本発明は、とりわけ、少なくとも2つの異なる親ホモ二量体抗体種(本明細書全体を通して同じ意味で「親抗体種」、「ホモ二量体親抗体種」、「重鎖ホモ二量体親抗体種」、「重鎖ホモ二量体親種」などと呼ぶ)から、目的の多重特異性抗体(MAI)(本明細書全体を通して同じ意味で「ヘテロ二量体抗体種」、または「重鎖ヘテロ二量体抗体」、こうした用語の代替となる単数形及び複数形、などと呼ぶ)を分離、分割及び精製する方法を提供する。有利には、本開示の方法は、ホモ二量体親抗体種のいずれかへの、そのような親抗体種からのMAIの分離、分割、または精製を目的とした変異の組込みまたは導入を必要としない。
本方法は、とりわけ、上述の種のそれぞれを含む組成物を入手すること、及びその組成物でクロマトグラフィー、例えばイオン交換クロマトグラフィーを実施し、それによって、MAIを第1親抗体種及び第2親抗体種のそれぞれから分離することを含む。ある実施形態において、MAIは第1重鎖(HC)可変領域及び第2重鎖可変領域を含む第1ポリペプチドを含み、第1及び第2可変領域は異なる抗原特異性及び異なる等電点(pI)を有する。ある実施形態において、異なる等電点は異なる実際の等電点である。ある他の実施形態において、異なる等電点は異なる計算等電点である。ある他の実施形態において、MAIは第1軽鎖可変領域を含む第3ポリペプチドをさらに含む。ある他の実施形態において、MAIは第3ポリペプチド及び第4ポリペプチドをさらに含み、第3ポリペプチド及び第4ポリペプチドのそれぞれは第2軽鎖可変領域を含む。ある他の実施形態において、第1軽鎖可変領域及び第2軽鎖可変領域は同一である。ある他の実施形態において、第3ポリペプチド及び第4ポリペプチドは同一である(すなわち、これらは「共通軽鎖」となる)。
当業者によって理解され、また、全体を通して開示するように、「特異性」は、目的の抗原の1つ以上の抗原決定基、例えば1つ以上のエピトープなどとは反応し、かつ目的の抗原の他のエピトープまたは目的の他の抗原とは反応しないことを可能にする抗体の特性のことをいう。当該技術分野において理解されるように、抗体特異性は、エピトープ及び/または抗体の結合部位の化学組成、物理的力、エネルギー的優位性、立体障害、及び分子構造またはトポロジーに依存する。
当業者によって理解され、また、全体を通して開示するように、「アフィニティー」は抗体−エピトープ相互作用の強度、または安定性のことをいう。エピトープに対するアフィニティーが高い抗体は比較的強固に及び/または安定してエピトープに結合する一方で、エピトープに対するアフィニティーが低い抗体は比較的弱く及び/またはより不安定に結合する。
当業者によって理解され、また、全体を通して開示するように、目的の抗原のエピトープ(複数可)に対する特異性を有する抗体を「収集する」または「収集した」とは、そのような特異性を有しない抗体からそのような特異性を有する抗体を区別する(または区別した)ことを意味する。目的の抗原のエピトープ(複数可)に対する特異性を有する抗体を収集すること、または抗体を収集したことは、それらを区別するために、そのような特異性を有しない抗体からの抗体の物理的分離を必要としなくてもよい。しかし、ある実施形態において、目的の抗原のエピトープ(複数可)に対する特異性を有する抗体を収集することは、そのような特異性を有しない抗体からそのような抗体を物理的に分離することを含む。抗体を収集する例示的な方法及び手段は当該技術分野において公知であり、例えばフローサイトメトリー、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)、磁気活性化細胞ソーティング(MACS)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)など、及びこれらの組合せが挙げられる。
全体を通して開示する方法においてそのような特異性を判定するために、当該技術分野におけるそのような特異性を判定する任意の手段を用いてよく、例えば、検出可能標識でそのような抗体を標識化すること;検出可能標識を検出すること;抗原のエピトープ(複数可)に結合している抗体の機能的な結果、例えばそのようなエピトープ(複数可)に対する特異性を有することが既知の別の抗体との競合などを検出すること;目的の抗原と既知のタンパク質相互作用パートナーまたはリガンドとの間のタンパク質−タンパク質またはタンパク質−リガンド相互作用の変化が挙げられる。
本明細書全体で用いる場合、「共通軽鎖」は、少なくとも2つの異なる重鎖ポリペプチドと独立して安定的に対合し、それによって、それぞれの独立した場合において、各重鎖ポリペプチドの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む抗原結合ドメインを生成することができる軽鎖可変領域を含むポリペプチドを含む。したがって、共通軽鎖の2つのコピーのそれぞれは、第1重鎖ポリペプチド及び第2重鎖ポリペプチドと安定的に対合することができ、その結果、天然型、例えばIgGアイソタイプ型、例えばIgG1型、及びIgG2型、IgG3型、及び/またはIgG4型などの多重特異性(例えば二重特異性)ヘテロ二量体抗体MAIは、2つの異なる抗原に対する特異性を有する。
本明細書全体で用いる場合、「安定な対」は、重鎖ポリペプチドと軽鎖ポリペプチド、例えば共通軽鎖などとの間の天然または天然様相互作用が生じ、MAIが化学的及び機能的に意味のある安定な状態にあることを意味する。
本明細書全体で用いる場合、「安定」は比較的固定されている及び/または恒常的であることを意味する。したがって、「安定」なMAIまたは関連するポリペプチドの「安定」な対は、例えば、安定な形態で収集及び/または単離され得るものであり、そのため、その形態が実質的に保存されており、安定な形態の化学的及び/または機能的特性を観察することができるものである。
本明細書全体で用いる場合、「天然」、「野生型」は、天然環境、例えば動物または動物種、例えばヒトまたはヒト種などにおいて存在する型である分子、ポリペプチド、抗体、型、免疫グロブリン、免疫グロブリン定常領域、Fc領域、重鎖、軽鎖、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、MAI、親ホモ二量体抗体種、親ホモ二量体抗体種由来の重鎖などといった構造または存在を表現する。そのような「天然」または「野生型」構造または存在は、例えば、非組換え構造または存在からそのような組換え構造または存在を分割、分離、または精製する能力を増加または向上させる目的でそのような構造または存在に組み込まれた変異を保有または含有しない。例えば、「天然」または「野生型」のMAI、親ホモ二量体抗体種、親ホモ二量体抗体種由来の重鎖などは、本明細書全体で開示する方法に従ってクロマトグラフィーを実施することによってそのような異なる形態を分離、分割、または精製する能力を増加または向上させるために、そのようなMAI、親ホモ二量体抗体種、親ホモ二量体抗体種由来の重鎖の異なる形態間における実際の等電点または計算等電点のいずれかの差を増加または増大させる変異を有するように組換えられていない。
本明細書全体で用いる場合、「天然様」は、その構造または存在の天然型の実質的に大部分の特性を有するか、または対応する天然構造または存在とかなりの程度で物理的及び/または機能的に類似するように、もしくは模倣するように設計されている構造または存在を表現する。
ある実施形態において、目的の多重特異性抗体(MAI)の精製方法であって、MAIが第1重鎖(HC)可変領域を含む第1ポリペプチド及び第2HC可変領域を含む第2ポリペプチドを含むヘテロ二量体を含み、第1及び第2可変領域が異なる抗原特異性及び異なる等電点を有し、i)MAI、第1ポリペプチドの1つのコピーを含む第1親抗体種、及び第2ポリペプチドの1つのコピーを含む第2親抗体種を含む組成物を入手すること;ならびにii)MAIを第1及び第2親抗体種から分離するクロマトグラフィーを実施することを含み、それによってMAIを精製する方法を提供する。ある実施形態において、異なる等電点は異なる実際の等電点である。ある他の実施形態において、異なる等電点は異なる計算等電点である。ある実施形態において、実施ステップii)は、a.組成物をクロマトグラフィー材料と接触させて組成物−クロマトグラフィー材料複合物を形成すること;ならびにb.pH依存的にMAI及び親抗体種を溶出可能な溶離液のサンプルとクロマトグラフィー材料−組成物複合物を接触させる溶出ステップを実施することを含む。
ある実施形態において、目的の多重特異性抗体(MAI)の精製方法であって、MAIが第1重鎖(HC)可変領域を含む第1ポリペプチド及び第2HC可変領域を含む第2ポリペプチドを含むヘテロ二量体を含み、第1及び第2可変領域が異なる抗原特異性及び異なる等電点を有し、i)MAI、第1ポリペプチドの2つのコピーを含む第1親抗体種、及び第2ポリペプチドの2つのコピーを含む第2親抗体種を含む組成物を入手すること;ならびにii)MAIを第1及び第2親抗体種から分離するクロマトグラフィーを実施することを含み、それによってMAIを精製する方法を提供する。ある実施形態において、異なる等電点は異なる実際の等電点である。ある他の実施形態において、異なる等電点は異なる計算等電点である。ある実施形態において、実施ステップii)は、a.組成物をクロマトグラフィー材料と接触させて組成物−クロマトグラフィー材料複合物を形成すること;ならびにb.pH依存的にMAI及び親抗体種を溶出可能な溶離液のサンプルとクロマトグラフィー材料−組成物複合物を接触させる溶出ステップを実施することを含む。
本発明の方法の開発に関連して、出願人らは驚くべきことに、多くの先行方法に反して、本発明の方法を実施して成功させるのに、MAI(または親抗体種)のFc領域(またはさらに言えば任意の他の部分)は、対応する親ホモ二量体抗体種からのヘテロ二量体MAIのアフィニティーまたはイオン交換のいずれかで媒介される分割、分離、または精製を向上させるように設計または意図された形で、組換え、変異誘発、置換、または他の方法により改変される必要がないことを発見した。したがって、開示及び特許請求する方法は、有利なことに、免疫原性、PK、及びそのような非天然変異が組み込まれたMAIに関連する他の障害の多くを付与することのないMAIの調製及び精製をもたらす。
したがって、ある実施形態において、目的の多重特異性抗体(MAI)の精製方法であって、MAIが第1重鎖(HC)可変領域を含む第1ポリペプチド及び第2HC可変領域を含む第2ポリペプチドを含むヘテロ二量体を含み、第1及び第2可変領域が異なる抗原特異性及び異なる等電点を有し、i)MAI、第1ポリペプチドの1つのコピーを含む第1親抗体種、及び第2ポリペプチドの1つのコピーを含む第2親抗体種を含む組成物を入手すること;ならびにii)MAIを第1及び第2親抗体種から分離するクロマトグラフィーを実施することを含み、それによってMAIを精製する方法を提供するが、第1ポリペプチド及び第2ポリペプチドの少なくとも1つは、天然型、例えば天然IgG型、例えば天然IgG1型、天然IgG2型、天然IgG3型、天然IgG4型、天然IgG1/IgG2ハイブリッド型、天然IgG1/IgG3ハイブリッド型、または天然IgG1/IgG4ハイブリッド型などである。ある実施形態において、異なる等電点は異なる実際の等電点である。ある他の実施形態において、異なる等電点は異なる計算等電点である。ある実施形態において、実施ステップii)は、a.組成物をクロマトグラフィー材料と接触させて組成物−クロマトグラフィー材料複合物を形成すること;ならびにb.pH依存的にMAI及び親抗体種を溶出可能な溶離液のサンプルとクロマトグラフィー材料−組成物複合物を接触させる溶出ステップを実施することを含む。
したがって、ある実施形態において、目的の多重特異性抗体(MAI)の精製方法であって、MAIが第1重鎖(HC)可変領域を含む第1ポリペプチド及び第2HC可変領域を含む第2ポリペプチドを含むヘテロ二量体を含み、第1及び第2可変領域が異なる抗原特異性及び異なる等電点を有し、i)MAI、第1ポリペプチドの2つのコピーを含む第1親抗体種、及び第2ポリペプチドの2つのコピーを含む第2親抗体種を含む組成物を入手すること;ならびにii)MAIを第1及び第2親抗体種から分離するクロマトグラフィーを実施することを含み、それによってMAIを精製する方法を提供するが、第1ポリペプチド及び第2ポリペプチドの少なくとも1つは、天然型、例えば天然IgG型、例えば天然IgG1型、天然IgG2型、天然IgG3型、天然IgG4型、天然IgG1/IgG2ハイブリッド型、天然IgG1/IgG3ハイブリッド型、または天然IgG1/IgG4ハイブリッド型などである。ある実施形態において、異なる等電点は異なる実際の等電点である。ある他の実施形態において、異なる等電点は異なる計算等電点である。ある実施形態において、実施ステップii)は、a.組成物をクロマトグラフィー材料と接触させて組成物−クロマトグラフィー材料複合物を形成すること;ならびにb.pH依存的にMAI及び親抗体種を溶出可能な溶離液のサンプルとクロマトグラフィー材料−組成物複合物を接触させる溶出ステップを実施することを含む。
本明細書全体で用いる場合、「精製」は、MAIに関してはMAI及び1つ以上の親ホモ二量体種を含む不均質な組成物から実質的に均質なサンプルを生成するように、1つの種、例えばヘテロ二量体MAIなどを他の種、例えば1つ以上の親ホモ二量体種などから分離することを意味する。
本明細書全体で用いる場合、「入手」は、ある材料、例えばMAI、親ホモ二量体抗体種、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖可変領域を含む重鎖ポリペプチド、軽鎖可変領域を含む軽鎖ポリペプチド、上記のいずれかを含むMAI、上記のいずれかを含む親ホモ二量体抗体種、上記のいずれかを含む組成物、及び/または上記のいずれかを含むクロマトグラフィー材料−組成物複合物などを発見、受領、または他の形で所有するようになることを意味する。さらに、入手は、抗原に対する特異性を有するそのような材料を同定するために、抗原を用いてそのような材料のバリアントを含むライブラリーを照会することによって、そのような材料を発見することをいう場合がある。入手は、さらにまた代替として、そのような材料を別の供給元または人物から受領することを含む場合がある(例えば別の既に特定または同定された抗体または抗体配列など)。
本明細書全体で用いる場合、「組成物」は、ヘテロ二量体MAI及び2つの対応する親ホモ二量体抗体種などの種の集合を含有する流体、例えば液体などを意味する。そのような組成物は、第1及び第2ポリペプチド、ならびに任意により第3及び第4ポリペプチド(これらは同一の軽鎖可変領域を含み得る)を発現させることによって生成される。
目的のヘテロ二量体多重特異性抗体(全体を通して「ヘテロMAI」または「MAI」と同じ意味で用いる)は、第1重鎖(HC)可変領域を含む第1ポリペプチド及び第2HC可変領域を含む第2ポリペプチドを含み、第1及び第2重鎖可変領域がアミノ酸配列において異なり、異なる抗原特異性を有する目的の抗体種を意味する。第1及び第2ポリペプチドは、いくつかの実施形態において、2つの異なる親ホモ二量体抗体種の重鎖ポリペプチドに含まれている、及び/またはこれに由来する。ある実施形態において、MAIは第1軽鎖可変領域を含む第3ポリペプチドをさらに含む。さらなる実施形態において、MAIは第2軽鎖可変領域を含む第4ポリペプチドをさらに含む。ある実施形態において、第1及び第2軽鎖可変領域は同一である。またさらなる実施形態において、第3及び第4ポリペプチドは同一である(すなわち、これらは「共通軽鎖」となる)。
「親ホモ二量体抗体種」(全体を通して「ホモ二量体親抗体種」、「親抗体種」、「ホモ二量体親種」、「ホモ二量体抗体種」などと同じ意味で用いる)は、MAIの特異性が得られるか、または由来し、MAIが生成されるもとの2つの抗原特異性のうちの一方を有する重鎖の少なくとも1つのコピー;及びMAIの特異性が得られるか、または由来し、MAIが生成されるもとの2つの抗原特異性のうちの一方を有する重鎖の少なくとも2つのコピーを含む抗体種を意味する。ある実施形態において、第1及び第2重鎖可変領域を含む各親ホモ二量体抗体種のポリペプチドは、第1及び第2軽鎖可変領域を含む第3及び第4ポリペプチドとともに宿主細胞中で発現される。いくつかの実施形態において、第1及び第2軽鎖可変領域はアミノ酸配列が同一である。ある実施形態において、第3及び第4ポリペプチドはアミノ酸配列が同一である(すなわち、第3及び第4ポリペプチドは「共通軽鎖」となる)。ある実施形態において、親ホモ二量体種は、MAIの特異性が得られるか、または由来し、MAIが生成されるもとの2つの抗原特異性のうちの一方を有する重鎖の2つのコピーを含む。
本明細書全体で用いる場合、「クロマトグラフィー」は、最も広義に、目的の種に加えて他の種を含む組成物からの目的の種の分離または精製のために当該技術分野において利用可能な一連の実験を意味する。組成物をクロマトグラフィー材料と接触させ、その結果として、組成物の様々な成分がクロマトグラフィー材料に吸着し、これによりクロマトグラフィー材料−組成物複合物が形成され得る。その後、溶離液をクロマトグラフィー材料−組成物複合物と接触させると、溶離液の存在下でのクロマトグラフィー材料に対するそれぞれの種のアフィニティーの差に応じて吸着した種の差次的脱離、または「溶出」が生じる。
クロマトグラフィーは調製用または分析用であり得る。調製用クロマトグラフィーの目的は、より高度な使用のために混合物の成分を分離することである(したがって、精製の形態である)。分析用クロマトグラフィーは一般により少量の材料で行われ、混合物中のアナライトの相対比を測定するためのものである。この2つは相互に排他的ではない。
本明細書全体で用いる場合、「接触」は、例えば共有結合性または非共有結合性相互作用などによって、物理的に相互作用することを意味する。非共有結合性相互作用としては、疎水性、親水性、イオン性、カチオンアニオン性、極性、双極性、ファンデルワールス力などが挙げられる。「接触」した、または「接触」している材料は互いに物理的に接している。ある実施形態において、材料、例えばクロマトグラフィー材料などを抗体種、例えばMAI及び対応するホモ二量体親抗体種などを含む組成物と接触させた結果、クロマトグラフィー材料−組成物複合物が生成され、組成物中のすべての抗体種のうちの少なくとも2つ、ことによると3つ、あるいはさらに多くがクロマトグラフィー材料と物理的に相互作用して付着したままとなる。
「クロマトグラフィー材料−組成物複合物」は、それまで接触または相互作用していなかった2つの材料またはより多くの材料の間の物理的相互作用によって生成される多成分材料を意味する。物理的相互作用は、生理化学的相互作用、例えば2種類の分子実体の間の、及び/または相互作用する材料それぞれに存在するある官能基もしくは部分の間の共有結合性または非共有結合性相互作用などであり得る。クロマトグラフィー材料−組成物複合物は、組成物をクロマトグラフィー材料に接触させると同時にまたはその後でクロマトグラフィー材料上/中に吸着される組成物の1つ以上の抗体種を含み得るが、こうした吸着はクロマトグラフィー材料上の官能基と抗体種のある領域または部分との間の生理化学的引力または相互作用に起因する。
本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、クロマトグラフィー材料はカチオン交換材料である。いくつかの実施形態において、カチオン交換材料は、負に帯電し、固相上または固相中に通す水溶液中のカチオンとの交換のための遊離カチオンを有する固相である。本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、カチオン交換材料は膜、モノリス、または樹脂であり得る。いくつかの実施形態において、カチオン交換材料は樹脂であり得る。カチオン交換材料は、カルボン酸官能基またはスルホン酸官能基、例えば限定はしないがスルホネート、カルボン酸、カルボキシメチルスルホン酸、スルホイソブチル、スルホエチル、カルボキシル、スルホプロピル、スルホニル、スルホキシエチル、またはオルトホスフェートなどを含み得る。上記のいくつかの実施形態において、カチオン交換クロマトグラフィー材料はカチオン交換クロマトグラフィーカラムである。
本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、クロマトグラフィー材料はアニオン交換材料である。いくつかの実施形態において、アニオン交換クロマトグラフィー材料は、正に帯電し、固相上または固相中に通す水溶液中のアニオンとの交換のための遊離アニオンを有する固相である。本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、アニオン交換材料は膜、モノリス、または樹脂であり得る。一実施形態において、アニオン交換材料は樹脂であり得る。いくつかの実施形態において、アニオン交換材料は、一級アミン、二級アミン、三級アミンもしくは四級アンモニウムイオン官能基、ポリアミン官能基、またはジエチルアミノエチル官能基を含み得る。上記のいくつかの実施形態において、アニオン交換クロマトグラフィー材料はアニオン交換クロマトグラフィーカラムである。
本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、イオン交換材料には従来のクロマトグラフィー材料または対流クロマトグラフィー材料を利用してよい。従来のクロマトグラフィー材料としては、例えば、灌流性材料(例えばポリ(スチレン−ジビニルベンゼン)樹脂)及び拡散性材料(例えば架橋アガロース樹脂)が挙げられる。いくつかの実施形態において、ポリ(スチレン−ジビニルベンゼン)樹脂はPoros樹脂とすることができる。いくつかの実施形態において、架橋アガロース樹脂はスルホプロピル−Sepharose Fast Flow(「SPSFF」)樹脂であり得る。対流クロマトグラフィー材料は膜(例えばポリエーテルスルホン)またはモノリス材料(例えば架橋ポリマー)であり得る。ポリエーテルスルホン膜はMustangであり得る。架橋ポリマーモノリス材料は架橋ポリ(グリシジルメタクリレート−co−エチレンジメタクリレート)であり得る。
本発明の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、クロマトグラフィー材料はクロマトグラフィーカラム;例えばカチオン交換クロマトグラフィーカラムまたはアニオン交換クロマトグラフィーカラムに入っている。いくつかの実施形態において、クロマトグラフィーカラムは液体クロマトグラフィーに用いられる。いくつかの実施形態において、クロマトグラフィーカラムは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に用いられる。いくつかの実施形態において、クロマトグラフィーカラムはHPLCクロマトグラフィーカラム;例えばカチオン交換HPLCカラムまたはアニオン交換HPLCカラムである。
カチオン交換クロマトグラフィー材料の例は当該技術分野において公知であり、Mono S、Poros HS、Source 30S、Mustang S、Sartobind S、S03 Monolith、S Ceramic HyperD、Poros XS、Poros HS50、Poros HS20、Poros GoPure XS、Poros GoPure HS、SP Sepharose FF、SP Sepharose HP、SP−Sepharose XL (SPXL)、CM Sepharose Fast Flow、Capto S、UNOsphere S、Macro−prep High S、Capto SP ImpRes、Fractogel Se HiCap、Fractogel S03、Fractogel COO、ProPac WCX−10及びProPac WCX−10HTが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、カチオン交換材料はPoros HS50である。本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、Poros HS樹脂はPoros HS 50μmまたはPoros HS 20μm粒子である。本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、カチオン交換クロマトグラフィー材料は、Mono S、SP Sepharose FF、Macro−prep High S、Poros GoPure XS、Poros GoPure HS、Capto SP ImpRes、SP Sepharose HP、及びSourse 30Sからなる群から選択される。本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、カチオン交換クロマトグラフィー材料は、Mono S、Poros HS、SP Sepharose HP、及びSource 30Sからなる群から選択される。本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、カチオン交換クロマトグラフィー材料は、Mono S、SP Sepharose HP、及びSource 30Sからなる群から選択される。本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、カチオン交換クロマトグラフィー材料は、Mono S、Poros HS、及びSource 30Sからなる群から選択される。
アニオン交換クロマトグラフィー材料の例は当該技術分野において公知であり、Mono Q、Poros HQ 50、Poros PI 50、Poros D、Poros XQ、Poros HQ、Capto Q ImpRes、Q HP、Source 30Q、Mustang Q、Q Sepharose FF、Dionex ProPac 10 SAX及びTosoh GSKgel Q STAT 7 μΜ WAXならびにDEAE Sepharoseが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、アニオン交換クロマトグラフィー材料は、Mono Q、Poros XQ、Poros HQ、Capto Q ImpRes、Q HP、及びSource 30Qからなる群から選択される。本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、アニオン交換クロマトグラフィー材料は、Mono Q、Sourse 30Q、及びQ HPからなる群から選択される。多モードイオン交換クロマトグラフィー材料の例はCapto MMCである。
本明細書全体で用いる場合、「eluant(溶離液)」(「eluent(溶離液)」と同じ意味で用いる)は、クロマトグラフィー材料上に吸着した種を脱離させるために用いられる流体、例えば溶液などを含む。開示及び特許請求する方法に従う使用のための溶離液は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、または少なくとも8つの異なる緩衝剤を含む。数及び化学的素性の選択は、当業者がその間で実質的にリニアなpH勾配を発生させようと望む所望のpH範囲に基づいてなされ得る。pH範囲の選択は、今度は、本明細書全体で開示するように、第1重鎖ポリペプチド及び第2重鎖ポリペプチドの実際の等電点または計算等電点、もしくは理論等電点の差(「ΔpI」)の判定に基づいてなされ得る。あるいは、所望であれば、当業者は今度は、本明細書全体で開示するように、第1親ホモ二量体抗体種及び第2親ホモ二量体抗体種の実際の等電点または計算等電点、もしくは理論等電点の差((「ΔpI」)の判定に基づいて選択してよい。したがって、当業者は、ポリペプチドのpI(加えてそれらのpIの差)に関係するpH範囲を十分にカバーするpKaを有する緩衝剤を選択するように選んでよい。
本明細書全体で用いる場合、「等電点」(本明細書全体で「pI」とも呼ぶ)は、ポリペプチドまたはタンパク質、例えば重鎖ポリペプチド、親ホモ二量体抗体種、MAI、抗体、免疫グロブリン、IgGなどが正味電荷を有しないpHであり、一般にpH値として表される。等電点は「計算(もしくは理論)等電点」または「実際の(実験的に測定された)等電点」であり得る。
本明細書全体で用いる場合、「計算等電点」(または「理論等電点」)は、ポリペプチドまたはタンパク質の一次配列を、ポリペプチドもしくはタンパク質(もしくはその構成アミノ酸)及び/またはそれが曝露され得る溶媒成分もしくは他の化学種の化学的及び物理的性質;予測される二次構造的特徴及びトポロジー;特定のイオン化基の予測される溶媒への曝露などに関する仮定の、ある所定のパラメータに基づいて、予測的または理論上のpI値が得られるように設計されたアルゴリズム、プログラム、コードなどにかけることによって報告または判定される等電点値である。pIを計算するためのツール及び方法の非限定例としては、Bas et al, Protein, Vol. 72(3), pp. 765−783 (2008);Stothard P, Biotechniques, Vol. 28(6), pp. 1102−1104 (2000);及び例えばワールドワイドウェブ上のハイパーテキストプロトコルトランスファーbioinformatics.org/sms2/のSequence Manipulation Site (SMS)に開示されているものが挙げられる。いずれにせよ、いかなる理論にも縛られることを望むものではなく、当業者であれば理解するように、重鎖ポリペプチド、親ホモ二量体抗体種、MAI、抗体、免疫グロブリン、IgGなどについてpIを計算する際、例えば特定のシステイン残基、例えばジスルフィド架橋に関与し得るものなどを非イオン化性とみなすこと、及び/またはN末端グリコシル化部位と推測されるものを非イオン化性とみなすことが好ましい場合がある。
本明細書全体で用いる場合、「実際の等電点」(または「実際の等電点」)は、当該技術分野において利用可能な方法及びツールを用いて、ポリペプチドもしくはタンパク質、例えば重鎖ポリペプチド、親ホモ二量体抗体種、MAI、抗体、免疫グロブリン、IgGなどの物理的サンプル(またはそのようなサンプルを含有する組成物、例えば溶液など)のpIを測定することによって報告または判定される等電点値である。
本明細書全体で用いる場合、「緩衝剤」は、別の酸または塩基の添加後にも溶液、例えば溶離液などの酸性度(pH)を選択した値付近に維持するために用いられる酸または塩基、一般に弱酸または弱塩基である。すなわち、緩衝剤の機能は溶液に酸または塩基が添加された際の急速なpH変化を防止することである。緩衝剤の特性は一様ではなく、他よりも可溶性のものがあったり、酸性のものもあれば、塩基性のものもあったりする。所与の緩衝剤が最大限に溶液を緩衝することができる効果的なpHは、だいたいその緩衝剤の酸解離定数の負対数(「pKa」)付近である。酸会合定数(の負対数)は溶液中の酸強度の定量的尺度である。各酸は異なるpKaを有する。これは、酸−塩基反応との関係においては解離として知られている化学反応の平衡定数である。Ka値が大きいほど、溶液中の分子の解離が多く、したがってその酸はより強力である。このように、強酸は弱酸よりも容易に脱プロトン化する傾向がある。
ある実施形態において、溶離液は少なくとも2種の緩衝剤を含み、各緩衝剤のpKaは約3〜約11である。
ある実施形態において、溶離液は少なくとも2種の緩衝剤を含み、各緩衝剤のpKaは、約3.25〜約3.85;約4.5〜約4.85;約6.0〜約6.45;約6.60〜約7.0;約7.5〜約8.15;約8.35〜約8.55;約9.25〜約9.65;及び約10.00〜約11.5からなる群から選択される範囲にある。
ある実施形態において、溶離液は少なくとも2種の緩衝剤を含み、各緩衝剤の酸解離定数(pKa)は、約3.75;約4.76;約6.10;約6.90;約8.04;約8.44;約9.39;及び約10.50からなる群から選択される。
本明細書全体で用いる場合、「pH依存的」はpH変化とともに変化するように振る舞うことを意味する。例えば、異なるpIを有する種は、溶離液がpH勾配を発生させることができる場合、異なる区別可能な時間、溶離液の量でカラムから溶出する。そのようなpH勾配は、ある実施形態において、望ましい開始pHで溶離液のサンプルを調製し、望ましい終了pHで溶離液の別のサンプルを調製することによって発生させる。ある実施形態において、望ましい開始pHは、7.0未満;6.5未満;6.0未満;5.5未満;5.0未満;4.5未満;4.0未満;3.5未満;もしくは3.0未満;または前述の値のいずれかの間のpH値である。ある実施形態において、望ましい終了pHは、7.0超;7.5超;8.0超;8.5超;9.0超;9.5超;10.0超;10.5超;もしくは11.0超;11.5超;12.0超;または前述の値のいずれかの間のpH値である。
ある実施形態において、MAIの第1ポリペプチドの計算等電点及び第2ポリペプチドの計算等電点の間の差は、7.0pH単位未満;6.5pH単位未満;6.0pH単位未満;5.5pH単位未満;5.0pH単位未満;4.5pH単位未満;4.0単位未満;3.5pH単位未満;2.5pH単位未満;2.0pH単位未満;1.0pH単位未満;0.95pH単位未満;0.90pH単位未満;0.85pH単位未満;0.80pH単位未満;0.75pH単位未満;0.70pH単位未満;0.65pH単位未満;0.60pH単位未満;0.55pH単位未満;0.50pH単位未満;0.45pH単位未満;0.40pH単位未満;0.35pH単位未満;0.30pH単位未満;0.25pH単位未満;0.20pH単位未満;0.15pH単位未満;0.10pH単位未満;0.05pH単位;0.025pH単位未満;または前述の値のいずれかの間のpH値である。
ある実施形態において、第1抗体、例えば第1免疫グロブリン、第1IgG、または第1親ホモ二量体抗体種などの計算等電点と第2抗体、例えば第2免疫グロブリン、第2IgG、または第2ホモ二量体抗体種などの計算等電点との間の差は、7.0pH単位未満;6.5pH単位未満;6.0pH単位未満;5.5pH単位未満;5.0pH単位未満;4.5pH単位未満;4.0単位未満;3.5pH単位未満;2.5pH単位未満;2.0pH単位未満;1.0pH単位未満;0.95pH単位未満;0.90pH単位未満;0.85pH単位未満;0.80pH単位未満;0.75pH単位未満;0.70pH単位未満;0.65pH単位未満;0.60pH単位未満;0.55pH単位未満;0.50pH単位未満;0.45pH単位未満;0.40pH単位未満;0.35pH単位未満;0.30pH単位未満;0.25pH単位未満;0.20pH単位未満;0.15pH単位未満;0.10pH単位未満;0.05pH単位;0.025pH単位未満;または前述の値のいずれかの間のpH値である。
本明細書で開示及び特許請求する方法では、クロマトグラフィー材料からMAI及び/または親ホモ二量体抗体種を溶出するために、溶離液をクロマトグラフィー材料−組成物複合物に流す。ある実施形態において、溶出される種は実質的に均質なサンプルの個々の溶液として溶出され、各サンプルは1つの種、例えばMAIなどを含有し、測定可能な量の他の種、例えば親ホモ二量体抗体種などを実質的に含まない。他の実施形態では、1つの種、例えばMAIなどが一連のまとまった量の溶液に溶出されるように、種がクロマトグラフィー材料から溶出され、そのうちのいくつかはMAIの実質的に均質なサンプルを含み、いくつかは様々な少量の1つ以上の親ホモ二量体抗体種を伴って主な種としてMAIを含む。そのような実施形態において、当業者は、MAIの実質的に均質なサンプルを含むまとまった量を保持し、他のまとまった量を廃棄するように定型的に選択し得る。
したがって、当業者であれば理解するように、本発明の方法は、MAI及び親ホモ二量体抗体種がクロマトグラフィー材料から溶出することを可能とし、その結果、これらの種が互いに実質的に区別可能となる。本明細書全体で用いる場合、「実質的に区別可能」とは、そのような種がクロマトグラフィー的に十分に分離されており、そのため、それぞれの種のサンプルが他の種を実質的に含まないで収集され得ることを意味する。そのような分離は、例えば時間、溶離液体積などの関数としてカラムから溶出するタンパク質材料の濃度を監視する他の手段の可視化を可能にするクロマトグラフィー記録で可視化され得る。そのような区別可能な分離は、それぞれの種の実質的にすべてが互いに分離される溶出、または2つ以上の種の溶出体積の間である量の重複が生じる溶出を含み得る。ある程度の重複が生じる実施形態において、当業者であれば理解するように、上記の通り、重複を全くまたは実質的に含まないと観察される溶離液体積が収集され、そうして、特許請求する方法に従う分離が達成され得る。
本明細書全体で用いる場合、「流す」(及び代替として「流した」)は、クロマトグラフィー材料及び/またはクロマトグラフィー材料−組成物複合物に十分な量の溶離液を加える及び/または通過させ、その結果として、材料及び/または複合物を溶離液と接触させることを意味する。当該技術分野において理解されるように、溶出ステップの前に材料またはマトリックスを平衡化するために、カラム体積の数倍に相当するそのような流体/溶液を流し、溶出ステップを実施する際に数倍体積に相当する量を流す場合がある。これは、pH勾配の傾き、ひいては、カラム上に吸着した様々な種を溶出するために必要となる全溶出体積を増加または減少させるために変更することができる。
