JP2018130343A - 組成傾斜複合体及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明の目的は、形態が制御されたリン酸カルシウム結晶及びコラーゲン線維の組成傾斜複合体を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明の(1)リン酸カルシウム及びコラーゲンが溶解され、水素イオン、水酸化物イオン、カルシウムイオン及びリン酸イオンを含み、カルシウム/リンのモル比が0.5を超え且つ2.0未満であり、そして水酸化物イオンよりイオン化傾向が低い陰イオンを実質的に含まない電解質溶液において、水を電気分解することにより、リン酸カルシウム結晶及びコラーゲン線維の複合体ゲルを析出させる工程を含む、組成傾斜複合体の製造方法によって解決することができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、組成傾斜複合体及びその製造方法に関する。本発明によれば、リン酸カルシウム結晶及びコラーゲン線維の組成が傾斜した複合体を得ることができる。
リン酸カルシウム及びコラーゲンの組成を傾斜化させた材料を製造する方法として、カルシウム化合物の含有濃度を傾斜させた生体組織補填材を効率よく製造する装置が開示されている(特許文献1)。しかしながら、この装置で得られた生体組織補填材は、カルシウム濃度の異なるいくつかの層を重層させたものである。すなわち、組成が不連続に傾斜する生体組織補填材であり、組成を連続的に傾斜したものではなかった。
特開2004−290278号公報
日本セラミックス協会第28回秋季シンポジウム予稿集(28th Fall Meeting of The Ceramic Society of Japan)、公益社団法人日本セラミックス協会、発行日2015年9月1日、p.19 日本セラミックス協会2016年年会講演予稿集(Annual Meeting of The Ceramic Society of Japan, 2016)、公益社団法人日本セラミックス協会、発行日2016年3月1日、p.26 16th Australasian BioCeramic Symposium、"Fabrication of collagen/apatite composites with gradient compositions by electrochemical reaction"2016年12月5日〜6日、[online]
本発明者らは、水酸アパタイト及びコラーゲンを、塩酸を含む酸性溶液に溶解させ、水の電気分解により、水酸アパタイト及びコラーゲンの組成を傾斜させることができることを見いだした(非特許文献1〜3)。しかしながら、この方法では形態の制御された複合体を得ることができなかった。
本発明の目的は、形態が制御されたリン酸カルシウム結晶及びコラーゲン線維の組成傾斜複合体を提供することである。
本発明者は、形態が制御されたリン酸カルシウム結晶及びコラーゲン線維の組成傾斜複合体について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、水酸化物イオンよりイオン化傾向が低い陰イオンを実質的に含まない電解質溶液を用いて、リン酸カルシウムを結晶化させ、そしてコラーゲンを線維化させることによって形態の制御されたリン酸カルシウム結晶及びコラーゲン線維の組成傾斜複合体を製造できることを見出した。
本発明者は、形態の制御された複合体の製造できない原因が、電極から発生する泡であることを見いだした。すなわち、泡の発生が複合体の形成を妨害し、形態が制御された複合体を得ることができないことがわかった。そして、水酸化物イオンよりイオン化傾向が低い陰イオンを実質的に含まない電解質溶液を用いることにより、泡の発生が抑えられ、形態の制御された組成傾斜複合体が得られることを見いだした。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1](1)リン酸カルシウム及びコラーゲンが溶解され、水素イオン、水酸化物イオン、カルシウムイオン及びリン酸イオンを含み、そして水酸化物イオンよりイオン化傾向が低い陰イオンを実質的に含まない電解質溶液において、水を電気分解することにより、リン酸カルシウム結晶及びコラーゲン線維の複合体ゲルを析出させる工程を含む、組成傾斜複合体の製造方法、
[2](2)前記析出工程において得られた複合体ゲルを乾燥する工程、を更に含む、[1]に記載の組成傾斜複合体の製造方法、
[3]前記リン酸カルシウムが水酸アパタイト、非晶質リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム水和物、リン酸一水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム水和物、リン酸八カルシウム、及びリン酸三カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種のリン酸カルシウムである、[1]又は[2]に記載の組成傾斜複合体の製造方法、
[4]前記電解質溶液のpHが3.8以上である、[1]〜[3]のいずれかに記載の組成傾斜複合体の製造方法、
[5]リン酸カルシウム結晶とコラーゲン線維とを、95:5〜2:98の重量比で含み、リン酸カルシウムとコラーゲンの重量比が連続的に変化する複合体であって、水酸化物イオンよりイオン化傾向が低い陰イオンを実質的に含まないことを特徴とする組成傾斜複合体、
