以下、本発明の実施形態に係る衝突前制御実施装置について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る衝突前制御実施装置(以下、「本制御装置」と呼称される場合がある。)の概略システム構成図である。本制御装置が搭載された車両を他車両と区別する必要がある場合、「自車両SV」と呼称する。本制御装置は、自車両SVが障害物と衝突する可能性がある場合に障害物との衝突に備えるための衝突前制御を実施する装置である。
本制御装置が実施する衝突前制御は、以下の四つの制御のうち少なくとも一つを含む。
(1)障害物に衝突する前に当該障害物に対してドライバーの注意を喚起させるための画面を表示する制御、及び、ドライバーの注意を喚起させるための警報音を出力する制御の少なくとも一方を含む警報制御
(2)障害物との衝突を回避すること及び/又は障害物との衝突速度を低下させることを目的として、自車両SVが障害物に衝突する前に自車両SVの速度を制動により低下させるブレーキアシスト制御
(3)障害物に衝突する前にシートベルトを巻き取り、シートベルトの弛みを低減するすることによって、障害物との衝突に備えるためのシートベルトアシスト制御
(4)障害物に衝突する前にエアバッグを展開させるエアバッグ制御
本制御装置は衝突前制御ECU10を備える。なお、ECUは、「Electric Control Unit」の略であり、マイクロコンピュータを主要部として備える。マイクロコンピュータは、CPU11とROM12及びRAM13等の記憶装置とを含む。CPU11はROM12に格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することによって、各種機能を実現する。
本制御装置は、更に、ミリ波レーダ20、レーダECU21、操舵角センサ22、ヨーレートセンサ23、車輪速センサ24、表示器30、スピーカ31、ブレーキECU32、ブレーキセンサ33、ブレーキアクチュエータ34、シートベルトアクチュエータ35及びエアバッグアクチュエータ36を備える。衝突前制御ECU10は、レーダECU21、操舵角センサ22、ヨーレートセンサ23、車輪速センサ24、表示器30、スピーカ31、ブレーキECU32、シートベルトアクチュエータ35及びエアバッグアクチュエータ36に接続されている。
ミリ波レーダ20は、ミリ波帯の電波(以下、「ミリ波」とも呼称される。)を利用して物標の位置及び当該物標の自車両SVに対する相対速度を検出する。具体的には、ミリ波レーダ20はミリ波を放射(送信)し、ミリ波の放射範囲内に存在する立体物である物標によって反射されたミリ波(反射波)を受信する。そして、ミリ波レーダ20は、ミリ波の送受信データをレーダ信号としてレーダECU21に送信する。
ミリ波レーダ20は、自車両SVの前端部の中央、左端及び右端並びに後端部の中央、左端及び右端の6箇所に取り付けられている。これら6個のミリ波レーダ20によって、自車両SVの周辺の全方向の物標が検出される。
レーダECU21は、図示しないCPUとROM及びRAM等の記憶装置とを含み、ミリ波レーダ20から送信されたレーダ信号に基づいて、「物標におけるミリ波を反射した点である物標点」を検出する。レーダECU21は、6個のミリ波レーダ20からのレーダ信号を所定時間毎にそれぞれ取り込み、取り込んだレーダ信号に基づいて物標点の有無を判定する。そして、物標点が存在する場合、レーダECU21は、ミリ波の送信から受信までの時間に基づいて自車両SVから物標点までの距離を算出するとともに、反射されたミリ波の方向に基づいて物標点の自車両SVに対する方位を算出する。自車両SVから物標点までの距離及び物標の自車両SVに対する方位によって、物標点の自車両SVに対する位置が特定される。更に、レーダECU21は、ミリ波の反射波の周波数変化(ドップラ効果)に基づいて、物標点の自車両SVに対する相対速度を算出する。そして、レーダECU21は、物標点情報信号を衝突前制御ECU10に送信する。なお、物標点情報信号は、物標点の有無を示す有無情報を含む。更に、物標点情報信号は、物標点が存在する場合、当該物標点の位置情報(自車両SVから物標点までの距離及び物標点の自車両SVに対する方位)と当該物標点の相対速度情報とを含む。
操舵角センサ22は、ステアリングホイールの操舵角を検出するセンサである。操舵角センサ22は、操舵角を検出し、検出した操舵角を操舵角信号として衝突前制御ECU10に送信する。
ヨーレートセンサ23は、自車両SVに作用するヨーレートを検出するセンサである。ヨーレートセンサ23は、ヨーレートを検出し、検出したヨーレートをヨーレート信号として衝突前制御ECU10に送信する。
車輪速センサ24は、自車両SVの車輪毎に設けられ、各車輪が一回転する毎に出力される所定数のパルス信号(車輪パルス信号)を検出する。そして、車輪速センサ24は、検出した車輪パルス信号を衝突前制御ECU10に送信する。なお、衝突前制御ECU10は、各車輪速センサ24から送信されてくる車輪パルス信号の単位時間におけるパルス数に基づいて各車輪の回転速度(車輪速度)を演算し、各車輪の車輪速度に基づいて自車両SVの速度(自車速)を演算する。
表示器30は、自車両SV内の各種ECU及びナビゲーション装置からの表示情報を受信し、その表示情報を自車両SVのフロントガラスの一部の領域(表示領域)に表示するヘッドアップディスプレイ(以下、「HUD」と呼称する。)である。表示器30には、自車両SVと衝突する可能性が高い物標(障害物)に対してトライバーの視線を誘導することによってドライバーの注意を喚起する画面が表示される。表示器30は、衝突前制御ECU10から前述の画面の表示指示である警報表示指示信号を受信した場合、警報表示指示信号が示す障害物の方向にドライバーの視線を誘導するためのアイコンを表示する。