しかし、有利には、MAIの大部分が重鎖ポリペプチドのpIまたはpI差に関係無くそのようなMAI及び親ホモ二量体抗体種を含む組成物から精製され得るように、当業者が所望し得る本明細書全体を通して記載するようなpHスケールの大部分にわたって、リニアpH勾配段階;リニアpH勾配段階の前の少なくとも1つのステップpH勾配段階;リニアpH勾配段階の後の少なくとも1つのステップpH勾配段階;リニアpH勾配段階のみ;実質的にリニアなpH勾配段階などを含むpH勾配を形成するために溶離液が用いられるように、多数の緩衝剤を本明細書に開示の適切な濃度で含む溶離液が調製され得るとさらに発見された。例えば、単一タンパク質混合物中の特定のモデルタンパク質を溶出すると判明したある例示的な溶離液(Kroner et al, J. Chromatog., Vol. 1285, pages 78−87 (2013)を参照)は、約pH3〜約pH11で効果的に緩衝し、その結果、実質的にリニアなpH勾配がこの範囲全体で発生し得るが、これは、Nシクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸(CHES)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’−(2−ヒドロキシプロパンスルホン酸)(HEPPSO)、3−モルホリノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム塩、3−(N−モルホリニル)−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、酢酸、ギ酸、及びNaClを含有する。開示及び特許請求する方法のある実施形態に特に適していると意外にも発見された別の溶離液は、メチルアミン、1,2−エタンジアミン、1−メチルピペラジン、1,4−ジメチルピペラジン、2−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオール(ビス−トリス)、及びヒドロキシルアミンならびに任意により少なくとも1つの塩を含む。本明細書全体を通して開示するように、これらの溶離液は、全体を通して開示及び特許請求する方法に規定するMAI及び親ホモ二量体抗体種を含む組成物から様々なMAIを精製するのにも効果的であることが発見された。これらの溶離液は約3〜約11のpH範囲にわたって実質的にリニアなpH勾配を発生させるのに効果的であるので、本発明は、ある実施形態において、MAIの第1及び第2重鎖ポリペプチド(ひいては、対応する親ホモ二量体抗体種中の重鎖)のpIに関係なく、またはpIをあらかじめ知ることなく、MAI及び親ホモ二量体抗体種組成物を含む組成物からMAIを精製するための方法を提供する。
本明細書全体で用いる場合、「リニアpH勾配段階」または「リニアpH勾配」は、全体を通して同じ意味で用いられ、比較的大きな溶離液体積または比較的多数の連続したカラム溶離液画分にわたってクロマトグラフィー材料及び/またはクロマトグラフィー材料−組成物複合物に流れるまたは流される溶出液の、ほとんど、または実質的に滑らかな一定の単位体積当たりの変化率を示すpH勾配を意味する。
本明細書全体で用いる場合、「ステップpH勾配段階」または「ステップpH勾配」は、全体を通して同じ意味で用いられ、比較的少量の溶離液または比較的少数の連続したカラム溶離液画分にわたってクロマトグラフィー材料及び/またはクロマトグラフィー材料−組成物複合物に流れるまたは流される際に、溶離液の大きなpH変化が生じるような比較的急なpH変化を示すpH勾配を意味する。そのようなステップpH勾配段階は、実際には、観察可能な単位溶離液体積当たりの変化率を示すが、それでもなお、そのようなステップpH勾配段階は、本明細書全体で用いる場合、リニアpH勾配段階と区別可能である。ある実施形態において、そのようなステップpH勾配段階は、リニアpH勾配段階と比較して実質的に瞬間的な単位溶離液体積当たりのpH変化率を示すと考えられる。
しかし、さらに、MAI−親ホモ二量体親種混合物から特定のMAIを分離することを目的としたクロマトグラフィー手順にそのようなステップpH勾配段階を含めるのが望ましく有用であり得る状況においても、本明細書全体を通して記載する溶離液を用いて、ステップpH勾配段階が採用され得ることが意外にも発見された。
ある実施形態において、溶離液は次の薬剤:イミダゾール;ピペラジン;トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)を含まない。
ある実施形態において、溶離液はCAPS;CHES;TAPS;HEPPSO;MOPSO;MES;酢酸;及びギ酸;ならびに任意により少なくとも1つの塩から本質的になる。
他の実施形態において、溶離液はCAPS;CHES;TAPS;HEPPSO;MOPSO;MES;酢酸;及びギ酸;ならびに少なくとも1つの塩からなる。
本発明の方法により、様々な塩濃度を選択することによって溶離液のイオン強度を望むように調整または操作することができる。したがって、ある実施形態において、塩濃度は、0mM〜約100mM;0mM〜約60mM;0mM〜約50mM;0mM〜約40mM;0mM〜約30mM;0mM〜約20mM;0mM〜約10mM;0mM〜約5mM;約10mM〜約200mM;約10mM〜約100mM;約10mM〜約50mM;約10mM〜約40mM;約10mM〜約30mM;約10mM〜約20mM;約20mM〜約200mM;約20mM〜約100mM;約20mM〜約50mM;約20mM〜約30mM;約30mM〜約200mM;約30mM〜約100mM;及び約30mM〜約50mM;ならびに約5mM〜約15mMからなる群から選択され得る。
ある実施形態において、溶離液はNaCl、KCl、及びNa2SO4からなる群から選択される少なくとも1つの塩を含む。
ある実施形態において、溶離液はNaClを約10mMの濃度で含む。
本明細書で開示及び特許請求する本発明の方法において、出願人らは、そのような組成物からのMAIの容易な精製を助長するローディングバッファー及び溶離液組成物の両方をさらに発見し、また、ローディングバッファー及び溶出バッファーの両方に同じバッファー組成物(本明細書全体を通して「溶離液」と称する)が都合よく用いられ得ることをさらに発見した。すなわち、第1pH(「ローディングpH」)のバッファー組成物の第1サンプル及び第2pH(「溶出pH」)のバッファー組成物の第2サンプルを調製しさえすればよく、ローディングpH及び溶出pHは、本発明の方法の溶出ステップ中に実質的にリニアなpH勾配を発生させるために、当業者によって選択される。実質的にリニアなpH勾配が適用されるべき望ましいpH範囲は、例えばMAIに含まれる各重鎖の予想されるpIの計算に基づいて決定され得る。同様に、適用されるべき勾配の傾きの決定は、MAIに含まれる各重鎖間のpI単位の差(ΔpI)を求めることによって与えられ得る。
本明細書全体を通して開示するように、本発明の方法は、MAIの精製、及び本方法を実施するための試薬、例えば緩衝剤、溶離液などをもたらす。
用語「抗体」は、本明細書において最も広義に用いられ、特に少なくともモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、及び抗体断片を包含する。抗体は、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子の断片によって実質的にまたは部分的にコードされる1つ以上のポリペプチドを含むタンパク質である。認知されている免疫グロブリン遺伝子としては、κ、λ、α、γ、δ、ε及びμ定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。
「抗体」は、例えばタンパク質;ポリペプチド;ペプチド;ホルモン;サイトカイン;ケモカイン;成長因子;神経伝達物質;炭水化物含有生体分子;脂質もしくは脂肪酸含有生体分子;または他の生体分子であり得る抗原に、そのような抗原上に存在するエピトープを介して特異的に結合する能力を有する免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子の断片、またはその誘導体のこともいう。
本明細書全体で用いる場合、「抗体」は、抗体の1つ以上の可変領域または可変ドメインを含むポリペプチドのこともいい、そのような可変領域(複数可)または可変ドメイン(複数可)は、1つ以上の抗原の1つ以上のエピトープに会合及び結合可能である。
「ポリペプチド」または「タンパク質」は、本明細書で用いる場合、少なくとも2つの共有結合しているアミノ酸を意味し、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド及びペプチドを含む。タンパク質は、自然発生アミノ酸及びペプチド結合でできていてもよく、または合成ペプチド模倣構造、すなわち「アナログ」、例えばペプチドなどでできていてもよい。
抗体(「免疫グロブリン」、または「免疫グロブリン分子」と同じ意味で用いる)は、単量体、二量体、三量体、四量体、五量体などとすることができ、1対の軽鎖(LC)及び1対の重鎖(HC)の2対のポリペプチド鎖からなり、それらすべてがジスルフィド結合によって相互結合している構造的に関係があるタンパク質のクラスを含み得る。免疫グロブリンの構造は良く同定されている。例えば、Fundamental Immunology Ch. 7 (Paul, W., ed., 2nd ed. Raven Press, N.Y. (1989))を参照。
従来の天然抗体の構造単位は典型的に四量体を含む。各四量体は典型的にポリペプチド鎖の2つの同一のペアで構成され、各ペアは1つの「軽」鎖(典型的に約25kDaの分子量を有する)及び1つの「重」鎖(典型的に約50〜70kDaの分子量を有する)を含む。ヒト軽鎖はκ及びλ軽鎖に分類される。重鎖はμ、δ、γ、α、またはεに分類され、抗体のアイソタイプがそれぞれIgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEに定まる。IgGはいくつかのサブクラスを有し、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4が挙げられるがこれらに限定されない。IgMはサブクラスを有し、IgM1及びIgM2が挙げられるがこれらに限定されない。IgAはいくつかのサブクラスを有し、IgA1及びIgA2が挙げられるがこれらに限定されない。このように、本明細書で用いる場合、「アイソタイプ」は、それらの定常領域の化学的及び抗原的特徴によって定義される免疫グロブリンのクラス及びサブクラスのいずれかを意味する。公知のヒト免疫グロブリンアイソタイプは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM1、IgM2、IgD、及びIgEである。これらの抗体クラス間を区別する特徴はそれらの定常領域であるが、可変領域に微妙な差が存在する場合もある。
軽鎖及び重鎖のそれぞれは、可変領域及び定常領域と呼ばれる2つの異なる領域でできている。IgG重鎖は、N末端からC末端まで順にVH−CH1−CH2−CH3で連結した4つの免疫グロブリンドメインで構成され、それぞれ「可変重ドメイン」(「重鎖可変ドメイン」とも呼び、全体を通して同じ意味で用いる)、重鎖定常ドメイン1、重鎖定常ドメイン2、及び重鎖定常ドメイン3を指す(VH−Cγ1−Cγ2−Cγ3とも呼ばれ、それぞれ可変重ドメイン、定常γ1ドメイン、定常γ2ドメイン、及び定常γ3ドメインを指す)。IgG軽鎖は、N末端からC末端まで順にVL−CLで連結した2つの免疫グロブリンドメインで構成され、それぞれ「可変軽ドメイン」(「軽鎖可変ドメイン」とも呼び、全体を通して同じ意味で用いる)及び軽鎖定常ドメインを指す。定常領域は配列多様性をそれほど示さず、重要な生化学的現象を誘発するための複数の天然タンパク質への結合を担う。可変及び定常領域を含む抗体の天然の生物学的形態を構成する構造を本明細書では「全長抗体」と呼ぶ。ヒト及びマウスをはじめとするほとんどの哺乳類において、IgGアイソタイプの全長抗体は四量体であり、2つの免疫グロブリン鎖の2つの同一のペアからなり、各ペアは1つの軽鎖及び1つの重鎖を有し、各軽鎖はVL及びCLを含み、各重鎖はVH、CH1、CH2、及びCH3を含む。いくつかの哺乳類、例えばラクダ及びラマにおいて、IgG抗体は2つの重鎖可変ドメインのみからなる場合があり、各重鎖はFc領域に結合した可変ドメインを含む。
重鎖定常領域は、典型的に3つのドメイン、CH1、CH2、及びCH3で構成されており、CH1及びCH2ドメインはヒンジ領域によって連結されている。各軽鎖は典型的に軽鎖可変ドメイン(本明細書において「VL」または「VL」と略す)及び軽鎖定常ドメインで構成されている。VH及びVLドメインは、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域が散在している、相補性決定領域(CDR)とも称される超可変性の領域(すなわち配列及び/または構造的に定まるループの形態が超可変性であり得る超可変領域)にさらに細分され得る。各VH及びVLは典型的に3つのCDR及び4つのFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端まで次の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配列されている。典型的に、この領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、Kabat(例えば、Kabat et al, in “Sequences of Proteins of Immunological Interest,” 5th Edition, U.S. Department of Health and Human Services, 1992を参照)に記載されている方法によって行われる。この番号付けシステムを用いると、ペプチドの実際の一次アミノ酸配列は、可変ドメインのFRまたはCDRの短縮、または挿入に相当するより少ないまたは追加のアミノ酸を含む場合がある。例えば、重鎖可変ドメインは、VH CDR2の残基52の後の単一のアミノ酸挿入(Kabatによると52a)ならびに重鎖FR残基82の後の挿入残基(例えば、Kabatによると残基82a、82b、及び82cなど)を含み得る。残基のKabat番号付けは、所与の抗体について、抗体の配列の相同な領域における「標準」Kabat番号付け配列とのアラインメントによって決定され得る。
用語「可変」、「可変ドメイン」、または「可変領域」は、それぞれ同じ意味で、配列に可変性を示し、特定の抗体の特異性及び結合アフィニティーの決定に関与する免疫グロブリンドメインの一部(すなわち「可変ドメイン(複数可)」)のことをいう。可変性は抗体の可変ドメイン全体にわたって均一に分布しておらず、重鎖及び軽鎖可変領域のそれぞれのサブドメインに集中している。こうしたサブドメインは「超可変」領域または「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる。可変ドメインのより保存された(すなわち非超可変)部分は「フレームワーク」領域(FRM)と呼ばれる。自然発生重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、概してβ−シート構造をとる4つのFRM領域を含み、FRM領域は、β−シート構造を連結し、場合によってはその一部を形成するループを形成する3つの超可変領域によって連結されている。各鎖中の超可変領域はFRMによって互いに近くに位置し、他の鎖の超可変領域とともに、抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md., 1991を参照、全体を参照により援用する)。定常ドメインは抗原結合性に直接関与しないが、様々なエフェクター機能、例えば抗体依存的な細胞媒介細胞傷害性及び補体活性化などを示す。
用語「フレームワーク領域」は、より多様な(すなわち超可変性)CDRの間に存在する、当該技術分野において認知されている抗体可変領域の一部のことをいう。そのようなフレームワーク領域は典型的にフレームワーク1〜4(FRM1、FRM2、FRM3、及びFRM4)と呼ばれ、3次元空間において6つのCDR(重鎖から3つ及び軽鎖から3つ)の提示のための足場を与えて抗原結合表面を形成する。用語「カノニカル構造」は、抗原結合(CDR)ループがとる主鎖コンフォメーションのことをいう。比較構造研究から、6つの抗原結合ループのうち5つは可能なコンフォメーションの限られたレパートリーしか有しないことがわかっている。各カノニカル構造はポリペプチド主鎖のねじれ角によって特徴づけることができる。したがって、抗体間の対応するループは、ループのほとんどの部分における高いアミノ酸配列可変性にもかかわらず、非常に類似した3次元構造を有し得る(Chothia and Lesk, J. MoI. Biol., 1987, 196: 901;Chothia et al, Nature, 1989, 342: 877;Martin and Thornton, J. MoI. Biol, 1996, 263: 800)。さらに、とられるループ構造とその周りのアミノ酸配列との間には関係がある。特定のカノニカルクラスのコンフォメーションは、ループの長さ及びループ中の、さらには保存されたフレームワーク中(すなわちループ外)の重要な位置にあるアミノ酸残基によって決定される。したがって、特定のカノニカルクラスの割当てはこうした重要なアミノ酸残基の存在に基づいて行うことができる。
本明細書で用いる場合、「位置」はタンパク質または核酸の配列中の場所を意味する。タンパク質位置は、連続的に、または確立された形式、例えば抗体可変領域についてのKabatインデックスもしくは抗体定常領域についてのEUインデックスに従って番号付けされ得る。例えば、297位はヒト抗体IgG1中の位置である。対応する位置は上記で概説したように、一般に他の親配列とのアラインメントによって決定される。
本明細書で用いる場合、「残基」は、タンパク質中の位置及びその関連するアミノ酸の素性を意味する。例えば、アスパラギン297(Asn297とも呼ばれ、N297とも呼ばれる)はヒト抗体IgG1中の残基である。いくつかの実施形態においては核酸塩基をいうこともできる。
用語「カノニカル構造」は、例えば、Kabat(Kabat et al, in “Sequences of Proteins of Immunological Interest,” 5th Edition, U.S. Department of Health and Human Services, 1992)によって列挙されているように、抗体の一次配列についての考慮も含み得る。Kabat番号付け方式は、抗体可変ドメインのアミノ酸残基を一貫した形で番号付けするための広く採用されている標準である。抗体のカノニカル構造を決定するために、追加の構造的な考慮を用いることもできる。例えば、Kabat番号付けには完全に反映されていない差を、Chothiaらの番号付けシステムによって記述することができる、及び/または他の技術、例えば結晶構造解析及び二次元もしくは三次元コンピュータモデリングによって明らかにすることができる。したがって、所与の抗体配列は、とりわけ、適切なシャーシ配列を同定することが可能となるカノニカルクラスに入れられ得る(例えば、ライブラリーに様々なカノニカル構造を含める要求に基づく)。抗体アミノ酸配列のKabat番号付け及びChothiaらによって記載されているような構造的な考慮、ならびに抗体構造のカノニカルな側面を解釈するためのそれらが意味することは文献に記載されている。
「Fc」または「Fc領域」は、本明細書で用いる場合、第1定常領域免疫グロブリンドメインを除く抗体の定常領域を含むポリペプチドを意味する。したがって、「Fc領域」は、IgA、IgD、及びIgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメイン、ならびにIgE及びIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメイン、ならびにこれらのドメインのN末端の柔軟なヒンジのことをいう。IgA及びIgMでは、FcはJ鎖を含み得る。IgGでは、Fcは免疫グロブリンドメインCガンマ2及びCガンマ3(Cγ2及びCγ3)ならびにCガンマ1(Cγ1)とCガンマ2(Cγ2)との間のヒンジを含む。したがって、上記から逸脱することなく、「Fc領域」は「CH2ドメインまたはそのバリアント」及び「CH3ドメインまたはそのバリアント」を含むとも定義され得る。Fc領域の境界は様々であり得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は一般に、そのカルボキシル末端に残基C226またはP230を含むと定義され、ここで番号付けはKabatのEUインデックスに従う。Fcは単独でこの領域のことをいう場合もあれば、Fcポリペプチド、例えば抗体との関係においてこの領域のことをいう場合もある。本明細書で用いる場合、「Fcポリペプチド」は、Fc領域のすべてまたは一部を含むポリペプチドを意味する。Fcポリペプチドは抗体、Fc融合体、単離Fc、及びFc断片を含む。
本発明の多価抗体アナログの可変軽鎖(VL)及び対応する可変重ドメイン(VH)は、全体を通して同じ意味で抗原と相互作用する「抗原結合部位」とも呼ぶ結合ドメインを含む。したがって、本発明の多価抗体アナログの「第1可変軽ドメイン」及び「第1可変重ドメイン」はともに「第1抗原結合部位」を形成する。同様に、本発明の多価抗体アナログの「第2可変軽ドメイン」及び「第2可変重ドメイン」はともに「第2抗原結合部位」を形成する。本発明の多価抗体アナログの「第3可変軽ドメイン」及び「第3可変重ドメイン」はともに「第3抗原結合部位」を形成し、以下も同様である。
当業者であれば理解するように、本発明に従う使用のための抗原結合部位は、それを含むVH、VL、及び/またはCDRを含め、任意のその起源から入手または誘導され得る。したがって、そのような抗原結合部位、VH、VL、及び/またはCDRは、それによって認識される標的に対する抗体を発現するハイブリドーマ細胞から;それによって認識される標的に対する抗体を発現する免疫化ドナー由来のB細胞から;それによって認識される標的に対する抗体を発現するように刺激されたB細胞から;及び/または抗原結合抗体(もしくはその抗原結合断片)について複数のポリヌクレオチドもしくはポリペプチドを含むライブラリーをスクリーニングすることによって同定された抗体もしくは抗体断片の同定から入手または誘導され得る。
「抗体断片」は、インタクトな抗体の一部、例えばその抗原結合領域の1つ以上の部分を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片、scFv、ダイアボディ、直線状抗体、一本鎖抗体、ならびにインタクトな抗体及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられる。
本明細書で用いる場合、「scFv」はリンカー配列によって連結された2つの可変領域からなるポリペプチドを意味し、例えば「リンカー」(「リンカー部分」とも呼び、全体を通して同じ意味で用いる)は下記でより詳細に記載する。
「Fab」または「Fab領域」は、本明細書で用いる場合、VH、CH1、VL、及びCL免疫グロブリンドメインを含むポリペプチドを意味する。典型的には、VH及びCH1ドメインは1つのポリペプチドを含み、VL及びCLドメインは別のポリペプチドを含み、2つのポリペプチドは少なくとも1つのポリペプチド間ジスルフィド結合を介して互いに連結されている。Fabは単独でこの領域のことをいう場合もあれば、全長抗体または抗体断片との関係においてこの領域のことをいう場合もある。
「ヒト化抗体」は一般に、可変ドメインフレームワーク領域がヒト抗体に存在する配列と交換された非ヒト抗体のことをいう。一般にヒト化抗体において、抗体全体は、CDRを除いて、ヒト起源のポリヌクレオチドによってコードされるか、またはそのCDRの範囲内を除いてそのような抗体と同一である。CDRは、その1つ、いくつか、またはすべてが非ヒト生物に由来する核酸によってコードされ、ヒト抗体可変領域のフレームワーク中に移植されて、その特異性が移植されたCDRによって決定される抗体を生成する。そのような抗体の生成は例えばWO 92/11018、Jones, 1986, Nature 321:522−525、Verhoeyen et al., 1988, Science 239:1534−1536に記載されている。最初の移植コンストラクトで失われたアフィニティーを取り戻すために、選択したアクセプターフレームワーク残基の対応するドナー残基への「復帰突然変異」が必要とされることが多い(例えば米国特許第5,693,762号を参照)。ヒト化抗体は、任意により免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのものも含むことになり、そのため、典型的にはヒトFc領域を含むことになるであろう。非ヒト抗体をヒト化、再形成、及び再表面形成する様々な技術及び方法が当該技術分野において公知である(Tsurushita & Vasquez, 2004, Humanization of Monoclonal Antibodies, Molecular Biology of B Cells, 533−545, Elsevier Science (USA)、及びそこに引用されている参照文献を参照)。ある変形形態において、Lazar et al., 2007, Mol Immunol 44:1986−1998及び2004年12月3日に出願された「Methods of Generating Variant Proteins with Increased Host String Content and Compositions Thereof」という名称の米国特許出願第11/004,590号に記載されている方法を用いて抗体の免疫原性を減少させる。
「インタクトな抗体」は全長重鎖及び軽鎖ならびにFc領域を含むものである。インタクトな抗体は「全長ヘテロ二量体」抗体または免疫グロブリンとも呼ばれる。
用語「可変」とは、配列に可変性を示し、特定の抗体の特異性及び結合親和性の決定に関与する免疫グロブリンドメインの一部(すなわち「可変ドメイン(複数可)」)のことをいう。可変性は抗体の可変ドメイン全体にわたって均一に分布しておらず、重鎖及び軽鎖可変領域のそれぞれのサブドメインに集中している。こうしたサブドメインは「超可変」領域または「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる。可変ドメインのより保存された(すなわち非超可変)部分は「フレームワーク」領域(FRM)と呼ばれる。自然発生重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、概してβ−シート構造をとる4つのFRM領域を含み、FRM領域は、β−シート構造を連結し、場合によってはその一部を形成するループを形成する3つの超可変領域によって連結されている。各鎖中の超可変領域はFRMによって互いに近くに位置し、他の鎖の超可変領域とともに、抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md., 1991を参照、全体を参照により援用する)。定常ドメインは抗原結合性に直接関与しないが、様々なエフェクター機能、例えば抗体依存的な細胞媒介細胞傷害性及び補体活性化などを示す。
本発明の「シャーシ」は、それぞれCDRH3またはCDRL3の一部ではない抗体重鎖可変(IGHV)または軽鎖可変(IGLV)ドメインの一部を表す。本発明のシャーシは、FRM1の最初のアミノ酸から始まりFRM3の最後のアミノ酸で終わる抗体の可変領域の一部と定義される。重鎖の場合、シャーシは約Kabat位1から約Kabat位94までを含むアミノ酸を含む。軽鎖(κ及びλ)の場合、シャーシは約Kabat位1から約Kabat位88までを含むと定義される。本発明のシャーシは、本明細書で提示するか、または公開データベースで利用可能な対応する生殖細胞系の可変ドメイン配列と比較してある改変を含有し得る。こうした改変は、組換え(例えばN結合型グリコシル化部位の除去)による場合もあれば、自然発生(例えば対立遺伝子変異の原因となる)の場合もある。例えば、当該技術分野において、免疫グロブリン遺伝子レパートリーは多型であることが知られており(Wang et al., Immunol. Cell. Biol, 2008, 86: 111;Collins et al, Immunogenetics, 2008, DOI 10.1007/s00251− 008−0325−z(オンラインで公開)、それぞれ全体を参照により援用する)、こうした対立遺伝子バリアントの代表的なシャーシ、CDR(例えばCDRH3)及び定常領域も本発明に包含される。いくつかの実施形態において、特定の実施形態において用いられる対立遺伝子バリアント(複数可)は、異なる患者集団に存在する対立遺伝子変異に基づいて、例えば、こうした患者集団において非免疫原性である抗体を同定するために選択され得る。ある実施形態において、本発明の抗体の免疫原性は、患者集団の主要組織適合性複合体(MHC)遺伝子における対立遺伝子変異に依存し得る。そのような対立遺伝子変異は本発明のライブラリーの設計においても考慮され得る。本発明のある実施形態において、シャーシ及び定常領域はベクター上に含まれ、相同組換えによってCDR3領域がそれらの間に導入される。いくつかの実施形態において、1つ、2つまたは3つのヌクレオチドは重鎖シャーシに従い、部分的な(1つもしくは2つの場合)または完全な(3つの場合)コドンのいずれかを形成し得る。完全なコドンが存在する場合、これらのヌクレオチドは、「テール」と呼ばれ、95位を占めるアミノ酸残基をコードする。
ある実施形態において、第1重鎖可変領域;第2重鎖可変領域;第1軽鎖可変領域;第2軽鎖可変領域;可変領域に含まれる1つ以上のCDR;第1ポリペプチド;第2ポリペプチド;第3ポリペプチド;第4ポリペプチ;1つ以上の親ホモ二量体抗体種;及び/またはMAIのうちの1つ以上は、上記抗体コンポーネントまたは領域のいずれかの固有のメンバーを含む1つ以上のライブラリーから1つ以上の抗原に対する1つ以上の選別を実施することによって得られる。
ある実施形態において、抗体、例えばMAIなどの第1重鎖可変領域または第2重鎖可変領域のいずれかは、固有の重鎖可変領域を含む第1ライブラリーから第1抗原に対して第1選別を実施することによって得られる。
ある実施形態において、抗体、例えばMAIなどの第1重鎖可変領域及び第2重鎖可変領域は、固有の重鎖可変領域を含む第1ライブラリーから第1抗原に対して第1選別を実施することによって得られる。
ある実施形態において、抗体、例えばMAIなどの第1重鎖可変領域は、固有の重鎖可変領域を含む第1ライブラリーから第1抗原に対して第1選別を実施することによって得られ、第2重鎖可変領域は、固有の重鎖可変領域を含む第2ライブラリーから第2抗原に対して第2選別を実施することによって得られる。
ある実施形態において、抗体、例えばMAIなどの第1重鎖可変領域は、固有の重鎖可変領域を含む第1ライブラリーから第1抗原に対して第1選別を実施することによって得られ、第2重鎖可変領域は、固有の重鎖可変領域を含む第2ライブラリーから第2抗原に対して第2選別を実施することによって得られる。
ある実施形態において、ライブラリーの少なくとも1つは少なくとも1つの軽鎖をさらに含む。
当業者であれば理解するように、用語「library(ライブラリー)」及び「plurality(複数)」(ならびに「libraries(ライブラリー)」及び「pluralities(複数)」)は容易に同じ意味で用いられ得る。しかし、全体を通して開示する本発明との関係においては、「複数」の要素、例えば抗体、抗体をコードする核酸、または宿主細胞などは、実質的に同一な多くのまたはほとんどのメンバーを含み得るが、要素、例えば抗体、抗体をコードする核酸、または宿主細胞などの「ライブラリー」は、固有の多くのまたはほとんどのメンバーを含み得る。
ある実施形態において、特許請求する方法に従う選別に1つ以上のナイーブライブラリーが用いられ得る。「ナイーブライブラリー」は、特定の抗原に対する特異性を有する抗体の存在について照会されていないポリヌクレオチド(またはそのようなポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド)のライブラリーのことをいう。「ナイーブライブラリー」は、抗原の任意の群、または特定の抗原に対する特異性を有する抗体配列に限定されていない、または別様に偏っていない、もしくは富化されていないライブラリーのこともいう。そのため、ナイーブライブラリーは「限定ライブラリー」及び「成熟ライブラリー」(例えばアフィニティー成熟ライブラリーなど)とは異なるが、これらは両方とも下記で説明する。
ナイーブライブラリーは「免疫前」ライブラリーも含み得るが、これは、自然発生抗体配列、例えばヒト抗体配列などの、そのような自然発生配列がネガティブセレクション及び/または体細胞超変異を受ける前のものに類似した配列多様性及び長さ多様性を有するライブラリーのことをいう。そのような免疫前ライブラリーは、免疫前レパートリーを反映もしくは模倣するように設計及び調製され得る、及び/または、ヒトV、D、及びJ遺伝子集、ならびにヒト重鎖及び軽鎖配列の他の大きなデータベース(例えば、公知の生殖細胞系配列;その全体を参照により援用するJackson et al, J. Immunol Methods, 2007, 324: 26にある配列;その全体を参照により援用するLee et al., Immunogenetics, 2006, 57: 917にある配列;ならびに再構成VK及びVλに編集された配列)から知ることのできる合理的な設計に基づいて設計及び調製され得る。さらなる情報は、例えば、それぞれその全体を参照により援用するScaviner et al., Exp. Clin. Immunogenet., 1999, 16: 234;Tomlinson et al, J. Mol. Biol, 1992, 227: 799;及びMatsuda et al, J. Exp. Med., 1998, 188: 2151に見出され得る。本発明のある実施形態において、ヒトのレパートリーに見られる可能なV、D、及びJ多様性、ならびに接合多様性(すなわちN1及びN2)を表すカセットが、一本鎖または二本鎖DNAオリゴヌクレオチドとして新規に合成される。例示的なそのような免疫前ライブラリー、ならびにそれを含むポリヌクレオチド配列(及びそれによってコードされるポリペプチド配列)の設計及び組成は、例えば、Lee et al. (Immunogenetics, 2006, 57: 917);Martin et al., Proteins, 1996, 25:130;WO 2009/036379;及びWO 2012/09568にさらに記載されている。
本開示の発明の実施に用いられる抗体との関係において、そのような抗体のライブラリー(または複数の抗体)は、それぞれ固有の一次酸配列を有する多くのまたはほとんどのメンバーを含むことになるであろうが、そのようなライブラリー(または複数の抗体)は同一のアミノ酸配列を有するメンバーも含み得る。ある実施形態において、そのようなメンバーの可変領域は、そのようなメンバー間のアミノ酸配列における差の多くを含むことになるであろう。
本開示の発明の実施に用いられる宿主細胞との関係において、複数のそのような宿主細胞(またはそのライブラリー)は、その多くがそれぞれ固有の抗体を発現する宿主細胞メンバーを含むことになるであろうが、複数のそのような宿主細胞(またはそのライブラリー)は、同一の抗体配列を発現するメンバーも含み得る。ある実施形態において、そのような宿主細胞は、宿主細胞によって一括して発現される抗体ライブラリーを一括してコードする核酸も含有することになるであろう。
当業者によって理解され、また、全体を通して開示するように、「多様性」は種類の豊富さまたは顕著な異質性のことをいう。用語「配列多様性」は、配列、例えば天然ヒト抗体に見られるもののいくつかの可能性をまとめて代表する様々な配列のことをいう。例えば、重鎖CDR3(CDRH3)配列多様性は、重鎖CDR3配列を形成するための、N1及びN2領域を含めた、公知のヒトDH及びH3−JHセグメントの組合せの様々な可能性のことをいう場合がある。軽鎖CDR3(CDRL3)配列多様性は、軽鎖CDR3配列を形成するための、CDRL3に寄与する自然発生軽鎖可変領域(すなわちL3−VL)及び接合(すなわちL3−JL)セグメントの組合せの様々な可能性のことをいう場合がある。本明細書で用いる場合、H3−JHはCDRH3に寄与するIGHJ遺伝子の一部のことをいう。本明細書で用いる場合、L3−VL及びL3−JLはそれぞれ、CDRL3に寄与するIGLV及びIGLJ遺伝子(κまたはλ)の一部のことをいう。
