本発明者は、鋭意研究の結果、画像の剥がれ落ちおよびブロッキングは、裏面にフリースを有する基材にインクジェット法で形成した画像を含む加飾シートにおいて特に生じやすいこと、さらには、シングルパス方式で形成した画像において特に生じやすいこと、を見出した。
その理由の詳細は明らかではないが、以下のように推測される。つまり、フリースにはポリエステルなどの樹脂が含まれており、これらの樹脂は、繊維径、繊維長および繊維の硬さなどを含む物理的特性、または極性などの化学的特性、などが従来用いられてきたセルロース系の基材とは性質が大きく異なることが要因と考えられる。また、セルロースとポリエステルとが混抄されているという点において、一般的なプラスチック基材とも性質が異なると考えられる。
そのため、フリースを含む基材にインクジェット法で画像を形成した加飾シートが有する画像は、ロール状に巻き取る際、または巻き戻す際に、画像を形成した加飾シートの表面がロールにおいて隣接する基材の裏面と擦れて生じる応力によって、より剥がれ落ちやすいものと考えられる。また、フリースを含む基材にインクジェット法で画像を形成した加飾シートが有する画像は、ロール状に巻き取って保存するときに、画像を形成した加飾シートの表面がロールにおいて隣接する基材の裏面に密着して押圧されて生じる応力によって、画像の貼りつき(ブロッキング)がより発生しやすいものと考えられる。
本発明者は、さらなる鋭意研究の結果、上記画像の剥がれ落ちおよびブロッキングには画像の表面における60度光沢の標準偏差が大きく寄与することを見出した。
なお、上記60度光沢の標準偏差は、画像表面の平滑性のばらつきに関連すると考えられる。つまり、画像表面の平滑性にばらつきがあると、入射した光のうち、正反射せずに散乱したり乱反射したりする割合も画像領域ごとに異なるため、60度光沢にもばらつきが生じて、標準偏差が大きくなりやすい。
このように、60度光沢の標準偏差が大きい画像では、上記平滑性のばらつきも大きくなりやすい。そのため、60度光沢の標準偏差が大きい画像では、上述した応力は、画像中の特定の部位(たとえば、より基材からの高さが高い部位や、よりドットが密に集合している部位など)に集中しやすく、上記応力が集中した部位で画像の剥がれ落ちが生じやすい。この、平滑性のばらつきによる特定の部位への応力の集中と、フリースとインクジェットインクに由来するドットとの間の相互作用と、が相まって、裏面にフリースを有する加飾シート用の基材にインクジェット法で形成した画像では、画像の剥がれ落ちおよびブロッキングが生じやすいと考えられる。
また、本発明者は、上記60度光沢の標準偏差は、インクジェット法によって画像を形成したときに顕著に大きくなりやすいことも見出した。つまり、グラビア印刷では基材はシリンダと接触して押圧され、フレキソ印刷では基材はフレキソ版と接触されて押圧される。そのため、従来のグラビア印刷およびフレキソ印刷などでは、上記押圧により画像の表面がより平滑化されやすく、60度光沢の標準偏差もより小さいと考えられる。これに対し、インクジェット法では、インクジェットヘッドからインクの液滴が吐出されて、上記液滴が基材に着弾して定着していくことで、画像が形成されるため、インクジェットヘッドが基材に接触することがない。これにより、インクジェット法では、画像の表面粗さ(平滑性)の制御が難しく、インク液滴の大きさの違い、またはインク液滴の付着量の違いなどにより画像内での表面の粗さの差(平滑性のばらつき)が大きくなりやすく、60度光沢の標準偏差もより大きくなりやすいと考えられる。
さらには、本発明者の知見によれば、上記60度光沢の標準偏差が大きいことによる画像の剥がれ落ちおよびブロッキングは、シングルパス方式で画像を形成したときに顕著に生じやすい。つまり、シングルパス方式では、隣接するインク液滴が基材表面に着弾する間隔が短いため、隣接するインク液滴間の相互作用が大きくなりやすい。隣接するインク液滴間の相互作用が大きくなると、ドット間でのインクの合一によるドットの大きさの差が生じやすいため、上記平滑性のばらつきも大きくなることに起因して60度光沢の標準偏差も大きくなりやすいと考えられる。また、シングルパス方式では、基材をより高速で搬送しつつ画像を形成することができるため、画像を形成した加飾シートが巻き取られる速度が速くなったり、インクの乾燥が不十分だったりすることがある。加飾シートが巻き取られる速度がより速いと、巻き取りの際の擦れによる圧力がより大きくなるため、画像の剥がれ落ちがより生じやすくなる。また、インクの乾燥が不十分だと、保存時のブロッキングがより生じやすくなる。そのため、シングルパス方式で形成した画像では、上記画像の剥がれ落ちおよびブロッキングがさらに顕著に生じやすいと考えられる。
これらの知見に基づき、本発明者は、画像の表面における60度光沢の標準偏差を小さくすることで、上記画像の剥がれ落ちおよびブロッキングがより生じにくくなることを想到し、さらに研究を重ねて本発明を完成させた。
つまり、上記平滑性のばらつきに起因すると推測される60度光沢の標準偏差が小さい場合、画像を形成した加飾シートの表面がロール状に巻き取られる際、または巻き戻される際に隣接する加飾シートの裏面と擦れても、上記擦れによる圧力は画像の幅方向(搬送方向に直交する方向)により均等に分散しやすくなり、画像全体がより弱い力で擦られるため、画像の剥がれ落ちがより生じにくくなると考えられる。
また、上記平滑性のばらつきに起因すると推測される60度光沢の標準偏差が小さい場合、ロール状に巻き取って保存された加飾シートの表面に形成された画像が隣接する裏面に密着して押圧されても、上記押圧による圧力は画像中により均等に分散しやすくなり、画像全体がより弱い力で押圧されるため、画像のブロッキングもより生じにくくなると考えられる。
そのため、画像の光沢度、特には画像の幅方向における光沢、のばらつき(標準偏差)を少なくすることで、画像の剥がれ落ちおよびブロッキングをより抑制した加飾シートとすることができる。
具体的には、加飾シートの表面に形成された画像に、長手方向に10cmの幅を有する任意の領域を設定したとき、上記設定された領域から選択された任意の10個の点から測定される60度光沢の標準偏差が、20以下となるように画像を形成することで、上記平滑性のばらつきが十分に少なくなり、上記画像の剥がれ落ちおよびブロッキングも抑制することができる。なお、加飾シートは、通常、画像を形成する際の搬送方向の長さが基材の幅より長いシート状の基材に画像を形成する。そのため、上記長手方向は、基材の搬送方向に略一致する。
なお、本発明者の知見によれば、上記60度光沢の標準偏差を20以下とした加飾シートは、画像の形成に使用したインクの種類にかかわらず、画像の剥がれ落ちおよびブロッキングを良好に抑制可能である。
ドット形状がそのまま残るため光沢の標準偏差が大きくなりやすい(平滑性のばらつきが大きい)UVインクおよび相転移型UVインクにおいては、平滑化による上述した効果が得られることはもちろん、インク成分の大半が揮発により失われるため形成される塗膜が比較的平滑な水系や溶剤系インクであっても、それらのインクでは吐出性の観点から設計上、高分子量・高架橋の樹脂を多用することができず塗膜耐久性がUVインクおよび相転移型UVインクに比べて低いため、わずかな平滑性向上であっても上述した効果はより顕著に奏されることが期待できる。これらの要因により、画像の形成に使用したインクの種類にかかわらず、画像の60度光沢の標準偏差を20以下とすることで、画像の剥がれ落ちおよびブロッキングが抑制されると考えられる。
1.加飾シート
本発明の一実施形態は、インクジェット法により画像が形成された加飾シートに関する。
1−1.フリース
上記加飾シートは、基材として少なくとも裏面にフリースを有する。
フリースとは、パルプ、綿および麻などに由来するセルロース繊維と、ポリエステル、ポリプロピレンおよびナイロンなどの合成繊維と、を含む混抄紙または不織布を意味する。
たとえば、上記フリースは、壁紙などの基材に一般に用いられている、主体繊維としてセルロースを含み、バインダー繊維としてポリエチレンテレフタレート繊維を含む混抄紙または不織布とすることができる。
上記フリースは、吸水性および強度などを調整する観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ビニロン系樹脂、ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリエステル系樹脂、ベンゾエート系樹脂、ポリクラール、およびフェノール系樹脂などを繊維状にした上記以外の合成繊維、レーヨン繊維、キュプラ繊維、およびリヨセル繊維などを含む再生繊維、アセテート繊維、トリアセテート繊維、およびプロミックス繊維などの半合成繊維、金属繊維、ガラス繊維、ならびに、岩石繊維などの無機繊維を含んでもよい。これらの繊維は組み合わせて用いられてもよく、たとえば、上記フリースは、ポリプロピレンとエチレンビニルアルコールの組みあわせ、および高融点ポリエステルと低融点ポリエステルの組みあわせなどを含んでもよい。
画像の剥がれ落ちおよびブロッキングをより抑制する観点からは、上記フリースは、基材の裏面側における、セルロースとポリエステルとの比率(セルロースの全質量/ポリエステルの全質量)が50/50以上95/5以下であることが好ましく、60/40以上90/10以下であることがより好ましい。
なお、フリースに含まれる繊維比率は、「JIS L 1030−2 繊維製品の混用率試験方法(第1部または第2部)(2012年)」に基づいて求めることが可能である。
ただし、フリースの組成(繊維比率など)は、基材全体に均一でなくても良い。たとえば、画像を形成しようとする側(表面側)のセルロース繊維比率がより高くてもよいし、逆に基材の裏面側のセルロース繊維比率が高くてもよい。フリースの組成が不均一である場合は、上記セルロースとポリエステルとの比率は、基材の裏面の表面近傍(たとえば、基材の裏面の表面から深さ方向に0.1mmの領域)における比率とすることができる。
上記フリースはさらに、混抄紙としての機能および意匠性などを高める観点から、ロジンサイズ剤、ロジンエマルジョンサイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、合成サイズ剤、中性ロジンサイズ剤、およびアルキルケテンダイマー(AKD)などの公知のサイズ剤、各種アニオン性、ノニオン性、カチオン性、および両性の歩留り向上剤、濾水剤、分散剤、紙力向上剤、粘剤、および填料などを含んでいてもよい。また、上記フリースはさらに、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、およびスライムコントロール剤などの抄紙用内添助剤を含んでいてもよい。
上記填料の例には、クレー、カオリン、焼成カオリン、タルク、炭酸カルシウム、および二酸化チタンなどが含まれる。上記填料は、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムなどを含む自己消火性を有する填料であってもよい。
上記基材は、インクジェット法による印刷適性を高める観点から、上記フリースの表面側に樹脂層を有していてもよい。上記樹脂層は、インクジェット法による画像形成の際に基材のインク受容層として使用される公知の樹脂、たとえばアクリル系樹脂などを含むコート層とすることができる。
また、上記基材は、加飾シート表面の意匠性を高めたり、または施工された壁面からの剥離性を高めたりする観点から、上記フリースの表面側に樹脂層または発泡合成樹脂層を有していても良い。上記樹脂層または発泡合成樹脂層は、公知のものを使用でき、たとえば、塩化ビニル系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂などを含む層とすることができる。これらのうち、塩化ビニル系樹脂が好ましい。
上記樹脂層または発泡合成樹脂層は、従来公知の方法で形成されたエンボス柄などを有してもよい。一方で、上記基材は、繊維質による表面テクスチャによる意匠性を活用する観点から、表面に上記フリースを含んでもよい。
上記フリースの坪量は、特に限定されないが、壁紙などとして用いられたときの加飾シートの耐久性(引張強度、硬さ、およびカール性など)をより高める観点から、20g/m2以上200g/m2とすることができ、60g/m2以上150g/m2とすることが好ましい。
1−2.画像
上記加飾シートは、上記基材の表面に、インクジェット法で形成された画像を有する。画像は、色材を用いて基材上に記録された情報であればよく、単一の文字または文字の集合であってもよく、図形、絵、写真などであってもよい。
インクジェット法で形成された画像は、拡大したときにインクジェットインクの液滴に由来するドットが集合してなる画像を意味する。上記ドットは、色材および樹脂などを含むドットであり、かつ、その直径(ドット径)が10μm以上150μm以下、かつ、シリカ粒子、チタニア粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、酸化亜鉛粒子、酸化クロム粒子、酸化セリウム粒子、酸化アンチモン粒子、酸化タングステン粒子、酸化スズ粒子、酸化テルル粒子、酸化マンガン粒子および酸化ホウ素粒子などのトナー特有の外添剤が不検出であれば、インクジェットインクの液滴に由来するドットであると判断できる。
上記画像は、上記加飾シートの長手方向に10cmの幅を有する任意の領域を設定したとき、上記設定された領域から選択された任意の10個の点から測定される60度光沢の標準偏差が20以下である。
つまり、図1Aに示すように、加飾シート1020の表面に形成された画像1010中に、長手方向(図中X方向、画像形成時の基材の搬送方向でもある。)に10cmの幅を有する領域1030を任意に設定する。図1Bに示すように、設定した領域1030内に、10個の点A〜点Jを任意に設定し、これらの点の60度光沢を測定する。60度光沢は、公知の光沢計(たとえば、日本電色工業社製ハンディ光沢計PG−II)で測定して得られた値とすることができる。