スピーカ31は、衝突前制御ECU10から警報音の出力指示である警報音出力指示信号を受信した場合、受信した警報音出力指示信号に応答して障害物に対する「ドライバーの注意を喚起する警報音」を出力する。
ブレーキECU32は、車輪速センサ24及びブレーキセンサ33と接続され、これらのセンサの検出信号を受け取るようになっている。ブレーキセンサ33は、自車両SVに搭載された制動装置(不図示)を制御する際に使用されるパラメータを検出するセンサであり、ブレーキペダル操作量センサ等を含む。
更に、ブレーキECU32は、ブレーキアクチュエータ34と接続されている。ブレーキアクチュエータ34は油圧制御アクチュエータである。ブレーキアクチュエータ34は、ブレーキペダルの踏力によって作動油を加圧するマスシリンダと、各車輪に設けられた周知のホイールシリンダを含む摩擦ブレーキ装置と、の間の油圧回路(何れも、図示略)に配設される。ブレーキアクチュエータ34は、ホイールシリンダに供給する油圧を調整する。ブレーキECU32は、ブレーキアクチュエータ34を駆動させることにより各車輪に制動力(摩擦制動力)を発生させ、自車両SVの加速度(負の加速度、即ち、減速度)を調整するようになっている。
ブレーキECU32は、衝突前制御ECU10から送信されてくるブレーキアシスト指示信号に基づいてブレーキアクチュエータ34を駆動することにより、自車両SVの加速度を調整することができる。
シートベルトアクチュエータ35は、シートベルトを巻き取ることによってシートベルトの弛みを低下させるためのアクチュエータである。シートベルトアクチュエータ35は、衝突前制御ECU10からシートベルトアシスト指示信号を受信したとき、シートベルトを巻き取ることによってシートベルトの弛みを低下させて、障害物との衝突に備える。
エアバッグアクチュエータ36は、エアバッグを展開させるためのインフレータを作動させるアクチュエータである。本例のエアバッグは、運転席前方、運転席右側方、助手席前方、助手席左側方、後部席左側方及び後部席右側方の6箇所に設けられている。このため、エアバッグアクチュエータ36は、6箇所のエアバッグそれぞれに対応して設けられる。エアバッグアクチュエータ36は、衝突前制御ECU10から自身を作動させるための展開指示信号を受信したとき、インフレータを作動させエアバッグを展開する。
(作動の概要)
次に、本制御装置の作動の概要について説明する。本制御装置は、レーダECU21によって検出された物標点の中から自車両SVと衝突する可能性があると推定される物標点を障害物点として抽出する。そして、本制御装置は、障害物点が自車両SVに衝突するまでの時間である衝突所要時間TTC(Time To Collision)を算出する。次に、本制御装置は、各障害物点の衝突所要時間TTCの中で最小の衝突所要時間TTCの障害物点を障害物として認識する。即ち、本制御装置は、当該障害物点の位置を障害物の位置として認識する。そして、本制御装置は、当該最小の衝突所要時間TTCが閾値時間T1th以下であるか否かを判定する。
最小の衝突所要時間TTCが閾値時間T1th以下である場合、本制御装置は、当該最小の衝突所要時間TTCの障害物点(即ち、障害物)が自車両SVのどの位置に衝突するかを示す衝突位置CLP(図2を参照。)を算出する。更に、本制御装置は、当該障害物が自車両SVに衝突するときの自車両SVに対する角度を示す衝突角度θcl(図2を参照)を算出する。そして、本制御装置は、衝突位置CLPにおける障害物の移動方向及び速度の大きさと自車両SVの移動方向及び速度の大きさとに基づいて、自車両SVと衝突した障害物が自車両SVを突き抜ける方向の自車両SVに対する角度を示す突き抜け角度θgt(図3Aを参照。)を算出する。
そして、本制御装置は、衝突位置CLP及び衝突角度θclに基づいて、障害物が自車両SVに衝突した場合に当該障害物が突き抜け角度θgtで自車両SVの車両ボディを突き抜けると仮定したときの仮想的な突き抜け距離GTL(図2を参照。)を算出する。
本制御装置は、突き抜け角度θgtと「突き抜け距離GTLと比較される閾値距離L1th」との関係が規定された閾値距離情報50(ルックアップテーブル、図5を参照。)を予め記憶している。本制御装置は、算出された突き抜け角度θgtを閾値距離情報50に適用することによって、算出した突き抜け角度θgtに対応する各衝突前制御用の閾値距離L1th(n)を特定する。そして、本制御装置は、算出した突き抜け距離GTLが各衝突前制御用の閾値距離L1th(n)以上であるか否かを判定する
本制御装置は、突き抜け距離GTLが閾値距離L1th(n)以上となる衝突前制御を実施することによって、障害物との衝突に備える。
(作動の詳細)
以下、本制御装置の作動の詳細について説明する。
まず、障害物点の抽出処理について図2を用いて説明する。本制御装置は、レーダECU21からの物標点情報信号がその位置を示す物標点の中から自車両SVと衝突する可能性があると推定される物標点を障害物点として抽出する。
本制御装置は、車輪速センサ24からの車輪パルス信号に基づいて演算された自車両SVの速度と、操舵角センサ22からの操舵角信号が示す操舵角及びヨーレートセンサ23からのヨーレート信号が示すヨーレートの少なくとも一方と、に基づいて、自車両SVの旋回半径を算出する。そして、本制御装置は、算出した旋回半径に基づいて、自車両SVの車幅方向の中心点(実際には、自車両SVの左右の前輪の車軸上の中心点PO)が向かっている走行進路を走行予測進路RCRとして推定する。ヨーレートが発生している場合、本制御装置は、円弧状の進路を走行予測進路RCRとして推定する。一方、ヨーレートがゼロの場合、本制御装置は、自車両SVに作用する加速度の方向に沿った直線進路を走行予測進路RCRとして推定する。