[6]前記複合体の少なくとも1つの方向の長さの10%〜90%の位置における、コラーゲン線維に対するリン酸カルシウム結晶の重量の連続的な傾斜率が、18%以上である[5]に記載の組成傾斜複合体、
[7]複合体ゲル、多孔質複合体、又は膜状複合体である、[5]又は[6]に記載の組成傾斜複合体、及び
[8]前記リン酸カルシウムが水酸アパタイト、非晶質リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム水和物、リン酸一水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム水和物、リン酸八カルシウム、及びリン酸三カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種のリン酸カルシウムである、[5]〜[7]のいずれかに記載の組成傾斜複合体、
に関する。
本発明の組成傾斜複合体の製造方法によれば、形態が制御されたリン酸カルシウム結晶及びコラーゲン線維の組成傾斜複合体を製造することができる。また、リン酸カルシウム結晶とコラーゲン線維との組成の傾斜率が高い組成傾斜複合体を製造することができる。
本発明の製造方法の原理を模式的に示した図である。 本発明の塩化物イオンを含まない電解質溶液を用いた複合体の形成過程及び塩化物イオンを含む電解質溶液を用いた複合体の形成過程を示した模式図である。 組成傾斜複合体の作製工程の概略を示した図である。 組成傾斜複合体が直方体の場合、縦(a)、横(b)、及び高さ(c)の3つの方向の長さの関係を示した図である。 電気密度6A/mの電気分解で作製した複合体の外観を示す写真である。 本発明の製造方法における電気分解の電流密度に対する電圧値の時間変化及び得られた複合体の外観を示した図である。 電流密度と、複合体ゲルの析出方向の幅との関係を示した図である。 本発明の多孔質複合体の外観を示した写真である。 多孔質複合体の赤外線反射スペクトルを示した図である。 多孔質複合体を四分割して、4つの部位の熱重量・示差熱分析(TG・DTA)の結果を示した図である。 各電流密度で得られた多孔質複合体の組成の傾斜率を示した図である。 多孔質複合体の陰極側(A)及び陽極側(B)における多孔構造の電子顕微鏡写真である。 架橋処理を行った電流密度24A/mで製造した多孔質複合体の陰極側(a−1)及び陽極側(a−2)、並びに電流密度6A/mで製造した多孔質複合体の陰極側(b−1)及び陽極側(b−2)における電子顕微鏡写真である。 一方向連通多孔構造を有する多孔質複合体(A:12A/m、B:6A/m)の顕微鏡写真である。 6A/m、12A/m、又は24A/mで製造した複合体ゲルのtanδ(A)及び貯蔵弾性率(B)を示した図である。 円柱状の複合体ゲルを示した写真である。 管状の複合体(膜状の複合体)を示した写真である。 円柱状の複合体ゲルを示した写真である。 渦巻き状の複合体ゲル(A)及びそれを作製する場合の電極の位置関係(B)を示した写真である 塩化物イオン(水酸化物イオンよりイオン化傾向が低い陰イオン)を含む電解質溶液を用いた場合に、陰極に泡が発生し、形態の制御された組成傾斜複合体を得ることができないことを示した写真である。
[1]組成傾斜複合体の製造方法
本発明の組成傾斜複合体の製造方法は、(1)リン酸カルシウム及びコラーゲンが溶解され、水素イオン、水酸化物イオン、カルシウムイオン及びリン酸イオンを含み、そして水酸化物イオンよりイオン化傾向が低い陰イオンを実質的に含まない電解質溶液において、水を電気分解することにより、リン酸カルシウム結晶及びコラーゲン線維の複合体ゲルを析出させる工程を含む。前記製造方法は、好ましくは(2)前記析出工程において得られた複合体ゲルを乾燥する工程、を更に含む。
《析出工程(1)》
本発明の析出工程(1)では、カルシウムイオン、リン酸イオン、及びコラーゲンを含む電解質溶液中で、水の電気分解を行うことにより、陰極側からリン酸カルシウム結晶及びコラーゲン線維の複合体ゲルを作製することができる。
図1に示すようにカルシウムイオン、リン酸イオン、及びコラーゲンを含む電解質溶液中で水の電気分解を行なった場合、陰極側が塩基性(アルカリ性)となり、陽極側が酸性となる。すなわち、陰極側から陽極側にかけて、アルカリ性から酸性へのpHの勾配が形成される。陰極のアルカリ性側にカルシウムイオンが、陽極の酸性側にリン酸イオンがそれぞれ移動し、陰極のアルカリ性側でリン酸カルシウムが多量に析出する。陰極から離れるにしたがって、リン酸イオンの量は増加するが、カルシウムイオンの量が減少するため、リン酸カルシウムの析出量が減少する。一方、陰極から離れるにしたがって、相対的に繊維化したコラーゲンの量が増加するため、陰極側ではリン酸カルシウムの濃度が高く、そして陰極から離れるにしたがって、コラーゲンの濃度が高い組成傾斜複合体が形成される。
(カルシウムイオン)
本発明の製造方法において、カルシウムイオン(Ca2+)はリン酸カルシウムを電解質溶液に溶解することによって供給することができるが、リン酸カルシウム以外の物質(例えば水酸化カルシウム又は炭酸カルシウム)から供給されるカルシウムイオンが含まれてもよい。
カルシウムイオンの濃度は、リン酸カルシウムが析出する限りにおいて、特に限定されるものではないが、好ましくは0.001〜0.05mol/Lであり、より好ましくは0.005〜0.03mol/Lであり、最も好ましくは0.01〜0.02mol/Lである。
(リン酸イオン)
