
Ti=Ti×3.003・・・(5)
ZrO=Zr×1.351・・・(6)
Al=Al×3.779・・・(7)
ただし、式(5)〜式(7)中、Ti、Zr、及びAlは、SEM/EDX解析により測定された各元素の含有量(質量%)である。なお、これらのSEM/EDX解析により測定された各元素の含有量を合計すると、100質量%となる。
式(5)〜式(7)から求めたTi、ZrO、Al、の質量換算値の合計を求め、その合計に対する各元素の酸化物の質量換算値の割合を、酸化物に含まれる各元素の酸化物の含有割合(%)とした。
Ti、ZrO、及びAlの含有割合は下記式(8)〜下記式(10)で表わされる。
Tiの含有割合(%)=Ti/(Ti+ZrO+Al)・・・(8)
ZrOの含有割合(%)=ZrO/(Ti+ZrO+Al)・・・(9)
Alの含有割合(%)=Al/(Ti+ZrO+Al)・・・(10)
(B):固溶Zr(Sol.Zr)
酸化物を形成せず鋼板に残存するZr(固溶Zr(Sol.Zr))は、HAZのみならず鋼板自体の靱性を著しく劣化させるため、鋼板におけるSol.Zrを低減する必要がある。Sol.Zrが少ないほど靱性は改善する傾向にあり、HAZ靱性に優れる鋼板を得るためには、Sol.Zrは0.0020質量%以下に制限することが重要である。
より一層のHAZ靱性改善のためには0.0010質量%以下(より好ましくは0.0005質量%以下)に制限することが好ましい。ここで、Sol.Zrは酸可溶性Zrであって、電解抽出残渣分析法などで測定可能な、鋼板に固溶しているZrに相当する。なお、酸不溶性Zrは、Insol.Zr(式(2)中のInsol.Zr)であり、酸可溶性Zrと酸不溶性Zrの合計が、鋼板中のZr量である。
(C):固溶B(B
鋼板の固溶Bは、旧オーステナイト粒界に偏析して粒界フェライトの生成を抑制し、母材強度を改善する。Zr酸化物、及びZr酸化物とTi酸化物との合計が一定量以上含有させた鋼板では、固溶Bが増加することを見出した。この効果を得るためには、Zr酸化物の質量換算値が5%以上必要となることを知見した。固溶Bの質量%(B)は、鋼板に含まれるBの含有量からB窒化物となるBの質量%を引くことで求められる。すなわち、Bは下記式(1)で表される。この値が0.0005%以上(好ましくは0.0010%以上)であると、固溶Bによる母材強度向上効果が得られる。Bが過剰になると、母材靱性とHAZ靱性が劣化する懸念がある。そのため、Bの上限は0.0030%以下とする。より好ましくは0.0025%以下、さらに好ましくは0.0020%以下である。
ただし、式(1)中、BasBNは下記式(2)で表わされる。また、Bは、鋼板に含まれる前記B元素の含有量(質量%)であり0≦B≦Bの関係を満たす。
式(1)中のBは鋼板に含まれるBの含有量(質量%)であり、BasBNはB窒化物となるBの質量%である。
鋼板ではB以外にもTiが窒化物形成元素として作用する。ただし、Tiは酸化物も形成する。したがって、BasBNを求めるためには、酸化物、窒化物を含めた介在物の生成を考慮して求める必要がある。
本実施形態に係る鋼板はAlを含有させないことが好ましい。これは、Alは、鋼板において強脱酸元素として作用するため、多量に鋼板に含有すると、ZrおよびTiの酸化物生成を阻害するからである。しかしながら、実製造においては、Alが不純物として混入する場合、溶鋼温度が低くなりすぎた場合などにAl昇熱をせざるを得ず、鋼板にAlが含有される場合などがある。
Alが含有されることも考慮すると、酸化物と窒化物の生成工程は以下であると考えられる。脱酸力が強い元素から酸化物を形成するので、まず、溶鋼中において、Alよりも脱酸力が強いZrが優先的に酸化物となりZr酸化物が形成される。そして、余った酸素とAlが結合してAl酸化物が形成され、さらに余った酸素がTiと結合してTi酸化物が形成されると考えられる。次に、酸化物を生成せずに余ったTiは窒素と結合してTi窒化物を形成し、更に余った窒素がBと結合してB窒化物を生成すると考えられる。
ZrはZrO、AlはAl、TiはTi及びTiN、BはBNを形成すると考えられる。このため、B窒化物となるBの質量%(BasBN)は、これらの原子量又は分子量を基に、下記式(2)を用いて求められる。添加したBを全量固溶Bとして活用するためには、この値を0%とする。さらに、BNはフェライトの生成核になるので、母材強度を安定して確保するためにも、BasBNは0%であることがよい。
ただし、式中のN、Ti、O、及びAlは、鋼板に含まれる各元素の含有量(質量%)であり、Insol.Zrは、酸不溶性Zrの含有量(質量%)である。0≦BasBN≦Bであり、BasBN<0の場合はBasBN=0とする。
なお、Sol.Zrは、酸可溶性Zrであって、電解抽出残渣分析法などで測定する鋼板に固溶しているZr含有量(質量%)である。Insol.Zrは、酸不溶性Zrの含有量(質量%)であり、Zr含有量からSol.Zr含有量を引いたものである。また、0≦Insol.Zr≦Zrを満たす。
(D):脱酸方法
酸化物粒子は溶鋼を脱酸する際に生成する。これを一次酸化物と称する。さらに、鋳造、及び凝固中に溶鋼温度の低下と共に、Ti酸化物、Zr酸化物、およびTiとZrとを含有する酸化物を生成する。これを二次酸化物と称する。本実施形態では、一次酸化物と二次酸化物のどちらを用いてもかまわない。ただし、鋳造、及び凝固中に溶鋼温度の低下と共に生成する酸化物の方が、溶鋼温度が高温時に生成する一次酸化物よりも微細な粒子が得られるので、二次酸化物を用いることが好ましい。
さらに、このような鋳片の製造条件を詳細に検討した。
鋳片の製造過程:転炉→取鍋→二次精錬→連続鋳造の過程において、鋳片に残留する酸化物系介在物は、特に、二次精錬における脱酸開始前の溶鋼中の溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%(好ましい上限は0.0040%以下、より好ましい上限は0.0030%以下)に制御し、かつ脱酸元素であるTiとZrを添加することで、酸化物の平均粒径が顕著に微細化し個数が増大することを知見した。
脱酸元素であるTiとZrとの添加順序は、Ti、Zrの順、Zr、Tiの順、又はTi,Zrの同時添加のいずれでもよい。
TiとZrとを、Ti、Zrの順で、別々に添加する場合、溶鋼中の溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%(好ましい上限は0.0040%以下、より好ましい上限0.0030%以下)に制御した後、Tiを添加する。そして、溶鋼中の溶存酸素量を0.0005%〜0.0050%(好ましい上限は0.0040%以下、より好ましい上限は0.0030%以下、さらに好ましい上限は0.0020%以下)にした後、Zrを添加するとよい。
Zr、Tiの順で別々に添加する場合、0.0005%〜0.0050%(好ましい上限は0.0040%以下、より好ましい上限0.0030%以下)に制御した後、Zrを添加する。そして、該溶鋼中の溶存酸素量を0.0005%〜0.0050%(好ましい上限は0.0040%以下、より好ましい上限は0.0030%以下、さらに好ましい上限は0.0020%以下)にした後、Tiを添加するとよい。
TiとZrを同時に添加する場合、溶鋼中の溶存酸素量を0.0005%〜0.0050%(好ましい上限は0.0040%以下、より好ましい上限0.0030%以下)に制御した後、TiとZrを同時に添加するとよい。