更に、本制御装置は、自車両SVの車体の左端PLが通過する左側走行予測進路LECと、自車両SVの車体の右端PRが通過する右側走行予測進路RECと、を走行予測進路RCRに基づいて推定する。左側走行予測進路LECは、走行予測進路RCRを自車両SVの左右方向の左側に「車幅Dの半分(D/2)」だけ平行移動した進路である。右側走行予測進路RECは、走行予測進路RCRを自車両SVの左右方向の右側に「車幅Dの半分(D/2)」だけ平行移動した進路である。
本制御装置は、過去の物標点情報信号が示す物標点の位置に基づいて物標点の移動軌跡を特定し、特定した移動軌跡に基づいて物標点がこれから移動すると予測される進路(予測進路OCR)を算出(推定)する。図2に示す時刻t1では、本制御装置は、時刻t1で取得した物標点情報信号に基づいて物標点DTP1を検出している。前述したように、物標点情報信号が示す物標点の位置は物標点と自車両SVとの間の距離及び物標点の自車両SVに対する方位によって特定される。このため、本制御装置は、時刻t1における自車両SVの前端部中央を原点O1とし、自車両SVの車幅方向を横軸(x軸)とし、自車両SVの前後軸方を縦軸(y軸)とした座標系において、時刻t1における物標点DTP1の位置を特定する。
時刻t2では、本制御装置は時刻t2で取得した物標点情報信号に基づいて物標点DTP2を検出している。時刻t1と同様に、本制御装置は、時刻t2における自車両SVの前端部中央を原点O2とし、自車両SVの車幅方向を横軸とし、自車両SVの前後軸方向を縦軸とした座標系において、時刻t2における物標点DTP2の位置を特定する。
このとき、本制御装置は、時刻t2の座標系における物標点DTP2の座標を、時刻t1の座標系における座標に変換する。具体的には、本制御装置は、時刻t2の自車両SVの位置を「時刻t1の座標系における座標」として算出する。より詳細には、本制御装置は、時刻t1における走行予測進路RCRに沿って時刻t1から時刻t2までの間に自車両SVが進んだ距離を示す走行距離RLを算出する。なお、走行距離RLは、時刻t1における自車両SVの速度Vs1に「時刻t2から時刻t1を減算した値」を乗じた値である。そして、本制御装置は、時刻t1の原点O1から時刻t1までの間に自車両SVが走行予測進路RCRに沿って走行距離RL分だけ進んだ座標を、時刻t2における自車両SVの位置として特定する。
走行予測進路RCRが「自車両SVが直進すること」を示す場合、本制御装置は、時刻t2の座標系における物標点DTP2の座標に「時刻t1の座標系における時刻t2の自車両SVの位置を示す座標」を加算することによって、時刻t1の座標系における物標点DTP2の座標を算出する。
これに対して、走行予測進路RCRが「自車両SVが旋回すること」を示す場合、本制御装置は、時刻t2における物標点DTP2の座標を、時刻t2の座標系を時刻t1の座標系と角度が一致するように、回転変換する必要がある。本制御装置は、回転変換後の物標点DTP2の座標に「時刻t1の座標系における時刻t2の自車両SVの位置を示す座標」を加算することによって、時刻t1の座標系における物標点DTP2の座標を算出する。
これによって、本制御装置は、時刻t1から時刻t2までの期間における物標の移動軌跡を、時刻t1の座標系における「物標点DTP1の座標及び物標点DTP2の座標」に基づいて算出する。そして、本制御装置は、この移動軌跡に基づいて物標の予測進路OCRを算出(推定)する。即ち、本制御装置は、現時点での物標点の座標をある基準時刻における基準座標系での座標に変換し、基準座標系における物標点の移動軌跡を算出し、移動軌跡に基づいて物標点の予測進路OCRを算出する。
更に、本制御装置は、時刻t1の座標系における「物標点DTP1の座標と物標点DTP2の座標との距離」を算出し、算出した距離を「時刻t2から時刻t1を減算した値」で除することによって、時刻t2における物標の速度Vo2を算出する。
次いで、本制御装置は、自車両SVが現時点での速度で走行予測進路RCR上を走行し、物標点が現時点での速度で予測進路OCR上を進んだと仮定した場合、自車両SVの前端領域TA1、後端領域TA2、右側面領域TB1及び左側面領域TB2のいずれかと交差する物標点を障害物点として抽出する。なお、自車両SVの前端領域TA1は、自車両SVの車体の前端部の左端PLと、自車両SVの車体の前端部の右端PRと、を結んだ線分により表される領域である。自車両SVの後端領域TA2は、自車両SVの車体の後端部の左端と、自車両SVの車体の後端部の右端と、を結んだ線分により表される領域である。自車両SVの右側面領域TB1は、自車両SVの前端部の右端と後端部の右端とを結んだ線分により表される領域である。自車両SVの左側面領域TB2は、自車両SVの前端部の左端と後端部の左とを結んだ線分により表される領域である。
図2に示す例では、自車両SVが走行予測進路RCR上を速度Vs2で移動し、物標点DTP2が予測進路OCR上を速度Vo2で移動し続けた場合、当該物標点DTP2は自車両SVの右側面領域TB1と交差する。このため、本制御装置は、物標点DTP2を障害物点として抽出する。
次に、障害物点の衝突所要時間TTCの算出処理について説明する。
本制御装置は、障害物点を抽出した後、抽出した障害物点が自車両SVに衝突するまでの時間を示す衝突所要時間TTCを算出する。具体的には、本制御装置は、自車両SVの前端領域TA1、後端領域TA2、右側面領域TB1及び左側面領域TB2のいずれかと障害物点とが交差する位置まで自車両SVが走行予測進路RCRに沿って進む距離を自車両SVの速度で除算する。これによって、衝突所要時間TTCが算出される。
