JP2018202446A - 熱間圧延用複合ロール - Google Patents

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Abstract

【課題】耐摩耗性および耐熱疲労特性に著しく優れ、然も、経済的に優れた遠心鋳造法で製造しても炭化物が偏析しない熱間圧延用複合ロールを提供することを目的とする。【解決手段】質量%で、C:2.40〜2.90%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.10〜0.80%、Cr:12.0〜15.0%、Mo:4.00〜8.00%、V:3.00〜8.00%、Nb:0.50〜3.00%、W:1.00%未満(0%を含む)を含有し、かつ、下記(1)式および(2)式を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、さらに、MC型炭化物とM7C3型炭化物の合計の面積率が15〜27%であり、かつ前記MC型炭化物と前記M7C3型炭化物の合計の面積率のうち、前記M7C3型炭化物の割合が2割以上である外層と、質量%で、C:2.50〜4.00%、Si:1.50〜3.50%、Mn:1.50%以下、Cr:2.00%以下、Mo:1.00%以下、V:3.00%以下、Nb:2.00%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋳鉄の内層が、溶着一体化してなることを特徴とする熱間圧延用複合ロール。0.40≦Mo/Cr≦0.65…(1)C+0.2Cr≦5.90…(2)ここで、Mo、Cr、Cは、各元素の含有量(質量%)である。【選択図】なし

Description

本発明は、著しく優れた耐摩耗性および耐熱疲労特性を有し、且つ、遠心鋳造法で製造しても炭化物の偏析の少ない熱間圧延用複合ロールに関するものである。
近年、鋼板の熱間圧延技術の進歩は著しく、それに伴い、熱間圧延用複合ロールの使用環境は一段と苛酷化している。とくに最近では、高強度鋼板や薄肉製品など、熱間圧延負荷の大きな鋼板の生産量が増大している。このため、使用される熱間圧延用複合ロール特性の向上、とくに耐摩耗性の向上が強く要望されてきた。このような耐摩耗性向上の要求に対し、外層組成を高速度工具鋼組成に類似した組成とし、硬質炭化物を多量に分散させて耐摩耗性を格段に向上させたハイス系ロールが開発され、多用されている(例えば、日本鉄鋼協会編「鋼板圧延技術の系譜(圧延品質に影響を与える周辺技術)」等)。
このようなハイス系ロール外層材として、例えば、特許文献1、特許文献2に記載がある。特許文献1に記載されたロール外層材は、質量%で、C:1.5〜3.5%、Si:1.5%以下、Mn:1.2%以下、Ni:5.5%以下、Cr:5.5〜12.0%、Mo:2.0〜8.0%、V:3.0〜10.0%、Nb:0.5〜7.0%を含み、かつ、NbおよびVを、Nb、VおよびCの含有量が特定の関係を満足し、さらにNbとVの比が特定の範囲内となるように含有する。これにより、遠心鋳造法を適用しても外層材における偏析が抑制され、耐摩耗性と耐クラック性に優れた圧延用ロール外層材となるとしている。
また、特許文献2に記載されたロール外層材は、質量%で、C:1.5〜3.5%、Si:1.5%以下、Mn:1.2%以下、Cr:5.5〜12.0%、Mo:2.0〜8.0%、V:3.0〜10.0%、Nb:0.5〜7.0%を含み、かつ、NbおよびVを、Nb、VおよびCの含有量が特定の関係を満足し、さらにNbとVの比が特定の範囲内となるように含有する。これにより、遠心鋳造法を適用してもロール外層材における偏析が抑制され、耐摩耗性と耐クラック性が向上し、熱間圧延の生産性向上に大きく貢献するとしている。
また、特許文献3には、ロール表層の耐疲労性に優れたロール外層材が記載されている。特許文献3に記載されたロール外層材では、質量%で、C:2.2〜2.6%、Si:0.2〜0.7%、Mn:0.2〜0.7%、Cr:5.0〜8.0%、Mo:4.4〜6.0%、V:5.3〜7.0%、Nb:0.6〜1.3%を含み、かつ、Mo+V、C−0.24V−0.13Nbがそれぞれ特定範囲内となるようにMo、V、C、Nb含有量を調整して含有する。これにより、耐疲労性が顕著に向上し、ロール表面損傷を著しく抑制でき、ロール寿命を向上できるとともに、圧延製品の表面品質の顕著な向上が得られるとしている。
特開平04−365836号公報 特開平05−1350号公報 特開2009−221573号公報
しかしながら、最近の熱延鋼板(圧延製品)には、更なる薄肉化、高強度化および高品質化が要望されており、熱間圧延負荷の増大は著しく、また生産性向上に伴う連続圧延量の増加など、熱間圧延条件は一層、厳しさを増し、熱間圧延用複合ロールの使用環境はますます苛酷化している。
ハイス系ロールでは、V、W、Mo、Cr等の多種類の合金成分が含有されるため、各元素の含有量に応じて種類の異なった複数の炭化物(MC、MC、M、MC、MC等)が晶出する。また、上述の合金元素を多量に含有するほど炭化物量が増大するため、好適な組成範囲を見出せば、更に耐摩耗性が向上する可能性を秘めている。しかしながら、鋳造ロールの耐摩耗性を向上させるために多種類の炭化物を多量に生成させると、各々の炭化物の晶出するタイミングや比重の違いに基づいて炭化物の凝固偏析が顕著となり、熱間圧延中にロール表面に偏析模様が発生する。特に仕上圧延機の後段用ロールとして使用すると、圧延される鋼板の表面品質を劣化させるという問題がある。
ここで、製造コスト的に有利な遠心鋳造法でハイス系ロールを製造する場合には、遠心力が付与され、かつ凝固時間が長いため、その他のロール製造方法に比べて炭化物の偏析傾向が一層大きくなる。一方、溶接肉盛り法や連続鋳掛け肉盛り法等(製造コストが大)でハイス系ロールを製造すれば、遠心力が付与されずに、然も、外層材が急速に凝固することから、炭化物の偏析は抑制されるが、ロール製造コストが著しく高くなるという問題がある。
