JP2018168461A - 酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体及び酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体用の二相ステンレス鋼 - Google Patents

酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体及び酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体用の二相ステンレス鋼 Download PDF

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Abstract

【課題】オゾンに代表される酸化性物質を含む流体の環境で優れた耐食性を有する二相ステンレス鋼溶接構造体を提供する。【解決手段】母材部及び溶接熱影響部からなる被溶接材と溶接金属とを備え、被溶接材の化学成分が、C:0.10%以下、Si:0.01〜5.0%、Mn:0.01〜8.00%、P:0.10%以下、S:0.050%以下、Ni:1.0〜8.0%、Cr:20.0〜30.0%、及びN:0.05〜0.50%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物であり、溶接金属のフェライト相率が35.0〜65.0面積%、溶接金属の(1)式のPRENが被溶接材の(1)式のPRENの0.90倍以上、溶接熱影響部の平均幅が200.0μm以上、溶接熱影響部のフェライト相の平均粒径が200.0μm以下、の酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体。PREN=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)【選択図】なし

Description

本発明は、酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体及び酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体用の二相ステンレス鋼に関し、さらに詳しくは、オゾンに代表される酸化性物質を含む流体を用いるような環境で利用される酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体及び酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体用の二相ステンレス鋼に関する。
フェライト・オーステナイト系の二相ステンレス鋼は、水環境における優れた耐食性を持つことから、水処理施設のタンク、配管、及び水道水や工業用水の貯水タンクに利用されている。二相ステンレス鋼を構造体として用いる際、施工性の良さから溶接により接合される場合が多い。二相ステンレス鋼は高強度化、高耐食化を目的としてNが添加されているが、N含有量が多い鋼では溶接した際に熱影響部においてCr窒化物が析出するため、熱影響部での耐食性劣化が課題となる。
一方、近年、水道水の安全性や排水に対する環境負荷の低減に対する要求の高まりから、水の殺菌、漂白、脱臭の用途でオゾンガスが使われるようになっている。オゾンは、非常に高い殺菌力、漂白力、脱臭力を持ち、従来使われてきた濾過処理、凝集処理、塩素処理では得ることが困難であった高品質の水を作ることができる。
しかしながら、オゾンの高い殺菌力はステンレス鋼を腐食させる力を持つ。水中には溶存酸素、残留塩素などの酸化剤が存在し、これら酸化剤の種類、量によって水中におけるステンレス鋼の電位が決まる。ステンレス鋼はその合金成分、組織などによって、使用出来得る限界の電位が存在する。この限界の電位は、JISで規定された「ステンレス鋼の孔食電位測定方法」(JIS G 0577)により測定することができる。この孔食電位が使用環境での電位と比べて低ければ、孔食が発生する可能性がある。
オゾンが水中に溶存すると、この使用環境での電位を高めることが知られている。このように、オゾンを含有する水中は、ステンレス鋼、特に溶接によって熱影響部での耐食性が劣化する二相ステンレス鋼にとって過酷な腐食環境であると言える。
特許文献1、特許文献2は、二相ステンレス鋼に、Vを、0.05〜0.5%の量で添加することでNの活量を下げ、Cr窒化物の析出を遅延させ、溶接熱影響部の耐食性と靭性を良好にした省合金二相ステンレス鋼を提案している。
特許文献3は、Cr窒化物の平衡析出温度とオーステナイト相の平衡析出温度の関係を適正化させて溶接熱影響部の耐食性を良好にした高強度省合金型二相ステンレス鋼を提案している。
特許文献4は、パス間温度―板厚―溶接入熱を適正化することで耐食性を良好にした二相ステンレス鋼の溶接方法を提案している。
このように、これまでに、溶接熱影響部の耐食性が良好な二相ステンレス鋼や、耐食性に優れた二相ステンレス鋼の溶接方法を提供する技術は提案されている。
ただし、特許文献1〜4で記載の従来技術はオゾンに代表される酸化性流体が存在する様な環境における耐食性については考慮されていない。
特許第5345070号公報 特許第5868206号公報 特許第5404280号公報 特開昭62−199272号公報
本発明者らは、二相ステンレス鋼および溶接構造体をオゾン含有水環境へ適用するための検討を行い、従来の技術では二相ステンレス鋼をオゾンに代表される酸化性流体の環境に適用した場合、適正な耐食性を確保することが困難であることを明らかにした。本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、オゾンに代表される酸化性物質を含む流体の環境で優れた耐食性を有する二相ステンレス鋼および溶接構造体を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明の酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼および溶接構造体は、下記の要件を有する。