衝突所要時間TTCは、障害物点が自車両SVと衝突すると予測される時点までの時間T1(現時点から衝突予測時点までの時間)である。
この衝突所要時間TTCは、障害物点及び自車両SVが現時点における速度及び予測進路を維持しながら移動するとの仮定下で、障害物点が「自車両SVの前端領域TA1、後端領域TA2、右側面領域TB1及び左側面領域TB2のいずれか」に到達するまでの時間である。
複数の障害物点が抽出されている場合、本制御装置は、最小の衝突所要時間TTCの障害物点を障害物として認定し、以降の処理を当該最小の衝突所要時間TTCの障害物点に対して実行する。
次に、衝突位置CLPの算出処理について説明する。本制御装置は、「自車両SVの前端領域TA1、後端領域TA2、右側面領域TB1及び左側面領域TB2のうち最小の衝突所要時間TTCの障害物点と交差する領域における当該障害物点との交差位置」を衝突位置CLPとして算出する。図2に示す例では、自車両SVの右側面領域TB1の点CLPが衝突位置CLPとして算出される。
次に、衝突角度θclの算出処理について説明する。本制御装置は、「衝突位置CLPにおける走行予測進路RCRの進行方向RD」と「衝突位置CLPまでの障害物の予測進路OCRの進行方向」との間の角度を、衝突角度θclとして算出する。なお、走行予測進路RCRが旋回時のものである場合、衝突位置CLPにおける走行予測進路RCRの接線が進行方向RDとして算出される。衝突角度θclは、0deg乃至180degの範囲の値である。図2に示す例では、衝突角度θclは約90degである。
次に、突き抜け角度θgtの算出処理について図3Aを用いて説明する。本制御装置は、衝突位置CLPにおける自車両SVの走行予測進路RCRの進行方向RD及び自車両SVの速度Vsの大きさと、衝突位置CLPにおける障害物の予測進路OCRの移動方向及び障害物の速度Voの大きさと、に基づいて、障害物が衝突位置CLPにて衝突角度θclで自車両SVに衝突し且つ自車両SVを突き抜けると仮定した場合における「障害物の自車両SVに対する移動方向」を示す突き抜け方向ベクトルCVを算出する。即ち、本制御装置は、「衝突位置CLPを始点とする障害物の速度Voベクトル」から「衝突位置CLPを始点とする自車両SVの速度Vsベクトル」を減算することによって、突き抜け方向ベクトルCVを算出する。
そして、本制御装置は、自車両SVの車幅方向WDから突き抜け方向ベクトルCVまでの角度を、左回り方向を正の方向として、突き抜け角度θgtとして算出する。なお、突き抜け角度θgtは、−90deg乃至90degの範囲の値である。このため、図3Aに示す突き抜け角度θgtは正の値となる。
突き抜け角度θgtは、自車両SVの走行予測進路RCRの進行方向RD及び障害物の予測進路OCRの進行方向のみならず、自車両SVの速度Vsの大きさ及び障害物の速度Voの大きさにも依存する。この点が、自車両SVの走行予測進路RCRの進行方向RD及び障害物の予測進路OCRの進行方向のみに基づいて算出される衝突角度θclと異なる。
次に、突き抜け距離GTLの算出処理について図3A及び図3Bを用いて説明する。本例では、障害物が自車両SVの右側面から衝突した場合(図3Bに示す突き抜け始点A1(衝突位置CLP)に衝突した場合)の突き抜け距離GTLの算出について説明する。
突き抜けの始点A1の座標を(cpx1,cpy1)とし、突き抜けた後の自車両SVの左端での終点(B11、B12又はB13)の座標を(cpx2、cpy2)とする。なお、これらの座標は、自車両SVの前端部中央を原点として、車幅方向を横軸(x軸)とし、前後軸方向を縦軸(y軸)とする座標系における座標である。自車両SVの右側面のx座標を「dR」と仮定し、自車両SVの左側面のx座標を「−dL」と仮定すると、「cpx1」は式(1)に示すように「dR」であり、「cpx2」は式(2)に示すように「−dL」となる。ここで、自車両SVの右側面の突き抜けの始点A1から車幅方向WDに伸びる仮想的な線と自車両SVの左側面との交点を点D1とする。図3Bの突き抜けの始点A1、点D1、及び左端の終点(B11、B12又はB13)を有する三角形と、図3Aの点E1、点E2及び点E3を有する三角形と、は、それぞれ点D1及び点E2の角度が直角である直角三角形であり、更に突き抜けの始点A1及び点E1における角度(衝突角度θcl)が共通する。
従って、これらの三角形は相似関係にある。そこで、三角形の相似関係を利用すると、2つの座標(cpx1,cpy1)、(cpx2,cpy2)と速度Vs、Voとの関係は式(3)で示す関係となる。この式(3)をcpy2を求める式に変形すると、式(4)が得られる。この式(4)では、cpx1−cpx2=dR+dLとしている。
本制御装置は、衝突角度θcl、自車両SVの速度Vs及び障害物の速度Voを式(4)に代入して、cpy2を算出する。cpy2の値に応じて以下の(A)乃至(D)の四つの場合で突き抜け距離GTLを算出するための式が異なる。なお、前述した自車両SVの前端部中央を原点とする座標系における自車両SVの後端のy座標は「−L」であるとする。
(A)cpy2が−L以上で0以下の場合(つまり、障害物が右側面の始点A1から自車両SVの左側面を突き抜ける方向に移動する場合)、その突き抜けの自車両SVの左端での位置B11(cpx2,cpy2)及び突き抜けの終点C11は同じ位置となる。従って、この場合の突き抜け距離GTLは、A1(cpx1,cpy1)からB11(cpx2、cpy2)までの距離となる。そこで、ピタゴラスの定理を利用すると、突き抜け距離GTLは式(5)から求めることができる。なお、図3Bに示す例では、この場合の突き抜け角度θgtは「θgt1」と示される。
