以下、発明を実施するための形態について詳細に説明する。尚、以下の説明において、同一の又は類似する構成について同一の符号を付して重複した説明を省略することがある。
まず本発明の測定治具が適用される膜厚計の原理並びに構成について説明する。以下では電磁誘導式の膜厚計を例として説明するが、本発明の測定治具は、測定対象物(素地、被膜)との間の電磁的な相互作用を利用して膜厚を測定するタイプの膜厚計、例えば、渦電流式膜厚計(渦電流振幅感応式膜厚計)、渦電流位相式膜厚計(渦電流位相変位感応式膜厚計)等に広く適用することができる。
[測定原理]
まず図1とともに電磁誘導式膜厚計の測定原理について説明する。膜厚計は、例えば、素地21の表面に被膜22が施された測定対象物2の膜厚の測定に用いられる。ここで素地21は、例えば、鉄、鋼、フェライト系ステンレス等の磁性体であり、被膜22は、例えば、メッキ(亜鉛メッキ等)、ペイント、樹脂膜等の非磁性被膜である。
同図に示すように、膜厚計のプローブ52は、鉄等の強磁性体からなる棒状の磁心520に一次コイル31及び二次コイル32を同軸に巻回した構造を呈する。一次コイル31に交流電流を流しつつプローブ52(磁心520)の端部(磁心520の二次コイル32側の端部)を測定対象物2の表面に接近させると、プローブ52(磁心520)の端部と測定対象物2との間の距離に応じて二次コイル32を貫く磁束4の数が変化し、二次コイル32に誘起される電圧Vが変化する。この電圧変化ΔVを、例えば、電流変化ΔIとして取得し、取得した電流変化ΔIを予め作成しておいた校正データ(測定値と膜厚値との換算データ)と対照することで、被膜22の厚さ、即ち膜厚を求めることができる。
[膜厚計]
図2に電磁誘導式膜厚計(以下、膜厚計5と称する。)の外観を示している。膜厚計5は携帯型であり、ユーザが現場に持ち込んで使用することができる。同図に示すように、膜厚計5は、本体装置51、プローブ52、及びケーブル53(コード)を備える。プローブ52は、ケーブル53(コード)を介して本体装置51と電気的に接続される。
本体装置51は、膜厚の測定に際してユーザが操作入力や測定結果の確認等を行うためのユーザインタフェースを備える。ケーブル53は、例えば、本体装置51からプローブ52の一次コイル31に交流電流を供給するための配線、二次コイル32を流れる電流(又は二次コイル32に誘起される電圧)の計測値を含んだ信号(以下、計測信号と称する。)を本体装置51に伝えるための配線、上記計測値を取得するタイミングを示す信号(以下、トリガ信号と称する。)を伝えるための配線等を含む。
図3に本体装置51の構成を示している。同図に示すように、本体装置51は、プロセッサ511、記憶装置512、電源回路513、入力装置514、出力装置515、及びA/Dコンバータ516を備える。
プロセッサ511は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)を用いて構成されている。記憶装置512は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、NVRAM(Non-Volatile RAM)等を用いて構成されている。
電源回路513は、バッテリ(一次電池、二次電池)、DC/DCコンバータ、DC/ACインバータ等を含み、本体装置51やプローブ52を動作させるのに必要な電力(一次コイル31に供給する交流電力を含む。)を生成する。
入力装置514は、ユーザから情報の入力を受け付けるユーザインタフェースであり、キーパッド、タッチパネル等である。出力装置515は、ユーザに情報を提供するユーザインタフェースであり、LCD(Liquid Crystal Display)、印字装置、音声出力装置等である。
A/Dコンバータ516は、プローブ52からアナログ値として入力される信号をデジタル値に変換する。
図4に本体装置51が備える機能及び本体装置51が記憶するデータを示している。同図に示すように、本体装置51は、校正処理部521、測定処理部522、膜厚算出部523、及び結果出力部524の各機能を備える。これらの機能は、本体装置51のプロセッサ511が、記憶装置512に格納されているプログラムを読み出して実行することにより、もしくは、本体装置51が備えるハードウェアにより実現される。同図に示すように、本体装置51は、校正データ531や測定値532を記憶する。
