JP2018517125A - トップダウンタンパク質同定方法 - Google Patents

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Abstract

本明細書に説明されるシステムおよび方法は、いくつかの側面では、不純サンプルによって生成されるExDスペクトルの曖昧性をデコンボリューションしながら、オンラインLC分離を伴わずにイオン源へのサンプルの直接注入を介して、ExDを使用するサンプル中のタンパク質またはペプチドの「トップダウン」質量分光分析を提供することができる。例えば、本教示の種々の側面による方法およびシステムは、検出された生成イオンが生じた前駆体イオンをより確信を持って同定するために、ExD断片をそれらの前駆体イオンと相関させるように、ExD後の荷電低減種におけるパターンを利用することができる。

Description

(関連出願)
本願は、2015年5月13日に出願された米国仮出願第62/161,129号からの優先権の利益を主張するものであり、該米国仮出願の全体の内容は、参照により本明細書中に援用される。
(分野)
本発明は、質量分析に関し、より具体的には、ペプチドの質量分光分析で電子捕獲解離(ECD)を利用する方法および装置に関する。
(イントロダクション)
質量分析(MS)は、定量的および定性的用途の両方を有する、試験物質の元素組成を判定するための分析技法である。例えば、MSは、未知の化合物を同定し、および/またはその断片化を観察することによって特定の化合物の構造を判定するために使用されることができる。近年、MSは、ペプチドおよびタンパク質を特性評価して同定することのMS方略の速力、特異性、ならびに感度に起因して、プロテオミクスにおいてますます重要な役割を果たしている。
MSベースのプロテオミクスにおいてタンパク質を特性評価することの1つの方略は、ペプチド断片にMS分析(MS)またはタンデムMS/MS分析(MS)を受けさせることに先立って、着目タンパク質が(例えば、トリプシン、LysC等を介した)酵素消化および1つまたはそれを上回る分離(例えば、多次元LC)を受ける、「ボトムアップ」アプローチである。「ボトムアップ」MSワークフローでは、衝突誘起解離(CID)が、典型的には、第1のMS段階で選択される前駆体ペプチド断片を生成イオン断片にさらに解離するために利用される。次いで、前駆体ペプチドイオンのアミノ酸配列が、生成イオン断片の質量から推定されることができる。CIDでは、イオン化前駆体イオンと不活性中性ガスおよび/または窒素分子との間のエネルギー衝突が、骨格アミド結合を振動させて最終的に解離(開裂)し、それによって、b型(N末端)およびy型(C末端)生成イオンを生じさせる。生成イオンペプチドのうちのいくつかを同定することによって、元のタンパク質が(例えば、タンパク質またはゲノムデータベース内の既知の配列を参照することによって)判定されることができる。しかしながら、CID反応が、概して、最も弱いペプチドアミド結合のみにおいて起こるため、ペプチド骨格に沿った不完全な断片化は、ペプチド配列の完全な再構成を困難にし得る。プロテオミクスにおけるCIDの使用への別の主要な制限は、解離中の翻訳後修飾(PTM)の損失である。多くの場合、ペプチド骨格に弱く結合されるにすぎない、PTM(例えば、リン酸化または硫酸化官能基)は、断片化中にペプチドから引き離され得、それによって、MSスペクトル内のPTMの検出および特性評価を妨げる。
上記で説明される「ボトムアップ」アプローチとは対照的に、代替的なMSベースのプロテオミクス方略は、無傷のタンパク質が質量分析計内で解離を受ける、「トップダウン」分析を利用する。従来のCIDは、概して、過剰に少ない部位を解離するため、完全な情報を提供して無傷のタンパク質のアミノ酸配列全体を特性評価することができないが、電子捕獲解離(ECD)および電子移動解離(ETD)(集合的に「ExD」)は、ExDのペプチド骨格のより完全な断片化に起因して、無傷のタンパク質の「トップダウン」シークエンシングのためのCIDに対する実行可能な代替物と見なされる。ECDは、例えば、c型(N末端)およびz型(C末端)生成イオンを主に生じさせるように、N−αC結合のより広範な開裂を迅速に誘発する、多重荷電前駆体による電子の捕獲につながる、前駆体イオンと低エネルギー電子との間のイオン相互作用を利用する。一方で、ETDは、そこに電子を移動させるように、試薬イオンを反対電荷の多重荷電前駆体イオンと反応させる。ExDベースの解離のエネルギーが、典型的には、前駆体ペプチドの全体を通して分配されない(またはあまり分配されない)ため、弱く結合されたPTMは、第2のMS分析における後続の検出のために、ペプチドに付着したままである可能性が高い。しかしながら、「トップダウン」アプローチの1つの可能性として考えられる障害は、MSスペクトルの複雑性、およびそれらの荷電状態がそれらの多重荷電前駆体イオンの状態まで変動し得る、多重荷電生成イオンの質量を判定することの困難である。生成イオンの間の荷電状態の変動によって引き起こされる、「トップダウン」MSスペクトルの解釈の曖昧性により、いくつかの「トップダウン」アプローチはさらに、例えば、プロトン移動反応を介して、生成イオンを引き離して単一荷電状態にするために、気相イオン・イオン相互作用を通した荷電状態操作を利用する。また、ECDは、既知の精製タンパク質の「トップダウン」分析で実証されているが、現実世界の用途は、MSまたはMSスペクトルの分析においてさらなる曖昧性を追加し得る、複雑な未知のサンプルを伴う。これらの複雑なサンプルが、典型的には、他の被分析物からの干渉を排除するようにオンラインLC分離を受けるであろうため、蓄積時間は、LC時間尺度に対して過剰に短いため高度に効率的なECD後に生成イオンの十分な強度を取得することができない場合がある。
したがって、複雑なサンプルの多次元オンライン分離に必ずしも依拠しない、ExDを利用するタンパク質の質量分光分析のための改良型方法および装置の必要性が残っている。
本出願者の教示の種々の側面によると、本明細書に説明される方法および装置は、いくつかの側面では、ExDスペクトルの曖昧性をデコンボリューションしながら、オンラインLC分離を伴わずにイオン源へのサンプルの直接注入を介して、ExDを使用するサンプル中のタンパク質またはペプチドの「トップダウン」質量分光分析を提供することができる。例えば、本教示の種々の側面による方法およびシステムは、検出された生成イオンが生じた前駆体イオンをより確信を持って同定するために、ExD断片をそれらの前駆体イオンと相関させるように、ExD後の荷電低減種におけるパターンを利用することができる。いくつかの側面では、本明細書に説明される方法およびシステムはまた、それでもなお、ExDスペクトル内で同一のアミノ酸配列をもたらす、前駆体イオンの分子量の偏差に基づいて、PTMの特性評価を可能にすることもできる。種々の側面では、本明細書に説明される例示的方法およびシステムは、それによって、CIDベースのプロテオミクス方略のようなPTM情報の損失を伴わずに、完全なタンパク質のデノボシークエンシングを可能にするよう、無傷の着目タンパク質(およびある場合には他の干渉被分析物)を含有する、注入されたサンプルのExD−MS分析を可能にすることができる。
本出願者の教示の種々の側面によると、イオン源を利用し、少なくとも1つのペプチド(例えば、20個を上回るアミノ酸を有し、おそらく、生物学的機能を有する、大型ペプチド、すなわち、消化されたタンパク質の断片)またはタンパク質(例えば、典型的には、100個を上回るアミノ酸であり、概して、3D構造および生物学的機能を提示する、例えば、抗体等の無傷の消化されていないタンパク質)を含有するサンプル溶液から、複数の前駆体ペプチドまたはタンパク質イオン(「前駆体イオン」)を生成するステップと、複数のm/z単離窓を使用して、前駆体ペプチドまたはタンパク質イオンの質量範囲(例えば、質量範囲の狭い下位範囲)をスキャンするステップとを含む、サンプルを処理する方法が提供される。m/z単離窓のそれぞれの内側の前駆体イオンは、ExD反応を受けることができ、ExD反応のそれぞれに起因する生成イオンは、m/z単離窓のそれぞれに対応する複数のExDスペクトルを生成するよう検出され、少なくとも、m/z単離窓のうちの第1のm/z単離窓に対応する第1のExDスペクトルは、1つまたはそれを上回るExD断片イオンおよび第1のm/z単離窓内の前駆体イオンの1つまたはそれを上回る荷電低減種を提示する。本方法はさらに、少なくとも部分的に、第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種のm/zおよび前駆体イオンの1つまたはそれを上回る荷電低減種のm/zに基づいて、第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの該1つまたはそれを上回る種の前駆体荷電状態ならびに分子量を判定するステップを含むことができる。非限定的実施例として、m/z単離窓はそれぞれ、質量範囲をスキャンするために利用される質量分析器(例えば、四重極質量フィルタ)の構成に応じて、狭いm/z窓(例えば、約1Da)であることができる。1つまたはそれを上回るサンプル調製ステップ(例えば、LC分離、電気泳動、ジスルフィド結合低減等)が、着目ペプチドのMS分析上のサンプル内の他の被分析物の干渉を低減させるために、サンプル溶液のイオン化に先立って使用されることができるが、本教示の種々の側面による方法は、(例えば、オンラインLC分離を伴わずに)直接注入を介して、サンプル溶液をイオン源に導入するステップを含むことができる。
