以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの本実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。そして、本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
≪成形体≫
本実施の形態の成形体は、表面から10μmまでの表層において、最長幅が1μm以上であり、かつ、へん平率(最長幅/最短幅)が3以下である分散樹脂粒子を含む。表面から10μmまでの表層において、最長幅が1μm以上の全分散樹脂粒子のうち、へん平率が3以下である分散樹脂粒子の割合は、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上である。該分散樹脂粒子のへん平率は、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。また、該分散樹脂粒子のへん平率の下限値は、特に限定されないが、例えば、1である。さらに、該分散樹脂粒子の最長幅の上限値は、特に限定されないが、例えば、5μmである。表面から10μmまでの表層において、このような特殊な形状の分散樹脂粒子を含む成形体は、高いレベルで難燃性(例えば、UL規格のV−0の難燃性レベル)と電気特性(例えば、CTIで600V)とを兼ね備え、また、表面のシルバー痕が無く、外観に優れ、さらには、ヒンジ特性にも優れる。
本実施の形態の成形体は、表面から10μmまでの表層において、上述のような特殊な形状の分散樹脂粒子を含ませることができれば特に限定されないが、例えば、後述の樹脂組成物を後述の方法により射出成形することにより得ることができる。
なお、本実施の形態において、上記分散樹脂粒子のへん平率は以下のとおり測定することができる。まず、成形体の表面から10μm以内の表層を透過型電子顕微鏡写真で撮影する。得られた画像の100μm2において、最長幅1μm以上の分散樹脂粒子を20個選定する。選定した20個の分散樹脂粒子の最長幅(DL)と最短幅(DS)とを測定し、DL/Dsを求める(図5参照)。求めた20個の分散樹脂粒子のDL/Dsを平均した値をへん平率とする。なお、粒子内の1点を通り粒子の周囲を構成する閉曲線で切り取られる最大長の線分の長さを最長幅とし、該線分上の1点を通り該線分と直交し粒子の周囲を構成する閉曲線で切り取られる最大長の線分の長さを最短幅と定義する。
また、本実施の形態の成形体は、表面から10μmまでの表層に存在する分散樹脂粒子の平均粒子径が、0.1〜10μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがより好ましく、1〜5μmであることがさらに好ましい。該分散樹脂粒子の平均粒子径が前記下限値以上であると、成形加工の際に高い流動性が得られる傾向にある。高い流動性を有すると、リレーブロック等の成形体を好適に成形加工できる。また、該分散樹脂粒子の平均粒子径が前記上限値以下である成形体は、振動疲労特性等の長期使用条件下における特性の低下を抑制できる傾向にある。
なお、本実施の形態において、表面から10μm以内の表層における分散樹脂粒子の平均粒子径は以下のとおり算出することができる。まず、上記へん平率の測定で得られた画像の100μm2において、大きさにかかわらず、分散樹脂粒子を10μm幅で深さ方向にある表層から20個を選定する。選定した20個の分散樹脂粒子の最長幅(DL)と最短幅(DS)とを測定し、((DL)+(DS))/2で、算出される数値を分散樹脂粒子の粒子径とする(図5参照)。算出した20個の分散樹脂粒子の粒子径を平均した値を分散樹脂粒子の平均粒子径とする。
表面から10μm以内の表層における分散樹脂粒子の平均粒子径を前記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、後述の樹脂組成物を後述の方法により射出成形する方法が挙げられる。
本実施の形態の成形体は、外壁と、前記外壁の内側に形成され複数の孔部を有する平坦部と、前記孔部を包囲するように前記平坦部上に設けられた筒体と、を有することが好ましい。
前記平坦部上において、各孔部を包囲するように複数の筒体が垂直に設けられることが好ましい。筒体は平坦部の両側に設けられていても、片側のみに設けられていてもよい。一つの孔部を一つの筒体が包囲することが好ましいが、全ての孔部を筒体が包囲する必要は無く、孔の目的によっては、包囲されることなく独立に存在する孔部があってもよい。また孔部同士が近接していると、孔部の列の両側に内壁が設けられ、内壁の間の空間が孔部毎に仕切られることで、各孔部が包囲される構造が形成される場合がある。この構造も本実施の形態における「筒体」の範疇である。一般的には、筒体の高さは外壁より低いが、孔部及び/又は筒体の機能によっては、外壁と筒体が同じ高さの場合もある。なお、孔部の形状は円形でも多角形でもよく、筒体の面上に凹凸があってもよい。また、筒体の高さが位置により異なっていてもよい。
前記平坦部の肉厚は、金型のキャビティへの樹脂流動の観点で、3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましい。前記平坦部の肉厚の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.2mmである。
上述のように、外壁と、前記外壁の内側に形成され複数の孔部を有する平坦部と、前記孔部を包囲するように前記平坦部上に設けられた筒体と、を有する成形体の具体例としては、特に限定されないが、例えば、リレーボックス、リレーブロック、ジャンクションボックス等が挙げられる。本実施の形態の成形体は、移動体に設置される電気部品であることが好ましく、リレーブロック又はジャンクションブロックであることがより好ましい。
本実施の形態の成形体は、射出成形により得られることが好ましい。前記射出成形における射出速度は、10〜2000cc/秒であることが好ましく、10〜1000cc/秒であることがより好ましく、10〜500cc/秒であることがさらに好ましい。なお、本実施の形態において、射出速度とは、射出樹脂体積/ゲートシール時間で表現される。また、ゲートシール時間は、射出時間を横軸、成形品の重量を縦軸として射出時間を増加させながら成形品の重量をプロットした時に、射出時間の増加に応じた成形品の重量の増加が認められなくなる射出時間のことをいう。具体的には、射出成形機の射出条件の射出圧力・保持圧力を5%増加させても、成形直後30分以内で測定した成形体の重量が該増加前の成形体の重量と比較して、3%以上増加しなくなった射出時間である。実際のゲートシール時間は、例えば、ピンゲートの場合、10秒以下である。射出成形における射出速度が前記下限値以上であると、溶融原料の固化速度が適切な範囲となり、得られる成形体は、外観に優れ、CTIが向上し、ヒンジ破戒強度が良好となる。一方、組成が後述する範囲内であり、かつ射出成形における射出速度が前記上限値以下であると、得られる成形体は、表面から10μmまでの表層における分散樹脂粒子の最長幅及びへん平率が上述した範囲内に制御できるため、CTIが向上し、シルバー痕が無く、外観に優れる。
また、本実施の形態の成形体は、型開き時のゲートカットの観点で、ピンゲートを有する金型を用いた射出成形(以下「ピンゲート成形」とも記す。)により得られることが好ましい。
リレーブロック等の複雑形状の成形体を、例えば、樹脂組成物をピンゲート成形することによって製造する場合、樹脂組成物の流動性が十分でないと、得られる成形体は、電気機器の部品に求められる代表的な特性であるCTIが低くなる傾向が生じる。これは、原料として比較的流動性の低い樹脂組成物を用いると、ピンゲートから射出される過程で、樹脂表面に大きなせん断力が生じるため、得られる成形体の表面近傍の分散樹脂粒子がいびつな状態になることに起因すると本発明者らは推定している。例えば、従来のポリアミド及びポリフェニレンエーテルを含む樹脂組成物をピンゲート成形することによって得られるリレーブロック等の成形体は、表層(表面より10μm以内)部分において、ポリフェニレンエーテルの分散樹脂粒子が、球状ではなく、変形したいびつな状態になっている(図1参照)。
一方、適切な量の難燃剤を含有していても、所望の流動性を示す樹脂組成物を原料として用いれば、ピンゲート成形によって成形体を製造しても樹脂表面に生じるせん断を抑制し、分散樹脂粒子のへん平率を所望の範囲に制御することができる。その結果、得られる成形体は、難燃性に優れると共に電気特性の指標であるCTIが向上し、さらには外観に優れる。
成形体の大きさにもよるが、成形体をピンゲート成形により得る際、ピンゲートを複数設けることが好ましい。ピンゲートを設ける位置は、金型構造の観点で、平坦部が好ましい。この場合、得られる成形体は、外観を観察すると、通常平坦部にピンゲート痕を有する。ピンゲート痕の直径は、3mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましい。ピンゲート痕の直径の下限は、特に限定されないが、例えば、0.5mmである。
本実施の形態の成形体は、例えば、成形体の成形後、デシケータやアルミなどを用いた防湿袋などを用いて、吸湿を防ぐ状態で保管され、測定まで管理された状態の試験片を試験直前に、防湿状態から取り出し測定した場合、引張伸び(ISO527−1)が10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。成形体の引張伸びの上限値は、特に限定されないが、例えば、100%である。
<樹脂組成物>
本実施の形態の成形体は、(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル及び(C)リン系難燃剤を含有する樹脂組成物を含むことが好ましい。
また、前記樹脂組成物において、前記(A)及び(B)成分の合計含有量100質量部に対して、前記(A)成分の含有量は40〜70質量部であることが好ましく、前記(B)成分の含有量は30〜60質量部であることが好ましく、前記(C)成分の含有量が5〜30質量部であることが好ましい。
以下、上記樹脂組成物の構成成分について説明する。
((A)ポリアミド)