これらの点から得られた光沢の値の標準偏差は、√((Σ(測定値−平均値)2)/10)で算出することができる。
画像面と基材裏面のフリース面との擦れは、巻き取り、巻出し時において画像面とフリース面とが接触する前後が最も顕著であると考えらえる。そのため、本発明者らは、画像面とフリース面との間に生じる現象を面と面との相互作用の結果生じるものであると考えた結果、加飾シート1020の表面に形成された画像1010中の長手方向に10cmの幅の領域を設定し、測定すべき塗膜の光沢を上述した標準偏差として算出することが好ましいことを見出した。
なお、本発明者の知見によれば、画像の剥がれ落ちおよびブロッキングは、非ベタ画像部において顕著に生じやすい。そのため、上記10個の点は、設定した領域1030中に任意に設定される各画像領域のうち、色調または印字率が異なる画像領域から選択された点の組み合わせを含むように、設定する。
上記色調は、たとえば、公知の蛍光分光濃度計(FD−7、コニカミノルタ社製など)を用いてCIE L*a*b*表色系におけるL*値、a*値およびb*値を測定して求めることができる。たとえば、上記10個の点は、a*b*座標系において異なる象限に属する点を含むように設定することが好ましい。また、たとえば上記10個の点のうち半数以上が、目視で明らかに互いから異なる色調と判断できるように設定してもよい。
上記印字率は、たとえば、1平方インチあたりのインク被覆面積を測定して求めることができる。たとえば、上記10個の点は、ベタ画像に近い高印字率の部分、ハイライト部に近い低印字率の部分、およびその中間にあたる部分を含むように設定することが好ましい。
上記10個の点は、色調および印字率のいずれかが異なる組み合わせを含むように設定すればよいが、異なる色調かつ異なる印字率の画像領域から選択された5個以上の点の組み合わせを含むことが好ましく、すべての点が異なる色調かつ異なる印字率の画像領域から選択されることがより好ましい。なお、図1Aおよび図1Bでは全体に一様のベタ画像が形成されたように表現されているが、実際は、画像1010は、色調および印字率が異なる複数の領域を含む。
上記60度光沢の標準偏差が20以下である画像は、画像の表面における平滑性がより均一である。そのため、上記画像を形成した加飾シートの表面がロール状に巻き取るとき、または巻き戻すとき、に隣接する加飾シートの裏面と擦れることによる圧力は、画像の幅方向(図1A中Y方向、搬送方向に直交する方向)により均等に分散しやすくなり、かつ、上記画像を形成した加飾シートをロール状に巻き取って保存するとき、または巻き戻すとき、に上記画像が隣接する裏面に密着して押圧されることによる圧力は、画像中により均等に分散しやすくなる。これにより、上記画像は、裏面にフリースを有する基材の表面に形成されたにもかかわらず、画像の剥がれ落ちおよびブロッキングがより抑制されると考えられる。
さらに、測定点は、画像の幅方向(図1A中Y方向、搬送方向に直交する方向)に対してある程度均等に選択されることが好ましい。例えば、異なる色調や異なる印字率の画像領域から選択されたとしても、画像の幅方向において極端に偏った画像領域から選択した場合には、本発明の効果は十分に得られない。
画像の剥がれ落ちおよびブロッキングをさらに抑制する観点からは、上記60度光沢の標準偏差は15以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。上記60度光沢の標準偏差の下限は特に限定されなく、0以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。
また、上記画像は、60度光沢の標準偏差が上記範囲である領域を1個以上含めばよいが、2個以上含むことが好ましく、3個以上含むことがより好ましく、5個以上含むことがさらに好ましい。このとき、上記60度光沢の標準偏差が上記範囲である複数の領域は、互いに、加飾シートの長手方向に少なくとも10cmの間隔を空けて設定されることが好ましい。
また、上記画像は、60度光沢の標準偏差が上記範囲である領域を3個以上含むとき、上記領域は、画像の長手方向両端部からそれぞれ10cmの幅を有する2つの領域と、上記2つの領域のいずれからも10cm以上の間隔を空けて設定された領域、とすることも好ましい。
上記画像の表面における光沢の差異は、ドットによって形成される画像表面の凹凸によるものと考えられる。
そのため、上記60度光沢の標準偏差は、画像表面の凹凸を調整することで、上述した範囲に調整され得る。
なお、画像における60度光沢の標準偏差に関わる因子は多岐にわたると考えられる。上記因子の例には、これらには限定されないものの、インク液滴の大きさ、およびインク液滴の付着量などを含む、インク吐出時の要件、ならびに、インク液滴の基材内部への浸透の度合い、およびインク液滴同士の合一の有無などを含む、基材に着弾した後のインク液滴の挙動など、が含まれる。
そのため、上記画像表面の凹凸の形状は、インクの組成、インクの吐出方法、着弾したインクの乾燥方法、インクが固定化される前の送風、などによって適宜調整させ得る。
たとえば、本発明者の知見によれば、インク液滴が大きい場合、および着弾時に隣接するドット間でのインクの合一が生じやすい場合、などに画像中での60度光沢の標準偏差が大きくなりやすい。
たとえば、インク液滴の大きさ(液滴あたりのインク量)は、より小さい(少ない)ほうが、基材上の単位面積に付着するインク量が少なくなるため、上記画像表面の凹凸の差は小さくなり、画像中での60度光沢の標準偏差もより小さくなりやすい。本発明者の知見によれば、インク液滴が30pl以上50pl以下程度である場合よりも、5pl以上15pl以下であるほうが、画像中での60度光沢の標準偏差もより小さくなりやすい。
また、ドット間でのインクの合一は、生じにくいほど、インクが基材に着弾して形成されるドットの大きさの差も生じにくくなるため、上記画像表面の凹凸の差が小さくなり、画像中での60度光沢の標準偏差もより小さくなりやすい。
ドット間での合一は、たとえば以下の方法で抑制することができる。
たとえば、水系や溶剤系、オイルなどの揮発性インクであれば、液滴が着弾してから隣接位置に次の液滴が着弾するまでの時間を長くなるような印字方法とすることで、その間に先に着弾した液滴が乾燥し粘度上昇が期待できるため、液滴間の合一が抑制され得る。隣接位置における液滴間の着弾時間差は、どの位置にどのような順番で、どのサイズのインク液滴を、どのくらいの液滴速度で吐出するかという印字方法、画像をどのくらいの速度で画像を形成するのかという印字速度、画像をマルチパスで形成するのかシングルパスで形成するのかという走査回数、等によって調整することができる。
また、インクの組成、分散設計およびインクが含有する樹脂の設計を、インクがより揮発しやすいように調整したり、インクにゲル化剤などを含有させて基材表面で相転移させやすくしたり、インクが含有する界面活性剤の種類や添加量を調整してインクの表面張力を変化させたり、インクとの反応性を有する前処理剤を予め基材に付与させて、基材に着弾したインクの物性を急速に変化させたり、コロナ処理などの表面改質によって基材に対するインクの濡れ性を調整したりすることでも、液滴間の合一が抑制され得る。
さらには、加熱温度および加熱時間などの加熱方法、ならびに、送風手段、送風方向、送風温度、および送風量などの送風方法、などによりインクの乾燥度合を調整してもよい。
また、UVインクまたは相転移型UVインクであれば、インクの組成を変更してインクの基材濡れ性を高めたり、相転移速度を早める、あるいは相転移後のインク粘度を高めたりすることで液滴間の合一を抑制することが可能である。また、インクの液滴が基材に着弾してから活性光線を照射して完全に硬化させるまでの間隔を調整したり、インクの液滴が着弾する基材の温度を調整してインクが濡れ広がるかまたは相転移する速度を調整したり、活性光線を照射してインクの液滴を半硬化させて濡れ広がりにくくさせた後に再度の活性光線の照射でインクの液滴を完全硬化させたり、解像度を変えて液滴同士の接触面積を小さくしたり、液滴速度を速くすることで着弾位置精度を高めたり、などすることで、液滴間の合一が抑制され得る。
なお、これらの画像における60度光沢の標準偏差に関わる因子は、個々の因子が独立に作用するものではなく、各因子が相互に作用しながら各画像領域の60度光沢を決定する。そのため、基材の種類、形成すべき画像が含む各部位の色調および印字率、インクジェット画像形成装置の構成、ならびにインク組成などに応じた、上記60度光沢の標準偏差が20以下となる画像形成条件を予め求めておくことで、次回以降の画像形成の際に好ましい条件として用いることができる。
1−3.画像の形成方法
上記画像は、インクジェット法で形成される。
たとえば、上記インクが水系インク、溶剤系インクおよびオイルインクなどであるときは、インクジェットヘッドのノズルから上記インクの液滴を吐出して基材の表面に着弾させ、その後、インクを乾燥させてインク中の液体成分を揮発させたり、インク中に含まれる定着樹脂を成膜させたりすればよい。このとき、インクの液滴を吐出する前に、基材に前処理剤を付与してもよい。また、インクの乾燥は、基材の加熱、基材表面への送風、赤外線加熱、など、種々の手段を用いることができる。
また、上記インクがUVインクまたは相転移型UVインクであるときは、インクジェットヘッドのノズルから上記インクの液滴を吐出して基材の表面に着弾させ、その後、着弾したインクの液滴に活性光線を照射してインクを硬化させればよい。
活性光線の例には、紫外線、電子線、α線、γ線、およびエックス線などが含まれるが、取り扱いの容易さおよび人体への影響の少なさの観点から、紫外線が好ましい。紫外線は波長200〜450nmの範囲が好ましく、300〜400nmの範囲がより好ましい。また、電子線は、光開始剤を用いずに重合反応を起こすことができるため、開始剤に由来する臭気や安全性に配慮する場合には、電子線を用いることが好ましい。電子線を用いる場合、加速電圧は40kV以上150kV未満であることが好ましい。
紫外線または電子線を用いる場合には、酸素による阻害反応を抑えたり、オゾンの発生を抑えたりすることを目的として、低酸素雰囲気でインク硬化を行うことがより好ましい。具体的には、硬化工程を行う際の酸素濃度が、0.1体積%以上10.0体積%以下であることが好ましく、0.5体積%以上8.0体積%以下であることがより好ましく、0.5体積%以上6.0体積%以下であることがさらに好ましい。
なお、水系インクとは、インク組成成分中の50%以上が水であるインクを意味する。水系インクは、色材、分散剤、定着樹脂、有機溶剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、および金属キレート剤などを含有してもよい。また、水系インクは、乾燥後の塗膜の強度を高める観点から、光重合性組成物および光重合開始剤をさらに含有してもよい。
また、水系インクは、樹脂の成膜時間、成膜後の強度を向上させる目的で、凝集剤または架橋剤を適宜組み合わせて用いても良い。水系インクは、凝集剤または架橋剤を含む1液のみで構成されても良いし、凝集剤または架橋剤を含む前処理剤とインクの2液にわけて構成されていても良い。インクジェットヘッドからのインク吐出性や、成膜された樹脂の物性を高める観点からは、2液式の方が好ましい。
また、溶剤インクとは、インク組成成分中の50%以上が有機溶剤であるインクを意味する。溶剤インクは、色材、分散剤、定着樹脂、および界面活性剤などをさらに含有してもよい。
また、オイルインクとは、インク組成成分中の50%以上がオイルであるインクを意味する。オイルインクは、色材、分散剤、有機溶剤、界面活性剤などをさらに含有してもよい。
また、UVインクとは、インク組成成分中の50%以上が光重合性組成物であるインクを意味する。UVインクとは、色材、分散剤、光重合開始剤、光安定化剤、界面活性剤などをさらに含有してもよい。
また、相転移型UVインクとは、ワックスなどのゲル化剤をさらに含有し、温度変化により可逆的にゾルゲル相転移するUVインクを意味する。
上記画像には、各種インクジェットインク(または前処理剤)ごとに、インクに由来する上記成分がそれぞれ含まれ得る。ただし、有機溶剤や水は着弾後に揮発するため画像中にはほとんど残存しなく、各種樹脂は着弾後に架橋などにより分子量などが変わることもあり、光重合性化合物は重合および架橋して重合体となっており、光重合開始剤は分裂などしていることもある。
上記各種インクは、インクジェットヘッドから吐出可能であればよく、たとえば、インク粘度が、1mPas以上100mPas以下であればよい。インクの粘度は、3mPas以上50mPa・s以下であることがより好ましい。なお、室温下でのインク粘度が上記範囲よりも高い場合、あるいは相転移型UVインクなどのように温度変化により相転移するインクを用いるときは、吐出時のインクの粘度が上記範囲になるように、公知の方法でインクジェットヘッドなどを加温して吐出されるインクの温度を調整してもよい。加温されたインクジェットヘッドの温度は、特に限定されないが、20℃以上150℃以下であることが好ましく、20℃以上100℃以下であることがより好ましい。
インクが顔料(または分散剤が吸着した顔料)および樹脂微粒子などを含有するときは、インクジェットヘッドからの吐出性をより高める観点から、上記顔料および樹脂微粒子などの平均粒子径は、0.05μm以上0.5μm以下であることが好ましく、0.05μm以上0.3μmであることがより好ましい。
なお、本発明における平均粒子径とは、動的光散乱法によって求めた値であり、たとえば、データサイザーナノZSP(Malvern社製)などの装置を使用して測定した値とすることができる。
上記画像は、単一種のインクを用いて形成されてもよいし、色材の種類などの組成が異なる複数のインクを含むインクセットを用いて形成されてもよい。上記インクセットは、色材を実質的に含有しないクリアインクを含んでいてもよい。
