JP2018193967A - 内燃機関の制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】内燃機関の運転状態が定常状態での点火時期学習値算出において、ノック判定閾値の下限クリップ値が弊害となる状況を回避できる内燃機関の制御装置を得る。【解決手段】点火時期学習値に基づいてノック判定閾値の下限クリップ値を算出する下限クリップ値算出部を備え、運転状態検出部により過渡状態であると判定された場合に、ノック判定閾値に下限クリップ値を適用する。【選択図】図3

Description

この発明は、内燃機関の制御装置に関し、詳しくは、内燃機関で発生するノックを検出する内燃機関のノック検出装置に関するものである。
従来から、内燃機関(以下、エンジンとも称する。)にて発生するノック現象を振動センサにて検出する方法が知られている。これは、エンジンの運転中にノックが発生すると、エンジンやノックの振動モードに応じた固有周波数の振動が発生することを利用して、所定のノック検出ウィンドウにおける固有周波数の振動成分を抽出することでノック検出を行うものである。固有周波数の振動レベルの抽出には、アナログのバンドパスフィルタ回路を用いた方法や、STFT(short-time Fourier transform:短時間フーリエ変換)、DFT(discrete Fourier transform:離散フーリエ変換)などのデジタル信号処理の実施が一般的に知られている。
そして、例えば実公平6−41151号公報(特許文献1)に開示されているように、振動レベルの抽出により得られた値(以下、ノック信号と称する。)を点火毎にフィルタ処理することでノック信号のフィルタ値を求め、このフィルタ値を基に算出されるノック判定閾値とノック信号とを比較することによりノックの発生を判定する方法がある。この方法では、フィルタ処理にて使用するフィルタ係数を過渡状態時に小さくするように補正することで、過渡状態においてノック信号のフィルタ値に反映させるノック信号の割合を増大させることにより、ノック信号のフィルタ値の追従を早めて、過渡状態でのノック判定の精度を向上させるようにしている。
ただし、過渡状態と判定される同じエンジン回転数または負荷の変化率でも、低速時と高速時では要求されるノック信号のフィルタ値の追従性が異なり、例えばエンジン回転数が低回転から高回転へ変化するが、エンジン回転、負荷がそれほどの過渡状態ではなくても、エンジン回転数が低回転の領域においてはノック信号のフィルタ値の早い追従性が必要となる場合がある。そのような場合に、ノック信号のフィルタ値の早い追従性が必要であるのに、それほどの過渡状態ではないのでフィルタ係数の補正量は小さくて、フィルタ係数の補正が十分ではないために、前記特許文献1の開示技術ではノック信号のフィルタ値の追従遅れによりノックを誤判定する課題が生じる。
これに対して、特開平10−259778号公報(特許文献2)では、ノック判定閾値に下限クリップ値を設定する方法が提案されている。この特許文献2の方法によれば、ノック判定閾値が下限クリップ値(特許文献2中の下限ガードA)未満の場合は、下限クリップ値をノック判定閾値とし、かつフィルタ係数を小さくするようにしている。これにより、ノック判定閾値が下限クリップ値より低い状態から加速する際に、それほどの過渡状態でなくても、ノック信号のフィルタ値の追従性を向上させることができ、ノックを誤判定するのを防止できる。
実公平6−41151号公報 特開平10−259778号公報
この発明が解決しようとする課題の説明に際し、まずは所定の定常状態における点火時期とノック信号の関係について説明する。
図10は、エンジン回転数と充填効率が概ね一定である所定の定常状態における点火時期とノック信号の関係を示すイメージ図で、横軸は点火時期、縦軸はノック信号を示している。そして、図10の符号aで示す太線はノック信号の平均値(≒ノック信号のフィルタ値)、同図の符号bで示す2点鎖線はノック信号(ノック発生時のノック信号は除く)の上側分布を示し、符号bで示す2点鎖線と符号aで示す平均値の差分はノック信号の上側分布幅を示す。そして、図10の符号cで示す1点鎖線はノック信号の下側分布を示し、符号aで示す平均値と符号cで示す1点鎖線の差分はノック信号の下側分布幅を示している。
また、図10において、IG2は、エンジン制御定数を適合する際の標準条件(オクタン価、吸気温、エンジン油温、水温など)においてノックが発生し始める点火時期を示している。そして、IG1は、前記標準条件よりも低オクタン価、高吸気温、高エンジン油温、水温などの条件であってノックが発生し始める点火時期がIG2よりも遅角側に位置する場合の点火時期である。また、IG3は、前記標準条件よりも高オクタン価、低吸気温、低エンジン油温、水温などの条件であってノックが発生し始める点火時期がIG2よりも進角側に位置する場合の点火時期である。
ノック信号の平均値および上側分布幅について、図10に示すように、IG2の場合に対してIG1の場合の方がノック信号の平均値および上側分布幅は小さくなり、また、IG2の場合に対してIG3の場合の方がノック信号の平均値および上側分布幅は大きくなる。なお、ノックが発生し始める点火時期については、一般的に知られている点火時期学習値を用いればよく、例えば、定常状態における所定サイクル間の点火遅角量(本明細書では負値とする)の平均値を算出し、所定サイクル間の点火遅角量の平均値がゼロであれば点火時期学習値は正値方向(点火進角側)に更新し、所定サイクル間の点火遅角量の平均値が所定値より小さければ負値方向(点火遅角側)に更新する方法がある。
ここで、ノック判定閾値を、ノック信号の平均値とノック信号の上側分布幅を基に算出するものとし、ノック判定閾値の下限クリップ値はノック信号の上側分布幅に適用する場合を考えると、ノック発生時のノック信号の検出を阻害しないことを考慮して、ノック判定閾値の下限クリップ値は、図10のノック信号の上側分布幅よりも僅かに大きい値に設定し、そして点火時期学習値に応じて可変とすることが望ましいと考えられる。
しかしながら、前記特許文献2では、ノック判定閾値の下限クリップ値は定数であり、何らかのパラメータに応じて可変とする内容は考慮されていない。よって、例えば図10のIG2の場合に基づいてノック判定閾値の下限クリップ値を設定した場合には、下記の課題が生じる。
図11は、前記特許文献2などの従来技術において、点火時期学習値が遅角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートを示している。タイムチャートは上段、中段、下段の3つを記載している。上段は、横軸が時間、縦軸はエンジン回転数、充填効率などの運転状態値のタイムチャートである。中段は、横軸が時間、縦軸はノック信号のタイムチャートであり、本タイムチャート間に計6発のノックが発生している状態を示している。また、中段の符号dで示す太線はノック信号のフィルタ値、符号eで示す長破線はノック判定閾値を示している。下段は、横軸が時間、縦軸はノック強度のタイムチャートである。ノック強度は、例えば、ノック信号がノック判定閾値を上回る分の値に対して所定のゲインを乗じて算出する。
点火時期学習値が遅角側である場合には、本来ならば、例えば図10のIG1に応じたノック判定閾値の下限クリップ値が設定されるべきところで、それよりも大きいIG2に応じたノック判定閾値の下限クリップ値が設定されている。よって、図11の中段、下段に示すとおり、ノック判定閾値の下限クリップ値が大きすぎてノックを検出できない課題が生じる。
図12は、前記特許文献2などの従来技術において、点火時期学習値が進角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートを示している。タイムチャートは図11と同様に上段、中段、下段の3つを記載しており、各タイムチャートの横軸、縦軸等は図11と同様であるが、図12では本タイムチャート間にノックが未発生の状態を示している。
点火時期学習値が進角側である場合には、本来ならば例えば図10のIG3に応じたノック判定閾値の下限クリップ値が設定されるべきところで、それよりも小さいIG2に応じたノック判定閾値の下限クリップ値が設定されている。よって、図12の中段、下段に示すとおり、ノック判定閾値の下限クリップ値が小さすぎてノックを誤検出してしまう課題がある。さらに、ノックが発生した時のノック信号によってノック信号のフィルタ値が不要に上昇させない目的で、ノックが発生したと判定した時のフィルタ係数をノックが発生してないと判定した時のフィルタ係数よりも大きくするようにした場合では、ノックの誤検出によりノック信号のフィルタ値の追従がさらに遅れてしまう課題がある。
上述した課題に対して、点火時期学習値に基づいてノック判定閾値の下限クリップ値を算出することで、点火時期学習値が進角側である場合でも、点火時期学習値が遅角側である場合でも、適切なノック判定閾値の下限クリップ値を適用することができる。
ただし、点火時期学習値に基づいてノック判定閾値の下限クリップ値を算出する手段を備えても以下の課題が生じる。
