JP2018173168A - 焼結軸受およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】軸受面の粗大気孔を少なくし、表面開孔を微細化しかつ均質化した焼結軸受を提供する。【解決手段】鉄粉12の表面にCu−Sn合金粉13を部分拡散により付着させた部分拡散合金粉を主要粉末とする圧紛体を焼結して焼結軸受を製作する。部分拡散合金粉11の最大粒径を106μm以下にすると共に、Cu−Sn合金粉13の最大粒径を45μm以下にする。【選択図】図3

Description

本発明は、焼結軸受およびその製造方法に関する。
小型モータ用の軸受、例えばノート型パソコン等に装備されるファンモータ用の軸受としては、焼結金属製の軸受部材の内周面にヘリングボーン形状等に配列した複数の動圧発生溝を形成した流体動圧軸受を使用する場合が多い(特許文献1)。このように動圧発生溝を形成することで、軸の回転中は、動圧発生溝によって潤滑油が軸受面の軸方向一部領域に集められて動圧効果を生じ、この動圧効果によって回転する軸が軸受部材に対して非接触に支持される。
特開2016−50648号公報
軸受部材の内周面の動圧発生溝は、例えば焼結体をサイジングする際に、コアピンの外周面に動圧発生溝の形状に対応した複数の凸部を形成し、サイジングに伴う加圧力で、焼結体の内周面をコアピンの外周面の凸部に食いつかせることで形成することができる。しかしながら、かかる工程では、動圧発生溝が焼結材料の塑性変形で形成されるため、塑性変形量のばらつきから、その精度確保には限界がある。
その一方で、軸受面の粗大気孔を少なくすれば、油膜形成率が向上するため、動圧発生溝を省略しても十分な油膜剛性が得られると考えられる。そのため、動圧発生溝を有する流体動圧軸受を、そのような動圧発生溝を有しない、いわゆる真円軸受に置き換えることが可能となり、軸受装置の低コスト化を達成できると考えられる。
そこで、本発明は、軸受面の粗大気孔を少なくし、表面開孔と内部気孔を微細化しかつ均質化した焼結軸受を提供することを目的とする。
以上の目的を達成するため、本発明は、軸受面を備え、銅と鉄を主成分とする焼結軸受において、銅と、銅よりも融点が低い低融点元素とを合金化した合金化銅粉を、鉄粉の表面に部分拡散により付着させた部分拡散合金粉を焼結させることで形成された組織を有し、部分拡散合金粉の最大粒径が106μmであり、前記合金化銅粉の最大粒径が45μm以下であることを特徴とするものである。
本発明では、部分拡散合金粉および合金化銅粉の最大粒径を制限しており、しかも合金化銅粉の最大粒径を45μm以下として合金化銅粉を小粒径化している。従って、部分拡散合金粉中には、粗大鉄粉と粗大合金化銅粉とを一体化した粒子が含まれず、部分拡散合金粉の粒径を揃えることができる。これにより焼結後に粗大気孔を生じ難くすることができる。その一方で、原料粉の粒径が小さくなりすぎることはなく、圧紛体を成形する際の原料粉の流動性も良好なものとなる。
部分拡散合金粉の銅成分として、銅に銅よりも低融点の低融点元素を合金化させた合金化銅粉(例えば青銅粉)を使用することにより、粗大気孔の発生をより一層効果的に抑制することができる。すなわち、低融点元素を単体粉として使用した場合、焼結時に低融点元素粉全体が溶融して液相となり、これが移動して元の場所に空孔を形成することになる。これに対し、合金化銅粉を使用することで、焼結時には合金化銅粉の表面だけが溶融するため、そのような空孔の発生を防止することができる。また、合金化銅粉を使用することで、低融点元素の単体粉を使用する場合に問題となる偏析を回避することもできる。
その一方で、銅に低融点元素を合金化させた粉末(Cu−Sn合金粉)は、一般に硬質で変形しにくいため、そのような合金化銅粉をそのまま原料粉末に添加すると、圧縮性や成形性が悪いため、圧紛体の成形時に粒子間に隙間を生じやすく、焼結後に粗大気孔を生じる要因となる。これに対し、合金化銅粉を多孔質化していれば、粉末全体が軟化されるため、原料粉の圧縮性が向上して粒子間に隙間を生じ難くなる。従って、焼結後の粗大気孔の発生を抑制することができる。合金化銅粉の多孔質化は、例えば部分拡散合金粉の製造時に鉄粉と合金化銅粉の混合粉末を加熱(低温加熱)して合金化銅粉を熱処理させることで達成される。