(A)ポリアミドとしては、ポリマーの繰り返し単位構造中にアミド結合{−NH−C(=O)−}を有するものであれば、いずれも使用できる。(A)ポリアミドは、例えば、ジアミンとジカルボン酸との重縮合、ラクタム類の開環重合、アミノカルボン酸の重縮合等により得られるが、本実施の形態においては、これらに限定されるものではない。
ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、大別して、脂肪族、脂環式及び芳香族ジアミンが挙げられる。ジアミンの具体例としては、特に限定されないが、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン、2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルナノメチレンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミンが挙げられる。
ジカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、大別して、脂肪族、脂環式及び芳香族ジカルボン酸が挙げられる。ジカルボン酸の具体例としては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,1,3−トリデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸が挙げられる。
ラクタム類としては、具体的には、特に限定されないが、例えば、ε−カプロラクタム、エナントラクタム、ω−ラウロラクタムが挙げられる。
アミノカルボン酸としては、具体的には、特に限定されないが、例えば、ε−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノナノン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、13−アミノトリデカン酸が挙げられる。
上述したラクタム類、ジアミン、ジカルボン酸、アミノカルボン酸は、いずれも単独で用いてもよく、2種以上を混合し、あるいは重縮合を行って共重合ポリアミド類として使用してもよい。
また、上述したラクタム類、ジアミン、ジカルボン酸、アミノカルボン酸を重合反応機内で低分子量のオリゴマーの段階まで重合し、押出機等内で高分子量化したポリアミドも使用できる。
(A)ポリアミドの具体例としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド4,6、ポリアミド11,ポリアミド12,ポリアミド6,10、ポリアミド6,12、ポリアミド6/6,6、ポリアミド6/6,12、ポリアミド6,MXD(m−キシリレンジアミン)、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド6/6,T、ポリアミド6/6,I、ポリアミド6,6/6,T、ポリアミド6,6/6,I、ポリアミド6/6,T/6,I、ポリアミド6,6/6,T/6,I、ポリアミド6/12/6,T、ポリアミド6,6/12/6,T、ポリアミド6/12/6,I、ポリアミド6,6/12/6,I、ポリアミド9,Tが挙げられる。これらのうちの任意の複数のポリアミドを押出機等で共重合化したポリアミド類も使用できる。
上記の中でも、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6/6,6、及びこれらの混合物が好ましく、ポリアミド6,6単独又はポリアミド6,6とポリアミド6との混合物がより好ましい。
(A)ポリアミドとして、ポリアミド6,6とポリアミド6との混合物を用いる場合、ペレットブレンドでも、共重合でも、かまわない。従来のリレーブロックの材料と耐熱性などを同じにする場合は、全ポリアミド量を100質量%としたとき、ポリアミド6,6の量を、5〜95質量%とすることが好ましく、ポリアミド6の量を、95〜5質量%とすることが好ましい。
(A)ポリアミドの粘度数は、50〜260mL/gであることが好ましく、80〜140mL/gがより好ましく、100〜130mL/gであることがさらに好ましい。(A)ポリアミドの粘度数が50mL/g以上であると、樹脂組成物は押し出し生産し易く、(A)ポリアミドの粘度数が260mL/g以下であれば、樹脂組成物は射出成形し易い。
また、粘度数が上述範囲内の(A)ポリアミドを使用することにより、樹脂組成物の流動性と機械的特性とのバランスが良好なものとなる。
なお、本実施の形態において、(A)ポリアミドの粘度数は、ISO−307:1994に準拠し96%硫酸で測定することができる。
(A)ポリアミドは、粘度の異なる複数のポリアミドの混合物であってもよい。複数のポリアミドを使用した場合においても、そのポリアミド混合物の粘度数は、50〜260mL/gにあることが好ましい。
ポリアミド混合物の粘度が50〜260mL/gにあることを確認するためには、上記と同様に試料を96%硫酸に溶解して、ISO−307に従い測定することができる。
(A)ポリアミドの末端基は、後述する(B)ポリフェニレンエーテルとの反応に関与するものである。
(A)ポリアミドは、末端基としてアミノ基、又はカルボキシル基を有している場合、カルボキシル基濃度が高くなると、樹脂組成物の耐衝撃性が低下し、樹脂組成物の流動性が向上し、逆にアミノ基濃度が高くなると、樹脂組成物の耐衝撃性が向上し、樹脂組成物の流動性が低下する。
(A)ポリアミドの末端基の比(アミノ基濃度/カルボキシル基濃度)は、9/1〜1/9であることが好ましく、6/4〜1/9がより好ましく、5/5〜1/9がさらに好ましい。
また、(A)ポリアミドの末端のアミノ基濃度は50μmol/g以下であることが好ましく、40μmol/g以下であることがより好ましく、35μmol/g以下であることがさらに好ましい。
(A)ポリアミドの末端のアミノ基濃度の下限は特に限定されないが、10μmol/g以上であることが好ましい。
(A)ポリアミドの末端のアミノ基濃度を50μmol/g以下とすることにより、目的とする樹脂組成物の成形時における流動性の低下が抑制でき、かつ成形品の加熱後の変形の増大や成形片へのシワ模様(湯ジワ)の発生を効果的に防止できる。
(A)ポリアミドの末端基は、公知の方法により調整できる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物等から選定される1種以上を添加する方法が挙げられる。
本実施の形態に用いる樹脂組成物において、(A)ポリアミドの含有量は、前記(A)及び(B)成分の合計含有量100質量部に対して、40〜70質量部であることが好ましく、50〜70質量部であることがより好ましい。(A)ポリアミドの含有量が前記下限値以上であると、樹脂組成物は成形流動性に優れ、(A)ポリアミドの含有量が前記上限値以下であると、樹脂組成物は必要な難燃性を得ることができる。
((B)ポリフェニレンエーテル)
(B)ポリフェニレンエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、下記式(1)又は(2)の構造単位を含む、ホモ重合体及び/又は共重合体を適用できる。
但し、上記式(1)及び(2)中、Oは酸素原子であり、R1〜R6はそれぞれ独立して、水素、ハロゲン、第一級若しくは第二級の低級アルキル、フェニル、ハロアルキル、アミノアルキル、炭化水素オキシ、ハロ炭化水素オキシ(但し、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てている。)を表わす。
(B)ポリフェニレンエーテルの具体例としては、特に限定されないが、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体(例えば、特公昭52−17880号公報に記載されてあるような2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体や2−メチル−6−ブチルフェノールとの共重合体等)、すなわちポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。
(B)ポリフェニレンエーテルとして特に好ましいものは、樹脂組成物の耐熱性及び量産性の観点で、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、又はこれらの混合物である。
(B)ポリフェニレンエーテルは公知の方法により製造できる。当該製造方法としては、特に限定されないが、例えば、米国特許第3306874号明細書、米国特許第3306875号明細書、米国特許第3257357号明細書及び米国特許第3257358号明細書、並びに特開昭50−51197号公報、特公昭52−17880号公報及び特公昭63−152628号公報等に記載された製造方法等が挙げられる。
(B)ポリフェニレンエーテルの還元粘度(0.5g/dlクロロホルム溶液、30℃、ウベローデ型粘度管で測定)は、最終的に得られる成形体のCTIを600V以上にする観点で、0.25dl/g以上が好ましく、0.27dl/g以上がより好ましく、0.30dl/g以上がさらに好ましく、0.40dl/g以上が特に好ましい。一方、十分な流動性を示すMVRを有する樹脂組成物を得る観点で、(B)ポリフェニレンエーテルの還元粘度の上限は、0.6dl/g以下が好ましく、0.59dl/g以下がより好ましい。
(B)ポリフェニレンエーテルは、2種以上の還元粘度の異なるものを混合して用いてもよい。例えば、還元粘度0.30dl/g以下のポリフェニレンエーテルと還元粘度0.50dl/g以上のポリフェニレンエーテルとの混合物、還元粘度0.40dl/g以下の低分子量ポリフェニレンエーテルと還元粘度0.50dl/g以上のポリフェニレンエーテルとの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(B)ポリフェニレンエーテル中には、重合溶媒として使用された有機溶剤が、5質量%未満の量で残存していてもよい。重合溶媒として使用された後に残存している有機溶剤は、重合後の乾燥工程で完全に除去することは困難であり、通常、(B)ポリフェニレンエーテル中に数百質量ppm〜数質量%の範囲で残存するからである。