(B)cpy2が−Lより小さい場合(つまり、障害物が右側面の始点A1から自車両SVの後方を突き抜けるように移動する場合)、その突き抜けの自車両SVの左端での位置B12(cpx2,cpy2)と突き抜けの終点C12とは異なる位置となり、終点C12は自車両SVの後端に位置する。この場合の突き抜け距離GTLは、A1からA1−B12の線上のC12までの距離となるので、A1(cpx1,cpy1)からB12(cpx2,cpy2)までの距離を基準にして求めることができる。そこで、ピタゴラスの定理と三角形の相似関係を利用すると、突き抜け距離GTLは式(6)から求めることができる。なお、図3Bに示す例では、この場合の突き抜け角度θgtは「θgt2」と示される。
(C)cpy2が0より大きい場合(つまり、障害物が右側面の始点A1から自車両SVの前方を突き抜けるように移動する場合)、その突き抜けの自車両SVの左端での位置B13(cpx2,cpy2)と突き抜けの終点C13とは異なる位置となり、終点C13は自車両SVの前端に位置する。この場合の突き抜け距離GTLは、A1からA1−B13の線上のC13までの距離となるので、A1(cpx1,cpy1)からB13(cpx2,cpy2)までの距離を基準にして求めることができる。そこで、ピタゴラスの定理と三角形の相似関係を利用すると、突き抜け距離GTLは式(7)から求めることができる。なお、図3Bに示す例では、この場合の突き抜け角度θgtは「−θgt3」と示される。突き抜け角度θgtが負の値であるのは、衝突位置CLP(始点A1)における車幅方向WDから突き抜け方向までの方向が右回り方向であるためである。
(D)cpy1=cpy2の場合(つまり、障害物が右側面の始点A1から突き抜け角度θgtが「0deg」で左側面に突き抜けた場合)、式(8)に示すように、突き抜け距離GTLは自車両SVの車幅(全幅)Dとなる。
以上の例では、障害物が自車両SVの右側面から衝突する場合の突き抜け距離GTLの算出処理について説明した。自車両SVの左側面からの衝突、自車両SVの左前面からの衝突及び自車両SVの右前面からの衝突の突き抜け距離GTLの算出処理の詳細については、特開2008−189191号公報に記載されているので、説明を省略する。
次に、突き抜け角度θgt及び突き抜け距離GTLと傷害度との関係について図4A及び図4Bを用いて説明する。傷害度は、障害物が自車両SVに衝突した場合に、自車両SV及び自車両SVの乗員に与える影響の度合いである。障害物が自車両SVの乗員室(キャビン)を突き抜ける方向に移動する衝突(障害物が自車両SVの車幅方向WD及び前後軸方向における中心位置付近を突き抜ける方向に移動する衝突)、及び、「障害物が乗員室を突き抜ける方向には移動しないものの、障害物が自車両SVを車幅方向に横切るように移動する衝突」は、傷害度が大きくなる。
図4Aに示すように、「自車両SVの前端の右側に位置する始点A21」から「自車両SVの後端の左側に位置する終点B21」にかけて障害物が突き抜ける方向に移動する衝突(以下、「A21−B21衝突」と呼称する。)の突き抜け距離GTLは「GTL_A」と示される。更に、この衝突における突き抜け角度θgtは「θgtA」と示される。これに対して、「自車両SVの右側面の後方に位置する始点A22」から「自車両SVの後端の右側に位置する終点B22」にかけて障害物が突き抜ける方向に移動する衝突(以下、「A22−B22衝突」と呼称する。)の突き抜け距離GTLは「GTL_B」と示される。更に、この衝突における突き抜け角度θgtは「θgtB」と示される。
「A21−B21衝突」は図4Aに示すように障害物が自車両SVの乗員室を突き抜ける方向に移動する衝突であるので、傷害度は大きい。この衝突の突き抜け角度「θgtA」の大きさは比較的大きく、突き抜け距離「GTL_A」も大きい。これに対して、「A22−B22衝突」は、図4Aに示すように障害物が自車両SVの右後隅を削っていくように移動する衝突であり、障害物が自車両SVの乗員室を突き抜ける方向に移動する衝突でもなく、障害物が自車両SVの車幅方向WDを横切るように移動する衝突でもないので、傷害度は小さい。この衝突の突き抜け角度θgtBの大きさは比較的大きく、突き抜け距離「GTL_B」は小さい。図4Aに示した二つのパターンの衝突においては、突き抜け距離GTLの大きさと傷害度の大きさとは比例する。ここで、突き抜け距離GTLの大きさと傷害度の大きさとが比例するとは、両者の間に数学的比例関係があるという意味ではなく、突き抜け距離GTLの大きさが大きいほど傷害度の大きさが大きくなるという意味である。
突き抜け距離GTLの大きさと傷害度の大きさが比例しないパターンの衝突を図4Bに示す。具体的には、図4Bには、「自車両SVの右側面の中央付近に位置する始点A31」から「自車両SVの左側面の中央付近に位置する終点B31」にかけて障害物が突き抜ける方向に移動する衝突(以下、「A31−B31衝突」と呼称する。)と、「自車両SVの右側面の前方に位置する始点A32」から「自車両SVの後端の右端付近に位置する終点B32」にかけて障害物が突き抜ける方向に移動する衝突(以下、「A32−B32衝突」と呼称する。)と、が示される。
「A31−B31衝突」は、障害物が自車両SVの乗員室を突き抜ける方向に移動する衝突であるので、傷害度は大きい。この衝突においては衝突位置CLPが自車両SVの右側面及び左側面の一側面であり、且つ、突き抜け角度「θgtC」の大きさが比較的小さいので、傷害度が大きいにもかかわらず、突き抜け距離「GTL_C」は車幅D程度になる。