上記機能のうち、校正処理部521は、例えば、同質の素地21に異なる厚さ(≧0)で被膜22を施したいくつかの標準板について膜厚を測定することにより得られる、二次コイル32の電流変化ΔI(又は電圧変化ΔV)と膜厚との関係に基づき、校正データ531(校正曲線)を生成する。
測定処理部522は、プローブ52から入力される計測信号に基づき二次コイル32の電流変化ΔI(又は電圧変化ΔV)を求め、求めた値を測定値532として記憶する。
図5に校正データ531(校正曲線)の一例を示す。同図において、縦軸は測定値532(電流変化ΔI)であり、横軸は膜厚である。尚、校正データ531は、測定対象物2の材質(素地21や被膜22の材質)に応じて異なるので、校正データ531は測定対象物2の異なる材質ごとに用意される。
図4に戻り、膜厚算出部523は、測定値532を校正データ531と対照することにより測定対象物2の膜厚を求める。尚、膜厚算出部523は、例えば、複数回の測定を実施することにより取得される複数の測定値532の平均値を求め、求めた平均値に対応する膜厚を校正データ531から取得する。結果出力部524は、膜厚算出部523によって求められた膜厚を出力装置515に出力する。
校正処理部521、測定処理部522、膜厚算出部523、及び結果出力部524は、以上の機能に加えて、入力装置514を介して本体装置51に対する設定や指示をユーザから随時受け付ける機能、出力装置515を介してユーザに情報を随時提供する機能を有する。
図6Aはプローブ52の側面図であり、図6Bはプローブ52の断面図(図6AのX−X’線における断面図)である。これらの図に示すように、プローブ52の外観は略円筒状である。プローブ52は、その表面の少なくとも一部にローレット加工が施されており、プローブ52の先端から長手方向に沿って所定長さの部分を構成するプローブ本体61と、プローブ本体61のケーブル53側に設けられるキャップ62(図6Bを参照)及びキャップ62及びケーブル53の端部を保護する、樹脂等の素材からなるキャップカバー63と、を有する。プローブ本体61の外周には、プローブ本体61と同心円環状(フランジ状)の凸部617が形成されている。
図6Bに示すように、プローブ本体61は、略円筒状の外筒体611と、外筒体611の内部に外筒体611と同軸(プローブ52の中心軸Cと同軸)に収容される略円筒状の内筒体612とを有する。プローブ本体61(内筒体612)の先端付近には、内筒体612と同軸に配置された筒状のコイルボビン613が収容されている。コイルボビン613の、プローブ本体61の先端寄りの位置には、二次コイル32が巻回される第2ボビン6132が設けられている。またコイルボビン613の、第2ボビン6132よりもケーブル53寄りの位置には、一次コイル31が巻回される第1ボビン6131が設けられている。同図では一次コイル31及び二次コイル32は省略してある。
コイルボビン613の中心部分には、コイルボビン613の中心軸(プローブ52の中心軸Cと同軸)に沿って、所定径を有する通し孔6135が形成されている。この通し孔6135には、鉄等の強磁性体からなる棒状(円柱状等)の磁心520が、その中心軸がプローブ52の中心軸Cと同軸に挿入されている。
内筒体612のコイルボビン613よりもケーブル53寄りの位置には、ケーブル53の配線631の端部が接続されるコネクタ615が設けられている。一次コイル31及び二次コイル32とケーブル53の配線631とは、コネクタ615を介して電気的に接続されている。
内筒体612と外筒体611との間にはスプリング機構64が設けられている。内筒体612は、このスプリング機構64によってプローブ52の先端方向に付勢されている。これにより、内筒体612の端面及び磁心520の先端は、外筒体611の端面6111から中心軸Cに沿って若干(例えば数mm程度)突出した状態に保持される。