(1)母材部及び溶接熱影響部からなる被溶接材と、溶接金属とを備え、
前記被溶接材の化学成分が、質量%で、
C:0.10%以下、
Si:0.01〜5.0%、
Mn:0.01〜8.00%、
P:0.10%以下、
S:0.050%以下、
Ni:1.0〜8.0%、
Cr:20.0〜30.0%、及び
N:0.05〜0.50%を含有し、
残部はFeおよび不可避的不純物であり、
前記溶接金属のフェライト相率が35.0〜65.0面積%であり、前記溶接金属の(1)式のPRENが前記被溶接材の(1)式のPRENの0.90倍以上であり、
前記溶接熱影響部の平均幅が200.0μm以上であり、前記溶接熱影響部のフェライト相の平均粒径が200.0μm以下である、酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体。
PREN=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)
但し、Moを含有しない場合には、(1)式においてMoを0と置く。
(2)前記被溶接材が、更に、以下の群より選択される1種以上を含有する、(1)に記載の酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体。
第1群:質量%で、
Mo:0.01〜8.00%、
Cu:0.01〜5.00%から選択される1種以上。
第2群:質量%で、Al:1.00%以下。
第3群:質量%で、
Ti:0.01〜0.40%、
Nb:0.01〜0.40%、
V:0.01〜0.50%、
W:0.01〜1.00%、
Ta:0.001〜0.10%、
Sn:0.001〜0.50%、
Sb:0.001〜0.50%、及び
Ga:0.001〜0.50%から選択される1種以上。
第4群:質量%で、
B:0.0002〜0.0050%、
Ca:0.0002〜0.0050%、
Mg:0.0002〜0.0050%、及び
REM:0.001〜0.10%から選択される1種以上。
(3)オゾン浄水槽、オゾン浄水場の配管、オゾン下水処理槽、オゾン下水処理場の配管、過酸化水素水槽、および過酸化水素水の配管に用いられる、(1)または(2)に記載の酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体。
(4)化学成分が、質量%で、
C:0.10%以下、
Si:0.01〜5.0%、
Mn:0.01〜8.00%、
P:0.10%以下、
S:0.050%以下、
Ni:1.0〜8.0%、
Cr:20.0〜30.0%、及び
N:0.05〜0.50%を含有し、
残部はFeおよび不可避的不純物であり、
下記(1)式のPRENが20.0〜50.0%である、
酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体用の二相ステンレス鋼。
PREN=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)
但し、Moを含有しない場合には、(1)式においてMoを0と置く。
(5)更に、以下の群より選択される1種以上を含有する、(4)に記載の酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体用の二相ステンレス鋼。
第1群:質量%で、
Mo:0.01〜8.00%、
Cu:0.01〜5.00%から選択される1種以上。
第2群:質量%で、Al:1.00%以下。
第3群:質量%で、
Ti:0.01〜0.40%、
Nb:0.01〜0.40%、
V:0.01〜0.50%、
W:0.01〜1.00%、
Ta:0.001〜0.10%、
Sn:0.001〜0.50%、
Sb:0.001〜0.50%、及び
Ga:0.001〜0.50%から選択される1種以上。
第4群:質量%で、
B:0.0002〜0.0050%、
Ca:0.0002〜0.0050%、
Mg:0.0002〜0.0050%、及び
REM:0.001〜0.10%から選択される1種以上。
本発明の一態様によれば、オゾンに代表される酸化剤を含む流体中でも優れた耐食性を有する二相ステンレス鋼溶接構造体及び二相ステンレス鋼溶接構造体に好適に用いられる二相ステンレス鋼を提供できる。
板厚4mmの溶接試験片の溶接熱影響部の幅と腐食試験で生じた最大腐食深さとの関係を示す図である。 板厚4mmの溶接試験片の溶接熱影響部のフェライト相の粒径と腐食試験で生じた最大腐食深さとの関係を示す図である。 板厚10mmの溶接試験片の溶接熱影響部の幅と腐食試験で生じた最大腐食深さとの関係を示す図である。 板厚10mmの溶接試験片の溶接熱影響部のフェライト相の粒径と腐食試験で生じた最大腐食深さとの関係を示す図である。 溶接熱影響部のフェライト相の粒径、溶接熱影響部の幅及び腐食試験で生じた最大腐食深さの関係を示す図である。 溶接熱影響部の母材側の境界(HL)と溶接金属側の境界(FL)の例を示す光学顕微鏡写真である。
オゾンに代表される酸化剤を含む流体に接触する環境で用いられる二相ステンレス鋼は、自然電位が比較的高い。一方、酸化剤は自然分解し易いので、同一の溶接構造体の中においても部位によって酸化剤の濃淡があり、これにより溶接構造体の中において自然電位の差が発生する。この電位差が原因となり二相ステンレス鋼の溶接部、特に溶接熱影響部において腐食の問題が発生するため、二相ステンレス鋼の溶接構造体を酸化性流体の環境で使用することが出来なかった。しかし、本発明は、この従来の問題を解決し、酸化性流体の環境下で優れた耐食性を発揮する二相ステンレス鋼および溶接構造体を提供することができる。
