以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
また、符号「−」および「+」は、導電型がn型またはp型の不純物の相対的な濃度を表しており、例えばn型不純物の場合は、「n−−」、「n−」、「n」、「n+」、「n++」の順に不純物濃度が高くなる。
以下の実施の形態でいう基板は、エピタキシャル層を含まない半導体基板を意味する場合と、半導体基板と当該半導体基板上のエピタキシャル層とを含む積層構造を有する基板を意味する場合とがある。以下の実施の形態で単に「SiC基板」、「半導体基板」または「SiC半導体基板」という場合には、これらの基板は、エピタキシャル層を含まない基板を意味する。これに対し、以下の実施の形態で単に「炭化ケイ素積層基板」という場合には、この基板は、半導体基板および当該半導体基板上のエピタキシャル層とを含む積層基板を意味する。
(実施の形態)
<炭化ケイ素積層基板および半導体チップの構成>
以下、一実施の形態の炭化ケイ素積層基板40を用いた半導体チップCHP1の構造について、図1〜図3を用いて説明する。図1は、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40を用いた半導体チップCHP1の平面図である。図2は、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40を用いた半導体チップCHP1の平面図であって、図1に示す構成よりも上層に形成されたパッドを含む層を示すものである。図3は、図1のA−A線における断面図である。
図1に示すように、半導体チップCHP1は、図3に示すSiC基板(半導体基板)SB1と、SiC基板SB1の主面側に形成されたドリフト層(半導体層、エピタキシャル層)EP1と、を有している。
図1では、主にドリフト層EP1の上面を示しており、ドリフト層EP1上のゲート絶縁膜、ゲート電極、層間絶縁膜、シリサイド層、コンタクトプラグ、パッシベーション膜およびパッドなどの図示を省略している。図1には、ドリフト層EP1の上面と、前記上面に形成された各種の半導体領域とを示している。
図3には、図1のA−A線の断面図であって、SiCMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-effect Transistor)を含む半導体チップCHP1の中心部の素子領域(活性領域)65(図1参照)の構造を示している。すなわち、図3の断面図は、半導体チップCHP1における素子領域(活性領域)65の複数のSiCMOSFET(以下、単にMOSFETという場合がある)の断面を示すものである。
図3に示すように、本実施の形態の半導体チップCHP1を構成する炭化ケイ素積層基板40は、SiC基板SB1と、SiC基板SB1上に形成されたバッファ層(半導体層、エピタキシャル層)BF1と、バッファ層BF1上に形成されたドリフト層EP1と、を有する積層構造として構成されている。バッファ層BF1およびドリフト層EP1は、いずれもSiCからなるn型の半導体により構成されている。すなわち、SiC基板SB1と、SiC基板SB1上の各エピタキシャル層(バッファ層BF1およびドリフト層EP1)との導電型(第1導電型)は、n型である。SiC基板SB1、バッファ層BF1およびドリフト層EP1は、n型不純物(例えば、窒素(N)またはリン(P))を含んでいる。以下、SiC基板SB1、バッファ層BF1およびドリフト層EP1のそれぞれの不純物濃度といった場合には、いずれもn型不純物の濃度を意味する。図3ではp型が第2導電型に相当する。
SiC基板SB1は、n型の不純物が比較的高い濃度で導入されたn++型の六方晶系半導体基板である。このn型不純物は、例えばN(窒素)であり、このn型不純物の不純物濃度は、例えば1×1018cm−3〜1×1019cm−3である。SiC基板SB1の主面は、例えば<11−20>方向に4〜8度傾斜した{0001}面である。ドリフト層EP1は、SiC基板SB1よりも不純物濃度が低いSiCからなるn−−型の半導体層である。ドリフト層EP1の不純物濃度および膜厚は、ドリフト層EP1の上部に形成されるパワーデバイスの仕様により任意に設定可能である。ドリフト層EP1の膜厚は、例えば3〜80μmである。ドリフト層EP1の不純物濃度は、例えば、1×1014〜5×1016cm−3である。また、バッファ層BF1は、SiC基板SB1よりも不純物濃度が低く、ドリフト層EP1よりも不純物濃度が高いSiCからなるn+型の半導体層である。バッファ層BF1の膜厚は任意に設定可能であり、例えば0.5〜8μmである。
詳細は後述するが、図20に示すように、SiC基板SB1は不純物濃度の面内分布(面内濃度分布)を有している。そして、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部の不純物濃度の面内分布は、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部の不純物濃度の面内分布と一致している。以下、「面」とは、SiC基板の主面と平行な面であって、炭化ケイ素積層基板(SiC基板、バッファ層およびドリフト層)内の任意の面をいう。また、「端部」は、厚さ方向における端部を指す。
なお、半導体チップCHP1を構成する炭化ケイ素積層基板40とは、ダイシング(個片化)される前の円板状の炭化ケイ素積層基板40のみを意味するのではなく、炭化ケイ素積層基板40上に素子が形成された後にダイシング(個片化)工程を行い、その結果得られた半導体チップCHP1に含まれる炭化ケイ素積層基板40をも意味する。
図1に示すように、半導体チップCHP1の素子領域65において、ドリフト層EP1の上面には、複数のnチャネル型のMOSFETがセル構造として形成されている。これらのMOSFETを構成するゲート電極(図示せず)およびソース領域81への電位の供給に用いられる各パッドが、図2に示されている。
図2に示すように、半導体チップCHP1の上面には、外部の制御回路(図示せず)からゲート電圧が印加されるゲートパッド61が形成されている。ゲートパッド61は、前記MOSFETを構成するゲート電極92(図3参照)に電気的に接続されている。また、半導体チップCHP1に形成された複数のMOSFETのそれぞれのソース領域は、電気的に並列に接続されており、ソースパッド62に接続されている。すなわち、1個のソースパッド62が、複数のソース領域に電気的に接続されている。
図1に示す半導体チップCHP1の中央部の素子領域(活性領域)65には、MOSFETの最小単位構造となるユニットセル70が複数個配置されている。各ユニットセル70のゲート電極(図示せず)には、図2に示すゲートパッド61に印加されるゲート電圧が、ゲートパッド61を通じて供給される。なお、図2に示すゲートパッド61の位置並びに個数、またはソースパッド62の形状などは、多種多様なものがあり得るが、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40の効果に影響を及ぼすものではない。
図1に示すように、半導体チップCHP1は平面視において矩形の形状を有している。平面視において、半導体チップCHP1の中央部には素子領域65が存在し、素子領域65を取り囲むように周縁領域66およびターミネーション領域67が存在する。すなわち、平面視において、半導体チップCHP1を構成するSiC基板(半導体基板)上のドリフト層EP1の上面の中央部から、ドリフト層EP1の上面の端部に向かって、順に素子領域65、周縁領域66およびターミネーション領域67が存在する。
なお、周縁領域66は、ターミネーション領域67に形成されたJTE(Junction Termination Extension)領域85に電位を供給するための給電部である。周縁領域66およびターミネーション領域67のそれぞれは、矩形の半導体チップCHP1の各辺に沿って延在する環状構造を有している。JTE領域85は、ドリフト層EP1の上面に形成されたp型の半導体領域である。
周縁領域66に囲まれた領域である素子領域65には、ウェル領域80、ソース領域81および第1コンタクト領域82からなるユニットセル70が複数配置されている。ユニットセル70は、MOSFETの最小単位構造である。ドリフト層EP1の上面において、複数のユニットセル70は互いに離間している。平面視において、それぞれのユニットセル70内には、第1コンタクト領域82を中心として、その周囲にソース領域81およびウェル領域80が順に配置されている。
すなわち、平面視において、第1コンタクト領域82の外側を囲むようにソース領域81が形成され、さらにソース領域81の外側を囲むようにウェル領域80が形成されている。平面視において、第1コンタクト領域82、ソース領域81およびウェル領域80はいずれも矩形の構造を有している。
第1コンタクト領域82およびソース領域81は互いに隣接しており、第1コンタクト領域82およびソース領域81の境界上を跨がるように、第1コンタクト領域82およびソース領域81の上面にシリサイド層95(図3参照)が形成されている。
ここでは、ユニットセル70を平面視において正四角形の構造を有するものとして示しているが、これに限らず、例えばユニットセル70の形状は長方形または多角形などでもよい。また、図1ではユニットセル70を5個のみ示しているが、実際には素子領域65内において、より多数のユニットセル70が配置されている。
また、ここでは複数のユニットセル70を、半導体チップCHP1の端部の平行する2辺に平行な第1方向に並べて配置し、そのようにして設けた列を、第1方向に直交する第2方向において複数配置している。さらに、第2方向において隣り合う列同士のユニットセル70を、第1方向において半周期ずらして互い違いに配列している。しかし、これに限らず、縦横において等ピッチで複数のユニットセル70を配置してもよい。すなわち、複数のユニットセル70はマトリクス状に配置されていてもよい。
また、周縁領域66内において、ドリフト層EP1の上面に環状の第2コンタクト領域83が形成されている。ここでいう周縁領域66は、平面視において第2コンタクト領域83と重なる領域を指す。すなわち、周縁領域66のレイアウトは、第2コンタクト領域83の形成領域により規定されている。第2コンタクト領域83は、ドリフト層EP1の上面に形成されたp+型の半導体領域である。第2コンタクト領域83は、ターミネーション領域67の電位固定のために形成された領域であり、また、JTE領域85に電位を供給するための領域である。
第2コンタクト領域83を介してJTE領域85に電位を印加することによって、逆方向電圧印加時の終端領域での電界集中を緩和し、半導体チップの耐圧を高く維持することができる。ここでは、半導体チップのターミネーション構造として、JTE領域を形成した構造について説明したが、半導体チップの電界を緩和するためにターミネーション構造は、例えば平面視において素子領域を環状に囲むp型の半導体領域を複数有するFLR(Field Limiting Ring)構造などであってもよい。
また、図3に示すように、半導体チップCHP1(図1参照)の主面の反対側の裏面側には、前記MOSFETのドレイン配線用電極90が形成されている。具体的には、SiC基板SB1の裏面には、SiC基板SB1よりも不純物濃度が高いn型の半導体領域であるドレイン領域84が形成されており、ドレイン領域84の底面に接して、第3シリサイド層100が形成されている。すなわち、SiC基板SB1の裏面は第3シリサイド層100に覆われている。第3シリサイド層100の底面、すなわちSiC基板SB1側と逆側の面は、ドレイン配線用電極90により覆われている。
素子領域65では、ドリフト層EP1の上面から所定の深さで、p型の半導体領域であるウェル領域80が複数形成されている。ウェル領域80は、p型不純物(例えばアルミニウム(Al)またはホウ素(B))が導入された半導体領域である。各ウェル領域80内には、ドリフト層EP1の上面から所定の深さで、n+型の半導体領域であるソース領域81が形成されている。ソース領域81は、n型不純物(例えば窒素(N)またはリン(P))が導入された半導体領域である。