内筒体612のキャップ62側には、スイッチ65(電気接点)が設けられている。スイッチ65は、スプリング機構64の付勢力に逆らって内筒体612が外筒体611に押し込まれることによりその接点状態(オン又はオフ)が反転するように構成されている。スイッチ65は前述したトリガ信号を生成する。スイッチ65は、ケーブル53の配線631を介して本体装置51と電気的に接続されている。尚、スイッチ65と同等の機能を、例えば、圧電素子等の他の種類の素子を用いて実現することもできる。
図7にプローブ52の先端(プローブ52から突出する磁心520の先端)を測定対象物2の表面に押し当てている様子を示す。同図に示す如く、プローブ52の先端(内筒体612の端面)をスプリング機構64の付勢力に抗して測定対象物2の表面に押し当てるとスイッチ65の接点状態が反転し、トリガ信号が生成されて本体装置51に入力される。本体装置51はトリガ信号が入力されたタイミングでプローブ52から二次コイル32の電流値を取り込む。
[プローブの他の構成]
図8にプローブ52の他の構成を示している。同図に示すように、プローブ52は、外筒体611に複数の同心円環状の凸部617を有している。これら複数の凸部617のうち、最下部の凸部617aは他の凸部617bに比べてその外径がやや大きくなっている。
同図において、符号Aで示すラインは外筒体611の端面(即ち外筒体611と内筒体612の境界)になっており、当該ラインよりも上(+z側)の部分では内筒体612の表面が露出している。また同図において、外筒体611の下端面から長さdで突出する部分は外筒体611の内側において内筒体612に連続している。
図9は、図8に示したプローブ52の先端を測定対象物2の表面に押し当てている様子を示す図である。同図に示すように、プローブ52の先端(磁心520の先端)を測定対象物2の表面に押し当てることにより、プローブ52の先端(内筒体612の先端)が外筒体611の内部に引っ込み、同図においてA−A’で示す間隙(長さはd)が形成される。尚、同図に示すプローブ52の内部の構造は前述したプローブ52と同様である。以下では、図8及び図9に示す構成からなるプローブ52を一例として説明する。
[測定治具の構成]
以下、図10A乃至図15Cに示す各図とともに、膜厚計5のプローブ52に装着して用いる測定治具1について説明する。
測定治具1は、3つの部材(スライド部材11、ガイド部材12、ロック部材13)を含む。プローブ52はスライド部材11に固定される。スライド部材11にはガイド部材12がスライド可能な状態で装着(挿入)される。ガイド部材12は、プローブ52が固定されたスライド部材11が、プローブ52の中心軸C(磁心520の中心軸)の方向にスライド(摺動)可能となるように支持する。スライド部材11及びガイド部材12は、例えば、硬質の樹脂や金属等を素材として構成される。
図10Aにスライド部材11の構成(斜視図)を、また図10Bに、図10Aに示したスライド部材11をxy平面に対して反転させて(z軸の方向を反転させて)描いた斜視図を示している。これらの図に示すように、スライド部材11の全体は略直方体状を呈する。上記直方体の4つの側面111a〜111dのうち、その法線が+z方向を向く側面111dは平坦な開口面(以下、第1開口面と称する。)になっている。第1開口面(側面111d)は、スライド部材11にガイド部材12を装着した際、ガイド部材12の後述する第2開口面(側面121d)と面一になるように形成されている。
図10Aに示すように、上記直方体の2つの端面112a,112bには、夫々、略長方形状の開口部(以下、夫々、切り欠き1121a,1121bと称する。)が形成されている。切り欠き1121a,1121bは、いずれもプローブ52の外径が丁度収容される程度の形態(形状、大きさ)に設定されている。尚、同図では、切り欠き1121a,1121bをいずれも矩形状としているが、切り欠き1121a,1121bの態様はこれに限られず、例えば、半円(奥側)と矩形(手前側)とを組み合わせた形状等としてもよい。
