図1及び図2は、本発明の第1の実施の形態による耐震装置の概略構成を例示する図であり、図1は通常時の状態を示し、図2は地震発生時の状態を示している。この耐震装置211は、建物201の壁面2に沿うように設置されている。壁面2には、出入り口をなす開口部が形成され、この開口部を開閉する扉1が設けられている。図では、耐震装置211の構造を明瞭に示すために、壁面2が正面となるように建物201を表している。以後において、「上」、「下」、「左」、「右」等の方向及び位置を表す語は、耐震装置211が配置される壁面2を正面に見たときの方向及び位置を表す。
建物201は、一例として住宅家屋であり、壁面2を左右から挟むように、基礎3の上に柱5,7が立設されている。柱5,7は、一例として、一階と二階とを通貫する通し柱である。一階の床面には、床板11が配設されている。床板11は床根太10に支えられる。一階の天井面には天井板12が配設され、一階と二階との間には梁13が配置される。天井板12は、一例として、扉1を案内する横架材14の下面の高さに配設されている。柱5,7の上部と梁13との間には、一例として補強材15,17が設けられている。ここで、柱5,7の「上部」とは、柱5,7の一階部分の「上部」の意である。これらの柱5,7、床根太10、及び補強材15,17は、いずれも建物201の構成部材であり、耐震装置211の各構成要素を取り付けるのに利用される。
耐震装置211は長尺部材19を有しており、長尺部材19は、互いに回動可能に連結された長尺要素21,23を有している。長尺要素21の一端は、補強材15に回動可能に支持されており、他端は長尺要素23の一端に回動可能に連結されている。長尺要素23の他端は、錘25に回動可能に連結されている。長尺要素23は、筒状体27と、この筒状体27に摺動自在に挿入された棒状体29とを有しており、それにより望遠鏡(テレスコープ)式に伸縮自在となっている。筒状体27及び棒状体29の断面形状は、一例として矩形である。さらに、長尺要素23は、長尺要素21と自身との連結部を超えて、更に長手方向に延びる延在部20を有している。一例として、延在部20は断面矩形の棒状であり、長尺要素21は、延在部20を受け入れるように、断面「コ」字状の部材である。
柱7には、錘25を鉛直方向に摺動自在に案内する長尺の案内部材31が、スペーサ22を介して固定されている。案内部材31は、さらに、その下端部が建物構造材44にネジ止めされている。建物構造材44は、例えば基礎3又は柱5,7に固定されている。錘25が案内部材31に沿って鉛直方向に滑ることにより、長尺要素21,23は、柱5、7の中心軸を含む平面に平行な平面内、言い換えると壁面2に沿った平面内で回動する。この平面は、一種の仮想平面であり、本発明の鉛直矩形領域の一具体例に該当する。長尺要素21,23の回動に伴って、棒状体29が筒状体27に対して摺動することにより、長尺要素23が伸縮する。
柱7又は補強材17には、錘25を解除可能に係止する錘係止機構33が取り付けられている。錘係止機構33は、錘25に連結する長尺要素23の他端が、長尺要素21の一端よりも低く、かつ扉1により開閉される壁面2の開口部よりも僅かに高い位置、すなわち天井板12よりも僅かに高い位置となるように、錘25を係止する。図1に示すように、錘係止機構33は、地震の無い通常時においては錘25を係止しているが、地震が発生すると、図2に示すように、係止状態を解除し、錘25を落下させる。長尺要素23は、地震の無い通常時において、水平の姿勢となるように、その長さを保持する長さ保持機構24を有している。長さ保持機構24は、地震が発生することにより錘25が落下するときには、保持状態を解除し、長尺要素23の伸張を可能にする。長さ保持機構24の構成例については、後述する。
図3は、錘25の概略構成を例示する斜視図である。また、図4は、錘25の通路を開く機構の構成を例示する斜視図である。錘25は、直立する案内部材31に摺動自在に支持されている。錘25には、長尺要素23の他端が軸支されている。錘25は、落下するときには、床板11の下方(すなわち床下)にまで侵入する。このため、床板11には、錘25の通過を可能にする開口部が形成されており、さらに、この開口部を開閉可能に覆う蓋体26が設けられている。図4の例では、蓋体26は、水平方向にスライドすることにより、開口部を開閉する。床板11の裏(すなわち下方)及び壁面28の裏には、管状体30が配設されており、この管状体30にはワイヤ等の紐体32が挿通されている。紐体32の一端は、蓋体26に連結され、他端は錘25と係合するフック(鉤状体)34に連結されている。フック34は、壁面28の表側への管状体30の開口端36から、紐体32により壁面28の表側に吊り下げられた状態で、錘25を待ち受ける。錘25が落下してくると、フック34は、錘25の底面に形成された断面「V」字状の凹部50に係合する。錘25の降下に伴い、紐体32の他端がフック34により引き下げられ、その結果、紐体32の一端が連結する蓋体26が開かれる。それにより、錘25は開口部を通過可能となる。