ノックが発生し始める点火時期が図10のIG1側にある場合には、本来ならば定常状態にてノックを検出して点火遅角量が算出され、点火学習値がゼロ値(=点火時期がIG2)からIG1側に順次更新されるべきところ、IG2でのノック判定閾値の下限クリップ値が適用されることで、IG2より遅角側でノックを検出しなくて点火遅角量が算出されないので、点火学習値がIG1側の値に至らない。つまり、点火時期学習値に基づいて下限クリップ値を算出する手段を備えるのみでは、下限クリップ値の適用によって点火学習値がゼロ値よりも点火遅角側に学習できないという課題がある。
そこでこの発明は、前記課題を解決するためになされたもので、内燃機関の運転状態が定常状態での点火時期学習値算出において、ノック判定閾値の下限クリップ値が弊害となる状況を回避できる内燃機関の制御装置を提供することを目的とするものである。
この発明に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関の運転状態を示す運転状態値を算出して定常状態および過渡状態を判定する運転状態判定部と、エンジンのシリンダ内で発生する振動又は圧力波を振動データとして検出する振動データ検出部と、前記振動データからノックの特徴的な振動成分を抽出してノック信号とする振動データ処理部と、前記ノック信号を点火毎にフィルタ処理して平均値を算出する平均値算出部と、前記ノック信号と前記平均値の偏差を点火毎にフィルタ処理して標準偏差を算出する標準偏差算出部と、前記平均値と前記標準偏差を用いてノック判定閾値を算出するノック判定閾値算出部と、前記ノック信号と前記ノック判定閾値とを比較してノックの発生を判定する比較演算部と、前記ノック判定閾値の前回値と前記ノック信号との比較結果に応じて、前記フィルタ処理に用いるフィルタ係数を算出するフィルタ係数算出部と、前記比較演算部による判定結果に応じて、点火時期の遅角を行う1点火毎点火遅角量算出部と、前記運転状態判定部にて定常状態と判定された場合に、前記1点火毎点火遅角量算出部で算出された点火時期の遅角量あるいは進角量を学習して点火時期学習値を更新する点火時期学習値算出部と、前記点火時期学習値に基づいて前記ノック判定閾値の下限クリップ値を算出する下限クリップ値算出部と、を備え、
前記ノック判定閾値の算出に際して、前記運転状態判定部により過渡状態であると判定された場合に、前記下限クリップ値を適用することを特徴とする。
この発明に係る内燃機関の制御装置によれば、点火時期学習値に応じてノック判定閾値の下限クリップ値を算出することで点火時期学習値によって変化するノック信号および上側分布幅に対応した適切な下限クリップ値を算出できる。そして、内燃機関の運転状態を示す運転状態値が過渡状態であると判定された場合にノック判定閾値に下限クリップ値を適用することで、定常状態での点火時期学習値算出においてノック判定閾値の下限クリップ値が弊害となる状況を回避できる効果が得られる。
この発明の実施の形態1に係るエンジンを概略的に示す構成図である。 この発明の実施の形態1に係るエンジン制御部を概略的に示す構成図である。 この発明の実施の形態1に係るノック制御部を概略的に示す構成図である。 この発明の実施の形態1に係る運転状態値取得から下限クリップ値算出までのフローチャートである。 この発明の実施の形態1に係るエンジン回転数と下限クリップ値の関係を示すイメージ図である。 この発明の実施の形態1に係る下限クリップ値マップである。 この発明の実施の形態1に係るフィルタ係数を算出するフローチャートである。 この発明の実施の形態1に係る点火時期学習値が遅角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートである。 この発明の実施の形態1に係る点火時期学習値が進角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートである。 所定の定常状態における点火時期とノック信号の関係を示すイメージ図である。 従来技術による点火時期学習値が遅角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートである。 従来技術による点火時期学習値が進角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートである。
以下、この発明に係る内燃機関の制御装置の好適な実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るエンジンを概略的に示す構成図であり、図2は、実施の形態1に係るエンジン制御部を概略的に示す構成図である。
図1において、エンジン1の吸気系の上流に吸入空気流量を調整するために電子的に制御される電子制御式スロットルバルブ(以下、スロットルバルブと称する。)2が設けられている。また、スロットルバルブ2の開度を検出するために、スロットル開度センサ3が設けられている。なお、スロットルバルブ2の代わりに図示しないアクセルペダルに直接ワイヤで繋がれた機械式スロットルバルブを用いてもよい。
更に、スロットルバルブ2の上流には吸入空気流量を検出するエアフロセンサ4が設けられており、スロットルバルブ2の下流のエンジン1側には、サージタンク5内の圧力を検出するインマニ圧センサ6が設けられている。なお、エアフロセンサ4とインマニ圧センサ6に関しては、両方とも設けてもよいし、何れか一方のみが設けられていてもよい。
サージタンク5の下流の吸気ポートに設けられた吸気バルブには、吸気バルブの開閉タイミングやリフト量を可変制御できる可変吸気バルブ機構7が取り付けられており、また、吸気ポートには燃料を噴射するインジェクタ8が設けられている。なお、インジェクタ8はエンジン1のシリンダ内に直接噴射できるように設けられてもよい。更に、エンジン1には、エンジン1のシリンダ内の混合気に点火するための点火コイル9および点火プラグ10、エンジン回転数やクランク角度を検出するためにクランク軸に設けられたプレートのエッジを検出するクランク角センサ11、エンジン1のシリンダ内で発生する振動を振動データとして検出する振動データ検出部、即ち、ノックセンサ12、排気ガスに含まれる気体の状態(以下、A/Fと称する。)を検出するA/Fセンサ13が設けられている。なお、ノックセンサ12の代わりに、例えばシリンダ内の圧力波を振動データとして計測する筒内圧センサを設けてもよい。
図2は、エンジン制御部を概略的に示す構成図である。この図2おいて、エアフロセンサ4で検出された吸入空気流量、インマニ圧センサ6で検出されたインマニ圧、スロットル開度センサ3で検出されたスロットルバルブ2の開度、クランク角センサ11より出力されるクランク軸に設けられたプレートのエッジに同期したパルス、ノックセンサ12で検出された振動データ、およびA/Fセンサ13で検出されたA/Fを示す各状態量は、電子制御ユニット(以下、ECUと称する。)14に入力される。
また、前記以外の各種センサからもECU14に検出値が入力され、さらに、他のコントローラ(例えば、自動変速機制御、ブレーキ制御、トラクション制御等の制御システム)からの信号も入力される。ECU14では、アクセル開度やエンジン1の運転状態などを基にして目標スロットル開度が算出されてスロットルバルブ2を制御する。また、その時の運転状態に応じて、吸気バルブの開閉タイミングを可変制御する可変吸気バルブ機構7は制御され、目標空燃比を達成するようにインジェクタ8は駆動され、目標点火時期を達成するように点火コイル9への通電が行われる。なお、後述の方法でノックが検出された場合には、目標点火時期を遅角側に設定することによりノックの発生を抑制する制御も行われる。さらに、前記以外の各種アクチュエータへの指示値も算出される。
次に、図3を参照しながらECU14で行うノック制御の概要について説明する。
図3はノック制御全体の構成を示したブロック図である。図3において、符号12および14は、それぞれ図1、図2で説明したノックセンサおよびECUを示している。
ここで、ECU14内のノック制御部の構成について説明する。ECU14はマイクロコンピュータ14Aと各種I/F回路14Bを備え、マイクロコンピュータ14Aは、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部、制御プログラムや制御定数を記憶しておくROM領域、プログラムを実行した際の変数を記憶しておくRAM領域等から構成されている。また、各種I/F回路14Bにおけるノック制御用のI/F回路15は、振動データの高周波成分を除去するためのローパスフィルタ(以下、LPFと称する。)で構成されている。
マイクロコンピュータ14AのA/D変換は、A/D変換部16により、一定の時間間隔(例えば、10μsや20μs等)毎に実行される。I/F回路15、即ち、LPF15には、A/D変換部16で全振動データを取り込むために、例えば、2.5Vにバイアス(振動データの中心を2.5Vにする)しておく機能、2.5Vを中心に0〜5Vの範囲に振動データが収まるように、振動データが小さい場合には2.5Vを中心に増幅し、大きい場合には2.5Vを中心に減少させるゲイン変換機能も含まれている。なお、A/D変換部16でのA/D変換は、常時実施するようにしておいて、ノック検出ウィンドウ(本実施例ではATDC(After Top Dead Center:上死点後)−10°CAからATDC80°CAとする)の振動データのみ振動データ処理部17以降へ送るようにしても良いし、ノック検出ウィンドウのみA/D変換を行い振動データ処理部17以降へ送るようにしても良い。