また、各ウェル領域80内には、ドリフト層EP1の上面から所定の深さで、p+型の半導体領域である第1コンタクト領域82が形成されている。第1コンタクト領域82はウェル領域の電位を固定するために設けられた領域であり、ソース領域81とほぼ同様の深さを有している。第1コンタクト領域82は、p型不純物(例えばアルミニウム(Al)またはホウ素(B))が導入された半導体領域である。第1コンタクト領域82は、隣接するソース領域81により両側から挟まれるように配置されている。また、第1コンタクト領域82の底部、並びにソース領域81の底部および側面は、ウェル領域80に覆われている。
ドリフト層EP1の上面には、ウェル領域80、ソース領域81および第1コンタクト領域82からなるユニットセル70が複数形成されており、ユニットセル70同士は互いに離間している。隣り合うユニットセル70同士の間のドリフト層EP1上には、ゲート絶縁膜91を介してゲート電極92が形成されており、ゲート絶縁膜91の端部の上面、ゲート電極92の側面および上面は、層間絶縁膜93により覆われている。各ゲート電極92を覆う層間絶縁膜93同士の間の開口部68において、第1コンタクト領域82およびソース領域81は、ゲート絶縁膜91、ゲート電極92および層間絶縁膜93に覆われていない。すなわち、ゲート絶縁膜91、ゲート電極92および層間絶縁膜93はユニットセル70の上面に達する開口部68を有しており、開口部68の底部では、第1コンタクト領域82およびソース領域81が露出している。
図1に示す素子領域65で、図3における層間絶縁膜93の開口部68、すなわちコンタクトホール内の底部で露出するソース領域81の一部および第1コンタクト領域82のそれぞれの上面上には、シリサイド層95が形成されている。ソース領域81の一部および第1コンタクト領域82に接するシリサイド層95上の開口部68には、接続部であるコンタクトプラグ94が埋め込まれている。複数の開口部68に埋め込まれた複数のコンタクトプラグ94のそれぞれは、層間絶縁膜93を被覆するように形成されたソース配線用電極96と一体となっている。ソース配線用電極96は、ソースパッド62(図2参照)に電気的に接続されている。ここでは、図1に示すターミネーション領域67の上部を覆うパッシベーション膜(図示せず)から露出するソース配線用電極96の上面自体がソースパッド62を構成している。
ソース領域81の一部および第1コンタクト領域82は、シリサイド層95を介して、コンタクトプラグ94に対しオーム性接触となるように電気的に接続されている。よって、ソース領域81の一部および第1コンタクト領域82は、シリサイド層95、コンタクトプラグ94、およびソース配線用電極96を介して、ソースパッド62に接続されている。同様に、ゲート電極92には、図示しない領域において他のコンタクトプラグが接続され、ゲート電極92は、他のコンタクトプラグおよびゲート配線用電極(図示せず)を介してゲートパッド61(図2参照)に電気的に接続されている。
本実施の形態の半導体チップに形成されたMOSFETは、少なくともゲート電極92と、ソース領域81と、ドレイン領域84を有している。MOSFETを動作させる際には、ゲート電極92に所定の電圧を印加してMOSFETをオンさせることで、電位の高いドレインから電位の低いソースに電流を流す。前記MOSFETのチャネル領域は、p型の半導体領域であるウェル領域80内の上部に形成される。すなわち、MOSFETを駆動させる際の電流は、ドレイン配線用電極90から流れて、ドリフト層EP1内であってゲート絶縁膜91の近傍の領域を通り、ドリフト層EP1の上面近傍のウェル領域80内であってゲート電極92の直下の領域を通って、ソース領域81へ流れる。
本実施の形態において、第1コンタクト領域82に電位を供給する場合には、MOSFETの内蔵ダイオード(内蔵pnダイオード)のpn接合にpn電流が流れる。また、第2コンタクト領域83に電位を供給する場合には、図1に示すターミネーション領域67の内蔵ダイオードのpn接合にpn電流が流れる。ここでいうMOSFETの内蔵ダイオードとは、例えばp+型の第1コンタクト領域82に接続されているp型のウェル領域80と、n−−型のドリフト層EP1との間のpn接合部分を指す。また、ここでいうターミネーション領域67の内蔵ダイオードとは、例えばp+型の第2コンタクト領域83(図1参照)に接続されているp型のJTE領域85(図1参照)と、n−−型のドリフト層EP1との間のpn接合部分を指す。なお、本実施の形態ではドリフト層EP1を含む基板内のpn接合に流れる電流をpn電流と呼ぶ。
<炭化ケイ素積層基板および半導体チップの製造方法>
本実施の形態における炭化ケイ素積層基板40およびこの炭化ケイ素積層基板40を含む半導体チップCHP1の製造方法について、図4、図5および図7〜図14を用いて工程順に説明する。図4、図5および図7〜図14は、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40を用いた半導体チップCHP1の製造工程を示す断面図である。図4、図5および図7〜図14では、MOSFETが形成される素子領域65の断面を示し、図4、図5および図7〜図14の素子領域65の断面は、図1のA−A線における断面と同じ位置における断面である。また、図6は、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板の製造装置の要部断面図である。
まず、図4に示すように、n++型のSiC基板SB1を準備する。SiC基板SB1の主面は、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)法により研磨されており、鏡面となっている。
次に、図5に示すように、SiC基板SB1上に、バッファ層BF1およびドリフト層EP1を順に形成する。すなわち、以下に示すエピタキシャル成長法により、SiCからなる各種の半導体層(エピタキシャル層、エピタキシャル成長層)を順に形成する。
まず、SiC基板SB1を洗浄した後、図6に示すCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)装置CDの炉内のサセプタSUに設置する。続いて、炉内を1×10−4Pa以下の真空度になるまで排気する。続いて、炉内にキャリアガスである水素をガス供給口G1,G2から導入し、炉内の圧力を1〜30kPaとする。このように水素を導入しながら、サセプタSUが設定温度に安定するまで保持する。サセプタSUの設定温度は、例えば1400〜1700℃である。続いて、ガス供給口G1,G2から炉内に原料ガスを導入する。原料ガスにはシラン(SiH4)とプロパン(C3H8)を用い、不純物ドーパントガスとして窒素(N2)を用いる。これらの原料ガスの供給により、SiC基板SB1上に、SiCからなるエピタキシャル層の成長が始まる。
これらのガスの流量とサセプタSUの設定温度、炉内圧力を任意に変更しながらエピタキシャル成長を行うことで、SiC基板SB1上に、バッファ層(第1エピタキシャル層)BF1およびドリフト層(第2エピタキシャル層)EP1を所望の不純物濃度および膜厚にて順番に形成する。
バッファ層BF1およびドリフト層EP1を全て形成した後、原料ガスの供給を停止し、炉内に水素を導入しつつ、サセプタSUを冷却する。サセプタSUの温度が十分下がった後、水素の導入を停止し、炉内を排気した後、サセプタSUを取り出す。これにより、SiC基板SB1上にバッファ層BF1およびドリフト層EP1を有する炭化ケイ素積層基板40が完成する。
なお、本実施の形態の形態では、図6に示す縦型のCVD装置CDを用いる場合を例に説明したが、基板に対して横からガス供給する横型のCVD装置であってもよい。
次に、図示は省略するが、ドリフト層EP1の上面上に、マスクを形成する。マスクはターミネーション領域のドリフト層EP1の上面の一部を露出する膜である。マスクの材料には、例えばSiO2(酸化シリコン)またはフォトレジストなどを用いる。続いて、ターミネーション領域のドリフト層EP1に対し、p型不純物(例えばアルミニウム(Al))をイオン注入する。これにより、ターミネーション領域のドリフト層EP1の上面に、p型の半導体領域であるJTE領域(図示しない。図1に示すJTE領域85参照)を形成する。JTE領域のドリフト層EP1の上面からの深さは、例えば0.5〜2.0μm程度である。また、JTE領域の不純物濃度は、例えば1×1016〜5×1019cm−3である。
次に、図7に示すように、前記マスクを除去した後、ドリフト層EP1の上面上に、マスク17を形成する。マスク17は素子領域65のドリフト層EP1の上面の複数の箇所を露出する膜である。マスク17の厚さは、例えば1.0〜5.0μm程度である。マスク17の材料には、例えばSiO2またはフォトレジストなどを用いる。
次に、上部にマスク17が形成されたドリフト層EP1に対し、p型不純物(例えばアルミニウム(Al))をイオン注入する。これにより、素子領域65のドリフト層EP1の上面に、p型の半導体領域であるウェル領域80を複数形成する。ウェル領域80のドリフト層EP1の上面からの深さは、例えば0.5〜2.0μm程度である。また、ウェル領域80の不純物濃度は、例えば1×1016〜1×1019cm−3である。
次に、図8に示すように、マスク17を除去した後、ドリフト層EP1の上面上に、マスク12を形成する。マスク12の厚さは、例えば0.5〜2.0μm程度である。マスク12の材料には、例えばSiO2またはフォトレジストなどを用いる。
次に、上部にマスク12が形成されたドリフト層EP1に対し、n型不純物(例えば窒素(N))をイオン注入する。これにより、素子領域65のドリフト層EP1の上面に、n+型の半導体領域であるソース領域81を複数形成する。各ソース領域81は、ウェル領域80の平面視における中央部に形成する。各ソース領域81のドリフト層EP1の上面からの深さは、例えば0.05〜1.0μm程度である。また、ソース領域81の不純物濃度は、例えば1×1018〜1×1020cm−3である。
次に、図9に示すように、マスク12を除去した後、ドリフト層EP1の上面上に、マスク13を形成する。マスク13の厚さは、例えば0.5〜2.0μm程度である。マスク13の材料には、例えばSiO2またはフォトレジストなどを用いる。
次に、上部にマスク13が形成されたドリフト層EP1に対し、p型不純物(例えばアルミニウム(Al))をイオン注入する。これにより、素子領域65のドリフト層EP1の上面にp+型の半導体領域である第1コンタクト領域82を複数形成し、ターミネーション領域のドリフト層EP1の上面にp+型の半導体領域である第2コンタクト領域(図示しない。図1に示す第2コンタクト領域83参照)を形成する。各第1コンタクト領域82は、各ソース領域81の平面視における中央部に形成する。第2コンタクト領域は、JTE領域85の上面に形成する。平面視において、第2コンタクト領域は矩形の環状構造を有し、素子領域65を囲むように形成される。
第1コンタクト領域82および第2コンタクト領域の、ドリフト層EP1の上面からの深さは、例えば0.05〜2.0μm程度である。また、第1コンタクト領域82と第2コンタクト領域との不純物濃度は、例えば1×1018〜1×1020cm−3である。
次に、図10に示すように、マスク13を除去した後、ドリフト層EP1の上面上に、マスク14を形成する。マスク14の材料には、例えばSiO2またはフォトレジストなどを用いる。ここで、マスク14は、SiC基板SB1の裏面に注入するn型不純物がSiC基板SB1の表面側に回り込んで、ドリフト層EP1にn型不純物が混入するのを防ぐための保護膜である。その後、SiC基板SB1の裏面にn型不純物(例えば窒素(N))をイオン注入する。これにより、SiC基板SB1の裏面にn+型の半導体領域であるドレイン領域84を形成する。ドレイン領域84の、SiC基板SB1の裏面からの深さは、例えば0.05〜2.0μm程度である。またドレイン領域84の不純物濃度は、1×1019〜1×1021cm−3である。
次に、図示は省略するが、全てのマスクを除去し、ドリフト層EP1の上面およびSiC基板SB1裏面のそれぞれに接するように、例えばプラズマCVD法を用いて炭素(C)膜を堆積する。炭素(C)膜の厚さは、例えば0.03〜0.05μm程度である。前記のようにして、炭素(C)膜によりドリフト層EP1の上面およびSiC基板SB1の裏面を被覆した後、1500℃以上の温度で、2〜3分程度の熱処理を施す。これにより、ドリフト層EP1の上面と、SiC基板SB1の裏面にイオン注入した各不純物の活性化を行う。その後、前記炭素(C)膜を、例えばプラズマ処理により除去する。