これに対して、「A32−B32衝突」は、障害物が自車両SVの右側方をかすめるように移動する衝突であり、障害物が自車両SVの乗員室を突き抜ける方向に移動する衝突でもなく、障害物が自車両SVの車幅方向を横切るように移動する衝突でもない。このため、「A32−B32衝突」の傷害度は小さい。この衝突において自車両SVの一側面の前方側であり、且つ、突き抜け角度「θgtD」の大きさが比較的大きいので、「A31−B31衝突」の傷害度よりも傷害度が小さいにもかかわらず、突き抜け距離「GTL_D」は、突き抜け距離「GTL_C」よりも大きくなる。
従って、図4Bに示すパターンの衝突は、突き抜け距離GTLと傷害度とが比例しない。突き抜け距離GTLと比較される閾値距離L1thが比較的大きな所定の固定値に設定されている場合、図4Bに示す「A31−B31衝突」において、突き抜け距離「GTL_C」が閾値距離L1th以上とならない可能性が高い。このため、傷害度が大きいこのような衝突に対して衝突前制御が実施されない可能性が高い。一方、閾値距離L1thが比較的小さな所定の固定値に設定されている場合、「A31−B31衝突」の突き抜け距離「GTL_C」が閾値距離L1th以上となるが、「A32−B32衝突」の突き抜け距離「GTL_D」も閾値距離L1th以上となってしまう可能性が高い。このため、傷害度が小さい「A32−B32衝突」のような衝突に対して衝突前制御が実施されてしまう可能性が高い。
突き抜け角度θgtの大きさが小さいほど、「障害物が自車両SVと衝突した場合の突き抜け方向」は車幅方向WDに近づき、障害物が自車両SVを車幅方向WDに横切るように移動する衝突となる可能性が高くなる。障害物が自車両SVを車幅方向WDに横切るように移動する衝突は、障害物が自車両SVの乗員室を突き抜ける方向に移動しなくても、自車両SVへの影響が大きいので傷害度が大きく、突き抜け距離GTLが比較的小さくなる傾向がある。
このため、本制御装置は、「突き抜け角度θgtの大きさが小さいほど、閾値距離L1thが小さくなる関係」が規定された閾値距離情報50(図5を参照。)を参照して、突き抜け角度θgtに対応する閾値距離L1thを特定する。そして、本制御装置は、突き抜け距離GTLが閾値距離L1th以上である場合、衝突前制御を実施する。「突き抜け距離GTLが小さいにもかかわらず、傷害度が大きな衝突」(障害物が自車両SVの車幅方向を横切るように移動する衝突、例えば図4Bに示す「A31−B31衝突」)は突き抜け角度θgtが小さいという傾向があるので、本制御装置は、このような衝突に対して十分な衝突前制御を実施することができる。
更に、「突き抜け距離GTLが大きいにもかかわらず、傷害度が小さな衝突」(障害物が自車両SVの左側面又は右側面をかすめるように移動する衝突、例えば図4Bに示す「A32−B32衝突」)は突き抜け角度θgtが大きいという傾向があるので、本制御装置は、このような衝突に対して過剰な衝突前制御を実施することを防止できる。
ここで、閾値距離情報50の詳細について図5を用いて説明する。閾値距離情報50においては、突き抜け角度θgtの大きさと各種衝突前制御の実施が開始されるための閾値距離L1th(n)との関係が規定されている。閾値距離情報50はルックアップテーブル(マップ)形式で衝突前制御ECU10のROM12に記憶されている。
具体的には、閾値距離情報50には、突き抜け角度θgtの大きさとして「0deg≦|θgt|<30deg」及び「30deg≦|θgt|≦90deg」の二つの角度範囲が登録されている。更に、閾値距離情報50には、警報制御、ブレーキアシスト制御、シートベルトアシスト制御及びエアバッグ展開制御のそれぞれに対して、二つの角度範囲に対応する閾値距離L1th(1)乃至L1th(4)が登録される。
閾値距離情報50には、突き抜け角度θgtの大きさが小さい方の角度範囲(「0≦|θgt|<30」)に対する警報制御用の閾値距離L1th(1)及びブレーキアシスト制御用の閾値距離L1th(2)として「1.5m」が登録される。更に、閾値距離情報50には、突き抜け角度θgtの大きさが大きい方の角度範囲(「30deg≦|θgt|≦90deg」)に対する警報制御用の閾値距離L1th(1)及びブレーキアシスト制御用の閾値距離L1th(2)として「3.8m」が登録される。
閾値距離情報50には、突き抜け角度θgtの大きさが小さい方の角度範囲(「0≦|θgt|<30」)に対するシートベルトアシスト制御用の閾値距離L1th(3)及びエアバッグ展開制御用の閾値距離L1th(4)として「2.1m」が登録される。更に、閾値距離情報50には、突き抜け角度θgtの大きさが大きい方の角度範囲(「30deg≦|θgt|≦90deg」)に対するシートベルトアシスト制御用の閾値距離L1th(3)及びエアバッグ展開制御用の閾値距離L1th(4)として「4.1m」が登録される。
このように、閾値距離情報50には、突き抜け角度θgtの大きさが小さいほど、小さな閾値距離L1thが登録されている。換言すれば、閾値距離情報50には、突き抜け方向ベクトルCVが示す突き抜け方向が車幅方向WDに近いほど、小さな値の閾値距離L1thが登録されている。
なお、警報制御用の閾値距離L1th(1)及びブレーキアシスト制御用の閾値距離L1th(2)は、シートベルトアシスト制御用の閾値距離L1th(3)及びエアバッグ制御用の閾値距離L1th(4)より大きな値に設定されている。これによって、突き抜け距離GTLが、警報制御用及びブレーキアシスト制御用の閾値距離L1th以上であって、且つ、シートベルトアシスト制御用及びエアバッグ制御用の閾値距離L1th未満である衝突においては、警報制御及びブレーキアシストのみが実施され、シートベルトアシスト制御及びエアバッグ制御アシストは実施されない。