図2に戻って、錘25が案内部材31に案内されて落下し、床下に達すると、戻り止め機構35により、錘25の逆戻りが制止される。戻り止め機構35は、係止部材37を有している。係止部材37は、例えば柱7、床根太10、建物構造材44のいずれかに固定された板状部材など、床下に配置される建物の構造体(図視略)に回動可能に軸支される。係止部材37には、錘25の側面に形成された鈎状の後退部45(図3参照)に係合する、鈎状の突起部42が形成されている。係止部材37は、同じく構造部材(図視略)に設けられたストッパー40に当接することにより、回動範囲が制限される。床根太10に設けられた弾性部材39、41により、係止部材37はストッパー40に当接した状態を維持するように付勢される。係止部材37は、この姿勢を維持しつつ、錘25の落下を待ち受ける。錘25が落下してくると、係止部材37の突起部42は、錘25に押しのけられ、さらに錘25の後退部45に係合する。それにより、錘25の逆戻り(すなわち、再上昇)が妨げられる。すなわち、戻り止め機構35は、スナップフィット構造をなしている。一例として、弾性部材39はゴムなどの弾性体であり、弾性部材41は圧縮コイルバネである。2種類の弾性部材39、41を用いることなく、弾性部材41のみを用いてもよい。
地震の発生により錘25が落下し、戻り止め機構35により、錘25の逆戻りが制止されたときには、長尺部材19の伸縮止め機構43により、長尺要素23は伸縮を制止され、一定の長さを保持する。それと同時に、延在部20は長尺要素21の中に納まり、それらの軸方向が互いに重なり合う。長尺部材19には屈曲制止機構47が設けられており、この屈曲制止機構47の働きにより、軸方向が重なり合った長尺要素21と延在部20とは、互いに開かないように回動が制止される。それにより、長尺要素21,23は、互いに屈曲が妨げられ、図2の例示するように、一直線の形状に保持される。このように、戻り止め機構35により、錘25の逆戻りが制止されたときには、長尺部材19は、伸縮も屈曲も制止され、一本の棒のように振る舞う。それにより、長尺部材19は筋交いとして機能し、建物201の耐震性を高める。一本の棒のように振る舞うときの長尺部材19の長さは、地震が無く建物201に変形がないときに、錘25が戻り止め機構35により逆戻りを制止された場合に、筋交いを形成する長尺部材19の長さとなるように、伸縮止め機構43が設定される。
図2の例では、錘25は上昇が戻り止め機構35により制止され、下降は制止されない。従って、長尺部材19は、もっぱら引張り力(張力)に対して、抗力を発揮する。これに対し、錘25の下降を妨げるように、図2の位置にある錘25の下方に、錘25を支える錘支持部材52を配置しても良い。図2に点線で例示する錘支持部材52は、ブロック状の部材であり、例えば建物構造材44の上に固定される。錘支持部材52は、例えばゴムのような圧縮強度の高い弾性体であってもよい。このような部材を配置した場合には、長尺部材19は、圧縮力に対しても抗力を発揮する筋交いとして機能するので、建物201の耐震性がさらに向上する。
図5は、長尺部材19の長さ保持機構24及び伸縮止め機構43の構成を例示する断面図である。この例では、長尺要素23のうち筒状体27の側壁に、貫通孔49,51が形成されており、長尺要素23のうち棒状体29には、窪み53及び貫通孔55が形成されている。また、筒状体27の側壁には、貫通孔49,51を貫通可能なピン57と、ピン57を摺動可能に支持するピン支持部材59が設置されている。ピン支持部材59には、貫通孔49,51を貫通するようにピン57を付勢する弾性部材61が、設けられている。これらの構成要素のうち、窪み53は専ら長さ保持機構24を構成し、貫通孔55は専ら伸縮止め機構43を構成する。その他の構成要素は、長さ保持機構24と伸縮止め機構43の双方を構成する。
地震が無い通常時においては、図5に例示するように、ピン57の先端部は、棒状体29の窪み53に入り込んでいる。それにより、棒状体29は筒状体27に対する摺動が制止され、長尺要素23の長さが一定に保持される。図1に例示する長尺要素23は、この状態にある。長尺要素23が水平の姿勢となるように、軸方向に沿った窪み53の位置が選択される。地震が発生し錘25が落下すると、長尺要素23を伸ばすように、棒状体29には図5の矢印の方向に強い力が働く。その結果、窪み53とピン57との係合状態は解除され、棒状体29は筒状体27に案内されつつ矢印の方向に摺動する。このように、棒状体29にある程度以上の力が付与されると、窪み53とピン57の先端部との係合状態は外れる。錘25が戻り止め機構35により係止されたときには、棒状体29の貫通孔55は、筒状体27の貫通孔49,51と重なる。その結果、ピン57は、これら3つの貫通孔49,55,51を貫通する。それにより、棒状体29は筒状体27にピン止めされ、長尺要素23の伸縮が制止される。図2に例示する長尺要素23は、この状態にある。ピン57を人為的に引き抜かない限り、棒状体29と筒状体27のピン止め状態は解除されない。