また、熱間圧延用複合ロール(作業ロール)の表面には、被圧延材を熱間圧延するに際し、ロール転動方向に作用するすべり応力、ロール軸方向に作用する転動応力とが熱間で作用し、加えてバックアップロールからの繰返し転動応力が冷却されながら作用することが繰返される。このような熱と応力の繰返し負荷により、作業ロール表層が熱疲労し、ロール圧延面の肌荒れ、疲労疵、表層の欠落ちなど、熱疲労損傷の発生が大きな問題となっている。また、表層の欠落ち、疲労疵等が発生する場合があるという問題もある。
このような問題から、従来は耐摩耗性および耐熱疲労特性を更に著しく向上したハイス系ロールを安価なコストで製造することは困難であった。
そこで本発明は、耐摩耗性および耐熱疲労特性に著しく優れ、然も、経済的に優れた遠心鋳造法で製造しても炭化物が偏析しない熱間圧延用複合ロールを提供することを目的とする。
本発明者らは、(a)炭化物の偏析防止、(b)耐摩耗性の著しい向上、(c)耐熱疲労特性の著しい向上、(d)ロールの割損防止、を同時に達成する組成範囲を以下の視点から鋭意検討し、VとNbを含有した高Cr−Mo系組成の外層を有する熱間圧延用複合ロールにおいて、従来ロールでの問題を一挙に解決する好適組成を見出した。
(a)炭化物の偏析防止
(i)炭化物の偏析を防止するには、凝固過程でオーステナイトと炭化物の晶出タイミング(晶出温度)の差が小さく、且つ、溶湯との比重差の小さな炭化物を晶出させること、或いは、多種類の炭化物を晶出させないことが有効である。
(ii)耐摩耗を著しく向上したハイス系ロールを得るための条件は、極めて硬質なMC型炭化物と準硬質相となるMC、M、M23、MC、MC等の共晶炭化物が多量に存在した金属組織を持つことである。ここで、準硬質相である共晶炭化物が多いほど耐摩耗性が向上するが、共晶炭化物の種類が増えると、前述したように炭化物の偏析が助長されるため、多種類の共晶炭化物が共晶しない合金組成を設計することが重要になる。
(iii)高Cかつ高Crの組成とすると、Mを主とするCr系炭化物がコロニー状の共晶炭化物として金属組織中に均一に分散することが、高Cr鋳鉄において知られている。この知見に基づき、ハイス系ロールの準硬質相としてM型炭化物を利用すれば炭化物の偏析を抑制できることを見出した。すなわち、本発明では、準硬質相として主にM型炭化物が適量晶出する組成範囲としてC:2.40〜2.90%、Cr:12.0〜15.0%を選定した。なお、この組成範囲は後述するMo:4.00〜8.00%、V:3.00〜8.00%、Nb:0.50〜3.00%の組成範囲を前提としたものである。また、一般の高速度鋼はWを含有するが、今回対象とするハイス系ロールにおいてWを含有すると、M型と異なった炭化物(MCやMC等)が出現し、それらが偏析する場合がある。また、Wの比重が著しく大きいことから、溶湯と炭化物の比重差を拡大し、炭化物の偏析を一層助長するとともに耐摩耗性を劣化させることが判明した。したがって、本発明ではW系炭化物が出現するような量のWを含有してはならない。
(iv)Vを主体とするMC型炭化物は溶湯よりも比重が小さいため、遠心鋳造した場合には、比重差に基づいてMC型炭化物が遠心分離する問題がある。MC型炭化物の遠心分離を抑制するには、MC型炭化物の比重を大きくすることで溶湯との比重差を減少させることが有効である。本発明では、V主体のMC型炭化物に高比重元素であるNbとMoを複合させることでMC型炭化物を比重の大きな複合炭化物に改質した。また、溶湯の比重を増加させる作用をもつWを含有しないという方法でMC型炭化物の遠心分離を防止した。これを達成するため、V:3.00〜8.00%、Nb:0.50〜3.00%、Mo:4.00〜8.00%、W:1.00%未満であることを見出した。
(b)耐摩耗性の著しい向上
ハイス系ロールとしての耐摩耗性を発揮するためにはMC型炭化物が必須である。更に、耐摩耗性を著しく向上させるためにはより強い共晶炭化物を多量に存在させることが必要である。本発明では、前述のような偏析に関わる制限条件の中でハイス系ロールの耐摩耗性を更に著しく向上させるために鋭意検討し、MC型炭化物とM型炭化物の適量導入、及びMC型炭化物とM型炭化物の強化を図った。即ち、耐摩耗性を向上させるにはMC型炭化物とM型炭化物の合計が15%以上必要であり、これらの炭化物を出現させるため、炭素供給源としてCを2.40%〜2.90%含有し、V:3.00〜8.00%とNb:0.5〜3%を含有させることにより、VとNbの複合型MC型炭化物を出現せしめ、更に適量のM型炭化物を出現させるためにCrを12.0〜15.0%含有させるものである。但し、上記の組成限定だけでは安定的に耐摩耗性を著しく向上させることは不可能であった。そこで、偏析を助長しない範囲で耐摩耗性を向上すべく検討を重ね、Moの適正配合によって上述のMC型炭化物とCr炭化物が改質されて耐摩耗性が著しく向上することを見出した。即ち、Moを4.00〜8.00%含有させることにより、MC型炭化物とCr炭化物中にMoが濃化し、各々の炭化物が強靭な複合炭化物に改質される。ここで、Cr量を多くするほどMoの含有量を増量する必要があり、Mo/Crで計算される値が0.40以上0.65以下であれば耐摩耗性が向上することが判明した。
(c)耐熱疲労特性の著しい向上
耐熱疲労特性の向上、特に疲労亀裂の進展を抑制するには、ロール外層表面に圧縮残留応力を付与することにより亀裂を開口させないようにすることが有効である。本発明のような熱間圧延用複合ロールにおいては、内層に比較して外層の線膨張係数が小さいため、熱処理の冷却過程において、内層に引張、外層に圧縮の残留応力が生じる。なお、この冷却期間中には、内層、および外層は各々相変態による体積膨張を起こすため、結果として生じる内外層の残留応力は、線膨張係数の差の他に変態量の影響も受けたものとなる。したがって、製品段階で外層に適切なレベルの圧縮応力が残留するよう、組成と熱処理パターンの最適な組み合わせを見出す必要がある。このうち、組成の決定に当たっては、外層の線膨張係数が含有する炭化物量に大きく依存する点が重要なポイントとなる。すなわち、炭化物量が少ないと線膨張係数は大きくなり、内層のそれとの差が小さくなるため、残留応力レベルは小さくなる。本発明者らは、熱間圧延に供したロールの疲労層深さの計測と、表面の残留応力の測定を種々のロールについて繰り返し行なった。その結果、圧縮残留応力が200MPa以上であれば、疲労亀裂の進展を抑制できることを見出した。さらに、MC型炭化物とM型炭化物の合計面積率で15%以上あれば、この圧縮残留応力を安定して確保できることが確認できた。