振動データ処理部17では、デジタル信号処理による時間−周波数解析が実施される。このデジタル信号処理として、例えば、STFTやDFTにより、複数の固有周波数のスペクトル列が算出され、固有周波数のスペクトル列毎にピーク値を算出し、固有周波数毎のノック信号として出力する。なお、デジタル信号処理としては、IIR(Infinite impulse response:無限インパルス応答)フィルタやFIR(Finite impulse response:有限インパルス応答)フィルタを用いることで固有周波数の振動レベルを抽出するようにしてもよい。なお、振動データ処理部17の演算は、A/D変換を実施しながら処理してもよいし、エンジン1の回転に同期した割込み処理にてまとめて実施しても良い。
そして、複数のセンサ(例えば、図2に示すスロットル開度センサ3、エアフロセンサ4、インマニ圧センサ6、クランク角センサ11)の信号より検出された複数の運転状態値を用いて、運転状態判定部18にて後述する過渡補正係数K_thの算出と、運転状態の判定を実施し、その結果をフィルタ係数算出部19、下限クリップ値算出部20、点火時期学習値算出部21へ送る。なお、運転状態判定部18における過渡補正係数K_thの算出から、下限クリップ値算出部20における下限クリップ値MINCLIPまでのフローについては後述する。
平均値算出部および標準偏差算出部22では、ノック判定閾値VTHの算出にて使用するノック信号のフィルタ値VBGLと標準偏差VSGMを算出する。ノック信号のフィルタ値VBGL、標準偏差VSGMは複数の固有周波数の各々で下記式(1)〜(3)を用いて算出する。まず、サイクルごと(気筒別にノック判定閾値を算出しない内燃機関の制御装置である場合は行程ごととなる)に算出されたノック信号に対するフィルタ処理を行い平均化する。
Figure 2018193967
ノック判定閾値算出部23では、下記式(4)にてノック判定閾値VTHを算出する。
Figure 2018193967
なお、第1フィルタ係数K1、第2フィルタ係数K2は、式(1)の実施より前にフィルタ係数算出部19にて算出されるものであり、フィルタ係数算出部19については後述する。また、本実施の形態では、式(4)に示すように、ノック信号の上側分布幅に相当する箇所に下限クリップを適用しているが、VTH自体に下限クリップを適用する構成にしてもよい。
比較演算部24では、ノック信号VPとノック判定閾値VTHを比較して下記式(5)によりノックの発生有無を判定し、ノック強度に応じた信号を出力する。
Figure 2018193967
1点火毎点火遅角量算出部25では、比較演算部24のノック判別結果から下記式(6)により1点火毎のノック強度に応じた点火遅角量を算出する。
Figure 2018193967
なお、ΔθR(n)>0の場合はΔθR(n)に応じて点火時期を遅角し、ΔθR(n)=0の場合は所定分だけ点火を進角側に復帰させる。
点火時期学習値算出部21では、所定期間続けて定常状態と判定して、この所定期間中に1点火毎点火遅角量算出部25で算出された所定期間の1点火毎点火遅角量ΔθRの平均値(負値)が所定値より小さい場合は点火時期学習値を遅角側に所定量更新し、所定期間中に1点火毎点火遅角量算出部25で算出された所定期間の1点火毎点火遅角量ΔθRの平均値がゼロの場合は点火時期学習値を進角側に所定量更新する。
以上において、A/D変換部16、振動データ処理部17、運転状態判定部18、フィルタ係数算出部19、下限クリップ値算出部20、点火時期学習値算出部21、平均値算出部および標準偏差算出部22、ノック判定閾値算出部23、比較演算部24、および1点火毎点火遅角量算出部25により、デジタル信号処理による周波数解析結果を用いたノック検出、点火時期を遅角することによるノックの回避、点火時期遅角量を用いた点火時期学習といったノック制御を実現する処理方法について説明した。
次に、運転状態判定部18、下限クリップ値算出部20、フィルタ係数算出部19について詳細に説明する。
まず、図4から図6を参照しながら、運転状態判定部18、下限クリップ値算出部20について説明する。図4は、運転状態判定部18における過渡補正係数K_thの算出から下限クリップ値算出部20における下限クリップ値MINCLIP算出までのフローチャートであり、運転状態値および点火時期学習値の取得(ステップ101)、過渡補正係数の算出(ステップ102)、運転状態判定(ステップ103)、下限クリップ値の算出(ステップ104、105)で構成される。なお、図4のステップ104、ステップ105については、ノック検出に用いる複数の周波数に対して各々実施する。以下、ステップ101から順に説明する。
ステップ101において、各種センサ3、4、6、11の出力値から今回サイクルのエンジン回転数NE(n)、充填効率EC(n)、スロットル開度TP(n)を算出する。また、点火時期学習値算出部21で算出された前回サイクルの点火時期学習値θLrn(n−1)を取得し、ステップ102に進む。
ステップ102では、ステップ101で取得したエンジン回転数NE、充填効率EC、スロットル開度TPから過渡補正係数K_thを算出する。本実施の形態では、前回サイクル値との偏差|ΔNE(n)|(=NE(n)−NE(n−1)の絶対値)、|ΔEC(n)|(=EC(n)−EC(n−1)の絶対値)、|ΔTP(n)|(=TP(n)−TP(n−1)の絶対値)と各偏差基準値から、下記式(7)にて算出する。
Figure 2018193967
ステップ102で過渡補正係数K_th(n)を算出し、過渡補正係数K_th(n)をフィルタ係数算出部19へ送信した後にステップ103に進む。
ステップ103では、過渡補正係数K_th(n)と所定値TRを比較して、K_th(n)≧TRならば過渡状態と判定し、そうでなければ定常状態と判定する。そして、本判定結果を下限クリップ値算出部20と点火時期学習値算出部21に送信した後に、次ステップで下限クリップ値算出部20にて下限クリップ値MINCLIPを算出する。
ステップ103での判定により定常状態と判定した場合は、ステップ105にてMINCLIP(n)=0としたうえで、下限クリップ値MINCLPをフィルタ係数算出部19とノック判定閾値算出部23に送信して本フローを終了する。また、ステップ103での判定にて過渡状態と判定した場合は、ステップ104に進む。
ステップ104では、ステップ101で算出および取得したエンジン回転数NE(n)、前回サイクルの点火時期学習値θLrn(n−1)と下限クリップ値マップとから下限クリップ値MINCLIPを算出し、下限クリップ値MINCLPをフィルタ係数算出部19とノック判定閾値算出部23に送信して本フローを終了する。
次に、図5を用いてエンジン回転数と下限クリップ値の関係について、また、図6を用いて下限クリップマップについて説明する。
図5は、エンジン回転数と下限クリップ値の関係を示すイメージ図であり、横軸はエンジン回転数、縦軸は下限クリップ値である。図5において太線αは点火時期学習値=0の場合の下限クリップ値、長破線βは点火時期学習値が最大値(点火進角側)の場合の下限クリップ値、破線γは点火時期学習値が最小値(点火遅角側)の場合の下限クリップ値を示している。
ノック未発生時のノック信号の大きさおよび上側分布幅の大きさは、エンジン回転数が高くなるにつれて大きくなることから、図5の太線αで示すように点火時期学習値=0の場合の下限クリップ値は、エンジン回転数が高くなるにつれて大きく設定する。また、図10で説明したように、点火時期学習値=0と比べて点火進角側の場合はノック信号および上側分布幅が大きくなるため、点火時期学習値が最大値の場合の下限クリップ値は、図5の長破線βで示すとおり太線αより上側に設定する。
また、点火時期学習値=0と比べて点火遅角側の場合はノック信号および上側分布幅が小さくなるため、図5の破線γで示すとおり太線αより下側に設定する。なお、点火時期学習値=0の場合の下限クリップ値はエンジン制御定数を適合する際の標準条件の実機試験データを基に設定し、点火時期学習値が最大値の場合の下限クリップ値は前記標準条件よりも高オクタン価、低吸気温、低エンジン油温、水温の条件の実機試験データを基に設定し、点火時期学習値が最小値の場合の下限クリップ値は前記標準条件よりも低オクタン価、高吸気温、高エンジン油温、水温の条件の実機試験データを基に設定する。
図6の下限クリップ値マップは、ECU14のROM領域に書き込まれるものであり、エンジン回転数と点火時期学習値をパラメータとし、マップには下限クリップ値が設定されている。図6において、エンジン回転数は1000[r/min]刻みとしているが、本制御を実施する機種に応じて刻みを変更してもよい。また、点火時期学習値も、最大値、0、最小値の刻みであるが、これも機種に応じて最大値〜0の間と、0〜最小値の間に数ポイントずつ刻みを加えてもよい。この下限クリップ値マップに、図5で説明した下限クリップ値を設定しておき、図4のステップ104にて、今回サイクルのエンジン回転数NE(n)、前回サイクルの点火時期学習値θLrn(n−1)と、下限クリップ値マップから下限クリップ値MINCLIPを算出する。なお、本実施例では負荷方向の下限クリップ値について言及していないが、より精度よく下限クリップ値を設定するために図12の下限クリップマップを負荷毎に設けるようにしてもよい。