本明細書で用いる場合、用語「発現」は、限定はしないが転写、転写後修飾、翻訳、翻訳後修飾及び分泌を含めたポリペプチドの産生に関与するあらゆるステップを含む。
本発明のある実施形態において、抗体ライブラリーは化学的に合成し、かつ、物理的に実現するのに十分小さく、しかし、任意の抗原を認識する潜在性を有する抗体をコードするのに十分大きくなるように設計される。ある実施形態において、抗体ライブラリーは約107〜約1020種の異なる抗体及び/またはライブラリーの抗体をコードするポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、ライブラリーは、103、104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1016、1017、1018、1019、または1020種の異なる抗体及び/または抗体をコードするポリヌクレオチド配列を含むように設計される。ある実施形態において、ライブラリーは、約103〜約105、約105〜約107、約107〜約109、約109〜約1011、約1011〜約1013、約1013〜約1015、約1015〜約1017、または約1017〜約1020種の異なる抗体を含むかまたはコードし得る。ある実施形態において、ライブラリーの多様性は、上記で列挙した多様性の1つ以上よりも大きいまたは小さい、例えば、約103、104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1016、1017、1018、1019、もしくは1020よりも大きい、または約103、104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1016、1017、1018、1019、もしくは1020よりも小さいとして特徴づけられ得る。本発明のある他の実施形態において、目的の抗体が上記で列挙したサイズのライブラリー中に物理的に実現されて存在する確率は、少なくとも約0.0001%、0.001%、0.01%、0.1%、1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、99%、99.5%、または99.9%である(特定の配列がライブラリー中に物理的に実現されて存在する確率のさらなる情報については、詳細な説明のライブラリーサンプリングを参照)。
当業者によって理解され、また、全体を通して開示するように、本開示の方法に従う使用に適した抗体ライブラリーは、例えば、WO2009036379;WO2012009568;WO2010105256;US 8,258,082;US 6,300,064;US 6,696,248;US 6,165,718;US 6,500,644;US 6,291,158;US 6,291,159;US 6,096,551;US 6,368,805;US 6,500,644などに開示されているような当該技術分野において利用可能な任意の方法によって設計及び調製され得る。
例えば、ライブラリーは、免疫前レパートリーを反映もしくは模倣するように設計及び調製され得る、及び/または、ヒトV、D、及びJ遺伝子集、ならびにヒト重鎖及び軽鎖配列の他の大きなデータベース(例えば、公知の生殖細胞系配列;その全体を参照により援用するJackson et al, J. Immunol Methods, 2007, 324: 26にある配列;その全体を参照により援用するLee et al., Immunogenetics, 2006, 57: 917にある配列;ならびに再構成VK及びVλに編集された配列−本明細書とともに出願された添付書類A及びBを参照)から知ることのできる合理的な設計に基づいて設計及び調製され得る。さらなる情報は、例えば、それぞれその全体を参照により援用するScaviner et al., Exp. Clin. Immunogenet., 1999, 16: 234;Tomlinson et al, J. MoI. Biol, 1992, 227: 799;及びMatsuda et al, J. Exp. Med., 1998, 188: 2151に見出され得る。本発明のある実施形態において、ヒトのレパートリーに見られる可能なV、D、及びJ多様性、ならびに接合多様性(すなわちN1及びN2)を表すカセットが、一本鎖または二本鎖DNAオリゴヌクレオチドとして新規に合成される。本発明のある実施形態において、CDR配列をコードするオリゴヌクレオチドカセットが、重鎖または軽鎖シャーシ配列を含有する1つ以上のアクセプターベクターとともに酵母に導入される。哺乳類cDNAまたはmRNAからのプライマーベースのPCR増幅またはテンプレートで誘導されるクローニングのステップは用いない。標準的な相同組換えによって、レシピエント酵母がシャーシ配列(複数可)及び定常領域を含有するアクセプターベクター(複数可)にカセット(例えばCDR3)を組換え、遺伝子的に増殖、発現、ディスプレイ、及びスクリーニングすることができる適切に配列した合成全長ヒト重鎖及び/または軽鎖免疫グロブリンライブラリーが生成される。当業者であれば、アクセプターベクターに含まれるシャーシは、全長ヒト重鎖及び/または軽鎖以外のコンストラクトを生成するように設計することができることを容易に認識するであろう。例えば、本発明のある実施形態において、シャーシは、CDRを含有するオリゴヌクレオチドカセットがアクセプターベクターに組換えられる際に、抗体断片、またはそのサブユニットをコードする配列が生成されるように、抗体断片または抗体断片のサブユニットをコードするポリペプチドの一部をコードするように設計され得る。ある実施形態において、本発明は、約107〜約1020種の抗体メンバーを含む合成免疫前ヒト抗体レパートリーを提供するが、このレパートリーは
(a)選択されたヒト抗体重鎖シャーシ(すなわち、Kabatの定義を用いた重鎖可変領域のアミノ酸1〜94);(b)ヒトIGHD及びIGHJ生殖細胞系配列に基づいて設計されたCDRH3レパートリーであって、以下を含むCDRH3レパートリー:
(i)任意により、1つ以上のテール領域;
(ii)末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)の作用によって優先的にコードされ、ヒトB細胞によって機能的に発現されるアミノ酸タイプの20種未満からなる群から選択される約0〜約10アミノ酸を含む1つ以上のN1領域;
(iii)1つ以上の選択されたIGHDセグメントに基づく1つ以上のDHセグメント、及び1つ以上のそのNまたはC末端切断;
(iv)TdTの作用によって優先的にコードされ、ヒトB細胞によって機能的に発現されるアミノ酸の20種未満からなる群から選択される約0〜約10アミノ酸を含む1つ以上のN2領域;ならびに
(v)1つ以上のIGHJセグメントに基づく1つ以上のH3−JHセグメント、及び1つ以上のそのN末端切断(例えばXXWGまで);(c)1つ以上の選択されたヒト抗体κ及び/またはλ軽鎖シャーシ;ならびに
(b)「L」がκまたはλ軽鎖であり得るヒトIGLV及びIGLJ生殖細胞系配列に基づいて設計されたCDRL3レパートリー;
を含む。そのようなライブラリーを調製する手段及び方法は、例えばWO2009036379;WO2012009568;WO2010105256に開示されている。
当業者によって理解され、また、全体を通して開示するように、「特異性」は、目的の抗原の1つ以上の抗原決定基、例えば1つ以上のエピトープなどとは反応し、かつ目的の抗原の他のエピトープまたは目的の他の抗原とは反応しないことを可能にする抗体の特性のことをいう。当該技術分野において理解されるように、抗体特異性は、エピトープ及び/または抗体の結合部位の化学組成、物理的力、エネルギー的優位性、立体障害、及び分子構造またはトポロジーに依存する。
当業者によって理解され、また、全体を通して開示するように、「アフィニティー」は抗体−エピトープ相互作用の強度、または安定性のことをいう。エピトープに対するアフィニティーが高い抗体は比較的強固に及び/または安定してエピトープに結合する一方で、エピトープに対するアフィニティーが低い抗体は比較的弱く及び/またはより不安定に結合する。
当業者によって理解され、また、全体を通して開示するように、目的の抗原のエピトープ(複数可)に対する特異性を有する抗体を「収集する」または「収集した」とは、そのような特異性を有しない抗体からそのような特異性を有する抗体を区別する(または区別した)ことを意味する。目的の抗原のエピトープ(複数可)に対する特異性を有する抗体を収集すること、または抗体を収集したことは、それらを区別するために、そのような特異性を有しない抗体からの抗体の物理的分離を必要としなくてもよい。しかし、ある実施形態において、目的の抗原のエピトープ(複数可)に対する特異性を有する抗体を収集することは、そのような特異性を有しない抗体からそのような抗体を物理的に分離することを含む。抗体を収集する例示的な方法及び手段は当該技術分野において公知であり、例えばフローサイトメトリー、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)、磁気活性化細胞ソーティング(MACS)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)など、及びこれらの組合せが挙げられる。
全体を通して開示する方法においてそのような特異性を判定するために、当該技術分野におけるそのような特異性を判定する任意の手段を用いてよく、例えば、検出可能標識でそのような抗体を標識化すること;検出可能標識を検出すること;抗原のエピトープ(複数可)に結合している抗体の機能的な結果、例えばそのようなエピトープ(複数可)に対する特異性を有することが既知の別の抗体との競合などを検出すること;目的の抗原と既知のタンパク質相互作用パートナーまたはリガンドとの間のタンパク質−タンパク質またはタンパク質−リガンド相互作用の変化が挙げられる。
多くの場合、抗体発見プロセスの一部として1つ以上の成熟ライブラリー選別を含むことが望ましい。そのような成熟ライブラリー選別、例えばアフィニティー成熟ライブラリー選別などは、本明細書に開示の方法に有利に組み込まれ得る。
「成熟ライブラリー」は、抗原に対する特異性を有する抗体配列の存在についてのライブラリー、例えばナイーブライブラリーまたは免疫前ライブラリーなどの照会で同定される抗体配列の少なくとも1つの特性を強化または改善するように設計されているライブラリーのことをいう。そのような成熟ライブラリーは、ナイーブライブラリーの照会で得られるか、または同定される、1つ以上のCDR;1つ以上の抗原結合領域;1つ以上のVHもしくはVL領域;及び/または1つ以上の重鎖もしくは軽鎖に対応する核酸配列(本明細書において「抗体リード」と呼ぶ)を、元の抗体リードと照らして多様性が導入されたライブラリーを生成するためにインビトロまたはインビボでさらに変異誘発するように設計されたライブラリー中に組み込むことによって生成され得る。そのような成熟ライブラリー及びその作製方法は、例えばWO 2009/036379(例えばページ75〜77);及びWO 2012/09568(例えばページ69〜72)で提供されており、目的のCDRH3が未変化のままであり、重鎖フレームワーク領域、CHRH1、及び/またはCHDH2領域が多様化される多様化が実施されている成熟ライブラリー;目的のCDRL3が未変化のままであり、軽鎖フレームワーク領域、CHRL1、及び/またはCHDL2領域が多様化されているライブラリー;あらかじめ作製された多様な軽鎖が1つ以上の目的の重鎖と組合せられているライブラリーが挙げられる。
「限定ライブラリー」は、1つの目的の抗原に対する特異性を有する抗原結合領域について、例えばナイーブライブラリーから選別を実施することによって得られたか、または同定された、1つ以上の固有の重鎖、1つ以上の固有の軽鎖、または1つ以上の固有の重鎖及び1つ以上の固有の軽鎖を含むライブラリーのことをいい、別の目的の抗原に対する特異性を有する抗原結合領域を得るまたは同定するために用いられる。そのような限定ライブラリーは典型的に、それぞれ軽鎖または重鎖の数をはるかに超える多数の重鎖または軽鎖のいずれかを含む。ある実施形態において、固有の重鎖の数は、少なくとも105、少なくとも106、少なくとも107、108、もしくは少なくとも109、またはこれよりも多く、固有の軽鎖の数は、1、2、3、4、5、10、15、20、50、100、200、500、または1000である。ある実施形態において、固有の重鎖の数は107〜108であり、固有の軽鎖の数は10未満、好ましくは約5である。
ある実施形態において、全体を通して開示する方法は、複数の宿主細胞の使用を含み得るが、そのメンバーは抗体のライブラリーをまとめてコードする核酸をまとめて含有し、そのような宿主細胞は目的の抗原に対するバインダーについて照会される抗体のライブラリーをまとめて発現する。全体を通して開示する方法に従ってそのような複数の宿主細胞を調製及び採用する場合、照会される複数の宿主細胞の中から目的の抗原に対する特異性を有する抗体を発現する宿主細胞が収集されるべきであるか、またはそのような宿主細胞によってコードされる抗体が収集され得るかのいずれかである。ある実施形態において、抗体は宿主細胞が抗体を発現及び分泌した後に収集される。
全体を通して開示する方法における宿主細胞の使用によれば、本明細書に記載の技術のいずれか、または他の好適な技術によって生成されたポリヌクレオチドのライブラリーは、そのような宿主細胞に導入され、それによって発現され、所望の構造及び/または活性を有する抗体を同定するためにスクリーニングされ得る。抗体の発現は、例えば、無細胞抽出物(及び例えばリボソームディスプレイ)、ファージディスプレイ、原核宿主細胞(例えば細菌ディスプレイ)、または真核宿主細胞(例えば酵母ディスプレイ、哺乳類細胞ディスプレイ)を用いて行うことができる。本発明のある実施形態において、抗体ライブラリーは酵母によって発現及び/またはコードされる。ある実施形態において、酵母はSaccharomyces cerevesaieである。他の実施形態において、酵母はPichia pastorisである。
他の実施形態において、ポリヌクレオチドは、無細胞抽出物中で発現させることができるテンプレートとして機能するように組換えられる。例えば米国特許第5,324,637号;5,492,817号;5,665,563号(それぞれその全体を参照により援用する)に記載のようなベクター及び抽出物を用いることができ、多くは市販されている。ポリヌクレオチド(すなわち遺伝子型)をポリペプチド(すなわち表現型)に連結するためのリボソームディスプレイ及び他の無細胞技術を用いることができ、例えばProfusion(商標)(例えば、米国特許第6,348,315号;6,261,804号;6,258,558号;及び6,214,553号を参照、それぞれその全体を参照により援用する)である。
あるいは、本発明のポリヌクレオチドは、E.coli発現系、例えばPluckthun及びSkerraによって記載されたものなどで発現させることができる。(Meth. Enzymol., 1989, 178: 476;Biotechnology, 1991, 9: 273、それぞれその全体を参照により援用する)。変異型タンパク質は、その全体を参照により援用するBetter and Horwitz, Meth. Enzymol., 1989, 178: 476によって記載されているように、培地及び/または細菌の細胞質中における分泌のために発現させることができる。いくつかの実施形態において、VH及びVLをコードする単一のドメインは、シグナル配列、例えばompA、phoAまたはpelBシグナル配列(Lei et al, J. Bacteriol, 1987, 169: 4379、その全体を参照により援用する)などをコードする配列の3’末端にそれぞれ結合させる。これらの遺伝子融合体は、単一のベクターから発現させ、リフォールディングして活性形態に戻ることができるE.coliの細胞周辺腔に分泌させることができるように、ジシストロニックコンストラクトに組み立てられる。(Skerra et al, Biotechnology, 1991, 9: 273、全体を参照により援用する)。例えば、抗体重鎖遺伝子を抗体軽鎖遺伝子と同時に発現させて抗体または抗体断片を産生することができる。
本発明の他の実施形態において、抗体配列は、例えばUS20040072740;US20030100023;及びUS20030036092(それぞれその全体を参照により援用する)に記載されているような分泌シグナル及び脂質化部分を用いて、原核生物、例えばE.coliの膜表面上で発現させる。
哺乳類細胞などの高等真核細胞、例えば骨髄腫細胞(例えばNS/0細胞)、ハイブリドーマ細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、及びヒト胎児腎(HEK)細胞も本発明の抗体の発現に用いることができる。典型的には、哺乳類細胞で発現させる抗体は、培養培地中に分泌されるように、または細胞の表面上に発現されるように設計される。抗体または抗体断片は、例えば、インタクトな抗体分子として、または個々のVH及びVL断片、Fab断片、単一ドメインとして、もしくは一本鎖(scFv)として産生させることができる(Huston et al, PNAS, 1988, 85: 5879、その全体を参照により援用する)。
あるいは、例えば、Jeong et al, PNAS, 2007, 104: 8247(その全体を参照により援用する)に記載されているような固定化細胞周辺発現(APEx 2−ハイブリッド表面ディスプレイ)によって、または例えば、Mazor et al., Nature Biotechnology, 2007, 25: 563(その全体を参照により援用する)に記載されているような他の固定化方法によって、抗体を発現及びスクリーニングすることができる。
本発明の他の実施形態において、哺乳類細胞ディスプレイ(Ho et al, PNAS, 2006, 103: 9637、その全体を参照により援用する)を用いて抗体を選別することができる。
本発明のライブラリーから得られる抗体のスクリーニングは任意の適切な手段によって行うことができる。例えば、標準的なイムノアッセイ及び/またはアフィニティークロマトグラフィーによって結合活性を評価することができる。触媒機能、例えばタンパク質分解機能についての本発明の抗体のスクリーニングは、標準的なアッセイ、例えば、米国特許第5,798,208号(その全体を参照により援用する)に記載されているようなヘモグロビンプラークアッセイを用いて達成することができる。治療標的に結合する候補の抗体の能力の判定は、例えば、表面プラズモン共鳴に基づいて所与の標的または抗原への抗体の結合率を測定するBIACORE(商標)測定器を用いてインビトロでアッセイすることができる。複数の動物モデルのいずれかを用いてインビボアッセイを行うことができ、そしてその後、適宜ヒトにおいて試験することができる。細胞ベースの生物学的アッセイも企図される。
上述のように、本発明の方法は、所望のMAIの有意な量及び純度を得るために、ヘテロ二量体化モチーフの設計または組換えを必要としない。しかし、本発明の方法はそのようなモチーフを含めることが可能である。ヘテロ二量体対またはそのようなヘテロ二量体対を含む開示の多重特異性抗体アナログの間の相互作用は、ヘテロ二量体対界面において、その界面での突出部がくぼみの中に入る相補的領域の形成;その界面での非自然発生ジスルフィド結合の形成;その界面におけるロイシンジッパー;その界面における疎水性領域;及び/またはその界面における親水性領域によって促進され得る。「突出部」は、第1ポリペプチドの界面からの小さいアミノ酸側鎖をより大きな側鎖(例えばチロシンまたはトリプトファン)に置換することによって構築される。突出部と同一またはほぼ同等のサイズの代償的な「くぼみ」は、大きなアミノ酸側鎖をより小さな側鎖(例えばアラニンまたはスレオニン)に置換することによって、第2ポリペプチドの界面上に任意により形成される。適切な位置及び寸法の突出部またはくぼみが第1または第2ポリペプチドのいずれかの界面に存在する場合、それぞれ対応するくぼみまたは突出部を隣接する界面に組換えるだけでよい。非自然発生ジスルフィド結合は、遊離チオール含有残基が第2ポリペプチド上の別の遊離チオール含有残基と相互作用し、その結果、第1ポリペプチドと第2ポリペプチドとの間でジスルフィド結合が形成されるように、第1ポリペプチド上で自然発生アミノ酸を遊離チオール含有残基、例えばシステインなどで置換することによって構築される。本発明に従う例示的なヘテロ二量体化対及びその作製方法は、当該技術分野において利用可能であり、例えば、US 2011/0054151;US 2007/0098712などに開示されている。
ある実施形態において、ヘテロ二量体対は本発明の多重特異性抗体アナログのFc領域内に含まれる。そのようなヘテロ二量体対を含むFc領域を「ヘテロ二量体Fc領域」と呼ぶ。
したがって、ある実施形態において、多重特異性抗体アナログは、CH2及び/またはCH3ドメインバリアントを含み、a)CH2ドメインバリアント及びCH3ドメインバリアントが、それぞれ独立して、第1ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインのいずれかにおける少なくとも1つの突出部及び第2ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインにおける少なくとも1つの対応するくぼみを含むか、またはCH2ドメインバリアント及びCH3ドメインバリアントが、それぞれ独立して、第1ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインのいずれかにおける少なくとも1つのくぼみ及び第2ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインにおける少なくとも1つの対応する突出部を含むかのいずれかである。ある他の実施形態において、多重特異性抗体アナログは、CH2及び/またはCH3ドメインバリアントを含み、a)CH2ドメインバリアント及びCH3ドメインバリアントが、それぞれ独立して、第1ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインのいずれかにおける少なくとも1つの置換された負電荷アミノ酸及び第2ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインのいずれかにおける少なくとも1つの対応する正電荷アミノ酸を含むか、またはb)CH2ドメインバリアント及びCH3ドメインバリアントが、それぞれ独立して、第1ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインのいずれかにおける少なくとも1つの置換された正電荷アミノ酸及び第2ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインのいずれかにおける少なくとも1つの対応する置換された負電荷置換アミノ酸を含むかのいずれかである。
「天然」抗体(すなわち、天然B細胞による天然生物学的抗体合成を経てインビボで生成される抗体)におけるFc機能に関して、抗体のFc領域は複数のFc受容体及びリガンドと相互作用し、エフェクター機能と呼ばれる多数の重要な機能的能力を付与する。IgGでは、Fc領域、Fcは、IgドメインCγ2及びCγ3ならびにCγ2につながるN末端ヒンジを含む。IgGクラスに対するFc受容体の重要なファミリーはFcγ受容体(FcγR)である。これらの受容体は抗体と免疫系の細胞アームとの間の伝達を媒介する(Raghavan et al., 1996, Annu Rev Cell Dev Biol 12:181−220;Ravetch et al., 2001, Annu Rev Immunol 19:275−290)。ヒトにおいて、このタンパク質ファミリーは、アイソフォームFcγRIa、FcγRIb、及びFcγRIcをはじめとするFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131及びR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb−1及びFcγRIIb−2を含む)、ならびにFcγRIIcをはじめとするFcγRII(CD32);ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158及びF158を含む)ならびにFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb−NA1及びFcγRIIIb−NA2を含む)をはじめとするFcγRIII(CD16)を含む(Jefferis et al., 2002, Immunol Lett 82:57−65)。これらの受容体は典型的に、Fcへの結合を媒介する細胞外ドメイン、膜貫通領域、及び細胞内のいくつかのシグナル伝達現象を媒介し得る細胞内ドメインを有する。これらの受容体は、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好酸球、肥満細胞、血小板、B細胞、大顆粒リンパ球、ランゲルハンス細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、及びγδT細胞をはじめとする様々な免疫細胞で発現される。Fc/FcγR複合体の形成により、結合された抗原の部位にこれらのエフェクター細胞が動員され、典型的には細胞内のシグナル伝達現象ならびに重要なその後の免疫応答、例えば炎症媒介物質の放出、B細胞活性化、エンドサイトーシス、ファゴサイトーシス、及び細胞傷害性攻撃などをもたらす。細胞傷害性及び食作用性エフェクター機能を媒介する能力は、抗体が標的細胞を破壊する潜在的機構である。FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞上の結合した抗体を認識し、その後標的細胞の溶解を引き起こす細胞媒介反応は、抗体依存的細胞媒介細胞傷害性(ADCC)(Raghavan et al., 1996, Annu Rev Cell Dev Biol 12:181−220;Ghetie et al., 2000, Annu Rev Immunol 18:739−766;Ravetch et al., 2001, Annu Rev Immunol 19:275−290)と呼ばれる。FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞上の結合した抗体を認識し、その後標的細胞のファゴサイトーシスを引き起こす細胞媒介反応は、抗体依存的細胞媒介ファゴサイトーシス(ADCP)と呼ばれる。
「天然」抗体のFc領域の特有の特徴は、N297で生じる保存されたN結合型グリコシル化である。この炭水化物(またはオリゴ糖と呼ばれることもある)は、抗体にとって重要な構造的及び機能的役割を果し、抗体が哺乳類発現系を用いて産生されなければならない主な理由の1つである。FcγR及びC1qへの効率的なFc結合にはこの改変が必要とされ、N297炭水化物の組成の変化またはその除去はこれらのタンパク質への結合に影響を及ぼす。
いくつかの実施形態において、本明細書に開示する本発明の多重特異性抗体アナログはFcバリアントを含む。Fcバリアントは親Fcポリペプチドに対して1つ以上のアミノ酸改変を含み、アミノ酸改変(複数可)によって1つ以上の特性が最適化される。Fcバリアントは、CH2ドメインバリアント、CH3ドメインバリアント、またはCH2ドメインバリアント及びCH3ドメインバリアントの両方のいずれかをさらに含む。本明細書において、「改変」は、タンパク質、ポリペプチド、抗体、本発明の多重特異性抗体アナログ、または免疫グロブリンの物理的、化学的、または配列の特性における変化を意味する。アミノ酸改変は、ポリペプチド配列中のアミノ酸置換、挿入、及び/または欠失とすることができる。本明細書において、「アミノ酸置換」または「置換」は、親ポリペプチド配列中の特定の位置におけるアミノ酸の別のアミノ酸との置き換えを意味する。例えば、置換Y349Tは、349位のチロシンがスレオニンで置き換えられたバリアントポリペプチド、この場合は定常重鎖バリアントのことをいう。本明細書で用いる場合、「アミノ酸挿入」または「挿入」は、親ポリペプチド配列中の特定の位置におけるアミノ酸の追加を意味する。本明細書で用いる場合、「アミノ酸欠失」または「欠失」は、親ポリペプチド配列中の特定の位置におけるアミノ酸の除去を意味する。
本明細書に開示のFcバリアントは、少なくとも1つのアミノ酸改変のためにその親とはアミノ酸配列が異なる。本明細書に開示する本発明の多重特異性抗体アナログは、親と比べて2つ以上のアミノ酸改変、例えば親と比べて約1〜50アミノ酸改変、例えば、約1〜10アミノ酸改変、約1〜5アミノ酸改変などを有し得る。したがって、Fcバリアントの配列及び親Fcポリペプチドの配列は実質的に相同である。例えば、本発明においてバリアントFcバリアント配列は、親Fcバリアント配列との約80%の相同性、例えば、少なくとも約90%の相同性、少なくとも約95%の相同性、少なくとも約98%の相同性、少なくとも約99%の相同性などを有することになるであろう。本明細書に開示の改変は糖型改変も含む。改変は、分子生物学を用いて遺伝子的に行われ得るか、または酵素的もしくは化学的に行われ得る。
本明細書に開示のFcバリアントは、それらを構成するアミノ酸改変に従って定義される。したがって、例えば、置換Y349Tは、349位のチロシンがスレオニンで置き換えられたバリアントポリペプチド、この場合は定常重鎖バリアントのことをいう。同様に、Y349T/T394Fは、親Fcポリペプチドに対して置換Y349T及びT394Fを有するFcバリアントを定義する。WTアミノ酸の素性は不特定であってよく、その場合、上記のバリアントは349T/394Fと呼ばれる。置換が施される順序は任意であり、換言すれば、例えば349T/394Fは394F/349Tと同じFcバリアントであることに留意されたい。別途注記のない限り、本明細書において述べる定常領域及びFcの位置は、EUインデックスまたはEU番号付け方式(Kabat et al., 1991, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed., United States Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda)に従って番号付けられる。EUインデックスまたはKabatもしくはEU番号付け方式におけるようなEUインデックスはEU抗体の番号付けのことをいう(Edelman et al., 1969, Proc Natl Acad Sci USA 63:78−85)。
ある実施形態において、本明細書に開示のFcバリアントはヒトIgG配列に基づいており、したがって、ヒトIgG配列が、限定はしないが他の生物由来の配列、例えばげっ歯類及び霊長類配列をはじめとする他の配列を比較する「ベース」配列として用いられる。免疫グロブリンは、他の免疫グロブリンクラス、例えばIgA、IgE、IgD、IgMなど由来の配列も含み得る。本明細書に開示のFcバリアントは1つの親IgGとの関連で組換えられるが、バリアントは別の第2親IgGとの関連で組換えられ得るか、または「移入」され得ることを企図する。これは、典型的には第1及び第2IgGの配列間の配列または構造相同性に基づいて、第1及び第2IgG間の「等価な」または「対応する」残基及び置換を決定することによって行われる。相同性を立証するためには、本明細書で概説した第1IgGのアミノ酸配列を第2IgGの配列と直接比較する。アラインメントを維持するために必要な挿入及び欠失を可能にする(すなわち、任意の欠失及び挿入によって保存されている残基の排除を回避する)、当該技術分野において公知の相同性アラインメントプログラム(例えば種間で保存されている残基を用いる)の1つ以上を用いて、配列をアラインメントした後、第1免疫グロブリンの一次配列中の特定のアミノ酸と等価な残基を定義する。保存された残基のアラインメントはそのような残基の100%を保存し得る。しかし、保存された残基が75%を超える、またはわずか50%のアラインメントも等価な残基を定義するのに十分である。等価な残基は、すでに構造が決定されているIgGの三次構造レベルでの第1及び第2IgG間の構造相同性を決定することによっても定義され得る。この場合、等価な残基は、親または前駆体の特定のアミノ酸残基の主鎖原子(Nに対してN、CAに対してCA、Cに対してC及びOに対してO)の2つ以上の原子座標が、アラインメント後で約0.13nm以内にあるものと定義される。別の実施形態において、等価な残基はアラインメント後で約0.1nm以内にある。アラインメントは、タンパク質の非水素タンパク質原子の原子座標の重なりが最大となるように最良モデルの向き及び位置を合わせて達成される。残基がどれだけ等価または対応していると決定されるかにかかわらず、また、IgGが作製される親IgGの素性にかかわらず、伝えようとしていることは、本明細書に開示したように発見されたFcバリアントは、Fcバリアントとの大きな配列または構造相同性を有する任意の第2親IgGに組み込まれ得るということである。したがって、例えば、親抗体がヒトIgG1であるバリアント抗体が生成される場合、上記の方法または等価な残基を決定するための他の方法を用いることによって、バリアント抗体は異なる抗原に結合する別のIgG1親抗体、ヒトIgG2親抗体、ヒトIgA親抗体、マウスIgG2aまたはIgG2b親抗体などで組換えられ得る。繰り返すが、上記のように、親Fcバリアントの背景状況は、本明細書に開示のFcバリアントを他の親IgGに移入できるかどうかに影響を与えない。
上記のようなCH3ドメインバリアントを含むか、またはCH3ドメインバリアントであるFcバリアントは、349、351、354、356、357、364、366、368、370、392、394、395、396、397、399、401、405、407、409、411、及び439からなる群から選択されるCH3ドメイン中の位置において少なくとも1つの置換を含み得るが、ここで、番号付けはKabatのEUインデックスに従う。好ましい実施形態において、CH3ドメインバリアントは、重鎖ごとに少なくとも1つの、349A、349C、349E、349I、349K、349S、349T、349W、351E、351K、354C、356K、357K、364C、364D、364E、364F、364G、364H、364R、364T、364Y、366D、366K、366S、366W、366Y、368A、368E、368K、368S、370C、370D、370E、370G、370R、370S、370V、392D、392E、394F、394S、394W、394Y、395T、395V、396T、397E、397S、397T、399K、401K、405A、405S、407T、407V、409D、409E、411D、411E、411K、及び439Dからなる群から選択されるCH3ドメイン置換を含む。これらのバリアントのそれぞれは、各重鎖Fc領域について個別にまたは任意の組合せで用いることができる。当業者であれば理解するであろうが、各重鎖は異なる数の置換を含むことができる。例えば、Fc領域を構成する重鎖の両方が単一の置換を含んでもよく、一方の鎖が単一の置換を含み、他方が2つの置換を含んでもよく、両方が2つの置換を含むこともできる(各鎖は異なる置換を含むことになるであろうが)、など。
いくつかの実施形態において、CH2及び/またはCH3ドメインバリアントは組合せて、すなわち、重鎖Fcドメインごとに2つ以上の上記で概説した群から選択されるバリアントが作製される。
本発明の多重特異性抗体アナログの設計及び調製に用いられ得るヘテロ二量体化に有利な他のCH2及び/またはCH3ドメインバリアントは、例えばRidgeway et al., 1996, Protein Engineering 9[7]:617−621;米国特許第5,731,168号;Xie et al., 2005, J Immunol Methods 296:95−101;Davis et al., 2010, Protein Engineering, Design & Selection 23[4]:195−202;Gunasekaran et al., 2010, J Biol Chem 285[25]:1937−19646;及びPCT/US2009/000071(WO 2009/089004として公開)で提供されている。
本明細書に開示のFcバリアントは、Fc受容体またはFcリガンドへの結合性の改善または低減のために最適化され得る。「Fc受容体」または「Fcリガンド」は、本明細書で用いる場合、抗体のFc領域に結合してFc−リガンド複合体を形成する任意の生物由来の分子、好ましくはポリペプチドを意味する。Fcリガンドとしては、FcγR(上記のように、FcγRIIIa、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRI及びFcRnを含むがこれらに限定されない)、C1q、C3、マンナン結合レクチン、マンノース受容体、ブドウ球菌プロテインA、連鎖球菌プロテインG、及びウイルスFcγRが挙げられるが、これらに限定されない。Fcリガンドには、FcγRに相同なFc受容体のファミリーであるFc受容体ホモログ(FcRH)も含まれる。FcリガンドにはFcに結合する未発見の分子も含まれ得る。