本明細書に説明される方法のいくつかの側面では、第1のm/z単離窓に対応する第1のExDスペクトルは、第1の荷電低減種を提示することができ、第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの第1の種の前駆体荷電状態は、第1の荷電低減種のm/zおよび前駆体イオンのうちの第1の種のm/zの関数として判定されることができる。加えて、いくつかの側面では、第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの第1の種の分子量は、前駆体イオンのうちの第1の種の判定された前駆体荷電状態およびm/zの関数として判定されることができる。いくつかの関連側面では、第1のExDスペクトル(すなわち、第1のm/z単離窓に対応するExDスペクトル)はまた、第2の荷電低減種を提示することもでき、本方法はさらに、第2の荷電低減種が第1の荷電低減種の多重低減種または第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの第2の種の荷電低減種を表すかどうかを判定するステップを含むことができる。代替として、または加えて、第1のExDスペクトルが第2の荷電低減種を提示するとき、本教示による方法は、いくつかの側面では、第2の荷電低減種が、第1の荷電低減種の二重低減種または第1のm/z単離窓内のタンパク質もしくはペプチド前駆体イオンのうちの第2の種(例えば、ペプチド前駆体イオンのうちの第1の種と異なるアミノ酸配列のペプチド)の荷電低減種を表すかどうかを判定することができる。
種々の側面では、第1のExDスペクトルが、第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの第2の種(例えば、前駆体イオンのうちの第1の種と異なるアミノ酸配列のペプチド)の第2の荷電低減種を表すとき、本方法はまた、前駆体荷電状態を判定するステップと、より決定的な分析のために相互から種々の荷電状態の断片を分離するステップとを含むことができる。例えば、本教示の種々の側面によると、本明細書に説明される方法はまた、ExDスペクトルを相関させ、および/またはデコンボリューションして、検出されたExD断片イオンが生じた前駆体イオンの種を同定することに役立つために、質量範囲にわたってExDスペクトル内のパターン(例えば、異なるm/z単離窓に対応するExD反応に起因する、荷電低減種の同一性におけるパターン)を利用することもできる。いくつかの側面では、例えば、本方法はまた、m/z単離窓のそれぞれの内側の前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種のそれぞれの前駆体荷電状態および分子量を判定するステップと、質量範囲にわたって類似分子量を提示する前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種の前駆体荷電状態のそれぞれの前駆体荷電状態パターンを判定するステップと、各個別のm/z単離窓に対応するExDスペクトル内の1つまたはそれを上回るExD断片イオンを、個別のm/z単離窓における前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種のそれぞれの前駆体荷電状態パターンと相関させるステップとを含むこともできる。一例として、前駆体荷電状態パターンは、選択されたm/z単離窓のそれぞれにおける前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種のそれぞれの相対存在量から判定されることができる。いくつかの側面では、例えば、前駆体荷電状態パターンは、選択されたm/z単離窓のそれぞれに対応する、ExDスペクトル内の前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種のそれぞれの単独荷電低減種の相対強度から判定されることができる。
本出願者の教示の種々の側面によると、本方法はさらに、前駆体荷電状態パターンを参照することによって、前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種から選択される第1の種のExDスペクトルを生成するステップを含むことができ、前駆体イオンのうちの選択された第1の種のExDスペクトル内のExD断片イオンピークの間の質量の差は、前駆体イオンのうちの選択された第1の種の中の1つまたはそれを上回るアミノ酸を示す(いわゆるデノボシークエンシング)。関連側面では、本方法はさらに、(例えば、前駆体イオンのうちの選択された第1の種と相関性があるExD断片イオンの同一性に基づいて)前駆体イオンのうちの選択された第1の種の中のアミノ酸配列を少なくとも部分的に再構成するステップを含むことができる。加えて、いくつかの側面では、前駆体イオンのうちの選択された第1の種の部分的に再構成されたアミノ酸配列は、サンプル内に含有されるペプチドまたはタンパク質を同定するように、(例えば、相同性検索を介して)既知のペプチド配列のデータベースと比較されることができる。
種々の例示的側面では、本方法はさらに、質量範囲にわたって選択されたm/z単離窓に対応する複数のExD断片イオンスペクトルを比較するステップを含むことができ、類似分子量の前駆体イオンのうちの複数の種の類似ExD断片イオンパターンは、類似ペプチドアミノ酸配列上の異なる翻訳後修飾の存在を示すことができる。すなわち、類似断片化パターンを提示する前駆体イオンの種々の種の間の分子量のわずかな差は、実質的に異なるアミノ酸配列のペプチドではないが、(同一または実質的に同一のアミノ酸骨格を伴って)それらのPTMが異なると仮定されることができる。
本出願者の教示の種々の側面によると、少なくとも1つのペプチドまたはタンパク質を含有するサンプル溶液から複数の前駆体ペプチドまたはタンパク質イオンを生成するように構成される、イオン源と、イオン源から複数の前駆体イオンを受容するように構成される、質量分析器(例えば、四重極質量フィルタ)と、質量分析器から透過させられるイオンを受容し、前駆体イオンにExD反応を受けさせるように構成される、ExD反応セルと、(例えば、前駆体ペプチドイオンおよび断片イオンならびにExD反応によって生成される荷電低減種を質量選択的に検出するための)検出器または質量分析器とを備える、質量分析計システムが提供される。本システムはまた、m/z単離窓のそれぞれの内側の前駆体イオンにExD反応を受けさせるよう、ExD反応セルへの複数のm/z単離窓を使用して、前駆体イオンの質量範囲をスキャンすることと、m/z単離窓のそれぞれに対応する、ExD反応に起因する生成イオンの複数のExDスペクトルを生成することであって、少なくとも、第1のm/z単離窓に対応する第1のExDスペクトルは、1つまたはそれを上回るExD断片イオンおよび第1のm/z単離窓内の前駆体イオンの1つまたはそれを上回る荷電低減種を提示する、ことと、少なくとも部分的に、第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種のm/zおよび前駆体イオンの1つまたはそれを上回る荷電低減種(例えば、前駆体ペプチドイオンの単独荷電低減種)のm/zに基づいて、第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの該1つまたはそれを上回る種の前駆体荷電状態ならびに分子量を判定することとを行うように構成される、コントローラを備えることもできる。種々の側面では、本システムはさらに、イオン源へのサンプル溶液の直接注入のためのポンプを備えることができる。いくつかの側面では、m/z単離窓は、約1Daの範囲を有することができる。
いくつかの側面では、以下の付加的プロセスのうちの1つまたはそれを上回るものは、データ収集のために上記で説明される同一のコントローラを使用して、またはオフラインデータ処理として別のプロセッサ(すなわち、コンピュータ)を使用して、行われることができる。本教示の種々の側面によると、第1のm/z単離窓に対応する第1のExDスペクトルは、第1の荷電低減種を提示することができ、第1のm/z単離窓内の前駆体ペプチドまたはタンパク質イオンのうちの第1の種の前駆体荷電状態は、第1の荷電低減種のm/zおよび前駆体ペプチドまたはタンパク質イオンのうちの第1の種のm/zの関数として判定され、第1のm/z単離窓内の前駆体ペプチドまたはタンパク質イオンのうちの第1の種の分子量は、前駆体ペプチドまたはタンパク質イオンのうちの第1の種の前駆体荷電状態およびm/zの関数として判定される。いくつかの関連側面では、第1のExDスペクトルはまた、第2の荷電低減種も提示することができ、コントローラはさらに、第2の荷電低減種が第1の荷電低減種の多重低減種または第1のm/z単離窓内の前駆体ペプチドまたはタンパク質イオンのうちの第2の種の荷電低減種を表すかどうかを判定するように構成されることができる。