次に、フィルタ係数算出部19での処理について説明する。図7は、前記式(1)にて使用する第1フィルタ係数K1(n)を算出するフローチャートであり、ノック判定閾値VTH’の算出(ステップ201)、ノック判定(ステップ202)、定常状態でのフィルタ係数の算出(ステップ201〜204)、運転状態判定(ステップ205)と、第1フィルタ係数K1の算出(ステップ206、207)で構成される。なお、図7のフローチャートについては、ノック検出に用いる複数の周波数に対して各々実施する。以下、ステップ201から順に説明する。
ステップ201において、下記式(8)により、ノック判定閾値VTH’を算出する。
Figure 2018193967
なお、式(4)で示したノック判定閾値VTHと似た式ではあるが、ノック信号のフィルタ値VBGLと標準偏差VSGMが前回サイクルの値を使用している点が異なる。これは、式(4)でノック判定閾値VTHを算出する前に、第1フィルタ係数K1を算出するためである。なお、下限クリップ値MINCLIPは前回サイクルではなく今回サイクルの値を使用しているが、これは、前回サイクルにて定常状態で今回サイクルにて過渡状態と判定するようなケースにおいて、遅れなく下限クリップ値MINCLIPを適用するためである。ノック判定閾値VTH’(n)を算出したあとにステップ202に進む。
ステップ202では、ノック判定閾値VTH’(n)とノック信号VP(n)を比較して、VP(n)>VTH’(n)ならばノック発生によりノック信号VP(n)が大きいと判定してステップ203に進み、そうでない場合は、ステップ204に進む。ステップ203に進んだ場合は定常状態でのフィルタ係数K1_s(n)にK1_kを入力、ステップ204に進んだ場合はフィルタ係数K1_s(n)にK1_nを入力して、ステップ205に進む。なお、K1_kをK1_nよりも大きな値に設定することで、ノック発生によるノック信号VP(n)の増加で不要にノック信号のフィルタ値VBGL、標準偏差VSGMが上昇しないようにする。
ステップ205では、過渡補正係数K_th(n)と所定値TRを比較して、K_th(n)≧TRならば過渡状態と判定してステップ206に進み、そうでなければ定常状態と判定して207に進む。なお、ステップ205は、図4のステップ103と同じ処理であるので、ステップ103の結果を以って過渡状態、定常状態を判定すればよい。
ステップ206に進んだ場合は、過渡状態でのフィルタ係数K1_trと定常状態でのフィルタ係数K1_s(n)を過渡補正係数K_tr(n)で補間することで第1フィルタ係数K1(n)を算出し、このフローを終了する。具体的には、下記式(9)にて第1フィルタ係数K1(n)を算出する。
Figure 2018193967
なお、過渡状態でのフィルタ係数K1_trは、ステップ204のK1_nよりも小さい値に設定することで、ノック信号のフィルタ値VBGL、標準偏差VSGMに反映させるノック信号の割合を増大させて過渡状態での追従性を向上させる。
ステップ207に進んだ場合は、定常状態でのフィルタ係数K1_s(n)を第1フィルタ係数K1(n)に設定し、このフローを終了する。なお、前記式(2)で用いる第2フィルタ係数K2(n)も同様の方法にて算出することができる。
以上、実施の形態1に係る内燃機関の制御装置について説明したが、次に、図8および図9を用いて、その効果について説明する。
図8は、実施の形態1に係る点火時期学習値が遅角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートで、グラフ軸等は従来技術を実施した場合の図11と同様である。図11では、下限クリップ値が大きすぎることでノックを検出できない課題があったが、図8では適切な下限クリップ値が適用されてノックを検出できる効果を得る。
また、図9は、実施の形態1に係る点火時期学習値が進角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートで、グラフ軸等は従来技術を実施した場合の図12と同様である。図12では、下限クリップ値が小さすぎることで過渡時にノックを誤検出する課題があったが、図9では適切な下限クリップ値が適用されて過渡時にノックを誤検出しない効果を得る。
以上説明したように、実施の形態1に係る内燃機関の制御装置は、点火時期学習値に基づいてノック判定閾値の下限クリップ値を算出する下限クリップ値算出部20を備えて、ノック判定閾値の算出に際して、運転状態判定部18により過渡状態であると判定した場合にはノック判定閾値の下限クリップ値を適用する。このようにすることで、点火時期学習値によって変化するノック信号および上側分布幅に対応した適切なノック判定閾値の下限クリップ値を算出でき、そして定常状態での点火時期学習値算出においてノック判定閾値の下限クリップ値が弊害となる状況を回避できる効果が得られる。
また、振動データ処理部17にて振動データを同時に複数の周波数で周波数解析を実施して周波数毎にノック信号を抽出し、ノック制御を行う場合に、下限クリップ値算出部20では、周波数毎にノック判定閾値の下限クリップ値を設定する。このようにすることで、周波数毎にノック信号の大きさも異なることに対して、より適切なノック判定閾値の下限クリップ値を適用できる効果が得られる。
また、下限クリップ値算出部20において、エンジン回転数毎にノック判定閾値の下限クリップ値を設定する。このようにすることで、エンジン回転数が高くなるとノック信号が大きくなる傾向があることに対して、より適切なノック判定閾値の下限クリップ値を適用できる効果が得られる。
また、点火時期学習値がゼロ値の場合の下限クリップ値に対して、点火時期学習値がゼロ値よりも点火時期遅角側となるほどノック判定閾値の下限クリップ値を小さくする。このようにすることで、図10で示したように、同じエンジン回転数、同じ負荷におけるノック信号および上側分布幅は点火時期学習値が、点火遅角側になるほど小さくなる傾向があることに対して、より適切なノック判定閾値の下限クリップ値を適用できる効果が得られる。
また、点火時期学習値がゼロ値よりも点火時期進角側となるほどノック判定閾値の下限クリップ値を大きくする。このようにすることで、図10で示したように、同じエンジン回転数、同じ負荷におけるノック信号および上側分布幅は、点火時期学習値が点火進角側になるほど大きくなる傾向があることに対して、より適切なノック判定閾値の下限クリップ値を適用できる効果が得られる効果が得られる。
以上、この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置について説明したが、この発明は、その発明の範囲内において、実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
1 エンジン、2 電子制御式スロットルバルブ、3 スロットル開度センサ、4 エアフロセンサ、5 サージタンク、6 インマニ圧センサ、7 可変吸気バルブ機構、8 インジェクタ、9 点火コイル、10 点火プラグ、11 クランク角センサ、12 ノックセンサ、13 A/Fセンサ、14 電子制御ユニット(ECU)、14A マイクロコンピュータ、14B 各種I/F回路、15 I/F回路(LPF)、16 A/D変換部、17 振動データ処理部、18 運転状態判定部、19 フィルタ係数算出部、20 下限クリップ値算出部、21 点火時期学習値算出部、22 平均値算出部および標準偏差算出部、23 ノック判定閾値算出部、24 比較演算部、25 1点火毎点火遅角量算出部
この発明は、内燃機関の制御装置に関し、詳しくは、内燃機関で発生するノックを検出する内燃機関のノック検出装置に関するものである。
従来から、内燃機関(以下、エンジンとも称する。)にて発生するノック現象を振動センサにて検出する方法が知られている。これは、エンジンの運転中にノックが発生すると、エンジンやノックの振動モードに応じた固有周波数の振動が発生することを利用して、所定のノック検出ウィンドウにおける固有周波数の振動成分を抽出することでノック検出を行うものである。固有周波数の振動レベルの抽出には、アナログのバンドパスフィルタ回路を用いた方法や、STFT(short-time Fourier transform:短時間フーリエ変換)、DFT(discrete Fourier transform:離散フーリエ変換)などのデジタル信号処理の実施が一般的に知られている。
そして、例えば実公平6−41151号公報(特許文献1)に開示されているように、振動レベルの抽出により得られた値(以下、ノック信号と称する。)を点火毎にフィルタ処理することでノック信号のフィルタ値を求め、このフィルタ値を基に算出されるノック判定閾値とノック信号とを比較することによりノックの発生を判定する方法がある。この方法では、フィルタ処理にて使用するフィルタ係数を過渡状態時に小さくするように補正することで、過渡状態においてノック信号のフィルタ値に反映させるノック信号の割合を増大させることにより、ノック信号のフィルタ値の追従を早めて、過渡状態でのノック判定の精度を向上させるようにしている。