(具体的作動)
衝突前制御ECU10のCPU11は、図6にフローチャートで示したルーチンを所定時間が経過する毎に実行する。図6に示すルーチンは、障害物に対して衝突前制御を実施するためのルーチンである。
従って、所定のタイミングになると、CPU11は図6のステップ600から処理を開始し、以下に述べるステップ605乃至635の処理を順に行い、ステップ640に進む。
ステップ605:CPU11は、レーダECU21から物標点情報信号を取得する。
ステップ610:CPU11は、操舵角センサ22から操舵角信号を取得する。
ステップ615:CPU11は、ヨーレートセンサ23からヨーレート信号を取得する。
ステップ620:CPU11は、車輪速センサ24から車輪パルス信号を取得し、取得した車輪パルス信号に基づいて自車両SVの速度Vsを取得する。
ステップ625:CPU11は、ステップ610にて取得した操舵角信号及びステップ615にて取得したヨーレート信号に基づいて、前述したように自車両SVの走行予測進路RCRを算出する。
ステップ630:CPU11は、今回ステップ605にて取得した物標点情報信号が示す物標点の位置と過去のステップ605にて取得した物標点情報信号が示す物標点の位置とに基づいて、前述したように物標点の移動軌跡を算出する。そして、CPU11、物標点の移動軌跡に基づいて物標点の予測進路OCRを算出する。なお、物標点の移動軌跡を算出するために用いる過去の物標点情報信号は、直前の所定数の物標点情報信号である。
ステップ630にて、CPU11は、前述したように、今回取得した物標点情報信号と過去に取得した物標点情報信号とに基づいて、過去のある時点から現時点までに物標点が進んだ距離を算出して、当該距離を当該ある時点から現時点までの時間で除することによって、物標点の移動速度Voも算出する。
ステップ635:CPU11は、前述したように、ステップ620にて取得した自車両SVの速度Vs、自車両SVの走行予測進路RCR、物標点の移動速度Vo及び物標点の予測進路OCRに基づいて、物標点情報信号が示す物標点の中から障害物点を抽出する。より詳細には、CPU11は、自車両SVが速度Vsで走行予測進路RCR上を走行し、物標が速度Voで予測進路OCRを移動した場合において、自車両SVの前端領域TA1、後端領域TA2、右側面領域TB1及び左側面領域TB2のいずれかと交差する物標点を障害物点として抽出する。
次に、CPU11は、ステップ640に進み、ステップ635にて障害物点が抽出されたか否かを判定する。ステップ635にて障害物点が抽出されていない場合、CPU11は、ステップ640にて「No」と判定して、ステップ695に進み、本ルーチンを一旦終了する。この結果、衝突前制御は実施されない。
一方、ステップ635にて障害物点が抽出されている場合、CPU11は、ステップ640にて「Yes」と判定し、ステップ645に進み、前述したように、障害物点の衝突所要時間TTCを算出し、ステップ650に進む。
ステップ650にて、CPU11は、ステップ645にて算出された衝突所要時間TTCが予め設定されている所定の閾値時間T1th以下であるか否かを判定する。なお、ステップ635にて複数の障害物点が抽出されている場合、CPU11は、「ステップ645にて各障害物点に対して算出された衝突所要時間TTC」のうち、最小の衝突所要時間TTCの障害物点を障害物として認識し、当該最小の衝突所要時間TTCが閾値時間T1th以下であるか否かを判定する。
衝突所要時間TTCが閾値時間T1thより大きい場合、CPU11は、ステップ650にて「No」と判定して、ステップ695に進み、本ルーチンを一旦終了する。この結果、衝突前制御は実施されない。一方、衝突所要時間TTCが閾値時間T1th以下である場合、CPU11は、ステップ650にて「Yes」と判定して、ステップ655乃至ステップ675の処理を順に行う。
ステップ655:CPU11は、「自車両SVの前端領域TA1、後端領域TA2、右側面領域TB1及び左側面領域TB2のうち障害物と交差する領域における障害物との交差位置」を衝突位置CLPとして算出する。
ステップ660:CPU11は、前述したように、ステップ655で算出した衝突位置CLPにおける自車両SVの進行方向と障害物の移動方向とに基づいて、衝突位置CLPにおける障害物の自車両SVに対する衝突角度θclを算出する。
ステップ665:CPU11は、ステップ655で算出した衝突位置CLPにおける自車両SVの進行方向及び自車両SVの速度Vsの大きさと、当該衝突位置CLPにおける障害物の移動方向及び障害物の速度Voと、に基づいて、突き抜け方向ベクトルCVを算出する。そして、CPU11は、自車両SVの車幅方向WDから突き抜け方向ベクトルCVまでの角度を、左回り方向を正の方向として、突き抜け角度θgtとして算出する。
ステップ670:CPU11は、前述したように、障害物が衝突位置CLPから突き抜け方向ベクトルCVが示す方向に移動することによって自車両SVを突き抜けると仮定した場合における「衝突位置CLPと当該障害物が自車両SVを突き抜ける位置との距離」を示す突き抜け距離GTLを算出する。
ステップ675:CPU11は、閾値距離情報50を参照し、ステップ665にて算出した突き抜け角度θgtの大きさに対応する閾値距離L1th(n)を、衝突前制御(警報制御、ブレーキアシスト制御、シートベルトアシスト制御及びエアバッグ展開制御)毎に特定する。具体的には、CPU11は、図5に示す閾値距離情報50に登録された二つの角度範囲のうち、ステップ665にて算出した突き抜け角度θgtの大きさを含む角度範囲に対応する閾値距離L1th(n)を特定する。ステップ675では、警報制御用の閾値距離L1th(1)、ブレーキアシスト制御用の閾値距離L1th(2)、シートベルトアシスト制御用の閾値距離L1th(3)及びエアバッグ展開制御用の閾値距離L1th(4)が特定される。