本発明の多重特異性抗体アナログは、限定はしないがFc受容体に対するアフィニティーの向上または低減をはじめとして、特性を最適化するように設計され得る。本明細書で用いる場合、Fcポリペプチドより「大きいアフィニティー」または「改善されたアフィニティー」または「向上したアフィニティー」または「良好なアフィニティー」は、結合アッセイでのバリアント及び親ポリペプチドの量が実質的に同じである場合に、Fcバリアントが親Fcポリペプチドよりも有意に高い会合平衡定数(KAもしくはKa)または低い解離平衡定数(KDもしくはKd)でFc受容体に結合することを意味する。例えば、Fc受容体結合アフィニティーが改善されたFcバリアントは、親Fcポリペプチドと比較して、約5倍〜約1000倍、例えば約10倍〜約500倍のFc受容体結合アフィニティーの改善を示し得るが、Fc受容体結合アフィニティーは、例えば、限定はしないがBiacoreをはじめとする本明細書に開示の結合法によって、当業者により測定される。したがって、本明細書で用いる場合、親Fcポリペプチドと比較して「低減されたアフィニティー」は、Fcバリアントが親Fcポリペプチドよりも有意に低いKAまたは高いKDでFc受容体に結合することを意味する。高いまたは低いアフィニティーは、アフィニティーの絶対レベルに対して定義することもできる。
当業者であれば理解するであろうが、用語「抗体」は、本明細書において最も広義に用いられ、特に少なくともモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、抗体断片、及びこれらの誘導体を包含する。抗体は、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子の断片によって実質的にまたは部分的にコードされる1つ以上のポリペプチドを含むタンパク質である。認知されている免疫グロブリン遺伝子としては、κ、λ、α、γ、δ、ε及びμ定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。「抗体」は、例えばタンパク質;ポリペプチド;ペプチド;ホルモン;サイトカイン;ケモカイン;成長因子;神経伝達物質;炭水化物含有生体分子;脂質もしくは脂肪酸含有生体分子;または他の生体分子であり得る抗原に、そのような抗原上に存在するエピトープを介して特異的に結合する能力を有する免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子の断片、またはその誘導体のこともいう。
抗体(「免疫グロブリン」、または「免疫グロブリン分子」と同じ意味で用いる)は、単量体、二量体、三量体、四量体、五量体などとすることができ、1対の軽鎖(LC)及び1対の重鎖(HC)の2対のポリペプチド鎖からなり、それらすべてがジスルフィド結合によって相互結合している構造的に関係があるタンパク質のクラスを含む。免疫グロブリンの構造は良く同定されている。例えば、Fundamental Immunology Ch. 7 (Paul, W., ed., 2nd ed. Raven Press, N.Y. (1989))を参照。
従来の天然抗体の構造様式は典型的に四量体を含む。各四量体は典型的にポリペプチド鎖の2つの同一のペアで構成され、各ペアは1つの「軽」鎖(典型的に約25kDaの分子量を有する)及び1つの「重」鎖(典型的に約50〜70kDaの分子量を有する)を含む。ヒト軽鎖はκ及びλ軽鎖に分類される。重鎖はμ、δ、γ、α、またはεに分類され、抗体のアイソタイプがそれぞれIgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEに定まる。IgGはいくつかのサブクラスを有し、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4が挙げられるがこれらに限定されない。IgMはサブクラスを有し、IgM1及びIgM2が挙げられるがこれらに限定されない。IgAはいくつかのサブクラスを有し、IgA1及びIgA2が挙げられるがこれらに限定されない。このように、本明細書で用いる場合、「アイソタイプ」は、それらの定常領域の化学的及び抗原的特徴によって定義される免疫グロブリンのクラス及びサブクラスのいずれかを意味する。公知のヒト免疫グロブリンアイソタイプは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM1、IgM2、IgD、及びIgEである。これらの抗体クラス間を区別する特徴はそれらの定常領域であるが、可変領域に微妙な差が存在する場合もある。
軽鎖及び重鎖のそれぞれは、可変領域及び定常領域と呼ばれる2つの異なる領域でできている。IgG重鎖は、N末端からC末端まで順にVH−CH1−CH2−CH3で連結した4つの免疫グロブリンドメインで構成され、それぞれ「可変重ドメイン」(「重鎖可変ドメイン」とも呼び、全体を通して同じ意味で用いる)、重鎖定常ドメイン1、重鎖定常ドメイン2、及び重鎖定常ドメイン3を指す(VH−Cγ1−Cγ2−Cγ3とも呼ばれ、それぞれ可変重ドメイン、定常γ1ドメイン、定常γ2ドメイン、及び定常γ3ドメインを指す)。IgG軽鎖は、N末端からC末端まで順にVL−CLで連結した2つの免疫グロブリンドメインで構成され、それぞれ「可変軽ドメイン」(「軽鎖可変ドメイン」とも呼び、全体を通して同じ意味で用いる)及び軽鎖定常ドメインを指す。定常領域は配列多様性をそれほど示さず、重要な生化学的現象を誘発するための複数の天然タンパク質への結合を担う。可変及び定常領域を含む抗体の天然の生物学的形態を構成する構造を本明細書では「全長抗体」と呼ぶ。ヒト及びマウスをはじめとするほとんどの哺乳類において、IgGアイソタイプの全長抗体は四量体であり、2つの免疫グロブリン鎖の2つの同一のペアからなり、各ペアは1つの軽鎖及び1つの重鎖を有し、各軽鎖はVL及びCLを含み、各重鎖はVH、CH1、CH2、及びCH3を含む。いくつかの哺乳類、例えばラクダ及びラマにおいて、IgG抗体は2つの重鎖可変ドメインのみからなる場合があり、各重鎖はFc領域に結合した可変ドメインを含む。
重鎖定常領域は、典型的に3つのドメイン、CH1、CH2、及びCH3で構成されており、CH1及びCH2ドメインはヒンジ領域によって連結されている。各軽鎖は典型的に軽鎖可変ドメイン(本明細書において「VL」または「VL」と略す)及び軽鎖定常ドメインで構成されている。VH及びVLドメインは、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域が散在している、相補性決定領域(CDR)とも称される超可変性の領域(すなわち配列及び/または構造的に定まるループの形態が超可変性であり得る超可変領域)にさらに細分され得る。各VH及びVLは典型的に3つのCDR及び4つのFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端まで次の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配列されている。典型的に、この領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、Kabat(例えば、Kabat et al, in “Sequences of Proteins of Immunological Interest,” 5th Edition, U.S. Department of Health and Human Services, 1992を参照)に記載されている方法によって行われる。この番号付けシステムを用いると、ペプチドの実際の一次アミノ酸配列は、可変ドメインのFRまたはCDRの短縮、または挿入に相当するより少ないまたは追加のアミノ酸を含む場合がある。例えば、重鎖可変ドメインは、VH CDR2の残基52の後の単一のアミノ酸挿入(Kabatによると52a)ならびに重鎖FR残基82の後の挿入残基(例えば、Kabatによると残基82a、82b、及び82cなど)を含み得る。残基のKabat番号付けは、所与の抗体について、抗体の配列の相同な領域における「標準」Kabat番号付け配列とのアラインメントによって決定され得る。
用語「可変」、「可変ドメイン」、または「可変領域」は、それぞれ同じ意味で、配列に可変性を示し、特定の抗体の特異性及び結合アフィニティーの決定に関与する免疫グロブリンドメインの一部(すなわち「可変ドメイン(複数可)」)のことをいう。可変性は抗体の可変ドメイン全体にわたって均一に分布しておらず、重鎖及び軽鎖可変領域のそれぞれのサブドメインに集中している。こうしたサブドメインは「超可変」領域または「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる。可変ドメインのより保存された(すなわち非超可変)部分は「フレームワーク」領域(FRM)と呼ばれる。自然発生重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、概してβ−シート構造をとる4つのFRM領域を含み、FRM領域は、β−シート構造を連結し、場合によってはその一部を形成するループを形成する3つの超可変領域によって連結されている。各鎖中の超可変領域はFRMによって互いに近くに位置し、他の鎖の超可変領域とともに、抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md., 1991を参照、全体を参照により援用する)。定常ドメインは抗原結合性に直接関与しないが、様々なエフェクター機能、例えば抗体依存的な細胞媒介細胞傷害性及び補体活性化などを示す。
用語「フレームワーク領域」は、より多様な(すなわち超可変性)CDRの間に存在する、当該技術分野において認知されている抗体可変領域の一部のことをいう。そのようなフレームワーク領域は典型的にフレームワーク1〜4(FRM1、FRM2、FRM3、及びFRM4)と呼ばれ、3次元空間において6つのCDR(重鎖から3つ及び軽鎖から3つ)の提示のための足場を与えて抗原結合表面を形成する。用語「カノニカル構造」は、抗原結合(CDR)ループがとる主鎖コンフォメーションのことをいう。比較構造研究から、6つの抗原結合ループのうち5つは可能なコンフォメーションの限られたレパートリーしか有しないことがわかっている。各カノニカル構造はポリペプチド主鎖のねじれ角によって特徴づけることができる。したがって、抗体間の対応するループは、ループのほとんどの部分における高いアミノ酸配列可変性にもかかわらず、非常に類似した3次元構造を有し得る(Chothia and Lesk, J. MoI. Biol., 1987, 196: 901;Chothia et al, Nature, 1989, 342: 877;Martin and Thornton, J. MoI. Biol, 1996, 263: 800)。さらに、とられるループ構造とその周りのアミノ酸配列との間には関係がある。特定のカノニカルクラスのコンフォメーションは、ループの長さ及びループ中の、さらには保存されたフレームワーク中(すなわちループ以外)の重要な位置にあるアミノ酸残基によって決定される。したがって、特定のカノニカルクラスの割当てはこうした重要なアミノ酸残基の存在に基づいて行うことができる。
用語「カノニカル構造」は、例えば、Kabat(Kabat et al, in “Sequences of Proteins of Immunological Interest,” 5th Edition, U.S. Department of Health and Human Services, 1992)によって列挙されているように、抗体の一次配列についての考慮も含み得る。Kabat番号付け方式は、抗体可変ドメインのアミノ酸残基を一貫した形で番号付けするための広く採用されている標準である。抗体のカノニカル構造を決定するために、追加の構造的な考慮を用いることもできる。例えば、Kabat番号付けには完全に反映されていない差を、Chothiaらの番号付けシステムによって記述することができる、及び/または他の技術、例えば結晶構造解析及び二次元もしくは三次元コンピュータモデリングによって明らかにすることができる。したがって、所与の抗体配列は、とりわけ、適切なシャーシ配列を同定することが可能となるカノニカルクラスに入れられ得る(例えば、ライブラリーに様々なカノニカル構造を含める要求に基づく)。抗体アミノ酸配列のKabat番号付け及びChothiaらによって記載されているような構造的な考慮、ならびに抗体構造のカノニカルな側面を解釈するためのそれらが意味することは文献に記載されている。
「Fc」または「Fc領域」は、本明細書で用いる場合、第1定常領域免疫グロブリンドメインを除く抗体の定常領域を含むポリペプチドを意味する。したがって、「Fc領域」は、IgA、IgD、及びIgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメイン、ならびにIgE及びIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメイン、ならびにこれらのドメインのN末端の柔軟なヒンジのことをいう。IgA及びIgMでは、FcはJ鎖を含み得る。IgGでは、Fcは免疫グロブリンドメインCガンマ2及びCガンマ3(Cγ2及びCγ3)ならびにCガンマ1(Cγ1)とCガンマ2(Cγ2)との間のヒンジを含む。したがって、上記から逸脱することなく、「Fc領域」は「CH2ドメインまたはそのバリアント」及び「CH3ドメインまたはそのバリアント」を含むとも定義され得る。Fc領域の境界は様々であり得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は一般に、そのカルボキシル末端に残基C226またはP230を含むと定義され、ここで番号付けはKabatのEUインデックスに従う。Fcは単独でこの領域のことをいう場合もあれば、Fcポリペプチド、例えば抗体との関係においてこの領域のことをいう場合もある。本明細書で用いる場合、「Fcポリペプチド」は、Fc領域のすべてまたは一部を含むポリペプチドを意味する。Fcポリペプチドは抗体、Fc融合体、単離Fc、及びFc断片を含む。
本発明の目的の多重特異性抗体の可変軽鎖(VL)及び対応する可変重ドメイン(VH)は、全体を通して同じ意味で抗原と相互作用する「抗原結合部位」とも呼ぶ結合ドメインを含む。したがって、本発明の目的の多重特異性抗体の「第1可変軽ドメイン」及び「第1可変重ドメイン」はともに「第1抗原結合部位」を形成する。同様に、本発明の目的の多重特異性抗体の「第2可変軽ドメイン」及び「第2可変重ドメイン」はともに「第2抗原結合部位」を形成する。本発明の目的の多重特異性抗体の「第3可変軽ドメイン」及び「第3可変重ドメイン」はともに「第3抗原結合部位」を形成し、以下も同様である。
当業者であれば理解するように、本発明に従う使用のための抗原結合部位は、それを含むVH、VL、及び/またはCDRを含め、任意のその起源から入手または誘導され得る。したがって、そのような抗原結合部位、VH、VL、及び/またはCDRは、それによって認識される標的に対する抗体を発現するハイブリドーマ細胞から;それによって認識される標的に対する抗体を発現する免疫化ドナー由来のB細胞から;それによって認識される標的に対する抗体を発現するように刺激されたB細胞から;及び/または抗原結合抗体(もしくはその抗原結合断片)について複数のポリヌクレオチドもしくはポリペプチドを含むライブラリーをスクリーニングすることによって同定された抗体もしくは抗体断片の同定から入手または誘導され得る。本発明に従う使用のための抗原結合部位を同定及び入手するのに用いるためのそのようなライブラリーの設計、調製、ディスプレイ、及び実現に関しては、例えばWO 2009/036379;WO2012009568;WO2010105256;US 8,258,082;US 6,300,064;US 6,696,248;US 6,165,718;US 6,500,644;US 6,291,158;US 6,291,159;US 6,096,551;US 6,368,805;US 6,500,644などを参照。
本発明の目的の多重特異性抗体の抗原結合部位、VH、VL、またはCDR、及びこれらの組合せの任意の1つ以上は様々な種由来の配列を含み得る。いくつかの実施形態において、そのような抗原結合部位、VH、VL、またはCDR、及びこれらの組合せは、限定はしないがマウス、ラット、ウサギ、ラクダ、ラマ、及びサルをはじめとする非ヒト起源から入手され得る。いくつかの実施形態において、スキャホールド及び/またはフレームワーク領域は異なる種由来の混合物とすることができる。そのため、本発明に従う目的の多重特異性抗体はキメラ抗体及び/またはヒト化抗体を含み得る。一般に、「キメラ抗体」及び「ヒト化抗体」は両方とも、2種以上に由来する領域が組合せられた抗体のことをいう。例えば、「キメラ抗体」は慣例的に、マウスまたは他の非ヒト種由来の可変領域(複数可)及びヒト由来の定常領域(複数可)を含む。
「ヒト化抗体」は一般に、可変ドメインフレームワーク領域がヒト抗体に存在する配列と交換された非ヒト抗体のことをいう。一般にヒト化抗体において、抗体全体は、CDRを除いて、ヒト起源のポリヌクレオチドによってコードされるか、またはそのCDRの範囲内を除いてそのような抗体と同一である。CDRは、その1つ、いくつか、またはすべてが非ヒト生物に由来する核酸によってコードされ、ヒト抗体可変領域のフレームワーク中に移植されて、その特異性が移植されたCDRによって決定される抗体を生成する。そのような抗体の生成は例えばWO 92/11018、Jones, 1986, Nature 321:522−525、Verhoeyen et al., 1988, Science 239:1534−1536に記載されている。最初の移植コンストラクトで失われたアフィニティーを取り戻すために、選択したアクセプターフレームワーク残基の対応するドナー残基への「復帰突然変異」が必要とされることが多い(例えば米国特許第5,693,762号を参照)。ヒト化抗体は、任意により免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのものも含むことになり、そのため、典型的にはヒトFc領域を含むことになるであろう。非ヒト抗体をヒト化、再形成、及び再表面形成する様々な技術及び方法が当該技術分野において公知である(Tsurushita & Vasquez, 2004, Humanization of Monoclonal Antibodies, Molecular Biology of B Cells, 533−545, Elsevier Science (USA)、及びそこに引用されている参照文献を参照)。ある変形形態において、Lazar et al., 2007, Mol Immunol 44:1986−1998及び2004年12月3日に出願された「Methods of Generating Variant Proteins with Increased Host String Content and Compositions Thereof」という名称の米国特許出願第11/004,590号に記載されている方法を用いて抗体の免疫原性を減少させる。
したがって、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体に含まれる抗原結合部位の任意の1つ以上、またはVH、VL、CDR、もしくはこれらの組合せの1つ以上は、非ヒト種に由来し得る、及び/また非ヒト抗体もしくは抗体断片のヒト化に起因し得る。非ヒト種から得られるか、または由来するそのようなVH、VL、及び/またはCDRは、本明細書に開示する本発明の多重特異性アナログに含まれる場合、「ヒト化」領域及び/またはドメインと呼ばれる。
本明細書に開示する本発明の抗体アナログは、好ましくは、それぞれヒンジ領域を含む第1及び第2ポリペプチドを含むが、各ヒンジ領域は分子間ジスルフィド結合に関与することができる少なくとも1つのチオール基を含み、そのため、第1及び第2ポリペプチドはジスルフィド結合形成の結果として共有結合している。当該技術分野において理解されるように、ジスルフィド結合形成のためのそのようなチオール基の導入をもたらす化学修飾が、そのようなヒンジ領域内のある残基中に(または残基上に)導入され得る。あるいは、チオール基はヒンジ領域内に存在するシステイン残基によってもたらされ得る。そのようなシステインは天然ヒンジポリペプチド配列によってもたらされ得るか、またはヒンジ領域をコードする核酸中への変異誘発によって導入され得る。本明細書で用いる場合、本発明の抗体アナログの「ヒンジ」または「ヒンジ領域」は、例えばIgG、IgM、IgA、IgEなどの免疫グロブリンに見られるような天然または本来のヒンジ領域を含むかまたは構成し得るが、そのようなヒンジまたはヒンジ領域はその置換形態も含むかまたは構成し得る。さらに、そのようなヒンジまたはヒンジ領域は、ある実施形態において、全体を通して開示するような「リンカー部分」を含むかまたは構成し得る。他の実施形態において、ヒンジまたはヒンジ領域は、上記で開示したような天然または本来のヒンジ領域及び全体を通して開示するようなリンカー部分の両方を含み得る。
ある実施形態において、本明細書に開示する本発明の抗体アナログは1つ以上のリンカーまたはリンカー部分を含む。そのようなリンカーまたはリンカー部分はペプチドリンカー部分または非ペプチドリンカー部分を含み得る。用語「リンカー」及び「リンカー部分」などは、結合に利用可能な価数を有するポリペプチド及び結合に利用可能な価数を有する本発明の目的の多重特異性抗体に含まれるアミノ酸に順に共有結合した二価種(−L−)を意味する。利用可能な結合部位は、アミノ酸の側鎖(例えばリシン、システイン、またはアスパラギン酸側鎖、及びそのホモログ)を含むと都合がよい場合がある。いくつかの実施形態において、アナログ中の利用可能な結合部位は、リシンまたはシステイン残基の側鎖である。いくつかの実施形態において、アナログ中の利用可能な結合部位は、アナログを含むポリペプチドのN末端アミンである。いくつかの実施形態において、アナログ中の利用可能な結合部位は、アナログを含むポリペプチドのC末端カルボキシルである。いくつかの実施形態において、アナログ中の利用可能な結合部位は、アナログを含むポリペプチドの主鎖原子(例えばc−アルファ炭素原子)である。
好ましくは、VHまたはVLを抗体アナログのCH3ドメインのC末端に共有結合させるためにリンカー部分が用いられる。第1VHまたは第1VLをそれぞれ第2VHまたは第2VLに共有結合させるためにもリンカー部分が用いられ得る。第1VHまたは第1VLをそれぞれ第2VLまたは第2VHに共有結合させるためにもリンカー部分が用いられ得る。一本鎖抗原結合部位、例えばscFvなどのVHをそのような一本鎖抗原結合部位のVLに、及びその逆に、共有結合させるためにもリンカー部分が用いられ得る。そのような一本鎖抗原結合部位、例えばscFvなどのVHまたはVLをCH3ドメインまたはそのバリアントのC末端に結合させるためにもリンカー部分が用いられ得る。VHをCLドメインのN末端にまたはCH2のN末端に結合させるためにもリンカー部分が用いられ得る。VLをCLドメインのN末端にまたはCH2ドメインのN末端に結合させるためにもリンカー部分が用いられ得る。理解されるように、本明細書に開示する目的の多重特異性抗体のいずれかを調製するために、任意により複数の特異性を有するそのようなアナログに複数の抗原結合部位が含まれ得るように、上記の組合せ及び/または複数が用いられ得る。したがって、目的の多重特異性抗体は、二価、三価、四価、五価、六価、七価、もしくは八価など、及び/または二重、三重、四重、五重、六重、七重、もしくは八重特異性などを有する抗体アナログを生成するように、1、2、3、4、5、6、7、またはこれより多くのVL、VH、及び/または一本鎖抗原結合部位、例えばscFvなどを、第1ポリペプチド、第2ポリペプチド、VH、または第1ポリペプチドもしくは第2ポリペプチドに結合したVLなどに共有結合させる1つ以上のリンカーを用いることによって生成され得る。
したがって、ある実施形態において、目的の多重特異性抗体は、アナログの第1重鎖のCH3ドメイン、またはそのバリアントにリンカー部分を介して共有結合した第1VLを含み、第2抗原結合部位を形成する。別の実施形態において、目的の多重特異性抗体は、アナログのFc領域のCH3ドメイン、またはそのバリアントにリンカー部分を介して共有結合した第1VHを含み、それによって第2抗原結合部位を形成する。
さらなる実施形態において、目的の多重特異性抗体は第3抗原結合部位を含み、第3抗原結合部位はリンカー部分を介して第1VLまたは第1VHのいずれかに共有結合している。またさらなる実施形態において、第3抗原結合部位は、一本鎖抗原結合部位、例えば一本鎖可変領域(scFv)などを含み、scFvはリンカー部分を介して第2VHに共有結合した第2VLを含むか、または第2VLがリンカー部分を介して第2VHに共有結合している。
さらなる実施形態において、本発明の目的の多重特異性抗体は、追加の結合部位、例えば第4抗原結合部位、第5抗原結合部位、第6抗原結合部位などをさらに含み、そのうちの1つ以上は、目的の多重特異性抗体の他のVL及び/またはVHにリンカー部分を介して結合している一本鎖抗原結合部位、例えばscFvなどを含み得る。
ある実施形態において、リンカー部分は、グリシン、アラニン、プロリン、アスパラギン、グルタミン、リシン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸から選択されるアミノ酸を含む。さらなる実施形態において、リンカー部分は、立体障害のないアミノ酸、例えばグリシン、アラニン及び/またはセリンなどで大部分が構成されている。ある実施形態において、リンカー部分は、[Gly−Ser]n(配列番号1);[Gly−Gly−Ser]n(配列番号2);[Gly−Gly−Gly−Ser]n(配列番号3);[Gly−Gly−Gly−Gly−Ser]n(配列番号4);[Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly]n(配列番号5);[Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly]n(配列番号6);[Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly]n(配列番号7);[Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly]n(配列番号8);[Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly]n(配列番号9);[Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly]n(配列番号10);及びこれらの組合せの群から選択される配列を含み、ここでnは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、及び75からなる群から選択される整数である。
そのようなリンカーは、酸性リンカー、塩基性リンカー、及び構造モチーフ、またはこれらの組合せ;ポリグリシン、ポリアラニン、ポリ(Gly−Ala)、またはポリ(Gly−Ser);(Gly)3、(Gly)4(配列番号11)、または(Gly)5(配列番号12);(Gly)3Lys(Gly)4(配列番号13)、(Gly)3AsnGlySer(Gly)2(配列番号14)、(Gly)3Cys(Gly)4(配列番号15)、またはGlyProAsnGlyGly(配列番号16)、[Gly−Ser]n(配列番号1)、[Gly−Gly−Ser]n(配列番号2)、[Gly−Gly−Gly−Ser]n(配列番号3)、[Gly−Gly−Gly−Gly−Ser]n(配列番号4)、[Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly]n(配列番号5)、[Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly]n(配列番号6)、[Gly−Gly−Gly−Gly−SerGly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly]n(配列番号7)、[Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly]n(配列番号8)、[Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly]n(配列番号9)、または[Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly]n(配列番号10);[Gly−Glu]n(配列番号17)、[Gly−Gly−Glu]n(配列番号18)、[Gly−Gly−Gly−Glu]n(配列番号19)、[Gly−Gly−Gly−Gly−Glu]n(配列番号20)、[Gly−Asp]n(配列番号21);[Gly−Gly−Asp]n(配列番号22)、[Gly−Gly−Gly−Asp]n(配列番号23)、[Gly−Gly−Gly−Gly−Asp]n(配列番号24)を含み得るが、ここでnは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、及び75からなる群から選択される整数である。
ある実施形態において、荷電リンカー部分が用いられる。そのような荷電リンカー部分は、リンカー部分がそれぞれ7より低い、または7より高いpiを有するように、相当な数の酸性残基(例えばAsp、Gluなど)を含有し得るか、または相当な数の塩基性残基(例えばLys、Argなど)を含有し得る。当業者であれば理解し、またすべての他のものも同様であるが、所与のリンカー部分の酸性または塩基性残基の相対量が多いほど、リンカー部分のpIがそれぞれ低く、または高くなる。そのようなリンカー部分は、本明細書に開示する目的の多重特異性抗体に利点を与えるが、例えば、特定のpH、例えば生理的pH(例えばpH7.2以上pH7.6以下)、またはそのようなアナログを含む医薬組成物のpHなどでのそのようなポリペプチドの溶解性及び/または安定性を改善すること、ならびに、リンカー部分を介して結合しているアナログのドメイン及び/または領域の回転及び翻訳における柔軟性などの特性の最適化を可能にすることなどである。そのような特性は、当業者によって任意の所与の多重特異性アナログに応じて最適化及び調整されることが有利であり得る。
例えば、「酸性リンカー」は、7未満;6以上7以下;5以上6以下;4以上5以下;3以上4以下;2以上3以下;または1以上2以下のpIを有するリンカー部分である。同様に、「塩基性リンカー」は、7超;7以上8以下;8以上9以下;9以上10以下;10以上11以下;11以上12以下、または12以上13以下のpiを有するリンカー部分である。ある実施形態において、酸性リンカーは、[Gly−Glu]n(配列番号17);[Gly−Gly−Glu]n(配列番号18);[Gly−Gly−Gly−Glu]n(配列番号19);[Gly−Gly−Gly−Gly−Glu]n(配列番号20);[Gly−Asp]n(配列番号21);[Gly−Gly−Asp]n(配列番号22);[Gly−Gly−Gly−Asp]n(配列番号23);[Gly−Gly−Gly−Gly−Asp]n(配列番号24);及びこれらの組合せからなる群から選択される配列を含有することになり、ここでnは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、及び75からなる群から選択される整数である。ある実施形態において、塩基性リンカーは、[Gly−Lys]n(配列番号25);[Gly−Gly−Lys]n(配列番号26);[Gly−Gly−Gly−Lys]n(配列番号27);[Gly−Gly−Gly−Gly−Lys]n(配列番号28);[Gly−Arg]n(配列番号29);[Gly−Gly−Arg]n(配列番号30);[Gly−Gly−Gly−Arg]n(配列番号31);[Gly−Gly−Gly−Gly−Arg]n(配列番号32);及びこれらの組合せからなる群から選択される配列を含有することになり、ここでnは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、及び75からなる群から選択される整数である。
加えて、特定の構造モチーフまたは特徴、例えばαへリックスなどを有するリンカー部分が用いられ得る。例えば、そのようなリンカー部分は、[Glu−Ala−Ala−Ala−Lys]n(配列番号33)からなる群から選択される配列を含有し得るが、ここでnは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、及び75であり、例えば、[Glu−Ala−Ala−Ala−Lys]3(配列番号34)、[Glu−Ala−Ala−Ala−Lys]4(配列番号35)、または[Glu−Ala−Ala−Ala−Lys]5(配列番号36)などである。
またさらなる実施形態において、本開示の目的の多重特異性抗体に用いられる各リンカー部分は、独立して、ポリグリシン、ポリアラニン、ポリ(Gly−Ala)、もしくはポリ(Gly−Ser)、(Gly)3、(Gly)4(配列番号11)、及び(Gly)5(配列番号12)、(Gly)3Lys(Gly)4(配列番号13)、(Gly)3AsnGlySer(Gly)2(配列番号14)、(Gly)3Cys(Gly)4(配列番号15)、及びGlyProAsnGlyGly(配列番号16)、Gly及びAlaの組合せ、Gly及びSerの組合せ、Gly及びGluの組合せ、Gly及びAspの組合せ、Gly及びLysの組合せ、またはこれらの組合せを含む。
ある実施形態において、本発明の目的の多重特異性抗体は、例えばCH2ドメインバリアント及び/またはCH3ドメインバリアントを含み、こうしたバリアントはそれぞれ独立して少なくとも1つの異なるアミノ酸置換を含み、そのため、本発明の目的の多重特異性抗体の第1及び第2ポリペプチドのヘテロ二量体化がホモ二量体化よりも優先され、ヘテロ二量体ドメイン対が生成される。
本明細書全体を通して用いる目的の多重特異性抗体のドメインまたは領域の「バリアント」に関して、そのようなバリアントは、そのようなドメインまたは領域を含み、少なくとも1つのアミノ酸改変のために親ポリペプチド配列のものとは異なるポリペプチド配列のことをいう。親ポリペプチド配列は、自然発生もしくは野生型(WT)ポリペプチド配列であり得るか、またはWT配列の改変型であり得る。好ましくは、バリアントは、親ポリペプチド、領域、またはドメインと比較して少なくとも1つのアミノ酸改変、例えば、親と比較して約1〜約10アミノ酸改変、好ましくは約1〜約5アミノ酸改変を有する。本発明のバリアントポリペプチド配列は、好ましくは親配列との少なくとも約80%の相同性、最も好ましくは少なくとも約90%の相同性、より好ましくは少なくとも約95%の相同性を有することになるであろう。
「親ポリペプチド」、「親ポリペプチド配列」、「親タンパク質」、「前駆体ポリペプチド」、または「前駆体タンパク質」は、本明細書で用いる場合、後に改変されてバリアントポリペプチドまたはポリペプチド配列を生成する非改変ポリペプチドまたはポリペプチド配列を意味する。当該親ポリペプチドは、自然発生ポリペプチド、または自然発生ポリペプチドのバリアントもしくは組換え型であり得る。親ポリペプチドは、ポリペプチドそのもののことをいう場合もあれば、親ポリペプチドを含む組成物、または親ポリペプチドをコードするアミノ酸配列のことをいう場合もある。
「Fcバリアント」または「バリアントFc」は、本明細書で用いる場合、少なくとも1つのアミノ酸改変のために親Fc配列のものとは異なるFc配列を意味する。FcバリアントはFc領域のみを包含し得るか、または実質的にFcによってコードされる抗体、Fc融合体、単離Fc、Fc断片、もしくは他のポリペプチドとの関係において存在し得る。Fcバリアントは、Fcポリペプチドそのもののことをいう場合もあれば、Fcバリアントを含む組成物、またはFcバリアントをコードするアミノ酸配列のことをいう場合もある。
「Fcポリペプチドバリアント」または「バリアントFcポリペプチド」は、本明細書で用いる場合、少なくとも1つのアミノ酸改変のために親Fcポリペプチドとは異なるFcポリペプチドを意味する。「Fcバリアント抗体」または「抗体Fcバリアント」は、本明細書で用いる場合、Fc領域中の少なくとも1つのアミノ酸改変のために親抗体とは異なる抗体を意味する。