以上に述べた構成であれば、十分な油膜剛性を確保し、高い油膜形成率を得ることが可能となる。従って、軸受面を円筒面状に形成して動圧発生溝を省略することが可能となり、そのような動圧発生溝を有する流体動圧軸受を使用する場合に比べて、軸受装置の低コスト化を図ることができる。
また、本発明は、軸受面を備え、銅と鉄を主成分とする焼結軸受の製造方法であって、銅と、銅よりも融点が低い低融点元素とを合金化した合金化銅粉を、鉄粉の表面に部分拡散により付着させた部分拡散合金粉を用いて圧粉体を成形し、部分拡散合金粉の最大粒径を106μmとすると共に、前記合金化銅粉の最大粒径を45μm以下とし、前記圧粉体を焼結することを特徴とするものである。
以上のように、本発明によれば、軸受面における粗大気孔を少なくして表面開孔を微細化しかつ均質化することができる。これにより、軸受面での圧力逃げが生じ難くなるため、高い油膜形成率を得ることが可能となる。
ファンモータの断面図である。 ファンモータ用軸受装置の断面図である。 (a)図および(b)図の何れも部分拡散合金粉の形態を模式的に示す図である。 部分拡散合金粉の粒度分布を示すグラフである。 部分拡散合金粉の他例を模式的に示す図である。 油膜形成率の比較試験結果を示す図である。 油膜形成率の測定装置を示す回路図である。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に、情報機器、特に携帯電話やタブレット型端末等のモバイル機器に組み込まれる冷却用のファンモータを示す。このファンモータは、軸受装置1と、軸受装置1の軸部材2に装着されたロータ3と、ロータ3の外径端に取付けられた羽根4と、半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル6aおよびロータマグネット6bと、これらを収容するケーシング5とを備える。ステータコイル6aは、軸受装置1の外周に取付けられ、ロータマグネット6bはロータ3の内周に取付けられる。ステータコイル6aに通電することにより、ロータ3、羽根4、及び軸部材2が一体に回転し、これにより軸方向あるいは外径方向の気流が発生する。
図2に示すように、軸受装置1は、軸部材2と、ハウジング7と、焼結軸受8と、シール部材9と、スラスト受け10とを備える。
軸部材2は、ステンレス鋼等の金属材料で円柱状に形成されており、円筒状をなす焼結軸受8の内周面に挿入される。軸部材2は、軸受面となる焼結軸受8の内周面8aでラジアル方向に回転自在に支持される。軸部材2の下端はハウジング7の底部7bに配置されたスラスト受け10と接触しており、軸部材の回転時には、スラスト受け10によって軸部材2がスラスト方向に支持される。ハウジング7は、略円筒状の側部7aと、側部7aの下方の開口部を閉塞する底部7bとを有する。側部7aの外周面にケーシング5及びステータコイル6aが固定され、側部7aの内周面に軸受部材8が固定される。シール部材9は樹脂あるいは金属で環状に形成され、ハウジングの側部の内周面の上端部に固定されている。シール部材9の下側の端面が軸受部材8の上側端面と軸方向で当接している。シール部材9の内周面は軸部材2の外周面と半径方向で対向し、両者の間にはシール空間Sが形成されている。かかる軸受装置1では、少なくとも軸受部材8の内周面と軸部材2の外周面とで形成されるラジアル隙間が潤滑油で満たされる。この他、ハウジング7の内部空間を全て潤滑油で満たしてもよい(この場合、シール空間Sに油面が形成される)。
軸受部材8は、主成分として鉄と銅を含む鉄銅系の焼結体で形成される。この焼結体は、各種粉末を混合した原料粉を金型に供給し、これを圧縮して圧紛体を成形した後、圧紛体を焼結することで製作される。以下、この製造工程について詳細に述べる。
図3(a)に示すように、部分拡散合金粉11は、核となる鉄粉12の表面に、当該鉄粉より粒径の小さい合金化銅粉13を部分拡散により付着させたものである。詳しくは図3(b)中の部分拡大図に示すように、鉄粉と銅粉との境界において、鉄組織中に銅組織の一部(銅原子13a)が拡散すると共に、銅組織中に鉄組織の一部(鉄原子12a)が拡散することで、鉄原子12aと銅原子13aが一部置換された結晶構造を有する。