CPU11は、ステップ675を実行後、ステップ680に進む。ステップ680にて、CPU11は、衝突前制御用の閾値距離L1th(n)毎に、ステップ670にて算出した突き抜け距離GTLが閾値距離L1th(n)以上であるか否かを判定する。
即ち、CPU11は、突き抜け距離GTLが警報制御用の閾値距離L1th(1)以上であるか否かを判定する。
更に、CPU11は、突き抜け距離GTLがブレーキアシスト制御用の閾値距離L1th(2)以上であるか否かを判定する。
更に、CPU11は、突き抜け距離GTLがシートベルトアシスト制御用の閾値距離L1th(3)以上であるか否かを判定する。
更に、CPU11は、突き抜け距離GTLがエアバッグ展開制御用の閾値距離L1th(4)以上であるか否かを判定する。
突き抜け距離GTLがいずれの衝突前制御用の閾値距離L1th(n)未満である場合、CPU11は、ステップ680にて「No」と判定して、ステップ695に進み、本ルーチンを一旦終了する。この結果、いずれの衝突前制御も実施されない。
一方、突き抜け距離GTLがいずれかの衝突前制御用の閾値距離L1th(n)以上である場合、CPU11は、ステップ680にて「Yes」と判定して、ステップ685に進み、突き抜け距離GTLが閾値距離L1th(n)以上となる衝突前制御を実施して、その後、ステップ695に進み、本ルーチンを一旦終了する。
具体的には、CPU11は、突き抜け距離GTLが警報制御用の閾値距離L1th(1)以上である場合、障害物の自車両SVに対する方位を含む警報表示指示信号を表示器30に送信する。更に、この場合、CPU11は、警報音出力指示信号をスピーカ31に送信する。
表示器30は、警報表示指示信号を受信すると、受信した警報表示信号に含まれる障害物の自車両SVに対する方位に対してドライバーの視線を誘導する画面を表示し、警報制御を実施する。スピーカ31は、警報出力指示信号を受信すると、警報音を出力し、警報制御を実施する。
更に、CPU11は、突き抜け距離GTLがブレーキアシスト制御用の閾値距離L1th(2)以上である場合、ブレーキアシスト信号をブレーキECU32に送信する。ブレーキECU32は、ブレーキアシスト信号を受信すると、ブレーキアクチュエータ34を駆動し、ブレーキアシスト制御を実施する。
更に、CPU11は、突き抜け距離GTLがシートベルトアシスト制御用の閾値距離L1th(3)以上である場合、シートベルトアシスト信号をシートベルトアクチュエータ35に送信する。シートベルトアクチュエータ35は、シートベルトアシスト信号を受信すると、シートベルトを巻き取り、シートベルトアシスト制御を実施する。
更に、CPU11は、突き抜け距離GTLがエアバッグ展開制御用の閾値距離L1th(4)以上である場合、展開指示信号をエアバッグアクチュエータ36に送信する。エアバッグアクチュエータ36は、展開指示信号を受信すると、エアバッグを展開させ、エアバッグ展開制御を実施する。
以上の例から理解されるように、本制御装置は、突き抜け角度θgtの大きさが車幅方向WDに近いことを示すほど、閾値距離L1thの値が小さくなる関係が規定された閾値距離情報50を参照して、自車両SVに衝突する可能性が高い障害物の突き抜け角度θgtに対応する閾値距離L1thを特定する。そして、本制御装置は、突き抜け距離GTLが閾値距離L1th以上である場合、衝突前制御を実施する。これによって、突き抜け距離GTLが小さく、傷害度が大きい「障害物が自車両SVの車幅方向に突き抜ける方向に移動する衝突」に対して、十分な衝突前制御が実施される可能性を向上させることができる。更に、「突き抜け距離GTLが大きく、傷害度が小さい衝突」及び「突き抜け距離GTLが小さく、傷害度が小さい衝突」に対して、過剰な衝突前制御が誤って実施される可能性を低減できる。従って、衝突時の傷害度に応じて適切に衝突前制御が実施される。
本発明は前述した実施形態に限定されることはなく、本発明の種々の変形例を採用することができる。表示器30はHUDに特に限定されない。即ち、表示器30は、MID(Multi Information Display)、及び、ナビゲーション装置のタッチパネル等であってもよい。MIDは、スピードメータ、タコメータ、フューエルゲージ、ウォーターテンペラチャーゲージ、オド/トリップメータ、及び、ウォーニングランプ等のメータ類を集合させてダッシュボードに配置した表示パネルである。
更に、本制御装置は、「自車両SVの前端領域TA1、後端領域TA2、右側面領域TB1及び左側面領域TB2のいずれかと障害物とが交差する位置まで障害物が予測進路OCRに沿って進む距離」を障害物の速度で除算することによって、衝突所要時間TTCを算出してもよい。
閾値距離情報50では、総ての衝突前制御用の閾値距離L1th(1)乃至L1th(4)で同じ値が設定されてもよい。具体的には、閾値距離情報50では、突き抜け角度θgtの大きさが小さい方の角度範囲(「0≦|θgt|<30」)に対する総ての衝突前制御用の閾値距離L1th(1)乃至L1th(4)として「2.1m」が登録されてもよい。更に、閾値距離情報50では、突き抜け角度θgtの大きさが大きい方の角度範囲(「30deg≦|θgt|≦90deg」)に対する総ての衝突前制御用の閾値距離L1th(1)乃至L1th(4)として「4.1m」が登録されてもよい。この場合であっても、突き抜け角度θgtの大きさが小さい方の角度範囲の閾値距離L1thが、突き抜け角度θgtの大きさが大きい方の角度範囲の閾値距離L1thよりも小さくなるように設定されている。