「タンパク質バリアント」または「バリアントタンパク質」は、本明細書で用いる場合、少なくとも1つのアミノ酸改変のために親タンパク質とは異なるタンパク質を意味する。「抗体バリアント」または「バリアント抗体」は、本明細書で用いる場合、少なくとも1つのアミノ酸改変のために親抗体とは異なる抗体を意味する。「IgGバリアント」または「バリアントIgG」は、本明細書で用いる場合、少なくとも1つのアミノ酸改変のために親IgGとは異なる抗体を意味する。「免疫グロブリンバリアント」または「バリアント免疫グロブリン」は、本明細書で用いる場合、少なくとも1つのアミノ酸改変のために親免疫グロブリン配列のものとは異なる免疫グロブリン配列を意味する。
ヘテロ二量体対またはそのようなヘテロ二量体対を含む開示の目的の多重特異性抗体の間の相互作用は、ヘテロ二量体対界面において、その界面での突出部がくぼみの中に入る相補的領域の形成;その界面での非自然発生ジスルフィド結合の形成;その界面におけるロイシンジッパー;その界面における疎水性領域;及び/またはその界面における親水性領域によって促進され得る。「突出部」は、第1ポリペプチドの界面からの小さいアミノ酸側鎖をより大きな側鎖(例えばチロシンまたはトリプトファン)に置換することによって構築される。突出部と同一またはほぼ同等のサイズの代償的な「くぼみ」は、大きなアミノ酸側鎖をより小さな側鎖(例えばアラニンまたはスレオニン)に置換することによって、第2ポリペプチドの界面上に任意により形成される。適切な位置及び寸法の突出部またはくぼみが第1または第2ポリペプチドのいずれかの界面に存在する場合、それぞれ対応するくぼみまたは突出部を隣接する界面に組換えるだけでよい。非自然発生ジスルフィド結合は、遊離チオール含有残基が第2ポリペプチド上の別の遊離チオール含有残基と相互作用し、その結果、第1ポリペプチドと第2ポリペプチドとの間でジスルフィド結合が形成されるように、第1ポリペプチド上で自然発生アミノ酸を遊離チオール含有残基、例えばシステインなどで置換することによって構築される。本発明に従う例示的なヘテロ二量体化対及びその作製方法は、当該技術分野において利用可能であり、例えば、US 2011/0054151;US 2007/0098712などに開示されている。
ある実施形態において、ヘテロ二量体対は本発明の目的の多重特異性抗体のFc領域内に含まれる。そのようなヘテロ二量体対を含むFc領域を「ヘテロ二量体Fc領域」と呼ぶ。
したがって、ある実施形態において、目的の多重特異性抗体は、CH2及び/またはCH3ドメインバリアントを含み、a)CH2ドメインバリアント及びCH3ドメインバリアントが、それぞれ独立して、第1ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインのいずれかにおける少なくとも1つの突出部及び第2ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインにおける少なくとも1つの対応するくぼみを含むか、またはCH2ドメインバリアント及びCH3ドメインバリアントが、それぞれ独立して、第1ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインのいずれかにおける少なくとも1つのくぼみ及び第2ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインにおける少なくとも1つの対応する突出部を含むかのいずれかである。ある他の実施形態において、目的の多重特異性抗体は、CH2及び/またはCH3ドメインバリアントを含み、a)CH2ドメインバリアント及びCH3ドメインバリアントが、それぞれ独立して、第1ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインのいずれかにおける少なくとも1つの置換された負電荷アミノ酸及び第2ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインのいずれかにおける少なくとも1つの対応する正電荷アミノ酸を含むか、またはb)CH2ドメインバリアント及びCH3ドメインバリアントが、それぞれ独立して、第1ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインのいずれかにおける少なくとも1つの置換された正電荷アミノ酸及び第2ポリペプチドのCH2ドメインもしくはCH3ドメインのいずれかにおける少なくとも1つの対応する置換された負電荷置換アミノ酸を含むかのいずれかである。
「天然」抗体(すなわち、天然B細胞による天然生物学的抗体合成を経てインビボで生成される抗体)におけるFc機能に関して、抗体のFc領域は複数のFc受容体及びリガンドと相互作用し、エフェクター機能と呼ばれる多数の重要な機能的能力を付与する。IgGでは、Fc領域、Fcは、IgドメインCγ2及びCγ3ならびにCγ2につながるN末端ヒンジを含む。IgGクラスに対するFc受容体の重要なファミリーはFcγ受容体(FcγR)である。これらの受容体は抗体と免疫系の細胞アームとの間の伝達を媒介する(Raghavan et al., 1996, Annu Rev Cell Dev Biol 12:181−220;Ravetch et al., 2001, Annu Rev Immunol 19:275−290)。ヒトにおいて、このタンパク質ファミリーは、アイソフォームFcγRIa、FcγRIb、及びFcγRIcをはじめとするFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131及びR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb−1及びFcγRIIb−2を含む)、ならびにFcγRIIcをはじめとするFcγRII(CD32);ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158及びF158を含む)ならびにFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb−NA1及びFcγRIIIb−NA2を含む)をはじめとするFcγRIII(CD16)を含む(Jefferis et al., 2002, Immunol Lett 82:57−65)。これらの受容体は典型的に、Fcへの結合を媒介する細胞外ドメイン、膜貫通領域、及び細胞内のいくつかのシグナル伝達現象を媒介し得る細胞内ドメインを有する。これらの受容体は、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好酸球、肥満細胞、血小板、B細胞、大顆粒リンパ球、ランゲルハンス細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、及びγδT細胞をはじめとする様々な免疫細胞で発現される。Fc/FcγR複合体の形成により、結合された抗原の部位にこれらのエフェクター細胞が動員され、典型的には細胞内のシグナル伝達現象ならびに重要なその後の免疫応答、例えば炎症媒介物質の放出、B細胞活性化、エンドサイトーシス、ファゴサイトーシス、及び細胞傷害性攻撃などをもたらす。細胞傷害性及び食作用性エフェクター機能を媒介する能力は、抗体が標的細胞を破壊する潜在的機構である。FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞上の結合した抗体を認識し、その後標的細胞の溶解を引き起こす細胞媒介反応は、抗体依存的細胞媒介細胞傷害性(ADCC)(Raghavan et al., 1996, Annu Rev Cell Dev Biol 12:181−220;Ghetie et al., 2000, Annu Rev Immunol 18:739−766;Ravetch et al., 2001, Annu Rev Immunol 19:275−290)と呼ばれる。FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞上の結合した抗体を認識し、その後標的細胞のファゴサイトーシスを引き起こす細胞媒介反応は、抗体依存的細胞媒介ファゴサイトーシス(ADCP)と呼ばれる。
異なるIgGサブクラスはFcγRに対して異なるアフィニティーを有し、IgG1及びIgG3は典型的にIgG2及びIgG4よりもかなり良好に受容体に結合する(Jefferis et al., 2002, Immunol Lett 82:57−65)。FcγRはIgGのFc領域に異なるアフィニティーで結合する。FcγRIIIa及びFcγRIIIbの細胞外ドメインは96%同一であるが、FcγRIIIbは細胞内シグナル伝達ドメインを有しない。さらに、FcγRI、FcγRIIa/c、及びFcγRIIIaは、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)を有する細胞内ドメインを有することを特徴とする免疫複合体誘発活性化の正調節因子であるが、FcγRIIbは免疫受容体チロシン阻害モチーフ(ITIM)を有し、そのため阻害性である。したがって、前者は活性化受容体と呼ばれ、FcγRIIbは阻害受容体と呼ばれる。アフィニティー及び活性におけるこれらの差にかかわらず、すべてのFcγRは、Fc上の同じ領域、Cγ2ドメインのN末端及び前述のヒンジに結合する。
Fc上の重複するが別個の部位は補体タンパク質C1qへの界面として機能する。Fc/FcγR結合がADCCを媒介するのと同様にして、Fc/C1q結合は補体依存的細胞傷害性(CDC)を媒介する。Fc上のCγ2ドメインとCγ3ドメインとの間の部位は胎児性受容体FcRnとの相互作用を媒介し、この結合により、エンドサイトーシスされた抗体がエンドソームから血流中に再循環される(Raghavan et al., 1996, Annu Rev Cell Dev Biol 12:181−220;Ghetie et al., 2000, Annu Rev Immunol 18:739−76)。このプロセスは、全長分子の大きなサイズに起因する腎臓濾過の防止と相まって、1〜3週間の範囲の好ましい抗体の血清半減期をもたらす。FcのFcRnへの結合は抗体輸送においても重要な役割を果たす。Fc上のFcRnの結合部位は細菌プロテインA及びGが結合する部位でもある。これらのタンパク質による強固な結合は典型的に、タンパク質精製時にプロテインAまたはプロテインGアフィニティークロマトグラフィーを用いることによって抗体を精製する手段として利用される。これらの領域、補体及びFcRn/プロテインA結合領域の忠実度は、抗体の臨床的特性及びその開発の両方にとって重要である。
「天然」抗体のFc領域の特有の特徴は、N297で生じる保存されたN結合型グリコシル化である。この炭水化物(またはオリゴ糖と呼ばれることもある)は、抗体にとって重要な構造的及び機能的役割を果し、抗体が哺乳類発現系を用いて産生されなければならない主な理由の1つである。FcγR及びC1qへの効率的なFc結合にはこの改変が必要とされ、N297炭水化物の組成の変化またはその除去はこれらのタンパク質への結合に影響を及ぼす。
いくつかの実施形態において、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体はFcバリアントを含む。Fcバリアントは親Fcポリペプチドに対して1つ以上のアミノ酸改変を含み、アミノ酸改変(複数可)によって1つ以上の特性が最適化される。Fcバリアントは、CH2ドメインバリアント、CH3ドメインバリアント、またはCH2ドメインバリアント及びCH3ドメインバリアントの両方のいずれかをさらに含む。本明細書において、「改変」は、タンパク質、ポリペプチド、抗体、本発明の目的の多重特異性抗体、または免疫グロブリンの物理的、化学的、または配列の特性における変化を意味する。アミノ酸改変は、ポリペプチド配列中のアミノ酸置換、挿入、及び/または欠失とすることができる。本明細書において、「アミノ酸置換」または「置換」は、親ポリペプチド配列中の特定の位置におけるアミノ酸の別のアミノ酸との置き換えを意味する。例えば、置換Y349Tは、349位のチロシンがスレオニンで置き換えられたバリアントポリペプチド、この場合は定常重鎖バリアントのことをいう。本明細書で用いる場合、「アミノ酸挿入」または「挿入」は、親ポリペプチド配列中の特定の位置におけるアミノ酸の追加を意味する。本明細書で用いる場合、「アミノ酸欠失」または「欠失」は、親ポリペプチド配列中の特定の位置におけるアミノ酸の除去を意味する。
本明細書に開示のFcバリアントは、少なくとも1つのアミノ酸改変のためにその親とはアミノ酸配列が異なる。本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体は、親と比べて2つ以上のアミノ酸改変、例えば親と比べて約1〜50アミノ酸改変、例えば、約1〜10アミノ酸改変、約1〜5アミノ酸改変などを有し得る。したがって、Fcバリアントの配列及び親Fcポリペプチドの配列は実質的に相同である。例えば、本発明においてバリアントFcバリアント配列は、親Fcバリアント配列との約80%の相同性、例えば、少なくとも約90%の相同性、少なくとも約95%の相同性、少なくとも約98%の相同性、少なくとも約99%の相同性などを有することになるであろう。本明細書に開示の改変は糖型改変も含む。改変は、分子生物学を用いて遺伝子的に行われ得るか、または酵素的もしくは化学的に行われ得る。
本明細書に開示のFcバリアントは、それらを構成するアミノ酸改変に従って定義される。したがって、例えば、置換Y349Tは、349位のチロシンがスレオニンで置き換えられたバリアントポリペプチド、この場合は定常重鎖バリアントのことをいう。同様に、Y349T/T394Fは、親Fcポリペプチドに対して置換Y349T及びT394Fを有するFcバリアントを定義する。WTアミノ酸の素性は不特定であってよく、その場合、上記のバリアントは349T/394Fと呼ばれる。置換が施される順序は任意であり、換言すれば、例えば349T/394Fは394F/349Tと同じFcバリアントであることに留意されたい。別途注記のない限り、本明細書において述べる定常領域及びFcの位置は、EUインデックスまたはEU番号付け方式(Kabat et al., 1991, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed., United States Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda)に従って番号付けられる。EUインデックスまたはKabatもしくはEU番号付け方式におけるようなEUインデックスはEU抗体の番号付けのことをいう(Edelman et al., 1969, Proc Natl Acad Sci USA 63:78−85)。
ある実施形態において、本明細書に開示のFcバリアントはヒトIgG配列に基づいており、したがって、ヒトIgG配列が、限定はしないが他の生物由来の配列、例えばげっ歯類及び霊長類配列をはじめとする他の配列を比較する「ベース」配列として用いられる。免疫グロブリンは、他の免疫グロブリンクラス、例えばIgA、IgE、IgGD、IgGMなど由来の配列も含み得る。本明細書に開示のFcバリアントは1つの親IgGとの関連で組換えられるが、バリアントは別の第2親IgGとの関連で組換えられ得るか、または「移入」され得ることを企図する。これは、典型的には第1及び第2IgGの配列間の配列または構造相同性に基づいて、第1及び第2IgG間の「等価な」または「対応する」残基及び置換を決定することによって行われる。相同性を立証するためには、本明細書で概説した第1IgGのアミノ酸配列を第2IgGの配列と直接比較する。アラインメントを維持するために必要な挿入及び欠失を可能にする(すなわち、任意の欠失及び挿入によって保存されている残基の排除を回避する)、当該技術分野において公知の相同性アラインメントプログラム(例えば種間で保存されている残基を用いる)の1つ以上を用いて、配列をアラインメントした後、第1免疫グロブリンの一次配列中の特定のアミノ酸と等価な残基を定義する。保存された残基のアラインメントはそのような残基の100%を保存し得る。しかし、保存された残基が75%を超える、またはわずか50%のアラインメントも等価な残基を定義するのに十分である。等価な残基は、すでに構造が決定されているIgGの三次構造レベルでの第1及び第2IgG間の構造相同性を決定することによっても定義され得る。この場合、等価な残基は、親または前駆体の特定のアミノ酸残基の主鎖原子(Nに対してN、CAに対してCA、Cに対してC及びOに対してO)の2つ以上の原子座標が、アラインメント後で約0.13nm以内にあるものと定義される。別の実施形態において、等価な残基はアラインメント後で約0.1nm以内にある。アラインメントは、タンパク質の非水素タンパク質原子の原子座標の重なりが最大となるように最良モデルの向き及び位置を合わせて達成される。残基がどれだけ等価または対応していると決定されるかにかかわらず、また、IgGが作製される親IgGの素性にかかわらず、伝えようとしていることは、本明細書に開示したように発見されたFcバリアントは、Fcバリアントとの大きな配列または構造相同性を有する任意の第2親IgGに組み込まれ得るということである。したがって、例えば、親抗体がヒトIgG1であるバリアント抗体が生成される場合、上記の方法または等価な残基を決定するための他の方法を用いることによって、バリアント抗体は異なる抗原に結合する別のIgG1親抗体、ヒトIgG2親抗体、ヒトIgA親抗体、マウスIgG2aまたはIgG2b親抗体などで組換えられ得る。繰り返すが、上記のように、親Fcバリアントの背景状況は、本明細書に開示のFcバリアントを他の親IgGに移入できるかどうかに影響を与えない。
上記のようなCH3ドメインバリアントを含むか、またはCH3ドメインバリアントであるFcバリアントは、349、351、354、356、357、364、366、368、370、392、394、395、396、397、399、401、405、407、409、411、及び439からなる群から選択されるCH3ドメイン中の位置において少なくとも1つの置換を含み得るが、ここで、番号付けはKabatのEUインデックスに従う。好ましい実施形態において、CH3ドメインバリアントは、重鎖ごとに少なくとも1つの、349A、349C、349E、349I、349K、349S、349T、349W、351E、351K、354C、356K、357K、364C、364D、364E、364F、364G、364H、364R、364T、364Y、366D、366K、366S、366W、366Y、368A、368E、368K、368S、370C、370D、370E、370G、370R、370S、370V、392D、392E、394F、394S、394W、394Y、395T、395V、396T、397E、397S、397T、399K、401K、405A、405S、407T、407V、409D、409E、411D、411E、411K、及び439Dからなる群から選択されるCH3ドメイン置換を含む。これらのバリアントのそれぞれは、各重鎖Fc領域について個別にまたは任意の組合せで用いることができる。当業者であれば理解するであろうが、各重鎖は異なる数の置換を含むことができる。例えば、Fc領域を構成する重鎖の両方が単一の置換を含んでもよく、一方の鎖が単一の置換を含み、他方が2つの置換を含んでもよく、両方が2つの置換を含むこともできる(各鎖は異なる置換を含むことになるであろうが)、など。
いくつかの実施形態において、CH2及び/またはCH3ドメインバリアントは組合せて、すなわち、重鎖Fcドメインごとに2つ以上の上記で概説した群から選択されるバリアントが作製される。
本発明の目的の多重特異性抗体の設計及び調製に用いられ得るヘテロ二量体化に有利な他のCH2及び/またはCH3ドメインバリアントは、例えばRidgeway et al., 1996, Protein Engineering 9[7]:617−621;米国特許第5,731,168号;Xie et al., 2005, J Immunol Methods 296:95−101;Davis et al., 2010, Protein Engineering, Design & Selection 23[4]:195−202;Gunasekaran et al., 2010, J Biol Chem 285[25]:1937−19646;及びPCT/US2009/000071(WO 2009/089004として公開)で提供されている。
本明細書に開示のFcバリアントは、Fc受容体またはFcリガンドへの結合性の改善または低減のために最適化され得る。「Fc受容体」または「Fcリガンド」は、本明細書で用いる場合、抗体のFc領域に結合してFc−リガンド複合体を形成する任意の生物由来の分子、好ましくはポリペプチドを意味する。Fcリガンドとしては、FcγR(上記のように、FcγRIIIa、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRI及びFcRnを含むがこれらに限定されない)、C1q、C3、マンナン結合レクチン、マンノース受容体、ブドウ球菌プロテインA、連鎖球菌プロテインG、及びウイルスFcγRが挙げられるが、これらに限定されない。Fcリガンドには、FcγRに相同なFc受容体のファミリーであるFc受容体ホモログ(FcRH)も含まれる。FcリガンドにはFcに結合する未発見の分子も含まれ得る。
本発明の目的の多重特異性抗体は、限定はしないがFc受容体に対するアフィニティーの向上または低減をはじめとして、特性を最適化するように設計され得る。本明細書で用いる場合、Fcポリペプチドより「大きいアフィニティー」または「改善されたアフィニティー」または「向上したアフィニティー」または「良好なアフィニティー」は、結合アッセイでのバリアント及び親ポリペプチドの量が実質的に同じである場合に、Fcバリアントが親Fcポリペプチドよりも有意に高い会合平衡定数(KAもしくはKa)または低い解離平衡定数(KDもしくはKd)でFc受容体に結合することを意味する。例えば、Fc受容体結合アフィニティーが改善されたFcバリアントは、親Fcポリペプチドと比較して、約5倍〜約1000倍、例えば約10倍〜約500倍のFc受容体結合アフィニティーの改善を示し得るが、Fc受容体結合アフィニティーは、例えば、限定はしないがBiacoreをはじめとする本明細書に開示の結合法によって、当業者により測定される。したがって、本明細書で用いる場合、親Fcポリペプチドと比較して「低減されたアフィニティー」は、Fcバリアントが親Fcポリペプチドよりも有意に低いKAまたは高いKDでFc受容体に結合することを意味する。高いまたは低いアフィニティーは、アフィニティーの絶対レベルに対して定義することもできる。
一実施形態において、本発明に特に有用なFc改変は、1つ以上のFcγR及び/または補体タンパク質への結合性を低減または除去し、それによって、Fc媒介エフェクター機能、例えばADCC、ADCP、及びCDCなどを低減または除去するバリアントである。そのようなバリアントを本明細書では「ノックアウトバリアント」または「KOバリアント」とも呼ぶ。FcγR及び補体タンパク質への結合性を低減するバリアントは、Fc領域によって媒介される望ましくない相互作用の低減、及び本発明の目的の多重特異性抗体の選択性の調整に有用である。好ましいノックアウトバリアントは、2007年10月31日に出願された「Fc Variants with Optimized Properties」という名称の米国特許出願第11/981,606号に記載されている。好ましい改変としては、234、235、236、237、267、269、325、及び328位の置換、挿入、及び欠失が挙げられるがこれらに限定されず、ここで番号付けはEUインデックスに従う。好ましい置換としては、234G、235G、236R、237K、267R、269R、325L、及び328Rが挙げられるがこれらに限定されず、ここで番号付けはEUインデックスに従う。好ましいバリアントは236R/328Rを含む。バリアントは、限定はしないがヒトIgG1、IgG2、IgG3、及び/またはIgG4ならびにこれらの組合せをはじめとする任意のIgGアイソタイプまたはIgGアイソタイプFc領域との関係において用いられ得る。FcγR及び補体結合性の低減及びFc媒介エフェクター機能の低減に好ましいIgG Fc領域は、IgG2及びIgG4 Fc領域である。ハイブリッドアイソタイプ、例えばUS 2006−0134105に記載されているようなハイブリッドIgG1/IgG2アイソタイプも有用であり得る。FcγR及び補体相互作用を低減させるための他の改変としては、置換297A、234A、235A、237A、318A、228P、236E、268Q、309L、330S、331S、220S、226S、229S、238S、233P、及び234V、ならびに変異的もしくは酵素的手段による、またはタンパク質をグリコシル化しない生物、例えば細菌などでの産生による297位のグリコシル化の除去が挙げられるが、これらに限定されない。これらの及び他の改変は、Strohl, 2009, Current Opinion in Biotechnology 20:685−691で概説されている。
FcγR及び/または補体への結合性を改善するFc改変も、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体の設計及び調製に導入可能である。そのようなFcバリアントはFc媒介エフェクター機能、例えばADCC、ADCP、及び/またはCDCなどを強化し得る。FcγR及び補体結合性の改善に好ましい改変は、例えば、US 8,188,231及びUS 2006−0235208に記載されている。好ましい改変は、236、239、268、324、及び332からなる群から選択される位置の置換を含むが、ここで番号付けはEUインデックスに従う。好ましい置換としては、236A、239D、239E、268D、267E、268E、268F、324T、332D、及び332Eが挙げられるがこれらに限定されない。好ましいバリアントとしては、239D/332E、236A/332E、236A/239D/332E、268F/324T、267E/268F、267E/324T、及び267E/268F/324Tが挙げられるがこれらに限定されない。FcγR及び補体相互作用を強化するための他の改変としては、置換298A、333A、334A、326A、2471、339D、339Q、280H、290S、298D、298V、243L、292P、300L、396L、3051、及び396Lが挙げられるが、これらに限定されない。これらの及び他の改変はStrohl, 2009(同文献)で概説されている。
一実施形態において、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体は、阻害受容体FcγRIIbに対するアフィニティーを強化するFcバリアントを組み込み得る。そのようなバリアントは、本明細書における本発明の目的の多重特異性抗体に、B細胞及び単球をはじめとするFcγRIIb+細胞に関係する免疫調節活性を与え得る。一実施形態において、このFcバリアントは、1つ以上の活性化受容体と比較してFcγRIIbに対するアフィニティーを選択的に強化する。FcγRIIbへの結合性を変化させるための改変は、2008年5月30日に出願された「Methods and Compositions for Inhibiting CD32b Expressing Cells」という名称のU.S. 8,063,187に記載されている。特に、FcγRIIbへの結合性を改善するFcバリアントは、EUインデックスに従う234、235、236、237、239、266、267、268、325、326、327、328、及び332からなる群から選択される位置の1つ以上の改変を含み得る。FcγRIIbアフィニティーを強化するための好ましい置換としては、234D、234E、234W、235D、235F、235R,235Y、236D、236N、237D、237N、239D、239E、266M、267D、267E、268D、268E、327D、327E、328F、328W、328Y、及び332Eが挙げられるが、これらに限定されない。より好ましくは、置換には、235Y、236D、239D、266M、267E、268D、268E、328F、328W、及び328Yが挙げられるがこれらに限定されない。FcγRIIbへの結合性を強化するための好ましいFcバリアントとしては、235Y/267E、236D/267E、239D/268D、239D/267E、267E/268D、267E/268E、及び267E/328Fが挙げられるが、これらに限定されない。
いくつかの実施形態において、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体は、FcRn結合性を改善するFcバリアントを組み込み得る。そのようなバリアントは、本発明の目的の多重特異性抗体のインビボ薬物動態特性を向上させ得る。FcRnへの結合性を増加させる、及び/または薬物動態特性を改善する好ましいバリアントとしては、259、308、428、及び434位の置換が挙げられるがこれらに限定されず、例えば2591、308F、428L、428M、434S、434H、434F、434Y、434M、428L/434S、2591/308F及び2591/308F/428L(ならびに2008年12月22日に出願された「Fc Variants with Altered Binding to FcRn」という名称の米国特許出願第12/341,769号に記載されている他のもの)が挙げられるがこれらに限定されない。FcRnに対するFc結合性を増加させる他のバリアントとしては、250E、250Q、428L、428F、250Q/428L(Hinton et al., 2004, J. Biol. Chem. 279(8): 6213−6216, Hinton et al. 2006 Journal of Immunology 176:346−356)、256A、272A、286A、305A、307A、307Q、311A、312A、376A、378Q、380A、382A、434A(Shields et al, Journal of Biological Chemistry, 2001, 276(9):6591−6604)、252F、252T、252Y、252W、254T、256S、256R、256Q、256E、256D、256T、309P、311S、433R、433S、433I、433P、433Q、434H、434F、434Y、252Y/254T/256E、433K/434F/436H、308T/309P/311S(Dall’ Acqua et al. Journal of Immunology, 2002, 169:5171−5180, Dall’Acqua et al., 2006, Journal of Biological Chemistry 281:23514−23524)が挙げられるが、これらに限定されない。FcRn結合性を調節するための他の改変は、Yeung et al., 2010, J Immunol, 182:7663−7671に記載されている。
本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体は、限定はしないがヒトIgG1、IgG2、IgG3、及び/またはIgG4をはじめとする任意のIgGアイソタイプまたはIgGアイソタイプFc領域との関係において、Fc改変を組み込むことができる。IgGアイソタイプは、FcγR及び/または補体媒介エフェクター機能(複数可)を変化させるように選択され得る。ハイブリッドIgGアイソタイプも有用であり得る。例えば、米国特許公開第2006−0134105号は、特定の発明に用途を見出し得る複数のハイブリッドIgG1/IgG2定常領域を記載している。本発明のいくつかの実施形態おいて、本発明の目的の多重特異性抗体は、アイソタイプ改変、すなわち、代替的IgGにおけるアミノ酸タイプへの親IgGにおける改変のための手段を含み得る。例えば、IgG1/IgG3ハイブリッドバリアントが、2つのアイソタイプで異なる位置におけるIgG3由来のアミノ酸でCH2及び/またはCH3領域中のIgG1の位置を置換するための置換手段によって構築され得る。したがって、1つ以上の置換手段、例えば274Q、276K、300F、339T、356E、358M、384S、392N、397M、4221、435R、及び436Fを含むハイブリッドバリアントIgG抗体が構築され得る。本発明の他の実施形態において、IgG1/IgG2ハイブリッドバリアントが、2つのアイソタイプで異なる位置におけるIgG1由来のアミノ酸でCH2及び/またはCH3領域中のIgG2の位置を置換するための置換手段によって構築され得る。したがって、1つ以上の置換手段、例えば、次のアミノ酸置換:233E、234L、235L、−236G(236位におけるグリシンの挿入を意味する)、及び327Aの1つ以上を含むハイブリッドバリアントIgG抗体が構築され得る。
すべての抗体は重鎖の定常領域中の保存された位置に炭水化物を含有する。各抗体アイソタイプは異なる種類のN結合型炭水化物構造を有する。重鎖に結合した炭水化物の他に、最大30%のヒトIgGがグリコシル化Fab領域を有する。IgGはCH2ドメインのAsn297に単一のN結合型二分岐炭水化物を有する。血清由来のまたはハイブリドーマもしくは組換え細胞でエクスビボ産生されたIgGでは、IgGはAsn297結合炭水化物に関して異種性である。ヒトIgGでは、コアオリゴ糖は一般に、異なる数の外側残基を伴って、GlcNAc2Man3GlcNAcからなる。
本明細書における本発明の目的の多重特異性抗体は炭水化物部分も含み得るが、この部分は、オリゴ糖の記載に一般に用いられる命名法を参照して記載する。この命名法を用いている炭水化物化学の総説はHubbard et al. 1981, Ann. Rev. Biochem. 50:555−583に見出される。この命名法には、例えば、マンノースを表すMan;2−N−アセチルグルコサミンを表すGlcNAc;ガラクトースを表すGal;フコースを表すFuc;及びグルコースを表すGlcが含まれる。シアル酸は、5−N−アセチルノイラミン酸についてはNeuNAc、及び5−グルコリルノイラミン酸についてはNeuNGcの省略表記によって記載される。
用語「グリコシル化」は、糖タンパク質へのオリゴ糖(互いに結合した2つ以上の単糖、例えば2〜約12個の互いに結合した単糖)の結合を意味する。オリゴ糖側鎖は、典型的にNまたはO結合のいずれかを介して糖タンパク質の主鎖に連結している。本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体のオリゴ糖は、一般にN結合型オリゴ糖としてFc領域のCH2ドメインに結合している。「N結合型グリコシル化」は、糖タンパク質鎖中のアスパラギン残基への炭水化物部分の結合のことをいう。当業者であれば、例えば、マウスIgG1、IgG2a、IgG2b及びIgG3、ならびにヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA及びIgDのCH2ドメインのそれぞれは、残基297にN結合型グリコシル化のための単一の部位を有することを認識するであろう。
本明細書の解釈上、「成熟コア炭水化物構造」は、一般に、二分岐オリゴ糖に典型的な次の炭水化物構造:GlcNAc(フコース)−GlcNAc−Man−(Man−GlcNAc)2からなる、Fc領域に結合しているプロセシングされたコア炭水化物構造のことをいう。成熟コア炭水化物構造は、一般にFc領域のCH2ドメインのAsn297へのN結合を介して糖タンパク質のFc領域に結合している。「バイセクティングGlcNAc」は、成熟コア炭水化物構造のα1,4マンノースに結合したGlcNAc残基である。バイセクティングGlcNAcは、α(1,4)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII酵素(GnTIII)によって酵素的に成熟コア炭水化物構造に結合させることができる。CHO細胞は通常GnTIIIを発現しないが(Stanley et al., 1984, J. Biol. Chem. 261:13370−13378)、そのように組換えられ得る(Umana et al., 1999, Nature Biotech. 17:176−180)。
本明細書では、改変糖型または組換え糖型を含む目的の多重特異性抗体について記載する。本明細書で用いる場合、「改変糖型」または「組換え糖型」は、タンパク質、例えば抗体に共有結合している炭水化物組成であって、親タンパク質のものとは化学的に異なる炭水化物組成を意味する。組換え糖型は、限定はしないがFcγR媒介エフェクター機能の強化または低減をはじめとする様々な目的に有用であり得る。一実施形態において、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体は、Fc領域に共有結合されるフコシル化及び/またはバイセクティングオリゴ糖のレベルを制御するように改変される。