この工程により、最終的に鋼板中に残留する酸化物の粒子は、Al酸化物の質量換算値の割合が20%以下、Zr酸化物の質量換算値が5%以上、Zr酸化物とTi酸化物の質量換算値の割合の合計が80%以上で、この酸化物粒子の円相当径(直径)が0.5μm〜10μmである個数密度が、10個/mm以上になることを知見した。
ここで、二次精錬は、転炉精錬後に真空精錬装置、不活性ガス中での精錬装置などによって行われる工程を示す。ZrおよびTiは単独金属または合金のいずれの形態で添加してもよい。
(E):Al
Alは、鋼板において強脱酸元素として作用するため、多量に鋼板に含有すると、ZrおよびTiの酸化物生成を阻害する。溶鋼中の溶存酸素量を確保し、ZrとTiとを含有する複合酸化物を鋼板に生成させるため、Alの含有量は0.0050質量%以下に制限することが重要である。
(F):ミクロ組織
本実施形態に係る鋼板はHAZ靱性に優れることに加え、母材靱性、母材強度、およびアレスト性に優れた鋼板を対象としている。
ここで、本明細書中において母材と称する場合、母材は、HAZと溶接金属部以外の部分を示す。
母材組織は、ベイナイトを主体とし、ベイナイト、フェライト、パーライト、MAの混合組織である。ところが、ベイナイトとフェライトとが混在する組織では、通常の光学顕微鏡による組織観察(以下、「光顕観察」と称する場合がある。)のみでは、基本組織単位を客観的に定義し、そのサイズを測定することは非常に困難である。そこで本発明者らは、光顕観察に加えて、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction pattern)を用いた結晶方位解析を行い、ミクロ組織を解析した。
より詳細には、鋼板表側から板厚方向の5mmの位置(以下、「表下5mm部」と称する場合がある。)と板厚方向の1/2位置から鋼板表面に向かって5mmの位置(以下、「t/2−5mm部」と称する場合がある。)との間の領域において、組織観察を行うための組織観察用試料を採取する。組織観察用試料は、板厚方向に5mmごとに組織観察できるように採取し、圧延方向に対して垂直な断面を切断して、鏡面研磨する。そして、ナイタール腐食を実施し、表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域を板厚方向に5mmごとに、光学顕微鏡を用いて500倍で4視野撮影し、各視野のパーライト分率を測定し、その平均値を板厚方向の各測定位置(板厚方向に5mmごとに測定した位置)でのパーライト分率とする。
さらに、レペラー腐食を実施し、表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域を板厚方向に5mmごとに、光学顕微鏡を用いて500倍で4視野撮影し、各視野のMA分率を測定し、その平均値を板厚方向の各測定位置でのMA分率とする。
フェライトは、先のEBSD法により測定した測定点同士が第一近接する場合のKAM(Kernel Average Misorientation)値が1°以下の部分とした。このフェライトの面積分率を、板厚方向の各測定位置で求めた。ベイナイト分率は、パーライト分率とフェライト分率とMA分率との残部とした。つまり、ベイナイト分率と、パーライト分率と、フェライト分率との合計は、面積率で100%である。
なお、板厚方向に5mmごとの測定位置として、鋼板表側から板厚方向の1/4位置(以下、「t/4部」と称する場合がある。)が含まれない場合、t/4部も別途、上記と同様に測定する。すなわち、表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域は、t/4部を含む、表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域であることを示す。
次に、有効結晶粒径について述べる。
鏡面研磨面を、表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域を板厚方向に5mmごとに、圧延方向に垂直な方向の断面に対し、EBSD法により、500μm×500μmの領域を1μmピッチで測定する。t/4部が含まれない場合、t/4部も別途同様に、測定する。
隣接粒との結晶方位差が15°以上の境界を結晶粒界と定義し、結晶粒界に囲まれた領域の円相当径(直径)の加重平均を、t/4部を含む表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域全体の有効結晶粒径とした。なお、加重平均は以下の方法で求めた。1つの視野にN個の結晶粒があるとし、各粒の面積がA、A、A、・・・A、・・・Aがあり、各粒の円相当径(直径)がD、D、D、・・・D、・・・Dであるとする。その場合、有効結晶粒径(Deff)は下記式(11)により求められる。
表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域の全体における有効結晶粒径の平均値(Deff)は、t/4部を含む、板厚方向の各測定位置における有効結晶粒径をDeffとし、測定した視野数をMとすると、下記式(12)で表される。なお、Deffは、式(11)により求められた値である。
表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域(t/4部を含む)での母材靱性とミクロ組織の関係を調査した結果、この領域全体における有効結晶粒径の平均値が微細化するに従って、脆性延性遷移温度(以下、「vTrs」と称する場合がある。)は低温化した。具体的には、有効結晶粒径が30μm以下の場合に、vTrsが−60℃以下になることが明らかになった。
表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域の全体における有効結晶粒径(平均値)の好ましい上限は、25μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域の全体における有効結晶粒径の平均値は、小さければ小さいほうがよく、下限値としては、特に限定されないが、例えば、5μm以上が挙げられ、さらに1μm以上が挙げられる。
母材強度とミクロ組織の関係を調査した結果、表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域(t/4部を含む)全体での平均値として、ベイナイト分率が増加し、フェライト分率が減少するに伴って、t/4部の母材強度は向上した。この点で、フェライト分率は、20%以下とする。フェライト分率は15.0%以下がよく、10.0%以下が好ましく、5.0%以下がより好ましい。フェライト分率は、0%でもよい。
一方、ベイナイト分率が80.0%未満では、この領域での母材強度が低下した。ベイナイト分率は、好ましくは85.0%以上、さらに好ましくは90.0%以上、より好ましくは95.0%以上である。ベイナイト分率は100%でもよい。ベイナイト分率増加に伴い、強度が向上し、靱性は劣化するが、この領域全体での有効結晶粒径の平均値を30μm以下にすれば、母材靱性も確保し得る。
ここで、有効結晶粒径が30μm以下であっても、上記領域におけるパーライト分率およびMA分率のうちの少なくとも一方が、1.0%超となる場合、vTrsは−60℃を超え、母材靱性を確保することが難しくなることを知見した。なお、母材靱性を確保するために、パーライト分率およびMA分率は低いほうが好ましく、これらの分率は0%でもよい。