いくつかの側面では、コントローラはさらに、m/z単離窓のそれぞれの内側の前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種のそれぞれの前駆体荷電状態および分子量を判定し、質量範囲にわたって類似分子量を提示する前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種の前駆体荷電状態のそれぞれの前駆体荷電状態パターンを判定し、各個別のm/z単離窓に対応するExDスペクトル内の1つまたはそれを上回るExD断片イオンを、個別のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種のそれぞれの前駆体荷電状態パターンと相関させるように構成されることができる。一例として、前駆体荷電状態パターンは、m/z単離窓のそれぞれの内側の前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種のそれぞれの相対存在量に基づいて、コントローラによって判定されることができる。いくつかの側面では、例えば、前駆体荷電状態パターンは、m/z単離窓のそれぞれに対応するExDスペクトル内の前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種のそれぞれの単独荷電低減種の強度に基づいて、コントローラによって判定されることができる。
本教示の種々の側面によると、本システムは、サンプル中に存在するペプチドまたはタンパク質のアミノ酸配列を特性評価するために使用されることができる。一例として、コントローラは、前駆体イオンのうちの第1の種のm/z単離窓に対応するExDスペクトル内のExD断片イオンピークの間の質量の差に基づいて、前駆体イオンのうちの選択された第1の種の中の1つまたはそれを上回るアミノ酸を判定するように構成されることができる。加えて、いくつかの側面では、コントローラはさらに、前駆体イオンのうちの選択された第1の種の中のアミノ酸配列を少なくとも部分的に再構成するように構成されることができる。関連側面では、コントローラはさらに、前駆体イオンのうちの選択された第1の種の部分的に再構成されたアミノ酸配列を、既知のペプチドまたはタンパク質配列のデータベースと比較し(例えば、相同性検索)、前駆体イオンを形成するようにイオン化されたサンプルからのペプチドまたはタンパク質イオンを同定するように構成されることができる。
種々の側面では、コントローラはさらに、選択されたm/z単離窓に対応する複数のExD断片イオンスペクトルを比較するように構成されることができ、類似分子量の前駆体イオンのうちの複数の種の類似ExD断片イオンパターンは、類似アミノ酸配列上の異なる翻訳後修飾の存在を示す。
本出願者の教示のこれらおよび他の特徴が、本明細書に記載される。
本発明の前述および他の目的ならびに利点は、付随の図面を参照して、以下のさらなる説明からより完全に理解されるであろう。当業者は、以下で説明される図面が、例証目的のためにすぎないことを理解するであろう。図面は、いかようにも本出願者の教示の範囲を限定することを意図していない。
図1は、本出願者の教示の種々の実施形態の一側面による、例示的MS−ECDシステムを概略図で図示する。 図2は、本出願者の教示の種々の実施形態の一側面による、図1のシステムを用いて行われることができるサンプル分析の例示的方法を概略図で図示する。 図3は、図1および2の例示的方法に従って取得された例示的MS調査スキャンを描写する。 図4は、図2の方法に従って取得された981m/zのm/z単離窓の例示的ECDスペクトルを描写する。 図5は、複数のm/z単離窓にわたる複数のECDスペクトルに対応するヒートマップを描写する。 図6は、図4のECDと図5のヒートマップとの間の対応と、図2の種々の側面による、1つまたはそれを上回る前駆体イオンの荷電状態および分子量の判定とを明示的に描写する。 図7は、図2の種々の側面による、1つまたはそれを上回る前駆体イオンの荷電状態および分子量の判定を明示的に描写する。 図8は、図2の種々の側面による、図5のヒートマップを使用する荷電状態パターンおよび断片化パターンの判定を概略的に描写する。 図9は、図2の種々の側面による、複数のECDスペクトルの例示的相関を概略的に描写する。 図10は、図2の種々の側面による、デコンボリューションされたECDスペクトルに基づくタンパク質の例示的アミノ酸シークエンシングおよび同定を概略的に描写する。 図11は、図2の種々の側面による、デコンボリューションされたECDスペクトルの例示的アミノ酸シークエンシングを概略的に描写する。
明確にするために、以下の議論は、そうすることが便宜的または適切であれば、ある具体的詳細を省略しながら、本出願者の教示の実施形態の種々の側面を詳説するであろうことが理解されるであろう。例えば、代替実施形態における同類または類似特徴の議論は、多少短縮され得る。周知の着想または概念もまた、簡潔にするために、さらに詳細に議論されない場合がある。当業者は、本出願者の教示のいくつかの実施形態が、実施形態の徹底的な理解を提供するためのみに本明細書に記載される、具体的に説明される詳細のうちのあるものを全ての実装では要求しない場合があることを認識するであろう。同様に、説明される実施形態は、本開示の範囲から逸脱することなく、一般的な常識に従った改変または変動の影響を受けやすくあり得ることが明白となるであろう。以下の実施形態の詳細な説明は、いかなる様式でも本出願者の教示の範囲を限定すると見なされるものではない。
本明細書で使用されるような「約」および「実質的に同一」という用語は、例えば、現実世界での測定または取扱手順を通して、これらの手順における不慮の誤差を通して、電気的要素の製造の差異/欠陥を通して、電気損失を通して、起こり得る数量の変動、ならびにそのような変動が従来技術によって実践される既知の値を包含しない限り、同等であるものとして当業者によって認識されるであろう変動を指す。典型的には、「約」という用語は、記述された値の1/10、例えば、±10%だけ、記述される値または値の範囲を上回る、または下回ることを意味する。例えば、約+3V DCの電圧を要素に印加することは、+2.7V DC〜+3.3V DCの電圧を意味することができる。同様に、値が「実質的に」同一と言われる場合、値は、最大5%だけ異なり得る。「約」または「実質的に」同一という用語によって修飾されるかどうかにかかわらず、請求項に記載される定量的値は、記載された値の均等物、例えば、起こり得るが、当業者によって均等物であると認識されるであろう、そのような値の数量の変動を含む。
本出願者の教示の種々の側面によると、本明細書に説明される方法およびシステムは、従来の「トップダウン」ExDベースのプロテオミクス方略に起因する、複雑なExDスペクトルの分析と関連付けられる曖昧性に対処することができる。実際に、そのような複雑性により、「トップダウン」分析の従来の方略は、典型的には、精製サンプルを利用し、および/またはサンプル内の他の被分析物からの干渉を排除するよう、質量分光分析に先立って、1つもしくはそれを上回る時間がかかる複雑なサンプル調製ステップを介して、サンプルを精製する。したがって、ExDは、既知の精製サンプルの「トップダウン」分析の有望性を示しているが、MSシステム内の着目被分析物の蓄積時間が、LC時間尺度に対して過剰に短いため、ExDによって生成される多数の生成イオンの十分な強度を取得することができない場合があるため、本技法は、特に、オンラインLC分離が使用されるときに、複雑なサンプルを分析する際に不十分であり得る。本教示の種々の側面では、本明細書に説明される方法およびシステムは、ExD反応で前駆体イオンから生成される荷電低減種においてパターンを判定して利用することによって、検出されたExD断片イオンおよびそれが生じた前駆体イオンをより確信を持って相関させるために有用であり得る。加えて、または代替として、本教示の種々の側面による方法およびシステムはまた、前駆体ペプチドの分子量の判定された偏差にもかかわらず、ExD断片化プロファイルの類似性に基づいて、PTMの特性評価を可能にすることもできる。種々の側面では、本明細書に説明される例示的方法およびシステムはまた、CIDベースのプロテオミクス方略のようなPTM情報の損失を伴わずに、無傷の着目タンパク質(およびある場合には他の干渉被分析物)を含有する(すなわち、オンラインLC分離を伴わない)注入されたサンプルのExDベースの分析および/または完全なタンパク質のデノボシークエンシングを可能にすることもできる。