以下、本実施形態の二相ステンレス鋼および二相ステンレス鋼溶接構造体の一実施形態について詳述する。本実施形態の二相ステンレス鋼溶接構造体は、被溶接材と溶接金属から構成される。また、被溶接材は、母材部および溶接熱影響部を含んでいる。母材部は、本実施形態の二相ステンレス鋼からなる。また、溶接熱影響部は、本実施形態の二相ステンレス鋼に対して溶接が実施されることにより形成される。なお、以下の説明では、二相ステンレス鋼溶接構造体を溶接構造体という。
本発明者らは、まず、代表的な酸化剤であるオゾンを含む水環境下での溶接構造体の耐食性および、溶接構造体の組織の性状について鋭意調査した。その結果、以下の条件を満たす溶接構造体が、酸化性流体環境下において優れた耐食性を有することを明らかにした。
(A)溶接熱影響部の平均幅が200.0μm以上。
(B)溶接熱影響部のフェライト組織の平均粒径が200.0μm以下。
本実施形態の溶接構造体の被溶接材(母材部および溶接熱影響部)における各成分元素の量の限定範囲とその理由について説明する。なお、鋼の成分を示す%については、特に断らない限り質量%を意味する。
C:Cは、ステンレス鋼の耐食性を確保するため、C量を0.10%以下に制限する。0.10%を超えてCを含有させると、Cr炭化物が生成して、耐食性が劣化する。一方で、Cは、二相組織を構成するオーステナイトを形成する元素である。このため、C量の下限値は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.010%以上である。C量の上限値は、好ましくは0.08%以下であり、より好ましくは0.05%以下である。
Si:Siは脱酸のため0.01%以上の量で含有する。Si量の下限値は、好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは0.30%以上である。しかしながら、5.0%を超えてSiを含有すると、σ相の析出が促進される。そのため、Si量の上限を5.0%以下に限定する。Si量の上限値は、好ましくは2.0%以下であり、より好ましくは0.60%以下である。
Mn:Mnは、脱酸剤および二相組織にするためのオーステナイト安定化元素として、0.01%以上含有する。Mn量の下限値は、好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは1.50%以上である。しかしながら、8.00%を超えてMnを含有すると耐食性が劣化する。そのため、Mn量の上限を8.00%以下に限定する。Mn量の上限値は、好ましくは5.00%以下であり、より好ましくは4.00%以下である。
P:Pは熱間加工性および靭性を劣化させるため、P量を0.10%以下に制限する。P量は、好ましくは0.05%以下であり、より好ましくは0.035%以下である。
S:Sは熱間加工性、靭性および耐食性を劣化させるため、S量を0.050%以下に制限する。S量は、好ましくは0.010%以下であり、より好ましくは0.001%以下である。
Ni:Niは、腐食が生じた際の腐食進展を抑制する効果と、二相組織にするためのオーステナイト安定化元素としての効果を有する。Ni量が1.0%未満では、十分な耐食性を得ることが出来ず、更に組織がフェライト単相となる。Ni量が8.0%を超えると、耐食性の効果は飽和する。またNiの使用量が増加して溶接構造体が高価格となる。よって、Ni量を1.0〜8.0%の範囲にする必要がある。Ni量の下限値は、好ましくは1.5%以上であり、より好ましくは1.8%以上である。Ni量の上限値は、好ましくは6.0%以下であり、より好ましくは4.5%以下である。
Cr:Cr量が20.0%未満の場合、十分な耐食性を得ることが出来ない。Cr量が30.0%を超えると、σ相の析出が多くなり、耐食性、熱間製造性が劣化する。従ってCr量を20.0〜30.0%の範囲にする必要がある。Cr量の下限値は、好ましくは20.5%以上であり、より好ましくは20.8%以上である。Cr量の上限値は、好ましくは27.0%以下であり、より好ましくは24.0%以下である。
N:0.05%以上のNを含有すると、耐食性が向上し、Nは耐食性を高める有効な元素である。0.50%以下であればNを含有してもよい。0.50%超のNを含有させると、鋳造時に気泡が発生し易くなる。このため、N量の下限値は、0.05%以上であり、好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは0.12%以上である。N量の上限値は、0.50%以下であり、好ましくは0.30%以下であり、更に好ましくは0.25%以下であり、最も好ましくは0.20%以下である。
本実施形態においては、前述の元素に加えて、二相ステンレス鋼の諸特性を調整する目的で、以下の合金元素が含有されていてもよい。下記の第1群〜第4群のうち、少なくとも1群または2群以上を含有してもよい。
第1群:質量%で、Mo:0.01〜8.00%、Cu:0.01〜5.00%から選択される1種以上。
第2群:質量%で、Al:1.00%以下。
第3群:質量%で、Ti:0.01〜0.40%、Nb:0.01〜0.40%、V:0.01〜0.50%、W:0.01〜1.00%、Ta:0.001〜0.10%、Sn:0.001〜0.50%、Sb:0.001〜0.50%、及びGa:0.001〜0.50%から選択される1種以上。
第4群:質量%で、B:0.0002〜0.0050%、Ca:0.0002〜0.0050%、Mg:0.0002〜0.0050%、及びREM:0.001〜0.10%から選択される1種以上。
(第1群)
Mo:Moは耐食性を向上させる元素であり、0.01%以上の含有で効果が発揮する。8.00%以下であればMoを含有してもよいが、Mo量が8.0%を超えると、溶接金属部のフェライト率が高くなるため耐食性が劣化する。このため、Mo量の下限値は、0.01%以上であり、好ましくは0.15%以上であり、より好ましくは0.18%以上である。Mo量の上限値は、8.00%であり、好ましくは6.00%以下であり、より好ましくは1.00%未満である。