部分拡散合金粉11の鉄粉12としては、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉等を使用することができるが、本実施形態では還元鉄粉を使用する。還元鉄粉は、不規則形状で、かつ内部気孔を有する海綿状(多孔質状)をなす。還元鉄粉を使用することで、アトマイズ鉄粉を使用する場合に比べ、圧縮性を向上させて成形性を高めることができる。また、焼結後の鉄組織が多孔質状となるため、鉄組織中にも潤滑油を保有できるようになり、焼結体の保油性を向上できる利点も得られる。さらに鉄粉に対する合金化銅粉13の付着性が向上するため、銅濃度が均一な部分拡散合金粉を得ることができる。
また、部分拡散合金粉11の核となる鉄粉12としては、粒度145メッシュ以下の粉末が使用される。ここで「粒度145メッシュ」とは、目開きが145メッシュ(約106μm)の篩を通過したアンダー材の粉末(すなわち、目開き145メッシュの篩を通過できないオーバー材を含まない粉末)を意味する。従って、この場合の鉄粉の最大粒径は、106μmとなる。「粒度145メッシュ以下」は粉末の粒度が145メッシュ以下であること、つまり粉末の最大粒径が106μm以下であることを意味する。鉄粉の粒径は20μm以上が好ましく、38μm以上がより一層好ましい。鉄粉の最大粒径は75μm以下が好ましい。粒度でいえば230メッシュ(目開き63μm、最大粒径63μm)以下の鉄粉を使用するのが好ましい。325メッシュ以下(目開き45μm、最大粒径45μm)の粒度の鉄粉を使用することもできる。また、鉄粉の平均粒径は、106μm以下、具体的には45μm以上75μm以下(好ましくは45μm以上63μm以下)とする。粉末の粒径(平均粒径を含む)は、例えばレーザー回析・散乱法で測定することができる(以下、同じ)。
合金化銅粉13は、銅と銅よりも融点が低い低融点元素とを合金化させた粉末(完全合金粉末)である。低融点元素は焼結時のバインダーとして機能するものであり、融点が銅よりも低い元素、特に融点が700℃以下の元素(例えば錫、亜鉛、リン等)が低融点元素として使用される。特に錫、亜鉛等の低融点金属を使用するのが好ましい。低融点金属の中でも、錫は銅と鉄に拡散し易いという特徴を備えるため、低融点元素として錫を使用した青銅粉(Cu−Sn合金粉)を合金化銅粉13として使用するのが好ましい。合金化銅粉13の最大粒径は45μm以下であり、好ましくは20μm以下である。合金化銅粉13の平均粒径は、鉄粉12の平均粒径のほぼ1/10以下(具体的には、1/100以上1/10以下)であるのが好ましい。
以上に述べた鉄粉と合金化銅粉との混合物をベルト式の加熱炉内に搬入し、所定時間加熱することで合金化銅粉の一部が鉄粉に拡散し、部分拡散合金粉が得られる。炉内温度としては数百℃、加熱時間としては数十分程度が適当である。本実施形態で使用される部分拡散合金粉は、鉄粉と合金化銅粉を拡散接合した後、粉砕することで得られる。Cu−Sn混合粉は一般に硬質で変形しにくいため、鉄粉とCu−Sn混合粉とを含む混合粉末を原料粉末として用いると、圧紛体成形時の圧縮性および成形性が低下する問題がある。これに対し、上記のようにFe−Cu−Sn部分拡散合金粉を使用すれば、その粉末製造時の加熱により各粉末(特に合金化銅粉13)が熱処理され、多孔質化する。これにより、部分拡散合金粉の個々の粒子が軟質化されるため、圧粉体成形時の圧縮性および成形性が向上する。
図3の右側拡大模式図に示すように、部分拡散合金粉11の拡散部分(散点模様部分)では、Fe−Cu−Sn合金が形成される。この合金部分は鉄原子と銅原子と錫原子が相互に結合し、配列した結晶構造を有する。合金化銅粉13のうち、拡散部分以外は、当初のCu−Sn合金の組織がそのまま維持される。
以上に説明した部分拡散合金粉11としては、粒度145メッシュ以下(最大粒径106μm以下)のものが使用される。粉砕後の部分拡散合金粉の粒度は、図4に示すように正規分布を示すが、粉砕後に、例えば目開き145メッシュの篩で篩分けすることにより、図中の散点模様で表した粒度分布を有する部分拡散合金粉が得られる。本実施形態では、このように篩分け後のアンダー材の部分拡散合金粉が使用される。