アレスト性とミクロ組織の関係をさらに調査した結果、表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域(t/4部を含む)全体での有効結晶粒径の平均値が30μm以下で、ベイナイト分率が80.0%以上であっても、TKca6000が高温化する場合があった。
そこで、ミクロ組織のバラつきについて調査した。
その結果、表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域(t/4部を含む)において、板厚方向の各測定位置の少なくとも一部で、有効結晶粒径およびベイナイト分率のバラつきが大きいと、TKca6000が高温化する場合があることがわかった。
Kca6000を安定して、−10℃以下とするためには、板厚方向の各測定位置での有効結晶粒径(平均値)は、表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域(t/4部を含む)全体での有効結晶粒径の平均値−15μm〜前記領域全体での有効結晶粒径の平均値+15μmの範囲にする必要があることを知見した。好ましくは、前記領域全体での有効結晶粒径の平均値−10μm〜有効結晶粒径の平均値+10μmの範囲であり、より好ましくは、前記領域全体での有効結晶粒径の平均値−5μm〜有効結晶粒径の平均値+5μmの範囲である。
さらに、板厚方向の各測定位置でのベイナイト分率(平均値)は、表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域(t/4部を含む)全体でのベイナイト分率の平均値−15%〜ベイナイト分率の平均値+15%の範囲にする必要があることを知見した。好ましくは前記領域全体でのベイナイト分率の平均値−10%〜ベイナイト分率の平均値+10%の範囲であり、より好ましくは前記領域全体でのベイナイト分率の平均値−5%〜ベイナイト分率の平均値+5%の範囲である。これは、局所的に、有効結晶粒径およびベイナイト分率のバラつきが大きい領域(特に高い領域)があると、その領域が破壊の起点となるためである。
(G):鋼板の製造条件
上記のミクロ組織を形成するために、鋼板を製造するプロセスを検討した。
圧延条件とミクロ組織の関係を調査した結果、上記のミクロ組織を形成するためには以下の工程で製造することが有効であることが分かった。
スラブの加熱温度は1000℃〜1150℃とする。仕上圧延は、仕上圧延の1sec前の鋼板表面温度(以下、「圧延開始温度」と称する場合がある。)が650℃〜850℃の温度域で圧延を開始し、累積圧下率50%以上で実施する。そして、圧延完了から1sec後の温度(以下、「仕上温度」と称する場合がある。)を圧延開始温度−80℃〜圧延開始温度+80℃の範囲とする。その後、圧延後の鋼板を、650℃〜850℃の温度から水冷を開始し、表面温度が500℃以下にて水冷を停止する。これらの工程により、前述のミクロ組織が有効に得られた。
また、冷却工程の後の鋼板に、必要に応じて、さらに、400℃〜600℃の温度に再加熱してもよい。400℃〜600℃の温度に再加熱する工程を実施すると、靱性が向上する場合があるので好ましい。
なお、鋼板の特性(HAZ靱性、母材靱性、母材強度、およびアレスト性)を安定して確保するには、圧延開始温度を700℃〜800℃、仕上温度を圧延開始温度−50℃〜圧延開始温度+50℃の範囲、冷却開始温度を700℃〜800℃とすることがよい。
また、炭素当量Ceqが低い(例えば、0.45%〜0.50%)場合、スラブの加熱温度を高すぎないように抑え、さらに圧延開始温度を高めの温度とすることがよい。また、熱処理(テンパー)を施す場合は、熱処理の温度(テンパー温度)は低く抑えるか、又は熱処理をしないこと(テンパーレス)がよい。例えば、具体的には、スラブの加熱温度を1000℃〜1100℃とし、圧延開始温度を700℃〜850℃とし、熱処理をする場合は、テンパー温度を560℃以下にするとよい。
スラブの加熱温度が1000℃未満、及び圧延開始温度が650℃未満では、ベイナイト分率が80.0%未満となり、母材強度が不足した。
一方、加熱温度が1150℃超、及び圧延開始温度が850℃超では、板厚方向の各測定位置(板厚方向に5mmごとに測定した位置)の有効結晶粒径が30μm超となり、母材靱性とアレスト性が不足した。
また、仕上温度が圧延開始温度−80℃〜圧延開始温度+80℃の範囲を満たさないと、ミクロ組織の板内バラつきが大きくなり、アレスト性を安定して確保することが出来なかった。
冷却工程の後に、再加熱を実施する場合、再加熱温度が400℃未満だと母材靱性の向上が認められず、600℃超だと母材強度が低下し、母材強度を確保し難くなった。
これらの条件を満たす本実施形態に係る鋼板は、HAZ組織の微細化を通じてHAZ靱性を改善させ、かつ母材の機械的特性に優れることが明らかとなった。
さらに、本実施形態に係る鋼板の化学組成の限定理由を述べる。以下の説明において、各元素の説明における「%」は「質量%」を意味する。
(C:0.01%〜0.20%)
Cは、強度を確保するために必要な元素である。C量が0.01%未満では必要とする強度を確保することができない。しかし、C量が0.20%を超えると、母材、及びHAZ共に靱性を確保することが難しくなる。C量の好ましい下限は0.03%以上、より好ましくは0.05%以上である。好ましい上限は0.15%以下、より好ましくは0.10%以下である。
(Si:0.02%〜0.50%)
Siは、鋼板の焼入れ性を高め、鋼板の強度上昇に寄与する。この効果を得るためには0.02%以上のSiを含有させる必要がある。好ましくはSi量を0.05%以上とする。一方で、Siは酸素との反応性も高く脱酸作用を有するため、ZrとTiを含有する複合酸化物の形成に影響を及ぼす。0.50%を超えてSiを含有させた場合、酸化物の組成が変化し、HAZ組織の微細化が達成されず、HAZ靱性の低下をもたらす。より好ましいSi量の上限は0.40%以下、更に好ましい上限は0.30%以下である。
(Mn:0.30%〜2.50%)
Mnは、鋼板の焼入れ性を高める効果があり、強度及び靱性の確保に有効な成分である。Mn量が0.30%未満では、焼入れ性の不足によって強度及び靱性が得られない。しかし、2.50%を超えてMnを含有させると、凝固時のMn偏析により中心偏析部の靱性を低下させるとともに、焼入れ性が高まりすぎて母材、HAZともに硬さの増大を招き靱性が劣化する。Mn量の好ましい下限は0.60%以上、好ましい上限は2.00%以上である。
(Ti:0.003%〜0.024%)
Tiは、Zrと共に複合酸化物を形成し、この複合酸化物がHAZにおける粒内フェライト生成核として機能して、HAZ組織の微細化に寄与する。この効果を得るためには、Tiを0.003%以上含有させる必要がある。一方で、Tiは窒化物を生成するが、Ti窒化物が多量に生成するとB窒化物の生成が抑制され、本実施形態に係る鋼板で所望する効果が得られなくなる。更に、過剰なTiはTiCを形成し、母材及びHAZの靱性を劣化させる。よって、Ti量の上限を0.024%以下とする必要がある。Ti量の好ましい下限は0.005%以上、好ましい上限は0.020%以下である。
(B:0.0005%〜0.0030%)