本発明の製造方法において、リン酸イオンはリン酸カルシウムを電解質溶液に溶解することによって供給することができるが、リン酸カルシウム以外の物質から供給されるリン酸イオンが含まれてもよい。リン酸カルシウム以外の物質から供給されるリン酸イオンとしては、例えばリン酸水溶液から供給されるリン酸イオンを用いてもよい。
リン酸イオン濃度は、リン酸カルシウムが析出する限りにおいて、特に限定されるものではないが、好ましくは0.002〜0.1mol/Lであり、より好ましくは0.01〜0.06mol/Lであり、最も好ましくは0.02〜0.04mol/Lである。
本明細書において、リン酸イオンとは、PO 3−、HPO 2−、及びHPO 、を意味する。
(カルシウム/リンのモル比)
前記電解質溶液に含まれるカルシウム/リンのモル比は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、好ましくは下限が0.5を超えることが好ましい。カルシウム/リンのモル比の上限は、好ましくは2.0未満であり、より好ましくは1.8未満であり、更に好ましくは1.5以下であり、最も好ましくは1.0以下である。カルシウム/リンのモル比が、前記範囲であることにより、優れた強度をもつ組成傾斜した複合体を作製することができる。
(水素イオン及び水酸化物イオン)
図1に示すように、陰極においては水酸化物イオン(OH)と水素(H)が発生し、電解質溶液は塩基性(アルカリ性)となる。また陽極においては水素イオン(H)と酸素(O)が発生し、電解質溶液は酸性になる。
電解質溶液における水酸化物イオン濃度は、特に限定されるものではないが、好ましくは1×10−1〜1×10−7mol/Lであり、より好ましくは1×10−2〜1×10−6mol/Lであり、最も好ましくは1×10−3〜1×10−5mol/Lである。また、水素イオン濃度は、特に限定されるものではない。
本発明に用いる電解質溶液の電気分解前のpHは、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、pHの下限は、好ましくはpH3.8であり、より好ましくはpH4.0である。電解質溶液が酸性溶液でない場合、反応が進行しない。従って、上限は限定されるものでないが、pH7.5以下である。
(水酸化物イオンよりイオン化傾向が低い陰イオン)
本発明で用いる電解質溶液は、水酸化物イオンよりイオン化傾向が低い陰イオン(低イオン化傾向陰イオン)を実質的に含まない。低イオン化傾向陰イオンとしては、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、又はヨウ化物イオン(I)を挙げることができる。
電解質溶液に低イオン化傾向陰イオンを含まれる場合、電解質溶液中で水酸化物イオンより先に低イオン化傾向陰イオンが酸化される。すなわち、陰極において水酸化物イオンの反応が進まず、低イオン化傾向陰イオンの反応が起こり、例えば塩素の泡が発生する。このような泡が発生することにより、形態の制御された組成傾斜複合体を得ることができなくなる。
本明細書において「水酸化物イオンよりイオン化傾向が低い陰イオンを実質的に含まない」とは、低イオン化傾向陰イオンの過剰な反応が発生せず、形態の制御された組成傾斜複合体を得ることができることを意味する。具体的には、電解質溶液中の低イオン化傾向陰イオンの濃度は、好ましくは1×10−3mol/L以下であり、より好ましくは1×10−5mol/L以下であり、最も好ましくは1×10−6mol/L以下である。
(コラーゲン)
本発明で用いるコラーゲンは、組成傾斜複合体を得ることができる限りにおいて限定されるものではないが、例えばI型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、V型コラーゲン、VI型コラーゲン、VII型コラーゲン、VIII型コラーゲン、IX型コラーゲン、X型コラーゲン、XI型コラーゲン、XII型コラーゲン、XIII型コラーゲン、XIV型コラーゲン、XV型コラーゲン、XVI型コラーゲン、XVII型コラーゲン、XVIII型コラーゲン、XIX型コラーゲン、XX型コラーゲン、XXI型コラーゲン、XXII型コラーゲン、XXIII型コラーゲン、XXIV型コラーゲン、XXV型コラーゲン、XXVI型コラーゲン、XXVII型コラーゲン、XXVIII型コラーゲン又はこれらの2つ以上の組み合わせを挙げることができる。
前記のコラーゲンのうち、例えばI型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、及びV型コラーゲンは線維型コラーゲンであり、本発明で用いるコラーゲンとしては、線維型コラーゲンが好ましいが、線維型コラーゲンと非線維型コラーゲンとを組み合わせて用いてもよい。
コラーゲンを取得する動物種も、特に限定されるものではなく、例えば、哺乳類由来コラーゲン(例えば、ウシ由来コラーゲン、ブタ由来コラーゲン、ヒツジ由来コラーゲン、ヤギ由来コラーゲン、又はサル由来コラーゲン)、鳥類由来コラーゲン(例えば、ニワトリ由来コラーゲン、ガチョウ由来コラーゲン、アヒル由来コラーゲン、又はダチョウ由来コラーゲン)、爬虫類由来コラーゲン(例えば、ワニ由来コラーゲン)、両生類由来コラーゲン(例えば、カエル由来コラーゲン)、魚類由来コラーゲン(例えば、ティラピア由来コラーゲン、タイ由来コラーゲン、ヒラメ由来コラーゲン、チョウザメ由来コラーゲン、サメ由来コラーゲン、又はサケ由来コラーゲン)、又は無脊椎動物由来コラーゲン(例えば、クラゲ由来コラーゲン)、を挙げることができる。またコラーゲンを得る部位も限定されるものではなく、例えば、皮膚、骨、皮、筋肉、軟骨、鱗、又は浮袋を挙げることができる。更に様々な細胞から抽出・精製されたコラーゲン、遺伝子組み換え操作により製造される人工コラーゲン、又はコラーゲンの側鎖に他の官能基が結合した修飾コラーゲンなども挙げることができる。前記修飾コラーゲンとしては、例えばメチル化コラーゲン、エチル化コラーゲン、プロピル化コラーゲン、スクシニル化コラーゲン、エステル化コラーゲン、メチルエステル化コラーゲン、エチルエステル化コラーゲン、又はアシル化コラーゲンを挙げることができる。