(d)ロールの割損防止
上述したように耐摩耗性の向上、および疲労亀裂の進展抑止のためには、炭化物量を著しく増加させた熱間圧延用複合ロールを製造することが考えられる。しかし、炭化物量を増加させ過ぎると、鋳込み後にロールが割損したり、熱処理中や圧延使用中にロールが折損する場合がある。割損や折損の原因は、外層の炭化物量が過度に多くなると内層との熱膨張・収縮量の差が拡大して、ロールの熱応力が過大になるためである。この知見から、本発明の熱間圧延用複合ロールでの割損や折損を抑制する限界の炭化物量を検討した結果、MC型炭化物とM型炭化物を面積率の合計で27%以下にする必要があることを見出した。なお、MC型炭化物とM型炭化物を面積率の合計で27%以下であれば、外層の残留圧縮応力が本発明の所望の範囲(200MPa以上400MPa未満)を確保できることも確認した。
本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は次のとおりである。
[1]質量%で、C:2.40〜2.90%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.10〜0.80%、Cr:12.0〜15.0%、Mo:4.00〜8.00%、V:3.00〜8.00%、Nb:0.50〜3.00%、W:1.00%未満(0%を含む)を含有し、
かつ、下記(1)式および(2)式を満足し、
残部Feおよび不可避的不純物からなり、
さらに、MC型炭化物とM型炭化物の合計の面積率が15〜27%であり、かつ前記MC型炭化物と前記M型炭化物の合計の面積率のうち、前記M型炭化物の割合が2割以上である外層と、
質量%で、C:2.50〜4.00%、Si:1.50〜3.50%、Mn:1.50%以下、Cr:2.00%以下、Mo:1.00%以下、V:3.00%以下、Nb:2.00%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋳鉄の内層が、
溶着一体化してなることを特徴とする熱間圧延用複合ロール。
0.40≦Mo/Cr≦0.65…(1)
C+0.2Cr≦5.90…(2)
ここで、Mo、Cr、Cは、各元素の含有量(質量%)である。
[2]さらに前記外層は、質量%で、Ni:1.00%以下、Co:1.00%未満のうちから選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする[1]に記載の熱間圧延用複合ロール。
[3]前記外層のロール軸方向の圧縮残留応力が、200MPa以上400MPa未満であることを特徴とする[1]または[2]に記載の熱間圧延用複合ロール。
[4]前記外層と前記内層は、中間層を介して溶着一体化し、前記中間層は、質量%で、C:0.80〜3.00%、Si:0.30〜3.00%、Mn:1.50%以下、Cr:10.0%以下、Mo:4.00%以下、V:5.00%以下、Nb:3.00%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の熱間圧延用複合ロール。
[5]中間層材への外層混入比を5〜50%とし、かつ、内層材への中間層混入比を5〜20%とすることを特徴とする[4]に記載の熱間圧延用複合ロール。
本発明によれば、耐摩耗性および耐熱疲労特性に著しく優れ、然も、経済的に優れた遠心鋳造法で製造しても炭化物が偏析しない熱間圧延用複合ロールを提供することができる。
図1は、本発明のロールを示す模式図であり、(A)はロール中心軸を通る位置のロール長手方向断面図、(B)はロール長手方向中央のロール径方向断面図である。
まず、本発明の熱間圧延用複合ロールの外層の組成限定理由について説明する。なお、以下、質量%は、とくに断らない限り、単に%と記す。
C:2.40〜2.90%
Cはロールの耐摩耗性を向上するための炭化物形成に必須な元素である。2.40%未満では炭化物量が不足して優れた耐摩耗性を得ることができない。一方、2.90%を超えると炭化物量が過多となるとともに、炭化物の偏析が発生する。
Si:0.10〜0.50%
Siは脱酸および鋳造性確保のために、0.10%以上含有する。一方、0.50%を超えて含有しても効果が飽和する。なお、好適範囲は0.20〜0.40%である。
Mn:0.10〜0.80%
Mnは溶湯中のSをMnSとして固定し、Sの悪影響を除去する。このため、Mnは0.10%以上含有する。0.80%を超えて含有してもその効果が飽和する。なお、好適範囲は0.20〜0.60%である。
Cr:12.0〜15.0%
Crは、コロニー状のM型炭化物を適量出現させ、耐摩耗性と耐肌荒れ性を向上させるために12.0%以上含有する必要がある。12.0%未満ではCr炭化物が不足し、耐摩耗性の劣化とロール肌荒れが発生する。また、15.0%を超えると、針状のCr炭化物が晶出するとともに炭化物の偏析が発生するため、圧延鋼板表面品質を劣化させる原因となる。なお、好適には12.0〜14.0%である。
Mo:4.00〜8.00%
MoはMC型炭化物およびM型炭化物中に濃化してそれらの炭化物を強化し、ロールの耐摩耗性を著しく向上する効果を持つ。同時に、MC炭化物の偏析を抑制する効果を持つ。これらの効果を得るためにMoは4.00%以上必要である。一方、Moが8.00%を超えると、Mo系の炭化物が多量に出現し、炭化物の偏析を助長するとともに耐摩耗性の著しい劣化をもたらす。なお、好適には5.00〜7.00%である。