次に、図11に示すように、図10の構成でドリフト層EP1の上面上に、絶縁膜89およびn型の多結晶Si膜を順に形成した後、多結晶Si膜上にマスク15を形成する。絶縁膜89および多結晶Si膜は、例えばCVD法により形成する。マスク15は、ドリフト層EP1の上面において隣り合う第1コンタクト領域82同士の間に形成する。続いて、マスク15を用いたドライエッチング法により、多結晶Si膜を加工することで、多結晶Si膜からなるゲート電極92を形成する。絶縁膜89の厚さは、例えば0.05〜0.15μm程度である。ゲート電極92の厚さは、例えば、0.2〜0.5μm程度である。
次に、図12に示すように、マスク15を除去した後、ドリフト層EP1の上面上に、ゲート電極92および絶縁膜89を覆うように、例えばプラズマCVD法により層間絶縁膜93を形成する。その後、マスク16を用いて、層間絶縁膜93および絶縁膜89をドライエッチング法により加工することで(エッチング工程で)、ドリフト層EP1の上面を露出させる。
これにより、素子領域65において、絶縁膜89からなるゲート絶縁膜91をゲート電極92および層間絶縁膜93の直下に形成する。また、前記エッチング工程により、素子領域65の層間絶縁膜93には、ソース領域81の一部および第1コンタクト領域82のそれぞれの上面が露出する開口部68が層間絶縁膜93に形成され、ターミネーション領域の層間絶縁膜93には、第2コンタクト領域(図示せず)の上面の一部が露出する開口部(図示せず)が形成される。
以上により、MOSFETの最小単位構造であるユニットセル70が複数形成される。複数のユニットセル70のそれぞれは、互いに隣接するウェル領域80、ソース領域81および第1コンタクト領域82と、当該ウェル領域80の直上にゲート絶縁膜91を介して形成されたゲート電極92とを有している。
次に、図13に示すように、マスク16を除去した後、素子領域65の開口部68の底部にシリサイド層95を形成し、ターミネーション領域67の開口部の底面にシリサイド層(図示せず)を形成する。
シリサイド層95を形成する際には、まず、露出しているドリフト層EP1を覆うように、例えばスパッタリング法により第1金属(例えばニッケル(Ni))膜を堆積する。この第1金属膜の厚さは、例えば0.05μm程度である。続いて、600〜1000℃のシリサイド化熱処理を施すことにより、素子領域65の開口部68の底面において、第1金属膜とドリフト層EP1とを反応させて、例えばニッケルシリサイド(NiSi)からなるシリサイド層95を形成する。この工程により、ターミネーション領域67の開口部の底面にもシリサイド層が形成される。
次に、図14に示すように、シリサイド層95に達する開口部68、ターミネーション領域67のシリサイド層に達する開口部(図示せず)、およびゲート電極92に達する開口部(図示せず)のそれぞれの内部を埋め込むように、層間絶縁膜93上に、第2金属(例えばチタン(Ti))膜、窒化チタン(TiN)膜およびアルミニウム(Al)膜を順に積層する。アルミニウム(Al)膜の厚さは、例えば1.0μm以上が好ましい。続いて、前記の第2金属膜、窒化チタン膜およびアルミニウム膜からなる積層膜を加工することにより、当該積層膜からなるコンタクトプラグ94、ソース配線用電極96およびゲート配線用電極(図示せず)を形成する。
ソース配線用電極96またはゲート配線用電極(図示せず)は層間絶縁膜93上の前記積層膜からなり、コンタクトプラグ94は開口部68内の前記積層膜からなる。ソース配線用電極96はシリサイド層95を介して第1コンタクト領域82に対してオーミック性を有するように電気的に接続されている。また、図1に示すターミネーション領域67では、ソース配線用電極96はシリサイド層95を介して第2コンタクト領域(図示せず)に接続されている。また、ゲート配線用電極(図示せず)は、ゲート電極92と電気的に接続されている。
次に、SiO2膜またはポリイミド膜からなる絶縁膜をゲート配線用電極(図示せず)およびソース配線用電極96を覆うように成膜し、当該絶縁膜を加工してパッシベーション膜(図示せず)を形成する。パッシベーション膜は、ターミネーション領域67を覆い、素子領域65において開口している。
次に、SiC基板SB1の裏面に、例えばスパッタリング法により第3金属膜を成膜し、レーザーシリサイド化熱処理を施すことにより、第3金属膜とSiC基板SB1とを反応させて、第3シリサイド層100を形成する。第3シリサイド層100は、ドレイン領域84の下面と接している。第3金属膜の厚さは、例えば0.1μm程度である。続いて、第3シリサイド層100の底面を覆うように、ドレイン配線用電極90を形成する。ドレイン配線用電極90は、第3シリサイド層100側から順にチタン(Ti)膜、ニッケル(Ni)膜および金(Au)膜を積層して形成した0.5〜1μmの積層膜により構成される。
その後、SiC基板SB1を含む炭化ケイ素積層基板40をダイシング工程により切削することで個片化し、半導体チップCHP1を得る。以上により、図1〜図3に示すSiCMOSFETを含む本実施の形態の半導体チップCHP1が完成する。
<検討例の説明>
次に、本願発明者が検討した検討例の炭化ケイ素積層基板50について、図15〜図18を用いて説明する。図15は、検討例の炭化ケイ素積層基板50の断面図および平面図である。図16は、検討例の炭化ケイ素積層基板50において、基板面内の位置と不純物濃度との関係を示すグラフである。図17は、検討例の炭化ケイ素積層基板50において、基板中心の位置Oにおける厚さ方向の位置と不純物濃度との関係を示すグラフである。図18は、検討例の炭化ケイ素積層基板50において、基板端の位置Xaにおける厚さ方向の位置と不純物濃度との関係を示すグラフである。
図15の断面図に示すように、検討例の炭化ケイ素積層基板50は、SiC基板SB1と、SiC基板SB1上に形成されたバッファ層BF101と、バッファ層BF101上に形成されたドリフト層EP1と、により構成されている。以下、検討例の炭化ケイ素積層基板50の厚さ方向の位置を、位置Z1,Z2,Z3,Z4,Z5により表す。位置Z1は、SiC基板SB1のバッファ層BF101側端部を表す。位置Z2は、バッファ層BF101のSiC基板SB1側端部を表す。位置Z3は、バッファ層BF101の厚さ方向中央部を表す。位置Z4は、バッファ層BF101のドリフト層EP1側端部を表す。位置Z5は、ドリフト層EP1のバッファ層BF101側端部を表す。ここで、「端部」は、厚さ方向における端部を指す。
また、図15の平面図に示すように、検討例の炭化ケイ素積層基板50の主面を円とみなした場合の、炭化ケイ素積層基板50の径方向の位置を、位置O,Xa,Xbにより表す。位置Oは、炭化ケイ素積層基板50の主面の中心を表す(以下、基板中心Oとする)。位置Xa,Xbは、夫々、基板中心Oを通る直線上の点であって、炭化ケイ素積層基板50の径方向端部を表す(以下、基板端Xa,Xbとする)。ここで、径方向とは、炭化ケイ素積層基板50の主面に平行で、基板中心Oを通って、基板中心Oから基板の端部へ向かう方向をいう。なお、炭化ケイ素積層基板の不純物濃度の面内分布は、基板中心Oを通る直線上の分布が最も大きい。そのため、以下、炭化ケイ素積層基板の不純物濃度の面内分布は、基板中心Oを通る直線上の分布を例として説明する。
また、図15の平面図には、検討例の炭化ケイ素積層基板50上に素子が形成された後に、円板状の炭化ケイ素積層基板50に対してダイシング(個片化)工程を行って得られる半導体チップCHP101を模式的に示している。また、図15の平面図に示すように、位置Xa,Xbは、炭化ケイ素積層基板50の径方向端部から5mm〜10mm程度内側の点であり、炭化ケイ素積層基板50が前記ダイシング工程により半導体チップCHP101として個片化される領域(半導体チップ取得領域)の径方向端部を意味する。すなわち、炭化ケイ素積層基板50の位置Xa,Xbよりも外側の領域は、前記ダイシング工程により切断されて半導体チップCHP101として使用されない部分である。
まず、検討例の炭化ケイ素積層基板50に含まれるSiC基板SB1、バッファ層BF101およびドリフト層EP1の、径方向の位置と不純物濃度との関係について説明する。図16に示すグラフの横軸は、炭化ケイ素積層基板50の径方向を示し、縦軸の「濃度」は、不純物濃度(ここではn型不純物の濃度)を示している。このグラフでは、炭化ケイ素積層基板50において、SiC基板SB1、バッファ層BF101およびドリフト層EP1のそれぞれの不純物濃度のみを示し、他のコンタクト領域、ウェル領域、ソース領域およびドレイン領域などが形成された箇所の不純物濃度については表示していない。
図16に示すように、SiC基板SB1のバッファ層BF101側端部(位置Z1)において、不純物濃度は、面内で一定ではない。すなわち、SiC基板SB1のバッファ層BF101側端部(位置Z1)において、不純物濃度は、SiC基板SB1の基板中心Oが最も大きく、基板端Xaおよび基板端Xbに向かうに従って徐々に減少し、基板端Xaおよび基板端Xbが最も小さいという分布になっている。
それに対して、検討例のバッファ層BF101のSiC基板SB1側端部(位置Z2)、バッファ層BF101の厚さ方向中央部(位置Z3)、バッファ層BF101のドリフト層EP1側端部(位置Z4)の夫々において、不純物濃度は、面内で一定であり、すなわち、炭化ケイ素積層基板50の基板中心Oから基板端Xa,Xbに至るまで一定である。また、ドリフト層EP1のバッファ層BF101側端部(位置Z5)においても、不純物濃度は、炭化ケイ素積層基板50の基板中心Oから基板端Xa,Xbに至るまで一定である。
なお、図16において、基板中心OにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差を濃度差D101oと、基板端XaにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差を濃度差D101aと、基板端XbにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差を濃度差D101bと、夫々、表している。
続いて、検討例の炭化ケイ素積層基板50に含まれるSiC基板SB1、バッファ層BF101およびドリフト層EP1の、厚さ方向の位置と不純物濃度との関係について説明する。
まず、検討例の炭化ケイ素積層基板50の基板中心Oにおいて比較する。図17に示すように、炭化ケイ素積層基板50の基板中心Oにおいて、SiC基板SB1のバッファ層BF101側端部(位置Z1)の不純物濃度は、濃度Cos(例えば5×1018cm−3)である。次に、炭化ケイ素積層基板50の基板中心Oにおいて、バッファ層BF101のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度は、濃度Cobs101(例えば3.5×1018cm−3)である。すなわち、基板中心OにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差D101oは、1.5×1018cm−3である。
また、炭化ケイ素積層基板50の基板中心Oにおいて、バッファ層BF101のドリフト層EP1側端部(位置Z4)の不純物濃度は、濃度Cobe101(例えば3×1015cm−3)である。また、ドリフト層EP1のバッファ層BF101側端部(位置Z5)の不純物濃度は、濃度Coe(例えば3×1015cm−3)である。
図17に示すように、検討例のバッファ層BF101の不純物濃度は、基板中心Oにおいて、SiC基板SB1側端部(位置Z2)からドリフト層EP1側端部(位置Z4)まで、単調に減少している。
続いて、検討例の炭化ケイ素積層基板50の基板端Xaにおいて比較する。図18に示すように、炭化ケイ素積層基板50の基板端Xaにおいて、SiC基板SB1のバッファ層BF101側端部(位置Z1)の不純物濃度は、濃度Cas(例えば3×1018cm−3)である。次に、炭化ケイ素積層基板50の基板端Xaにおいて、バッファ層BF101のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度は、濃度Cabs101(例えば3.5×1018cm−3)である。すなわち、基板端XaにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差D101aは、0.5×1018cm−3である。