切り欠き1121a,1121bの形状や大きさは、ユーザがプローブ52の長手方向の所定位置をこれらに嵌め込むことにより、プローブ52の中心軸C(磁心520の中心軸)がスライド部材11の長手方向と平行になるように、即ち、中心軸Cが端面112bの平坦な外表面(−z側の表面)と垂直(直角)になるように設定されている。そのため、ユーザは、プローブ52を2つの切り欠き1121a,1121bに嵌め込むことで、自然にプローブ52の中心軸C(磁心520の中心軸)が端面112bの外表面(−z側の表面)と垂直(直角)になるようにすることができる。またユーザがプローブ52を切り欠き1121a,1121bに嵌め込むことにより、プローブ52の中心軸C(磁心520の中心軸)は第1開口面(側面111d)と平行になる。
図10A及び図10Bに示すように、上記直方体の2つの側面111a,111bの外面には、夫々開口面(側面111d)と平行に延出する凸条116a,116bが形成されている。凸条116a,116bは、夫々、ガイド部材12の側面121a,121bに形成されている後述の嵌合溝126a,126bにスライド可能な状態で嵌合(係止)される。
上記直方体の2つの側面111a,111bの内面には、夫々、開口面(側面111d)と平行に延出する凸条117a,117bが形成されている。凸条117a,117bには、夫々、後述するロック部材13の嵌合溝132a,132bがスライド式に嵌合(係止)される。
図10A及び図10Bに示すように、側面111a,111bの夫々の端面112aの近傍には、ユーザの持ち手として機能する把持部115が設けられている。膜厚の測定に際してユーザは把持部115を利用して容易にスライド部材11をガイド部材12に対してスライドさせることができる。
図11A及び図11Bにガイド部材12の構成(斜視図)を示している。尚、図11Aではガイド部材12と可動部材14を夫々別体にして描いている。一方、図11Bではガイド部材12に可動部材14を取り付けた状態を描いている。これらの図に示すように、ガイド部材12の全体は略直方体状を呈し、4つの側面121a〜121d及び2つの端面122a,122cを有している。
図11Bに示すように、ガイド部材12の一方の端面122aは開口しており、ガイド部材12の内部には、この開口に連続して略直方体状の内部空間Sa(第2空間)が形成されている。内部空間Saは、スライド部材11の略直方体状の外形が丁度収まる形態(形状、大きさ)(スライド部材11の外表面が内部空間Saの内表面に密着してスライド可能な形態)になっている。スライド部材11は、当該スライド部材11の端面112bの側を、ガイド部材12の内部空間Saの奥側(−y側)に向けて+y側からスライド式に押し込むことにより、ガイド部材12に対してスライド可能な状態でガイド部材12に装着される。より詳細には、同図に示すように、ガイド部材12の側面121a,121bの夫々の内表面には、夫々開口面(側面111d)と平行に延出する嵌合溝126a,126bが形成されており、前述したように、スライド部材11の凸条116a,116bは、夫々、ガイド部材12の側面121a,121bに形成されている後述の嵌合溝126a,126bにスライド可能な状態で嵌合(係止)される。
内部空間Saの−y側の最奥端には、端面122aと平行に端面122bが形成されている。スライド部材11を内部空間Saに完全に押し込んだ状態において、スライド部材11の端面112bは、ガイド部材12の端面122bの内面(+y側の面)に当接する。
同図に示すように、端面122bには、プローブ52の外径が通過可能な形態(形状、大きさ)を有する貫通孔1221bが形成されている。端面122bの−y側の表面は平坦面になっており、この平坦面は上記直方体の長手方向に対して垂直(直角)に、即ち、スライド部材11がスライドする方向に対して垂直(直角)になっている。そのため、プローブ52をスライド部材11に固定した状態において、プローブ52の中心軸Cとガイド部材12の端面122bの−y側の表面とは垂直(直角)の関係となる。