ただし、過渡状態と判定される同じエンジン回転数または負荷の変化率でも、低速時と高速時では要求されるノック信号のフィルタ値の追従性が異なり、例えばエンジン回転数が低回転から高回転へ変化するが、エンジン回転、負荷がそれほどの過渡状態ではなくても、エンジン回転数が低回転の領域においてはノック信号のフィルタ値の早い追従性が必要となる場合がある。そのような場合に、ノック信号のフィルタ値の早い追従性が必要であるのに、それほどの過渡状態ではないのでフィルタ係数の補正量は小さくて、フィルタ係数の補正が十分ではないために、前記特許文献1の開示技術ではノック信号のフィルタ値の追従遅れによりノックを誤判定する課題が生じる。
これに対して、特開平10−259778号公報(特許文献2)では、ノック判定閾値に下限クリップ値を設定する方法が提案されている。この特許文献2の方法によれば、ノック判定閾値が下限クリップ値(特許文献2中の下限ガードA)未満の場合は、下限クリップ値をノック判定閾値とし、かつフィルタ係数を小さくするようにしている。これにより、ノック判定閾値が下限クリップ値より低い状態から加速する際に、それほどの過渡状態でなくても、ノック信号のフィルタ値の追従性を向上させることができ、ノックを誤判定するのを防止できる。
実公平6−41151号公報 特開平10−259778号公報
この発明が解決しようとする課題の説明に際し、まずは所定の定常状態における点火時期とノック信号の関係について説明する。
図10は、エンジン回転数と充填効率が概ね一定である所定の定常状態における点火時期とノック信号の関係を示すイメージ図で、横軸は点火時期、縦軸はノック信号を示している。そして、図10の符号aで示す太線はノック信号の平均値(≒ノック信号のフィルタ値)、同図の符号bで示す2点鎖線はノック信号(ノック発生時のノック信号は除く)の上側分布を示し、符号bで示す2点鎖線と符号aで示す平均値の差分はノック信号の上側分布幅を示す。そして、図10の符号cで示す1点鎖線はノック信号の下側分布を示し、符号aで示す平均値と符号cで示す1点鎖線の差分はノック信号の下側分布幅を示している。
また、図10において、IG2は、エンジン制御定数を適合する際の標準条件(オクタン価、吸気温、エンジン油温、水温など)においてノックが発生し始める点火時期を示している。そして、IG1は、前記標準条件よりも低オクタン価、高吸気温、高エンジン油温、水温などの条件であってノックが発生し始める点火時期がIG2よりも遅角側に位置する場合の点火時期である。また、IG3は、前記標準条件よりも高オクタン価、低吸気温、低エンジン油温、水温などの条件であってノックが発生し始める点火時期がIG2よりも進角側に位置する場合の点火時期である。
ノック信号の平均値および上側分布幅について、図10に示すように、IG2の場合に対してIG1の場合の方がノック信号の平均値および上側分布幅は小さくなり、また、IG2の場合に対してIG3の場合の方がノック信号の平均値および上側分布幅は大きくなる。なお、ノックが発生し始める点火時期については、一般的に知られている点火時期学習値を用いればよく、例えば、定常状態における所定サイクル間の点火遅角量(本明細書では負値とする)の平均値を算出し、所定サイクル間の点火遅角量の平均値がゼロであれば点火時期学習値は正値方向(点火進角側)に更新し、所定サイクル間の点火遅角量の平均値が所定値より小さければ負値方向(点火遅角側)に更新する方法がある。
ここで、ノック判定閾値を、ノック信号の平均値とノック信号の上側分布幅を基に算出するものとし、ノック判定閾値の下限クリップ値はノック信号の上側分布幅に適用する場合を考えると、ノック発生時のノック信号の検出を阻害しないことを考慮して、ノック判定閾値の下限クリップ値は、図10のノック信号の上側分布幅よりも僅かに大きい値に設定し、そして点火時期学習値に応じて可変とすることが望ましいと考えられる。
しかしながら、前記特許文献2では、ノック判定閾値の下限クリップ値は定数であり、何らかのパラメータに応じて可変とする内容は考慮されていない。よって、例えば図10のIG2の場合に基づいてノック判定閾値の下限クリップ値を設定した場合には、下記の課題が生じる。
図11は、前記特許文献2などの従来技術において、点火時期学習値が遅角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートを示している。タイムチャートは上段、中段、下段の3つを記載している。上段は、横軸が時間、縦軸はエンジン回転数、充填効率などの運転状態値のタイムチャートである。中段は、横軸が時間、縦軸はノック信号のタイムチャートであり、本タイムチャート間に計6発のノックが発生している状態を示している。また、中段の符号dで示す太線はノック信号のフィルタ値、符号eで示す長破線はノック判定閾値を示している。下段は、横軸が時間、縦軸はノック強度のタイムチャートである。ノック強度は、例えば、ノック信号がノック判定閾値を上回る分の値に対して所定のゲインを乗じて算出する。
点火時期学習値が遅角側である場合には、本来ならば、例えば図10のIG1に応じたノック判定閾値の下限クリップ値が設定されるべきところで、それよりも大きいIG2に応じたノック判定閾値の下限クリップ値が設定されている。よって、図11の中段、下段に示すとおり、ノック判定閾値の下限クリップ値が大きすぎてノックを検出できない課題が生じる。
図12は、前記特許文献2などの従来技術において、点火時期学習値が進角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートを示している。タイムチャートは図11と同様に上段、中段、下段の3つを記載しており、各タイムチャートの横軸、縦軸等は図11と同様であるが、図12では本タイムチャート間にノックが未発生の状態を示している。
点火時期学習値が進角側である場合には、本来ならば例えば図10のIG3に応じたノック判定閾値の下限クリップ値が設定されるべきところで、それよりも小さいIG2に応じたノック判定閾値の下限クリップ値が設定されている。よって、図12の中段、下段に示すとおり、ノック判定閾値の下限クリップ値が小さすぎてノックを誤検出してしまう課題がある。さらに、ノックが発生した時のノック信号によってノック信号のフィルタ値が不要に上昇させない目的で、ノックが発生したと判定した時のフィルタ係数をノックが発生してないと判定した時のフィルタ係数よりも大きくするようにした場合では、ノックの誤検出によりノック信号のフィルタ値の追従がさらに遅れてしまう課題がある。
上述した課題に対して、点火時期学習値からノック判定閾値の下限クリップ値を算出することで、点火時期学習値が進角側である場合でも、点火時期学習値が遅角側である場合でも、適切なノック判定閾値の下限クリップ値を適用することができる。
ただし、点火時期学習値からノック判定閾値の下限クリップ値を算出する手段を備えても以下の課題が生じる。
ノックが発生し始める点火時期が図10のIG1側にある場合には、本来ならば定常状態にてノックを検出して点火遅角量が算出され、点火学習値がゼロ値(=点火時期がIG2)からIG1側に順次更新されるべきところ、IG2でのノック判定閾値の下限クリップ値が適用されることで、IG2より遅角側でノックを検出しなくて点火遅角量が算出されないので、点火学習値がIG1側の値に至らない。つまり、点火時期学習値から下限クリップ値を算出する手段を備えるのみでは、下限クリップ値の適用によって点火学習値がゼロ値よりも点火遅角側に学習できないという課題がある。
そこでこの発明は、前記課題を解決するためになされたもので、内燃機関の運転状態が定常状態での点火時期学習値算出において、ノック判定閾値の下限クリップ値が弊害となる状況を回避できる内燃機関の制御装置を提供することを目的とするものである。
この発明に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関の運転状態を示す運転状態値を算出して定常状態および過渡状態を判定する運転状態判定部と、エンジンのシリンダ内で発生する振動又は圧力波を振動データとして検出する振動データ検出部と、前記振動データからノックの特徴的な振動成分を抽出してノック信号とする振動データ処理部と、前記ノック信号を点火毎にフィルタ処理して平均値を算出する平均値算出部と、前記ノック信号と前記平均値の偏差を点火毎にフィルタ処理して標準偏差を算出する標準偏差算出部と、前記平均値と前記標準偏差を用いてノック判定閾値を算出するノック判定閾値算出部と、前記ノック信号と前記ノック判定閾値とを比較してノックの発生有無を判定し、ノック強度に応じた信号を出力するノック発生有無判定部と、前記ノック判定閾値の前回値と前記ノック信号との比較結果に応じて、前記フィルタ処理に用いるフィルタ係数を算出するフィルタ係数算出部と、前記ノック発生有無判定部から出力されたノック強度に応じた信号により、1点火毎のノック強度に応じた点火時期の遅角量あるいは進角量を算出する1点火毎点火遅角量算出部と、前記運転状態判定部にて定常状態と判定された場合に、前記1点火毎点火遅角量算出部で算出された点火時期の遅角量あるいは進角量を学習して点火時期学習値の遅角量あるいは進角量を更新する点火時期学習値更新部と、前記点火時期学習値から前記ノック判定閾値の下限クリップ値を算出する下限クリップ値算出部と、を備え、