本明細書に説明されるシステム、デバイス、および方法は、描写されるものよりも少ない、多い、または異なる構成要素を伴う、多くの異なる質量分析計システムと併せて使用されることができるが、本教示に従って使用するための例示的質量分析計システム100が、図1で概略的に図示されている。図1で描写される例示的実施形態に示されるように、質量分析計システム100は、概して、サンプル源102と、イオン源104と、第1の質量分析器106と、ExD反応セル108と、質量選択的検出器110とを備える。示されるように、システム100は、加えて、その動作を制御するよう、例えば、別様に本明細書で議論されるような、かつ概して当技術分野で公知であり、本教示に従って修正されるような、1つもしくはそれを上回るRF/DC電圧の印加を介して、質量分析器106およびExD反応セル108を通したイオンの透過ならびにその内側のイオンの操作を制御するよう、および/または本明細書に説明される種々の例示的側面に従って検出器110によって生成されるデータの操作/解釈を制御するよう、第1の質量分析器106、ExD反応セル108、および検出器110のうちの1つもしくはそれを上回るものに動作可能に結合されるコントローラ112を含むことができる。コントローラ112は、単一の構成要素として描写されているが、(ローカルまたは遠隔であるかにかかわらず)1つまたはそれを上回るコントローラは、本明細書に説明される方法のうちのいずれかに従って質量分析計システムを動作させるように構成され得ることが理解されるであろう。実際に、1つまたはそれを上回るコントローラは、ハードウェアもしくはソフトウェア形態を成してもよく、例えば、コントローラ112は、別様に本明細書に説明されるように質量分析計を動作させるように実行され得る、その中に記憶されたコンピュータプログラムを有する、好適にプログラムされたコンピュータの形態を成してもよい。実際に、1つまたはそれを上回るコントローラと関連付けられる種々のソフトウェアモジュールは、全て非限定的実施例として、MS調査スキャンを取得する、m/z単離窓に従って前駆体イオンをスキャンする、前駆体イオンにExD反応を受けさせる、検出器によって生成されたデータを受信する、データを分析する(例えば、ピークを同定する)、データ(断片化データ、ExDスペクトル、アミノ酸配列を含む)を出力する、相同性検索を行う、またはその実施を指図するプログラム可能命令を実行することができる。
サンプル源102は、種々の構成を有するが、概して、サンプル(例えば、タンパク質またはペプチドを含有する、もしくは含有する疑いがある溶液)を含有し、および/またはそれによるイオン化のためにイオン源104に導入するように構成される。当業者によって理解されるであろうように、イオン源104は、種々の液体サンプル源に流体的に結合され、(例えば、1つまたはそれを上回る導管、チャネル、管類、パイプ、毛細管等を通して)そこから液体サンプルを受容することができる。非限定的実施例として、サンプル源102は、分析されるサンプルのリザーバ、またはそれを通してサンプルが注入され得る入力ポートを備えることができる。いくつかの側面では、例えば、サンプル源は、サンプルをイオン源104に連続的に流入させるための注入ポンプ(例えば、シリンジポンプ)を備えることができる。代替として、また、非限定的実施例として、分析される液体サンプルは、オンライン液体クロマトグラフィカラムからの溶離液の形態であることができるが、好ましい実施形態では、1つまたはそれを上回るサンプル調製ステップ(例えば、多次元LC分離、電気泳動、ジスルフィド結合低減等)が、オフラインで行われることができる。実際に、別様に本明細書で議論されるように、本方法およびシステムのいくつかの例示的実施形態は、いくつかの複雑なサンプルのためのサンプル調製ステップの削減および/またはオンライン分離技法の排除を可能にすることができる。
イオン源104は、種々の構成を有することができるが、概して、サンプル源102のサンプル内のペプチドおよび/またはタンパク質からイオンを生成するように構成される。一例示的側面では、イオン源104は、少なくとも部分的にイオン化チャンバの中へ延在する出口端で終端するサンプル源104と直接または間接的に流体連通する導管を含むことができる。液体サンプルが(例えば、複数の微液滴として)出口端からイオン化チャンバの中へ放出されると、微液滴内に含有されるペプチドおよび/またはタンパク質は、イオン源104によってイオン化される(すなわち、帯電させられる)ことができる。液滴内の液体(例えば、溶媒)が蒸発すると、タンパク質またはペプチドイオンは、放出され、質量分析器106への透過のための開口に向かって、かつそれを通して引き込まれることができる。当技術分野で公知であり、本明細書の教示に従って修正される、いくつかの異なるデバイスは、イオン源104として利用され得ることが理解されるであろう。非限定的実施例として、イオン源104は、エレクトロスプレーイオン化デバイス、噴霧器支援エレクトロスプレーデバイス、化学イオン化デバイス、噴霧器支援微粒化デバイス、光イオン化デバイス、レーザイオン化デバイス、サーモスプレーイオン化デバイス、およびソニックスプレーイオン化デバイスであることができる。
質量分析器106は、種々の構成を有することができるが、概して、イオン源104によって生成されるサンプルイオンを処理する(例えば、濾過する、スキャンする、捕捉する)ように構成される。非限定的実施例として、質量分析器106は、参照することによってその全体として本明細書に組み込まれ、本教示の種々の側面に従って修正される、James W. HagerおよびJ. C. Yves Le Blancによる著作であり、Rapid Communications in Mass Spectrometry(2003; 17: 1056−1064)で発表された、「Product ion scanning using a Q−q−Qlinear ion trap (Q TRAP(R)) masss pectrometer」と題された論文で概して説明されるような、四重極ロッドセット(例えば、QTRAP(R) Q−q−Qハイブリッド線形イオントラップ質量分析計内のQ1)であることができる。種々の側面では、質量分析器106は、それを通した透過のための着目イオンの範囲を選択するように操作され得る、従来の透過RF/DC四重極質量フィルタとして操作されることができる。一例として、四重極ロッドセットQ1は、質量分解モードで動作するために好適なRF/DC電圧を提供されることができる。当業者によって理解されるであろうように、Q1の物理的および電気的性質を考慮して、印加されたRFおよびDC電圧のパラメータは、Q1が、複数のm/z単離窓にわたって走査され得る、m/z通過帯域を有する四重極電場を確立するように選択されることができる。すなわち、各m/z単離窓において、通過帯域内に入るm/z比を有するイオンが、大部分が平静な四重極電場を横断することができる一方で、通過帯域外になるm/z比を有するイオンは、四重極電場によって軌道減衰に陥り、したがって、四重極ロッドセットQ1を横断することを妨げられる。当業者によって理解されるであろうように、質量分析計システム100は、加えて、そこから上流(例えば、RF単独集束イオンガイドQ0、微分移動度フィルタ(DMS))もしくは下流(例えば、Q3)に1つまたはそれを上回る付加的要素を含むことができる。また、システム内にいくつかのイオン光学要素があってもよいことも当業者に明白となるであろう。
図1に示されるように、例示的質量分析計システム100は、加えて、ExD反応セル108を含み、その内側で、質量分析器106によって透過させられる前駆体ペプチドまたはタンパク質イオンは、非限定的実施例として、電子捕獲反応(すなわち、ETD反応セル)または電子移動反応(すなわち、ETD反応セル)を受けることができる。当技術分野で公知であり、本明細書の教示に従って修正される、任意のExDまたはイオン・イオン反応デバイスは、ExDセル108として利用され得ることが理解されるであろう。非限定的実施例として、ExDセル108は、フーリエ変換質量分析計(FT−ICR−MS)、RF四重極イオントラップ(例えば、Q−q−Q三連四重極質量分析計内のQ2)(例えば、Baba et al. Electron Capture Dissociation in a Radio Frequency Ion Trap. Anal. Chem. 2004, Aug. 1; 76(15): 4263−6)、および米国特許第6,995,366号、第7,145,139号、および第7,775,034号を参照)、オービトラップ型デバイス(例えば、米国特許第7,714,283号を参照)、またはクロス型イオン・イオン反応デバイス(例えば、PCT公開第WO2014191821号)であることができ、ExDデバイスを説明する上記の例示的参考文献のそれぞれの教示は、参照することによってその全体として組み込まれる。
ECD反応は、通常、奇数の電子とラジカル種を形成するように自由電子と相互作用する、多重プロトン化分子Mを伴う。
ECDとは対照的に、ETDは、代わりに、電荷移動反応における電子ドナーとして、前駆体イオン(例えば、アントラセンまたはフルオランテンのラジカル多環芳香族アニオン)と反対電荷の試薬イオン(例えば、A、試薬アニオン)を採用する。
電子を前駆体カチオンの不完全な分子軌道に追加することは、解離閾値を超えるために十分である場合、電子受容体イオンの断片化を引き起こす、結合エネルギーを放出する。しかしながら、ECDまたはETDのいずれかの場合では、電子を受容する全ての前駆体イオンが、必ずしも解離するわけではない。むしろ、多くの場合において、開裂した断片イオンに加えて、ExD反応は、加えて、前駆体イオンの1つまたはそれを上回る荷電低減種(例えば、単独荷電低減種[M+nH](n−1)+、二重荷電低減種[M+nH](n−2)+、三重荷電低減種[M+nH](n−3)+等)を産生する。