なお、(B)ポリフェニレンエーテルの重合溶媒のための有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレンの各異性体、エチルベンゼン、炭素数1〜5のアルコール類、クロロホルム、ジクロルメタン、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン等が挙げられる。
また、(B)ポリフェニレンエーテルは、全部又は一部が変性されたポリフェニレンエーテルであってもよい。
ここで、変性されたポリフェニレンエーテルとは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個の、カルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたポリフェニレンエーテルであることが好ましい。
変性されたポリフェニレンエーテルの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ラジカル開始剤の存在下又は不存在下で、(1)100℃以上、ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の範囲の温度でポリフェニレンエーテルを溶融させることなく変性化合物と反応させる方法、(2)ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度以上360℃以下の範囲の温度で変性化合物と溶融混練し反応させる方法、(3)ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の温度で、ポリフェニレンエーテルと変性化合物を溶液中で反応させる方法等が挙げられる。特に、上記(1)又は(2)の方法が好ましい。
次に、ポリフェニレンエーテルを変性する、上記分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個の、カルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物について具体的に説明する。
分子構造内に、炭素−炭素二重結合、及びカルボン酸基又は酸無水物基を同時に有する変性化合物としては、特に限定されないが、例えば、マレイン酸、フマル酸、クロロマレイン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸及びこれらの酸無水物等が挙げられる。特にフマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、フマル酸、無水マレイン酸がより好ましい。また、これら不飽和ジカルボン酸の2個のカルボキシル基のうちの1個又は2個がエステルになっていてもよい。
分子構造内に、炭素−炭素二重結合、及びグリシジル基を同時に有する変性化合物としては、特に限定されないが、例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、エポキシ化天然油脂等が挙げられる。特にグリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレートが好ましい。
分子構造内に、炭素−炭素二重結合及び水酸基を同時に有する変性化合物としては、特に限定されないが、例えば、アリルアルコール、4−ペンテン−1−オール、1,4−ペンタジエン−3−オール等の、一般式CnH2n-1OH、CnH2n-3OH(nは正の整数)の不飽和アルコール、一般式CnH2n-5OH、CnH2n-7OH(nは正の整数)等の不飽和アルコール等が挙げられる。
上述した変性化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
変性されたポリフェニレンエーテルを製造する際の変性化合物の添加量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.3〜5質量部がより好ましい。
ラジカル開始剤の量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して0.001〜1質量部が好ましい。
また、変性されたポリフェニレンエーテルへの変性化合物の付加率は、変性されたポリフェニレンエーテルを100質量%としたとき、0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましい。
この変性されたポリフェニレンエーテル中には、未反応の変性化合物及び/又は変性化合物の重合体が、1質量%未満の量であれば残存していてもよい。
また、(B)ポリフェニレンエーテル及びこの変性体には、難燃性改良以外の各種安定剤を配合してもよい。
安定剤の具体例としては、特に限定されないが、例えば、酸化亜鉛、硫化亜鉛等の金属系安定剤、ヒンダードフェノール系安定剤、リン系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤等の有機安定剤が挙げられる。
安定剤の配合量は、(B)ポリフェニレンエーテル100質量部に対して5質量部未満が好ましい。
本実施の形態に用いる樹脂組成物において、(B)ポリフェニレンエーテルの含有量は、前記(A)及び(B)成分の合計含有量100質量部に対して、30〜60質量部であることが好ましく、30〜50質量部であることがより好ましい。(B)ポリフェニレンエーテルの含有量は、樹脂組成物の難燃性の観点で30質量部以上が好ましく、樹脂組成物の流動性の観点で50質量部以下が好ましい。
本実施の形態の成形体は、連続相と分散相とからなることが好ましい。また、該連続相は(A)ポリアミドを含むことが好ましく、該分散相は、分散樹脂粒子として(B)ポリフェニレンエーテルを含むことが好ましい。
((C)リン系難燃剤)
成分(C)は、下記式(I)で表されるホスフィン酸塩及び/又は下記式(II)で表されるジホスフィン酸塩、及びこれらの縮合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類を含むことが好ましい。
[式(I)中、R1及びR2は、それぞれ独立して直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜6のアルキル又はアリールであり、mは1〜3の整数であり、mが複数の場合、各々のR1及びR2は同一であっても又は異なっていてもよい。
式(II)中、R1及びR2は、それぞれ独立して直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜6のアルキル又はアリールであり、R3は、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜10のアルキレン、炭素数6〜10のアリーレン、炭素数6〜10のアルキルアリーレン又は炭素数6〜10のアリールアルキレンであり、Mは、カルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)又はプロトン化された窒素塩基であり、mは1〜3の整数であり、nは1〜3の整数であり、nが複数の場合、各々のR1、R2及びR3は同一であっても又は異なっていてもよく、xは1又は2であり、xが2の場合、各々のMは同一であっても又は異なっていてもよい。]
ホスフィン酸塩類は、特に限定されないが、例えば、特開2005−179362号公報、欧州特許出願公開第699708号公報や特開平08−73720号公報に記載されているように、ホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物又は金属酸化物とを用いて水溶液中で製造される。これらは、本質的にモノマー性化合物であるが、反応条件に依存して、環境によっては縮合度が1〜3の縮合物であるポリマー性ホスフィン酸塩も含まれる。
ホスフィン酸塩類は、如何なる組成で混合されていても構わないが、樹脂組成物の難燃性の観点、及び樹脂組成物のモールドデポジットの抑制の観点から、上記式(I)で表されるホスフィン酸塩を、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上含んでいることが好ましい。
低コスト性、購入安定性に優れ、産業上、幅広く利用できる観点で、好ましいホスフィン酸の具体例としては、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸及びこれらの混合物等が挙げられる。
また好ましく使用可能な金属成分としてはカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン)及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる1種以上であり、より好ましくは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及び亜鉛イオンからなる群より選ばれる1種以上である。
ホスフィン酸塩類の好ましい使用可能な具体例としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル−n−プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛が挙げられる。
特に樹脂組成物の難燃性の観点や、樹脂組成物のモールドデポジットの抑制の観点から、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましい。中でもジエチルホスフィン酸アルミニウムが特に好ましい。
本実施の形態に用いる樹脂組成物において、前記(A)及び(B)成分の合計含有量100質量部に対して、(C)成分の含有量は、樹脂組成物の難燃性の観点で、好ましくは5〜30質量部であり、より好ましくは5〜20質量部であり、さらに好ましくは5〜15質量部であり、特に好ましくは5〜10質量部である。(C)成分の含有量を前記下限値以上とすることにより、得られる樹脂組成物は充分な難燃性を発現することができる。(C)成分の含有量が前記下限値未満だと得られる樹脂組成物は充分な難燃性を発現しない場合があり、(C)成分の含有量が前記上限値を超えると得られる樹脂組成物は押し出し安定性が悪くなる場合がある。また、(C)成分の含有量が前記上限値以下とすることにより、押出加工に適した溶融粘度を有する樹脂組成物を得ることができ好ましい。