また、炭化ケイ素積層基板50の基板端Xaにおいて、バッファ層BF101のドリフト層EP1側端部(位置Z4)の不純物濃度は、濃度Cabe101(例えば3×1015cm−3)である。また、ドリフト層EP1のバッファ層BF101側端部(位置Z5)の不純物濃度は、濃度Cae(例えば3×1015cm−3)である。
図18に示すように、検討例のバッファ層BF101の不純物濃度は、基板端Xaにおいて、SiC基板SB1側端部(位置Z2)からドリフト層EP1側端部(位置Z4)まで、単調に減少している。
なお、図16に示すように、検討例の炭化ケイ素積層基板50において、SiC基板SB1、バッファ層BF101およびドリフト層EP1の不純物濃度は、夫々、基板中心Oで対称となっている。そのため、基板端Xbの不純物濃度は、基板端Xaの不純物濃度と同じ分布を有しており、その説明を省略する。
炭化ケイ素を用いたパワーデバイスは、低抵抗のSiCのウエハを下地基板とし、その上にエピタキシャル成長によって所定の厚さと不純物濃度を有するドリフト層を形成する。このドリフト層の内部にpn接合などを初めとする半導体デバイスの基本構造を作り込む。ドリフト層は高抵抗であり、その不純物濃度と厚さはパワーデバイス(MOSFET)の仕様である耐電圧値を満足し且つオン抵抗が極力小さくなるように最適に設計される。ドリフト層を高抵抗にするためには、ドリフト層の不純物濃度は、SiC基板の不純物濃度よりも小さくすることが望ましい。
しかし、SiC基板とドリフト層との界面において、SiC基板の不純物濃度とドリフト層の不純物濃度との差が大きいと、SiC基板の格子定数とドリフト層の格子定数との差が大きくなる。その結果、SiC基板とドリフト層との格子定数の差が原因となってせん断応力が生じると考えられる。せん断応力が生じた場合には、ミスフィット転位としてのBPDが発生する可能性がある。また、BPDに由来して積層欠陥が発生する可能性がある。SiC基板とドリフト層との界面にBPDやBPDに由来する積層欠陥が形成されると、パワーデバイス(MOSFET)のオン抵抗が増大してしまう。そのため、SiC基板とドリフト層との界面においては、SiC基板の不純物濃度とドリフト層の不純物濃度との差を小さくすることが望ましい。
そこで、SiC基板とドリフト層との間に、SiC基板よりも不純物濃度が小さく、ドリフト層よりも不純物濃度が大きいバッファ層を形成し、SiC基板とバッファ層との界面およびバッファ層とドリフト層との界面のそれぞれにおいて不純物濃度の差を小さくすることが考えられる。バッファ層およびドリフト層は、エピタキシャル成長法により形成することができるので、バッファ層およびドリフト層の不純物濃度を任意に設定することができる。一方、SiC基板は、インゴットを切断してSiCウエハとして形成されるが、インゴットを成長させる際に不純物濃度を制御することが難しい。そのため、SiC基板SB1の基板面内において、不純物濃度は一定とはならずに大きな分布を持つ。従って、バッファ層のSiC基板側の不純物濃度を適切に設定し、SiC基板とバッファ層との不純物濃度の差を小さくすることが望まれる。
そこで、本願発明者は、検討例の炭化ケイ素積層基板50において、SiC基板SB1の面内の不純物濃度を測定し、その不純物濃度を基板面内で平均した値を、バッファ層BF101のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度として採用し、バッファ層BF101を形成することを検討した。SiC基板SB1の基板面内における、不純物濃度が大きい領域および不純物濃度が小さい領域の夫々の面積を考慮すると、不純物濃度の平均値として面積加重平均を採用することが好適である。
バッファ層BF101のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度の具体的な算出方法を以下に述べる。図16〜図18に示すように、SiC基板SB1の面内の不純物濃度の最大値が、5×1018cm−3(基板中心Oの不純物濃度Cos)、SiC基板SB1の面内の不純物濃度の最小値が、3×1018cm−3(基板端Xaの不純物濃度Cas)である。ここで、SiC基板の全面積のうち、最大値の90%以上の不純物濃度である部分の面積の割合が25%であるとすると、SiC基板の不純物濃度の面積加重平均は、0.25×(5×1018cm−3)+0.75×(3×1018cm−3)=3.5×1018cm−3と算出することができる。
そのため、検討例の炭化ケイ素積層基板50では、バッファ層BF101のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度を、基板面内で一定値の3.5×1018cm−3とする。すなわち、バッファ層BF101のSiC基板SB1側端部(位置Z2)において、基板中心Oの不純物濃度Cobs101および基板端Xaの不純物濃度Cabs101は、いずれも3.5×1018cm−3である。
以上のように、検討例の炭化ケイ素積層基板50では、SiC基板SB1の不純物濃度を基板面内で平均した値を、バッファ層BF101のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度として採用することで、基板面内全体でSiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度の差を小さくすることができる。
しかしながら、図16に示すように、検討例の炭化ケイ素積層基板50では、SiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度の差が基板面内の位置によって異なる。特に、検討例の炭化ケイ素積層基板50では、SiC基板SB1面内の不純物濃度の分布が大きい場合、基板面内全体としてはSiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度の差を小さくすることができても、局所的にはSiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度の差が大きい部分が生じる。
図16および図17に示すように、基板中心Oにおいて、バッファ層BF101のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度Cobs101(3.5×1018cm−3)は、SiC基板SB1のバッファ層BF101側端部(位置Z1)の不純物濃度Cos(5×1018cm−3)よりも、不純物濃度差D101o(1.5×1018cm−3)だけ小さい。そのため、炭化ケイ素積層基板50の基板中心Oにおいて、SiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差D101oは、SiC基板SB1の不純物濃度Cosを基準にすると30%もの差となる。
以上のように、SiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度の差が基板面内で分布をもつと、SiC基板SB1とバッファ層BF101との格子定数差も基板面内で分布をもつ。その結果、SiC基板SB1とバッファ層BF101との格子定数差に起因するせん断応力が基板面内で不均一に生じ、格子定数差が大きい場所ではバッファ層BF101とSiC基板SB1との界面で、ミスフィット転位としてのBPDが発生しやすくなる。
また、バッファ層およびドリフト層をCVD法により形成する際にSiC基板を1400〜1700℃に加熱するが、SiC基板を均一に加熱することが難しいため、SiC基板には温度分布が生じる。SiC基板に温度分布が生じると、それに起因して熱応力が発生し、SiC基板が反って変形する。反りの向きによっては、SiC基板SB1とバッファ層BF101との界面に集中したせん断応力が大きくなるため、格子定数差を小さくしてミスフィット転位としてのBPDが発生しやすくなる原因をなくしておく必要がある。
また、検討例の炭化ケイ素積層基板50では、図16に示すように、SiC基板SB1のバッファ層BF101側端部(位置Z1)において、不純物濃度は、SiC基板SB1の基板中心Oが最も大きく、基板端Xaおよび基板端Xbに向かうに従って徐々に減少し、基板端Xaおよび基板端Xbが最も小さいという分布になっている。
一方で、検討例の炭化ケイ素積層基板50では、バッファ層BF101の不純物濃度を径方向に沿って一定の値としている。従って、バッファ層BF101のSiC基板SB1側端部(位置Z2)において、基板中心Oの不純物濃度Cobs101と基板端Xaの不純物濃度Cabs101とは、同じ値である。
そのため、図16に示すように、検討例の炭化ケイ素積層基板50では、基板中心Oにおいて、バッファ層BF101のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度Cobs101は、SiC基板SB1のバッファ層BF101側端部(位置Z1)の不純物濃度Cosよりも小さい。一方、基板端Xaにおいて、バッファ層BF101のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度Cabs101は、SiC基板SB1のバッファ層BF101側端部(位置Z1)の不純物濃度Casよりも大きい。
従って、炭化ケイ素積層基板50の基板中心OにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差D101oを小さくするため、バッファ層BF101の基板中心Oの不純物濃度Cobs101を大きくして、SiC基板SB1の基板中心Oの不純物濃度Cosに近づけた場合には、バッファ層BF101の基板端Xaの不純物濃度Cabs101も大きくなる。その結果、炭化ケイ素積層基板50の基板端Xaにおいて、SiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差D101aが大きくなる。
なお、前述の通り、基板端Xbの不純物濃度は、基板端Xaの不純物濃度と同じ分布を有している。そのため、基板中心OにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差D101oを小さくするため、バッファ層BF101の基板中心Oの不純物濃度を大きくして、SiC基板SB1の基板中心Oの不純物濃度に近づけた場合には、バッファ層BF101の基板端Xbの不純物濃度も大きくなる。その結果、基板端Xbにおいて、図16に示すSiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差D101bが大きくなる。
一方、炭化ケイ素積層基板50の基板端XaにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差D101aを小さくするため、バッファ層BF101の基板端Xaの不純物濃度Cabs101を小さくして、SiC基板SB1の基板端Xaの不純物濃度Casに近づけた場合には、バッファ層BF101の基板中心Oの不純物濃度Cobs101も小さくなる。その結果、炭化ケイ素積層基板50の基板中心Oにおいて、SiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差D101oが大きくなる。
なお、前述の通り、基板端Xbの不純物濃度は、基板端Xaの不純物濃度と同じ分布を有している。そのため、図16に示す基板端XbにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差D101bを小さくするため、バッファ層BF101の基板端Xbの不純物濃度を小さくして、SiC基板SB1の基板端Xbの不純物濃度に近づけた場合には、バッファ層BF101の基板中心Oの不純物濃度も小さくなる。その結果、基板中心Oにおいて、SiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差D101oが大きくなる。