Bは、鋼板において窒素と結合し、ZrとTiとを含有する複合酸化物の周囲にフィルム状のB窒化物を生成する。B量を0.0005%以上にすることにより、HAZにおける粒内フェライト生成能を高め、組織の微細化を通じて靱性の改善に寄与する。また、固溶Bはオーステナイト粒界に偏析することで、粒界フェライト生成を抑制し、母材強度の向上に寄与する。母材強度を確保するためには、B量は0.0010%以上が好ましい。一方、B量が過剰な場合、強度を高める効果が飽和し、母材、HAZともに靱性劣化の傾向が著しくなる。したがって、B量を0.0030%以下とする。B量の好ましい上限は0.0025%以下、より好ましくは0.0020%以下である。
(N:0.0010%〜0.0090%)
Nは、鋼板においてBと結合し、B窒化物を形成させるために必要な元素であり、このためには0.0010%以上のNを含有させる必要がある。一方、N量が過剰な場合、母材及びHAZの靱性劣化を招くため、上限を0.0090%以下とする。N量の好ましい下限は0.0020%以上、好ましい上限は0.0060%以下である。
(O:0.0010%〜0.0050%)
O(酸素)は、ZrとTiとを含有する複合酸化物の生成に不可欠な元素であり、0.0010%以上のOを含有させる必要がある。しかし、O量が過剰な場合、酸化物が過剰に生成し、鋼板の清浄性を劣化させ母材靱性及び伸び絞り等の延性に悪影響を及ぼす。このためO量の上限を0.0050%以下とする。O量の好ましい下限は0.0015%以上、好ましい上限は0.0040%以下である。
(Zr:0.0005%〜0.0100%)
Zrは酸化物の微細分散、固溶Bの増加に不可欠な元素であり、0.0005%以上含有させる必要がある。Zr酸化物、ZrとTiとの複合酸化物はHAZにおける粒内フェライト生成核として機能し、HAZ組織の微細化に寄与する。この効果を得るためには、Zrを0.0005%以上にする必要がある。好ましくは0.0010%以上、さらに好ましくは0.0015%以上とする。一方、Zrが過剰な場合、鋳造時にノズル閉塞が発生する可能性があるため、上限を0.0100%以下とする。好ましい上限は0.0050%以下、より好ましくは0.0030%以下である。
(Sol.Zr:0%〜0.0020%)
Sol.Zrは酸可溶性Zrの意で、鋼板に固溶しているZrを表わす。Sol.Zrの含有量が増えると、HAZ靱性を著しく劣化させるため、その上限を0.0020%以下に制限する必要がある。Sol.Zrの好ましい上限は0.0010質量%以下、より好ましい上限は0.0005質量%以下である。Sol.Zrは少ないほど好ましいため下限は特に規定せず、0%でもよい。Sol.Zrは、電解抽出残渣分析法によって測定することができる。電解抽出残渣分析法は、鋼板を非水溶媒中での電解によって母相を溶解させて、残渣(析出物および介在物)を孔径0.1μm〜0.2μmのフィルターで抽出し、分離する方法である。分離後、溶液に含まれるZrの量がSol.Zrである。なお、Insol.Zrは酸不溶性Zrであり、Insol.ZrとSol.Zrを足したものがZrである。
(Cu:0.1%〜1.5%)
Cuは、鋼の強度の確保に有効な元素である。Cuを含有する効果を得るためには、Cuを0.1%以上含有させる。好ましくはCu量の下限を0.2%以上とする。一方、1.5%を超えてCuを含有させても、合金コスト上昇に見合った性能の改善が見られず、鋼板表面割れの原因となる場合がある。好ましくはCu量を1.0%以下、より好ましくは0.5%以下とする。
(Ni:0.1%〜3.0%)
Niは、固溶状態において鋼のマトリックス(生地)の靱性を高めるのに有効な元素である。Niを含有する効果を得るためには、Niを0.1%以上含有させる。一方、3.0%を超えてNiを含有させても、合金コストの上昇に見合った特性の向上が得られない。好ましくはNi量を2.0%以下、より好ましくは1.5%以下とする。
(P:0.050%以下)
Pは、不純物として鋼板に不可避的に存在する。しかし、P量が0.050%を超えるとオーステナイト粒界に偏析して靱性を低下させるのみならず、溶接時に高温割れを招く原因となる。P量の好ましい上限は0.030%以下、より好ましくは0.010%以下である。P量は少ないほど好ましいため下限は特に規定しないが、製造コストの観点から、0.001%以上であってもよい。
(S:0.0080%以下)
Sは、不純物として鋼板に不可避的に存在するが、含有量が多すぎると中心偏析部において延伸したMnSが多量に生成するため、母材及びHAZにおける靱性および延性が劣化する。このためS量の上限を0.0080%以下とする。S量の好ましい上限は0.0050%以下、より好ましくは0.0040%以下、さらに好ましくは0.0030%以下である。S量は少ないほど好ましいため下限は特に規定しないが、製造コストの観点から、0.0001%以上であってもよい。
(Al:0%〜0.0050%)
Alは、一般的には、脱酸元素として、積極的に添加される元素である。しかし、Alは優先的に酸素と反応しやすいため、その含有量が過剰な場合には、所望するZrとTiを含有する複合酸化物の形成が不十分となり、HAZにおける有効なフェライト生成核が減少する。更に過剰なAl添加は、粗大なクラスター状のアルミナ(Al)系介在物の形成を助長するため、母材及びHAZの靱性を劣化させる。よって、Alの含有量はできる限り低減することが好ましい。許容できるAl量の上限値は0.0050%である。好ましくは0.0040%以下、さらに好ましくは0.0030%以下である。Alは少ないほど好ましいため下限は特に規定せず、0%でもよい。
本実施形態の鋼板には、Feの一部に代えて、下記の各元素のうちの1種または2種以上を含有してもよい。
(Nb:0%〜0.035%)
Nbは、細粒化と炭化物析出により母材の強度及び靱性を向上させるので、必要に応じて、鋼板に含有させてよい。Nbを含有する効果を有効に得るためには、Nbを0.005%以上含有させることが好ましい。一方、0.035%を超えてNbを含有させると、効果が飽和するとともに、HAZの靱性を損なう場合がある。より好ましくはNb量を0.025%以下、さらに好ましくは0.015%以下とする。
(Cr:0%〜1.0%)
Crは、耐食性を高めるとともに、焼入性を高めることで強度の向上に有用であるので、必要に応じて、鋼板に含有させてもよい。Crを含有する効果を有効に得るためには、Crを0.1%以上含有させることが好ましい。一方、1.0%を超えてCrを含有させても、耐食性を向上させる効果が飽和し、また、HAZが硬化して靱性を劣化させる場合がある。好ましくはCr量を0.5%以下とする。
(Mo:0%〜1.00%)
Moは、母材の強度と靱性を向上させる効果があるので、必要に応じて、鋼板に含有させてよい。Moを含有する効果を有効に得るためには、Moを0.01%以上含有させることが好ましい。一方、1.00%を超えてMoを含有させると、特にHAZの硬度が高まり、靱性を劣化させる場合がある。好ましくはMo量を0.50%以下、より好ましくは0.30%以下とする。
(V:0%〜0.10%)
Vは、主に焼戻し時の炭窒化物析出により母材の強度を向上させる効果があるので、必要に応じて、鋼板に含有させてもよい。Vを含有する効果を有効に得るためには、Vを0.01%以上含有させることが好ましい。一方、0.10%を超えてVを含有させると、効果が飽和するとともに、硬度が高まり、靱性劣化を招く場合がある。好ましくはV量を0.05%以下とする。
(Ca+REM[Ca及びREMの合計]:0%〜0.0005%以下)