本実施形態において、原料粉末の組成は、部分拡散合金粉100%とする。原料粉末における各元素の割合は、銅を15質量%〜40質量%(好ましくは20質量%〜30質量%)、低融点金属等の低融点元素を1質量%〜4質量%、残部を鉄および不可避的不純物とするのが好ましい。
なお、部分拡散合金粉のみを使用する場合、銅の配合割合の上限値には限界があるため、上限以上に銅の配合割合を高めたい場合等には、原料粉末に銅粉末(純銅粉末)を単体で添加してもよい。また、本実施形態において、原料粉末に固体潤滑剤は配合されていない。これは、例えば固体潤滑剤として一般的な黒鉛粉を原料粉末に配合すると、軸を高速回転(例えば周速600m/min以上)させた際に、軸受面に露出した黒鉛組織に摩耗粉等の異物が絡み付いて却って摺動性を悪化させるおそれがあるためである。もちろん、高速回転の用途に使用しない焼結軸受であれば、原料粉末に黒鉛粉末を例えば0.1〜1.5質量%程度の割合で配合してもよい。固体潤滑剤としては二硫化モリブデン等を使用することもできる。
以上に述べた原料粉末100%に対して、成形用潤滑剤が0.1〜1.0質量%配合される。成形用潤滑剤として、例えば金属セッケン(ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等)やワックスを使用できる。但し、これらの成形用潤滑剤は、焼結により分解・消失して粗大気孔の要因となるため、成形用潤滑剤の使用量はなるべく抑えることが好ましい。
上記の原料粉末を金型の内部に充填し、圧縮することで圧紛体が成形される。その後、圧紛体を焼結することで、焼結体が得られる。焼結温度は、低融点元素(低融点金属)の融点以上で、かつ銅の融点以下の温度とされ、具体的には760℃〜900℃程度とする。圧紛体を焼結することにより、部分拡散合金粉に含まれる合金化銅粉の表面が液相となって他の合金化銅粉の表面を濡らすため、銅系粒子同士や銅系粒子と鉄粒子間の焼結が促進される。
この焼結体は、例えば密度6.0〜7.4g/cm3(好ましくは6.9〜7.3g/cm3)、内部空孔率が4〜20%、好ましくは4〜12%(より好ましくは5〜11%)とされる。また、原料粉および焼結炉の雰囲気が炭素を含まず、かつ焼結温度が900℃以下であるため、焼結体の鉄組織は全てフェライト相となる。ちなみに、焼結体における各元素の含有量は、原料粉末での各元素の含有割合と同じ値となる。
この焼結体をサイジングにより整形することにより、軸受面の真円度を1μm以下まで高めることができる。その後、真空含浸等の手法で焼結体の内部空孔に潤滑油を含浸させることで、図2に示す焼結軸受8(焼結含油軸受)が完成する。潤滑油は、例えば40℃における動粘度が10〜200mm2/sec、好ましくは20〜80mm2/secであり、かつ粘度指数が100〜250であるものが使用される。
この焼結体の焼結組織は、部分拡散合金粉11の鉄粉12に由来するFe組織の周囲に、部分拡散合金粉11の合金化銅粉13に由来するCu系組織が分散した形態をなす。これにより鉄組織が銅系組織で被覆されたような形態となるため、軸受面における鉄組織の露出量を少なくすることができ、これにより焼結軸受8の初期なじみ性を向上させることができる。このように鉄組織の周囲を銅系組織で覆った焼結組織は、鉄粉を銅めっきした銅被覆鉄粉を使用することでも得ることができるが、銅被覆鉄粉を使用した場合には、本実施形態で使用する部分拡散合金粉に比べて、焼結後の銅系組織と鉄組織間のネック強度が低下するため、焼結軸受の圧環強度が大幅に低下する。
Fe−Cu−Sn部分拡散合金粉の製造過程において、鉄粉12および合金化銅粉13の最大粒径を上記のように制限していない場合、たとえこれら鉄粉12や合金化銅粉13の平均粒径が上記最大粒径と近い値であったとしても、粒径の大きい鉄粉や合金化銅粉も混入した状態で部分拡散合金粉が製造されることになる。そのため、図5に模式的に示すように、粒径の大きい鉄粉と合金化銅粉が一体化された粒子(粗大粒子)が相当量形成される。このような粗大粒子が集合した状態で焼結されれば、粒子間の隙間が大きくなるため、焼結後に粗大気孔を生じることになる。