従って、SiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差において、不純物濃度差D101o(基板中心O)と不純物濃度差D101a(基板端Xa)および不純物濃度差D101b(基板端Xb)との両方を小さくすることが難しい。すなわち、検討例の炭化ケイ素積層基板50では、SiC基板SB1の不純物濃度に面内分布がある場合、SiC基板SB1の不純物濃度が大きい箇所および小さい箇所の両方において、SiC基板SB1とバッファ層BF101との不純物濃度差を同時に小さくすることができない。
以上の検討より、炭化ケイ素を用いたパワーデバイスの性能を向上するためには、SiC基板とバッファ層との界面におけるBPD形成やBPDに由来する積層欠陥の形成を抑制することで、オン抵抗を極力小さくして、炭化ケイ素積層基板の抵抗の増大を抑制することが望まれる。そのためには、SiC基板とバッファ層との界面において、SiC基板の不純物濃度が大きい箇所および小さい箇所の両方について、SiC基板とバッファ層との不純物濃度の差を同時に小さくすることが望まれる。
<本実施の形態の主な特徴>
本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40の主な特徴について、図19〜図23を用いて、検討例と比較しながら説明する。図19は、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40の断面図および平面図である。図20は、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40において、基板面内の位置と不純物濃度との関係を示すグラフである。図21は、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40において、基板中心の位置Oにおける厚さ方向の位置と不純物濃度との関係を示すグラフである。図22は、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40において、基板端の位置Xaにおける厚さ方向の位置と不純物濃度との関係を示すグラフである。図23は、本実施の形態のCVD装置によって形成したバッファ層のキャリア濃度(不純物濃度)の分布を示すグラフである。
図19の断面図に示すように、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40は、SiC基板SB1と、SiC基板SB1上に形成されたバッファ層BF1と、バッファ層BF1上に形成されたドリフト層EP1と、により構成されている。
以下、図19の断面図に示すように、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40の厚さ方向の位置を、図15に示す検討例と同様に、位置Z1,Z2,Z3,Z4,Z5により表す。また、図19の平面図に示すように、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40の径方向の位置を、図15に示す検討例と同様に、位置O,Xa,Xbにより表す。なお、図19の平面図には、図15に示す検討例と同様に、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40上に素子が形成された後に、円板状の炭化ケイ素積層基板40に対してダイシング(個片化)工程を行って得られる半導体チップCHP1を模式的に示している。また、図19の平面図に示すように、位置Xa,Xbは、炭化ケイ素積層基板40の径方向端部から5mm〜10mm程度内側の点であり、炭化ケイ素積層基板40が前記ダイシング工程により半導体チップCHP1として個片化される領域(半導体チップ取得領域)の径方向端部を意味する。すなわち、炭化ケイ素積層基板40の位置Xa,Xbよりも外側の領域は、前記ダイシング工程により切断されて半導体チップCHP1として使用されない部分である。また、図20において、基板中心OにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度差を濃度差D1oと、基板端XaにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度差を濃度差D1aと、基板端XbにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度差を濃度差D1bと、夫々、表している。
まず、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40に含まれるバッファ層BF1の、径方向の位置と不純物濃度との関係について、検討例と比較しながら説明する。図16に示す検討例の炭化ケイ素積層基板50では、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)において、不純物濃度は炭化ケイ素積層基板50の基板中心Oから基板端Xa,Xbに至るまで一定である。
それに対して、図20に示すように、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40では、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度が面内分布を有している。そして、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度の面内分布は、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部(位置Z1)の不純物濃度の面内分布と一致している。具体的には、図20に示すように、本実施の形態のバッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度は、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部(位置Z1)の不純物濃度と同様に、基板の基板中心Oが最も大きく、基板端Xaおよび基板端Xbに向かうに従って徐々に減少し、基板端Xaおよび基板端Xbが最も小さいという分布になっている。そのため、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度と、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部(位置Z1)の不純物濃度との差は、基板面内で一定である。すなわち、基板中心OにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度差D1oと、基板端XaにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度差D1aと、基板端XbにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度差D1bとは等しい。
また、図16に示す検討例のバッファ層BF101の厚さ方向中央部(位置Z3)およびバッファ層BF101のドリフト層EP1側端部(位置Z4)において、不純物濃度は、炭化ケイ素積層基板50の基板中心Oから基板端Xa,Xbに至るまで一定である。
それに対して、図20に示すように、本実施の形態のバッファ層BF1は、SiC基板SB1側端部(位置Z2)からドリフト層EP1側端部(位置Z4)に至るまで、不純物濃度の面内分布が徐々に小さくなるように形成されている。具体的には、バッファ層BF1は、バッファ層BF1の厚さ方向中央部(位置Z3)において、SiC基板SB1側端部(位置Z2)よりも、基板中心Oの不純物濃度と基板端Xa,Xbの不純物濃度との差が小さくなるように形成されている。さらに、バッファ層BF1は、バッファ層BF1のドリフト層EP1側端部(位置Z4)において、不純物濃度が炭化ケイ素積層基板40の基板中心Oから基板端Xa,Xbに至るまで一定になるように形成されている。
続いて、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40に含まれるバッファ層BF1の、厚さ方向の位置と不純物濃度との関係について説明する。
図21に示すように、炭化ケイ素積層基板40の基板中心Oにおいて、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部(位置Z1)の不純物濃度は、濃度Cos(5×1018cm−3)である。それに対して、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度は、濃度Cobs1(例えば4.4×1018cm−3)である。すなわち、図20および図21に示すように、基板中心Oにおいて、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度Cobs1(4.4×1018cm−3)は、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部(位置Z1)の不純物濃度Cos(5×1018cm−3)よりも、不純物濃度差D1o(0.6×1018cm−3)だけ小さい。
また、炭化ケイ素積層基板40の基板中心Oにおいて、バッファ層BF1のドリフト層EP1側端部(位置Z4)の不純物濃度は、濃度Cobe1(例えば3×1015cm−3)である。また、炭化ケイ素積層基板40の基板中心Oにおいて、ドリフト層EP1のバッファ層BF1側端部(位置Z5)の不純物濃度は、濃度Coe(例えば3×1015cm−3)である。バッファ層BF1のドリフト層EP1側端部(位置Z4)の不純物濃度Cobe1は、ドリフト層EP1のバッファ層BF1側端部(位置Z5)の不純物濃度Coeと同じである。
続いて、図22に示すように、炭化ケイ素積層基板40の基板端Xaにおいて、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部(位置Z1)の不純物濃度は、濃度Cas(3×1018cm−3)である。それに対して、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度は、濃度Cabs1(例えば2.4×1018cm−3)である。すなわち、図20および図22に示すように、基板端Xaにおいて、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度Cabs1(2.4×1018cm−3)は、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部(位置Z1)の不純物濃度Cas(3×1018cm−3)よりも、不純物濃度差D1a(0.6×1018cm−3)だけ小さい。
また、炭化ケイ素積層基板40の基板端Xaにおいて、バッファ層BF1のドリフト層EP1側端部(位置Z4)の不純物濃度は、濃度Cabe1(例えば3×1015cm−3)である。また、炭化ケイ素積層基板40の基板端Xaにおいて、ドリフト層EP1のバッファ層BF1側端部(位置Z5)の不純物濃度は、濃度Cae(例えば3×1015cm−3)である。バッファ層BF1のドリフト層EP1側端部(位置Z4)の不純物濃度Cabe1は、ドリフト層EP1のバッファ層BF1側端部(位置Z5)の不純物濃度Caeと同じである。
なお、図20に示すように、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40において、SiC基板SB1、バッファ層BF1およびドリフト層EP1の不純物濃度は、夫々、基板中心Oで対称となっている。そのため、基板端Xbの不純物濃度は、基板端Xaの不純物濃度と同じ分布を有しており、その説明を省略する。
以上の構成を有する本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40の効果について説明する。
図20に示すように、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40では、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度の面内分布は、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部(位置Z1)の不純物濃度の面内分布と一致している。その結果、図20に示すように、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40では、SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度の差を基板面内で一定にすることができる。
SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度の差を基板面内で一定にすることにより、SiC基板SB1とバッファ層BF1との格子定数差も基板面内で一定にすることができる。そのため、SiC基板SB1とバッファ層BF1との格子定数差に起因したせん断応力が過度に大きくなる場所を発生させることがなくなる。そのため、せん断応力によるBPDの発生を防止することができる。
また、BPDが発生した場合、通電によってBPDが成長し、成長したBPDが積層欠陥に変換される。この積層欠陥によって炭化ケイ素積層基板の抵抗が増大する。そのため、本実施の形態では、BPDの発生を防止することによって、通電に起因する炭化ケイ素積層基板40の抵抗の増大を防止することができる。従って、炭化ケイ素積層基板40を用いた半導体チップCHP1を有する半導体装置の使用により、炭化ケイ素積層基板40および炭化ケイ素積層基板40を用いた半導体チップCHP1のそれぞれの特性が劣化することを防ぐことができるため、炭化ケイ素積層基板40を用いた半導体チップCHP1を有する半導体装置の信頼性を向上させることができる。
また、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40では、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度の面内分布は、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部(位置Z1)の不純物濃度の面内分布と一致している。そのため、図21に示すように、基板中心Oにおいて、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部(位置Z1)の不純物濃度Cosは、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度Cobs1よりも大きい。そして、図22に示すように、基板端Xaにおいて、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部(位置Z1)の不純物濃度Casは、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度Cabs1よりも大きい。また、図20に示すように、基板端Xbにおいても同様に、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部(位置Z1)の不純物濃度は、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度よりも大きい。
従って、炭化ケイ素積層基板40の基板中心OにおけるSiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度差D1oを小さくするため、バッファ層BF1の基板中心Oの不純物濃度Cobs1を大きくして、SiC基板SB1の基板中心Oの不純物濃度Cosに近づけた場合には、バッファ層BF1の基板端Xaの不純物濃度Cabs1および基板端Xbの不純物濃度も大きくなる。その結果、炭化ケイ素積層基板40の基板端Xa,Xbにおいて、SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度差D1a,D1bが小さくなる。
以上より、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40では、SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度の差を基板面内で一定にしたことにより、SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度差において、不純物濃度差D1o(基板中心O)と不純物濃度差D1a(基板端Xa)および不純物濃度差D1b(基板端Xb)との両方を小さくすることができる。
すなわち、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40では、SiC基板SB1の不純物濃度に面内分布がある場合、SiC基板SB1の不純物濃度が大きい箇所および小さい箇所の両方において、SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度差を同時に小さくすることができる。すなわち、SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度の差が基板面内で一定になるように維持しつつ、SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度の差を小さくすることができる。その結果、バッファ層BF1とSiC基板SB1との界面で発生する応力を、基板面内で均一に小さくすることができるので、ミスフィット転位としてのBPDの発生をより確実に防止することができる。
なお、せん断応力の集中を緩和するためには、SiC基板SB1とバッファ層BF1との界面における不純物濃度差は、SiC基板SB1の不純物濃度の少なくとも20%以内であることが好ましい。
すなわち、図20および図21に示すように、基板中心Oにおいて、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度Cobs1(4.4×1018cm−3)は、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部(位置Z1)の不純物濃度Cos(5×1018cm−3)よりも、不純物濃度差D1o(0.6×1018cm−3)だけ小さい。そのため、炭化ケイ素積層基板40の基板中心Oにおいて、SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度差D1oは、SiC基板SB1の不純物濃度Cosを基準にすると20%の差に収まる。
また、図20および図22に示すように、基板端Xaにおいて、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度Cabs1(2.4×1018cm−3)は、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部(位置Z1)の不純物濃度Cas(3×1018cm−3)よりも、不純物濃度差D1a(0.6×1018cm−3)だけ小さい。そのため、炭化ケイ素積層基板40の基板端Xaにおいて、SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度差D1aは、SiC基板SB1の不純物濃度Casを基準にすると20%の差に収まる。また、図20に示す基板端XbのSiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度差D1bについても同様である。
また、SiC基板の不純物濃度および不純物濃度の面内分布は、SiC基板1枚ごとに異なっている。そのため、SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度の差が基板面内で一定になるように維持しつつ、SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度の差を小さくするためには、SiC基板1枚ごとに不純物濃度および不純物濃度の面内分布を測定し、バッファ層の不純物濃度および不純物濃度の面内分布を設定することが好ましい。
但し、同一のインゴットを切断して作製したSiC基板の不純物濃度の面内分布は、SiC基板ごとに同様の不純物濃度の面内分布を有している。従って、炭化ケイ素積層基板の製造コストを削減するため、同一のインゴットから作製されたSiC基板にあっては、SiC基板の不純物濃度の面内分布の測定を1枚ごとに行わず、省略することもできる。この場合、SiC基板SB1とバッファ層BF1との界面における不純物濃度差が、同一のインゴットから作製されたSiC基板全体で平均したSiC基板の不純物濃度の20%以内に収まるように、バッファ層BF1のSiC基板SB1側端部(位置Z2)の不純物濃度を設定することが好ましい。
また、図21および図22に示すように、本実施の形態のバッファ層BF1の不純物濃度は、基板中心Oおよび基板端Xaにおいて、SiC基板SB1側端部(位置Z2)からドリフト層EP1側端部(位置Z4)まで、一次関数的に減少している。図示しないが、本実施の形態のバッファ層BF1の不純物濃度は、基板中心Oおよび基板端Xa以外の箇所においても、SiC基板SB1側端部(位置Z2)からドリフト層EP1側端部(位置Z4)まで、基板中心Oおよび基板端Xaと同様に一次関数的に減少している。ここで、バッファ層BF1の厚さ方向に沿った不純物濃度分布は、一次関数に限らず、階段状に変化する分布等でもよい。すなわち、バッファ層BF1は、異なる不純物濃度を有する複数のバッファ層からなる多層構造であってもよい。
但し、バッファ層BF1内で不純物濃度の変化が大きい箇所が存在すると、前述のように、格子定数差に起因するせん断応力が大きくなる可能性がある。そのため、バッファ層BF1は、SiC基板SB1側端部(位置Z2)からドリフト層EP1側端部(位置Z4)まで緩やかに減少する不純物濃度分布を有することが好ましい。特に、せん断応力の集中を緩和するためには、バッファ層BF1は、不純物濃度が1×1018cm−3以上の高濃度の範囲において緩やかに減少する不純物濃度分布を有することが好ましい。
また、炭化ケイ素積層基板40を用いた半導体チップCHP1の特性にばらつきが生じないようにするため、ドリフト層EP1の不純物濃度は、基板面内で±10%以内の分布に収めることが好ましく、基板面内で一定であることがより好ましい。また、ドリフト層EP1とバッファ層BF1との界面におけるせん断応力の集中を緩和するためには、ドリフト層EP1とバッファ層BF1との不純物濃度の差を基板面内で一定にすることが好ましい。また、発生する応力を小さくするためには、ドリフト層EP1とバッファ層BF1との不純物濃度の差をできるだけ小さくすることが好ましい。
以上より、図21および図22に示すように、本実施の形態のドリフト層EP1のバッファ層BF1側端部(位置Z5)の不純物濃度Coe,Caeは、基板中心Oから基板端Xa,Xbに至るまで基板面内で一定である。そして、バッファ層BF1のドリフト層EP1側端部(位置Z4)の不純物濃度Cobe1,Cabe1も、基板中心Oから基板端Xa,Xbに至るまで基板面内で一定である。さらに、バッファ層BF1のドリフト層EP1側端部(位置Z4)の不純物濃度Cobe1,Cabe1は、ドリフト層EP1のバッファ層BF1側端部(位置Z5)の不純物濃度Coe,Caeと同じ値(3×1015cm−3)としている。
また、図20に示すように、本実施の形態のバッファ層BF1は、SiC基板SB1側端部(位置Z2)からドリフト層EP1側端部(位置Z4)に至るまで、不純物濃度の面内分布(濃度勾配)が徐々に小さくなるように形成されている。具体的には、バッファ層BF1は、厚さ方向中央部(位置Z3)において、SiC基板SB1側端部(位置Z2)よりも、基板中心Oの不純物濃度と基板端Xa,Xbの不純物濃度との差が小さい。そして、バッファ層BF1は、ドリフト層EP1側端部(位置Z4)において、厚さ方向中央部(位置Z3)よりも、基板中心Oの不純物濃度と基板端Xa,Xbの不純物濃度との差が小さくなり、結果として、不純物濃度は基板面内で一定となる。
このように構成することで、本実施の形態のバッファ層BF1は、前述のように、SiC基板SB1側端部(位置Z2)では不純物濃度の面内分布を有し、ドリフト層EP1側端部(位置Z4)では不純物濃度が基板面内で一定になるという要請と、バッファ層BF1内での不純物濃度の変化を小さくするという要請との両方を満たすことができる。