図1に示されるように、いったん各m/z単離窓内の前駆体イオンがExDセル108内で反応させられると、生成イオン(荷電低減種および断片イオンを含む)は、検出器110によるExD生成イオンの検出に先立って、さらなる分析のために、1つまたはそれを上回る質量分析器に移動させられることができる。一例として、ExDセル108と検出器110との間に配置される質量分析器は、例えば、そこから生成イオンをスキャンするために、飛行時間(TOF)質量分析モジュール、四重極質量分析モジュール、線形イオントラップ(LIT)モジュール、および同等物を含むが、それらに限定されない、任意の好適な質量分析計モジュールを備えることができる。いずれにしても、複数のm/z単離窓のそれぞれに対応するExDスペクトルは、検出器110による生成イオンの検出に基づいて獲得されることができる。実際に、検出器110は、種々の構成を有することができるが、概して、質量分析器106および/またはExDセル108によって透過させられるイオンを検出するように構成される。一例として、検出器(例えば、電子増倍管、マルチチャネルプレート、または他のイオン電流測定デバイス)は、質量分析器106およびExDセル108を通して透過させられるイオンを検出するために効果的であり得る。検出されたイオンデータは、メモリに記憶され、コンピュータまたはコンピュータソフトウェアによって分析されることができる。
さらに、描写されていないが、質量分析計システム100は、質量分析計システム100の種々の要素内および要素間で好適な真空または真空差を提供するように、任意の好適な数の真空ポンプを備えることができる。例えば、真空差は、概して、質量分析器106が真空下にある間に、イオン源104が大気圧で維持されることができるように、イオン源104と質量分析器106との間に印加される。また、描写されていないが、質量分析計システム100はさらに、本教示による質量分析計システム100の動作を可能にするために、任意の好適な数のコネクタ、電源、RF(高周波)電源、DC(直流)電源、ガス源、および任意の他の好適な構成要素を備え得ることが理解されるであろう。
ここで図2を参照すると、本教示の種々の側面による、図1の質量分析計システムを操作するための例示的方法が描写されている。ステップ201に示されるように、方法200は、ペプチドまたはタンパク質を含有するサンプルをサンプル源102からイオン源104に送達することによって始まることができ、それによって、サンプルは、ステップ202に示されるようにイオン化される。いったんペプチドまたはタンパク質がイオン化されると、いくつかの側面では、MS調査スキャンが、ステップ203に示されるように取得されることができる。一例として、質量分析計システム100は、質量分析器が広範囲のm/zにわたってスキャンする質量フィルタモードで質量分析器106を操作することによって、またはExDセル108が透過モードである(すなわち、ペプチドまたはタンパク質イオンが、電子をそこに移動させることなくExDセル108を通って流動する)間に、検出器110として使用されるTOF質量分析計の場合に非質量選択的透過モードで質量分析器106を操作することによって、調査スキャンスペクトルもしくはMSスペクトルを取得することができる。このようにして、検出器110は、おそらく、本教示に従ってさらなる分析のために選択され得る、種々のピークを同定するように、広い質量範囲内の全ての前駆体イオンを検出することができる。例えば、ここで図3を参照すると、精製されていない炭酸脱水酵素を含有するサンプル(ならびに他のペプチドおよびタンパク質)がエレクトロスプレーイオン源によってイオン化され、次いで、イオンがTOF質量分析器によって検出された、MS調査スキャンが描写されている。本実施例では、さらなる分析のために選択されている、約950〜約1000Daの範囲が、拡大図で示されている。図3に示されるように、これらの範囲はそれぞれ、それぞれが所与のm/zで重複する異なる種からの複数のタンパク質またはペプチドイオンの存在に起因し得る、複数のピークを提示する。
いくつかの側面では、特定の着目質量範囲(例えば、950〜1000Da)は、例えば、MS調査スキャンおよび着目タンパク質イオンの起こり得るm/zのアプリオリな知識に基づくことができ、質量分析器106は、ステップ204で、ExDセル108への質量範囲を横断して複数のm/z単離窓内の前駆体イオンをスキャンする帯域通過を反復して提供するよう、操作されることができる。m/z単離窓は、種々の狭い幅(例えば、5Da未満、約2〜5Da、約1Da)を有することができ、ステップ205で、ExDセル108内の十分な蓄積/反応時間を可能にするように、種々の速度でスキャンされることができる。種々の実施形態では、例えば、質量分析器106は、公称上同一のm/zを伴う前駆体ペプチドまたはタンパク質イオンのみが、ExDセルの中へ透過させられるように、約1Daのm/z単離窓幅において操作されることができる。サンプル源102がイオン源104へのサンプルの直接注入を利用する場合において、したがって、前駆体イオンの数量は、オンラインLC分離を利用するフロントエンド分離方略の場合のように、LC溶出時間(例えば、特定のタンパク質またはペプチドが溶出されるであろう、LC中の滞留時間窓)によって制約されないであろうことを理解されたい。したがって、各m/z単離窓のための蓄積/反応時間は、溶出時間から独立して選択され、例えば、m/z単離窓内の十分な前駆体イオンが、ExD反応に起因する種々の生成イオンの検出可能な強度を提供するためにExDセル108内で反応させられ得るように、選択されることができる。種々の実施形態では、各m/z単離窓の前駆体スキャンは、非限定的実施例として、5分を上回る透過持続時間を有することができる。さらに、システム100が、代わりに、広い質量範囲にわたって全ての前駆体イオンのExDスペクトルを獲得し得るため、着目下位範囲を選択するステップはもちろんのこと、ステップ203のように調査スキャンを取得するステップは、必要ではあり得ないことが理解されるであろう。これは、着目質量範囲が広いときに、ExDによるさらなる分析のためにいずれの前駆体イオンを選択するかについて、いかなる決定も排除し得るが、有意量のサンプルが要求され得るため、そのようなプロセスは、時間がかかって非効率的であり得る。
ステップ205では、次いで、ExDセル108へスキャンされるm/z単離窓内のイオンは、(例えば、ExDセル108内で捕捉される、またはそれを通して透過させられる電子もしくは試薬イオンとの相互作用を介して)ExD反応を受け、それによって、(上記で議論されるような)ExD断片イオンおよび荷電低減種を含む、生成イオンの形成をもたらす。ステップ206では、次いで、ExD生成イオン(および任意の残存前駆体イオン)は、ステップ206のように各m/z単離窓のExDスペクトルを生成するよう、検出器110によって検出されることができる。例えば、ここで図4を参照すると、質量分析器106が、981m/z(約1Daのm/z単離窓幅)の前駆体イオンを(6分のスペクトル蓄積のために)ECD能力を伴う四重極TOF質量分析計内の電子と反応させ、生成イオンが、検出器110としてのTOF分析器によって検出される、ECDスペクトルが描写されている。図4に示されるように、ECD反応後に検出される最も強力なピークは、981m/zにおける未反応前駆体イオンであり、ならびに種々の他のピークが、より低いおよび高いm/zの両方の生成イオンを表す。第1のm/z単離のためのExD反応生成物の検出に応じて、次いで、次のm/z単離窓内の前駆体イオンは、任意の数のm/z単離窓に関して、ExD反応セルの中へスキャンされること等ができる。
そのような様式で、ExDスペクトルは、図5に示されるように、複数のExD反応によって生成される約100〜1300Daのm/zの検出された生成イオンの強度(より暗い/赤い=より強力)を示すように、950〜1000Daの例示的着目質量範囲にわたって前駆体スキャンからの複数のExDスペクトルを組み合わせる、ヒートマップによって表され得る、m/z単離窓毎に取得されることができ、ヒートマップ内の各水平線は、1Daの幅を有する、異なるm/z単離窓を表す。概して、図5のヒートマップを調べると、MS調査スキャン内の主要なピークに対応する特定のm/z単離窓の生成イオンの平均強度は、概して、より高いことが観察されるであろう。すなわち、前駆体イオン(強力なより暗い/赤い線)が、1m/z増分で950〜1000Daのm/zの範囲にわたってスキャンされると、ヒートマップは、MSスペクトルの主要なピークに交差する水平点線に沿って、増加した平均強度を示す(図3のMSスペクトルは、前駆体スキャンとMS調査スキャンとの間の本対応を実証するように反転および回転させられている)。図6はさらに、図5のヒートマップと各m/z単離窓のECDスペクトルとの間の対応を実証する。図6に示されるように、図4のECDスペクトルの差込図を水平点線に沿った生成イオンの強度と比較することによって、ヒートマップは、981Daのm/zを有する前駆体イオンのECD反応に起因する生成イオンの強度を示す。一例として、981Daにおける前駆体イオンに対応する水平線における図6のヒートマップは、約792Da、約981Da(すなわち、前駆体イオン)、約1047Da、約1122Da、および約1208Daのm/zにおける生成イオンの増加した強度を描写する。