Cu:0.01%以上のCuを含有すると、腐食が生じた際の腐食進展を抑制する効果が得られる。5.00%以下の量であればCuを含有してもよい。ただし、Cu量が3.0%を超えると、鋳造時に割れが発生し易くなる。このため、Cu量の下限値は、0.01%以上であり、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.10%以上である。Cu量の上限値は、5.00%以下であり、好ましくは3.00%以下であり、より好ましくは1.50%以下である。
(第2群)
Al:Alは脱酸元素として有用であるが、加工性を劣化させるため多量に含有させるべきではない。Al量の上限を1.00%以下に制限するのがよい。Al量の好ましい範囲は、0.50%以下である。
(第3群)
Ti,Nb,V,W,Ta、Sn,Sb,Gaは、耐食性を向上する元素であり、以下の範囲で1種または2種以上含有してもよい。
Ti:0.01〜0.40%、Nb:0.01〜0.40%、V:0.01〜0.50%、W:0.01〜1.00%、Ta:0.001〜0.10%、
Sn:0.001〜0.50%、Sb:0.001〜0.50%、Ga:0.001〜0.50%。
Ti、Nb:TiおよびNbは、C、Nを炭窒化物として固定して耐食性、特に粒界腐食を抑制する作用を有する。このため、TiとNbの一方又は両方を含有させてもよい。しかし、過剰に含有させても効果は飽和するため、TiとNbの各々の含有量の上限を0.40%以下とする。ここにおいて、TiとNbの少なくとも一方の含有量が0.01%以上であれば、効果を発揮することができる。なお、Ti、Nbの適正な含有量としては、TiとNbの合計量がCとNの合計含有量の5倍量以上かつ30倍量以下がよい。好ましくは、TiとNbの合計含有量が、CとNの合計含有量の10倍以上、25倍以下とするのがよい。
V、W:V、Wは、耐食性、特に耐すき間腐食性を改善するため、必要に応じて含有してもよい。ただし、VやWの過度の量の含有は、加工性を低下させ、かつ耐食性を向上させる効果も飽和するため、V、Wのそれぞれの量の下限を0.01%以上とし、V量の上限を0.50%以下とし、W量の上限を1.00%以下とする。V量の下限値は、好ましくは0.04%以上であり、V量の上限値は、好ましくは0.30%以下である。W量の下限値は、好ましくは0.04%以上であり、W量の上限値は、好ましくは0.50%以下である。
Ta:Taは、介在物の改質により耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて含有してもよい。0.001%以上のTaの含有によって、効果が発揮されるため、Ta量の下限を0.001%以上とする。Ta量が0.10%超の場合、常温延性の低下や靭性の低下を招くため、Ta量の上限は、好ましくは0.10%以下であり、より好ましくは0.05%以下である。少量のTa量で効果を発現させる場合には、Ta量を0.02%以下とすることが好ましい。
Sn、Sb:微量のSn又はSbを含有させると、耐食性が向上する。このため、Sn,Sbは、耐食性を向上させるのに有用な元素であり、廉価性を損なわない範囲で含有させる。Sn又はSbの量が0.001%未満では、耐食性を向上させる効果は発現されず、Sn又はSbの量が0.50%を超えると、コスト増が顕在化すると共に加工性も低下するので、Sn、Sbのそれぞれの量の適正範囲を0.001〜0.50%とする。Sn、Sbのそれぞれの量の下限値は、好ましくは0.01%以上であり、Sn、Sbのそれぞれの量の上限値は、好ましくは0.30%以下である。
Ga:Gaは、耐食性および加工性向上に寄与する元素であり、0.001〜0.50%の範囲で含有させることができる。Ga量の下限値は、好ましくは0.015%以上であり、Ga量の上限値は、好ましくは0.30%以下である。
(第4群)
B、Ca、Mg、REMは、熱間加工性を改善する元素であり、その目的で1種または2種以上含有してもよい。B、Ca、Mgの効果は0.0002%以上の量で発現することから、B、Ca、Mgのそれぞれの量の下限を0.0002%以上とする。REMの場合は、下限を0.001%以上とする。
しかしながら、いずれも過剰な量の含有は、逆に熱間加工性を低下するため、その含有量の上下限を次のように設定することが好ましい。すなわち、B、Ca、Mgのそれぞれの量は0.0002〜0.0050%であり、REMの量は0.001〜0.10%である。
B、Ca、Mgのそれぞれの量の下限値は、好ましくは0.0005%以上である。B、Ca、Mgのそれぞれの量の上限値は、好ましくは0.0015%以下である。REM量の下限値は、好ましくは0.005%以上であり、REM量の上限値は、好ましくは0.03%以下である。
ここで、REM(希土類元素)は一般的な定義に従い、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。単独で含有してもよいし、混合物であってもよい。REM量は、これら元素の合計量である。
本実施形態の二相ステンレス鋼は、上述してきた元素以外の残部は、Fe及び不可避的不純物であるが、以上説明した各元素の他にも、本実施形態の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
次に、本実施形態に関わる溶接構造体の溶接金属の成分および金属組織について説明する。
溶接構造体の溶接金属の成分は、以下の要件(1)、(2)を満たす。
(1)溶接金属のフェライト相率は35.0〜65.0面積%。
(2)溶接金属の下記式のPREN(孔食指数)が被溶接材の下記式のPRENの0.90倍以上。
PREN=Cr+3.3Mo+16N
酸化性流体の環境下では、流体に酸化剤が含まれるため、二相ステンレス鋼の自然電位が高くなる。自然電位が高い環境下ではCr濃度の僅かな低下であっても耐食性に大きな影響を及ぼす。このため、酸化性流体の環境下では、二相ステンレス鋼を溶接してCr窒化物が析出した場合、Cr窒化物周囲のCr欠乏層が孔食の起点となる。本発明者らは、酸化性流体の環境下において、溶接構造体の溶接金属のフェライト相率が35.0〜65.0面積%となる場合、溶接金属で孔食が発生しないことを明らかにした。
