上記の本発明のオスコネクタにおいて、前記第1シール部及び前記第2シール部は、周方向に連続する環状の突起であってもよい。また、前記凹部は、周方向に連続する環状の溝であってもよい。かかる態様によれば、横孔から外界への液体の漏出防止と、シールドの初期状態への復帰動作の信頼性の向上とを、簡単な構成で実現することができる。
前記横孔は、前記オス部材の長手方向に沿ったその径が、周方向に沿ったその径より大きな非円形孔であってもよい。かかる態様は、シールドが圧縮状態から初期状態へ復帰する過程で、第1シール部が横孔の端縁に引っ掛かる可能性を低減させる。これは、シールドが圧縮状態から初期状態へ復帰する動作の信頼性を更に向上させるのに有利である。
前記内腔の前記内周面の先端側の開口の端縁に、前記内腔の内径が、先端に向かって大きくなるように変化する遷移領域が設けられていてもよい。かかる態様は、シールドが圧縮状態から初期状態へ復帰する過程で、第1シール部が横孔の端縁に引っ掛かる可能性を低減させる。これは、シールドが圧縮状態から初期状態へ復帰する動作の信頼性を更に向上させるのに有利である。
前記頭部の先端に、前記オスコネクタがメスコネクタに接続されたときに前記メスコネクタに係合することができる係合構造が設けられていてもよい。かかる態様によれば、メスコネクタに係合した係合構造は、オスコネクタをメスコネクタから分離する際に、シールドが初期状態へ伸張するようにシールドを引っ張る。これは、シールドが圧縮状態から初期状態へ復帰する動作の信頼性を更に向上させるのに有利である。
以下に、本発明を好適な実施形態を示しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。以下の説明において参照する各図は、説明の便宜上、本発明の実施形態を構成する主要部材を簡略化して示したものである。従って、本発明の範囲内において、図面に示されていない任意の部材を追加したり、あるいは、図面に示された任意の部材を変更もしくは省略したりしてもよい。
1.オスコネクタの構成
図1Aは、本発明の一実施形態にかかるオスコネクタ1の斜視図である。図1B及び図1Cは、オスコネクタ1の、中心軸1aを含む面に沿った断面図である。図1Bの断面と図1Cの断面とは互いに直交する。以下の説明の便宜のために、中心軸1aに平行な方向を「上下方向」という。「上」及び「下」は、図1B及び図1Cに基づいて定義する。中心軸1aに垂直な平面に平行な方向を「水平方向」という。但し、「上」、「下」、「水平」は、オスコネクタ1の実際の使用時の向きを意味するものではない。中心軸1aに直交する方向を「半径方向」又は「径方向」といい、中心軸1aの周りを回転する方向を「周方向」という。半径方向において、中心軸1aに近い側を「内側」、中心軸1aから遠い側を「外側」という。
図2は、本発明の一実施形態にかかるオスコネクタ1の分解斜視図である。オスコネクタ1は、オスコネクタ本体10とシールド50とを備える。
図3A及び図3Bは、オスコネクタ本体10の、中心軸(図1B及び図1Cに示したオスコネクタ1の中心軸1a)を含む面に沿った断面斜視図である。図3Aの断面と図3Bの断面とは互いに直交する。図3A及び図3Bに加えて図2を参酌して、オスコネクタ本体10を説明する。
オスコネクタ本体10は、オス部材(オスルアー)11を備える。オス部材11は、中心軸と同軸に、中心軸に沿って延びた棒状の部材である。オス部材11の外周面(側面)は、本実施形態では、オス部材11の基端11bからその先端11aに向かってその外径が小さくなるテーパ面(円錐面)である。但し、オス部材11の外周面の形状はこれに限定されず、任意に選択することができる。例えば、オス部材11の外周面は、基端11bから先端11aまで外径が一定である円筒面であってもよい。あるいは、オス部材11の外周面は、外径が任意の関数に基づいて中心軸方向において変化する曲面であってもよい。