V:3.00〜8.00%
Vは硬質なMC型炭化物を形成させ、ハイス系ロールとしての一定レベルの耐摩耗性を得るために必須な元素である。その効果を得るためには3.00%以上必要である。一方、8.00%を超えると溶湯の融点を上昇させるとともに溶湯に流動性を低下させ、ロール製造上の問題を発生させる。なお、好適には4.00〜6.00%である。
Nb:0.50〜3.00%
NbもMC型炭化物形成元素であり、MoをMC型炭化物中に濃化させる作用がある。Nbを含有することによって、MC型炭化物をより強靭な(V、Nb、Mo)C系の複合MC型炭化物に改質し、耐摩耗性を著しく向上する。また、複合MC型炭化物となることによってその比重が溶湯の比重に近づくため、MC型炭化物の偏析が抑制される。その効果を得るためには、Nbは0.50%以上必要である。一方、3.00%を超えて含有するとNb系の炭化物が独自に晶出し、炭化物の偏析を助長する。なお、好適には1.00〜2.00%である。
W:1.00%未満(0%を含む)
本発明では、Wの含有は耐摩耗性を向上する効果がないばかりか、炭化物の偏析を助長する弊害を及ぼすため、Wを含有することは好ましくないため、含有しなくても良い(含有量が0%)。なお、溶解原料等から不可避的に含有されるような場合でも、なるべく弊害を少なくするため、Wは1.00%未満、好適には0.50%未満になるように、溶解原料を変更することが必要である。
本発明では、各成分を上記範囲で含有し、さらに、下記(1)式および(2)式を満足するように調整して含有する。
0.40≦Mo/Cr≦0.65…(1)
C+0.2Cr≦5.90…(2)
ここで、Mo、Cr、Cは、各元素の含有量(質量%)である。
本発明者らが鋭意検討した結果、Mo/Crで計算される値が0.40以上になると顕著に耐摩耗性が向上することが判明したため、本発明では、0.40≦Mo/Crとする。一方で、Mo/Crで計算される値が0.65を超えると、Mo系の炭化物が多量に出現し、炭化物の偏析を助長するとともに耐摩耗性の著しい劣化をもたらす。なお、好適には0.45≦Mo/Cr≦0.60である。
また、C+0.2Crで計算される値が5.90を超えると、針状のCr炭化物が晶出するとともに炭化物の偏析が発生するため、圧延鋼板表面品質を劣化させる原因となる。
上気した成分が基本の成分である。基本成分に加えて、下記の選択元素を含有しても良い。
Ni:1.00%以下
Niは本発明の必須元素ではないが、焼入れ性を向上させ、ロール焼入れ時の操作範囲を広げる作用をもつことから、必要に応じて含有してもよい。但し、1.00%を超えて含有しても効果が飽和するとともに、不安定な残留γの形成を促進するため、1.00%以下とすることが好ましい。なお、Niを含有する場合は、焼入れ性向上効果が明瞭になる含有量として、0.2%以上含有することが好ましい。
Co:1.00%未満
Coは、本発明の必須元素ではないが、高温における組織を安定化させる働きがあり、また、熱膨張率を減少させる効果もあるため、含有してもよい。但し、本発明のロールの耐摩耗性、耐肌荒れ性を向上する作用は小さく、ロールの特性向上に対するメリットは低いため、経済性の観点から1.00%未満とすることが好ましい。なお、Coを含有する場合は、高温特性向上効果が明瞭になる含有量として、0.2%以上含有することが好ましい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
次に、本発明の外層の炭化物含有量は以下のように定められる。
MC型炭化物とM型炭化物の合計の面積率が15〜27%
優れた耐摩耗性、ならびに耐熱疲労特性を得るためには、MC型炭化物とM型炭化物の合計が面積率で15%以上必要である。一方で、合計の面積率が27%を超えるとロールが割損しやすくなる。なお、MC炭化物とM型炭化物の合計の面積率が15〜27%であれば、後述する外層の初径表面におけるロール軸方向の圧縮残留応力を200MPa以上400MPa未満に確保できる。
MC型炭化物とM型炭化物の合計の面積率のうち、M型炭化物の割合が2割以上
MC型炭化物とM型炭化物の合計の面積率のうち、M型炭化物の割合を2割以上にすると、耐摩耗性が著しく向上するとともに、ロール或いは圧延鋼板の表面性状も向上する。また、ロールの熱膨張を抑制して通板性を向上させる効果もある。M型炭化物の割合が2割未満ではその効果が得られない。
次に、本発明の熱間圧延用複合ロールの内層(内層材)について説明する。中実一体の複合ロールを鋳造で製造する点から、内層には鋳造性が良好で凝固収縮量の少ない鋳鉄を選定する。ここで鋳鉄とは、Cの含有量が2%以上のFe−C合金であり、その組織により、片状黒鉛鋳鉄(ねずみ鋳鉄)、CV黒鉛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄(ダクタイル鋳鉄)、合金鋳鉄、白鋳鉄等に区別される。本発明では、機械的特性および加工性に優れた球状黒鉛鋳鉄を適用することが望ましい。
なお、強度の確保等、必要な特性を満足させるためには、外層成分の混入を抑える必要がある。後述するように、中間層を設けることにより、外層成分、特にCrの内層への混入を大きく低下せしめ得るが、完全には防止できない。したがって、このCr%の上昇分を考慮して、内層の化学成分およびその成分割合を選択する必要がある。
以下に、内層の組成限定理由について説明する。なお、以下、質量%は、とくに断らない限り、単に%と記す。
C:2.50〜4.00%
Cが2.50%未満では黒鉛の量が少なくなり、引け巣が発生し易くなる。一方、4.00%を超えて含有させると脆弱となるため、2.50〜4.00%の範囲に規定する。
Si:1.50〜3.50%
Siが1.50%未満では黒鉛の量が少なくなり、セメンタイトが多く晶出するために、硬くて脆くなる。一方、3.50%を超えると、黒鉛量が多くなり過ぎて強度の低下をきたすので、1.50〜3.50%の範囲に規定する。
Mn:1.50%以下