また、耐孔食性の指標であるPRENについて、被溶接材に対する溶接金属の比をとった場合、この比が0.90未満になると、溶接金属のフェライト相率が35.0〜65.0面積%であっても酸化性流体の環境下において溶接金属で孔食が発生する。このため、酸化性流体の環境下で溶接金属に孔食を発生させないためには、溶接金属のフェライト相率が35.0〜65.0面積%、かつ溶接金属のPRENが被溶接材のPRENの0.90倍以上となる必要がある。溶接金属のフェライト相率の好ましい範囲は40.0〜60.0面積%であり、更に好ましい範囲は40.0〜50.0面積%である。
次に、本実施形態に係る溶接構造体の溶接熱影響部の組織について説明する。
溶接構造体の溶接熱影響部の組織は、以下の要件(3)、(4)を満たす。
(3)溶接熱影響部の平均幅は200.0μm以上。
(4)溶接熱影響部のフェライト組織の平均粒径は200.0μm以下。
酸化性流体の環境下では、流体に酸化剤が含まれるため、二相ステンレス鋼の自然電位が高くなる。一方、溶接構造体の中に存在する流体の酸化剤の濃度は一様では無いため、部位毎に二相ステンレス鋼の自然電位が異なる。このため、酸化剤の濃度が高い部位と低い部位との間で電位差が発生する。例えば、酸化剤がオゾンの場合、溶存オゾン濃度が0.0mg/Lの流体中の自然電位は0.4V vs SHEであるのに対し、溶存オゾン濃度が1.0mg/Lの流体中の自然電位は1.0V vs SHEであり、約0.6Vの電位差が発生することになる。この電位差は、例えば海水中におけるステンレス鋼と鋳鋼の電位差に匹敵する。
溶接構造体に腐食の起点となる部位が存在しなければこの電位差による腐食は問題とならないが、二相ステンレス鋼の溶接部、特に溶接熱影響部にCr窒化物析出に伴うCr欠乏層が存在すると、このCr欠乏層に腐食による電流が集中し、通常では想定出来ない様な速度で腐食が進行し、溶接構造体に穴あきによる漏水が発生する。
本発明者らは、酸化性流体の環境下における溶接構造体の溶接熱影響部における耐孔食性について鋭意調査した結果、溶接構造体における孔食の発生および進展には溶接熱影響部の幅とフェライト相の粒径が関与していることを明らかにした。酸化性流体の影響により溶接構造体内で電位差が生じた場合、溶接熱影響部の幅が狭すぎると腐食発生するアノードの面積が狭くなるため,溶接熱影響部に腐食電流が集中して非常に速く腐食が進行する。
これは、異種金属接触腐食と同様の考え方であり、電位が貴な材料と電位が卑な材料が接触している場合に、卑な材料の面積が小さいと異種金属接触腐食電流が大きいことと類似している。酸化性流体の環境の場合は、異種金属接触腐食のときの材料の電位差は酸化性流体に起因する電位差のことに対応し、異種金属接触腐食のときの卑な材料の面積が小さいことは流体に含まれる酸化剤の濃度が低く、電位が低い領域にあるCr欠乏層が存在する溶接熱影響部の幅が狭いことに対応する。
一方、溶接熱影響部の幅が適正であっても、フェライト相の粒径が大きすぎると、フェライト相は活性溶解を抑制するNi量が少ないため、酸化性流体の環境下において溶接構造体の溶接熱影響部での腐食速度が著しく速くなる。これは溶接熱影響部で腐食が発生した場合に、フェライト相の粒径が小さいと腐食が板厚方向に進展する過程で活性溶解の速度がフェライト相と比べて小さいオーステナイト相に当る確率が高くなり、孔食内部で再不働態化する確率が高くなるため、結果的にフェライト相の粒径が大きいと板厚方向への腐食の進展速度が大きくなるためである。また、フェライト相の粒径が大きいと一度に溶解する金属量が多くなり、孔食内部でのpHの低下がフェライト相の粒径が小さい場合と比べて大きくなり、孔食内部が再不働態化しにくくなることも関係している。
溶接熱影響部の平均幅が200.0μm未満になると、溶接熱影響部に短期間に深い孔食が発生するため、溶接熱影響部の平均幅は200.0μm以上である必要がある。溶接熱影響部の好ましい平均幅は250.0μm以上であり、より好ましくは300.0μm以上である。
溶接熱影響部のフェライト組織の平均粒径が200.0μm超であると、溶接熱影響部の平均幅が200.0μm以上であっても溶接熱影響部に短期間に深い孔食が発生するため、溶接熱影響部のフェライト相の平均粒径は200.0μm以下である必要がある。溶接熱影響部のフェライト相の平均粒径の好ましい範囲は180.0μm以下、より好ましい範囲は150μm以下である。
本実施形態の溶接構造体は、オゾン浄水槽、オゾン浄水場の配管、オゾン下水処理槽、オゾン下水処理場の配管、過酸化水素水槽、および過酸化水素水の配管に好適に用いることができる。
次に、本実施形態に係る溶接構造体に用いる二相ステンレス鋼の製造方法について説明する。
本実施形態の二相ステンレス鋼は、基本的にはステンレス鋼を製造する一般的な工程を適用して製造される。例えば、電気炉で上記の化学組成を有する溶鋼とし、AOD炉やVOD炉などで精練する。連続鋳造法又は造塊法で鋼片とし、次いで、熱間圧延、熱延板の焼鈍(溶体化熱処理)を施す。薄板を製造する場合(例えば、3mm程度の厚さの鋼板)には、前述の溶体化熱処理後に、冷間圧延を施し、次いで、再度焼鈍(溶体化熱処理)を施す。これにより薄板が製造される。
焼鈍の後に、以下の条件で酸洗を施す。
水温が30〜80℃とされ、かつ以下の条件を満たす硝ふっ酸溶液(酸洗液)に、薄板を15〜120秒間浸漬する。次いで、薄板を水洗し、乾燥させる。
次に、二相ステンレス鋼を被溶接材として、溶接構造体を施工する際の溶接方法について説明する。
溶接熱影響部が要件(3)、(4)を満たす溶接構造体を施工するためには、被溶接材の板厚、溶接入熱およびパス間温度を適正化する必要がある。パス間温度は、マルチパス(多層溶接)において後続のパスを行う際の前パスの温度である。TIG、MIG等の溶接方法の種類、また開先形状は問わない。適正な溶接条件は被溶接材の板厚によるが、例えば被溶接材の板厚が4mmの場合、パス間温度20〜50℃では溶接入熱が0.7〜14.0kJ/cm、パス間温度50〜100℃では溶接入熱が0.5〜2.3kJ/cm、パス間温度100〜250℃では溶接入熱が0.3〜1.2kJ/cmであれば要件(3)、(4)を満たす溶接熱影響部を得られる。