上記画像は、加飾シート表面の、長手方向に10cmの幅を有する任意の領域内の画像から選択された任意の10個の点から測定される60度光沢の標準偏差が、20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下となるように、形成される。
具体的には、解像度および諧調数などを含む形成すべき画像、前記インクジェットインクの組成、ならびに、インクジェットヘッドの隣接するノズル間の距離およびインクジェットヘッドと光源または乾燥機との間の距離などを含む画像形成装置の構成、などに応じて、60度光沢の標準偏差が上記範囲となるように、1画素中に吐出されるインクの液滴サイズ、液滴速度、印字速度、走査回数、などの印字条件の調整および光源の照射の回数やタイミング、または、加熱温度、加熱時間などの加熱方法、または、送風手段や送風方向、送風温度、送風量などの送風方法、などによりインク硬化のタイミングまたはインク乾燥度合いなどを適宜調整する。調整する条件はこれらに限定されず、60度光沢の標準偏差が上記範囲となる限りにおいて、公知のいかなる条件を調整してもよい。
1−3−1.インクジェットインクまたは前処理剤の成分
加飾シートの形成に用いられるインクジェットインク(または前処理剤)は、たとえば、以下の成分を含む。以下の成分は、それぞれ単独で用いられてもよいし、複数種を組み合わせて用いられてもよい。
1−3−1−1.色材
上記各種インクは、色材を含有してもよい。
色材には、顔料および染料が含まれる。インクの分散安定性をより高め、かつ耐候性が高い画像を形成する観点からは、色材は顔料であることが好ましい。
顔料の例には、カラーインデックスに記載される下記の有機顔料および無機顔料が含まれる。
赤またはマゼンタ顔料の例には、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、および88、ならびにPigment Orange 13、16、20、および36が含まれる。
青またはシアン顔料の例には、pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17−1、22、27、28、29、36、および60が含まれる。
緑顔料の例には、Pigment Green 7、26、36、および50が含まれる。
黄顔料の例には、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94、95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、および193が含まれる。
黒顔料の例には、Pigment Black 7、28、および26が含まれる。
なお、白顔料として酸化チタン、または中空粒子を用いてもよい。
染料の例には、各種の油溶性染料が含まれる。
顔料または染料の含有量は、インクの全質量に対して0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。顔料または染料の含有量がインクの全質量に対して0.1質量%以上であると、得られる画像の発色が十分となる。顔料または染料の含有量がインクの全質量に対して20質量%以下であると、インクの粘度が高まりすぎない。
1−3−1−2.分散剤
上記顔料は、分散剤で分散されていてもよい。
分散剤の例には、界面活性剤および高分子分散剤などが含まれるが、高分子分散剤が好ましい。
高分子分散剤の例には、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル系樹脂、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ステアリルアミンアセテート、および顔料誘導体などが含まれる。
なお、「(メタ)アクリル」は「アクリル」または「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」または「メタクリレート」を意味する。
顔料は、さらに必要に応じて分散助剤によって分散性を高められていてもよい。
分散剤の含有量は、顔料の全質量に対して10質量%以上200質量%以下であることが好ましい。分散剤の含有量が顔料の全質量に対して10質量%以上であると、顔料の分散安定性が高まり、分散剤の含有量が顔料の全質量に対して200質量%以下であると、インクジェットヘッドからのインクの吐出性が安定しやすくなる。
なお、顔料を含有するインクを調製する際は、顔料、溶媒を含む顔料分散液を調製し、その後、顔料分散液と他の成分とを混合することが好ましい。顔料分散液は、分散剤をさらに含んでもよい。
顔料分散液は、溶媒に顔料を分散して調製することができる。顔料の分散は、たとえば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカーなどを用いて行えばよい。このとき、分散剤を添加してもよい。
1−3−1−3.定着樹脂
上記各種インク、特に水系インクおよび溶剤インクは、塗膜の耐擦性およびブロッキング耐性をより高めるため、定着樹脂を含有してもよい。
定着樹脂の例には、インク中に分散して分散体を形成するラテックスと、水または有機溶剤によりインク中に溶解する溶解性樹脂とが含まれる。
ラテックスは、平均粒子径が20nm以上500nm以下である樹脂微粒子を意味する。
ラテックスは、ガラス転移温度が−20℃以上120℃であることが好ましい。
ラテックスの例には、市販のラテックスポリマー、好ましくはコモノマーをエマルジョンの非連続相で分散させ重合させて得られる乳化重合技術のポリマーであることが好ましい。
上記コモノマーは、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシヘキシルアクリレート、ヒドロキシヘキシルメタクリレート、ヒドロキシオクタデシルアクリレート、ヒドロキシオクタデシルメタクリレート、ヒドロキシラウリルメタクリレート、ヒドロキシラウリルアクリレート、フェネチルアクリレート、フェネチルメタクリレート、6−フェニルヘキシルアクリレート、6−フェニルヘキシルメタクリレート、フェニルラウリルアクリレート、フェニルラウリルメタクリレート、3−ニトロフェニル−6−ヘキシルメタクリレート、3−ニトロフェニル−18−オクタデシルアクリレート、エチレングリコールジシクロペンチルエーテルアクリレート、ビニルエチルケトン、ビニルプロピルケトン、ビニルヘキシルケトン、ビニルオクチルケトン、ビニルブチルケトン、シクロヘキシルアクリレート、メトキシシラン、アクリロキシプロピルエチルジメトキシシラン、トリフルオロメチルスチレン、トリフルオロメチルアクリレート、トリフルオロメチルメタクリレート、テトラフルオロプロピルアクリレート、テトラフルオロプロピルメタクリレート、ヘプタフルオロブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、およびイソオクチルメタクリレートなどから適宜選択することができる。
溶解性樹脂の例には、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、および塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂などが含まれる。
特には、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合物、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合物、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合物および塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシアルキルアクリレート共重合物が好ましい。これらの水溶性樹脂には、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合物および塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合物を混合して用いてもよく、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、およびポリウレタン系樹脂などをさらに混合してもよい。
また、水溶性樹脂は、カルボキシ基を有する疎水性の不飽和ビニル化合物および親水性モノマーを重合して得られる樹脂であってもよい。
上記カルボキシ基を有する疎水性の不飽和ビニル化合物の例には、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、およびアクリル酸2−ヒドロキシエチルなどを含むアクリル酸エステル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、およびメタクリル酸グリシジルなどを含むメタクリル酸エステル、ならびにスチレンなどが含まれる。
上記親水性モノマーの例には、アクリル酸、メタクリル酸、およびアクリルアミドなどが含まれる。なお、アクリル酸のような酸性基を有するモノマーは、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなどを含むアルカリ金属塩、ならびにアンモニア、アルカノールアミン、およびアルキルアミンなどを含むアミン類などで、重合後に部分的あるいは完全に塩基成分で中和されることが好ましい。
水溶性樹脂は、重量平均分子量(Mw)が、1000以上25000以下であることが好ましく、酸価が50mgKOH以上250mgKOH以下であることが好ましい。
定着樹脂の含有量は、固形分量としてインクの全質量に対して1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。定着樹脂の含有量がインクの全質量に対して1質量%以上であると、塗膜の耐擦性およびブロッキング耐性をより高めることができる。定着樹脂の含有量がインクの全質量に対して20質量%以下であると、インクジェットヘッドからのインクの吐出性が安定しやすくなる。
1−3−1−4.凝集剤
上記各種インク、特に水系インクにおいては凝集剤をさらに併用することが好ましい。吸収性の低い記録媒体においては、吐出されたインクが基材に着弾後、隣接ドット間で液滴合一による画像品質の劣化が生じやすい。そのため、たとえば、凝集剤を含む前処理剤を予め基材に塗布する等しておくことにより、インクが基材に着弾した際に凝集剤とインクとが基材上で接触して両者が混合したときに、インクを急速に増粘させて液滴の合一を抑えることが可能である。
このような凝集剤の機能としては、たとえば、インク中における顔料、分散剤、定着樹脂などに含まれるカルボン酸基が、塩基性下においては解離して溶解状態であることにより顔料もしくは分散剤、定着樹脂などの分散安定に寄与する一方、凝集剤により酸性条件下となるとプロトン化されることで不溶性となり、分散安定性が崩れて凝集、インクの増粘へとつながると考えらえる。
凝集剤の例には、プロトン供与体となりうる有機酸、無機酸、多価金属塩、カチオン性の樹脂などが含まれる。
有機酸の例は、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、トリカルバリル酸、グリコール酸、チオグリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸、グルコン酸、ピルビン酸、オキサル酢酸、ジグリコール酸、安息香酸、フタル酸、マンデル酸、およびサリチル酸などが含まれる。
無機酸の例には、酢酸、塩酸、硫酸、亜塩素酸、硝酸、亜硝酸、亜硫酸、亜燐酸、燐酸、塩素酸、次亜リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、アミド硫酸、およびホウ酸などが含まれる。
多価金属塩の例には、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸バリウム、硫酸バリウム、りん酸バリウム、塩化マンガン、酢酸マンガン、ギ酸マンガン二水和物、硫酸マンガンアンモニウム六水和物、塩化第二銅、塩化アンモニウム銅(II)二水和物、硫酸銅、塩化コバルト、チオシアン酸コバルト、硫酸コバルト、硫酸ニッケル六水和物、塩化ニッケル六水和物、酢酸ニッケル四水和物、硫酸ニッケルアンモニウム六水和物、アミド硫酸ニッケル四水和物、硫酸アルミニウム、アルミニウムミョウバン、亜硫酸アルミニウム、チオ硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム九水和物、塩化アルミニウム六水和物、臭化第一鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、フェノールスルホン酸亜鉛、臭化亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛六水和物、硫酸亜鉛、四塩化チタン、テトライソプロピルチタネート、チタンアセチルアセトネート、乳酸チタン、ジルコニルアセチルアセトネート、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム、ステアリン酸ジルコニル、オクチル酸ジルコニル、硝酸ジルコニル、オキシ塩化ジルコニル、ヒドロキシ塩化ジルコニル、酢酸クロム、硫酸クロム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム六水和物、クエン酸マグネシウム九水和物、りんタングステン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムタングステン、12タングストりん酸n水和物、12タングストけい酸26水和物、塩化モリブデン、12モリブドりん酸n水和物、硝酸ガリウム、硝酸ゲルマニウム、硝酸ストロンチウム、酢酸イットリウム、塩化イットリウム、硝酸イットリウム、硝酸インジウム、硝酸ランタン、塩化ランタン、酢酸ランタン、安息香酸ランタン、塩化セリウム、硫酸セリウム、オクチル酸セリウム、硝酸プラセオジミウム、硝酸ネオジミウム、硝酸サマリウム、硝酸ユーロピウム、硝酸ガドリニウム、硝酸ジスプロシウム、硝酸エルビウム、硝酸イッテルビウム、塩化ハフニウム、および硝酸ビスマスなどが含まれる。