Ca及びREMは、Alよりも更に優先的に酸素と反応しやすい元素である。Ca及びREMは鋼板において強脱酸元素として作用し、ZrおよびTiの酸化物生成を阻害するため、意図的に含有させず、可能な限り低減することが必要である。所望するZrとTiとを含有する複合酸化物を形成させるために、Ca及びREMの含有量の合計(Ca+REM)を0.0005%以下に制限する。より好ましくはCaが0.0003%未満、かつREMが0.0003%未満で、その含有量の合計が0.0005%以下である。CaとREMは少ないほど好ましいため下限は特に規定せず、0%でもよい。
ここで、「REM」とはSc、Y、及びランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量はREMのうちの1種または2種以上の元素の合計含有量を指す。
(Mg:0%〜0.0005%以下)
Mgは、優先的に酸素と反応しやすいため、その含有量が過剰な場合には、所望するZrとTiを含有する複合酸化物の形成が不十分となる。そして、HAZにおける有効なフェライト生成核が減少し、HAZの靱性を劣化させる。よって、Mgの含有量は0.0005%以下に制限する。Mgは少ないほど好ましいため下限は特に規定せず、0%でもよい。
(炭素当量Ceq.:0.45%〜0.55%)
本実施形態に係る鋼板は、下記式(3)により求められる炭素当量Ceq.を、0.45%〜0.55%とする。
Ceq.=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(3)
ここで、各成分は鋼板中に含有されている各成分の質量%である。無添加の元素(含有量が0質量%の元素)は、式(3)中の該当する元素の含有量としてゼロ(0質量%)を代入して計算する。
炭素当量が0.45%未満になると、高強度鋼板に要求される強度を満足できない。炭素当量が0.55%を超えると、焼入れ性が過剰となり継手靱性を満足できない。炭素当量の好ましい下限値は0.46%以上、より好ましい下限値は0.47%以上である。炭素当量の好ましい上限値は0.53%以下、より好ましい上限値は0.50%以下である。
本実施形態に係る鋼板は、上記の各元素を含有し、残部はFe及び不純物からなるものである。不純物とは、鋼板を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。
なお、実際の製造プロセスでは、添加した元素が100%溶鋼中に含まれることになるわけではないので、歩留まりを考慮して余分に添加する必要がある。また、添加方法については特に規定しない。上記条件を満足するように鋼板に含有できる方法であれば、どのような方法でも構わない。
鋼板の板厚としては、特に限定されないが、例えば、50mm以上であることが挙げられ、50mm〜80mmであることが挙げられる。
本実施形態に係る鋼板は、例えば、板厚が50mm以上(例えば、50mm〜80mm)のときに、以下の物性が得られる。
降伏応力が550MPa以上(例えば、550MPa〜750MPa)である。
入熱4.5kJ/mm〜6.0kJ/mmの溶接継手(例えば、多層盛溶接継手)において、レ型開先のストレート側の溶融線(以下、「FL」と称する場合がある)にノッチを導入した、試験温度−10℃で行う亀裂開口変位試験(以下、「CTOD試験」と称する場合がある。(CTOD;Crack Tip Opening Displacement))で、破壊直前の亀裂開口量(以下、「CTOD値」と称する場合がある)が0.15mm以上である。
母材の脆性延性遷移温度(vTrs)が−60℃以下である。
アレスト靱性値Kcaが6000N/mm1.5になる温度(以下、「TKca6000」と称する場合がある)が−10℃以下である。
次に、本実施形態に係る鋼板を得るための好ましい製造方法について説明する。
本実施形態に係る鋼板の好ましい製造方法は、
減圧雰囲気の二次精錬において、溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した溶鋼へ、Ti添加後Zrの順に添加、Zr添加後Tiの順に添加、または、TiとZrとを同時に添加、のいずれか一つの添加順序で、TiとZrとを添加した後、Ti及びZr添加後の溶鋼を鋳造して、鋳片を得る鋳造工程と、
前記鋳造工程後の鋼片を、1000℃〜1150℃の温度域で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後の鋼片を、650℃〜850℃の温度域で圧延を開始し、累積圧下率が50%以上、仕上圧延完了から1sec後の温度が圧延開始温度−80℃〜圧延開始温度+80℃となる圧延を実施する圧延工程と、
前記圧延工程後の鋼板を、650℃〜850℃の温度域であるときに水冷を開始し、表面温度が500℃以下の温度域で水冷を停止する冷却工程と、
を有する。なお、鋳片(鋼片)は、前述の化学組成を有する。
以下、各工程について説明する。
(鋳造工程)
本実施形態に係る鋼板を得るには、前述のように、脱酸開始前の溶存酸素量を制御する。
具体的には、減圧雰囲気の二次精錬において、溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した溶鋼に、TiとZrとを添加する。TiとZrとを添加する順序は特に限定されない。
例えば、TiとZrとを添加する順序は、Ti添加後Zrを添加する順序の場合、溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した溶鋼へTiを添加し、Ti添加後の溶鋼中の溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した後、Zrを添加する。
また、TiとZrとを添加する順序が、Zr添加後Tiを添加する順序の場合、溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した溶鋼へZrを添加し、Zr添加後の溶鋼中の溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%以下に調整した後、Tiを添加する。
さらに、TiとZrとを添加する順序が、TiとZrとを同時に添加する順序の場合、溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%調整した溶鋼に、TiとZrを同時に添加する。
なお、二次精錬を行う方法は、特に限定されないが、例えば、RH(Ruhrstahl−Heraeus)による方法が挙げられる。
鋳片(鋼片)を得る方法としては、例えば、次にようにして得る方法が挙げられる。
例えば、転炉精錬後に、真空精錬装置または不活性ガス中での精錬装置によって行われる減圧雰囲気下の二次精錬において、溶鋼の溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%の範囲に調整する。その後、TiとZrとを所定の順序で添加し、前述の化学組成となるように溶鋼を調整する。そして、連続鋳造等により鋳片(鋼片)を得る。
なお、前述の各元素の添加方法については、化学組成が上記条件を満足するように鋼板に含有できる方法であれば、特に限定されるものではない。
続いて、本実施形態に係る鋼板を製造するための各工程の好適な条件について説明する。
(加熱工程)