オス部材11内には、中心軸1aに沿って流路12が形成されている。流路12は、オス部材11の先端11aには開口していない。オス部材11の外周面の先端11aの近傍の位置に、流路11と連通する2つの横孔13が形成されている。各横孔13は、半径方向に沿って延び、オス部材11の外周面上で開口している。なお、横孔13の数は2つである必要はなく、1つ又は3つ以上であってもよい。横孔13は、オス部材11の長手方向に沿ったその径が、周方向に沿ったその径より大きな長孔である(後述する図11A参照)。
オス部材11の基端11bからベース15が半径方向に沿って外向きに突出している。ベース15は、水平方向に略平行な平板状の部材である。ベース15に、ベース15を上下方向に貫通する一対の孔16が形成されている。接続筒17がベース15から下方に向かって突出している。接続筒17は、オス部材11と同軸の中空の略円筒形状を有し、オス部材11の流路12と連通する流路が形成されている。接続筒17には、液体(例えば血液、薬液、生理食塩水等)が流れる回路を構成する柔軟なチューブが、直接的に又は他の部材(図示せず)を介して間接的に接続される。
フード20が、ベース15の外側端縁から、オス部材11と同じ側に立設されている。フード20は、オス部材11を取り囲む中空の筒形状を有する。フード20は、上方に向いた開口21を有する。上方から見た開口21は、オス部材11と同軸の円形である。フード20の先端(上端)は、オス部材11の先端11aより高い位置にある。
フード20の側壁には、一対の切り欠き23が設けられている。切り欠き23は、フード20を半径方向に貫通する穴(開口)である。一対の切り欠き23は、オス部材11を挟んで対向している。
図3Bに最もよく示されているように、一対のレバー30が、オス部材11を挟んで対向している。レバー30は、オス部材11と略平行に伸びている。レバー30の長手方向の略中間部分が、ベース15に接続されている。レバー30は、ベース15に対してオス部材11と同じ側(上側)に配された係止部31と、ベース15に対して接続筒17と同じ側(下側)に配された操作部35とを備える。係止部31は、フード20に形成された切り欠き23内に配置されている。
係止部31のオス部材11に対向する側の面(内側面)から、爪32がオス部材11に向かって突出している。爪32は、その頂部(オス部材11側に最も突出した部分)32tよりも上側に傾斜面32aを備える。傾斜面32aは、上方に向かってオス部材11から遠ざかるように傾斜している。爪32の頂部32tは、フード20の開口21を規定する端縁よりオス部材11側に突出している。
レバー30は、その上端(係止部31)から下端(操作部35)までの全部分が実質的に剛体と見なしうる程度の機械的強度を有する。これに対して、オス部材11の基端11bとレバー30とをつなぐベース15の機械的強度は相対的に低い。従って、図3Bに示すように、操作部35に半径方向内向きの力Fを印加すると、ベース15が弾性的に曲げ変形して、係止部31及びこれに形成された爪32がオス部材11から離れるように(矢印Aの向きに)レバー30を回動(または揺動)させることができる。
オスコネクタ本体10は、硬質の材料からなることが好ましい。具体的には、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリプロピレン、硬質ポリ塩化ビニル等の樹脂材料を用いうる。オスコネクタ本体10は、このような樹脂材料を用いて射出成形法等により全体を一部品として一体的に作成することができる。
図4A及び図4Bは、シールド50の、中心軸(図1B及び図1Cに示したオスコネクタ1の中心軸1a)を含む面に沿った断面斜視図である。図4Aの断面と図4Bの断面とは互いに直交する。図4A、図4Bに加えて図2を参酌してシールド50を説明する。
シールド50は、上から下に、頭部51、外周壁55、基部58をこの順に備える。頭部51の上面から、突起体53が上方に向かって突出している。図4A、図4Bに示されているように、シールド50は、上下方向に貫通した略筒形状を有している。