前記ノック判定閾値の算出に際して、前記運転状態判定部により過渡状態であると判定された場合に、前記ノック判定閾値を前記下限クリップ値することを特徴とする。
この発明に係る内燃機関の制御装置によれば、点火時期学習値に応じてノック判定閾値の下限クリップ値を算出することにより、点火時期学習値によって変化するノック信号および上側分布幅に対応した適切な下限クリップ値を算出できる。そして、内燃機関の運転状態を示す運転状態値が過渡状態であると判定された場合にノック判定閾値下限クリップ値することで、定常状態での点火時期学習値算出においてノック判定閾値の下限クリップ値が弊害となる状況を回避できる効果が得られる。
この発明の実施の形態1に係るエンジンを概略的に示す構成図である。 この発明の実施の形態1に係るエンジン制御部を概略的に示す構成図である。 この発明の実施の形態1に係るノック制御部を概略的に示す構成図である。 この発明の実施の形態1に係る運転状態値取得から下限クリップ値算出までのフローチャートである。 この発明の実施の形態1に係るエンジン回転数と下限クリップ値の関係を示すイメージ図である。 この発明の実施の形態1に係る下限クリップ値マップである。 この発明の実施の形態1に係るフィルタ係数を算出するフローチャートである。 この発明の実施の形態1に係る点火時期学習値が遅角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートである。 この発明の実施の形態1に係る点火時期学習値が進角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートである。 所定の定常状態における点火時期とノック信号の関係を示すイメージ図である。 従来技術による点火時期学習値が遅角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートである。 従来技術による点火時期学習値が進角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートである。
以下、この発明に係る内燃機関の制御装置の好適な実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るエンジンを概略的に示す構成図であり、図2は、実施の形態1に係るエンジン制御部を概略的に示す構成図である。
図1において、エンジン1の吸気系の上流に吸入空気流量を調整するために電子的に制御される電子制御式スロットルバルブ(以下、スロットルバルブと称する。)2が設けられている。また、スロットルバルブ2の開度を検出するために、スロットル開度センサ3が設けられている。なお、スロットルバルブ2の代わりに図示しないアクセルペダルに直接ワイヤで繋がれた機械式スロットルバルブを用いてもよい。
更に、スロットルバルブ2の上流には吸入空気流量を検出するエアフロセンサ4が設けられており、スロットルバルブ2の下流のエンジン1側には、サージタンク5内の圧力を検出するインマニ圧センサ6が設けられている。なお、エアフロセンサ4とインマニ圧センサ6に関しては、両方とも設けてもよいし、何れか一方のみが設けられていてもよい。
サージタンク5の下流の吸気ポートに設けられた吸気バルブには、吸気バルブの開閉タイミングやリフト量を可変制御できる可変吸気バルブ機構7が取り付けられており、また、吸気ポートには燃料を噴射するインジェクタ8が設けられている。なお、インジェクタ8はエンジン1のシリンダ内に直接噴射できるように設けられてもよい。更に、エンジン1には、エンジン1のシリンダ内の混合気に点火するための点火コイル9および点火プラグ10、エンジン回転数やクランク角度を検出するためにクランク軸に設けられたプレートのエッジを検出するクランク角センサ11、エンジン1のシリンダ内で発生する振動を振動データとして検出する振動データ検出部、即ち、ノックセンサ12、排気ガスに含まれる気体の状態(以下、A/Fと称する。)を検出するA/Fセンサ13が設けられている。なお、ノックセンサ12の代わりに、例えばシリンダ内の圧力波を振動データとして計測する筒内圧センサを設けてもよい。
図2は、エンジン制御部を概略的に示す構成図である。この図2おいて、エアフロセンサ4で検出された吸入空気流量、インマニ圧センサ6で検出されたインマニ圧、スロットル開度センサ3で検出されたスロットルバルブ2の開度、クランク角センサ11より出力されるクランク軸に設けられたプレートのエッジに同期したパルス、ノックセンサ12で検出された振動データ、およびA/Fセンサ13で検出されたA/Fを示す各状態量は、電子制御ユニット(以下、ECUと称する。)14に入力される。
また、前記以外の各種センサからもECU14に検出値が入力され、さらに、他のコントローラ(例えば、自動変速機制御、ブレーキ制御、トラクション制御等の制御システム)からの信号も入力される。ECU14では、アクセル開度やエンジン1の運転状態などを基にして目標スロットル開度が算出されてスロットルバルブ2を制御する。また、その時の運転状態に応じて、吸気バルブの開閉タイミングを可変制御する可変吸気バルブ機構7は制御され、目標空燃比を達成するようにインジェクタ8は駆動され、目標点火時期を達成するように点火コイル9への通電が行われる。なお、後述の方法でノックが検出された場合には、目標点火時期を遅角側に設定することによりノックの発生を抑制する制御も行われる。さらに、前記以外の各種アクチュエータへの指示値も算出される。
次に、図3を参照しながらECU14で行うノック制御の概要について説明する。
図3はノック制御全体の構成を示したブロック図である。図3において、符号12および14は、それぞれ図1、図2で説明したノックセンサおよびECUを示している。
ここで、ECU14内のノック制御部の構成について説明する。ECU14はマイクロコンピュータ14Aと各種I/F回路14Bを備え、マイクロコンピュータ14Aは、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部、制御プログラムや制御定数を記憶しておくROM領域、プログラムを実行した際の変数を記憶しておくRAM領域等から構成されている。また、各種I/F回路14Bにおけるノック制御用のI/F回路15は、振動データの高周波成分を除去するためのローパスフィルタ(以下、LPFと称する。)で構成されている。
マイクロコンピュータ14AのA/D変換は、A/D変換部16により、一定の時間間隔(例えば、10μsや20μs等)毎に実行される。I/F回路15、即ち、LPF15には、A/D変換部16で全振動データを取り込むために、例えば、2.5Vにバイアス(振動データの中心を2.5Vにする)しておく機能、2.5Vを中心に0〜5Vの範囲に振動データが収まるように、振動データが小さい場合には2.5Vを中心に増幅し、大きい場合には2.5Vを中心に減少させるゲイン変換機能も含まれている。なお、A/D変換部16でのA/D変換は、常時実施するようにしておいて、ノック検出ウィンドウ(本実施例ではATDC(After Top Dead Center:上死点後)−10°CAからATDC80°CAとする)の振動データのみ振動データ処理部17以降へ送るようにしても良いし、ノック検出ウィンドウのみA/D変換を行い振動データ処理部17以降へ送るようにしても良い。
振動データ処理部17では、デジタル信号処理による時間−周波数解析が実施される。このデジタル信号処理として、例えば、STFTやDFTにより、複数の固有周波数のスペクトル列が算出され、固有周波数のスペクトル列毎にピーク値を算出し、固有周波数毎のノック信号として出力する。なお、デジタル信号処理としては、IIR(Infinite impulse response:無限インパルス応答)フィルタやFIR(Finite impulse response:有限インパルス応答)フィルタを用いることで固有周波数の振動レベルを抽出するようにしてもよい。なお、振動データ処理部17の演算は、A/D変換を実施しながら処理してもよいし、エンジン1の回転に同期した割込み処理にてまとめて実施しても良い。
そして、複数のセンサ(例えば、図2に示すスロットル開度センサ3、エアフロセンサ4、インマニ圧センサ6、クランク角センサ11)の信号より検出された複数の運転状態値を用いて、運転状態判定部18にて後述する過渡補正係数K_thの算出と、運転状態の判定を実施し、その結果をフィルタ係数算出部19、下限クリップ値算出部20、点火時期学習値更新部21へ送る。なお、運転状態判定部18における過渡補正係数K_thの算出から、下限クリップ値算出部20における下限クリップ値MINCLIPまでのフローについては後述する。