(C)成分は粒子であることが好ましく、(C)成分の平均粒子径は、成形体の機械的強度の観点で、30〜60μmであることが好ましく、40〜60μmであることがより好ましい。
(C)成分の平均粒子径を30μm以上とすることにより、成形体のヒンジ特性(ヒンジ破壊回数)が向上し好ましい。また、(C)成分の平均粒子径を60μm以下とすることにより、成形体の引張伸びが向上するといった効果が得られ好ましい。
(C)成分の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計(例えば、島津製作所社製、商品名:SALD−2000)を用い、以下のとおり測定することができる。まず、超音波拡散機又は攪拌機を備えた攪拌槽で水及び(C)成分を攪拌することにより水中に(C)成分が分散した分散液を得る。この分散液を、ポンプを介してレーザー回折粒度分布計の測定セルへ送液し、レーザー回折することにより、各(C)成分の粒子の粒子径を測定する。該測定によって得られる、各(C)成分の粒子の粒子径と粒子数との頻度分布より、(C)成分の平均粒子径を算出することができる。
(C)成分のうち、ホスフィン酸塩類は上述した反応により得ることができるが、ホスフィン酸塩類には、未反応物あるいは副生成物が残存していても構わない。
本実施の形態の成形体において、(C)成分は、(A)ポリアミド及び/又は(B)ポリフェニレンエーテル中に分散した分散状態を呈する。さらには、該成形体を、光学顕微鏡を用いて成形体断面の連続した3mm2の面を観察した際に、(C)成分の粒子の長径が30〜60μmの範囲にある粒子数が(C)成分の全粒子数に対して30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上である。
(C)成分の粒子の長径が30〜60μmの範囲にある粒子数が(C)成分の全粒子数に対して30%以上であると、樹脂組成物の流動性が向上し、最終的に得られる成形体の外観が良好となる。
本実施の形態の成形体中の(C)成分の分散状態の具体的な確認方法としては、次の方法を用いる。まず成形体をガラスナイフ装着のミクロトームを用いて、鏡面状に切削する。その切削面を、光学顕微鏡(PME3:オリンパス社製)を用いて100倍の倍率で反射光によって観察し、少なくとも3mm2の面積について写真撮影を行う。そして、3mm2の面積の中に存在する長径が30〜60μmの(C)成分の分散粒子の数を目視で数えることで成形体中の(C)成分の分散状態を確認することができる。観察方向に関しては、観察対象が円柱状ペレットの場合は、ペレットを、長辺に対してほぼ垂直な断面に切削して観察を行うことが好ましい。また成形片である場合、少なくとも3ヶ所の異なる部位でそれぞれ3mm2の面積について観察し、その平均値をもって、長径が30〜60μmの(C)成分の粒子数とすることが好ましい。
本実施の形態の成形体中の(C)成分の粒子の長径が30〜60μmの範囲にある粒子数が(C)成分の全粒子数に対して30%以上に制御する方法としては、種々の方法があるが、例えば、(C)成分をあらかじめフルイ等により分級し、大粒子及び小粒子の塊を除去しておく方法、(C)成分を(A)成分とともに溶融混練してマスターバッチとする工程を用いて、機械的なせん断で粉砕する方法等が挙げられるが、マスターバッチ工程で粉砕する方法が経済的観点より好ましい。
(A)成分及び(C)成分を含む該マスターバッチ中における(C)成分の好ましい量は、該マスターバッチを100質量%とした際に、30〜70質量%の範囲内であり、より好ましくは35〜65質量%であり、さらに好ましくは40〜60質量%範囲内である。
(C)成分として、ホスフィン酸塩類を単独で使用することが、射出成形時のモールドデポジットを抑制するため特に好ましいが、例えば国際公開第2005/118698号パンフレットに記載されているような難燃剤コンビネーションとして使用することも制限するものではない。難燃剤コンビネーションを構成することが可能な成分としては、メラミンとリン酸とから形成される付加物、含亜鉛化合物を挙げることができる。
メラミンとリン酸とから形成される付加物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、メラミンとポリリン酸との反応生成物及び/又はメラミンの縮合物とポリリン酸との反応生成物、式(NH4)yH3−yPO4もしくは(NH4PO3)z[式中、yは1〜3であり、そしてzは1〜10000である]で表される窒素含有リン酸塩、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、及び/又はポリリン酸アンモニウムから選ばれる1種以上が挙げられる。特に、次の化学式(C3H6N6・HPO3)n、(ここでnは縮合度を表す)で示されるもので、メラミンとリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸との実質的に等モルの反応生成物から得られる物が使用可能である。より具体的には、ピロリン酸ジメラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メレム、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メロン及びこれらの混合ポリ塩からなる群より選ばれる1種以上が挙げられ、これらの中でも、ポリリン酸メラミンが特に多用されている。
これらの製法としては、特に限定されないが、ポリリン酸メラミンに関する製法の一例を挙げると、リン酸メラミンを窒素雰囲気下、加熱縮合する方法等が挙げられる。
ここでリン酸メラミンを構成するリン酸としては、特に限定されないが、例えば、具体的にはオルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等が挙げられ、特にオルトリン酸、ピロリン酸を用いたメラミンとの付加物を縮合したポリリン酸メラミンが多用されている。
ポリリン酸メラミンとしては、特に限定されないが、例えば、いわゆる縮合リン酸と呼ばれる鎖状ポリリン酸、環状ポリメタリン酸とメラミンの等モルの付加塩が挙げられる。これらポリリン酸の縮合度nは、特に限定されないが、3〜50であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。
ポリリン酸メラミン付加塩の製造方法は、特に限定されないが、例えば以下の方法が挙げられる。まず、水中にメラミンとポリリン酸とを混合した混合物を分散させたスラリーを得る。該スラリー中のメラミンとポリリン酸とをよく混合して両者の反応生成物を微粒子状に形成させる。その後、このスラリーを濾過、洗浄、乾燥し、さらに必要であれば焼成し、固形物を得る。得られた固形物を粉砕して粉末としてポリリン酸メラミン付加塩を得ることができる。これらメラミンとリン酸とから形成される付加物は、樹脂に配合する際に(C)成分にプリブレンドしておくことが好ましい。プリブレンドする方法としては、特に限定されないが、例えば高速ミキサー等を用いてプリブレンドする方法が挙げられる。
(C)成分100質量部に対するメラミンとリン酸とから形成される付加物の添加量は20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下、特に好ましくは実質的に含まないことである。(C)成分100質量部に対してメラミンとリン酸とから形成される付加物をこの範囲で添加することにより、樹脂組成物の流動性を、若干向上させるという効果を期待できるが、樹脂組成物のモールドデポジット抑制のためにはメラミンとリン酸とから形成される付加物を実質的に含まないことが好ましい。
使用可能なメラミンとリン酸とから形成される付加物の平均粒子径としては、好ましくは30μm以上、より好ましくは60μm以下である。本実施の形態において、メラミンとリン酸とから形成される付加物を用いる場合は、平均粒子径が、好ましくは30μm以上、より好ましくは60μm以下の微粉末の付加物を選択可能である。
また、メラミンとリン酸とから形成される付加物は、本発明の効果を損なわなければ、未反応物あるいは副生成物が残存していても構わない。
さらに、難燃剤コンビネーションを構成することが可能な他の成分である含亜鉛化合物とは、具体的には無機含亜鉛化合物を指す。含亜鉛化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、酸化亜鉛、硫化亜鉛、ホウ酸亜鉛及びスズ酸亜鉛からなる群より選ばれる1種以上である。xZnO・yB2O3・zH2O(x>0、y>0、z>0)で表されるホウ酸亜鉛類が特によく用いられており、2ZnO・3B2O3・3.5H2O、4ZnO・B2O3・H2O、2ZnO・3B2O3で表されるホウ酸亜鉛が一般的である。
これら含亜鉛化合物は、難燃助剤として燃焼時に熱源である炎から樹脂への熱を遮断すること(断熱能力)によって、樹脂の分解で燃料となるガスの発生を抑制し、難燃性を高めるのに必要な不燃層(又は炭化層)の形成する役割を果たすものであると考えられている。
さらには、これらの含亜鉛化合物はシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等の表面処理剤で処理されたものも使用可能である。
この含亜鉛化合物の平均粒子径は、20μm以下であることが好ましく、樹脂組成物の機械的特性から、7μm以下がより好ましい。
(C)成分100質量部に対する含亜鉛化合物の添加量は、10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは6質量部以下、さらに好ましくは4質量部以下、特に好ましくは実質的に含まないことである。(C)成分100質量部に対して含亜鉛化合物をこの範囲で添加することにより、(C)成分の高温時の安定性を、向上させるという効果が得られる場合がある。樹脂組成物の難燃性を維持しつつ、樹脂組成物の機械的特性を向上させるためには含亜鉛化合物を実質的に含まないことが好ましい。
上述した(C)成分と、メラミンとリン酸とから形成される付加物との混合物、及び含亜鉛化合物の添加方法に特に限定はなく、例えば、単独でそれぞれ樹脂組成物中に添加する方法、これら3種のうち2種又は3種を高速ミキサー(ヘンシェルミキサー)等により予備混合した後、樹脂組成物中に添加する方法等が挙げられる。