改変糖型を生成するための様々な方法が当該技術分野において公知である(Umana et al., 1999, Nat Biotechnol 17:176−180;Davies et al., 2001, Biotechnol Bioeng 74:288−294;Shields et al., 2002, J Biol Chem 277:26733−26740;Shinkawa et al., 2003, J Biol Chem 278:3466−3473;米国特許出願第12/434,533号)。これらの技術は、例えば、組換えのもしくは組換えでない様々な生物もしくは細胞株(例えばLec−13 CHO細胞もしくはラットハイブリドーマYB2/0細胞)でIgGを発現させることによって、グリコシル化経路に関与する酵素(例えばFUT8[α−1,6−フコシルトランスフェラーゼ]及び/またはβ1−4−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII[GnTIII])を抑制することによって、IgGが発現した後で炭水化物(複数可)を改変することによって、または酵素阻害剤としてのフコースアナログの存在下で抗体を発現させることによって、Fc領域に共有結合されるフコシル化及び/またはバイセクティングオリゴ糖のレベルを制御する。本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体の糖型を改変するための他の方法としては、糖鎖組換え系統の酵母(Li et al., 2006, Nature Biotechnology 24(2):210−215)、蘚類(Nechansky et al., 2007, Mol Immunol 44(7):1826−8)、及び植物(Cox et al., 2006, Nat Biotechnol 24(12):1591−7)を用いることが挙げられる。改変糖型を生成するための特定の方法の使用は、実施形態をその方法に制限することを意図するものではない。むしろ、本明細書に開示の実施形態は、どのように生成されるかにかかわらず、改変糖型を有する本発明の目的の多重特異性抗体を包含する。
一実施形態において、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体は、シアリル化のレベルを変化させるように糖鎖組換えされる。免疫グロブリンG分子中のシアリル化Fcグリカンのレベルが高いと機能に悪影響を与える可能性があり(Scallon et al., 2007, Mol. Immunol. 44(7):1524−34)、Fcシアリル化のレベルの差が抗炎症活性の改変をもたらし得る(Kaneko et al., 2006, Science 313:670−673)。抗体はFcコア多糖がシアリル化されると抗炎症特性を獲得し得るので、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体をシアル酸含有量の増加または低減のために糖鎖組換えすることが有利であり得る。
「組換え糖型」は、典型的に異なる炭水化物またはオリゴ糖のことをいい、したがって、例えば、免疫グロブリンは組換え糖型を含み得る。一実施形態において、本明細書に開示の組成物は、Fc領域を有するグリコシル化された本発明の目的の多重特異性抗体を含み、組成物中のグリコシル化抗体の約51〜100%、例えば抗体の80〜100%、90〜100%、95〜100%などは、フコースがない成熟コア炭水化物構造を含む。別の実施形態では、組成物中の抗体は、フコースがない成熟コア炭水化物構造及びさらにFc領域中の少なくとも1つのアミノ酸改変を両方とも含む。代替的実施形態において、組成物は、Fc領域を有するグリコシル化された本発明の目的の多重特異性抗体を含み、組成物中のグリコシル化抗体の約51〜100%、抗体の80〜100%、90〜100%は、シアル酸がない成熟コア炭水化物構造を含む。別の実施形態では、組成物中の抗体は、シアル酸がない成熟コア炭水化物構造及びさらにFc領域中の少なくとも1つのアミノ酸改変を両方とも含む。さらに別の実施形態では、組成物は、Fc領域を有するグリコシル化された本発明の目的の多重特異性抗体を含み、組成物中のグリコシル化抗体の約51〜100%、抗体の80〜100%、90〜100%は、シアル酸を含有する成熟コア炭水化物構造を含む。別の実施形態では、組成物中の抗体は、シアル酸を含有する成熟コア炭水化物構造及びさらにFc領域中の少なくとも1つのアミノ酸改変を両方とも含む。別の実施形態では、組換え糖型及びアミノ酸改変の組合せが抗体に最適なFc受容体結合特性をもたらす。
本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体は、さらなる最適化された特性をもたらす1つ以上の改変を含み得る。当該改変はアミノ酸改変であり得るか、または酵素的もしくは化学的に行われる改変であり得る。そのような改変(複数可)は、本発明の目的の多重特異性抗体に何らかの改善、例えば、その安定性、溶解性、機能、または臨床用途における向上をもたらす可能性がある。本明細書では、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体にさらなる改変を併せることによってなされ得る様々な改善を開示する。
一実施形態において、本明細書に開示する目的の多重特異性抗体の少なくとも1つの可変領域はアフィニティーが成熟され得る、換言すれば、標的抗原に対する抗体の結合性を強化するためにVH及び/またはVLドメインにおいてアミノ酸改変がなされている。そのような種類の改変は、標的抗原への結合性の会合及び/または解離カイネティクスを改善し得る。他の改変としては、他の選択可能な標的と比較して標的抗原への選択性を改善するものが挙げられるが、これらには、非標的細胞と比較して標的細胞上で発現された抗原への選択性を改善する改変が含まれる。本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体は、本発明の目的の多重特異性抗体の内在化の低減または向上をもたらす1つ以上の改変を含み得る。
他の実施形態において、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体の、限定はしないが安定性、溶解性、及びオリゴマー状態をはじめとする、生物物理学的特性を改善するために改変が行われる。改変としては、例えば、本発明の目的の多重特異性抗体において、より優れた安定性をもたらすように、より好ましい分子内相互作用をもたらす置換、またはより高い溶解性のための極性アミノ酸での露出した非極性アミノ酸の置換を挙げることができる。本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体への他の改変としては、特定の形態またはホモ二量体もしくはホモ多量体分子を可能とするものが挙げられる。そのような改変としては、組換えジスルフィド、ならびに化学修飾または凝集法が挙げられるが、これらに限定されない。
さらなる実施形態において、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体は、タンパク質分解部位を除去する改変を含む。これらには、例えば産生収量を減少させるプロテアーゼ部位、及び投与されたタンパク質をインビボで分解するプロテアーゼ部位が含まれ得る。一実施形態において、共有結合分解部位、例えばアミド分解(すなわち、グルタミニル及びアスパラギニル残基のグルタミル及びアスパルチル残基へのアミド分解)、酸化、及びタンパク質分解部位などを除去するために、さらなる改変がなされる。除去することが特に有用なアミド分解部位は、アミド分解の傾向を高める部位であり、グリシンが後に続くアスパラギニル及びグルタミル残基(それぞれNG及びQGモチーフ)が挙げられるがこれらに限定されない。そのような場合において、いずれかの残基の置換はアミド分解の傾向を著しく低減することができる。一般的な酸化部位としては、メチオニン及びシステイン残基が挙げられる。導入または除去いずれかを行うことのできる他の共有結合性改変としては、プロリン及びリシンのヒドロキシル化、セリルまたはスレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化、リシン、アルギニン、及びヒスチジン測鎖の“−アミノ基のメチル化、N末端アミンのアセチル化、ならびに任意のC末端カルボキシル基のアミド化が挙げられる。さらなる改変には、翻訳後修飾、例えばN結合型またはO結合型グリコシル化及びリン酸化なども含まれ得るがこれらに限定されない。
改変には生物学的製剤の産生に一般に用いられる宿主または宿主細胞からの発現及び/または精製収量を改善するものが含まれ得る。これらとしては、様々な哺乳類細胞株(例えばCHO、HEK、COS、NIH LT3、Saosなど)、酵母細胞、細菌細胞、及び植物細胞が挙げられるが、これらに限定されない。さらなる改変には、鎖間ジスルフィド結合を形成する重鎖の能力を除去または低減する改変が含まれる。さらなる改変には、鎖内ジスルフィド結合を形成する重鎖の能力を除去または低減する改変が含まれる。
本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体は、限定はしないがLiu & Schultz, 2010, Annu Rev Biochem 79:413−444に記載されているものをはじめとする方法を用いて導入される非天然アミノ酸の使用を含む改変を含み得る。いくつかの実施形態において、こうした改変は上述した様々な機能的、生物物理学的、免疫学的、または製造上の特性の操作を可能にする。別の実施形態において、こうした改変は他の目的のためのさらなる化学修飾を可能にする。
本明細書では他の改変を企図する。例えば、本発明の目的の多重特異性抗体は、様々な非タンパク質ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのコポリマーの1つに連結され得る。本発明の目的の多重特異性抗体の特異的または非特異的な化学または翻訳後修飾を可能とするために、さらなるアミノ酸改変が行われ得る。そのような改変としては、PEG化及びグリコシル化が挙げられるが、これらに限定されない。PEG化を可能にするために用いることのできる特異的置換としては、PEGまたは別のポリマー部分を結合させるために効率的かつ特異的なカップリング化学を用いることができるような、新規なシステイン残基または非天然アミノ酸の導入が挙げられるが、これらに限定されない。特異的グリコシル化部位の導入は、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体中に新規なN−X−T/S配列を導入することによって達成することができる。
免疫原性を低減させるための改変は、親配列に由来するプロセシング済みペプチドのMHCタンパク質への結合性を低減する改変を含み得る。例えば、あらゆる一般的なMHC対立遺伝子に高いアフィニティーで結合すると予測される免疫エピトープが存在しないか、またはその数が最小限となるように、アミノ酸改変が組換えられるであろう。タンパク質配列中のMHC結合エピトープを同定するいくつかの方法が当該技術分野において公知であり、本明細書に開示の抗体中のエピトープをスコアリングするために用いられ得る。
共有結合性改変が本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体の範囲内に含まれ、一般に翻訳後に行われるが、必ずしもそうとは限らない。例えば、いくつかの種類の共有結合性改変は、選択された側鎖またはNもしくはC末端残基と反応可能な有機誘導体化剤と特定のアミノ酸残基を反応させることによって、分子中に導入することができる。いくつかの実施形態において、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体の共有結合性改変は、1つ以上の標識の付加を含む。用語「標識基」は任意の検出可能な標識を意味する。いくつかの実施形態において、標識基は、立体障害の可能性を低減するために様々な長さのスペーサーアームを介して、本発明の目的の多重特異性抗体と結合させる。タンパク質を標識化するための様々な方法が当該技術分野において公知であり、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体の生成に用いられ得る。
ある実施形態において、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体は、本明細書において「結合体」とも呼ぶ「融合タンパク質」を含む。融合パートナーまたは結合パートナーはタンパク質または非タンパク質とすることができ、後者は一般に本発明の目的の多重特異性抗体及び結合パートナー上の官能基を用いて生成される。結合及び融合パートナーは、低分子化合物及びポリペプチドを含めた任意の分子であり得る。例えば、Trail et al., 1999, Curr. Opin. Immunol. 11:584−588に様々な結合体及び方法が記載されている。可能な結合パートナーとしては、サイトカイン、細胞傷害剤、トキシン、放射性同位体、化学療法剤、抗血管新生剤、チロシンキナーゼ阻害剤、及び他の治療活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、結合パートナーはむしろペイロードと考えられ得る、換言すれば、結合体の目的は、標的細胞、例えば癌細胞または免疫細胞への目的の多重特異性抗体による結合パートナーの標的送達である。したがって、例えば、目的の多重特異性抗体へのトキシンの結合は、標的抗原を発現する細胞に当該トキシンの送達を標的化する。当業者であれば理解するであろうが、実際には、融合及び結合の概念及び定義は重複している。融合体または結合体の指定は、本明細書に開示のいかなる実施形態にもそれを限定しようと意図するものではない。むしろ、本明細書に開示する任意の目的の多重特異性抗体が、何らかの望ましい特性をもたらすために、遺伝子的、化学的、または別様に1つ以上のポリペプチドまたは分子に連結され得るという広い概念を伝えるためにこれらの用語を用いる。
好適な結合体としては、下記のような標識、薬剤及び限定はしないが細胞傷害薬(例えば化学療法剤)またはトキシンもしくはそのようなトキシンの活性断片をはじめとする細胞傷害剤が挙げられるが、これらに限定されない。好適なトキシン及びその対応する断片としては、ジフテリアA鎖、エクソトキシンA鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、クルシン、クロチン、フェノマイシン、エノマイシンなどが挙げられる。細胞傷害剤には、本発明の目的の多重特異性抗体への放射性同位体の結合、または本発明の目的の多重特異性抗体に共有結合しているキレート化剤への放射性核種の結合によって作製される放射性化学物質も含まれる。さらなる実施形態では、カリケアマイシン、オーリスタチン、ゲルダナマイシン、メイタンシン、及びデュオカルマイシンならびにアナログを利用する。抗体−薬剤結合体については、Alley et al., 2010, Curr Opin Chem Biol 14[4]:529−37に記載されている。
ある実施形態において、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体はサイトカインと融合または結合している。「サイトカイン」は、本明細書で用いる場合、ある細胞集団によって放出され、細胞間媒介物として別の細胞に作用するタンパク質の総称を意味する。例えば、Penichet et al., 2001, J. Immunol. Methods 248:91−101に記載されているように、多数の望ましい特性をもたらすために、サイトカインが本発明の目的の多重特異性抗体に融合され得る。そのようなサイトカインの例はリンフォカイン、モノカイン、及び従来のポリペプチドホルモンである。サイトカインには、成長ホルモン、例えばヒト成長ホルモン、N−メチオニルヒト成長ホルモン、及びウシ成長ホルモンなど;副甲状腺ホルモン;サイロキシン;インスリン;プロインスリン;リラクシン;プロリラクシン;糖タンパク質ホルモン、例えば卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、及び黄体形成ホルモン(LH)など;肝臓成長因子;線維芽細胞成長因子;プロラクチン;胎盤性ラクトゲン;腫瘍壊死因子α及びβ;ミュラー管阻害物質;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮成長因子;インテグリン;トロンボポエチン(TPO);神経成長因子、例えばNGF−βなど;血小板成長因子;形質転換成長因子(TGF)、例えばTGF−α及びTGF−βなど;インスリン様成長因子I及びII;エリスロポエチン(EPO);骨誘導因子;インターフェロン、例えばインターフェロンα、β、及びγなど;コロニー刺激因子(CSF)、例えばマクロファージCSF(M−CSF)、顆粒球−マクロファージCSF(GM−CSF)、及び顆粒球CSF(G−CSF)など;インターロイキン(IL)、例えばIL−1、IL−1α、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−15など;腫瘍壊死因子、例えばTNF−αまたはTNF−βなど;C5a;ならびにLIF及びkitリガンド(KL)をはじめとする他のポリペプチド因子が含まれる。本明細書で用いる場合、この用語サイトカインは、天然起源由来または組換え細胞培養由来のタンパク質、及び天然配列サイトカインの生物活性均等物を含む。
さらなる実施形態において、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体は、腫瘍前標的化に用いるための「受容体」(例えばストレプトアビジンなど)に結合させられ得るが、このアナログ−受容体結合体が患者に投与された後、除去剤を用いて血液循環から未結合の結合体を除去してから、細胞傷害剤(例えば放射性ヌクレオチド)に結合している「リガンド」(例えばアビジン)を投与する。代替的実施形態において、抗体依存的酵素媒介プロドラッグ療法(ADEPT)を採用するために、本発明の目的の多重特異性抗体を酵素に結合させるか、または作用可能に連結させる。プロドラッグ(例えばペプチジル化学療法剤)を変換するプロドラッグ活性化酵素に本発明の目的の多重特異性抗体を結合させるか、または作用可能に連結させることによって、ADEPTが用いられ得る。
本発明の目的の多重特異性抗体を産生し、実験的に試験する方法も本明細書で開示する。本開示の方法は、実施形態をいかなる特定の用途または作用理論にも限定することを意図していない。むしろ、提供する方法は、本発明の目的の多重特異性抗体を得るために、1つ以上の本発明の目的の多重特異性抗体が産生され、実験的に試験され得ると全般的に例示することを意図する。抗体分子生物学、発現、精製、及びスクリーニングの全般的な方法は、Antibody Engineering, edited by Kontermann & Dubel, Springer, Heidelberg, 2001;及びHayhurst & Georgiou, 2001, Curr Opin Chem Biol 5:683−689;Maynard & Georgiou, 2000, Annu Rev Biomed Eng 2:339−76に記載されている。
本明細書に開示の一実施形態において、本発明の目的の多重特異性抗体をコードする核酸が作製され、その後、この核酸は宿主細胞、例えば酵母細胞または哺乳類細胞などにクローニングされ、発現され、所望であれば、アッセイされ得る。したがって、各タンパク質配列をコードする核酸、及び特にDNAが作製され得る。これらは公知の手順を用いて実施される。例えば、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体の生成に有用となり得る様々な方法は、Molecular Cloning―A Laboratory Manual, 3rd Ed. (Maniatis, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 2001)、及びCurrent Protocols in Molecular Biology (John Wiley & Sons)に記載されている。本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体をコードするDNAを効率的に生成するために用いられ得る様々な技術が存在する。そのような方法としては、遺伝子アセンブリ法、PCRベースの方法及びPCRの変形形態を用いる方法、リガーゼ連鎖反応ベースの方法、プール化オリゴ法、例えば合成シャッフリング、誤りがちな増幅法及びランダム変異でオリゴを用いる方法に用いられるものなど、古典的部位特異的変異誘発法、カセット変異誘発、ならびに他の増幅及び遺伝子合成法が挙げられるが、これらに限定されない。当該技術分野において公知のように、遺伝子アセンブリ、変異誘発、ベクターサブクローニングなどのための様々な市販のキット及び方法が存在し、そのような市販品は本発明の目的の多重特異性抗体をコードする核酸の生成に有用となる。
本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体は、核酸、例えば、本発明の目的の多重特異性抗体の第1及び第2ポリペプチドをコードする核酸を含有する発現ベクターで形質転換された宿主細胞を、ポリペプチドの発現を誘発または引き起こす適切な条件の下で培養することによって産生され得る。発現に適切な条件は発現ベクター及び宿主細胞の選択によって異なり、当業者であれば定型的な実験を通して容易に見極められるであろう。多様な適切な宿主細胞が用いられ得るが、これには哺乳類細胞、細菌、昆虫細胞、酵母細胞、及び植物細胞が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体の生成に有用となり得る様々な細胞株は、American Type Culture Collectionから入手可能なATCC(登録商標)細胞株カタログに記載されている。
ある実施形態において、本発明の目的の多重特異性抗体は、発現コンストラクトがウイルス、例えばレトロウイルスまたはアデノウイルスなどを用いて哺乳類細胞中に導入される系をはじめとする哺乳類発現系で発現される。任意の哺乳類細胞、例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、及び霊長類細胞が用いられ得る。好適な細胞には、公知の研究用細胞も含まれ、Jurkat T細胞、NIH3T3、CHO、BHK、COS、HEK293、PER C.6、HeLa、Sp2/0、NS0細胞及びこれらのバリアントが挙げられるがこれらに限定されない。代替的実施形態において、細菌細胞でライブラリータンパク質が発現される。細菌発現系は当該技術分野において公知であり、Escherichia coli(E. coli)、Bacillus subtilis、Streptococcus cremoris、及びStreptococcus lividansが挙げられる。代替的実施形態において、本発明の目的の多重特異性抗体は、昆虫細胞(例えばSf21/Sf9、Trichoplusia ni Bti−Tn5b1−4)または酵母細胞(例えばS. cerevisiae、Pichiaなど)で産生される。代替的実施形態において、本発明の目的の多重特異性抗体は無細胞翻訳系を用いてインビトロで発現される。原核(例えばE.coli)及び真核(例えば小麦胚、ウサギ網状赤血球)細胞の両方に由来するインビト翻訳系が利用可能であり、目的のタンパク質の発現レベル及び機能特性に応じて選択され得る。例えば、当業者に認識されているように、いくつかのディスプレイ技術、例えばリボソームディスプレイには、インビトロ翻訳が必要とされる。さらに、本発明の目的の多重特異性抗体は化学合成法によって生成され得る。動物(例えば、ウシ、ヒツジ、またはヤギ乳、孵化鶏卵、完全な昆虫幼虫など)及び植物(例えば、トウモロコシ、タバコ、ウキクサなど)の両方の形質転換発現系も同様。
本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体の第1及び第2ポリペプチドをコードする核酸は、コードされたポリペプチドを発現するために、1つ以上の発現ベクター中に適宜組み込まれ得る。様々な発現ベクターがタンパク質発現に用いられ得る。発現ベクターは、自己複製染色体外ベクターまたは宿主ゲノム中に組み込まれるベクターを含み得る。発現ベクターは宿主細胞型に適合するように構築される。したがって、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体を生成するのに有用となる発現ベクターとしては、哺乳類細胞、細菌、昆虫細胞、酵母細胞、及びインビトロ系でのタンパク質発現を可能とするものが挙げられるが、これらに限定されない。当該技術分野において公知のように、本明細書に開示する本発明の目的の多重特異性抗体を発現するのに有用となり得る様々な発現ベクターが、商業的にまたは別様に入手可能である。
発現ベクターは典型的に、発現させるタンパク質またはポリペプチドを含み、これは制御もしくは調節配列、選択マーカー、任意の融合パートナー、及び/または追加の要素と作用可能に連結している。「作用可能に連結」とは、本明細書では、核酸が別の核酸配列と機能的関係に置かれていることを意味する。一般に、これらの発現ベクターは、本発明の目的の多重特異性抗体をコードする核酸に作用可能に連結した転写及び翻訳調節核酸を含み、典型的にはタンパク質を発現するために用いられる宿主細胞に対して適切である。一般に、転写及び翻訳調節配列は、プロモーター配列、リボソーム結合部位、転写開始及び停止配列、翻訳開始及び停止配列、ならびにエンハンサーまたはアクティベーター配列を含み得る。当該技術分野においても公知のように、発現ベクターは典型的に、発現ベクターを含有する形質転換宿主細胞の選別を可能とする選択遺伝子またはマーカーを含有する。選択遺伝子は、当該技術分野において公知であり、用いられる宿主細胞によって異なる。
本発明の第1及び第2ポリペプチドは、それぞれ独立して、発現されるポリペプチド及び/または目的の多重特異性抗体の標的化、精製、スクリーニング、ディスプレイなどを可能にするための融合パートナーに作用可能に連結され得る。融合パートナーは、リンカー配列を介して本発明の目的の多重特異性抗体配列に連結され得る。リンカー配列は一般に少数の、典型的には10未満のアミノ酸を含むことになるであろうが、より長いリンカーも用いられ得る。典型的には、リンカー配列は、柔軟であり、かつ、分解に耐性があるように選択される。当業者であれば理解するであろうが、多様な配列のいずれもリンカーとして用いられ得る。例えば、一般的なリンカー配列はアミノ酸配列GGGGS(配列番号37)を含む。融合パートナーは、本発明の目的の多重特異性抗体及び付随する融合パートナーを所望の細胞部位または細胞外媒質に誘導する標的化またはシグナル配列であり得る。当該技術分野において公知のように、あるシグナル伝達配列は、タンパク質を成長培地中にまたは細胞の内膜と外膜との間に位置する細胞周辺腔中に分泌させるように標的化し得る。融合パートナーは、精製及び/またはスクリーニングを可能にするペプチドまたはタンパク質をコードする配列でもあり得る。そのような融合パートナーとしては、ポリヒスチジンタグ(Hisタグ)(例えばH6(配列番号38)及びH10(配列番号39)または固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)システム(例えばNi+2アフィニティーカラム)で用いるための他のタグ)、GST融合体、MBP融合体、Strepタグ、細菌酵素BirAのBSPビオチン化標的配列、ならびに抗体によって標的化されるエピトープタグ(例えばc−mycタグ、flagタグなど)が挙げられるが、これらに限定されない。当業者であれば理解するであろうが、そのようなタグは、精製、スクリーニング、またはこの両方に有用であり得る。例えば、本発明の目的の多重特異性抗体は、Hisタグを用いてNi+2アフィニティーカラムに固定化することによって精製され、そして精製後に、同じHisタグを用いて抗体がNi+2コーティングプレートに固定化されて、ELISAまたは他の結合アッセイ(下記のような)が実施され得る。融合パートナーは、本発明の目的の多重特異性抗体をスクリーニングする選別法の使用を可能にし得る(下記参照)。様々な選別法を可能にする融合パートナーが当該技術分野において公知である。
例えば、本発明の目的の多重特異性抗体ライブラリーを遺伝子IIIタンパク質に融合させることによって、ファージディスプレイを採用することができる。融合パートナーは本発明の目的の多重特異性抗体の標識化を可能にし得る。あるいは、融合パートナーが発現ベクター上の特異的配列に結合し、融合パートナー及び付随する本発明の目的の多重特異性抗体がそれらをコードする核酸に共有結合または非共有結合されるのを可能にし得る。外来性核酸を宿主細胞内に導入する方法は、当該技術分野において公知であり、用いられる宿主細胞によって異なる。技術としては、デキストラン媒介形質移入、リン酸カルシウム沈降、塩化カルシウム処理、ポリブレン媒介形質移入、原形質融合、エレクトロポレーション、ウイルスまたはファージ感染、ポリヌクレオチド(複数可)のリポソーム中へのカプセル化、及びDNAの核内への直接マイクロインジェクションが挙げられるがこれらに限定されない。哺乳類細胞の場合、形質移入は一過的または安定的のいずれかであり得る。
追加の非限定的な例示的実施形態を以下に示す。
実施形態1.目的の多重特異性抗体(MAI)の精製方法であって、前記MAIが第1重鎖(HC)可変領域を含む第1重鎖ポリペプチド及び第2HC可変領域を含む第2重鎖ポリペプチドを含むヘテロ二量体を含み、前記第1及び前記第2可変領域が異なる抗原特異性及び異なる等電点を有し、
i)前記MAI、前記第1重鎖ポリペプチドの少なくとも1つのコピーまたは前記第1重鎖ポリペプチドの少なくとも2つのコピーのいずれかを含む第1親ホモ二量体抗体種、及び前記第2重鎖ポリペプチドの少なくとも1つのコピーまたは前記第2重鎖ポリペプチドの少なくとも2つのコピーのいずれかを含む第2親ホモ二量体抗体種を含む組成物を入手すること;ならびに
ii)前記MAIを前記第1及び前記第2親ホモ二量体抗体種から分離するクロマトグラフィーを実施すること;
を含み、
それによって前記MAIを精製する前記方法。
実施形態2.前記実施ステップii)が
前記組成物をクロマトグラフィー材料と接触させて組成物−クロマトグラフィー材料複合物を形成すること;ならびに
pH依存的に前記MAI及び親ホモ二量体抗体種を溶出可能な溶離液のサンプルと前記クロマトグラフィー材料−組成物複合物を接触させる溶出ステップを実施すること;
を含む、実施形態1に記載の方法。
実施形態3.前記溶離液がそれぞれ異なる負対数酸解離定数(pKa)を有する少なくとも2種の緩衝剤を含む、実施形態2に記載の方法。
実施形態4.前記溶出ステップを実施する前に前記溶離液の第1サンプル中、望ましい開始pHで
前記組成物;または
前記組成物−クロマトグラフィー材料複合物;
のいずれかを調製または平衡化することをさらに含む、実施形態2または実施形態3に記載の方法。
実施形態5.望ましい終了pHに調製された大量の前記溶離液の第2サンプルを前記クロマトグラフィー材料−組成物複合物に流すことをさらに含む、実施形態2〜4のいずれか1項に記載の方法。
実施形態6.前記溶離液が前記クロマトグラフィー材料−組成物複合物を流れるにつれてpH勾配が発生する、実施形態2〜5のいずれか1項に記載の方法。
実施形態7.前記溶離液が前記クロマトグラフィー材料−組成物複合物を流れるにつれてpH勾配が発生し、前記pH勾配が
(i)リニアpH勾配段階の前のステップpH勾配段階;
(ii)リニア勾配段階の後のステップpH勾配段階;
(iii)ステップpH勾配段階を伴わないリニアpH勾配段階、少なくとも1つのリニアpH勾配段階;または
(iv)実質的にリニアなpH勾配段階;
を含む、実施形態2〜6のいずれか1項に記載の方法。
実施形態8.前記MAI、前記第1親ホモ二量体抗体種、及び前記第2親ホモ二量体抗体種が実質的に区別可能な溶出体積で前記クロマトグラフィー材料から溶出する、実施形態2〜7のいずれか1項に記載の方法。
実施形態9.前記溶離液が
次の緩衝剤:Nシクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸(CHES)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’−(2−ヒドロキシプロパンスルホン酸)(HEPPSO)、3−モルホリノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム塩、3−(N−モルホリニル)−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、酢酸、及びギ酸の
少なくとも2つ;
少なくとも3つ;
少なくとも4つ;
少なくとも5つ;
少なくとも6つ;
少なくとも7つ;もしくは
8つ;または
次の緩衝剤:メチルアミン、1,2−エタンジアミン、1−メチルピペラジン、1,4−ジメチルピペラジン、2−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオール(ビス−トリス)、及びヒドロキシルアミンの
少なくとも2つ;
少なくとも3つ;
少なくとも4つ;
少なくとも5つ;もしくは
少なくとも6つ;
のいずれかを含む、実施形態2〜8のいずれか1項に記載の方法。
実施形態10.前記溶離液が(i)CAPS、CHES、TAPS、HEPPSO、MOPSO、MES、酢酸、及びギ酸;または
(ii)メチルアミン、1,2−エタンジアミン、1−メチルピペラジン、1,4−ジメチルピペラジン、2−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオール(ビス−トリス)、及びヒドロキシルアミンのいずれかを含む、実施形態2〜9のいずれか1項に記載の方法。
実施形態11.前記溶離液が
次の緩衝剤:Nシクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸(CHES)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’−(2−ヒドロキシプロパンスルホン酸)(HEPPSO)、3−モルホリノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム塩、3−(N−モルホリニル)−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、酢酸、及びギ酸の
少なくとも2つ;
少なくとも3つ;
少なくとも4つ;
少なくとも5つ;
少なくとも6つ;
少なくとも7つ;もしくは
8つ;
を含むが、
ただし、前記溶離液が次のイミダゾール;ピペラジン;トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)のいずれも含まない、実施形態2〜10のいずれか1項に記載の方法。
実施形態12.前記溶離液が(i)CAPS;CHES;TAPS;HEPPSO;MOPSO;MES;酢酸;及びギ酸;ならびに任意により少なくとも1つの塩;または
(ii)メチルアミン、1,2−エタンジアミン、1−メチルピペラジン、1,4−ジメチルピペラジン、2−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオール(ビス−トリス)、及びヒドロキシルアミンならびに任意により少なくとも1つの塩から本質的になる、実施形態2〜11のいずれか1項に記載の方法。
実施形態13.前記溶離液が(i)CAPS;CHES;TAPS;HEPPSO;MOPSO;MES;酢酸;及びギ酸;ならびに少なくとも1つの塩;または
(ii)メチルアミン、1,2−エタンジアミン、1−メチルピペラジン、1,4−ジメチルピペラジン、2−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオール(ビス−トリス)、及びヒドロキシルアミンならびに任意により少なくとも1つの塩ならびに任意により少なくとも1つの塩からなる、実施形態2〜12のいずれか1項に記載の方法。
実施形態14.前記溶離液がNaCl、KCl、及びNa2SO4からなる群から選択される少なくとも1つの塩を含む、実施形態2〜13のいずれか1項に記載の方法。
実施形態15.前記溶離液の各サンプルが0mM〜約100mM;0mM〜約60mM;0mM〜約50mM;0mM〜約40mM;0mM〜約30mM;0mM〜約20mM;0mM〜約10mM;0mM〜約5mM;約10mM〜約200mM;約10mM〜約100mM;約10mM〜約50mM;約10mM〜約40mM;約10mM〜約30mM;約10mM〜約20mM;約20mM〜約200mM;約20mM〜約100mM;約20mM〜約50mM;約20mM〜約30mM;約30mM〜約200mM;約30mM〜約100mM;及び約30mM〜約50mM;ならびに約5mM〜約15mMからなる群から選択される濃度範囲で少なくとも1つの塩を含む、実施形態2〜14のいずれか1項に記載の方法。
実施形態16.前記溶離液の各サンプルが約10mMの濃度で少なくとも1つの塩を含む、実施形態2〜15のいずれか1項に記載の方法。