貫通孔1221bと開口面(側面121c)との境界部分は架橋されている(以下、この部分を架橋部124と称する。)。架橋部124は、膜厚の測定に際し開口面(側面121c)を下方に向けて平坦面に載置したときにプローブ52が重力によって脱落してしまうのを防ぐ役割を果たすとともに、架橋部124は、膜厚の測定に際しプローブ52と上記平坦面との間を確実に電気的に切り離し(絶縁し)、膜厚の測定精度を向上する役割を果たす。
同図に示すように、ガイド部材12は、端面122bと端面122cとの間に内部空間Sb(第1空間)を有する。端面122bは、内部空間Sb(第1空間)と内部空間Sa(第2空間)との境界を構成している。内部空間Sbの上面(側面121cの内部空間Sbが存在する部分)は長方形状に開口している。可動部材14は、上記開口を通じて内部空間Sbに装着される。膜厚の測定に際し、内部空間Sbに装着された可動部材14と端面122bとの間には、測定対象物2(例えば、ナット、ボルトの頭部等)の少なくとも一部が収容される。
図11Aに示すように、可動部材14の全体は略直方体状を呈する。可動部材14は、側面141c’,141c,141d,141d’,141b,141e,141aを有する。このうち+y側に位置する2つの側面141c及び側面141dはV字状に凹んでいる。可動部材14は、端面142b,142dを有する。端面142dの+x側及び−x側の周縁には、可動部材14をガイド部材12の内部空間Sbの縁に係止させるための鍔状部1421dが形成されている。
可動部材14を端面142dの側(+z側)から眺めたとき、V字状に凹む上記2つの側面141c,141dは、互いに60度の角度をなす。また2つの側面141c,141dは、上記角度の二等分線がスライド部材11に取り付けられたプローブ52の磁心520の軸を含む平面に含まれように設けられている。可動部材14を端面142dの側(+z側)から眺めた場合、V字状に凹む部分は略正三角形状となる。
同図に示すように、ガイド部材12の他方の端面122cの中央付近には貫通孔1221cが形成されている。貫通孔1221cの内周面にはネジ山が形成されている。貫通孔1221cには、端面122cの表面から蝶ネジ125の軸が螺合挿入される。ユーザが蝶ネジ125を回動させてネジ込むことにより蝶ネジ125の先端が可動部材14の側面141eに当接し、蝶ネジ125の先端から側面141eに押圧力が作用して可動部材14が+y方向に移動する。尚、本例では、このように蝶ネジ125を用いて可動部材14を押圧する機構(以下、押圧機構と称する。)を構成しているが、押圧機構は他の方法により実現してもよい。例えば、バネ等の弾性体を端面122cと可動部材14の側面141eとの間に介在させ、上記弾性体の付勢力を利用して押圧機構を構成してもよい。
図12は、プローブ52をスライド部材11に取り付ける際に用いる部材(以下、ロック部材13と称する。)の斜視図である。同図に示すように、ロック部材13の全体は略直方体状を呈する。ロック部材13の4つの側面131a〜131dのうち、法線が−z方向を向く側面131cは開口面になっている。また法線が+z方向を向く側面131dは、ロック部材13をプローブ52が装着されたスライド部材11に取り付けた際、プローブ52に当接してプローブ52を固定する押さえ板として機能する。ロック部材13の2つの端面132a,132b(夫々法線は+y,−y方向を向く)は、いずれも開口している。ロック部材13の法線が夫々−x方向及び+x方向を向く2つの側面131a,131bには、夫々、y軸方向に延出する嵌合溝133a,133bが形成されている。
ロック部材13のx軸方向の長さは、スライド部材11の内部空間の幅方向(x軸方向)の長さに丁度一致する程度に設定されている。またロック部材13のz軸方向の長さ(高さ)は、スライド部材11の内部空間のz軸方向の長さに丁度一致する程度に設定されている。またロック部材13のy軸方向の長さは、スライド部材11の開口面(側面111d)からロック部材13をスライド部材11の内部空間に設けられている凸条117a,117bに容易に嵌合させることができるように、スライド部材11の凸条117a,117bが設けられていない部分の長さ(凸条117a,117bの端面112a側の端部から端面112aの内表面までのy軸方向に沿った長さ)よりも短く設定されている。