図6は、屈曲制止機構47の構成を例示する図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。図示の屈曲制止機構47は、図5に例示した伸縮止め機構43と類似した構造を有する。すなわち、断面「コ」字状の長尺要素21の側壁に、貫通孔63,65が形成されており、延在部20には、貫通孔67が形成されている。また、長尺要素21の側壁には、貫通孔63,65を貫通可能なピン69と、ピン69を摺動可能に支持するピン支持部材71が設置されている。ピン支持部材71には、貫通孔63,65を貫通するようにピン69を付勢する弾性部材73が、設けられている。ピン支持部材71には、さらに、ピン69の先端部の位置を規制する、板状の位置規制部材75が設けられている。ピン69の先端部は、位置規制部材75に形成された貫通孔77を貫通する。
位置規制部材75と長尺要素21との間には、ピン69が貫通孔63、65を貫通することを妨げる、板状のピン阻止部材79が挿入されている。ピン阻止部材79は、ピン69の先端部の押圧を受けることによる摩擦力によって、位置ずれすることなく、位置規制部材75と長尺要素21との間に保持される。図示の通り、ピン阻止部材79は、延在部20を迎え入れる側に、突出するように設置される。ピン阻止部材79の突出した部分には、ピン69が貫通可能な貫通孔81が形成されている。
長尺要素21から見た延在部20における貫通孔67の背後には、貫通孔67が開口する延在部20の表面から突出する板状の突出部材83が設けられている。地震が発生し、錘25が落下するのに伴い、延在部20は長尺要素21に接近するように回動し、さらに長尺要素21の溝90の中に迎え入れられる。このとき、突出部材83がピン阻止部材79に当接し、ピン阻止部材79を押す。ピン阻止部材79は、ピン69の先端部の押圧を受けることによる摩擦力のみによって、位置ずれが妨げられるものであるから、突出部材83の押圧に抗しきれずに後退する。その結果、ピン阻止部材79の貫通孔81が、ピン69の先端部の位置に達することにより、ピン69は、貫通孔81,63,67,65を貫通する。それにより、延在部20は、長尺要素21の溝90に収容された状態で、長尺要素21にピン止めされ、長尺部材19の屈曲が制止される。ピン69を人為的に引き抜かない限り、延在部20と長尺要素21のピン止め状態は解除されない。
図7及び図8は、錘係止機構33の構成を例示する図であり、図7は斜視図、図8(a)は平面断面図、図8(b)は正面図である。錘係止機構33は、錘25の側壁に形成された係止用孔91に挿入されることにより、錘25を係止するピン93を有している。ピン93は、係止用孔91に抜き差し可能となるように、ピン支持部材95に支持されている。ピン支持部材95は、補強材17などの建物構造材に、例えばネジ止めなどにより固定されている。ピン93は、弾性部材97により、係止を解除する方向に付勢されている。弾性部材97は、一例として圧縮コイルバネである。地震の無い通常時においては、ピン93は、ピン支持部材95に回動可能に支持される押さえレバー99によって、錘25を係止する方向に押さえられている。押さえレバー99は、弾性部材101により、ピン93を押さえる方向に付勢されている。弾性部材101は、一例として引張コイルバネである。押さえレバー99は、ワイヤなどの紐体103により、地震発生時に傾動する傾動レバー105(図1、図2参照)に連結されている。傾動レバー105が傾動することにより、押さえレバー99はピン93から外れ、それによりピン93は、錘25の係止用孔91から離れ、錘25の係止状態を解除する。