MnはSの害を抑えるのに有効である。しかしながら、1.50%を超えると、材質を脆化させるので、1.50%以下の範囲に規定する。なお、0.30%未満ではその効果が十分ではない。そのため、0.30%以上であることが好ましい。
Cr:2.00%以下
Crは低い程望ましいが、中間層が設けられていても、Crのある程度の内層の混入は避けられず、2.00%までは許容できる。2.00%を超えて含有させるとセメンタイト量が多くなり、材質強度と靭性が著しく劣化する。
Mo:1.00%以下
Moは基地硬さを高める効果を有する。しかしながら、1.00%を超えると脆くなり、また不経済でもある。したがって、1.00%以下とする。
V:3.00%以下、Nb:2.00%以下
NbとVは、微細な炭化物を均一に分散させ、内層の強度を向上させると共に、ロール内層で構成されるロールの軸部の耐摩耗性も改善する。但し、Vが3.00%、Nbが2.00%をそれぞれ超えて含有されると、内層の鋳造性が著しく劣化し、また硬化脆化が顕著になる。
上記した成分が基本の成分である。基本成分に加えて、下記の選択元素を含有しても良い。
Ni:5.0%以下
Niは強度を増加させるが、5.0%を超えて含有しても顕著な効果がない。よって、5.0%以下が好ましい。なお、Niを添加する場合には、0.3%未満ではその効果が不十分である。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。なお、不可避的不純物としては、P:0.1%以下、S:0.04%以下が許容できる。Pは不純物であり、0.1%を超えて含有すると材質を脆弱にする。また、Sは黒鉛の球状化を阻害するため低く抑える必要があり、0.04%以下とする。
本発明では、外層のロール軸方向の圧縮残留応力を、200MPa以上400MPa未満とすることが好ましい。上述したように、耐熱疲労特性の向上、特に疲労亀裂の進展を抑制するには、ロール外層表面に圧縮の残留応力を付与することにより亀裂を開口させないようにすることが有効である。熱間圧延用複合ロールにおいては、内層に比較して外層の線膨張係数が小さいため、熱処理の冷却過程において、内層に引張、外層に圧縮の残留応力が生じる。また、この冷却期間中には、内層、および外層は各々相変態による体積膨張を起こすため、結果として生じる内外層の残留応力は、線膨張係数の差に加えて変態量の影響も受けたものとなる。したがって、製品段階で外層に適切なレベルの圧縮応力が残留するよう、組成と熱処理パターンの最適な組み合わせを見出す必要がある。本発明者らは、熱間圧延に供したロールの疲労層深さの計測と、表面の残留応力の測定を種々のロールについて繰り返し行なった。その結果、疲労亀裂の進展を顕著に抑制し得る圧縮残留応力が200MPa以上であることを見出した。さらに、前述したような、外層におけるMC炭化物とM型炭化物の合計面積率で15%以上あれば、この圧縮残留応力レベルを安定して確保できる。一方で、圧縮残留応力が400MPa以上では、ロールの折損リスクが高くなる。
また、本発明におけるロール外層表面の残留応力の測定は、オンサイト型のX線残留応力測定装置により行うことができる。X線残留応力測定には、回折X線の検出方法と残留応力値の演算方法により、複数の種類があるが、いずれも基本的な原理(無応力状態のロール外層材料の格子定数からのズレを測定し、応力に換算)は同一であり、本発明で適用可能である。具体的な測定方法としては、内外層を鋳造し、所定の熱処理が完了した後、少なくとも熱処理で生成した外層表面の酸化層を、機械加工により除去した段階のロール材について実施する。まず、測定する外層表面位置を決め、その位置を含む5mmφ程度の領域を電解エッチングする。電解エッチングは、前段階の機械加工による影響層を除去するため実施する。電解エッチング深さは、電解エッチング前の表面状態によるが、200μmから500μm程度である。次に電解エッチングした領域にX線を照射して測定を行なう。ロール外層材料は、基地と炭化物とで構成されるが、基地でない部位にX線が照射されると、不正確な測定値が得られる場合がある。このため、1箇所の電解研磨領域内で、3点以上の位置で測定を行なうことが望ましい。なお、ロール外層表面内での残留応力測定位置は、ロール軸方向の中央を代表位置とすればよい。また、軸方向中央位置で異なる周方向位置でも測定を行なえば、測定値の確度がより高くなるので望ましい。
ロールの外層と内層を直接、溶着一体化させると、内層に外層の合金成分が多量に混入し、内層が硬化脆化する場合がある。特に、内層を球状黒鉛鋳鉄にした場合、内層の硬化脆化が顕著となる。このような場合、外層の合金成分の内層への混入を抑制するため、外層と内層の間に中間層を設けることが好ましい。本発明の熱間圧延用複合ロール(製品)の中間層は、外層の合金成分が混入するため、合金元素含有が高くなる。中間層の顕著な高合金化は脆化によるロール割損の原因となる。したがって、中間層の合金組成は、以下の範囲にすることが好ましい。
C:0.80〜3.00%
Cは基地中に溶け込んで強度を確保する。Cが0.80%未満ではその効果が不十分であり、一方、3.00%を超えると、炭化物が多くなり強靭性が劣化する。よって、Cは0.80〜3.00%が好ましい。
Si:0.30〜3.00%
Siは、硬脆化の抑制と鋳造性確保のために、0.30%以上であることが好ましい。3.0%を超えて含有してもその効果が飽和する。よって、0.30〜3.00%が好ましい。
Mn:1.50%以下
Mnは材質強度を向上させる効果がある。しかしながら、1.50%を超えても効果が飽和するため、1.50%以下が好ましい。
Cr:10.0%以下
Crは炭化物を形成して材質を脆化させるため低い方が望ましい。このため、外層のCr量が著しく高い場合でも、10.0%以下にすることが好ましい。
Mo:4.00%以下
MoはNiと同様に強靭性確保の点で重要な元素である。しかしながら、4.00%を超えても材質を脆化させるため、4.00%以下が好ましい。
V:5.00%以下、Nb:3.00%以下