本実施の形態の成形体は、表面から10μmまでの表層における分散樹脂粒子の形状が、外観、成形流動性、CTI向上、ヒンジ特性改良に大きく寄与するので、表層における分散樹脂粒子の形状が好ましい状態になるように成形方法を設定する。
((D)衝撃改良材)
本実施の形態に用いる樹脂組成物は、耐衝撃性を向上させる目的で、(D)衝撃改良材をさらに含有してもよい。本実施の形態に用いる樹脂組成物において、(D)成分の含有量は、前記(A)及び(B)成分の合計含有量100質量部に対して、5〜20質量部が好ましく、5〜15質量部がより好ましく、5〜10質量部がさらに好ましい。
(D)成分の含有量が前記下限値以上であると、最終的に得られる成形体の引張伸びが10%以上となる傾向にあり、(D)成分の含有量が前記上限値以下であると、樹脂組成物のMVRが良好となる傾向にある。
(D)衝撃改良材としては、特に限定されないが、例えば、少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体及びその水素添加物、並びにエチレン−α−オレフィン共重合体からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
なお、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックにおける「主体とする」とは、当該重合体ブロックにおいて、少なくとも50質量%以上が芳香族ビニル化合物であることを意味し、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上が芳香族ビニル化合物であるものとする。
また、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックにおける「主体とする」に関しても同様で、少なくとも50質量%以上が共役ジエン化合物であるブロックを意味するものとし、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上が共役ジエン化合物であるものとする。
この場合、例えば芳香族ビニル化合物ブロック中にランダムに少量の共役ジエン化合物若しくは他の化合物が結合されている場合であっても、該ブロックの50質量%が芳香族ビニル化合物から形成されていれば、芳香族ビニル化合物を主体とするブロック共重合体とみなす。また、共役ジエン化合物の場合においても同様である。
芳香族ビニル化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらから選ばれた1種以上の化合物が用いられるが、特にスチレンが好ましい。
共役ジエン化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1,3−ペンタジエン等が挙げられ、これらから選ばれた1種以上の化合物が用いられるが、特に、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。
上記ブロック共重合体の、共役ジエン化合物ブロック部分のミクロ構造において、1,2−ビニル含量、又は1,2−ビニル含量と3,4−ビニル含量との合計量は、5〜80%であることが好ましく、10〜50%であることがさらに好ましく、15〜40%であることがさらにより好ましい。
通常、共役ジエン化合物の結合形態として、1,2−ビニル結合、3,4−ビニル結合、1,4−ビニル結合があるが、ここで言うビニル結合量とは、重合時の共役ジエン化合物の結合形態の割合を示すものである。
例えば、1,2−ビニル結合量とは、上記3種の結合形態中の1,2−ビニル結合の割合を意味するものであり、赤外分光光度計、核磁気共鳴装置等によって容易に測定できる。
上記ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック[A]と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック[B]とが、A−B型、A−B−A型、又はA−B−A−B型から選ばれる結合形式となっているブロック共重合体であることが好ましく、これらの混合物であってもよい。これらの中でもA−B−A型、A−B−A−B型、又はこれらの混合物がより好ましく、A−B−A型がさらに好ましい。
上記ブロック共重合体としては、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体を水素添加したものを使用することもできる。
この水素添加されたブロック共重合体とは、上述の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体中の脂肪族二重結合を水素添加処理することにより、0%を超えて100%までの範囲内の二重結合に対する水素添加処理割合において制御したものをいう。
水素添加されたブロック共重合体における水素添加率は50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物は、数平均分子量が150,000以上であることが好ましい。
ここで、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定装置を用いて、紫外分光検出器で測定し、標準ポリスチレンで換算した数平均分子量であるものとする。
測定の際、重合時の触媒失活に起因した低分子量成分が検出されることがあるが、その場合は、分子量計算に低分子量成分は含めないものとする。通常、計算された正しい分子量分布(質量平均分子量/数平均分子量)は1.0〜1.1の範囲内である。
上記芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量は、30,000以上であることが好ましい。
芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量を30,000以上とすることにより、ブロック共重合体中の芳香族ビニル化合物ブロックが、(B)ポリフェニレンエーテルと相溶化しやすくなる。
芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量は、上述したブロック共重合体の数平均分子量を用いて、下式により求めることができる。
Mn(a)={Mn×a/(a+b)}/N
上記式において、Mn(a)は芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量、Mnは少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体の数平均分子量、aはブロック共重合体中のすべての芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックの質量%、bはブロック共重合体中のすべての共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの質量%、Nはブロック共重合体中の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックの数を示す。
上記ブロック共重合体は、適宜、結合形式の異なるもの、芳香族ビニル化合物種の異なるもの、共役ジエン化合物種の異なるもの、1,2−結合ビニル含有量若しくは1,2−結合ビニル含有量と3,4−結合ビニル含有量との異なるもの、芳香族ビニル化合物成分含有量の異なるもの、水素添加率の異なるもの等を用いることができ、各々について2種以上を混合して用いてもよい。
また、上記ブロック共重合体は、全部又は一部が変性されたブロック共重合体であってもよい。
ここで、変性されたブロック共重合体とは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたブロック共重合体であることが好ましい。
上記変性されたブロック共重合体の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ラジカル開始剤の存在下又は不存在下で、(1)ブロック共重合体の軟化点温度以上250℃以下の範囲の温度で変性化合物と溶融混練し反応させる方法、(2)ブロック共重合体の軟化点以下の温度で、ブロック共重合体と変性化合物を溶液中で反応させる方法、(3)ブロック共重合体の軟化点以下の温度で、ブロック共重合体と変性化合物を溶融させることなく反応させる方法等が挙げられる。特に上記(1)の方法が好ましく、さらには上記(1)の中でもラジカル開始剤存在下で行う方法がより好ましい。
ここで、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する少なくとも1種の変性化合物としては、特に限定されないが、例えば、上記変性されたポリフェニレンエーテルで述べた変性化合物と同様のものを適用できる。
(D)衝撃改良材は、(A)ポリアミド相にも、(B)ポリフェニレンエーテル相にも存在することができる。(D)衝撃改良材は、分散樹脂粒子中に、配合量の50質量%以上が存在することが好ましく、配合量の80%以上が存在することがより好ましく、配合量の90%以上が存在することがさらに好ましい。
(D)衝撃改良材は、予め(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル及び(C)リン系難燃剤からなる群より選ばれる1種以上とのマスターバッチとして用いても構わない。
(外観改良材(オイル))
本実施の形態に用いる樹脂組成物は、外観改良材をさらに含有してもよい。外観改良材とは、オイルのことを示している。
ここでオイルとは、30℃において液状の無機若しくは有機の油脂であるものとし、合成油、鉱物油、動物油、植物油等いずれであってもよい。
オイルとしては、特に限定されないが、例えば、大豆油・アマニ油等の植物油、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、芳香族系オイル、ベンジルトルエン等に代表される熱媒用オイルが挙げられる。特に、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、芳香族系オイルが好ましい。