ピン93は、磁石107が配置されたフランジ109を有している。磁石107に対向するように、別の磁石110がピン支持部材95に配置されている。ピン93は、その軸周りに回動可能なように、ピン支持部材95に支持されている。地震のない通常時においては、ピン93は、磁石107と磁石110とが、互いに反対極性(すなわち引き合う極性)をもって吸着する回動位置にある。ピン93の頭部には、ピン93を回動させるための回動レバー111が連結されている。回動レバー111は、ワイヤなどの紐体113により、傾動レバー105(図1、図2参照)に連結されている。上記の通り、傾動レバー105が傾動することにより、押さえレバー99はピン93から外れ、それによりピン93は、錘25の係止用孔91から離れる。このとき、回動レバー111が、磁石107と磁石110とが、互いに同一極性(すなわち反発し合う極性)をもって対向する回動位置にまで回動する。磁石107と磁石110との反発力により、ピン93を錘25の係止用孔91から抜き取る力が加増される。このため、弾性部材97の付勢力が不足した場合であっても、錘25の係止状態を解除することが可能となる。磁石107と磁石110とが互いに吸着しているときには、ピン93を回動させるには大きな力を要する。このため、傾動レバー105が傾動すると、押さえレバー99をピン93から外し、その後に、ピン93を回動させるように、紐体103よりも紐体113を緩めに設定するのが望ましい。
図1及び図2に戻って、傾動レバー105は、何らかの建物構造材(図視略)に固定された回動軸114に、回動可能に支持されている。この建物構造材は、例えば梁13に固定された板状部材である。耐震装置211と左右対称に別の長尺部材19が並置される場合には、図示の通り、傾動レバー105には、別の長尺部材19のための錘係止機構33に連結される紐体115、117が連結される。傾動レバー105は、弾性部材119により、紐体103、113、115、117を引張る方向に付勢されている。弾性部材119は、例えば梁13に固定された板状部材(図視略)など、何らかの建物構造材に支持されており、一例として、引張コイルバネである。弾性部材119の引張力は、一対の錘係止機構33による錘25の係止状態を解除するのに足りる強さを保有する。
地震のない通常時においては、傾動レバー105は、傾動制止レバー121により、傾動を制止されている。傾動制止レバー121は、例えば梁13に固定された板状部材(図視略)などの何らかの建物構造材に、回動可能に支持されている。傾動制止レバー121には、ワイヤ等の紐体123が連結されている。紐体123は、例えば梁13に固定された板状部材(図視略)などの何らかの建物構造材に、支持される中継部材124により、延在する方向が転換され、図9に例示する地震検知用錘125に連結されている。地震検知用錘125は、柱7等の建物構造材に支持された錘保持部材127に保持されている。錘保持部材127は、一例として円環状部材129を有しており、この円環状部材129の上に、地震検知用錘125が載置される。
所定以上の強さの地震が発生すると、地震検知用錘125は、錘保持部材127から転落する。その結果、地震検知用錘125の重力又は落下に伴う衝撃が、紐体123を通じて傾動制止レバー121に伝えられる。この重力又は衝撃によって、傾動制止レバー121は、図2に例示するように、傾動レバー105の制止状態を解除する。その結果、弾性部材119の引張力により、紐体103、113、115、117に張力が付与され、錘係止機構33による錘25の係止状態が解除される。錘保持部材127、地震検知用錘125、及び、地震検知用錘125の動きを機械的に伝達する紐体123から紐体103、113、115、117までの伝達機構は、本発明の係止解除機構の一具体例を構成する。
図1及び図2に例示するように、扉1はスライド式の扉である、扉1が図示の閉じた状態を維持するように、扉1を案内するレールは、僅かに傾斜しているのが望ましい。天井板12の上方(すなわち天井裏)には、傾動レバー105等の伝達機構の他に、扉1が閉じていないときには、錘係止機構33による錘25の係止状態の解除を妨げる係止解除阻止機構130が設置されている。係止解除阻止機構130は、一例として傾動レバー105の傾動を妨げる傾動阻止レバー132を有している。傾動阻止レバー132は、回動軸131に回動可能に支持されている。回動軸131は、例えば横架材14に固定された板状部材(図視略)などの何らかの建物構造材に、固定されている。傾動阻止レバー132は、回動軸131に対して、一方の重量及び長さが他方よりも大きくなるように設定されており、それにより、図示において正面視右回りの方向に傾くように付勢されている。扉1には、その上端から上方に突出し、傾動阻止レバー132の上面を押さえる押さえ部材133が設けられている。押さえ部材133には、傾動阻止レバー132の上面を転動する、ローラなどの転動体135が設けられている。
扉1を開閉すると、押さえ部材133は扉1と共に並進する。傾動阻止レバー132の上面は、一種のカム面をなしており、凹凸が形成されている。それにより、扉1が閉じられているときには、傾動阻止レバー132は、押さえ部材133により、付勢力に抗して正面視左回りの方向に傾くように、上面が押さえられる。このとき、傾動レバー105に近接する傾動阻止レバー132の端部は、傾動レバー105とは干渉しない下方に退避する。図1及び図2は、この状態にある傾動阻止レバー132を、実線で表している。