また、被溶接材の板厚が10mmの場合、パス間温度20〜50℃では溶接入熱が1.2〜22.0kJ/cm、パス間温度50〜100℃では溶接入熱が0.5〜4.4kJ/cm、パス間温度100〜250℃では溶接入熱が0.4〜2.0kJ/cmであれば要件(3)、(4)を満たす溶接熱影響部を得られる。
板厚4mm、10mm以外の板厚の場合は、下記式に板厚を代入して得られた溶接入熱の範囲で溶接をしても良い。本発明においては、被溶接材の板厚に制約はないが、少なくとも18mmまで適用性が高く、30mmまでであってもよい。
パス間温度20〜50℃:0.40×t1/2〜6.70×t1/2(J/cm)
パス間温度50〜100℃:0.25×t1/2〜1.12×t1/2(J/cm)
パス間温度100〜250℃:0.15×t1/2〜0.59×t1/2(J/cm)
ただし、tは母材部の板厚(mm)である。
更に、溶接金属について、上記要件(1)および(2)を満たすためには、例えば、溶加棒として、C:0.010〜0.050%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.10〜3.00%、P:0.10%以下、S:0.050%以下、Ni:7.0〜14.0%、Cr:20.00〜26.00%、Mo:0.01〜3.50%、W:0.005〜2.50%、N:0.0100〜0.5000%、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼材を使用すればよい。また、溶接時の希釈率を15.0〜40.0%とし、より好ましくは20.0〜35.0%とする。ただし、この範囲はあくまで目安である。例えば、希釈率をこの範囲内で比較的高くするとともに、Ni等のオーステナイト形成元素の含有率が比較的少ない溶加棒を用いた場合は、溶加棒の溶け込み量が少なくなって、溶接金属中のオーステナイト形成元素が減少する。これにより、溶接金属のフェライト分率が増大するおそれがある。従って、溶加棒の選定及び希釈率は、溶接金属のフェライト分率が65.0面積%以下になるように、適宜調整するとよい。
以下に、本発明の効果を確認するため、以下に実施例で示す。なお、本実施例は本発明の一実施例を示すものであり、本発明は、以下の構成に限定されない。本発明は、本発明の要件を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得る。
なお、表中の下線は本実施形態の範囲から外れているものを示す。
表1A〜表1C,表2に示す化学成分を有するステンレス鋼を真空誘導溶解炉にて溶製し、鋳造した。その後、1200℃に均熱し、次いで熱間鍛造した。表1に示す化学成分を有するステンレス鋼については、板厚4mmまたは10mmまで熱間圧延し、焼鈍・酸洗を施した。以上により二相ステンレス鋼板を製造した。また、表2に示す化学成分を有するステンレス鋼については、直径1.2mmまで熱間圧延して溶加棒とした。なお、表1A〜表1Cの空欄は化学成分を積極的に含有させていないことを示す。また、表1A〜表1C、表2に示した成分以外の残部は鉄及び不純物である。
得られた二相ステンレス鋼鈑(発明例No.1〜48、比較例No.1〜29)に対して、以下の方法に従って溶接を行った。
二相ステンレス鋼の溶接は、以下の条件で行った。
被溶接材には板厚4mmと10mmの鋼板を用いた。被溶接材の形状は150mm巾×300mm長さ、U開先とし、溶加棒を用いて突合せ溶接を行った。溶接入熱の制御は、溶接速度、溶接電流、溶接電圧を変化させて行った。また、パス間温度は20〜50℃、50〜100℃、100℃〜250℃の3水準とした。溶加棒は表2に示したA〜Fの6種類を使用した。詳細な溶接条件を表1D〜表1Fに示す。
溶接後の溶接構造体の溶接金属の特性評価は以下の方法により行った。
溶接後、溶接金属を採取してCr、Moを化学分析(ICP分析)、Nをガス分析で定量し、その分析結果を元にPRENを計算した。
また、溶接金属のフェライト相率は、溶接部の断面を鏡面研磨し、KOH電解エッチングで組織現出して、溶接金属の全厚の4分の1、2分の1、4分の3の位置において、400倍の視野で検鏡してフェライト相の面積率を計測し、全視野に対するフェライト相の面積の比率を100分率で表わしたものを溶接金属のフェライト相率とした。
溶接金属の希釈率は次の方法で求めた。溶接部の断面を鏡面研磨し、溶接金属の形状を現出できる方法でエッチングを行い、溶接金属の面積(SWM)を求める。溶接前の開先形状、ギャップ間隔と、溶接金属の形状から溶融した母材の面積(SBM)が求まるので、下記式を用いて希釈率を計算した。
希釈率P=SBM/SWM×100(%)
溶接構造体の溶接熱影響部の特性評価は、次の方法に従った。
溶接熱影響部の幅は次の手順で測定する。先ず、溶接部の断面を鏡面研磨し、KOH電解エッチングで組織現出し、母材部のフェライト相の板厚方向における径を測定する。
次に、母材部から溶接金属に向かってフェライト相の粒径が大きくなるが、その際にフェライト相の板厚方向における径が母材部に対して5倍以上となる位置を「母材部側の溶接熱影響部境界(HL)」とする。
続いて、同じ断面試料を用いてEPMA(Electron Plobe Micro Analyzer)を用いて溶接熱影響部の成分を分析する。溶接金属から母材部に向かって成分が変化するが、その際に成分が母材部の成分と同じになる位置を「溶融境界(FL)」とする。
前述のHLとFLの水平方向の距離を、表ビード側の表面、板厚4分の1、板厚2分の1、板厚4分の3、裏ビード側の表面の計5箇所測定し、その平均値を溶接熱影響部の平均幅とする。溶接熱影響部の母材部側の境界(HL)、溶接金属側の境界(FL)の例を図6に示した。