シールド50は、ゴム弾性(または可撓性)を有する軟質の材料(いわゆるエラストマー)を用いて全体を一部品として一体的に成形されている。シールド50の材料は、制限はないが、例えば、イソプレンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、熱可塑性エラストマー等を用いることができる。シールド50は、外力によって変形可能であり、且つ、外力を取り除くと直ちに変形前の状態(自然状態)に復帰する。
図4A、図4Bに示されているように、頭部51(突起体53を含む)に、中心軸と同軸の貫通孔が形成されている。貫通孔内の空間は、オス部材11が挿入される内腔52である。内腔52の内周面には、第1シール部52a、第2シール部52b、凹部52c、遷移領域52dが設けられている。
第1シール部52a及び第2シール部52bは、いずれも周方向に連続した環状の突起(凸部)である。シール部52a,52bは、内腔52内にオス部材11が挿入されたとき(図1B、図1C参照)、オス部材11の外周面に密着して当該外周面との間に液密なシールを形成する。本実施形態では、シール部52a,52bは、オスコネクタ1の中心軸1a(図1B及び図1C参照)と同軸であり、その内径が中心軸方向において一定である円筒面である。より詳細には、第1シール部52aの内径と第2シール部52bの内径とは同一であり、それらは、オス部材11の外径よりわずかに小さい。第1シール部52aは、第2シール部52bよりも上側に配置されている。
凹部52cは、第1シール部52aと第2シール部52bとの間に配置されている。凹部52cは、第1シール部52a及び第2シール部52bよりも大きな内径を有する、周方向に連続した環状の溝である。凹部52cの中心軸1a(図1B及び図1C参照)方向に沿った寸法(即ち、凹部52cの溝幅)は、オス部材11に設けられた横孔13の同方向に沿った寸法(即ち、横孔13の長軸方向の開口径)よりも大きくても、小さくてもよい。第1シール部52aの凹部52a側端、及び、第2シール部52bの凹部52a側端には、内径がなだらかに変化する遷移部(例えば凸曲面、傾斜面)が設けられている。
遷移領域52dは、内腔52の内周面の上方に向いた開口の端縁に設けられており、第1シール部52aに対して上側に隣接する。遷移領域52dでは、内腔52の内径が上方に向かって大きくなるように変化している。本実施形態では、遷移領域52dは、内径が一次関数的に変化するテーパ面(あるいは、円錐面)で構成される。但し、遷移領域52dは、これに限定されず、例えば、略円弧状の断面を有する凸曲面で構成されてもよい。
突起体53は、半径方向の外向きに突出した係止突起53aを備える。係止突起53aは、周方向に連続する環状の突起である。係止突起53aを備えた突起体53は、全体として略キノコ形状、または、略傘形状を有している。突起体53の最大外径(即ち、係止突起53aの外径)は、好ましくは、メスコネクタ100のキャップ130に設けられた開口132(後述する図6参照)の内径よりわずかに大きい。突起体53の中央を、内腔52を有する貫通孔が貫通している。
外周壁55は、シールド50に上下方向の圧縮力が印加されたときに、その上下方向寸法が短縮するように弾性的に圧縮変形する(後述する図7B、図7C参照)。外周壁55は、頭部51の内腔52より大きな内径を有する。
基部58は、平坦な底面58aを有する(図4B参照)。底面58aから、下方に向かって一対の固定突起59が突出している。固定突起59の外周面からは半径方向の外側に向かって固定爪59aが突出している。固定突起59及び固定爪59aは、シールド50をオスコネクタ本体10に固定するために使用される。
図2に示すように、シールド50は、上方から、オスコネクタ本体10のフード20内に挿入される。図1Cに示されているように、シールド50の固定突起59がコオスネクタ本体10のベース15に設けられた孔16に挿入される。固定爪59aは、孔16を通り抜けてベース15の下面に係合する。シールド50の底面58a(図4B参照)は、ベース15の上面に密着する(図1B参照)。