[プローブの取り付け]
続いて、図13A乃至図13Cを参照しつつ、スライド部材11にプローブ52を取り付ける際の手順について説明する。
まず図13Aに示すように、ユーザは、プローブ52を、スライド部材11の2つの端面112a,112bの夫々に設けられている切り欠き1121a,1121bに嵌め込むようにしてスライド部材11に装着する。ここでプローブ52は、切り欠き1121bの周辺においてプローブ52の外周方向に突出している凸部617がスライド部材11の端面112bの外表面と接触するようにスライド部材11に取り付けられる。このため、ユーザが、プローブ52を測定対象物2の方向に近づけようとしてスライド部材11を測定対象物2の方向にスライドさせた際、端面112bの外表面からプローブ52に対して測定対象物2の方向に向かう力が作用し、ユーザはプローブ52を容易かつ確実に測定対象物2に接近させることができる。
尚、前述したように、ガイド部材12の端面122bの−y側の表面は平坦面になっており、当該平坦面は、ガイド部材12の上記直方体の長手方向に対して垂直(直角)な関係になっている。そのため、プローブ52をスライド部材11に固定した状態ではプローブ52の中心軸Cとガイド部材12の端面122bの−y側の表面とが垂直(直角)な関係となる。
続いて、図13B及び図13Cに示すように、ユーザは、スライド部材11の開口面(側面111d)の側から、ロック部材13を、その開口面(側面131c)をスライド部材11に取り付けられているプローブ52の方向に向けつつ、プローブ52に被せるようにしてスライド部材11に装着する。より詳細には、ロック部材13をまずプローブ52に被せた後、ロック部材13の嵌合溝133a,133bが、夫々、スライド部材11の凸条117a,117bに嵌合するようにロック部材13をプローブ52の長手方向(凸条117a,117b)に沿ってスライドさせ、ロック部材13をスライド部材11に装着する。ここでロック部材13の内部空間の形状や大きさは、ロック部材13をスライド部材11に装着した状態でプローブ52が丁度両者の間に収まるように設定されており、ロック部材13をスライド部材11に装着することでロック部材13の側面131dの内表面がプローブ52に当接してプローブ52が押圧される。そのため、プローブ52を確実にスライド部材11に装着することができる。また例えば、膜厚の測定に際しスライド部材11の開口面(側面111d)を下方に向けた際にプローブ52がガタついたりプローブ52がスライド部材11から脱落したりするのを確実に防ぐことができる。
[膜厚の測定方法]
続いて、以上の構成からなる測定治具1を用いて膜厚計5により測定対象物2の膜厚を測定する手順について説明する。尚、以下では、測定対象物2がナット(又はボルトの頭部)の側面である場合を例として説明する。
図14A乃至図14Cに示すように、ユーザは、まずプローブ52が装着されたスライド部材11をガイド部材12の開口面122aからガイド部材12に挿入する。より詳細には、スライド部材11の凸条116a,116bを、夫々、ガイド部材12の嵌合溝126a,126bにスライド式に嵌合させることにより、スライド部材11にガイド部材12を装着する。前述したように、スライド部材11の第1開口面(側面111d)は、スライド部材11にガイド部材12を装着した状態においてガイド部材12の第2開口面(側面121d)と面一になる。
ガイド部材12の貫通孔1221の径はプローブ52の径よりも大きく、図14Cに示すように、ユーザは、スライド部材11をガイド部材12の端面122bの方向にスライドさせることで、プローブ52の先端を端面122bの外表面(平坦面)から突出させることができる。
続いて、ユーザは、蝶ネジ125を緩めて可動部材14と端面122bの間隔を広げる。そして可動部材14と端面122bとの間に六角ナットを挟み込み、蝶ネジ125を締めてガイド部材12を六角ナットに固定する。