本発明に用いるコラーゲンの1例として、魚類由来コラーゲンについて以下に説明する。魚類由来コラーゲンとしては、特に限定されるものではないが、I型又はII型のコラーゲンを挙げることができる。I型コラーゲンとしては、魚鱗由来コラーゲンが好ましい。魚類の鱗由来のコラーゲンは、他のコラーゲンと比較して線維化しやすく、線維形成速度が著しく速いからである。更に、魚鱗由来コラーゲンから得られた線維化コラーゲン膜は線維間の相互作用が強いため、特に高い機械強度が得られると考えられる。魚類由来コラーゲンを取得する魚類の種類としては、例えば、ティラピア、ゴンズイ、ラベオ・ロヒータ、カトラ、コイ、雷魚、ピラルク、タイ、ヒラメ、サメ、及びサケなどを挙げることができるが、変性温度の観点から、水温の高い川、湖沼、又は海に生息する魚類が好ましい。このような魚類として、具体的には、オレオクロミス属の魚類を挙げる事ができ、特にはティラピアが好ましい。オレオクロミス属の魚類からは、変性温度が比較的高いコラーゲンを取得でき、例えば日本や中国で食用として養殖されているナイルティラピア(Oreochromis niloticus)は入手が容易であり、大量のコラーゲンを取得することができる。
魚類由来コラーゲンを取得する魚の部位も、限定されるものではない。例えば、鱗、皮、骨、軟骨、ひれ、筋肉及び臓器(例えば、浮き袋)等を挙げることができるが、鱗が好ましい。鱗は、魚臭の原因となる脂質が少ないからである。また、魚類の鱗由来のコラーゲンは、細胞との接着性に優れているからである。特に、魚鱗由来のコラーゲンは、分子間の相互作用が強いと考えられ、強度の高い成形体を得ることができる。
また、II型の魚類由来コラーゲンとして、チョウザメ由来コラーゲンを挙げることができる。チョウザメは、チョウザメ亜目(Acipenseroidei)に属し、2科6属27種に分類されている。2つの科はチョウザメ科(2亜科、4属、25種)とヘラチョウザメ科(2属、2種)とに分類される。
(リン酸カルシウム)
リン酸カルシウム結晶に用いることのできるリン酸カルシウムとしては、Ca(HPO、Ca(HPO・HO、CaHPO、CaHPO・2HO、Ca(PO、Ca(PO・2HO、Ca(PO・5HO、Ca(PO、Ca10(PO(OH)、CaO(PO、CaP11、Ca(PO、Ca、等の1群の化合物を挙げることができるが、特には、水酸アパタイト、非晶質リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム水和物、リン酸一水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム水和物、リン酸一水素カルシウム水和物、リン酸八カルシウム、又はリン酸三カルシウムが好ましく、水酸アパタイトが最も好ましい。水酸アパタイトは、生体骨の成分の60〜80%を占めるリン酸カルシウムの1種であり、Ca10(PO(OH)の組成式で示される化合物を基本成分とする。水酸アパタイトのCa成分の一部分は、Sr、Ba、Mg、Fe、Al、Y、La、Na、K、H等から選ばれる1種以上で置換されてもよく、また(PO)成分の一部分が、VO、BO、SO、CO、SiO等から選ばれる1種以上で置換されてもよく、更に、(OH)成分の一部分が、F、Cl、O、CO等から選ばれる1種以上で置換されてもよい。また、これらの各成分の一部が欠損していてもよい。
上記のリン酸カルシウム結晶として、水酸アパタイトと非晶質リン酸カルシウム、水酸アパタイトとリン酸三カルシウムや、水酸アパタイトとリン酸一水素カルシウムや、水酸アパタイトとリン酸八カルシウムなどの1種以上のリン酸カルシウム結晶を含有していてもよい。
(リン酸カルシウム及びコラーゲンの電解質溶液への溶解)
本発明においては、リン酸カルシウム及びコラーゲンを電解質溶液に溶解する。コラーゲン及びリン酸カルシウムは、酸性溶液に溶解するため、酸性の電解質溶液が好ましい。本発明に用いる電解質溶液は、水素イオン、水酸化物イオン、カルシウムイオン及びリン酸イオンを含むものであるが、ベースとなる酸性溶液としては、リン酸溶液、硝酸溶液、硫酸溶液、炭酸溶液、クエン酸溶液、乳酸溶液、又は酢酸溶液を挙げることができる。
リン酸カルシウム及びコラーゲンの溶解量の重量比は、特に限定されるものではないが、好ましくは1:1〜1:100であり、より好ましくは1:3〜1:20であり、最も好ましくは1:10〜1:20である。前記の範囲内であることにより、優れた強度と組成傾斜をもつ複合体を得ることができる。
(電気分解)
本発明の製造方法においては、水を電気分解することによって、陰極からリン酸カルシウム結晶及びコラーゲン線維の複合体ゲルを析出させる。図1に示すように、陰極では水に電子が与えられて還元反応が起こり、陽極では水から電子が奪われて酸化反応が起こる。そして、陰極では水酸化物イオンにより塩基性(アルカリ性)となり、陽極では水素イオンにより酸性となる。すなわち、陰極から陽極にかけて、塩基性から酸性へのpHの勾配が形成される。陰極の電解質溶液が塩基性の領域ではリン酸カルシウムの含有量が多い複合体が形成され、陽極に近い酸性の領域ではコラーゲンの含有量が多い複合体が形成されるため、リン酸カルシウム結晶及びコラーゲン線維の組成が傾斜した複合体を得ることができる。