シールド50の頭部51の内腔52(図4A、図4B参照)内にオス部材11の先端11a及びその近傍部分が挿入される。オス部材11の先端11aは、内腔52内で上方に向かって露出される。図1Cに示されているように、シールド11の凹部52cがオス部材11の横孔13に半径方向に対向する。シールド50のシール部52a,52bは、オス部材11の外周面の外形状に応じて適宜変形(例えば拡径)しながら当該外周面に密着する。これにより、横孔13に対して上側において、第1シール部52aとオス部材11の外周面との間に周方向に連続した液密な環状のシールが形成され、横孔13に対して下側において、第2シール部52bとオス部材11の外周面との間に周方向に連続した液密な環状のシールが形成される。シール部52a,52bは、流路12内の液体が横孔13を通って外界(即ち、オスコネクタ1外)に漏れ出るのを防止する。
シールド50の外周壁55は、オス部材11から半径方向に離間している。また、外周壁55は、フード20及びレバー30のいずれからも半径方向に離間している。
本発明では、図1A〜図1Cに示したように、シールド50が上下方向に圧縮変形しておらず、且つ、レバー30に実質的に外力が作用していない状態を、オスコネクタ1の「初期状態」という。
2.オスコネクタの使用方法
オスコネクタ1は、メスコネクタに接続して使用される。メスコネクタの一例を図5及び図6に示す。図5は、オスコネクタ1をメスコネクタ100に接続する直前の状態を示した斜視図である。図6は、メスコネクタ100の断面斜視図である。
図6に示されているように、メスコネクタ100は、円板状のメス部材(以下「セプタム」という)110と、セプタム110を上下方向に挟持し固定する基台120及びキャップ130とを備える。
セプタム110の中央には、セプタム110を上下方向に貫通する直線状のスリット(切り込み)111が形成されている。セプタム110は、外力によって容易に変形可能であり、且つ、外力を取り除くと直ちに変形前の状態(自然状態)に復帰する。セプタム110の材料は、制限はないが、ゴム弾性を有する軟質の材料であることが好ましく、例えば、イソプレンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、熱可塑性エラストマー等を用いることができる。
基台120は、略円筒形状を有する台座121を備える。台座121の外周面は円筒面である。台座121の外周面から、一対の係合爪122及び環状突起123が外側に向かって突出している。環状突起123は、係合爪122に対して、メスコネクタ100の基端側(図6において上側)にわずかに離間している。
台座121は、接続筒127に連通している。接続筒127は、台座121と同軸の略円筒形状を有する。接続筒127には、液体(例えば血液、薬液、生理食塩水等)が流れる回路を構成する柔軟なチューブが、直接的に又は他の部材(図示せず)を介して間接的に接続される。
キャップ130は、円板形状を有する天板131と、天板131の外周端縁から延びた円筒形状を有する周囲壁135とを備える。天板131の中央には円形の開口(貫通孔)132が形成されている。周囲壁135には、一対の係合孔136が形成されている。係合孔136は、周囲壁135を半径方向に貫通する貫通孔である。
セプタム110は、台座121の先端とキャップ130の天板131との間に、その厚さ方向(即ち、上下方向)に挟持される。台座121に形成された係合爪122がキャップ130に形成された係合穴136内に嵌入することによって、キャップ130が係合爪122に係合される。セプタム110のスリット111は、天板131に形成された開口132内に露出する。基台120に形成された環状突起123は、キャップ130の周囲壁135に上側に隣接する。環状突起123の頂面は、周囲壁135の外周面と略同一の円筒面を構成する。
スリット111が形成されたセプタム110を備えたメスコネクタ100は、一般にニードルレスポートと呼ばれる。セプタム110が変形していない初期状態では、スリット111は閉じられて液密なシールを形成する。セプタム110は、台座121の内腔125を外界から分離する隔壁部材として機能する。
オスコネクタ1とメスコネクタ100との接続は以下のようにして行うことができる。