オイルは、一般に芳香族環、ナフテン環及びパラフィン鎖の三成分が組み合わさった混合物であり、パラフィン鎖の炭素数が50%以上を占めるものがパラフィン系オイルと呼ばれ、ナフテン環炭素数が30〜45%のものがナフテン系オイル、芳香族炭素数が30%より多いものが芳香族系オイルと呼ばれる。これらの中で特に好ましいオイルは、ナフテン系オイル又はパラフィン系オイルであり、パラフィン系オイルがより好ましい。
ここでいうパラフィン系オイルは、芳香環含有化合物、ナフテン環含有化合物及びパラフィン系化合物の三者が組み合わさった数平均分子量100〜10000の範囲の炭化水素系化合物の混合物であり、パラフィン系化合物の含有量が50質量%以上のものである。
より詳細には、パラフィン系化合物が50〜90質量%、ナフテン環含有化合物が10〜40質量%、芳香環含有化合物が5質量%以下の量で組み合わさった数平均分子量が100〜2000の間のパラフィン系オイルであり、より好ましくは数平均分子量が200〜1500の間のパラフィン系オイルである。
パラフィン系オイルで市販されているものの具体例としては、特に限定されないが、例えば、ダイアナプロセスオイルPW−380(出光石油化学(株)製)[動粘度381.6cst(40℃)、平均分子量746、ナフテン環炭素数=27%,パラフィン環炭素数73%]等が挙げられる。
オイルの添加方法については、特に限定されるものではない。例えば、(A)ポリアミドと(B)ポリフェニレンエーテルとの溶融混練工程において、オイルを液体状態で添加してもよいし、(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル、及び、(D)衝撃改良材(例えば、少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体)からなる群より選ばれる1種以上にあらかじめオイルを配合しておいてもよい。
特に、(D)衝撃改良材(例えば、少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体)にオイルをあらかじめ混合させておく方法が好ましい。
上述したオイルを、予め(D)衝撃改良材(例えば、上記ブロック共重合体)中に混合しておくことにより、目的とする樹脂組成物において、シワ状の凹凸が発生や、成形体の加熱時の変形の抑制が図られる。
上述したオイルを、予め(D)衝撃改良材(例えば、上記ブロック共重合体)中に混合する際のオイルの量は、(D)衝撃改良材(例えば、上記ブロック共重合体)100質量部に対して70質量部未満が好ましく、60質量部未満がより好ましい。
(スチレン系熱可塑性樹脂)
本実施の形態に用いる樹脂組成物は、スチレン系熱可塑性樹脂を、前記(A)及び(B)成分の合計含有量100質量部に対して、50質量部未満の量で含有していてもよい。
スチレン系熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ホモポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−ゴム質重合体−アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)等が挙げられる。
(その他の付加的成分)
本実施の形態に用いる樹脂組成物は、その他の付加的成分を含有しても構わない。
その他の付加的成分としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂、無機充填材(タルク、カオリン、ゾノトライト、ワラストナイト、酸化チタン、チタン酸カリウム、炭素繊維、ガラス繊維等)、無機充填材と樹脂との親和性を高めるための公知のシランカップリング剤、可塑剤(低分子量ポリオレフィン、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、カーボンブラック等の着色剤、カーボンファイバー、導電性カーボンブラック、カーボンフィブリル等の導電性付与材、帯電防止剤、各種過酸化物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。
前記各種付加的成分の含有量は、機械的特性及び成形安定性の観点で樹脂組成物中の50質量%以下が好ましく、20質量%未満がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
その他の成分として、ホスフィン酸塩以外の使用可能な難燃剤が挙げられる。このような難燃剤の例としては、特に限定されないが、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等に代表される公知の無機難燃剤;トリフェニルフォスフェートや水酸化トリフェニルフォスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等に代表される有機リン酸エステル類;ポリリン酸アンモニウム等に代表されるリン酸系含窒素化合物;特開平11−181429号公報に記載されてあるようなホスファゼン系化合物;シリコーンオイル類;赤燐やその他公知の難燃剤が挙げられる。
また、滴下防止剤として知られるテトラフルオロエチレン等に代表されるフッ素系ポリマーも、樹脂組成物中に2質量%未満の量であれば使用可能である。
<樹脂組成物の製造方法>
本実施の形態に用いる樹脂組成物は、特に限定されないが、例えば、上述した(A)〜(D)成分を含む原料を溶融混練することにより得ることができる。
本実施の形態の成形体の原料となり得る樹脂組成物を得るための具体的な加工機械としては、特に限定されないが、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等が挙げられるが、中でも二軸押出機が好ましく、特に、上流側供給口と1カ所以上の下流側供給口を備えた二軸押出機がより好ましい。
樹脂組成物の製造方法として、少なくとも(A)ポリアミドと、(B)ポリフェニレンエーテル、(C)リン系難燃剤、(D)衝撃改良材を用いる製造方法の例を挙げると、以下のとおりである。
(1)上流側及び下流側に1ヶ所ずつの供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口よりポリフェニレンエーテル及び必要に応じ、外観改良材、衝撃改良材を供給し溶融混練し、下流側供給口よりポリアミド、リン系難燃剤及び必要に応じ、その他添加剤を添加して、更に溶融混練する方法。
(2)上流側及び下流側に1ヶ所ずつの供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口よりポリフェニレンエーテルとリン系難燃剤及び必要に応じ、外観改良材、衝撃改良材とを供給し溶融混練し、下流側供給口よりポリアミド及び必要に応じその他の添加剤を供給し、更に溶融混練する方法。
(3)上流側に1ヶ所及び下流側に2ヶ所の供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口よりポリフェニレンエーテル及び必要に応じ、外観改良剤、衝撃改良材を供給し溶融混練し、下流側第一供給口(より上流に位置する下流側供給口)よりポリアミドを供給し溶融混練し、下流側第二供給口よりリン系難燃剤、必要に応じその他の添加剤を供給し、更に溶融混練する方法等が挙げられる。
(4)上流側及び下流側に1ヶ所ずつの供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口より少なくともポリフェニレンエーテル、外観改良剤を含有するマスターバッチ(ポリアミド、ポリフェニレンエーテル及び衝撃改良材からなる群より選ばれる1種以上と外観改良剤とから形成されるマスターバッチ)必要に応じ、衝撃改良材等を供給し溶融混練し、下流側供給口よりポリアミド、リン系難燃剤及び必要に応じその他の添加剤を供給し、更に溶融混練する方法。
(5)上流側に1ヶ所及び下流側に2ヶ所の供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口より少なくともポリフェニレンエーテル、外観改良剤を含有するマスターバッチ(ポリアミド、ポリフェニレンエーテル及び衝撃改良材からなる群より選ばれる1種以上と外観改良剤とから形成されるマスターバッチ)、必要に応じ、衝撃改良材を供給し溶融混練し、下流側第一供給口(より上流に位置する下流側供給口)よりポリアミドを供給し溶融混練し、下流側第二供給口よりリン系難燃剤及び必要に応じその他の添加剤を供給し、更に溶融混練する方法。
(6)上流側及び下流側に1ヶ所ずつの供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口よりポリフェニレンエーテル必要に応じ、外観改良材、衝撃改良材を供給し溶融混練し、下流側供給口よりポリアミドと、ポリアミドとリン系難燃剤とを含むマスタバッチ及び必要に応じその他の添加剤を供給し、更に溶融混練する方法。
上述した中では、(C)リン系難燃剤が、安定的に(A)ポリアミド相に存在するようにする観点で上記(3)、(4)、(5)又は(6)の方法が好ましい。
樹脂組成物を得るための溶融混練温度は特に限定されるものではないが、混練状態等を考慮して通常240〜360℃の中から好適な樹脂組成物が得られる条件を任意に選ぶことができる。
加工時の押出機の回転数は、150〜800rpmが好ましく、250〜700rpmがより好ましい。リン系難燃剤の分散性を高める為には回転数は150rpm以上とすることが好ましく、樹脂の分解を抑制する為には800rpm以下とすることが好ましい。
このようにして得られる樹脂組成物は、公知の種々の方法、例えば、射出成形することにより各種部品の成形体とすることできる。
成形体を形成する樹脂組成物としては、1.6mm厚み試験片におけるUL94に準拠して垂直接炎で測定した平均燃焼時間が25秒以下である樹脂組成物が、各種用途に好適に用いることができ好ましい。より好ましくは、同じ測定方法に則り、滴下による綿着火がない難燃性を持つことであり、さらに好ましくは平均燃焼時間が5秒以下であることである。
(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル及び(C)リン系難燃剤に加え、(D)衝撃改良材を含有する成形体の場合、(C)リン系難燃剤は(A)ポリアミド相に存在し、(D)衝撃改良材は分散樹脂粒子である(B)ポリフェニレンエーテル相に存在するのが好ましい態様である。各成分をこのように配置させるためには、(D)耐衝撃材を配合し、(B)ポリフェニレンエーテルの樹脂分散粒子内に安定化した後に、(A)ポリアミド相に(C)リン系難燃剤を安定配合させる上記製造法のうち、(3)、(4)、(5)、(6)の方法が好ましい。