一方、オーステナイト相に分断されないフェライト相を1個のフェライト粒とみなし、板厚4分の1、板厚2分の1、板厚4分の3について溶接熱影響部を200倍の視野で観察した際に、最も板厚方向のフェライト粒の径が大きいものを計測し、その3点の平均を溶接熱影響部のフェライトの平均粒径とする。
二相ステンレス鋼の溶接構造体(溶接部)の耐食性評価は、次の方法に従った。
NaClを用いて調整した塩化物イオン濃度500ppmの水溶液12Lを試験容器に入れ30±2℃に調整する。溶接試験片は、溶接部を中央にして溶接方向に30mm、溶接方向に垂直な方向に30mmに切り出して全面を湿式#600エメリー研磨仕上げする。この溶接試験片を前述の水溶液に浸漬させる。
更に、別の試験容器に前述と同様の塩化物イオン濃度500ppmの水溶液を入れ、幅10×長さ10×厚さ0.1mmの白金試料を浸漬させ、先ほどの溶接試験片と導線を用いて短絡させる。
両試験容器を密閉し、酸素を原料にオゾン発生器でオゾンガスを発生させ、試験容器内の水溶液中でバブリングする。ここで、溶接試験片側の水溶液中の溶存オゾン濃度を0.1±0.05mg/L、白金試料側の水溶液の溶存オゾン濃度を1.0±0.5mg/Lに制御し、溶接試験片側と白金試料側の溶存オゾン濃度に濃度差が生じる様にする。これにより、溶接試験片と白金試料との間に電位差を作り、溶接試験片側をアノード、白金試料側をカソードとすることで、前述した様な酸化性流体中における溶接熱影響部での腐食形態を再現することが出来る。
この様な浸漬試験を1週間行った。試験後、溶接試験片を常温の30%硝酸水溶液に6時間浸漬してさびを除去し、光学顕微鏡で発生した孔食の位置を観察するとともに、孔食の深さを焦点深度法で測定する。孔食の間口が狭く、焦点深度法での測定が困難な場合は、あらかじめ試験片の板厚を測定しておき、孔食発生面をエメリー紙で孔食が消失するまで湿式研磨して再度板厚を測定して、元の板厚との差から孔食の深さを測定する。
なお、ポテンショスタットを用いても試料間の電位差を作ることが出来るが、ポテンショスタットを用いて電位差を印加した場合には酸化性流体中における表面皮膜の改質は再現出来ず、母材部、溶接熱影響部、溶接金属を問わず孔食が発生する。オゾンを用いた本試験方法では、酸化性流体中での表面皮膜の改質が再現出来るため、酸化性流体中における溶接熱影響部での腐食形態を再現することが出来る。
溶接構造体の溶接金属の成分分析、フェライト相率の測定、溶接熱影響部の幅の測定、溶接熱影響部のフェライト相粒径の測定、および腐食試験の結果を表1D〜表1F、図1〜5に示す。
図1は、横軸を溶接入熱(kJ/cm)、縦軸を溶接熱影響部の幅とし、板厚4mmの被溶接材における溶接熱影響部の幅、パス間温度、および溶接入熱の関係を示すグラフである。
図2は、横軸を溶接入熱(kJ/cm)、縦軸を溶接熱影響部のフェライト相粒径とし、板厚4mmの被溶接材における溶接熱影響部のフェライト相粒径、パス間温度、および溶接入熱の関係を示すグラフである。
図3は、横軸を溶接入熱(kJ/cm)、縦軸を溶接熱影響部の幅とし、板厚10mmの被溶接材における溶接熱影響部の幅、パス間温度、および溶接入熱の関係を示すグラフである。
図4は、横軸を溶接入熱(kJ/cm)、縦軸を溶接熱影響部のフェライト相粒径とし、板厚10mmの被溶接材における溶接熱影響部のフェライト相粒径、パス間温度、および溶接入熱の関係を示すグラフである。
図5は、溶接熱影響部のフェライト相の粒径と幅の、本発明の範囲を示す。本発明の範囲では、腐食試験で生じた最大腐食深さが100μm未満である。被溶接材もしくは溶加棒が本発明の成分を外れると、最大腐食深さが100μm以上となる。
表1D〜表1Fに示すように、本発明例はいずれも溶接金属のフェライト相率が35.0〜65.0%、溶接金属のPRENが被溶接材の0.90倍以上であり、溶接熱影響部の幅が200.0μm以上であり、溶接熱影響部のフェライト相の粒径が200.0μm以下であり、腐食試験で生じた孔食の最大腐食深さが100μm以下であり良好な耐食性を示した。
溶接金属のフェライト相率が35.0〜65.0%、溶接金属のPRENが被溶接材の0.90倍以上であるが、溶接熱影響部の幅が200.0μm未満である比較例1、11は、腐食試験で生じた孔食の最大腐食深さが100μm超となり、耐食性が不十分であった。
溶接金属のフェライト相率が35.0〜65.0%、溶接金属のPREが被溶接材の0.90倍以上であるが、溶接熱影響部のフェライト相粒径が200.0μm超である比較例2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、13、14、15、16、17、18、19は、腐食試験で生じた孔食の最大腐食深さが100μm超となり、耐食性が不十分であった。
Crの含有量が発明範囲よりも少ない比較例No.20、21、22は、被溶接材の耐食性が低く、腐食試験で母材部に孔食が発生し、最大腐食深さも100.0μmを超えており、耐食性が不十分であった。
Ni、Nの含有率が発明範囲よりも多い比較例No.25は、溶接金属のフェライト相率が35%未満であり、腐食試験で溶接金属に孔食が発生し、最大腐食深さも100.0μmを超えており、耐食性が不十分であった。
Mnの含有量が発明範囲よりも多い比較例No.23は、鋼中に多量のMnSが存在した。このMnSは腐食の起点となるため、腐食試験で母材部に孔食が発生し、最大腐食深さも100.0μmを超えており、耐食性が不十分であった。
Sの含有量が発明範囲よりも多い比較例No.24は、鋼中に多量のMnSが存在した。このMnSは腐食の起点となるため、腐食試験で母材部に孔食が発生し、最大腐食深さも100.0μmを超えており、耐食性が不十分であった。
比較例No.26、27は、溶接金属のフェライト相率が65.0%以上になり、腐食試験で溶接金属に孔食が発生し、最大腐食深さも100.0μmを超えており、耐食性が不十分であった。