最初に、図5に示すように、オスコネクタ1とメスコネクタ100とを対向させる。図示していないが、オスコネクタ1の接続筒17及びメスコネクタ100の接続筒127には、それぞれ柔軟なチューブが直接的に又は何らかの部材を介して間接的に接続されている。
次いで、メスコネクタ100のキャップ130をオスコネクタ1のフード20内に挿入し押し込む。
キャップ130の天板131(図6参照)の外周端縁が、レバー30の爪32の傾斜面32aに当接する。爪32がオス部材11から離れるようにレバー30は弾性的に変位する(図3Bの矢印A参照)。
シールド50の突起体53(図1B、図1C、図4A参照)は、メスコネクタ100のキャップ130の開口132内に露出したセプタム110(図6参照)に当接する。メスコネクタ100をフード20内に更に深く挿入すると、オス部材11は、突起体53から突出し、セプタム110を変形させ、セプタム110のスリット111内に進入する。これと並行して、シールド50は上下方向に圧縮される。
図7Aは、オスコネクタ1をメスコネクタ100に接続した状態を示した斜視図である。図7B及び図7Cはその断面図である。図7B及び図7Cの断面は、図1B及び図1Cの断面とそれぞれ同じである。
図7B及び図7Cに示されているように、オス部材11が、シールド50の頭部51から突出し、更に、セプタム110のスリット111(図6参照)を貫通している。セプタム110は台座121の内腔125に向かって変形している。オス部材11の横孔13は、台座121の内腔125内に露出している。従って、オス部材11の流路12と台座121の内腔125とが連通する。
シールド50は、上下方向の圧縮力を受け、特にその外周壁55が、その上下方向寸法が縮小するように圧縮変形している(圧縮状態)。頭部51から突出した突起体53は、キャップ130の開口132を貫通している。突起体53から突出した環状の係止突起53a(図4A参照)は、開口132の端縁に係合している。
図7Bに最もよく示されているように、レバー30の爪32は、メスコネクタ100の環状突起123に係合している。レバー30の位置は、図1Bに示した初期状態と概略同じである。レバー30は、オスコネクタ1とメスコネクタ100とが接続された状態を維持する「ロック機構」として機能する。レバー30は、メスコネクタ100がオスコネクタ1から意図せずに分離するのを防止する。
オスコネクタ1とメスコネクタ100との分離は、概略以下の手順で行う。
最初に、レバー30の操作部35に半径方向内向きの力(図3Bの力F)を印加して、レバー30を回動させ、爪32と環状突起123との係合を解除する。レバー30を回動させた状態でオスコネクタ1とメスコネクタ100とを、互いに離れる向きに引っ張ると、オスコネクタ1をメスコネクタ100から分離させることができる(図5参照)。セプタム110は、オス部材11が抜き去られると直ちに弾性回復し、スリット111は閉じられる。シールド50は、自身の弾性復元力によって初期状態(図1A〜図1C参照)にまで伸張する。操作部35への外力を解除すれば、レバー30は初期状態に弾性的に復帰する。
シールド50が初期状態に復帰すると、第1シール部52a及び第2シール部52bはオス部材11の外周面との間に液密な環状のシールを形成する(図1C参照)。シールド50は、オスコネクタ1がメスコネクタ100から分離されると初期状態に自動的に復帰してオス部材11の流路12と外界との連通を遮断する「自閉機構」として機能する。
3.作用
オスコネクタ1をメスコネクタ100から分離すると、シールド50は圧縮状態(図7B、図7C参照)から初期状態(図1B、図1C参照)へ復帰(伸張)する。本実施形態では、シールド50が圧縮状態から初期状態へ復帰(伸張)する動作(以下、単に「復帰動作」ということがある)に関する信頼性が、従来のオスコネクタに比べて向上している。これを、以下に説明する。