電気分解の条件は、特に限定されず、適宜決定することができるが、定電流での電気分解が好ましい。定電圧で行うと、ゲルの形成に従い抵抗値が上昇して電流値が減少する。この電流値の低下により水酸化物イオンの発生量が減少し、反応効率が著しく悪くなる。
電気分解における電流密度は、組成の傾斜した複合体を得ることができる限りにおいて、限定されるものではないが、例えば、30A/m以下であり、好ましくは25A/m以下であり、より好ましくは20A/m以下であり、更に好ましくは10A/m以下である。電流密度が低いことにより、容易に複合体の形態を制御することができる。すなわち、電流密度が高すぎると、複合体ゲルの形態が歪むことがある。更に、実施例に示すように電流密度が低い方が、リン酸カルシウム結晶とコラーゲン線維との組成の傾斜率が高い複合体ゲルを得ることができる。従って、電流密度の下限は、特に限定されるものではないが、複合体の析出時間を考慮すると、電流密度は好ましくは1A/m以上である。
なお、電流密度は、単位面積に垂直な方向に単位時間に流れる電気量(電荷)のことであり、電気量についての流束である。電気導体に電界Eが与えられたときの電流密度Jは、
J=σE
であり、ここで比例定数σは電気伝導率又は導電率であり、単位はS/mである。電気伝導率の逆数ρ=1/σ(Ω・m)は、抵抗率又は固有抵抗である。
定電流で電気分解を行う場合、実施例に示したように、一定時間経過後に電圧値が上昇する。電圧値の上昇は、電解質の結晶化が生じるために起きると考えられる。また、電圧が上昇することによって、泡が発生する。従って、電圧値が上昇した場合、複合体の製造を終了させることが好ましい。
《乾燥工程(2)》
本発明の組成傾斜複合体の製造方法は、好ましくは(2)前記析出工程において得られた複合体ゲルを乾燥する工程、を更に含む。
乾燥工程(2)は、複合体ゲルを乾燥し、膜状複合体、又は多孔質複合体を得る工程である。乾燥方法は、特に限定されるものではなく、例えば、自然乾燥、通風乾燥、真空乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。
なお、乾燥工程の前に、脱塩することが好ましい。脱塩は、前記組成傾斜複合体ゲルを、水混和性有機溶媒濃度を段階的に高めた水混和性有機溶媒と水との混合液に順次浸漬すことによって行うことができる。前記析出工程(1)で得られた組成傾斜複合体ゲルを、水混和性有機溶媒濃度を段階的に高めた水混和性有機溶媒と水との混合液に順次浸漬することにより脱塩する(以下、段階脱塩法と称する)。なお、この脱塩方法では水分も除去することができる。段階脱塩法は、組織切片作成に一般に用いられている手法であり、一例を挙げると、1段回目は水混和性有機溶媒/水が容量比で50/50の混合液(以下、50/50のように表記する)に組成傾斜複合体ゲルを浸漬し、2段回目は70/30、3段階目は90/10、4段階目は100/0に順次浸漬する方法である。なお、水混和性有機溶媒/水の混合液の種類と浸漬時間は適宜設定し、効率的に脱塩することが望ましい。本脱塩においては、組成傾斜複合体ゲル中の水分が水混和性有機溶媒と完全に置換されることが望ましい。
複合体ゲルは、例えば以下のように乾燥させ、膜状複合体を得ることができる。面方向の通気性を遮断した状態で乾燥させて膜状複合体を得る。ここで、面方向とは膜の上面と下面のことであり、面方向の通気性を遮断した状態で側面からのみ脱媒させることにより、面方向の強度を高くすることができる。通気性を遮断するための被覆材としては膜との密着性が高く且つ膜から剥離しやすい平滑なものであることが望ましく、例えば、ポリスチレン、シリコン、ポリエステル、ポリプロピレン、ガラス等を例示することができるが、これらのうちポリスチレンが特に好ましい。乾燥方法としては、脱媒することができ且つ膜強度の低下が少ない方法であれば特に制限はない。例えば、乾燥前に脱塩を行い、最後の有機溶媒が揮発性のアルコールの場合、常温でアルコールが揮発するため、複合体ゲルは自然乾燥により容易に乾燥することができる。
また、複合体ゲルは、例えば以下のように凍結乾燥することにより、多孔質複合体を得ることができる。
凍結乾燥は、水分を含んだ複合体ゲルを凍結し、真空下(0.1〜3mmHg)で氷を昇華させることによって、乾燥する方法である。凍結乾燥を行うことにより、前記複合体ゲルは、多孔体化し、多孔質複合体となる。凍結乾燥を行うことにより、リン酸カルシウム結晶、コラーゲン線維、及びコラーゲン細線維などを破壊することなく、多孔体化することが可能である。
[2]組成傾斜複合体
本発明の組成傾斜複合体は、リン酸カルシウム結晶とコラーゲン線維とを、95:5〜2:98の重量比で含み、リン酸カルシウムとコラーゲンの重量比が連続的に変化する複合体であって、水酸化物イオンよりイオン化傾向が低い陰イオンを実質的に含まないことを特徴とする。
本発明の組成傾斜複合体のリン酸カルシウム結晶とコラーゲン線維との重量比は、95:5〜2:98であり、好ましくは90:10〜5:95であり、より好ましくは85:15〜10:90である。前記範囲であることにより、より弾性率の高い組成傾斜複合体を得ることができる。