溶加棒Fを用いて溶接した比較例No.28は、溶加棒のCr含有率が低かったため、被溶接材に対する溶接金属のPREが0.90よりも低く、腐食試験で溶接金属に孔食が発生し、最大腐食深さも100.0μmを超えており、耐食性が不十分であった。
溶加棒Aを用いて溶接した比較例No.29は、被溶接材に対する溶接金属のPRENは0.90倍より高いが、被溶接材のNi含有量が低いため、溶接金属のフェライト相率が65.0%超であり、腐食試験で溶接金属に孔食が発生し、最大腐食深さも100.0μmを超えており、耐食性が不十分であった。
本発明の酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体は、塩化物イオンを含むオゾン含有水に対して優れた耐食性を有する。このため、本発明の酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体は、オゾン処理を有する浄水処理、下水処理等の施設の材料として適用可能である。具体的には、本発明の酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体は、オゾン浄水槽、オゾン浄水場の配管、オゾン浄水場のフランジ、オゾン下水処理槽、オゾン下水処理場の配管、又はオゾン下水処理場のフランジに好適に用いられる。

Claims (5)

  1. 母材部及び溶接熱影響部からなる被溶接材と、溶接金属とを備え、
    前記被溶接材の化学成分が、質量%で、
    C:0.10%以下、
    Si:0.01〜5.0%、
    Mn:0.01〜8.00%、
    P:0.10%以下、
    S:0.050%以下、
    Ni:1.0〜8.0%、
    Cr:20.0〜30.0%、及び
    N:0.05〜0.50%を含有し、
    残部はFeおよび不可避的不純物であり、
    前記溶接金属のフェライト相率が35.0〜65.0面積%であり、前記溶接金属の(1)式のPRENが被溶接材の(1)式のPRENの0.90倍以上であり、
    前記溶接熱影響部の平均幅が200.0μm以上であり、前記溶接熱影響部のフェライト相の平均粒径が200.0μm以下である、酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体。
    PREN=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)
    但し、Moを含有しない場合には、(1)式においてMoを0と置く。
  2. 前記被溶接材が、更に、以下の群より選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体。
    第1群:質量%で、
    Mo:0.01〜8.00%、
    Cu:0.01〜5.00%から選択される1種以上。
    第2群:質量%で、Al:1.00%以下。
    第3群:質量%で、
    Ti:0.01〜0.40%、
    Nb:0.01〜0.40%、
    V:0.01〜0.50%、
    W:0.01〜1.00%、
    Ta:0.001〜0.10%、
    Sn:0.001〜0.50%、
    Sb:0.001〜0.50%、及び
    Ga:0.001〜0.50%から選択される1種以上。
    第4群:質量%で、
    B:0.0002〜0.0050%、
    Ca:0.0002〜0.0050%、
    Mg:0.0002〜0.0050%、及び
    REM:0.001〜0.10%から選択される1種以上。
  3. オゾン浄水槽、オゾン浄水場の配管、オゾン下水処理槽、オゾン下水処理場の配管、過酸化水素水槽、および過酸化水素水の配管に用いられる、請求項1または請求項2に記載の酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体。
  4. 化学成分が、質量%で、
    C:0.10%以下、
    Si:0.01〜5.0%、
    Mn:0.01〜8.00%、
    P:0.10%以下、
    S:0.050%以下、
    Ni:1.0〜8.0%、
    Cr:20.0〜30.0%、及び
    N:0.05〜0.50%を含有し、
    残部はFeおよび不可避的不純物であり、
    下記(1)式のPRENが20.0〜50.0%である、
    酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体用の二相ステンレス鋼。
    PREN=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)
    但し、Moを含有しない場合には、(1)式においてMoを0と置く。
  5. 更に、以下の群より選択される1種以上を含有する、請求項4に記載の酸化性流体環境用の二相ステンレス鋼溶接構造体用の二相ステンレス鋼。
    第1群:質量%で、
    Mo:0.01〜8.00%、
    Cu:0.01〜5.00%から選択される1種以上。
    第2群:質量%で、Al:1.00%以下。
    第3群:質量%で、
    Ti:0.01〜0.40%、
    Nb:0.01〜0.40%、
    V:0.01〜0.50%、
    W:0.01〜1.00%、
    Ta:0.001〜0.10%、
    Sn:0.001〜0.50%、
    Sb:0.001〜0.50%、及び
    Ga:0.001〜0.50%から選択される1種以上。
    第4群:質量%で、
    B:0.0002〜0.0050%、
    Ca:0.0002〜0.0050%、
    Mg:0.0002〜0.0050%、及び
    REM:0.001〜0.10%から選択される1種以上。
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