図14Dは、可動部材14が装着された状態のガイド部材12を測定対象物2である六角ナットに取り付けた状態を示す平面図である。尚、同図ではプローブ52やスライド部材11は省略している。同図に示すように、ガイド部材12が六角ナットに取り付けられた状態において、可動部材14のV字状に凹む2つの側面141c及び141dは、夫々、六角ナットの側面21aの両側に連続する2つの側面21c,21dに面接触する。また六角ナットの上記一側面21aに対向する側面21eは、ガイド部材12の端面122bの外表面に面接触する。このように、可動部材14及び端面122bが、六角ナットの一つ飛びの3つの側面21c、側面21d、及び21eに面接触することにより、ガイド部材12は六角ナットに確実に固定される。
尚、前述したように、可動部材14を端面142dの側から眺めた場合、側面141c及び側面141dは互いに60度の角度をなし、かつ、当該角度の二等分線がスライド部材11に取り付けられたプローブ52の磁心520の軸を含む平面に含まれるように可動部材14に形成されている。そのため、六角ナットのサイズに拘わらず、可動部材14の2つの側面141c及び141dの夫々は、必ず六角ナットの一側面21aの両側に連続する2つの側面21c及び側面21dの夫々に面接触する。このように本実施形態の測定治具1は、異なるサイズの六角ナットに広く適用することができる。そのため、例えば、電力会社等が行う電力設備の点検に際して膜厚の測定対象となる様々なサイズのナットに広く適用することができ、サイズ毎に測定治具1を用意する必要がなく、利便性に優れる。
図14Eに測定治具1(プローブ52が装着されたスライド部材11、ガイド部材12、及びロック部材13)を測定対象物2である六角ナットに取り付けた状態を示す。同図に示すように、ユーザは、スライド部材11及びガイド部材12の面一となる開口面(側面111d,側面121d)を下向きにして、測定対象物2(ナット)の周囲の平面部分に測定治具1(プローブ52が装着されたスライド部材11、ガイド部材12、及びロック部材13)を載置する。ここで上記面一の開口面(側面111d,側面121d)は、ガイド部材12の端面122bの外表面(平坦面)に対して垂直(直角)であるので、測定対象物2の周囲の平面が測定対象物2の測定対象部位(ナットの側面)に対して垂直(直角)になっている場合、ユーザは、測定治具1を測定対象部位の近傍の平面部分に載置するだけで、測定対象部位(ナットの側面)とプローブ52の中心軸Cとを垂直(直角)の関係に保ちつつプローブ52の先端を測定対象部位に当接させることができる。
またスライド部材11の側面111dは開口面(第1開口面)であり、またガイド部材12の側面121dも開口面(第2開口面)であるので厚みがなく、これらを下向きにして測定対象物2の周囲の平面部分に測定治具1を載置した場合、プローブ52の中心軸Cの高さ位置(上記平面部分からの距離)を低くすることができる。そのため、測定対象物2が低背な場合でも、測定対象物2の測定部位にプローブ52の先端を当接させることができ、例えば、小型のナットについてもナットの側面の測定対象部位に、中心軸Cをナットの側面に対して垂直(直角)に保ちつつプローブ52の先端を測定対象部位に当接させることができる。
またプローブ52と測定対象物2の周囲の平面部分との間には架橋部124が介在するため、プローブ52と上記平坦面との間を確実に電気的に切り離す(絶縁する)ことができ、電気的/磁気的な影響による膜厚の測定精度の低下を防ぐことができる。
続いて、図14Fに示すように、ユーザは、ガイド部材12を手で押さえつつ、スライド部材11を測定対象物2の方向にスライドさせ、プローブ52の先端を測定対象物2の方向に押し込む。これによりプローブ52の内筒体612は、スプリング機構64の付勢力に抗して外筒体611に押し込まれ、その結果、スイッチ65の接点状態が反転してトリガ信号が本体装置51に入力される。
尚、以上では、スライド部材11をガイド部材12に装着した後にガイド部材12を測定対象物2(ナット)に取り付けたが、ガイド部材12を測定対象物2(ナット)に取り付けた後にスライド部材11をガイド部材12に装着するようにしてもよい。