VとNbは、中間層の強度を向上する作用がある。但し、Vが5.00%、Nbが3.00%をそれぞれ超えて含有されると、中間層にミクロ的な引け巣が形成され易くなり、中間層の強度を著しく劣化させる。
なお、脱酸剤として、上記以外にAl、Ti、Zrをそれぞれ0.1%以下含有してもよい。
また、強度および靭性を確保するため、Niを5.00%以下含有してもよい。5.00%を超えても効果が飽和するため、5.00%以下が好ましい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。なお、不可避的不純物としては、P:0.05%以下、S:0.03%以下が許容できる。Pは溶湯の流動性を増加させるが、材質を脆弱にするため低いほど良く、0.05%以下とするのが好適である。SはPと同様に材質に脆弱にするため、その含有量は低いほど良く、0.03%以下とするのが好適である。
本発明の熱間圧延用複合ロールにおいては、中間層を設ける場合、外層、中間層および内層を冶金学的に結合させるために、外層の内面側と中間層材を混合させること、中間層の内面側と内層材を混合させることが不可欠である。しかしながら、内層と中間層の優れた強靭性を損なうまで過度に外層を混入させてはならない。中間層は、外層の内層への混入を抑制するために設けているものの、それでも外層は中間層を介して内層へ混入する。
そこで、本発明においては、中間層材への外層混入比を5〜50%とするのが好ましい。外層混入比が5%未満では、外層と中間層の境界に未溶着或いは介在物等の鋳造欠陥が発生し易くなり、境界部の健全性を確保できない。また外層混入比が50%を超えると、外層に含有する炭化物形成元素(特にCr)が多量に混入し、中間層の靭性が損なわれる。
また、本発明においては、内層材への中間層混入比を5〜20%とするのが好ましい。中間層混入比が5%未満では、中間層と内層の境界に未溶着或いは介在物等の鋳造欠陥が発生し易くなり、境界部の健全性を確保できない。一方、中間層混入比が20%を超えると、内層と中間層の結合状態を改善する効果が飽和する。また、中間層に含有される炭化物形成元素(特にCr)が内層に多量に混入し、内層が著しく脆化して、ロールが割損する原因となる。
なお、「中間層材への外層混入比」とは、中間層鋳造時に外層が再溶解することにより、中間層の鋳込み組成に外層の成分がどれだけ混入するかを管理する値である。即ち、成分偏析を起こしにくいCrに着目してロール外層のCr量を(a質量%)、中間層の鋳込みCr量を(b質量%)、鋳造後のロール中間層のCr量を(c質量%)とした場合、「中間層材への外層混入比」は以下のように定義される。
「中間層材への外層混入比」=((c質量%)−(b質量%))/((a質量%)−(b質量%))×100%
また、「内層材への中間層混入比」とは、内層鋳造時に中間層が再溶解することにより、内層の鋳込み組成に中間層の成分がどれだけ混入するかを管理する値である。即ち、成分偏析を起こしにくいCrに着目して鋳造後のロール中間層のCr量を(c質量%)、内層の鋳込みCr量を(d質量%)、鋳造後のロール内層のCr層を(e質量%)とした場合、「内層材への中間層混入比」は以下のように定義される。
「内層材への中間層混入比」=((e質量%)−(d質量%))/((c質量%)−(d質量%))×100%
また、「中間層材」、「内層材」の用語は、「鋳込み前の溶湯」を意味し、「外層」、「中間層」、「内層」の用語は「凝固後」のものを意味する。
つぎに、本発明の熱間圧延用複合ロールの好ましい製造方法について説明する。
本発明の熱間圧延用複合ロールの外層の製造方法は、エネルギーコストの低い安価な、遠心鋳造法とすることが好ましい。
まず、内面にジルコン等を主材とした耐火材で被覆された、回転する鋳型に、上記した外層組成の溶湯を、所定の肉厚となるように、注湯し、遠心鋳造する。そして、中間層を形成する場合には、外層の凝固途中あるいは完全に凝固したのち、鋳型を回転させながら、中間層組成の溶湯を注湯し、遠心鋳造することが好ましい。外層あるいは中間層が完全に凝固したのち、鋳型の回転を停止し鋳型を立ててから、内層を静置鋳造して、熱間圧延用複合ロールとすることが好ましい。これにより、外層の内面側が再溶解され外層と内層、あるいは外層と中間層、中間層と内層とが溶着一体化した熱間圧延用複合ロールとなる。
本発明の熱間圧延用複合ロールは、鋳造後、熱処理を施されることが好ましい。熱処理は、焼入れ温度:950〜1150℃の範囲で選ばれた温度に加熱し空冷あるいは衝風空冷して、200℃〜450℃で焼入れを停止させる焼入れ処理と、さらに焼戻し温度:450〜600℃の範囲で選ばれた温度に加熱保持したのち冷却する焼戻し処理を2回以上施す熱処理とすることが好ましい。このような熱処理を施すことにより、本発明の熱間圧延用複合ロールにおいて、外層の初径表面における残留圧縮応力が200MPa以上400MPa未満となる。
本発明における遠心鋳造製ロールは、図1に示すような構成であり、本発明のロールの製造方法について説明する。
先ず、遠心力鋳造機の上で回転し、内面に耐火材を被覆した金属製鋳型の中に、外層1を形成すべき溶湯を鋳込んだ後、その外層1の内面に中間層2を鋳込む。この両者、即ち、外層1、及び中間層2が完全に凝固後、この鋳型を垂直に立てて、上部から内層3を鋳込み、この外層1、中間層2、及び内層3を完全に冶金学的に結合させて一体のロールとする。尚、外層1と中間層2の両者が完全に凝固し終らなくても、内面の一部が未凝固の状態でそれらを水平又は傾斜させた姿勢で、適当な方法により内層3を鋳込んでも良い。
(実施例1)
ロール外層に相当する表1に示す成分組成の溶湯にて、肉厚100mmの試料を遠心鋳造した。なお、焼入れ前に試料断面の組織を観察することで、炭化物の偏析有無を判定した。偏析判定方法は下記のとおりである。