これらの多価金属塩のうち、硫酸アルミニウム、アルミニウムミョウバン、亜硫酸アルミニウム、チオ硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム九水和物、および塩化アルミニウム六水和物などを含むアルミニウム含有化合物(水溶性アルミニウム化合物)、ジルコニルアセチルアセトネート、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム、ステアリン酸ジルコニル、オクチル酸ジルコニル、硝酸ジルコニル、オキシ塩化ジルコニル、およびヒドロキシ塩化ジルコニルなどを含むジルコニル含有化合物(水溶性ジルコニル化合物)、ならびに、四塩化チタン、テトライソプロピルチタネート、チタンアセチルアセトネート、および乳酸チタンなどを含むチタン含有化合物が好ましく、特には、ポリ塩化アルミニウム、酢酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム、およびオキシ塩化ジルコニルが好ましい。
インク中における凝集剤の含有量は、インクの全質量に対して0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
また、凝集剤を含む水系インクを用いる場合には、凝集剤を含まない第1の水系インクと、凝集剤を含む第2の水系インクを用いて、第1の水系インクの付与前に第2の水系インクを前処理剤として基材上に塗布しておくことがより好ましい。なお、この第2の水系インクは、ロールコーターやスピンコーターなどを用いて基材の表面に塗布してもよいし、スプレー塗布、浸漬法、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷などの方法で基材の表面に付与してもよいし、インクジェット法で基材の表面に着弾させてもよい。
1−3−1−5.有機溶剤
上記各種インク、特に水系インク、溶剤インクおよびオイルインクは、インクの粘度調整、定着樹脂の溶解性の向上、基材表面でのインクの濡れ性の向上、特には塩化ビニル系樹脂の皮膜への塗膜の密着性の向上などの観点から、有機溶剤を含有してもよい。また、インクが沸点の異なる複数の有機溶剤を組み合わせて含有すると、着弾後のインクの乾燥性を調整することも可能である。
有機溶剤の例には、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、ジオール、トリオール、グリコールエーテル、ポリ(グリコール)エーテル、ラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、長鎖アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、グリコールブチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アミド、アミン、エーテル、カルボン酸、エステル、オルガノスルフィド、オルガノスルホキシド、スルホン、アルコール誘導体、カルビトール、ブチルカルビトール、セロソルブ、エーテル誘導体、アミノアルコールおよびケトンなどが含まれる。
特には、炭素数30以下の第1級脂肪族アルコール、炭素数30以下の第1級芳香族アルコール、炭素数30以下の第2級脂肪族アルコール、炭素数30以下の第2級芳香族アルコール、炭素数30以下の1,2−ジオール、炭素数30以下の1,3−ジオール、炭素数30以下の1,5−ジオール、エチレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)アルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)アルキルエーテルのより高級の同族体、ポリ(プロピレングリコール)アルキルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)アルキルエーテルのより高級の同族体、β―ラクタム、2−ピロリドン、δ―ラクタム、ε−カプロラクタム、ラウロラクタム、およびN−メチル−2−ピロリドンなどを含むラクタム、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、およびテトラメチルプロピレンジアミンなどを含むアミン類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、およびN,N−ジメチルアセトアミドなどを含むアミド類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、および1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどを含む複素環類、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド、テトラエチレンスルホキシド、ジメチルスルホン、メチルエチルスルホン、メチル−イソプロピルスルホン、メチル−ヒドロキシエチルスルホン、およびスルホランなどを含むスルホキシド類、N,N−ジメチル尿素、N,N‘−ジメチル尿素、テトラメチル尿素、N,N−ジエチル尿素、N−シクロヘキシル尿素、イミダゾリジノン、およびN,N−ジメチルイミダゾリジノンなどを含む窒素化合物が好ましい。
さらには、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1、2−アルカンジオールおよび1、3−プロパンジオールなどの水溶性有機溶剤が好ましい。上記1、2−アルカンジオールの例には、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、および1,2−ヘプタンジオールなどが含まれる。これらのうち、吐出安定性を高める観点からは、1,2−ヘキサンジオールが好ましい。
なお、基材が表面に塩化ビニル系樹脂の皮膜を有するときは、塗膜の密着性の向上をより高める観点から、塩化ビニル系樹脂が可溶な有機溶媒、たとえば上記スルホキシド類、窒素化合物、アミド類、およびラクタム類を用いることが好ましい。上記塩化ビニル系樹脂が可溶な有機溶媒の含有量は、水系インクおよびオイルインクなどの全質量に対して3質量%以上30室量%以下であることが好ましい。
水系インクまたはオイルインク中の有機溶剤の含有量は、インクの全質量に対して5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、5質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。
溶剤系インク中の有機溶剤の含有量は、インクの全質量に対して50質量%以上99質量%以下であることが好ましい。
1−3−1−6.オイル
上記オイルインクは、オイルを含有する。
上記オイルの例には、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、イソオクタン、およびイソデカンなどを含む脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、シクロオクタン、およびシクロデカンなどを含む脂環式炭化水素類、ならびに、オクタノール、デカノール、およびオクタデセノールなどを含む高級アルコールが含まれる。
オイルインクは、溶媒として高級脂肪酸エステルおよびシリコーンオイルなどをさらに含んでもよく、さらに植物油を含有してもよい。上記植物油の例には、大豆油、綿実油、菜種油、ゴマ油、およびコーン油などを含む半乾性油類、オリーブ油、落花生油、および椿油などを含む不乾性油類、ならびに、亜麻仁油、およびサフラワー油などを含む乾性油類が含まれる。
オイルインク中の上記オイルの含有量は、インクの全質量に対して50質量%以上99質量%以下であることが好ましい。
1−3−1−7.光重合性化合物
上記各種インク、特にUVインク相転移型UVインクは、光重合性化合物を含有してもよい。
光重合性化合物は、活性光線の照射により架橋または重合する化合物である。活性光線は、たとえば電子線、紫外線、α線、γ線、およびエックス線などであり、紫外線であることが好ましい。
光重合性化合物は、ラジカル重合性化合物でもよく、カチオン重合性化合物でもよい。また、光重合性化合物は、ラジカル重合性化合物とカチオン重合性化合物との組み合わせて用いても良い。
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物(モノマー、オリゴマー、ポリマーあるいはこれらの混合物)である。
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物の例には、不飽和カルボン酸とその塩、不飽和カルボン酸エステル化合物、不飽和カルボン酸ウレタン化合物、不飽和カルボン酸アミド化合物およびその無水物、アクリロニトリル、スチレン、不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、および不飽和ウレタンなどが含まれる。不飽和カルボン酸の例には、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸などが含まれる。
なかでも、ラジカル重合性化合物は、不飽和カルボン酸エステル化合物であることが好ましく、(メタ)アクリレートであることがより好ましい。(メタ)アクリレートは、後述するモノマーだけでなく、オリゴマー、モノマーとオリゴマーの混合物、変性物、重合性官能基を有するオリゴマーなどであってよい。
(メタ)アクリレートの例には、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミルスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸、およびt−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどを含む単官能モノマー、
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、およびポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどを含む二官能モノマー、ならびに
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、およびペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレートなどを含む三官能以上の多官能モノマーなどが含まれる。
(メタ)アクリレートは、変性物であってもよい。変性物である(メタ)アクリレートの例には、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、およびエチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどを含むエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどを含むカプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ならびにカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどを含むカプロラクタム変性(メタ)アクリレートなどが含まれる。
(メタ)アクリレートは、重合性オリゴマーであってもよい。重合性オリゴマーである(メタ)アクリレートの例には、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、芳香族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、および直鎖(メタ)アクリルオリゴマーなどが含まれる。
カチオン重合性化合物の例には、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、およびオキセタン化合物などが含まれる。
エポキシ化合物の例には、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド、および脂肪族エポキシドなどが含まれる。塗膜の硬化性をより高める観点からは、エポキシ化合物は芳香族エポキシドまたは脂環式エポキシドであることが好ましい。
芳香族エポキシドは、多価フェノールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体と、エピクロルヒドリンとを反応させて得られるジまたはポリグリシジルエーテルでありうる。反応させる多価フェノールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体の例には、ビスフェノールAおよびそのアルキレンオキサイド付加体などが含まれる。アルキレンオキサイド付加体におけるアルキレンオキサイドの例には、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドなどが含まれる。
脂環式エポキシドは、シクロアルカン含有化合物を、過酸化水素および過酸などの酸化剤でエポキシ化して得られるシクロアルカンオキサイド含有化合物でありうる。シクロアルカンオキサイド含有化合物におけるシクロアルカンの例には、シクロヘキセンおよびシクロペンテンなどが含まれる。
脂肪族エポキシドは、脂肪族多価アルコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体と、エピクロルヒドリンとを反応させて得られるジまたはポリグリシジルエーテルでありうる。脂肪族多価アルコールの例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、および1,6−ヘキサンジオールなどを含むアルキレングリコールなどが含まれる。アルキレンオキサイド付加体におけるアルキレンオキサイドの例には、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドなどが含まれる。