なお、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40において、「面内」とは、炭化ケイ素積層基板(SiC基板、バッファ層およびドリフト層)内の任意の面における、図19の平面図に示す基板中心Oから基板端Xa,Xbまでの領域(半導体チップ形成領域)を意味し、基板端Xa,Xbよりも外側の領域は含まない。すなわち、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40において、例えば、「SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度の差が基板面内で一定である」とは、「SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度の差が、基板中心Oから基板端Xa,Xbまでの領域において一定である」ことを意味する。その理由として、炭化ケイ素積層基板40の位置Xa,Xbよりも外側の領域は、前記ダイシング工程により切断されて半導体チップCHP1として使用されないためである。但し、炭化ケイ素積層基板40において、例えば、「SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度の差が基板面内で一定である」という場合に、「SiC基板SB1とバッファ層BF1との不純物濃度の差が、基板中心Oから基板端Xa,Xbまでの領域において一定であり、かつ、基板端Xa,Xbよりも外側の領域においても一定である」ものを除く意味ではないことはいうまでもない。
次に、本実施の形態の炭化ケイ素積層基板40の製造方法の主な特徴について、説明する。
まず、本実施の形態のSiC基板SB1の不純物濃度の面内分布の測定方法について説明する。SiC基板の不純物濃度の測定は、CV(容量−電圧)測定装置(図示せず)を用いたCV法により行う。例えば、CV測定装置(図示せず)は、水銀プローブを有し、この水銀プローブを測定対象の基板に接触させることにより、基板の静電容量を測定する。この静電容量から基板の不純物濃度を求めることができる。本実施の形態では、SiC基板の不純物濃度を測定し、その測定値からバッファ層の不純物濃度を決定するため、SiC基板の不純物濃度の測定は、非破壊方法であるCV(容量−電圧)法により行うことが好ましい。
但し、CV(容量−電圧)法ではドーピングされた不純物濃度が大きすぎて測定が難しいことがある。そのため、破壊方法である二次イオン質量分析法により測定した不純物濃度と、非破壊で測定可能な物性値との相関を調べる方法がより好ましい。簡便であり、かつ、測定精度を高めるため、非接触抵抗率測定装置(図示せず)を用いた渦電流による抵抗率測定法を採用することが最も好適である。例えば、非接触抵抗率測定装置(図示せず)は、2つのプローブを有し、プローブ間に磁束を発生させるものである。プローブ間に測定対象の基板を挿入すると、その基板に渦電流が発生する。この渦電流によって電力損失が生じるため、回路内の電流が減少する。減少した電流値と抵抗率は反比例するため、基板の抵抗率が測定できる。本実施の形態では、予めSiC基板の抵抗率と不純物濃度との関係を示す検量線を作成しておき、非接触抵抗率測定装置(図示せず)を用いて測定されたSiC基板の抵抗率の面内分布を検量線と照らし合わせることで、SiC基板の不純物濃度の面内分布を測定することができる。
次に、本実施の形態のバッファ層BF1の形成方法について説明する。図6に示すCVD装置CDにおいて、SiCからなるエピタキシャル層の原料ガスであるシラン(SiH4)およびプロパン(C3H8)と、不純物ドーパントガスである窒素(N2)を用い、バッファ層BF1を形成する。ここで、図6に示すように、ガス供給口G1は、SiC基板SB1の基板中心付近に、ガス供給口G2は、SiC基板SB1の基板端付近に、夫々、原料ガスを供給する。
前述の通り、本実施の形態のバッファ層BF1は、不純物濃度の面内分布を有するエピタキシャル層として形成する。まず、基板中心の不純物濃度が基板端の不純物濃度よりも大きい面内分布を有するエピタキシャル層を形成する場合には、基板中心に位置するガス供給口G1から供給する窒素の流量を、基板端に位置するガス供給口G2から供給する窒素の流量よりも大きくし、ガス供給口G1から供給するプロパンの流量を、基板端に位置するガス供給口G2から供給するプロパンの流量よりも小さくする。こうすることで、図23に示すように、SiC基板SB1の基板中心(図23の基板端から35mmの位置)付近の不純物濃度が、SiC基板SB1の基板端(図23の基板端から0mmおよび70mmの位置)付近の不純物濃度よりも大きくなるような面内分布を有するエピタキシャル層SP1を形成することができる。
なお、窒素の流量の調整ではなく、プロパンの流量を調整することで、基板中心の不純物濃度と基板端の不純物濃度との間に差を有するエピタキシャル層を形成することもできる。これは、プロパンはSiCエピタキシャル層の原料であるため、プロパンの流量を減らすことで生じる空隙に窒素が取り込まれやすくなるからである。例えば、基板中心に位置するガス供給口G1から供給するプロパンの流量を、基板端に位置するガス供給口G2から供給するプロパンの流量よりも小さくする。こうすることで、基板中心の不純物濃度が基板端の不純物濃度よりも大きい面内分布を有するエピタキシャル層を形成することができる。
また、さらに、窒素の流量の調整とプロパンの流量の調整とを同時に行うことで、基板中心の不純物濃度と基板端の不純物濃度との差がさらに大きい面内分布を有するエピタキシャル層を形成することができる。具体的には、基板中心に位置するガス供給口G1から供給する窒素の流量を、基板端に位置するガス供給口G2から供給する窒素の流量よりも大きくすると共に、ガス供給口G1から供給するプロパンの流量を、基板端に位置するガス供給口G2から供給するプロパンの流量よりも小さくする。こうすることで、基板中心の不純物濃度が基板端の不純物濃度よりも大きい面内分布を有するエピタキシャル層を形成することができる。
また、エピタキシャル層が成長するに従い、ガス供給口G1から供給する窒素の流量を調整することにより、厚さ方向にも不純物濃度の分布を有するエピタキシャル層を形成することができる。具体的には、基板中心に位置するガス供給口G1から供給する窒素の流量を小さくして、基板端に位置するガス供給口G2から供給する窒素の流量に徐々に近づける。こうすることで、図20に示す本実施の形態のバッファ層BF1のように、SiC基板SB1側端部(位置Z2)からドリフト層EP1側端部(位置Z4)に至るまで、不純物濃度の面内分布を徐々に小さくすることができる。
また、バッファ層BF1の不純物濃度を大きく変化させるため、成膜条件を変化させながら、バッファ層BF1を数回に分けて形成してもよい。すなわち、一度原料ガスの供給を中止して成膜を停止し、原料ガスの流量、サセプタSUの設定温度、および、装置内の圧力を変化させ、その後、再度原料ガスの供給を開始して成膜を行ってもよい。
なお、変形例1として後述するように、SiC基板の基板端付近の不純物濃度を、SiC基板の基板中心付近の不純物濃度よりも大きくする場合には、ガス供給口G1から供給する窒素の流量を小さくする。こうすることで、図23に示すように、SiC基板の基板端(図23の基板端から0mmおよび70mmの位置)付近の不純物濃度が、SiC基板の基板中心(図23の基板端から35mmの位置)付近の不純物濃度よりも大きいエピタキシャル層SP2を形成することができる。
<変形例>
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
(変形例1)
本実施の形態の変形例である変形例1の炭化ケイ素積層基板45の主な特徴について、図24〜図27を用いて、前記実施の形態と比較しながら説明する。図24は、変形例1の炭化ケイ素積層基板45の断面図および平面図である。図25は、変形例1の炭化ケイ素積層基板45において、基板面内の位置と不純物濃度との関係を示すグラフである。図26は、変形例1の炭化ケイ素積層基板45において、基板中心の位置Oにおける厚さ方向の位置と不純物濃度との関係を示すグラフである。図27は、変形例1の炭化ケイ素積層基板45において、基板端の位置Xaにおける厚さ方向の位置と不純物濃度との関係を示すグラフである。
図24の断面図に示すように、変形例1の炭化ケイ素積層基板45は、SiC基板SB2と、SiC基板SB2上に形成されたバッファ層BF2と、バッファ層BF2上に形成されたドリフト層EP1と、により構成されている。
以下、図24の断面図に示すように、変形例1の炭化ケイ素積層基板45の厚さ方向の位置を、図19に示す前記実施の形態と同様に、位置Z1,Z2,Z3,Z4,Z5により表す。また、図24の平面図に示すように、変形例1の炭化ケイ素積層基板45の径方向の位置を、図19に示す前記実施の形態と同様に、位置O,Xa,Xbにより表す。また、図25において、基板中心OにおけるSiC基板SB2とバッファ層BF2との不純物濃度差を濃度差D2oと、基板端XaにおけるSiC基板SB2とバッファ層BF2との不純物濃度差を濃度差D2aと、基板端XbにおけるSiC基板SB2とバッファ層BF2との不純物濃度差を濃度差D2bと、夫々、表している。
なお、図24の平面図には、図19に示す前記実施の形態と同様に、変形例1の炭化ケイ素積層基板45上に素子が形成された後に、円板状の炭化ケイ素積層基板45に対してダイシング(個片化)工程を行って得られる半導体チップCHP2を模式的に示している。また、図24の平面図に示すように、位置Xa,Xbは、炭化ケイ素積層基板45の径方向端部から5mm〜10mm程度内側の点であり、炭化ケイ素積層基板45が前記ダイシング工程により半導体チップCHP2として個片化される領域(半導体チップ取得領域)の径方向端部を意味する。すなわち、炭化ケイ素積層基板45の位置Xa,Xbよりも外側の領域は、前記ダイシング工程により切断されて半導体チップCHP2として使用されない部分である。
まず、変形例1の炭化ケイ素積層基板45に含まれるバッファ層BF2の、径方向の位置と不純物濃度との関係について、前記実施の形態と比較しながら説明する。図25に示すように、変形例1の炭化ケイ素積層基板45は、図20に示す前記実施の形態の炭化ケイ素積層基板40と同様に、バッファ層BF2のSiC基板SB2側端部(位置Z2)の不純物濃度が面内分布を有している。そして、バッファ層BF2のSiC基板SB2側端部(位置Z2)の不純物濃度の面内分布は、SiC基板SB2のバッファ層BF2側端部(位置Z1)の不純物濃度の面内分布と一致している。
一方、図25に示すように、SiC基板SB2のバッファ層BF2側端部(位置Z1)の不純物濃度が、基板の基板中心Oが最も小さく、基板端Xaおよび基板端Xbに向かうに従って徐々に増加し、基板端Xaおよび基板端Xbが最も大きいという分布になっている。そのため、バッファ層BF2のSiC基板SB2側端部(位置Z2)の不純物濃度が、SiC基板SB1のバッファ層BF1側端部(位置Z1)の不純物濃度と同様に、基板の基板中心Oが最も小さく、基板端Xaおよび基板端Xbに向かうに従って徐々に増加し、基板端Xaおよび基板端Xbが最も大きいという分布になっている。この分布の違いが、変形例1の炭化ケイ素積層基板45と前記実施の形態の炭化ケイ素積層基板40との相違点である。
また、図25に示すように、変形例1のバッファ層BF2は、図20に示す前記実施の形態のバッファ層BF1と同様に、SiC基板SB2側端部(位置Z2)からドリフト層EP1側端部(位置Z4)に至るまで、不純物濃度の面内分布が徐々に小さくなるように形成されている。具体的には、図25に示すように、バッファ層BF2は、バッファ層BF2の厚さ方向中央部(位置Z3)において、SiC基板SB2側端部(位置Z2)よりも、基板中心Oの不純物濃度と基板端Xa,Xbの不純物濃度との差が小さくなるように形成されている。さらに、バッファ層BF2は、バッファ層BF2のドリフト層EP1側端部(位置Z4)において、不純物濃度が炭化ケイ素積層基板45の基板中心Oから基板端Xa,Xbに至るまで一定になるように形成されている。
続いて、変形例1の炭化ケイ素積層基板45に含まれるバッファ層BF2の、厚さ方向の位置と不純物濃度との関係について説明する。