≪成形体の製造方法≫
本実施の形態の成形体の製造方法は、上述の樹脂組成物を射出成形することにより成形体を得る工程を含み、該工程において、上述の樹脂組成物を金型に射出する際の射出速度が10〜2000cc/秒である。
本実施の形態の製造方法により得られる成形体は、表面から10μmまでの表層において、最長幅が1μm以上であり、かつ、へん平率(最長幅/最短幅)が3以下である分散樹脂粒子を含む。
以下、本実施の形態の成形体の製造方法を具体的に記述する。
前記工程において、樹脂組成物を射出成形する射出成型機は縦型でも、横型でも構わない。
射出成型機において、樹脂組成物がキャビティへ侵入するゲートを有することが好ましい。また、前記金型は、ピンゲートを1つ以上有することが好ましい。さらに、ゲートは成形体の平坦部及び/又は外壁に相当する箇所に設定されることが好ましい。またさらに、成形体のゲート部分の肉厚は、3mm以下0.2mm以上であるのが好ましい。ピンゲートの直径は、3mm以下であるのが好ましく、2.5mm以下であるのがより好ましく、2mm以下でもよい。ピンゲートの直径の下限は、特に限定されないが、例えば、0.2mm以上である。また、成形体のゲート部分の肉厚は、2.5mm以下0.2mm以上でもよい。ゲート部分の肉厚が0.2mm以上であると、樹脂組成物の流動が良好となり、ゲート部分の肉厚が前記上限値以下であると、得られる成形体は、型開き時のゲートカット痕が残らず、外観に優れる。
金型のゲートは、ピンゲートであるのが好ましい。ピンゲートの場合、金型離型時に、ランナープレートにより切断できるだけでなく、ゲート切断面のクリーニングも必要ない。また、リレーブロック、ジャンクションブロックなどの成形体の場合、ゲート痕を小さくするために、ピンゲートの直径は、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下とする。ピンゲートの直径の下限は、特に限定されないが、例えば、0.2mm以上である。ピンゲートの直径が3mm以下であると、ゲート痕に突起が残らず、後加工をする必要がない。また、ピンゲートの直径が0.2mm以上であると、樹脂組成物の流動が影響を受けることなく、良好に成形することができる。
成形機のノズルから射出される樹脂温度は、難燃剤の安定性の観点で260〜300℃が好ましく、連続成形して射出する場合、金型表面温度も30〜120℃が好ましい。例えば、成形体の厚みが0.5〜10mmの場合、前記工程において、樹脂組成物を金型に射出する際の射出速度は、10〜2000cc/秒の範囲で、好ましくは10〜1000cc/秒、より好ましくは10〜500cc/秒である。射出速度が10cc/秒以上であると、溶融樹脂の固化速度が良好となり、得られる成形体は、外観に優れ、CTIが向上し、ヒンジ特性(ヒンジ破壊回数)が良好となる。一方、射出速度が前記上限値以下であると、得られる成形体は、表面から10μmまでの表層において、最長幅が1μm以上であり、かつ、へん平率(最長幅/最短幅)が3以下である分散樹脂粒子を形成することができ、また、CTIが向上し、電気特性に優れ、さらに、シルバーの発生を抑制でき、外観に優れる。
さらに、本実施の形態の成形体は、樹脂組成物のみからなるものに限定されず、樹脂組成物と従来公知の材料、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紙、布帛、金属、木材、セラミックス等とを組み合わせて複合成形体とすることもできる。
リレーブロックは、前述したように、主として移動体用で、複雑な形状をしている。使われる用語としては、リレーブロック、ジャンクションブロック、電気接続箱などと称し、電気のターミナルの役割をするケース全般である。
商品化するときに重要視されるのが、外観品質である。特に、外観については、コールドスラグ、シルバー、キズ、エアーの巻き込み、ショート、ガスやけなど、さまざまな不良現象がある。通常、シルバーの原因としては、成形直前のペレット水分値、シリンダー温度、滞留時間、ゲートによるせん断発熱などの要因がある。本発明者らは、リレーブロック等の成形体をピンゲート成形する場合、樹脂の組成のみならず、成形後の表面の状態も成形体の特性に影響を与えることを見出した。特に、外観の指標のうちでも、シルバーの発生が組成物の比率と射出成形速度との間に相関関係があることを本発明者らが見出したことが、本発明の完成につながったと言える。
本実施の形態の成形体の用途は、いくつかあり、特に限定されないが、例えば、リレーブロック、ジャンクションブロックなどが挙げられる。基本的に、リレー装着部、プラグインリレーの装着部やスイッチング素子接続部を有する成形体が好ましい。リレーブロックの形状としては、多々あり、特に限定されないが、例えば、特開2011−19375号公報や、登録特許4605136号明細書に記載の形状が挙げられる。
また、本発明者らは、本実施の形態の成形体において、ヒンジ構造を有する部品形状についても、ヒンジをモデル化した実験結果により、製品のヒンジ特性の優劣をつける結果を見出した。
本実施の形態の成形体の使用例には、特に限定されないが、例えば、使用用途が移動するものに付属するものでもよく、その動力が、内燃機関、モーターなどにより移動するものでもよく、飛行体、陸上走行体、海上走行体、水中走行体に付属している移動体に設置されていてもよい。特に、本実施の形態の成形体は、難燃性が要求され駆動モーター用の電池電装系周りで、車輪のついた車両に使用されることが好ましく、2次電池ユニットEV、HEV車両用リレーブロック、一般車両用リレーブロックなどの用途が例示される。
特に、難燃剤を配合していない樹脂組成物を用いて当該部品を成形した場合でも、ゲートが小さい場合や、肉厚が薄い部分においては、シルバーなどの外観不良が発生していることや、ヒンジ部分の評価において、使用限度を下回り、工業生産上、問題となっていることがある。しかし、本実施の形態の成形体では、難燃剤を配合している樹脂組成物を用いても、上記のような製造方法で得ることにより、シルバー痕が無く外観に優れ、ヒンジ特性に優れることを見出した。したがって、本実施の形態の成形体は、難燃性を有する車両用2次電池ユニットのリレーブロック部品に適している。
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔樹脂組成物の原料〕
(A)ポリアミド(PA)
(1)PA−1
ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(PA66)をポリアミド(以下「PA−1」とも記す。)として用いた。PA−1の特性を以下に示す。
粘度数=120mL/g
末端アミノ基濃度=30μmol/g
末端カルボキシル基濃度=110μmol/g
PA−1は、ヨウ化銅と、ヨウ化カリウム共存下で重合して得られ、銅元素を100質量ppm、ヨウ素を4000質量ppm含んでいた。
(2)PA−2
ポリ(ε−カプロラクタム)(PA6)をポリアミド(以下「PA−2」とも記す。)として用いた。PA−2の特性を以下に示す。
粘度数=120mL/g
末端アミノ基濃度=50μmol/g
末端カルボキシル基濃度=65μmol/g
PA−2は、銅元素を900質量ppm、ヨウ素を18000質量ppm含んでいた。
なお、本実施例において、ポリアミドの粘度数は、ISO−307:1994に準拠し96%硫酸で測定した。また、ポリアミド中の末端アミノ基濃度及び末端カルボキシル基濃度は、滴定法により測定した。具体的には、アミノ末端基については、ポリアミドのフェノール溶液を0.1N塩酸で滴定する方法により測定し、カルボキシル末端基については、ポリアミドのベンジルアルコール溶液を0.1N水酸化ナトリウムで滴定する方法により測定した。さらに、ポリアミド中の銅元素の含有量及びヨウ素の含有量は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により測定した。
(B)ポリフェニレンエーテル(PPE)
ポリフェニレンエーテルとして、以下の異なる還元粘度を有する5つのポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)(PPE−1〜PPE−5)を用いた。
(1)PPE−1(還元粘度=0.25dl/g)
(2)PPE−2(還元粘度=0.30dl/g)
(3)PPE−3(還元粘度=0.40dl/g)
(4)PPE−4(還元粘度=0.50dl/g)
(5)PPE−5(還元粘度=0.60dl/g)
なお、本実施例において、ポリフェニレンエーテルの還元粘度は、0.5g/dlクロロホルム溶液、30℃の条件で、ウベローデ型粘度管により測定した。
(C)難燃剤
難燃剤として以下のとおり製造したホスフィン酸塩類を用いた。
特開2005−179362号公報の実施例に記載された製法を参考にして、ジエチルホスフィン酸アルミニウム(以下「DEP」とも略す)を製造した。
製造したDEPの塊を水中で湿式粉砕後、分級して以下の異なる平均粒子径を有する5つのDEP(難燃剤−1〜難燃剤−5)を得た。
(1)難燃剤−1(平均粒子径=3.1μm)
(2)難燃剤−2(平均粒子径=38μm)
(3)難燃剤−3(平均粒子径=45μm)
(4)難燃剤−4(平均粒子径=55μm)
(5)難燃剤−5(平均粒子径=70μm)
なお、本実施例において、ホスフィン酸塩類の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計(島津製作所社製、商品名:SALD−2000)を用いて以下のとおり測定した。まず、攪拌機を備えた攪拌槽で水及びホスフィン酸塩類を攪拌することにより水中にホスフィン酸塩類が分散した分散液を得た。この分散液を、ポンプを介してレーザー回折粒度分布計の測定セルへ送液し、レーザー回折することにより、各ホスフィン酸塩類の粒子径を測定した。該測定によって得られた各粒子径と粒子数との頻度分布より、ホスフィン酸塩類の平均粒子径を算出した。
(D)衝撃改良材
衝撃改良材として、以下の衝撃改良材−1及び衝撃改良材−2を用いた。