図8Aは、上述した特許文献1に記載された従来のオスコネクタを構成するシールド950の斜視図である。図8Bは、シールド950の中心軸を含む面に沿った断面図である。シールド950は、本実施形態のシールド50と同様に、頭部951、外周壁955、基部958をこの順に備える。頭部951の上面から、突起体953が突出している。頭部951(突起体953を含む)に、中心軸と同軸の貫通孔が形成されている。貫通孔内の空間は、オス部材911(図9参照)が挿入される内腔952である。内腔952の内周面952aは、中心軸方向において内径が一定である円筒面である。内周面952aをオス部材911の外周面に密着させて液密なシールを形成するために、内周面952aの内径は、本実施形態のシール部52a,52bと同様に、オス部材911の外径よりわずかに小さい。内腔952には、本実施形態のシールド50に設けられていた凹部52c及び遷移領域52d(図4A、図4B参照)が設けられていない。
図9は、従来のオスコネクタのオス部材911の横孔913及びその近傍の部分拡大断面図である。シールド950は、初期状態にある。シールド950の内周面952aは、オス部材911の外周面に密着している。横孔913は、内周面952aで塞がれ、これにより横孔913は液密に封止されている。オス部材911の長手方向に沿った内周面952aの幅W(図8B参照)は、横孔913を確実に塞ぐために、横孔913の該方向に沿った開口径より大きく設定される。このため、内周面952aの面積は比較的大きい。
図示を省略するが、オスコネクタをメスコネクタに対して接続/分離すると、内周面952aは、オス部材911の外周面に密着しながら、オス部材911の外周面上を、オス部材911の長手方向に沿って摺動する。上述したように内周面952aは比較的大きな面積を有するので、オス部材911の外周面に対する内周面952aの摺動抵抗は大きい。このため、オスコネクタをメスコネクタに接続したまま長期間放置する等によってシールド950(特に外周壁955)の復元力が低下した場合、オスコネクタをメスコネクタから分離してもシールド950が圧縮状態から初期状態に復帰(伸張)しないという事態が起こることがあった。
これに対して、本実施形態では、シールド50の内腔52の内周面には、第1シール部52a及び第2シール部52bよりも後退した(即ち、大きな内径を有する)凹部52c及び遷移領域52dが設けられている。初期状態では、シール部52a,52bがオス部材11の外周面に密着する。内腔52の内周面のうちオス部材11に密着する部分の面積(即ち、シール部52a,52bの合計面積)は、従来の内腔952の内周面952aの面積よりも小さい。これは、オス部材11の外周面に対するシール部52a,52bの摺動抵抗を低下させる。従って、オスコネクタ1をメスコネクタ100に接続(図7A〜図7C参照)したまま長期間放置する等によってシールド50(特に外周壁55)の復元力がたとえ低下したとしても、その後、オスコネクタ1をメスコネクタ100から分離すれば、シールド50は圧縮状態から初期状態に直ちに復帰(伸張)することが可能である。このように、本実施形態では、シールド50が圧縮状態(図7B、図7C参照)から初期状態(図1B、図1C参照)へ復帰(伸張)する動作に関する信頼性が向上する。このため、オスコネクタ1は、メスコネクタ100を分離した後の横孔13からの意図しない液漏れを確実に防止することができ、高い安全性を有している。
初期状態にある従来のオスコネクタ(図9参照)において、オス部材911の横孔913を封止するのに実質的に機能しているのは、内周面952aのうち横孔913の周囲部分に当接する限られた領域のみである。従って、本実施形態においてシール部52a,52bの合計面積が、従来のオスコネクタの内周面952aの面積より小さくても、シール部52a,52bでのシール性が従来のオスコネクタより劣ることはない。むしろ、シール部52a,52bの合計面積が小さいことは、シール部52a,52bの内径をわずかに小さくするだけで、シール部52a,52bの摺動抵抗を大幅に増大させることなく、シール部52a,52bでのシール性を容易に向上させることができるという利点を有する。