図26に示すように、炭化ケイ素積層基板45の基板中心Oにおいて、SiC基板SB2のバッファ層BF2側端部(位置Z1)の不純物濃度は、濃度Cos2(3×1018cm−3)である。それに対して、バッファ層BF2のSiC基板SB2側端部(位置Z2)の不純物濃度は、濃度Cobs2(例えば2.4×1018cm−3)である。すなわち、図25および図26に示すように、基板中心Oにおいて、バッファ層BF2のSiC基板SB2側端部(位置Z2)の不純物濃度Cobs2(2.4×1018cm−3)は、SiC基板SB2のバッファ層BF2側端部(位置Z1)の不純物濃度Cos2(3×1018cm−3)よりも、不純物濃度差D2o(0.6×1018cm−3)だけ小さい。
また、炭化ケイ素積層基板45の基板中心Oにおいて、バッファ層BF2のドリフト層EP1側端部(位置Z4)の不純物濃度は、濃度Cobe2(例えば3×1015cm−3)である。また、ドリフト層EP1のバッファ層BF2側端部(位置Z5)の不純物濃度は、濃度Coe(例えば3×1015cm−3)である。バッファ層BF2のドリフト層EP1側端部(位置Z4)の不純物濃度Cobe2は、ドリフト層EP1のバッファ層BF2側端部(位置Z5)の不純物濃度Coeと同じである。
続いて、図27に示すように、炭化ケイ素積層基板45の基板端Xaにおいて、SiC基板SB2のバッファ層BF2側端部(位置Z1)の不純物濃度は、濃度Cas2(5×1018cm−3)である。それに対して、バッファ層BF2のSiC基板SB2側端部(位置Z2)の不純物濃度は、濃度Cabs2(例えば4.4×1018cm−3)である。すなわち、図25および図27に示すように、基板端Xaにおいて、バッファ層BF2のSiC基板SB2側端部(位置Z2)の不純物濃度Cabs2(4.4×1018cm−3)は、SiC基板SB2のバッファ層BF2側端部(位置Z1)の不純物濃度Cas2(5×1018cm−3)よりも、不純物濃度差D2a(0.6×1018cm−3)だけ小さい。
また、炭化ケイ素積層基板45の基板端Xaにおいて、バッファ層BF2のドリフト層EP1側端部(位置Z4)の不純物濃度は、濃度Cabe2(例えば3×1015cm−3)である。また、ドリフト層EP1のバッファ層BF2側端部(位置Z5)の不純物濃度は、濃度Cae(例えば3×1015cm−3)である。バッファ層BF2のドリフト層EP1側端部(位置Z4)の不純物濃度Cabe2は、ドリフト層EP1のバッファ層BF2側端部(位置Z5)の不純物濃度Caeと同じである。
なお、図25に示すように、変形例1の炭化ケイ素積層基板45において、SiC基板SB2、バッファ層BF2およびドリフト層EP1の不純物濃度の分布は、夫々、基板中心Oで対称となっている。そのため、基板端Xbの不純物濃度は、基板端Xaの不純物濃度と同じ分布を有しており、その説明を省略する。
以上の構成を有する変形例1の炭化ケイ素積層基板45の効果について説明する。
図25に示すように、変形例1の炭化ケイ素積層基板45では、図20に示す前記実施の形態の炭化ケイ素積層基板40と同様に、バッファ層BF2のSiC基板SB2側端部(位置Z2)の不純物濃度の面内分布は、SiC基板SB2のバッファ層BF2側端部(位置Z1)の不純物濃度の面内分布と一致している。その結果、図25に示すように、変形例1の炭化ケイ素積層基板45では、SiC基板SB2とバッファ層BF2との不純物濃度の差を基板面内で一定にすることができる。その結果、変形例1の炭化ケイ素積層基板45では、バッファ層BF2とSiC基板SB2との界面における、せん断応力の集中を緩和することにより、ミスフィット転位としてのBPDの発生を防止することができる。
また、せん断応力の集中を緩和するためにSiC基板SB2とバッファ層BF2との不純物濃度の差が基板面内で一定になるように維持しつつ、SiC基板SB2とバッファ層BF2との不純物濃度の差を小さくすることができる。その結果、バッファ層BF2とSiC基板SB2との界面における、せん断応力の集中を緩和することができるので、ミスフィット転位としてのBPDの発生をより確実に防止することができる。
なお、変形例1の炭化ケイ素積層基板45において、「面内」とは、前記実施の形態の炭化ケイ素積層基板40と同様に、炭化ケイ素積層基板(SiC基板、バッファ層およびドリフト層)内の任意の面における、図24の平面図に示す基板中心Oから基板端Xa,Xbまでの領域(半導体チップ形成領域)を意味し、基板端Xa,Xbよりも外側の領域は含まない。すなわち、変形例1の炭化ケイ素積層基板45において、例えば、「SiC基板SB2とバッファ層BF2との不純物濃度の差が基板面内で一定である」とは、「SiC基板SB2とバッファ層BF2との不純物濃度の差が、基板中心Oから基板端Xa,Xbまでの領域において一定である」ことを意味する。
なお、前記実施の形態の炭化ケイ素積層基板40および変形例1の炭化ケイ素積層基板45では、不純物濃度の分布が基板中心Oで対称となっている場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、バッファ層とSiC基板との界面において、バッファ層の不純物濃度の面内分布を、SiC基板の不純物濃度の面内分布と一致させることで、前記実施の形態の炭化ケイ素積層基板40および変形例1の炭化ケイ素積層基板45と同様の効果が得られる。
次に、変形例1のバッファ層BF2の形成方法について説明する。図6に示すCVD装置CDにおいて、前記実施の形態のバッファ層BF1と同様に、原料ガスであるシラン(SiH4)およびプロパン(C3H8)と、不純物ドーパントガスである窒素(N2)を用い、バッファ層BF2を形成する。ここで、変形例1のバッファ層BF2は、基板中心の不純物濃度が基板端の不純物濃度よりも小さい面内分布を有するエピタキシャル層として形成する。この場合は、基板端に位置するガス供給口G2から供給する窒素の流量を、基板中心に位置するガス供給口G1から供給する窒素の流量よりも大きくする。こうすることで、図23に示すように、SiC基板の基板端(図23の基板端から0mmおよび70mmの位置)付近の不純物濃度が、SiC基板の基板中心(図23の基板端から35mmの位置)付近の不純物濃度よりも大きいエピタキシャル層SP2を形成することができる。
また、エピタキシャル層が成長するに従い、ガス供給口G2から供給する窒素の流量を調整することにより、厚さ方向にも不純物濃度の分布を有するエピタキシャル層を形成することができる。具体的には、基板端に位置するガス供給口G2から供給する窒素の流量を小さくして、基板中央に位置するガス供給口G1から供給する窒素の流量に徐々に近づける。こうすることで、図25に示す変形例1のバッファ層BF2のように、SiC基板SB2側端部(位置Z2)からドリフト層EP1側端部(位置Z4)に至るまで、不純物濃度の面内分布を徐々に小さくすることができる。
(変形例2)
前記実施の形態および変形例1では、n型の炭化ケイ素積層基板について説明したが、炭化ケイ素積層基板の導電型(第1導電型)はp型であってもよい。この場合、前述した各種の基板、半導体層または半導体領域などに導入する不純物の導電型を、前述した説明とは異なる導電型とする。すなわち、各実施の形態でn型を有するものとして説明した基板、層および領域の導電型(第1導電型)をp型とし、p型を有するものとして説明した領域(例えば、図1に示すウェル領域80および第1コンタクト領域82)の導電型(第2導電型)をn型とする。この場合のp型の不純物としては、例えばB(ホウ素)またはAl(アルミニウム)を用いることができる。以上のように、p型の炭化ケイ素積層基板においても、SiC基板とバッファ層との界面において、バッファ層の不純物濃度の面内分布を、SiC基板の不純物濃度の面内分布と一致させることで、前記実施の形態の炭化ケイ素積層基板と同様の効果を得ることができる。
その他、実施の形態に記載された内容に対応するもの或いはその一部を以下に記載する。
(付記1)
炭化ケイ素を含む六方晶系半導体基板である第1導電型の第1基板と、
前記第1基板上に形成された、炭化ケイ素を含む前記第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層上に形成された、炭化ケイ素を含む前記第1導電型の第2半導体層と、
を有し、
前記第1半導体層に含まれる第1不純物の前記第1基板側の濃度と、前記第1基板に含まれる第3不純物の前記第1半導体層側の濃度との差は、面内で一定である、炭化ケイ素積層基板。
(付記2)
付記1記載の炭化ケイ素積層基板において、
前記第1基板の前記第3不純物の前記第1半導体層側の濃度は、面内で一定でない、炭化ケイ素積層基板。
(付記3)
付記1記載の炭化ケイ素積層基板において、
前記第2半導体層に含まれる第2不純物の前記第1半導体層側の濃度と、前記第1半導体層の前記第1不純物の前記第2半導体層側の濃度との差は、面内で一定である、炭化ケイ素積層基板。
(付記4)
付記3記載の炭化ケイ素積層基板において、
前記第2半導体層の前記第2不純物の前記第1半導体層側の濃度は、面内で一定であり、
前記第1半導体層の前記第1不純物の前記第2半導体層側の濃度は、面内で一定である、
炭化ケイ素積層基板。
(付記5)
付記1記載の炭化ケイ素積層基板において、
前記第1基板の前記第1半導体層側は、前記第3不純物の濃度が、面内の中央から端に向かって徐々に小さくなる濃度勾配を有し、
前記第1半導体層の前記第1基板側は、前記第1不純物の濃度が、面内の中央から端に向かって徐々に小さくなる濃度勾配を有する、炭化ケイ素積層基板。
(付記6)
付記5記載の炭化ケイ素積層基板において、
前記第1半導体層は、前記第1基板側から前記第2半導体層側に向かって前記第1不純物の前記濃度勾配が徐々に小さくなる、炭化ケイ素積層基板。
(付記7)
付記1記載の炭化ケイ素積層基板において、
前記第1基板の前記第1半導体層側は、前記第3不純物の濃度が、面内の中央から端に向かって徐々に大きくなる濃度勾配を有し、
前記第1半導体層の前記第1基板側は、前記第1不純物の濃度が、面内の中央から端に向かって徐々に大きくなる濃度勾配を有する、炭化ケイ素積層基板。
(付記8)
付記7記載の炭化ケイ素積層基板において、
前記第1半導体層は、前記第1基板側から前記第2半導体層側に向かって前記第1不純物の前記濃度勾配が徐々に小さくなる、炭化ケイ素積層基板。
(付記9)
炭化ケイ素を含む六方晶系半導体基板である第1導電型の第1基板と、
前記第1基板上に形成された、炭化ケイ素を含む前記第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層上に形成された、炭化ケイ素を含む前記第1導電型の第2半導体層と、
を有し、
前記第1基板に含まれる第3不純物の前記第1半導体層側の濃度は、面内の中央から端に向かって徐々に小さくなる濃度勾配を有し、
前記第1半導体層に含まれる第1不純物の前記第1基板側の濃度は、面内の中央から端に向かって徐々に小さくなる濃度勾配を有し、
前記第2半導体層に含まれる第2不純物の前記第1半導体層側の濃度は、面内で一定であり、
前記第1半導体層の前記第1不純物の前記第2半導体層側の濃度は、面内で一定である、炭化ケイ素積層基板。
(付記10)
付記9記載の炭化ケイ素積層基板において、
前記第1半導体層は、前記第1基板側から前記第2半導体層側に向かって前記第1不純物の前記濃度勾配が徐々に小さくなる、炭化ケイ素積層基板。
(付記11)
炭化ケイ素を含む六方晶系半導体基板である第1導電型の第1基板と、
前記第1基板上に形成された、炭化ケイ素を含む前記第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層上に形成された、炭化ケイ素を含む前記第1導電型の第2半導体層と、
を有し、
前記第1基板に含まれる第3不純物の前記第1半導体層側の濃度は、面内の中央から端に向かって徐々に大きくなる濃度勾配を有し、
前記第1半導体層に含まれる第1不純物の前記第1基板側の濃度は、面内の中央から端に向かって徐々に大きくなる濃度勾配を有し、
前記第2半導体層に含まれる第2不純物の前記第1半導体層側の濃度は、面内で一定であり、
前記第1半導体層の前記第1不純物の前記第2半導体層側の濃度は、面内で一定である、炭化ケイ素積層基板。
(付記12)
付記11に記載の炭化ケイ素積層基板において、
前記第1半導体層は、前記第1基板側から前記第2半導体層側に向かって前記第1不純物の前記濃度勾配が徐々に小さくなる、炭化ケイ素積層基板。