鋳込み表面から肉厚方向に10mm、20mm、30mm、40mm、および50mmの位置について組織観察し、各々画像処理により全炭化物面積率の測定(後述)を行なう。5か所の測定値のうち、最大値を最小値の差が15ポイント以上ある場合を偏析ありとした。(例えば、20mm位置、および30mm位置の全炭化物面積率が、それぞれ30%、および10%の場合、これらの差は20ポイントで「偏析あり」と判定される。)
次に、1050℃から焼入れ、550℃で焼戻し処理を行なった後、炭化物の面積率の測定試験片と摩耗試験片を作成した。
炭化物の面積率は、画像解析装置を用いて以下の方法で測定し、最大径1μm以上の炭化物を定量した。
<炭化物の面積率>
本発明における炭化物の面積率の測定方法を以下に示す。なお、本発明のロール材には、主としてMC、M型およびMC型あるいはMC型の炭化物が存在する。一方で、Cr含有量が大きいためMC型炭化物はほとんど存在しない。
1.全炭化物量(面積率)の測定
試料表面を鏡面仕上げ研磨し、5%硝酸アルコール溶液、或いは塩酸−ピクリン酸アルコール溶液、或いは王水に浸漬すると基地が腐食される。腐食面を光学顕微鏡で観察すると基地部は黒色、炭化物は白色に見えるため、画像解析装置を用いて白部の面積を測定する方法で、全炭化物量(面積率)を測定した。なお、腐食しても基地部が十分に黒くならない場合、腐食面を黒色の鉛筆で均一にベタ塗りし、表面をガーゼ等で軽くふくと黒(基地)、白(炭化物)がはっきりする。
2.MC型炭化物量(面積率)の測定
MC型炭化物は鏡面仕上げ(ノーエッチ)のままの場合、光学顕微鏡で灰色に見える。この状態で灰色部の面積を画像解析装置にて測定することにより、MC型炭化物量(面積率)を測定した。
3.MC型およびMC型炭化物量(面積率)の測定
試料表面を鏡面仕上げ研磨し、村上試薬(水:100mlに対し、水酸化カリウム:10gおよびフェリシアン化カリウム:10gを添加した水溶液)によって3〜5秒腐食するとMC型およびMC型炭化物が黒く着色する。この状態で画像解析装置にて黒色部の面積を測定することにより、MC型およびMC型の炭化物量(面積率)を測定した。
4.M型炭化物の面積率
1で求めた全炭化物量から2、3で求めたMC型炭化物量と、MC型およびMC型炭化物量をそれぞれ差し引いた値をM型炭化物量とした(下記式)。
(M型炭化物量)=(全炭化物量)−(MC型炭化物量+MC型およびMC型炭化物量)
5.MC型炭化物とM型炭化物の合計の面積率
1で求めた全炭化物量から3で求めたMC型およびMC型炭化物量を差し引いた値をMC型炭化物とM型炭化物の合計の面積率とした(下記式)。
(MC型炭化物とM型炭化物の合計の面積率)=(全炭化物量)−(MC型およびMC型炭化物量)
<摩耗試験>
摩耗試験は、相手材(S45C)と試験片の2円盤のすべり摩耗方式で、相手材900℃に加熱し、試験片を水冷しながら800rpmで回転させ、試験片と相手材のすべり率を14.2%として、荷重100kgで15分間圧接した。この試験を、相手材を替えて12回行なった後の試験片の摩耗量を測定した。
炭化物の偏析有無および摩耗試験の結果を表1に示す。
Figure 2018202446
本発明材は、炭化物の偏析がなく、その結果、極めて優れた耐摩耗性を示した。
一方、比較材B−1およびB−2は、Mo量が本発明の成分範囲を超え、またMo/Crも本発明の範囲を満たしていない。このため、炭化物が偏析するとともに耐摩耗性が悪化した。また、比較材C−1〜C−3は、C或いはCrが不足するとして本発明の成分範囲を満たさず、また、炭化物量も本発明の範囲を満たさない例である。いずれも、炭化物の偏析は認められないものの耐摩耗性が著しく悪化した。なお、比較材C−1〜C−2は、Mo/Crも本発明の範囲を満たさない。
比較材C−4は、Mo/Crが小さく、本発明の範囲を満たさない例である。炭化物の偏析は認められないが耐摩耗性が著しく悪化した。
比較材C−5〜C−8は、C或いはCrが過多となって本発明の範囲を満たさない例であり、針状の炭化物とコロニー状の炭化物が肉厚方向に分離して偏析していた。
比較材C−9は、C+0.2Crの値が6.2を超えたために炭化物が偏析し、またMoおよびMo/Crの不足により、耐摩耗性も著しく悪化した。
比較材D−1は、Niが過剰に含有されたため、本発明の成分範囲を満たさない例であり、耐磨耗性が悪化した。比較材D−2は、Wが本発明の成分範囲を満たさない例であり、炭化物が偏析すると共に耐磨耗性も悪化した。
(実施例2)
表2に示す成分組成の外層、中間層および内層を溶解し、胴径φ670mm、胴長1450mm、の熱間圧延ロール2本を、以下の手順で製造した。
(1)遠心力140Gで回転する鋳型内に外層として肉厚75mmに相当する溶湯を鋳込んだ。
(2)外層の鋳込み完了から12〜18分後に、外層の内面に肉厚40mmに相当する量の中間層を鋳造して外層の内面を再溶解させ、中間層と一体溶着させた。
(3)外層の鋳込み完了から40〜46分後に鋳型の回転を停止し、内層を鋳造することによって外層−中間層−内層を一体溶着させた。
(4)外層の表面温度が60℃以下になるまで冷却した後、鋳型を解体した。
(5)熱処理として、950℃〜1150℃から焼入れ、200℃〜450℃で焼入れを停止させた後、引き続き450℃〜600℃で2〜4回焼き戻しを行った。なお、比較ロール4については、950℃〜1150℃から焼入れ、100℃〜200℃で焼入れを停止させた後、引き続き450℃〜600℃で1回焼き戻しを行った。
得られた熱間圧延用複合ロールについて、引張強度、圧縮残留応力およびクラック深さを測定した。
<引張強度>
内層について、引張強度を測定した。熱処理後のロールの軸端部、軸半径の1/2位置よりJIS Z 2201に従い引張試験片を2本づつ採取して実施した。なお、500MPa以上(ロール2本分の平均値)を合格とした。
<圧縮残留応力>
本発明におけるロール外層表面の残留応力の測定は、オンサイト型のX線残留応力測定装置により行なった。熱処理後の熱間圧延用複合ロール2本について、熱処理で生成した外層表面の酸化層を機械加工により除去した。除去後のロール材について、胴中央の2か所を深さ250μm電解エッチングし、電解エッチングした2箇所の内側を各々3回づつ(ロール1本について6回測定)、ロール軸方向成分を測定した。ロール2本分の平均値を圧縮残留応力とした。