平均値算出部および標準偏差算出部22では、ノック判定閾値VTHの算出にて使用するノック信号のフィルタ値VBGLと標準偏差VSGMを算出する。ノック信号のフィルタ値VBGL、標準偏差VSGMは複数の固有周波数の各々で下記式(1)〜(3)を用いて算出する。まず、サイクルごと(気筒別にノック判定閾値を算出しない内燃機関の制御装置である場合は行程ごととなる)に算出されたノック信号に対するフィルタ処理を行い平均化する。
Figure 2018193967
ノック判定閾値算出部23では、下記式(4)にてノック判定閾値VTHを算出する。
Figure 2018193967
なお、第1フィルタ係数K1、第2フィルタ係数K2は、式(1)の実施より前にフィルタ係数算出部19にて算出されるものであり、フィルタ係数算出部19については後述する。また、本実施の形態では、式(4)に示すように、ノック信号の上側分布幅に相当する箇所に下限クリップ使用しているが、VTH自体に下限クリップ使用する構成にしてもよい。
ノック発生有無判定部24では、ノック信号VPとノック判定閾値VTHを比較して下記式(5)によりノックの発生有無を判定し、ノック強度に応じた信号を出力する。
Figure 2018193967
1点火毎点火遅角量算出部25では、ノック発生有無判定部24から出力されたノック強度に応じた信号から下記式(6)により1点火毎のノック強度に応じた点火遅角量を算出する。
Figure 2018193967
なお、ΔθR(n)>0の場合はΔθR(n)に応じて点火時期を遅角し、ΔθR(n)=0の場合は所定分だけ点火を進角側に復帰させる。
点火時期学習値更新部21では、所定期間続けて定常状態と判定して、この所定期間中に1点火毎点火遅角量算出部25で算出された所定期間の1点火毎点火遅角量ΔθRの平均値(負値)が所定値より小さい場合は点火時期学習値を遅角側に所定量更新し、所定期間中に1点火毎点火遅角量算出部25で算出された所定期間の1点火毎点火遅角量ΔθRの平均値がゼロの場合は点火時期学習値を進角側に所定量更新する。
以上において、A/D変換部16、振動データ処理部17、運転状態判定部18、フィルタ係数算出部19、下限クリップ値算出部20、点火時期学習値更新部21、平均値算出部および標準偏差算出部22、ノック判定閾値算出部23、ノック発生有無判定部24、および1点火毎点火遅角量算出部25により、デジタル信号処理による周波数解析結果を用いたノック検出、点火時期を遅角することによるノックの回避、点火時期遅角量を用いた点火時期学習といったノック制御を実現する処理方法について説明した。
次に、運転状態判定部18、下限クリップ値算出部20、フィルタ係数算出部19について詳細に説明する。
まず、図4から図6を参照しながら、運転状態判定部18、下限クリップ値算出部20について説明する。図4は、運転状態判定部18における過渡補正係数K_thの算出から下限クリップ値算出部20における下限クリップ値MINCLIP算出までのフローチャートであり、運転状態値および点火時期学習値の取得(ステップ101)、過渡補正係数の算出(ステップ102)、運転状態判定(ステップ103)、下限クリップ値の算出(ステップ104、105)で構成される。なお、図4のステップ104、ステップ105については、ノック検出に用いる複数の周波数に対して各々実施する。以下、ステップ101から順に説明する。
ステップ101において、各種センサ3、4、6、11の出力値から今回サイクルのエンジン回転数NE(n)、充填効率EC(n)、スロットル開度TP(n)を算出する。また、点火時期学習値更新部21で算出された前回サイクルの点火時期学習値θLrn(n−1)を取得し、ステップ102に進む。
ステップ102では、ステップ101で取得したエンジン回転数NE、充填効率EC、スロットル開度TPから過渡補正係数K_thを算出する。本実施の形態では、前回サイクル値との偏差|ΔNE(n)|(=NE(n)−NE(n−1)の絶対値)、|ΔEC(n)|(=EC(n)−EC(n−1)の絶対値)、|ΔTP(n)|(=TP(n)−TP(n−1)の絶対値)と各偏差基準値から、下記式(7)にて算出する。
Figure 2018193967
ステップ102で過渡補正係数K_th(n)を算出し、過渡補正係数K_th(n)をフィルタ係数算出部19へ送信した後にステップ103に進む。
ステップ103では、過渡補正係数K_th(n)と所定値TRを比較して、K_th(n)≧TRならば過渡状態と判定し、そうでなければ定常状態と判定する。そして、本判定結果を下限クリップ値算出部20と点火時期学習値更新部21に送信した後に、次ステップで下限クリップ値算出部20にて下限クリップ値MINCLIPを算出する。
ステップ103での判定により定常状態と判定した場合は、ステップ105にてMINCLIP(n)=0としたうえで、下限クリップ値MINCLPをフィルタ係数算出部19とノック判定閾値算出部23に送信して本フローを終了する。また、ステップ103での判定にて過渡状態と判定した場合は、ステップ104に進む。
ステップ104では、ステップ101で算出および取得したエンジン回転数NE(n)、前回サイクルの点火時期学習値θLrn(n−1)と下限クリップ値マップとから下限クリップ値MINCLIPを算出し、下限クリップ値MINCLPをフィルタ係数算出部19とノック判定閾値算出部23に送信して本フローを終了する。
次に、図5を用いてエンジン回転数と下限クリップ値の関係について、また、図6を用いて下限クリップマップについて説明する。
図5は、エンジン回転数と下限クリップ値の関係を示すイメージ図であり、横軸はエンジン回転数、縦軸は下限クリップ値である。図5において太線αは点火時期学習値=0の場合の下限クリップ値、長破線βは点火時期学習値が最大値(点火進角側)の場合の下限クリップ値、破線γは点火時期学習値が最小値(点火遅角側)の場合の下限クリップ値を示している。
ノック未発生時のノック信号の大きさおよび上側分布幅の大きさは、エンジン回転数が高くなるにつれて大きくなることから、図5の太線αで示すように点火時期学習値=0の場合の下限クリップ値は、エンジン回転数が高くなるにつれて大きく設定する。また、図10で説明したように、点火時期学習値=0と比べて点火進角側の場合はノック信号および上側分布幅が大きくなるため、点火時期学習値が最大値の場合の下限クリップ値は、図5の長破線βで示すとおり太線αより上側に設定する。
また、点火時期学習値=0と比べて点火遅角側の場合はノック信号および上側分布幅が小さくなるため、図5の破線γで示すとおり太線αより下側に設定する。なお、点火時期学習値=0の場合の下限クリップ値はエンジン制御定数を適合する際の標準条件の実機試験データを基に設定し、点火時期学習値が最大値の場合の下限クリップ値は前記標準条件よりも高オクタン価、低吸気温、低エンジン油温、水温の条件の実機試験データを基に設定し、点火時期学習値が最小値の場合の下限クリップ値は前記標準条件よりも低オクタン価、高吸気温、高エンジン油温、水温の条件の実機試験データを基に設定する。
図6の下限クリップ値マップは、ECU14のROM領域に書き込まれるものであり、エンジン回転数と点火時期学習値をパラメータとし、マップには下限クリップ値が設定されている。図6において、エンジン回転数は1000[r/min]刻みとしているが、本制御を実施する機種に応じて刻みを変更してもよい。また、点火時期学習値も、最大値、0、最小値の刻みであるが、これも機種に応じて最大値〜0の間と、0〜最小値の間に数ポイントずつ刻みを加えてもよい。この下限クリップ値マップに、図5で説明した下限クリップ値を設定しておき、図4のステップ104にて、今回サイクルのエンジン回転数NE(n)、前回サイクルの点火時期学習値θLrn(n−1)と、下限クリップ値マップから下限クリップ値MINCLIPを算出する。なお、本実施例では負荷方向の下限クリップ値について言及していないが、より精度よく下限クリップ値を設定するために図12の下限クリップマップを負荷毎に設けるようにしてもよい。
次に、フィルタ係数算出部19での処理について説明する。図7は、前記式(1)にて使用する第1フィルタ係数K1(n)を算出するフローチャートであり、ノック判定閾値VTH’の算出(ステップ201)、ノック判定(ステップ202)、定常状態でのフィルタ係数の算出(ステップ201〜204)、運転状態判定(ステップ205)と、第1フィルタ係数K1の算出(ステップ206、207)で構成される。なお、図7のフローチャートについては、ノック検出に用いる複数の周波数に対して各々実施する。以下、ステップ201から順に説明する。
ステップ201において、下記式(8)により、ノック判定閾値VTH’を算出する。
Figure 2018193967
なお、式(4)で示したノック判定閾値VTHと似た式ではあるが、ノック信号のフィルタ値VBGLと標準偏差VSGMが前回サイクルの値を使用している点が異なる。これは、式(4)でノック判定閾値VTHを算出する前に、第1フィルタ係数K1を算出するためである。なお、下限クリップ値MINCLIPは前回サイクルではなく今回サイクルの値を使用しているが、これは、前回サイクルにて定常状態で今回サイクルにて過渡状態と判定するようなケースにおいて、遅れなく下限クリップ値MINCLIPを使用するためである。ノック判定閾値VTH’(n)を算出したあとにステップ202に進む。