ビニルエーテル化合物の例には、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−o−プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、およびオクタデシルビニルエーテルなどを含むモノビニルエーテル化合物、ならびに
エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、およびトリメチロールプロパントリビニルエーテルなどを含むジまたはトリビニルエーテル化合物などが含まれる。
ビニルエーテル化合物は、硬化性および密着性などより高める観点から、ジまたはトリビニルエーテル化合物が好ましい。
光重合性化合物の含有量は、UVインクまたは相転移型UVインクの全質量に対して50質量%以上97質量%以下であることが好ましく、60質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。
1−3−1−8.光重合開始剤
上記各種インク、特にUVインク相転移型UVインクは、光重合開始剤を含有してもよい。光重合開始剤は、その構造に応じて特定波長の光を吸収することで、重合反応開始のトリガーとなるラジカルや酸といった開始種を発生させる化合物である。
光重合開始剤は、上記光重合性化合物がラジカル重合性の官能基を有する化合物であるときは、光ラジカル開始剤を含み、前記光重合性化合物がカチオン重合性の官能基を有する化合物であるときは、光酸発生剤を含む。光重合開始剤は、光ラジカル開始剤と光酸発生剤の両方の組み合わせであってもよい。
ラジカル系の光重合開始剤には、分子内結合開裂型と分子内水素引き抜き型とが含まれる。
分子内結合開裂型の光重合開始剤の例には、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、および2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノンなどを含むアセトフェノン系の開始剤、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、およびベンゾインイソプロピルエーテルなどを含むベンゾイン類、2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシドなどを含むアシルホスフィンオキシド系の開始剤、ならびに、ベンジル及びメチルフェニルグリオキシエステルなどが含まれる。
分子内水素引き抜き型の光重合開始剤の例には、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル−4−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、および3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノンなどを含むベンゾフェノン系の開始剤、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントンなどを含むチオキサントン系の開始剤、ミヒラーケトン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノンなどを含むアミノベンゾフェノン系の開始剤、10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−エチルアンスラキノン、9,10−フェナンスレンキノン、ならびにカンファーキノンなどが含まれる。
カチオン系の光重合開始剤の例には、光酸発生剤が挙げられる。光酸発生剤の例には、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、およびホスホニウムなどを含む芳香族オニウム化合物のB(C6F5)4 −、PF6 −、AsF6 −、SbF6 −、CF3SO3 −塩など、スルホン酸を発生するスルホン化物、ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物、ならびに鉄アレン錯体などが含まれる。
上記芳香族オニウム化合物の例には、以下に示す化合物が含まれる。
上記スルホン酸を発生するスルホン化物の例には、以下に示す化合物が含まれる。
上記ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物の例には、以下に示す化合物が含まれる。
上記鉄アレン錯体の例には、以下に示す化合物が含まれる。
光重合開始剤の含有量は、活性光線や光重合性化合物の種類などにもよるが、インクの全質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上8質量%以下であることがより好ましい。
さらに上述した光重合開始剤の中でも、360nm以上に吸収極大を有する化合物が好ましい。360nm以上に吸収極大を有する化合物としては、2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシドなどのアシルホスフィンオキシド系の開始剤が含まれる。光重合開始剤として360nm以上に吸収極大を有する化合物を用いると、LEDのような低照度の光源を用いた硬化が可能となり、臭気の抑制、安全性の向上、マイグレーションの防止といった効果が期待できる。色味をより良好にする観点からは、光重合開始剤の吸収極大は410nm以下であることが好ましい。
1−3−1−9.光安定化剤
上記各種インクは、光安定化剤を含有してもよい。
光安定化剤は、ラジカルを捕捉する作用を有する有機化合物を用いることができる。
光安定化剤は、形成された画像への光の照射または加熱によって生成するラジカルを捕捉して、形成された画像の耐候性をより高め、光のみならず、熱による画像の濃度または色彩の経時的な変化も、抑制することができる。
光安定化剤の例には、ヒンダードアミン系の化合物(HALS)、ヒンダードフェノール系の化合物、ヒンダードアミド系の化合物およびTEMPOなどの光安定化剤などが含まれる。これらの光安定化剤は、ラジカルを捕捉した後、再び捕捉前の元の形態に戻るというラジカル捕捉機構をもつため、繰り返しラジカルを捕捉することが可能となり、耐候性をより高めることが可能となる。
光安定化剤の含有量は、インクの全質量に対して0.02質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。
1−3−1−10.ゲル化剤
相転移型UVインクは、ゲル化剤を含有する。
ゲル化剤は、記録媒体に着弾したインクの液滴を相転移によりゲル化して仮固定(ピニング)することができる化合物であればよい。記録媒体に着弾したインクがゲル化してピニングされると、隣り合うドットが合一しにくくなる。また、インクがゲル状態になると、インク液滴中への環境中の酸素の入り込みが抑えられて酸素による硬化阻害が生じにくくなるため、塗膜表面の強度が高まり、画像面と基材裏面のフリース面が接した際に、擦れによる画像の剥がれ落ちやブロッキングが生じにくくなる。
また、以下の観点から、ゲル化剤は、インクのゲル化温度以下の温度で、インク中で結晶化することが好ましい。ゲル化温度とは、加熱によりゾル化または液体化したインクを冷却していったときに、インクがゾルからゲルに相転移し、インクの粘度が急変する温度をいう。具体的には、ゾル化または液体化したインクを、レオメータ(たとえば、Physica社製、MCR300)で粘度を測定しながら冷却していき、粘度が急激に上昇した温度を、そのインクのゲル化温度とすることができる。
ゲル化剤がインク中で結晶化すると、板状に結晶化したゲル化剤によって形成された三次元空間に光重合性化合物が内包される構造が形成されることがある(このような構造を、以下「カードハウス構造」という。)。カードハウス構造が形成されると、液体の光重合性化合物が前記空間内に保持されるため、インク液滴がより濡れ広がりにくくなり、インクのピニング性がより高まる。インクのピニング性が高まると、記録媒体に着弾したインク液滴同士が合一しにくくなる。
カードハウス構造を形成させやすくする観点からは、インク中で溶解している光重合性化合物とゲル化剤とが相溶していることが好ましい。これに対して、インク中で溶解している光重合性化合物とゲル化剤とが相分離していると、カードハウス構造を形成しにくい場合がある。
結晶化によるカードハウス構造の形成に好適なゲル化剤の例には、ケトンワックス、エステルワックス、石油系ワックス、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、硬化ヒマシ油、変性ワックス、高級脂肪酸、高級アルコール、ヒドロキシステアリン酸、N−置換脂肪酸アミドおよび特殊脂肪酸アミドを含む脂肪酸アミド、高級アミン、ショ糖脂肪酸のエステル、合成ワックス、ジベンジリデンソルビトール、ダイマー酸ならびにダイマージオールが含まれる。
上記ケトンワックスの例には、ジリグノセリルケトン、ジベヘニルケトン、ジステアリルケトン、ジエイコシルケトン、ジパルミチルケトン、ジラウリルケトン、ジミリスチルケトン、ミリスチルパルミチルケトンおよびパルミチルステアリルケトンが含まれる。
上記エステルワックスの例には、ベヘニン酸ベヘニル、イコサン酸イコシル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸パルミチル、パルミチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、セロチン酸ミリシル、ステアリン酸ステアリル、パルミチン酸オレイル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルが含まれる。
上記石油系ワックスの例には、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスおよびペトロラクタムを含む石油系ワックスが含まれる。
上記植物系ワックスの例には、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、ホホバ固体ロウおよびホホバエステルが含まれる。
上記動物系ワックスの例には、ミツロウ、ラノリンおよび鯨ロウが含まれる。
上記鉱物系ワックスの例には、モンタンワックスおよび水素化ワックスが含まれる。
上記変性ワックスの例には、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体、12−ヒドロキシステアリン酸誘導体およびポリエチレンワックス誘導体が含まれる。
上記高級脂肪酸の例には、ベヘン酸、アラキジン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸,ラウリン酸、オレイン酸、およびエルカ酸が含まれる。
上記高級アルコールの例には、ステアリルアルコールおよびベヘニルアルコールが含まれる。
上記ヒドロキシステアリン酸の例には、12−ヒドロキシステアリン酸が含まれる。
上記脂肪酸アミドの例には、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミドおよび12−ヒドロキシステアリン酸アミドが含まれる。
上記N−置換脂肪酸アミドの例には、N−ステアリルステアリン酸アミドおよびN−オレイルパルミチン酸アミドが含まれる。
上記特殊脂肪酸アミドの例には、N,N’−エチレンビスステアリルアミド、N,N’−エチレンビス−12−ヒドロキシステアリルアミドおよびN,N’−キシリレンビスステアリルアミドが含まれる。
上記高級アミンの例には、ドデシルアミン、テトラデシルアミンおよびオクタデシルアミンが含まれる。
上記ショ糖脂肪酸のエステルの例には、ショ糖ステアリン酸およびショ糖パルミチン酸が含まれる。
上記合成ワックスの例には、ポリエチレンワックスおよびα−オレフィン無水マレイン酸共重合体ワックスが含まれる。
上記ジベンジリデンソルビトールの例には、1,3:2,4−ビス−O−ベンジリデン−D−グルシトールが含まれる。
これらのゲル化剤のうち、よりピニング性を高める観点からは、ケトンワックス、エステルワックス、高級脂肪酸、高級アルコールおよび脂肪酸アミドが好ましく、上記観点からは、下記一般式(G1)で表されるケトンワックスおよび下記一般式(G2)で表されるエステルワックスがさらに好ましい。下記一般式(G1)で表されるケトンワックスおよび下記一般式(G2)で表されるエステルワックスは、インクジェットインク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。また、下記一般式(G1)で表されるケトンワックスおよび下記一般式(G2)で表されるエステルワックスは、インクジェットインク中に、いずれか一方のみが含まれていてもよいし、双方が含まれていてもよい。
一般式(G1):R1−CO−R2
一般式(G1)において、R1およびR2は、いずれも炭素数が9以上25以下である直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基である。
一般式(G2):R3−COO−R4
一般式(G2)において、R3およびR4は、いずれも炭素数が9以上25以下である直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基である。
上記一般式(G1)で表されるケトンワックスまたは上記一般式(G2)で表されるエステルワックスは、直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基の炭素数が9以上であるため、ゲル化剤の結晶性がより高まり、かつ、上記カードハウス構造においてより十分な空間が生じる。そのため、光重合性化合物が上記空間内に十分に内包されやすくなり、インクのピニング性がより高くなる。また、直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基の炭素数が25以下であるため、インクのゾルか温度が過度に高まらないため、インクを出射するときにインクを過度に加熱する必要がない。上記観点からは、R1およびR2は炭素原子数11以上23未満の直鎖状の炭化水素基であることが特に好ましい。