また、本教示の種々の側面によると、ECDスペクトルはさらに、m/z単離窓内の前駆体イオンのECD反応に起因する生成イオンの特定の側面を判定するように、(例えば、コントローラ112によって)分析されることができる。第1に、上記のように、電子が前駆体イオンによって受容されるExD反応は、電子受容体の断片化(すなわち、ペプチド骨格のアミド結合に沿ったタンパク質またはペプチド前駆体イオンの開裂)をもたらすことができるが、ExD反応のエネルギーは、前駆体イオンの1つまたはそれを上回る荷電低減種が生じるように、断片化を引き起こすためには不十分であり得る。すなわち、電子の追加は、(そこからのペプチドの開裂の欠如に起因して)前駆体イオンの質量を実質的に変化させることなく、ペプチドまたはタンパク質前駆体イオンに対して減少した電荷を提示する、荷電低減種(CRS)を生成することができる。したがって、所与のm/zの前駆体イオン(すなわち、[M+nH]n+)毎に、荷電低減種(例えば、単独荷電低減種[M+nH](n−1)+および二重荷電低減種[M+nH](n−2)+)が、前駆体イオンに対してより高いm/zにおいてExDスペクトル内で出現するであろう
図6を参照すると、例えば、約1047Da、約1122Da、および約1208Daにおける観察されたピークが、おそらく、981m/zにおいて1つまたはそれを上回る前駆体イオンのこれらの荷電低減種を表す一方で、代わりに、ECDスペクトル内の他のより小さい(あまり強力ではない)ピークは、前駆体イオンに対してより高いm/zおよびより低いm/zの両方の断片イオンを表すことが理解されるであろう。
実際に、本教示の種々の側面によると、図2のステップ207では、前駆体イオンより大きいm/zを有する、ExD生成イオンスペクトル内の主要なピーク(すなわち、起こり得るCRS)は、前駆体荷電状態(すなわち、前駆体イオンの電荷、[M+nH]n+の中のn)および/またはCRSが導出された前駆体イオンの(例えば、原始質量単位もしくはamuにおける)前駆体分子量を判定するように分析されることができる。非限定的実施例として、981m/z前駆体イオンの荷電状態は、以下のように、第1の観察されたCRSのm/zと前駆体イオンの981m/zとの間の差の関数として判定されることができる。
式中、Z、981m/zにおける前駆体イオンのうちの1つの種の荷電状態であり、Yは、第1のCRSのm/z(すなわち、1046.97142Da)であり、Xは、前駆体イオンのうちの第1の種のm/z(すなわち、981.51502)である。上記の例示的関数に基づいて、前駆体荷電状態は、16+(すなわち、n=[M+16H]16+の中の16)であると判定される。
同様に、CRSが導出された前駆体イオンの前駆体分子量(すなわち、m/zの中のm)は、例えば、判定された前駆体荷電状態およびその981m/zを踏まえて、ステップ207で判定されることができる。一例として、981m/z前駆体イオンの分子量(M)は、以下の関数によって約15700amuであると判定されることができる。
式中、mは、水素の原子質量である。
図6に示されるように、981m/zにおけるExDスペクトルはまた、同一前駆体イオンの多重低減種
を表し得る、または代替として、981Daのm/zも提示する、異なる前駆体イオンの単独荷電低減種を表し得る、付加的CRSも提示する。例えば、約1122DaにおけるCRSが導出されるイオンの荷電状態が、第1のCRSの状態に合致することが確認される場合(すなわち、前駆体がZ=16+を有する場合、1046.97142Daにおける第1のCRSは、(Z−1)=15+の荷電状態を提示するであろう)、約1122Daにおける第2のCRSは、前駆体イオンの二重CRSであることが判定されることができる。例えば、(1121.76645m/zにおける)第2のCRSが、以下の関数によって、(Y=1046.97142Daにおける)第1のCRSの二重低減種を表すかどうかが判定されることができる。
式中、Yは、第2の荷電低減種のm/z(すなわち、1121.76645Da)である。Zが(Z−1)に実質的に等しい場合には、第2のCRSは、第1のCRSの二重低減種を表すと仮定されることができる。しかしながら、Z≠(Z−1)である場合には、代わりに、第2の荷電低減種が、第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの第2の種(例えば、前駆体イオンのうちの第1の種と異なるアミノ酸配列のペプチド)の荷電低減種を表す。上記の関数を利用して、981m/z前駆体のECDスペクトル内の約1122Daにおけるピークが、約1047Daにおける第1の単独低減CRSのものと同一の前駆体イオン
の14+二重低減CRSを表すことが確認された。同様に、直接先行する関数における基礎として第2のCRSを利用して、約1208Daにおけるピークが、同一前駆体イオンの13+三重低減CRS
を表すことも確認された。
第2のCRSが同一前駆体イオンの二重低減種を表すかどうかを判定するために利用される上記の関数は、1つの例示的方法であることが理解されるであろう。一例として、ExDスペクトルが第2のCRSを提示するとき、代替として、以下の関数によって、第2のCRSが二重低減種を表すかどうかが判定されることができる。
=Mである場合には、第2のCRSは、同一前駆体イオンの二重低減種を表す。しかしながら、M≠Mある場合には、代わりに、第2のCRSは、m/z単離窓内の前駆体イオンのうちの第2の種
(例えば、
を有する前駆体イオンと異なるアミノ酸配列のペプチド)の荷電低減種を表す。
そのような例示的様式で、図2のステップ207に示されるように、m/z単離窓内の前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種の荷電状態および分子量は、したがって、各m/z単離窓に対応するExDスペクトル内の前駆体およびCRSピークから(例えば、ピーク同定モジュールを使用するコントローラ112によって)判定されることができる。例えば、ここで図7を参照すると、975Daにおけるm/z単離窓に対応するECDスペクトルは、CRSの4つの種を描写し、それぞれ、それらが975Daにおいて前駆体イオンのうちの同一または異なる種のCRSに対応するかどうかを判定するように分析される。上記で説明される例示的関係を使用して、ECDスペクトル内の975Daにおける前駆体ピークは、前駆体イオンのうちの2つの異なる種を表し、一方(すなわち、前駆体)が、30+の荷電状態および約29,100amuの分子量を提示し、他方(すなわち、前駆体)が、16+の荷電状態および約15,500amuの分子量を提示することが判定された。具体的には、1006DaにおけるCRSピークが、前駆体の単独荷電低減種を表すことが見出された一方で、約1041Da、1126Da、および1200DaにおけるCRSピークは、それぞれ、前駆体の単独、二重、および三重荷電低減種を表すことが判定された。
本教示の種々の側面では、(ステップ207で)複数のm/z単離窓にわたって前駆体イオンの前駆体荷電状態および分子量を計算した後、図6で描写されるヒートマップはさらに、各m/z単離窓に対応するExDスペクトルの間の関係を判定するように分析されることができる。例えば、図8を参照すると、種々のm/z単離窓におけるExDは、任意のパターンが、同一荷電状態および類似分子量を有する前駆体イオンに起因する断片イオンの存在下で存在するかどうかを判定するように、比較されることができる。実際に、本教示の種々の側面による方法およびシステムは、特定のExDスペクトル内で検出される断片イオンを、断片イオンが導出される前駆体イオンと相関させるために、異なるm/z単離窓に対応するExDスペクトルにわたる実質的に同一の断片化パターンおよびExDスペクトルにわたる荷電状態パターンの存在を利用する。同一荷電状態の前駆体イオンの分子量の差は、前駆体が相互と異なることを示唆する傾向があろうが、本教示は、コンボリューションされたExDスペクトル内で観察される断片イオンを、m/z単離窓内のいくつかの前駆体イオンのうちの1つとより確信を持って関連付けるよう、前駆体イオンの間の分子量の差を、アミノ酸配列内のPTMまたはわずかな差の存在によるものと見なす。
一例として、m/z単離窓にわたる類似荷電状態の前駆体イオンの間の分子量のわずかな差が、(アミノ酸配列またはそれと関連付けられるPTMの軽微な差を伴うが)実質的に類似するペプチドまたはタンパク質前駆体を示すことを仮定して、関連タンパク質前駆体の荷電状態パターンは、m/z単離窓にわたる関連前駆体イオンの相対存在量に基づいて、ステップ208で判定されることができる。図8の例示的ヒートマップでは、例えば、荷電状態パターン(すなわち、CRSパターン差込図)が、質量範囲にわたって(すなわち、複数のm/z単離窓にわたって)ステップ207で判定される9+、16+、30+荷電状態前駆体毎に判定される。具体的には、本例示的な描写される実施形態では、種々の荷電状態の前駆体の荷電状態パターンは、質量範囲にわたる(すなわち、各前駆体荷電状態の単独荷電低減種に対応する点線に沿った)単独荷電低減種の強度に基づいて判定される。すなわち、CRSパターン差込図上の16+荷電状態パターンは、16+1番目のCRS(Z=15+)に対応する点線に沿った各m/z単離窓における検出された強度であり、30+荷電状態パターンは、30+1番目のCRS(Z=29+)に対応する点線に沿った検出された強度であり、9+荷電状態パターンは、9+1番目のCRS(Z=8+)に対応する点線に沿った検出された強度である。