これに対し、扉1を開くと、押さえ部材133の転動体135は、傾動阻止レバー132の上面に形成された後退部に位置するようになる。図1は、扉1を開いたときの押さえ部材133の位置を、点線により例示している。その結果、傾動阻止レバー132は付勢力に従い、正面視右回りの方向に傾く。このとき、傾動レバー105に近接する傾動阻止レバー132の端部は、傾動レバー105の傾動を妨げるように、持ち上がる。図1は、この状態にある傾動阻止レバー132を、点線で表している。従って、扉1が閉じられていないときには、地震が発生して地震検知用錘125の重力ないし衝撃が、傾動制止レバー121に伝えられ、傾動レバー105が傾動しようとしても、傾動阻止レバー132の端部により、傾動が妨げられる。従って、錘25は落下せず、長尺部材19は筋交いを形成しない。
以上に述べたことから、耐震装置211は以下のような利点を有することが理解される。地震の検知から筋交いの形成までの動作が、すべて機械的に実現され、電気的機構を要しないので、地震により停電が発生しても、動作が妨げられない。また、規定を超える地震が到来しない通常時においては、長尺部材19が出入口に干渉しないので、出入口の機能が妨げられない。さらに、通常時においては、長尺要素23が、天井板12よりも僅かに高い位置において、水平の姿勢となる。このため、天井裏に配設されることの多い配管等が、長尺部材19と干渉することを回避することができる。さらに、扉1が閉じていないときには、地震の発生があっても筋交いが形成されないので、開かれた扉1を通じて出入りしている人が、筋交いの形成によって出入りを妨げられることがない。
図10及び図11は、本発明の第2の実施の形態による耐震装置の概略構成を例示する図であり、図10は通常時の状態を示し、図11は地震発生時の状態を示している。この耐震装置212は、長尺部材19に代えて、長尺部材137が用いられている点において、図1〜図9に例示した耐震装置211とは異なっている。長尺部材137の一端は、補強材15に回動可能に支持されており、他端は錘25に回動可能に連結されている。長尺部材137は、筒状体139と、この筒状体139に摺動自在に挿入された棒状体141と、を有しており、それにより望遠鏡(テレスコープ)式に伸縮自在となっている。図示の例では、筒状体139の端部が補強材15に支持され、棒状体141の端部が錘25に連結されている。筒状体139及び棒状体141の断面形状は、一例として矩形である。錘係止機構33は、地震のない通常時において、長尺部材137が水平となる高さに、錘25を係止する。地震の発生により錘25が落下するときには、長尺部材137は伸張しながら、一端の周りに回動する。
長尺部材137は、屈曲可能な長尺部材19(図1、図2参照)よりも、構造が簡素である。長尺部材137は、長尺部材19の長尺要素23と同様に、伸縮止め機構143を有している。その構造は、一例として、図5に例示した伸縮止め機構43と同じである。地震の発生により錘25が落下し、さらに戻り止め機構35により、錘25の逆戻りが制止されたときには、長尺部材137の伸縮止め機構143により、長尺部材137は伸縮を制止され、一定の長さを保持する。それにより、長尺部材137は筋交いとして機能し、建物201の耐震性を高める。伸縮が制止され、一本の棒のように振る舞うときの長尺部材137の長さは、地震が無く建物201に変形がないときに、錘25が戻り止め機構35により逆戻りを制止された場合に、筋交いを形成する長尺部材137の長さとなるように、伸縮止め機構143が設定される。図2に例示したように、錘25の下降を妨げる錘支持部材52を配置しても良い。
図12及び図13は、本発明の第3の実施の形態による耐震装置の概略構成を例示する図であり、図12は通常時の状態を示し、図13は地震発生時の状態を示している。この耐震装置213は、筋交いを形成する部材として、剛性を有する長尺部材19,137に代えて、ワイヤなどの紐体145が用いられている点において、図1〜図11に例示した耐震装置211、212とは異なっている。紐体145の一端は、補強材15に止められており、他端は錘25に連結されている。補強材17には、紐体145を解除可能に中継する中継機構147が取り付けられている。それにより、錘25は、紐体145により吊り下げられた状態に保持される。地震のない通常時には、紐体145は、補強材15に止められる一端から中継機構147に中継されるまでの区間において、略水平に延びる。