ステップ202では、ノック判定閾値VTH’(n)とノック信号VP(n)を比較して、VP(n)>VTH’(n)ならばノック発生によりノック信号VP(n)が大きいと判定してステップ203に進み、そうでない場合は、ステップ204に進む。ステップ203に進んだ場合は定常状態でのフィルタ係数K1_s(n)にK1_kを入力、ステップ204に進んだ場合はフィルタ係数K1_s(n)にK1_nを入力して、ステップ205に進む。なお、K1_kをK1_nよりも大きな値に設定することで、ノック発生によるノック信号VP(n)の増加で不要にノック信号のフィルタ値VBGL、標準偏差VSGMが上昇しないようにする。
ステップ205では、過渡補正係数K_th(n)と所定値TRを比較して、K_th(n)≧TRならば過渡状態と判定してステップ206に進み、そうでなければ定常状態と判定して207に進む。なお、ステップ205は、図4のステップ103と同じ処理であるので、ステップ103の結果を以って過渡状態、定常状態を判定すればよい。
ステップ206に進んだ場合は、過渡状態でのフィルタ係数K1_trと定常状態でのフィルタ係数K1_s(n)を過渡補正係数K_tr(n)で補間することで第1フィルタ係数K1(n)を算出し、このフローを終了する。具体的には、下記式(9)にて第1フィルタ係数K1(n)を算出する。
Figure 2018193967
なお、過渡状態でのフィルタ係数K1_trは、ステップ204のK1_nよりも小さい値に設定することで、ノック信号のフィルタ値VBGL、標準偏差VSGMに反映させるノック信号の割合を増大させて過渡状態での追従性を向上させる。
ステップ207に進んだ場合は、定常状態でのフィルタ係数K1_s(n)を第1フィルタ係数K1(n)に設定し、このフローを終了する。なお、前記式(2)で用いる第2フィルタ係数K2(n)も同様の方法にて算出することができる。
以上、実施の形態1に係る内燃機関の制御装置について説明したが、次に、図8および図9を用いて、その効果について説明する。
図8は、実施の形態1に係る点火時期学習値が遅角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートで、グラフ軸等は従来技術を実施した場合の図11と同様である。図11では、下限クリップ値が大きすぎることでノックを検出できない課題があったが、図8では適切な下限クリップ値が使用されてノックを検出できる効果を得る。
また、図9は、実施の形態1に係る点火時期学習値が進角側である場合の定常状態→過渡状態→定常状態を概略的に示すタイムチャートで、グラフ軸等は従来技術を実施した場合の図12と同様である。図12では、下限クリップ値が小さすぎることで過渡時にノックを誤検出する課題があったが、図9では適切な下限クリップ値が使用されて過渡時にノックを誤検出しない効果を得る。
以上説明したように、実施の形態1に係る内燃機関の制御装置は、点火時期学習値からノック判定閾値の下限クリップ値を算出する下限クリップ値算出部20を備えて、ノック判定閾値の算出に際して、運転状態判定部18により過渡状態であると判定した場合にはノック判定閾値の下限クリップ値を使用する。このようにすることで、点火時期学習値によって変化するノック信号および上側分布幅に対応した適切なノック判定閾値の下限クリップ値を算出でき、そして定常状態での点火時期学習値算出においてノック判定閾値の下限クリップ値が弊害となる状況を回避できる効果が得られる。
また、振動データ処理部17にて振動データを同時に複数の周波数で周波数解析を実施して周波数毎にノック信号を抽出し、ノック制御を行う場合に、下限クリップ値算出部20では、周波数毎にノック判定閾値の下限クリップ値を算出する。このようにすることで、周波数毎にノック信号の大きさも異なることに対して、より適切なノック判定閾値の下限クリップ値を使用できる効果が得られる。
また、下限クリップ値算出部20において、エンジン回転数毎にノック判定閾値の下限クリップ値を算出する。このようにすることで、エンジン回転数が高くなるとノック信号が大きくなる傾向があることに対して、より適切なノック判定閾値の下限クリップ値を使用できる効果が得られる。
また、点火時期学習値がゼロ値の場合の下限クリップ値に対して、点火時期学習値がゼロ値よりも点火時期遅角側となるほどノック判定閾値の下限クリップ値を小さくする。このようにすることで、図10で示したように、同じエンジン回転数、同じ負荷におけるノック信号および上側分布幅は点火時期学習値が、点火遅角側になるほど小さくなる傾向があることに対して、より適切なノック判定閾値の下限クリップ値を使用できる効果が得られる。
また、点火時期学習値がゼロ値よりも点火時期進角側となるほどノック判定閾値の下限クリップ値を大きくする。このようにすることで、図10で示したように、同じエンジン回転数、同じ負荷におけるノック信号および上側分布幅は、点火時期学習値が点火進角側になるほど大きくなる傾向があることに対して、より適切なノック判定閾値の下限クリップ値を使用できる効果が得られる。
以上、この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置について説明したが、この発明は、その発明の範囲内において、実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
1 エンジン、2 電子制御式スロットルバルブ、3 スロットル開度センサ、4 エアフロセンサ、5 サージタンク、6 インマニ圧センサ、7 可変吸気バルブ機構、8 インジェクタ、9 点火コイル、10 点火プラグ、11 クランク角センサ、12 ノックセンサ、13 A/Fセンサ、14 電子制御ユニット(ECU)、14A マイクロコンピュータ、14B 各種I/F回路、15 I/F回路(LPF)、16 A/D変換部、17 振動データ処理部、18 運転状態判定部、19 フィルタ係数算出部、20 下限クリップ値算出部、21 点火時期学習値更新部、22 平均値算出部および標準偏差算出部、23 ノック判定閾値算出部、24 ノック発生有無判定部、25 1点火毎点火遅角量算出部

Claims (5)

  1. 内燃機関の運転状態を示す運転状態値を算出して定常状態および過渡状態を判定する運転状態判定部と、
    エンジンのシリンダ内で発生する振動又は圧力波を振動データとして検出する振動データ検出部と、
    前記振動データからノックの特徴的な振動成分を抽出してノック信号とする振動データ処理部と、
    前記ノック信号を点火毎にフィルタ処理して平均値を算出する平均値算出部と、
    前記ノック信号と前記平均値の偏差を点火毎にフィルタ処理して標準偏差を算出する標準偏差算出部と、
    前記平均値と前記標準偏差を用いてノック判定閾値を算出するノック判定閾値算出部と、
    前記ノック信号と前記ノック判定閾値とを比較してノックの発生を判定する比較演算部と、
    前記ノック判定閾値の前回値と前記ノック信号との比較結果に応じて、前記フィルタ処理に用いるフィルタ係数を算出するフィルタ係数算出部と、
    前記比較演算部による判定結果に応じて、点火時期の遅角を行う1点火毎点火遅角量算出部と、
    前記運転状態判定部にて定常状態と判定された場合に、前記1点火毎点火遅角量算出部で算出された点火時期の遅角量あるいは進角量を学習して点火時期学習値を更新する点火時期学習値算出部と、
    前記点火時期学習値に基づいて前記ノック判定閾値の下限クリップ値を算出する下限クリップ値算出部と、を備え、
    前記ノック判定閾値の算出に際して、前記運転状態判定部により過渡状態であると判定された場合に、前記下限クリップ値を適用することを特徴とする内燃機関の制御装置。
  2. 前記振動データ処理部で前記振動データを同時に複数の周波数で時間−周波数解析を実施して周波数毎にノック信号を抽出し、
    前記下限クリップ値算出部において、前記周波数毎に前記下限クリップ値を設定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
  3. 前記下限クリップ値算出部において、エンジン回転数毎に前記下限クリップ値を設定することを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
  4. 前記点火時期学習値がゼロ値の場合の前記下限クリップ値に対し、前記点火時期学習値がゼロ値よりも点火時期遅角側となるほど前記下限クリップ値を小さくすることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の内燃機関の制御装置。
  5. 前記点火時期学習値がゼロ値の場合の前記下限クリップ値に対し、前記点火時期学習値がゼロ値よりも点火時期進角側となるほど前記下限クリップ値を大きくすることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の内燃機関の制御装置。
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