ステップ209では、本教示による方法およびシステムはまた、各荷電状態の関連前駆体イオンに対応する少なくとも部分的な断片化パターンを同定するように、異なるm/z単離窓内の前駆体イオンから産生される断片イオンを比較することもできる。一例として、図8のヒートマップを具体的に参照すると、異なるm/z単離窓内の関連前駆体イオン(すなわち、類似分子量、同一荷電状態)のECDスペクトルは、図8の垂直のボックスによって実証されるように、断片イオンのパターンの類似性を提示し得ることが観察される。一例として、16+断片パターンでは、m/z単離窓の間の断片イオンピークは、同一m/zにおいて存在し、また、各個別のm/z単離窓に対応するECDスペクトル内で検出されるように、16+の荷電状態および約15500〜16000amuの分子量を有する、前駆体の15+CRSの相対強度に比例して、m/z単離窓の間で強度が変動することが分かり得る。また、これらの類似断片化パターンは、前駆体イオンが、実質的に同一のアミノ酸配列を有する(すなわち、種々の断片イオンによって表されるアミノ酸の配列が、前駆体の間の計算された分子量の差にもかかわらず、それでもなお実質的に同一である)ことを確認することを理解されたい。
再度、図2を参照すると、ステップ210では、複数のExDスペクトルは、各ExDスペクトル内の検出された断片イオンが導出された、前駆体イオンを同定し、それによって、特定の前駆体イオンに対応する断片イオンを分解するように、デコンボリューションされることができる。例えば、図9で概略的に図示されるように、各ExDスペクトル内の断片イオンは、複数の前駆体荷電状態のうちの1つに起因する断片イオンのm/zを別個に同定するように、ステップ208で判定される荷電状態パターンおよびステップ209で判定される断片化パターンと相関させられることができる。本例示的実施形態では、図9cの相関(C30)は、以下のように、荷電状態パターン(図9a)に基づいて、図9bのヒートマップで描写されるZ=30+における断片ピーク数i毎に判定された。
30(m/x)は、m/zが、図9bの「垂直」尺度である、スキャンされた前駆体m/zである、正規化された30+荷電状態パターン(図9a内の線)を表し、
30は、正規化された30+荷電状態パターンの平均強度であり、
Frag(m/z)は、m/zが、スキャンされた前駆体m/zである、図9b内の具体的m/zにおける正規化されたi番目のピークの強度パターンであり、
frag(m/z)は、図9b内の具体的m/zを伴う正規化されたi番目のピークの平均強度である。
上記の例示的相関関数では、平均値は、選択のための閾値の判定を容易にするよう減算されることが、当業者によって理解されるであろう。例えば、相関がない場合、C30値は、ゼロになるはずであり、完璧に相関性がある場合、C30値は、1になるはずである。閾値は、約0.5に設定されることができるが、本閾値または任意の他の閾値も、本教示に従って使用されることができる(例えば、0.3)。類似相関は、同様に、前駆体荷電状態の複数の種の存在にもかかわらず、断片イオンおよびそれらが導出される前駆体イオンが同定され得る、図9d(972Daの前駆体m/zにおける前駆体Z=30+の断片スペクトル)および9e(981Daの前駆体m/zにおける前駆体Z=16+の断片スペクトル)の例示的なデコンボリューションされたスペクトルを生成するように、16+ならびに9+荷電状態のそれぞれに関して行われることができる。さらに、上記で説明される相関は、例示的にすぎず、他の代替的な相関関数または変数が、前駆体イオンの複数の種を有するm/z単離窓に対応する、ExDスペクトル内の断片を分離するために、本教示に従って使用され得ることを理解されたい。
ステップ210で、異なる前駆体イオンから産生される断片イオンの分離に応じて、本教示はまた、断片イオンが導出されたタンパク質またはペプチドのアミノ酸配列のより決定的な特性評価を提供することもできる。例えば、サンプル中の炭酸脱水酵素の存在は、(ステップ207のように)Z=30+前駆体の約29,000amuの実験的に判定された分子量に基づいて、ならびに炭酸脱水酵素の理論的断片化に良好に対応するcおよびz型断片のm/zを提示する、図9dのデコンボリューションされたスペクトルによる検証を通して、確認されることができる。
また、本教示による方法およびシステムは、精製されていないサンプル中の既知のタンパク質の確認および特性評価を可能にすることができるが、本教示は、加えて、タンパク質中のアミノ酸配列の少なくとも部分的な判定を通して、未知のタンパク質の同定を可能にする。一例として、16+前駆体に対応するタンパク質の同一性は、最初に未知であったが、図9eのデコンボリューションされたスペクトルは、その分離が特定のアミノ酸残基の質量に合致させられる、ピークペアの判定に基づく前駆体タンパク質内のデノボシークエンシングによる、一意のアミノ酸配列の判定を可能にすることができる。例えば、ステップ211では、16+の荷電状態(および約15500〜16000amuの実験的に判定された分子量)を有する前駆体の相関ECDスペクトルから、種々のピークは、連続アミノ酸の1つまたはそれを上回る部分的配列を同定するように比較されることができる。ステップ212では、例えば、図10で描写される、判定された配列のうちの1つまたはそれを上回るものを、既知のアミノ酸配列のデータベースと比較すること(例えば、http://prospector.ucsf.edu/prospector/mshome.htmで入手可能なProtein Prospectorを介する等の相同性検索)によって、配列17の合致は、スーパーオキシドジスムターゼ1としてサンプル中に同様に存在するタンパク質を確動的に同定する。したがって、本教示の種々の側面による方法およびシステムは、不純サンプル中に存在する既知のタンパク質のより決定的な特性評価を可能にすることができるだけではなく、他の干渉タンパク質またはペプチドの存在にもかかわらず、未知のタンパク質からのデコンボリューションされたペプチド断片のデノボシークエンシングでも使用されることができる。さらに、図11に示されるように、Z=16+において潜在的前駆体としてスーパーオキシドジスムターゼ1を同定した後、ECDスペクトルは、再度、スーパーオキシドジスムターゼ1中で公知である他のアミノ酸配列が、ECDスペクトル内にも存在したことを確認するように、分析されることができる。また、図11に示されるように、アミノ酸配列への変化(例えば、Ala1のアセチル化)はさらに、検出されたECD断片の部分的再構成、ならびに種々のm/z単離窓内で検出される16+スーパーオキシドジスムターゼ前駆体の分子量のわずかな差の存在に基づくサンプル中の種々のPTM状態の特性評価に基づいて、確認されることができる。
当業者は、日常的にすぎない実験を使用して、本明細書に説明される実施形態および実践の多くの均等物を把握する、または解明できるであろう。一例として、種々の構成要素の寸法および種々の構成要素に印加される特定の電気信号(例えば、振幅、周波数等)の明示的値は、例示的にすぎず、本教示の範囲を限定することを意図していない。したがって、本発明は、本明細書に開示される実施形態に限定されるものではないが、法の下で許可される限り広範囲に解釈されるものである、以下の請求項から理解されるものであることが理解されるであろう。
本明細書で使用される項の見出しは、編成目的のためにすぎず、限定的として解釈されるものではない。本出願者の教示は、種々の実施形態と併せて説明されるが、本出願者の教示が、そのような実施形態に限定されることは意図されない。対照的に、本出願者の教示は、当業者によって理解されるであろうように、種々の代替物、修正、および均等物を包含する。

Claims (21)

  1. イオン源を利用し、少なくとも1つのペプチドまたはタンパク質を含有するサンプル溶液から複数の前駆体ペプチドまたはタンパク質イオンを生成するステップと、
    複数のm/z単離窓を使用して、前駆体イオンの質量範囲をスキャンするステップと、
    前記m/z単離窓のそれぞれの内側の前記前駆体イオンにExD反応を受けさせるステップと、
    前記m/z単離窓のそれぞれに対応する複数のExDスペクトルを生成するよう、前記ExD反応のそれぞれに起因する生成イオンを検出するステップであって、少なくとも、第1のm/z単離窓に対応する第1のExDスペクトルは、1つまたはそれを上回るExD断片イオンおよび前記第1のm/z単離窓内の前記前駆体イオンの1つまたはそれを上回る荷電低減種を提示する、ステップと、