図14及び図15は、中継機構147の構成を例示する図であり、図14は斜視図、図15は平面断面図である。中継機構147は、錘係止機構33(図7、図8参照)と類似の構成を有しており、ピン151が錘25を係止する代わりに、紐体145を止める点が、錘係止機構33と異なっている。ピン151は、紐体145が通される紐体室153に抜き差し可能となるように、ピン支持部材155に支持されている。ピン支持部材155は、補強材17などの建物構造材に、例えばネジ止めなどにより固定されている。ピン151は、弾性部材97により、係止を解除する方向に付勢されている。地震の無い通常時においては、ピン151は、ピン支持部材155に回動可能に支持される押さえレバー99によって、紐体室153に挿入される方向に押さえられている。押さえレバー99は、紐体103により、地震発生時に傾動する傾動レバー105(図12、図13参照)に連結されている。
ピン151は、その軸周りに回動可能なように、ピン支持部材155に支持されている。ピン151の頭部には、ピン151を回動させるための回動レバー111が連結されている。回動レバー111は、ワイヤなどの紐体113により、傾動レバー105(図12、図13参照)に連結されている。傾動レバー105が傾動することにより、押さえレバー99はピン151から外れ、それによりピン151は、紐体室153から離れる。このとき、回動レバー111が、磁石107と磁石110とが、互いに同一極性(すなわち反発し合う極性)をもって対向する回動位置にまで回動する。磁石107と磁石110との反発力により、ピン151を紐体室153から抜き取る力が加増される。
図13に戻って、地震の発生により、傾動レバー105が傾動し、中継機構147による紐体145の中継状態が解除されると、錘25が案内部材31に案内されつつ落下する。錘25が床下に達すると、戻り止め機構35により、錘25の逆戻りが制止される。それにより、紐体145は筋交いとして機能し、建物201の耐震性を高める。紐体145の長さは、地震が無く建物201に変形がないときに、錘25が戻り止め機構35により逆戻りを制止された場合に、筋交いを形成する長さに設定される。図2に例示したように、錘25の下降を妨げる錘支持部材52を配置しても良い。なお、図12及び図13において、図1及び図2の係止解除機構に相当する部分は、本願発明の中継解除機構の一具体例に該当する。また、同様に係止解除阻止機構に相当する部分は、本願発明の中継解除阻止機構の一具体例に該当する。
図16及び図17は、本発明の第4の実施の形態による耐震装置の概略構成を例示する図であり、図16は通常時の状態を示し、図17は地震発生時の状態を示している。この耐震装置214は、錘25が用いられず、筋交いを形成する部材である紐体145の他端が、弾性部材157に連結されている点において、図12、図13に例示した耐震装置213とは異なっている。弾性部材157は、床板11の下方、すなわち床下に配置され、その一端は、床下に設置される建物構造材159に止められている。弾性部材157は、一例として引張コイルバネである。紐体145には、弾性部材157により張力が付与される。
張力が付与された紐体145は、補強材15に止められた一端から中継機構147まで水平に延び、中継機構147からは下方に延び、さらに床下において別の中継機構161により、延在の方向が水平方向に転換される。中継機構161は、床下に設置される別の建物構造材162に取り付けられている。建物構造材159,162は、一例として、柱5,7、床根太10などに固定された板状部材である。中継機構161は、一例として、建物構造材162に固定された回転軸と、この回転軸に回転自在に支持されたローラとを有している。
中継機構161から水平に延びる紐体145は、戻り止め機構163を通過して、弾性部材157に連結される。戻り止め機構163は、弾性部材157により引き寄せられた紐体145が、逆戻りするのを阻止する。戻り止め機構163には、ロープ、ワイヤなどの紐体の逆戻りを阻止する、従来周知の装置を使用可能である。
図17に例示するように、地震の発生により、傾動レバー105が傾動し、中継機構147による紐体145の中継状態が解除されると、弾性部材157の引張力により、紐体145が瞬時に引き寄せられる。その結果、紐体145は筋交いを形成する。引き寄せられた紐体145は、戻り止め機構163により逆戻りが阻止されるので、建物201の耐震性を高める筋交いとして機能する。
図18及び図19は、本発明の第5の実施の形態による耐震装置の概略構成を例示する図であり、図18は通常時の状態を示し、図19は地震発生時の状態を示している。この耐震装置215は、中継機構147が建物構造材159に固定されており、それに伴い、傾動レバー105等の中継解除機構、及び傾動阻止レバー165等の中継解除阻止機構が、床下に配置されている点が、耐震装置214(図16,図17参照)とは異なっている。地震のない通常時に傾動レバー105の傾動を制止する傾動制止レバー167は、回動軸に対し傾動レバー105に近接する側の反対側が長く延びており、それにより傾動レバー105の傾動を制止する回動位置へ付勢されている。傾動レバー105及び傾動制止レバー167は、何らかの建物構造材(図視略)に回動可能に支持されている。この建物構造材は、例えば、床根太10に固定された板状部材である。