実施形態17.前記溶離液の各サンプルが約10mMの濃度でNaClを含む、実施形態2〜16のいずれか1項に記載の方法。
実施形態18.a.前記第1重鎖ポリペプチドの実際の等電点及び前記第2重鎖ポリペプチドの実際の等電点の差が、7.0pH単位未満;6.5pH単位未満;6.0pH単位未満;5.5pH単位未満;5.0pH単位未満;4.5pH単位未満;4.0単位未満;3.5pH単位未満;2.5pH単位未満;2.4pH単位未満;2.3pH単位未満;2.2pH単位未満;2.1pH単位未満;2.0pH単位未満;1.9pH単位未満;1.8pH単位未満;1.7pH単位未満;1.6pH単位未満;1.5pH単位未満;1.4pH単位未満;1.3pH単位未満、1.2pH単位未満;1.1pH単位未満;1.0pH単位未満;0.95pH単位未満;0.90pH単位未満;0.85pH単位未満;0.80pH単位未満;0.75pH単位未満;0.70pH単位未満;0.65pH単位未満;0.60pH単位未満;0.55pH単位未満;0.50pH単位未満;0.45pH単位未満;0.40pH単位未満;0.35pH単位未満;0.30pH単位未満;0.25pH単位未満;0.20pH単位未満;0.15pH単位未満;0.14pH単位未満;0.13pH単位未満;0.12pH単位未満;0.11pH単位未満;0.10pH単位未満;0.09pH単位未満;0.08pH単位未満;0.07pH単位未満;0.06pH単位未満;0.04pH単位未満;0.03pH単位未満;0.025pH単位未満;0.02pH単位未満;もしくは前述の値のいずれかの間のpH値であるか;
b.前記第1親ホモ二量体種の実際の等電点及び前記第2親ホモ二量体種の実際の等電点の差が、7.0pH単位未満;6.5pH単位未満;6.0pH単位未満;5.5pH単位未満;5.0pH単位未満;4.5pH単位未満;4.0単位未満;3.5pH単位未満;2.5pH単位未満;2.4pH単位未満;2.3pH単位未満;2.2pH単位未満;2.1pH単位未満;2.0pH単位未満;1.9pH単位未満;1.8pH単位未満;1.7pH単位未満;1.6pH単位未満;1.5pH単位未満;1.4pH単位未満;1.3pH単位未満、1.2pH単位未満;1.1pH単位未満;1.0pH単位未満;0.95pH単位未満;0.90pH単位未満;0.85pH単位未満;0.80pH単位未満;0.75pH単位未満;0.70pH単位未満;0.65pH単位未満;0.60pH単位未満;0.55pH単位未満;0.50pH単位未満;0.45pH単位未満;0.40pH単位未満;0.35pH単位未満;0.30pH単位未満;0.25pH単位未満;0.20pH単位未満;0.15pH単位未満;0.14pH単位未満;0.13pH単位未満;0.12pH単位未満;0.11pH単位未満;0.10pH単位未満;0.09pH単位未満;0.08pH単位未満;0.07pH単位未満;0.06pH単位未満;0.04pH単位未満;0.03pH単位未満;0.025pH単位未満;0.02pH単位未満;もしくは前述の値のいずれかの間のpH値であるか;
c.前記第1重鎖ポリペプチドの計算等電点及び前記第2重鎖ポリペプチドの計算等電点の差が、7.0pH単位未満;6.5pH単位未満;6.0pH単位未満;5.5pH単位未満;5.0pH単位未満;4.5pH単位未満;4.0単位未満;3.5pH単位未満;2.5pH単位未満;2.4pH単位未満;2.3pH単位未満;2.2pH単位未満;2.1pH単位未満;2.0pH単位未満;1.9pH単位未満;1.8pH単位未満;1.7pH単位未満;1.6pH単位未満;1.5pH単位未満;1.4pH単位未満;1.3pH単位未満、1.2pH単位未満;1.1pH単位未満;1.0pH単位未満;0.95pH単位未満;0.90pH単位未満;0.85pH単位未満;0.80pH単位未満;0.75pH単位未満;0.70pH単位未満;0.65pH単位未満;0.60pH単位未満;0.55pH単位未満;0.50pH単位未満;0.45pH単位未満;0.40pH単位未満;0.35pH単位未満;0.30pH単位未満;0.25pH単位未満;0.20pH単位未満;0.15pH単位未満;0.14pH単位未満;0.13pH単位未満;0.12pH単位未満;0.11pH単位未満;0.10pH単位未満;0.09pH単位未満;0.08pH単位未満;0.07pH単位未満;0.06pH単位未満;0.04pH単位未満;0.03pH単位未満;0.025pH単位未満;0.02pH単位未満;もしくは前述の値のいずれかの間のpH値であるか;または
d.前記第1親ホモ二量体種の計算等電点及び前記第2親ホモ二量体種の計算等電点の差が、7.0pH単位未満;6.5pH単位未満;6.0pH単位未満;5.5pH単位未満;5.0pH単位未満;4.5pH単位未満;4.0単位未満;3.5pH単位未満;2.5pH単位未満;2.4pH単位未満;2.3pH単位未満;2.2pH単位未満;2.1pH単位未満;2.0pH単位未満;1.9pH単位未満;1.8pH単位未満;1.7pH単位未満;1.6pH単位未満;1.5pH単位未満;1.4pH単位未満;1.3pH単位未満、1.2pH単位未満;1.1pH単位未満;1.0pH単位未満;0.95pH単位未満;0.90pH単位未満;0.85pH単位未満;0.80pH単位未満;0.75pH単位未満;0.70pH単位未満;0.65pH単位未満;0.60pH単位未満;0.55pH単位未満;0.50pH単位未満;0.45pH単位未満;0.40pH単位未満;0.35pH単位未満;0.30pH単位未満;0.25pH単位未満;0.20pH単位未満;0.15pH単位未満;0.14pH単位未満;0.13pH単位未満;0.12pH単位未満;0.11pH単位未満;0.10pH単位未満;0.09pH単位未満;0.08pH単位未満;0.07pH単位未満;0.06pH単位未満;0.04pH単位未満;0.03pH単位未満;0.025pH単位未満;0.02pH単位未満;もしくは前述の値のいずれかの間のpH値であるか;
のいずれかである、実施形態1〜17のいずれか1項に記載の方法。
実施形態19.前記望ましい開始pHが、9.0未満;8.5未満;8.0未満;7.5未満;7.0未満;6.5未満;6.0未満;5.5未満;5.0未満;4.5未満;4.0未満;3.5未満;もしくは3.0未満;または前述の値のいずれかの間のpH値である、実施形態4〜18のいずれか1項に記載の方法。
実施形態20.前記望ましい終了pHが、7.0超;7.5超;8.0超;8.5超;9.0超;9.5超;10.0超;10.5超;もしくは11.0超;11.5超;12.0超;12.5超;13.0超;13.5超;または前述の値のいずれかの間のpH値である、実施形態5〜19のいずれか1項に記載の方法。
実施形態21.前記溶離液が少なくとも2種の緩衝剤を含み、各緩衝剤の酸解離定数(pKa)が約3〜11である、実施形態2〜20のいずれか1項に記載の方法。
実施形態22.前記溶離液が少なくとも2種の緩衝剤を含み、各緩衝剤の酸解離定数(pKa)が、約3.25〜約3.85;約4.5〜約4.85;約6.0〜約6.45;約6.60〜約7.0;約7.5〜約8.15;約8.35〜約8.55;約9.25〜約9.65;及び約10.00〜約11.5からなる群から選択される範囲にある、実施形態2〜21のいずれか1項に記載の方法。
実施形態23.前記溶離液が少なくとも2種の緩衝剤を含み、各緩衝剤の酸解離定数(pKa)が、約3.25〜約3.85;約4.5〜約4.85;約6.0〜約6.45;約6.60〜約7.0;約7.5〜約8.15;約8.35〜約8.55;約9.25〜約9.65;及び約10.00〜約11.5からなる群から選択される異なる範囲にある、実施形態2〜22のいずれか1項に記載の方法。
実施形態24.前記溶離液が少なくとも2種の緩衝剤を含み、各緩衝剤の酸解離定数(pKa)が、約3.75;約4.76;約6.10;約6.90;約8.04;約8.44;約9.39;及び約10.50からなる群から選択される、実施形態2〜23のいずれか1項に記載の方法。
実施形態25.前記MAIが第1軽鎖可変領域を含む第3ポリペプチドをさらに含む、実施形態1〜24のいずれか1項に記載の方法。
実施形態26.前記MAIが第3ポリペプチド及び第4ポリペプチドをさらに含み、前記第3ポリペプチド及び前記第4ポリペプチドのそれぞれが第2軽鎖可変領域を含む、実施形態1〜25のいずれか1項に記載の方法。
実施形態27.前記第1軽鎖可変領域及び前記第2軽鎖可変領域が同一である、実施形態26に記載の方法。
実施形態28.前記第3ポリペプチド及び前記第4ポリペプチドが同一である、実施形態26または実施形態27に記載の方法。
実施形態29.前記第1ポリペプチド及び前記第2ポリペプチドそれぞれがFc領域をさらに含む、実施形態1〜28のいずれか1項に記載の方法。
実施形態30.前記第1ポリペプチド及び前記第2ポリペプチドそれぞれが野生型Fc領域をさらに含む、実施形態1〜29のいずれか1項に記載の方法。
実施形態31.前記第1ポリペプチド及び前記第2ポリペプチドそれぞれがIgG1アイソタイプFc領域、IgG3アイソタイプFc領域、IgG3アイソタイプFc領域、またはIgG4アイソタイプFc領域をさらに含む、実施形態1〜30のいずれか1項に記載の方法。
実施形態32.前記第1ポリペプチド及び前記第2ポリペプチドそれぞれがIgG1アイソタイプFc領域をさらに含む、実施形態1〜31のいずれか1項に記載の方法。
実施形態33.前記第1ポリペプチド及び前記第2ポリペプチドそれぞれが、前記第1親ホモ二量体抗体種、前記第2親ホモ二量体種、または前記MAIのpIを変化させるために改変されてはいないFc領域をさらに含む、実施形態1〜32のいずれか1項に記載の方法。
実施形態34.前記第1ポリペプチド及び前記第2ポリペプチドそれぞれが、前記第1親ホモ二量体抗体種、前記第2親ホモ二量体種、または前記MAIのpIを変化させるために改変されてはいないIgG1アイソタイプFc領域をさらに含む、実施形態1〜33のいずれか1項に記載の方法。
実施形態35.MAIが天然抗体型であるか;少なくとも前記第1親ホモ二量体抗体種が天然型であるか;少なくとも前記第2親ホモ二量体抗体種が天然型であるか;前記第1親ホモ二量体抗体種が天然型であり、かつ、前記第2親ホモ二量体抗体種が天然型であるか;または前記MAIが天然抗体型であり、前記第1親ホモ二量体抗体種が天然型であり、かつ、前記第2親ホモ二量体抗体種が天然型であるかのいずれかである、実施形態1〜34のいずれか1項に記載の方法。
実施形態36.前記MAI;前記第1親ホモ二量体抗体種;前記第2親ホモ二量体抗体種;前記第1親ホモ二量体抗体種及び前記第2親ホモ二量体抗体種;または前記MAI、前記第1親ホモ二量体抗体種及び前記第2親ホモ二量体抗体種が、IgG1型、及びIgG2型、及びIgG3型、もしくはIgG4型であるか;またはハイブリッド型であるかのいずれかである、実施形態1〜35のいずれか1項に記載の方法。
実施形態37.前記クロマトグラフィーが実質的に同じイオン強度で実施される、実施形態1〜36のいずれか1項に記載の方法。
実施形態38.前記溶離液のイオン強度が前記溶出ステップの間中実質的に同じままである、実施形態2〜37のいずれか1項に記載の方法。
実施形態39.前記溶離液の第1サンプル及び前記溶離液の前記第2サンプルがそれぞれ実質的に同じイオン強度を有する、実施形態4〜38のいずれか1項に記載の方法。
実施形態40.前記クロマトグラフィーがイオン交換クロマトグラフィーである、実施形態1〜39のいずれか1項に記載の方法。
実施形態41.前記クロマトグラフィーが、カチオン交換クロマトグラフィー;アニオン交換クロマトグラフィー;多モードクロマトグラフィー;及び混合モードクロマトグラフィーからなる群から選択される、実施形態1〜40のいずれか1項に記載の方法。
実施形態42.前記クロマトグラフィーがMustang S、Sartobind S、S03 Monolith、S Ceramic HyperD、Poros XS、Poros HS50、Poros HS20、HS20、SPSFF、Porors GoPure HS、Poros GoPure XS、SP−Sepharose XL (SPXL)、CM Sepharose Fast Flow、Capto Q ImpRes、Capto SP ImpRes、Capto S、Capto MMC、Fractogel Se HiCap、Fractogel S03、Fractogel COO、Poros HQ 50、Poros PI 50、Poros D、Mustang Q、Q Sepharose FF、SP Sepharose FF、UNOshere S、Macro−Prep High S、DEAE、Mono S、Mono S 5/50 GL、Mono Q、Mono Q 5/50 GL、Mono S 10/100 GL、SP Sepharose HP、Source 30S、Poros XQ、Poros HQ、Q HP、及びSource 30Qからなる群から選択されるクロマトグラフィー材料を用いることをさらに含む、実施形態1〜41のいずれか1項に記載の方法。
実施形態43.前記クロマトグラフィーが、Mono S、Mono S 5/50 GL、Mono Q、Mono Q 5/50 GL、SP Sepharose HP、Source 30S、Poros XQ、Poros HQ、Q HP、及びSource 30Q、及びMono S 10/100 GLからなる群から選択されるクロマトグラフィー材料を用いることをさらに含む、実施形態1〜42のいずれか1項に記載の方法。
実施形態44.前記クロマトグラフィー材料がイオン交換クロマトグラフィー材料である、実施形態2〜43のいずれか1項に記載の方法。
実施形態45.前記クロマトグラフィー材料が、カチオン交換クロマトグラフィー材料;アニオン交換クロマトグラフィー材料;多モードクロマトグラフィー材料;及び混合モードクロマトグラフィー材料からなる群から選択される、実施形態2〜44のいずれか1項に記載の方法。
実施形態46.前記イオン交換クロマトグラフィー材料がMustang S、Sartobind S、S03 Monolith、S Ceramic HyperD、Poros XS、Poros HS50、Poros HS20、HS20、SPSFF、Porors GoPure HS、Poros GoPure XS、SP−Sepharose XL (SPXL)、CM Sepharose Fast Flow、Capto Q ImpRes、Capto SP ImpRes、Capto S、Capto MMC、Fractogel Se HiCap、Fractogel S03、Fractogel COO、Poros HQ 50、Poros PI 50、Poros D、Mustang Q、Q Sepharose FF、SP Sepharose FF、UNOshere S、Macro−Prep High S、DEAE、Mono S、Mono S 5/50 GL、Mono Q、Mono Q 5/50 GL、Mono S 10/100 GL、SP Sepharose HP、Source 30S、Poros XQ、Poros HQ、Q HP、及びSource 30Qからなる群から選択されるか;または
Mono S、Mono S 5/50 GL、Mono Q、Mono Q 5/50 GL、SP Sepharose HP、Source 30S、Poros XQ、Poros HQ、Q HP、及びSource 30Q、及びMono S 10/100 GLからなる群から選択される、実施形態2〜45のいずれか1項に記載の方法。
実施形態47.前記第1重鎖可変領域または前記第2重鎖可変領域のいずれかが、固有の重鎖可変領域を含む第1ライブラリーから第1抗原に対して第1選別を実施することによって得られる、実施形態1〜46のいずれか1項に記載の方法。
実施形態48.前記第1重鎖可変領域及び前記第2重鎖可変領域が、固有の重鎖可変領域を含む第1ライブラリーから第1抗原に対して第1選別を実施することによって得られる、実施形態1〜47のいずれか1項に記載の方法。
実施形態49.前記第1重鎖可変領域が、固有の重鎖可変領域を含む第1ライブラリーから第1抗原に対して第1選別を実施することによって得られ、前記第2重鎖可変領域が、固有の重鎖可変領域を含む第2ライブラリーから第2抗原に対して第2選別を実施することによって得られる、実施形態1〜48のいずれか1項に記載の方法。
実施形態50.前記第1重鎖可変領域が、固有の重鎖可変領域を含む第1ライブラリーから第1抗原に対して第1選別を実施することによって得られ、前記第2重鎖可変領域が、固有の重鎖可変領域を含む第2ライブラリーから第2抗原に対して第2選別を実施することによって得られる、実施形態1〜49のいずれか1項に記載の方法。
実施形態51.前記ライブラリーの少なくとも1つが、少なくとも1つの軽鎖をさらに含む、実施形態1〜50のいずれか1項に記載の方法。
実施形態52.前記第1ポリペプチド及び前記第2ポリペプチドをコードする核酸配列それぞれが導入された原核宿主細胞または真核宿主細胞によって前記組成物が発現される、実施形態1〜51のいずれか1項に記載の方法。
実施形態53.前記第1ポリペプチド及び前記第2ポリペプチドをコードする核酸配列それぞれが導入された原核宿主細胞または真核宿主細胞によって前記組成物が発現される、実施形態25〜23のいずれか1項に記載の方法。
実施形態54.前記第1ポリペプチド、前記第2ポリペプチド、前記第3ポリペプチド、及び前記第4ポリペプチドをコードする核酸配列それぞれが導入された原核宿主細胞または真核宿主細胞によって前記組成物が発現される、実施形態26〜53のいずれか1項に記載の方法。
実施形態55.各コードされたポリペプチドが前記宿主細胞によって発現される、実施形態52〜54のいずれか1項に記載の方法。
実施形態56.前記組成物が前記宿主細胞によって発現される、実施形態52〜55のいずれか1項に記載の方法。
実施形態57.実質的にすべての宿主細胞が、第1ポリペプチド、第2ポリペプチド、第3ポリペプチド、及び第4ポリペプチドで形質転換または形質移入されている、実施形態52〜56のいずれか1項に記載の方法。
実施形態58.実質的にすべての宿主細胞が、前記MAI、前記第1親抗体種及び前記第2親抗体種を発現する、実施形態52〜57のいずれか1項に記載の方法。
実施形態59.前記宿主細胞が、真核細胞;真菌細胞;酵母細胞;昆虫細胞;哺乳類細胞;Saccharomyces cerevisiae細胞;Pichia pastoris細胞;哺乳類細胞;COS細胞;ヒト胎児腎(HEK)細胞;及びCHO細胞からなる群から選択される、実施形態52〜58のいずれか1項に記載の方法。
実施形態60.(i)CAPS、CHES、TAPS、HEPPSO、MOPSO、MES、酢酸、ギ酸、及び塩;または
(ii)メチルアミン、1,2−エタンジアミン、1−メチルピペラジン、1,4−ジメチルピペラジン、2−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオール(ビス−トリス)、及びヒドロキシルアミンならびに任意により少なくとも1つの塩;
のいずれかを含むイオン交換溶離液。
実施形態61.CAPS、CHES、TAPS、HEPPSO、MOPSO、MES、酢酸、ギ酸、及びNaClを含むイオン交換溶離液。
実施形態62.TRIS、ピペラジン、またはイミダゾールを含まないという条件の、実施形態60または実施形態61に記載のイオン交換溶離液。
実施形態63.(i)CAPS、CHES、TAPS、HEPPSO、MOPSO、MES、酢酸、ギ酸;及び塩;または
(ii)メチルアミン、1,2−エタンジアミン、1−メチルピペラジン、1,4−ジメチルピペラジン、2−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオール(ビス−トリス)、及びヒドロキシルアミンならびに任意により少なくとも1つの塩;
のいずれかから本質的になるイオン交換溶離液。
実施形態64.(i)CAPS、CHES、TAPS、HEPPSO、MOPSO、MES、酢酸、ギ酸;及び塩;または
(ii)メチルアミン、1,2−エタンジアミン、1−メチルピペラジン、1,4−ジメチルピペラジン、2−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオール(ビス−トリス)、及びヒドロキシルアミンならびに任意により少なくとも1つの塩;
のいずれかからなるイオン交換溶離液。
実施形態65.前記塩がNaCl、KCl、またはNa2SO4からなる群から選択される、実施形態61〜64のいずれか1項に記載のイオン交換溶離液。
実施形態66.MAI及び親ホモ二量体抗体種を含む組成物から前記MAIを精製するために用いられる、実施形態60〜65のいずれか1項に記載のイオン交換溶離液。
実施形態67.0mM〜約100mM;0mM〜約60mM;0mM〜約50mM;0mM〜約40mM;0mM〜約30mM;0mM〜約20mM;0mM〜約10mM;0mM〜約5mM;約10mM〜約200mM;約10mM〜約100mM;約10mM〜約50mM;約10mM〜約40mM;約10mM〜約30mM;約10mM〜約20mM;約20mM〜約200mM;約20mM〜約100mM;約20mM〜約50mM;約20mM〜約30mM;約30mM〜約200mM;約30mM〜約100mM;及び約30mM〜約50mM;ならびに約5mM〜約15mMからなる群から選択される濃度範囲で少なくとも1つの塩を含む、実施形態61〜66のいずれか1項に記載のイオン交換溶離液。
実施形態68.前記溶離液の各サンプルが約10mMの濃度で少なくとも1つの塩を含む、実施形態61〜67のいずれか1項に記載のイオン交換溶離液。
実施形態69.前記塩がNaClである、実施形態61〜68のいずれか1項に記載のイオン交換溶離液。
実施形態70.前記溶離液の各サンプルが約10mMの濃度でNaClを含む、実施形態61〜69のいずれか1項に記載のイオン交換溶離液。
材料及び方法
実施例で提供するすべてのクロマトグラフィー分離は、各クロマトグラフィー実験中のインラインpHモニタリングを可能とする一体型pH電極を備えたコンピュータ制御AKTA avant 150調製用クロマトグラフィーシステム(GE Healthcare Life Sciences)で実施した。Mono S 5/50 GL、Mono Q 5/50 GL、及びMono S 10/100 GLカラムはそれぞれGE Healthcare Life Sciencesから購入した。すべての他のカラムは、図26A及び26Bのそれぞれの「樹脂」という表題の列に記載の提供業者から購入した。酢酸及び塩化ナトリウムはVWRから入手し、CAPS、MOPSO、及びTAPSはSigmaから入手し、CHES及びギ酸はEMDから入手し、HEPPSOはMP Biomedicalsから入手し、MESはCalbiochemから入手した。メチルアミン(H2O中40%)、1,2−エタンジアミン、1−メチルピペラジン、1,4−ジメチルピペラジン、及びヒドロキシルアミン(H2O中50%)はSigmaから購入し、ビス−トリスはAffymetrixから購入し、塩化ナトリウムはVWRから購入した。pH勾配形成溶液は、緩衝剤を水に溶解させ、溶液を二等分することによって、各実験の前に新たに調製した。別途注記のない限り、溶離液組成物は図1に記載した通りとした。次に、水酸化ナトリウムを用いて半分をpH4(バッファーA)に調整し、一方で、もう半分は同様に水酸化ナトリウムを用いてpH11(バッファーB)に調整した。
特に断らない限り、以下の手順を用いて実施例に記載のすべての精製を実施した。分離しようとするMAI−親ホモ二量体抗体種組成物の約0.2mg〜2mg(Mono S 5/50 GL、Mono Q 5/50 GL、及び下記の実施例で用いたすべての他の同様のサイズのカラムに対して)または約5mg〜10mg(Mono S 10/100カラム及び下記の実施例で用いたすべての他の同様のサイズのカラムに対して)を開始pHバッファー中にバッファー交換し、0.2μmフィルターに通して濾過した。各分離の前に、カラムを10カラム体積の開始バッファー(バッファーA、バッファーB、またはバッファーA及びバッファーBの適切な混合物のいずれか)で平衡化した。その後、キャピラリーループを介してカラム上にタンパク質組成物を添加し、カラムを別の10カラム体積の開始バッファーで洗浄して未結合物質を除去した。続いて、バッファーA及びバッファーBの適切な混合物でできた20カラム体積のリニアpH勾配を、共通軽鎖二重特異性抗体混合物の分離に用いた。あるいは、15カラム体積のステップ溶出を実施した後、バッファーA及びBの浅めの勾配を用いて溶出した。
インビトロ酵母選別系及び関連する方法を用いて、共通軽鎖抗体(すなわち親ホモ二量体抗体種)を全長ヒトIgG1抗体ライブラリーから単離した(例えば、WO 2009/036379;WO 2010/105256;及びWO 2012/009568を参照)。ビオチン標識化抗原を抗体発現酵母細胞とともに異なる濃度でインキュベートし、その後、複数回の連続する選別においてストレプトアビジン二次試薬を用いる磁気ビーズ選別(Miltenyi, Biotec)及びFACSAria IIセルソーター(BD Biosciences)での蛍光活性化細胞ソーティングを行うことによって、標的結合mAbを富化した。富化の最終回の後、酵母細胞をソーティングして寒天プレート上に播種し、クローンをDNAシーケンシングによって分析してIgG産生に用いた。選別回の連続サイクルにおいて、軽鎖シャッフリング、重鎖のCDR1及びCDR2の標的変異誘発及び重鎖または軽鎖の可変領域のePCRによって精製されたサブライブラリーに、より低濃度のおとり抗原を用いて、抗体のより高いアフィニティーへの最適化を実施した。IgG1アイソタイプ型以外のIgGアイソタイプ型を用いた実施例について、上記のようにライブラリーから単離した可変ドメインを、指定の他の選択可能なIgGアイソタイプ型(例えばIgG4など)に再編成した。
各実施例で記載及び試験した各抗体(重鎖ヘテロ二量体MAI及び2つの親重鎖ホモ二量体種)を含む組成物は、第1重鎖ポリペプチド、第2重鎖ポリペプチド、及び第3軽鎖ポリペプチドのそれぞれをコードする核酸配列を含有し、一過性発現する哺乳類宿主細胞(HEK細胞)から得た。形質移入細胞を当該技術分野において公知の標準的な条件の下で培養し、抗体を含む上清を収集して、上清中に存在するすべての抗体種を含む組成物を得るためにプロテインAベースのアフィニティー精製を施した。下記の各実施例の核酸によってコードされる抗体のアイソタイプ型に応じて、その抗体種(MAI及び/または親ホモ二量体抗体)は、IgG1型(例えば実施例1〜9ならびに実施例14及び15に記載)、IgG4型(例えば実施例10〜13に記載)またはハイブリッドIgG1/IgG4アイソタイプ型(例えば実施例11に記載)のいずれかであった。
実施例で試験した組成物及び型
実施例1〜9及び実施例14で試験した組成物は以下の抗体種を含んでいた。
スキームA:
IgG1アイソタイプ型の第1重鎖ポリペプチド、IgG1アイソタイプ型の第2重鎖ポリペプチド、及びアミノ酸配列が同一の2コピーの軽鎖ポリペプチドを含み、第1重鎖ポリペプチド及び第2重鎖ポリペプチドの可変領域が、異なるアミノ酸配列及び異なる抗原特異性を有していた(そのため、第1及び第2重鎖ポリペプチド可変領域のそれぞれと軽鎖ポリペプチド(すなわち「共通軽鎖」)の2つのコピーのうちの1つとの各対合によって形成された抗原結合領域が、2つの異なる抗原特異性を有していた)天然ヒトIgG1アイソタイプ型のMAI;
2コピーの第1重鎖ポリペプチド及び上記の1)と同様な2コピーの軽鎖ポリペプチドを含み、1コピーの第1重鎖ポリペプチド及び1コピーの軽鎖ポリペプチドの対合によって形成された抗原結合領域が単一抗原特異性を有する(そのため、重鎖ポリペプチドの各コピーと軽鎖ポリペプチドの各コピーとの対合によって形成された抗原結合領域がそれぞれ同じ単一抗原特異性を有していた)天然ヒトIgG1アイソタイプ型の第1親重鎖ホモ二量体抗体種;ならびに
2コピーの第2重鎖ポリペプチド及び上記の1)と同様な2コピーの軽鎖ポリペプチドを含み、1コピーの第2重鎖ポリペプチド及び1コピーの軽鎖ポリペプチドの対合によって形成された抗原結合領域が単一抗原特異性を有する(そのため、第2重鎖ポリペプチドの各コピーと軽鎖ポリペプチドの各コピーとの対合によって形成された抗原結合領域がそれぞれ同じ単一抗原特異性を有していた)天然ヒトIgG1アイソタイプ型の第2親重鎖ホモ二量体抗体種。
実施例10で試験した組成物は以下の抗体種を含んでいた。
スキームB:
IgG4アイソタイプ型の第1重鎖ポリペプチド、IgG4アイソタイプ型の第2重鎖ポリペプチド、及びアミノ酸配列が同一の2コピーの軽鎖ポリペプチドを含み、第1重鎖ポリペプチド及び第2重鎖ポリペプチドの可変領域が、異なるアミノ酸配列及び異なる抗原特異性を有していた(そのため、第1及び第2重鎖ポリペプチド可変領域のそれぞれと軽鎖ポリペプチド(すなわち「共通軽鎖」)の2つのコピーのうちの1つとの各対合によって形成された抗原結合領域が、2つの異なる抗原特異性を有していた)天然ヒトIgG4アイソタイプ型のMAI;
2コピーの第1重鎖ポリペプチド及び上記の1)と同様な2コピーの軽鎖ポリペプチドを含み、1コピーの第1重鎖ポリペプチド及び1コピーの軽鎖ポリペプチドの対合によって形成された抗原結合領域が単一抗原特異性を有する(そのため、重鎖ポリペプチドの各コピーと軽鎖ポリペプチドの各コピーとの対合によって形成された抗原結合領域がそれぞれ同じ単一抗原特異性を有していた)天然ヒトIgG4アイソタイプ型の第1親重鎖ホモ二量体抗体種;ならびに
2コピーの第2重鎖ポリペプチド及び上記の1)と同様な2コピーの軽鎖ポリペプチドを含み、1コピーの第2重鎖ポリペプチド及び1コピーの軽鎖ポリペプチドの対合によって形成された抗原結合領域が単一抗原特異性を有する(そのため、第2重鎖ポリペプチドの各コピーと軽鎖ポリペプチドの各コピーとの対合によって形成された抗原結合領域がそれぞれ同じ単一抗原特異性を有していた)天然ヒトIgG4アイソタイプ型の第2親重鎖ホモ二量体抗体種。
実施例11で試験した組成物は以下の抗体種を含んでいた。
スキームC:
IgG1アイソタイプ型の第1重鎖ポリペプチド、IgG4アイソタイプ型の第2重鎖ポリペプチド、及びアミノ酸配列が同一の2コピーの軽鎖ポリペプチドを含み、第1重鎖ポリペプチド及び第2重鎖ポリペプチドの可変領域が、異なるアミノ酸配列及び異なる抗原特異性を有していた(そのため、第1及び第2重鎖ポリペプチド重鎖可変領域のそれぞれと軽鎖ポリペプチド(すなわち「共通軽鎖」)の2つのコピーのうちの1つとの各対合によって形成された抗原結合領域が、2つの異なる抗原特異性を有していた)ハイブリッドIgG1/IgG4型のMAI(天然ヒトIgG1アイソタイプ型/ヒト天然IgG4アイソタイプ型);
2コピーの第1重鎖ポリペプチド及び上記の1)と同様な2コピーの軽鎖ポリペプチドを含み、1コピーの第1重鎖ポリペプチド及び1コピーの軽鎖ポリペプチドの対合によって形成された抗原結合領域が単一抗原特異性を有する(そのため、重鎖ポリペプチドの各コピーと軽鎖ポリペプチドの各コピーとの対合によって形成された抗原結合領域がそれぞれ同じ単一抗原特異性を有していた)天然ヒトIgG1アイソタイプ型の第1親重鎖ホモ二量体抗体種;ならびに
2コピーの第2重鎖ポリペプチド及び上記の1)と同様な2コピーの軽鎖ポリペプチドを含み、1コピーの第2重鎖ポリペプチド及び1コピーの軽鎖ポリペプチドの対合によって形成された抗原結合領域が単一抗原特異性を有する(そのため、第2重鎖ポリペプチドの各コピーと軽鎖ポリペプチドの各コピーとの対合によって形成された抗原結合領域がそれぞれ同じ単一抗原特異性を有していた)天然ヒトIgG4アイソタイプ型の第2親重鎖ホモ二量体抗体種。
実施例12及び実施例13で試験した組成物は以下の抗体種を含んでいた。
スキームD:
IgG4アイソタイプ型の第1重鎖ポリペプチド、IgG4アイソタイプ型の第2重鎖ポリペプチド、第2重鎖ポリペプチドとの二量体化と比較して第1重鎖ポリペプチドとの優先的な二量体化に有利となるように、第1組換えヘテロ二量体化モチーフが導入された1コピーの第1軽鎖ポリペプチドアミノ酸配列、及び第1重鎖ポリペプチドとの二量体化と比較して第2重鎖ポリペプチドとの優先的な二量体化に有利となるように、第2組換えヘテロ二量体化モチーフが導入された1コピーの第2軽鎖ポリペプチドアミノ酸配列を含み、第1重ポリペプチド及び第2重ポリペプチドの可変領域が異なるアミノ酸配列及び異なる抗原特異性を有していた(そのため、第1重鎖ポリペプチド重鎖可変領域と第1軽鎖ポリペプチドとの各対合によって形成された抗原結合領域が、第2重鎖ポリペプチド重鎖可変領域と第2軽鎖ポリペプチドとの対合によって形成された抗原結合領域とは異なる特異性を有していた)天然ヒトIgG4アイソタイプ型のMAI;
2コピーの第1重鎖ポリペプチド及び上記の1)と同様な2コピーの軽鎖ポリペプチドを含み、1コピーの重鎖ポリペプチド及び1コピーの軽鎖ポリペプチドの対合によって形成された抗原結合領域が単一抗原特異性を有する(そのため、重鎖ポリペプチドの各コピーと軽鎖ポリペプチドの各コピーとの対合によって形成された抗原結合領域がそれぞれ同じ単一抗原特異性を有していた)天然ヒトIgG4アイソタイプ型の第1親重鎖ホモ二量体抗体種;ならびに
2コピーの第2重鎖ポリペプチド及び上記の1)と同様な2コピーの軽鎖ポリペプチドを含み、1コピーの第2重鎖ポリペプチド及び1コピーの軽鎖ポリペプチドの対合によって形成された抗原結合領域が単一抗原特異性を有する(そのため、第2重鎖ポリペプチドの各コピーと軽鎖ポリペプチドの各コピーとの対合によって形成された抗原結合領域がそれぞれ同じ単一抗原特異性を有していた)天然ヒトIgG4アイソタイプ型の第2親重鎖ホモ二量体抗体種。
実施例1
強カチオン交換体Mono S 5/50 GLカラムでリニアpH勾配を用いた、重鎖pI計算値の差が0.68pH単位である(HC1のpI計算値=9.73;HC2のpI計算値=9.05;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は1.33pH単位異なっていた)、共通軽鎖IgG1二重特異性ヘテロ二量体(「MAI」)及び2つの異なる親ホモ二量体抗体種のそれぞれ(上記の実施例で試験した組成物及び型のスキームAに記載の型)を含む組成物のリニアpH勾配分離。開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH4.0。最終バッファーB:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH11.0。流量1ml/min、0%B〜100%Bのリニア勾配形成の長さ20カラム体積。
図2に示した結果は、比較的急なpH勾配及び小スケールカラムにもかかわらず、2つの重鎖のpIの差(及びMAIの2つの異なる重鎖が由来する2つの対応する親ホモ二量体種のpIの差)が、2つのホモ二量体種と所望のヘテロ二量体との間のベースライン分離、ひいてはヘテロ二量体(MAI)の精製をもたらすのに十分であることを実証している(図2)。
実施例2
強カチオン交換体Mono S 5/50 GLカラムまたは強カチオン交換体Mono S 10/100 GLカラムで様々なリニアpH勾配を用いた、重鎖pI計算値の差が0.25pH単位である(HC1のpI計算値=9.46;HC2のpI計算値=9.21;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.59pH単位異なっていた)、共通軽鎖IgG1二重特異性ヘテロ二量体(「MAI」)及び2つの異なる親ホモ二量体抗体種のそれぞれ(上記の実施例で試験した組成物及び型のスキームAに記載の型)を含む組成物のリニアpH勾配分離。図4A:Mono S 5/50 GLカラム(カラム体積:1mL)での0.228mgの全材料の分離:開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH4.0。最終バッファー:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH11.0。流量1ml/min、0%B〜100%Bのリニア勾配形成の長さ20カラム体積。図4B:Mono S 5/50 GLカラム(カラムサイズ:1mL)での1.57mgの全材料の分離:開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH4.0。最終バッファー:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH11.0。流量1ml/min、32.5%B〜55%Bのリニア勾配形成の長さ20カラム体積。図4C:Mono S 10/100 GLカラム(カラムサイズ:8ml)での8.88mgの全材料の分離:開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH4.0。最終バッファー:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH11.0。流量1ml/min、32.5%B〜55%Bのリニア勾配形成の長さ20カラム体積。