これに対し、本発明では、合金化銅粉13、さらに部分拡散合金粉の最大粒径を制限しており、しかも合金化銅粉13の最大粒径が部分拡散合金粉の最大粒径よりもかなり小さい。従って、部分拡散合金粉の粒度分布がシャープな形となる(部分拡散合金の粒径が揃った状態となる)。その一方で、原料粉の粒径が小さくなりすぎることはなく、粉末の状態での流動性も良好なものとなる。そのため、焼結後に粗大気孔を生じ難くなり、焼結組織中の空孔を微細化かつ均質化することができる。
また、本発明では、銅系粉として、銅に銅よりも低融点の低融点元素を合金化させた合金化銅粉13を使用しているので、粗大気孔の発生をより一層効果的に抑制することができる。すなわち、低融点元素としてその単体粉を原料粉に配合した場合、焼結時に低融点元素粉全体が溶融して液相となり、これが移動して元の場所に空孔を形成するために粗大気孔の発生原因となるが、合金化銅粉を使用することで、焼結時には合金化銅粉の表面だけが溶融するため、そのような空孔の発生を防止することができる。また、合金化銅粉を使用することで、低融点元素の単体粉を使用する場合に問題となる偏析を回避することもできる。
単に銅に低融点元素を合金化させただけの粉末は、一般に中実かつ硬質で変形しにくいため、圧紛体の成形時に粒子間に隙間を生じやすく、焼結後に粗大気孔を生じる要因となる。これに対し、Fe−Cu−Sn部分拡散合金粉では、その製造時の低温加熱によりCu−Sn合金粉が熱処理されて多孔質化するため、原料粉末を軟化させて圧縮性および成形性を向上させることができる。そのため、粒子間に隙間を生じ難くなり、この点からも焼結後の粗大気孔の発生を抑制することができる。Cu−Sn合金粉の多孔質化を促進するため、部分拡散合金粉11の製造後、さらに上記と同様の加熱条件により部分拡散合金粉を再加熱してもよい。
加えて、本発明者らの検証により、銅系粉として多孔質の銅合金粉を使用すれば、焼結後の焼結体は圧紛体よりも収縮することが明らかになった。具体的には圧紛体に対する焼結体の寸法変化率が、内径寸法および外径寸法とも0.995〜0.999程度となった。これは、多孔質の銅合金粉が焼結時に周辺の銅系粒子を引き付ける作用を奏するためと考えられる。これに対し、多孔質ではない銅合金粉を使用した既存の銅鉄系焼結体では、焼結時には圧紛体の状態よりも膨張するのが通例である。このように焼結時に焼結体が収縮することで、焼結組織が緻密化されるため、粗大気孔の発生をさらに確実に抑制することが可能となる。
これらの作用を通じて、各表面気孔の面積が0.01mm2(0.1mm×0.1mm)以下の焼結体を得ることができ、粗大気孔の発生を防止することが可能となる。因みに、軸受面の表面開孔率は、面積比で4%以上20%以下(好ましくは12%以下でばらつきが5%以下)となる。また、焼結体における通油度は0.010〜0.025g/10分となる。ここでいう「通油度」は、多孔質のワークが、その多孔質組織を介してどの程度潤滑油を流通させることができるのかを定量的に示すためのパラメータ[単位:g/10min]である。通油度は、室温(26〜27℃)環境下で円筒状試験体の内周孔を0.4MPaの加圧力を負荷しながら潤滑油で満たし、試験体の外径面に開口した表面開孔から滲み出して滴下した油を採取することで求めることができる。
このように本発明によれば、軸受面に生じる粗大気孔をなくし(表面気孔の最大面積が0.01mm2)、表面開孔の大きさを均一化することができる。これにより軸受面8aでの圧力逃げを抑制して油膜形成率を高めることができるため、低速回転および高速回転を問わず、高い油膜剛性を確保して軸を安定的に支持することが可能となる。そのため、動圧発生溝を有しない真円軸受の形態であっても、動圧発生溝付きの焼結軸受と同等の軸受性能を得ることができ、動圧発生溝付き焼結軸受の代替え品として用いることが可能となる。特に動圧溝付きの焼結軸受では、周速5m/min以下の領域では、動圧効果が十分得られないために使用が困難となるが、本発明の焼結軸受であれば、周速5m/min以下の低速領域でも安定して軸を支持できるメリットが得られる。また、600m/minを超える高速回転でも軸受面8aと軸2の外周面との間の軸受隙間の全周にわたって連続的に油膜を形成することができるため、軸2を安定して支持することができる。ちなみに既存の焼結軸受では、周速10m/min〜300m/min程度が使用範囲とされている。