また、インクのゲル化温度を高くして、着弾後により急速にインクをゲル化させる観点からは、R1もしくはR2のいずれか、またはR3もしくはR4のいずれかが飽和している炭素原子数11以上23未満の炭化水素基であることが好ましい。上記観点からは、R1およびR2の双方、またはR3およびR4の双方が飽和している炭素原子数11以上23未満の炭化水素基であることがより好ましい。
上記一般式(G1)で表されるケトンワックスの例には、ジリグノセリルケトン(炭素数:23−24)、ジベヘニルケトン(炭素数:21−22)、ジステアリルケトン(炭素数:17−18)、ジエイコシルケトン(炭素数:19−20)、ジパルミチルケトン(炭素数:15−16)、ジミリスチルケトン(炭素数:13−14)、ジラウリルケトン(炭素数:11−12)、ラウリルミリスチルケトン(炭素数:11−14)、ラウリルパルミチルケトン(11−16)、ミリスチルパルミチルケトン(13−16)、ミリスチルステアリルケトン(13−18)、ミリスチルベヘニルケトン(13−22)、パルミチルステアリルケトン(15−18)、バルミチルベヘニルケトン(15−22)およびステアリルベヘニルケトン(17−22)が含まれる。なお、上記括弧内の炭素数は、カルボニル基で分断される2つの炭化水素基それぞれの炭素数を表す。
一般式(G2)で表される脂肪酸またはエステルワックスの例には、ベヘニン酸ベヘニル(炭素数:21−22)、イコサン酸イコシル(炭素数:19−20)、ステアリン酸ステアリル(炭素数:17−18)、ステアリン酸パルミチル(炭素数:17−16)、ステアリン酸ラウリル(炭素数:17−12)、パルミチン酸セチル(炭素数:15−16)、パルミチン酸ステアリル(炭素数:15−18)、ミリスチン酸ミリスチル(炭素数:13−14)、ミリスチン酸セチル(炭素数:13−16)、ミリスチン酸オクチルドデシル(炭素数:13−20)、オレイン酸ステアリル(炭素数:17−18)、エルカ酸ステアリル(炭素数:21−18)、リノール酸ステアリル(炭素数:17−18)、オレイン酸ベヘニル(炭素数:18−22)およびリノール酸アラキジル(炭素数:17−20)が含まれる。なお、上記括弧内の炭素数は、エステル基で分断される2つの炭化水素基それぞれの炭素数を表す。
ゲル化剤の含有量は、インクの全質量に対して1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。ゲル化剤の含有量を1.0質量%以上とすることで、インクのピニング性を十分に高めて隣接する液滴間の合一を抑制しやすくなる。ゲル化剤の含有量を10.0質量%以下とすることで、インクジェットヘッドからのインク射出性をより高めることができる。上記観点からは、インクジェットインク中のゲル化剤の含有量は、1.0質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、1.2質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以上3.0質量%以下であることがさらに好ましい。
1−3−1−11.界面活性剤
上記各種インクは、界面活性剤を含有してもよい。
界面活性剤は、インクの表面張力を調整して、着弾後のインクの基材に対する濡れ性を調整したり、隣接する液滴間の合一を抑制したりすることができる。
界面活性剤の例には、シリコン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、およびパーフルオロアルケニル基を有するフッ素系界面活性剤などが含まれる。
シリコン系界面活性剤は、ジメチルポリシロキサンの側鎖または末端をポリエーテル変性したものである。
アセチレングリコール系界面活性剤は、分子中に三重結合を有し、その隣接炭素原子に水酸基およびアルキル基を有したものである。アセチレングリコール系界面活性剤は、三重結合に対して左右対称構造であるものが好ましい。
パーフルオロアルケニル基を有するフッ素系界面活性剤は、4−フッ化エチレンおよびヘキサフルオロプロピレンなどをアニオン的に重合した2量体、3量体または5量体と、導入された親水基とを有する化合物である。フッ素系界面活性剤は、上記親水基としてポリオキシエチレンエーテルを有するノニオン型、スルホン酸またはカルボン酸を有するアニオン型、4級アンモニウム塩およびカルボン酸を有するベタイン型のいずれでもよい。
上記以外の界面活性剤の例には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン縮合物、およびソルビタン誘導体などを含むノニオン性界面活性剤、アルキルスルホコハク酸、および燐酸エステル類などを含むアニオン活性剤、ならびにアルキルポリアミノエチルグリシン塩、およびアミドベタイン類などを含む両性界面活性剤などが含まれる。
界面活性剤の含有量は、インクの全質量に対して0.001質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.001質量%硫黄1.0質量%以下であることがより好ましい。
1−3−1−12.その他
上記各種インクは、上記の成分以外に、必要に応じて、多糖類、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防黴剤、防錆剤などを含んでもよい。
なお、上記各種インクは、シリカ粒子、チタニア粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、酸化亜鉛粒子、酸化クロム粒子、酸化セリウム粒子、酸化アンチモン粒子、酸化タングステン粒子、酸化スズ粒子、酸化テルル粒子、酸化マンガン粒子および酸化ホウ素粒子などのトナー特有の外添剤を実質的に含有しないことが好ましい。実質的に含有しないとは、インクの全質量に対するこれらの外添剤の含有量の合計が1.0質量%以下であることを意味する。
2.インクジェット画像形成システム
本発明の他の実施形態は、上記画像を有する加飾シートを作製可能なインクジェット画像形成システムに関する。
図2は、UVインクまたは相転移型UVインクにより画像を形成するインクジェット画像形成システム100の構成例を示す模式図である。
インクジェット画像形成システム100は、基材300の搬送方向に沿って上流側から、送り出し装置110、画像形成装置120および回収装置130がこの順に配置されて構成される。インクジェット画像形成システム100は、さらに、上述した各装置の動作を制御する制御部140を有する。
送り出し装置110は、上述した基材300を画像形成装置120へ送り出す装置である。送り出し装置110の筐体内では、図2に示すように、ロール状の基材300が支持軸に巻回されて回転可能に保持されている。送り出し装置110は、たとえば、支持軸に巻回された基材300を、複数のローラー(たとえば、繰り出しローラー、給紙ローラー)を経由して、一定の速度で外部へ搬送する。
画像形成装置120は、インクジェット吐出部120aおよび照射部120bを備える。
インクジェット吐出部120aは、インクジェットヘッド122を備えて、基材の表面にインクジェットインクを付与する。
インクジェットヘッド122は、ノズル124の吐出口が設けられたノズル面を、搬送される基材300の表面に対向する面に有しており、搬送される基材300の表面に対してインクの液滴を吐出して、基材300の表面にインクの液滴を着弾させる。なお、特に相転移型UVインクにより画像を形成する場合には、相転移型UVインクをゾル化して吐出性を高める観点から、インクジェットヘッド122は、インクの温度を調整してインクを低粘度に調整するための温度調整手段を有してもよい。温度調整手段の例には、パネルヒーター、リボンヒーターおよび保温水による加熱手段が含まれる。
インクジェットヘッド122は、オンデマンド方式およびコンティニュアス方式のいずれのインクジェットヘッドでもよい。オンデマンド方式のインクジェットヘッドの例には、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型およびシェアードウォール型を含む電気−機械変換方式、ならびにサーマルインクジェット型およびバブルジェット(バブルジェットはキヤノン社の登録商標)型を含む電気−熱変換方式などが含まれる。
また、インクジェットヘッド122は、基材300の搬送方向に直行する方向に必要個数並べて複数回走査することにより画像を形成するマルチパス方式(スキャン方式)でも良いし、基材300の搬送方向に全種類のインクを吐出するために必要な個数のインクジェットヘッドを並べて1回の走査により画像を形成するシングルパス方式(ライン式)であっても良い。
これらのうち、シングルパス方式は、隣接する液滴間の合一による画像表面の凹凸の差がより生じやすい。そのため、本実施形態は、シングルパス方式を用いるときに、画像の剥がれ落ちおよびブロッキングをより抑制する効果をより顕著に発揮し得る。
なお、インクジェット吐出部120aは、吐出前のインクジェットインクを貯蔵するためのインクタンク(不図示)、およびインクタンクとインクジェットヘッド122とをインクが流通可能に連通するインク流路(不図示)などをさらに備えてもよい。また、インクタンク、インク流路は、加熱手段を有していてもよく、これらの温度をヘッドの使用温度に合わせ適宜調整をすることが好ましい。
なお、画像形成装置120は、送り出し装置110とインクジェット吐出部120aとの間に、基材300を加温可能な加温部125を備えてもよい。特に、相転移型UVインクを用いるとき、加温部125は、基材300の温度を調整することで、基材300に着弾したインクの液滴が温度変化によって相転移するまでの時間を制御することにより隣接する液滴間の合一を抑制することができる。
照射部120bは、光源126を備えて、基材300の表面に着弾したインクの液滴に、光源126から活性光線を照射する。照射部120bは、インクジェットヘッド122よりも下流側で基材300の表面に対向する位置に配置することができる。光源の輻射熱によって基材が変形してしまうことを抑制する観点から、光源126は発光ダイオード(LED)であることが好ましい。上記活性光線を照射することができるLED光源の例には、Phoseon Technology社製、395nm、水冷LEDが含まれる。
なお、マルチパス方式で画像を形成する場合は、照射部120bがインクジェットヘッド122の片方または両方の側面に備えられていてもよい(不図示)。インクジェットヘッド122の側面に備えられた照射部でインクの液滴を硬化すると、インクジェットヘッド122の走査毎にインクの液滴を硬化することが可能となり、液滴間の合一をより抑制しやすい。また、インクジェットヘッド122の側面に備えられた照射部で、インクの液滴を半硬化させ、さらにその下流側に設けられた照射部120bで完全硬化させるタイミングを調整しても、画像の光沢を調整することが可能である。
また、照射部120bは、光源126より上流側に、温度調整可能な送風機構を備えていても良い(不図示)。着弾後のインクに対して活性光線の照射に送風することにより、インク表面の凹凸形状を変化させ、光沢感を調整することが可能である。特に、相転移型UVインクの場合は、60℃以上の熱風を送風することで顕著に光沢感を制御することが可能である。
回収装置130は、画像形成装置120から搬送されてきた加飾シート310を巻き取って回収する装置である。回収装置130の筐体内では、図2に示すように、ロール状の加飾シート310が支持軸に巻回されてロール状に保持される。回収装置130は、画像形成装置120から搬送されてきた加飾シート310を、複数のローラー(たとえば、繰り出しローラー、排紙ローラー)を経由して、一定の速度で支持軸に巻き取る。
なお、送り出し装置110および回収装置130は、回収装置130が巻き取った加飾シート310に巻き取りの際のずれが生じた場合などに、加飾シート310を巻き戻すことが可能であってもよい。
図3は、水系インク、溶剤インクおよびオイルインクなどにより画像を形成するインクジェット画像形成システム200の構成例を示す模式図である。
インクジェット画像形成システム200は、画像形成装置220の構成のみが図2に示すインクジェット画像形成システム200と異なるので、重複する部分の説明は省略し、画像形成装置220の構成のみを説明する。
画像形成装置220は、インクジェット吐出部220aおよび乾燥部220bを備える。
インクジェット吐出部220aは、インクジェットヘッド222を備えて、基材の表面にインクジェットインクを付与する。
インクジェットヘッド222は、ノズル224の吐出口が設けられたノズル面を、搬送される基材300の表面に対向する面に有しており、搬送される基材300の表面に対してインクの液滴を吐出して、基材300の表面にインクの液滴を着弾させる。
インクジェットヘッド222は、オンデマンド方式およびコンティニュアス方式のいずれのインクジェットヘッドでもよい。オンデマンド方式のインクジェットヘッドの例には、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型およびシェアードウォール型を含む電気−機械変換方式、ならびにサーマルインクジェット型およびバブルジェット(バブルジェットはキヤノン社の登録商標)型を含む電気−熱変換方式などが含まれる。
また、インクジェットヘッド222は、基材300の搬送方向に直行する方向に必要個数並べて複数回走査することにより画像を形成するマルチパス方式(スキャン方式)でも良いし、基材300の搬送方向に全種類のインクを吐出するために必要な個数のインクジェットヘッドを並べて1回の走査により画像を形成するシングルパス方式(ライン式)であっても良い。