従来のオスコネクタ(図9参照)では、横孔913のオス部材911の長手方向に沿った開口径を大きくすると、内周面952aの幅W(図8B参照)も、これに応じて大きくする必要がある。これは、オス部材911に対する内周面952aの摺動抵抗を増大させる。これに対して、本実施形態では、横孔13のオス部材11の長手方向に沿った開口径を大きくしても、シール部52a,52bのオス部材11の長手方向に沿った幅を大きくする必要はない。従って、本実施形態では、横孔13が長孔であるにもかかわらず、シール部52a,52bの摺動抵抗を小さく抑えることができる。
シール部52a,52bとオス部材11との間のシール性を向上させるために、シール部52a,52bの内径は好ましくはオス部材11の外径より小さく設定される。内腔52にオス部材11が挿入されると、シール部52a,52bはオス部材11によって拡径されるように変形する。この場合、凹部52c及び/又は遷移領域52dがオス部材11の外周面に接触する可能性がある。しかしながら、凹部52c及び遷移領域52dのオス部材11に対する接触圧力は相対的に低いので、凹部52c及び遷移領域52dがオス部材11に接触することが、シールド50の復帰動作を妨げる可能性は相対的に低い。
図10Aは、従来のオス部材911の横孔913の部分拡大正面図である。図10Bは、オス部材911の横孔913の部分拡大側面図である。図10Aに示されているように、横孔913の開口を規定する端縁913aは円形である。先細の緩やかなテーパ面であるオス部材911の外周面に、円形の横孔913が半径方向に沿って開口している。このため、図10Bに示されているように、横孔913をその貫通方向に垂直な方向に沿って見ると、横孔913の端縁913aは円弧状に窪んでいる。寸法D9は、端縁913aの最大窪み深さを示す。
図10Cは、シールド950が、圧縮状態から初期状態に復帰する過程を示している。シールド950の頭部951は、矢印M9の向きに移動しており、シールド950の内周面952aが横孔913を塞ぐ直前の状態にある。上述したように、内周面952aの内径はオス部材911の外径よりわずかに小さい。このため、内周面952aは、拡径するように変形されている。内周面952aの横孔913に対向する部分は、頭部951の復元力によって、横孔913に入り込むように、横孔913の端縁913aに沿って内向きに変形している。この状態から、頭部951が矢印M9の向きに更に上昇すると、内周面952aの上方を向いた開口の端縁952eが、横孔913の端縁913aに引っ掛かり、頭部951の矢印M9の向きへの移動が停止してしまう事態が起こりうる。これは、シールド950が初期状態に復帰することを不可能にする。
図11Aは、本実施形態のオス部材11の横孔13の部分拡大正面図である。横孔13は、従来の横孔913と異なり、オス部材11の長手方向(即ち、図2B及び図2Cに示す中心軸1a方向)に平行な長軸を有する非円形孔(長孔)である。より詳細には、正面から見た横孔13の端縁13aは、オス部材11の長手方向に平行な2本の直線13b,13bと、当該2本の直線の上端をつなぐ半円弧13c1と、当該2本の直線の下端をつなぐ半円弧13c2とで構成され、全体として陸上競技場のトラックと概略類似した形状を有している。液体の流動抵抗を横孔13と横孔913とで同じにするために、正面から見た横孔13の開口面積は、従来の横孔913(図10A参照)の開口面積と同じである。従って、横孔13の長軸方向(即ち、オス部材11の長手方向)の開口径は、横孔913の開口径より大きく、横孔13の短軸方向(即ち、オス部材11の周方向)の開口径は横孔913の開口径より小さい。
図11Bは、横孔13の貫通方向に垂直な方向に沿って見た、オス部材11の横孔13の部分拡大側面図である。横孔13の端縁13aは凹状に窪んでいる。寸法D1は、端縁13aの最大窪み深さである。図11Bを図10Bと比較すれば容易に理解できるように、端縁13aの窪み深さD1は、従来の横孔913の端縁913aの窪み深さD9より小さい。