    少なくとも部分的に、前記第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種のm/zおよび前記前駆体イオンの前記1つまたはそれを上回る荷電低減種のm/zに基づいて、前記第1のm/z単離窓内の前記前駆体イオンのうちの前記1つまたはそれを上回る種の前駆体荷電状態ならびに分子量を判定するステップと、
    を含む、サンプルを処理する方法。
  2. 直接注入を介して、前記サンプル溶液を前記イオン源に導入するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
  3. 前記m/z単離窓はそれぞれ、約1Daの範囲を有する、請求項1に記載の方法。
  4. 前記第1のm/z単離窓に対応する前記第1のExDスペクトルは、第1の荷電低減種を提示し、前記第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの第1の種の前記前駆体荷電状態は、前記第1の荷電低減種の前記m/zおよび前駆体イオンのうちの前記第1の種の前記m/zの関数として判定される、請求項1に記載の方法。
  5. 前記第1のExDスペクトルはさらに、第2の荷電低減種を提示し、前記方法はさらに、前記第2の荷電低減種が前記第1の荷電低減種の多重低減種または前記第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの第2の種の荷電低減種を表すかどうかを判定するステップを含む、請求項4に記載の方法。
  6. 前記第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの前記第1の種の前記分子量は、前駆体イオンのうちの前記第1の種の前記前駆体荷電状態および前記m/zの関数として判定される、請求項4に記載の方法。
  7. 前記m/z単離窓のそれぞれの内側の前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種のそれぞれの前駆体荷電状態および分子量を判定するステップと、
    類似分子量を提示する前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種の前記前駆体荷電状態のそれぞれの前記質量範囲にわたって前駆体荷電状態パターンを判定するステップと、
    各個別のm/z単離窓に対応するExDスペクトル内の前記1つまたはそれを上回るExD断片イオンを、前記個別のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの前記1つまたはそれを上回る種のそれぞれの前記前駆体荷電状態パターンと相関させるステップと、
    をさらに含む、請求項1に記載の方法。
  8. 前記前駆体荷電状態パターンは、前記m/z単離窓のそれぞれの内側の前駆体イオンのうちの前記1つまたはそれを上回る種のそれぞれの相対存在量から判定される、請求項7に記載の方法。
  9. 前記前駆体荷電状態パターンは、前記m/z単離窓のそれぞれに対応する前記ExDスペクトル内の前駆体イオンのうちの前記1つまたはそれを上回る種のそれぞれの単独荷電低減種の強度から判定される、請求項7に記載の方法。
  10. 前記前駆体荷電状態パターンを参照することによって、前駆体イオンのうちの前記1つまたはそれを上回る種から選択される第1の種のExDスペクトルを生成するステップをさらに含み、前記前駆体イオンのうちの前記選択された第1の種の前記ExDスペクトル内のExD断片イオンピークの間の質量の差は、前記前駆体イオンのうちの前記選択された第1の種の中の1つまたはそれを上回るアミノ酸を示す、請求項7に記載の方法。
  11. 前記前駆体イオンのうちの前記選択された第1の種の中の前記アミノ酸配列を少なくとも部分的に再構成するステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
  12. 前記前駆体イオンのうちの前記選択された第1の種の部分的に再構成されたアミノ酸配列を、既知のペプチドまたはタンパク質配列のデータベースと比較し、前記前駆体イオンの前記第1の種を形成するようにイオン化される前記ペプチドまたはタンパク質を同定するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
  13. 選択されたm/z単離窓に対応する複数の前記ExD断片イオンスペクトルを比較するステップをさらに含み、類似分子量の前駆体イオンのうちの複数の種の類似ExD断片イオンパターンは、類似前駆体イオン上の異なる翻訳後修飾の存在を示す、請求項7に記載の方法。
  14. 少なくとも1つのペプチドまたはタンパク質を含有するサンプル溶液から複数の前駆体ペプチドまたはタンパク質イオンを生成するように構成される、イオン源と、
    前記イオン源から前記複数の前駆体イオンを受容するように構成される、質量分析器と、
    質量分析器から透過させられる前記前駆体イオンを受容し、前記前駆体イオンにExD反応を受けさせるように構成される、ExD反応セルと、
    検出器と、
    コントローラであって、前記コントローラは、
    m/z単離窓のそれぞれの内側の前記前駆体イオンにExD反応を受けさせるよう、前記ExD反応セルへの複数のm/z単離窓を使用して、前記前駆体イオンの質量範囲をスキャンすることと、
    前記m/z単離窓のそれぞれに対応する、前記ExD反応に起因する生成イオンの複数のExDスペクトルを生成することであって、少なくとも、第1のm/z単離窓に対応する第1のExDスペクトルは、1つまたはそれを上回るExD断片イオンおよび前記第1のm/z単離窓内の前記前駆体イオンの1つまたはそれを上回る荷電低減種を提示する、ことと、
    少なくとも部分的に、前記第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種のm/zおよび前記前駆体イオンの前記1つまたはそれを上回る荷電低減種のm/zに基づいて、前記第1のm/z単離窓内の前記前駆体イオンのうちの前記1つまたはそれを上回る種の前駆体荷電状態ならびに分子量を判定することと
    を行うように構成される、コントローラと、
    を備える、質量分析計システム。
  15. 前記イオン源への前記サンプル溶液の直接注入のためのポンプをさらに備える、請求項14に記載のシステム。
  16. 各m/z単離窓は、約1Daの範囲を有する、請求項14に記載のシステム。
  17. 前記第1のm/z単離窓に対応する前記第1のExDスペクトルは、第1の荷電低減種を提示し、
    前記第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの第1の種の前記前駆体荷電状態は、前記第1の荷電低減種の前記m/zおよび前駆体イオンのうちの前記第1の種の前記m/zの関数として判定され、
    前記第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの前記第1の種の前記分子量は、前駆体イオンのうちの前記第1の種の前記前駆体荷電状態および前記m/zの関数として判定される、
    請求項14に記載のシステム。
  18. 前記第1のExDスペクトルはさらに、第2の荷電低減種を提示し、前記コントローラはさらに、前記第2の荷電低減種が前記第1の荷電低減種の多重低減種または前記第1のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの第2の種の荷電低減種を表すかどうかを判定するように構成される、請求項17に記載のシステム。
  19. 前記コントローラはさらに、
    前記m/z単離窓のそれぞれの内側の前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種のそれぞれの前駆体荷電状態および分子量を判定することと、
    前記質量範囲にわたって、類似分子量を提示する前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種の前記前駆体荷電状態のそれぞれの前駆体荷電状態パターンを判定することと、
    各個別のm/z単離窓に対応する前記ExDスペクトル内の前記1つまたはそれを上回るExD断片イオンを、前記個別のm/z単離窓内の前駆体イオンのうちの1つまたはそれを上回る種のそれぞれの前記前駆体荷電状態パターンと相関させることと
    を行うように構成される、請求項14に記載のシステム。
  20. 前記コントローラはさらに、前記m/z単離窓のそれぞれに対応する前記ExDスペクトル内の前駆体イオンのうちの前記1つまたはそれを上回る種のそれぞれの単独荷電低減種の強度に基づいて、前記前駆体荷電状態パターンを判定するように構成される、請求項19に記載のシステム。
  21. 前記コントローラはさらに、選択されたm/z単離窓に対応する複数の前記ExD断片イオンスペクトルを比較するように構成され、類似分子量の前駆体イオンのうちの複数の種の類似ExD断片イオンパターンは、類似前駆体イオン上の異なる翻訳後修飾の存在を示す、請求項14に記載のシステム。
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