本明細書において、「リン酸カルシウムとコラーゲンの重量比が連続的に変化する」とは、リン酸カルシウムとコラーゲンの重量比が不連続的に変化する複合体でないことを意味する。すなわち、リン酸カルシウムとコラーゲンの重量比が異なるいくつかの層が積層された複合体は、リン酸カルシウムとコラーゲンの重量比が不連続的に変化するものであるが、本発明の複合体は、このような積層された複合体を含まない。
本発明の組成傾斜複合体に含まれるリン酸カルシウム及びコラーゲンは、前記の製造方法に記載のリン酸カルシウム及びコラーゲンである。また、「水酸化物イオンよりイオン化傾向が低い陰イオン(低イオン化傾向陰イオン)」は、前記の製造方法に記載のイオンであり、具体的には塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、又はヨウ化物イオン(I)である。また、「水酸化物イオンよりイオン化傾向が低い陰イオンを実質的に含まない」とは、前記低イオン化傾向陰イオンが全く含まれないことを意味するものではないが、低イオン化傾向陰イオンの含有量が、形態の制御された組成傾斜複合体を得ることを阻害しない限りにおいて限定されるものではない。
「複合体の少なくとも1つの方向の長さの10%〜90%の位置」について、図3を用いて説明する。例えば、組成傾斜複合体が直方体の場合、縦(a)、横(b)、及び高さ(c)の3つの方向の長さが存在する。本発明の複合体は、リン酸カルシウム結晶とコラーゲン線維との組成が傾斜しているものであるが、縦(a)、横(b)、及び高さ(c)のいずれか1つの方向において組成が傾斜していればよい。そして、縦(a)、横(b)、又は高さ(c)の「少なくとも1つの方向の長さの10%〜90%の位置」とは、縦(a)、横(b)、又は高さ(c)の一方の端から10%の位置から90%の位置(他方の端から10%の位置)までの長さを意味する。具体的には図3の縦(a)、横(b)、及び高さ(c)の、それぞれ両端矢印の実線で示した長さを意味する。
本発明においては、図3の縦(a)、横(b)、及び高さ(c)のいずれか1つの方向において、リン酸カルシウム結晶とコラーゲン線維との組成が連続的に傾斜している。そして、前記実線で示された長さ(10%〜90%の位置の長さ)における傾斜率が18%以上である。コラーゲン線維に対するリン酸カルシウム結晶の重量の連続的な傾斜率は、18%以上であれば特に限定されるものではないが、好ましくは20%以上であり、より好ましくは22%以上であり、更に好ましくは24%以上である。
本明細書においては、直方体を用いて説明したが、直方体以外の形態の複合体においても、少なくとも1つの方向の長さの10%〜90%の位置における、コラーゲン線維に対するリン酸カルシウム結晶の重量の連続的な傾斜率が18%以上であることが好ましい。
本発明の組成傾斜複合体の態様は、特に限定されるものではないが、例えば複合体ゲル、多孔質複合体、又は膜状複合体を挙げることができる。本発明の傾斜複合体の弾性度は高く、例えば複合体ゲルの粘弾性は、好ましくは0.15tanδ以下であり、より好ましくは0.14tanδ以下であり、更に好ましくは0.13tanδ以下であり、最も好ましくは0.12tanδ以下である。また、多孔質複合体の粘弾性は、好ましくは0.5tanδ以下であり、より好ましくは0.2tanδ以下であり、更に好ましくは0.15tanδ以下であり、最も好ましくは0.1tanδ以下である。
本発明の組成傾斜複合体は、本発明の効果が得られる限りにおいて、リン酸カルシウム及びコラーゲン以外の成分を含んでもよい。その他の成分としては、酸化物のナノ粒子(例えば、酸化鉄又は酸化チタンのナノ粒子)を挙げることができる。例えば、酸化物のナノ粒子を電解質溶液に分散させ、前記組成傾斜複合体の製造方法を実施することにより、酸化物のナノ粒子を含む組成傾斜複合体を製造することができる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
《実施例1》
本実施例では、リン酸水溶液にコラーゲン及び水酸アパタイトを溶解して、組成傾斜複合体を作製した。組成傾斜複合体の作製工程の概略を図4に示す。
(電解質溶液の調整)
0.0127mol/Lのリン酸水溶液に、湿式法により合成した水酸アパタイトを0.10重量%になるように溶解し、pH4.1のカルシウムイオン及びリン酸イオンを含む水溶液を調整した。次いで、ティラピアのうろこから抽出したコラーゲン凍結乾燥物を、前記水溶液に加えて、混合撹拌し、コラーゲンが1.0重量%を含む電解質溶液を作製した。
(電気分解)
長さ30mm×高さ10mm×厚さ0.25mmの大きさの白金を電極として用い、電極間距離を3cmとした横型(直方体型)の電気化学反応容器を作製した。作製する複合体ゲルの高さを同じにするために、前記コラーゲン及び水酸アパタイトを含む5.0mLの電解質溶液を反応容器に注入した。白金電極を電源装置と接続し、室温で、電流値が1.0、2.0、4.0mAになるようにそれぞれ印加した。なお、電流密度は、それぞれ6、12、24A/mである。作製した試料の表面を洗浄するため、超純水に浸漬させて1分間振とうさせた。電気密度6A/mで作製した複合体ゲルの外観を図5に示す。
電気分解の各電流密度における、電圧値の時間変化、及び得られた複合体ゲルの外観を図6に示す。一定の時間経過すると、急激に電圧値が上昇する。従って、この時間を反応の終点とした。電圧値の上昇は、電流密度が高いほど早く、電流密度が低いほど遅くなる。また、電流密度が高いと得られる複合体ゲルの形状が歪むことがあり、電流密度が低いほど複合体ゲルの形態が整う傾向があった。