まず、上記に説明した所定の化学組成を有する鋼片を1000℃〜1150℃で加熱し、その加熱温度で一定時間保持する。保持時間は微量合金元素(例えば、Nbを含む場合はNb)を均一に固溶すればよく、特に規定はしないが、例えば、30分〜500分の間で行うことがよい。なお、保持時間とは設定した炉温に対して、20℃低い温度に達してから抽出するまでの時間とする。また、加熱温度とはその間の平均温度と定義する。
なお、炭素当量Ceqが上記範囲の中でも低い(例えば、0.45%〜0.50%)場合、スラブの加熱温度を、例えば1000℃〜1100℃の範囲とすることで、アレスト性が安定して確保し得る。
(圧延工程)
次に、加熱工程を経た後の鋼片に圧延を行う。まず、加熱で生成したγ粒(オーステナイト粒)を再結晶により効果的に微細化するため、鋼片に粗圧延を行う。粗圧延は、900℃以上の温度域で圧延を行うとよい。
粗圧延を施した後、引き続き、鋼板に仕上圧延を行う。この工程は、有効結晶粒径、ベイナイト分率を決める重要な工程である。
仕上圧延は、仕上圧延の1sec前の鋼板表面温度(圧延開始温度)が650℃〜850℃の温度域で圧延を開始する。そして、この温度域で、圧下率50%以上、圧延完了から1sec後の温度(仕上温度)が圧延開始温度−80℃〜圧延開始温度+80℃となるように仕上圧延を実施する。
圧延開始温度の下限は、好ましくは680℃以上、より好ましくは700℃以上である。圧延開始温度の上限は、好ましくは830℃以下、より好ましくは800℃以下である。圧延開始温度が650℃以上であると強度を確保しやすくなり、850℃以下であるとアレスト性および母材靱性を確保しやすくなる。
なお、炭素当量Ceqが上記範囲の中でも低い場合(例えば、0.45%〜0.50%)、圧延開始温度の温度域を高めの範囲(好ましくは、700℃〜850℃)を選択すると、本実施形態に係る鋼板が得られ易くなる。
仕上温度の好ましい範囲は、圧延温度−50℃〜圧延温度+50℃の範囲、より好ましい範囲は、圧延温度−40℃〜圧延温度+40℃の範囲である。
圧下率の下限は、好ましくは55%以上、より好ましくは57%以上、さらに好ましくは60%以上である。上限は特に制限はないが、冷却開始温度が低温となりすぎることを防ぐために、圧下率は80%以下とすることがよい。
なお、圧延工程における圧下率は、仕上圧延における累積圧下率を表す。累積圧下率とは、所定の温度範囲にある複数パスにおいて、(最初のパスの入側板厚−最後のパスの出側板厚)/最初のパスの入側板厚)×100(%)で表される。
(冷却工程)
仕上圧延完了後は、板表面温度が650℃〜850℃の温度から水冷を開始し、表面温度が500℃以下にて水冷を停止する。
冷却開始温度が650℃以上であると母材強度が確保しやすくなる。仕上圧延を行う温度(仕上圧延温度)が850℃以下であると、仕上圧延温度が高くなりすぎず、母材靱性を確保しやすくなる。
冷却停止温度が500℃以下であると、強度が確保しやすくなり、有効結晶粒径が微細化されやすくなる。又はパーライトが1.0%以下の範囲で生成することで、アレスト性が確保しやすくなる。
以上の製造方法により、本実施形態に係る鋼板が得られる。
(熱処理工程)
本実施形態に係る鋼板の好ましい製造方法は、さらに、冷却工程後の鋼板に、400℃〜600℃の温度で再加熱する熱処理工程を有していてもよい。
熱処理工程は、鋼板の強度および靱性を調整するために、冷却工程を経た鋼板に対して、再加熱(焼戻し熱処理)を行う工程である。再加熱温度が400℃以上であると、延性および靱性が改善されやすくなり、600℃以下であると、アレスト性の低下が抑制され得る。なお、炭素当量Ceqが上記範囲の中でも低い場合(例えば、0.45%〜0.50%)、熱処理を行う場合は、熱処理温度(テンパー温度)を低めの範囲(例えば、560℃以下)を選択すると、本実施形態に係る鋼板が得られ易くなる。また、この場合、熱処理を行わなくても、本実施形態に係る鋼板が得られ易くなる。
なお、本実施形態に係る鋼板の製造方法は、上述の製造方法に限定されない。鋼板の製造方法が上述以外の製造方法であっても、その鋼板が規定範囲内にあれば、その鋼板は、本実施形態に係る鋼板の範囲に包含されると見なされる。
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前記または後記した趣旨に適合し得る範囲で適用に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に含まれる。
表1、表2に鋼板の化学成分を示す。ここで、Sol.Zrは酸可溶性Zrで、電解抽出残渣分析法によって、鋼を非水溶媒中での電解によって母相を溶解させて、残渣(析出物および介在物)を孔径0.1μmのフィルターで抽出して分離し、分離後の溶液に含まれるZrの量を測定したものである。表1中の、Sol.Zrが「−」である所は、電解抽出残渣分析法によりSol.Zrが測定されなかったことを示す。そして、Insol.Zrは酸不溶性Zrで、ZrからSol.Zrを引き算することにより求めることができる。BasBNは式(2)により求め、Bは式(1)により求め、Ceq.は式(3)により求めた。
表3、表4に、RH真空精錬設備でのTi添加1分前の溶存酸素量、Zr添加3分前の溶存酸素量、TiとZrの同時添加3分前の溶存酸素量、Ti、Zrの添加順序、加熱条件、圧延条件、冷却条件、熱処理条件(テンパー温度)を示す。
なお、表3、表4中、「Ti、Zr添加順序欄」において、Ti、Zrは、Tiの次にZrを添加した場合、Zr、Tiは、Zrの次にTiを添加した場合、同時添加は、ZrとTiを同時に添加した場合を示している。
表5、表6に板厚、有効結晶粒径、ベイナイト分率、フェライト分率、パーライト分率、MA分率を示す。有効結晶粒径およびベイナイト分率は、それぞれ、表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域全体での平均値、並びに前記領域での板厚方向の各測定位置における平均値のうちの最大値および最小値を示す。さらに、これら平均値、最大値および最小値から算出した、最大値−平均値、平均値−最小値を示す。
また、Al酸化物の質量換算値の割合が20%以下、Zr酸化物の質量換算値の割合が5%以上、及びZr酸化物とTi酸化物の質量換算値の割合の合計が80%以上を満足する、円相当径が0.5μm〜10μmの酸化物の個数密度を示す。
そして、母材靱性、母材強度、溶接条件(入熱)、およびHAZ靱性を示す。
表5、表6中、「表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域」は、鋼板表側から板厚方向の5mmの位置と板厚方向の1/2位置から鋼板表面に向かって5mmの位置との間の領域を示す。
鋼1〜鋼20が実施例、鋼21〜鋼48が比較例である。
鋼は、400トン転炉溶製し、RH(Ruhrstahl−Heraeus)による2次精錬の真空脱ガス処理時に脱酸を行った。表3、表4に示す値となるように、Ti、Zr投入前に溶存酸素を調整し、その後、Ti、Zrを添加し脱酸を行い、連続鋳造により280mm〜360mm厚鋳片に鋳造した。その後、表3、表4に示す条件で、加熱、圧延、及び冷却の各工程を経て、板厚50mm〜80mmの鋼板として製造した。その後、材質調整のため、必要に応じて熱処理を実施した。熱処理時のテンパー温度は、400℃から600℃の間の条件で行った。溶接条件の入熱は、5.0kJ/mmである。
有効結晶粒径、ベイナイト分率、フェライト分率、パーライト分率およびMA分率は以下の手順により測定した。