図4A〜4Cの溶出ダイアグラムは、図4Aに示すように生成したものに対してリニア勾配をより浅くすること(すなわち図4B及び4Cに示すようにより狭いpH範囲を含むpH勾配範囲を生成すること)、及びサンプル材料の量(質量)を増加させ、それによりカラム上でのサンプルの滞留時間を増加させることの両方が分離度の増加につながることを実証している。さらに、1ml Mono S 5/50 GLカラムで20カラム体積の間に0%B〜100%Bとする完全勾配では部分的な分離しか示さなかったサンプルは、カラム体積をMono S 10/100 GLカラムの8mlに増加させること及び勾配をより浅くすること(20カラム体積の間に32.5%B〜55%B)によって分離された。したがって、これらの結果は、pI計算値の差が約0.59pH単位であった2つの異なる親ホモ二量体抗体種からMAIが精製されたことを示す。加えて、これらの結果は、親ホモ二量体種の重鎖のpI計算値の差が約0.25pH単位であった2つの異なる親ホモ二量体抗体種からMAIが精製されたことを示す。
実施例3
強カチオン交換体Mono S 10/100 GLカラム及びリニアpH勾配を用いた、開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH4.0及び最終バッファー:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH11.0での、重鎖pI計算値の差が様々な共通軽鎖IgG1二重特異性ヘテロ二量体(「MAI」)及び2つの異なる親ホモ二量体抗体種のそれぞれ(上記の実施例で試験した組成物及び型のスキームAに記載の型)を含む組成物のリニアpH勾配分離。流量1ml/min、32.5%B〜55%Bのリニア勾配形成の長さ20カラム体積。図5A:重鎖pI計算値の差が0.68単位である(HC1のpI計算値=9.73;HC2のpI計算値=9.05;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は1.33pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。図5B:重鎖pI計算値の差が0.43pH単位である(HC1のpI計算値=9.43;HC2のpI計算値=9.00;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は1.33pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。図5C:重鎖pI計算値の差が0.25単位である(HC1のpI計算値=9.46;HC2のpI計算値=9.21;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.59pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。図5D:重鎖pI計算値の差が0.24である(HC1のpI計算値=9.43;HC2のpI計算理論値=9.18;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.26pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。図5E:重鎖pI計算理論値の差が0.21である(HC1のpI計算値=9.54;HC2のpI計算値=9.33;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.38pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)が0.26pH単位異なる共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体の混合物に対して、強カチオン交換体Mono S 10/100 GLカラムでのベースライン分離及び比較的浅いリニアpH勾配が達成される。したがって、これらの結果は、pI計算値の差が約1.33〜わずか約0.26pH単位であった2つの異なる親ホモ二量体抗体種からMAIが精製されたことを示す。加えて、これらの結果は、親ホモ二量体種の重鎖のpI計算値の差が約0.7pH単位〜わずか約0.26pH単位であった2つの異なる親ホモ二量体抗体種からMAIが精製されたことを示す。
実施例4
強カチオン交換体Mono S 5/50 GLカラムまたは強カチオン交換体Mono S 10/100 GLカラムで様々なリニアpH勾配を用いた、重鎖pI計算値の差が0.09である(HC1のpI計算値=9.43;HC2のpI計算値=9.33;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.10pH単位異なっていた)、共通軽鎖IgG1二重特異性ヘテロ二量体(「MAI」)及び2つの異なる親ホモ二量体抗体種のそれぞれ(上記の実施例で試験した組成物及び型のスキームAに記載の型)を含む組成物のリニアpH勾配分離。図8A:Mono S 5/50 GLカラムでの0.421mgの全材料の分離:開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH4.0。最終バッファー:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH11.0。流量1ml/min、0%B〜100%Bのリニア勾配形成の長さ20カラム体積。図8B:Mono S 10/100 GLカラムでの7.57mgの全材料の分離:開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH4.0。最終バッファー:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH11.0。流量1ml/min、35%B〜53%Bのリニア勾配形成の長さ20カラム体積。図8C:Mono S 10/100 GLカラムでの6.69mgの全材料の分離:開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH4.0。最終バッファー:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH11.0。流量1ml/min、37%B〜43%Bのリニア勾配形成の長さ20カラム体積。図8Cに示す実験で観察されたMAI回収率は図8Bで観察された回収率と比較して64%増加した。
これらの結果は、pI計算値の差がわずか約0.10pH単位であった2つの異なる親ホモ二量体抗体種から許容可能な程度でMAIが精製されたことを示す(すなわち、このため、収率の減少がわずかであるにもかかわらず実質的に均質にMAIが精製されるように画分体積を選択することができる)。加えて、これらの結果は、親ホモ二量体種の重鎖のpI計算値の差が約0.9pH単位であった2つの異なる親ホモ二量体抗体種からMAIが精製されたことを示す。さらに、これらの結果は、より浅いpH勾配を用いること(すなわち、pH勾配のpH範囲を狭くすること)、及びカラム体積(ひいては、カラムに添加されるタンパク質組成物の滞留時間)を増加させることにより、親ホモ二量体種からのMAIの分離度及びMAIの回収率の両方を増加させることができることを示している。
実施例5
Mono S 10/100 GL強カチオン交換樹脂及び図3の上部の表に概要を示したバッファー組成物を用いて、共通軽鎖IgG1二重特異性ヘテロ二量体(「MAI」)及び2つの異なる親ホモ二量体抗体種のそれぞれ(上記の実施例で試験した組成物及び型のスキームAに記載の型)を含む組成物のリニアpH勾配分離を、リニア塩勾配を用いた同じ組成物の分離と比較した。簡潔に述べると、開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH4.0。最終バッファーB:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH11.0。流量1ml/min、0%B〜100%Bのリニア勾配形成の長さ20カラム体積。
pH勾配実験及び塩勾配実験の両方について、以下の計算値の差を有する共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体を比較した:重鎖pI計算値の差が0.68単位(HC1のpI計算値=9.73;HC2のpI計算値=9.05;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は1.33pH単位異なっていた);重鎖pI計算値の差が0.24単位(HC1のpI計算値=9.43;HC2のpI計算値=9.18;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.26pH単位異なっていた);重鎖pI計算値の差が0.11単位(HC1のpI計算値=9.43;HC2のpI計算値=9.32;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.11pH単位異なっていた);及び重鎖pI計算値の差が0.09単位(HC1のpI計算値=9.43;HC2のpI計算値=9.34;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.1pH単位異なっていた)。
結果は、塩勾配溶出と比較してpH勾配溶出を行った場合に、対応する親ホモ二量体抗体種試験組成物からMAIがより良好に分離されたことを実証している。
実施例6
MAI及び2つの異なる親ホモ二量体抗体種を含む組成物からMAIを分離する能力に、異なる親ホモ二量体抗体種のpI計算値の差が影響を及ぼした程度をさらに調査することが望まれた。
強カチオン交換体Mono S 5/50 GLカラム及びリニアpH勾配を用いた、開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH4.0及び最終バッファー:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH11.0での、重鎖pI計算値の差が様々な共通軽鎖IgG1二重特異性ヘテロ二量体(「MAI」)及び2つの異なる親ホモ二量体抗体種のそれぞれ(上記の実施例で試験した組成物及び型のスキームAに記載の型)を含む組成物のリニアpH勾配分離。流量1ml/min、0%B〜100%Bのリニア勾配形成の長さ20カラム体積。
図6A:重鎖pI計算値の差が0.68単位である(HC1のpI計算値=9.73;HC2のpI計算値=9.05;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は1.33pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。図6B:重鎖pI計算値の差が0.43pH単位である(HC1のpI計算値=9.43;HC2のpI計算値=9.00;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.48pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。図6C:重鎖pI計算値の差が0.25単位である(HC1のpI計算値=9.46;HC2のpI計算値=9.21;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.59pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。図6D:重鎖pI計算値の差が0.21である(HC1のpI計算値=9.54;HC2のpI計算理論値=9.33;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.38pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。図6E:重鎖pI計算理論値の差が0.24である(HC1のpI計算値=9.43;HC2のpI計算値=9.18;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.26pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。図6F:重鎖pI計算理論値の差が0.11である(HC1のpI計算値=9.43;HC2のpI計算値=9.32;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.11pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。図6G:重鎖pI計算理論値の差が0.09である(HC1のpI計算値=9.43;HC2のpI計算値=9.33;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.10pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。
結果は、MAI及びその親ホモ二量体抗体種を含む組成物中に含まれるMAIのそれぞれの分離の成功は、そのような親ホモ二量体抗体種のpI計算値の差とよく相関し、MAIの重鎖ポリペプチドが由来する親ホモ二量体抗体種に含まれる重鎖ポリペプチドのpI計算値の差とまずまずの相関があることを示す。
結果はまた、図7に示すように、異なる親ホモ二量体種の重鎖配列が互いにわずか1アミノ酸だけ異なる場合にも、対応する親ホモ二量体抗体種からMAIを許容可能な程度で分離するのに、本発明で実施した方法が好適であることも実証している。
実施例7
MAI及び2つの異なる親ホモ二量体抗体種を含む組成物からMAIを分離するアニオン交換樹脂の能力を調査することが望まれた。したがって、以下に記載するように分離を実施して、例示的なカチオン交換樹脂の性能を例示的なアニオン交換樹脂の性能と比較した。
強カチオン交換体Mono S 5/50 GLカラム及びリニアpH勾配を用いた、開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH4.0及び最終バッファー:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH11.0での、または強アニオン交換体Mono Q 5/50 GLカラム及びリニアpH勾配を用いた、開始バッファーB:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH11.0及び最終バッファー:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH4.0での、重鎖pI計算値の差が様々な共通軽鎖IgG1二重特異性ヘテロ二量体(「MAI」)及び2つの異なる親ホモ二量体抗体種のそれぞれ(上記の実施例で試験した組成物及び型のスキームAに記載の型)を含む組成物のリニアpH勾配分離。図9A:MONO S 5/50 GLで分離した、重鎖pI計算値の差が0.68単位である(HC1のpI計算値=9.73;HC2のpI計算理論値=9.05;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は1.33pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。図9B:MONO S 5/50 GLで分離した、重鎖pI計算理論値の差が0.24である(HC1のpI計算値=9.43;HC2のpI計算値=9.18;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.26pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。図9C:MONO S 5/50 GLで分離した、重鎖pI計算理論値の差が0.11である(HC1のpI計算値=9.43;HC2のpI計算値=9.32;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.11pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。図9D:MONO Q 5/50 GLで分離した、重鎖pI計算値の差が0.68である(HC1のpI計算理論値=9.73;HC2のpI計算値=9.05;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は1.33pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。図9E:MONO Q 5/50 GLで分離した、重鎖pI計算値の差が0.24である(HC1のpI計算理論値=9.43;HC2のpI計算値=9.18;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.26pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。図9F:MONO Q 5/50 GLで分離した、重鎖pI計算値の差が0.11である(HC1のpI計算値=9.43;HC2のpI計算値=9.32;2つの対応する親ホモ二量体抗体種の計算等電点(pI)は0.11pH単位異なっていた)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体。
これらの結果は、同様のサイズの強カチオン交換体Mono S 5/50 GLカラムでは分離されなかった場合に、強アニオン交換体Mono Q 5/50 GLカラムが、親ホモ二量体抗体種からMAIを許容可能なレベルで精製することができた(すなわち、このため、収率の減少がわずかであるにもかかわらず実質的に均質にMAIが精製されるように画分体積を選択することができる)ことを実証している。
実施例8
親ホモ二量体抗体種のpI計算値の差がより大きいサンプルで、所与のMAI及びその親ホモ二量体抗体種を含む組成物からMAIを分離する能力についてカチオン交換樹脂の性能をアニオン交換樹脂とさらに比較することが望まれた。しかし、この場合、pH勾配は上記の実施例に記載のように調製したが、図10A及び図10Bに示すようにより浅くなる(より狭いpH範囲に及ぶ)ように生成した。したがって、図10Aでは8mL Mono Sカラムを用い、図10Bでは8mL Mono Qカラムを用い、実施例6に記載のように調製され、特徴づけられる、親ホモ二量体抗体種のpI計算値の差がそれぞれ1.33、0.26、0.11、及び0.1であったMAI−親ホモ二量体抗体種組成物を、それぞれ2つの樹脂を用いて試験した。
図10A及び10Bに示す結果は、試験したすべての組成物で、MonoQアニオン交換樹脂がカチオンMono S交換樹脂よりも高い程度で各MAIをその対応する親ホモ二量体抗体種から分離したことを実証している。
実施例9
本開示の方法がプロセススケールの樹脂で適用可能かどうかを判定することが望まれた。したがって、第1段階実験において、親ホモ二量体抗体種のpI計算値の差が1.33及び0.26である組成物を分離する能力について、実施例6に記載のように調製され、特徴づけられる完全pH勾配(すなわちpH4〜pH11)をそれぞれで用いて、一連のカチオン及びアニオン交換樹脂を試験する一連の小スケール(1mLカラム)スカウティング実験を行った。実験の第2段階において、次に第1段階からの3つの最も性能が優れたアニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂を採用し、より大きなカラム(8mL)及びより浅い勾配を用いて、親ホモ二量体抗体種のpI計算値の差がわずか約0.1pH単位であった組成物を分離する3つの最も性能が優れた樹脂の能力を評価した。
図11A及び11Bに示した、親ホモ二量体抗体種間に1.33pH単位のpI差を有する組成物に対する第1段階カチオン交換実験の結果は、Mono S、Source 30S、及びSP HPカチオン交換樹脂が試験した組成物(すなわち「1.33」組成物)を最も良好に分離したことを示していた。図12A、12B、13A、及び13Bに示した、親ホモ二量体抗体種間にそれぞれ1.33pH単位のpI差及び0.26pH単位の差を有する組成物に対する第1段階アニオン交換実験の結果は、Mono Q、Source 30Q、及びQ HPアニオン交換樹脂が試験した組成物(すなわち「1.33」組成物及び「0.26」組成物)を最も良好に分離したことを示していた。しかし、最も性能が優れたカチオン樹脂及びアニオン樹脂のそれぞれを用いてより良好な分離を達成するために、より浅いpH勾配(すなわち、より狭いpH範囲)を用いて、一連のさらなるスカウティング実験を実施した。図14A及び14Bに示すように、親ホモ二量体抗体種間に1.33pH単位のpI差を有する組成物からMAIを分離する能力について、それぞれカチオン樹脂及びアニオン樹脂を小さいカラム(1mL)で図示したより浅い勾配によって試験した。
したがって、実験の第2段階では、大きなカラム(8mL)でより浅い勾配を用いて、親ホモ二量体抗体種のpI計算値の差がそれぞれ0.26、0.11、及び0.10pH単位であった組成物からMAIを分離する能力について試験した。図15A及び15Bに示すように、親ホモ二量体抗体種間に0.26pH単位のpI差を有する組成物からMAIを分離する能力について、それぞれカチオン樹脂及びアニオン樹脂を大きなカラム(8mL)で図示したより浅い勾配によって試験した。図16A及び16Bに示すように、親ホモ二量体抗体種間に0.11pH単位のpI差を有する組成物からMAIを分離する能力について、それぞれカチオン樹脂及びアニオン樹脂を大きなカラム(8mL)で図示したより浅い勾配によって試験した。図17A及び17Bに示すように、親ホモ二量体抗体種間に0.1pH単位のpI差を有する組成物からMAIを分離する能力について、それぞれカチオン樹脂及びアニオン樹脂を大きなカラム(8mL)で図示したより浅い勾配によって試験した。
これらの結果は、最も性能が優れたカチオン及びアニオン樹脂の両セットとも、ほとんどの組成物を十分な程度〜並外れた程度で分離し、親ホモ二量体抗体種pI差が大きいほど良好な分離が生じることを実証している。一般に、アニオン交換樹脂はカチオン樹脂によって達成されるものよりも優れたMAI分離を達成した。
実施例10
強カチオン交換体Mono S 10/100 GLカラム及びリニアpH勾配を用いた、開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH4.0及び最終バッファー:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH11.0での、理論上の重鎖pIの差が様々な共通軽鎖IgG4二重特異性ヘテロ二量体及び親ホモ二量体抗体種(上記の実施例で試験した組成物及び型のスキームBに記載の型)の混合物のリニアpH勾配分離。流量4ml/min。図18A:32%Bの15カラム体積ステップ勾配、続いて32%B〜71%Bの20カラム体積リニア勾配、続いて71%Bの15カラム体積ホールドを用いて、重鎖pI計算理論値の差が1.68である(pI HC1計算理論値=7.05;pI HC2計算理論値=8.73)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体を精製した。図18B:22%Bの15カラム体積ステップ勾配、続いて22%B〜75%Bの20カラム体積リニア勾配、続いて75%Bの15カラム体積ホールドを用いて、重鎖pI計算理論値の差が1.99である(pI HC1計算理論値=6.74;pI HC2計算理論値=8.73)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体を精製した。図18C:25%Bの15カラム体積ステップ勾配、続いて25%B〜83%Bの20カラム体積リニア勾配、続いて83%Bの15カラム体積ホールドを用いて、重鎖pI計算理論値の差が1.77である(pI HC1計算理論値=7.27;pI HC2計算理論値=9.04)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体を精製した。図18D:21%Bの15カラム体積ステップ勾配、続いて21%B〜75%Bの20カラム体積リニア勾配、続いて75%Bの15カラム体積ホールドを用いて、重鎖pI計算理論値の差が1.94である(pI HC1計算理論値=6.74;pI HC2計算理論値=8.68)共通軽鎖二重特異性ホモ二量体及びヘテロ二量体を精製した。
これらの結果は、IgG4アイソタイプ型のMAIが、試験したすべてのpI差で親ホモ二量体IgG4アイソタイプ種から容易に精製されたことを実証している。
実施例11
強カチオン交換体Mono S 10/100 GLカラム及びリニアpH勾配を用いた、開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH4.0及び最終バッファー:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH11.0での、理論上の重鎖pIの差が様々な共通軽鎖二重特異性IgG1/IgG4ハイブリッドヘテロ二量体、ならびにIgG1及びIgG4ホモ二量体抗体種(上記の実施例で試験した組成物及び型のスキームCに記載の型)の混合物のリニアpH勾配分離。流量4ml/min。図19A:24.5%Bの15カラム体積ステップ勾配、続いて24.5%B〜51%Bの20カラム体積リニア勾配、続いて51%Bの15カラム体積ホールドを用いて、重鎖pI計算理論値の差が2.2である(pI HC1(IgG4)計算理論値=7.05;pI HC2(IgG1)計算理論値=9.22)共通軽鎖二重特異性IgG1及びIgG4ホモ二量体ならびにIgG1/IgG4ヘテロ二量体を精製した。図19B:24.5%Bの15カラム体積ステップ勾配、続いて24.5%B〜58%Bの20カラム体積リニア勾配、続いて58%Bの15カラム体積ホールドを用いて、重鎖pI計算理論値の差が2.4である(pI HC1(IgG4)計算理論値=7.05;pI HC2(IgG1)計算理論値=9.46)共通軽鎖二重特異性IgG1及びIgG4ホモ二量体ならびにIgG1/IgG4ヘテロ二量体を精製した。IgG1及びIgG4主鎖間のpIの大きな差はヘテロ二量体からのIgG1及びIgG4ホモ二量体の優れた分離につながる。
これらの結果は、ハイブリッドIgG1/IgG4アイソタイプ型のMAIが、試験したすべてのpI差で親ホモ二量体IgG4アイソタイプ種から容易に精製されたことを実証している。
実施例12
ある場合において、親ホモ二量体種及び対応するMAI(上記の実施例で試験した組成物及び型のスキームDに記載の型)の2つの異なる混合物のそれぞれの溶出プロファイルを図示する図20A及び20Bに示すように、非常に広い溶出プロファイルが観察された。勾配及び溶離液組成物は実施例1〜9に記載の通りであった。図20Aに示す実験において、完全IgGのpI計算理論値の差が1.81である(IgG4ホモ二量体親種AのpI計算理論値=7.41;IgG4ホモ二量体親種BのpI計算理論値=9.22)2つの異なるIgG4ホモ二量体(ホモ二量体親種)及び完全IgG4のpI計算値が8.87である対応するMAIに、強カチオン交換体Mono S 5/50 GLカラム及びリニアpH勾配を用いた、開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH4.0及び最終バッファー:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH11.0でのカチオン交換クロマトグラフィーを行った。図20Aにあるように第1混合物中の様々な種それぞれの溶出が観察されたpHは、7.30(ホモ二量体親種A)、9.73(ホモ二量体親種B)、及び9.14(MAI(ヘテロ二量体親種))であった。図20Bは、異なるIgG4ホモ二量体親種A及びB(しかし、偶然にも、図20Aに示した親種について計算されたものと同じpI計算理論値を有していた)を用いた同様の実験の結果を示す。図20Bに示したMAIはpI計算値=8.76を有していた。図20Bにあるように第1混合物中の様々な種それぞれの溶出が観察されたpHは、7.43(ホモ二量体親種A)、9.77(ホモ二量体親種B)、及び9.18(MAI(ヘテロ二量体親種))であった。
前述の実施例と同様に、図20A及び20Bに示した研究に用いたすべてのサンプル及びカラムはpH4に調製及び平衡化した。そのため、特定の変更した溶出条件及び成分が、そのような広い溶出プロファイルが観察されるか、または所与の混合物中の種の性質に基づいて広い溶出プロファイルが予測される混合物中の種をより良好に分割または分離し得るかどうかを判定することが望まれた。
したがって、図20A及び20Bに示したデータを作成するのに用いた同じホモ二量体親種及びMAIを用いて実験を行ったが、ただしこの場合、ステップpH勾配段階を溶出部分に含め、溶離液のpHを非常に小さい溶離液体積のうちに(すなわち、非常に少ない溶出画分のうちに)約pH4から約pH6.5に増加させた。加えて、ホモ二量体親種及びヘテロ二量体MAI(上記の実施例で試験した組成物及び型のスキームDに記載の型)の両方を含有するサンプル混合物を調製し、カラム上でpH6に平衡化した後、ステップ勾配を生成したところ、最も低いpIのホモ二量体種が溶出された。これにより、次に、浅いリニア勾配段階(図21AにおけるpH7.8〜pH9.65、及び図21BにおけるpH7.94〜pH9.68)を用いることによって、第2ホモ二量体種からの残りのMAIの分割及び分離が可能となった。
図22A及び22Bに示すように、図21A及び図21Bのデータを作成するのに用いた同じ2つのサンプル混合物を、2つの同様の二段階(すなわち、ステップpH勾配の後にリニアpH勾配とするスキーム)溶出実験に用い、一方はpH4で開始し、他方はpH6で開始した。図22A及び22Bに示す結果は、より穏やかなpH(例えばpH4に対してpH6)で開始する溶出では、MAIのそれぞれ対応するホモ二量体親種からの分割、分離、及び溶出が、より極端なpHで開始する(すなわちpH6に対してpH4で開始する)溶出と比較して向上することを実証している。
実施例13
次に、サンプル混合物のより穏やかな開始pH(例えばより低いpHに対してpH6)及び浅いリニアpH勾配(すなわち、比較的大きな溶離液体積(多数の画分/画分体積)にわたって加えられる勾配)を用いることで、互いに値が非常に近いpI計算値及び/またはpI実験値を有する対応するホモ二量体親種からのMAIの分割及び分離が得られるかどうかを判定することが望まれた。
したがって、各ホモ二量体親種の完全IgG4のpI計算理論値がそれぞれ8.97及び8.99であり、MAIの完全IgG4のpI計算理論値が8.98であった、ホモ二量体親種及びヘテロ二量体MAI(上記の実施例で試験した組成物及び型のスキームDに記載の型)の両方を含有するサンプル混合物を調製し、カラムをpH6.0に平衡化してから、強カチオン交換体Mono S 10/100 GLカラム及びリニアpH勾配を用いた、開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH8.34及び最終バッファー:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH9.86でのカチオン交換クロマトグラフィーを行った。図20Aにあるように第1混合物中の様々な種それぞれの溶出が観察されたpHは、7.30(ホモ二量体親種A)、9.73(ホモ二量体親種B)、及び9.14(MAI(ヘテロ二量体親種は図23に示した溶出条件を施した))であった。
結果は、本開示の方法を用いて、pIが対応する親ホモ二量体種それぞれからわずか0.01pH単位だけ異なるMAIを、そのようなホモ二量体親種の両方から分割及び分離することができることを示していた。
実施例14
あるサンプル混合物では、カチオン交換またはアニオン交換いずれも単独ではMAIをホモ二量体親種から満足のいく純度に分離するのに十分でないことが観察された。そうすると、カチオン交換法のMAI溶出ピークに対応する画分をプールしたもの一式に、続けてアニオン交換法を行うことによって、そのようなMAIの分割及び精製が満足いくほどに改善され得るかどうかを評価することが望まれた。各手法は実施例1〜9に記載し、図24に示した通りである。
より具体的には、上記の実施例で試験した組成物及び型のスキームAに記載した型のMAI/ホモ二量体親種混合物の2つの異なる10mgのサンプルアリコートを、その後のアニオン交換法に十分な溶出液を生成するためにカチオン交換カラムに注入した。各ホモ二量体親種の完全IgGのpI計算理論値はそれぞれ9.19及び9.09であり、MAIの完全IgG1のpI計算理論値は9.09であった。pH6.0にサンプル混合物を調製し、カラムを平衡化してから、強カチオン交換体Mono S 10/100 GLカラム及びリニアpH勾配を用いた、開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH6.87及び最終バッファー:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH7.27でのカチオン交換クロマトグラフィーを行った。図24の左部に示したヘテロ二量体(MAI)を含有すると推定される中央ピークを含有するプールを収集し、プールしてから、アニオン交換カラムに注入し、開始バッファーA:9.8mMメチルアミン、9.1mM 1,2−エタンジアミン、6.4mM 1−メチルピペラジン、13.7mM 1,4−ジメチルピペラジン、5.8mMビス−トリス、7.7mMヒドロキシルアミン、及び10mM塩化ナトリウム、pH=9.57;ならびに最終バッファーB:9.8mMメチルアミン、9.1mM 1,2−エタンジアミン、6.4mM 1−メチルピペラジン、13.7mM 1,4−ジメチルピペラジン、5.8mMビス−トリス、7.7mMヒドロキシルアミン、及び10mM塩化ナトリウム、pH=8.07でのリニアpH勾配を用いて溶出した。最初のカチオン交換法からのMAIを含有すると推定されるプールの試料の質量分析により、ピークはホモ二量体親種の一方を相当な量含んでいたことが明らかとなった。その後のアニオン交換カラムから溶出したMAIを含有すると推定されるピークの質量分析により、このピークに対応する画分のプールはMAIを含有しており、ホモ二量体親種をいずれも実質的に含んでいないことが明らかとなった。
これらの結果は、ある混合物では、カチオン交換及びアニオン交換の両方を続けて用いることで、対応するホモ二量体親種からのMAIの分割及び分離を向上させることができることを実証している。
実施例15
次に、特定のMAI及び対応するホモ二量体親種の混合物では、異なるバッファー系または溶離液、とりわけ、アニオン交換樹脂での使用のために設計されたものを用いることが有利であり得るかどうか判定することが望まれた。
したがって、上記の実施例で試験した組成物及び型のスキームAに記載した型のMAI/ホモ二量体親種混合物に、以下のカチオン交換バッファー系を用いて、図25Aに示した条件の下でアニオン交換クロマトグラフィーを行う実験を設計した:開始バッファーA:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH9.20及び最終バッファーB:15.6mM CAPS、9.4mM CHES、4.6mM TAPS、9.9mM HEPPSO、8.7mM MOPSO、11mM MES、13mM酢酸、9.9mMギ酸、10mM NaCl、pH8.20。図25Aに示す3つのピークすべてを質量分析によって分析し、ピーク組成を確認したところ、図25Aに示した通りに観察された。次に、同じMAI/ホモ二量体親種混合物の別個のアリコートに、以下のアニオン交換バッファー系を用いて、図25Bに示した条件の下でアニオン交換クロマトグラフィーを行った:開始バッファーA:9.8mMメチルアミン、9.1mM 1,2−エタンジアミン、6.4mM 1−メチルピペラジン、13.7mM 1,4−ジメチルピペラジン、5.8mMビス−トリス、7.7mMヒドロキシルアミン、及び10mM塩化ナトリウム、pH=9.34;及び最終バッファーB:9.8mMメチルアミン、9.1mM 1,2−エタンジアミン、6.4mM 1−メチルピペラジン、13.7mM 1,4−ジメチルピペラジン、5.8mMビス−トリス、7.7mMヒドロキシルアミン、及び10mM塩化ナトリウム、pH=7.53。図25Bに示す3つのピークすべてを質量分析によって分析し、ピーク組成を確認したところ、図25Bに示した通りに観察された。
これらの結果は、あるMAI/ホモ二量体親種の混合物では、アニオン交換クロマトグラフィー法を用いる際にアニオン交換バッファー系または溶離液を用いると、アニオン交換クロマトグラフィー法を用いる際にカチオン交換バッファー系または溶離液を用いる場合に観察されるものと比較して、著しく改善された純度でホモ二量体親種からMAIが分割及び分離され得ることを示す。
上記の実施例で示したものと同様の結果で用いられ得る他のクロマトグラフィー材料を図26A及び図26Bに提供する。
本発明の特定の実施形態を例示の目的で上記したが、添付の特許請求の範囲に記載の本発明から逸脱することなく、詳細に対する多数の変形形態が可能であることが当業者によって理解されよう。