これらのうち、シングルパス方式は、隣接する液滴間の合一がより生じやすい。そのため、本実施形態は、シングルパス方式を用いるときに、画像の剥がれ落ちおよびブロッキングをより抑制する効果をより顕著に発揮し得る。
なお、インクジェット吐出部220aは、吐出前のインクジェットインクを貯蔵するためのインクタンク(不図示)、およびインクタンクとインクジェットヘッド222とをインクが流通可能に連通するインク流路(不図示)などをさらに備えてもよい。また、インクタンク、インク流路は、加熱手段を有していてもよく、これらの温度をヘッドの使用温度に合わせ適宜調整をすることが好ましい。
なお、画像形成装置220は、送り出し装置110とインクジェット吐出部220aとの間において、基材300を加温可能な加温部225を備えてもよい。特に、水系インク、溶剤インク、またはオイルインクを用いるとき、加温部225は、基材300を予め加温しておくことで、基材300に着弾したインクの液滴を速やかに乾燥させることができ、かつ、着弾した瞬間のインク液滴の増粘速度を高めて、隣接する液滴間の合一を抑制することができる。
乾燥部220bは、基材300の表面に着弾したインクの液滴を乾燥させる。乾燥部220bは、たとえば、IRヒーターまたは温風ドライヤーなどの乾燥機226と、搬送されてきた基材300を反転させる反転部228とを備え、基材300を移動させつつ、基材300に着弾したインクの液滴を乾燥させる。
乾燥部220b中の基材300の向きは任意に設定できるが、乾燥装置の大きさを小さくしつつ、乾燥による形成された画像への滲みの発生を抑制する観点からは、インクが着弾した基材300の面が鉛直方向上方を向いた状態で基材300上のインクの液滴を乾燥させた後、インクが着弾した基材300の面が鉛直方向下方を向くように基材300を反転させて、インクが着弾した基材300の面が鉛直方向下方に向いた状態で基材300上のインクの液滴を乾燥させる工程を含むことが好ましい。
なお、画像形成装置220(またはインクジェット吐出部220a)は、前処理液を基材300の表面に付与する前処理液付与部(不図示)などをインクジェット吐出部220aの上流側にさらに備えていてもよい。前処理液付与部は、たとえば、塗布ローラーに前処置液を供給するディスペンサーと、供給された前処理液を基材300上に塗布する塗布ローラーと、を含む構成とすることができる。また、前処理液送付部は、さらに乾燥機構を備えても良く、インクジェット吐出部220aに基材が移動する前の乾燥性を適宜調節できることが好ましい。
図4は、図2に示すインクジェット画像形成システム100の概略的な構成を示すブロック図であり、図5は、図3に示すインクジェット画像形成システム200の概略的な構成を示すブロック図である。インクジェット画像形成システム200は、画像形成装置220の構成のみが図2に示すインクジェット画像形成システム200と異なるので、重複する部分の説明は省略する。
制御部140は、CPU(Central Processing Unit)142、ROM(Read Only Memory)144、およびRAM(Random Access Memory)146などを備える。CPU142は、ROM144から処理内容に応じたプログラムを読み出してRAM142に展開し、展開したプログラムと協働してインクジェット画像形成システム100またはインクジェット画像形成システム200の各装置の動作を制御する。このとき、記憶部150に格納されている各種データが参照される。記憶部150は、たとえば不揮発性の半導体メモリ(いわゆるフラッシュメモリ)やハードディスクドライブで構成される。
制御部140は、通信部160を介して、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)などの通信ネットワークに接続された外部の装置(たとえばパーソナルコンピューター)との間で、各種データの送受信を行う。制御部140は、たとえば、外部の装置から送信された画像データを受信し、この画像データ(入力画像データ)に基づいて基材300の表面に画像を形成させる。通信部160は、たとえばLANカードなどの通信制御カードで構成される。
制御部140は、上記受信した画像データに基づき、送り出し装置110による基材300の送り出し、インクジェットヘッド122またはインクジェットヘッド222による基材300の表面へのインクの付与、照射部120bによる活性光線の照射、乾燥部220bによるインクの乾燥、回収装置130による加飾シート310の巻き取りなどの画像形成のための駆動を制御する。また、制御部140は、同様に、上述した各装置が備える搬送部(搬送ベルト)による基材300の駆動(搬送のオン/オフおよび搬送速度など)も制御する。
記憶部150は、予め求められた、当該システムに含まれる画像形成装置120または画像形成装置220を使用して、当該システムが含む画像形成装置120または画像形成装置220が搭載するインクを使用する際の、画像の解像度および諧調数と、加飾シート310の表面の、長手方向に10cmの幅を有する任意の領域内の画像から選択された任意の10個の点から測定される60度光沢の標準偏差が、20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下となる画像が形成される条件と、の関係を示すデータ(画像−駆動条件対応テーブル(DEW))を格納する。画像−駆動条件対応テーブルは、画像形成装置120または画像形成装置220の構成(たとえば、インクジェットヘッド122またはインクジェットヘッド222のノズル間の最短距離、およびインクジェットヘッド122と照射部120bまたは乾燥部220bとの間の距離など)と用いられるインクの組成などとの関係を、条件を変更しながら測定して、予め求めておくことができる。
制御部140が、記憶部150が格納する画像−駆動条件対応テーブルを参照しつつ、通信部160を通じて受信した画像データに基づいて画像形成装置120または画像形成装置220を動作させて基材300の表面に画像を形成することで、基材300の表面の、長手方向に10cmの幅を有する任意の域領内の画像から選択された任意の10個の点から測定される60度光沢の標準偏差が上記範囲となる画像が形成される条件で、画像が形成される。
たとえば、制御部140は、送り出し装置110が有するローラーの回転速度、および回収装置130が有するローラーの回転速度などを変更して、形成される画像の60度光沢の標準偏差が上記範囲となるように、送り出し装置110からの基材300の送り出しの速度、基材300の搬送速度、および回収装置130での加飾シート310の回収の速度などを調整する。
また、制御部140は、記録すべき内容(印字解像度および階調数など)およびインクの種類などにしたがって、画像形成装置120のインクジェットヘッド122または画像形成装置220のインクジェットヘッド222を制御し、形成される画像の60度光沢の標準偏差が上記範囲となるように、ノズル124またはノズル224から吐出されるインクの液滴量、ヘッドの駆動周波数、マルチドロップの有無など、を調整する。
また、制御部140は、基材300の搬送速度および吐出したインクの量および種類などに応じて、形成される画像の60度光沢の標準偏差が上記範囲となるように、乾燥部220bの動作を調整して、基材300に着弾したインクの液滴を乾燥させる。
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
[実施例1]:マルチパス方式による画像形成
<各インクジェットインクの作成>
〇水系インクの調製
(顔料分散体の調製)
顔料分散剤としてスチレン−アクリル酸共重合体(ジョンクリル678、BASF社製)3質量部、ジメチルアミノエタノール1.3部、イオン交換水80.7部を70℃で攪拌混合し溶解した。次いで、前記溶液にC.I.ピグメントブルー15:3を15部添加しプレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、水系シアン顔料分散体を調製した。
(水系インクの調製)
下記に示す化合物を順に添加してインク組成物を作製後、1.0μmのフィルターによりろ過して水系インクを得た。
水系シアン顔料分散体 25部
ラテックス樹脂(ジョンクリル537、BASF社製) 12部
トリエチレングリコールモノエチルエーテル 30部
グリセリン 8部
シリコン系界面活性剤(信越化学工業製、KF−640) 0.3部
イオン交換水 残部
〇溶剤インクの調製
(顔料分散体の調製)
C.I.ピグメントブルー15:3を20部、スルホン酸基を有する銅フタロシアニン顔料誘導体(ソルスパーズ5000、ルーブリゾール製)を5部、顔料分散剤であるアジスパーPB−822(味の素ファインテテクノ社製、ポリアリルアミンと遊離のカルボン酸を有するポリエステルとの縮合物)を5部、溶媒としてジエチレングリコールジエチルエーテルを70部混合し、直径0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、溶剤系シアン顔料分散体を得た。
(インクの調製〉
下記に示す化合物を順に添加してインク組成物を作製後、1.0μmのフィルターによりろ過して溶剤インクを得た。
溶剤系シアン顔料分散体 15部
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂(ソルバインC5R、日信化学工業社製) 10部
ジエチレングリコールジエチルエーテル 54.5部
スルホラン 10部
2−ピロリドン 10部
シリコン系界面活性剤(BYK340、BYK社製) 0.5部
〇オイルインクの調製
(顔料分散体の調製)
Hostperm Blue B2G(クラリアント社製)を20部、ソルスパーズ17000(ルーブリゾール製)を5部、溶媒としてアイソパーG(エクソンモービル社製)75部混合し、直径0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、オイル系シアン顔料分散体を得た。
(インクの調製〉
下記に示す化合物を順に添加してインク組成物を作製後、1.0μmのフィルターによりろ過してオイルインクを得た。
オイル系シアン顔料分散体 12部
アイソパーG 50部
落花生油 18部
シクロヘキサン 20部
シリコン系界面活性剤(BYK340、BYK社製) 0.5部
〇UVインクの調製
(顔料分散体の調製)
C.I.ピグメントブルー15:4を20部、アジスパーPB−824(味の素ファインテテクノ社製)を5部、溶媒としてジエチレングリコールジアクリレート(SR230:Satomer社製)を65部、80℃で加熱しながら混合し、直径0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、UV系シアン顔料分散体を得た。
(インクの調製〉
下記に示す化合物を順に添加して、60℃に加温しながら2時間撹拌することによりインク組成物を作製後、1.0μmのフィルターによりろ過してUVインクを得た。
UV系シアン顔料分散体 15部
環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート (ビスコート#200、大阪有機化学工業社製) 10部
トリプロピレングリコールジアクリレート (Miramer M220、MIWON社製) 29.5部
アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル (VEEA、日本触媒社製) 25部
(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルメタクリレート(OXE−30、大阪有機化学工業社製) 20部
Irgacure819 (BASF社製) 5部
IrgacureTPO (BASF社製) 4部
イルガスタブUV−10(BASF社製) 1部
シリコン界面活性剤(BYK3455、BYK社製) 0.5部
〇相転移型UVインクの調製
UVインクの調製方法において、トリプロピレングリコールジアクリレートの3%をラウリル酸アミド(ダイヤミッドY、日本化成社製)に置き換えた以外は同様にして、相転移型UVインクを得た。
<画像の作成>
(記録媒体)
幅960mmのロールタイプである以下に示す基材を用いた。
基材1: フリース(坪量150g/m2、MA8942D 150、AHLSTROM社製)
基材2: 塩化ビニル樹脂系フリース(坪量100g/m2のフリース基材の表面に、全体の坪量が150g/m2となるようにポリ塩化ビニル樹脂をコートしたもの)
基材3: インク受容層を有するコート紙(坪量150g/m2)
(出力画像)
高精細カラーディジタル標準画像 JIS X 9201:2001(SCID 画像)
N1: ポートレート
N4: ワインと食器
N6: らん(蘭)
N8: キャンドル
(インクジェット記録装置)
インクジェット記録装置は、インクを吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドにインクを供給するインクタンク、基材の温度を調整する機構、インク流路の温度を調整する機構、吐出されて基材に着弾したインクの液滴を加熱により乾燥させるための機構、吐出されて基材に着弾したインクの液滴を紫外線照射により硬化させるための機構、を備えた装置を用意した。なお、加熱機構としては、基材裏面方向からのステージ加温機構、基材の表方向からの温風機構を搭載した。また、紫外線照射装置としては、UV−LEDランプ(395nm、8W/cm2、Phoseon Technology社製)を、ヘッドを搭載したキャリッジの両側面、および吐出部の下流側にそれぞれ設置し、吐出直後または吐出して数秒〜数十秒後に紫外線照射によるインクの硬化ができるようにした。また、インク流路、ヘッドは、インク粘度が5mPas以上20mPas以下の範囲となるように適宜温度調整を行った。また、出力された画像は、プリンタに備えられた巻き取り部によって、印字後すみやかにロール状に巻き取れるような構成とした。また、インクジェットヘッドは、搬送方向に3個のヘッドを千鳥状に並べて使用し、かつ基材の搬送に対して垂直方向に左右走査が可能であるマルチパス方式の装置を使用した。