まず、有効結晶粒径の測定方法を述べる。鋼板の幅中央、表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域を、板厚方向に5mmごとに組織観察できるように試料を採取し、その圧延方向に垂直な面を鏡面研磨する。なお、前記の採取要領で、鋼板の板厚1/4部(以下、「t/4部」と称する場合がある。)が含まれない場合は、別途t/4部からも組織観察用の試料を採取し、圧延方向に垂直な面を鏡面研磨する。その鏡面研磨面を、表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域を板厚方向に5mmごとの圧延方向に垂直な面に対し、EBSD法により、500μm×500μmの領域を1μmピッチで測定した。隣接粒との結晶方位差が15°以上の境界を結晶粒界と定義し、結晶粒界に囲まれた領域の円相当径(直径)の加重平均を、それぞれの部位の有効結晶粒径とした。加重平均は、既述の式(11)により求めた。
パーライト分率は、鋼板の幅中央、表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域を、板厚方向に5mmごとに組織観察できるように試料を採取し、その圧延方向に垂直な面を鏡面研磨した。なお、前記の採取要領で、鋼板の板厚1/4部(以下、「t/4部」と称する場合がある。)が含まれない場合は、別途t/4部からも組織観察用の試料を採取し、その圧延方向に垂直な面を鏡面研磨した。その鏡面研磨面を、ナイタール腐食し、光学顕微鏡を用いて、500倍の倍率で4視野撮影し、各視野のパーライト分率を求め、その平均値をパーライト分率とした。なお、1つの視野の大きさは、200μm×200μmとした。また、パーライトは、ナイタール腐食した際、塊状の黒色に見えるものとし、画像解析を行うことによって求めた。
MA分率は、前記鏡面研磨面を、レペラー腐食し、光学顕微鏡を用いて、500倍の倍率で4視野撮影し、各視野のパーライト分率を求め、その平均値をパーライト分率とした。なお、1つの視野の大きさは、200μm×200μmとした。また、MAは、レペラー腐食した際、塊状の白色に見えるものとし、画像解析を行うことによって求めた。
フェライトは、先のEBSD法により測定した測定点同士が第一近接する場合のKAM(Kernel Average Misorientation)値が1°以下の部分とした。このフェライトの面積分率を、表下5mm部からt/2−5mm部の間の領域を板厚方向に5mmごとに対して求めた。t/4部が含まれない場合は、別途t/4部の試料調整も行い、前記の方法でフェライト分率を求めた。
ベイナイト分率は、パーライト分率、MA分率およびフェライト分率の残部とした。
介在物調査は以下の手順により測定した。まず、鋼板の幅中央、板厚方向のt/4位置から板厚方向12mm×板幅方向12mm×圧延方向70mmの熱サイクル試験片を採取した。次に、1400℃に23秒間加熱保持した後、冷速1℃/secの条件で冷却した鋼板の圧延方向と垂直な方向の断面を研磨した。鏡面研磨ままの熱サイクル試験片表面をJEOL製「JXA−8530F」を用いて、SEM/EDX(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)により測定した。観察条件は、加速電圧15kV、電流を89μA〜91μA、観察視野面積を90mm〜100mm、分析個数を500個以上とした。分析対象元素は、O、Ti、Zr、Alとした。
図1に観察結果の一例を示す。図1中、12は観察した介在物である。表7に、介在物を分析した際の対象元素毎の質量%を示す。なお、O、Ti、Zr、Alの質量%を合計すると100%となる。ここで、Oの質量%が1.0質量%以上の介在物を酸化物とした。そして、これらの元素による単独酸化物、Ti、ZrO、Al、を仮定したときの各元素の酸化物の質量換算値を下記式(5)〜下記式(7)から算出する。
Ti=Ti×3.003・・・(5)
ZrO=Zr×1.351・・・(6)
Al=Al×3.779・・・(7)
これらの合計に対して、Al(Al酸化物)の含有割合(%)が20%以下、すなわち、ZrO(Zr酸化物)とTi(Ti酸化物)の含有割合(%)の合計が80%以上を満足する酸化物で、この酸化物の円相当径が0.5μm以上10μm以下である酸化物の個数密度を求めた。
Tiの含有割合(%)=Ti/(Ti+ZrO+Al)・・・(8)
ZrOの含有割合(%)=ZrO/(Ti+ZrO+Al)・・・(9)
Alの含有割合(%)=Al/(Ti+ZrO+Al)・・・(10)
この計算結果を、表8に示す。
母材靱性は、JIS Z 2242(2005)に準拠し、板厚方向のt/4位置で、圧延方向に対して平行方向から2mmVノッチシャルピー試験片を採取した。試験片を0℃〜−140℃の範囲で、試験を3回ずつ実施して、脆性延性遷移温度(vTrs)を求めた。vTrsが−60℃以下のものを母材靱性に優れるとした。
母材強度は、JIS Z 2241(2011)に準拠し、板厚方向のt/4位置で、圧延方向に対して垂直方向から引張試験片を採取た。引張試験片の各2本を試験測定し、その平均値を求めた。引張試験片は、JIS Z 2241(2011)の4号試験片とした。
HAZ靱性は、ISO 15653(2010)に準じて評価した。まず、溶接方向が幅方向に対して平行になるように(圧延方向と直角な方向になるように)試験片を採取し、開先角度が30°のレ型開先を付与し、ギャップ10mmで組み立て、溶接ワイヤ:Y−DM3(日鐵住金溶接工業社製)、溶接フラックス:NB−60Lを用いて、溶接入熱5.0kJ/mmのサブマージアーク溶接で多層盛溶接を行って溶接継手を作製した。そして、ISO 15653(2010)に準じて、レ型開先のストレート側の溶融線を3点曲げCTOD試験片のノッチ位置とするCTOD試験片を採取し、−10℃におけるCTOD値(開口変位δ−10)を測定した。前記試験は、3本行い、δ−10の最小値が0.15mm以上のものを、溶接継手のHAZ靱性に優れるとした。表では、δ−10の最小値を記載した。
アレスト性評価のため、日本溶接協会規格 WES 2815(2014)「ぜい性亀裂アレストじん性試験方法」に基づいて、全厚試験片(大きさ:t(板厚)×500mm×500mm)を用いて、温度勾配型ESSO試験を行った。アレスト靱性値Kcaが6000N/mm1.5になる温度、すなわちTKca6000を求めた。そして、TKca6000が−10℃以下のものをアレスト性に優れると評価した。
表1〜6から明らかなように、鋼1〜鋼20は優れたHAZ靱性を有している。また、HAZと溶接金属部以外の部分である母材において優れた機械的特性を有している。
一方、比較例の鋼21〜鋼48は、本実施形態に係る鋼板で規定される範囲を外れるものであるため、HAZ靱性が劣位であった。また、優れたHAZ靱性を有しているものでも、HAZと溶接金属部以外の部分である母材における機械的特性が劣位であった。
本実施形態に係る鋼板は、高強度、かつ、母材靱性、アレスト性、および溶接熱影響部靱性に優れているので、安全性が向上するとともに、鋼板を薄肉化することが可能であるので、溶接構造物の建設費用を飛躍的に低減することが可能となる。

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.01%〜0.20%、
    Si:0.02%〜0.50%、
    Mn:0.30%〜2.50%、