<クラック深さ>
各ロールについて、実際の熱間圧延仕上げミルで使用し、F1スタンドで使用されるロール表面の疲労亀裂深さ(クラック深さ)を測定し、耐熱疲労特性を判断した。疲労亀裂の測定は、圧延1サイクルごと、ロール研削前の使用後ロールについて、胴中央表面の一部を亀裂が消失するまで10μmづつ研削することによって実施した(亀裂が消失した時点の研削深さを亀裂深さとする)。この測定を繰り返し、圧延量10000tonあたりの亀裂深さとして換算した。なお、比較ロール4は、製造した2本(1セット)のロールのうち、1本が熱処理中に折損したため、熱間圧延仕上げミルでの使用には至らなかった。また、比較ロール1は、製造した2本(1セット)のロールのうち、1本が、熱間圧延仕上げミルでの使用中に外層が割れる(割損)トラブルが発生したため、その時点で使用を中止した。
結果を表2に示す。
Figure 2018202446
比較ロール4のうち1本は、上述したように熱処理中に内層から折損した。それ以外のロールは、折損を起こすことなく熱処理を完了した。また、胴部を超音波探傷法で検査したが、中間層及びその近傍へのザク巣などの欠陥も無く、内部性状も健全であった。なお、比較例4のロールについては、1セット2本のうち、1本が熱処理中に折損したので、残りの1本のみについての測定結果を表記している。
本発明例1〜3は、本発明の範囲内の圧縮残留応力値を示しているが、比較例4は本発明の範囲を超えた高い圧縮残留応力値、比較例3は本発明の範囲に満たない低い圧縮残留応力値となっている。比較例4のロール1本は熱処理中に折損しているが、これは残留応力が高いと、ロール内に何らかの欠陥が存在した場合、その欠陥を起点とした破壊が生じるリスクが高いことを示している。また、比較例1のロール1本は熱延使用中に1本割損しているが、MC+Mの値が本発明の限定範囲を超えて高くなっているため、靭性の低い炭化物を亀裂が伝播して割れやすくなるためと推定される。また、外層内の炭化物が多くなると内外層の線膨張係数差が大きくなり、残留応力も大きくなりやすい。外層の圧縮残留応力は、ロール表面に対して垂直な方向の亀裂はこの進展を抑える効果があるが、亀裂の方向がロール表面に対して斜めになると、亀裂を進展させるよう働くとの説もあり、これらが相乗して作用し割損に至ったと推定される。
また、本発明のロールは、比較ロール2および比較ロール3のクラック深さより大幅に浅く、優れた耐熱疲労特性を示した。また、本発明ロール1〜3、および比較ロール2と3の圧縮残留応力値とクラック深さの関係を見ると、圧縮残留応力値が大きいほどクラック深さが浅い傾向となっており、圧縮残留応力値を適正な範囲に管理することで、耐熱疲労特性を安定させることが可能になると考えられる。
以上より、本発明によれば、外層を形成する合金成分を適正化し、炭化物組成を限定するとともに、外層表面の残留応力値を適正な範囲に管理することにより、耐摩耗性や耐熱疲労性に著しく優れたロールを得ることができる。然も、経済的に優れた、遠心鋳造法で製造しても炭化物の偏析がない外層にするとともに、内層に鋳鉄系材料で最も強靭な球状黒鉛鋳鉄を使用し、外層と内層との間に中間層を設けて、それらを完全に冶金学的に結合させて一体とした遠心鋳造製高性能ロールを得ることができる。
1 外層
2 中間層
3 内層

Claims (5)

  1. 質量%で、C:2.40〜2.90%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.10〜0.80%、Cr:12.0〜15.0%、Mo:4.00〜8.00%、V:3.00〜8.00%、Nb:0.50〜3.00%、W:1.00%未満(0%を含む)を含有し、
    かつ、下記(1)式および(2)式を満足し、
    残部Feおよび不可避的不純物からなり、
    さらに、MC型炭化物とM型炭化物の合計の面積率が15〜27%であり、かつ前記MC型炭化物と前記M型炭化物の合計の面積率のうち、前記M型炭化物の割合が2割以上である外層と、
    質量%で、C:2.50〜4.00%、Si:1.50〜3.50%、Mn:1.50%以下、Cr:2.00%以下、Mo:1.00%以下、V:3.00%以下、Nb:2.00%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋳鉄の内層が、
    溶着一体化してなることを特徴とする熱間圧延用複合ロール。
    0.40≦Mo/Cr≦0.65…(1)
    C+0.2Cr≦5.90…(2)
    ここで、Mo、Cr、Cは、各元素の含有量(質量%)である。
  2. さらに前記外層は、質量%で、Ni:1.00%以下、Co:1.00%未満のうちから選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱間圧延用複合ロール。
  3. 前記外層のロール軸方向の圧縮残留応力が、200MPa以上400MPa未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱間圧延用複合ロール。
  4. 前記外層と前記内層は、中間層を介して溶着一体化し、前記中間層は、質量%で、C:0.80〜3.00%、Si:0.30〜3.00%、Mn:1.50%以下、Cr:10.0%以下、Mo:4.00%以下、V:5.00%以下、Nb:3.00%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱間圧延用複合ロール。
  5. 中間層材への外層混入比を5〜50%とし、かつ、内層材への中間層混入比を5〜20%とすることを特徴とする請求項4に記載の熱間圧延用複合ロール。
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