以上に説明したように、本実施形態の測定治具1によれば、可動部材14を押圧機構により押圧することにより、可動部材14の複数の側面141c,141dの夫々が、内部空間Sbに収容されている測定対象物2が有している複数の面21c,21dの夫々に面接触するので、可動部材14の複数の側面141c,141dとガイド部材12の平坦面(端面122b)との間に測定対象物2を確実に挟持することができる。そしてこの状態でスライド部材11を磁心の軸方向にスライドさせることで、プローブ52の磁心520の軸を測定対象物2の表面に対して直角に維持しつつ、プローブ52の先端を測定対象部位2に正確に当接させることができる。そのため、ユーザは簡単な操作で精度よく膜厚を測定することができる。
また本実施形態の測定治具1によれば、ガイド部材12の平坦面(端面122bの外表面)を、測定対象物2の表面に面的に接触させつつスライド部材11をガイド部材12に沿ってスライドさせることで、プローブ52の磁心の軸を測定対象物2の表面に対して直角に維持した状態で、磁心の端部を測定対象物2に接近させることができる。そのため、ユーザは簡単な操作で精度よく膜厚を測定することができる。
また本実施形態の測定治具1は、スライド部材11にガイド部材12が装着された状態で、スライド部材11の第1開口面(側面111d)とガイド部材12の第2開口面(側面121d)とが面一となるので、例えば、測定治具1を上記面一となる開口面(第1開口面及び第2開口面)を下方に向けて平面上に載置した場合、当該測定治具1の上記開口面側に厚みを有する部材が存在しない分、プローブ52の先端を上記平面の近くに位置させることができる。そのため、測定対象物2の測定対象部位が測定対象物2の周囲に存在する平面から近い(低い)位置に存在する場合でも、プローブ52の磁心の軸を測定対象物2の表面に対して直角に維持しつつ、磁心の端部を測定対象物2に接近させることができる。また本実施形態の測定治具1は、プローブ52をスライド部材11を介してガイド部材12に支持する構成になっているため、プローブ52の形態に合わせてスライド部材11を用意することで様々な形態のプローブ52に広く適用することができる。
ところで、測定治具1は、例えば、図15Aに示すような構成としてもよい。同図に示すように、この測定治具1は、ガイド部材12の内部空間Sbとなる部分の両側に、ガイド部材12の端面122b及び端面122cとを接続するレール構造(円柱状の棒材128a,128b)を有している。可動部材14はその+x側及び−x側の夫々に貫通孔146a,146bを有しており、夫々に棒材128a,128bを通すことにより可動部材14はy軸方向にスライド可能に支持される。同図に示すように、ガイド部材12の端面122cの端面122bが存在する側には可動部材14が移動する方向に沿って延出するガイド構造127a,127bを設けている。このガイド構造127a,127bは可動部材14の軸ブレを防止する役割を果たす。
図15Bに、図15Aに示したガイド部材12及び可動部材14を測定対象物2(ナット)に取り付けた状態を、また図15Cに、図15Aに示したガイド部材12にスライド部材11を挿入した状態を夫々示す。尚、本例では、蝶ネジ125を用いて可動部材14を押圧するようにしているが、バネ等の弾性体を端面122cと可動部材14の間に介在させ、当該弾性体の付勢力を利用して可動部材14を+y方向に押圧するようにしてもよい。
以上、発明を実施するための形態について説明したが、以上の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
例えば、以上のように測定対象物2が六角ナットの場合には側面141c及び141dが互いに60度の角度をなすように可動部材14を構成したが、側面141c及び141dがなす角は測定対象物2の態様に合わせて設定してよい。
また例えば、外部から測定治具1の内部の様子が視認し易くなるように、スライド部材11、ガイド部材12、ロック部材13、及び可動部材14のうちの少なくともいずれかを、例えば、透明の素材を用いて構成してもよい。
また例えば、以上に説明した位置合わせ治具7は、六角ボルトの頭部側面や、六角ナットの側面と同様の側面形状を有する様々な測定対象物2の膜厚の測定に広く適用することができる。