図19に例示するように、地震の発生により、傾動レバー105が傾動し、中継機構147による紐体145の中継状態が解除されると、弾性部材157の引張力により、紐体145が瞬時に引き寄せられる。その結果、紐体145は筋交いを形成する。引き寄せられた紐体145は、戻り止め機構163により逆戻りが阻止されるので、建物201の耐震性を高める筋交いとして機能する。
扉1が閉じられていないときに傾動レバー105の傾動を妨げる傾動阻止レバー165は、建物構造材159に回動可能に支持されている。それにより、図示において正面視左回りの方向に傾くように付勢されている。扉1には、その下端から下方に突出し、傾動阻止レバー165の下面を押さえる押さえ部材171が設けられている。押さえ部材171には、傾動阻止レバー165の下面を転動する、ローラなどの転動体173が設けられている。
扉1を開閉すると、押さえ部材171は扉1と共に並進する。傾動阻止レバー165の下面は、一種のカム面をなしており、凹凸が形成されている。それにより、扉1が閉じられているときには、傾動阻止レバー165は、押さえ部材171により、付勢力に抗して正面視右回りの方向に傾くように、下面が押し上げられる。このとき、傾動レバー105に近接する傾動阻止レバー165の端部は、傾動レバー105とは干渉しない上方に退避する。図18及び図19は、この状態にある傾動阻止レバー165を、実線で表している。
これに対し、扉1を開くと、押さえ部材171の転動体173は、傾動阻止レバー165の下面に形成された後退部に位置するようになる。図18は、扉1を開いたときの押さえ部材171の位置を、点線により例示している。その結果、傾動阻止レバー165は付勢力に従い、正面視左回りの方向に傾く。このとき、傾動レバー105に近接する傾動阻止レバー165の端部は、傾動レバー105の傾動を妨げるように、下降する。図18は、この状態にある傾動阻止レバー165を、点線で表している。従って、扉1が閉じられていないときには、地震が発生して地震検知用錘125の重力ないし衝撃が、傾動制止レバー167に伝えられ、傾動レバー105が傾動しようとしても、傾動阻止レバー165の端部により、傾動が妨げられる。従って、中継機構147による紐体145の中継は解除されず、紐体145は筋交いを形成しない。
図20及び図21は、本発明の第6の実施の形態による耐震装置の一部の概略構成を例示する図であり、図20は通常時の状態を示し、図21は地震発生時の状態を示している。この耐震装置216は、一例として図1及び図2に示した耐震装置211において、紐体123から分岐した紐体123Aを、さらに有している。紐体123Aの一端は、紐体123の中途部分に連結され、他端は傾動レバー105に連結されている。
所定以上の強さの地震が発生すると、地震検知用錘125(図9参照)の重力又は落下に伴う衝撃が、紐体123を通じて傾動制止レバー121に伝えられる。この重力又は衝撃によって、傾動制止レバー121は傾動レバー105の制止状態を解除する。その結果、傾動レバー105は、弾性部材119の引張力により、図21に例示するように傾動し、紐体103、113、115、117に張力を付与する。このとき、紐体123から分岐した紐体123Aは、弾性部材119と協働して、傾動レバー105を傾動させる。弾性部材119は、傾動レバー105を傾動させるのに十分な弾性復元力を有するとしても、紐体123Aを設けることにより、傾動レバー105の傾動の確実性が高められる。建物201の寿命が数十年の長期に及ぶことを考慮すると、傾動レバー105を傾動させるのに、二重の機構を設けることは有意義である。
地震検知用錘125の衝撃が、紐体123を通じて傾動制止レバー121に伝えられ、傾動制止レバー121が傾動レバー105の制止状態を解除した後に、紐体123Aの張力が傾動レバー105に伝えられるのが望ましい。このために、図20に例示するように、地震発生前の通常の状態において、紐体123Aは、傾動制止レバー121に連結する紐体123よりも、幾分緩めに設定するのが望ましい。なお、紐体123から分岐する紐体123Aは、例示した耐震装置211だけでなく、他の耐震装置212〜215にも、同様に設けることが可能である。