(1)衝撃改良材−1
下記特性を有するポリスチレン−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレンの各ブロックからなる共重合体(65質量%)とパラフィン系オイル(35質量%)との混合物を衝撃改良材−1として用いた。
数平均分子量=170000
ポリスチレンブロック1個あたりの数平均分子量=29800
スチレン成分合計含有量=35質量%
1,2−ビニル結合量=38%
ポリブタジエン部の水素添加率=98%以上
(2)衝撃改良材−2
下記特性を有するポリスチレン−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレンの各ブロックからなる共重合体を衝撃改良材−2として用いた。
数平均分子量=240000
ポリスチレンブロック1個あたりの数平均分子量=30000
スチレン成分合計含有量=33質量%
1,2−ビニル結合量=33%
ポリブタジエン部の水素添加率=98%以上
なお、本実施例において、共重合体の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定し、共重合体におけるポリスチレンブロック1個あたりの数平均分子量は、GPC法により測定し、共重合体におけるスチレン成分合計含有量は、核磁気共鳴(NMR)法により測定し、共重合体における1,2−ビニル結合量は、NMR法により測定し、共重合体におけるポリブタジエン部の水素添加率は、NMR法により測定した。
[実施例1〜15及び比較例1〜12]
以下のとおり樹脂組成物を作製し、該樹脂組成物を用いて成形体を作製した。
〔樹脂組成物のペレット作製〕
表2〜4に記載する組成とした原料を以下のとおり溶融混練することにより樹脂組成物のペレットを作製した。
溶融混練として、上流側に1カ所、押出機中央部に1カ所、下流側に1カ所、の供給口を具備する二軸押出機[ZSK−70:ウェルナー&フライデラー社製(ドイツ)]を用いた。該二軸押出機において、上流部供給口(以下「メイン−F」とも略記する)から中央部供給口(以下「サイド−F1」とも略記する)、下流部供給口(以下「サイド−F2」とも略記する)までのシリンダー温度を320℃、サイド−F2からダイまでの温度を280℃に、それぞれ設定した。
表2〜4に示す割合に従い、前記二軸押出機に、メイン−Fより(B)PPE(ポリフェニレンエーテル)及び(D)衝撃改良材を供給し、また、サイド−F1より(A)PA(ポリアミド)を供給し、さらに、サイド−F2より(C)難燃剤を供給した。供給した各原料を二軸押出機で溶融混練して押出し、ストランドバス(全長5m)に約2mの距離で浸漬し冷却し、ストランドを得た。得られたストランドをペレタイザーでカットし、樹脂組成物のペレットを得た。
得られた樹脂組成物のペレットについて、以下のとおり各種評価を行った。該評価結果を表2〜4に示す。
なお、溶融混練の際のスクリュー回転数は600回転/分とし、吐出量は1t/時間とした。
また、前記二軸押出機において、サイド−F2のあるバレルの直前のバレルと、ダイ直前のバレルとにそれぞれ開口部を設け、真空吸引することにより残存揮発分及び残存オリゴマーの除去を行った。この時の真空度は−700mmHgであった。
さらに、後述の成形体の作製及び各種評価に用いた樹脂組成物のペレットは、水分率を500ppm以下とした。
〔成形体の作製〕
上記作製した樹脂組成物を以下のとおり射出成形することにより成形体を作製した。
射出成形機として、住友重機械工業社(株)製 射出成形機(SE130D)を用いた。該射出成形機における金型は、直径φ2mmのピンゲートを有していた。また、該射出成形において、シリンダー温度を290℃、金型温度を90℃、射出時間+保圧時間を20秒、冷却時間を30秒とした。また、加熱溶融した樹脂組成物を、表2〜4に示すとおりの射出速度で金型に射出し、冷却することにより、150×150×2mmtのキャビ形状の成形体が得られた。なお、射出速度が1000cc/秒以上の場合は、射出成形機として、日精樹脂工業社製 UH−1000を用い、他の条件は同様にして射出成形を行った。
得られた成形体について、以下のとおり各種評価を行った。該評価結果を表2〜4に示す。
なお、比較例4及び11では、樹脂組成物を良好に成形することができず成形体を得ることができなかったため、各種評価を行わなかった。
〔評価試験〕
上述の実施例及び比較例で作製した各樹脂組成物のペレット及び各成形体に対する評価試験項目について下記に示す。
<機械的強度>
〔引張強度及び引張伸び〕
実施例及び比較例で作製した各樹脂組成物を、射出成形機(住友重機械工業(株)製:SH80M、シリンダー温度290℃、金型温度90℃)を用い、ISO294−1に準拠して成形することにより、厚さ4mmの多目的試験片を作製した。成形直後に、作製した多目的試験片を、水分を通さないアルミ袋でアルミシールして24時間保管した。その後、この多目的試験片を用いて、ISO527−1に準拠し、引張強度及び引張伸びの測定を行った。
<シャルピー衝撃強度>
実施例及び比較例で作製した各樹脂組成物を、射出成形機(住友重機械工業(株)製:SH80M、シリンダー温度290℃、金型温度90℃)を用い、ISO294−1に準拠して成形することにより、厚さ4mmの多目的試験片を作製した。この多目的試験片を用いて、ISO179に準拠し、23℃及び−30℃におけるシャルピー衝撃強度の測定を行った。
<ヒンジ特性>
実施例及び比較例で作製した各樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)製:PS40E、シリンダー温度290℃、金型温度90℃)を用いて成形することにより、図4に示すヒンジ付成形品を作製した。図4において、(a)は、ヒンジ付成形品の概略上面図を示し、(b)は、ヒンジ付成形品の概略断面図を示す。
このヒンジ付成形品を、23℃、50%RH雰囲気下で自動繰り返しヒンジ試験機(東洋精機製作所(株)製)を用いて、ヒンジ部を略180°まで折り曲げ、元の位置(0°)の位置に戻す動作を33回/分の速度で繰り返し行い、何回折り曲げた段階でヒンジ部が折れて破壊するか(ヒンジ破壊回数)を測定した。ヒンジ特性は、ヒンジ破壊回数が10回程度確保されていれば実用上良好と評価した。
<成形体外観>
実施例及び比較例で得られた成形体について、図3に示すとおり、ゲート近傍及び中央部、流動末端部分でのシルバーの発生の有無を観察して、成形体外観を評価した。具体的には、この成形体を得る場合に、表2〜4に示されたとおり射出速度を制御して成形し、成形開始10ショット目から20ショット目までの成形体について目視にて表面外観を観察し、以下の基準により成形体外観を評価した。
〔成形体外観の評価基準〕
○:突出しピンと反対側の成形体表面にシルバー痕が無かった。
△:突出しピンと反対側の成形品表面にシルバー痕が1〜9本あった。
×:突出しピンと反対側の成形品表面にシルバー痕が10本以上あった。
<分散樹脂粒子のへん平率及び平均粒子径>
実施例及び比較例で得られた成形体について、表面から10μm以内の表層における最長幅が1μm以上の分散樹脂粒子のへん平率を以下のとおり測定した。
まず、成形体の表面から10μm以内の表層を透過型電子顕微鏡写真で撮影した。得られた画像の100μm2において、最長幅1μm以上の分散樹脂粒子を20個選定した。選定した20個の分散樹脂粒子の最長幅(DL)と最短幅(DS)とを測定し、DL/Dsを求めた(図5参照)。求めた20個の分散樹脂粒子のDL/Dsを平均した値をへん平率とした。
また、実施例及び比較例で得られた成形体について、表面から10μm以内の表層における分散樹脂粒子の平均粒子径を、以下のとおり算出した。上記へん平率の測定で得られた画像の100μm2において、大きさにかかわらず、分散樹脂粒子を10μm幅で深さ方向にある表層から20個を選定した。選定した20個の分散樹脂粒子の最長幅(DL)と最短幅(DS)とを測定し、((DL)+(DS))/2で、算出される数値を分散樹脂粒子の粒子径とした(図5参照)。算出した20個の分散樹脂粒子の粒子径を平均した値を分散樹脂粒子の平均粒子径とした。
<難燃性>
実施例及び比較例で作製した各樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)製:PS40E、シリンダー温度290℃、金型温度90℃)で成形することにより、UL94規格に準じた試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚み1.6mm)を作製した。当該試験片を使用し、UL94規格に基づき難燃性の試験を以下のとおり行った。
〔難燃性の試験方法(UL−94VB)〕
UL94規格(米国Under Writers Laboratories Incで定められた規格)の方法を用いて、1サンプル当たりそれぞれ5本ずつ難燃性の試験を行った。
難燃等級としては、UL94垂直燃焼試験によって分類される難燃性のクラスを用いた。ただし、全てのサンプルで試験は5本行い、難燃性のクラスを判定した。具体的な分類方法の概要は下記表1のとおりとした。その他詳細はUL94規格に準じた。
難燃性について、燃焼性分類が「V−0」となった場合を「○(良)」と評価し、燃焼性分類が「V−0」とならなかった場合を「×(不良)」と評価した。
なお、上記3項目に該当しないもの及び、試験片を保持するクランプまで燃え上がってしまったサンプルを規格外とした。
上記表1において、平均燃焼時間(秒)は、各サンプル10秒間を2回、即ち計10回接炎後の消炎時間における平均燃焼時間であり、最大燃焼時間(秒)は、同じく計10回接炎後の消炎時間のなかで最も長く燃焼が継続したサンプルの燃焼時間を表す。
(耐トラッキング性試験/CTI)
上記<成形品外観>で記述した成形法において、試験片厚みを2mmtに変更した以外は、同じ条件で成形して得られた成形体を、耐トラッキング性試験の試験片として用いた。
該試験片について、IEC−60112;2003の規格に準拠し、日立化成株式会社製 耐トラッキング試験機HAT−500−2を使用し、耐トラッキング性試験を行った。具体的には、600Vの電圧下、0.1%塩化アンモニウム水溶液を30秒毎に滴下し試験片がトラッキングを起こすことなく、50滴で破壊しない最大電圧を求めた。この値が高いものほど耐トラッキング性に優れると評価した。