なお、UV−LEDランプから記録媒体面までの距離は25mmとし、照射光量は、光源からの出力または基材の搬送速度を変えることによって適宜調整した。照射光量は、紫外線積算光量計(浜松ホトニクス社製、C9536、 H9958)を用いて測定した。
(インクジェット記録方法)
各インクジェットインクをインクジェットヘッドに充填した後、上記の機構を備えた幅1.2mのマルチパス方式インクジェットプリンタに搭載して、幅920mm×長さ10mのサイズ内に表1に記載の画像を繰り返し割り付け、以下に示す方法によって、基材1〜基材3に出力を行った。なお、インクジェットヘッドは、ノズル数1776、ノズル密度600dpi、最小液滴量が3pl以上5pl以下(駆動波形、駆動電圧により調整)のピエゾ型ヘッド、および、ノズル数1024、ノズル密度360dpi、最小液滴量5plまたは15plのピエゾ型ヘッドのインクジェットヘッドを使用した。なお、各々のヘッドはマルチドロップ駆動することにより液滴サイズを適宜可変することができるものを用いた。
(水系インク、画像1の形成)
印字速度8m2/h、解像度1200dpi×900dpi、パス数8、液滴サイズは3pl、6pl、9plの4階調にて、基材2に出力し、画像1を形成した。なお、印字中、基材温度は50℃に加温し、また、100℃の熱風を送風しながらインクの乾燥を行った。
(水系インク、画像2〜画像4の形成)
パス数と送風温度を変更した以外は画像1と同様にして、基材1または基材2に対して画像2〜画像4を形成した。
(溶剤インク、画像5の形成)
印字速度30m2/h、解像度720dpi×720dpi、パス数4、液滴サイズは15plの2階調にて、基材1に出力し、画像5を形成した。なお、印字中、基材温度は40℃に加温し、また、室温下で送風しながらインクの乾燥を行った。
(溶剤インク、画像6〜画像7の形成)
印字速度と送風温度を変更した以外は画像5と同様にして、基材1および基材2に対してそれぞれ画像6および画像7を形成した。
(オイルインク、画像8の形成)
印字速度5m2/h、解像度720dpi×1440dpi、パス数8、液滴サイズは5pl、10pl、15plの4階調にて、基材1に出力し、画像8を形成した。なお、印字中、基材温度は40℃に加温しながらインクの乾燥を行った。
(オイルインク、画像9〜画像10の形成)
印字速度と液滴サイズを変更した以外は画像8と同様にして、基材1および基材2に対してそれぞれ画像9および画像10を形成した。
(UVインク、画像11、12の形成)
印字速度20m2/h、解像度720dpi×540dpi、パス数6、液滴サイズは15pl、30plの3階調にて、基材1および基材2に対してそれぞれ画像11および画像12を形成した。なお、インクは吐出後0.1秒内にキャリッジの両側面に備えたUV−LEDにより50mJ/cm2の照射光量で紫外線を照射し半硬化させた。その後、インクの吐出から30秒以内に下流側に備えたUV−LEDで1000mJ/cm2の照射光量で紫外線を照射し完全硬化させた。
(UVインク、画像13〜画像15の形成)
印字速度とパス数、完全硬化のタイミングを変更した以外は画像11および画像12と同様にして、基材1および基材2に対して画像13〜画像15を形成した。
(相転移型UVインク、画像16〜画像18形成)
印字速度10m2/h、解像度600dpi×600dpi、パス数8、液滴サイズは5pl、15pl、30plの4階調にて、基材1〜基材3に出力し、画像16〜画像18を形成した。その後、インクの吐出から30秒以内に下流側に備えたUV−LEDで1000mJ/cm2の照射光量で紫外線を照射し完全硬化させた。
なお、インクの吐出からUV−LEDによる紫外線照射までの間、60℃の温風を画像に送風した。
(相転移型UVインク、画像19〜画像24の形成)
パス数と送風温度を変更した以外は画像16〜画像18と同様にして、基材1〜基材3に対して画像19〜画像24を形成した。
<評価方法>
評価1 光沢の標準偏差
出力した画像の長手方向に10cmの幅を有する領域を任意に設定し、上記領域から選択された10個の点を任意に設定した。これらの点は、いずれも異なる色調かつ異なる印字率の画像領域から選択されるように設定した。上記設定した10個の点から測定される60度光沢の標準偏差を、√(Σ(測定値−平均値)2)/10)として求めた。
なお、光沢値は、光沢計(ハンディ光沢計PG−II、日本電色工業株式会社製)を用いて測定した。
評価2 摩擦堅牢性(剥がれ落ち耐性)
出力した画像のうち、光沢の標準偏差を求めるために設定した長手方向に10cmの幅を有する領域について、出力した基材の裏面(フリース素材面)で500〜800gの加重をかけながら基材の長手方向に100回擦った。その後、目視にて画像の残存度合いを下記の基準にて評価した。
1−画像が全面的に剥がれ落ち濃度が大きく低下していた
2−画像の一部が剥がれ落ち濃度が低下していた
3−画像が傷つき濃度の低下したスジが見えていた
4−スジ・傷は見えないが濃度が低下していた
5−画像に影響は見られなかった
本実施例においては、3以上を合格ラインとした。
評価3 巻きつけ保存性(ブロッキング)
評価画像を連続して長さが10mとなるように印刷した後、直径10cmの巻き芯に一定の張力で巻き付け端部をテープで固定した。そのまま温度40℃、湿度80%のオーブン中に1ヶ月間保存し、オーブンより取り出し室温まで戻した後、固定テープを剥がして一定の張力で巻き戻した。その際の張り付き具合を主観的に評価した。
A−張り付いた箇所はなく、スムーズに巻き戻すことができた
B−一部の裏地と表面が張り付いており、巻き戻す際に引っかかるような印象を受けることが複数回あった
Cー裏地と表面が張り付いた部分があり、巻き戻す際に裏地に張り付いた部分の一部が転写した
D−裏地と表面が張り付いた部分があり、巻き戻す際に裏地に張り付いた部分の1/2以上が転写した
本発明においては、B以上を合格ラインとした。
結果を表1に示す。
表1に示す通り、60度光沢の標準偏差が20以下である画像を有する加飾シートは、インクの種類によらず、堅牢性および巻きつけ保存性について良好な結果を示していた。
逆に、60度光沢の標準偏差が20より大きい画像を有する加飾シートは、インクの種類によらず、堅牢性または巻きつけ保存性が不良であった。
また、水系、溶剤、オイルの各インクで画像形成した場合に比べ、UVインクあるいは相転移型UVインクで画像形成した場合の方が、光沢の標準偏差が同程度であっても堅牢性、巻きつけ保存性が良好な傾向であることがわかった。これは、UVインクあるいは、相転移型UVインクは、重合により塗膜内部で高分子量化および高架橋化されるため、より圧力への耐性が高い画像が形成されるためと推測される。
また、光沢の標準偏差が15未満、さらには光沢の標準偏差が10未満となると堅牢性、巻きつけ保存性がより一層良好となることがわかった。
なお、基材3に画像を形成した画像18は、堅牢性の評価時に基材全体が破損してしまったため、適切な評価を実施することができなかった。
一方、同じく基材3に他の画像を形成した画像24では、光沢の標準偏差が20を超えているものの、堅牢性ならびに巻き付け保存性が良好であることがわかる。すなわち、巻き取り時または巻き戻し時に画像面と接しうる基材の裏面を形成する素材がフリースではない場合には、光沢の標準偏差が20を超えても不具合を生じないことが分かる。
[実施例2]:シングルパス方式による画像形成
インクジェット記録装置ならびに記録方法を下記の通り変更した以外は、実施例1と同様にして評価を行った。
(インクジェット記録装置)
インクジェット記録装置は、インクを吐出するインクジェットヘッドと、ヘッドにインクを供給するインクタンク、基材の温度を調整する機構、インク流路の温度を調整する機構、吐出されて基材に着弾したインクの液滴を加熱により乾燥させるための機構、吐出されて基材に着弾したインクの液滴を紫外線照射により硬化させるための機構、を備えた装置を用意した。なお、加熱機構としては、基材裏面方向からのステージ加温機構、基材の表方向からの温風機構を搭載した。また、紫外線照射装置としては、UV−LEDランプ(395nm、8W/cm2、Phoseon Technology社製)を、キャリッジ下流の位置に設置し、吐出後10秒以内に紫外線照射によるインクの硬化ができるようにした。また、インク流路、ヘッドは、インク粘度が5〜20mPasの範囲となるように適宜温度調整を行った。また、出力された画像は、プリンタに備えられた巻き取り部によって、印字後すみやかにロール状に巻き取れるような構成とした。ヘッドは、基材搬送方向に対して90℃の方向に千鳥状に10個並べ、シングルパスで580mm幅の印字ができるように設置した。
なお、UV−LEDランプから記録媒体面までの距離は40mmとし、照射光量は、光源からの出力または基材の搬送速度を変えることによって適宜調整した。照射光量は、紫外線積算光量計(浜松ホトニクス社製、C9536、 H9958)を用いて測定した。
(インクジェット記録方法)
各インクジェットインクをインクジェットヘッドに充填した後、上記の機構を備えた幅580mmのシングルパス方式インクジェットプリンタに搭載して、幅560mm×長さ10mのサイズ内に表2に示す画像を繰り返し割り付け、以下に示す方法によって、基材1または基材2に出力を行った。なお、インクジェットヘッドは、ノズル数1776、ズル密度600dpi、最小液滴量が3〜5pl(駆動波形、駆動電圧により調整)のピエゾ型ヘッド、および、ノズル数1024、ノズル密度360dpi、最小液滴量5plまたは15plのピエゾ型ヘッドのインクジェットヘッドを使用した。各々のヘッドはマルチドロップ駆動することにより液滴サイズを適宜可変することができるものを用いた。また、ヘッドから吐出された際のインク液滴速度については、事前に液滴観察装置を用いて各インクの液滴速度−駆動電圧の関係を求めておき、所望の液滴速度となるように適宜駆動電圧値を調整した。
(水系インク、画像25〜26の形成)
印字速度100m/min、解像度360dpi×360dpi、Gap(ヘッドノズル面から基材表面の間の距離)3.0mm、液滴速度5.0m/s、液滴サイズは15plと30plの3階調にて基材1および基材2に出力し、それぞれ画像25および画像26を形成した。なお、印字中、基材温度は60℃に加温し、また、画像形成後すぐに120℃の熱風を送風しながらインクの乾燥を行った。
(水系インク、画像27〜画像28の形成)
液滴速度と送風温度を変更した以外は画像25、26と同様にして、基材1および基材2に対してそれぞれ画像27および画像28を形成した。
(溶剤インク、画像29〜画像30の形成)
印字速度30m/min、解像度600dpi×1200dpi、Gap2.0mm、液滴速度5.0m/s、液滴サイズは4plと8plの3階調にて基材1および基材2に出力し、それぞれ画像29および画像30を形成した。なお、印字中、基材温度は60℃に加温し、また、画像形成後すぐに60℃の温風を送風しながらインクの乾燥を行った。
(溶剤インク、画像31〜画像32の形成)
基材温度と印字速度を変更した以外は画像29、30と同様にして、基材1および基材2に対してそれぞれ画像31および画像32を形成した。
(オイルインク、画像33〜画像34の形成)
印字速度25m/min、解像度360dpi×360dpi、Gap2.5mm、液滴速度6.0m/s、液滴サイズは15pl、30pl、45plの4階調にて基材1および基材2に出力し、それぞれ画像33および画像34を形成した。なお、印字中、基材温度は40℃に加温し、また、画像形成後すぐに40℃の温風を送風しながらインクの乾燥を行った。
(オイルインク、画像35〜画像36の形成)
基材温度と印字速度を変更した以外は画像33および34と同様にして、基材1および基材2に対してそれぞれ画像35および画像36を形成した。
(UVインク、画像37〜画像38の形成)
印字速度60m/min、解像度600dpi×1200dpi、Gap3.0mm、液滴速度7.5m/s、液滴サイズは3pl、6pl、9plの4階調にて基材1および基材2に出力し、それぞれ画像37および画像38を形成した。なお、インクは吐出後3秒のタイミングでUV−LEDにより500mJ/cm2の照射光量で紫外線を照射し硬化させた。
(UVインク、画像39〜画像41の形成)
解像度と液滴速度を変更した以外は画像37および画像38と同様にして、基材1および基材2に対して画像39〜画像41を形成した。
(相転移型UVインク、画像42の形成)
印字速度80m/min、解像度360dpi×720dpi、Gap3.0mm、液滴速度8.0m/s、液滴サイズは15pl、30plの3階調にて基材2に出力し、画像42を形成した。なお、印字中、基材温度は室温下で行い、画像形成後すぐに80℃の熱風を送風しながらインクの乾燥を行った。インクは吐出後3秒のタイミングでUV−LEDにより500mJ/cm2の照射光量で紫外線を照射し硬化させた。
(相転移型UVインク、画像43〜画像47の形成)
液滴速度と送風温度を変更した以外は画像42と同様にして、基材1および基材2に対して画像43〜画像47を形成した。
形成された画像を、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
表2に示すように、60度光沢の標準偏差が20以下である画像を有する加飾シートは、堅牢性、巻きつけ保存性について良好な結果を示しており、高生産が求められるシングルパス方式であっても巻き取り時または巻き戻し時の擦れや保存性に優れた加飾シートであることがわかる。
また、実施例1との比較において、比較例については全体的に光沢の標準偏差が大きい傾向がみられる。これは、印字方法としてシングルパス方式に変更したことにより、隣接液滴間の合一がより生じやすい系となったことで、画像内における表面凹凸ムラが生じやすくなったためと推測される。そのため、本発明の効果はシングルパス方式においてより顕著に発揮されると言える。