図22は、本発明の第7の実施の形態による耐震装置の概略構成の一部を例示する図であり、通常時の状態を示している。また、図23は、図22の扉及び案内レールの構造を示す断面図である。この耐震装置217は、耐震装置211〜214において、傾動阻止レバー132が傾動阻止レバー177に置き換えられた構造を有する。図22及び図23において、図1〜図21の部材と同等に機能する部材については、同一の符号を付している。同一の符号を付した部材については、その詳細な説明は略する。
扉1は、例えば上端部にローラなどの転動体179を有しており、この転動体179が案内レール181の上を転動することにより、案内レール181に滑らかに案内される。案内レール181は、例えば横架材14(図1等参照)の一部として設けられる。案内レール181は、望ましくは僅かに傾斜しており、それにより、扉1は、抵抗無しに人手により開くことが可能である一方、人手が離れると自動的に閉まる。案内レール181の一端部には、磁石183が取り付けられており、磁石183に対向する扉1の部位には、磁石185が取り付けられている。これらの磁石183及び185は、同一極同士、例えばN極同士が向き合うように設置される。それにより扉1は、開かれたときに閉じる方向に付勢されるので、人手が離れた後には勢いをもって閉じる方向に移動する。
傾動レバー105は、何らかの建物構造材(図視略)に固定された回動軸114に、回動可能に支持されている。地震のない通常時においては、傾動レバー105は、傾動制止レバー121により、傾動を制止されている。図22は、平常姿勢にある傾動レバー105を、実線により表している。所定以上の強さの地震が発生すると、地震検知用錘125(図9参照)の重力又は落下に伴う衝撃が、紐体123を通じて傾動制止レバー121に伝えられる。この重力又は衝撃によって、傾動制止レバー121は傾動レバー105の制止状態を解除する。その結果、傾動レバー105は、弾性部材119の引張力により、点線で例示するように傾動し、紐体103、113、115、117に張力を付与する。紐体123から分岐した紐体123Aは、図20及び図21に例示した耐震装置216と同様に、傾動レバー105を傾動させる弾性部材119の機能を補助する。その結果、例えば、錘係止機構33(図1参照)による錘25の係止状態が解除され、例えば長尺部材19(図1参照)により筋交いが形成される。
傾動阻止レバー177は、傾動阻止レバー132(図1参照)と同様に、扉1が閉じていないときには、地震が発生しても、筋交いが形成されないようにするための部材である。傾動阻止レバー177は、一例として平面視略「へ」字状に屈曲した形状を成し、屈曲部において、回動軸191に回動可能に支持されている。回動軸191は、例えば案内レール181に固定されている。傾動阻止レバー177は回動軸191に対して、一方の重量及び長さが他方よりも大きくなるように設定されており、それにより、図示において正面視右回りの方向に傾くように付勢されている。扉1には、その上端かつ側方端から斜め上方に突出し、傾動阻止レバー177の下面を押さえる押さえ部材193が設けられている。押さえ部材193には、傾動阻止レバー177の下面を転動する、ローラなどの転動体195が設けられている。
扉1が閉じられているときには、傾動阻止レバー177は、押さえ部材193により、付勢力に抗して正面視左回りの方向に傾くように、下面が押さえられる。このとき、傾動レバー105に近接する傾動阻止レバー177の下端部は、傾動レバー105とは干渉しない下方に退避する。図22は、この状態にある傾動阻止レバー177を、実線で表している。
これに対し、扉1を開くと、押さえ部材193は、傾動阻止レバー177の回動軸191から遠ざかるように並進する。その結果、傾動阻止レバー177は、その下面を押さえ部材193の転動体195に支えられながら、正面視右回りの方向に傾動する。扉1がある程度以上開くと、傾動阻止レバー177に設けられた制止部材197と、例えば案内レール181に設けられた制止部材199とが、互いに当接することにより、傾動阻止レバー177の傾動が止められ、一定の傾動姿勢が保持される。このとき、傾動レバー105に近接する傾動阻止レバー177の下端部は、傾動レバー105の傾動を妨げるように、持ち上がる。図22は、この状態にある傾動阻止レバー177を、点線で表している。従って、扉1が閉じられていないときには、地震が発生して地震検知用錘125の重力ないし衝撃が、紐体123を通じて傾動制止レバー121に伝えられ、傾動レバー105が傾動しようとしても、傾動阻止レバー177の下端部により、傾動が妨げられる。従って、筋交いは形成されない。
(その他の実施の形態)
本発明の鉛直矩形領域は、建物201の何らかの構造物に耐震装置が取り付け可能である限り、建物201のどこにでも設定可能である。鉛直矩形領域は、例えば、窓に面する領域に設定することが可能であり、部屋の中央部を横断するように設定することも可能である。