また、図5に示す粗大粒子では、合金化銅粉13の体積に比べて拡散接合部の面積が小さくなるため、両者の接合強度が低下する。そのため、部分拡散合金粉を篩掛けした際には、その衝撃で銅系粒子(Cu−Sn合金粒子)が鉄粒子から脱落し易くなる。この場合、原料粉中には小粒径のCu−Sn合金粉が多数混入した状態となるため、原料粉の流動性が低下し、銅等の偏析を招く要因となる。これに対し、本願発明では、部分拡散合金粉の製造に使用する合金化銅粉13の最大粒径を制限しているため、部分拡散合金粉は総じて図3に示すように形態を有する。この場合、合金化銅粉13の体積に比べて拡散接合部の面積が相対的に大きくなるため、鉄粉12と合金化銅粉13の接合強度が高まる。従って、篩掛けを行った際にも合金化銅粉が脱落し難くなり、上記の弊害を防止することができる。
図6に本発明品と比較品の油膜形成率の測定結果を示す。なお、比較品は、80メッシュアンダーの鉄粉を核とする銅被覆鉄粉を用いた焼結軸受であり、本発明品は、145メッシュアンダーの鉄粉を核とする部分拡散合金粉を用いた焼結軸受である。
油膜形成率は、図7に示す回路を使用し、サンプルとして軸と焼結軸受を組み合わせたものをセットした上で電圧を測定することにより求めている。検出電圧が0[V]であれば油膜形成率は0%であり、検出電圧が電源電圧と等しければ油膜形成率は100%である。油膜形成率100%は軸と焼結軸受が非接触状態にあることを意味し、油膜形成率0%は軸と焼結軸受が接触したことを意味する。図6の横軸は、時間を表す。測定条件として、軸の回転数は2000min-1、軸のスラスト荷重は0.2Nに設定している。
図6からも明らかなように、比較品は油膜形成率100%となる期間が殆ど存在せず、軸と焼結軸受が頻繁に接触しているのに対し、本発明品は油膜形成率がほぼ100%となっていることから、ほぼ非接触状態が維持されている。従って、比較品と比べ、本発明品の方がより良好な油膜形成率を得られることが確認された。
以上、本発明に係る焼結軸受の使用例としてファンモータを例示したが、本発明にかかる焼結軸受の適用対象はこれに限定されず、種々の用途に使用することができる。
また、焼結軸受8の軸受面8aの内周面に動圧発生溝を形成しない場合を説明したが、必要に応じて軸受面8aに複数の動圧発生溝を形成することができる。動圧発生溝は軸2の外周面に形成することもできる。また、焼結軸受8は回転運動を支持するだけでなく、直線運動を支持する場合にも用いることができる。
1 軸受装置
2 軸部材
8 焼結軸受
8a 内周面(軸受面)
11 部分拡散合金粉
12 鉄粉
13 合金化銅粉

Claims (5)

  1. 軸受面を備え、銅と鉄を主成分とする焼結軸受において、
    銅と、銅よりも融点が低い低融点元素とを合金化した合金化銅粉を、鉄粉の表面に部分拡散により付着させた部分拡散合金粉を焼結させることで形成された組織を有し、
    部分拡散合金粉の最大粒径が106μmであり、前記合金化銅粉の最大粒径が45μm以下であることを特徴とする焼結軸受。
  2. 合金化銅粉を多孔質化させた請求項1に記載の焼結軸受。
  3. 軸受面を動圧発生溝のない円筒面状にした請求項1または2に記載の焼結軸受。
  4. 軸受面を備え、銅と鉄を主成分とする焼結軸受の製造方法であって、
    銅と、銅よりも融点が低い低融点元素とを合金化した合金化銅粉を、鉄粉の表面に部分拡散により付着させた部分拡散合金粉を用いて圧粉体を成形し、
    部分拡散合金粉の最大粒径を106μmとすると共に、前記合金化銅粉の最大粒径を45μm以下とし、
    前記圧粉体を焼結させることを特徴とする焼結軸受の製造方法。
  5. 前記合金化銅粉を熱処理により多孔質化させた請求項4に記載の焼結軸受の製造方法。
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