    Ti:0.003%〜0.024%、
    B:0.0005%〜0.0030%、
    N:0.0010%〜0.0090%、
    O:0.0010%〜0.0050%、
    Zr:0.0005%〜0.0100%、
    Sol.Zr:0%〜0.0020%、
    Cu:0.1%〜1.5%、
    Ni:0.1%〜3.0%、
    Al:0%〜0.0050%、
    P:0.050%以下、
    S:0.0080%以下、
    Nb:0%〜0.035%
    Cr:0%〜1.0%、
    Mo:0%〜1.00%、
    V :0%〜0.10%
    Mg:0%〜0.0005%
    Ca+REM:0%〜0.0005%、並びに、
    残部:Fe及び不純物からなる化学組成を有し、
    下記式(1)で表されるBが0.0005%〜0.0030%であり、
    下記式(2)で表されるBasBNが0%以下であり、
    下記式(3)で表されるの炭素当量Ceq.が0.45%〜0.55%であり、
    圧延方向に垂直な断面の電子線後方散乱回折法(EBSD)を用いた結晶方位解析において、鋼板表側から板厚方向の5mmの位置と板厚方向の1/2位置から鋼板表面に向かって5mmの位置との間の領域全体での有効結晶粒径の平均値が30μm以下であり、
    前記領域での板厚方向の各測定位置における有効結晶粒径の平均値が、前記領域全体での有効結晶粒径の平均値−15μm〜前記領域全体での有効結晶粒径の平均値+15μmの範囲を満足し、
    前記領域全体でのミクロ組織が、面積率の平均値にして、ベイナイト分率が80.0%〜100.0%、フェライト分率が0%〜20.0%、パーライト分率が0%〜1.0%、MA分率が0%〜1.0%以下であり、
    前記領域での板厚方向の各測定位置におけるベイナイト分率が、前記領域全体でのベイナイト分率の平均値−15%〜前記領域全体でのベイナイト分率の平均値+15%の範囲を満足し、
    板厚方向の1/4位置で解析される酸化物は、酸化物中のO量、Ti量、Zr量、およびAl量の測定値から求められる、Ti、Zr、およびAlの元素による単独酸化物と仮定したときの前記Ti、前記Zr、および前記Alの各元素の酸化物の質量換算値の合計に対する、Al酸化物の質量換算値の含有割合が20%以下、Zr酸化物の質量換算値が5%以上、およびZr酸化物とTi酸化物の質量換算値の合計が80%以上を満足し、円相当径が0.5μm〜10μmの個数密度が10個/mm以上の酸化物である鋼板。

    (ただし、式(1)中、BasBNは下記式(2)で表わされる。また、Bは、鋼板に含まれる前記B元素の含有量(質量%)であり0≦B≦Bの関係を満たす。)

    (ただし、式(2)中、0≦BasBN≦B(BasBN<0の場合、BasBN=0とする)、0≦Insol.Zrの関係を満たし、N、Ti、O、及びAlは、鋼板に含まれる各元素の含有量(質量%)であり、Insol.Zrは、酸不溶性Zrの含有量(質量%)であることを示す。)
    Ceq.=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(3)
    ただし、式中のC、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、鋼板に含まれる各元素の含有量(質量%)である。
  2. 板厚が50mm以上であり、溶接熱影響部および溶接金属部以外の部分である、母材の降伏応力が550MPa以上であり、かつアレスト靱性値Kcaが6000N/mm1.5になる温度が−10℃以下であり、入熱4.5kJ/mm〜6.0kJ/mmで溶接を行ったときに発生する溶接熱影響部を、試験温度−10℃で行う亀裂開口変位試験で、破壊直前の亀裂開口量が0.15mm以上である請求項1に記載の鋼板。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の鋼板を製造する方法であって、
    減圧雰囲気の二次精錬において、溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した溶鋼へ、Ti添加後Zrの順に添加、Zr添加後Tiの順に添加、または、TiとZrとを同時に添加、のいずれか一つの添加順序で、TiとZrとを添加した後、Ti及びZr添加後の溶鋼を鋳造して、鋳片を得る鋳造工程と、
    前記鋳造工程後の鋼片を、1000℃〜1150℃の温度域で加熱する加熱工程と、
    前記加熱工程後の鋼片を、650℃〜850℃の温度域で圧延を開始し、累積圧下率が50%以上、仕上圧延完了から1sec後の温度が圧延開始温度−80℃〜圧延開始温度+80℃となる圧延を実施する圧延工程と、
    前記圧延工程後の鋼板を、650℃〜850℃の温度域であるときに水冷を開始し、表面温度が500℃以下の温度域で水冷を停止する冷却工程と、
    を有する鋼板の製造方法。
  4. 請求項1又は請求項2に記載の鋼板を製造する方法であって、
    減圧雰囲気の二次精錬において、溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した溶鋼へTiを添加し、Ti添加後の溶鋼中の溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した後、Zrを添加し、Ti及びZr添加後の溶鋼を鋳造して、鋳片を得る鋳造工程と、
    前記鋳造工程後の鋼片を、1000℃〜1150℃の温度域で加熱する加熱工程と、
    前記加熱工程後の鋼片を、650℃〜850℃の温度域で圧延を開始し、累積圧下率が50%以上、仕上圧延完了から1sec後の温度が圧延開始温度−80℃〜圧延開始温度+80℃となる圧延を実施する圧延工程と、
    前記圧延工程後の鋼板を、650℃〜850℃の温度域であるときに水冷を開始し、表面温度が500℃以下の温度域で水冷を停止する冷却工程と、
    を有する鋼板の製造方法。
  5. 請求項1又は請求項2に記載の鋼板を製造する方法であって、
    減圧雰囲気の二次精錬において、溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した溶鋼へZrを添加し、Zr添加後の溶鋼中の溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した後、Tiを添加し、Ti及びZr添加後の溶鋼を鋳造して、鋳片を得る鋳造工程と、
    前記鋳造工程後の鋼片を、1000℃〜1150℃の温度域で加熱する加熱工程と、
    前記加熱工程後の鋼片を、650℃〜850℃の温度域で圧延を開始し、累積圧下率が50%以上、仕上圧延完了から1sec後の温度が圧延開始温度−80℃〜圧延開始温度+80℃となる圧延を実施する圧延工程と、
    前記圧延工程後の鋼板を、650℃〜850℃の温度域であるときに水冷を開始し、表面温度が500℃以下の温度域で水冷を停止する冷却工程と、
    を有する鋼板の製造方法。
  6. さらに、前記冷却工程後の鋼板を、400℃〜600℃の温度に再加熱する熱処理工程を有する請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載の鋼板の製造方法。
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