図11Cは、シールド50が、圧縮状態から初期状態に復帰する過程を図10Cと同様に示している。シールド50の頭部51は、矢印M1の向きに移動しており、シールド50の第1シール部52aが横孔13上を通過しはじめたところである。上述したように、第1シール部52aの内径はオス部材11の外径よりわずかに小さい。このため、第1シール部52aは、拡径するように変形されている。図10Cの場合と同様に、第1シール部52aが横孔13上を通過するとき、第1シール部52aの横孔13に対向する部分は、第1シール部52aの復元力によって、横孔13に入り込むように、横孔13の端縁13aに沿って内向きに変形する。しかしながら、端縁13aの窪み深さD1(図11B参照)は、従来の端縁913aの窪み深さD9(図10B参照)より小さいので、頭部51が矢印M1の向きに更に上昇しても、第1シール部52aが端縁13aに引っ掛かる可能性は低い。更に、第1シール部52aに対して上側に隣接する遷移領域52dが、第1シール部52aが端縁13aの窪みから脱出するのを助ける。従って、本実施形態では、第1シール部52aは、横孔13の端縁13aに引っ掛かることなく、横孔13を乗り越えることができる。このように、横孔13及び遷移領域52dは、シールド50の復帰動作の信頼性を更に向上させるのに有利である。
オスコネクタ1をメスコネクタ100に接続したとき、頭部51に設けられた突起体53の係止突起53a(図4A参照)は、メスコネクタ100の開口132の端縁に係合する係合構造として機能する(図7B、図7C参照)。メスコネクタ100に係合した係止突起53aは、オスコネクタ1をメスコネクタ100から分離する際に、シールド50が初期状態へ復帰(伸張)するようにシールド50を引っ張る。これは、シールド50の復帰動作の信頼性を更に向上させるのに有利である。
なお、シールド50が初期状態に復帰する前に係止突起53aがメスコネクタ100から外れたとしても、上述したようにシールド50の復元力によってシールド50は初期状態に復帰することができる。
4.各種変更実施形態
上記の実施形態は、例示に過ぎない。本発明は、上記の実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
シールド50の内腔52の内周面において、遷移領域52dを省略してもよい。この場合、第1シール部52aが、シールド50の内腔52の内周面の先端側の開口の端縁にまで延びていてもよい。
係止突起53aを省略してもよい。更には、係止突起53aに加えて突起体53も省略してもよい。
内腔52の上方を向いた開口の端縁に、セプタム110のスリット111と同様のスリットを設けてもよい。このスリットは、オスコネクタ1をメスコネクタ100に接続していない初期状態では、内腔52の開口を液密に塞ぐように構成することができる。
シールド50のベース15への固定方法は、固定爪59aをベース15に係止する方法に限定されず、例えば、接着、溶着、嵌合等、任意の方法を用いうる。
オス部材11の横孔13の正面から見た開口形状は、陸上競技場のトラックに限定されない。横孔13の開口形状は、楕円形、長方形、菱形等の、オス部材11の長手方向に平行な長軸を有する任意の長孔形状であってもよい。但し、シールド50が初期状態へ復帰する過程において第1シール部52aが横孔13の端縁に引っ掛かる可能性を低減する観点からは、陸上競技場のトラック形状が好ましい。
横孔13の正面から見た開口形状は、従来の横孔913(図10A参照)と同様に、円形であってもよい。あるいは、長孔形状や円形以外の任意の形状であってもよい。
オスコネクタ本体10に設けられるレバー30の数は、2本に限定されず、1本又は3本以上であってもよい。レバー30の支点(ベース15)に対して係止部31と同じ側に、レバーを回動させるための操作部が設けられていてもよい。
上記の実施形態では、係止爪32はメスコネクタ100の環状突起123に係合したが、係止爪32が係合するメスコネクタ100の部分は、メスコネクタ100の構成に応じて適宜変更してよい。メスコネクタ100に係合する部分に応じて、係止爪32の形状や位置を変更することができる。
フード20が円形の開口21を有している必要はない。例えば、フード20に代えて、2本のレバー30が対向する方向に対して垂直な方向に対向する2つの壁を設けてもよい。あるいは、フード20を省略してもよい。