図7に電流密度と、複合体ゲルの析出方向の幅との関係を示す。電流密度が高いほど、析出する複合体ゲルの幅の増加する速度が速かったが、約1.0cmになると、析出はほぼ停止した。この複合体の幅と印加時間は、図6の電圧値が急激に上昇する時間とほぼ一致していた。
《実施例2》
本実施例では、多孔質複合体を作製した。
実施例1で得られた複合体ゲルを−20℃にした冷凍庫内で凍結し、凍結乾燥し、氷を昇華させて多孔体を作製した。凍結乾燥した多孔体の外観を図8に示す。
《無機物の同定》
実施例2で作製した多孔質複合体を細かく切断して、メノウ乳鉢で擂り潰した臭化カリウム粉末に、1:100の割合で混合した。フーリエ変換型赤外線吸収分光計による拡散反射法を用い無機物を同定した。バックグラウンドには臭化カリウム粉末を用いた。測定範囲を4000から400cm−1、分解能を4.0cm−1、積算回数を256回として反射スペクトルを測定した。また、比較試料として、湿式法により合成した水酸アパタイトとティラピアのコラーゲンを用いた。測定結果を図9に示す。コラーゲンのアミドI、アミドII、及びアミドIIIに帰属されるピークが検出され、同時にアパタイトのリン酸基に帰属されるピークがそれぞれ検出された。また、アパタイトの格子内に置換した炭酸基のピークも1450cm−1付近に検出された。従って、得られた多孔体は、コラーゲンとアパタイトから構成される複合体であることが分かった。
(組成傾斜の測定)
実施例2で作製した多孔質複合体を、電極に平行に四分割して、それぞれの部位ごとに熱重量・示差熱分析(TG・DTA)を行った。昇温速度は、7℃/分として、600℃まで測定した。基準試料にはアルミナを用いて、大気中で測定した。試料量は、5.0mgとした。図10に、TG曲線の結果の一例を示す。200℃までは吸着水の脱離(15重量%)が観測され、600℃までにコラーゲンの分解と燃焼による減量(73重量%)が観測された。残りの12重量%はアパタイトである。コラーゲンとアパタイト成分の重量比は、6:1となり、電解質溶液中の混合比率10:1と比較して、無機物が多いことが分かった。これは、カルシウムイオンが陰極に泳動したためと考えられる。
前記の多孔質複合体を分割した各部位における熱重量・示差熱分析の結果から、各電流密度で作製した試料のアパタイト/コラーゲン重量比を算出した。試料の陰極側からの分割距離に対して、つまり析出した陽極側を100%として横軸に示し、縦軸に算出した重量比をプロットした。その結果を図11に示す。作製した試料は、いずれもアパタイト/コラーゲン重量比が傾斜していることが明らかであった。また、電流密度が低いと組成の傾斜率が大きくなる傾向がみられた。
(多孔質複合体の内部構造)
実施例2で作製した多孔質複合体(電流密度:24A/m)のそれぞれの電極側における多孔構造を走査型電子顕微鏡により観察した。試料を、白金で約40nmだけコーティングした。観察は、加速電圧20kVで、作動距離は10mmで行った。図12に形態観察の像を示す。陰極側では孔径が小さく、陽極側では孔径が大きかった。これは、コラーゲンの密度が陰極側で高いことを示唆していた。熱分析の結果とあわせると、陰極側ではコラーゲンやアパタイトの密度が高いことが予測される。
《実施例3》
本実施例では、架橋した多孔質複合体を作製し、電子顕微鏡で観察した。
実施例1で得られた複合体ゲル(電流密度6A/m及び24A/m)を超純水で1分間浸振とう後、水溶性カルボジイミドを1.5重量%溶解させた50%エタノールに2時間だけ振とうさせてコラーゲンを架橋させた。続いて、70%エタノール、90%エタノールに1時間振とうさせ、さらに90%エタノールに30分間だけ、溶媒を置換して3回振とうさせた。最後にt−ブタノールに置換させて、0℃で凍結・凍結乾燥を行った。得られた多孔質複合体を陰極側と陽極側で、電極に対して垂直に切断し、各部位を2.5nmだけオスミニウムプラズマコートを行った。フィールドエミッション型走査型電子顕微鏡により観察を行った。図13に各部位での微細構造を示す。いずれの試料でもコラーゲン線維が観測された。また、小さな結晶がコラーゲン線維に絡まり存在していることが分かった。
《実施例4》
本実施例では、一方向性連通多孔質複合体を作製した。
実施例1で得られた複合体ゲル(電流密度12A/m及び6A/m)の底面をペルチェ素子の上におき、−20℃で底面のみを凍結させたのち、凍結乾燥により氷を昇華させて一方向性連通多孔体を作製した。作製した多孔体を電極に平行に切断し、多孔構造を観察した。顕微鏡写真を図14に示す。孔が上下につながった一方向に整列した孔が観測された。
《実施例5》
本実施例では、円柱型電気化学反応容器を用いて、複合体ゲルを作製した。
直径30mm×厚さ0.25mmの大きさの白金を電極として用い、電極間距離を20mmとした、縦型の直径25mm×高さ20mmの電気化学反応容器を作製した。実施例1で作製したコラーゲンを含む電解質溶液を10mL反応容器に注入した。電流密度を6、12、又は24A/mとして電気分解を行った。得られた複合体ゲルは、超純水中で10分間振とうさせて、洗浄した。
(粘弾性特性)
実施例5で作製した複合体ゲルの粘弾性、貯蔵弾性率、損失弾性率、tanδを算出した。図15に電流密度とtanδ及び貯蔵弾性率の変化を示す。電流密度を低くすると、tanδの値が小さくなり、すなわち弾性体になることが分かる。また、貯蔵弾性率は、電流密度を大きくすると高くなる傾向が割ることが分かった。
《実施例6》
本実施例においては、円筒形容器を用いて円柱状の複合体ゲルを作製した。
実施例1で作製したコラーゲンを含む電解質溶液を円筒形の容器に加え、直径0.5mmで長さ2.5cmの白金線を液面に垂直に差し込み、周りにメッシュ状の白金を円筒形容器の内壁に沿うように張り付けて電気化学反応容器を作製した。その後、ワニ口クリップを用いて白金電極を電源と接続した。白金線を陰極に、白金メッシュを陽極にして、4mAの一定電流を40分間印加した。作製した複合ゲルの写真を図16に示す。
《実施例7》
本実施例では、管状の複合体(膜状複合体)を作製した。
実施例6得られた複合体ゲルから電極を抜き、中心に棒を差し込み、エタノールシリーズにて溶媒を脱水・置換した後、さらに室温で乾燥させ、それをリン酸緩衝溶液に浸漬させると、図17に示すような、直径2mmの管状の複合体(膜状複合体)が作製できた。
《実施例8》
白金線を陽極とし、白金メッシュを陰極とし、電流値を7mAにした以外は、実施例6の操作を繰り返して、複合体ゲルを作製した。作製した複合体ゲルの外観を図18に示す。直径約2cmの複合ゲルが得られた。このように電気化学反応を利用することで、任意の形状にコラーゲンを含む複合ゲルが簡便に作製できることが分かった。
《実施例9》
本実施例では、渦巻き状の複合体ゲルを作製した。
実施例1で作製したコラーゲンを含む電解質溶液を円筒形の容器に加え、渦巻き状に白金線を整形して電極とし、この対抗電極として白金箔を用いた。白金線を陰極に、白金箔を陽極にして、6mAの一定電流を30分間印加した。図19に、電極の位置関係と析出させた複合ゲルの外観を示す。このように、電極の形状に応じて形態を制御できることが分かった。
《比較例1》
本比較例では、塩酸溶液に水酸アパタイト及びコラーゲンを溶解して複合体の作製を行った。
(電解質溶液の調整)
湿式法により合成した水酸アパタイトを0.1重量%になるように、塩酸水溶液に溶解させ、pH3.0の水溶液を調整した。次いで、ティラピアのうろこから抽出したコラーゲン凍結乾燥物を、調整した水溶液に加えてよく混合撹拌して、コラーゲンが1.0重量%を含む電解質溶液を作製した。
(電気分解)
実施例1で用いた電気化学反応容器を用い、塩酸を含む電解質溶液を10mL反応容器に注入した。印加した電流密度は、22A/mであった。得られた複合体の写真を図20に示す。電気分解で泡が発生し、形態を制御することができなかった。
また、得られた複合体を用いて粘弾性試験を実施した。この結果、貯蔵弾性率は3.5KPaであり、塩酸を用いることで貯蔵粘弾性率が優位に低いことが分かった。これは、電流値を印加する際に、泡が発生し、コラーゲンやアパタイトの析出状況が変化するためと考えられる。
本発明の組成傾斜複合体は、生体組織補填材、又は骨・軟骨再生材料などに用いることができる。

Claims (8)

  1. (1)リン酸カルシウム及びコラーゲンが溶解され、水素イオン、水酸化物イオン、カルシウムイオン及びリン酸イオンを含み、そして水酸化物イオンよりイオン化傾向が低い陰イオンを実質的に含まない電解質溶液において、水を電気分解することにより、リン酸カルシウム結晶及びコラーゲン線維の複合体ゲルを析出させる工程を含む、組成傾斜複合体の製造方法。
  2. (2)前記析出工程において得られた複合体ゲルを乾燥する工程、を更に含む、請求項1に記載の組成傾斜複合体の製造方法。
  3. 前記リン酸カルシウムが水酸アパタイト、非晶質リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム水和物、リン酸一水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム水和物、リン酸八カルシウム、及びリン酸三カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種のリン酸カルシウムである、請求項1又は2に記載の組成傾斜複合体の製造方法。
  4. 前記電解質溶液のpHが3.8以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成傾斜複合体の製造方法。
  5. リン酸カルシウム結晶とコラーゲン線維とを、95:5〜2:98の重量比で含み、リン酸カルシウムとコラーゲンの重量比が連続的に変化する複合体であって、水酸化物イオンよりイオン化傾向が低い陰イオンを実質的に含まないことを特徴とする組成傾斜複合体。
  6. 前記複合体の少なくとも1つの方向の長さの10%〜90%の位置における、コラーゲン線維に対するリン酸カルシウム結晶の重量の連続的な傾斜率が、18%以上である請求項5に記載の組成傾斜複合体。
  7. 複合体ゲル、多孔質複合体、又は膜状複合体である、請求項5又は6に記載の組成傾斜複合体。
  8. 前記リン酸カルシウムが水酸アパタイト、非晶質リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム水和物、リン酸一水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム水和物、リン酸八カルシウム、及びリン酸三カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種のリン酸カルシウムである、請求項5〜7のいずれか一項に記載の組成傾斜複合体。
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